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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】電力需要調整装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 55/00 20190101AFI20240401BHJP
   B60L 53/67 20190101ALI20240401BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240401BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20240401BHJP
   H02J 7/00 20060101ALN20240401BHJP
【FI】
B60L55/00
B60L53/67
H01M10/44 P
H02J3/32
H02J7/00 P
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021202641
(22)【出願日】2021-12-14
(65)【公開番号】P2023088027
(43)【公開日】2023-06-26
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】中村 昂章
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 桂一
(72)【発明者】
【氏名】古川 公彦
(72)【発明者】
【氏名】乾 真也
(72)【発明者】
【氏名】小林 憲令
(72)【発明者】
【氏名】湯郷 政樹
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-135727(JP,A)
【文献】特開2017-103080(JP,A)
【文献】特開2017-123245(JP,A)
【文献】特開2018-081807(JP,A)
【文献】特開2018-093613(JP,A)
【文献】特開2020-162304(JP,A)
【文献】特開2021-150988(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0266061(US,A1)
【文献】国際公開第2013/046263(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/076918(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 55/00
B60L 53/67
G01R 31/36
H01M 10/44
H02J 3/32
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に接続された二次電池における、電解液中の塩濃度の偏りに起因するハイレート劣化に対する評価値を取得する取得処理と、
前記二次電池の前記評価値が予め定められた放電閾値以上であるときに、前記二次電池を前記電力系統の放電需要の調整に参加させない放電非参加処理と、
が実行されるように構成された、電力需要調整装置。
【請求項2】
前記二次電池の前記評価値が予め定められた充電閾値以下であるときに、前記二次電池を前記電力系統の充電需要の調整に参加させない充電非参加処理が、更に実行されるように構成された、請求項1に記載された電力需要調整装置。
【請求項3】
前記取得処理では、前記二次電池における、放電側の前記評価値である放電評価値と、充電側の前記評価値である充電評価値とを取得し、
前記放電非参加処理では、前記放電評価値が前記放電閾値以上であるときに、前記二次電池を前記電力系統の放電需要の調整に参加させず、
前記充電非参加処理では、前記充電評価値が前記充電閾値以下であるときに、前記二次電池を前記電力系統の充電需要の調整に参加させない、請求項2に記載された電力需要調整装置。
【請求項4】
電力系統に接続された二次電池における、電解液中の塩濃度の偏りに起因するハイレート劣化に対する評価値を取得する取得処理と、
前記二次電池の前記評価値が予め定められた充電閾値以下であるときに、前記二次電池を前記電力系統の充電需要の調整に参加させない充電非参加処理と、
が実行されるように構成された、電力需要調整装置。
【請求項5】
電力系統に接続された複数の二次電池における、電解液中の塩濃度の偏りに起因するハイレート劣化に対する評価値をそれぞれ取得する取得処理と、
複数の前記二次電池のうち、前記評価値が予め定められた放電閾値未満である前記二次電池を前記電力系統の放電需要の調整に参加させる放電参加処理と、
が実行されるように構成された、電力需要調整装置。
【請求項6】
複数の前記二次電池のうち、前記評価値が前記放電閾値以上である前記二次電池を前記電力系統の充電需要の調整に参加させる充電参加処理が、更に実行されるように構成された、請求項5に記載された電力需要調整装置。
【請求項7】
前記充電参加処理では、複数の前記二次電池のうち、前記評価値が予め定められた充電閾値より大きい前記二次電池を前記電力系統の充電需要の調整に参加させる、請求項6に記載された電力需要調整装置。
【請求項8】
電力系統に接続された複数の二次電池における、電解液中の塩濃度の偏りに起因するハイレート劣化に対する評価値をそれぞれ取得する取得処理と、
複数の前記二次電池のうち、前記評価値が予め定められた充電閾値より大きい前記二次電池を前記電力系統の充電需要の調整に参加させる充電参加処理と、
が実行されるように構成された、電力需要調整装置。
【請求項9】
複数の前記二次電池のうち、前記評価値が前記充電閾値以下である前記二次電池を前記電力系統の放電需要の調整に参加させる放電参加処理が、更に実行されるように構成された、請求項8に記載された電力需要調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力需要調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、電池制御システムが開示されている。この電池制御システムは、電力網に接続して、電力を充放電する蓄電池と、蓄電池の充放電を制御する制御装置とを備えている。
【0003】
制御装置は、蓄電池の劣化状態が所定の条件を満たしたとき、蓄電池に対する充放電制御の内容を変更する。制御装置は、例えば蓄電池の使用時間が所定の時間以上になると、蓄電池の劣化を抑制するように充放電を制御するように構成されている。このことによって、蓄電池を所有する需要家の経済性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-162304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された蓄電池などの二次電池では、例えば過度な充放電を行うことで、電解液中の塩濃度が偏って内部抵抗が大きくなり、二次電池が劣化することがある。このように電解液中の塩濃度が偏ることに起因した二次電池の劣化のことをハイレート劣化という。このハイレート劣化を考慮せずに二次電池に対して充放電を繰り返すと、ハイレート劣化を促進させる虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここで提案される電力需要調整装置は、電力系統に接続された二次電池における、電解液中の塩濃度の偏りに起因するハイレート劣化に対する評価値を取得する取得処理と、二次電池の評価値が予め定められた放電閾値以上であるときに、二次電池を電力系統の放電需要の調整に参加させない放電非参加処理と、が実行されるように構成されている。例えばハイレート劣化に対する評価値が大きいときには、二次電池が放電過多の状態である。放電過多の二次電池に対して、放電が行われると、ハイレート劣化が促進され易い。そのため、ここでは、評価値が放電閾値以上のときには、電力系統の放電需要の調整に参加させないようにすることで、二次電池のハイレート劣化を抑えることができる。
【0007】
ここで提案される電力需要調整装置は、二次電池の評価値が予め定められた充電閾値以下であるときに、二次電池を電力系統の充電需要の調整に参加させない充電非参加処理が、更に実行されるように構成されてもよい。
【0008】
ここで提案される電力需要調整装置において、取得処理では、二次電池における、放電側の評価値である放電評価値と、充電側の評価値である充電評価値とを取得してもよい。放電非参加処理では、放電評価値が放電閾値以上であるときに、二次電池を電力系統の放電需要の調整に参加させなくてもよい。充電非参加処理では、充電評価値が充電閾値以下であるときに、二次電池を電力系統の充電需要の調整に参加させなくてもよい。
【0009】
ここで提案される電力需要調整装置は、電力系統に接続された二次電池における、電解液中の塩濃度の偏りに起因するハイレート劣化に対する評価値を取得する取得処理と、二次電池の評価値が予め定められた充電閾値以下であるときに、二次電池を電力系統の充電需要の調整に参加させない充電非参加処理と、が実行されるように構成されている。例えばハイレート劣化に対する評価値が小さいときには、二次電池が充電過多の状態である。充電過多の二次電池に対して、充電が行われると、ハイレート劣化が促進され易い。そのため、ここでは、評価値が充電閾値以下のときには、電力系統の充電需要の調整に参加させないようにすることで、二次電池のハイレート劣化を抑えることができる。
【0010】
ここで提案される電力需要調整装置は、電力系統に接続された複数の二次電池における、電解液中の塩濃度の偏りに起因するハイレート劣化に対する評価値をそれぞれ取得する取得処理と、複数の二次電池のうち、評価値が予め定められた放電閾値未満である二次電池を電力系統の放電需要の調整に参加させる放電参加処理と、が実行されるように構成されている。評価値が放電閾値未満のときには、放電過多ではないといえる。そのため、評価値が放電閾値未満のときには、二次電池を電力系統の放電需要の調整に参加させることで、ハイレート劣化を抑えつつ、二次電池を放電させることができる。
【0011】
ここで提案される電力需要調整装置は、複数の二次電池のうち、評価値が放電閾値以上である二次電池を電力系統の充電需要の調整に参加させる充電参加処理が、更に実行されるように構成されてもよい。
【0012】
ここで提案される電力需要調整装置において、充電参加処理では、複数の二次電池のうち、評価値が予め定められた充電閾値より大きい二次電池を電力系統の充電需要の調整に参加させてもよい。
【0013】
ここで提案される電力需要調整装置は、電力系統に接続された複数の二次電池における、電解液中の塩濃度の偏りに起因するハイレート劣化に対する評価値をそれぞれ取得する取得処理と、複数の二次電池のうち、評価値が予め定められた充電閾値より大きい二次電池を電力系統の充電需要の調整に参加させる充電参加処理と、が実行されるように構成されている。評価値が充電閾値よりも大きいときには、充電過多ではないといえる。そのため、評価値が充電閾値よりも大きいときには、二次電池を電力系統の充電需要の調整に参加させることで、ハイレート劣化を抑えつつ、二次電池を充電することができる。
【0014】
ここで提案される電力需要調整装置は、複数の二次電池のうち、評価値が充電閾値以下である二次電池を電力系統の放電需要の調整に参加させる放電参加処理が、更に実行されるように構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る電力需要調整システムを示す概念図である。
図2】実施形態に係る電力需要調整システムを示すブロック図である。
図3】ハイレート劣化に対する評価値を考慮しながら、電動車両に搭載された二次電池の充放電を制御する手順を示すフローチャートである。
図4】評価値のうちの放電評価値と放電閾値を示すグラフである。
図5】評価値のうちの充電評価値と充電閾値を示すグラフである。
図6】二次電池のSOCを考慮しながら、電動車両に搭載された二次電池の充放電を制御する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、ここで開示される電力需要調整装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。本発明は、特に言及されない限りにおいて、ここで説明される実施形態に限定されない。また、同一の作用を奏する部材・部位には、適宜に同一の符号を付し、重複する説明は適宜に省略されるものとする。
【0017】
図1は、本実施形態に係る電力需要調整装置50を備える電力需要調整システム100を示す概念図である。図2は、電力需要調整システム100を示すブロック図である。本実施形態に係る電力需要調整装置50は、二次電池10に対する充電および放電(以下、充放電ともいう。)を制御して、電力系統90の電力を調整する装置である。
【0018】
ここで、二次電池10とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイス一般をいい、リチウム二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池などのいわゆる蓄電池を包含する。本実施形態では、二次電池10は、リチウムイオン二次電池であるが、リチウムイオン二次電池に限定されるものではない。
【0019】
詳しい図示は省略するが、二次電池10は、ケースと、ケースに収容される電極体と、ケースに収容される電解液とを備えている。電極体は、例えば正極要素としての正極シートと、負極要素としての負極シートと、正極シートと負極シートの間に配置されるセパレータとを有している。電解液は、例えば非水系溶媒に支持塩を溶解させた非水電解液である。非水系溶媒の一例として、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどのカーボネート系溶媒が挙げられる。支持塩の一例として、LiPF等のフッ素含有リチウム塩が挙げられる。
【0020】
本実施形態では、二次電池10は、電動車両5に搭載された電池であり、いわゆる車載電池である。電動車両5は、二次電池10から得られる電力をエネルギー源として走行する。電動車両5には、電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車などの電力をエネルギー源とした車両が含まれる。電動車両5は、四輪車であってもよいし、二輪車であってもよい。電動車両5に搭載されている二次電池10の数は限定されず、複数であってもよい。なお、二次電池10は、車載電池に限定されず、例えば家庭内で使用される蓄電池であってもよい。
【0021】
本実施形態では、電力需要調整装置50は、電力需要調整システム100に備えられている。電力需要調整システム100は、電動車両5に対する充放電を調整して、電力系統90の電力を調整するシステムである。図1に示すように、電力需要調整システム100は、管理端末20と、電動車両5に搭載された二次電池10に対して充放電する複数の充放電装置30と、充放電装置30を制御する電力需要調整装置50とを備えている。また、電力需要調整システム100は、図示は省略するが、電力系統90の電力が蓄えられる蓄電装置を備えている。
【0022】
複数の充放電装置30は、蓄電装置に充放電可能に接続されている。電力需要調整システム100は、電力系統90の電力需要に応じて、蓄電装置に蓄えられた電力を電動車両5の二次電池10に充電すること、および、二次電池10から放電された電力を蓄電装置に蓄えることを管理する。なお、電力系統90の蓄電装置に蓄えられた電力は、電力会社などの特定の業者に売られる。電力需要調整システム100は、電力を売買する、すなわち売電および買電する際に使用されるシステムであり得る。
【0023】
ここでは、電力需要調整システム100を管理する者を、システム管理者という。システム管理者は、アグリゲータとも呼ばれる。システム管理者は、電力系統90の電力の需要と供給のバランスを保つように電力の需要量を制御する。システム管理者は、必要な電力量を確保するために、電動車両5のユーザとより多く契約することが好ましく、多くの充放電装置30を管理することが好ましい。
【0024】
電力需要調整システム100は、電動車両5から電力系統90に電力を供給する、いわゆるV2G(Vehicle-to-Grid)を実現するシステムである。電力需要調整システム100には、V2Gに参加する複数の電動車両5が登録されている。V2Gに参加する電動車両5に搭載された二次電池10は、電力需要に応えるために充放電が繰り返され得る。また、電力需要調整システム100は、複数の充放電装置30を管理している。電力需要調整システム100は、電力系統90から電動車両5への放電需要(言い換えると、放電要求)に対して、電動車両5から充放電装置30へ電力を供給したり、電力系統90から電動車両5への充電需要(言い換えると、充電要求)に対して、充放電装置30から電動車両5へ電力を供給したりすることで、電力系統90の電力をマネジメントする。
【0025】
ここで、電力系統90は、発電、送電、変電、配電などを行う電気設備によって構成されるものである。電力系統90は、電力需要に応じて需要家の電気設備まで電力を供給する。電力量は、需要と供給とのバランスを保つように調整される。このような電力需給の調整は、アグリゲータであるシステム管理者によって管理され得る。システム管理者は、電力需要調整装置50を通じて電力系統90への充放電を指示することができる。ここでは、電力系統90の電力需要に応じて、二次電池10の充放電が制御される。例えば電力系統90の需要が放電需要の場合、電力系統90に電力不足が生じているため、二次電池10からの放電が制御される。その結果、電力系統90に電力が供給される。一方、電力系統90の需要が充電需要の場合、電力系統90に余剰電力があるため、二次電池10への充電が制御される。その結果、電力系統90の電力が放出される。
【0026】
管理端末20は、システム管理者(例えばアグリゲータ)によって使用される端末である。システム管理者は、管理端末20を使用することで、電力系統90の電力需要を把握することができる。また、システム管理者は、管理端末20を使用することで、電動車両5から電力系統90への充放電を指示することができる。管理端末20は、例えばシステム管理者が使用するデスクトップ型やラップトップ型のパーソナルコンピュータによって実現される。もちろん、管理端末20は、スマートフォンやタブレット端末で実現されることも可能である。管理端末20は、画面21と、キーボード、マウスまたはタッチパネルなどのシステム管理者が操作して入力する入力手段22と、端末制御装置23とを備えている。端末制御装置23は、画面21および入力手段22と通信可能に接続されている。
【0027】
充放電装置30は、電動車両5の二次電池10に対して充放電するための装置である。充放電装置30は、例えば、家庭、事業所、商業施設、病院、ガソリンスタンド、カーディーラなどに設けられた充電スポットに設置されている。充放電装置30は、図2に示されているように、コネクタ31と、制御装置32とを備えている。制御装置32は、例えば、マイクロコンピュータである。
【0028】
図1に示すように、充放電装置30のコネクタ31は、電動車両5に接続される。充放電装置30は、コネクタ31を介して二次電池10を充放電できるように構成されている。特に限定されないが、コネクタ31としては、例えば、充放電ケーブル等が用いられる。充放電装置30は、コネクタ31を介して二次電池10から電力系統90に電力を供給できるように構成されている。電動車両5は、充放電装置30を介して電力系統90に接続される。
【0029】
ところで、電動車両5に搭載される二次電池10では、例えば過度な充放電を行うことで、二次電池10の電解液中の塩濃度が、予め定められた濃度に対して偏りが生じることがあり得る。電解液中の塩濃度が偏ることで、二次電池10の内部抵抗が大きくなり、二次電池10が劣化することがあり得る。このように、二次電池10の電解液中の塩濃度が偏ることに起因した二次電池10の劣化のことをハイレート劣化という。なお、ハイレート劣化は、いわゆる材料劣化などの経年劣化と異なり、可逆的な劣化である。ハイレート劣化では、大きな電流による充放電に伴って二次電池10が膨張または収縮した結果、二次電池10の電極体内において電解液が一時的に移動して部分的に塩濃度の薄いところや、濃いところが生じることで、塩濃度の偏りが発生する。そのため、ある程度の時間、充放電をせずに二次電池10を静置させたり、充放電電流を小さく制限したりすることで、塩濃度が均一になる方向に電解液が含侵し、塩濃度の偏りが回復する。塩濃度の回復の速度は、温度条件によって変わり得るものである。例えば低温のときには電解液の粘度が高くなるため、塩濃度の偏りの回復が遅くなる半面、高温のときには電解液の粘度が低くなるため、塩濃度の偏りの回復が早くなる。ハイレート劣化が進行すると、内部抵抗が高くなることで充放電の効率が低下することがあるため、ハイレート劣化は抑えることが好ましい。また、ハイレート劣化を考慮せずに二次電池10に対して充放電を繰り返すと、ハイレート劣化を促進させる虞があるため、ハイレート劣化は抑えることが好ましい。
【0030】
そこで、本実施形態では、電力需要調整装置50は、ハイレート劣化を考慮して、電力系統90に接続され、かつ、電力系統90から充電要求または放電要求された二次電池10の充放電を制御する。電力需要調整装置50は、電力系統90の電力需要に応じて、ハイレート劣化を考慮して電動車両5の二次電池10の充放電を制御する。電力需要調整装置50は、単一のコンピュータによって実現されるものであってもよいし、複数のコンピュータが協働で実現されるものであってもよい。電力需要調整装置50は、電力需要調整システム100のシステム管理者によって管理される。
【0031】
電力需要調整装置50は、インターネットなどのネットワークを介して、電動車両5、管理端末20、充放電装置30および電力系統90と通信可能に接続されている。電力需要調整装置50は、制御装置55を備えている。なお、電力需要調整装置50は、図示は省略するが、管理端末20と同様に、画面と、入力手段とを備えていてもよい。
【0032】
制御装置55の構成は特に限定されない。ここでは、制御装置55は、例えばマイクロコンピュータである。制御装置55は、例えばI/Fと、CPUと、ROMと、RAMと、を備えている。図2に示すように、制御装置55は、記憶部60と、第1通信部61と、第2通信部62と、第3通信部63とを備えている。更に、制御装置55は、取得部70と、第1判定部71と、第2判定部72と、放電参加処理部75と、放電非参加処理部76と、充電参加処理部77と、充電非参加処理部78とを備えている。なお、制御装置55の各部61~78は、1つまたは複数のプロセッサによって実現されてもいてよいし、回路に組み込まれていてもよい。
【0033】
第1通信部61は、電動車両5と通信可能に構成されている。第2通信部62は、システム管理者が使用する管理端末20と通信可能に構成されている。ここでは、第2通信部62は、管理端末20の端末制御装置23と通信可能に接続されている。第3通信部63は、充放電装置30と通信可能に構成されている。ここでは、第3通信部63は、充放電装置30の制御装置32と通信可能に接続されている。
【0034】
次に、電力系統90の電力需要(例えば放電需要、充電需要)に応じて、ハイレート劣化を考慮しながら、電動車両5に搭載された二次電池10の充放電を制御する手順について、図3のフローチャートに沿って説明する。ここでは、図1に示すように、充放電装置30のコネクタ31に接続されている電動車両5、すなわち電力系統90の電力需要に応じて、電力系統90に接続されている電動車両5に対して、二次電池10の充放電の制御が行われる。
【0035】
まず図3のステップS101では、図2の取得部70は、電力系統90に接続された二次電池10における評価値ΣDを取得する。ここで、評価値ΣDとは、二次電池10の電解液中の塩濃度の偏りに起因するハイレート劣化に対する評価値である。取得部70は、電力系統90に接続、すなわち充放電装置30に接続されている全ての電動車両5に搭載された二次電池10に対する評価値ΣDを取得する。
【0036】
なお、この評価値ΣDを算出する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の手法を用いることができる。例えば評価値ΣDは、特開2017-103080号公報に記載された手法を用いて算出される。特開2017-103080号公報に開示された発明では、サイクルタイムΔtにおける評価値D(N)を算出し、評価値D(N)に基づいた積算評価値が算出される。この積算評価値が、本実施形態における評価値ΣDとなる。ここでは、評価値ΣD>0のとき、放電方向に塩濃度(例えばイオン濃度)が偏っており、後述の放電閾値K1(図4参照)以上のときに、塩濃度が放電側に偏り過ぎて、二次電池10が放電過多の状態になる。一方、評価値ΣD<0のとき、充電方向に塩濃度が偏っており、後述の充電閾値K2(図5参照)以下のときに、塩濃度が充電側に偏り過ぎて、二次電池10が充電過多の状態になる。
【0037】
なお、本実施形態では、評価値ΣDは、放電評価値ΣDex1と、充電評価値ΣDex2とを有している。評価値ΣDは、放電評価値ΣDex1と、充電評価値ΣDex2とに分けて算出されることが可能である。ここで、放電評価値ΣDex1は、二次電池10におけるハイレート劣化に対する放電側の評価値である。放電評価値ΣDex1は、放電過多を管理するためのハイレート劣化に対する評価値である。放電評価値ΣDex1は、電力系統90が放電需要(例えば放電要求)のときに使用される評価値である。本実施形態では、放電評価値ΣDex1は、特開2017-103080号公報に開示された発明における、放電側の積算評価値ΣDex1(N)のことである。
【0038】
一方、充電評価値ΣDex2は、二次電池10におけるハイレート劣化に対する充電側の評価値である。充電評価値ΣDex2は、充電過多を管理するためのハイレート劣化に対する評価値である。充電評価値ΣDex2は、電力系統90が充電需要(例えば充電要求)のときに使用される評価値である。本実施形態では、充電評価値ΣDex2は、特開2017-103080号公報に開示された発明における、充電側の積算評価値ΣDex2(N)のことである。
【0039】
このように、本実施形態では、取得部70は、電力系統90に接続された二次電池10の評価値ΣD(詳しくは、放電評価値ΣDex1、および、充電評価値ΣDex2)を取得する。なお、取得部70における評価値ΣDの取得先は、特に限定されない。例えば取得部70は、電力系統90に接続された二次電池10が搭載された電動車両5から取得する。例えば電動車両5には、二次電池10の評価値ΣD(例えば放電評価値ΣDex1、および、充電評価値ΣDex2)が記憶されている。電動車両5は、電力需要調整装置50の第1通信部61(図2参照)を介して、電力需要調整装置50に評価値ΣDを送信する。このことで、取得部70は、二次電池10の評価値ΣDを取得することができる。
【0040】
なお、電動車両5によっては、ハイレート劣化に対する評価値ΣDが記憶されていないことがあり得る。この評価値ΣDは、二次電池10の温度、二次電池10における充放電時の電流値や電圧値に基づいて算出される値である。電動車両5では、所定の周期ごとに、二次電池10の温度、二次電池10における充放電時の電流値や電圧値が測定されて記憶されている。そのため、電動車両5から電力需要調整装置50に対して、二次電池10の温度、二次電池10における充放電時の電流値や電圧値が送信される。そして、電力需要調整装置50は、受信した二次電池10の温度、電流値、電圧値に基づいて、評価値ΣDを算出する。取得部70は、電力需要調整装置50によって算出された評価値ΣDを取得してもよい。
【0041】
このように、取得部70が評価値ΣDを取得した後、図3のステップS103に進む。ステップS103では、図2の第1判定部71は、二次電池10の評価値ΣDが、予め定められた放電閾値K1以上であるか否かを判定する。ここで、放電閾値K1とは、記憶部60に予め記憶された値である。図4は、評価値ΣDのうちの放電評価値ΣDex1と放電閾値K1を示すグラフである。図4に示すように、放電閾値K1は、正の値であり、二次電池10の電池特性、劣化度合い、温度などに応じて設定される値である。放電閾値K1は、電力系統90に接続された全ての二次電池10に対して一定の値であってもよいし、二次電池10毎に設定されるものであってもよい。
【0042】
ここでは、1つの二次電池10に対して1つの評価値ΣDの場合、上述のように、第1判定部71は、評価値ΣDが放電閾値K1以上であるか否かを判定する。ただし、評価値ΣDが、放電評価値ΣDex1と充電評価値ΣDex2とに分かれている場合、第1判定部71は、図3のステップS103のように、放電評価値ΣDex1が放電閾値K1以上であるか否かを判定してもよい。
【0043】
ここで、評価値ΣD(または放電評価値ΣDex1)が放電閾値K1以上である場合、次に、図3のステップS105に進む。ステップS105では、図2の放電非参加処理部76は、二次電池10を電力系統90の放電需要の調整に参加させない。評価値ΣDが放電閾値K1以上のとき、二次電池10が放電過多であるため、放電されることでハイレート劣化が促進される虞がある。そのため、評価値ΣDが放電閾値K1以上である二次電池10には、電力系統90の放電需要の調整に参加させない。なお、「放電需要の調整に参加させない」とは、電力系統90から電力需要調整装置50へ放電需要の要求があった場合でも、評価値ΣDが放電閾値K1以上の二次電池10から充放電装置30に対する放電の制御を行わないことを意味する。また、電力系統90の放電需要の調整の場合には、例えば電力系統90の電力が不足しているときに、電力系統90から電力需要調整装置50に対して、放電需要信号が送信される。電力需要調整装置50は、放電需要信号を受信することで、電力系統90が放電需要の調整の状態であることを認識する。
【0044】
一方、図3のステップS103において、評価値ΣD(または放電評価値ΣDex1)が放電閾値K1未満である場合、次に図3のステップS107に進む。ステップS107では、図2の第2判定部72は、二次電池10の評価値ΣDが、予め定められた充電閾値K2以下であるか否かを判定する。ここで、充電閾値K2とは、記憶部60に予め記憶された値である。図5は、評価値ΣDのうちの充電評価値ΣDex2と充電閾値K2を示すグラフである。図5に示すように、充電閾値K2は、負の値であり、上記の放電閾値K1(図4参照)よりも小さい値である。充電閾値K2は、放電閾値K1と同様に、二次電池10の電池特性、劣化度合い、温度などに応じて設定される値である。充電閾値K2は、放電閾値K1と同様に、電力系統90に接続された全ての二次電池10に対して一定の値であってもよいし、二次電池10毎に設定されるものであってもよい。
【0045】
ここでは、1つの二次電池10に対して1つの評価値ΣDの場合、上述のように、第2判定部72は、評価値ΣDが充電閾値K2以下であるか否かを判定する。ただし、評価値ΣDが、放電評価値ΣDex1と充電評価値ΣDex2とに分かれている場合、第2判定部72は、図3のステップS107のように、充電評価値ΣDex2が充電閾値K2以下であるか否かを判定してもよい。
【0046】
ステップS107において、評価値ΣD(または充電評価値ΣDex2)が充電閾値K2以下である場合、次に、図3のステップS109に進む。ステップS109では、図2の充電非参加処理部78は、評価値ΣDが充電閾値K2以下である二次電池10を電力系統90の充電需要の調整に参加させない。評価値ΣDが充電閾値K2以下のとき、二次電池10が充電過多であるため、充電されることでハイレート劣化が促進される虞がある。そのため、評価値ΣD(または充電評価値ΣDex2)が充電閾値K2以下である二次電池10には、電力系統90の充電需要の調整に参加させない。なお、「充電需要の調整に参加させない」とは、電力系統90から電力需要調整装置50へ充電需要の要求があった場合でも、充放電装置30から、評価値ΣDが充電閾値K2以下の二次電池10への充電の制御を行わないことを意味する。電力系統90の充電需要の調整の場合には、例えば電力系統90に余剰電力が発生しているときに、電力系統90から電力需要調整装置50に対して、充電需要信号が送信される。電力需要調整装置50は、充電需要信号を受信することで、電力系統90が充電需要の調整の状態であることを認識する。
【0047】
一方、図3のステップS107において、評価値ΣD(または充電評価値ΣDex2)が充電閾値K2より大きい場合、次に図3のステップS111に進む。この場合、評価値ΣDが、放電閾値K1未満であり、かつ、充電閾値K2より大きいため、放電の場合であっても充電の場合であっても、ハイレート劣化が起こり難い。すなわち、評価値ΣDが、放電閾値K1未満であり、かつ、充電閾値K2より大きい二次電池10は、放電過多ではなく、かつ、充電過多でもないため、充放電を行うことが可能である。そこで、ステップS111では、図2の放電参加処理部75は、二次電池10に対して電力系統90の放電需要の調整に参加させる。また、図2の充電参加処理部77は、二次電池10に対して電力系統90の充電需要の調整に参加させる。なお、ここで「放電需要(または充電需要)の調整に参加させる」とは、電力系統90から電力需要調整装置50へ放電需要(または充電需要)の要求があった場合、二次電池10から充放電装置30に対する放電(または充電)の制御を行うことを意味する。
【0048】
なお、本実施形態では、図2の放電参加処理部75は、図3のステップS103において、評価値ΣD(または放電評価値ΣDex1)が放電閾値K1未満の場合に、二次電池10を電力系統90の放電需要の調整に参加させるように制御を行う。そのため、ステップS109では、評価値ΣDが充電閾値K2以下である場合、評価値ΣDは、充電閾値K2よりも大きい放電閾値K1未満になる。よって、ステップS109では、放電参加処理部75は、二次電池10を電力系統90の放電需要の調整に参加させる。すなわち、評価値ΣDが充電閾値K2以下である二次電池10に対して、電力系統90の充電需要の調整には参加させないが、電力系統90の放電需要の調整には参加させる。
【0049】
なお、評価値ΣDが充電閾値K2以下のとき、充電過多の状態になる。このとき、放電参加処理部75は、評価値ΣDが充電閾値K2以下の二次電池10に対して、充電過多の状態を緩和させるために、まず電力系統90の放電需要の調整に優先的に参加させる。このように、充電過多の二次電池10に対して放電させることで、例えば評価値ΣDが大きくなる。そして、放電需要の調整に参加させて、評価値ΣDが所定の閾値以上になったときに、充電参加処理部77は、二次電池10を充電需要の調整に参加させる。所定の閾値は、放電閾値K1以下であり、かつ、充電閾値K2以上である。このように、充電過多のときには、放電需要に参加させて評価値ΣDを高くした後に、充電需要に参加させることで、ハイレート劣化を抑制しながら、二次電池10に対して充放電を効率よく行うことができる。
【0050】
本実施形態では、図2の充電参加処理部77は、図3のステップS107において、評価値ΣD(または充電評価値ΣDex2)が充電閾値K2よりも大きい場合に、二次電池10を電力系統90の充電需要の調整に参加させるように制御を行う。ステップS105では、評価値ΣDが放電閾値K1以上である場合、評価値ΣDは、放電閾値K1よりも小さい充電閾値K2以上になる。よって、ステップS105では、充電参加処理部77は、二次電池10を電力系統90の充電需要の調整に参加させる。すなわち、評価値ΣDが放電閾値K1以上である二次電池10に対して、電力系統90の放電需要の調整には参加させないが、電力系統90の充電需要の調整には参加させる。
【0051】
なお、評価値ΣDが放電閾値K1以上のとき、放電過多の状態になる。このとき、充電参加処理部77は、評価値ΣDが放電閾値K1以上の二次電池10に対して、放電過多の状態を緩和させるために、まず電力系統90の充電需要の調整に優先的に参加させる。このように、放電過多の二次電池10に対して充電させることで、評価値ΣDが小さくなる。そして、充電需要に参加させて、評価値ΣDが所定の閾値(放電閾値K1以下であり、かつ、充電閾値K2以上である閾値)以下になったときに、放電参加処理部75は、二次電池10の放電需要に参加させる。このように、放電過多のときには、充電需要に参加させて評価値ΣDを低くした後に、放電需要に参加させることで、ハイレート劣化を抑制しながら、二次電池10に対して充放電を効率よく行うことができる。
【0052】
例えば電力系統90の需要が放電需要のときにおいて、電力系統90に接続される二次電池10の数、言い換えると放電制御される二次電池10の数が制限されることがあり得る。この場合、評価値ΣD(または放電評価値ΣDex1)が小さい二次電池10から優先的に電力系統90に接続され、充放電装置30に放電されるように制御されるとよい。また、電力系統90の需要が充電需要のときにおいて、電力系統90に接続される二次電池10の数、言い換えると充電制御される二次電池10の数が制限されることがあり得る。この場合、評価値ΣD(または充電評価値ΣDex2)が大きい二次電池10から優先的に電力系統90に接続され、充放電装置30から充電されるように制御されるとよい。
【0053】
なお、上記では、ハイレート劣化に対する評価値ΣDに応じて、電力系統90の放電需要や充電需要のときに、放電や充電の制御の対象となる二次電池10が決定されていた。しかしながら、二次電池10の充電状態(以下、SOC(State Of Charge)という。)に応じて、電力系統90の放電需要や充電需要のときに、放電や充電の制御の対象となる二次電池10が決定されてもよい。次に、電力系統90の電力需要(例えば放電需要、充電需要)に応じて、二次電池10のSOCを考慮しながら、電動車両5に搭載された二次電池10の充放電を制御する手順について、図6のフローチャートに沿って説明する。ここでは、図1に示すように、充放電装置30のコネクタ31に接続されている電動車両5、すなわち電力系統90の電力需要に応じて、電力系統90に接続されている電動車両5に対して、二次電池10の充放電の制御が行われる。
【0054】
まず図6のステップS201では、図2の取得部70は、電力系統90に接続された二次電池10におけるSOCを取得する。なお、取得部70における二次電池10のSOCを取得する具体的な方法は特に限定されない。例えば取得部70は、電力系統90に接続された二次電池10が搭載された電動車両5から、SOCを取得する。例えば電動車両5には、二次電池10のSOCに関する情報が記憶されている。電動車両5は、電力需要調整装置50の第1通信部61(図2参照)を介して、電力需要調整装置50にSOCに関する情報を送信する。このことで、取得部70は、二次電池10のSOCを取得することができる。
【0055】
このように、取得部70が二次電池10のSOCを取得した後、図6のステップS203では、図2の第1判定部71は、二次電池10のSOCが、予め定められたSOC上限値Sa1以上であるか否かを判定する。ここで、SOC上限値Sa1とは、記憶部60に予め記憶された値である。SOC上限値Sa1は、二次電池10が満充電状態を示す値である。SOC上限値Sa1は、電力系統90に接続された全ての二次電池10に対して一定の値であってもよいし、二次電池10毎に設定されるものであってもよい。
【0056】
ここで、二次電池10のSOCがSOC上限値Sa1以上の場合、次に、図6のステップS205に進む。ステップS205では、図2の充電非参加処理部78は、二次電池10が満充電状態であるため、SOCがSOC上限値Sa1以上である二次電池10に対して、電力系統90の充電需要の調整に参加させない。ただし、満充電状態である二次電池10は、放電することが可能である。そのため、ステップS205において、図2の放電参加処理部75は、SOCがSOC上限値Sa1以上である二次電池10に、電力系統90の放電需要の調整に参加させる。
【0057】
一方、図6のステップS203において、二次電池10のSOCがSOC上限値Sa1未満の場合、次に図6のステップS207に進む。ステップS207では、図2の第2判定部72は、二次電池10のSOCが、予め定められたSOC下限値Sa2以下であるか否かを判定する。ここで、SOC下限値Sa2とは、記憶部60に予め記憶された値である。SOC下限値Sa2は、SOC上限値Sa1よりも小さい値である。SOC下限値Sa2は、二次電池10の充電不足の状態を示す値である。SOC下限値Sa2は、電力系統90に接続された全ての二次電池10に対して一定の値であってもよいし、二次電池10毎に設定されるものであってもよい。
【0058】
ステップS207において、二次電池10のSOCがSOC下限値Sa2以下である場合、次に、図6のステップS209に進む。ステップS209では、図2の放電非参加処理部76は、二次電池10が充電不足の状態であるため、SOCがSOC下限値Sa2以下である二次電池10に対して、電力系統90の放電需要の調整に参加させない。ただし、充電不足の状態である二次電池10は、充電不足を解消するために、充電することが可能である。そのため、ステップS209において、図2の充電参加処理部77は、SOCがSOC下限値Sa2以下である二次電池10に対して、電力系統90の充電需要の調整に参加させる。
【0059】
一方、図6のステップS207において、二次電池10のSOCがSOC下限値Sa2より大きい場合、次に図6のステップS211に進む。ステップS211では、二次電池10のSOCが、SOC上限値Sa1未満であり、かつ、SOC下限値Sa2よりも大きい。そのため、二次電池10に対して、充電することも放電することも可能である。そこで、ステップS211では、図2の放電参加処理部75は、二次電池10に対して電力系統90の放電需要の調整に参加させる。また、図2の充電参加処理部77は、二次電池10に対して電力系統90の充電需要の調整に参加させる。
【0060】
本実施形態では、ハイレート劣化に対する評価値ΣDと、二次電池10のSOCとの間には、相関性がない。ここでは、図3のフローチャートで示された評価値ΣDの判定と、図6のフローチャートで示された二次電池10のSOCの判定とにおいて、両方で電力系統90の放電需要の調整に参加させると判断された場合にのみ、二次電池10を電力系統90の放電需要の調整に参加させる。すなわち、評価値ΣDの判定と、二次電池10のSOCの判定とにおいて、一方で放電需要の調整に参加させないと判断され、他方で放電需要の調整に参加させると判断された場合、二次電池10を電力系統90の放電需要の調整に参加させない。また、評価値ΣDの判定と、二次電池10のSOCの判定とにおいて、両方で電力系統90の充電需要の調整に参加させると判断された場合にのみ、二次電池10を電力系統90の充電需要の調整に参加させる。すなわち、評価値ΣDの判定と、二次電池10のSOCの判定とにおいて、一方で充電需要の調整に参加させないと判断され、他方で充電需要の調整に参加させると判断された場合、二次電池10を電力系統90の充電需要の調整に参加させない。
【0061】
本実施形態では、図3のフローチャートに示された評価値ΣDによる判定と、図6のフローチャートに示された二次電池10のSOCによる判定の順は、特に限定されない。例えば図3のフローチャートに示された評価値ΣDによる判定の後に、図6のフローチャートに示された二次電池10のSOCによる判定が行われてもよいし、図6のフローチャートに示された二次電池10のSOCによる判定の後に、図3のフローチャートに示された評価値ΣDによる判定が行われてもよい。
【0062】
以上、本実施形態では、電力需要調整装置50は、取得処理と、放電非参加処理とが実行されるように構成されている。取得処理は、図2の取得部70によって実行される処理である。取得処理では、図3のステップS101のように、電力系統90に接続された二次電池10における、電解液中の塩濃度の偏りに起因するハイレート劣化に対する評価値ΣDを取得する。放電非参加処理では、図2の放電非参加処理部76によって実行される。放電非参加処理では、図3のステップS105のように、二次電池10の評価値ΣDが予め定められた放電閾値K1以上であるときに、二次電池10を電力系統90の放電需要の調整に参加させない。例えばハイレート劣化に対する評価値ΣDが大きいときには、二次電池10が放電過多の状態である。放電過多の二次電池10に対して、放電が行われると、ハイレート劣化が促進され易い。そのため、本実施形態では、評価値ΣDが放電閾値K1以上のときには、電力系統90の放電需要の調整に参加させないようにすることで、二次電池10のハイレート劣化を抑えることができる。
【0063】
本実施形態では、電力需要調整装置50は、充電非参加処理が実行されるように構成されている。充電非参加処理は、図2の充電非参加処理部78によって実行される。充電非参加処理では、図3のステップS109のように、二次電池10の評価値ΣDが予め定められた充電閾値K2以下であるときに、二次電池10を電力系統90の充電需要の調整に参加させない。例えばハイレート劣化に対する評価値ΣDが小さいときには、二次電池10が充電過多の状態である。充電過多の二次電池10に対して、充電が行われると、ハイレート劣化が促進され易い。そのため、本実施形態では、評価値ΣDが充電閾値K2以下のときには、電力系統90の充電需要の調整に参加させないようにすることで、二次電池10のハイレート劣化を抑えることができる。
【0064】
本実施形態に係る取得処理では、図3のステップS101のように、二次電池10における、放電側の評価値ΣDである放電評価値ΣDex1と、充電側の評価値ΣDである充電評価値ΣDex2とを取得する。放電非参加処理では、図3のステップS105のように、放電評価値ΣDex1が放電閾値K1以上であるときに、二次電池10を電力系統90の放電需要の調整に参加させない。充電非参加処理では、図3のステップS109のように、充電評価値ΣDex2が充電閾値K2以下であるときに、二次電池10を電力系統90の充電需要の調整に参加させない。このように、放電評価値ΣDex1と放電閾値K1とで判定を行うことで、二次電池10が放電過多であるか否かを適切に判定することができる。よって、放電過多によるハイレート劣化をより抑えることができる。また、充電評価値ΣDex2と充電閾値K2とで判定を行うことで、二次電池10が充電過多であるか否かを適切に判定することができる。よって、充電過多によるハイレート劣化をより抑えることができる。
【0065】
本実施形態では、取得処理では、図3のステップS101のように、電力系統90に接続された二次電池10における評価値ΣDをそれぞれ取得する。電力需要調整装置50は、放電参加処理が実行されるように構成されている。放電参加処理は、図2の放電参加処理部75によって実行される。放電参加処理では、図3のステップS111のように、複数の二次電池10のうち、評価値ΣDが放電閾値K1未満である二次電池10を電力系統90の放電需要の調整に参加させる。評価値ΣDが放電閾値K1未満のときには、放電過多ではないといえる。そのため、評価値ΣDが放電閾値K1未満のときには、二次電池10を電力系統90の放電需要の調整に参加させることで、ハイレート劣化を抑えつつ、二次電池10を放電させることができる。
【0066】
本実施形態では、電力需要調整装置50は、充電参加処理が実行されるように構成されている。充電参加処理は、図2の充電参加処理部77によって実行される。充電参加処理では、図3のステップS105のように、複数の二次電池10のうち、評価値ΣDが放電閾値K1以上である二次電池10を電力系統90の充電需要の調整に参加させる。このように、放電過多の二次電池10に対して充電が行われることで、評価値ΣDを小さくさせることができる。よって、放電過多の状態を早期に解消させることができる。
【0067】
本実施形態では、充電参加処理では、図3のステップS111のように、複数の二次電池10のうち、評価値ΣDが充電閾値K2より大きい二次電池10を電力系統90の充電需要の調整に参加させる。評価値ΣDが充電閾値K2よりも大きいときには、充電過多ではないといえる。そのため、評価値ΣDが充電閾値K2よりも大きいときには、二次電池10を電力系統90の充電需要の調整に参加させることで、ハイレート劣化を抑えつつ、二次電池10を充電することができる。
【0068】
本実施形態では、放電参加処理では、図3のステップS109のように、複数の二次電池10のうち、評価値ΣDが充電閾値K2以下である二次電池10を電力系統90の放電需要の調整に参加させる。このように、充電過多の二次電池10に対して放電が行われることで、評価値ΣDを大きくさせることができる。よって、放電過多の状態を早期に解消させることができる。
【符号の説明】
【0069】
10 二次電池
50 電力需要調整装置
70 取得部
71 第1判定部
72 第2判定部
75 放電参加処理部
76 放電非参加処理部
77 充電参加処理部
78 充電非参加処理部
90 電力系統
100 電力需要調整システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6