(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び真空ポンプの熱移動抑制部材
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
F04D19/04 D
F04D19/04 E
(21)【出願番号】P 2021147664
(22)【出願日】2021-09-10
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 慶行
(72)【発明者】
【氏名】坂口 祐幸
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-093687(JP,A)
【文献】特開2021-076025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
前記ベースの中心位置に立設したステータコラムと、
前記ステータコラムに対し回転自在に保持されたロータと、
前記ロータの外周側に配置されたステータ部と、
前記ステータ部を加熱する加熱手段と、
前記ベースと前記ステータ部との間に配置され、前記ステータ部と共に排気ガスが流れる流路を形成する隔壁部と、を備えた真空ポンプであって、
前記隔壁部のうち少なくとも一部は、前記ベース、前記ステータコラム、及び前記ロータ
に形成される特定領域と所定の隙間を空けて対向する対向領域を有し、
前記対向領域には、当該対向領域から前記特定領域に対する熱の移動を、前記特定領域と物理的に非接触な状態で抑制する熱移動抑制部材が設けられていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の真空ポンプにおいて、
前記熱移動抑制部材は、前記隔壁部よりも熱伝導率の低い材料で構成されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の真空ポンプにおいて、
前記熱移動抑制部材は、前記隔壁部よりも放射率が低くなるよう表面処理が施されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の真空ポンプにおいて、
前記ベースおよび前記ステータコラムを冷却する冷却手段を備えたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の真空ポンプにおいて、
前記熱移動抑制部材は、円筒状の胴体部と、前記胴体部の一端側から径方向の外側に延在するフランジ部と、を備えることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項6】
請求項5に記載の真空ポンプにおいて、
前記胴体部の軸方向の長さは、前記フランジ部の径方向の長さより大であることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項7】
請求項5または6に記載の真空ポンプにおいて、
前記隔壁部は、前記フランジ部と当接する段差部を有し、
前記フランジ部が前記段差部と当接した状態で、前記フランジ部と前記隔壁部とが面一になることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項8】
ベースと、前記ベースの中心位置に立設したステータコラムと、前記ステータコラムに対し回転自在に保持されたロータと、前記ロータの外周側に配置されたステータ部と、前記ステータ部を加熱する加熱手段と、前記ベースと前記ステータ部との間に配置され、前記ステータ部と共に排気ガスが流れる流路を形成する隔壁部と、を備えた真空ポンプに使用され、前記隔壁部に別体で取り付けられる真空ポンプの熱移動抑制部材であって、
前記熱移動抑制部材は、前記隔壁部に取り付けられた状態で、前記隔壁部から前記ベース、前記ステータコラム、および前記ロータ
に対して、物理的に非接触な状態で熱の移動を抑制することを特徴とする真空ポンプの熱移動抑制部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ及び真空ポンプの熱移動抑制部材に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、例えば特許文献1には、円筒状ステータの反応生成物の堆積を防止し、かつ、円筒状ステータから円筒状ステータの周辺の部材への放射による熱の移動を抑止できるターボ分子ポンプが記載されている。
【0003】
具体的には、特許文献1に記載のターボ分子ポンプは、動翼およびロータ円筒部を有するポンプロータと、動翼と対向する静翼と、ロータ円筒部と対向する円筒状ステータと、円筒状ステータを収容するベースと、円筒状ステータを加熱するステータ加熱部と、を備えている。そして、円筒状ステータの外表面の放射率、及び、円筒状ステータに対向する周辺部材であるロータ円筒部、ベース、動翼、及び、静翼の外表面であって円筒状ステータと対向する外表面の放射率は、動翼の外表面であって静翼と対向する外表面の放射率より小さい構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、円筒状ステータの周辺部材そのものを低放射率の材料にしたり、当該周辺部材の外表面に所定の表面処理を施して放射率を低くしたりしている。そのため、特許文献1では、円筒状ステータの周辺部材を専用部品として設計する必要があり、設計の自由度が低く、汎用性がないという課題がある。
【0006】
また、放射による伝熱だけでなく、円筒状ステータの周辺部材の周囲を流れるガスを通じて、円筒状ステータの周辺部材へ熱が伝わる場合があり、特許文献1の対策では十分とは言えないことがあった。特に円筒状ステータと円筒状ステータの周辺部材とのギャップが狭い個所では、その課題が顕著であった。
【0007】
そこで、本発明の主な目的は、ステータの周辺部材の設計の自由度を高め、汎用性が高く、より伝熱を抑制することが可能な真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、ベースと、前記ベースの中心位置に立設したステータコラムと、前記ステータコラムに対し回転自在に保持されたロータと、前記ロータの外周側に配置されたステータ部と、前記ステータ部を加熱する加熱手段と、前記ベースと前記ステータ部との間に配置され、前記ステータ部と共に排気ガスが流れる流路を形成する隔壁部と、を備えた真空ポンプであって、前記隔壁部のうち少なくとも一部は、前記ベース、前記ステータコラム、及び前記ロータに形成される特定領域と所定の隙間を空けて対向する対向領域を有し、前記対向領域には、当該対向領域から前記特定領域に対する熱の移動を、前記特定領域と物理的に非接触な状態で抑制する熱移動抑制部材が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、上記構成において、前記熱移動抑制部材は、前記隔壁部よりも熱伝導率の低い材料で構成されていることが好ましい。
【0010】
また、上記構成において、前記熱移動抑制部材は、前記隔壁部よりも放射率が低くなるよう表面処理が施されていることが好ましい。
【0011】
また、上記構成において、前記ベースおよび前記ステータコラムを冷却する冷却手段を備えることが好ましい。
【0012】
また、上記構成において、前記熱移動抑制部材は、円筒状の胴体部と、前記胴体部の一端側から径方向の外側に延在するフランジ部と、を備えることが好ましい。
【0013】
また、上記構成において、前記胴体部の軸方向の長さは、前記フランジ部の径方向の長さより大であることが好ましい。
【0014】
また、上記構成において、前記隔壁部は、前記フランジ部と当接する段差部を有し、前記フランジ部が前記段差部と当接した状態で、前記フランジ部と前記隔壁部とが面一になることが好ましい。
【0015】
また、上記目的を達成するために、本発明の別の態様は、ベースと、前記ベースの中心位置に立設したステータコラムと、前記ステータコラムに対し回転自在に保持されたロータと、前記ロータの外周側に配置されたステータ部と、前記ステータ部を加熱する加熱手段と、前記ベースと前記ステータ部との間に配置され、前記ステータ部と共に排気ガスが流れる流路を形成する隔壁部と、を備えた真空ポンプに使用され、前記隔壁部に別体で取り付けられる真空ポンプの熱移動抑制部材であって、前記熱移動抑制部材は、前記隔壁部に取り付けられた状態で、前記隔壁部から前記ベース、前記ステータコラム、および前記ロータに対して、物理的に非接触な状態で熱の移動を抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ステータの周辺部材の設計の自由度を高め、汎用性が高く、より伝熱を抑制することが可能な真空ポンプを提供できる。なお、上記した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面図である。
【
図2】
図1に示すターボ分子ポンプのアンプ回路の回路図である。
【
図3】電流指令値が検出値より大きい場合におけるアンプ制御回路の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】電流指令値が検出値より小さい場合におけるアンプ制御回路の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】
図1のA部を拡大して示す要部拡大図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面図である。
【
図7】
図6のB部を拡大して示す要部拡大図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面図である。
【
図9】
図8のC部を拡大して示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る真空ポンプの実施形態について、ターボ分子ポンプを例に挙げて、図面を参照しながら説明する。
【0019】
(第1実施形態)
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。なお、
図1に示すように、本実施形態において、外筒127は上下に2分割された構成であるが、本発明はこの構成に限定されない。一体型の外筒であっても良い。
【0020】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0021】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0022】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0023】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0024】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0025】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0026】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0027】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0028】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0029】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0030】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129の上方には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に向かって移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0031】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0032】
より詳細には、ネジ溝131aに案内された排気ガスは、ベース部129の上方に形成された環状空間160へと送られ、環状空間160を周回しながら排気口133を介して外部に排出される。この環状空間160は、回転体(ロータ)103の円筒部102d、ネジ付スペーサ(ステータ部)131、ヒータスペーサ153、及びインシュレータウォール(隔壁部)152とで仕切られた環状の空間である。
【0033】
ここで、ヒータスペーサ153は、円筒状に形成され、ネジ付スペーサ131とインシュレータウォール152との間に介装される。ヒータスペーサ153は、例えばアルミニウムやステンレス等の金属により構成される。このヒータスペーサ153によって、ネジ付スペーサ131とインシュレータウォール152とが軸方向に位置決めされる。ヒータスペーサ153には加熱手段としてのヒータ195が差し込まれており、ヒータ195が発熱することで、ヒータスペーサ153を介してネジ付スペーサ131が加熱される。また、ヒータ195により、環状空間160を流れる排気ガスも加熱される。これにより、排気ガスの温度低下による堆積物の生成が抑制される。
【0034】
インシュレータウォール152は、例えば、アルミニウムやステンレス等の金属で構成された円盤状の部材である。インシュレータウォール152は、ベース部129の上方かつネジ付スペーサ131の下方、即ち、ターボ分子ポンプ100の軸方向におけるベース部129とネジ付スペーサ131との間に配置されており、ベース部129との間に所定の隙間が設けられている。この隙間により、インシュレータウォール152からベース部129へ熱が伝わるのを防止している。また、インシュレータウォール152の内周面には、熱移動抑制部材155が取り付けられている。この熱移動抑制部材155は、インシュレータウォール152に伝わった熱が、後述するステータコラム122及びベース部129に移動(熱伝導及び/または放熱)するのを抑制するためのものである。なお、インシュレータウォール152周辺の構成については、後ほど詳しく説明する。
【0035】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0036】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0037】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0038】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0039】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0040】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。なお、
図1に示す通り、ステータコラム122は、ベース部129の中心位置に立設している。また、後述するように、本実施形態では、ベース部129に冷却手段としての水冷管149が設けられている。この水冷管149に冷却水が供給されることで、ベース部129及びステータコラム122は好適な温度に保たれている。
【0041】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0042】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0043】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0044】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0045】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を
図2に示す。
【0046】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0047】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0048】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0049】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0050】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0051】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0052】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0053】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0054】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0055】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0056】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0057】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0058】
次に、第1実施形態に係るターボ分子ポンプ100の特徴部分について、詳しく説明する。
図5は
図1のA部を拡大して示す要部拡大図である。
図5に示すように、ネジ付スペーサ131とインシュレータウォール152とは軸方向に間隔を空けて配置され、両者の間にヒータスペーサ153が介装されている。吸気口101から取り込まれた排気ガスは、
図5中の矢印Fのように、ネジ溝131aと円筒部102dの間を通過して、環状空間160に入り込む。そして、排気ガスは、この環状空間160を流れて排気口133から外部に排出される。
【0059】
インシュレータウォール152は、円盤状の基部152aと、基部152aの内周側に立設する円筒部152bと、円筒部152bから径方向の外方(
図5における右側)に延在する係止部152cと、段差部152dと、を備える。
【0060】
回転体103の円筒部102dの下端面、ステータコラム122の下部、及びベース部129の中心部には、それぞれ特定領域Rが形成されている。これら特定領域Rは、インシュレータウォール152と対向する領域である。そして、インシュレータウォール152の表面のうち特定領域Rと対向する領域には、インシュレータウォール152と別体から成る熱移動抑制部材155が取り付けられている。要するに、インシュレータウォール152の内周面に熱移動抑制部材155が着脱自在に設けられている。
【0061】
熱移動抑制部材155は、円筒状の胴体部155bと、胴体部155bの上端部から径方向の外方に延在する上フランジ部155aと、胴体部155bの下端部から径方向の外方に延在する下フランジ部155cと、を備えている。そして、上フランジ部155aの上面と円筒部102dの下端面との間には、シール構造としての僅かな隙間CLが形成されている。この隙間CLにより、ネジ溝131aからの排気ガスがステータコラム122側に流れ込むことを防止している。
【0062】
ここで、上フランジ部155aの径方向の長さ(幅)aと、下フランジ部155cの径方向の長さ(幅)cとの関係は、長さa<長さcである。これは、インシュレータウォール152の基部152aからベース部129に形成された特定領域Rへの熱の移動を効果的に抑制するためである。また、長さaは、上記したシール構造の性能(シール性能)やモータ121の負荷を考慮して好適な長さにしてある。また、胴体部155bの軸方向の長さ(高さ)bと、上フランジ部155aの長さaと、下フランジ部155cの長さcとの関係は、長さa<長さc<長さbである。これは、インシュレータウォール152の円筒部152bからステータコラム122の特定領域Rへの熱の移動を効果的に抑制するためである。
【0063】
熱移動抑制部材155をインシュレータウォール152の内周面に取り付けると、熱移動抑制部材155の上フランジ部155aがインシュレータウォール52の係止部152cに係止され、下フランジ部155cが段差部152dと当接する。ここで、段差部152dの高さは、下フランジ部155cの厚さと同じ寸法になっているため、下フランジ部155cの表面とインシュレータウォール152の基部152aの表面とが面一となる。
【0064】
熱移動抑制部材155は、インシュレータウォール152より熱伝導率が低い材料で構成されている。例えば本実施形態では、熱移動抑制部材155はステンレスで構成されている。上述の対策により、熱移動抑制部材155は、インシュレータウォール152に蓄えられた熱が特定領域Rに向かって移動するのを抑止できる。具体的には、インシュレータウォール152はヒータ195や排気ガスにより温度が上昇するが、熱移動抑制部材155は熱伝導率がインシュレータウォール152より低いため、熱移動抑制部材155から特定領域Rに向かって熱伝達が抑えられることとなる。
【0065】
このように構成された第1実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0066】
熱移動抑制部材155がインシュレータウォール152と別体で構成されているため、インシュレータウォール152の設計を変更することなく、取り扱いガスの条件に応じて熱移動抑制部材155を適宜、設計変更すれば、あらゆる使用環境に対応できる。よって、本実施形態によれば、設計の自由度が高く、汎用性が高い。また、熱移動抑制部材155のみを好適な材料にすれば良いので、インシュレータウォール152自体の材料を変更する必要がない。よって、本実施形態は、コスト削減にも貢献する。
【0067】
熱移動抑制部材155がインシュレータウォール152と別体で構成されているため、熱移動抑制部材155への伝熱は、固体同士の伝熱形態の熱伝導となり熱の移動を抑制できる。また、熱移動抑制部材155が熱伝導率の低い部材でできているため、より熱移動抑制部材155の温度が上がり難い。熱移動抑制部材155によって、インシュレータウォール152からステータコラム122、回転体103の円筒部102d、及びベース部129(即ち、特定領域R)への熱の移動が抑制される。よって、ステータコラム122内の電装部品が熱により故障することを未然に防ぐことができる。また、ベース部129内の水冷管149を流れる水の温度の上昇も抑えることができる。
【0068】
また、熱移動抑制部材155が胴体部155bと、上下のフランジ部155a,155cとで構成されているため、上フランジ部155aをインシュレータウォール152の係止部152cに係止させ、下フランジ部155cをインシュレータウォール152の段差部152dに当接させるだけで、簡単に熱移動抑制部材155をインシュレータウォール152に取り付けることができる。そして、段差部152dによって、熱移動抑制部材155の下端面とインシュレータウォール152の下端面とが面一になるよう構成されているため、インシュレータウォール152とベース部129との間の隙間が均一となる。よって、例えば、パージガスを流す場合において、パージガスの流路が絞られないから、パージガスの流れがスムーズである。
【0069】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るターボ分子ポンプ100-1について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
図6は本発明の第2実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面図、
図7は
図6のB部を拡大して示す要部拡大図である。
【0070】
第2実施形態は、回転体103の円筒部102dとインシュレータウォール252との間のシール性能を、第1実施形態に比べてさらに向上させた構造となっている点に特徴がある。
図6及び
図7に示すように、第2実施形態では、回転体103の円筒部102dの下端面に凹部102eが設けられており、この凹部102eにインシュレータウォール252及び熱移動抑制部材255の先端部が、僅かの隙間CLを存して入り込んだ構成となっている。
【0071】
そして、
図7に示すように、インシュレータウォール(隔壁部)252は、円盤状の基部252aと、基部252aの内周側に立設する円筒部252bと、段差部252dと、を備える。
【0072】
回転体103の円筒部102dの下端面に形成された凹部102e、ステータコラム122の下部、及びベース部129の中心部には、それぞれ特定領域Rが形成されている。これら特定領域Rは、インシュレータウォール252と対向する領域である。そして、インシュレータウォール252の表面のうち特定領域Rと対向する領域には、インシュレータウォール252と別体から成る熱移動抑制部材255が、インシュレータウォール252に対して着脱自在に取り付けられている。
【0073】
熱移動抑制部材255は、円筒状の胴体部255bと、胴体部255bの上端部からヘアピン状に折れ曲がった屈曲部255aと、胴体部155bの下端部から径方向の外方に延在する下フランジ部255cと、を備えている。
【0074】
ここで、屈曲部255aの隙間dは、インシュレータウォール252の円筒部252bの厚みと略等しい。また、胴体部255bの軸方向の長さ(高さ)eと下フランジ部255cの長さfとの関係は、長さf<長さeである。これは、インシュレータウォール252の円筒部252bからステータコラム122の特定領域Rへの熱の移動を効果的に抑制するためである。
【0075】
熱移動抑制部材255をインシュレータウォール252の内周面に取り付けると、熱移動抑制部材255の屈曲部255aがインシュレータウォール252の円筒部252bの先端に被さるようにして係止され、下フランジ部255cが段差部252dと当接する。この状態で、熱移動抑制部材255の屈曲部255a及びインシュレータウォール252の円筒部252bの先端部が、凹部102eに入り込んでいる。また、段差部252dの高さは、下フランジ部255cの厚さと同じ寸法になっているため、下フランジ部255cの表面とインシュレータウォール252の基部252aの表面とが面一となる。
【0076】
熱移動抑制部材255は、第1実施形態と同様に、インシュレータウォール252より熱伝導率が低い材料で構成されている。さらに、熱移動抑制部材255は、その表面が鏡面仕上げされていて、放射率がインシュレータウォール252より低い。
【0077】
このように構成された第2実施形態によれば、熱移動抑制部材255がインシュレータウォール252に蓄えられた熱が特定領域Rに向かって移動するのを抑止できるなど、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、凹部102eにインシュレータウォール252及び熱移動抑制部材255の一部(先端部)が僅かの隙間CLを存して入り込んでいるため、排気ガスが環状空間160からインシュレータウォール252とステータコラム122の間の隙間に流出するのを防止できる(即ち、シール性能が向上する)といった利点もある。
【0078】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係るターボ分子ポンプ100-2について説明する。なお、第1,2実施形態と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
図8は本発明の第3実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面図、
図9は
図8のC部を拡大して示す要部拡大図である。
【0079】
図8及び
図9に示すように、第3実施形態では、ネジ付スペーサとヒータスペーサとが一体化された構成となっている点に特徴がある。
【0080】
具体的には、
図8に示すように、インシュレータウォール152はネジ付スペーサ331の下端面に当接するように設けられており、インシュレータウォール152とネジ付スペーサ331との間に排気ガスが流れる環状空間160が形成されている。そして、ネジ付スペーサ331にヒータ195が挿入されている。この構成であっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。また、ヒータスペーサ153が不要な構成であるため、部品点数が少ない点において第1実施形態よりも優れる。
【0081】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例や組合せ例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0082】
例えば、熱移動抑制部材155,255の材料として、ステンレスを例示したが、本発明はこれに限定されない。熱移動抑制部材155,255は、インシュレータウォール152,252より熱伝導率が低い材料であれば良い。更に、熱の移動を抑制する方法として、熱移動抑制部材155,255は、インシュレータウォール152,252より放射率が低い材料であると良い。また、材料の選定以外に放射率を下げる方法として、熱移動抑制部材155,255のうち少なくとも特定領域Rに対向する表面を鏡面仕上げし、その表面の放射率を熱移動抑制部材155,255の母材より低くしても良い。また、熱移動抑制部材155,255の表面処理も鏡面加工に限定されない。放射率が低い表面処理であれば良い。
【0083】
また、熱移動抑制部材155,255の軸方向の長さが、インシュレータウォール152,252の円筒部152b,252bの高さと等しい構成を例示したが、熱移動抑制部材155,255の長さは円筒部152b,252bより小さくても良い。
【0084】
また、加熱手段として、カートリッジ型のヒータ195を例示したが、その他の形式のヒータを用いても良い。
【符号の説明】
【0085】
100,100-1,100-2 ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
101 吸気口
102d 円筒部
102e 凹部
103 回転体(ロータ)
122 ステータコラム
127 外筒
129 ベース部(ベース)
131,331 ネジ付スペーサ(ステータ部)
131a,331a ネジ溝
133 排気口
149 冷却管(冷却手段)
152,252 インシュレータウォール(隔壁部)
152a,252a 基部
152b,252b 円筒部
152c 係止部
152d,252d 段差部
153 ヒータスペーサ
155,255 熱移動抑制部材
155a 上フランジ部
155b,255b 胴体部
155c,255c 下フランジ部
160 環状空間(流路)
195 ヒータ(加熱手段)
255a 屈曲部
R 特定領域