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特許7463348鉄基アモルファス合金ストリップ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】鉄基アモルファス合金ストリップ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240401BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20240401BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20240401BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20240401BHJP
   B22D 11/06 20060101ALI20240401BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
H01F41/02 C
H01F1/153 108
C21D8/12 H
C22C45/02 A
B22D11/06 360B
C21D6/00 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021510804
(86)(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 CN2019106049
(87)【国際公開番号】W WO2020125094
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】201811541604.1
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519446562
【氏名又は名称】チンタオ ユンルー アドバンスド マテリアルズ テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー、シアオユイ
(72)【発明者】
【氏名】パン、チン
(72)【発明者】
【氏名】リウ、ホンユイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、トン
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/102379(WO,A1)
【文献】特開2006-316348(JP,A)
【文献】特開平09-202946(JP,A)
【文献】特開2008-279459(JP,A)
【文献】特許第6338004(JP,B1)
【文献】特開2006-310787(JP,A)
【文献】国際公開第2007/094502(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/151172(WO,A1)
【文献】特開昭63-160757(JP,A)
【文献】特開2009-061485(JP,A)
【文献】特開2010-099682(JP,A)
【文献】特開昭62-166059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/153、41/02
B22D 11/06
C21D 6/00、8/12
C22C 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される鉄基アモルファス合金ストリップであって、
FeSi (I)
ここで、Mは、微量元素であり、
a、b、c、d及びfは、それぞれ各元素に対応する原子百分率であり、81.0≦a≦83.0、0.5≦b≦6.5、12.0≦c≦14.5、0.1≦d≦1.3、f≦0.4、a+b+c+d+f=100であり、
前記鉄基アモルファス合金ストリップのピンホールは、長さが1.5~3.5mmであり、幅が0.5~1.5mm以下であり、長さ2mのストリップは、ピンホールの数が3~5であり、
前記Mは、P、Mn及びAlであり、前記Pの原子百分率は、0.01~0.03%であり、前記Mnの原子百分率は、0.03~0.20%であり、前記Alの原子百分率は、0.0025%以下であり、
前記鉄基アモルファス合金ストリップの積層係数は、88.0%以上であり、前記鉄基
アモルファス合金ストリップの飽和磁束密度は、1.62T以上であり、
前記鉄基アモルファス合金ストリップは、磁束密度1.30T、50Hzの条件下で、ストリップ損失≦0.10W/kg、励磁電力≦0.15VA/kg、B 80 >1.50T、Hc≦3A/mであり、
前記鉄基アモルファス合金ストリップが、
A)前記式(I)で表される鉄基アモルファス合金の組成に従って原料を配合した後、溶製し、精錬して溶鋼を得るステップと、
B)前記溶鋼に、単ロール急冷を施し、さらに、熱処理を行い、鉄基アモルファス合金ストリップを得るステップと、を含む方法で製造され、
前記単ロール急冷の過程中、冷却ロールの表面の粗さは、0.1~0.5μmであり、
前記熱処理の温度は、300~360℃であり、保温時間は、60~120minであり、磁界強度は、800~1400A/mであり、
前記冷却ロールの表面の粗さは、前記冷却ロールの表面をまず予備研磨し、さらにオンライン研磨することにより達成され、
前記予備研磨は、まず、粗研磨、次に精研磨であり、前記オンライン研磨は、精研磨であり、
前記予備研磨及び前記オンライン研磨の過程中は、いずれも研磨砥石が送り方向に対して垂直に揺動する、
鉄基アモルファス合金ストリップ。
【請求項2】
A)式(I)で表される鉄基アモルファス合金の組成に従って原料を配合した後、溶製し、精錬して溶鋼を得るステップと、
B)前記溶鋼に、単ロール急冷を施し、さらに、熱処理を行い、鉄基アモルファス合金ストリップを得るステップと、を含む請求項1に記載の鉄基アモルファス合金ストリップの製造方法であって、
単ロール急冷の過程中、冷却ロールの表面の粗さは、0.1~0.5μmであり、
前記熱処理の温度は、300~360℃であり、保温時間は、60~120minであり、磁界強度は、800~1400A/mであり、
FeSi (I)、
ここで、Mは、微量元素であり、
a、b、c、d及びfは、それぞれ各元素に対応する原子百分率であり、81.0≦a≦83.0、0.5≦b≦6.5、12.0≦c≦14.5、0.1≦d≦1.3、f≦0.4、a+b+c+d+f=100であり、
前記Mは、P、Mn及びAlであり、前記Pの原子百分率は、0.01~0.03%であり、前記Mnの原子百分率は、0.03~0.20%であり、前記Alの原子百分率は、0.0025%以下であり、
前記鉄基アモルファス合金ストリップの積層係数は、88.0%以上であり、前記鉄基
アモルファス合金ストリップの飽和磁束密度は、1.62T以上であり、
前記鉄基アモルファス合金ストリップは、磁束密度1.30T、50Hzの条件下で、ストリップ損失≦0.10W/kg、励磁電力≦0.15VA/kg、B 80 >1.50T、Hc≦3A/mであり、
前記冷却ロールの表面の粗さは、前記冷却ロールの表面をまず予備研磨し、さらにオンライン研磨することにより達成され、
前記予備研磨は、まず、粗研磨、次に精研磨であり、前記オンライン研磨は、精研磨であり、
前記予備研磨及び前記オンライン研磨の過程中は、いずれも研磨砥石が送り方向に対して垂直に揺動する、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
本願は、2018年12月17日に中国特許庁へ提出された、出願番号201811541604.1、発明の名称が「鉄基アモルファス合金ストリップ及びその製造方法」である中国特許出願に基づき優先権を主張し、その全内容は、援用により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、軟磁性材料の技術分野に関し、特に、鉄基アモルファス合金ストリップ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
鉄基アモルファスストリップは、優れた軟磁気特性を備え、配電用変圧器の鉄心材料として使用される。ケイ素鋼板で作られた従来の変圧器と比較して、鉄基アモルファス合金は、非常に磁化されやすく、変圧器の無負荷損失が大幅に削減し、一方、伝統的なケイ素鋼板の製造プロセスは、製鋼、鋳造、造塊-分塊、初期圧延、焼鈍、熱間圧延、焼鈍、酸洗、仕上げ圧延、せん断から薄板製品まで、若干のプロセス、数十の工程を必要とするが、鉄基アモルファスストリップの製造工程は簡単で、製造エネルギー消費量が少ないため、鉄基アモルファスストリップが「二重省エネ材」と呼ばれる。
近年、国の政策支援及びアモルファス変圧器自身の利点により、鉄基アモルファスストリップ産業が活発に発展している。現在、中国のアモルファスストリップの年間生産量は年々増加しているが、海外と比較するとまだ一定のギャップがあり、特に、高い飽和磁束密度を持つ鉄基アモルファスストリップは、国内のストリップメーカーは、依然としても大量供給を達成していない。
高飽和磁束密度を持つアモルファス材料の研究開発は、長年にわたって行われてきる。最も代表的な例は、米国のAllied-Signal公司によって開発された型番Metglas2605Coである合金であり、この合金は飽和磁束密度が1.8Tに達するが、18%のCo元素が含まれているため、コストが高すぎ、工業製造に使用されることができない。現在、市販されている高飽和磁束密度のアモルファスストリップは、日立金属株式会社で開発された型番「2605 HB1M」の合金であり、その公開されている特許情報(公開番号CN1721563A)から判断すると、この合金は、実際にFe-Si-B-C合金であり、その飽和磁束密度は1.64Tであり、その製造中にC含有ガスの吹き付けによりストリップの表面のC元素含有量分布を制御するプロセスは、製品の製造プロセス条件が制御することを困難にし、工業生産の安定性を保証することができない。
また、高飽和磁束密度を持つアモルファスストリップの研究は、基本的に研究所の研究ポイントからのものであり、例えば、新日本製鉄株式会社は特許CN1356403Aに飽和磁束密度が1.75Tに達するFe-Si-B-P-C合金開示しているが、実際の工業生産で達成するのは困難である。
高飽和磁束密度を持つアモルファスストリップは、通常の磁気誘導アモルファスストリップと比較して、その鉄含有量が一般的に2~3個の原子高くなるが、鉄含有量が増えると、アモルファス形成元素が相対的に減少し、同じ製造条件下で、高飽和磁束密度アモルファスストリップの製造は、より困難になり、連続スプレー時間が低下し、収率が低下し、ストリップの品質が著しく劣化する。従って、製造プロセスが簡単であり、高飽和磁束密度及び高表面品質を持つ鉄基アモルファス合金を提供するのは、非常に必要である。
【発明の概要】
【0004】
本発明が解決する技術的問題は、高表面品質及び高飽和磁束密度を持つ鉄基アモルファス合金ストリップを提供することにある。
以上の状況を鑑み、本願は、式(I)で表される鉄基アモルファス合金ストリップであって、
FeSi (I);
ここで、Mは、微量元素であり、
a、b、c、d及びfは、それぞれ各元素の原子百分率に対応し、81.0≦a≦83.0、0.5≦b≦6.5、12.0≦c≦14.5、0.1≦d≦1.3、f≦0.4、a+b+c+d+f=100、
前記鉄基アモルファス合金ストリップのピンホールは、長さが0超え4mm以下であり、幅が0超え2mm以下であり、長さ2mのストリップは、ピンホールの数が5以下である鉄基アモルファス合金ストリップを提供する。
好ましくは、前記Mは、P、Mn及びAlであり、前記Pの原子百分率は、0.01~0.03%であり、前記Mnの原子百分率は、0.03~0.20%であり、前記Alの原子百分率は、0.0025%以下である。
好ましくは、前記鉄基アモルファス合金ストリップの積層係数は、88.0%以上であり、前記鉄基アモルファス合金ストリップの飽和磁束密度は、1.62T以上である。
好ましくは、前記ピンホールは長さが、1.5~3.5mmであり、幅が、0.5~1.5mmであり、数が3~5である。
【0005】
本願は、さらに、
A)式(I)で表される鉄基アモルファス合金の組成に従って原料を配合した後、溶製し、精錬して溶鋼を得るステップと、
B)前記溶鋼を、単ロール急冷を施し、さらに、熱処理を行い、鉄基アモルファス合金ストリップを得るステップと、を含む前記鉄基アモルファス合金ストリップの製造方法において
単ロール急冷の過程中に、冷却ロールの表面の粗さは、0.1~0.5μmであり、
FeSi (I)、
ここで、Mは、微量元素であり、
a、b、c、d及びfは、それぞれ対応する各元素の原子百分率であり、81.0≦a≦83.0、0.5≦b≦6.5、12.0≦c≦14.5、0.1≦d≦1.3、f≦0.4、a+b+c+d+f=100である、鉄基アモルファス合金ストリップの製造方法を提供する。
好ましくは、前記冷却ロールの表面の粗さは、前記冷却ロールの表面をまず予備研磨し、さらにオンライン研磨を施すことにより達成される。
好ましくは、前記予備研磨は、まず、粗研磨、次に精研磨であり、前記オンライン研磨は、精研磨である。
好ましくは、前記予備研磨及び前記オンライン研磨の過程中では、いずれも研磨砥石が送り方向に対して垂直に揺動する。
好ましくは、前記熱処理の温度は、300~360℃であり、保温時間は、60~120minであり、磁界強度は、800~1400A/mである。
好ましくは、前記鉄基アモルファス合金ストリップは、磁束密度1.30T、50Hzの条件下で、ストリップ損失≦0.10W/kg、励磁電力≦0.15VA/kg、B80>1.50T、Hc≦3A/mである。
【0006】
本願は、式FeSiで表される鉄基アモルファス合金ストリップを提供し、該鉄基アモルファス合金ストリップのピンホールは、長さが0超え4mm以下であり、幅が0超え2mm以下であり、長さ2.0mのストリップはピンホールの数が5以下であり、本願が提供する鉄基アモルファス合金ストリップは、表面品質を制御することにより鉄基アモルファス合金ストリップの表面が緻密で平坦であり、高飽和磁束密度及び高靭性を持ち、同時に鉄基アモルファス合金ストリップの軟磁気特性を低減させる。
他方、本願は、上記鉄基アモルファス合金ストリップを製造する過程中では、冷却ロールの表面の粗さを調整することにより、製造された鉄基アモルファス合金ストリップが高い表面品質を持つ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明をさらに説明するために、以下、本発明の好ましい実施形態を実施例により説明するが、これらの説明は、本発明の特徴および利点をさらに説明するためだけであり、本発明の特許請求の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。
本願は、合金組成の選択及びプロセスの最適化の点から、高表面品質、低損失、高飽和磁束密度を持つ鉄基アモルファス合金ストリップを取得している。具体的には、本発明の実施例は、式(I)で表される鉄基アモルファス合金ストリップを開示しており、
FeSi (I)、
ここで、Mは、微量元素であり、
a、b、c、d及びfは、それぞれ各元素に対応する原子百分率であり、81.0≦a≦83.0、0.5≦b≦6.5、12.0≦c≦14.5、0.1≦d≦1.3、f≦0.4、a+b+c+d+f=100であり、
前記鉄基アモルファス合金ストリップのピンホールは、長さが0超え4mm以下であり、幅が0超え2mm以下であり、長さ2.0mのストリップは、ピンホールの数が5以下である。
【0008】
本願が提供する鉄基アモルファス合金ストリップにおいて、Mは、微量元素、つまり、原材料から組み込まれた微量元素であり、P、Mn及びAlであり、ここで、Pの原子百分率は、0.01~0.03%であり、Mnの原子百分率は、0.03~0.20%であり、Alの原子百分率は、0.0025%以下である。
上記鉄基アモルファス合金の元素組成において、Fe元素は、鉄基磁性元素であり、鉄基アモルファスストリップの磁性の主な来源であり、高いFe含有量は、ストリップが適切な飽和磁束密度を持つための重要な保証であるが、Fe元素が高すぎると、合金の非晶形成能力が低下し、工業生産を達成することが困難になり、本発明は、Fe含有量81.0at%~83.0at%を選択することにより、ストリップの飽和磁束密度が1.62T以上であることを保証でき、アモルファス配電用変圧器の設計要件を完全に満たす。
【0009】
Si、B、C元素は、非晶形成元素であり、工業生産条件下で合金系がアモルファスを形成するために必要な条件である。Si元素の範囲は、0.5at%~8.0at%であり、Siを添加すると、合金系のの不規則化度を増加させ、合金の融点を低減させ、溶鋼の流動性を向上させ、製造の困難さを低減させる。Siの含有量が高すぎると、合金組成が共晶点から外れ、アモルファス形成能を低減させ、具体的な実施例では、前記Siの含有量は、1.0~6.5at%である。
B元素の範囲は、12.0~14.5at%であり、B元素は、最も重要なアモルファス形成元素であり、高Feの場合でも高飽和磁束密度を持つアモルファスストリップの製造に成功させるための基本的な保証である。
C元素の範囲は、0.5~1.3at%であり、一方、B元素の代わりにC元素を使用すると、合金系のアモルファス形成能をさらに増加させることができ、他方、C元素自体は、溶融物と冷却ロールの湿潤性を向上させ、製造プロセスを改善させることができる。ただし、C原子とFe原子の混合エンタルピーは、正であり、過剰に添加するとアモルファス形成能が低下するため、C元素の含有量を1.3at%以下に制御する必要がある。
【0010】
上記の主要元素を制御する場合には、P、Mn、Alなどの微量元素の含有量も制御する必要がある。P元素の範囲は、0.01~0.03at%であり、微量のP元素は、合金組成中のFe元素の供給源を調整することによりもたらされ、少量のP元素は、合金系の複雑さを向上させ、合金の融点をさらに低下させ、流動性を増加させ、製造の難しさを低減させる。ただし、P元素の含有量がが多すぎないようにする必要があり、まず、大量のP元素の供給源は、フェロリンを添加することにより目標を達成する必要があり、しかし、市場に出回っているフェロリンの品質は一般的に低く、フェロリンを大量添加すると溶鋼に多くの介在物が組み込まれ、溶鋼の品質を低下させることで、ストリップの製造の難しさを増加させ、実験によると、P元素を大量添加した合金系は、アモルファスストリップの製造に成功するが、その表面が結晶化し、その理由は、主に溶鋼に大量のPが含まれるためである。
Mn元素の含有量の範囲は、0.03%~0.20at%であり、これらのMnは、異なる鉄源の比率を調整することにより得られる。適切なMnは、合金溶融物の流動性を改善し、製造の難しさを低減させることができる。
Al元素の含有量は、0.0025at%以下に制御され、Alは、アモルファスストリップの製造に不利であり、鉄源の違いにより組み込まれるAlの含有量は高くなるので、溶鋼に酸化剤を添加することによりAlの含有量を0.0025at%以内に制御する。
【0011】
鉄基アモルファス合金ストリップの飽和磁束密度を向上させるために、鉄基アモルファス合金ストリップの表面品質をさらに制御する必要がある。鉄基アモルファス合金ストリップは、長さ方向及び厚さ方向の2つの表面を含み、1つは空気と接触する自由表面であり、この表面をローラー反対面として定義し、もう1つは、冷却体と接触する非自由表面であり、この表面をローラー貼合面として定義する。前記鉄基アモルファス合金ストリップは、ローラー貼合面からローラー反対面まで貫通するボイド欠陥があり、これは「ピンホール」として定義される。前記ピンホールは、ピンホールの長さ、幅、及び分布頻度により評価され、本願にかかるピンホールは、長さが0~4mm(0を除く)にあり、幅が0~2mm(0を除く)にあり、長さ約2mのストリップはピンホールの数が5以下である。従って、本願の鉄基アモルファス合金ストリップの表面は、緻密で平坦であり、その積層係数が88.0%以上である。
本願は、さらに、
A)式(I)で表される鉄基アモルファス合金の組成に従って原料を配合した後、溶製し、精錬して溶鋼を得るステップと、
B)前記溶鋼を、単ロール急冷を施し、さらに、熱処理を行い、鉄基アモルファス合金ストリップを得るステップと、を含む上記鉄基アモルファス合金ストリップの製造方法であって、
単ロール急冷の過程中では、冷却ロールの表面の粗さは、0.1~0.5μmであり、
FeSi (I)、
ここで、Mは、微量元素であり、
a、b、c、d及びfは、それぞれ各元素に対応する原子百分率であり、81.0≦a≦83.0、0.5≦b≦6.5、12.0≦c≦14.5、0.1≦d≦1.3、f≦0.4、a+b+c+d+f=100である、製造方法を提供する。
【0012】
鉄基アモルファス合金ストリップを製造するプロセスでは、本願は、まず、式(I)の鉄基アモルファス合金ストリップの組成に従って原料を配合した後、溶製し、精錬して溶鋼を得、前記溶製及び精錬は、いずれも当業者にとってよく知られている技術手段であり、ここで、特別に制限されない。
本発明によれば、溶鋼を得た後、単ロール急冷を施し、初期鉄基アモルファス合金ストリップを形成し、当業者に周知の溶融状態の溶鋼を冷却ロールにスプレーし急冷する工程は、単ロール急冷法と称される。鉄基アモルファス合金ストリップは、2つの表面を備え、1つは空気と接触する自由表面であり、この表面をローラー反対面として定義し、もう1つは、冷却体と接触する非自由表面であり、この表面をローラー貼合面として定義する。実験的観察により、本発明のストリップを通常の製造プロセスで製造する場合には、ストリップの緻密さが低く、ストリップが著しく劣化し、製造を長期間続けることができない。ストリップ劣化の問題を解決するために、研磨プロセスの調整によりストリップのスプレー過程中のロールの表面状態を改善することにより低緻密さの問題を解決するが、緻密さを向上させる同時に、ストリップの表面にローラー貼合面からローラー反対面まで貫通するボイド欠陥が現れ、「ピンホール」と定義される。製造過程中で冷却ロールが研削されて平坦化された後、研磨する必要があり、即ち、回転している冷却ローラーの表面を高速回転する研磨砥石で摩擦する。研磨過程は、予備研磨及びオンライン研磨の2つの階段に分けられ、予備研磨では、まず、粗研磨し、さらに、精研磨し、スプレーする時にオンライン研磨階段であり、精研磨のみを施した。精研磨で使用される砂粒のメッシュ数は、原則として、粗研磨に使用される砂粒よりも大きくない。研磨際に、研磨砥石が送り方向に対して垂直に揺動する。予備研磨後の冷却ロールは、表面平坦度が徐々に向上し、粗さが徐々に低下し、粗研磨終了後に、精研磨することによりロール表面が回転周期及び幅の全体にわたって適切な粗さを持つ。
【0013】
出願者は、研究したところ、冷却ロールの表面粗さが0.1~0.5μmであると、ストリップ表面のピンホールの数を必要な範囲に制御することができ、ここで、前記ピンホールは長さが0~4mm(0を除く)であり、幅が0~2mm(0を除く)であり、長さ約2mのストリップは、ピンホールの数が5以下であるという知見を得る。ピンホールの数及びサイズが上記範囲にあると、ストリップの緻密さをさらに向上させることができ、積層係数が88.0%を超える。
アモルファス変圧器の使用中では、積層係数は、重要なパラメーターであり、高積層係数のアモルファスストリップを使用してアモルファス鉄心を製造すると、鉄心が同じ断面積を確保しながら、構造サイズを縮小することができ、変圧器の他のコンポーネントのサイズ及び数をさらに低減させることができ、これは、アモルファス変圧器のコストを削減するのに役立つ。
【0014】
本願は、最後に、単ロール急冷を経った初期鉄基アモルファス合金ストリップに熱処理を施し、鉄基アモルファス合金ストリップを得る。前記熱処理のプロセス手段は当業者によく知られており、ここで、特に限定されない。具体的な実施例では、前記熱処理は、一定の磁界強度及び一定の温度で縦方向磁界熱処理を行い、前記熱処理の温度は、340~360℃であり、保温時間は、60~120minであり、前記磁界強度は、800~1400A/mであり、本願に係る焼鈍は、枚葉式熱処理炉を使用する。
初期鉄基アモルファス合金ストリップは、焼鈍後に適用可能な鉄基アモルファス合金ストリップを取得し、枚葉式透磁率計を使用して測定し、磁束密度1.30T、50Hzの条件下で、ストリップ損失≦0.10W/kg、励磁電力≦0.15VA/kg、B80>1.50T、Hc≦3A/mである。配電用変圧器業界で使用されるアモルファスストリップの場合は、その磁気特性を評価するためのパラメーターは、主に鉄心損失及び励磁電力という2つのパラメーターを含む。これらの2つのパラメーターが小さいほど、後の鉄心及び変圧器の性能がよい。
【0015】
飽和磁束密度、軟磁気特性及び緻密さに加えて、靭性及び脆性も鉄基アモルファス合金ストリップの重要な適用指標である。これは、ストリップが後の使用中に切断される必要があり、ストリップの脆性が大きくなると、切断工程で破片が多くなり、鉄心の整形及び変圧器の組み立てに深刻な影響を及ぼすためである。本発明が提供する鉄基アモルファス合金ストリップの靭性は、同じ厚さ、同じ幅、および同じ積層係数を有する従来の低鉄含有量の鉄基アモルファスストリップよりも優れた。国際規格IEC60404-8-11に規定された方法に従って、同じ長さのアモルファスストリップが選択され、通常の組成のストリップ靭性指数の平均は、3~4であり、本発明の鉄基アモルファス合金ストリップの靭性は、平均靭性指数が1~2である。
本願は、合金組成及び製造プロセスを最適化することにより鉄基アモルファス合金ストリップの表面品質を制御し、具体的には、ストリップの緻密さ及び表面缺陷を制御し、高飽和磁束密度、高積層係数、低損失及び高靭性を持つ鉄基アモルファス合金ストリップを得る。
【実施例
【0016】
以下、本発明をさらに説明するために、本発明が提供する鉄基アモルファス合金ストリップ及びその製造方法を実施例を参照しながら詳しく説明するが、本発明の保護範囲は、以下の実施例によって限定されない。
【0017】
実施例1
本発明は、それぞれFe81.75Si3.8513.11.3及びFe82.65Si3.4513.780.12の合金組成に従って原料を配合し、溶製し、幅170mm、厚さ28μmの鉄基アモルファスストリップを製造し、製造過程中で冷却ロールの研削後に予備研磨-粗研磨を施した後、さらに精研磨を施し、予備研磨後に、ロール表面は平坦度が徐々に向上し、粗さが徐々に低下し、ストリップのスプレー過程中でさらにオンライン研磨段階を行い、この階段では、精研磨のみを行うことにより、ロール表面が回転周期及び幅の全体にわたって0.1~0.5μmの表面粗さを持ち(具体的には、表面粗さは表1に示す)、研磨時に、研磨砥石が送り方向に対して垂直に揺動した。表1は、異なる粗さの条件下で、表面ピンホールの数とストリップの積層係数の関係のデータ表を示した。
【表1】


表1から、本合金組成を満たしているストリップは、研磨プロセスを最適化し、冷却ロール的ロールの表面粗さを制御し、ストリップの表面ピンホールの数を調整することによりストリップの積層係数を効果的に制御できることを示した。表1から、Fe81.75Si3.8513.11.3及びFe82.65Si3.4513.780.12の合金サンプルS-2、S-3及びS-6、S-7は、ピンホールの長さが0~4mmに制御され、幅が0~2mmに制御され、長さ約2mのストリップはピンホールの数が5以下であると、ストリップの積層係数は88.0%を超えるレベルに達することを示した。サンプルS-1及びS-5ストリップ表面はピンホールがないのは、銅ロール表面の研磨力が低いなる場合に引き起こされ、銅ロール表面に溶鋼が連続的に衝突した後、銅ロール表面の品質が低下し、最終的に、ストリップ表面の緻密さが低く、ストリップの積層係数が小さく、使用要件を満たせないことを反映した。サンプルS-4及びS-8は、銅ロール表面の研磨力が大きすぎるため、銅ロール表面に少量の銅くずが残り、ストリップ表面に大量のピンホールが生じ、ストリップの積層係数が低下した。
【0018】
実施例2
本発明は、FeSiの合金組成に従って原料を配合し、中周波製錬炉を使用して異なる配合比の鉄源及び金属ケイ素、フェロボロンなどの原材料を再溶解し、溶製が完了した後、中周波底吹転炉に出湯し、昇温させて保温して鎮静した後、単ロール急冷法で幅240mm、厚さ26~30μmの鉄基アモルファスストリップを製造し、製造中に冷却ロール研削後に予備研磨-粗研磨を施した後、さらに精研磨を行う必要があり、予備研磨後にロール表面は平坦度が徐々に向上し、粗さが徐々に低下し、ストリップのスプレー過程中でさらにオンライン研磨階段を行い、この階段では精研磨のみを施すことにより、ロール表面が回転周期及び幅の全体にわたって0.1~0.5μmの表面粗さを有し、研磨時に、研磨砥石が送り方向に対して垂直に揺動した。製造されたストリップは、高い表面品質を備え、ストリップ表面は適切なピンホールの数を持ち、ストリップの積層係数は、88.0%を超えた。製造されたストリップを枚葉式熱処理炉で縦方向磁界熱処理を行い、熱処理温度は、300~360℃であり、保温時間は、60~120minであり、磁界強度は、800~1400A/mである。表2には、本発明例及び比較例の合金組成、飽和磁束密度値(Bs)、1.3T/50Hzの条件下での最適励磁電力Pe、鉄心損失(P)、磁気分極B80を示した。ここで、サンプルS-9~S-22は、本発明例であり、サンプルD-1~D-3は、比較例である。
【表2】

以上の実施例から、本発明を満たしている実施例の合金組成は、いずれもよい飽和磁束密度(Bs)を持ち、それらの飽和磁束密度は1.62T以上であり、電力変圧器で現在使用されている飽和磁束密度1.56Tの通常の鉄基アモルファス材料(比較例D-1)を超え、焼鈍後のストリップは、50Hz/1.3T、磁界強度Hが80A/mの条件下での磁気分極がいずれも1.5Tに達することができ、Bs及びB80の向上は、変圧器鉄心の設計をさらに最適化し、変圧器の体積を低減させ、コストを削減することができた。
表2から、本発明を満たしている実施例の合金組成は、良い磁気特性を持ち、ストリップを枚葉式熱処理法で焼鈍した後、ストリップは、50Hz、1.30Tの条件下で、励磁電力≦0.1500VA/kg、鉄心損失≦0.1000W/gであり、高鉄含有量の比較例D-2及びD-3の磁気特性よりも優れ、且つ通常のアモルファス材料(比較例1)と比較して、使用要件を満たすことを示した。
比較例D-2、D-3は、これらの2つの合金組成の鉄含有量が高く、ストリップを製造できるが、それらの飽和磁束密度及び磁気特性がいずれも低く、これは、同じ製造プロセスの条件下で、Fe元素の含有量が83%を超えると、アモルファスストリップの品質が悪く、アモルファス度が低いことを示し、この合金組成の製造条件が達成できないことも示した。
【0019】
実施例3
本発明は、それぞれFe81.75Si3.8513.11.3、Fe82.65Si3.4513.780.12、Fe78Si13及びFe83.5Si1.515の合金組成に従って原料を配合して溶製し、幅142mm、厚さ28μmの鉄基アモルファスストリップを製造した。実施例1及び2の製造プロセスと一致し、製造過程では、冷却ロールの研削後に予備研磨-粗研磨を施した後、さらに精研磨を行う必要があり、予備研磨後に、ロール表面は、平坦度が徐々に向上し、粗さが徐々に低下し、ストリップのスプレー過程中でさらにオンライン研磨階段を行い、この階段では精研磨のみを行うことにより、ロール表面が回転周期及び幅の全体にわたって0.1~0.5μmの表面粗さを有し、研磨時に、研磨砥石が送り方向に対して垂直に揺動した。製造されたストリップは、高い表面品質を持ち、ストリップ表面は適切なピンホールの数を備え、ストリップの積層係数は、88.0%を超えた。国際規格IEC60404-8-11に規定された方法に従って両方のストリップの靭性指数を測定した。国際規格中の評価原則に基づいて、脆性点の数により評価し、具体的な標準は、表3に示した。表4には、4つの群分けの組成で8つのサンプルの脆性点の数及び靭性指数を示した。サンプルS-23~S-26は、本発明例であり、サンプルD-4~D-7は、比較例である。
【表3】

【表4】

表4から明らかになり、本発明を満たしている合金組成の靭性及び脆性は、比較例組成よりも明らかに優れ、本発明組成を満たしているサンプルS-23~S-26の靭性評価は、基本的に1~2であり、サンプルD-4及びD-5は、基本的に3~4であり、規格の要件を満たしているが、本発明例よりも靭性が劣り、比較例D-6及びD-7は脆性点の数が多く、ストリップの品質が劣り、アモルファス度が低く、その低飽和磁束密度及び低磁気特の結果に対応した。
【0020】
以上の実施例の説明は、本発明の方法およびコアアイデアを理解するのを助けるためにのみ使用される。本発明の原理から逸脱することなく、当業者にとっては、本発明にいくつかの改良及び修飾を加えることができ、これらの改良及び修飾も本発明の特許請求の範囲内にあることを理解すべきである。
開示された実施例の以上の説明は、当業者が本発明を実施または使用することを可能にする。これらの実施例に対する複数の修正は、当業者にとっては自明であり、明細書で定義される一般原則は、本発明の精神または範囲から逸脱することなく、他の実施形態で実施することができる。従って、本発明は、本明細書に記載の実施例に限定されないが、本明細書に開示された原理及び新規な特徴に一致する最も広い範囲を満たす。
(付記)
本開示に係る実施形態は以下のものも含む。
<1>
式(I)で表される鉄基アモルファス合金ストリップであって、
Fe Si (I)
ここで、Mは、微量元素であり、
a、b、c、d及びfは、それぞれ各元素に対応する原子百分率であり、81.0≦a≦83.0、0.5≦b≦6.5、12.0≦c≦14.5、0.1≦d≦1.3、f≦0.4、a+b+c+d+f=100、
前記鉄基アモルファス合金ストリップのピンホールは、長さが0超え4mm以下であり、幅が0超え2mm以下であり、長さ2mのストリップは、ピンホールの数が5未満である、鉄基アモルファス合金ストリップ。
<2>
前記Mは、P、Mn及びAlであり、前記Pの原子百分率は、0.01~0.03%であり、前記Mnの原子百分率は、0.03~0.20%であり、前記Alの原子百分率は、0.0025%以下である、ことを特徴とする<1>に記載の鉄基アモルファス合金ストリップ。
<3>
前記鉄基アモルファス合金ストリップの積層係数は、88.0%以上であり、前記鉄基アモルファス合金ストリップの飽和磁束密度は、1.62T以上である、ことを特徴とする<1>に記載の鉄基アモルファス合金ストリップ。
<4>
前記ピンホールは、長さが1.5~3.5mmであり、幅が0.5~1.5mmであり、数が3~5である、ことを特徴とする<1>に記載の鉄基アモルファス合金ストリップ。
<5>
A)式(I)で表される鉄基アモルファス合金の組成に従って原料を配合した後、溶製し、精錬して溶鋼を得るステップと、
B)前記溶鋼を、単ロール急冷を施し、さらに、熱処理を行い、鉄基アモルファス合金ストリップを得るステップと、を含む<1>に記載の鉄基アモルファス合金ストリップの製造方法であって、
単ロール急冷の過程中、冷却ロールの表面の粗さは、0.1~0.5μmであり、
Fe Si (I)、
ここで、Mは、微量元素であり、
a、b、c、d及びfは、それぞれ各元素に対応する原子百分率であり、81.0≦a≦83.0、0.5≦b≦6.5、12.0≦c≦14.5、0.1≦d≦1.3、f≦0.4、a+b+c+d+f=100である、製造方法。
<6>
前記冷却ロールの表面の粗さは、前記冷却ロールの表面をまず予備研磨し、さらにオンライン研磨することにより達成されることを特徴とする<5>に記載の製造方法。
<7>
前記予備研磨は、まず、粗研磨、次に精研磨であり、前記オンライン研磨は、精研磨である、ことを特徴とする<6>に記載の製造方法。
<8>
前記予備研磨及び前記オンライン研磨の過程中は、いずれも研磨砥石が送り方向に対して垂直に揺動する、ことを特徴とする<6>に記載の製造方法。
<9>
前記熱処理の温度は、300~360℃であり、保温時間は、60~120minであり、磁界強度は、800~1400A/mである、ことを特徴とする<5>に記載の製造方法。
<10>
前記鉄基アモルファス合金ストリップは、磁束密度1.30T、50Hzの条件下で、ストリップ損失≦0.10W/kg、励磁電力≦0.15VA/kg、B 80 >1.50T、Hc≦3A/mである、ことを特徴とする<5>に記載の製造方法。