(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】吊式キャビネットの壁面組立方法
(51)【国際特許分類】
F16B 12/12 20060101AFI20240401BHJP
A47B 77/04 20060101ALI20240401BHJP
A47B 55/00 20060101ALI20240401BHJP
A47B 47/04 20060101ALI20240401BHJP
F16B 5/06 20060101ALI20240401BHJP
F16B 12/50 20060101ALI20240401BHJP
F16B 12/46 20060101ALI20240401BHJP
F16B 12/32 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
F16B12/12 Z
A47B77/04 A
A47B55/00
A47B47/04 B
F16B5/06 G
F16B12/50 A
F16B12/46 A
F16B12/32 E
(21)【出願番号】P 2021035680
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000104973
【氏名又は名称】クリナップ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】吉江 邦将
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-036915(JP,U)
【文献】特開2017-219185(JP,A)
【文献】特表2015-517933(JP,A)
【文献】実開昭54-100804(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 12/00-12/60
A47B 77/04
A47B 55/00
A47B 47/04
F16B 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材である、背板、2枚の側板、天板、底板を有する吊式キャビネットを、部屋の壁面に吊られるように組み立てる吊式キャビネットの壁面組立方法であって、
前記背板を、前記壁面に固定する第1工程と、
前記背板に、前記2枚の側板、前記天板、前記底板を取り付ける第2工程と、を有し、
これら板材それぞれを第1板材、第2板材として、
前記第1板材と前記第2板材の少なくとも一組を、第1の接合構造を用いて接合し、前記第1板材と前記第2板材の残る組を、板材の第2の接合構造を用いて接合し、
前記第1の接合構造は、
その主平面の面内方向に向けて延設されると共に当該主平面に開口された第1開口部と、当該第1開口部の内部に第1係合凹部と、が設けられた第1接合孔を有する前記第1板材と、
その主平面の前記端面の長さ方向に対して平行な面内方向に向けて延設されると共に当該主平面に開口された第2開口部と、当該第2開口部の内部に第2係合凹部と、が設けられた第2接合孔を有する前記第2板材と、
接合部材本体部から略直角な2方向に突出する第1足部及び第2足部と、前記第1足部の先端に設けられ、前記第1係合凹部に嵌合可能な第1係合凸部と、前記第2足部の先端に設けられ、前記第2係合凹部に嵌合可能な第2係合凸部と、を有する接合部材と、を備え、
前記接合部材の前記第1足部及び前記第1係合凸部が、前記第1開口部から挿入され、前記第1係合凸部が、前記第1係合凹部に嵌合されると共に、前記接合部材の前記第2足部及び前記第2係合凸部が、前記第2開口部から挿入され、前記第2係合凸部が、前記第2係合凹部に嵌合される構成であり、
前記第2の接合構造は、
その主平面におけるその端面の長さ方向と平行な面内方向に向けて延設されると共に、当該主平面に開口された開口部と、当該開口部の内部に、前記主平面に向けて開口された断面略C字型であり、外側に弾性変形可能なその両端が互いに内側に向けて折り曲げられ、前記長さ方向に沿って嵌合された被接合部材によって形成された係合凹部と、が設けられた接合孔を有する前記第1板材と、
その端面から突出する足部と、当該足部の先端にくびれ部を介して当該くびれ部より厚さ方向に拡幅されて設けられ、前記係合凹部に嵌合可能な係合凸部と、を有する前記第2板材と、を備え、
前記第2板材の前記足部及び前記係合凸部が、前記第1板材の前記開口部から挿入され、前記係合凸部が、前記係合凹部に嵌合される構成であること
を特徴とする吊式キャビネットの壁面組立方法。
【請求項2】
前記第2工程の後に、前記第1工程を行うこと
を特徴とする請求項1に記載の吊式キャビネットの壁面組立方法。
【請求項3】
前記第1の接合構造では、前記第1接合孔と、前記第2接合孔とは、前記接合部材の嵌合方向における断面の形状及びサイズが略同一とされていると共に、前記接合部材の前記第1足部及び前記第1係合凸部と、前記第2足部及び前記第2係合凸部とは、前記接合部材の嵌合方向における断面の形状及びサイズが略同一とされていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の吊式キャビネットの壁面組立方法。
【請求項4】
前記第1の接合構造では、前記第1足部の前記第1接合孔の前記第1開口部に挿入する際に接する第1案内面と、前記第2足部の前記第2接合孔の前記第2開口部に挿入する際に接する第2案内面と、は、断面略弧状の曲面に形成されていること
を特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の吊式キャビネットの壁面組立方法。
【請求項5】
前記第1の接合構造では、前記接合部材の前記接合部材本体部における前記第1板材及び前記第2板材と接合される側と反対側の面は、略直交する前記第1板材の前記主平面と、前記第2板材の前記主平面と、の交わり部に略倣った形状に形成されていること
を特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の吊式キャビネットの壁面組立方法。
【請求項6】
前記第2の接合構造では、前記接合孔は、前記被接合部材の少なくとも片側の側面と離間するように形成されていること
を特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の吊式キャビネットの壁面組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊式キャビネットを、壁面に吊られるように組み立てる吊式キャビネットの壁面組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、キャビネットに使用される側板等の板材に、天板、底板、背板等の板材を取り付ける構造では、板材の接合部にダボを取り付け、接着剤を塗布することが一般的に行われている。この際、塗布する接着剤の量や、板材の寸法のバラツキ等により、キャビネットを支持する強度にバラツキが生じる。さらに家具やキャビネット等に付属の扉の開閉動作等による振動により、或いはキャビネットへの大きな積載物荷重等により、接合部が弛んでくるおそれがある。
【0003】
この接合部の弛みを防ぐために、板材の間に補強具を取り付ける場合もあるが、この補強具が露出し目立つので外観を損ね、キャビネットの商品価値を低下させるおそれがある。さらに、背板と側板を構成する板材に、補強具などをねじによって接合させなければならず、そのねじ止め作業のために組み立てに時間が掛かり、その分人件費等が多く嵩み、低コストでキャビネットを組み立てることができなかった。
【0004】
また、キャビネットを組み立てる際に、接着剤を用いることで、接着が完了するまでの養生時間が必要となる。このため、接着剤を養生させるためにさらに時間が掛かり、このことも低コストでキャビネットを組み立てることができない一因となっていた。
【0005】
これらの問題点を踏まえ、板材の接合の際に接着剤を必要とせず、接合箇所が目立ちにくく外観を損ないにくいようにすることを目的とした接合構造のキャビネットも提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1には、第一パネルに主平面上の接合部位に開口する第一挿入孔を設け、これと対応させて第二パネルに接合端面に開口する第二挿入孔を設け、第二パネルにはその主平面に開口し且つ第二挿入孔に連通する係止用分岐孔を設け、第一挿入孔及び第二挿入孔には結合部材が挿入され、結合部材の第一挿入孔への挿入側表面には抜止凸部を、第二挿入孔への挿入側先端部に係合部を設け、この係合部に係合する係止部を持つ係止部材を係止用分岐孔から挿入して結合部材を止着した構成のキャビネットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された従来のキャビネットでは、結合部材を止着するために、第一接合孔及び第二接合孔だけでなく、係止部材を挿入するための係止用分岐孔を設ける必要がある。このため、特許文献1に開示された従来のキャビネットでは、この係止用分岐孔に挿入された係止部材の上端面が、キャビネットの外側から見える箇所である場合は、目につき、外観を損ねるおそれがあるという問題点があった。また、特許文献1に開示された従来のキャビネットでは、接合構造がやや煩雑なことから、コストアップにつながるうえに、工具を用い、それなりの組立要領が必要とされることも加わり、作業者の負担が多く、組立の作業性が良いとは言えないという問題点もあった(同文献1の
図1~
図4等を参照)。
【0009】
さらに、吊式キャビネットを、キッチン等の壁面に吊られるように組み立てる場合には、従来では、組立作業を行うにあたり、使用する部材等を支えることなどが必要となるため、少なくとも二人の作業者が必要であった。
【0010】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、接着剤を必要とせず、外観を損なわず、低コストで実施でき、且つ組立の作業性が良く、そのうえ、一人の作業者でも行うことができる吊式キャビネットの壁面組立方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、第1発明に係る吊式キャビネットの壁面組立方法は、板材である、背板、2枚の側板、天板、底板を有する吊式キャビネットを、部屋の壁面に吊られるように組み立てる吊式キャビネットの壁面組立方法であって、前記背板を、前記壁面に固定する第1工程と、前記背板に、前記2枚の側板、前記天板、前記底板を取り付ける第2工程と、を有し、これら板材それぞれを第1板材、第2板材として、前記第1板材と前記第2板材の少なくとも一組を、第1の接合構造を用いて接合し、前記第1板材と前記第2板材の残る組を、板材の第2の接合構造を用いて接合し、前記第1の接合構造は、その主平面の面内方向に向けて延設されると共に当該主平面に開口された第1開口部と、当該第1開口部の内部に第1係合凹部と、が設けられた第1接合孔を有する前記第1板材と、その主平面の前記端面の長さ方向に対して平行な面内方向に向けて延設されると共に当該主平面に開口された第2開口部と、当該第2開口部の内部に第2係合凹部と、が設けられた第2接合孔を有する前記第2板材と、接合部材本体部から略直角な2方向に突出する第1足部及び第2足部と、前記第1足部の先端に設けられ、前記第1係合凹部に嵌合可能な第1係合凸部と、前記第2足部の先端に設けられ、前記第2係合凹部に嵌合可能な第2係合凸部と、を有する接合部材と、を備え、前記接合部材の前記第1足部及び前記第1係合凸部が、前記第1開口部から挿入され、前記第1係合凸部が、前記第1係合凹部に嵌合されると共に、前記接合部材の前記第2足部及び前記第2係合凸部が、前記第2開口部から挿入され、前記第2係合凸部が、前記第2係合凹部に嵌合される構成であり、前記第2の接合構造は、その主平面におけるその端面の長さ方向と平行な面内方向に向けて延設されると共に、当該主平面に開口された開口部と、当該開口部の内部に、前記主平面に向けて開口された断面略C字型であり、外側に弾性変形可能なその両端が互いに内側に向けて折り曲げられ、前記長さ方向に沿って嵌合された被接合部材によって形成された係合凹部と、が設けられた接合孔を有する前記第1板材と、その端面から突出する足部と、当該足部の先端にくびれ部を介して当該くびれ部より厚さ方向に拡幅されて設けられ、前記係合凹部に嵌合可能な係合凸部と、を有する前記第2板材と、を備え、前記第2板材の前記足部及び前記係合凸部が、前記第1板材の前記開口部から挿入され、前記係合凸部が、前記係合凹部に嵌合される構成であることを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る吊式キャビネットの壁面組立方法は、第1発明において、前記第2工程の後に、前記第1工程を行うことを特徴とする。
【0013】
第3発明に係る吊式キャビネットの壁面組立方法は、第1発明又は第2発明において、前記第1の接合構造では、前記第1接合孔と、前記第2接合孔とは、前記接合部材の嵌合方向における断面の形状及びサイズが略同一とされていると共に、前記接合部材の前記第1足部及び前記第1係合凸部と、前記第2足部及び前記第2係合凸部とは、前記接合部材の嵌合方向における断面の形状及びサイズが略同一とされていることを特徴とする。
【0014】
第4発明に係る吊式キャビネットの壁面組立方法は、第1発明~第3発明の何れかにおいて、前記第1の接合構造では、前記第1足部の前記第1接合孔の前記第1開口部に挿入する際に接する第1案内面と、前記第2足部の前記第2接合孔の前記第2開口部に挿入する際に接する第2案内面と、は、断面略弧状の曲面に形成されていることを特徴とする。
【0015】
第5発明に係る吊式キャビネットの壁面組立方法は、第1発明~第4発明の何れかにおいて、前記第1の接合構造では、前記接合部材の前記接合部材本体部における前記第1板材及び前記第2板材と接合される側と反対側の面は、略直交する前記第1板材の前記主平面と、前記第2板材の前記主平面と、の交わり部に略倣った形状に形成されていることを特徴とする。
【0016】
第6発明に係る吊式キャビネットの壁面組立方法は、第1発明~第5発明の何れかにおいて、前記第2の接合構造では、前記接合孔は、前記被接合部材の少なくとも片側の側面と離間するように形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1発明~第6発明に係る吊式キャビネットの壁面組立方法によれば、作業者による組立作業は、殆ど工具を使用せずに済み、挿入、回転させるだけである。これによって、接着剤を必要とせず、外観を損なわず、低コストで実施でき、且つ組立の作業性が良く、そのうえ、一人の作業者でも行うことができる吊式キャビネットの壁面組立方法を提供することができる。
【0018】
特に、第2発明に係る吊式キャビネットの壁面組立方法によれば、第2工程の後に、第1工程を行う。これによって、吊式キャビネットを部屋の床等で組み立ててから、壁に取り付けることができる。
【0019】
特に、第3発明に係る吊式キャビネットの壁面組立方法によれば、第1の接合構造では、第1接合孔と、第2接合孔とは、接合部材の嵌合方向における断面の形状及びサイズが略同一とされていると共に、接合部材の第1足部及び第1係合凸部と、第2足部及び第2係合凸部とは、接合部材の嵌合方向における断面の形状及びサイズが略同一とされている。これによって、接合部材の嵌合向きを、第1板材と第2板材に対して逆にして用いることもできるので、使い勝手が良い。
【0020】
特に、第4発明に係る吊式キャビネットの壁面組立方法によれば、第1の接合構造では、第1足部の第1接合孔の第1開口部に挿入する際に接する第1案内面と、第2足部の第2接合孔の第2開口部に挿入する際に接する第2案内面と、は、断面略弧状の曲面に形成されている。これによって、第1足部及び第2足部を第1接合孔の第1開口部及び第2接合孔の第2開口部にそれぞれ挿入する際に、第1案内面と第2案内面とによりスムーズに挿入できるので、組立の作業性をより良くすることができる。
【0021】
特に、第5発明に係る吊式キャビネットの壁面組立方法によれば、第1の接合構造では、接合部材の接合部材本体部における第1板材及び第2板材と接合される側と反対側の面は、略直交する第1板材の主平面と、第2板材の主平面と、の交わり部に略倣った形状に形成されている。これによって、接合部材の外側面が第1板材の主平面と、第2板材の主平面と、の交わり部に略倣った形状なので、外観を損なわずに済み、接合部材の部材量を少なくすることができるので、より低コストで実施できる。
【0022】
特に、第6発明に係る吊式キャビネットの壁面組立方法によれば、第2の接合構造では、接合孔は、前記被接合部材の少なくとも片側の側面と離間するように形成されている。これによって、被接合部材の側面が接合孔の内側面と干渉し難くなるので、板材同士の接合をよりスムーズに行え、組立の作業性をより良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法によって組み立てた吊式キャビネットの組み上がり段階を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法に用いられる第1の接合構造を示す側面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法に用いられる第1の接合構造の組立段階を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法に用いられる第1の接合構造の組立段階を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法に用いられる第1の接合構造の組立段階を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法に用いられる第1の接合構造の組立完成段階を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法に用いられる第2の接合構造を示す側面図である。
【
図8】
図8は、
図7の第1板材における第2開口部の内部に嵌合される被接合部材を示す斜視図である。
【
図9】
図9(a)は、本発明の実施形態1に係る板材の第2の接合構造の組立段階において、被接合部材に係合凸部を挿入する前の状態を示す側面図であり、
図9(b)は、被接合部材に係合凸部を挿入中の状態を示す側面図であり、
図9(c)は、被接合部材に係合凸部を挿入後の状態を示す側面図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法に用いられる第2の接合構造の組立段階を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法に用いられる第2の接合構造の組立完成段階を示す斜視図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法の組立段階を示す斜視図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法の組立段階を示す斜視図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法の組立段階を示す斜視図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法の組立段階を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を適用して例示した実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
[実施形態]
本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法によって組み立てられた吊式キャビネット100は、
図1に例示するように、壁2、床3、天井4、壁5を有するキッチン等の部屋1の壁2の表面に吊られるように設けられている。
【0026】
この吊式キャビネット100は、背板11、第1の側板12、天板13、底板14、第2の側板15と、のそれぞれを接合することで構成されている。この吊式キャビネット100では、背板11と天板13、及び背板11と底板14が、それぞれ第1の接合構造10Aにより接合されている。さらに、この吊式キャビネット100では、背板11と第1の側板12、第1の側板12と天板13、第1の側板12と底板14、第2の側板15と背板11、第2の側板15と天板13、及び第2の側板15と底板14が、それぞれ第2の接合構造10Bにより接合されている。
【0027】
なお、背板11、第1の側板12、天板13、底板14、及び第2の側板15には、無垢材、合板、集成材、MDF(Medium density fiberboard)又はパーチクルボード等の木材が使用されている。但し、これに限定されず、第1板材1Aには、例えば鋼板やステンレス等の金属材を使用してもよいし、或いは、アクリル系、ウレタン系、及びFRP(Fiber Reinforced Plastics)等の樹脂材を使用してもよい。
【0028】
上記したように、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法によって組み立てられた吊式キャビネット100は、第1の接合構造10Aと、第2の接合構造10Bと、を用いて、背板11、第1の側板12、天板13、底板14、第2の側板15と、のそれぞれを接合することで構成されている。よって、第1の接合構造10A及び第2の接合構造10Bについて以下で詳細に説明する。
【0029】
(第1の接合構造10A)
第1の接合構造10Aは、
図2に示すように、第1板材1Aの主平面1aに第2板材2Aの端面2bを接合するための板材の接合構造である。ここで、上記した吊式キャビネット100において、背板11と天板13、及び背板11と底板14が、それぞれこの第1の接合構造10Aによって接合されている。
【0030】
この第1の接合構造10Aは、
図2に示すように、第1板材1Aと、第2板材2Aと、接合部材3Aと、を備えている。
【0031】
第1板材1Aは、主平面1aの端面1bの長さ方向に対して平行な面内方向に向けて両端面を貫通するように延設されると共に主平面1aに開口された第1開口部41と、第1開口部41の内部に第1係合凹部42と、が設けられた第1接合孔4Aを有する。なお、第1接合孔4Aは、一端面のみを貫通させたり、両端面を貫通さなかったりして実施してもよい。また、第1係合凹部42と対向する位置の凹部43は、第1接合孔4Aを開けるための孔開具の単なる機能上で設けられたものであり、無くてもよい。
【0032】
第2板材2Aは、主平面2aの端面2bの長さ方向に対して平行な面内方向に向けて両端面を貫通するように延設されると共に主平面2aに開口された第2開口部51と、第2開口部51の内部に第2係合凹部52と、が設けられた第2接合孔5Aを有する。なお、第2接合孔5Aは、一端面のみを貫通させたり、両端面を貫通さなかったりして実施してもよい。また、第2係合凹部52と対向する位置の凹部53も、第1接合孔5Aを開けるための孔開具の単なる機能上で設けられたものであり、無くてもよい。
【0033】
接合部材3Aは、断面略L字型の接合部材本体部30Aから略直角な2方向に突出する第1足部31及び第2足部32と、第1足部31の先端に設けられ、第1足部31より厚さ方向に薄い第1係合凹部42に嵌合可能な第1係合凸部311と、第2足部32の先端に設けられ、第2足部32より厚さ方向に薄い第2係合凹部52に嵌合可能な第2係合凸部321と、を有する。
【0034】
なお、接合部材3Aには、樹脂製のものが使用されているが、これに限定されず、例えば金属製やその他の材料からなるものを使用してもよい。
【0035】
そして、第1の接合構造10Aは、接合部材3Aの第1足部31及び第1係合凸部311が、第1開口部41から挿入され、第1係合凸部311が、第1係合凹部42に嵌合されていると共に、接合部材3Aの第2足部32及び第2係合凸部321が、第2開口部51から挿入され、第2係合凸部321が、第2係合凹部52に嵌合された構成である。
【0036】
ここで、この第1の接合構造10Aでは、第1接合孔4Aと、第2接合孔5Aとは、接合部材3Aの嵌合方向における断面の形状及びサイズが略同一とされていると共に、接合部材3Aの第1足部31及び第1係合凸部311と、第2足部32及び第2係合凸部321とは、接合部材3Aの嵌合方向における断面の形状及びサイズが略同一とされている。
【0037】
また、この第1の接合構造10Aでは、第1足部31の第1接合孔4Aの第1開口部41に挿入する際に接する第1案内面31aと、第2足部32の第2接合孔5Aの第2開口部51に挿入する際に接する第2案内面32aと、は、断面略弧状の曲面に形成されている。
【0038】
さらに、この第1の接合構造10Aでは、接合部材3Aの接合部材本体部30Aにおける第1板材1A及び第2板材2Aと接合される側と反対側の面33は、略直交する第1板材1Aの主平面1aと、第2板材2Aの主平面2aと、の交わり部Xに略倣った形状に形成されている。
【0039】
次に、上述した板材の第1の接合構造10Aの接合方法について説明する。
【0040】
先ず、
図3に示すように、接合部材3Aの第2係合凸部321を、第2板材2Aの第2接合孔5Aに向けて移動させる。
【0041】
そして、接合部材3Aの第2足部32及び第2係合凸部321を、接合部材3Aを第2板材2Aの主平面2aに向かって回転させながら、第2開口部51から挿入し、
図4に示すように、第2係合凸部321を、第2係合凹部52に嵌合させる。
【0042】
続いて、第1板材1Aの第1接合孔4Aを、接合部材3Aの第1係合凸部311に向けて移動させ、
図5に示すように、接合部材3Aの第1足部31及び第1係合凸部311を、第1板材1Aの主平面1aを接合部材3Aに向かって回転させながら、第1開口部41から挿入する。
【0043】
そして、第1係合凸部311を、第1係合凹部42に嵌合させると、
図6に示すように、接合構造10Aが完成する。
【0044】
なお、これとは逆の手順で、第1板材1Aの第1係合凹部42に接合部材3Aの第1係合凸部311を嵌合させてから、接合部材3Aの第2係合凸部321 を第2板材2Aの第2係合凹部52に嵌合させるようにして実施してもよい。
【0045】
(第2の接合構造10B)
第2の接合構造10Bは、
図7に示すように、第1板材1Bの主平面1aに第2板材2Bの端面2bを接合するための板材の接合構造である。ここで、上記した吊式キャビネット100において、背板11と第1の側板12、第1の側板12と天板13、第1の側板12と底板14、第2の側板15と背板11、第2の側板15と天板13、及び第2の側板15と底板14が、それぞれこの第2の接合構造10Bによって接合されている。
【0046】
この第2の接合構造10Bは、
図7に示すように、第1板材1Bと、第2板材2Bとを備えている。
【0047】
第1板材1Bは、主平面1aにおける端面1bの長さ方向と平行な面内方向に向けて両端面を貫通するように延設されると共に主平面1aに開口された開口部51と、開口部51の内部の凹部55に、主平面1aに向けて開口された断面略C字型であり、外側に弾性変形可能なその両端が互いに内側に向けて折り曲げられ、長さ方向に沿って嵌合された被接合部材6(
図8も参照)によって形成された係合凹部50Bと、が設けられた接合孔5Bを有する。なお、接合孔5Bは、一端面のみを貫通させたり、両端面を貫通さなかったりして実施してもよい。
【0048】
なお、被接合部材6には、樹脂製のものが使用されているが、これに限定されず、例えば金属製やその他の材料からなるものを使用してもよい。
【0049】
第2板材2Bは、端面2bから突出する足部7と、この足部7の先端にくびれ部71を介してこのくびれ部71より厚さ方向に拡幅されて設けられ、係合凹部50Bに嵌合可能な係合凸部72と、を有する。
【0050】
そして、第2の接合構造10Bは、第2板材2Bの足部7及び係合凸部72が、第1板材1Bの開口部51から挿入され、係合凸部72が、係合凹部50Bに嵌合された構成である。
【0051】
ここで、この第2の接合構造10Bでは、接合孔5Bの凹部55は、被接合部材6の両側面61,61と離間するように形成されている。
【0052】
また、
図9(a)~
図9(c)に示すように、係合凸部72の先端面は、丸みを帯びた形状とされ、被係合部材6の係止部62が、側面61との角度が90°より小さくなるように湾曲し、形成され、係止部62は、互いの幅dが係合凸部72の幅より小さく、且つくびれ部71の幅より小さくなるように形成されている。なお、係止部62は、互いの幅dが係合凸部71の幅より小さく、且つくびれ部71の幅以上となるように形成して実施してもよい。また、
図9(a)~
図9(c)におけるLは、第2係合凸部323の中心線である。
【0053】
次に、上述した板材の第2の接合構造10Bの接合方法について説明する。
【0054】
先ず、
図10に示すように、第2板材2Bの足部7及び係合凸部72を、第1板材1Bの開口部51に向けて移動させる。
【0055】
続いて、第2板材2Bの部7及び係合凸部72を、第1板材1Bの開口部51に挿入する。
【0056】
そして、係合凸部72を、係合凹部50Bに嵌合させると、
図11に示すように、接合構造10Bが完成する。
【0057】
なお、これとは逆の手順で、第1板材1Bを、第2板材2Bに向かって移動させ、係合凸部72を、係合凹部50Bに嵌合させるようにして実施してもよい。
【0058】
(吊式キャビネットの壁面組立方法)
次に、本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法の一例について説明する。
【0059】
先ず、
図12に示すように、部屋1の壁2の表面に、図示は省略したが、ねじ止め、フック止め等の専用部品を用いた接着剤を必要としない固定手段によって背板11を固定する。
【0060】
続いて、
図13に示すように、背板11の左側縁部に第1の側板12を、第2の接合構造10Bによって接合する。この際、作業者が次の天板13を接合する作業を行うまでの短い時間内では、第1の側板12は、第2の接合構造10Bによる嵌合力のみによって落下しないように支持できるので、手で押さえておいたり、押え用の特別な治具等を用いたりする必要はない。
【0061】
続いて、
図14に示すように、背板11の上側縁部に天板13を、第1の接合構造10Aによって接合するとともに、第1の側板12の上側縁部に天板13を、第2の接合構造10Bによって接合する。この際、天板13を背板11の上側縁部に接合するのに用いられる第1の接合構造10Aの接合部材3Aは、背板11又は天板13に、その端面側からのスライドによる取り付けではなく、その主平面側から取り付けておき、天板13を下方へ回転させて両者を接合するように用いるため、例えば、壁5との間が狭くても支障がない。
【0062】
続いて、
図15に示すように、背板11の下側縁部に底板14を、第1の接合構造10Aによって接合するとともに、第1の側板12の下縁部に底板14を、第2の接合構造10Bによって接合する。この際、底板15を背板11の下側縁部に接合するのに用いられる第1の接合構造10Aの接合部材3Aは、背板11又は底板15に、その端面側からのスライドによる取り付けではなく、その主平面側から取り付けておき、底板14を上方へ回転させて両者を接合するように用いるため、例えば、壁5との間が狭くても支障がない。
【0063】
そして、背板11、天板13、及び底板14の右側縁部に第2の側板15を、第2の接合構造10Bによって接合すると、
図1に示すように、吊式キャビネット100が組み上がる。
【0064】
最後に、図示は省略したが、棚板、化粧扉等を取り付けることによって、吊式キャビネット100が完成する。
【0065】
なお、背板11を壁2に固定するより後の組立手順は、上記したものに限定されず、様々な手順で組み立ててもよい。
【0066】
また、上記した本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法の一例による第1の接合構造10Aと第2の接合構造10Bとの使い分けには限定されず、第1の接合構造10Aと第2の接合構造10Bとは、様々に使い分けて実施してもよい。
【0067】
さらに、部屋1の床3等で、吊式キャビネット100を組み立てておいてから、この吊式キャビネット100を、壁2に取り付けることもできる。
【0068】
以上説明した本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法によれば、作業者による組立作業は、背板11を壁2にねじ止めする場合等に用いるドライバー等のねじ回し工具以外は、殆ど工具を使用せずに済み、挿入、回転させるだけである。これによって、接着剤を必要とせず、外観を損なわず、低コストで実施でき、且つ組立の作業性が良く、そのうえ、一人の作業者でも行うことができる吊式キャビネットの壁面組立方法を提供することができる。
【0069】
特に、
図1に例示したものでは、第2の側板15を接合するにあたり、壁5の表面との間が狭いので、狭い空間内で組立作業を行える本発明の実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法は有効である。
【0070】
また、
図1に例示したものでは、背板11と天板13、及び背板11と底板14が、それぞれ上記した断面略L字型の接合部材本体部30Aを有する接合部材3Aで第1板材1Aと第2板材2Aとを接合する第1の接合構造10Aにより接合されているので、特に鉛直方向の荷重に十分耐え得る強度を有する吊式キャビネット100を提供することができる。
【0071】
また、部屋1の床3等で、吊式キャビネット100を組み立てておいてから、この吊式キャビネット100を、壁2に取り付けることもできる。これによって、例えば、第2の側板15と部屋1の壁5との間に殆ど隙間が無い場合等にも対応することができる。
【0072】
また、この実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法に用いられる接続構造10Aでは、第1接合孔4Aと、第2接合孔5Aとは、接合部材3Aの嵌合方向における断面の形状及びサイズが略同一とされていると共に、接合部材3Aの第1足部31及び第1係合凸部311と、第2足部32及び第2係合凸部321とは、接合部材3Aの嵌合方向における断面の形状及びサイズが略同一とされている。これによって、接合部材3Aの嵌合向きを、第1板材1Aと第2板材2Aに対して逆にして用いることもできるので、使い勝手が良い。
【0073】
また、この実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法に用いられる接続構造10Aでは、第1足部31の第1接合孔4Aの第1開口部41に挿入する際に接する第1案内面31aと、第2足部32の第2接合孔5Aの第2開口部51に挿入する際に接する第2案内面32aと、は、断面略弧状の曲面に形成されている。これによって、第1足部31及び第2足部32を第1接合孔4Aの第1開口部41及び第2接合孔5Aの第2開口部51にそれぞれ挿入する際に、第1案内面31aと第2案内面32aとによりスムーズに挿入できるので、組立の作業性をより良くすることができる。
【0074】
また、この実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法に用いられる接続構造10Aでは、接合部材3Aの接合部材本体部30Aにおける第1板材1A及び第2板材2Aと接合される側と反対側の面33は、略直交する第1板材1Aの主平面1aと、第2板材2Aの主平面2aと、の交わり部Xに略倣った形状に形成されている。これによって、接合部材3Aの外側面が第1板材1Aの主平面1aと、第2板材2Aの主平面2aと、の交わり部Xに略倣った形状なので、外観を損なわずに済み、接合部材の部材量を少なくすることができるので、より低コストで実施できる。
【0075】
また、この実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法に用いられる第2の接合構造10Bでは、接合孔5Bの凹部55は、被接合部材6の両側の側面61,61と離間するように形成されている。これによって、被接合部材6の側面61が接合孔5Bの凹部55の内側面と干渉し難くなるので、板材同士の接合をよりスムーズに行え、組立の作業性をより良くすることができる。
【0076】
さらに、この実施形態に係る吊式キャビネットの壁面組立方法に用いられる第2の接合構造10Bでは、係合凸部72の先端面は、丸みを帯びた形状とされ、被係合部材6の係止部62が、側面61との角度が90°より小さくなるように湾曲し、形成され、係止部62は、互いの幅dが係合凸部72の幅より小さく、且つくびれ部71の幅より小さくなるように形成されている。これによって、
図9(a)~
図9(c)に示すように、この第2の接合構造10Bの組立段階において、係合凹部50Bに係合凸部72を押し込むと、被係合部材6の係止部62に外側の方向fに力が働いて弾性変形し、被接合部材6に係合凸部72を挿入させることが容易となり、作業者の負担を減らすことができる。さらに、
図9(c)に示すように、係止部62がくびれ部71を挟持することにより、係合凸部72を係止して、第1板材1Bと第2板材2Bとの接合構造の強度を向上させることができる。すなわち、係合凸部72が、係合凹部50Bに嵌合しやすく、係止部62はその復元力で略元の位置に戻り、抜けにくい構成とすることができる。
【0077】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
100 吊式キャビネット
1 部屋
2 壁
11 背板
12 第1の側板(側板)
13 天板
14 底板
15 第2の側板(側板)
1A,1B 第1板材
1a 主平面
1b 端面
2A,2B 第2板材
2a 主平面
2b 端面
10A 第1の接合構造
41 第1開口部
42 第1係合凹部
4A 第1接合孔
51 第2開口部
51a 開口部
52 第2係合凹部
50B 係合凹部
5B 接合孔
3A 接合部材
30A 接合部材本体部
31 第1足部
32 第2足部
6 被接合部材
61 被接合部材の側面
7 足部
71 くびれ部
72 係合凸部
311 第1係合凸部
321 第2係合凸部
31a 第1案内面
32a 第2案内面
33 面
X 交わり部