(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の正極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240401BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240401BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240401BHJP
H01M 50/586 20210101ALI20240401BHJP
H01M 50/591 20210101ALI20240401BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M10/0566
H01M50/586
H01M50/591 101
(21)【出願番号】P 2021197141
(22)【出願日】2021-12-03
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和孝
(72)【発明者】
【氏名】工藤 尚範
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/199684(WO,A1)
【文献】特開2017-050102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 10/0566
H01M 50/586
H01M 50/591
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、
前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の表面の一部に備えられ正極活物質粒子を含む正極合材層と、前記正極集電体の表面の他の一部であって前記正極合材層に隣接するように備えられ絶縁体粒子を含む絶縁保護層を備え、
前記絶縁保護層の厚さが前記正極合材層の厚さより薄く形成されるとともに、
前記絶縁保護層の空隙率が前記正極合材層の空隙率より大き
く、
前記正極合材層と、前記絶縁保護層とが重なり合った境界部において生じた前記正極合材層と前記絶縁保護層が混在した混在層において、少なくともその一部が圧縮された混在層を備えたことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、
前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の表面の一部に備えられ正極活物質粒子を含む正極合材層と、前記正極集電体の表面の他の一部であって前記正極合材層に隣接するように備えられ絶縁体粒子を含む絶縁保護層を備え、
前記絶縁保護層の厚さが前記正極合材層の厚さより薄く形成されるとともに、
前記絶縁保護層の空隙率が前記正極合材層の空隙率より大き
く、
前記絶縁保護層は、空隙率が45~65%であり、
前記正極合材層の空隙率を30~50%としたことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記絶縁体粒子がベーマイト、若しくはアルミナからなることを特徴とする
請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、
前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の表面の一部に層状に設けられ正極活物質粒子を含む正極合材層と、前記正極集電体の表面の他の一部であって前記正極合材層に隣接するように層状に設けられた絶縁保護層とを備え、前記絶縁保護層の厚さが前記正極合材層の厚さより薄く形成されるとともに、前記絶縁保護層の空隙率が前記正極合材層の空隙率より大きい非水電解液二次電池の正極板の製造方法において、
絶縁体粒子と、バインダと、溶媒とからなる絶縁保護ペーストと、正極活物質粒子と、導電助材と、バインダと、溶媒とからなる正極合材ペーストとを前記正極集電体の表面にノズルにより同時塗工することで、前記正極合材層、及びここに隣接する前記絶縁保護層を形成する塗工工程を備
え、
前記塗工工程において塗工された前記絶縁保護ペーストの厚さを、前記正極合材層のプレス工程後の厚さより薄くなるように形成し、
前記プレス工程は、前記正極合材層と前記絶縁保護層とが重なり合った境界部において生じた前記正極合材ペーストと前記絶縁保護ペーストが混在した混在層の少なくとも一部を、前記正極合材層とともにプレスし、かつ前記絶縁保護層を圧縮しないようにすることを特徴とする非水電解液二次電池の正極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の正極板の製造方法に係り、詳しくはハイレート劣化を抑制する、非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の正極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池は、軽量で高いエネルギー密度が得られることから、車両搭載用の高出力電源等としても好ましく用いられている。このような非水電解液二次電池では、正極と負極とがセパレータ等で絶縁された構成の蓄電要素が、一つの電池ケース内に円柱状または楕円柱状に積層捲回された捲回電極体を備えている。一般的にこのような電極体の正極と負極は、負極合材層の幅方向の寸法が正極合材層の幅方向の寸法よりも広くなるように設計されている。負極合材層が、セパレータを介して金属が露出した正極集電体と対向することになる。この場合、通常ではセパレータがあるため短絡を生じない。しかし、負極における金属の析出や、金属微粉などの侵入によりセパレータを貫通し、短絡することで発熱することがある。このような短絡を防止する目的で、正極集電体の表面に、正極活物質層の端部に沿って無機フィラーを含む絶縁保護層を備えることが開示されている。特許文献1や特許文献2には、この絶縁保護層によって、正極集電体と対向する負極合材層の端部との間の短絡を防止できることが記載されている。
【0003】
このような絶縁保護層を設けることで、正極集電体を構成する金属板を絶縁体で被覆することで、金属Liが析出したり金属微粉のような異物が侵入した場合でも、セパレータを貫通して負極合材層と短絡することを有効に防止することができた。
【0004】
さらに特許文献3においては、所定速度で供給された電極基板に、電極材料と、電極基板の供給方向に対して直交する方向の電極材料の両側隣接部に第1の絶縁材料を塗工する。また、塗工された電極材料と第1の絶縁材料の表面に第2のセパレータとなる絶縁材料を塗工する。その後、塗工された電極材料と第1、第2の絶縁材料を乾燥・固着させる。
【0005】
図12は、特許文献3に記載された発明の電極体12の模式図である。特許文献3では、絶縁保護層34を形成するペーストと正極合材層32を形成するペーストをほぼ同時に塗工し、同時に乾燥・固着させ、プレスする。このため、塗工に係る工程、設備は単一で、工数も短い。また、絶縁保護層34と正極合材層32との境界部分に重なりや段差も生じにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-037833号公報
【文献】特開2020-173941号公報
【文献】国際公開第2015/156213号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非水電解液二次電池では、ハイレートで充放電を行った場合、電解質の移動が生じるが、セル電池内で十分に移動できないと電解液の濃度にムラが生じ、これを起因とする電池の劣化、いわゆる「ハイレート劣化」を生じることがある。
【0008】
特許文献3に記載された発明では、絶縁保護層と正極合材層の厚さが同じであり、絶縁保護層が非水電解液の正極合材層における電解質の移動の効率を妨げるという問題があった。
【0009】
なお、特許文献3では、塗工された絶縁保護層のペーストと正極合材層のペーストとの境界部で混ざり混在層が生じてしまう。その比率は正極合材層より劣るものの、この混在層にも正極活物質が含まれている。したがって、この正極活物質を活用することも望まれる。
【0010】
本発明の非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の正極板の製造方法が解決しようとする課題は、絶縁保護層により短絡を抑制するとともに、ハイレート劣化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の非水電解液二次電池では、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の表面の一部に備えられ正極活物質粒子を含む正極合材層と、前記正極集電体の表面の他の一部であって前記正極合材層に隣接するように備えられ絶縁体粒子を含む絶縁保護層を備え、前記絶縁保護層の厚さが前記正極合材層の厚さより薄く形成されるとともに、前記絶縁保護層の空隙率が前記正極合材層の空隙率より大きいことを特徴とする。
【0012】
前記正極合材層と、前記絶縁保護層とが重なり合った境界部において生じた前記正極合材層と前記絶縁保護層が混在した混在層において、少なくともその一部が圧縮された混在層を備えることが望ましい。
【0013】
前記絶縁保護層は、空隙率が45~65%であることが望ましい。また、前記正極合材層の空隙率を30~50%としたことも望ましい。
また、前記絶縁体粒子がベーマイト、若しくはアルミナからなることも望ましい。
【0014】
本発明の非水電解液二次電池の正極板の製造方法では、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の表面の一部に層状に設けられ正極活物質粒子を含む正極合材層と、前記正極集電体の表面の他の一部であって前記正極合材層に隣接するように層状に設けられた絶縁保護層とを備え、前記絶縁保護層の空隙率が前記正極合材層の空隙率より大きい非水電解液二次電池の正極板の製造方法において、絶縁体粒子と、バインダと、溶媒とからなる絶縁保護ペーストと、正極活物質粒子と、導電助材と、バインダと、溶媒とからなる正極合材ペーストとを前記正極集電体の表面にノズルにより同時塗工することで、前記正極合材層、及びここに隣接する前記絶縁保護層を形成する塗工工程を備えたことを特徴とする。
【0015】
前記塗工工程において塗工された前記絶縁保護ペーストの厚さを、前記正極合材層のプレス工程後の厚さより薄くなるように形成することが望ましい。特に、前記プレス工程は、前記正極合材ペーストと前記絶縁保護ペーストとが重なり合った境界部において生じた前記正極合材ペーストと前記絶縁保護ペーストが混在した混在層の少なくとも一部を、前記正極合材層とともにプレスし、かつ前記絶縁保護層を圧縮しないようにすることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の非水電解液二次電池及び正極板の製造方法によれば、絶縁保護層により短絡を抑制するとともに、ハイレート劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の構成の概略を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態の捲回される電極体の構成を示す模式図である。
【
図3】リチウムイオン二次電池の電極体の積層の構成を示す模式的な部分断面図である。
【
図4】
図3において部分Aで示す部分を拡大した本実施形態の塗工工程における正極合材層と絶縁保護層の境界部Bを示す模式図である。
【
図5】
図4に示す状態から混在層Mが生じた状態を示す模式図である。
【
図6】本実施形態の正極板の製造方法を示すフローチャートである。
【
図8】塗工機のC-C部分から見た断面を含む第1のノズルと第2のノズルを示す模式的な斜視図である。
【
図9】(a)境界部において正極合材層が絶縁保護層の上に重なった場合のプレス工程前の模式図である。(b)境界部において正極合材層が絶縁保護層の上に重なった場合のプレス工程後の模式図である。
【
図10】(a)境界部において絶縁保護層が正極合材層の上に重なった場合のプレス工程前の模式図である。(b)境界部において絶縁保護層が正極合材層の上に重なった場合のプレス工程後の模式図である。
【
図11】本実施形態のプレス工程後の電極体を示す模式図である。
【
図12】従来技術のプレス工程後の電極体を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(本実施形態の概略)
<従来の問題点>
図12は、従来技術のプレス工程後の電極体12を示す模式図である。例えば引用文献3などに開示された従来技術では、負極板2と正極板3は、セパレータ4を介して積層されている。正極板3は、基材となるAlの薄板からなる正極集電体31の上に、正極合材層32が設けられる。正極合材層32の両端には、絶縁保護層34が隣接するように設けられている。正極合材層32と両端に配置された絶縁保護層34の上の面は面一に設けられ、これらの上面に接するようにセパレータ4が配置されている。
【0019】
従来技術では、塗工工程において、正極合材ペースト32aと、その両端に隣接するように絶縁保護ペースト34aが正極集電体31上に塗工される。そして、プレス工程では、正極合材層32と両端に配置された絶縁保護層34が同時にプレスされる。
【0020】
このような従来の正極板3では、プレス工程により正極板3の厚さが調整され、かつ正極板3の表面が平坦に整形される。このとき正極合材層32の空隙率[%]が低下する。
<空隙率P[%]>
ここで空隙率P[%]とは、粒子間空隙などの空間を含む量を表す尺度である。空隙率P[%]は、一般に透水係数と比例する関係を有するため、本実施形態では、セル内の電解液13が正極合材層32に流通する効率を示す指標としている。
【0021】
一方、空隙率P[%]は、正極合材層32内の正極活物質粒子32b間の距離の指標ともなる。
空隙率P[%]は、例えば、多孔質試料をぬれ性のいい液体に浸漬し、空隙部を液体で飽和させる液浸法で測定する。また、試料断面の顕微鏡観察を通じ、物質面積および視認可能な空隙の面積を決定する光学法を用いてもよい。さらに、表面張力が強い水銀を微細な小孔に侵入させる外部から圧力の大きさに対する圧入量を測定することで小孔径の分布と空孔容積を求める水銀圧入法などで測定してもよい。
【0022】
<空隙率P[%]のプレス工程における変化>
正極合材層32においては、空隙率P[%]が低下することで、正極合材層32内の正極活物質粒子32b間の距離が小さくなり、導電パスが改善し、電池性能が高まる。
【0023】
しかしながら、特許文献3に記載の発明では絶縁保護層34もプレスされて圧縮されるため、絶縁保護層34内の絶縁体粒子34b間の距離が小さくなる。そうすると空隙率P[%]が低下する。空隙率P[%]が低下すると、正極合材層32の電解液13の交換の効率が悪くなる。そのため、特にハイレート充放電時に電池内の電解液13の濃度にムラが生じて、これに起因する電池の劣化、いわゆる「ハイレート劣化」を生じやすくなるという問題があった。
【0024】
<本実施形態のハイレート劣化抑制の構成>
そこで、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の正極板3の製造方法(
図6)では、塗工工程(S3)において絶縁保護ペースト34aと、正極合材ペースト32aとを正極集電体31の表面に塗工機5により同時塗工する。同時塗工することで、正極合材層32、及びここに隣接する絶縁保護層34を形成する。塗工工程において絶縁保護ペースト34aの厚さを、正極合材層32のプレス工程(S5)の後の厚さより薄くなるように形成する。
【0025】
このように塗工することで、正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aとが重なり合った境界部Bにおいて混在層Mを生じる。
そしてプレス工程(S5)では、
図9(a)、(b)、
図10(a)、(b)に示すようにプレスする。すなわち、正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが混在した混在層Mの少なくとも一部を、正極合材層32とともに厚さD1から厚さD2までプレスする。このとき、厚さD3の絶縁保護層34を圧縮しないようにする。
【0026】
なお、混在層Mについては、例えば、その含有する絶縁物質量が、絶縁保護層34における平均濃度の30%~70%であり、且つ、その含有する電極活物質量が、正極合材層32における平均濃度の30%~70%である部分と定義することができる。
【0027】
本実施形態のリチウムイオン二次電池1の正極板3の製造方法では、絶縁保護層34の空隙率P[%]が正極合材層32の空隙率P[%]より大きく形成される。絶縁保護層34の空隙率P[%]は、45~65%とされ、正極合材層32の空隙率P[%]を30~50%とした正極板とする。
【0028】
このような構成により、ハイレート充放電時の電解液13の流通を妨げないようにする。また、混在層Mの正極活物質粒子32bを活用する。これらが相まって、ハイレート劣化を効果的に抑制することで電池性能を向上させる。
【0029】
(本実施形態の構成)
<リチウムイオン二次電池1の構成>
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の構成の概略を示す斜視図である。次に本実施形態のリチウムイオン二次電池1についてその構成を説明する。
【0030】
図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。リチウムイオン二次電池1は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11を備える。電池ケース11の内部には電極体12が収容される。電池ケース11内には注液孔から電解液13が充填されている。電池ケース11はアルミニウム合金等の金属で構成され、密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、電力の充放電に用いられる正極外部端子14、負極外部端子15を備えている。なお、正極外部端子14、負極外部端子15の形状は、
図1に示されるものに限定されない。
【0031】
<電極体12>
図2は、捲回される電極体12の構成を示す模式図である。電極体12は、多数の負極板2と正極板3とそれらの間に配置されたセパレータ4とが扁平に捲回されて形成されている。負極板2は、基材となる負極集電体21上に負極合材層22が形成される。捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の一端側に負極合材層22が形成されておらず負極集電体21が露出した負極接続部23が設けられている。
【0032】
正極板3は、基材となる正極集電体31上に正極合材層32が形成される。
図2に示すように、正極集電体31が捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の他端側(負極接続部23と反対側)に正極接続部33が設けられている。正極接続部33には、正極合材層32が形成されておらず正極集電体31の金属が露出したものとなっている。
【0033】
また、本実施形態では、正極合材層32の端部と隣接し、負極合材層22と対向した位置に絶縁保護層34を備える。絶縁保護層34は、露出した正極集電体31を被覆するように設けられている。
【0034】
<電極体12の積層構造>
図3は、リチウムイオン二次電池1の電極体12の積層の構成を示す模式的な部分断面図である。
図2に示したとおり、リチウムイオン二次電池1の電極体12の基本構成は、負極板2と正極板3とセパレータ4を備える。
【0035】
負極板2は、負極基材となる負極集電体21の両面に負極合材層22を備える。負極集電体21の一端部は、金属が露出する負極接続部23となっている。
正極板3は、正極基材となる正極集電体31の両面に正極合材層32を備える。正極集電体31の他端部は、金属が露出する正極接続部33となっている。
【0036】
負極板2と、正極板3は、セパレータ4を介して重ねて積層体が構成される。この積層体が捲回軸を中心に長手方向に捲回され、扁平に整形されてなる捲回型の電極体12を構成する。
【0037】
また、本実施形態では、正極合材層32の正極接続部33側に隣接して、正極集電体31上に、絶縁保護層34が設けられる。従来のように絶縁保護層34が無い場合は、正極合材層32の正極接続部33側の端部aから正極側は、正極集電体31が露出していた。この場合、端部aから負極合材層22の正極側の端部bまでは、正極集電体31と、負極合材層22とが、セパレータ4を介して対向している。このとき、金属微粉がこの位置に混入したり、負極合材層22で金属Liのデンドライトが成長したりすることがある。これらが、セパレータ4を貫通すると、負極合材層22と正極集電体31とで短絡を生じ、発熱したり、自己放電が生じてしまったりすることがある。そこで、本実施形態では、端部aから、端部bを超えた端部cまで、絶縁保護層34を設けている。この絶縁保護層34により、このような短絡を抑制することができる。
【0038】
<電解液13>
リチウムイオン二次電池1の電解液13は、非水電解液であって、リチウム塩を有機溶媒に溶解した組成物である。リチウム塩としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等を用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン、2‐メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、又はリン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等が挙げられる。電解液として、これらを1ないし複数種類混合して用いることができる。電解液13の組成はこれに限られるものではない。
【0039】
<電極体12の構成要素>
次に、電極体12を構成する構成要素である負極板2、正極板3、セパレータ4について説明する。
【0040】
なお、本実施形態では、「平均径」は、特に断りがない限り体積基準の粒度分布における累積50%に相当するメジアン径(D50:50%体積平均粒径)を意味する。平均粒径がおおよそ1μm以上の範囲については、レーザ回折・光散乱法により求めることができる。また、平均粒径がおおよそ1μm以下の範囲については、動的光散乱(Dynamic Light Scattering:DLS)法により求めることができる。DLS法に基づく平均粒径は、JISZ8828:2013に準じて測定することができる。
【0041】
<負極板2>
負極基材である負極集電体21の両面に負極合材層22が形成されて負極板2が構成されている。負極集電体21は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極集電体21は、負極合材層22の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層22から電気を集電する集電部材の機能を有している。本実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0042】
負極板2は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の負極合材ペーストを負極集電体21に塗工して乾燥することで作製される。
<正極板3>
正極板3は、正極集電体31と、ここに塗工された正極合材層32、絶縁保護層34とから構成される。
【0043】
<正極集電体31>
正極基材である正極集電体31の両面に正極合材層32が形成されて正極板3が構成されている。正極集電体31は、実施形態ではAl箔から構成されている。正極集電体31は、正極合材層32の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層32から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0044】
まず、正極集電体31を構成する正極基材は、Al箔を例示したが、例えば、導電性の良好な金属からなる導電性材料により構成される。導電性材料としては、例えば、アルミニウムを含む材料、アルミニウム合金を含む材料を用いることができる。正極集電体31の構成はこれに限られるものではない。
【0045】
<正極合材層32>
図4は、本実施形態の塗工工程(S3)における正極合材層32と絶縁保護層34の境界部Bを示す、
図3において部分Aで示す部分を拡大した模式図である。
図4を参照して正極合材層32を説明する。正極合材層32は、正極合材ペースト32aを正極集電体31に塗工、乾燥して形成される。正極合材層32は、正極活物質粒子32bのほか、導電助材32c、バインダ32d、及び分散剤等の添加剤を含む。
【0046】
<正極合材ペースト32a>
正極合材ペースト32aは、正極活物質粒子32bのほか、導電助材32c、バインダ32d及び分散剤等の添加剤に、溶媒32eを添加してペースト状にしたものである。正極合材層32は、
図4に示す塗工工程(S3)で、正極合材ペースト32aが正極集電体31に塗工される。その後乾燥工程(S4)で、乾燥固着される。
図4に示す正極合材ペースト32aの段階では、溶媒32eが配合されている。しかし、乾燥工程(S4)後の正極合材層32では、溶媒32eは揮発して消失している。
【0047】
<正極活物質粒子32bの組成>
正極活物質粒子32bの一次粒子は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含有する。リチウム遷移金属酸化物は、Li以外に、1乃至複数の所定の遷移金属元素を含む。リチウム遷移金属酸化物に含有される遷移金属元素は、Ni、Co、Mnの少なくとも一つであることが好ましい。リチウム遷移金属酸化物の好適な一例として、Ni、CoおよびMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
【0048】
正極活物質粒子32bは、遷移金属元素(すなわち、Ni、CoおよびMnの少なくとも1種)の他に、付加的に、1種又は複数種の元素を含有し得る。付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、もしくはアルミニウムのような金属)および17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を含むことができる。
【0049】
好ましい一態様において、正極活物質粒子32bは、下記一般式(1)で表される組成(平均組成)を有し得る。
Li1+xNiyCozMn(1-y-z)MAαMBβO2…(1)
上記式(1)において、xは、0≦x≦0.2を満たす実数であり得る。yは、0.1<y<0.6を満たす実数であり得る。zは、0.1<z<0.6を満たす実数であり得る。MAは、W、CrおよびMoから選択される少なくとも1種の金属元素であり、αは0<α≦0.01(典型的には0.0005≦α≦0.01、例えば0.001≦α≦0.01)を満たす実数である。MBは、Zr、Mg、Ca、Na、Fe、Zn、Si、Sn、Al、BおよびFからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、βは0≦β≦0.01を満たす実数であり得る。βが実質的に0(すなわち、MBを実質的に含有しない酸化物)であってもよい。なお、層状構造のリチウム遷移金属酸化物を示す化学式では、便宜上、O(酸素)の組成比を2として示している。しかし、この数値は厳密に解釈されるべきではなく、多少の組成の変動(典型的には1.95以上2.05以下の範囲に包含される)を許容し得るものである。
【0050】
<導電助材32c>
導電助材32cは、正極合材層32中に導電パスを形成するための材料である。正極合材層32に適量の導電助材を混合することにより、正極内部の導電性を高めて、電池の充放電効率及び出力特性を向上させることができる。導電助材32cとしては、例えば、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)、カーボンナノチューブなどの炭素材料を用いることができる。導電助材32cの平均粒径は、例えば、0.1~0.15μmである。
【0051】
<バインダ32d>
バインダ32dには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0052】
<分散剤>
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレンポリアミン、ベンゾイミダゾール等が挙げられる。
【0053】
<絶縁保護層34の構成>
図2に示すように、正極板3は、正極集電体31上に正極合材層32が形成されるとともに、当該正極合材層32に隣接し、かつ前記正極集電体31上の負極合材層22の端部と対向する位置に絶縁保護層34が形成されている。絶縁保護層34は、絶縁体粒子34bがバインダ(結着剤)32dにより分散された状態で固定されている。絶縁保護層34は、絶縁保護ペースト34aを正極集電体31の表面に、正極合材層32の端部に沿って塗工、乾燥されることで形成される。
【0054】
<絶縁保護ペースト34a>
絶縁保護ペースト34aは、バインダ34cに溶媒34dを添加して液状にし、絶縁体粒子34bを分散させたペーストである。また、絶縁体粒子34bがペースト内で均等に分散させるために分散剤34eを添加している。
【0055】
絶縁保護層34は、
図6に示す塗工工程(S3)で、絶縁保護ペースト34aが正極集電体31に塗工され、乾燥工程(S4)で乾燥固着される。
図5に示す絶縁保護ペースト34aの段階では、溶媒32eが配合されている。しかし、乾燥工程(S4)後の絶縁保護層34では、溶媒32eは揮発して消失している。
【0056】
<絶縁体粒子34b>
絶縁体粒子34bは、負極合材層22と正極集電体31との間に配置して電気的な絶縁を図るものである。例えば、ベーマイトやアルミナなどの絶縁体からなる粒子が用いられる。本実施形態では、ベーマイトを用いている。
【0057】
<ベーマイト>
ベーマイトは、水酸化アルミニウム(γ-AlO(OH))鉱物であり、アルミニウム鉱石ボーキサイトの成分である。ガラス質から真珠のような光沢を示し、モース硬度3~3.5、比重3.00~3.07である。絶縁性、耐熱性、硬度が高く、工業的には、耐火性ポリマー用の安価な難燃性添加剤として使用することができる。
【0058】
ベーマイトは、AlO(OH)又はAl2O3・H2Oの化学組成で示され、一般的にアルミナ3水和物を空気中で加熱処理又は水熱処理することにより製造される化学的に安定なアルミナ1水和物である。ベーマイトは、脱水温度が450~530℃と高く、製造条件を調整することにより板状ベーマイト、針状ベーマイト、六角板状ベーマイトなど種々の形状に制御できる。また、製造条件を調整することにより、アスペクト比や粒径の制御ができる。
【0059】
従来より、ベーマイトの製造方法は種々提供されているが、一般的にはボーキサイト由来の原料の水酸化アルミニウムを水熱処理することにより行われている。この製造方法は、水酸化アルミニウムと反応促進剤(金属化合物)に水を加えたスラリーの撹拌混合工程を含む。また、圧力容器により水蒸気雰囲気下で加熱しながら湿式養生する水熱処理工程を含む。さらに、反応生成物の脱水工程、水洗工程、濾過工程、乾燥工程の各工程から成り立っている。
【0060】
<絶縁体粒子34bの粒径>
以上のように、平均粒子径[μm(D50)]が、大きすぎると分散性が悪くなる。一方、小さすぎると凝集を生じてしまう。特に本実施形態では、凝集を生じないように、平均粒子径[μm(D50)]を、1~3μmとしている。
【0061】
<バインダ34c>
バインダ34cには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0062】
<セパレータ4>
セパレータ4は、正極板3及び負極板2の間に電解液13を保持するためのポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂からなる多孔性樹脂シートを用いることができる。このような多孔性樹脂シートは、各種材料を単独で用いた単層構造であってもよく、各種材料を組み合わせた多層構造であってもよい。
【0063】
<正極板3の製造方法>
図6は、本実施形態の正極板3の製造方法を示すフローチャートである。
図6を参照して本実施形態の正極板3の製造方法を説明する。
【0064】
<正極合材ペースト製造工程(S1)>
まず、正極合材ペースト32aを製造する。詳細は既に説明したとおりである。
<絶縁保護ペースト製造工程(S2)>
また、絶縁保護ペースト34aを製造する。これも詳細は既に説明したとおりである。
【0065】
<塗工工程(S3)>
次に、塗工工程(S3)について説明する。塗工工程(S3)は、正極合材ペースト製造工程(S1)で製造した正極合材ペースト32aと、絶縁保護ペースト製造工程(S2)で製造した絶縁保護ペースト34aを正極集電体31の所定位置に同時塗工する工程である。
【0066】
<塗工機5の構成>
図7は、塗工工程を示す斜視図である。
図8は、塗工機5のC-C部分から見た断面を含む第1のノズル53と第2のノズル55を示す模式的な斜視図である。
図7及び
図8を参照して塗工機5を説明する。
【0067】
図7に示すように、塗工機5は、基台となるステージ57を備えている。ステージ57には、長尺帯状に形成されたAl箔からなる切断前の正極集電体31を搬送するための位置決めのガイド58を備える。正極集電体31は、図示を省略した供給リールから引き出され、搬送手段により、ステージ57上で搬送される。ステージ57の正極集電体31の搬送方向上流側の端部には、搬送方向と直交する向きで、正極集電体31を跨ぐような門型のダイノズル51が設けられる。ダイノズル51は、正極合材ペースト32aを貯留する第1のダイ52を備える。第1のダイ52は、正極合材層32が形成される位置に対応した位置に設けられる空間である。第1のダイ52には、正極合材ペースト32aが図示を省略した供給手段から供給されて貯留される。また、第2のダイ54は、絶縁保護層34が形成される位置に対応した位置に設けられる空間である。第2のダイ54には、絶縁保護ペースト34aが図示を省略した供給手段から供給されて貯留される。第1のダイ52と第2のダイ54は、隣接した形で、同一直線状に並べられる。
【0068】
第1のノズル53は、第1のダイ52の下部からステージ57上の正極集電体31の正極合材層32が形成される位置まで連通するノズルである。図示しない加圧手段で第1のダイ52の内圧が高められると、正極合材ペースト32aは、第1のノズル53から正極集電体31の正極合材層32が形成される位置に正極合材ペースト32aを所定量吐出する。
【0069】
第2のノズル55は、第2のダイ54の下部からステージ57上の正極集電体31の絶縁保護層34が形成される位置まで連通するノズルである。図示しない加圧手段で第2のダイ54の内圧が高められると、絶縁保護ペースト34aは、第2のノズル55から正極集電体31の絶縁保護層34が形成される位置に絶縁保護ペースト34aを所定量吐出する。
【0070】
図8に示すように、第1のノズル53と第2のノズル55は、相互に隔離されている。そして、第1のノズル53から吐出された正極合材ペースト32aと、第2のノズル55から吐出された絶縁保護ペースト34aは、吐出直後に相互に密着するように接液する。そして、接液した状態で、正極合材ペースト32aは正極集電体31の正極合材層32が形成される位置で塗工される。また、接液した状態で、絶縁保護ペースト34aは正極集電体31の絶縁保護層34が形成される位置で塗工される。その後、ローラ56により、塗工されて形成された正極合材層32と絶縁保護層34は、それらの表面が整形される。なお、絶縁保護層34は、正極合材層32より薄いため、正極合材層32のみが整形される。
【0071】
<塗工工程(S3)後の電極体12>
図6に示す本実施形態の塗工工程(S3)における正極合材層32と絶縁保護層34の境界部Bは、このような状態で、接液している。
図5は、
図4に示す状態から混在層Mが生じた状態を示す模式図である。接液すると、
図5に示すように正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが混じり合った混在層Mを生じる。
【0072】
<塗工工程(S3)における境界部Bと混在層Mについて>
ここで、正極合材層32と絶縁保護層34との境界部Bと混在層Mについて、詳しく説明する。
【0073】
図9(a)は、塗工工程(S3)の後に境界部Bにおいて正極合材層32が絶縁保護層34の上に重なった場合のプレス工程(S5)前の模式図である。また、
図10(a)は、塗工工程(S3)の後に境界部Bにおいて絶縁保護層34が正極合材層32の上に重なった場合のプレス工程(S5)前の模式図である。
【0074】
図4、
図5に示す塗工工程(S2)後の電極体12では、正極合材層32と絶縁保護層34との境界部Bは、単純化して垂直な面で接液している状態を示している。
しかし、詳細には、正極合材ペースト32aや、絶縁保護ペースト34aの粘度や、第1のノズル53や第2のノズル55からの吐出量、吐出圧、吐出速度などの条件で、垂直な面で接液する場合のみならない。塗工工程(S3)の後に境界部Bにおいて正極合材層32が絶縁保護層34の上に重なったり、絶縁保護層34が正極合材層32の上に重なったりする場合がある。
【0075】
図4においては、境界部Bは、正極合材層32が延びる面と直交する面として表現したが、
図9(a)に示すような場合は、正極合材層32と絶縁保護層34とが重なり合った部分が境界部Bとなる。同様に、
図10(a)に示すような場合も、正極合材層32と絶縁保護層34とが重なり合った部分が境界部Bとなる。
【0076】
この境界部Bにおいて正極合材層32と絶縁保護層34とが接液する。この正極合材層32と絶縁保護層34とが接液した面において、
図5に示すような混在層Mが生成される。
【0077】
<乾燥工程(S4)>
上述のとおり塗工工程(S3)後における正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが混じり合って混在層Mが生成された状態で乾燥工程(S4)を行う。乾燥工程(S4)により、正極合材層32の溶媒32eは揮発し、ペースト状だった正極合材層32は、固体となりもう絶縁保護層34と混じり合うことはない。また、絶縁保護層34の溶媒34dも揮発し、ペースト状だった絶縁保護層34は、固体となり、こちらももう正極合材層32と混じり合うことはない。この状態で安定する。
【0078】
<プレス工程(S5)>
乾燥工程が終了すると、正極合材層32と絶縁保護層34は、既に一定の硬さとなっているが、プレス工程(S5)により、図示しないプレス機で所定の厚さの平面に整形する。乾燥工程(S4)後も、絶縁保護層34の厚さは、正極合材層32の厚さより薄い。その結果、プレス工程(S5)では、正極合材層32のみがプレス機により整形される。
【0079】
<プレス工程(S5)後の電極体12>
図11は、本実施形態のプレス工程(S5)後の電極体12を示す模式図である。プレス工程(S5)では、正極合材層32が圧縮され、空隙率P[%]が30~50[%]と小さくなっている。一方、絶縁保護層34は、プレス工程(S5)では、圧縮されない。このため、絶縁保護層34の空隙率P[%]は、45~65[%]と、大きいままとなっている。本実施形態では、絶縁保護層34の空隙率P[%]は、正極合材層32の空隙率P[%]より大きくなるように調整されている。
【0080】
また、絶縁保護層34の厚さは、正極合材層32の厚さより薄くなっている。そのため、正極合材層32はセパレータ4に接しているが、絶縁保護層34とセパレータ4の間には間隙が生じている。
【0081】
<プレス工程(S5)における圧縮について>
ここで、正極合材層32と絶縁保護層34との境界部Bと混在層Mについて、詳しく説明する。
【0082】
図9(b)は、
図9(a)のような境界部Bにおいて正極合材層32が絶縁保護層34の上に重なった状態でのプレス工程後(S5)の模式図である。
また、
図10(b)は、
図10(a)のような境界部Bにおいて絶縁保護層34が正極合材層32の上に重なった状態でのプレス工程(S5)後の模式図である。
【0083】
このように、境界部Bにおいては、正極合材層32と絶縁保護層34の上下関係が2つの場合がある。
<正極合材層32が絶縁保護層34の上に重なった場合>
図9(a)に示すように、まずプレス工程(S5)前の境界部Bにおいて正極合材層32が絶縁保護層34の上に重なった状態で、正極合材層32は厚さD1である。塗工工程(S3)において正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aとが重なり合った境界部Bにおいて混在層Mが生じる。この正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが混在した混在層Mの少なくとも一部を正極合材層32とともに厚さD2までプレスする。しかしながら、このとき絶縁保護層34の厚さD3までは圧縮しないようにする。これは、正極合材層32を圧縮することで、正極合材層32内の空隙率P[%]を向上させて、正極活物質粒子32b間の離間距離を縮めて導電パスを良好にするためである。一方、絶縁保護層34を圧縮しないようにするのは、圧縮により絶縁体粒子34b間の距離が縮まり、電解液13の透過性を悪化させないためである。
【0084】
このとき、塗工された絶縁保護ペースト34aと正極合材のペースト32aとの境界部Bで混ざり混在層Mが生じる。この混在層Mには、正極活物質粒子32bも、正極合材層32より含有率が低いが含まれている。したがって、この正極活物質粒子32bを活用することが望まれる。この混在層Mでは正極活物質粒子32b間の距離が大きいため、圧縮して空隙率P[%]を下げれば、この正極活物質粒子32bを活用することができ、電池性能に寄与することができる。
【0085】
そこで、プレス工程(S5)においては、
図9(a)に示す厚さD1から、厚さD2となるまで正極合材層32とともに混在層Mの少なくとも一部をプレスするため、混在層Mも圧縮する。厚さD2であれば、厚さD3の絶縁保護層34は、圧縮されないため、絶縁保護層34の空隙率P[%]を低下させることもない。
【0086】
<絶縁保護層34が正極合材層32の上に重なった場合>
次に、
図10(a)に示すような境界部Bにおいて絶縁保護層34が正極合材層32の上に重なった状態でのプレス工程(S5)について説明する。基本的には、
図9(a)に示すような境界部Bにおいて正極合材層32が絶縁保護層34の上に重なった状態でのプレス工程(S5)と同様である。すなわち、プレス工程(S5)においては、
図10(a)に示す厚さD1から、厚さD2となるまで正極合材層32とともに混在層Mの少なくとも一部をプレスするため、混在層Mも圧縮する。厚さD2であれば、厚さD3の絶縁保護層34は、圧縮されないため、絶縁保護層34の空隙率P[%]を低下させることもない。
【0087】
<切断工程(S6)>
プレス工程(S5)で、厚さが均一な平坦面に整形されたら、切断工程(S6)で、電極体12に合わせた長さに切断される。
【0088】
これで、正極板3の完成である。
<車両用電池パックの製造方法>
このような正極板3の製造方法により正極板3が完成したら、セパレータ4を介して、負極板2と複数段積層し、捲回し電極体12を製造する。その後、電極体12は、電池ケース11の蓋体を介して正極外部端子14、負極外部端子15が装着される。そして、電極体12は、電池ケース11に収容され、蓋体がレーザ溶接などで気密に接合される。乾燥工程を経て、注液工程で、電解液13が充填され密封される。その後初充電などのコンディショニング、OCV検査、内部抵抗検査、エージングを経てセル電池が完成する。セル電池は、複数個スタックされて、組電池が構成される。さらに、複数の組電池が電池パックに収容され、充放電などを監視し、制御する制御装置などが装着されて、車載用のリチウムイオン二次電池として完成する。
【0089】
(本実施形態の作用)
本実施形態の構成によれば、絶縁保護層34の空隙率P[%]を正極合材層32よりも高くすることでハイレート充放電時の電解液13の流通を妨げないようにする。また、混在層Mをプレスすることで空隙率P[%]を低下させて正極活物質粒子32bを活用する。これらが相まって、ハイレート劣化を効果的に抑制することで電池性能を向上させる。
【0090】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態では、正極板3は、正極集電体31と、正極活物質粒子32bを含む正極合材層32と、ここに隣接するように備えられた絶縁保護層34とを備え、絶縁保護層34は、絶縁体粒子34bと、バインダ34cとを含む。
【0091】
このため、絶縁保護層34が、Li析出などにより正極集電体31と負極合材層22とが短絡することを抑制することができるという効果がある。
そして、絶縁保護層34の空隙率P[%]が正極合材層32の空隙率P[%]より大きくなるように構成されている。このため、正極合材層32の電解液13の交換を、絶縁保護層34が妨げにくくなっているという効果がある。
【0092】
このため、ハイレートでの充放電におけるセル電池内の電解液13の濃度ムラを抑制することができる。このためハイレート劣化を効果的に抑制することができるという効果がある。
【0093】
(2)本実施形態では、絶縁保護層34の空隙率P[%]を45~65%とし、正極合材層32の空隙率P[%]を30~50%とした。
このため、正極合材層32では、正極活物質粒子32bの導電パスが良好となるとともに、絶縁保護層34が電解液13を通過させやすいという効果がある。
【0094】
このため、ハイレートでの充放電におけるセル電池内の電解液13の濃度ムラを抑制することができる。このためハイレート劣化を効果的に抑制することができるという効果がある。
【0095】
(3)本実施形態では、絶縁体粒子34bがベーマイト、若しくはアルミナからなる。
このため、安価で入手しやすい安定した材料であり、かつ絶縁保護層34において、安定した絶縁性を維持するという効果がある。
【0096】
(4)本実施形態のリチウムイオン二次電池1の正極板3の製造方法において、絶縁体粒子34bと、バインダ34cと、溶媒34dとからなる絶縁保護ペースト34aを用いる。また、正極活物質粒子32bと、導電助材32cと、バインダ32dと、溶媒32eとからなる正極合材ペースト32aとを用いる。そして、塗工工程(S3)では、これらの正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aを正極集電体31の表面にダイノズル51により同時塗工する。同時塗工により正極合材層32及びここに隣接する絶縁保護層34を形成する。
【0097】
これにより、正極板3の製造工程を簡易かつ迅速に行うことができるという効果がある。さらに、正極合材層32と絶縁保護層34の厚さ等を厳格に調整することができるという効果がある。
【0098】
(5)本実施形態では、塗工工程(S3)において塗工された絶縁保護ペースト34aの厚さD3を、正極合材層32のプレス工程(S5)後の厚さD2より薄くなるように形成する。
【0099】
このことで、正極合材層32を圧縮して、正極活物質粒子32bの導電パスを良好にすることができるという効果がある。
その一方で、プレス工程(S5)において、絶縁保護層34を圧縮することがないため、絶縁保護層34も空隙率P[%]を低下させることがない。そのため、絶縁保護層34において電解液13を通過させやすくするという効果がある。
【0100】
また、絶縁保護層34とセパレータ4との間に間隙を形成することができ、ここから正極合材層32への電解液13の流通を行うことができるという効果もある。
このため、ハイレートでの充放電におけるセル電池内の電解液13の濃度ムラを抑制することができる。このためハイレート劣化を効果的に抑制することができるという効果がある。
【0101】
(6)本実施形態では、正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aとが重なり合った境界部Bを形成する。そして、境界部Bにおいて正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが混在した混在層Mを生じる。そしてプレス工程(S5)では、この混在層Mの少なくとも一部を、厚さD1の正極合材層32とともに、厚さD2までプレスする。このとき厚さD3の絶縁保護層34を圧縮しないようにする。
【0102】
このことで、混在層Mに含まれる正極活物質粒子32bの空隙率P[%]を低下させることで、導電パスを良好にすることができる。そのため、混在層Mに含まれる正極活物質粒子32bを有効に電池性能に寄与させることができるという効果がある。
【0103】
(変形例)
上記実施形態は、本発明の実施の一例であり、以下のように変形して実施することができる。
【0104】
○本実施形態では、非水電解液二次電池の例として、車載用の板状のセル電池であるリチウムイオン二次電池1を例示したが、これに限定されず円筒形など他の形状、定置用など他の用途でも実施できる。また、電極体12も扁平の捲回型に限定されず、長方形の板状の電極を積層したものでもよい。また、正極外部端子14や負極外部端子15の形状なども限定されるものではない。
【0105】
○図面は、本実施形態の説明に用いるためのものであり、見やすくするために寸法バランスなどは誇張している場合があるため、これらに限定されるものではない。例えば、絶縁保護層34の厚さD3に対して、混在層Mを含めた正極合材層32の厚さは、厚さD1からD2となるようにプレスする。この場合、厚さD2は、厚さD3より薄くならない限り、限りなく厚さD3に近づけることで、混在層Mを効率的に圧縮することができる。
【0106】
○
図6に示すフローチャートは本発明の一例であり、その工程を付加し、削除し、順序を変更し、又は入れ替えて実施することができる。例えば、乾燥工程(S4)を、プレス工程(S5)の後で行うような処理でもよい。
【0107】
○各種の数値、範囲は一例であり、当業者により最適化されて実施することができる。
○正極合材ペースト32aや絶縁保護ペースト34aの組成や、材料の特性などは、本発明の一例であり、当業者により最適化されて実施することができる。
【0108】
○塗工工程(S3)における「同時塗工」とは、厳密に同時でなくても、本発明の課題を解決することができる限り、例えば、第1のノズル53と第2のノズル55が、搬送方向にずれているようなものでもよい。
【0109】
○本実施形態は本発明の一実施形態であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、実施形態に限定されず当業者によりその構成を付加し、削除し、若しくは変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0110】
a…端部
b…端部
c…端部
L…捲回方向(捲回される方向)
W…幅方向(捲回軸方向)
A…部分
B…境界部
M…混在層
P…空隙率
1…リチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)
11…電池ケース
12…電極体
13…電解液
14…正極外部端子
15…負極外部端子
2…負極板
21…負極集電体
22…負極合材層
23…負極接続部
3…正極板
31…正極集電体
32…正極合材層
32a…正極合材ペースト
32b…正極活物質粒子
32c…導電助材
32d…バインダ
32e…溶媒
33…正極接続部
34…絶縁保護層
34a…絶縁保護ペースト
34b…絶縁体粒子
34c…バインダ
34d…溶媒
4…セパレータ
5…塗工機
51…ダイノズル
52…第1のダイ
53…第1のノズル
54…第2のダイ
55…第2のノズル
57…ステージ
58…ガイド
S1…正極合材ペースト製造工程
S2…絶縁保護ペースト製造工程
S3…塗工工程
S4…乾燥工程
S5…整形プレス工程
S6…切断工程