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特許7463332真空ポンプ、真空ポンプの軸受保護構造、及び真空ポンプの回転体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】真空ポンプ、真空ポンプの軸受保護構造、及び真空ポンプの回転体
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
F04D19/04 C
F04D19/04 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021186398
(22)【出願日】2021-11-16
(65)【公開番号】P2023073747
(43)【公開日】2023-05-26
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 俊樹
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-030399(JP,U)
【文献】特開2000-205183(JP,A)
【文献】特開2001-003890(JP,A)
【文献】特開2005-105846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04D 29/048
F16C 32/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転翼が設けられた回転体と、
前記回転体の中心に設けられたロータ軸と、
前記ロータ軸を浮上支持する磁気軸受と、
前記ロータ軸と隙間を存して設けられ、前記磁気軸受の制御不能時に前記ロータ軸を支持するタッチダウン軸受と、を備えた真空ポンプであって、
前記タッチダウン軸受を保護する軸受保護構造を有し、
前記軸受保護構造は、
前記回転体と前記回転体の周囲の部品との少なくとも一方に設けられた突出部で構成され、前記ロータ軸の前記タッチダウン軸受へのタッチダウン時に、前記回転体と前記回転体の周囲の部品とが前記突出部を介して接触することにより、前記タッチダウン軸受に作用する前記回転体の運動エネルギを低減し、
前記回転体の背面側には、前記回転体の周囲の部品又はその部品の一部として、排気ガスの乱れを防ぐバックプレートが配置され、
前記突出部は、前記回転体の背面及び前記バックプレートのうち少なくとも一方に設けられていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
回転翼が設けられた回転体と、
前記回転体の中心に設けられたロータ軸と、
前記ロータ軸を浮上支持する磁気軸受と、
前記ロータ軸と隙間を存して設けられ、前記磁気軸受の制御不能時に前記ロータ軸を支持するタッチダウン軸受と、を備えた真空ポンプであって、
前記タッチダウン軸受を保護する軸受保護構造を有し、
前記軸受保護構造は、
前記回転体と前記回転体の周囲の部品との少なくとも一方に設けられた突出部で構成され、前記ロータ軸の前記タッチダウン軸受へのタッチダウン時に、前記回転体と前記回転体の周囲の部品とが前記突出部を介して接触することにより、前記タッチダウン軸受に作用する前記回転体の運動エネルギを低減し、
前記突出部よりも下流側の位置に、前記回転体と前記回転体の周囲の部品との接触時に発生するコンタミを貯留する貯留部が設けられていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項3】
回転翼が設けられた回転体と、
前記回転体の中心に設けられたロータ軸と、
前記ロータ軸を浮上支持する磁気軸受と、
前記ロータ軸と隙間を存して設けられ、前記磁気軸受の制御不能時に前記ロータ軸を支持するタッチダウン軸受と、を備えた真空ポンプであって、
前記タッチダウン軸受を保護する軸受保護構造を有し、
前記軸受保護構造は、
前記回転体と前記回転体の周囲の部品との少なくとも一方に設けられた突出部で構成され、前記ロータ軸の前記タッチダウン軸受へのタッチダウン時に、前記回転体と前記回転体の周囲の部品とが前記突出部を介して接触することにより、前記タッチダウン軸受に作用する前記回転体の運動エネルギを低減し、
前記突出部は複数設けられ、
前記複数の突出部は、円周方向に等間隔に配置されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項4】
回転翼が設けられた回転体と、
前記回転体の中心に設けられたロータ軸と、
前記ロータ軸を浮上支持する磁気軸受と、
前記ロータ軸と隙間を存して設けられ、前記磁気軸受の制御不能時に前記ロータ軸を支持するタッチダウン軸受と、を備えた真空ポンプであって、
前記タッチダウン軸受を保護する軸受保護構造を有し、
前記軸受保護構造は、
前記回転体と前記回転体の周囲の部品との少なくとも一方に設けられた突出部で構成され、前記ロータ軸の前記タッチダウン軸受へのタッチダウン時に、前記回転体と前記回転体の周囲の部品とが前記突出部を介して接触することにより、前記タッチダウン軸受に作用する前記回転体の運動エネルギを低減し、
前記突出部の表面は、前記回転体及び前記回転体の周囲の部品より低摩擦特性を有することを特徴とする真空ポンプ。
【請求項5】
請求項2~4の何れか1項に記載の真空ポンプにおいて、
前記回転体の内周側かつ前記ロータ軸の外周側に配置される、前記回転体の周囲の部品としてのステータコラムを備え、
前記突出部は、前記回転体の内周面及び前記ステータコラムの外周面のうち少なくとも一方に設けられていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項6】
請求項に記載の真空ポンプにおいて、
前記回転体の内周面と前記ステータコラムの外周面との間にパージガスが流れるパージガス流路が形成され、
前記突出部は、前記パージガス流路内に設けられていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項7】
請求項1~の何れか1項に記載の真空ポンプにおいて、
前記突出部は、前記回転体の下流側の端部の近傍に配置されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項8】
回転翼が設けられた回転体と、
前記回転体の中心に設けられたロータ軸と、
前記ロータ軸を浮上支持する磁気軸受と、
前記ロータ軸と隙間を存して設けられ、前記磁気軸受の制御不能時に前記ロータ軸を支持するタッチダウン軸受と、を備えた真空ポンプに適用され、前記タッチダウン軸受を保護する真空ポンプの軸受保護構造であって、
前記軸受保護構造は、
前記回転体と前記回転体の周囲の部品との少なくとも一方に設けられた突出部で構成され、前記ロータ軸の前記タッチダウン軸受へのタッチダウン時に、前記回転体と前記回転体の周囲の部品とが前記突出部を介して接触することにより、前記タッチダウン軸受に作用する前記回転体の運動エネルギを低減し、
前記突出部の表面は、前記回転体及び前記回転体の周囲の部品より低摩擦特性を有することを特徴とする真空ポンプの軸受保護構造。
【請求項9】
真空ポンプに設けられた磁気軸受によって浮上支持され、回転翼と、前記回転翼の中心に設けられたロータ軸とを備えた真空ポンプの回転体であって、
前記真空ポンプは、前記ロータ軸と隙間を存して設けられ、前記磁気軸受の制御不能時に前記ロータ軸を支持するタッチダウン軸受を有し、
前記回転体は、前記タッチダウン軸受を保護する軸受保護構造を有し、
前記軸受保護構造は、
前記ロータ軸の前記タッチダウン軸受へのタッチダウン時に、前記回転体の周囲の部品と接触することにより、前記タッチダウン軸受に作用する前記回転体の運動エネルギを低減する突出部で構成され
前記突出部の表面は、前記回転体及び前記回転体の周囲の部品より低摩擦特性を有することを特徴とする真空ポンプの回転体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ、真空ポンプの軸受保護構造、及び真空ポンプの回転体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ターボ分子ポンプ等に代表される真空ポンプでは、回転体の中心に設けられた回転軸が磁気軸受により支持されている。停電等により磁気軸受が制御不能となった場合に、高速回転する回転軸と磁気軸受とが直接接触して真空ポンプが破損するのを防ぐために、タッチダウン軸受が設けられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-346068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ポンプ仕事量の増加に伴う大型化や高温要求に伴う高耐熱性材への材料変更によって、回転体の重量が重くなり、それに伴って磁気軸受の制御不能時にタッチダウン軸受(保護軸受)が受ける回転体の運動エネルギも大きくなる。より大きい運動エネルギを吸収するための一つの方法として、タッチダウン軸受も大型化すれば良いが、タッチダウン軸受を大型化すると真空ポンプ全体も大型化するため、設計上好ましいとは言えない。
【0005】
そこで、本発明は、磁気軸受の制御不能時において、タッチダウン軸受に作用する回転体の運動エネルギを低減できる真空ポンプ、真空ポンプの軸受保護構造、及び真空ポンプの回転体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、回転翼が設けられた回転体と、前記回転体の中心に設けられたロータ軸と、前記ロータ軸を浮上支持する磁気軸受と、前記ロータ軸と隙間を存して設けられ、前記磁気軸受の制御不能時に前記ロータ軸を支持するタッチダウン軸受と、を備えた真空ポンプであって、前記タッチダウン軸受を保護する軸受保護構造を有し、前記軸受保護構造は、前記回転体と前記回転体の周囲の部品との少なくとも一方に設けられた突出部で構成され、前記ロータ軸の前記タッチダウン軸受へのタッチダウン時に、前記回転体と前記回転体の周囲の部品とが前記突出部を介して接触することにより、前記タッチダウン軸受に作用する前記回転体の運動エネルギを低減することを特徴とする。
【0007】
また、上記構成において、前記回転体の内周側かつ前記ロータ軸の外周側に配置される、前記回転体の周囲の部品としてのステータコラムを備え、前記突出部は、前記回転体の内周面及び前記ステータコラムの外周面のうち少なくとも一方に設けられているのが好ましい。
【0008】
また、上記構成において、前記回転体の内周面と前記ステータコラムの外周面との間にパージガスが流れるパージガス流路が形成され、前記突出部は、前記パージガス流路内に設けられているのが好ましい。
【0009】
また、上記構成において、前記回転体の背面側には、前記回転体の周囲の部品又はその部品の一部として、排気ガスの乱れを防ぐバックプレートが配置され、前記突出部は、前記回転体の背面及び前記バックプレートのうち少なくとも一方に設けられているのが好ましい。
【0010】
また、上記構成において、前記突出部よりも下流側の位置に、前記回転体と前記回転体の周囲の部品との接触時に発生するコンタミを貯留する貯留部が設けられているのが好ましい。
【0011】
また、上記構成において、前記突出部は、前記回転体の下流側の端部の近傍に配置されているのが好ましい。
【0012】
また、上記構成において、前記突出部は複数設けられ、前記複数の突出部は、円周方向に等間隔に配置されているのが好ましい。
【0013】
また、上記構成において、前記突出部の表面は、前記回転体及び前記回転体の周囲の部品より低摩擦特性を有するのが好ましい。
【0014】
また、上記目的を達成するために、本発明の別の態様は、回転翼が設けられた回転体と、前記回転体の中心に設けられたロータ軸と、前記ロータ軸を浮上支持する磁気軸受と、前記ロータ軸と隙間を存して設けられ、前記磁気軸受の制御不能時に前記ロータ軸を支持するタッチダウン軸受と、を備えた真空ポンプに適用され、前記タッチダウン軸受を保護する真空ポンプの軸受保護構造であって、前記軸受保護構造は、前記回転体と前記回転体の周囲の部品との少なくとも一方に設けられた突出部で構成され、前記ロータ軸の前記タッチダウン軸受へのタッチダウン時に、前記回転体と前記回転体の周囲の部品とが前記突出部を介して接触することにより、前記タッチダウン軸受に作用する前記回転体の運動エネルギを低減することを特徴とする。
【0015】
また、上記目的を達成するために、本発明のさらに別の態様は、真空ポンプに設けられた磁気軸受によって浮上支持され、回転翼と、前記回転翼の中心に設けられたロータ軸とを備えた真空ポンプの回転体であって、前記真空ポンプは、前記ロータ軸と隙間を存して設けられ、前記磁気軸受の制御不能時に前記ロータ軸を支持するタッチダウン軸受を有し、前記回転体は、前記タッチダウン軸受を保護する軸受保護構造を有し、前記軸受保護構造は、前記ロータ軸の前記タッチダウン軸受へのタッチダウン時に、前記回転体の周囲の部品と接触することにより、前記タッチダウン軸受に作用する前記回転体の運動エネルギを低減する突出部で構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、磁気軸受の制御不能時において、タッチダウン軸受に作用する回転体の運動エネルギを低減できる。なお、上記した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面図である。
図2図1に示すターボ分子ポンプのアンプ回路の回路図である。
図3】電流指令値が検出値より大きい場合におけるアンプ制御回路の制御を示すタイムチャートである。
図4】電流指令値が検出値より小さい場合におけるアンプ制御回路の制御を示すタイムチャートである。
図5図1のA部を拡大して示す要部拡大図である。
図6】ステータコラムに設けられた複数の突出部の配置関係を示す模式図である。
図7】ターボ分子ポンプの正常運転中における下側タッチダウン軸受の拡大図である。
図8】磁気軸受の制御不能時における下側タッチダウン軸受の拡大図である。
図9】磁気軸受の制御不能後における下側タッチダウン軸受の拡大図である。
図10】変形例1―1に係るターボ分子ポンプの突出部を示す拡大図である。
図11】変形例1-2に係るターボ分子ポンプの突出部を示す拡大図である。
図12】変形例1-3に係るターボ分子ポンプの突出部を示す拡大図である。
図13】変形例1-4に係るターボ分子ポンプの突出部を示す拡大図である。
図14】変形例1-5に係るターボ分子ポンプの突出部を示す拡大図である。
図15】変形例1-6に係るターボ分子ポンプの貯留部を示す拡大図である。
図16】本発明の第2実施形態に係る遠心ポンプの縦断面図である。
図17図16のB部を拡大して示す要部拡大図である。
図18】変形例2-1に係る遠心ポンプの貯留部を示す拡大図である。
図19】変形例2-2に係る遠心ポンプの貯留部を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る真空ポンプの実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
(第1実施形態)
第1実施形態では、真空ポンプとしてターボ分子ポンプ100を例に挙げて説明する。このターボ分子ポンプ100の縦断面図を図1に示す。図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受114により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0020】
磁気軸受114は、上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105、及び軸方向電磁石106A、106Bによって構成されている。上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0021】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0022】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0023】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0024】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0025】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0026】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0027】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0028】
ロータ軸113の下端側には、下側タッチダウン軸受155が設けられている。下側タッチダウン軸受155は、例えばステンレス鋼製の組合せアンギュラ玉軸受で構成されており、磁気軸受114の制御不能時にロータ軸113をラジアル方向及びスラスト方向に支持する。この下側タッチダウン軸受155は、ロータ軸113との間に径方向の隙間S1を存して設けられている。この隙間S1は、概ね0.1mmに設定されている。なお、この隙間S1は、mmオーダや数mm等に設定されても良い。
【0029】
一方、ロータ軸113の上端側には上側タッチダウン軸受156が設けられている。上側タッチダウン軸受156は、例えばステンレス鋼製の深溝玉軸受で構成されおり、磁気軸受114の制御不能時にロータ軸113をラジアル方向に支持する。この上側タッチダウン軸受156は、ロータ軸113との間に径方向の隙間S2を存して設けられている。この隙間S2は、概ね0.1mmオーダに設定されている。なお、この隙間S2は、mmオーダや数mm等に設定されても良い。
【0030】
このように下側タッチダウン軸受155及び上側タッチダウン軸受156が、磁気軸受114の制御不能時にロータ軸113を上記した所定の方向に支持することで、高速回転しているロータ軸113と磁気軸受114とが直接接触してターボ分子ポンプ100が破損することを防止できるようになっている。また、同様に、回転翼102と固定翼123との直接接触,回転体103の円筒部102dとステータコラム122との直接接触、および金属ディスク111と軸方向電磁石106A、106Bとの直接接触に起因して、これらの部品が破損することを防止できるようにもなっている。
【0031】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0032】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0033】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0034】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102及び固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0035】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0036】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0037】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0038】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0039】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われる。ステータコラム122は、回転体103の内周側かつロータ軸113の外周側に配置されている。このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0040】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、下側タッチダウン軸受155とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、回転体103の内周面とステータコラム122の外周面との間に形成されたパージガス流路130を通じて排気口133へ送出される。なお、詳細は後述するが、ステータコラム122の外周面には、複数の突出部160が形成されており、磁気軸受114の制御不能時に、これら突出部160が回転体103の内周面と接触することで、回転体103の運動エネルギを低減するようになっている。
【0041】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0042】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0043】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0044】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0045】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図2に示す。
【0046】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0047】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0048】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0049】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0050】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0051】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0052】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0053】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0054】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0055】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0056】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0057】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0058】
次に、第1実施形態に係るターボ分子ポンプ100の特徴部分について、詳しく説明する。図5図1のA部を拡大して示す要部拡大図、図6はステータコラム122に設けられた複数の突出部160の配置関係を示す模式図である。
【0059】
図5に示すように、複数の突出部160は、パージガス流路130内に設けられている。具体的には、これら突出部160はステータコラム122の下部の周面に設けられる。突出部160の配置場所は、回転体103の下流側の端部の近傍(即ち、回転体103の円筒部102dの下端近傍)であって、比較的、排気口133に近い位置である(図1参照)。また、図6に示すように、複数の突出部160は、ステータコラム122の軸方向から見て、ステータコラム122の円周方向に等間隔に配置されている。本実施形態では、20個の突出部160が、ステータコラム122の円周方向に18度間隔で配置されている。
【0060】
各突出部160は、ステータコラム122の外周面を機械加工することで例えば断面視矩形状に形成されており、ステータコラム122の外周面から回転体103の円筒部102dに向かって突出している。そして、各突出部160は、ロータ軸113の下側タッチダウン軸受155及び上側タッチダウン軸受156へのタッチダウン時に、円筒部102dと接触することで、下側タッチダウン軸受155及び上側タッチダウン軸受156を保護する軸受保護構造として機能する。なお、各突出部160は、例えばセラミック等の金属を溶射することで形成されても良い。
【0061】
各突出部160が形成されているパージガス流路130の幅D1(図5参照)は、各突出部160の先端面と回転体103の円筒部102dとの間の距離に相当する。そして、この幅D1は、下側タッチダウン軸受155とロータ軸113との間の隙間S1(図1参照)よりも大きく、この隙間S1と下側タッチダウン軸受155のマージン(径方向の内部隙間)S1´とを加算した値よりも小さくなるように設定されている。すなわち、S1<D1<(S1+S1´)の関係式が成立するようになっている。これにより、磁気軸受114が制御不能となった場合には、最初にロータ軸113と下側タッチダウン軸受155とが接触し、その後、複数の突出部160と円筒部102dとが接触するようになっている。つまり、回転体103が磁気軸受114によって正常に浮上支持されている状態では、ロータ軸113と下側タッチダウン軸受155とが接触したり、複数の突出部160と円筒部102dとが接触したりしないようになっている。
【0062】
次に、図7図9を参照して、ターボ分子ポンプ100の運転中に磁気軸受114が制御不能となった場合における複数の突出部160と回転体103の円筒部102dとの接触状態の変化について説明する。
【0063】
図7はターボ分子ポンプ100の正常運転中における下側タッチダウン軸受155の拡大図である。また、図8は磁気軸受114の制御不能時における下側タッチダウン軸受155の拡大図である。さらに、図9は磁気軸受114の制御不能後(直後)における下側タッチダウン軸受155の拡大図である。
【0064】
図7に示すように、ターボ分子ポンプ100の運転中においては、回転体103は図中の矢印方向に高速回転を維持している。そして、下側タッチダウン軸受155は、回転体103のロータ軸113と隙間S1を存した状態で静止している。
【0065】
図8に示すように、ターボ分子ポンプ100の運転中に何らかの外的要因(例えば、停電(電源喪失または電力喪失)、ターボ分子ポンプ100に生じた過大な振動、吸気口101からの大量のガスの吸引、作業者によるターボ分子ポンプ100の使用方法の誤りや操作ミス等)により磁気軸受114が制御不能時になると、高速回転している回転体103が、バランスを崩し、回転しながら例えば図中の矢印Hの方向に変位する(傾く)。そして、回転体103のロータ軸113が矢印H方向に隙間S1だけ移動すると、ロータ軸113と下側タッチダウン軸受155とが接触する。この際に、下側タッチダウン軸受155は、回転体103が保持している運動エネルギを吸収する。ここで、回転体103の運動エネルギは、(回転体103の慣性モーメントI)×(回転体103の角速度ωの2乗)で算出される値であり、この慣性モーメントIは回転体103の重量に比例する。よって、回転体103の重量が大きくなる程、回転体103の慣性モーメントIが大きくなり、その結果、回転体103の運動エネルギも大きくなる。
【0066】
図9に示すように、回転体103のロータ軸113が下側タッチダウン軸受155と接触した直後(ほぼ同時期)に、ロータ軸113が、下側タッチダウン軸受155と接触しながら、図9に示す矢印Hの方向(右方向)に下側タッチダウン軸受155のマージンS1´の範囲内でさらに押されると、複数の突出部160と回転体103の円筒部102dとが接触する。つまり、円筒部102dとステータコラム122とが複数の突出部160を介して接触する。そして、この接触によって回転体103が保持している運動エネルギが摩擦熱となる。こうして、回転体103が保持している運動エネルギは、下側タッチダウン軸受155だけでなく、複数の突出部160と接触する円筒部102dの箇所でも吸収されることになる。したがって、下側タッチダウン軸受155に作用する回転体103の運動エネルギを低減できる。
【0067】
なお、上側タッチダウン軸受156は、磁気軸受114の制御不能時に、回転体103のロータ軸113が隙間S2(図1参照)だけ所定の方向に移動すると、ロータ軸113と接触して当該ロータ軸113をラジアル方向に支持し続け、回転体103が保持している運動エネルギを吸収する。
【0068】
このように構成された第1実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0069】
下側タッチダウン軸受155及び上側タッチダウン軸受156を保護する軸受保護構造として、複数の突出部160がステータコラム122(回転体103の周囲の部品)に形成されている。そのため、磁気軸受114が制御不能になり、ロータ軸113が下側タッチダウン軸受155及び上側タッチダウン軸受156へタッチダウンする時に、回転体103とステータコラム122とが複数の突出部106を介して接触できる。したがって、下側タッチダウン軸受155及び上側タッチダウン軸受156に作用する回転体103の運動エネルギを低減できる。
【0070】
また、複数の突出部160は、ステータコラム122の外周面に設けられているので、回転体103を重量化することなく、回転体103の運動エネルギを効率的に低減できる。
【0071】
また、複数の突出部160は、パージガス流路130内に設けられているので、これら突出部160と回転体103の円筒部102dとが接触してコンタミが発生しても、発生したコンタミをパージガス流路130を通じて確実に排出できる。特に、複数の突出部160は、回転体103の下流側の端部の近傍に配置されており、排気口133に近い位置であるため、コンタミの排出に極めて有効である。
【0072】
さらに、複数の突出部160は、ステータコラム122の軸方向から見て、ステータコラム122の円周方向に等間隔に配置されているので、概ね等しいピッチで回転体103とステータコラム122とが複数の突出部106を介して接触できる。そのため、回転体103の運動エネルギを徐々に低減していくことができる。したがって、回転体103の運動エネルギの急激な吸収を抑制し、回転体103とステータコラム122との接触に起因してターボ分子ポンプ100内の各種機器が破損することを防止できる。また、複数の突出部160が等間隔に配置されているため、回転体103の回転バランスが崩れることはない。
【0073】
(変形例1-1)
図10は変形例1-1に係るターボ分子ポンプの突出部160-1を示す拡大図である。図10に示すように、突出部160-1は、回転体103の円筒部102dに形成されている点で上記第1実施形態と異なる。具体的には、突出部160-1は、円筒部102dの内周面の下端部に形成されている。このように構成しても、上記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0074】
(変形例1-2)
図11は変形例1-2に係るターボ分子ポンプ100の突出部160-2を示す拡大図である。図11に示すように、突出部160-2は、回転体103の円筒部102dの外側に位置するネジ付スペーサ131に形成されている点で上記第1実施形態と異なる。具体的には、突出部160-2は、ネジ付スペーサ131の内周面の下端部に形成されている。このように構成しても、上記第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0075】
(変形例1-3)
図12は変形例1-3に係るターボ分子ポンプの突出部160-3を示す拡大図である。図12に示すように、突出部160-3は、上記第1実施形態と形状が異なっている。具体的には、突出部160-3は、先端がR形状に形成されており、上記第1実施形態に比べて低摩擦特性を有する。
【0076】
この構成によれば、上記第1実施形態に比べて、突出部160-3と回転体103の円筒部102dとの接触によって、回転体103の運動エネルギを緩やかに吸収できる。また、突出部160-3と円筒部102dとの接触面積を小さくできるため、できるだけコンタミが発生することを抑制できる。
【0077】
(変形例1-4)
図13は変形例1-4に係るターボ分子ポンプの突出部160-4を示す拡大図である。図13に示すように、突出部160-4は、ラビリンス形状(ヒダ状)に形成されている。この場合も、突出部160-4は、上記第1実施形態に比べて低摩擦特性を有する。
【0078】
この構成によれば、上記変形例1-3と同様の効果を奏することができる。また、回転体103の運動エネルギの緩やかな吸収、及びコンタミの発生の抑制の双方をバランス良く実現できる。
【0079】
(変形例1-5)
図14は変形例1-5に係るターボ分子ポンプの突出部160-5を示す拡大図である。図14に示すように、突出部160-5は、その表面を例えば耐熱性のPTFE等の樹脂材料から成るコーティング部160aによって覆われている。コーティング部160aは、回転体103及びステータコラム122に比べて低摩擦特性を有する。
【0080】
この構成によれば、突出部160-5と回転体103の円筒部102dとの接触面積を十分に確保した上で、回転体103の運動エネルギを緩やかに吸収できる。
【0081】
(変形例1-6)
図15は変形例1-6に係るターボ分子ポンプを示す拡大図である。図15に示すように、このターボ分子ポンプでは、回転体103の円筒部102dの外周面に複数の突出部160が形成されており、これら突出部160よりも排気ガスの流れの下流側の位置に、コンタミを貯留する断面視L字形状の貯留部175が設けられている。
【0082】
この構成によれば、回転体103の円筒部102dとネジ付スペーサ131との接触時にコンタミが発生しても、そのコンタミは下方に落下して貯留部175に貯留される。そのため、コンタミがターボ分子ポンプ内部で飛散することを防止できる。
【0083】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る真空ポンプについて説明する。第2実施形態では、真空ポンプとして遠心ポンプ110を例に挙げて説明する。なお、第1実施形態と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0084】
この遠心ポンプ110の縦断面図を図16に示す。図16において、遠心ポンプ110は、上下3段に分割可能な円筒状の外筒127(127a,127b,127c)の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒(ケーシング)127の内方には、ガスを吸引排気するための羽根車(回転翼)103A,103Bが多段で設けられている。羽根車103A及び羽根車103Bは、中心軸CL上に並べて配置されており、羽根車103Bは羽根車103Aよりも吸気口101側に位置している。羽根車103Bと羽根車103Aの中心には、ロータ軸113が取り付けられている。なお、羽根車103Aと羽根車103Bの構造(仕様)は同じでも良いし、異なっていても良い。
【0085】
羽根車103Aと羽根車103Bは、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。勿論、羽根車103Aと羽根車103Bに用いられる金属は、これらに限定されない。例えば、ステンレス、チタン合金、ニッケル合金などの金属により羽根車103Aと羽根車103Bを構成しても良い。
【0086】
羽根車103Bの背面側には、排気ガスの乱れ(逆流の発生)を防ぐバックプレート170が配置されている。バックプレート170は、円環状に形成された板状部材であり、その内周面と径方向に所定間隔を存してロータ軸113が配置されている。バックプレート170の内周側は、外周側に比べて凹んでおり、羽根車103Bの外周部と軸方向に隙間を存して位置している。また、バックプレート170の外周側は、羽根車103Aの外周部と径方向に隙間を存して並ぶように位置している。詳細は後述するが、バックプレート170の内周側には、上記第1実施形態と同様に、複数の突出部160が形成されている。
【0087】
上側タッチダウン軸受156は、ロータ軸113との間に軸方向の隙間S3を存して設けられている(図17参照)。なお、下側タッチダウン軸受155は、第1実施形態と同様に、ロータ軸113の下端側に設けられている。
【0088】
第2実施形態では、図16中の矢印に示すように、吸気口101から中心軸CLに沿って下向きに吸引されたガスは、羽根車103Bにて半径方向に向きを変えられた後に、羽根車103Aへと導かれる。その後、ガスは羽根車103Aのガス出口部135から排出され、円環状のバッファ空間136を旋回した後、内部空間132を経由して排気口133から排出される。なお、内部空間132は、外筒127とステータコラム122との間に形成され、バッファ空間136と連続する円環状の空間である。
【0089】
次に、第2実施形態に係る遠心ポンプ110の特徴部分について、詳しく説明する。図17図16のB部を拡大して示す要部拡大図である。図17に示すように、バックプレート170の内周側の表面には、複数の突出部160が形成されている。これら突出部160は、羽根車103Bの外周部の背面と対向している。各突出部160の形状は、R形状に形成されている。勿論、各突出部160の形状として、上記第1実施形態の各変形例で説明したラビリンス形状やコーティング部で覆われた構成等を採用しても良い。なお、図示は省略するが、複数の突出部160は、バックプレート170の軸方向から見て、バックプレート170の円周方向に沿って等間隔で設けられている。
【0090】
各突出部160の先端と羽根車103Bの背面との間の幅D2は、上側タッチダウン軸受156とロータ軸113との間の隙間S3よりも大きく、この隙間S3と上側タッチダウン軸受156のマージン(軸方向の内部隙間)S3´とを加算した値よりも小さくなるように設定されている。すなわち、S3<D2<(S3+S3´)の関係式が成立するようになっている。これにより、磁気軸受114が制御不能となった場合には、最初にロータ軸113と上側タッチダウン軸受156とが接触し、その後、複数の突出部160とバックプレート170の背面とが接触するようになっている。つまり、回転体103が磁気軸受114によって正常に浮上支持されている状態では、ロータ軸113と上側タッチダウン軸受156とが接触したり、複数の突出部160とバックプレート170とが接触したりしないようになっている。
【0091】
このように構成された遠心ポンプ110において、磁気軸受114が制御不能となると、回転体(羽根車103A,103B)が、バランスを崩し、回転しながら自重で落下する。そして、ロータ軸113が下方に隙間S3だけ移動すると、ロータ軸113と上側タッチダウン軸受156とが接触する。そして、それとほぼ同時期に、ロータ軸113が、上側タッチダウン軸受156と接触しながら、上側タッチダウン軸受156のマージンS3´の範囲内で下方に移動すると、複数の突出部160とバックプレート170の背面とが接触する。つまり、羽根車103Bとバックプレート170とが複数の突出部160を介して接触する。こうして、上記第1実施形態と同様に、回転体が保持している運動エネルギは、上側タッチダウン軸受156だけでなく、複数の突出部160と接触する羽根車103Bの背面の箇所でも吸収されることになる。したがって、上側タッチダウン軸受156に作用する回転体の運動エネルギを低減できる。
【0092】
なお、詳細な説明は省略するが、下側タッチダウン軸受155も、上側タッチダウン軸受156と同様に、磁気軸受114の制御不能時に、回転体103が保持している運動エネルギを吸収する。
【0093】
以上説明したように、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。また、羽根車103A及び羽根車103Bが多段に設けられているため、大容量の真空ポンプが求められる場合に好適である。
【0094】
(変形例2-1)
図18は変形例2-1に係る遠心ポンプの貯留部176を示す拡大図である。図18に示すように、コンタミを貯留する貯留部176は、バックプレート170の内周側であって複数の突出部160よりも下流側に形成されている。この貯留部176は、バックプレート170の内周側の端部においてコの字状に形成されており、突出部160から下流側に移動してきたコンタミをせき止める。
【0095】
この構成によれば、複数の突出部160と羽根車103Bの背面との接触に起因してコンタミが発生しても、そのコンタミを貯留部176でせき止めることができるので、コンタミが遠心ポンプ110内部で飛散することを防止できる。
【0096】
(変形例2-2)
図19は変形例2-2に係る遠心式ポンプの貯留部を示す拡大図である。図19に示すように、貯留部177は、バックプレート170の内周側であって複数の突出部160よりも下流側に形成された凹部である。複数の突出部160から下流側に移動してきたコンタミは、この貯留部177に落下して堆積するため、この構成によっても、上記変形例1と同様の効果を奏することができる。
【0097】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例や組合せ例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0098】
例えば、第1実施形態において、複数の突出部160は、回転体103及びステータコラム122のうち少なくとも一方に設けられていれば良い。よって、これら突出部160は、回転体103及びステータコラム122の双方に設けられた構成としても良い。
【0099】
また、第2実施形態において、複数の突出部160は、羽根車103B及びバックプレート170のうち少なくとも一方に設けられていれば良い。よって、これら突出部160は、羽根車103B及びバックプレート170の双方に設けられた構成としても良い。
【0100】
また、上記第1実施形態及び第2実施形態では、突出部160は、複数設けられていたが、これの構成に限定されることなく、突出部160の個数は、1つであっても良い。
【符号の説明】
【0101】
100 ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
102 回転翼
102d 円筒部
103 回転体
103A,103B 羽根車(回転体)
113 ロータ軸
114 磁気軸受
122 ステータコラム(回転体の周囲の部品)
130 パージガス流路
155 下側タッチダウン軸受(タッチダウン軸受)
156 上側タッチダウン軸受(タッチダウン軸受)
160 突出部
170 バックプレート(回転体の周囲の部品)
175~177 貯留部
200 遠心ポンプ(真空ポンプ)
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