(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】関節内ステロイドの合併症を軽減する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/56 20060101AFI20240401BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20240401BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240401BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240401BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
A61K31/56
A61K31/573
A61P29/00
A61K9/08
A61K47/24
(21)【出願番号】P 2020573183
(86)(22)【出願日】2019-07-08
(86)【国際出願番号】 US2019040794
(87)【国際公開番号】W WO2020014118
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-06
(32)【優先日】2018-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507317971
【氏名又は名称】タイワン リポソーム カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】514090142
【氏名又は名称】ティーエルシー バイオファーマシューティカルズ、インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シー シェウ-ファン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ポ-チュン
(72)【発明者】
【氏名】ウー ミン-ジュ
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-522041(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0296267(US,A1)
【文献】Elron-Gross I. et al., Liposomal dexamethasone-diclofenac combination for local osteoarthritis treatment,Int. J. Pharmaceutics,Vol.376,2009年,p.84-91
【文献】Hellmich D. et al., Acute Treatment of Facet Syndrome by CT-Guided Injection of Dexamethasone-21-Palmitate Alone and in Combination with Mepivacaine,Clin. Drug Invest.,Vol.24,2004年,p.559-567
【文献】Molecular Pharmaceutics,2011年,Vol.8,p.1002-1015
【文献】Rauchhaus U et al. ,Separating therapeutic efficacy from glucocorticoid side-effects in rodent arthritis using novel, liposomal delivery of dexamethasone phosphate: long-term suppression of arthritis facilitates interval treatment,Arthritis Res. & Thera.,Vol.11,2009年,R190
【文献】油化学,1985年,Vol.34, No.10,p.784-798
【文献】Clinical and Experimental Rheumatology,2002年,Vol.20,p.773-781
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の関節痛を治療すると共に関節内(IA)ステロイドによって誘発される副作用を軽減するための医薬組成物であって、
該医薬組成物は、
(a)1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DOPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール(DOPG)、及びコレステロールを含む脂質混合物、及び
(b)15mM~40mM濃度範囲にある有効量のIAステロイド、またはその薬学的に許容される塩、を含み、
当該IAステロイドはクープマンの分類に従ってグループCのステロイドから選択されるものであり、
関節注射によって投与されるものであ
り、
前記副作用は、軟骨細胞の損傷、軟骨細胞のアポトーシス、プロテオグリカンの損失、関節軟骨の嚢胞、関節軟骨の劣化、関節の破壊、またはそれらの組み合わせからなる群から選択されるものである、
前記医薬組成物。
【請求項2】
前記IAステロイドは、水溶性ステロイドである、請求項1の医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物のIAステロイドは、約15mM~約30mM及び約20mM~約25mMからなる群から選択される濃度である、請求項1の医薬組成物。
【請求項4】
前記IAステロイドは、コルチコステロイドである、請求項1の医薬組成物。
【請求項5】
前記IAステロイド
、またはその薬学的に許容される塩は、デキサメタゾンリン酸ナトリウム、デキサメタゾン、ベタメタゾン、リン酸ベタメタゾンナトリウム、ベタメタゾン酢酸エステル、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、ベタメタゾン吉草酸エステル、フルオコルトロン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1の医薬組成物。
【請求項6】
前記IAステロイドの有効量は、約0.1mg~約300mgである、請求項1の医薬組成物。
【請求項7】
前記IAステロイドの有効量は、約0.1mg~約20mgである、請求項1の医薬組成物。
【請求項8】
前記IAステロイドの有効量は、約4mg~約18mgである、請求項1の医薬組成物。
【請求項9】
前記医薬組成物は、少なくとも2回の関節注射によって投与される、請求項
8の医薬組成物。
【請求項10】
前記少なくとも2回の関節注射は、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間、19週間、20週間、21週間、22週間及び23週間からなる群から選択される投与間隔で投与される、請求項
9の医薬組成物。
【請求項11】
前記少なくとも2回の関節注射は、約10~14週間の投与間隔で投与され、各関節注射あたりのIAステロイドは、用量が8mg~18mgのデキサメタゾンリン酸ナトリウムである、請求項
10の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種または複数種の脂質を含む脂質混合物、及びステロイドまたはその薬学的に許容される塩の有効量を含む医薬組成物を投与することにより、関節痛を治療し、関節内ステロイドの副作用を最小限に抑える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節内(IA)ステロイド療法は、関節の炎症や痛みを軽減するという理由で抗炎症剤を局所的に投与することが50年以上前から使用されている。この療法は、変形性関節症や他の炎症性疾患に伴う関節痛を一時的に緩和する効果があることが示されている。
【0003】
しかし、IAステロイド療法を受けた患者において、IAステロイドを使用してから数年後に変形性関節症が急速に進行することが医師により指摘された。その後の生体内及び生体外の研究において、IAステロイドは、プロテオグリカンの分解と損失、関節軟骨の嚢胞と軟骨細胞のアポトーシスを含む、関節軟骨に進行性の損傷を引き起こすことが示された。研究された3種類のステロイド(ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、デキサメタゾン)のうち、デキサメタゾンは軟骨細胞のアポトーシスの誘発に最も大きく関与する (F.Nakazawa el al, “Corticosteroid treatment induces chondrocyte apoptosis in an experimental arthritis model and inchondrocyte cultures” Clinical and Experimental Rheumatology, 2002; 20: 773-781)。
【0004】
最近の人体研究においては更に、ステロイドが有意に大きい軟骨の体積損失と軟骨毒性を引き起こすといった、IAステロイドの関節軟骨に対する有害な影響が実証された。この理由から、多くの医師はステロイドの使用を制限し、特にコルチコステロイドに関しては、任意の関節に年間3~4回のIA注射を行うように使用を制限した(RWehling etal,“Effectiveness ofintra-articular therapies in osteoarthritis: aliterature review” Ther Adv Musculoskelet Dis.2017 Aug; 9(8):183-196)。ただ、1回のIAステロイド注射の効果は、1~2週間しか持続しない。更に、IAステロイド注射が4週間以上経ってもまだ効果があることを示す証拠はほとんど見られなかった。従って、ステロイドの使用を年間3~4回のIA注射に限定すると、IA注射の間に治療効果のギャップが生じ、関節炎の症状を悪化させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記で概説した欠陥を考慮して、満足な治療効果で関節痛を治療できる一方で、副作用プロファイルが少なく、特に軟骨や軟骨細胞の損傷が少ないIAステロイド療法が希求されている。本開示は、このような需要及び他の需要に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態によれば、関節内ステロイド(IAステロイド)の治療効果を維持しながら、IAステロイドに関連する副作用を低減するための医薬組成物が提供される。
【0007】
該医薬組成物は、(a)1種または複数種の脂質を含む脂質混合物、及び(b)有効量のIAステロイドまたはその薬学的に許容される塩と、を含み、且つ、IAステロイドに関連する副作用が脂質混合物を含まない医薬組成物の副作用と比較して減少する。
【0008】
他の実施形態において、本開示は、関節痛を治療するため、それを必要とする対象に医薬組成物を投与しながらもIAステロイド注射に関連する副作用を軽減するという本明細書に記載された医薬組成物の使用に向けられており、そして、該IAステロイド関連の副作用は、即時放出または標準的なステロイド製剤の関節投与後の対象のIAステロイドによって誘発される副作用と比較して軽減する。
【0009】
また、関節痛治療を必要とする対象に本明細書に記載の有効量の医薬組成物を投与し、且つ、IAステロイド誘発性の副作用が、即時放出または標準的なステロイド製剤の関節投与後の対象のIAステロイドによって誘発される副作用と比較して軽減することを含む、関節ステロイド注射に関連する副作用が軽減しながらも関節痛を治療する方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】リポソームDSP組成物の単回投与でイヌにIA注射した後の毒物動態プロファイルである(試験#8351851及び#8388198)。
【
図1B】リポソームDSP組成物の単回投与でイヌにIA注射した後の毒物動態プロファイルである(試験#8351851及び#8388198)。
【
図2】リポソームDSP組成物の単回投与または多回投与による治療後のイヌ(試験#8351850)及びウサギ(試験#8288836)における軟骨のトルイジンブルー染色を示す図である。
【
図3】リポソームDSP組成物(TLC599)、トリアムシノロンアセトニド(TA)、トリアムシノロンアセトニドの持続放出性注射懸濁液(ER-TA)または対照組とする生理食塩水による治療後のイヌ(試験#79503-18-2l4)における軟骨のトルイジンブルー染色を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義付け
以下の用語は、上記及び本開示全体を通して使用されるように、特に明記しない限り、以下の意味を有すると理解されるべきである。
【0012】
本明細書で使用される場合、単数形「一」、「一つ」及び「該」は、文脈から明確に指示されない限り、複数形の参照を含む。
【0013】
本明細書に記載されているすべての数値は、量、時間的期間などの測定可能な値を指す場合、指定された値から±10%、±5%、±1%、±0.1%、±0.01%の変動を含むことを意味し、そのような変動は、別段の指定がない限り、所望の物質の量または期間を得るために適切であるとして、"約"によって修正されたものとして理解される。
【0014】
本明細書で使用される「関節注射」という用語は、関節痛の部位またはその近くにおける局所注射、関節内注射または関節周囲注射を含む。
【0015】
本明細書で使用される「有効量」は、関節の痛み、炎症、関節のこわばり及び腫れなどの関節痛を引き起こす疾患の症状及び徴候を軽減し、且つ、IAステロイド注射に関連する副作用を軽減することに十分な医薬組成物の用量を指す。関節痛の原因となる疾患の症状及び徴候の軽減は、適切な臨床尺度によって測定されるように、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%またはその間の任意の量で軽減できる。
【0016】
本明細書で使用される「治療する」、「治療される」、または「治療」という用語は、関節痛を引き起こす進行性の構造組織損傷を未然に防ぐ(例えば、予防的)、遅らせる、阻止するまたは逆転させることを含む。また、本出願を通して、治療することとは、関節痛を軽減、緩和、阻害または遅延させ、または既知の技術によって検出される関節痛の完全な改善する方法を意味する。これらには、いくつか例を挙げると、臨床検査、血清または関節吸引物の画像化または分析(例えば、リウマチ因子、赤血球沈降速度)が含むが、これらに限定されない。例えば、開示された方法は、治療前の対象または対照対象と比較して、対象の関節痛が約1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%減少するよう治療することが想定される。
【0017】
「対象」という用語は、関節痛を有する脊椎動物、または関節痛の治療が必要とみなされる脊椎動物を指すことができる。対象は、温血動物、例えば霊長類などの哺乳類、より好ましくはヒトを含む。人間以外の霊長類も対象である。対象という用語には、猫、イヌなどの飼い慣らされた動物、家畜(例えば、牛、馬、豚、羊、山羊など)及び実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、アレチネズミ、モルモットなど)を含む。従って、獣医学的用途及び医学的製剤は、本開示の意図に含まれる。
【0018】
「関節痛」という用語は、1つまたは複数の関節の炎症や痛みを伴う関節障害または状態を指す。本明細書で使用される「関節痛」という用語は、既知または未知の、様々な病因および原因の様々なタイプ及びサブタイプの関節炎を含み、リウマチ性関節炎、変形性関節炎、感染性関節炎、乾癬性関節炎、痛風性関節炎、ループスに伴う関節炎、または滑液包炎、腱滑膜炎、上顆炎、滑膜炎、あるいは他の障害により影響された疼痛性局所組織を含むが、これらに限定されない。
【0019】
本開示のステロイドの「薬学的に許容される塩」は、塩基で形成される酸性ステロイドの塩、即ち、アルカリ及びアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムのような塩基付加塩、並びにアンモニウム、トリメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム及びトリス(ヒドロキシメチル)メチルアンモニウム塩のような4アンモニウム塩を含む。同様に、鉱酸、有機カルボン酸、有機スルホン酸、例えば、塩酸、メタンスルホン酸、マレイン酸などの酸付加塩も塩基性ステロイドに提供することができる。
【0020】
医薬組成物
一態様において、本開示は、1種または複数種の脂質を含む脂質混合物、及び、有効量のステロイドまたはその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、IAステロイドの治療効果を維持しながら、IAステロイドに関連する副作用を軽減する。IAステロイドの副作用は、軟骨細胞の損傷、軟骨細胞のアポトーシス、プロテオグリカンの損失、関節軟骨の嚢胞、関節軟骨の劣化または関節の破壊を含むが、これらに限定されない。IAステロイドの副作用の評価は、例えば、MRIなどの非侵襲的検査で行うことができるが、これに限定されない。本明細書に記載の医薬組成物を用いて製剤化されたIAステロイドを注射した対象における副作用の軽減は、本明細書に記載の医薬組成物を含まない、即ち、脂質混合物を含まない製剤化されたIAステロイドを注射した対象と比較して、1%から、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%までの範囲にあり得る。
【0021】
一実施形態において、医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤、希釈剤、ビヒクル、担体、有効成分のための媒体、防腐剤、抗凍結剤またはそれらの組み合わせを更に含む。
【0022】
一実施形態において、本開示の医薬組成物は、コレステロールの有無にかかわらず、1種または複数種の脂質及び1種または複数種の緩衝液を混合してリポソームを形成し、リポソームを1種以上の増量剤と共に凍結乾燥してケーキ状の脂質混合物を形成し、前記脂質混合物ケーキをステロイドを含む水溶液で再構成してリポソームステロイド組成物を形成し、ここで、リポソームステロイド組成物は、脂質混合物とステロイドを非関連の形態または脂質に関連付けられた形態で含む。「非関連の形態」という用語は、医薬組成物のリン脂質/コレステロール画分からゲル濾過を介して分離可能であり即時放出成分を提供するステロイド分子を指す。
【0023】
他の実施形態において、本開示の医薬組成物は、コレステロールの有無にかかわらず、1種または複数種の脂質を溶媒に混合し、次いで溶媒を除去して、粉末またはフィルムの形態の脂質混合物を形成し、脂質混合物の粉末またはフィルムを、ステロイドを含む水溶液と再構成して、水性懸濁液の形態の医薬組成物を得ることによって調製される。
【0024】
一部の実施形態において、本開示の医薬組成物は、約10%~約50%の脂質関連ステロイドまたは約50%~約90%の非関連ステロイドを含む。他の実施形態において、ステロイドとリン脂質及びコレステロールの組み合わせとの重量比は、約5~80対1である。さらに他の実施形態において、ステロイドとリン脂質及びコレステロールの組み合わせとの重量比は、約5~40対1である。例えば、ステロイドとリン脂質及びコレステロールの組み合わせとの重量比は、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75または80対1とすることができる。
【0025】
脂質混合物
本明細書で提供される医薬組成物の脂質混合物は、脂質または脂質の混合物を指す。脂質混合物は、フィルム、ケーキ、顆粒または粉末の形態であるが、これらに限定されない。
【0026】
一部の実施形態において、脂質混合物は、1種または複数種の脂質を含む。任意選択として、1種または複数種の脂質は、少なくとも1種の中性脂質及びアニオン性脂質を、29.5%~90%:3%~37.5%のモル百分率で含み、あるいは、2:1~33:1のモル比で含む。
【0027】
一実施形態において、リン脂質またはリン脂質の混合物は、コレステロールの有無にかかわらず、脂質混合物にさらに処理される前に、リポソームに予め形成される。
【0028】
他の実施形態において、リン脂質またはリン脂質の混合物は、コレステロールの有無にかかわらず、脂質混合物にさらに処理される前に、リポソームに予め形成されない。
【0029】
リポソームは、ナノサイズであり、内部薬剤担持成分を取り囲む脂質単層または脂質二重層を含む。リポソームの非限定的な例としては、小型単層小胞(SUV)、大型単層小胞(LUV)、多重小胞リポソーム(MVL)及び多層小胞(MLV)、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
脂質混合物は、単層構造または二層構造に形成するまたは組み込むことが可能な種々の脂質から製造することができる。本開示で使用される脂質は、両親媒性物質の範疇であり、脂肪酸、グリセロ脂質、リン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール、プレノール脂質、サッカロ脂質、ポリケチドなどが挙げられるが、これらに限定されない。1種または複数種のリン脂質の例としては、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態において、1種または複数種のリン脂質は、卵ホスファチジルコリン(EPC)、グリセロール卵ホスファチジルグリセロール(EPG)、卵ホスファチジルエタノールアミン(EPE)、卵ホスファチジルセリン(EPS)、卵ホスファチジン酸 (EPA)、卵ホスファチジルイノシトール(EPI)、大豆ホスファチジルコリン(SPC)、グリセロール大豆ホスファチジルグリセロール(SPG)、大豆ホスファチジルエタノールアミン(SPE)大豆ホスファチジルセリン(SPS)、大豆ホスファチジン酸(SPA)、大豆ホスファチジルイノシトール(SPI)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ヘキサデシルホスホコリン(HEPC)、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルステアロイルホスファチジルコリン(PSPC)、パルミトイルステアロイルホスファチジルグリセロール(PSPG)、モノオレオイルホスファチジルエタノールアミン(MOPE)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(POPC)、ポリエチレングリコールジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG-DSPE)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルセリン(DOPS)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸(DOPA)、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルイノシトール(DOPI)、ジミリストイルホスファチジルイノシトール(DMPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)及びそれらの混合物を含む。
【0031】
他の実施形態において、脂質混合物は、リン脂質分子に付着した高含水柔軟性中性ポリマーの長鎖を有する親水性ポリマーを含む。親水性ポリマーの例としては、分子量約2000~約5000ダルトンのポリエチレングリコール(PEG)、メトキシPEG(mPEG)、ガングリオシドGMi、ポリシアル酸、ポリ乳酸 (ポリラクチドとも言われる)、ポリグリコール酸 (ポリグリコリドとも言われる)、ポリ乳酸ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリアスパルトアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、誘導体化セルロースであるヒドロキシメチルセルロースまたはヒドロキシエチルセルロース及び合成ポリマ-を含むが、これらに限定されない。
【0032】
一実施形態において、脂質混合物はさらにステロールを含む。本開示で使用されるステロールは特に限定されないが、その例としては、コレステロール、植物ステロール(シトステロール、スチグマステロール、フコステロール、スピナステロール、ブラシカステロールなど)、エルゴステロール、コレスタノン、コレステノン、コプロステノール、コレステリル-2’-ヒドロキシエチルエーテル 、及びコレステリル-4’-ヒドロキシブチルエーテルなどが挙げられる。脂質混合物のステロール成分は、存在する場合、リポソーム、脂質小胞または脂質粒子製剤の分野で慣用的に使用されるステロールのいずれであってもよい。他の実施形態において、脂質混合物は、約10%~約33%のコレステロール、約15モル%~約30モル%未満のコレステロール、約18モル%~約28モル%のコレステロール、または約20モル%~約25モル%のコレステロールを含む。
【0033】
一部の実施形態において、脂質混合物は、第1のリン脂質及び第2のリン脂質を含む。他の実施形態において、第1のリン脂質は、DOPC、POPC、SPCまたはEPCから選択され、第2のリン脂質は、PEG-DSPEまたはDOPGである。例示的な実施形態において、脂質混合物は、29.5%~90%:3%~37.5%:10%~33%のモル百分率でDOPC、DOPG及びコレステロールを含む。
【0034】
一実施形態において、脂質混合物は、脂肪酸またはカチオン性脂質(即ち、生理的pHで正味の正電荷を運ぶ脂質)を含まない。
【0035】
一部の実施形態において、脂質混合物は、そのリポソームが標的分子を有する標的細胞と特異的に結合することを可能にするための標的部位として作用する抗体またはペプチドの脂質複合体を更に含んでもよい。標的分子の非限定的な例としては、TNF-oc及びB細胞表面抗原、例えばCD20を含むが、これらに限定されない。他の抗原、例えば、CD19、HER-3、GD2、Gp75、CS1タンパク質、メソセリン、cMyc、CD22、CD4、CD44、CD45、CD28、CD3、CD123、CD138、CD52、CD56、CD74、CD30、Gp75、CD38、CD33、GD2、VEGFまたはTGFを使用してもよい。
【0036】
本開示で調製されるリポソームは、小胞を調製するために使用される従来技術によって生成することができる。これらの技術は、エーテル注射法(Deamer et al., Acad.Sci. (1978) 308: 250)、界面活性剤法(Brunner et al., Biochim.Biophys.Acta (1976) 455: 322)、凍結融解法(Pick et al., Arch.Biochim.Biophys.(1981) 212: 186)、逆相蒸発法(Szoka et al., Biochim.Biophys.Acta. (1980) 601: 559 71)、超音波処理法(Huang et al., Biochemistry (1969) 8:344)、エタノール注射法(Kremer et al., Biochemistry (1977) 16:3932)、押出法(Hope et al., Biochim.Biophys.Acta (1985) 812:55 65)、フレンチプレス法(Barenholz et al., FEBS Fett.(1979) 99:210)及びSzoka, , Jr., etal., Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467 (1980)に詳述された方法を含む。上記の工程はすべて、小胞を形成するための基礎技術であり、これらの工程は、参照により本明細書に組み込まれる。滅菌後、予め形成されたリポソームは、容器に無菌で入れられ、次いで凍結乾燥されて粉末またはケーキを形成する。脂質混合物が予め形成されたリポソームを含む実施形態において、リポソームは、溶媒注入法により得られ、次いで、凍結乾燥により脂質混合物に形成される。脂質混合物は、1種または複数種の増量剤を含む。一実施形態において、脂質混合物は、1種または複数種の緩衝剤を更に含む。
【0037】
増量剤には、ポリオールまたは糖アルコール、例えばマンニトール、グリセロール、ソルビトール、右旋性グルコース、スクロース、および/またはトレハロース、そしてアミノ酸、例えばヒスチジン、グリシンを含むが、これらに限定されない。好ましい増量剤としては、マンニトールが挙げられる。
【0038】
緩衝剤としては、りん酸二水素ナトリウム二水和物、無水りん酸水素二ナトリウムなどを含むが、これらに限定されない。
【0039】
脂質混合物がリポソームに予め形成されていない脂質を含む実施形態において、脂質混合物は、エタノール、メタノール、t-ブチルアルコール、エーテル及びクロロホルムを含むがこれらに限定されない適切な有機溶媒に溶解し、そして、加熱、真空蒸発、窒素蒸発、凍結乾燥または他の従来の溶媒除去手段によって乾燥させることによって調製することができる。
【0040】
本開示によりサポートされる脂質混合物の調製の具体を、以下に記載する。
【0041】
関節注射のためのステロイド
本明細書に記載の医薬組成物中のステロイドは、関節注射に適したステロイドまたはその製薬学的に許容される塩を含む。ステロイドの例としては、グルココルチコイドおよびミネラルコルチコイドなどのコルチコステロイドを含むが、これらに限定されない。一実施形態において、本明細書に記載の医薬組成物中のステロイドは、関節内(IA)注射に適したコルチコステロイドである。
【0042】
本開示において有用なIAステロイドは、天然に存在する任意のステロイドホルモン、合成ステロイド及びそれらの誘導体を含む。IAステロイド、誘導体またはその製薬学的に許容される塩の例としては、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、チクソコルトールピバル酸エステル、フルオシノロン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロン、モメタゾン、アムシノニド、ブデソニド、デソニド、フルオシノニド、フルオシノロンアセトニド、ハルシノニド、ベタメタゾン、ベタメタゾンリン酸ナトリウム、デキサメタゾン、デキサメタゾンリン酸ナトリウム(DSP)、フルオコルトロン、ヒドロコルチゾン-17-ブチレート、ヒドロコルチゾン-17-吉草酸、アルクロメタゾンジプロピオン酸エステル、ベタメタゾン吉草酸エステル、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、プレドニカルベート、クロベタゾン-17-ブチレート、クロベタゾール-17-プロピオン酸、フルオコルトロンカプロン酸、ピバリン酸フルオコルトロン、フルプレドニデンアセタート、ジフルプレドナート、ロテプレドノール、フルオロメトロン、メドリゾンリメキソロン、ベクロメタゾン、クロプレドノール、コルチバゾール、デオキシコルトン、ジフルオロコルトロン、フルクロロロン、フロオロコルチゾン、フルメタゾン、フルニソリド、フルオコルトロン、フルランドレノロン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾロン、パラメタゾンまたはそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。例示的な実施形態において、IAステロイドは水溶性ステロイドである。他の例示的な実施形態において、IAステロイドは、クープマンの分類に従って、グループB及びグループCのステロイドから選択されるものである(S.Coopman et al., “Identification ofcross-reaction patterns in allergic contact dermatitis from topical corticosteroids” Br JDermatol.1989 Jul; 121(1):27-34)。
【0043】
IAステロイドの薬学的に許容される塩は、非毒性の無機または有機塩基から形成された非毒性の塩を含む。例えば、非毒性塩は、アルカリまたはアルカリ土類金属水酸化物、例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム、カルシウムまたはマグネシウムなどの無機塩基、及びアミンなどの有機塩基により形成することができる。
【0044】
また、IAステロイドの薬学的に許容される塩は、非毒性の無機または有機酸から形成された非毒性の塩を含む。有機及び無機酸の例は、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸、パルミチン酸、コール酸、パモ酸、ムチン酸、D-グルタミン酸、グルタル酸、グリコール酸、フタル酸、酒石酸、ラウリン酸、ステアリン酸、サリチル酸、ソルビン酸、安息香酸などである。
【0045】
IAステロイドは、関節炎の症状や徴候を軽減するために、関節注射によって任意の有効量で投与することができる。それらは、約0.1mg~約300mg、約0.1mg~約100mg、約0.1mg~約20mg、約0.1mg~約18mg、約1mg~約300mg、約1mg~約100mg、約1mg~約20mg、約1mg~約18mg、約4mg~約300mg、約4mg~約100mg、約4mg~約20mg、約4mg~約18mgの範囲の用量で投与できる。一部の実施形態において、本開示の医薬組成物のIAステロイドは、1ミリリットル(mL)当たり、約1mg~約20mg、約1mg~約18mg、約4mg~約300mg、約4mg~約100mg、約4mg~約20mg、または約4mg~約18mgの範囲の濃度である。
【0046】
一部の実施形態において、本開示の医薬組成物のIAステロイドは、少なくとも10mM、11mM、12mM、13mM、14mM、15mM、16mM、17mM、18mM、19mM、20mM、21mM、22mM、23mM、24mM、25mM、26mM、27mM、28mM、29mM、30mM、31mM、32mM、33mM、34mMまたは35mMの濃度であり、及び任意に、約10mM~約40mM、約15mM~約40mM、約20mM~約40mM、約15mM~約35mM、約15mM~約30mM、約15mM~約25mMまたは約20mM~約25mMの範囲の濃度である。
【0047】
ヒトにおけるIAステロイドの有用な用量は、それらの生体外活性及び動物モデルにおける生体内活性を比較することによって決定される。マウス、および他の動物における有効量からヒトににおける有効量を推定するための方法は、当技術分野で知られており、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4938949号を参照する。
【0048】
投与されるIAステロイドの投与量は、治療される状態の重症度、特定の製剤、及びレシピエントの体重や全身状態、副作用の重症度などの他の臨床的な要因に依存する。
【0049】
医薬組成物は、治療される状態に対して適切な期間にわたって、単回投与の処置で投与されてもよいし、多回投与の処置で投与されてもよい。医薬組成物は、都合よく適切な間隔で投与することができ、その間隔は例えば、1週間、2週間、6週間、1ヶ月、2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月または症状や徴候が解消されるまで、の期間に1回とすることができる。一群の実施形態において、少なくとも2回の関節注射による多回投与治療が、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間、19週間、20週間、21週間、22週間、22週間、及び23週間からなる群から選択される投与間隔で投与される。
【0050】
本開示のIAステロイドはddH20または適切な緩衝液のいずれかに混合して、リポソームステロイド組成物の調製に使用するためのステロイドを含む水溶液を形成することができる。一部の実施形態において、IAステロイドは水溶性であり、且つ、脂質に共有結合していない。ここで脂質とは、ステロール、リン脂質またはパルミチン酸などの脂肪酸を含むがこれらに限定されない。水中におけるIAステロイドの適切な溶解度は、例えば、少なくとも4mg/mL、10mg/mL、20mg/mL、30mg/mL、40mg/mLまたは50mg/mLであり、任意選択として4mg/mL~10mg/mLまたは5mg/mL~60mg/mLであるが、これらに限定されない。
【0051】
関節の痛みや炎症を治療し、且つIAステロイドに伴う副作用を軽減する方法
通常は、対象の関節軟骨には、コルチコステロイドなどのステロイドのIA投与後に、急速に進行性の変性または損傷が起きる。これは、軟骨の損傷、軟骨のアポトーシス、プロテオグリカンの損失、関節軟骨の劣化または関節の破壊を含むIAステロイドの副作用によるものである。
【0052】
本開示の1つの態様は、対象におけるIAステロイドの副作用を最小限に抑えて関節痛を治療する方法を目指しており、本明細書に記載されているような医薬組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含み、且つ、IAステロイドによって誘発される副作用は、即時放出または標準的なステロイド製剤の投与後の対象における副作用と比較して軽減される。一実施形態において、対象は、変形性関節炎、関節リウマチ、急性痛風関節炎などの関節炎を有する。
【0053】
また、本明細書に開示された医薬組成物を投与することにより、関節痛の治療を必要とする対象においてコルチコステロイド誘発性関節症またはIAステロイドに関連する副作用を最小化するための方法も提供される。
【0054】
他の態様において、本明細書に記載の医薬組成物からのIAステロイドの持続的で且つ定常状態での放出は、関節軟骨の損傷または破壊を誘発しない。
【0055】
本明細書で提供される医薬組成物は、様々な追加の治療薬と組み合わせて使用することができ、ここで治療薬としては、これらに限らないが、鎮痛薬 (例えばブピバカイン、ロピバカインまたはリドカイン)、ヒアルロン酸製剤(例えばSynvisc-One(登録商標))、非ステロイド性抗炎症薬 (例えばイブプロフェン)、予防維持薬(例えばメトトレキサート)またはバイオ医薬品(例えばエタネルセプト、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブまたはリツキシマブ)を含む。一部の実施形態において、特許請求された医薬組成物及び追加治療薬は、単一の治療組成物に製剤化され、且つ、特許請求された医薬組成物および追加治療薬は、同時に投与される。或は、特許請求された医薬組成物及び追加治療薬は、互いに分離したものであり、例えば、それぞれが分離した治療組成物に製剤化され、且つ、特許請求された医薬組成物および追加治療薬は、単回投与または多回投与として、同じ経路または異なる経路により、治療レジメン中に同時にまたは異なる時間に投与される。
【0056】
以下の実施例は、本開示による医薬組成物、方法または使用を更に例示する。これらの例は、単に本開示による医薬組成物、方法または使用を例示することを意図しており、限定的であると解釈されるべきではない。
【0057】
実施例1:脂質混合物の調製
DOPC、DOPG、コレステロールを含む脂質を67.5:7.5:25のモル%で配合し、フラスコ内で約40℃の99.9%のエタノールに溶解して脂質溶液を形成した。卓上超音波浴を脂質の溶解に用いた。
【0058】
溶解した脂質溶液を蠕動ポンプにより100mL/minで1.0mMリン酸ナトリウム溶液に添加して、プロリポソーム懸濁液を調製した。次いで、このプロリポソーム懸濁液を細孔径が0.2μmのポリカーボネート膜に6~10回を通した。得られたリポソーム混合物において、リポソームは、約120~140nmの平均小胞直径を有する(Malvern Zeta Sizer Nano ZS-90、Malvern Instruments Ltd、Worcestershire、UKにより測定)。
【0059】
リポソーム混合物を、Millipore Pellicon 2 Mini Ultrafiltration Module Biomax-100C(0.1m2)(Millipore Corporation, Billerica, MA, USA)を用いたタンジェント流ろ過システムで透析し、濃縮した後、0.2μmの滅菌フィルターを用いて滅菌した。
【0060】
濾過したリポソーム混合物の脂質濃度をリン分析で定量し、且つ、濾過したリポソーム混合物をマンニトール2%濃度のマンニトールで製剤化し、0.2μmの滅菌フィルターを用いて再度滅菌した。次に滅菌されたリポソーム混合物を凍結乾燥させ、ケーキ状の脂質混合物を得た。
【0061】
実施例2:医薬組成物の調製
13.2mg/mlのデキサメタゾンリン酸ナトリウム(DSP)(C22H28FNa2O8P、分子量:516.41g/L)及び4mg/mlのクエン酸ナトリウムを含むDSP溶液に、実施例1に記載の脂質混合物を混合することにより、本開示による医薬組成物を調製し、これによりDSPの最終濃度が12.0mg/ml(23.2mM)であるリポソームDSP組成物を得た。
【0062】
実施例3:関節ステロイドの異なる用量による副作用の軽減に関する医薬組成物の生体内評価
生体内試験は、IAステロイドの異なる用量による副作用の軽減に関する医薬組成物の有効性を評価するためにビーグル犬を使用して実施した。0.9%塩化ナトリウムを含む溶液と実施例1に記載の脂質混合物とを混合することにより、溶媒対照群を調製した。
【0063】
ビーグル犬を5つのグループに分け、それぞれの膝に以下のIA注射を行った。
A群(n=8):生理食塩水の単回IA注射(膝あたりに1.5mLの0.9%塩化ナトリウム)。
B群(n=8):溶媒対照群の単回IA注射(膝あたりに1.5mLのDSPを含まない脂質混合物の懸濁液)。
C群(n=8):実施例2のリポソームDSP組成物の単回IA注射(膝あたりに0.34mLの医薬組成物。その中に4mgのDSPが含まれる)。
D群(n=8):実施例2のリポソームDSP組成物の単回IA注射(膝あたりに1.0mLの医薬組成物。その中に12mgのDSPが含まれる)。
E群(n=8):実施例2のリポソームDSP組成物の単回IA注射(膝あたりに1.5mLの医薬組成物。その中に18mgのDSPが含まれる)。
【0064】
ビーグル犬を、各膝に試験組成物をIA注射してから3ヶ月後に屠殺した。膝軟骨中のプロテオグリカンの損失を評価するために、トルイジンブルー染色を使用した。プロテオグリカンの損失の重症度は、以下の基準に基づいて点数化する。
点数0:プロテオグリカンの損失なし
点数1:プロテオグリカンの損失が少ない
点数2:わずかなプロテオグリカンの損失
点数3:中等度のプロテオグリカン損失
点数4:顕著なプロテオグリカンの損失
点数5:重度のプロテオグリカン損失
【0065】
表1には、リポソームDSP組成物の投与量が異なる群(C群、D群、E群)において、DSPの投与量にかかわらず、プロテオグリカンの損失の程度が類似していることが示されている。イヌの各膝にリポソームDSP組成物の単回IA注射(用量の範囲4mg~18mg)の投与後、膝軟骨の75%~100%においてプロテオグリカンの損失は見られずまたは最小限であり、これは膝軟骨の100%においてプロテオグリカンの損失が見られずまたは最小限であった生理食塩水対照群(A群)での結果と同様であった。
【0066】
【0067】
実施例4.医薬組成物の毒性/毒物動態プロファイルと薬物動態プロファイル
本実施例の目的は、実施例2のリポソームDSP組成物の軟骨損傷を、トリアムシノロンアセトニド(TA)やトリアムシノロンアセトニド持続放出性注射懸濁液(ER-TA)といった現在のステロイド治療と比較して評価することであり、並びに健康なイヌ及びウサギを対象とした5つの前臨床試験におけるIA注射後の結果で、実施例2のリポソームDSP組成物の毒物動態(Toxicokinetic、TK)/薬物動態(Pharmacokinetic、PK)プロファイルを評価することである。
【0068】
4つの毒性試験において、リポソームDSP組成物(TLC599と表記)または他の被験物質のIA注射後に軟骨組織を検査した。プロテオグリカンの損失は、プロテオグリカンを染色するカチオン染料であるトルイジンブルーによって評価した。プロテオグリカンの染色強度の低下は、軟骨の損傷および潜在的な軟骨毒性を示唆する。2つのTK/PK試験では、デキサメタゾンリン酸塩(DP)濃度を定量し、TK/PKプロファイルを評価した(表2)。DSPはDPのナトリウム塩の形態である。
【0069】
【0070】
図1Aは、イヌの滑液中のリン酸デキサメタゾンの平均濃度が示され、その滑液は、メスおよびオスのイヌの両膝に4及び18mg/膝の用量レベルでのリポソームDSP組成物の単回投与IA注射後、2.5時間後、48時間後、96時間後、168時間後および360時間後にサンプリングされた。
【0071】
図1Bは、イヌの滑液中のリン酸デキサメタゾンの濃度が示され、その滑液は、両膝に18mg/膝(合計36mg/動物)の用量レベルでのTLC599の単回投与IA注射後、15日、30日、45日、90日及び120日でサンプリングされた。
【0072】
リポソームDSP組成物のIA注射後、滑液中のDP濃度は2.5時間~48.0時間の間に高レベルを維持し、そして360時間続いた(
図1A)。また、DPは投与30日後から120日後まで同程度の濃度を維持しており(
図1B)、関節内の局所的な曝露が長期化していることが示されている。
【0073】
リポソームDSP組成物の単回投与または多回投与による処置後のイヌ(試験#8351850)及びウサギ(試験#8288836)の軟骨のトルイジンブルー染色が
図2に示されている。
【0074】
試験#8351850において、イヌは、膝関節にリポソームDSP組成物12mg/膝を投与され、処置後8日目(パネルA1)、31日目(パネルA2)及び91日目(パネルA3)に屠殺された。試験#8288836において、ウサギは膝関節にリポソームDSP組成物1.2mg/膝を単回投与され、処置後15日目(パネルBl)及び31日目(パネルB2)に屠殺され、また、ウサギは膝関節にリポソームDSP組成物1.2mg/膝を2回(1ヶ月後の2回目の投与)投与され、処置後91日目(パネルB3)に屠殺された。
【0075】
図2に示されるように、イヌ、ウサギ共にトルイジンブルー染色の強度変化やヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色の形態変化は認められず、繰り返し投与してもプロテオグリカンの損失や軟骨の損傷は認められない。
【0076】
高用量TAとER-TAの単回投与後のイヌの軟骨のトルイジンブルー染色(試験#75903-18-214)が
図3に示されている。高用量TA及びER-TAは、生理食塩水と比較して有意にプロテオグリカンの損失が示され、低用量ER-TAは、生理食塩水と同様に、等用量TAと比較して有意にプロテオグリカンの損失が示された(
図3)。対照的に、リポソームDSP組成物(TLC599と表記)は、プロテオグリカンのレベルが治療後30日目でも生理食塩水と同等であることが示された(
図2)。
【0077】
その結果、ER-TA、特に低用量レベル(2.1mg/膝)では、TA単独よりも多くのプロテオグリカンの損失及び基礎軟骨毒性をもたらすことが観察された。このデータにより、リポソームDSP組成物が2つの従来品と比べて毒性が有意に低いことが示された。
【0078】
試験#75903-l8-214において、イヌに生理食塩水、トリアムシノロンアセトニド(TA)2.1mg/膝、18.75mg/膝(それぞれ「TA2.1mg」、「TA18.75mg」と表記)、トリアムシノロンアセトニド持続放出性注射懸濁液2.1mg/膝、18.75mg/膝(それぞれ「ER-TA2.1mg」及び「ER-TA18.75mg」と表記)、又は膝関節用リポソームDSP組成物12mg/膝(「TLC599が12mg (60mgのTAに相当)」と表記)を投与した。
【0079】
試験#8351851において、リポソームDSP組成物を4回反復投与したイヌでは、リポソームDSP組成物の最初の投与と最後の投与との間で、毒性とTKプロファイルに有意な差が認められず、多回投与及び単回投与で軟骨の安全性プロファイルが類似していることが示唆された。リポソームDSP組成物は、重大な副作用なく繰り返し投与でき、且つ、変形性関節症の長期的管理において安全で効果的な治療法である。
【0080】
本開示による医薬組成物としてのリポソームDSP組成物、新規なDSPの持続放出性製剤は、単回のIA注射後の関節内のDSPの高レベル曝露且つ4ヶ月まで同様のレベルで維持されたことが示されている(
図1B)。
【0081】
イヌ及びウサギの前臨床試験において、IA注射のリポソームDSP組成物の単回投与及び多回投与による著しい軟骨毒性は認められなかった。対照的に、単回投与のTA及び単回投与のER-TAの両方において、軟骨における中等度のプロテオグリカンの損失が観察された(
図3)。