(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ポリマー溶液中の金属有機構造体のコロイド懸濁液を作製する方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
B01J 13/00 20060101AFI20240401BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240401BHJP
B01D 71/06 20060101ALI20240401BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
B01J13/00 B ZNM
B01D69/00
B01D71/06
B01D69/12
(21)【出願番号】P 2020562173
(86)(22)【出願日】2019-05-17
(86)【国際出願番号】 US2019032766
(87)【国際公開番号】W WO2019222566
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-03-30
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507021506
【氏名又は名称】リサーチ トライアングル インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】イグナシオ ルツ ミンゲス
(72)【発明者】
【氏名】ムスタファ ソクリ
(72)【発明者】
【氏名】マーティ ライル
(72)【発明者】
【氏名】ローラ グーン トイ
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-501862(JP,A)
【文献】国際公開第2018/084264(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/031733(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 13/00
B01D 69/00
C08J 5/00
B01J 20/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属有機構造体懸濁液を作製するための方法であって、
ミクロ細孔を備えるナノ結晶金属有機構造体と、メソ細孔を備えるメソポーラスポリマー材料とを備える、ハイブリッド材料を提供するステップと、ここで、前記ナノ結晶金属有機構造体は均一に分散しており、前記メソポーラスポリマー材料の前記メソ細孔または空隙内にのみ存在し、前記ハイブリッド材料は、前記ハイブリッド材料の総重量に対して5~50%の範囲の重量パーセントの前記金属有機構造体を有し、
前記ハイブリッド材料を前記メソポーラスポリマー材料が溶解する溶媒と接触させることにより、前記ナノ結晶金属有機構造体が均一に分散および懸濁したポリマー溶液を形成するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
第2のポリマー材料の溶液を提供するステップと、
前記金属有機構造体懸濁液を前記第2のポリマー材料の溶液と組み合わせて、第2の金属有機構造体懸濁液を形成するステップと、
を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属有機構造体は、Mg、V、Cr、Mo、Zr、Hf、Mn、Fe、Co、Cu、Ni、Zn、Ru、Al、およびGaからなる群から選択される少なくとも1つの金属を備える、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記金属有機構造体は、MIL-101、MIL-100、MIL-53、MOF-74、UiO-66、UiO-67、ZIF-8、ZIF、HKUST-1、M2(dobpdc)、NU-1000、PCN-222、PCN-224、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ミクロ細孔は、0.5~5.0nmの範囲の平均直径を有する、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ハイブリッド材料は、2~50nmの範囲の平均直径を有するメソ細孔および0.5~5.0nmの範囲の平均直径を有するミクロ細孔を備える、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記メソ細孔、前記ミクロ細孔、またはその両方は、単分散であり、変動係数が10%未満である、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノ結晶金属有機構造体は、200nm未満の平均最長直線寸法を有する、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ハイブリッド材料は、10~1200m
2/gの範囲の表面積を有する、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ハイブリッド材料は、100~500μmの平均最長直線寸法を有する、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記メソポーラスポリマー材料は、Tenax(登録商標)、メソポーラスポリアクリルアミド、またはメソポーラスポリアクリロニトリルを備える、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記溶媒は、有機溶媒を備える、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記有機溶媒は、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、アセトニトリル、THF、DMF、CHCl
3、CH
2Cl
2、トルエン、またはジオキサンを備える、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ハイブリッド材料を前記溶媒と接触させる前に、精製することをさらに備える、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
精製は、
前記ハイブリッド材料を溶媒に溶解するステップと、
得られた溶液を濾過するステップと、
前記濾過された溶液から精製されたハイブリッド材料を沈殿させるステップと、
を含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載)
本発明は、米国エネルギー省によって授与されたDE-FE0026432の下で政府の支援を受けて行われた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
この出願は、2018年5月18日に出願された“METHOD OF MAKING COLLOIDAL SUSPENSIONS OF METAL ORGANIC FRAMEWORKS IN POLYMERIC SOLUTIONS AND USES THEREOF,”と題する米国仮特許出願第62/673,389号に関して優先権を主張し、その出願全体を参照により本明細書に援用する。
【0003】
(技術分野)
本開示は、ポリマー溶液中のナノ結晶金属有機構造体のコロイド懸濁液、およびそれを作製および使用する方法を記載している。ナノ結晶金属有機構造体は、一般に、固体結晶化の方法を使用して形成され、金属有機構造体(MOF)は、溶媒の非存在下でメソポーラスポリマー材料(MPM)の細孔空間内に形成される。
【背景技術】
【0004】
異なる支持体(金属、金属酸化物、炭素、ポリマーなど)と混合された機能種としての金属有機構造体(MOF)に基づくハイブリッド材料は、MOFの有益な機能(高表面積、明確に画定された活性サイト、高度に設計された機能など)を統合するために使用され、単一コンポーネントとしての弱点であり得た特性(取り扱い、機械的/熱的/化学的耐性、導電性など)の影響を軽減しながら、結果として得られるハイブリッド複合材料の均質な相互作用と複雑な階層構造から生じる相乗的な特性(ミクロ/メソ多孔性、多機能性など)をさらに追加する。MOFが連続マトリックスに埋め込まれているハイブリッド材料は、ガスの吸着/分離、薬物送達、プロトン伝導性、センサー、オプトエレクトロニクス、不均一系触媒作用などのさまざまな用途に使用されている。
【0005】
「固相」合成を介してメソポーラス材料(MPM)内にMOFナノ結晶を選択的に閉じ込めるための一般的な方法は、一般に所有されているPCT特許出願公開、国際公開第2018/031733号(WO2018/031733)に記載されている。固相合成法は、MOFゲストの組成、配合、分散、およびメソポーラス材料ホストの組成、細孔径分布、粒子サイズなど、結果として得られるハイブリッド材料の配合とナノアーキテクチャに対して高レベルの設計を提供する。MOF結晶ドメインは、メソポーラス材料の保持空洞によって区切られた寸法に制限される。さらに、国際公開第2018/031733号(WO2018/031733)は、「最先端技術」と比較して、ハイブリッドMOF/MPM材料の燃焼後煙道ガスのための流動ハイブリッド吸着剤としてのCO2回収能力を記載している。国際公開第2018/031733号(WO2018/031733)は、MOFナノ結晶がメソポーラス支持材料に埋め込まれている固体ハイブリッド材料の使用を記載している。ハイブリッド材料の一部の用途では、材料を液体状態にして最終製品に加工する必要がある。このタイプの用途の例には、膜、コーティング、フィルム、テキスタイル、食品包装、気液クロマトグラフィ、個人保護、3D印刷用インク、エレクトロニクス、フォトルミネセンス、および薬物送達が含まれる。好都合なことに、液体形態のハイブリッド材料は、工業規模で従来の技術(例えば、ポリマー技術)に直接適用することができる。
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、懸濁液は、ポリマー溶液中に懸濁したナノ結晶金属有機構造体を備える。ナノ結晶金属有機構造体は、0.5~5nmの範囲の平均直径を有するミクロ細孔を備える。ナノ結晶金属有機構造体は、非水性溶媒に溶解された第1のポリマー材料を備えるポリマー溶液中に実質的に均一に分散されている。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、金属有機構造体懸濁液を作製する方法は、ミクロ細孔を備えるナノ結晶金属有機構造体と、メソ細孔を備えるメソポーラスポリマー材料と、を備えるハイブリッド材料を提供するステップを含み、ここで、ナノ結晶金属有機構造体は均一に分散しており、メソポーラスポリマー材料のメソ細孔または空隙内にのみ実質的に存在し、ここで、ハイブリッド材料は、ハイブリッド材料の総重量に対して5~50%の範囲の金属有機構造体の重量パーセントを有し、ハイブリッド材料をメソポーラスポリマー材料が可溶性である溶媒と接触させるステップを含み、それによりナノ結晶金属有機構造体が実質的に均一に分散および懸濁したポリマー溶液を形成する。
【0008】
本発明の第3の態様によれば、高分子膜は、ミクロ細孔を備えるナノ結晶金属有機構造体を備える。ミクロ細孔の平均直径は0.5~5nmの範囲である。膜は、第1のポリマー材料および第2のポリマー材料を備えるポリマーマトリックスをさらに備える。ナノ結晶金属有機構造体は、マトリックス全体に実質的に均一に分散している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態によるハイブリッド複合材料固体ペレットの固相合成およびその後のその懸濁液の概略図である。
【
図2a】さまざまな形態のハイブリッド複合材料の写真と電子顕微鏡画像である。(2a)は合成されたままの固体ペレット(SEM)に関する。
【
図2b】さまざまな形態のハイブリッド複合材料の写真と電子顕微鏡画像である。(2b)は精製された固体ペレット(SEM)に関する。
【
図2c】さまざまな形態のハイブリッド複合材料の写真と電子顕微鏡画像である。(2c)は懸濁液体(Co)MOF-74(TEM)に関する。
【
図3a】バルク(Co)MOF-74およびむきだしのTENAX(R)と比較した、精製前後の実施例1の固体ペレットのN
2等温線(挿入図:X軸での細孔径(nm)および細孔容積(cm
3/g nm))である。
【
図3b】バルク(Co)MOF-74およびむきだしのTENAXと比較した、精製前後の実施例1の固体ペレットのX線回折結果(XRD)である。
【
図3c】バルク(Co)MOF-74およびむきだしのTENAXと比較した、精製前後の実施例1の固体ペレットのフーリエ変換赤外分光法(FTIR)分析である。
【
図3d】実施例1のバルク(Co)MOF-74と比較した、23°Cでの精製固体ペレットのCO
2およびN
2等温線である。
【
図4】例2で説明されるような、蛇皮様混合マトリックス膜に投じられるハイブリッド複合材料懸濁液とMATRIMID(R)溶液の略図である。
【
図5】蛇皮様混合マトリックス膜に投じられるハイブリッド複合材料懸濁液およびMATRIMID(R)溶液の例2の混合マトリックス膜微細構造に対するMOF配合の影響を示す走査型電子顕微鏡(SEM)分析概略図である。
【
図6】
図5の蛇皮様混合マトリックス膜の走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光法(SEM/EDS)分析である。
【
図7】
図7aは、(Co)MOF/TENAXを含むフィルムと(Co)MOF/TENAXを含まないフィルムとの比較を示す写真である。
図7bは、MOFナノ結晶を示す(Co)MOF-74/TENAXフィルムの顕微鏡倍率を示す画像である。
図7cは、MOFナノ結晶を示す(Co)MOF-74/TENAXフィルムの顕微鏡倍率を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に記載されているのは、ポリマー溶液中に懸濁した金属有機構造体(MOF)を備える懸濁液を作製するための方法である。金属有機構造体懸濁液はまた、本開示において、コロイド懸濁液、コロイドインク、またはインクと呼ばれ得る。本明細書で使用される場合、これらの用語は交換可能である。一実施形態では、懸濁液は、ポリマー溶液中に懸濁したナノ結晶金属有機構造体を備え、ナノ結晶金属有機構造体は、0.5~5.0nmの範囲の平均直径を有するミクロ細孔を備える。懸濁液中で、ナノ結晶金属有機構造体は、非水性溶媒に溶解された第1のポリマー材料を備えるポリマー溶液中に実質的に均一に分散されている。
【0011】
ポリマー溶液中に懸濁した金属有機構造体は、固相合成法を使用して形成され、この方法は、以下でより完全に説明される。固相合成法は、金属有機構造体ナノ結晶とメソポーラス材料(メソポーラスポリマーなど)との統合を改善するための、比較的安価で大規模で環境に優しい効率的な方法を提供する。固相合成法は、機械的に安定な、技術的に優れた、多機能のハイブリッド材料を提供する。
【0012】
固相合成法は、ミクロ細孔を備えるナノ結晶金属有機構造体とメソ細孔を備えるメソポーラスポリマー材料とを備えるハイブリッド複合材料を生成する。ナノ結晶金属有機構造体は、ハイブリッド複合材料全体に均一に分散しており、メソポーラスポリマー材料のメソ細孔または空隙内にのみ実質的に存在する。好ましい実施形態では、ハイブリッド材料は、ハイブリッド複合材料の総重量に対して5~50%の範囲の金属有機構造体の重量パーセントを有する。
【0013】
金属有機構造体の懸濁液を形成するために、ハイブリッド複合材料は、メソポーラスポリマー材料が可溶性である溶媒と接触する。ポリマー材料は溶媒に溶解され、こうしてナノ結晶金属有機構造体が実質的に均一に分散および懸濁したポリマー溶液を形成し、それによって金属有機構造体懸濁液を形成する。好ましい実施形態では、非水性液体は、ポリマー材料が可溶性であるが金属有機構造体は非溶性の有機溶媒である。こうして、ポリマー材料は溶解し、懸濁したMOFの連続相として機能するポリマー溶液を形成する。有機溶媒は、ハイブリッド複合材料のポリマー材料を溶解可能であるべきであるため、有機溶媒は、ハイブリッド複合材料を形成するために使用されるポリマー材料に応じて変化する。有利には、市販の有機溶媒を通常使用して、金属有機構造体懸濁液を形成することが可能である。例示的な有機溶媒には、テトラヒドロフラン、メタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトン、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール、塩化メチレン(CH2Cl2)、トルエン、ジオキサンなどが含まれるが、これらに限定されない。有機溶媒は、10~300mg/mLの範囲の濃度、好ましくは25~275mg/mL、より好ましくは50~250mg/mL、最も好ましくは100~200mg/mL、または最大300mg/mL、好ましくは最大200mg/mL、より好ましくは最大175mg/mL、最も好ましくは最大150mg/mLを有し得る。好ましい実施形態では、接触は、最大80°C、好ましくは10~80°C、好ましくは15~60°C、好ましくは20~40°C、好ましくは22~30°C、またはほぼ室温の温度で行われ、最大48時間、好ましくは0.5~36時間、好ましくは1~24時間、好ましくは2~12時間、好ましくは2.5~8時間、好ましくは3~6時間の接触時間を有する。一実施形態では、金属有機構造体懸濁液を、メソポーラスポリマー材料とは異なる第2のポリマー材料を備える第2のポリマー溶液と接触させて、2つの別個のポリマー材料が存在する第2の金属有機構造体懸濁液を形成することができる。当業者は、金属有機構造体の最終仕様用途に適切かつ適正であるものとして、追加のポリマー材料を金属有機構造体に追加し得ることを理解されたい。例示的な適切なポリマー材料には、ポリエーテルブロックアミド(例えば、アルケマ社が販売するPEBAX(R))、PPEE、スルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)(SPEEK)、6-FDAおよびコポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、固有ミクロ細孔性ポリマー(PIM)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエーテルイミド(たとえば、サウジ基礎産業公社製のUltem)、ポリ(フェロセン-ジメチルシラン)(PFS)、ポリ(フェニレンオキシド)(PPO)、ポリカプロラクトン(PCL)、またはポリビニルブチラール(PVB)が含まれる。
【0014】
あるいは、金属有機構造体懸濁液を、メソポーラスポリマー材料が溶解された溶媒に可溶である第2のポリマー材料(溶液形態ではない)と接触させることができる。金属有機構造体は、1つの溶解ポリマー材料を備える連続相に実質的に均一に分散および懸濁するのと同じ方法で、2つ(またはそれ以上)の溶解ポリマー材料を含有する連続相に実質的に均一に分散および懸濁する。
【0015】
上記のように、「固相」合成法を使用して、ハイブリッド複合材料、したがって金属有機構造体を製造する。固相合成法では、性質(シリカ、アルミナ、ゼオライト、炭素、ポリマーなど)、細孔構造(サイズ、細孔分布など)または表面機能(酸性、塩基性など)に関係なく、一連の市販のメソポーラス材料(MPM)を使用してさまざまなMOF構造を均一に成長させることが可能である。ポリマーメソポーラス材料が主に本明細書に記載されているが、他のメソポーラス材料を使用され得ることを理解されたい。結晶化中に溶媒が存在しないと、結晶成長、サイズ、および移動度は、メソポーラス材料の空隙(細孔内)のみに制限される。固相結晶化法は、機械的に安定した、明確に画定され高度に設計された、多機能のハイブリッド複合材料を提供し得る。
【0016】
固相合成法は、MOF前駆体(酸型の代わりに金属塩と配位子塩)を含有する飽和水溶液の「多段階」含浸によって達成される、MPM内のMOFナノ結晶の高均一な配合を提供する。配位子塩溶液の最初の含浸とMPMキャビティ内の金属塩溶液との間の酸性化ステップを実行して、溶液中の金属塩の添加時の速い重合速度による非多孔性配位ポリマーの形成を防止する。
【0017】
固相合成法は、(i)配合の有機配位子塩の水溶液をメソポーラス材料(MPM)と接触させて、含浸メソポーラス塩材料を形成するステップと、(ii)含浸メソポーラス塩材料を酸性水溶液で処理して、含浸メソポーラス酸材料を形成するステップと、(iii)金属前駆体の水溶液を含浸メソポーラス酸材料と接触させて、含浸メソポーラス金属有機構造体前駆体を形成するステップと、(iv)溶媒の非存在下で含浸メソポーラス金属有機構造体前駆体を加熱するか、または含浸メソポーラス金属有機構造体前駆体を溶媒の非存在下で揮発性蒸気に曝露して、ハイブリッド材料を形成するステップと、を含み得、ここでハイブリッド材料はメソポーラス材料内に埋め込まれたナノ結晶金属有機構造体(MOF)を備える。
【0018】
最初のステップでは、有機配位子塩の水溶液を、含浸メソポーラス塩材料を形成するために、10~300mg/mL、好ましくは25~275mg/mL、より好ましくは50~250mg/mLの範囲の濃度で存在するメソポーラス材料(MPM)と接触させることができる。例示的な塩には、アミンなどの、塩基性基の無機または有機酸塩、およびカルボン酸などの、アルカリまたは酸性基の有機塩が含まれるが、これらに限定されない。塩は、例えば、非毒性の無機または有機酸から形成された、従来の非毒性の塩または親化合物の第四級アンモニウム塩を含み得るが、これらに限定されない。カルボン酸含有配位子の塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、追加のアルカリ金属などの陽イオンを含有し得る。塩はまた、例えば、非毒性の無機または有機酸から形成された、従来の非毒性の塩または親化合物の第四級アンモニウム塩を含み得るが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、塩はアルカリ金属塩、最も好ましくはナトリウム塩である。好ましい実施形態では、接触は、最大80°Cの温度で、より好ましくはほぼ室温で行われ、最大48時間の接触時間を有する。いくつかの実施形態において、配位子(すなわち、酸形態;2,6-ジヒドロキシテレフタル酸)は、水または有機溶媒に溶解および含浸され得る。例示的な有機溶媒には、これらに限定されないが、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトンなどが含まれる。
【0019】
第2のステップにおいて、10~300mg/mL、好ましくは25~275mg/mL、より好ましくは50~250mg/mLの範囲の濃度で存在する含浸メソポーラス塩材料を、濃度0.05~10.0Mの酸性水溶液で処理して、含浸メソポーラス酸材料を形成することができる。HCl、H2SO4、およびHNO3を含むがこれらに限定されない強酸が好ましいが、有機酸および弱酸(すなわち、酢酸)も処理に使用することができる。好ましい実施形態では、処理は、最大80°Cの温度またはほぼ室温で実施され、最大48時間の処理時間を有する。
【0020】
第3のステップにおいて、10~300mg/mL、好ましくは25~275mg/mL、より好ましくは50~250mg/mLの範囲の濃度で存在する含浸メソポーラス酸材料を、含浸メソポーラス金属有機構造体前駆体を形成するための金属前駆体の水溶液と接触させることができる。好ましい実施形態では、接触は、最大80°Cの温度またはほぼ室温で行われ、最大48時間の接触時間を有する。
【0021】
最終ステップでは、10~300mg/mL、好ましくは25~275mg/mL、より好ましくは50~250mg/mLの範囲の濃度で存在する、含浸メソポーラス金属有機構造体前駆体が、溶媒の非存在下で加熱されまたは揮発性蒸気(すなわち、メチルアミンなどのアミンまたはスチームなどの制御された水分)にさらされ、ハイブリッド複合材料、または以後MOF/MPMと呼ばれるものを形成する。このステップでは、金属イオンは1つ以上の有機配位子、好ましくは多座有機配位子と配位結合を形成して、メソポーラス材料の細孔空間にナノ結晶金属有機構造体を形成する。好ましい実施形態では、加熱は、最大300°C、好ましくは40~250°C、好ましくは60~220°C、好ましくは100~200°C、好ましくは120~190°Cの温度で行われ、最大60時間、好ましくは12~48時間、好ましくは24~36時間の加熱時間を有する。好ましい実施形態では、蒸気への暴露は、最大80°C、好ましくは10~80°C、好ましくは15~60°C、好ましくは20~40°C、好ましくは22~30°Cの温度、またはほぼ室温で行われ、最大48時間、好ましくは6~36時間、好ましくは12~24時間の加熱時間を有する。特定の実施形態において、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミドなどを含むがこれらに限定されない特定の添加剤の触媒量を使用して、ハイブリッド材料内の結晶形成を促進し得る。
【0022】
特定の実施形態では、ナノ結晶金属有機構造体は、メソポーラス材料のメソ細孔または空隙内にのみ実質的に存在し、メソポーラス材料のメソ細孔または空隙内に実質的に均一に分散している。本明細書で使用される場合、「配置される(disposed on)」、「埋め込まれる(embedded)」または「含浸される(impregnated)」は、全体にわたって完全にまたは部分的に満たされ、飽和され、浸透され、および/または注入されることを表す。ナノ結晶MOFは、メソポーラス材料の細孔空間内に実質的に固定され得る。ナノ結晶MOFは、物理吸着または化学吸着およびそれらの混合など、任意の合理的な方法でメソポーラス材料に貼り付けられ得る。一実施形態では、メソポーラス材料の細孔空間の10%超が、ナノ結晶MOFによって埋め込まれ、好ましくは15%超、好ましくは20%超、好ましくは25%超、好ましくは30%超、好ましくは35%超、好ましくは40%超、好ましくは45%超、好ましくは50%超、好ましくは55%超、好ましくは60%超、好ましくは65%超、好ましくは70%超、好ましくは75%超、好ましくは80%超、好ましくは85%超、好ましくは90%超、好ましくは95%超、好ましくは96%超、好ましくは97%超、好ましくは98%超、好ましくは99%超が埋め込まれている。特定の実施形態では、ナノ結晶金属有機構造体は、実質的にメソポーラス材料のメソ細孔または空隙内にのみ存在し、メソポーラス材料のメソ細孔または空隙内に均一に分散し、好ましくはナノ結晶MOFの60%超がメソポーラス材料の表面ではなく細孔空間に位置し、好ましくは70%超、好ましくは75%超、好ましくは80%超、好ましくは85%超、好ましくは90%超、好ましくは95%超、好ましくは96%超、好ましくは97%超、好ましくは98%超、好ましくは99%超である。本明細書で使用される場合、均一分散は、類似または同じ方法での分散を指し、均一な構造および組成を指し得る。好ましい実施形態では、ハイブリッド材料は、MOF凝集体またはアモルファスMOF相を実質的に含まず、メソポーラス材料の細孔空間全体に均一に分散されたナノ結晶相としてMOF粒子を実質的に備える。
【0023】
固相合成法は、含浸メソポーラス塩材料、含浸メソポーラス酸材料、含浸メソポーラス金属有機構造体前駆体、およびハイブリッド材料からなる群から選択される少なくとも1つを、真空下において、25~160°Cの範囲、好ましくは85~150°C、好ましくは90~140°C、好ましくは100~130°C、または120°Cの温度で、最大24時間、好ましくは0.5~18時間、好ましくは1~12時間、好ましくは1.5~6時間、または約2時間の乾燥時間で、乾燥させることをさらに含み得る。
【0024】
この方法は、メタノールまたは他の極性プロトン性溶媒をリサイクルするソックスレーシステムで、ハイブリッド材料を蒸留水または他の極性プロトン性溶媒で洗浄し、ハイブリッド材料から水を抽出することをさらに含み得る。
【0025】
さらに、この方法は、精製工程をさらに含み得る。精製ステップは、ハイブリッド複合材料に存在する望ましくない不純物または不溶性種を除去するか、または望ましいサイズまたは形状の範囲外にある金属有機構造体を除去し得る。精製ステップは、不純物を実質的に含まず、実質的に均一なサイズの金属有機構造体を有するハイブリッド複合材料を調製するのを助け得る。このようなハイブリッド複合材料は、高品質であり産業用途で望ましいと考えられている。さらに、高品質のハイブリッド複合材料は高品質の懸濁液をもたらし、これは産業用途でも望ましい。たとえば、工業用途の混合マトリックス高分子膜では、使用中に膜に沿ってピンホールが形成されるのを防ぐために、高品質のコロイドインクを使用する必要がある。
【0026】
精製工程において、ハイブリッド複合材料は、1つ以上の溶媒を備える溶媒中に溶解され、濾過され、続いて、沈殿剤または複数の沈殿剤の組み合わせを使用して沈殿され得る。ハイブリッド複合材料は、それが可溶性である任意の溶媒または複数の溶媒の組み合わせで溶解され得る。例示的な溶媒には、テトラヒドロフラン、メタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトンなどが含まれるが、これらに限定されない。溶媒は、10~300mg/mL、好ましくは25~275mg/mL、より好ましくは50~250mg/mL、最も好ましくは100~200mg/mL、または最大300mg/mL、好ましくは最大200mg/mL、より好ましくは最大175mg/mL、最も好ましくは最大150mg/mLの範囲の濃度を有し得る。溶解は、最大80°C、好ましくは10~80°C、好ましくは15~60°C、好ましくは20~40°C、好ましくは22~30°Cの温度、またはほぼ室温で行われ得、最大48時間、好ましくは0.5~36時間、好ましくは1~24時間、好ましくは2~12時間、好ましくは2.5~8時間、好ましくは3~6時間の接触時間を有する。
【0027】
次に、得られた溶液を濾過することができる。一般的なフィルタリング手法が適している。例えば、溶液は市販の濾紙を使用して濾過することができる。濾過された溶液は、精製されたハイブリッド複合材料を沈殿させるために沈殿剤と接触させることができる。例えば、濾過された溶液は、ハイブリッド複合材料を沈殿させるために、ハイブリッド複合材料が溶解された溶媒とは異なる有機液体と接触させることができる。当業者が理解するように、沈殿剤は、ハイブリッド複合材料の組成に基づいて変化するであろう。ハイブリッド複合材料は、沈殿を達成する適切な液体または液体の組み合わせを使用して沈殿させ得る。例示的な沈殿剤には、テトラヒドロフラン、メタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アセトンなどが含まれるが、これらに限定されない。沈殿剤は、10~300mg/mL、好ましくは25~275mg/mL、より好ましくは50~250mg/mL、最も好ましくは100~200mg/mL、または最大300mg/mL、好ましくは最大200mg/mL、より好ましくは最大175mg/mL、最も好ましくは最大150mg/mLの範囲の濃度を有し得る。沈殿は、最大80°C、好ましくは10~80°C、好ましくは15~60°C、好ましくは20~40°C、好ましくは22~30°Cの温度、またはほぼ室温で行われ得、最大48時間、好ましくは0.5~36時間、好ましくは1~24時間、好ましくは2~12時間、好ましくは2.5~8時間、好ましくは3~6時間の接触時間を有する。得られた固体ハイブリッド複合材料は、任意の適切な濾過技術を使用して濾過され得る。例えば、固体ハイブリッド複合材料は、濾過漏斗を使用して濾過され得る。
【0028】
ハイブリッド複合材料で使用されるメソポーラス材料は、メソポーラス金属酸化物(酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウムなど)、メソポーラスシリカ、メソポーラス炭素、メソポーラスポリマー、メソポーラスシリコアルミナ(ゼオライト)、メソポーラス有機シリカ、およびメソポーラスアルミノリン酸などからなる群から選択される少なくとも1つであり得る。より好ましい実施形態では、メソポーラス材料はメソポーラスポリマーである。例示的な適切なメソポーラスポリマーは、Tenax(R)、メソポーラスポリアクリルアミド、およびメソポーラスポリアクリロニトリルを含む。追加の例示的なメソポーラスポリマーは、参照により本明細書に援用される出版物“Design and Preparation of Porous Polymers”, Wu, et al., Chem. Rev., 2012, 112 (7), pp 3959-4015に記載のポリマーを含む。
【0029】
前述のいずれかにかかわらず、メソポーラスポリマー材料は、本明細書に記載のメソ細孔および/またはマクロポアを有し、溶液を吸収することができる任意の適切なポリマー材料であり得る。本明細書で使用される場合、メソポーラス材料は、2~50nmの直径を有する細孔を含有する材料を指し得る。好ましい実施形態では、メソポーラス材料は、10%超、好ましくは20%超、好ましくは25%超、好ましくは30%超、好ましくは35%超、好ましくは40%超の多孔率を有する。メソポーラス材料はまた、直径が50~500nmの間のより大きな細孔(すなわち、マクロ細孔)をも含有し得る。
【0030】
有機配位子塩の有機配位子は、ポリカルボン酸配位子、アザヘテロ環配位子、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つであり得る。本明細書で使用される場合、「配位子」は、1つの遷移金属または複数の遷移金属にそれぞれ結合する、単座または多座の化合物を指す。一般に、連結部分は、1~20個の炭素原子を備えるアルキルまたはシクロアルキル基、1~5個のフェニル環を備えるアリール基、1~20個の炭素原子を有するアルキルまたはシクロアルキル基を備えるアルキルまたはアリールアミン、または1~5個のフェニル環を備えるアリール基、に共有結合した下部構造を備え、連結クラスター(例えば、多座官能基)は下部構造に共有結合している。シクロアルキルまたはアリール下部構造は、環を構成するすべての炭素、または炭素と窒素、酸素、硫黄、ホウ素、リン、ケイ素および/またはアルミニウム原子との混合物のいずれかを含む1~5個の環を備え得る。通常、連結部分は、共有結合した1つ以上のカルボン酸連結クラスターを有する部分構造を備える。
【0031】
有機配位子塩の有機配位子は、テレフタレート、ベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレート、2,5-ジオキシベンゼンジカルボキシレート、ビフェニル-4,4´-ジカルボキシレートおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つであり得る。別の好ましい実施形態において、有機配位子塩の有機配位子は、イミダゾリド、ピリミジン-アゾレート、トリアゾレート、テトラゾレートおよびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つである。追加の適切な例示的な配位子には、二座カルボン酸塩(すなわち、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸)、三座カルボン酸塩(すなわち、クエン酸、トリメシン酸)、アゾール(すなわち、1,2,3-トリアゾール、ピロジアゾール)、スクアリン酸およびそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0032】
金属前駆体の金属は、Mg、V、Cr、Mo、Zr、Hf、Mn、Fe、Co、Cu、Ni、Zn、Ru、Al、およびGaからなる群から選択される少なくとも1つの遷移金属であり得る。本明細書で使用される場合、「金属イオン」は、元素の周期表の第Ia族、第IIa族、第IIIa族、第IVa族から第VIIIa族、および第IB族から第VIb族の元素からなる群から選択される。特定の他の実施形態では、金属前駆体は、金属酸化物のクラスターを備え得る。金属前駆体の金属は、得られる金属有機構造体が使用される最終使用用途に基づいて選択的に選択され得る。
【0033】
好ましい実施形態では、金属有機構造体は、MIL-101、MIL?100、MIL-53、MOF-74、UiO-66、UiO-67、ZIF-8、ZIF、HKUST-1、M2(dobpdc)、NU-1000、PCN-222、PCN-224、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つである。本明細書で使用される場合、金属有機構造体は、一次元、二次元、または三次元構造を形成するために有機配位子に配位された、多孔性の特別な特徴を有する金属イオンまたはクラスターからなる化合物を指し得る。より正式には、金属有機構造体は、潜在的空孔を含む有機配位子との配位ネットワークである。好ましい実施形態では、ナノ結晶MOFは、10%超、好ましくは20%超、好ましくは25%超、好ましくは30%超、好ましくは35%超、好ましくは40%超の多孔率を有する。
【0034】
MOFは、金属イオンまたは金属イオンのクラスターと、しばしばリンカーと呼ばれる有機分子との、2つの主要な要素で構成されている。この有機単位は、通常、一価、二価、三価、または四価の配位子である。金属およびリンカーの選択により、MOFの構造と特性が決まる。たとえば、好ましい金属の配位は、金属に結合し得る配位子の数と方向とを決定することにより、細孔のサイズと形状に影響を与える。
【0035】
好ましい実施形態では、ハイブリッド材料は、ハイブリッド材料の総重量に対して5~50%の範囲、好ましくは15~45%、好ましくは25~40%、好ましくは30~35%、または少なくとも20%、好ましくは少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも35%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも45%の重量パーセントの金属有機構造体を有する。
【0036】
好ましい実施形態では、ハイブリッド材料は、2~50nm、好ましくは4~45nm、好ましくは6~40nmの範囲の平均直径を有するメソ細孔と、0.5~5.0nm、好ましくは1.0~4.5nm、好ましくは2.0~4.0nmの範囲の平均直径を有するミクロ細孔とを備える。好ましい実施形態では、メソ細孔、ミクロ細孔、またはその両方は、変動係数が10%未満、好ましくは8%未満、好ましくは6%未満、好ましくは5%未満、好ましくは4%未満、好ましくは3%未満の単分散である。好ましい実施形態では、ハイブリッド材料は、10%超、好ましくは20%超、好ましくは25%超、好ましくは30%超、好ましくは35%超、好ましくは40%超の多孔率を有する。好ましい実施形態では、ハイブリッド材料は、むきだしのメソポーラス材料と比較して減少したメソ多孔性を有し、むきだしのメソポーラス材料と比較して大きなミクロ多孔性を有する。
【0037】
好ましい実施形態では、ナノ結晶金属有機構造体は、200nm未満、好ましくは100nm未満、好ましくは70nm未満、好ましくは40nm未満の平均最長直線寸法を有する。ナノ結晶金属有機構造体は、5~100 nmの範囲、より好ましくは5~50nmの範囲の平均直径を有し得る。
【0038】
好ましい実施形態では、ハイブリッド材料は、10~1200m2/gまたは少なくとも400m2/gの範囲の表面積を有する。好ましい実施形態では、ハイブリッド材料は、含浸メソポーラス塩材料の表面積の105~500%の範囲の表面積を有し、好ましくは、含浸メソポーラス塩材料の表面積の150~450%、好ましくは175~400%、好ましくは200~350%、好ましくは、225~350%を有する。好ましい実施形態では、ハイブリッド材料は、むきだしのメソポーラス材料の表面積の125~500%、好ましくはむきだしのメソポーラス材料の表面積の150~450%、好ましくは175~400%、好ましくは200~350%、好ましくは225-350%の範囲の表面積を有する。好ましい実施形態では、ハイブリッド材料は、100~500μmの平均最長直線寸法を有する。
【0039】
ハイブリッド材料は、メソ細孔を備えるメソポーラス材料と、ミクロ細孔を備えるナノ結晶金属有機構造体とを備え得、ナノ結晶金属有機構造体は、均一に分散され、メソポーラス材料のメソ細孔または空隙内に実質的に存在し、ここでハイブリッド材料は、ハイブリッド材料の総重量に対して5~50%の範囲の重量パーセントの金属有機構造体を有する。
【0040】
ハイブリッド材料は、ガス吸着剤の調製に使用し得る。ハイブリッド材料を備えるガス吸着剤は、ガス吸着剤を少なくとも1つのガスと接触させることを含む、少なくとも1つのガスを吸着、分離、貯蔵、または隔離する方法において使用され得、ここで、少なくとも1つのガスは、水素(H2)、硫化水素(H2S)、二酸化硫黄(SO2)、メタン(CH4)、酸素(O2)、キセノン(Xe)、クリプトン(Kr)、二酸化炭素(CO2)からなる群から選択される。ガス吸着剤は、混合マトリックス膜、例えば、ポリマー混合マトリックス膜の形態であり得る。金属有機構造体の懸濁液は、市販の高分子膜へのポリマー添加剤として使用して、市販の膜の性能を改善するのに特に適している。例えば、以下の実施例に示されるように、本明細書に記載の金属有機構造体の懸濁液を混合マトリックス膜に添加して、混合マトリックス膜の透過率および選択性を改善することができる。
【0041】
一実施形態では、ガス吸着剤は、ナノ結晶金属有機構造体を備える高分子膜および第1のポリマー材料と第2のポリマー材料とを備えるポリマーマトリックスであり得、ナノ結晶金属有機構造体は、マトリックス全体に実質的に均一に分散している。金属有機構造体は、0.5~5.0nmの範囲の平均直径を有するミクロ細孔を備える。高分子膜は、最大30重量%のナノ結晶金属有機構造体、または1~30重量%のナノ結晶金属有機構造体の濃度範囲、好ましくは3~8重量%の範囲のナノ結晶金属有機構造体を備え得る。
【0042】
高分子膜はさまざまな厚さを有する。適切な厚さは、最終用途の用途に基づいて決定される。一部の用途では、従来の方法で製造された金属有機構造体では達成が困難であった比較的薄い厚さ寸法(たとえば、10~200ミクロン)が求められる。しかしながら、現在記載されている方法は、金属有機構造体の非常に小さい寸法(例えば、5nm~25nm)を達成することができ、したがって、金属有機構造体を含有する非常に薄い高分子膜の製造を有利に可能にする。本発明の一実施形態による高分子膜は、10~200ミクロンの厚さ、より好ましくは10~60ミクロンの厚さを有し得るか、または100ミクロンの最大厚さを有し得る。
【0043】
ハイブリッド材料は、液体/ガスクロマトグラフィの方法で使用され得る。例示的なタイプのクロマトグラフィ法には、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、キラルクロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィなどが含まれるが、これらに限定されない。ハイブリッド材料は、有害なガスおよび蒸気の検知、捕捉、および触媒分解の用途に使用され得る。
【実施例】
【0044】
(実施例)
【0045】
(実施例1)
【0046】
以下は、得られたハイブリッド複合材料の精製と懸濁とを含む、固相合成法を示す例である。
【0047】
金属有機構造体として(Co)MOF-74、メソポーラスポリマー材料としてTENAX(R)を備えるハイブリッド複合材料を、メソポーラスポリマーTENAX(R)(80-100メッシュおよび0.5μm固体ペレット)上で事前に120°Cで一晩排気した、Co前駆体(Co(NO3)2)および有機配位子(2,5-ジヒドロキシテレフタル酸)を含有するテトラヒドロフラン(THF)とメタノール(MeOH)との等量溶液に含浸させることによって調製した。TENAXはBUCHEMBVから市販されている。TENAX(R)ポリマーはクロロホルム(CHCl3)やTHFなどの特定の有機溶媒に非常に溶けやすいが、MeOHには完全に溶けないため、THF-MeOHの溶媒混合物を含浸に使用した。得られた含浸固体をロータリーエバポレーター内で40°Cで排気し、管状反応器にロードし、そこでトリエチルアミン蒸気を含むN2ストリームに流動化ハイブリッド複合材料前駆体を曝露して、高速MOF結晶化(例えば、数分)を促進した。得られたワイン色の固体を、ソックスレー抽出器でMeOHと共に一晩洗浄した。
【0048】
得られたハイブリッド複合材料ペレットは、クロロホルムへの溶解、濾過、およびその後のMeOHの添加による沈殿によって精製され、TENAX(R)ペレットに由来する少量の不溶性種と、固相合成中にTENAX(R)の外面に形成された付随するより大きなMOF粒子のごく一部が除去された。
図1から6は、得られた(Co)MOF-74/TENAX固体ペレットの特性情報を示す。
【0049】
図1は、ハイブリッド複合材料の固体ペレットとそれに続く懸濁液の固相合成の概略図である。
図2a、2b、および2cは、さまざまな形式のハイブリッド複合材料の写真と電子顕微鏡画像である。(2a)合成されたままの固体ペレット(SEM)、(2b)精製された固体ペレット(SEM)、および(2c)懸濁液体(Co)MOF-74(TEM)である。
【0050】
図2aに示すように、合成されたままの固体ペレットは、精製前は、非規則的なメソポーラスTENAX(R)ペレットの多孔質表面内に分散した典型的な棒状(Co)MOF-74ナノ結晶(平均サイズ65x200nm)である。精製すると、固体ハイブリッド複合材料は、MOFナノ結晶を埋め込んだ単分散TENAX(R)球体を備える(
図2b)。球形粒子サイズは、精製ステップで使用されるMeOH:CHCl
3比を制御することによって調整され得る。
【0051】
精製されたハイブリッド複合材料ペレットを、CHCl
3(最大150mg/mL)に溶解することにより、コロイドインクに変換した。Cuグリッド上に堆積したコロイドインクの透過型電子顕微鏡(TEM)分析により、合成されたままのハイブリッド複合材料ペレットに見られるような棒状のMOFナノ結晶、および事前にメソポーラスTENAX(R)ペレットの内部に存在する小さな空洞内に閉じ込められていたより小さなMOFナノ結晶を視覚化することが可能である(
図2a)。ハイブリッド複合材料のエネルギー分散型X線分光法(EDS)分析により、ペレットに沿って単分散したCoの存在が立証された。
【0052】
図3は、例示的なハイブリッド複合材料の特性情報を示している。図は、3(b)XRD、3(c)FTIR分析、および3(a)バルク(Co)MOF-74およびむきだしのTENAX(R)と比較した精製前後のペレットのN
2吸着等温線(挿入図:X軸での細孔径(nm)および細孔容積(cm
3/g.nm))である。Figure 3(d) are CO
2 and N
2 adsorption isotherms for purified pellets at 23 °C compared to bulk (Co)MOF-74.
図3(d)は、バルク(Co)MOF-74と比較した23°Cでの精製ペレットのCO
2およびN
2吸着等温線である。
【0053】
図3に示すように、(Co)MOF-74/TENAX(R)のXRDおよびFTIR分析により、精製前後のTENAXマトリックス内にMOFが存在することが立証される。メソポーラスTENAX(R)ペレットに対応する回折ピークは精製時に消失し、これによりTENAX(R)の元の結晶化度が失われるため、MOF-74結晶相に起因する回折ピークがより明確に示される(
図3b)。FTIR分析は、TENAX(R)またはMOFのいずれかに起因する重複信号を示している。N
2吸着等温線は、MOFに起因するミクロ多孔性とTENAX(R)ペレットに対応するメソ多孔性との両方の併存を明らかにしながら、合成されたままのハイブリッドペレットのハイブリッド性を明らかにする。TENAX(R)の多孔質構造は精製時に完全に失われるが、MOFナノ結晶のミクロ多孔性は損なわれない。
【0054】
特定の表面積の減少は、上記のように、精製によって付随する、より大きなMOF粒子の除去に起因する。MOF一次元チャネルの部分的な閉塞は、顕著なミクロ細孔容積の見かけ上の喪失によって示唆される。それにもかかわらず、23°Cで実行されたCO
2等温線分析は、Coオープンメタルサイトの接触しやすさを裏付け、これは、蛍光X線(XRF)によって測定された14wt%のCo含有量によると、バルク(Co)MOF-74(0.8mol CO
2/mol of Co)で測定されたものと同じとなった。これにより、ポリマーとMOFとの密接な接触が保証され、ハイブリッド複合材料の懸濁液を混合マトリックス膜に統合してCO
2を分離する際に、CO
2とN
2の選択的吸着を強化できる(
図3d)。
【0055】
有利なことに、ハイブリッド複合材料の固体ペレットは、粒子サイズとMOF配合とを正確に制御できるため、優れた加工性を示し、これにより、追加の処理を必要とせずに、従来のポリマー産業用途でMOFを使用できる。ハイブリッド複合材料の固体ペレットは、使用するメソポーラスポリマーの固有の物理化学的特性に応じて、溶解、押し出し、または溶融することができる。したがって、従来のポリマー添加剤で通常行われているように、直接統合することができる。同様に、ハイブリッド複合材料インクは、ハイブリッド材料ペレットを有機溶媒に溶解するだけで簡単に調製できるため、膜、コーティング、3D印刷インク、フィルム、テキスタイルなどのポリマーインクを含む技術に完全に統合できる。さらに、流動化MOF/メソポーラス材料の大規模(例:4kg)固相合成が近年我々のグループによって実証され、流動化ハイブリッド材料固体ペレットの工業規模の製造に向けた実行可能性が保証されている。
【0056】
(例2)
【0057】
以下は、ガス分離のために混合マトリックス膜中でハイブリッド複合材料インクを使用する例である。
【0058】
この例に示すように、ハイブリッド複合材料インクは、混合マトリックス膜の添加剤として使用できる。この例では、それらを使用すると、2相の蛇皮様微細構造を示しながら、非常に低いMOF濃度(1~7 wt.%の範囲)で高いCO2/N2分離選択性(最大170)が得られる。
【0059】
図4は、蛇皮様混合マトリックス膜に投じられるハイブリッド複合材料インクとMATRIMID溶液の概略図を示している。
図5は、混合マトリックス膜の微細構造に対するMOF配合の影響を示すSEM分析を示している。微細構造は、MOF、メソポーラスポリマー、ポリマーマトリックスの3つの成分の濃度を選択することにより、単相ナノ構造に調整できる。
図6は、混合マトリックス膜の微細構造を形成する3つの異なる成分(MOF、TENAX(R)、およびMATRIMID(R))のSEM/EDS分析を示している。
【0060】
混合マトリックス膜の活性添加剤としてのハイブリッド複合材料インクの使用は、単一のステップで、MOF粒子のナノメートルサイズ、MOF粒子の良好な分散および良好なMOF-ポリマー界面の互換性混合マトリックス膜の確立された要件の3つに対応する。ハイブリッド複合材料インクの使用は、添加剤の使用、合成後の修飾ステップ、その場での調整、大量の有毒溶媒または面倒な精製ステップを必要とする、バルクまたは自立型MOFを使用する他の報告された方法とは対照的に、混合マトリックス材料の微細構造に対する追加の制御と理解をも提供する。ハイブリッド複合材料インクを従来のポリマーマトリックスに統合すると、煙道ガスからのCO2分離の性能が大幅に向上する、蛇皮様微細構造を有する混合マトリックス膜が得られる。
【0061】
ここで、例示的なハイブリッド複合材料を、さまざまな濃度でMATRIMID(R)5218ポリマーと組み合わせた。MATRIMID(R)5218は可溶性熱可塑性ポリイミドである。表1に示す結果では、MOFとして(Co)MOF-74を使用したハイブリッド複合材料を、メソポーラスポリマーとしてTenax(R)とともに使用した。表1に、コードxKyM(x=膜へのハイブリッド複合材料の配合(wt.%)、y=膜へのMOF配合(wt.%))を使用した、混合マトリックス膜の例を示す。透過率はbarrera(g cm s-1 cm-2 bar)で示される。例示的な混合マトリックス膜は、次のように調製された:12~14重量%の2つの成分の対応する固体混合物(精製されたハイブリッド複合材料((Co)MOF-74/Tenax(R))および指定された比率のMatrimid、表1を参照のこと)をCHCl3中に含有するインクを撹拌して、固体成分を完全に分散させた。ハイブリッド複合材料添加剤のコロイド性質により、十分に分散したインクが数分で形成された。MOF添加剤で形成されたインクは、MOFを含まないポリマーインクと比較して、超音波処理時に気泡を示さなかった。気泡は通常、投入時に得られる膜にピンホールを形成することを理解されたい。粘性のあるインクを平らな面に注ぎ、ドクターブレードナイフでフィルムの形にした。溶媒を、最初に室温で30分間の自然対流、続いて120°Cで1時間の真空下での処理によって、蒸発によって膜から除去した。
【0062】
【0063】
表2に示す結果では、異なるMOFナノ結晶を使用したハイブリッド複合材料を、MOFを使用しなかった混合マトリックス材料(MMM)と比較した。次のMOF:(Co)MOF-74、(Co)ZIF-67、(Zr)UiO-66(NH2)、および(Zn)ZIF-8をテストした。MOFを含むMMMの場合、MMMには25wt%のハイブリッド複合材料インクと75wt%のMATRIMID(R)5218とが含まれていた。表2では、ハイブリッド複合材料インクに含まれる金属はXRFによって測定され、ハイブリッド複合材料インクに含まれるMOFはMOF分子式から計算され、MOF配合見出しはMMMでのMOF配合を示している。
【0064】
【0065】
(例3)
【0066】
以下は、食品包装用のフィルムにハイブリッド複合材料インクを使用する例である。
【0067】
この例では、10wt.%の(Co)MOF-74/Tenax(R)がポリビニルブチラール(PVB)およびポリカプロラクトン(PCL)フィルムに組み込まれた。フィルムは、食品包装用途で正常に使用された。
図7a、7b、および7cは、食品包装の用途を示している。
図7aは、(Co)MOF-74/Tenax(R)を備えるフィルムと、例示的なハイブリッド複合材料インクを備えないフィルムとの間の比較を示す写真である。上記に見られるように、例示的なハイブリッド複合材料インクを備えるフィルムは、例示的なハイブリッド複合材料インクを含有しないものと同様に機能した。
図7bおよび7cは、MOFナノ結晶を示す(Co)MOF-74/TENAXフィルムの顕微鏡倍率である。
【0068】
上記の教示を考慮して、本開示の多数の修正および変更が可能である。添付の特許請求の範囲内で、本明細書に具体的に記載されている以外の方法で開示を実施し得ることを理解されたい。
【0069】
上記の説明は、例示的な実施形態および例を代表するものにすぎないことを理解されたい。読者の便宜のために、上記の説明は、すべての可能な実施形態の限られた数の代表的な例、本開示の原理を教える例に焦点を合わせている。説明は、すべての可能なバリエーション、または記述されたそれらのバリエーションの組み合わせさえも、網羅的に列挙しようとはしていない。その代替の実施形態は、本開示の特定の部分について提示されていない可能性があり、またはさらに説明されていない代替の実施形態が一部について利用可能である可能性があることは、それらの代替の実施形態の免責事項と見なされるべきではない。当業者は、それらの説明されていない実施形態の多くが、本開示の原理の適用の違いではなく、技術および材料の違いを伴うことを理解するであろう。したがって、本開示は、以下の特許請求の範囲および同等物に記載される範囲未満に限定されることを意図するものではない。