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特許7463288歯周疾患治療に対する反応をモニタリング又は予測する方法、使用及びキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】歯周疾患治療に対する反応をモニタリング又は予測する方法、使用及びキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20240401BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240401BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
G01N33/50 G
G01N33/53 V
G01N33/53 D
G01N33/53 P
G01N33/573 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020555151
(86)(22)【出願日】2019-04-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 EP2019058213
(87)【国際公開番号】W WO2019197200
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】18166935.9
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】コーイマン,ヘルベン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ハルトスカンプ,ミハエル アレックス
(72)【発明者】
【氏名】ルマイレ,アミール フセイン
(72)【発明者】
【氏名】グラス,カール
(72)【発明者】
【氏名】プレショー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】テイラー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チャップル,イアン レスリー キャンベル
(72)【発明者】
【氏名】グラント,メリッサ マッカイ
(72)【発明者】
【氏名】デ ヤヘル,マリニュス カレル ヨーハネス
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-529333(JP,A)
【文献】特開2013-117382(JP,A)
【文献】特表2021-510815(JP,A)
【文献】特表2020-523557(JP,A)
【文献】特表2021-510817(JP,A)
【文献】特表2020-523558(JP,A)
【文献】国際公開第2016/134365(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/055820(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2010/0196941(US,A1)
【文献】William Michael Sexton,Salivary Biomarkers of Periodontal Disease in Response to Treatment,J Clin Periodontol,2011年05月,Vol.38 No.5,Page.434-441
【文献】Francisco Isaac Fernandes Gomes,Inflammatory Cytokines Interleukin-1β and Tumour Necrosis Factor-α - Novel Biomarkers for the Detection of Periodontal Diseases: a Literature Review,J Oral Maxillofac Res,2016年,Vol.7 No.2,Page.e2
【文献】Haigh BJ,Alterations in the salivary proteome associated with periodontitis,J Clin Periodontol,2010年,Vol.37,Page.241-247
【文献】L. Fuentes,Emerging horizons of salivary diagnostics for periodontal disease,British Dental Journal,2014年,Vol.214,Page.567-573
【文献】Christoph A. Ramseier,Identification of Pathogen and Host-Response Markers Correlated With Periodontal Disease,J Periodontol,2009年03月,Vol.80 No.3,Page.436-446
【文献】Helene Range,Orosomucoid, a New Biomarker in the Association between Obesity and Periodontitis,PLoSONE,2013年03月,Vol.8 No.3,Page.e57645
【文献】Melissa M. Grant,Discovery, validation, and diagnostic ability of multiple protein-based biomarkers in saliva and gingival crevicular fluid to distinguish between health and periodontal diseases,J Clin Periodontol,2022年04月22日,Vol.49 No.7,Page.622-632
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
G01N 33/53
G01N 33/573
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯周疾患の治療に対するヒト患者の反応を評価するためのシステムにおけるプロセッサの作動方法であって、以下の:
-歯周疾患に罹患している前記ヒト患者由来の唾液試料における、以下の:
(i)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)並びに、インターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8);
(ii)A1AGP及びIL-1β、並びに、MMP-8若しくはケラチン-4(K-4)、及び/若しくはMMP-9;又は
(iii)MMP-9、IL-1β、及びA1AGP;
のタンパク質の濃度を受け取る工程:
-前記受け取られたタンパク質の結合濃度を反映する少なくとも1つの試験値を決定する工程;
-前記試験値を、歯周疾患の治療の成功に関連する結合濃度と同様に反映する閾値と比較して、前記試験値が、前記ヒト患者における歯周疾患の治療の成功を表示するかを評価する工程;
を含む、方法。
【請求項2】
前記方法が、以前に歯周病と診断され、前記歯周病の治療を受けたヒト患者の反応を評価するための、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト患者の年齢が判断され、前記試験値が、前記ヒト患者の年齢と組み合わせて判断された前記タンパク質の結合濃度を反映し;及び/又は、
前記閾値が、歯周病治療の成功又は歯周病治療の不成功に関連する1又はそれ以上の参照試料中の前記タンパク質について測定された1又はそれ以上の濃度に基づき;及び/又は、
前記タンパク質が、A1AGP、IL-1β、MMP-9、及びK-4又はMMP-8からなる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記受け取られたタンパク質の結合濃度は、0から1の間の数字に算術的に処理される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ヒト患者の唾液試料中における、以下の:
(i)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)並びに、インターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8);
(ii)A1AGP及びIL-1β、並びに、MMP-8若しくはケラチン-4(K-4)、及び/若しくはMMP-9;又は
(iii)MMP-9、IL-1β、及びA1AGP;
のタンパク質の、ヒト患者が歯周疾患治療に反応したかを評価するためのバイオマーカーとしての使用。
【請求項6】
前記ヒト患者の年齢もまたバイオマーカーとして用いられる、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
歯周疾患の治療に対するヒト患者の反応を評価するためのシステムであって、以下の:
-ヒト患者の唾液試料における、以下の:
(i)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)並びに、インターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8);
(ii)A1AGP及びIL-1β、並びに、MMP-8若しくはケラチン-4(K-4)、及び/若しくはMMP-9;又は
(iii)MMP-9、IL-1β、及びA1AGP;
のタンパク質の濃度を受け取るための手段;かつ
-前記受け取られたタンパク質の結合濃度から、ヒト患者の歯周疾患の治療が成功したことを判断するための手段を含むプロセッサ;
を含む、システム。
【請求項8】
口腔液試料を受け入れるための容器をさらに含み、前記容器が検出手段を含む、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
以下の:
-表示をユーザに提示するためのユーザインタフェース;及び、
-前記プロセッサから前記ユーザインタフェースに前記表示のデータを転送する前記プロセッサと前記ユーザインタフェースとの間のデータ接続;
をさらに含む、請求項7又は8に記載のシステム。
【請求項10】
前記プロセッサが、インターネット系のアプリケーションで作動させることができ;及び/又は、
前記ユーザインタフェースは、前記ヒト患者の年齢に関する情報を入力することができ、前記プロセッサは、前記受け取られたタンパク質の結合濃度から、前記ヒト患者の治療が成功したと表示をすることを決定することができ、かつ、そのように適合させることができる、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
ヒト患者の唾液試料中の歯周疾患の成功治療のための少なくとも2つのバイオマーカーを検出するためのキットであって、前記キットは、以下の:
(i)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)並びに、インターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)を検出するための、検出試薬;
(ii)A1AGP及びIL-1β、並びに、MMP-8若しくはケラチン-4(K-4)、及び/若しくはMMP-9を検出するための、検出試薬;又は
(iii)MMP-9、IL-1β、及びA1AGPを検出するための、検出試薬;
を含む、キット。
【請求項12】
検出試薬が固体支持体上に含まれ;及び/又は、
前記検出試薬が、以下の:
-α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)並びに、インターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)を検出するための、検出試薬;又は
-A1AGP及びIL-1β、並びに、MMP-8若しくはケラチン-4(K-4)、及び/若しくはMMP-9を検出するための、検出試薬;
からなる、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
第1時点t1から第2時点t2までの治療時間にわたり、ヒト患者の、疾患の治療に起因する歯周疾患の症状の変化を決定するためのシステムにおけるプロセッサの作動方法であって、t1における前記ヒト患者から得られた唾液の少なくとも1つの試料、及びt2における前記ヒト患者から得られた唾液の少なくとも1つの試料において、以下の:
(i)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)並びに、インターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8);
(ii)A1AGP及びIL-1β、並びに、MMP-8若しくはケラチン-4(K-4)、及び/若しくはMMP-9;又は
(iii)MMP-9、IL-1β、及びA1AGP;
のタンパク質の濃度を受け取る工程;
-前記受け取られたタンパク質の結合濃度の差を比較して症状の変化を決定するための工程;
を含む方法。
【請求項14】
ヒト患者の治療が成功したことを決定するためのシステムにおけるプロセッサの作動方法であって、ヒト患者の唾液試料中で以下の:
(i)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)並びに、インターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8);
(ii)A1AGP及びIL-1β、並びに、MMP-8若しくはケラチン-4(K-4)、及び/若しくはMMP-9;又は
(iii)MMP-9、IL-1β、及びA1AGP;
のタンパク質の濃度を受け取る工程:
-前記受け取られたタンパク質の結合濃度を反映する少なくとも1つの試験値を決定する工程;
-前記試験値を、歯周疾患の治療の成功に関連する結合濃度と同様に反映する閾値と比較して、前記試験値が、前記ヒト患者における歯周疾患の治療の成功を表示するかを評価する工程;
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔ケアの分野における、歯周疾患の治療に対する反応の唾液ベースの評価に関する。特に、本発明は、歯周疾患に罹患する患者の治療に対する反応を評価又は予測するキット、使用及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯肉炎症、すなわち歯肉炎は、主に歯の細菌性バイオフィルム、すなわち歯垢の歯表面への付着によって引き起こされる非破壊的な歯周疾患である。もし検出されて治療されなければ、可逆性歯肉炎は通常、歯の周辺の組織(すなわち歯周組織)の炎症を引き起こすが、これは不可逆性歯周病として定義される状態であり、組織破壊及び歯槽骨喪失が起こり、最終的に歯の喪失に至る。歯肉疾患の進行中には、歯肉の腫れ、淡紅色から暗赤色への色の変化、歯肉の出血、息苦しさ、歯肉の圧痛や痛み等、関連する臨床徴候や症状が現れる。
【0003】
歯周病は、口腔微生物が原因の慢性多因子性炎症性疾患であり、硬(骨)及び軟(歯周靭帯)組織の進行性破壊を特徴とし、最終的に歯の可動性及び喪失にいたる。これは、歯肉組織の可逆的な感染及び炎症である歯肉炎とは区別されるべきである。炎症性歯周病は最も一般的な慢性ヒト疾患の1つで、成人の歯の喪失の主な原因である。歯周病が口腔の健康に及ぼす実質的な悪影響に加えて、歯周病は全身的な結果をもたらし、それが心疾患(例えば、アテローム性動脈硬化症、脳卒中)、糖尿病、妊娠合併症、関節リウマチ及び呼吸器感染症を含むいくつかの全身性疾患の危険因子であるというエビデンスも増加している。
【0004】
したがって、歯周疾患の早期かつ正確な診断は、口腔及び全身の健康の観点から重要である。さらに、歯周疾患の治療が、患者に効果があるか、又は効果的でありうるか、を正確に判定できることが望ましい。特に、歯周疾患の治療が患者に提供される前に、又は治療の初期段階において、歯周疾患の治療が効果的でありうるかを予測できることが望ましい。
【0005】
一般的な歯科診療では、歯周疾患の診断は依然として不十分であり、その結果、治療的介入の割合が比較的低く、未治療の症例がかなり多い。現在の診断は、歯科医による不正確で主観的な口腔組織の臨床試験(色、腫脹、プロービングでの出血の程度、プロービングポケットの深さ、及び口腔X線による骨損失)に依存する。これらの従来の方法は時間がかかり、用いられる技術(ポケット深度、X線)のいくつかは、現在の疾患活動性又はさらなる疾患感受性よりもむしろ、過去の疾患活動性などの歴史的事象を反映する。
【0006】
同様に、治療を受けている歯周病患者について、治療に対する反応は、現在、当該従来の方法を介して臨床的に評価されなければならないが、費用がかかり、かつ、患者の症状のモニタリングは、潜在的に不正確である。さらに、治療効果予測の可能性は、それに応じて治療戦略を採用することができるため、大きな価値がある。それにより、現在の疾患活動性、被験体のさらなる歯周疾患に対する感受性、及びその患者に成功しうる治療を判定することが望ましい。従って、より客観的、より迅速、正確、より簡便な診断法(理想的には予測値を伴う)が望ましく、非専門家でも実施され得るものが好ましい。
【0007】
唾液又は経口液剤は、長い間、口腔疾患及び一般疾患の診断用液として提唱されてきた。また、ラボ・オン・チップという小型バイオセンサーの出現により、迅速な診察室での診療現場試験診断法は、科学的及び臨床的により大きな関心を集めている。特に歯周疾患の検出では、組織の炎症及び破壊に関連する炎症性バイオマーカーは、近接するために唾液中に容易に到達する可能性があり、唾液は歯周疾患の検出について、強力な可能性があることを示唆する。実際、この分野は大きな関心を集めており、有望な結果が得られている。例えば、非特許文献1は、歯周疾患と相関する宿主及び細菌由来のバイオマーカーを同定した。しかし、まだ明確な試験は確立されていない。
【0008】
バイオマーカーは、臨床症状を裏付ける生物学的指標であり、歯周疾患の臨床転帰を診断する客観的尺度である。最終的には、証明されたバイオマーカーを用いて、将来の疾患のリスクを評価し、極めて早期の段階で疾患を同定し、初期治療への反応を同定し、予防戦略を実施することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Ramseier et al (J Periodontol. 2009 Mar;80(3):436-46)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
唾液中のバイオマーカーに関する診療現場試験の開発については、これまで、診察室での応用に適応できる技術の欠如及び個々の試料中の複数のバイオマーカーの分析が不可能であるという制限があった。また、このような試験に含める複数のバイオマーカーの選択は、文献で十分に扱われておらず、実用的な試験でも実施されていない。
【0011】
さらに、歯周病は、軽度から進行性までの全領域に現れうる。この症状の重症度を容易に評価するため、歯科医は、歯周病に罹患した患者を、軽度歯周病の患者と進行性歯周病の患者の2つのグループに分類することが多い。しかしながら、このような評価を行う利用可能な方法には、歯科医が全ての患者及び/又は全ての来院時に日常的には実施できず、患者も実施(自己診断)できないような労働集約的プロセスが含まれる。
【0012】
より単純なプロセス、特に少量の唾液試料を患者から、できれば患者自身が採取しうるプロセスの提供が望まれる。当該試料は、唾液試料を分類できる体外診断装置に入力されて、その測定に基づき、患者の歯周疾患の治療が効果的であるか、又は治療が効果的でありうるという指標を返すことができることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記要望により良く対処するために、本発明は、一態様では、歯周疾患の治療に対するヒト患者の反応を評価又は予測するインビトロ方法であって、以下の:
-歯周疾患に罹患している前記ヒト患者由来の唾液試料中の以下の:
(i)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)の少なくとも1つ;又は、
(ii)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)及びインターロイキン-1-β(IL-1β)、並びにマトリクスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)、マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)及びケラチン-4(K-4)の少なくとも1つ;又は、
(iii)マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の少なくとも1つのタンパク質;又は、
(iv)マトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)及び遊離軽鎖κ(FLC-κ);
タンパク質の濃度の検出工程:
-前記タンパク質について測定された結合濃度を反映する少なくとも1つの試験値の測定工程;
-前記試験値を、歯周疾患の成功治療に関連する結合濃度と同様に反映する閾値と比較して、前記試験値が、前記患者における歯周疾患の治療の成功の指標となるかを評価する工程;
を含む、インビトロ方法に関する。
【0014】
他の態様では、本発明は、患者が歯周疾患の治療に反応するか、又は反応したかを評価するバイオマーカーとして、ヒト患者の唾液試料中の上記で同定されたタンパク質の使用を提供する。
【0015】
場合によっては、患者の年齢もまた、バイオマーカーとして用いられる。
【0016】
さらなる態様では、本発明は、歯周疾患の治療に対するヒト患者の反応を評価又は予測するシステムであって、以下の:
-ヒト患者の唾液試料中で、第1態様で同定されたタンパク質を検出することができ、かつ検出するように適合された検出手段:かつ、
-測定された前記タンパク質の濃度から、患者の歯周疾患の治療が成功したかを判断するように適合されたプロセッサ;
を含む、システムを提供する。
【0017】
前記システムは、場合によっては、情報を提示することができ、好ましくは情報を入力することもできるインタフェース、特にグラフィカルユーザインタフェースへのデータ接続を含み、前記インタフェースは、システムの一部又はリモートインタフェースのいずれかである。
【0018】
場合によっては、上記アイテムのうちの1又はそれ以上、特にプロセッサは、「クラウド内」、すなわち固定マシン上ではなく、インターネット系アプリケーションによって機能することができる。
【0019】
なお、なおさらなる態様では、本発明は、ヒト患者の唾液試料中の歯周疾患用の少なくとも2つのバイオマーカーを検出するキットを提供し、前記キットは、以下の:
(i)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)の少なくとも1つ;又は、
(ii)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)及びインターロイキン-1-β(IL-1β)、並びにマトリクスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)、マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)及びケラチン-4(K-4)の少なくとも1つ;又は、
(iii)マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の少なくとも1つのタンパク質;又は、
(iv)マトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)及び遊離軽鎖κ(FLC-κ);
のタンパク質の検出のための2又はそれ以上、通常2つ、3つ又は4つの検出試薬を含む。
【0020】
通常、3又はそれ以上の検出試薬が用いられ、各試薬は異なるバイオマーカーに結合する。1の実施形態では、第1検出試薬はA1AGPの検出用であり、第2検出試薬はIL-1βを検出用であり、第3検出試薬はMMP-9、K-4及びMMP-8の1つの検出用である。他の実施形態では、第1検出試薬はMMP-9の検出用であり、第2検出試薬はインターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α‐1‐酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの1つの検出用であり、第3検出試薬はインターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの異なる1つの検出用である。
【0021】
さらにもう1つの態様では、本発明は、第1時点t1から第2時点t2までの治療時間にわたり、ヒト患者の、疾患の治療に起因する歯周疾患の状態の変化を決定するインビトロ方法であって、t1で前記患者から得られた唾液の少なくとも1つの試料、及びt2で前記患者から得られた唾液の少なくとも1つの試料において、以下の:
(i)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)の少なくとも1つ;又は、
(ii)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)及びインターロイキン-1-β(IL-1β)、並びにマトリクスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)、マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)及びケラチン-4(K-4)の少なくとも1つ;又は、
(iii)マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の少なくとも1つのタンパク質;又は、
(iv)マトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)及び遊離軽鎖κ(FLC-κ);のタンパク質の濃度を検出する工程;かつ、
前記濃度のいかなる1、2、3、4又はそれ以上の差が状態の変化を反映するように濃度を比較する工程;
を含む方法を提供する。
【0022】
さらなる態様では、本発明は、ヒト患者が歯周疾患の治療を受けていたか、当該治療を受けているか、又は当該治療が成功するかを決定する方法であって、ヒト患者の唾液試料中で、上記第1態様で同定されたタンパク質を検出する工程;かつ、前記試料中の前記タンパク質の濃度に基づいて、前記ヒト患者が歯周疾患の治療を受けていたか、又は、歯周疾患の治療が成功するか、を含む。場合により、本方法は、患者の歯周病を治療するさらなる工程を含む。
【0023】
なお、さらなる態様では、本発明は、ヒト患者において、上記第一態様で同定されたタンパク質を検出する方法を提供し、以下の:
(a)ヒト患者から唾液試料を獲得する工程;
(b)前記試料中にタンパク質が存在するかを検出するために、前記試料を、前記タンパク質と結合する2又はそれ以上の検出試薬と接触させて、各タンパク質と2又はそれ以上の検出試薬との間の結合を検出する工程、を含む。通常、A1AGPに結合することができる第1検出試薬があり、第2検出試薬はIL-1βに結合することができ、第3検出試薬はMMP-9、K-4又はMMP-8の1つに結合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示に記載される方法で用いるシステムを概略的に表す図である。
図2】治療効果判定のためにleave-one-out cross validation(ROC AUC LOOCV)を採用した場合のReceiver-Operator-Characteristic Area-Under-the-Curveに関する分類性能の閾値の関数として、タンパク質マーカーが最大4つあるバイオマーカータンパク質パネルの同定数を示したグラフである。年齢を予測因子として除外するか、又は含めるために、他のグラフが示される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
一般的な意味では、本発明は、ヒト患者の唾液試料中のタンパク質バイオマーカーの特定の組み合わせが、患者の歯周疾患の治療に対する反応を評価又は予測するために用いられうるという賢明な洞察に基づく。唾液中のバイオマーカーの組み合わせは、歯周病治療に成功した反応と歯周病治療に失敗した反応を区別することができる。この洞察は、少なくとも部分的には、歯周疾患を診断するバイオマーカーの有用性(例えば、治療前)が、必ずしもその歯周疾患の治療のモニタリングにも有用であることを意味しないという知見に基づく。本開示は、様々なレベルの治療反応の臨床的定義を提示し、治療後又は(予測のために)治療前の濃度の測定から治療反応の評価又は予測を可能にする唾液タンパク質マーカーの組み合わせを同定する。
【0026】
バイオマーカータンパク質は、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、インターロイキン-1-β(IL-1β)、マトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)、マトリクスメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)、ケラチン-4(K-4)、肝細胞増殖因子(HGF)、ヘモグロビン-β(Hb-β)、S100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)及び遊離軽鎖(FLCκ)である。当該タンパク質の以下の組み合わせ:
α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)の少なくとも1つ;又は、
α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)及びインターロイキン-1-β(IL-1β)、並びにマトリクスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)、マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)及びケラチン-4(K-4)の少なくとも1つ;又は、
マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の少なくとも1つのタンパク質;又は、
マトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)及び遊離軽鎖κ(FLC-κ);
は、本発明による歯周疾患の治療の監視又は予測に用いられる。
【0027】
被験体の年齢は、場合によっては、追加のマーカーとして含まれ得る。
【0028】
1つの態様では、本方法は、以前に歯周病であると診断され、その歯周病の治療を受けたヒト患者の反応を評価する。
【0029】
他の態様では、本方法は、歯周病治療に対するヒト患者の反応を予測する。これは、患者にまだ治療が施されていない場合もありうる。あるいは、患者に最近治療が施されていてもよく、その場合は、当該治療に効果があるかを早期に知ることが望ましい。通常、本発明の方法を用いて患者の評価の、少なくとも約1週間前、約2週間前、又は約3週間前、例えば少なくとも約7日前、少なくとも約14日前、又は少なくとも約21日前に治療を開始する。治療は、評価の約1週間前から約1カ月前から開始してよい。患者は、場合によっては、最初の治療後、例えば、治療後3、6及び9週目、又は治療後4、8及び12週目に、2、3又は4週間隔で評価され得る。この予測的態様では、タンパク質MMP8、IL1B及びA1AGPの濃度を検出することができ、ピルビン酸キナーゼもまた、このパネルにおいてさらなるタンパク質バイオマーカーとして含まれ得る。
【0030】
α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)は、主に肝臓で合成される血漿α‐グロブリン糖タンパク質である。オロソムコイドとしても知られる血液中の輸送タンパク質として機能し、塩基性で中性に荷電したリポ親和性化合物の運搬体として作用する。また、血液細胞と内皮細胞との相互作用を調節すると考えられている。
【0031】
IL-1βはサイトカインのインターロイキン1ファミリーのメンバーである。このサイトカインは、プロタンパク質として活性化されたマクロファージによって産生され、カスパーゼ1(CASP1/ICE)によるタンパク質分解により、活性型にプロセシングされる。このサイトカインは、炎症反応の重要なメディエーターであり、細胞増殖、分化、及びアポトーシスを含む様々な細胞活性に関与する。
【0032】
MMPは、コラーゲン、プロテオグリカン、ラミニン、エラスチン、及びフィブロネクチン等の細胞外マトリクス成分の分解に関与する酵素のファミリーである。それらは、生理学的及び病理学的条件で、歯周靭帯(PDL)リモデリングにおける中心的役割を果たす。好中球コラゲナーゼ又はPMNLコラゲナーゼ(MNL-CL)としても知られるMMP-8は、大部分の哺乳動物の結合組織に存在するコラーゲンプロテアーゼ酵素である。92kDaIV型コラゲナーゼ、92kDaゼラチナーゼ又はゼラチナーゼB(GELB)としても知られるMMP-9は、細胞外マトリクスの分解に関与する亜鉛メタロプロテアーゼファミリーに属する酵素のクラスであるマトリキシンである。
【0033】
ケラチン-4(K4)は、細胞骨格ケラチン4(CYK4)又はサイトケラチン-4(CK-4)としても知られるが、ヒトではKRT4遺伝子によってコードされるタンパク質である。ケラチン遺伝子ファミリーに属する。II型サイトケラチンは、単純及び重層上皮組織の分化の間に共発現される一対の異型ケラチン鎖に配列する塩基性又は中性のタンパク質からなる。II型サイトケラチンCK4は、KRT13ファミリーの粘膜上皮及び食道上皮の分化した層において特異的に発現する。当該遺伝子の突然変異は、口腔、食道、及び肛門の白板症を特徴とする白色スポンジ状母斑と関連する。II型サイトケラチンは染色体12q12-q13の領域にクラスターを形成する。
【0034】
肝細胞増殖因子(HGF)は、パラクリン細胞成長、運動性及び形態形成因子である。間葉系細胞から分泌され、標的細胞となり、主に上皮細胞や内皮細胞に作用するが、造血前駆細胞にも作用する。HGFは筋形成及び創傷治癒に主要な役割を果たすことが示される。有糸分裂誘発、細胞運動性、マトリクス浸潤を刺激する機能は、血管新生、腫瘍形成、及び組織再生において中心的役割を果たす。HGFは上皮細胞の成長を刺激し、結合組織の付着の再生を妨げる。HGFは様々な疾患における疾患活動性を示す血清マーカーとして知られる。
【0035】
ヘモグロビン(Hb)は、ほとんどすべての脊椎動物及び一部の無脊椎動物の組織の赤血球中の鉄含有酸素輸送金属タンパク質である。ヘモグロビンβ(βグロビン、HBB、βグロビン、及びヘモグロビンサブユニットβとしても知られる)はグロビンタンパク質であり、αグロビン(HBA)とともに成人のヘモグロビンの最も一般的な形態であるHbAを構成する。Hb-βは通常、146個のアミノ酸の長さであり、分子量は15,867Daである。正常な成人のHbAは2つのα鎖と2つのβ鎖からなるヘテロ四量体である。Hb-βはヒト11番染色体上のHBB遺伝子にコードされる。
【0036】
カルグラニュリンBとしても知られるS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)は、炎症過程及び免疫反応の調節で重要な役割を果たすカルシウム及び亜鉛結合タンパク質である。好中球走化性、接着を誘導し、SYK、PI3K/AKT及びERK1/2の活性化を介して食作用を促進して、好中球の殺菌活性を高めることができ、MAPK依存性機序により好中球の脱顆粒を誘導することができる。
【0037】
遊離軽鎖タンパク質は免疫グロブリン軽鎖である。それらは免疫グロブリン重鎖とは会合しない。通常の全免疫グロブリン分子とは異なり、遊離軽鎖タンパク質は免疫グロブリン重鎖に共有結合しない。例えば、遊離軽鎖は重鎖に結合したジスルフィドではない。通常、遊離軽鎖は約220個のアミノ酸を含む。通常、遊離軽鎖タンパク質は、可変領域(しばしば、Light Chain variable Region、VLという)及び定常領域(しばしば、Light Chain constant Region、CLという)を含む。ヒトは、カッパ(κ)とラムダ(λ)と命名された2種類の免疫グロブリン軽鎖を産生する。これらは各々、4つのκサブタイプ(Vκ1、Vκ2、Vκ3及びVκ4)及び6つのλサブタイプ(Vλ1、Vλ2、Vλ3、Vλ4、Vλ5及びVλ6)がある可変領域の変異に基づいてさらにサブグループに分けることができる。遊離軽鎖κは、通常、単量体である。遊離軽鎖λは、通常、二量体であり、ジスルフィド結合により(他の遊離軽鎖λと)結合する。遊離軽鎖κと遊離軽鎖κの高分子型が同定されている。遊離軽鎖は、骨髄及びリンパ節細胞、並びにびまん性リンパ球により、歯周組織に局所的に産生され、血液から速やかに除去され、腎臓で分解される。単量体遊離軽鎖は2~4時間で、二量体遊離軽鎖は3~6時間で除去される。
【0038】
上記タンパク質は、当該分野で公知である。当業者は、それらの構造、及び唾液試料等の水性試料中でそれらを検出する方法を知っている。以下のタンパク質バイオマーカーの組み合わせ:
α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)の少なくとも1つ;又は、
α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)及びインターロイキン-1-β(IL-1β)、並びにマトリクスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)、マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)及びケラチン-4(K-4)の少なくとも1つ;又は、
マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の少なくとも1つのタンパク質;又は、
マトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)及び遊離軽鎖κ(FLC-κ);
を、総称して「本発明のバイオマーカーパネル」という。
【0039】
本発明のバイオマーカーパネルは、一実施形態では、同定されたタンパク質バイオマーカーからなってよい。好ましくは、本発明のバイオマーカーパネルは、本発明で同定されたタンパク質バイオマーカーのうちの4つ以下からなる。本発明のバイオマーカーパネルに加えて、人口統計学的データ(例えば、年齢、性別)等の他のバイオマーカー及び/又はデータを、歯周病型の決定に適用されるデータのセットに含めることができる。他のタンパク質バイオマーカーの例は、ピルビン酸キナーゼである。本発明の拡張されたバイオマーカーパネルの例は、MMP8、IL-1β、A1AGP、及びピルビン酸キナーゼである。
【0040】
他のバイオマーカーが、場合によっては、含まれる場合、バイオマーカーの総数(すなわち、本発明のバイオマーカーパネル+他のバイオマーカー)は、通常4、5又は6である。
【0041】
しかしながら、本発明の望ましい利点は、好ましくは4つ以下のバイオマーカー、より好ましくはバイオマーカーが3つのみでも測定して、患者の歯周疾患の分類を決定できることであり、バイオマーカーパネルは、α‐1‐酸性糖タンパク質(A1AGP)、インターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP9)、マトリクスメタロプロテイナーゼ8(MMP8)及びケラチン-4の少なくとも1つからなることが好ましい。特に、この決定には、有利には、簡易かつ簡便な診断テストを提供する他のデータを用いる必要がない。本明細書中で同定されたバイオマーカーパネルにより、歯周病治療の成功した転帰を検出することができる。
【0042】
本方法は、必要に応じて、少量の唾液試料、例えば、液滴を被験体から採取するだけでよい。試料のサイズは、通常、0.1μl~2ml、例えば、1~2mlの範囲であり、それにより、より少量、例えば、0.1~100μlを体外装置処理に用いることができ、それにより、より大きな試料、例えば、最大20ml、例えば、7.5~17mlを採取することも可能である。
【0043】
この試料は、関与するタンパク質の濃度を測定し、結果を返す体外診断装置に入力され、歯周疾患治療の成功の可能性に基づいて被験体を分類する。
【0044】
本発明の使用の簡便性により、歯周疾患がある歯科患者の大部分を、定期的に(例えば、定期的な歯科試験の一部として、又は自宅においてさえ)試験することができる。これにより、とりわけ、歯周病治療が成功しているかを検出することができ、歯周病治療に対するより情報に基づいたアプローチが可能となり、それにより、成功治療を継続でき、及び、非成功治療を中止するか、又は開始しないことができる。治療の成功の評価能は、例えば、患者の現在の治療が満足のいくものであることを確認するのに有益である。特に、本方法は自己診断にも適し、試料を採取し、それを装置に入れる工程を、患者自身が実施することができる。
【0045】
患者は、通常、本発明を実施する場合、歯周疾患があることが知られてもよい。患者は、通常、本発明が実施される場合、歯周病であることが知られてもよい。歯周病は軽度又は進行性でありうる。従って、特定の態様では、本方法は、歯周病であることが知られているヒト患者が、その状態に対する治療が成功しているか(又は治療される)を評価する。
【0046】
成功と評価される治療法は、歯周疾患に対するいかなる治療法であってよい。治療薬及び歯科処置、又は治療薬及び歯科処置の組み合わせが公知であり、用いられうる。公知の治療剤には、抗菌剤含有剤、例えば、洗口剤、チップ、ゲル又はミクロスフェアの投与が含まれる。歯肉炎及び歯周病の治療に通常用いられる抗菌剤はクロルヘキシジンである。他の治療薬としては、抗生物質、通常経口投与される抗生物質、及びドキシサイクリン等の酵素抑制剤が挙げられる。既知の非外科的治療手技としては、歯肉下プラークバイオフィルムを破壊する歯根表面器具使用;スケーリング及び歯根平坦化(SRP);及び歯根近位部間洗浄があげられる。公知の外科的処置としては、外科的ポケット整復、フラップ手術、歯肉移植片又は骨移植片があげられる。治療は、好ましくは、抗菌剤、通常抗菌性口内洗浄剤等の治療剤であろう。
【0047】
治療のための歯科医又は衛生士への任意の訪問の必要性及び回数は、臨床的必要性及び患者の希望に応じて様々である。臨床治療の初期段階の予約時間の何回かは、通常、長い。この実施形態では、患者は、初期治療に、各々約1~2時間の2回の予約で歯科クリニックに通院する場合がある。その後、治療後早期に頻繁な再来により、治癒を確認し、患者を動機づけ、口腔衛生を強化し、リフォーミングプラーク除去の予防を提供することができる。これは、通常、最初の治療期間後の1~2ヵ月間は2~4週間の間隔で短い(例えば、15~30分)診察で行われる。
【0048】
従って、特定の実施形態では、治療段階は、歯根表面計測のための1~2の臨床的指定を含んでよい。その後、患者はおよそ3、6及び9週間後に、再来予約(予防、動機づけ、口腔衛生強化)により、歯科医又は衛生士を再訪する場合がある。このスケジュール内では、治療プロトコルは、患者の臨床的必要性に応じて実施することができる。
【0049】
特定の実施形態では、本発明の評価又は予測方法は、初期治療後のいかなる臨床来院時にも実施され得る。
【0050】
本発明の方法は、通常、1つ又はそれ以上の検出試薬を用いて、本発明のバイオマーカーパネルを構成する前記の少なくとも2つのタンパク質、及び場合によっては、さらなるバイオマーカータンパク質を検出することを含む。
【0051】
通常、炎症レベルが著しく低下しても、ポケット深度が比較的高い場合(すなわち、健常人又は歯肉炎患者と比較して)には、治療成功とみなすことができる。したがって、治療後の患者に対する唾液タンパク質マーカーそのものに基づく疾患分類(例えば、健常、歯肉炎、軽度の歯周病、進行性歯周病の識別)の適用は、治療効果の評価には適さない場合がある。本発明のバイオマーカータンパク質は、この問題を克服し、特に、治療に対する反応を決定することができる。
【0052】
本発明により試験される「唾液」は、吐出又はスワブによって獲得しうる得る未希釈の唾液であってよく、又は液体で口をすすいで獲得しうる希釈された唾液であってよい。希釈唾液は、患者が滅菌水(例えば、5ml又は10ml)又は他の適当な流体で数秒間口をすすぎ又は振り動かし、容器に吐き出して得ることができる。当該希釈唾液は、口腔すすぎ液という場合もある。
【0053】
「検出する」とは、バイオマーカータンパク質の濃度を測定、定量、スコアリング、又はアッセイすることを意味する。バイオマーカータンパク質を含む生物学的化合物を評価する方法は、当技術分野では公知である。タンパク質バイオマーカーを検出する方法には、直接測定及び間接測定が含まれることが認識されている。当業者は、特定のバイオマーカータンパク質をアッセイする適当な方法を選択することができるであろう。
【0054】
タンパク質バイオマーカーに関する用語「濃度」には、その通常の意味、すなわち、体積中のタンパク質の存在量が与えられる。タンパク質濃度は、体積当たりの質量で測定される。最も通常には、mg/ml又はμg/mlであるが、ときにはpg/mlと低く測定される。他の尺度は、モラリティ(又はモル濃度)、モル/L又は「M」である。濃度は、公知の、決定された、又は所定の容量の試料中のタンパク質の量を検出して測定することができる。
【0055】
濃度を測定する代わりに、試料中のタンパク質バイオマーカーの絶対量を測定すること、又は試料中のバイオマーカーの質量-分画を測定すること、例えば、試料中の他のすべてのタンパク質の合計に対するバイオマーカーの量を測定してもよい。
【0056】
「検出試薬」とは、目的のタンパク質バイオマーカーに特異的に(又は選択的に)結合し、相互作用し、又は検出する物質又は化合物である。当該検出試薬は、限定されるものではないが、タンパク質バイオマーカーに優先的に結合する抗体、ポリクローナル抗体、又はモノクローナル抗体を含み得る。
【0057】
用語「歯周疾患」は、歯肉炎及び歯周病(軽度及び進行)を意味する。歯周病のない患者を健常という。
【0058】
用語「特異的に(又は選択的に)結合する」又は「特異的な(又は選択的な)免疫反応性がある(有する)」は、検出試薬を参照する場合、タンパク質及び他の生物学的製剤の不均一な集団におけるタンパク質バイオマーカーの存在を測定する結合反応をいう。従って、指定された免疫学的測定条件下では、特定の検出試薬(例えば、抗体)は、バックグラウンドの少なくとも2倍で特定のタンパク質に結合し、試料中に存在する他のタンパク質に実質的に有意量で結合しない。当該条件下での特異的結合には、特定のタンパク質に対する特異性のために選択される抗体が必要である。様々な免疫学的測定フォーマットを用いて、特定のタンパク質と特異的に免疫反応性の抗体を選択することができる。例えば、固相ELISA免疫学的測定法(酵素免疫測定法)は、タンパク質と特異的に免疫反応性のある抗体の選択に日常的に用いられる(例えば、Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual (1988), for a description of immunoassay formats and conditions that can be used to determine specific immunoreactivity参照)。通常、特異的又は選択的反応は、バックグラウンドシグナル又はノイズの少なくとも2倍であり、より典型的には、バックグラウンドの10~100倍を超えるであろう。
【0059】
「抗体」とは、エピトープ(例えば、抗原)を特異的に結合し、認識する、免疫グロブリン遺伝子又は免疫グロブリン遺伝子、又はそれらの断片によって実質的にコードされるポリペプチドリガンドをいう。認識された免疫グロブリン遺伝子には、κ及びλ軽鎖定常領域遺伝子、α、γ、δ、ε及びμ重鎖定常領域遺伝子、及び無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。抗体は、例えば、無傷の免疫グロブリンとして、又は様々なペプチダーゼによる消化により産生される多数の十分に特徴付けられた断片として存在する。これは、例えば、Fab’及びF(ab)’2断片を含む。本明細書中で用いられる用語「抗体」はまた、全抗体の修飾によって産生された抗体断片、又は組換えDNA方法を用いて新規に合成された抗体断片を包含し、また、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、又は単鎖抗体を包含し、抗体の「Fc」部分は、1又はそれ以上の重鎖定常領域ドメインCH1、CH2、及びCH3を含むが、重鎖可変領域を含まない免疫グロブリン重鎖の部分を意味する。抗体は、二重特異性抗体、例えば、第1抗原に特異的に結合する第1可変領域及び第2の異なる抗原に特異的に結合する第2可変領域がある抗体であり得る。少なくとも1つの二重特異性抗体を用いて、必要な検出試薬の数を減らすことができる。
【0060】
診断法は感度及び特異度が異なる。診断的アッセイの「感度」とは、試験が陽性であった患者の割合(「真の陽性」の割合)であり、アッセイで検出されなかった疾患患者は「偽陰性」である。病気ではないが試験で陰性となった被験体を「真陰性」といい、診断試験の「特異度」は1から偽陽性率を差し引いたものであり、「偽陽性」率は、試験で陽性となった罹患のない被験体の割合と定義される。特異度は、真の陰性率ともいう。
【0061】
本発明のバイオマーカータンパク質は、いかなる手段によっても試料中で検出することができる。バイオマーカー検出の好ましい方法は、抗体系アッセイ、タンパク質アレイアッセイ、質量分析(MS)系アッセイ、及び(近赤外分光法系アッセイである。例えば、免疫学的測定法には、ウエスタンブロット、ラジオ免疫学的測定法、ELISA「サンドイッチ」免疫学的測定法、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、蛍光免疫学的測定法等の技術を用いる競合的及び非競合的アッセイシステムが含まれるが、これらに限定されない。当該アッセイは常套手段であり、当技術分野では周知である。例示的な免疫学的測定法は、以下に簡単に記載される(しかし、限定を意図するものではない)。
【0062】
免疫沈降プロトコルは一般に、タンパク質ホスファターゼ及び/又はプロテアーゼ阻害剤(例えば、EDTA、PMSF、アプロチニン、バナジン酸ナトリウム)が添加されたRIPA緩衝液(1%NP-40又はTritonX-100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、0.15M NaC1、pH7.2の0.01Mリン酸ナトリウム、1%トラシロール)等の溶解緩衝液中で細胞の集団を溶解し、細胞溶解液に目的の抗体を添加し、4℃で一定期間(例えば、1~4時間)インキュベートし、プロテインA及び/又はプロテインGセファロースビーズを細胞溶解液に添加し、約1時間以上4℃でインキュベートし、溶解緩衝液中でビーズを洗浄し、SDS/試料緩衝液中でビーズを再懸濁することを含む。抗体の特定の抗原を免疫沈降能は、例えば、ウエスタンブロット分析で評価することができる。当業者は、抗原への抗体の結合を高め、バックグラウンドを軽減する(例えば、セファロースビーズで細胞溶解物を予めクリアする)ために修飾され得るパラメータに関して知識があるであろう。
【0063】
ウエスタンブロット分析は、一般に、タンパク質試料の調製、ポリアクリルアミドゲル中でのタンパク質試料の電気泳動(例えば、抗原の分子量に応じて8~20%のSDS-PAGE)、ポリアクリルアミドゲルからニトロセルロース、PVDF又はナイロン等の膜へのタンパク質試料の移動、ブロッキング溶液(例えば、3%のBSA又は非脂肪ミルクを含むPBS)中での膜のブロッキング、洗浄緩衝液(例えば、PBS-Tween20)中での膜洗浄、ブロッキング緩衝液中で希釈された一次抗体(対象の抗体)を用いた膜のブロッキング、洗浄緩衝液中での膜の洗浄、酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ)に結合された一次抗体(例えば、抗ヒト抗体を認識する)又は放射性分子(例えば、32P又は125I)を用いた膜のブロッキング、ブロッキング緩衝液中での膜の洗浄、及び当該抗原の存在の検出を含む。当業者は、検出されたシグナルを高め、バックグラウンドノイズを低下するのに修正することができるパラメータの知識があるであろう。
【0064】
ELISAは、通常、抗原(すなわち、目的のバイオマーカータンパク質又はその断片)の調製、96穴マイクロタイタープレートのウェルの抗原でのコーティング、酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ)等の検出可能な化合物に結合した目的の抗体をウェルに添加し、しばらくインキュベートすること、及び抗原の存在の検出を含む。ELISAでは、目的の抗体を検出可能な化合物に結合させる必要はなく、代わりに、検出可能な化合物に結合された第2抗体(目的の抗体を認識する)をウェルに添加することができる。さらに、ウェルを抗原でコーティングする代わりに、抗体をウェルにコーティングしてもよい。この場合、検出可能な化合物に結合した第2抗体は、対象抗原がコーティングされたウェルに添加した後に添加することができる。当業者は、検出されたシグナル、及び当技術分野で公知のELISAの他のバリエーションを高めるのに改変することができるパラメータの知識があるであろう。
【0065】
複数のマーカーを用いるため、当該バイオマーカーの結合濃度に基づいて閾値を決定することができる。当該閾値は、患者が治療に成功したかに分類される否かを決定する。本発明は、歯周病治療の成功反応が、上記したバイオマーカーの組み合わせの測定に基づき、十分な精度で、歯周病治療の不成功反応と区別できるという洞察を反映する。
【0066】
当該洞察は、他の態様、すなわち、本発明は、本発明のタンパク質の組み合わせを、ヒト患者の唾液試料中のバイオマーカーとして、患者の歯周病治療が成功しているか否か、又は成功の見込みの評価に用いることを裏付ける。疑義の回避のため、この態様のタンパク質の組み合わせは以下の通りである:
(i)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)の少なくとも1つ;又は、
(ii)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)及びインターロイキン-1-β(IL-1β)、並びにマトリクスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)、マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)及びケラチン-4(K-4)の少なくとも1つ;又は、
(iii)マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の少なくとも1つのタンパク質;又は、
(iv)マトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)及び遊離軽鎖κ(FLC-κ)。
【0067】
この使用は、本明細書中及び本明細書中に実質的に記載された方法で実施することができる。
【0068】
本発明の方法は、前記タンパク質について測定された結合濃度を反映する少なくとも1つの試験値を測定することを含む。結合濃度値は、測定された濃度の入力及びこれらの値の算術演算によって得られるいかなる値であってよい。これは、例えば、濃度の単純な添加であり得る。また、各濃度をこれらの濃度の所望の重量を反映する係数で乗算し、次いで結果を合計することを含むこともできる。また、濃度を互いに乗算すること、又は乗算、除算、減算、指数化、及び加算のいかなる組み合わせを含むこともできる。さらに、濃度をある程度まで上昇させることを含むことができる。場合によっては、試験値は、被験体の年齢と組み合わせて、前記タンパク質について測定された結合濃度を反映する。
【0069】
得られた結合濃度値は、歯周病の治療に成功した結合濃度を同じ方法で反映する1又はそれ以上の閾値と比較することができる。この比較により、試験値が、試験を受けた患者の唾液が成功治療の指標となるかを評価することができる。
【0070】
閾値は、例えば、以前に歯周病と診断され、疾患の重症度を低下させるように治療された患者のように、歯周病治療に成功した参照試料中の同じタンパク質について決定された濃度に基づいて、同じ方法で得られた結合濃度値とすることができる。通常、結合濃度が同じかそれ以上であることを反映した値は、試験を受けた患者の歯周病治療の成功を示す。同様に、試験を受けた歯周病患者の唾液中の結合濃度が低いことを反映する値は、歯周病治療がうまくいっていないことを示す。しかしながら、(例えば、負の乗数を用いて)試験値が成功を示し、試験治療が閾値を下回り、試験治療が不成功を示す試験値が閾値を超えるように、閾値を計算することもできることが理解されるであろう。
【0071】
閾値はまた、治療が成功したことが知られている患者及び治療が成功しなかった患者を含む、一連の試料中の現在のバイオマーカータンパク質の濃度を測定することに基づいて決定することもできる。それにより、測定された濃度値を、おそらく機械学習法を含む統計分析にかけ、望ましい感度及び特異度で、治療が成功したか否かに分類された患者を識別することができる。これにより、所望の閾値を得ることができる。この閾値に基づいて、試験試料は、同じ濃度測定に供し、次いで、閾値が得られるのと同じ方法で、濃度値を処理し、閾値と比較され得る結合濃度値を決定し、従って、試験試料の治療成功を、「はい」又は「いいえ」に分類することができる。
【0072】
興味深い実施形態では、結合濃度値は、以下のようなスコアの形式で得られる。数値(例えば、ng/mlのタンパク質濃度値)を各測定に割り当て、これらの値を線形又は非線形の組み合わせで用いて、スコアをゼロから1の間で計算する。上記のように、閾値が一組の被験体に基づいて決定される場合、通常、0~1のスコアは、結合濃度を入力とするシグモイド関数を用いて計算される(上記のように)。
【0073】
スコアがある閾値を超える場合、当該方法は歯周病治療に成功したことを示す。当該閾値は、所望の感度及び特異度に基づいて選択され得る。
【0074】
当該技術分野では認められている臨床的定義は、以下に基づく:
歯肉指数(GI)〕
以下の場合、ロベン修正歯肉指数(MGI)を0~4の尺度で評価し、それに基づいて全口腔歯肉指数を記録する:
-0 =炎症なし
-1 =軽度の炎症;辺縁又は乳頭状歯肉単位の全部ではなく、ある部分が、色の質感のわずかな変化がわずかに変化している
-2 =軽度の炎症;ただし、辺縁全体又は乳頭部に及ぶ;
-3 =中等度の炎症;開口、発赤、浮腫及び/又は辺縁又は乳頭部の肥大、
-4 =重度の炎症;著しい発赤、辺縁又は乳頭状歯肉単位の浮腫及び/又は肥厚、自然出血、うっ血、潰瘍形成。
【0075】
プロービング深度(PD)
UNC-15手動歯周プロービングを用いて、最も近いmmまでプロービング深度を記録する。プロービング深度とは、プロービング先端(ポケットの基部と仮定)から歯肉縁までの距離をいう。
【0076】
歯肉退縮(REC)
歯肉退縮は、UNC-15手動歯周プロービングを用いて、最も近いmmまで記録する。歯肉後退は、遊離歯肉縁からセメント質-エナメル境界までの距離である。歯肉退縮は正の数で示され、歯肉過成長は負の数で示される。
【0077】
臨床的付着喪失(CAL)
臨床的付着喪失は、各部位におけるプロービング深度+後退の和として計算する。
【0078】
プロービング時の出血(BOP)
プロービング後、プロービング時に各部位の出血を評価し、プロービング後30秒以内に出血が生じた場合は、その部位に1のスコアを割り当て、そうでない場合は0のスコアを割り当てる。
【0079】
結果として得られる被験体群(患者群)の定義は以下の通りである:
-健常群(H):全部位でPD≦3mm(ただし、最終立位大臼歯の遠位部では4mmポケットまで可能)、近位部付着欠損のない部位、GI≧2.0、≦10%、%BOPスコア≦10%;
-歯肉炎群(G):GIが30%を超える部位で3.0以上、近位部付着欠損している部位がない、PDが4mmを超える部位がない、%BOPスコアが10%を超える;
-軽度~中等度の歯周病群(MP):8本以上の歯で5~7mmの歯間PD(約2~4mmのCALに等しい)、%BOPスコア>30%;
-進行性歯周病群(AP):12本以上の歯で7mm以上の歯間PD(CAL約5mm以上と等しい)、%BOPスコア>30%。
【0080】
一の実施形態では、本発明の方法は、図1に概略的に示すシステムを用いる。当該システムは、その中に一体化された様々な装置構成要素(ユニット)を有する単一の装置であってよい。また、当該システムは、その様々な構成要素、又はこれらの構成要素の一部を、別個の装置として有することができる。図1に示す構成要素は、測定装置(A)、グラフィカルユーザインタフェース(B)、及びコンピュータ処理ユニット(C)である。
【0081】
上記のように、本発明のシステムは、インタフェースへのデータ接続を含み、それによって、インタフェース自体は、システムの一部であっても、リモートインタフェースであってもよい。後者は、実際のインタフェースを提供するために、他の装置、好ましくはスマートフォン又はタブレットコンピュータ等のハンドヘルド装置をもちいることができる。このような場合のデータ接続は、好ましくは、Wi-Fi又はBluetooth等による、又は他の技術又は標準による無線データ転送を含む。
【0082】
測定装置(A)は、例えば、装置(A)に挿入可能なカートリッジ(A1)上に唾液滴を滴下して、唾液試料を受け取るように構成される。当該装置は、同一の唾液試料から、本発明の少なくとも以下の:
α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)の少なくとも1つ;又は、
α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)及びインターロイキン-1-β(IL-1β)、並びにマトリクスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)、マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)及びケラチン-4(K-4)の少なくとも1つ;又は、
マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の少なくとも1つのタンパク質;又は、
マトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)及び遊離軽鎖κ(FLC-κ);
のバイオマーカータンパク質の組合せの濃度を決定することができる既存の装置であり得る。
【0083】
測定装置(A)は、装置(A)に挿入可能なカートリッジ(A1)に唾液を滴下する等により唾液試料を受け取ることができる。当該装置は、同一の唾液試料から、本発明のタンパク質バイオマーカーの少なくとも2つの濃度、例えば、A1AGP及びIL1-β、又はMMP-8及びFLC-κを測定することができる既存の装置であり得る。
【0084】
プロセシングユニット(C)は、部分(A)からのタンパク質濃度の数値を受け取る。単位(C)には、0から1のスコア(S)を計算できるソフトウェア(通常は組み込みソフトウェア)が付属する。当該ソフトウェアは、閾値(T)の数値をさらに含む。計算値(S)が(T)を超える場合、単位(C)はGUI(B)に「歯周病治療成功」の指示(I)を出力し、そうでない場合は「歯周病治療不成功」を出力する。さらなる実施形態は、(S)の特定の値を用いて、指示(I)が行われる確実性を示すことができる。例えば、スコアS=0.8は「歯周病の治療が成功した」ことを80%の確率で示すという意味で、これは「直接的」になり得る。さもなければ、例えば、R1<S<R2のときに指示(I)が「決定的でない」と読むように、R1~R2の範囲の定義を通して行うことができる。
【0085】
スコアの特定の計算は、例えば、ロジスティック回帰により、シグモイド関数を用いて実施することができる:
【0086】
【数1】
(式中、Nは、用いたタンパク質/バイオマーカーの数、c0、c1等は係数(数値)、B1、B2等は各々タンパク質濃度である。)
係数ciの決定は以下の訓練手順:
-歯周病治療が成功したN1症例(現行基準で歯科医が判定)と、歯周病治療が不成功のN2症例を選択する。
【0087】
-各被験体から唾液試料を採取し、上記のようにバイオマーカーの組み合わせのタンパク質濃度を測定する(唾液試料は、未治療(反応を予測するための)の患者、又は治療(反応を評価するための)が進行中の患者から採取することができる)。
【0088】
-スコアSを、成功した反応では1、失敗した反応では0と定義する。
【0089】
-当該スコアとタンパク質濃度にシグモイド関数をあわせる。
により行うことができる。
【0090】
あるいは、既存の回帰分析法や機械学習法(線形回帰、ニューラルネットワーク、サポートベクトルマシンなど)を用いてもよく、スコアSは治療に成功した患者では高く、治療に成功しなかった患者では低くなることに注意する。
【0091】
特に、当該手順は、以下の基準を介して歯科専門家による臨床評価によって同定された歯周病治療に成功したか、又は成功しなかった被験体を対象とした臨床試験を用いて適用された:
【0092】
【表1】
成功レベル1:
「ゴールドスター」治療の転帰を示し、大多数の歯周病患者ではおそらく比較的考えにくいが、少数の患者で達成される可能性がある。
成功レベル2:
歯周病患者の治療効果が非常に良好であることを示す。
成功レベル3:
大多数の部位のプロービング深度は4mm以下で、10%以下の部位が5mmであり、実用的で良好な治療反応を示す。(また、6mm以上の深さのプロービング部位はない)。
成功レベル4:
大多数の部位のプロービング深度は5mm以下であり、深度が6mmの部位は10%を超えない点で、実用的で中等度に良好な治療反応を示す。(また、深度が7mm以上のプロービング部位はない)。
【0093】
本明細書で用いる「治療成功」とは、成功レベル1~4のいずれかを意味する。従って、以前に歯周病と診断された患者で「治療成功」とみなされる最小の臨床症状は、90%が、プロービング深度≦5mm、プロービング深度>6mm、及びプロービング時の出血≦20%の部位である。
【0094】
「成功」状態を示すマルチクラス分類子が用いられてよい。
【0095】
様々なバイオマーカーの組み合わせの性能を、leave-one-out cross validationによって評価し、本発明の好ましいバイオマーカーの組み合わせが得られた。
【0096】
上記システムに関し、本発明はまた、さらなる態様では、ヒト患者が歯周病の治療を受けているかどうか、又は成功する見込みがあるかを評価するシステムを提供し、このシステムは、以下の:
- ヒト患者の唾液試料中で以下の:
(i)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)の少なくとも1つ;又は、
(ii)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)及びインターロイキン-1-β(IL-1β)、並びにマトリクスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)、マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)及びケラチン-4(K-4)の少なくとも1つ;又は、
(iii)マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の少なくとも1つのタンパク質;又は、
(iv)マトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)及び遊離軽鎖κ(FLC-κ);
のタンパク質を検出することができ、かつそれに適合する検出手段を含む。
【0097】
上記のように、当該手段は公知であり、当業者にとって容易にアクセス可能である。通常、これらは、以下の:
-被験体の口腔検体を収容する容器であって、検出手段を備えた容器;
-測定された前記タンパク質の濃度から、歯周病の治療に成功した/成功しなかった反応の指標を決定するように適合されたプロセッサ
で、提供される。
【0098】
場合によっては、当該システムは、ユーザインタフェース(又は、リモートインタフェースへのデータ接続)、特に、情報を提示することができるグラフィカルユーザインタフェース(GUI)、GUIは、ユーザが、テキストベースのユーザインタフェース、タイプ化されたコマンドラベル、又は、テキストナビゲーション(本発明では除外されていない)の代わりに、グラフィカルアイコン及び二次表記などの視覚的インジケータを介して、電子装置と対話することを可能にするユーザインタフェース型であり、GUIは、一般的に公知であり、通常、MP3プレーヤ、ポータブルメディアプレーヤ、ゲーム装置、スマートフォン、及び、より小さな家庭用、オフィス及び産業用のコントロール等のハンドヘルドモバイル装置で使用され、上記のように、インタフェースは、場合によっては、例えば、被験体の年齢、性別、BMI(Body Mass Index)等の情報を入力できるように選択することができる。
【0099】
本発明はまた、別個に、又は前記システムの一部として、ヒト患者の唾液試料中の歯周疾患用の少なくとも2つのバイオマーカーを検出するキットを提供し、前記キットは、以下の:
(i)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)の少なくとも1つ;又は、
(ii)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)及びインターロイキン-1-β(IL-1β)、並びにマトリクスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)、マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)及びケラチン-4(K-4)の少なくとも1つ;又は、
(iii)マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の少なくとも1つのタンパク質;又は、
(iv)マトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)及び遊離軽鎖κ(FLC-κ);
のタンパク質を検出する、1又はそれ以上の検出試薬を含む。
【0100】
通常、キットは、各々が異なるバイオマーカーに指向される3つの検出試薬を含む。より典型的には、キットは以下の:
A1AGPを検出する第1検出試薬、IL-1βを検出する第2検出試薬、及びMMP-9、K-4及びMMP-8の1つを検出する第3検出試薬;又は
MMP-9を検出する第1検出試薬、インターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α‐1‐酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの1つを検出する第2検出試薬、及びインターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α‐1‐酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)のうちの1つを検出する第3検出試薬;を含む。
【0101】
本発明の方法に関して上記のように、当該キットは、ピルビン酸キナーゼ及び/又は他のタンパク質等の、より多くの検出試薬を含み得る。好ましい態様では、当該キットにおいて利用可能な検出試薬は、上記のように、本発明のバイオマーカーパネルを構成する3つのタンパク質の検出用の検出試薬からなる。
【0102】
好ましくは、当該キットは、チップ、マイクロタイタープレート、又は該検出試薬を含むビーズ又は樹脂等の固体支持体を含む。いくつかの態様では、キットは、ProteinChip(商標)等の質量分析プロービングを含む。
【0103】
当該キットはまた、非結合検出試薬又は前記バイオマーカー(サンドイッチ型アッセイ)のいずれかに特異的な洗浄溶液及び/又は検出試薬を提供することができる。
【0104】
興味深い態様では、本発明のバイオマーカーパネルの認識は、ヒト患者における歯周疾患の症状の治療期間中のモニタリングに適用される。従って、本発明はまた、第1時点t1から第2時点t2までの治療時間にわたって歯周病に罹患しているヒト患者における疾患の治療に起因する歯周疾患の状態の変化を決定するインビトロ方法を提供し、当該方法は、t1で当該患者から得られた唾液の少なくとも1つの試料及びt2で当該患者から得られた唾液の少なくとも1つの試料において、以下の:
(i)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)及びマトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)の少なくとも1つ;又は、
(ii)α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)及びインターロイキン-1-β(IL-1β)、並びにマトリクスメタロプロテイナーゼ8(MMP-8)、マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)及びケラチン-4(K-4)の少なくとも1つ;又は、
(iii)マトリクスメタロプロテイナーゼ9(MMP-9)、並びにインターロイキン-1-β(IL-1β)、肝細胞増殖因子(HGF)、α-1-酸性糖タンパク質(A1AGP)、ヘモグロビン-β(Hb-β)及びS100カルシウム結合タンパク質A9(S100A9)の少なくとも1つのタンパク質;又は、
(iv)マトリクスメタロプロテイナーゼ-8(MMP-8)及び遊離軽鎖κ(FLC-κ);のタンパク質の濃度を検出する工程;かつ、好ましくは2、3、4、又はそれ以上の濃度の差が、状態の変化を反映するように濃度を比較する工程、を含む。この差は、濃度の差として再検討することができ、したがって、最初に0と1の間の数字、又は他のいかなる分類も生成せずに、直接比較することができる。また、両時点で受信された測定値は、上記のように患者の状態を判定する際に行われるのと同じ方法で処理することもできることが理解されよう。
【0105】
本発明はまた、ヒト患者の歯周疾患が治療されたか、又は成功する見込みを診断する方法であって、患者の唾液中で本発明のタンパク質の存在を検出することを含む方法を提供する。患者の成功治療は、前記試料中の前記タンパク質の濃度に基づいて評価される。場合によっては、この態様の方法は、患者の歯周疾患を治療するさらなる工程を含む。この任意の治療段階は、既知の治療剤又は歯科処置の投与、又は治療剤及び歯科処置の組合せを含むことができる。公知の治療剤としては、抗菌剤含有剤、例えば、洗口剤、チップ、ゲル又はミクロスフェアの投与が含まれる。歯肉炎及び歯周病の治療に用いられる典型的な抗菌剤は、クロルヘキシジンである。他の治療薬としては、抗生物質、通常経口投与される抗生物質、及びドキシサイクリン等の酵素抑制剤が挙げられる。既知の非外科的治療手技には、スケーリング及びルートプレーニング(SRP)がある。既知の外科的処置としては、外科的ポケット整復、フラップ手術、歯肉移植片又は骨移植片があげられる。
【0106】
本発明はさらに、患者において本発明のタンパク質を検出する方法を提供し、以下の:
(a)ヒト患者から唾液試料を獲得する工程;
(b)唾液試料をタンパク質の検出試薬と接触させ、各タンパク質と検出試薬との間の結合を検出して、本発明のタンパク質が唾液試料中に存在するか否かを検出する工程;
を含む。
【0107】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照してさらに例示される。
【実施例
【0108】
歯周病の治療を受けた2つの独立した臨床施設で再度診察を受けた被験体106例を対象とした臨床試験において:
-74例は反応が低かった/不成功であった
-32例が高い効果/効果がみられた
中で、治療成績が良好であったかを判定するため、Receiver-Operator-Characteristic-曲線下面積>0.75の値を得た。
【0109】
統計では、Receiver-Operator-Characteristic曲線、すなわちROC曲線は、識別閾値が変化するにつれて、二進分類器システムの性能を示すグラフプロットである。この曲線は、様々な閾値設定での偽陽性率(FPR)に対して真の陽性率(TPR)をプロットすることによって作成される。真の陽性率は、機械学習における感度、想起又は検出の確率としても知られている。偽陽性率は、フォールアウト又は誤警報の確率としても知られており、(1-特異度)として計算することができる。したがって、ROC曲線は、フォールアウトの関数としての感度である。一般的に、検出と誤警報の両方の確率分布が既知であれば、ROC曲線は、検出確率の累積分布関数(-∞から識別閾値までの確率分布の下の面積)の値をy軸に、誤報確率の累積分布関数の値をx軸にプロットすることによって生成することができる。試験の精度は、試験が試験対象群を、問題の疾患のある群とない群とにどれだけうまく分けられるかに依存する。精度は、ROC曲線下面積で測定する。面積1は完全な試験を表し、面積0.5は価値のない試験を表す。診断試験の精度を分類するガイドは、伝統的な学術的ポイント制である:
-0.90-1 =優良(A)
-0.80-0.90 =良好(B)
-0.70-0.80 =公正(C)
-0.60-0.70 =不良(D)
-0.50-0.60 =失敗(F)
様々なバイオマーカーの組み合わせを、leave-one-out cross validation (LOOCV)を用いたロジスティック回帰により評価し、本発明のバイオマーカーの組み合わせを得た。本発明のタンパク質バイオマーカーの組み合わせは、成功した治療結果を検出するために>0.75のAUCを有することが分かる。
【0110】
以上のことから、上記臨床試験の結果において、ROC AUC値が0.75を超えると、本発明に関する試験を実施する望ましい精度を表すと考えられる。
【0111】
探索されたタンパク質バイオマーカーは以下の通りであった:
・MMP8
・MMP9
・IL-1β
・HGF
・遊離軽鎖(FLC)カッパ(kappa)
・遊離軽鎖(FLC)ラムダ(lambda)
・A1AGP
・Hb-ベータ
・Hb-デルタ
・ケラチン4
・プロフィリン
・ピルビン酸キナーゼ
・S100A8
・S100A9。
【0112】
さらに、用いたロジスティック回帰では、追加の予測因子としてκ+λ、κ-λ、κ/λを考慮した。
【0113】
さらに、年齢を予測因子として含めた。
【0114】
これにより、最大4つのタンパク質バイオマーカー(年齢のみを有するパネルは考慮しない)を有する、合計4204の可能性のある非冗長パネルが得られる。ここで、非冗長とは、ロジスティック回帰の場合のように、例えば、κ+λ及びκ-λを予測因子として含むパネルは、予測因子としてκ及びλを含む対応するパネルと同じ結果を与えるように、考慮されないことを意味する。
【0115】
パネル中のタンパク質マーカーの数を制限せずに、上記の予測因子を考慮すると、多数の98302個の可能な非重複パネル(年齢のみを有するパネルは考慮しない)を生じることに注意されたい。
【0116】
図2は、leave-one-out cross validation(ROC AUC LOOCV)を用いた場合の、Receiver-Operator-Characteristic Area-Under-the-Curveに関する分類性能の閾値の関数として、最大4個のタンパク質マーカーを有するパネルを同定した数を示す。年齢を予測因子(最大700パネルでは赤い下線)として除外した場合と、年齢を含めた場合(最大1150パネルでは青い上線)は、他のグラフで示す。
【0117】
AUC LOOCV閾値0.75では、年齢を含めると141枚、年齢を除外すると101枚のパネルが認められた。
【0118】
AUC LOOCV閾値0.75におけるこれらのパネルについて、異なるマーカーの有病率を下表に示す:
【0119】
【表2】
全体として、これらの結果は、MMP9、IL1B、A1AGP、κ、MMP8、及びHGFが最も一般的なマーカーであることを示す。
【0120】
141のパネルすべてをカバーする好ましいバイオマーカータンパク質の組み合わせは、以下の通りである:
- MMP9及びIL1B、HGF、A1AGP、HB-β、S100A9の1又はそれ以上
- A1AGP及び1又はそれ以上のMMP8、IL1B
- MMP8とカッパ
(MMP9及びS100A9は、K/Lを含む1つのパネルをカバーする)
これらの141のパネルにおけるタンパク質マーカーの数は、以下のとおりである:
- 1つのパネルには、A1AGP及びMMP9(AUC LOOCV=0.751)という2つのマーカーのみがあり
- 20のパネルには3つのマーカーがあり
- 120のパネルには4つのマーカーがある。
【0121】
20のパネルを3つのマーカーでカバーする好ましいバイオマーカータンパク質の組み合わせは、以下の通りである:
- A1AGP及び/又はκ、及びMMP8、MMP9、IL1B、HGFのうちの2つの組み合わせ
- MMP9及びA1AGP、κ、IL1B、HB-β、Hb-δ、ケラチン4、S100A9のうち2つの組み合わせ。
【0122】
タンパク質マーカーが≦4の以下の14のパネルは、AUC LOOCV>0.8の性能を提供する:
【0123】
【表3】
これらの組み合わせは各々、本発明による好ましいバイオマーカーの組み合わせである。
【0124】
2つのパネルには3つのタンパク質マーカーがあり、残りは4つのタンパク質マーカーがあることが分かる。これら14パネルすべてをカバーするタンパク質バイオマーカーの組み合わせは以下の通りである:
- (IL1B及びA1AGP)&MMP8*及びMMP9の一方又は両方
*MMP8はケラチン4に置換しうる
1つを除く全てのパネルがIL1B&A1AGP&MMP9によってカバーされていることも注目され、それゆえ好ましいバイオマーカーパネルである。
【0125】
上記のパネルは、治療成功の可能性を評価/推定するための、治療後のバイオマーカーのレベルの測定に関する。
【0126】
また、治療前のマーカー値から治療成功を予測する可能性も検討されている。本明細書に用いられる治療成功定義では、MMP8、IL1B、A1AGP、及び場合によりピルビン酸キナーゼを有するパネルは、AUC LOOCV>0.75の性能を提供することが見出される。従って、これは、歯周病治療に対する反応を予測するために、本発明による好ましいパネルである。
【0127】
本発明は、図面及び上記説明では詳細に説明及び記載されているが、そのような説明及び記載は、例示的及び典型的であり、限定的ではないとみなされるべきであり、本発明は、開示された実施形態に限定されない。
【0128】
例えば、異なるバイオマーカーについて異なる単位で検出試薬を提示することができる。又は、好都合には、本発明のキットは、ある態様で必須であるタンパク質バイオマーカー、すなわち、特定の態様におけるA1AGP、のための検出試薬の固定セット、及び、例えば、MMP-8及び/又はIL-1β用のさらなるバイオマーカー用の検出試薬を含む可撓性モジュール、を含むことができる。
【0129】
開示された実施形態に対する他の変形例は、図面、開示、及び添付の請求の範囲の研究から、当業者が請求する発明を実施する際に理解し、実施することができる。クレームでは、語「含む」は、他の要素又は工程を除外せず、不定冠詞「a」又は「an」(原文)は、複数を除外しない。本発明の特定の特徴が相互に異なる従属クレームに記載されているという単なる事実は、これらの特徴の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。クレーム中の引用符号は、その範囲を限定するものと解釈してはならない。
【0130】
要すれば、本発明者らは、歯周疾患の治療に対するヒト患者の反応を評価又は予測するインビトロ方法を開示する。この方法は、わずか2種類のバイオマーカータンパク質の選択を決定する洞察に基づく。従って、患者由来の唾液試料において、本明細書に記載されるタンパク質の濃度が測定される。測定濃度に基づき、当該タンパク質の結合濃度が反映された値が決定される。この値は、通常、治療が成功する確率の計算に用いられ、歯周病の成功治療の結合濃度を同じ方法で反映する閾値と各々比較される。当該比較により、試験値が前記患者における歯周病の成功治療の指標となるかを価することができる。
図1
図2