(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】トランジスタモデルの作成方法、プログラム、記録媒体およびシミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/367 20200101AFI20240401BHJP
【FI】
G06F30/367
(21)【出願番号】P 2020561968
(86)(22)【出願日】2019-11-20
(86)【国際出願番号】 IB2019059954
(87)【国際公開番号】W WO2020136469
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2018244755
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月1日 IEEE発行の、International ELECTRON DEVICES meeting 2018 TECHNICAL DIGESTのpp.312-315にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月4日 Hilton San Francisco Union Square(アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ)にて開催された、2018 IEEE International Electron Devices MeetingのSession 13.6にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】國武 寛司
(72)【発明者】
【氏名】津田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】越田 樹
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 丈也
(72)【発明者】
【氏名】熱海 知昭
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-211387(JP,A)
【文献】特開平08-036020(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0112041(US,A1)
【文献】青木均,MOSFETの物性とモデル化の基礎 [online],2014年06月26日,pp. 1-10,[検索日 2023.11.24],インターネット,URL:https://kobaweb.ei.st.gunma-u.ac.jp/lecture/2014-07aoki-1.pdf
【文献】BUCHER, M. et al.,The EPFL-EKV MOSFET Model Equations for Simulation [online],1999年03月29日,pp. 1-18,[検索日 2023.11.24],インターネット,URL:http://www.wrcad.com/xictools/docs/model_docs/ekv-2.6/ekv_v262.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/30 -30/398
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界効果型トランジスタの特性を近似するトランジスタモデルの作成方法であって、
ゲートと、ソースと、ドレインと、を有する電界効果型トランジスタモデルを設定する第1ステップと、
前記ゲートと前記ソースの間に第1容量を設定する第2ステップと、
前記ゲートと前記ドレインの間に第2容量を設定する第3ステップと、を含み、
前記第1容量および前記第2容量は、非線形容量であり、
前記第1容量のCV特性および前記第2容量のCV特性を、前記電界効果型トランジスタのゲート容量のCV特性の実測値で近似する第4ステップを含み、
前記電界効果型トランジスタのゲート容量のCV特性から前記第1容量の容量素子の個数が設定され、
前記電界効果型トランジスタのゲート容量のCV特性から前記第2容量の容量素子の個数が設定され、
前記電界効果型トランジスタモデルは、BSIM3、BSIM4、BSIMSOI、HiSIM-HV、RPI-TFTおよびHPATFTのいずれであるトランジスタモデルの作成方法。
【請求項2】
請求項
1において、
前記第1容量および前記第2容量は、ゲート電圧によって容量値が決定されるトランジスタモデルの作成方法。
【請求項3】
請求項1
または請求項
2に記載の作成方法をコンピュータで実行するためのプログラム。
【請求項4】
請求項
3に記載のプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項5】
電界効果型トランジスタの特性を近似するシミュレーション装置であって、
ゲートと、ソースと、ドレインと、を有する電界効果型トランジスタモデルを設定する機能と、
前記ゲートと前記ソースの間に第1容量を設定する機能と、
前記ゲートと前記ドレインの間に第2容量を設定する機能と、を含み、
前記第1容量および前記第2容量は、非線形容量であり、
前記第1容量のCV特性および前記第2容量のCV特性を、前記電界効果型トランジスタのゲート容量のCV特性の実測値で近似する機能を含み、
前記電界効果型トランジスタのゲート容量のCV特性から前記第1容量の容量素子の個数が設定され、
前記電界効果型トランジスタのゲート容量のCV特性から前記第2容量の容量素子の個数が設定され、
前記電界効果型トランジスタモデルは、BSIM3、BSIM4、BSIMSOI、HiSIM-HV、RPI-TFTおよびHPATFTのいずれであるシミュレーション装置。
【請求項6】
請求項
5において、
前記第1容量および前記第2容量は、ゲート電圧によって容量値が決定されるシミュレーション装置。
【請求項7】
コンピュータを請求項
5または請求項
6に記載のシミュレーション装置として機能させるプログラム。
【請求項8】
請求項
7に記載のプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、トランジスタモデル、トランジスタモデルの作成方法、シミュレーション装置、プログラム、および記録媒体などに関する。
【0002】
なお本発明の一態様は、上記の技術分野に限定されない。本明細書等で開示する発明の技術分野は、物、方法、または、製造方法に関するものである。または、本発明の一態様は、プロセス、マシン、マニュファクチャ、または、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、トランジスタを用いた回路設計において、SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)などの回路シミュレータが用いられている。回路シミュレータは、シミュレーションによって様々な回路動作を検証する機能を有する。シミュレーションは、トランジスタ、ダイオード、容量、抵抗などの電気特性を近似したデバイスモデルを用いて行なわれる。シミュレーションの精度を向上するために、デバイスモデルの精度向上が求められている。特に、非線形素子(例えば、ダイオードやトランジスタ)の電気特性を正確に近似したデバイスモデルが求められている。
【0004】
トランジスタの電気特性は、トランジスタの構造によって異なる。このため、様々なトランジスタモデルが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
電界効果型トランジスタでは、ゲート電圧によって容量値や、ソースとドレインの間の抵抗値が変化する特性を有する。よって、当該トランジスタを用いた回路の正確な動作検証のためには、容量や抵抗の特性変化を正確に再現する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、しきい値電圧を基準として電圧変化を近似する従来のトランジスタモデルでは、電流や容量の電圧依存に対する変曲点が複数ある場合の特性近似ができなかった。例えば、半導体層を電子親和力が異なる半導体層の積層で形成したトランジスタの特性近似ができなかった。
【0008】
本発明の一態様は、トランジスタの電気特性の正確な近似を実現するトランジスタモデルを提供することを課題の一つとする。または、当該トランジスタモデルの作成方法を提供することを課題の一つとする。または、当該トランジスタモデルをコンピュータで実行するためのプログラムを提供することを課題の一つとする。または、当該トランジスタモデルを実現するシミュレーション装置を提供することを課題の一つとする。または、コンピュータを当該シミュレーション装置として機能させるプログラムを提供することを課題の一つとする。
【0009】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、これら以外の課題は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、ゲートと、ソースと、ドレインと、を有する電界効果型トランジスタの特性を近似するトランジスタモデルであって、ゲートとソースの間に第1容量を備え、ゲートとドレインの間に第2容量を備え、第1容量および第2容量は、ゲートの電圧によって容量値が決定される可変容量であるトランジスタモデルである。
【0011】
また、本発明の別の一態様は、電界効果型トランジスタの特性を近似するトランジスタモデルの作成方法であって、ゲートと、ソースと、ドレインと、を有する電界効果型トランジスタモデルを設定する第1ステップと、ゲートとソースの間に第1容量を設定する第2ステップと、ゲートとドレインの間に第2容量を設定する第3ステップと、を含み、第1容量および第2容量は、ゲートの電圧によって容量値が決定される可変容量であり、第1容量のCV特性および第2容量のCV特性を、電界効果型トランジスタのゲート容量のCV特性の実測値で近似する第4ステップを含む、トランジスタモデルの作成方法である。
【0012】
また、本発明の別の一態様は、コンピュータで上記の作成方法を実行するためのプログラムである。また、本発明の別の一態様は、当該プログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0013】
また、本発明の別の一態様は、電界効果型トランジスタの特性を近似するシミュレーション装置であって、ゲートと、ソースと、ドレインと、を有する電界効果型トランジスタモデルを設定する機能と、ゲートとソースの間に第1容量を設定する機能と、ゲートとドレインの間に第2容量を設定する機能と、を含み、第1容量および第2容量は、ゲートの電圧によって容量値が決定される可変容量であり、第1容量のCV特性および第2容量のCV特性を、電界効果型トランジスタのゲート容量のCV特性の実測値で近似する機能を含むシミュレーション装置である。
【0014】
また、本発明の別の一態様は、コンピュータを上記シミュレーション装置として機能させるプログラムである。
【0015】
また、本発明の別の一態様は、上記のプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0016】
第1容量は複数の容量素子で構成されてもよい。第2容量は複数の容量素子で構成されてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、トランジスタの電気特性の正確な近似を実現するトランジスタモデルを提供することができる。または、当該トランジスタモデルの作成方法を提供することができる。または、当該トランジスタモデルをコンピュータで実行するためのプログラムを提供することができる。または、当該トランジスタモデルを実現するシミュレーション装置を提供することができる。または、コンピュータを当該シミュレーション装置として機能させるプログラムを提供することができる。
【0018】
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの効果の全てを有する必要はない。なお、これら以外の効果は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以外の効果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨およびその範囲から逸脱することなくその形態および詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0021】
また、図面等において示す各構成の、位置、大きさ、範囲などは、発明の理解を容易とするため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、開示する発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。例えば、実際の製造工程において、エッチングなどの処理によりレジストマスクなどが意図せずに目減りすることがあるが、理解を容易とするために図に反映しないことがある。
【0022】
また、上面図(「平面図」ともいう)や斜視図などにおいて、図面をわかりやすくするために、一部の構成要素の記載を省略する場合がある。
【0023】
また、本明細書等において「電極」や「配線」の用語は、これらの構成要素を機能的に限定するものではない。例えば、「電極」は「配線」の一部として用いられることがあり、その逆もまた同様である。さらに、「電極」や「配線」の用語は、複数の「電極」や「配線」が一体となって形成されている場合なども含む。
【0024】
また、本明細書等において、電気回路における「端子」とは、電流の入力または出力、電圧の入力または出力、および/または、信号の受信または送信が行なわれる部位を言う。よって、配線または電極の一部が端子として機能する場合がある。
【0025】
なお、本明細書等において「上」や「下」の用語は、構成要素の位置関係が直上または直下で、かつ、直接接していることを限定するものではない。例えば、「絶縁層A上の電極B」の表現であれば、絶縁層Aの上に電極Bが直接接して形成されている必要はなく、絶縁層Aと電極Bとの間に他の構成要素を含むものを除外しない。
【0026】
また、ソースおよびドレインの機能は、異なる極性のトランジスタを採用する場合や、回路動作において電流の方向が変化する場合など、動作条件などによって互いに入れ替わるため、いずれがソースまたはドレインであるかを限定することが困難である。このため、本明細書においては、ソースおよびドレインの用語は、入れ替えて用いることができるものとする。
【0027】
また、本明細書等において、「電気的に接続」には、直接接続している場合と、「何らかの電気的作用を有するもの」を介して接続されている場合が含まれる。ここで、「何らかの電気的作用を有するもの」は、接続対象間での電気信号の授受を可能とするものであれば、特に制限を受けない。よって、「電気的に接続する」と表現される場合であっても、現実の回路においては、物理的な接続部分がなく、配線が延在しているだけの場合もある。
【0028】
また、本明細書などにおいて、「平行」とは、例えば、二つの直線が-10°以上10°以下の角度で配置されている状態をいう。従って、-5°以上5°以下の場合も含まれる。また、「垂直」および「直交」とは、例えば、二つの直線が80°以上100°以下の角度で配置されている状態をいう。従って、85°以上95°以下の場合も含まれる。
【0029】
なお、本明細書などにおいて、計数値および計量値に関して「同一」、「同じ」、「等しい」または「均一」などと言う場合は、明示されている場合を除き、プラスマイナス10%の誤差を含むものとする。
【0030】
また、電圧は、ある電位と、基準の電位(例えば接地電位またはソース電位)との電位差のことを示す場合が多い。よって、電圧と電位は互いに言い換えることが可能な場合が多い。本明細書などでは、特段の明示が無いかぎり、電圧と電位を言い換えることができるものとする。
【0031】
なお、「半導体」と表記した場合でも、例えば、導電性が十分低い場合は「絶縁体」としての特性を有する。よって、「半導体」を「絶縁体」に置き換えて用いることも可能である。この場合、「半導体」と「絶縁体」の境界は曖昧であり、両者の厳密な区別は難しい。したがって、本明細書に記載の「半導体」と「絶縁体」は、互いに読み換えることができる場合がある。
【0032】
また、「半導体」と表記した場合でも、例えば、導電性が十分高い場合は「導電体」としての特性を有する。よって、「半導体」を「導電体」に置き換えて用いることも可能である。この場合、「半導体」と「導電体」の境界は曖昧であり、両者の厳密な区別は難しい。したがって、本明細書に記載の「半導体」と「導電体」は、互いに読み換えることができる場合がある。
【0033】
なお、本明細書等における「第1」、「第2」等の序数詞は、構成要素の混同を避けるために付すものであり、工程順または積層順など、なんらかの順番や順位を示すものではない。また、本明細書等において序数詞が付されていない用語であっても、構成要素の混同を避けるため、特許請求の範囲において序数詞が付される場合がある。また、本明細書等において序数詞が付されている用語であっても、特許請求の範囲において異なる序数詞が付される場合がある。また、本明細書等において序数詞が付されている用語であっても、特許請求の範囲などにおいて序数詞を省略する場合がある。
【0034】
なお、本明細書等において、トランジスタの「オン状態」とは、トランジスタのソースとドレインが電気的に短絡しているとみなせる状態(「導通状態」ともいう。)をいう。また、トランジスタの「オフ状態」とは、トランジスタのソースとドレインが電気的に遮断しているとみなせる状態(「非導通状態」ともいう。)をいう。
【0035】
また、本明細書等において、「オン電流」とは、トランジスタがオン状態の時にソースとドレイン間に流れる電流をいう場合がある。また、「オフ電流」とは、トランジスタがオフ状態である時にソースとドレイン間に流れる電流をいう場合がある。
【0036】
また、本明細書等において、高電源電位VDD(以下、単に「VDD」または「H電位」ともいう)とは、低電源電位VSSよりも高い電位の電源電位を示す。また、低電源電位VSS(以下、単に「VSS」または「L電位」ともいう)とは、高電源電位VDDよりも低い電位の電源電位を示す。また、接地電位をVDDまたはVSSとして用いることもできる。例えばVDDが接地電位の場合には、VSSは接地電位より低い電位であり、VSSが接地電位の場合には、VDDは接地電位より高い電位である。
【0037】
また、本明細書等において、ゲートとは、ゲート電極およびゲート配線の一部または全部のことをいう。
【0038】
また、本明細書等において、ソースとは、ソース領域、ソース電極、およびソース配線の一部または全部のことをいう。ソース領域とは、半導体層のうち、抵抗率が一定値以下の領域のことをいう。ソース電極とは、ソース領域に接続される部分の導電層のことをいう。
【0039】
また、本明細書等において、ドレインとは、ドレイン領域、ドレイン電極、及びドレイン配線の一部または全部のことをいう。ドレイン領域とは、半導体層のうち、抵抗率が一定値以下の領域のことをいう。ドレイン電極とは、ドレイン領域に接続される部分の導電層のことをいう。
【0040】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様に係るトランジスタモデルについて、図面を用いて説明する。
【0041】
<トランジスタモデル>
図1Aは、本発明の一態様に係るトランジスタモデル100の等価回路図である。トランジスタモデル100は、非線形素子であるトランジスタ110と、容量120Sと、容量120Dと、を含む。
【0042】
トランジスタ110のゲートはノードGに接続され、ソースはノードSに接続され、ドレインはノードDに接続される。容量120Sおよび容量120Dは、それぞれがノードAおよびノードBを有する。容量120Sは、ノードAがトランジスタ110のゲートと接続され、ノードBがトランジスタ110のソースと接続される。容量120Dは、ノードAがトランジスタ110のゲートと接続され、ノードBがトランジスタ110のドレインと接続される。
【0043】
容量120Sおよび容量120Dの構成例として、容量120aおよび容量120bを説明する。
図1Bは、容量120aの構成例を説明する等価回路図である。容量120aは1つのトランジスタ121で構成することができる。具体的には、トランジスタ121のゲートをノードAと接続し、トランジスタ121のソースおよびドレインをノードBと接続する。よって、トランジスタ121はMIS(Metal-Insulator-Semiconductor)容量として機能する。ノードAはトランジスタ110のゲートと接続されるため、容量120aはトランジスタ110のゲートに印加される電圧によって容量値が変化する非線形容量として機能する。
【0044】
図1Cは、容量120bの構成例を説明する等価回路図である。容量120bはトランジスタ121aおよびトランジスタ121bの2つのトランジスタで構成することができる。具体的には、トランジスタ121aのゲートをノードAと接続し、トランジスタ121aのソースおよびドレインをノードBと接続する。よって、トランジスタ121aはMIS容量として機能する。また、トランジスタ121bのゲートをノードAと接続し、トランジスタ121bのソースおよびドレインをノードBと接続する。よって、トランジスタ121bはMIS容量として機能する。ノードAはトランジスタ110のゲートと接続されるため、容量120bはトランジスタ110のゲートに印加される電圧によって容量値が変化する非線形容量として機能する。
【0045】
なお、容量120Sおよび容量120Dの一方を省略してもよい。ただし、容量120Sおよび容量120Dの双方を設けることで、シミュレーションの精度を向上することができる。
【0046】
〔トランジスタの構造例〕
ここで、トランジスタモデル100を適用できるトランジスタの一例を説明しておく。
図2Aおよび
図2Bに示すトランジスタ150Aは、シミュレーションモデルとしてトランジスタモデル100が適用できるトランジスタの一例である。
【0047】
図2Aはトランジスタ150Aの平面図である。
図2Bは、
図2Aに一点鎖線で示すL1-L2部位の断面図である。なお、
図2Aでは、図の明瞭化のため構成要素の記載の一部を省略している。
【0048】
トランジスタ150Aは、絶縁層514、絶縁層516、絶縁層522、および絶縁層524の上に半導体層530が設けられている。半導体層530は、半導体層530aおよび半導体層530bを含む。半導体層530bの一部に接して導電層540aが設けられ、半導体層530bの他の一部に接して導電層540bが設けられている。また、導電層540(導電層540aおよび導電層540b)上に絶縁層574、絶縁層580、絶縁層582、および絶縁層584が設けられている。
【0049】
トランジスタ150Aでは、導電層540、絶縁層574および絶縁層580の一部に開口が設けられ、当該開口の側面および底面に沿って半導体層530a、絶縁層550、および導電層560が設けられている。導電層560は、絶縁層550を介して半導体層530aと重なる領域を有する。半導体層530aは半導体層530bと接する領域を有する。
【0050】
また、絶縁層574、絶縁層580、絶縁層582、および絶縁層584の一部に導電層546aおよび導電層546bが埋め込まれている。導電層546aおよび導電層546bはコンタクトプラグとして機能する。導電層546aは導電層540aと電気的に接続し、導電層546bは導電層540bと電気的に接続する。
【0051】
導電層540aはソース電極またはドレイン電極の一方として機能し、導電層540bはソース電極またはドレイン電極の他方として機能する。導電層560はゲート電極として機能する。絶縁層550はゲート絶縁層として機能する。
【0052】
半導体層530aおよび半導体層530bは、それぞれが単結晶半導体、多結晶半導体、微結晶半導体、または非晶質半導体などを、単体でまたは組み合わせて用いることができる。半導体材料としては、例えば、シリコンや、ゲルマニウムなどを用いることができる。また、シリコンゲルマニウム、炭化シリコン、ガリウムヒ素、酸化物半導体、窒化物半導体などの化合物半導体や、有機半導体などを用いることができる。
【0053】
また、半導体層として有機物半導体を用いる場合は、芳香環をもつ低分子有機材料やπ電子共役系導電性高分子などを用いることができる。例えば、ルブレン、テトラセン、ペンタセン、ペリレンジイミド、テトラシアノキノジメタン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレンビニレンなどを用いることができる。
【0054】
また、半導体層として、金属酸化物の一種である酸化物半導体を用いることができる。酸化物半導体は、少なくともインジウム(In)または亜鉛(Zn)を含むことが好ましい。特にInおよびZnを含むことが好ましい。よって、In酸化物、Zn酸化物、In-Zn酸化物などを用いればよい。また、それらに加えて、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)またはスズ(Sn)などが含まれていることが好ましい。また、ホウ素(B)、シリコン(Si)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、またはマグネシウム(Mg)などから選ばれた一種、または複数種が含まれていてもよい。
【0055】
半導体層として酸化物半導体を用いる場合は、CAAC-OS、nc-OSなどの結晶部を有する酸化物半導体を用いることが好ましい。CAAC-OSとは、C-Axis-Aligned Crystalline Oxide Semiconductorの略称である。CAAC-OSは、c軸配向性を有し、かつa-b面方向において複数のナノ結晶が連結し、歪みを有した結晶構造となっている。なお、歪みとは、複数のナノ結晶が連結する領域において、格子配列の揃った領域と、別の格子配列の揃った領域との間で格子配列の向きが変化している箇所を指す。nc-OSとは、nanocrystalline Oxide Semiconductorの略称である。
【0056】
[ゲート容量のCV特性]
半導体層530aおよび半導体層530bに用いられる半導体材料の電子親和力が異なる場合に、ゲート容量のCV測定を行なうと、得られるCV特性は2つのしきい値電圧(Vt)が内在する。
【0057】
ここで、ゲート容量のCV特性について説明しておく。トランジスタのゲート容量のCV特性の測定は、ソースとドレインを基準電位(0V)にして、ゲート電圧をマイナスからプラス(または、プラスからマイナス)に変化させて行なう。
図3A1および
図3B1は、どちらもゲート容量(Cg)のゲート電圧(Vg)依存性を示すグラフである。
図3A1および
図3B1の横軸はゲート電圧(Vg)の電圧値を線形軸で示し、縦軸はゲート容量(Cg)の容量値を対数軸で示している。
【0058】
図3A1にCV特性の一例として、CV曲線151を示す。
図3B1にCV特性の一例として、CV曲線152を示す。また、
図3A2に、CV曲線151の微分曲線151dを示し、
図3B2に、CV曲線152の微分曲線152dを示す。
図3A2および
図3B2とも、横軸はゲート電圧(Vg)の電圧値を線形軸で示し、縦軸はゲート電圧の変化に対するゲート容量の変化率(dCg/dVg)を線形軸で示している。
【0059】
図3A1に示すCV曲線151は、半導体層に酸化物半導体を用いて、かつ、電子親和力が1つである場合のCV特性の一例を示している。Vgをマイナスからプラスに連続的に変化させると、Vgがある電圧を越えるとCgの値が急激に増加し、その後Cgの値は飽和に向かう。よって、
図3A2に示す微分曲線151dにおいてピークが1つ観察される。当該ピークはCV曲線151の変曲点に相当する。本明細書などでは、当該ピーク位置のVgをVtとする。
【0060】
図3B1に示すCV曲線152は、半導体層を異なる電子親和力を有する半導体層の2層積層で構成した場合のCV特性の一例を示している。この場合、
図3B2に示す微分曲線152dのように、2つのピークが観察される。すなわち、Vtが2つ存在する。
図3B1および
図3B2では、2つのVtをVt1およびVt2として示している。
【0061】
例えば、トランジスタ150Aのように、半導体層を異なる電子親和力を有する半導体層の2層積層で構成した場合は、トランジスタモデル100の容量120Sおよび容量120Dとして、容量120aを用いればよい。
【0062】
容量120Sおよび容量120Dとして、容量120aを用いることで、トランジスタモデル100に2つのVtを設定できる。
【0063】
トランジスタモデル100を適用できるトランジスタの他の一例を
図4Aおよび
図4Bに示す。
図4Aはトランジスタ150Bの平面図である。
図4Bは、
図4Aに一点鎖線で示すL1-L2部位の断面図である。なお、
図4Aでは、図の明瞭化のため構成要素の記載の一部を省略している。
【0064】
トランジスタ150Bはトランジスタ150Aの変形例であるが、半導体層530が半導体層530a、半導体層530b、および半導体層530cの3層積層である点が異なる。
【0065】
例えば、トランジスタ150Bのように、半導体層を異なる電子親和力を有する半導体層の3層積層で構成した場合は、トランジスタモデル100の容量120Sおよび容量120Dとして、容量120bを用いればよい。
【0066】
容量120Sおよび容量120Dとして、容量120bを用いることで、トランジスタモデル100に3つのVtを設定できる。
【0067】
なお、半導体層530が3層積層構造であっても、半導体層530a、半導体層530b、および半導体層530cそれぞれの電子親和力や膜厚などによっては、容量120Sおよび容量120Dとして、容量120aを用いてもよい。
【0068】
また、トランジスタモデル100を適用できるトランジスタの他の一例を
図5Aおよび
図5Bに示す。
図5Aはトランジスタ150Cの平面図である。
図5Bは、
図5Aに一点鎖線で示すL1-L2部位の断面図である。なお、
図5Aでは、図の明瞭化のため構成要素の記載の一部を省略している。
【0069】
トランジスタ150Cはトランジスタ150Bの変形例である。トランジスタ150Cは、バックゲートとして機能できる導電層505を有する点がトランジスタ150Bと異なる。導電層505は絶縁層516中に埋め込まれている。導電層505がバックゲートとして機能する場合、絶縁層522、および絶縁層524はゲート絶縁層として機能する。
【0070】
また、トランジスタモデル100を適用できるトランジスタの他の一例を
図6Aおよび
図6Bに示す。
図6Aはトランジスタ150Dの平面図である。
図6Bは、
図6Aに一点鎖線で示すL1-L2部位の断面図である。なお、
図6Aでは、図の明瞭化のため構成要素の記載の一部を省略している。
【0071】
トランジスタ150Dはトランジスタ150Cの変形例である。トランジスタ150Dは、半導体層530が半導体層530a1、半導体層530a2、半導体層530b、および半導体層530cの4層積層である点が異なる。
【0072】
例えば、トランジスタ150Dのように、半導体層を異なる電子親和力を有する半導体層の4層積層で構成した場合は、容量120aまたは容量120bと同様の容量を容量120bに追加したトランジスタモデル100を用いればよい。
【0073】
なお、半導体層530が4層積層構造であっても、半導体層530a1、半導体層530a2、半導体層530b、および半導体層530cそれぞれの電子親和力や膜厚などによっては、容量120Sおよび容量120Dとして、容量120aまたは容量120bを用いてもよい。
【0074】
例えば、トランジスタ150Dの半導体層530a1と半導体層530a2に同じ物性を有する材料が用いられている場合は、トランジスタ150Dとトランジスタ150Cは、実質的に同じトランジスタと考えることができる。
【0075】
本実施の形態は、他の実施の形態および実施例などに記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0076】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様に係るシミュレーション装置200について説明する。
【0077】
<シミュレーション装置>
図7は、シミュレーション装置200の構成例を示すブロック図である。シミュレーション装置200は、制御装置210、演算装置220、記憶装置230、補助記憶装置240、入出力装置250、および通信装置260を有する。それぞれの装置は、バスライン201を介して電気的に接続されている。
【0078】
〔制御装置210、演算装置220〕
制御装置210は、他の装置の動作を制御する機能を有する。また、演算装置220は、シミュレーションに関する演算処理を実行する機能を有する。演算装置220として、例えば中央演算処理装置(CPU:Central Processing Unit)などを用いることができる。
【0079】
また、制御装置210および/または演算装置220を、FPGA(Field Programmable Gate Array)やFPAA(Field Programmable Analog Array)といったPLD(Programmable Logic Device)によって実現してもよい。
【0080】
演算装置220で得られた演算結果は、記憶装置230および/または補助記憶装置240に出力される。また、演算装置220で得られた演算結果は、入出力装置250および/または通信装置260を介して表示装置(図示せず)やプリンタなどに出力される。
【0081】
〔記憶装置230〕
記憶装置230は、シミュレーション動作にかかわるプログラムやパラメータを保存する機能を有し、少なくとも一部は書き換え可能なメモリであることが好ましい。例えば、記憶装置230は、RAM(Random Access Memory)、などの揮発性メモリや、ROM(Read Only Memory)などの不揮発性メモリを備える構成とすることができる。
【0082】
記憶装置230に設けられるRAMとしては、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)が用いられる。RAMの一部にシミュレーション装置200の作業空間としてメモリ空間が割り当てられる。補助記憶装置240に格納されたオペレーティングシステム、アプリケーションプログラム、データなどは、実行のためにRAMに読み込まれる。
【0083】
〔補助記憶装置240〕
補助記憶装置240は、オペレーティングシステム、アプリケーションプログラム、データなどを保存するための記憶装置である。また、演算装置220で使用する各種パラメータなどが格納されている場合もある。
【0084】
補助記憶装置240としては、例えば、フラッシュメモリ、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)、PRAM(Phase change RAM)、ReRAM(Resistive RAM)、FeRAM(Ferroelectric RAM)などの不揮発性の記憶素子が適用された記憶装置、またはDRAM(Dynamic RAM)やSRAM(Static RAM)などの揮発性の記憶素子が適用された記憶装置等を用いてもよい。また例えばハードディスクドライブ(Hard Disc Drive:HDD)やソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)などの記録メディアドライブを用いてもよい。
【0085】
また、例えば、補助記憶装置240として、入出力装置250を介して脱着可能なHDDまたはSSDなどの記憶装置を用いてもよい。また、ブルーレイディスク、DVDなどの記録媒体のメディアドライブを補助記憶装置240として用いることもできる。
【0086】
なお、シミュレーション装置200の外部に置かれる記憶装置を補助記憶装置240として用いる場合、通信装置260を用いて無線通信でシミュレーション装置200とデータの入出力を行なう構成であってもよい。
【0087】
〔入出力装置250〕
入出力装置250は、外部機器とシミュレーション装置200間の、信号の入出力を制御する機能を有する。また、入出力装置250が有する外部ポートとして、HDMI(登録商標)端子、USB端子、LAN(Local Area Network)接続用端子などを用いてもよい。また、入出力装置250は、赤外線、可視光、紫外線などを用いた光通信用の送受信機能を有していてもよい。
【0088】
〔通信装置260〕
通信装置260は、アンテナを介して通信を行うことができる。例えば演算装置220からの命令に応じてシミュレーション装置200をコンピュータネットワークに接続するための制御信号を制御し、当該信号をコンピュータネットワークに発信する。これによって、World Wide Web(WWW)の基盤であるインターネット、イントラネット、エクストラネット、PAN(Personal Area Network)、LAN(Local Area Network)、CAN(Campus Area Network)、MAN(Metropolitan Area Network)、WAN(Wide Area Network)、GAN(Global Area Network)等のコンピュータネットワークにシミュレーション装置200を接続させ、通信を行うことができる。またその通信方法として複数の方法を用いる場合には、アンテナは当該通信方法に応じて複数有していてもよい。
【0089】
通信装置260には、例えば高周波回路(RF回路)を設け、RF信号の送受信を行えばよい。高周波回路は、各国法制により定められた周波数帯域の電磁信号と電気信号とを相互に変換し、当該電磁信号を用いて無線で他の通信機器との間で通信を行うための回路である。実用的な周波数帯域として数10kHz~数10GHzが一般に用いられている。アンテナと接続される高周波回路には、複数の周波数帯域に対応した高周波回路部を有し、高周波回路部は、増幅器(アンプ)、ミキサ、フィルタ、DSP(Digital Signal Processor)、RFトランシーバ等を有する構成とすることができる。無線通信を行う場合、通信プロトコルまたは通信技術として、LTE(Long Term Evolution)、GSM(Global System for Mobile Communication:登録商標)、EDGE(Enhanced Data Rates for GSM Evolution)、CDMA2000(Code Division Multiple Access 2000)、WCDMA(Wideband Code Division Multiple Access:登録商標)などの通信規格、またはWi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)等のIEEEにより通信規格化された仕様を用いることができる。
【0090】
制御装置210、演算装置220、記憶装置230、および補助記憶装置240と、出力装置250または通信装置260と、を含むコンピュータを、シミュレーション装置200として機能させることができる。例えば、入出力装置250または通信装置260を介して本発明の一態様に係るシミュレーションプログラムを起動する信号が制御装置210に入力されると、制御装置210が補助記憶装置240に保存されているシミュレーションプログラムを記憶装置230に読み込ませる信号を出力する。シミュレーションプログラムを記憶装置230に読み込ませることで、コンピュータをシミュレーション装置として機能させることができる。
【0091】
また、制御装置210は、入出力装置250または通信装置260を介して入力された設定パラメータなどの各種データを記憶装置230に読み込ませる信号を出力する。演算装置220は、記憶装置230に読み込まれたプログラムやデータなどを用いて演算処理を実行する。なお、補助記憶装置240を記憶装置230として用いることもできる。また、演算装置220内部に設けられたキャッシュを記憶装置230として用いてもよい。
【0092】
ROMには書き換えを必要としないBIOS(Basic Input/Output System)やファームウェア等を格納することができる。ROMとしては、マスクROMや、OTPROM(One Time Programmable Read Only Memory)、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)等を用いることができる。EPROMとしては、紫外線照射により記憶データの消去を可能とするUV-EPROM(Ultra-Violet Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュメモリなどが挙げられる。
【0093】
シミュレーションプログラムの一部または全部をROMに格納してもよい。
【0094】
<シミュレーション装置の動作例>
続いて、シミュレーション装置200の動作例を説明する。シミュレーション装置200は、トランジスタモデル、ダイオードモデル、容量モデル、および抵抗モデルなどの、多様なデバイスモデルを生成できる。また、シミュレーション装置200は、生成したデバイスモデルを用いて実デバイスと同様の動作特性を再現することができる。さらに、生成したデバイスモデルを組み合わせて、様々な回路動作を再現することができる。
【0095】
図8は、シミュレーション装置200の動作例を説明するためのフローチャートである。本実施の形態では、シミュレーション装置200でトランジスタモデル100の設定パラメータを実トランジスタに近似するための動作例を説明する。
【0096】
まず、使用者の指示に従い、トランジスタモデル100を生成する(ステップS310)。本実施の形態では、トランジスタモデル100を生成する。より具体的には、まずトランジスタ110として用いるコンパクトモデルを決定する(ステップS311)。コンパクトモデルとは、デバイス特性を数式で比較的簡易に記述したモデルである。コンパクトモデルの精度によって、シミュレーション精度が決定される。トランジスタのコンパクトモデルとして、BSIM3、BSIM4、BSIMSOI、HiSIM-HV、RPI-TFT、およびHPATFTなどの様々なモデルが提案されている。本実施の形態では、RPI-TFTモデルを用いる。
【0097】
次に、容量120Sのコンパクトモデルを決定する(ステップS312)。例えば、近似される実トランジスタの半導体層が積層構造であり、2つの電子親和力を有する場合は、容量120Sとして容量120aを用いる。また、近似される実トランジスタの半導体層が3つの電子親和力を有する場合は、容量120Sとして容量120bを用いる。容量120aを構成するトランジスタ121、ならびに、容量120bを構成するトランジスタ121aおよびトランジスタ121bのモデルとして、例えば、PI-TFTモデルを用いる。本実施の形態では、容量120Sとして容量120bを想定したコンパクトモデルを用いる。
【0098】
続いて、容量120Sと同様に、容量120Dのコンパクトモデルを決定する(ステップS313)。本実施の形態では、容量120Dとして容量120bを想定したコンパクトモデルを用いる。このようにしてトランジスタモデル100を生成することができる。
【0099】
次に、実トランジスタのゲート容量CV特性に近づくように、容量120Sおよび容量120Dのコンパクトモデルのパラメータを調整する(ステップS320)。同時に、トランジスタ110のコンパクトモデルのパラメータを調整してもよい。
【0100】
次に、実トランジスタのゲート容量CV特性と、トランジスタモデル100のゲート容量CV特性を比較する(ステップS330)。
【0101】
次に、実トランジスタのゲート容量CV特性とトランジスタモデル100のゲート容量CV特性の差が許容範囲内か比較する(ステップS340)。差が許容範囲内に無い場合は、ステップS320に戻り、パラメータを再度調整する。差が許容範囲内である場合は、トランジスタモデル100の設定パラメータを実トランジスタに近似するための動作を終了する。
【0102】
このようにして、トランジスタモデル100の設定パラメータを調整して、トランジスタモデル100を実トランジスタに近似させることができる。シミュレーション装置200は、上記動作を実現するプログラムを有する。また、シミュレーション装置200は、上記動作を実現するプログラム以外にも、様々な回路動作を検証するプログラムを有する。また、シミュレーション装置200は、一つの検証プログラムを実行して得られた結果を、他の検証プラグラムで用いることができる。
【0103】
本実施の形態は、他の実施の形態および実施例などに記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0104】
上記実施の形態に示したトランジスタ150Dを作製し、ゲート容量CV特性を測定した。半導体層530としてIn-Ga-Zn酸化物を用いた。具体的には、半導体層530cとして、組成がIn:Ga:Zn=1:3:4のスパッタリングターゲットを用いて、厚さ5nmのIn-Ga-Zn酸化物をスパッタリング法で形成した。また、半導体層530bとして、組成がIn:Ga:Zn=4:2:4.1のスパッタリングターゲットを用いて、厚さ15nmのIn-Ga-Zn酸化物をスパッタリング法で形成した。また、半導体層530a1として、組成がIn:Ga:Zn=4:2:4.1のスパッタリングターゲットを用いて、厚さ3nmのIn-Ga-Zn酸化物をスパッタリング法で形成した。また、半導体層530a2として、組成がIn:Ga:Zn=1:3:4のスパッタリングターゲットを用いて、厚さ3nmのIn-Ga-Zn酸化物をスパッタリング法で形成した。
【0105】
ゲート容量CV特性の測定は、トランジスタのソース、ドレイン、バックゲートを0Vに固定し、ゲートに印加する電圧(「ゲート電圧」または「Vg」ともいう。)を-3.3Vから3.3Vに変化させて行った。
【0106】
図9A1に、ゲート容量CV特性の測定結果であるCV曲線401を示す。CV曲線401は実測データ(Measurement data)である。
図9A1の横軸はゲート電圧(Vg)の電圧値を線形軸で示し、縦軸はゲート容量(Cg)の容量値を対数軸で示している。また、
図9A2にCV曲線401をVgで微分した微分曲線401dを示す。
図9A2の横軸はゲート電圧(Vg)の電圧値を線形軸で示し、縦軸はゲート電圧の変化に対するゲート容量の変化率(dCg/dVg)を線形軸で示している。CV曲線401dでは、Vgが-3.3Vから3.3Vの範囲内に3つのピーク(Vt1、Vt2、およびVt3)が確認できる。Vt1は-0.3V、Vt2は0.8V、Vt3は2.0Vであった。
【0107】
続いて、トランジスタモデル100を用いてCV曲線401を近似したCV曲線のシミュレーションを行なった。回路シミュレータとしてSPICEを用いた。本実施例では、トランジスタモデル100に含まれる容量120Sおよび容量120Dとして、容量120bを用いた。
【0108】
図9B1に、トランジスタモデル100を用いて作成したCV曲線402を示す。よって、CV曲線402はシミュレーションデータ(Simulation data)である。
図9A1と同様に、
図9B1の横軸はゲート電圧(Vg)の電圧値を示し、縦軸はゲート容量(Cg)の容量値を示している。また、
図9B2にCV曲線402をVgで微分した微分曲線402dを示す。
図9A2と同様に、
図9B2の横軸はゲート電圧(Vg)の電圧値を示し、縦軸はゲート電圧の変化に対するゲート容量の変化率(dCg/dVg)を示している。
【0109】
CV曲線402dにおいて、Vgが-3.3Vから3.3Vの範囲内に3つのピーク(Vts1、Vts2、およびVts3)が確認できる。Vts1は-0.5V、Vts2は0.7V、Vts3は1.9Vであった。
【0110】
Vts1、Vts2、およびVts3として、それぞれVt1、Vt2、およびVt3と非常に近い値が得られた。
図9A1、
図9A2、
図9B1、および
図9A2より、CV曲線402としてCV曲線401とよく一致したCV曲線が再現できていることがわかる。トランジスタモデル100を用いることにより、実測データであるCV曲線401を良好に再現する近似曲線(CV曲線402)を得ることができた。
【実施例2】
【0111】
インバータを51段接続したリングオシュレータを作製し、当該リングオシュレータの発振特性を測定した。
【0112】
図10Aにインバータ420の等価回路図を示す。インバータ420はトランジスタ421aとトランジスタ421bが直列に接続された構成を有する。トランジスタ421aのソースまたはドレインの一方は出力端子OUTと電気的に接続され、他方は配線425と電気的に接続される。トランジスタ421aのゲートは、トランジスタ421aのソースまたはドレインの他方と電気的に接続される。よって、トランジスタ421aのゲートは、配線425と電気的に接続される。トランジスタ421bのソースまたはドレインの一方は出力端子OUTと電気的に接続され、他方は配線426と電気的に接続される。トランジスタ421bのゲートは、入力端子INと電気的に接続される。配線425にはVDDが供給され、配線426にはVSSが供給される。
【0113】
トランジスタ421aは、実施例1に示したトランジスタ150Dと同じ構造を有するトランジスタを用いた。また、トランジスタ421bのチャネル幅を実質的に大きくするため、トランジスタ421aと同じトランジスタを100個並列に接続してトランジスタ421bとして用いた。
【0114】
図10Bにリングオシュレータ430の等価回路図を示す。前述したように、リングオシュレータ430は、インバータ420を51段接続した構成を有する。リングオシュレータ430の出力は、隣接する2つのインバータ420の接続ノードNDから取り出すことができる。
図10Bに示すリングオシュレータ430は、ノードNDと電気的に接続された端子Rを有し、端子Rにリングオシュレータ430の出力電圧V
OUTが供給される。
【0115】
VDDとして3.3Vを配線425に供給し、VSSとして0Vを配線426に供給して、リングオシュレータ430の発振特性を測定した。
図11Aに、リングオシュレータ430の発振特性451(実測データ)を示す。
図11Aの横軸は時間(time)であり、縦軸は出力電圧V
OUTである。発振特性451の発信周期T1は、163nsであった。
【0116】
次に、トランジスタモデル100を用いてリングオシュレータ430の発振特性のシミュレーションを行なった。実施例1と同様に、回路シミュレータとしてSPICEを用いた。
図11Bに、シミュレーションによって得られたリングオシュレータ430の発振特性452(シミュレーションデータ)を示す。
図11Bの横軸は時間(time)であり、縦軸は出力電圧V
OUTである。発振特性452の発信周期T2は159nsであった。
【0117】
図11Cに、発振特性451と発振特性452を重ねて示す。
図11Cでは発振特性452を1/4周期ずらして発振特性451と重ねている。
図11A、
図11B、および
図11Cより、発振特性451と発振特性452は発信周期が同程度であり、発振特性がよく一致していることがわかる。トランジスタモデル100を用いることにより、実測データである発振特性451を良好に再現する近似特性(発振特性452)を得ることができた。
【符号の説明】
【0118】
100:トランジスタモデル、110:トランジスタ、121:トランジスタ、151:CV曲線、152:CV曲線、200:シミュレーション装置、201:バスライン、210:制御装置、220:演算装置、230:記憶装置、240:補助記憶装置、250:入出力装置、260:通信装置、401:CV曲線、402:CV曲線、420:インバータ、425:配線、426:配線、430:リングオシュレータ、451:発振特性、452:発振特性、120a:容量、120b:容量、120D:容量、120S:容量、121a:トランジスタ、121b:トランジスタ