(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】アデノ随伴ウイルスベクタープロデューサー細胞株
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20240401BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20240401BHJP
C12N 15/65 20060101ALI20240401BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20240401BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240401BHJP
C12N 15/67 20060101ALI20240401BHJP
C12N 15/68 20060101ALI20240401BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20240401BHJP
C12N 15/70 20060101ALI20240401BHJP
C12N 15/81 20060101ALI20240401BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240401BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/35 ZNA
C12N15/65 Z
C12N15/52 Z
C12N15/63 100Z
C12N15/67 Z
C12N15/68 Z
C12N15/29
C12N15/70 Z
C12N15/81 Z
C12N5/10
C12N7/01
(21)【出願番号】P 2021521001
(86)(22)【出願日】2019-10-15
(86)【国際出願番号】 EP2019077879
(87)【国際公開番号】W WO2020078953
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-10-14
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】513032275
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン、インテレクチュアル、プロパティー、ディベロップメント、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GLAXOSMITHKLINE INTELLECTUAL PROPERTY DEVELOPMENT LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャナ,シモン アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンク,コンラッド
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/084977(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0209364(US,A1)
【文献】特開2012-115272(JP,A)
【文献】特表2011-520440(JP,A)
【文献】国際公開第2017/017131(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/150271(WO,A1)
【文献】YUAN, Zhenhua et al.,“A Versatile Adeno-Associated Virus Vector Producer Cell Line Method for Scalable Vector Production of Different Serotypes”,Human Gene Therapy,2011年05月,Vol. 22, No. 5,pp.613-624,DOI: 10.1089/hum.2010.241
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00- 15/90
C12N 1/00- 7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクタープロデューサー細胞であって、
AAV rep及びcap遺伝子、
ヘルパーウイルス遺伝子、並びに
AAVベクターのDNAゲノム
をコードする核酸配列を含み、
AAV rep遺伝子がイントロンを含み、前記イントロンが転写終結配列の上流に位置する第1の組換え部位及び下流に位置する第2の組換え部位を有する転写終結配列を含み、
前記核酸配列が、AAVベクタープロデューサー細胞のゲノム内の単一の遺伝子座にすべて一緒に組み込まれる、AAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項2】
イントロンが、組換え部位の間に
選択可能マーカー遺伝子をさらに含
む、請求項1に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項3】
選択可能マーカーがハイグロマイシンである、請求項2に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項4】
リコンビナーゼ遺伝子をコードする核酸配列をさらに含む、請求項1
~3のいずれか一項に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項5】
リコンビナーゼ遺伝子をコードする前記核酸配列が、AAV rep及びcap遺伝子、ヘルパーウイルス遺伝子並びにAAVベクターのDNAゲノムをコードする核酸配列と一緒にAAVベクタープロデューサー細胞のゲノム内の単一の遺伝子座に組み込まれる、請求項
4に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項6】
リコンビナーゼ制御系をさらに含む、請求項
4又は
5に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項7】
リコンビナーゼ制御系が、リコンビナーゼに作動可能に連結した誘導プロモーター及び/又はステロイドホルモン受容体リガンド結合ドメインの制御下のリコンビナーゼ遺伝子を含む、請求項
6に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項8】
ステロイドホルモン受容体リガンド結合ドメインが、エストロゲン受容体リガンド結合ドメイン(ER)であ
る、請求項
7に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項9】
ERがERT2である、請求項8に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項10】
組換え部位がLoxP部位であり、リコンビナーゼ遺伝子がcreリコンビナーゼ遺伝子であ
る、請求項
4~
9のいずれか一項に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項11】
creリコンビナーゼ遺伝子がコドン最適化creリコンビナーゼ遺伝子(icre)である、請求項10に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項12】
組換え部位がトランスポゾンITRであり、リコンビナーゼ遺伝子がトランスポザーゼ遺伝子であ
る、請求項
4~
11のいずれか一項に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項13】
トランスポザーゼ遺伝子がコドン最適化トランスポザーゼ遺伝子である、請求項12に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項14】
トランスポゾンITR及びトランスポザーゼ遺伝子が真核生物のものである、請求項
13に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項15】
トランスポゾンITR及びトランスポザーゼが、イラクサギンウワバ(T. ni)、オオキクギンウワバ(M. crassisigna)、バクトロセラ・ミヌタ、オオミノガ、又はオオタバコガ由来である、請求項
14に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項16】
1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子が転写制御下にある、請求項1~
15のいずれか一項に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項17】
誘導プロモーター又は転写制御が、それぞれpCMV-TO2プロモーターを含む、請求項
7又は16に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項18】
インスレーターをさらに含
む、請求項1~
17のいずれか一項に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項19】
インスレーターが各核酸配列の間に存在する、請求項18に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項20】
選択可能マーカーをさらに含
む、請求項1~
19のいずれか一項に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項21】
選択可能マーカーが増幅可能な選択マーカーである、請求項20に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
【請求項22】
AAV rep及びcap遺伝子、
ヘルパーウイルス遺伝子、並びに
AAVベクターのDNAゲノム
をコードする核酸配列を含む
バクテリア人工染色体(BAC)であって、
rep遺伝子がイントロンを含み、前記イントロンが転写終結配列の上流に位置する第1の組換え部位及び下流に位置する第2の組換え部位を有する転写終結配列を含み、
AAV rep及びcap遺伝子、ヘルパーウイルス遺伝子のそれぞれ並びにAAVベクターのDNAゲノムをコードする核酸配列が、
BAC内に個々の発現カセットとして配置される、
BAC。
【請求項23】
イントロンが組換え部位の間に
選択可能マーカー遺伝子をさらに含
む、請求項
22に記載の
BAC。
【請求項24】
選択可能マーカーがハイグロマイシンである、請求項23に記載のBAC。
【請求項25】
リコンビナーゼ遺伝子をコードする核酸配列をさらに含み、
BAC内に個々の発現カセットとして配置される、請求項
22~24のいずれか一項に記載の
BAC。
【請求項26】
リコンビナーゼ制御エレメントをさらに含む、請求項
22~
25のいずれか一項に記載の
BAC。
【請求項27】
リコンビナーゼ制御エレメントが、リコンビナーゼ遺伝子に作動可能に連結した誘導プロモーター及び/又は前記リコンビナーゼ遺伝子と融合したステロイドホルモン受容体リガンド結合ドメインを含む、請求項
26に記載の
BAC。
【請求項28】
ステロイドホルモン受容体リガンド結合ドメインがエストロゲン受容体リガンド結合ドメイン(ER)であ
る、請求項
27に記載の
BAC。
【請求項29】
ERがERT2である、請求項28に記載のBAC。
【請求項30】
ERが前記リコンビナーゼ遺伝子の上流及び下流に作動可能に連結される、請求項
28又は29に記載の
BAC。
【請求項31】
組換え部位がLoxP部位であり、リコンビナーゼ遺伝子がcreリコンビナーゼ遺伝子であ
る、請求項
25~
30のいずれか一項に記載の
BAC。
【請求項32】
creリコンビナーゼ遺伝子がコドン最適化creリコンビナーゼ遺伝子(icre)である、請求項31に記載のBAC。
【請求項33】
組換え部位がトランスポゾンITRであり、リコンビナーゼ遺伝子がトランスポザーゼ遺伝子であ
る、請求項
25~
32のいずれか一項に記載の
BAC。
【請求項34】
トランスポザーゼ遺伝子がコドン最適化トランスポザーゼ遺伝子である、請求項33に記載のBAC。
【請求項35】
トランスポゾンITR及びトランスポザーゼ遺伝子が真核生物のものである、請求項
34に記載の
BAC。
【請求項36】
トランスポゾンITR及びトランスポザーゼ遺伝子が、イラクサギンウワバ(T. ni)、オオキクギンウワバ(M. crassisigna)、バクトロセラ・ミヌタ、オオミノガ、又はオオタバコガ由来である、請求項
35に記載の
BAC。
【請求項37】
個々の発現カセットとして、1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子が転写制御下にある、請求項
22~
36のいずれか一項に記載の
BAC。
【請求項38】
インスレーターをさらに含
む、請求項
22~
37のいずれか一項に記載の
BAC。
【請求項39】
インスレーターが各発現カセットの間に存在する、請求項38に記載のBAC。
【請求項40】
選択可能マーカーをさらに含
む、請求項
22~
39のいずれか一項に記載の
BAC。
【請求項41】
選択可能マーカーが増幅可能な選択マーカーである、請求項40に記載のBAC。
【請求項42】
安定なAAVベクタープロデューサー細胞株を産生する方法であって、
(a)請求項
22~
41のいずれか一項に記載の
BACを哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、及び
(b)培養物内で、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれた
BACにコードされた核酸配列を有する哺乳動物宿主細胞を選択すること
を含む、方法。
【請求項43】
複製欠損AAVベクターを産生する方法であって、
(a)請求項
22~
41のいずれか一項に記載の
BACを、哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、及び
(b)培養物内で、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれた
BACにコードされた核酸配列を有する哺乳動物宿主細胞を選択すること、及び
(c)複製欠損AAVベクターが産生される条件下で、選択された哺乳動物宿主細胞をさらに培養すること
を含む、方法。
【請求項44】
哺乳動物宿主細胞がHEK293細胞である、請求項
42又は
43に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AAVベクタープロデューサー細胞株、それを産生する方法及び前記方法において使用するための核酸ベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、アデノウイルス調製物の夾雑物として、1965年に見出された。AAVは、末端に2つの145ヌクレオチド長の逆方向末端反復(ITR)を有する、およそ4.7キロベース(kb)の直鎖状単鎖DNA(ssDNA)ゲノムを有する。ITRは、一連のRep(複製)及びCap(カプシド)ポリペプチドをコードする2つのオープンリーディングフレーム(rep及びcap遺伝子)に隣接する。Repポリペプチド(Rep78、Rep68、Rep62及びRep40)は、非構造タンパク質であり、AAVゲノムの複製、レスキュー及び組込みに関与する。Capタンパク質(VP1、VP2及びVP3)は構造タンパク質であり、ビリオンカプシドを形成する。AAVは、細胞培養における生産性感染のために、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)又はワクシニアウイルスなどのヘルパーウイルスと同時感染する必要があるので、ディペンドパルボウイルス属(Dependoparvovirus)(パルボウイルス科(Parvoviridae)の属)に分類される。例えば、アデノウイルスは、AAV複製及びビリオン産生のために発現される必要のある遺伝子:E1A、E1B、E2A、E4及びVAをもたらす(Atchisonら(1965年) Science 149:754頁;Bullerら(1981年) J. Virol. 40:241頁)。
【0003】
AAVベクターは、形質導入及び長期遺伝子発現が実証されており、分裂細胞と静止細胞の両方に感染する能力を有している。さらに、AAVは、現在、疾患を引き起こすことは知られておらず、したがって、インビボで毒性及び炎症をほとんど乃至まったく引き起こさない。これらの特徴によって、AAVは、遺伝子療法適用に望ましいベクターとなっている。
【0004】
細胞株において、いくつかのAAVベクター産生方法が一般的に使用され、2つの異なる戦略に分けることができる。第1の戦略は、HEK293細胞などの宿主細胞におけるAAVベクター産生に必要である、すべてのエレメント(一般的にアデノウイルスから単離された、AAVベクターDNA(AAV ITRに隣接する導入遺伝子)を発現するプラスミド、rep及びcap遺伝子を発現するプラスミド、ヘルパーウイルス遺伝子を発現するプラスミド)の野生型ヘルパーウイルスフリー一時的コトランスフェクションに基づく(Xiaら(1996年) J. Virol. 70:8098頁)。この一時的コトランスフェクション方法によって、アデノウイルスを含まない高力価のAAVベクターを生じるが、この方法は、非常に労働集約的であり、費用もかかり、ラージスケール産生のためにスケールアップすることが難しい。
【0005】
第2の戦略は、rep及びcap遺伝子、並びにAAV ITRに隣接する導入遺伝子を安定して保有する細胞株の、野生型ヘルパーウイルス(例えば、野生型アデノウイルス)感染を含む。野生型アデノウイルス誘導方法は、培養においてスケールアップされ、高力価を有するAAVベクターを産生することができるが、アデノウイルスをAAV産物から完全に除去するのは、非常に困難な課題である。野生型アデノウイルスの夾雑は、ベクターの安全性及び特異性の観点から非常に望ましくない。
【0006】
現在のAAVベクター産生方法の不利益は、臨床使用のための、臨床グレードの組換えAAVベクターのラージスケール産生のための安定なプロデューサー細胞株を提供することによって克服することができる。しかしながら、rep及びcap遺伝子を構成的に発現する細胞株の作製は、宿主細胞へのRepタンパク質の細胞傷害性及び抗増殖効果のために困難であり、これはAAVベクタープロデューサー細胞株としてのその有用性を厳しく制限し得る。例えば、Rep78は、Rep78のDNA結合及びATPアーゼ-ヘリカーゼ活性に一部起因する、p53依存性アポトーシスを誘導することが示されている。さらに、Rep78は、特にS期の完全な停止を含む、細胞周期進行を阻害することが公知である。Rep68と一緒にRep78も、細胞のクロマチンにおいてニックを生じ、DNA損傷応答を誘導し、G1及びG2ブロックをもたらす。さらに、Rep78は、細胞増殖及び発生の調節において中心的な役割を果たすcAMPシグナル伝達経路にも影響することが示された(Schmidtら(2000年) J. Virol. 74:9441頁;Berthetら(2005年) PNAS 102:13634頁;Schmidtら(2002年) J. Virol. 76:1033頁)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、Repタンパク質を構成的に発現する安定な細胞株は、ラージスケールのバイオリアクター内でAAVベクターを産生するのに必要な細胞密度に達するまで生存することができない。したがって、既存の方法及び細胞株に関連する1つ以上の不利益を克服する組換えAAVベクターの誘導産生に必要な、すべての遺伝子エレメント及び制御系をそのゲノム内に安定に組み込んだ安定なプロデューサー細胞株を有することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ウイルス遺伝子(AAV及びヘルパーウイルス)及び組換えAAV産生に必須の導入遺伝子をコードするすべての核酸配列が、AAVベクタープロデューサー細胞のゲノム内の単一の遺伝子座に一緒に組み込まれ、Repタンパク質の発現が、例えば細胞株生成、細胞バンキング及び細胞増殖の間にプロデューサー細胞株の効率的な操作を可能とするように調節され得る、新規のAAVベクタープロデューサー細胞株を開発した。Repの発現は、P5とP19の両方のrepプロモーターからのすべてのrep転写物が、Repの発現が望まれる時点まで未熟に終結される発現制御系を使用することによって制御される。この系の利点は、効率的なAAVベクター産生に必要とされる種々のrep及びcap遺伝子転写物の正しい化学量論量を維持するために、rep及びcap遺伝子のネイティブプロモーターのすべてを維持することが可能であることである。さらに、RNAプロセシング中にスプライスアウトされるrep遺伝子内のイントロンに発現制御系が含有されるため、それはrep及びcap遺伝子のmRNAの完全性が影響を受けないさらなる利点も有する。
【0009】
本発明の新規のAAVベクタープロデューサー細胞株を産生するため、本発明者らは非哺乳動物の複製起点、並びに組換えAAVベクター産生に必須のすべてのアデノ随伴ウイルス(AAV)及びヘルパー遺伝子、並びに導入遺伝子を有する、バクテリア人工染色体などの、少なくとも25キロベース(kb)のDNAを保持する能力を含む核酸ベクターの使用に関与する、プロデューサー細胞株を作製する新たな方法を開発した。
【0010】
非哺乳動物の複製起点を含み、少なくとも25kbのDNA(すなわち、大きな構築物DNA)を保持する能力を有する核酸ベクターの使用には、いくつかの利点がある。第1の例では、ベクターは、哺乳動物宿主細胞ではなく非哺乳動物細胞(例えば、バクテリア細胞などの微生物細胞)において最初に操作され、それらをより作業し易くすることができる(例えば、バクテリア人工染色体は、大腸菌(E.coli)において最初に操作され得る)。核酸ベクターが調製されると、その核酸ベクターを哺乳動物宿主細胞へと導入することができ、核酸ベクターが1つ又はいくつかの内因性染色体へと組み込まれた任意の細胞を、安定な細胞株を単離するために選択することができる。
【0011】
核酸ベクターの哺乳動物宿主細胞への導入はまた、単一のステップで起こり、選択圧及びサイレンシング時間枠を低減する助けとなる。これにより、潜在的プロデューサー細胞のより速いスクリーニングが可能となり、単一のベクターのみが使用されるので、複数のプラスミドベクターのそれぞれのスクリーニングを含む従来の方法と比較して材料のコストが削減される。特に、この系を使用すると、プラスミドの製造コストが削減され、トランスフェクション試薬(例えば、ポリエチレンイミン(PEI))の必要性が低減され、必要とされるBenzonase(商標)処理の量が削減され(ウイルス収穫物中のDNAの量が低減するので、下流処理で余分なものを除去するために必要なBenzonase(商標)が少なくなる)、検査コストが削減される(ウイルス産物中の残留プラスミドを検査する必要がなくなる)。これらの利点は、特に、GMP要件を守らなければならない、治療適用の組換えAAVベクターのラージスケールの工業生産に適切である。
【0012】
さらに、組換えAAVベクター産生に必須のすべてのエレメントをコードするすべての核酸配列は、同一の核酸ベクター内に近接してクローニングされるので、ベクターが哺乳動物宿主細胞に導入される際に、ベクターに組み込まれた遺伝子のすべてが内因性哺乳動物宿主細胞のゲノム内の1つの遺伝子座へと組み込まれることになる。これにより、AAV産生に必要とされる遺伝子が、遺伝子サイレンシングを引き起こし得るゲノムの領域へと組み込まれていない、安定なクローンを選択することがより容易になる。このことは、AAVベクター産生に必要とされる遺伝子が、宿主細胞のゲノム内の異なる遺伝子座に無作為に組み込まれ得るいくつかのプラスミドに与えられると、1つ以上の遺伝子に対して起こり得る。
【0013】
したがって、本発明は、単純であり、治療適用のラージスケールの工業生産に最適化され、既存の細胞株に関連する不利益を克服するAAVベクタープロデューサー細胞を提供する。さらに、本発明は、そこで使用する前記AAVベクタープロデューサー細胞及び核酸ベクターを産生する方法を提供する。
【0014】
したがって、本発明の第1の態様によれば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクタープロデューサー細胞であって、
AAV rep及びcap遺伝子、
ヘルパーウイルス遺伝子、並びに
AAVベクターのDNAゲノム
をコードする核酸配列を含み、
AAV rep遺伝子がイントロンを含み、前記イントロンが転写終結配列の上流に位置する第1の組換え部位及び下流に位置する第2の組換え部位を有する前記転写終結配列を含み、
前記核酸配列が、AAVベクタープロデューサー細胞のゲノム内の単一の遺伝子座にすべて一緒に組み込まれる、AAVベクタープロデューサー細胞が提供される。
【0015】
本発明のさらなる態様によれば、非哺乳動物の複製起点及び少なくとも25キロベース(kb)のDNAを保持する能力を含む核酸ベクターであって、前記核酸ベクターが、
AAV rep及びcap遺伝子、
ヘルパーウイルス遺伝子、並びに
AAVベクターのDNAゲノム
をコードする核酸配列を含むことを特徴とし、
rep遺伝子がイントロンを含み、前記イントロンが転写終結配列の上流に位置する第1の組換え部位及び下流に位置する第2の組換え部位を有する転写終結配列を含み、
AAV rep及びcap遺伝子、ヘルパーウイルス遺伝子のそれぞれ及びAAVベクターのDNAゲノムをコードする核酸配列が、核酸ベクター内に個々の発現カセットとして配置される、核酸ベクターが提供される。
【0016】
本発明のなおさらなる態様によれば、安定なAAVベクタープロデューサー細胞株を産生する方法であって、
(a)本明細書で規定される核酸ベクターを哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、及び
(b)培養物内で、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれたベクターにコードされた核酸配列を有する哺乳動物宿主細胞を選択すること
を含む、方法が提供される。
【0017】
本発明のさらなる態様では、本明細書に記載される方法によって得られるAAVベクタープロデューサー細胞が提供される。
【0018】
本発明のさらなる態様では、複製欠損AAVベクターを産生する方法であって、
(a)本明細書で規定される核酸ベクターを、哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、及び
(b)培養物内で、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれたベクターにコードされた核酸配列を有する哺乳動物宿主細胞を選択すること、及び
(c)複製欠損AAVベクターが産生される条件下で、選択された哺乳動物宿主細胞をさらに培養すること
を含む、方法が提供される。
【0019】
本発明のなおさらなる態様によれば、本明細書に記載される方法によって得られる複製欠損AAVベクターが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】Rep2Cap2のRepタンパク質の発現を示すPeggy Sueウェスタンブロットを示す図である。
【
図2】Rep2Cap5のRepタンパク質の発現を示すPeggy Sueウェスタンブロットを示す図である。
【
図3】条件付き転写下のヘルパーウイルス遺伝子による一時的トランスフェクション法を使用して産生された組換えAAVベクターによって形質導入されたGFP陽性CHO細胞の%を示す棒グラフである。
【
図4】Cre依存性rep/cap発現プラスミドによる一時的トランスフェクション法を使用して産生された組換えAAVベクターによって形質導入されたGFP陽性CHO細胞の%を示す棒グラフである。
【
図5】本発明の一実施形態による核酸ベクターを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、この発明の属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書で言及されるすべての特許及び刊行物は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0022】
用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」又は「からなる(consisting)」を包含し、例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、排他的にXからなってもよく、又は追加のものを含んでもよい(例えば、X+Y)。
【0023】
用語「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特徴の範囲を、特定された材料又はステップ及び特許請求される特徴の基本的な特性に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。
【0024】
用語「からなる(consisting of)」は、いずれの付加的成分の存在も排除する。
【0025】
数値xに関して用語「約」は、例えば、x±10%、5%、2%又は1%を意味する。
【0026】
用語「トランスフェクション」、「形質転換」及び「形質導入」は、本明細書で使用する場合、標的細胞への非哺乳類又はウイルスベクターの挿入について記載するために使用され得る。ベクターの挿入は、通常、バクテリア細胞については形質転換及び真核細胞についてはトランスフェクションと呼ばれるが、ウイルスベクターの挿入はまた形質導入とも呼ばれ得る。当業者であれば、限定されるものではないが、物理的方法(例えば、エレクトロポレーション、細胞スクイージング、ソノポレーション、光学的トランスフェクション、プロトプラスト融合、インペールフェクション(impalefection)、マグネトフェクション(magnetofection)、遺伝子銃又はパーティクルボンバードメント)、化学試薬(例えば、リン酸カルシウム、高分岐有機化合物又は陽イオンポリマー)又は陽イオン脂質(例えば、リポフェクション)の使用を含む、通常使用される様々な非ウイルストランスフェクション法を認識する。多くのトランスフェクション法は、ベクターDNAの溶液と細胞との接触を必要とし、次いで、これらを増殖させ、マーカー遺伝子発現に関して選択する。
【0027】
挿入された遺伝物質は、安定又は一時的のいずれかで細胞に存在する。安定なトランスフェクションに関しては、挿入された遺伝物質は宿主細胞ゲノムへと組み込まれ、宿主細胞が複製した後でさえも導入遺伝子発現を維持する。したがって、用語「安定にトランスフェクトされる」又は「安定な細胞」は、導入された遺伝物質をそれらの後代(すなわち、娘細胞)に受け渡すことができる細胞株を指し、これはトランスフェクトされたDNAが内因性染色体に組み込まれていたためか、又は外因性染色体の安定な継承を介したものであるためである。
【0028】
安定にトランスフェクトされた遺伝子と対照的に、一時的にトランスフェクトされた遺伝子は、限定された期間だけ発現され、宿主細胞ゲノムに組み込まれない。一時的にトランスフェクトされた遺伝物質は、環境因子及び細胞分裂によって失われ得る。
【0029】
用語「プロデューサー細胞」は、宿主細胞ゲノムに安定に組み込まれた、AAVパッケージング遺伝子(rep及びcap遺伝子)、必要であればヘルパーウイルス遺伝子及び組換えAAVベクターのDNAゲノム、(例えば、2つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する目的の導入遺伝子)を有する細胞株を指す。本明細書に記載の核酸ベクターが、プロデューサー細胞株を生成するために使用され得ることが、当業者に理解される。本明細書に記載のプロデューサー細胞が、天然のAAVプロウイルスが組み込まれた細胞を指さないこともさらに理解される。
【0030】
用語「遺伝子」は、当技術分野で周知の用語である。本明細書で使用する場合、遺伝子は、タンパク質をコードする、又は機能的RNA産物に転写される発現された核酸配列を含む。一般的に、遺伝子は、これらに限定されないが、プロモーター、エンハンサー、オペレーター及びターミネーターを含む、作動可能に連結された調節配列を有する発現された核酸配列を含む。2つの配列は、それらがシスに配置され、互いに関係して予測される様式で作用する場合、「作動可能に連結され」ている。用語「発現された」、「発現」は、それにより、核酸、典型的には遺伝子にコードされた情報がリボ核酸及び/又はタンパク質若しくはそれらの翻訳後修飾バージョンに変換される全体的な方法を意味する。
【0031】
本明細書で使用する場合、「導入遺伝子」は、目的の遺伝子、例えば、限定されないが、遺伝子又は薬物選択を可能とする遺伝子(例えば、抗生物質耐性を与える遺伝子、又はレポーター遺伝子)をコードする核酸配列である。あるいは、遺伝子は、欠損遺伝子の機能を置き換える又は増加させる治療遺伝子であってよく、薬剤に対する免疫のために使用されて、免疫原性応答を引き起こす。
【0032】
当技術分野で公知の組換えAAVベクターを製造するいくつかの方法は、パッケージング遺伝子、及びいくつかの場合では追加のヘルパーウイルス遺伝子を安定に発現する細胞株へのトランスファーベクター(2つのAAV ITRに隣接して目的の導入遺伝子を含む核酸ベクター)の一時的なトランスフェクションを含む。この方法は、完全に一時的なトランスフェクション方法の不利益を低減するが、それらを完全には除去しない。したがって、そのような組換えAAVベクターの製造のハイブリッド方法は、おそらく安定及び一時的なアプローチの両方を合わせた複雑さを有する。
【0033】
プロデューサー細胞ベースのAAVベクターの製造は、一時的なトランスフェクションを利用する方法より、複雑な細胞株の発生期を必要とする。しかしながら、この方法は、製造中により少ない開始物質及び操作を必要とし、それにより、悪くなり得るエレメントがより少ないという利点を有する。さらに、本明細書に開示の簡便化した製造方法は、ラージスケールの工業的に適用可能な産生系への拡張性に優れ、大きな患者集団の要求により見合うことができる。
【0034】
AAVの文脈における用語「ウイルスベクター」又は「ビリオン」は、宿主細胞へと移入される遺伝物質を運ぶのに好適なAAV粒子(すなわち、特許出願の別の場所では「組換えAAVベクター」とも呼ばれる、AAVベクター)を指す。AAVベクターは、空又はフルと呼ぶことができ、すなわち、それぞれAAVベクタのDNAゲノムを含有しない又は含有する。AAVベクターの場合では、AAVゲノムを修飾して、2つのAAV ITR配列の間からrep及びcap遺伝子を除去した。本発明のAAVベクター(すなわち、AAVベクター)のDNAゲノムは、典型的には2つのAAV ITRに隣接して導入遺伝子を含む。用語「核酸ベクター」は、「ウイルスベクター」を指さない又は含まないと理解される(例えば、AAVベクターは、宿主細胞に移入するためのDNAゲノムをカプシド形成する)。さらに、用語「核酸ベクター」は遺伝子構築物を指す。
【0035】
用語「イントロン」又は「イントロン配列」は、前駆体メッセンジャーRNAの成熟メッセンジャーRNA(mRNA)への修飾中にRNAスプライシングによって除去される、遺伝子内の非コード配列を指す。したがって、用語は、遺伝子内のDNA配列とプロセシングされない前駆体メッセンジャーRNA転写物の相当する配列の両方を指す。遺伝子をコードする核酸配列は、挿入された配列と一緒にコンセンサススプライスドナー/アクセプター配列を形成する核酸を含み、イントロンはこの位置に挿入される。次いで、挿入された配列は、転写後プロセシング中にスプライスアウトされる。イントロンをコードする核酸配列の発現される配列への挿入の方法は、当技術分野で周知であり、任意のそのような方法がそうするために使用され得る。
【0036】
あるいは、エンハンサー/プロモーター領域の下流及びcDNAインサートの上流でのイントロンの使用は、遺伝子発現のレベルを増加させることが示されている。発現の増加は、特定のcDNAインサートに依存する。
【0037】
したがって、本発明の核酸ベクターは、イントロン、例えばヒト絨毛性ゴナドトロピンイントロン、ヒトベータグロビンイントロン、ウサギベータグロビンイントロンII又はキメラヒトベータグロビン-免疫グロブリンイントロンを含んでもよい。一実施形態では、イントロンは、ヒトベータグロビンイントロン及び/又はウサギベータグロビンイントロンIIである。
【0038】
用語「転写終結配列」、「転写ターミネーター」は、転写複合体(すなわち、RNAポリメラーゼ)から転写物RNAを放出する方法の引き金を引く新しく合成されたRNA転写物のシグナルを提供することによって転写終結を媒介する核酸配列を指す。真核生物の転写では、転写終結配列は、ポリアデニル化(ポリA)シグナル配列であり、それは宿主因子が転写の間に新生mRNAの末端にポリアデノシン(ポリA)テールを付加することを可能とする。ポリAテールは、mRNAを酵素分解から保護し、翻訳も補助する、300個までのアデノシンリボヌクレオチドのストレッチである。したがって、本発明の核酸ベクターは、ポリAシグナル配列、例えばシミアンウイルス40(SV40)初期又は後期ポリAシグナル、ヒトベータグロビン又はウサギベータグロビンポリAシグナル、ヒトインスリンポリAシグナル、又はウシ成長ホルモンポリAシグナルを含み得る。一実施形態では、ポリAシグナル配列はシミアンウイルス40(SV40)ポリAシグナルである。別の実施形態では、ポリAシグナル配列はヒトベータグロブリンポリAシグナルである。
【0039】
用語「組換え部位」及び「リコンビナーゼ」は、当技術分野で周知であり、部位特異的組換えの方法の成分を指すために使用する。例えば、チロシンリコンビナーゼのメンバー、すなわちCre及びFLPは、真核生物における使用のための分子ツールとして当技術分野で効果的に用いられ、部位特異的DNA挿入又は標的DNA欠失を媒介する。Creリコンビナーゼは、短い標的配列の対、又はLoxP配列と呼ばれる組換え部位を組み換える。同様に、FLPリコンビナーゼはFRT配列を認識及び標的化する。さらなる例により、リコンビナーゼはトランスポザーゼを含み、それは短い標的配列の対、又はトランスポゾン逆方向末端反復(トランスポゾンITR)として公知の組換え部位を組み換える。クラス2転移因子としても公知のDNAトランスポゾンは、その両端が逆方向末端反復に隣接する。逆方向反復は互いに相補性である(1つの末端の反復は反対の末端の反復の鏡像であり、反対の末端の反復に相補的なヌクレオチドから構成される)。
【0040】
当技術分野で使用する場合、用語「遺伝子座」は、染色体上の特定の位置、又はホルマール連鎖解析(formal linkage analysis)若しくは分子遺伝学研究のための不連続の遺伝単位であると考えられるゲノムDNAの任意の領域を指す。本発明でのように、宿主細胞ゲノムにおける組換えAAVベクターの産生に必須の遺伝子をコードする核酸配列の組込みのため、不連続の遺伝単位は、その間に配列が挿入される(例えば、挿入部位)内因性宿主細胞ゲノムの2つのDNA塩基対である。したがって、本明細書で使用する場合、用語「遺伝子座」は、ゲノムDNAの広範な領域、例えば、広範な遺伝子ファミリーを含有するメガ塩基サイズ領域を指すのではなく、ゲノム上の特定の位置を指す。
【0041】
用語「核酸ベクター」は、外来の(すなわち、外因性の)遺伝物質を別の細胞に人為的に運び、そこで、それが複製及び/又は発現され得るビヒクルを意味する。ベクターの例として、非哺乳動物核酸ベクター、例えば、バクテリア人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、P1由来人工染色体(PAC)、コスミド又はフォスミドが挙げられる。用語「核酸ベクターDNA」は、様々な遺伝子又はそのエレメントをコードする核酸配列を含む核酸ベクターのDNAを指す。
【0042】
用語「非哺乳動物複製起点」は、そこで複製が開始され、非哺乳動物起源に由来する核酸配列を意味する。これによって、本明細書に記載される核酸ベクターが安定に複製されること、及び宿主細胞が哺乳動物宿主細胞である場合を除いて、それが宿主細胞後代に伝達され得るように好適な宿主細胞(例えば、バクテリア又は酵母細胞などの微生物細胞)内で内因性染色体と共に分離されることが可能となる。哺乳動物宿主細胞において、非哺乳動物複製起点を有する核酸ベクターは、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれるか又は哺乳動物宿主細胞複製時に失われる。例えば、バクテリア人工染色体(BAC)、P1由来人工染色体(PAC)、コスミド又はフォスミドなどの、非哺乳動物複製起点を有する核酸ベクターは、バクテリア細胞(例えば、大腸菌)内で安定に複製し、内因性染色体と共に分離することができる。しかしながら、それらが哺乳動物宿主細胞へと導入されると、BAC、PAC、コスミド、フォスミド又はプラスミドは、哺乳動物宿主細胞複製時に組み込まれるか又は失われる。酵母人工染色体(YAC)は、酵母細胞内で安定に複製し、内因性染色体と共に分離することができる。しかしながら、それらが哺乳動物宿主細胞に導入されると、YACは、哺乳動物宿主細胞複製時に組み込まれるか又は失われる。したがって、この文脈において、本明細書に記載の核酸ベクターは、哺乳動物細胞に容易に移入され、組換えAAVベクター産生のための安定なプロデューサー細胞株を生成することができるDNAのリザーバーとして(すなわち、AAVベクター産生に必須の遺伝子のために)作用する。非哺乳動物複製起点の例として、バクテリア複製起点、例えば、oriC、oriV若しくはoriS、又は自律複製配列(ARSエレメント)としても知られる酵母複製起点が挙げられる。
【0043】
一実施形態では、核酸ベクターは、非哺乳動物複製起点を含み、少なくとも25キロベース(kb)のDNAを保持することができる。一実施形態では、核酸ベクターは、少なくとも30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340又は350kbのDNAを保持する能力を有する。「保持する能力」への言及は、その通常の意味を有し、核酸ベクターの挿入サイズの上限が特許請求されるサイズ以上(すなわち、25kb以上のDNA)であることを含意することが理解される。
【0044】
用語「内因性染色体」又は「内因性ゲノム」は、外因性核酸ベクター、例えば本明細書に記載の核酸ベクターの生成又は導入の前に宿主細胞に見出されるゲノムDNAを指す。好ましくは、核酸ベクターは、バクテリア人工染色体である。
【0045】
用語「プロモーター」は、遺伝子発現を駆動する配列を指す。高レベルの発現を駆動するために、高効率プロモーターを使用することが有益であり得る。好適なプロモーターの例として、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター、脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、又はヒト伸長因子1-アルファ(pEF)プロモーターなどのプロモーターを挙げることができる。一実施形態では、プロモーターは、それが連結する遺伝子の発現を一時的に調節することを可能とする誘導性プロモーター(本出願の別の場所では、条件プロモーターと呼ばれる)である。誘導性プロモーター及び誘導性発現系は当技術分野で周知である。
【0046】
用語「選択マーカー」は、核酸配列を活発に発現する細胞を選択する助けをする遺伝子を指す。好適な選択マーカーの例として、抗生物質、例えば、カナマイシン、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ブラストサイジン、又はゼオシン耐性をコードする酵素(すなわち、抗生物質耐性遺伝子)が挙げられる。好適な選択マーカーの別の例は、蛍光タンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)又は青色蛍光タンパク質(BFP)である。
【0047】
「遺伝子増幅」は、ゲノム(すなわち、遺伝子)の特定のDNA配列が、ゲノム内の他の配列と比べて不均衡に複製され、その結果、増幅したDNA配列が、このような不均衡な複製の前にゲノム内に最初に存在するよりも多いコピー数で存在するようになる、プロセスを指す。「増幅した」又は「増幅」は、遺伝子又は核酸配列に関して本明細書で使用する場合、遺伝子増幅によって、宿主細胞株において、2つ以上のコピーで存在する遺伝子又は核酸配列を指す。
【0048】
本明細書で使用される「増幅可能な選択マーカー遺伝子」への言及は、適切な増殖条件下で、その遺伝子の増幅を許容する遺伝子を指す。増幅可能な選択マーカー遺伝子は、発現産物(すなわち、増幅選択マーカー遺伝子によってコードされたタンパク質の発現)を増加させる増幅によって、必須代謝産物の阻害剤又は欠如のいずれかに対して応答することができる。一実施形態では、増幅可能な選択マーカー遺伝子は、栄養要求性宿主を補完することができるものとして特徴付けられてもよい。
【0049】
本明細書で使用する場合、用語「発現構築物」又は「発現カセット」は、1つ以上の組み込まれたポリヌクレオチドの発現を駆動することができる機能的発現単位、すなわち1つ以上の遺伝子及びそれらの発現を制御する配列を含有するDNA配列を指す。発現カセットは、通常ポリヌクレオチド並びにポリヌクレオチドの転写及び翻訳に必要な成分を含む。例えば、カセットは、プロモーター、翻訳開始シグナル、転写ターミネーター(例えば、ポリAシグナル配列)及び/又は自己切断ペプチド配列(例えば、P2A配列)を含む核酸配列(すなわち、組換えDNA)を含んでもよい。一実施形態では、個々の発現カセットは、プロモーター及び/又は転写ターミネーターを含む。一実施形態では、個々の発現カセットは、いずれも単一のプロモーターから転写されるIRESによって隔てられた2つの遺伝子を含む。疑念を避けるため、3つの異なるプロモーターからいくつかの転写物を生じ、次いで、7つの異なるタンパク質へとスプライシングされるrep及びcap遺伝子は、単一の連続する遺伝子エレメントを形成し、AAVゲノムのコンパクトな性質のために互いに分離することができない。そのため、当業者は、rep及びcap遺伝子が単一の発現カセットに含まれると理解する。したがって、発現カセットは1つよりも多いプロモーターを含んでもよい。
【0050】
一実施形態では、核酸ベクターにおけるすべての発現カセットは、それらが同じ方向に転写するように配置される。これによって、構築物における発現カセットの全体的発現が改善されることが以前に示されている(Thromら、(2009) Blood 113:5104~5110頁)。
【0051】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクタープロデューサー細胞
本発明の一態様によれば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクタープロデューサー細胞であって、
AAV rep及びcap遺伝子、
ヘルパーウイルス遺伝子、並びに
AAVベクターのDNAゲノム
をコードする核酸配列を含み、
AAV rep遺伝子がイントロンを含み、前記イントロンが転写終結配列の上流に位置する第1の組換え部位及び下流に位置する第2の組換え部位を有する転写終結配列を含み、
前記核酸配列が、AAVベクタープロデューサー細胞のゲノム内の単一の遺伝子座にすべて一緒に組み込まれる、AAVベクタープロデューサー細胞が提供される。
【0052】
様々な遺伝子をコードするこれらの核酸配列は、複製コンピテントウイルスを形成する組換えのいずれのリスクも防ぐ、個々の発現カセットとして存在することが理解される。疑念を避けるため、rep及びcap遺伝子をコードする核酸配列は、同じ(すなわち、1つの)発現カセットに存在する。
【0053】
一実施形態では、AAVベクタープロデューサー細胞は、哺乳動物細胞である。さらなる実施形態では、哺乳動物細胞は、HEK293細胞、CHO細胞、Jurkat細胞、K562細胞、PerC6細胞、HeLa細胞又はそれらの誘導体若しくは機能的等価物から選択される。なおさらなる実施形態では、哺乳動物宿主細胞は、HEK293細胞であるか、又はHEK293細胞に由来する。このような細胞は、接着細胞株(すなわち、それらは表面に付着して単層として増殖する)又は懸濁(浮遊)適応/非接着細胞株(すなわち、それらは培養培地中、懸濁(浮遊)状態で増殖する)であり得る。さらなる実施形態では、HEK293細胞はHEK293T細胞である。
【0054】
用語「HEK293細胞」は、機械的にせん断されたアデノウイルス5型(Ad5)DNAの断片をトランスフェクトされたヒト胎児腎細胞を指す(Grahamら(1977年) J. Gen. Virol. 36:59頁)。転写単位E1A及びE1Bからなるアデノウイルス5型のゲノムの初期領域1(E1)は、HEK293細胞ゲノムへと安定に組み込まれている。HEK293細胞は、Ad5 E1A及びE1Bを安定に発現するため、HEK293プロデューサー細胞における組換えAAVの産生は、残りの必須アデノウイルスヘルパー遺伝子(E2A、E4及びVA)及びAAVゲノムによるトランスフェクションのみを必要とする。そのため、HEK293はAAV産生に慣用される。好適な市販の細胞株の他の例として、T REX(商標)(Life Technologies)細胞株が挙げられる。したがって、一実施形態では、ヘルパーウイルス遺伝子は、ヘルパーウイルス遺伝子E2A、E4及びVAのすべて又は一部を含む。
【0055】
アデノ随伴ウイルス
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、パルボウイルス科(Parvoviridae)に属する、ディペンドパルボウイルス属(Dependoparvovirus)の一部である。AAVは、およそ4.7キロベース(kb)から6kbの長さまでの単鎖DNA(ssDNA)ゲノムを有する小さな、無エンベロープの、正二十面体ウイルスである。いくつかの血清型が発見され、これまでに最も詳細に調べられた血清型として、AAV血清型2(AAV2)がある。
【0056】
2つのオープンリーディングフレーム、rep及びcap遺伝子(本出願の別の場所ではrep/cap遺伝子とも呼ばれる)からなるAAVゲノムは、2つの145ベースの逆方向末端反復(ITR)に隣接する。これらのITRの塩基対は相補性DNA鎖の合成を可能とする。rep及びcap遺伝子は、翻訳されて、複数の異なるタンパク質を産生する。rep遺伝子は、タンパク質Rep78、Rep68、Rep52、Rep40をコードし、それらはAAVライフサイクルに必要である。cap遺伝子は、VP1、VP2、VP3をコードし、それらはカプシドタンパク質である。AAVトランスファープラスミドを構築する場合、導入遺伝子は2つのITRの間に置かれ、rep及びcap遺伝子はトランスに補給される。これは、宿主細胞によって産生された組換えAAVベクターが複製欠損であることを確実にするためである。
【0057】
AAV repコード配列は、ウイルスゲノムの複製に必要であり、新たなビリオンへとパッケージングされる少なくともこれらの複製タンパク質をコードする。rep遺伝子は、一般的に、少なくとも1つの大きなRepタンパク質(すなわち、Rep78/68)及び1つの小さなRepタンパク質(すなわち、Rep52/40)をコードするが、本明細書に記載の実施形態では、rep遺伝子は、AAV Repタンパク質のすべてをコードする必要はない。したがって、一実施形態では、Repタンパク質は、Rep78タンパク質並びにRep52及び/又はRep40タンパク質を含む。代替の実施形態では、Repタンパク質は、Rep68並びにRep52及び/又はRep40タンパク質を含む。さらなる実施形態では、Repタンパク質は、Rep68並びにRep52タンパク質、Rep68及びRep40タンパク質、Rep78及びRep52タンパク質、又はRep78及びRep40タンパク質を含む。なおさらなる実施形態では、Repタンパク質は、Rep78、Rep68、Rep52及びRep40タンパク質を含む。
【0058】
AAV cap遺伝子は、機能的AAVカプシドを形成する(すなわち、DNAをパッケージングし、標的細胞に感染することができる)構造タンパク質をコードする。典型的には、cap遺伝子は、AAVカプシドサブユニットのすべてをコードするが、機能的カプシドが生成される限り、すべてのカプシドサブユニットがコードされなくてもよい。一実施形態では、Capタンパク質は、VP1、VP2及び/又はVP3を含む。
【0059】
AAVのITR配列は、それぞれ145ベースを含み、AAVゲノムの複製及びカプシドへのパッケージングに必要な唯一のシス作用エレメントである。典型的には、ITRは、ベクターゲノムの5'及び3'末端にあり、異種核酸(導入遺伝子)に隣接するが、それらと連続的である必要はない。ITRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0060】
AAV ITRは、これらに限定されないが、血清型1、2、3a、3b、4、5、6、7、8、9、10、11、若しくは13、ヘビAAV、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ウシAAV、ヤギAAV、エビAAV、又は現在知られているか若しくは後に発見される任意の他のAAVを含む、任意のAAV由来のものであってもよい。AAVのITRは、末端反復が所望の機能、例えば、複製、ウイルスのパッケージング、及び/又は組込みなどを媒介する限り、ネイティブ末端反復を有する必要はない(例えば、ネイティブAAV ITR配列は、挿入、欠失、切断及び/又はミスセンス突然変異によって変更されてもよい)。
【0061】
AAVへの言及は、本明細書で使用する場合、これらに限定されないが、AAV血清型1(AAV1)、AAV血清型2(AAV2)、AAV血清型3(血清型3A及び3Bを含む)(AAV3)、AAV血清型4(AAV4)、AAV血清型5(AAV5)、AAV血清型6(AAV6)、AAV血清型7(AAV7)、AAV血清型8(AAV8)、AAV血清型9(AAV9)、AAV血清型10(AAV10)、AAV血清型11(AAV11)、AAV血清型12(AAV12)、AAV血清型13(AAV13)、ヘビAAV、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヤギAAV、エビAAV、及び現在知られているか若しくは後に発見される任意の他のAAVを含む。例えば、Fieldsら、Virology、第2巻、第69章(第4版、Lippincott-Raven Publishers)を参照のこと。
【0062】
AAVへの言及は、限定されないが、天然に存在しないカプシドタンパク質を有するAAVを含む人工AAV血清型を含んでもよい。このような人工カプシドは、1つのAAV血清型配列(例えば、VP1カプシドタンパク質の断片)を、別のAAV血清型(公知又は新規の)、同一のAAV血清型の非連続的部分から、非AAVウイルス源から、又は非ウイルス源から得ることができる異種配列と組み合わせて使用して、任意の好適な技術によって生成することができる。人工AAV血清型は、限定されないが、キメラAAVカプシド、組換えAAVカプシド、又は「ヒト化」AAVカプシドであってもよい。
【0063】
一実施形態では、rep及びcap遺伝子並びに/又はAAVベクターのDNAゲノムをコードする核酸配列(すなわち、AAV核酸配列)は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13又はその組合せに由来する。さらなる実施形態では、rep及びcap遺伝子並びに/又はAAVベクターのDNAゲノムをコードする核酸配列は、AAV2、AAV5、AAV8及び/又はAAV9に由来する。
【0064】
あるいは、一実施形態では、rep遺伝子配列は、cap配列をもたらしているものと異なるAAV血清型に由来する。したがって、一実施形態では、rep配列は、異なるAAV血清型のcap配列とインフレームで融合して、キメラAAVベクターを形成する。例えば、一実施形態では、rep遺伝子は、AAV2に由来し、cap遺伝子は、AAV2又はAAV5に由来して、それぞれ、AAV2様粒子及びAAV5様粒子を産生する。これらは、rep2cap2及びrep2cap5と命名される場合もある。
【0065】
ネイティブITR、Repタンパク質、及びカプシドサブユニットの配列と同様に、AAVの種々の血清型のゲノム配列は、当技術分野で公知である。このような配列は、文献又は公開データベース、例えば、GenBankにおいて見つけることができる。例えば、その開示が、AAV核酸及びアミノ酸配列を教示するために、参照により本明細書に組み込まれるGenBank受託番号NC_002077、NC_001401、NC_001729、NC_001863、NC_001829、NC_001862、NC_000883、NC_001701、NC_001510、NC_006152、NC_006261、AF063497、U89790、AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、AY631966、AX753250、EU285562、NC_001358、NC_001540、AF513851、AF513852及びAY530579を参照のこと。
【0066】
組織特異性は、カプシドの血清型によって決定されると考えられ、したがって、AAVベクターのシュードタイピングを使用して、それらの向性範囲を変更することができる。これによって、AAVは、特異的細胞型を優先的に形質導入するための有用な系となる。理論にとらわれずに、表1に、特異的組織の形質導入に最適な血清型をまとめる。
【0067】
【0068】
「シュードタイピング」への言及は、異なるウイルス血清型に由来するカプシド及びゲノムの混合を指す。これらの血清型は、スラッシュを使用して示され、例えば、AAV2/5は、AAV血清型5由来のカプシドにパッケージングされたAAV血清型2のゲノムを含有するウイルスを示す。これらのシュードタイピングされたウイルスの使用によって、向性を変更するだけでなく、形質導入の効率を改善することができる。例えば、AAV2/5は、AAV2/2によって効率的に形質導入されないニューロンを標的とし、脳内でより広範に分布し、形質導入効率の改善を示す。これらのハイブリッドウイルスの多くは、当技術分野において十分に特徴付けられている。
【0069】
ヘルパーウイルス遺伝子
rep及びcap遺伝子に加えて、AAVは、それ自体で複製する能力を有さないため、AAV複製に必要な遺伝子を含有するヘルパーウイルス又はプラスミドを必要とする。ヘルパーウイルスの非存在下で、AAVを、第19染色体の特定の部位で、宿主細胞のゲノムへと組み込んでもよい。AAV複製に必要なヘルパーウイルスの配列は、当技術分野で公知であり、例えば、Cell & Gene Therapy Insights、“Gene Therapy and Viral Vectors: Advances and Challenges" (Cell Gene Therapy Insights 2016年;2(5)、553~575頁)を参照のこと。典型的には、これらの配列は、ヘルパーアデノウイルス又はヘルペスウイルスベクターによって与えられる。ヘルパーウイルス遺伝子は、タンパク質及び非コードRNAをコードする。
【0070】
一実施形態では、ヘルパーウイルス遺伝子は、アデノウイルスに由来する。さらなる実施形態では、アデノウイルスは、アデノウイルス2及びアデノウイルス5から選択される。一実施形態では、ヘルパーウイルス遺伝子は、E1A、E1B、E2A、E4及びVA遺伝子を含む。
【0071】
いくつかのヘルパー遺伝子は、哺乳動物宿主細胞株によって発現されるが、その他のヘルパー遺伝子は、ベクターによって導入され得る。例えば、HEK293細胞(ATCC CRL-1573)は、アデノウイルスE1A及びE1Bタンパク質を構成的に産生する。したがって、組換えAAVの産生のため、E2A、E4及びVAなどの組換えAAVベクターの産生に必要なヘルパー遺伝子のみがHEK293宿主細胞に導入される。
【0072】
一実施形態では、ヘルパーウイルス遺伝子は、アデノウイルス、特に、アデノウイルス2に由来する各E4、E2A及びVA遺伝子のすべて又は一部を含む。ネイティブアデノウイルス遺伝子のすべてがAAV複製に必要な訳ではなく、例えば、E4遺伝子のオープンリーディングフレーム6(ORF6)にコードされたE4 34kDタンパク質のみがAAV複製に必要であることが見出された。したがって、さらなる実施形態では、ヘルパーウイルス遺伝子は、E4 ORF6コード領域、アデノウイルスE2A 72kDコード領域(E2A 72kD DNA-結合タンパク質をコードする)及びVA遺伝子を含む。なおさらなる実施形態では、ヘルパーウイルス遺伝子は、アデノウイルスE1A及びE1B遺伝子をさらに含む。
【0073】
代替の実施形態では、ヘルパーウイルス遺伝子は、ヘルペスウイルスに由来する。さらなる実施形態では、ヘルペスウイルスは:単純ヘルペスウイルス(HSV)、Epstein-Barrウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)及び偽性狂犬病ウイルス(PRV)から選択される。
【0074】
各ヘルパーウイルス遺伝子は、それぞれのオリジナルプロモーターによって、又は異種プロモーターによって制御され得る。
【0075】
HEK293細胞におけるAAV産生に必要なアデノウイルスヘルパー遺伝子(E2A、E4及びVA)は、宿主細胞に毒性の可能性がある(Ferrariら、1996年、Journal of Virology 70: 3227~3234頁)ことが報告されている。哺乳動物細胞にトランスフェクトされた場合、これらのヘルパー遺伝子のネイティブプロモーターは構成的に活性である。したがって、一実施形態では、1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子が転写制御下にある。一実施形態では、すべてのヘルパーウイルス遺伝子が転写制御下にある。さらに別の実施形態では、E4、E2A及びVAヘルパーウイルス遺伝子が転写制御下にある。さらなる実施形態では、CMV-TO2プロモーターはE2A遺伝子及び/又はE4遺伝子に作動可能に連結される。なおさらなる実施形態では、TetOオペレーター配列はVAのネイティブプロモーターに作動可能に連結される。
【0076】
AAVベクター産生に必要なヘルパーウイルス遺伝子を宿主細胞ゲノムへと組み込むことによって、この方法は、野生型ヘルパーウイルスとの同時感染を必要としないため、ヘルパーウイルスフリー方法と考えられ得ると理解される。したがって、これによって、ベクターの安全性及び特異性の点から非常に望ましくない野生型ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス)の夾雑が回避される。
【0077】
REP抑制
組換えAAVベクターに必要なすべての遺伝子エレメントが宿主細胞ゲノムへと安定に組み込まれるプロデューサー細胞株を生成することの主な困難は、細胞傷害性(Yangら、1994年、J. Virol. 68:4847~4856頁)及び細胞増殖抑制性(Schmidtら、2000年、J. Virol. 74:9441~9450頁)であることが周知のRepタンパク質の構成的な発現である。これは、Repタンパク質を安定に発現する細胞が、ラージスケールのバイオリアクターで組換えAAVベクターを産生するのに必要な密度に達するまで生存しないことを意味する。rep遺伝子プロモーター、p5及びp19のE1A媒介活性化のため、HEK293ベースのプロデューサー細胞株を生成する場合、この困難は複雑になる。Rep発現の調節の複雑さのさらなる層は、p19プロモーターの位置であり、それは、p5プロモーターによって発現されるRepタンパク質(Rep78及びRep68)のコード領域内に置かれる。結果として、p19プロモーターの操作は、Rep78及びRep68のコード配列において必然的に変異を引き起こし、これらの必須のRepタンパク質の構造及び機能の崩壊をもたらしやすい。さらに、repのネイティブプロモーターの崩壊は、効率的なAAVベクター産生に必要な様々なRep及びCapタンパク質の正確な化学量論に影響する。
【0078】
したがって、Rep発現はプロデューサー細胞増殖中に厳しく調節され、AAVベクター産生中に高く誘導される必要がある。
【0079】
本発明のAAVベクタープロデューサー細胞は、Repタンパク質の発現を制御するためにrep遺伝子内に二重スプライシングスイッチを含む。二重スプライシングスイッチは、切除可能な転写終結配列(「終結イントロン」)を含むイントロンである。切除可能な終結配列は、一対の組換え部位に隣接する終結配列である。転写終結配列に加えて、隣接する組換え部位内に追加の核酸配列があり得る。イントロン及びイントロン配列の例は、当技術分野で周知である。一実施形態では、イントロンは、ヒト絨毛性ゴナドトロピン遺伝子由来のイントロンである。
【0080】
終結イントロンは、Repコード領域内に位置する。Repコード領域は修飾され、挿入された場合、イントロンの5'及び3'末端並びにそれによりそれらが連続するRepコード領域の核酸配列は、それぞれスプライスドナー/アクセプター配列を形成して、RNAプロセシング中に終結イントロンのスプライスアウトを可能とする。例えば、イントロンの5'のすぐ横のエキソンには、A/C A G配列があってもよく、イントロンの3'すぐはGヌクレオチドである。したがって、イントロンはrep遺伝子のAAG ^ G(^は、挿入部位を示す)配列へと挿入され、最終配列AAG/GTPuAGU-イントロンの中間-CAG/G(Puはプリンを示す)を提供し得る。したがって、終結イントロンは、AAGG又はCAGG配列があるrep遺伝子のどこかに挿入され得る。
【0081】
一実施形態では、終結イントロンはp19プロモーターの下流のRepコード領域内に位置する。この方法では、終結イントロンは、4つすべてのrep遺伝子産物の発現が同時に制御され得るように、4つすべてのRepタンパク質によって共有されるリーディングフレーム内に位置する。
【0082】
終結イントロンが活性である場合、全長のrep転写物の産生が妨げられ、Rep発現が阻害されるように、rep遺伝子の転写は転写終結配列で未熟に終結される。この方法では、Rep産生のレベルは、十分に低い乃至完全に無く、細胞への毒性を緩和し、細胞増殖中に不活性化されたrep遺伝子を持つ細胞の増殖を可能とする。
【0083】
転写終結配列は、転写終結できる任意の配列であり得る。一実施形態では、転写終結配列は、ポリアデニル化(ポリA)シグナル配列である。さらなる実施形態では、終結イントロンは、1つ以上のポリAシグナル配列をタンデムに、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上のポリAシグナル配列をタンデムに含む。好ましい実施形態では、終結イントロンは、3つのポリAシグナル配列をタンデムに含む。
【0084】
遺伝子及び1つ以上のポリAシグナル配列の組合せが、転写終結に相乗効果を有することは、Qiaoら(2002年 J. Virol.76:13015~13027頁)によって示された。したがって、一実施形態では、転写終結配列は遺伝子であり得る。さらなる実施形態では、転写終結配列は、ポリAシグナル配列と遺伝子の組合せである。なおさらなる実施形態では、終結配列は、タンデムな2つ以上のポリAシグナル配列、例えば、遺伝子に続く2、3、4、5、6、7、8、9又はそれ以上のポリAシグナル配列である。一実施形態では、終結配列は、遺伝子に続くタンデムな3つのポリAシグナル配列である。二重スプライシングスイッチの制御下にあるrep遺伝子を有する細胞株の確立の都合上、一実施形態では、転写終結配列の遺伝子は、選択可能マーカー、例えば限定されないが、ハイグロマイシン、ピューロマイシン又はブラストサイジンS耐性遺伝子である。
【0085】
rep遺伝子は、rep遺伝子から終結イントロンが除去されると、リコンビナーゼ酵素(リコンビナーゼ)の存在下で活性化される。リコンビナーゼは、組換えイベントを通してイントロンをスプライスアウトするか、又は終結配列を含有する2つの組換え部位間の領域を反転する。終結配列の反転も、転写阻害を停止する効果を有する。この方法では、全長のrep遺伝子の発現が回復される。イントロンの残りは、RNAスプライシングを介して全長の前駆体mRNAから正確に除去され、rep遺伝子のコード配列を回復して、4つのRepタンパク質を産生する。このRep発現の制御は、転写された配列をRepタンパク質へと翻訳することができる前に、2つのスプライシングイベント(DNA及びRNAスプライシング)が起こるため、「二重スプライシングスイッチ」と呼ばれる。
【0086】
転写終結配列の除去後、rep遺伝子のイントロンの残りはサイズが十分に長く、トランスファーベクターのITR間にrep/cap遺伝子を挿入するイベントにおいて、複製コンピテントなAAVの形成を軽減するスタッファー(詰め物)として作用することができる。例えば、例示的な一実施形態では、イントロンの残りは、rep/cap遺伝子サイズを404bpまで増加させ、これはAAVカプシドパッケージング限界に大き過ぎるようにするのに十分である。
【0087】
部位特異的DNAリコンビナーゼは多細胞生物において広く使用されて、ゲノムの構造を操作し、次いで遺伝子発現を制御する。バクテリア及び真菌由来のこれらの酵素は、各リコンビナーゼに特異的な短い標的部位(すなわち、組換え部位)配列間の方向感受性の組換え反応を触媒する。多くのタイプの部位特異的組換え系が当技術分野で公知であり、いずれの好適な組換え系を本発明において使用してもよい。例えば、一実施形態では、組換え部位は、ラムダファージのint/att系、バクテリオファージP1のCre/lox系、酵母のFLP/FRT系、ファージMuのGin/gixリコンビナーゼ系、Cinリコンビナーゼ系、大腸菌のPinリコンビナーゼ系及びpSR1プラスミドのR/RS系、又はそれらの任意の組合せから選択されるか、又はそれらに由来する。最も広く使用されるリコンビナーゼはCre及びFLPであり、それぞれ、LoxP及びFRT組換え部位を認識する。一実施形態では、リコンビナーゼはCreリコンビナーゼ又はFLPリコンビナーゼである。一実施形態では、Creリコンビナーゼはコドン最適化Creリコンビナーゼである。一実施形態では、組換え部位はLoxP部位である。一実施形態では、組換え部位はFRT部位である。
【0088】
トランスポゾン/トランスポザーゼ系は、当技術分野で周知である(Pray, L. (2008年) Transposons: The jumping genes. Nature Education 1(1):204頁)。一実施形態では、組換え部位及びリコンビナーゼは、トランスポゾン/トランスポザーゼ系である。タイプ1トランスポゾンは、DNAのセグメントがある場所から別の場所に移動するタイプ2トランスポゾンの所望の「カットアンドペースト」メカニズムとは異なり、その場に留まって自身を複製してそれが他の位置に挿入される。したがって、一実施形態では、トランスポゾンはタイプ2トランスポゾンである。一実施形態では、トランスポゾンはタイプ1トランスポゾンではない。一実施形態では、組換え部位はトランスポゾン逆方向末端反復(トランスポゾンITR)である。一実施形態では、リコンビナーゼはトランスポザーゼである。一実施形態では、トランスポゾンITR及びトランスポザーゼは真核生物性である。一実施形態では、組換え部位及びリコンビナーゼは、真核生物性トランスポゾン/トランスポザーゼ系である。一実施形態では、トランスポゾンITR及びトランスポザーゼは同じ種由来である。好適なトランスポゾンITRは、これらに限定されないが、Sleeping Beauty、ヒョウガエル(Rana pipiens)由来のTc1様トランスポゾン、イラクサギンウワバ(Trcihoplusia ni)(T. ni)由来のpiggy Bacトランスポゾン、メダカ(Oryzias latipes)由来のhAT様トランスポゾンTol2、及びオオキクギンウワバ(Macdunnoghia crassisigna)(M. crassisigna)、バクトロセラ・ミヌタ(Bactrocera minuta)、オオミノガ(Eumeta japonica)、又はオオタバコガ(Helicoverpa armigera)由来のトランスポゾンを含む。一実施形態では、トランスポゾンITR及びトランスポザーゼはオオキクギンウワバ由来である。
【0089】
piggy Bac系で使用されるキャベツルーパーモス(cabbage looper moth)(イラクサギンウワバ)トランスポザーゼにおける3つのアミノ酸の変異(R372A、K375A、D450N)によって、切除+組込み-表現型を作製することが可能であることが報告されている(Liら、2013年“PiggyBac transposase tools for genome engineering" PNAS 110: E2279-E2287、the mutated trans)。この方法では、そのような構築物を安定にトランスフェクトした細胞へのDOXの添加によって、トランスポザーゼの発現がrepプロモーターの下流の転写ターミネーターの不可逆的な除去をもたらし、優れたRep発現をもたらす。
【0090】
オオキクギンウワバ由来のトランスポザーゼは、イラクサギンウワバ由来のものと98.82%同一である。Yusaら(Yusa Kら“A hyperactive piggyBac transposase for mammalian applications、2011年、PNAS 108: 1531~1536頁)は、機能亢進性の表現型をもたらすイラクサギンウワバのトランスポザーゼにおいて7個のアミノ酸置換(I30V、S103P、G165S、M282V、S509G、N538K、N571S)を見出した。これらの置換をオオキクギンウワバのトランスポザーゼのアミノ酸配列に適用した。さらに、イラクサギンウワバのトランスポザーゼにおいて切除+組込み-表現型をもたらす、Liら(2013年、PNAS110: E2279-E2287)によって見出された3個のアミノ酸置換(R372A、K375A、D450N)もオオキクギンウワバのトランスポザーゼの配列に適用された。
【0091】
修飾されたオオキクギンウワバのトランスポザーゼのアミノ酸配列(配列番号1)。一実施形態では、トランスポザーゼをコードするアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列を含む。一実施形態では、イラクサギンウワバ由来のトランスポザーゼをコードするアミノ酸配列は、変異R372A、K375A及びD450Nを含む。一実施形態では、トランスポザーゼは、変異R372A、K375A及びD450Nを含む。一実施形態では、オオキクギンウワバ由来のトランスポザーゼをコードするアミノ酸配列は、変異I30V、S103P、G165S、M282V、S509G、N538K、N571Sを含む。一実施形態では、トランスポザーゼは、変異I30V、S103P、G165S、M282V、S509G、N538K、N571Sを含む。一実施形態では、オオキクギンウワバ由来のトランスポザーゼをコードするアミノ酸配列は、変異I30V、S103P、G165S、M282V、S509G、N538K、N571S、R372A、K375A及びD450Nを含む。一実施形態では、トランスポザーゼは、変異I30V、S103P、G165S、M282V、S509G、N538K、N571S、R372A、K375A及びD450Nを含む。
【0092】
いくつかの方法が、終結イントロンを含むrep遺伝子を安定に発現するプロデューサー細胞へとリコンビナーゼを導入するために使用され得る。リコンビナーゼは、タンパク質形態で、又はリコンビナーゼ遺伝子をコードする核酸配列として、AAVベクタープロデューサー細胞に提供され得る。外来タンパク質又は目的のタンパク質をコードする核酸配列を細胞へと導入する任意の方法が当技術分野で周知であり、リコンビナーゼをAAVベクタープロデューサー細胞へと導入するために使用され得る。一方法では、リコンビナーゼ酵素は、例えばリポフェクションによって細胞膜を通過して輸送するため、培地中に提供され得る。別の方法では、リコンビナーゼをコードする核酸配列はプロデューサー細胞へと移入され得る。当技術分野で周知の任意の遺伝子移入方法が適用可能であり得る。したがって、一実施形態では、AAVベクタープロデューサー細胞はリコンビナーゼ遺伝子をコードする核酸をさらに含む。しかしながら、治療用途のためのラージスケールのAAVベクターの産生での遺伝子移入ステップの追加は、安全性の面(ウイルス媒介遺伝子移入)又はコストの面(非ウイルス媒介遺伝子移入)から望ましくないことがある。
【0093】
したがって、プロデューサー細胞ゲノムへとリコンビナーゼ遺伝子を安定にトランスフェクトすることによりAAVベクタープロデューサー細胞を産生することによって、別のリコンビナーゼ遺伝子移入ステップを避けることができる。一実施形態では、AAVベクタープロデューサー細胞ゲノムは、リコンビナーゼ遺伝子をコードする核酸配列を含む。さらなる実施形態では、リコンビナーゼ遺伝子をコードする核酸配列は、AAV rep及びcap遺伝子をコードする核酸配列、ヘルパーウイルス遺伝子及びAAVベクターのDNAゲノムと一緒にAAVベクタープロデューサー細胞ゲノム内の単一の遺伝子座に組み込まれる。
【0094】
AAVベクタープロデューサー細胞がそのゲノムへと安定に組み込まれたリコンビナーゼ遺伝子を有する場合、リコンビナーゼ遺伝子の発現は、rep遺伝子の誘発が所望される時まで抑えられる必要がある。したがって、リコンビナーゼ制御系が必要である。リコンビナーゼ制御系の非存在下では、リコンビナーゼ遺伝子は構成的に発現され、リコンビナーゼ酵素を産生し、それは次に組換え部位を認識し、終結配列を含有するその間の領域をスプライスアウトし、Repタンパク質の産生をもたらす。したがって、一実施形態では、AAVベクタープロデューサー細胞は、リコンビナーゼ制御系をさらに含む。
【0095】
リコンビナーゼ制御系は、リコンビナーゼ酵素を隔離することができる任意の系である。リコンビナーゼ制御系は、リコンビナーゼ遺伝子の発現を制御するように作用して、リコンビナーゼ遺伝子転写物の翻訳を制御し、又はリコンビナーゼ酵素活性を制御する。
【0096】
一実施形態では、リコンビナーゼ制御系は、以下にさらに説明する、誘導性プロモーター(すなわち、条件プロモーター)の制御下のリコンビナーゼ遺伝子を含む。
【0097】
さらなる実施形態では、リコンビナーゼ制御系は、リコンビナーゼ遺伝子に作動可能に連結した変異ステロイドホルモン受容体リガンド結合ドメイン(LBD)を含む。特定のリコンビナーゼは、哺乳動物細胞の核へと移行する傾向を有する。例えば、Creタンパク質は、核への能動輸送を可能とする特定の決定配列を含有することが示された(Andreasら、2002年、Nucleic Acids Res 27:4703~4709頁)。タンパク質レベルでのリコンビナーゼ活性の制御を得るため、ステロイドホルモン受容体リガンド結合ドメイン(LBD)に融合したキメラリコンビナーゼが作製された。そのようなキメラリコンビナーゼのLBDは、合成アゴニストと相互作用することができるが、生理的なステロイドに結合することはできない。合成アゴニストの非存在下では、結合ドメインは、細胞質に存在する熱ショックタンパク質複合体と相互作用し、核へのリコンビナーゼの移行を損ない、立体障害のため活性が減少する。反対に、合成アゴニストの存在下では、リガンド未結合ドメインは細胞質のタンパク質と相互作用せず、組換えが自由に起こる。
【0098】
一実施形態では、LBDは、エストロゲン受容体リガンド結合ドメインである。この場合、合成アゴニストはタモキシフェンである。さらなる実施形態では、エストロゲン受容体リガンド結合ドメインはERT2である。ERT2は、タモキシフェンにより高い親和性を有するエストロゲン受容体リガンド結合ドメインである。一実施形態では、リコンビナーゼ、任意選択でコドン最適化リコンビナーゼは、ERT2に隣接する。Casanovaら(2002年、Genesis 34:208~214頁)は、脳における組換え試験のためのコドン改善Creリコンビナーゼの両端に2つのERT2ドメインを融合することによって生成されたタモキシフェン誘導性融合タンパク質を生成した。融合タンパク質は、タモキシフェンの非存在下では細胞質内にあり、タモキシフェンの投与時に核へと移行されることが報告された。タモキシフェンの非存在下では、バックグラウンドリコンビナーゼ活性は検出されなかった。
【0099】
さらなる実施形態では、リコンビナーゼ制御系は、誘導性プロモーター及びリコンビナーゼ遺伝子へと作動可能に連結したステロイドホルモン受容体リガンド結合ドメインの制御下のリコンビナーゼ遺伝子を含む。
【0100】
誘導性プロモーター
誘導性発現系は、特定の核酸配列の過剰発現の調節を提供することが望ましい適用における利点である。本発明では、リコンビナーゼ調節Rep発現への外因性制御は、リコンビナーゼ遺伝子をコードする核酸配列に誘導性プロモーターを作動可能に連結することによって得られる。この発明の文脈における誘導性プロモーターは、関連応答エレメントを含む。さらなる実施形態では、ヘルパーウイルス遺伝子の過剰発現の外因性制御も、1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子に転写制御エレメントを作動可能に連結することによって得られる。転写制御エレメントは、誘導性プロモーター又は単に応答エレメントであってよく、この場合、ネイティブプロモーターが使用される。例えば、TetOオペレーター配列のみがヘルパー遺伝子のネイティブプロモーターと使用することができ、それはPolIIIプロモーターであり、正確に転写されない場合には標準的なPolII誘導性プロモーターが使用される。
【0101】
一実施形態では、誘導性プロモーターはTet応答性プロモーター(Ptetプロモーター)である。Tet応答性プロモーターは、少なくとも1つのTetオペロンを含む。Tetオペロン(テトラサイクリン制御転写活性化)は、誘導性遺伝子発現の方法で使用することができ、転写は、抗生物質テトラサイクリン又はその誘導体のうちの1つ(例えば、ドキシサイクリン(DOX))の存在下で、可逆的にオン又はオフを切り替えられる。一実施形態では、誘導剤はテトラサイクリン又はその誘導体である。
【0102】
本質的に、Ptetプロモーターは、TetR、リプレッサー、及び細胞からテトラサイクリン抗生物質を排出させるタンパク質であるTetAを発現させる。Tetオペロン系は、Invitrogenから入手可能なpcDNA(商標)4/TO哺乳動物発現ベクターにおいて使用されるTetオペロンなど、広く入手可能である。
【0103】
一実施形態では、Tet応答性プロモーターは、リコンビナーゼ遺伝子をコードする核酸配列の発現を制御するために使用される。一実施形態では、1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子(例えば、アデノウイルスヘルパー遺伝子については、E1A、E1B、E2A、E4及びVAの1つ以上を含む任意の組合せ)は、誘導性発現系の制御下にある。先に記載したように、E4タンパク質は細胞に細胞傷害性である可能性があると報告されている(Ferrariら、1996年、Journal of Virology 70: 3227~3234頁)。そのため、E4タンパク質の発現を制御できることが望ましい場合がある。同様に、E2Aの発現を制御して、リーキーなRep発現のイベントにおいて任意のrep/cap遺伝子増幅を緩和することが望ましい場合がある。さらなる実施形態では、Tet応答性プロモーターを使用して、ヘルパーウイルス遺伝子、例えばE2A、E4及びVAの1つ以上をコードする核酸配列の発現を制御する。
【0104】
一実施形態では、AAVベクタープロデューサー細胞株は、TetR遺伝子をコードする核酸配列をさらに含む。さらなる実施形態では、TetRはTetR-KRABである。TetR-KRABは、Deuschleら(1995年、Mol Cell Biol 15:1907~14頁)に最初に記載されたハイブリッドタンパク質であり、ここでは、ヒトKox1ジンクフィンガータンパク質由来のKruppel関連ボックス(KRAB)ドメインが、大腸菌のTn10由来のTetレプレッサーのC末端に融合される。このハイブリッドタンパク質は、転写開始部位から遠く離れたtetO部位に結合することによって遺伝子の発現をサイレンスさせることができる利点を有する。プロモーター活性は、テトラサイクリン又はその誘導体の投与時に回復され、それはTetR-KRABのtetO配列への結合を防ぐ。
【0105】
一実施形態では、リコンビナーゼ遺伝子及び/又は1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子をコードする核酸配列の発現の外因性制御は、「Tet-On」系によって提供される。この場合では、転写制御下の核酸配列の転写は、テトラサイクリン又はその誘導体の存在下で可逆的にオンにされる。そのような誘導性プロモーターは、ほとんどがCMV最初期プロモーターに基づく最小のプロモーターの上流のTetオペロン配列のアレイを含有する。Tetレプレッサータンパク質、例えばTetR-KRABも、AAVベクタープロデューサー細胞株において構成的に発現される必要がある。
【0106】
正常な細胞培養条件下で、Tet応答性プロモーターは、TetRレプレッサーによって結合される。ドキシサイクリンの細胞増殖培地への添加は、細胞が組換えAAVベクター産生を開始するのに妥当な密度の場合、TetRを不安定にし、リコンビナーゼ遺伝子の転写を可能とし、さらなる実施形態では、1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子も転写制御下にある。
【0107】
一実施形態では、プロモーターは、pCMV-TO2、polIIプロモーターである。pCMV-TO2は、2×Tetオペロン配列の上流にCMVエンハンサー及びプロモーターを含有する。
【0108】
宿主細胞ゲノムへと導入される核酸配列に関連する上記の実施形態も、本発明の核酸ベクターに含まれる核酸配列に適用可能であることは、当業者に理解される。
【0109】
方法
本発明の一態様によれば、安定なAAVベクタープロデューサー細胞株を産生する方法であって、
(a)本明細書に記載の核酸ベクターを哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、及び
(b)哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれたベクターにコードされた核酸配列を有する哺乳動物宿主細胞を培養物内で選択すること
を含む、方法が提供される。
【0110】
当業者は、宿主細胞へと核酸ベクターを導入することは、当技術分野で公知の好適な方法、例えば、脂質媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、細胞(例えばマイクロセル)融合、電気穿孔法又は微粒子銃を使用して実施することができることを知っている。一実施形態では、核酸ベクターは、エレクトロポレーションによって宿主細胞へと導入される。核酸ベクターを導入するのに使用するための方法の選択は、使用する哺乳動物宿主細胞の種類に応じて選択され得ることが理解される。
【0111】
当業者は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるYuanら(Yuanら(2011年) Hum. Gene Ther. 22:613頁)に開示されるAAVベクタープロデューサー細胞株を生成するため、先に概説したタンパク質をコードする組換え核酸配列を宿主細胞ゲノムへと組み込むための方法を知っている。
【0112】
本明細書で定義される核酸配列は、非哺乳動物の複製起点及び少なくとも25キロベース(kb)のDNAを保持する能力を含む単一核酸ベクターを使用して、哺乳動物宿主細胞へと導入される。
【0113】
本発明の一態様によれば、非哺乳動物の複製起点及び少なくとも25キロベース(kb)のDNAを保持する能力を含む核酸ベクターであって、前記核酸ベクターが、
AAV rep及びcap遺伝子、
ヘルパーウイルス遺伝子、並びに
AAVベクターのDNAゲノム
をコードする核酸配列を含むことを特徴とし、
rep遺伝子がイントロンを含み、前記イントロンが転写終結配列の上流に位置する第1の組換え部位及び下流に位置する第2の組換え部位を有する転写終結配列を含み、
AAV rep及びcap遺伝子、ヘルパーウイルス遺伝子のそれぞれ及びAAVベクターのDNAゲノムをコードする核酸配列が、核酸ベクター内に個々の発現カセットとして配置される、核酸ベクターが提供される。
【0114】
AAVベクターを生成する現在の方法は、1つ以上のウイルス遺伝子(パッケージング遺伝子又はヘルパーウイルス遺伝子)及び/又は導入遺伝子の宿主細胞への一時的なトランスフェクションを含む。しかしながら、コストがかかり、困難であるため、多くの不利益がこの方法と関連し、ラージスケールのAAVベクター産生に最適ではない。
【0115】
1つの解決策は、組換えAAVベクターの産生に必要なすべての遺伝子及び前記遺伝子、特にrep遺伝子の発現を制御するのに必要な遺伝子エレメント(先に概説したRep及びAAVヘルパー遺伝子発現を制御するための遺伝子エレメント)を安定に組み込むプロデューサー細胞株を操作し、治療用途のための組換えAAVのラージスケールでの臨床グレードの製造のために単純化した及びスケーラブルな方法を提供することである。しかしながら、そのようなプロデューサー細胞は当技術分野で利用可能ではない。
【0116】
核酸ベクターにすべての遺伝子及び調節エレメントを含むことによって、これらは1つの単一ステップで哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと挿入され、AAVベクタープロデューサー細胞を産生することができる。したがって、本明細書で提案されるように、核酸ベクターの使用によって、選択圧が低減され、サイレンシング時間枠が低減され、潜在的なプロデューサー細胞のより速いスクリーニングが可能となる。さらに、核酸ベクターに含まれるAAVベクター産生に必要とされる遺伝子はすべて、単一の遺伝子座において、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれ得る。これによって、個々のウイルス遺伝子がサイレンシングされるリスクが低減され、すべてのウイルス遺伝子が均等に発現されることが保証され得る。
【0117】
さらに、細胞に毒性であることが公知のRepタンパク質の発現、及び、いくつかの実施形態では、1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子の発現も制御することにより、パッケージング遺伝子(rep及びcap遺伝子)及びヘルパーウイルス遺伝子を安定に組み込むAAVベクタープロデューサー細胞株を確立することが可能であり、それはラージスケールのバイオリアクター内でAAVベクターを産生するのに必要な細胞密度に達することができるように正常な増殖率及び高い安定性を有する。
【0118】
核酸ベクター構築物が、異なる染色体の複数の異なる位置において(すべてのコードされた核酸配列が単一の遺伝子座に存在するにもかかわらず)、宿主細胞のゲノムに1回より多く組み込まれてもよいことが理解される。このことは、導入遺伝子の発現レベルを増加させるのに有利である場合があり、AAV力価を潜在的に改善させることができる。
【0119】
核酸ベクターは、組換えAAVベクターのDNAゲノムをコードする核酸配列を含む。この核酸配列が複製される場合、細胞によって産生されるAAVベクター内でカプシド形成され、したがってAAVベクターの「ゲノム」として働く。AAVベクターのDNAゲノムは通常、一時的トランスフェクション法に使用される「トランスファープラスミド」又は「トランスファーベクター」に含まれることが理解される。トランスファープラスミドは、一般的に、2つのAAVのITRの間で、導入遺伝子(及び、任意選択で、ポリアデニル化[ポリA]シグナル)に作動可能に連結したプロモーター(例えば、CMV)を含有する。したがって、本明細書で使用される「AAVベクターのDNAゲノム」への言及は、AAVのITRに隣接する核酸配列(通常は、目的の導入遺伝子をコードする)を指す。よって、一実施形態では、AAVベクターのDNAゲノムは、2つのAAVのITRの間にコードされた1つ以上の導入遺伝子を含む。
【0120】
一実施形態では、AAVベクターのDNAゲノム(すなわち、トランスファーベクター)の複数のコピーが、核酸ベクターに含まれる。トランスファーベクターの複数のコピーは、より高いウイルスベクター力価をもたらすことが期待される。例えば、核酸ベクターは、2つ以上、例えば、3、4、5、6、7、8、9又は10個以上のAAVベクターのDNAゲノム(すなわち、トランスファーベクター)のコピーを含んでもよい。
【0121】
核酸ベクターは、終結イントロンの組換え部位に加えて、1つ又は複数の組換え部位を含有し得る。これによって、標的配列が、リコンビナーゼ酵素の存在下で、部位特異的に哺乳動物宿主細胞の内因性染色体に組み込まれることを可能とする。リコンビナーゼ酵素は、2つの組換え部位の間の組換え反応を触媒する。一実施形態では、組換え部位は、att部位(例えば、ラムダファージ由来)であり、att部位は、ラムダインテグラーゼの存在下で、部位特異的組込みを可能とする。「ラムダインテグラーゼ」への言及は、int/att系と、やはり適合する突然変異インテグラーゼ、例えば、WO2002/097059に記載の修飾ラムダインテグラーゼについての言及を含むことが理解される。
【0122】
各核酸配列は、核酸ベクター内の個々の発現カセットとして配置される。当業者は、cap遺伝子が、rep及びcap遺伝子(すなわち、rep/cap遺伝子)が分離されず、単一の発現カセット内に存在するように、rep遺伝子内に位置するp40プロモーターから転写されることを理解する。
【0123】
一実施形態では、核酸ベクターは、核酸ベクター内に個々の発現カセットとして配置されたリコンビナーゼ遺伝子をコードする核酸配列をさらに含む。さらなる実施形態では、リコンビナーゼ遺伝子はCreリコンビナーゼ遺伝子である。Creリコンビナーゼ遺伝子は、コドン最適化され得る(iCre)。
【0124】
一実施形態では、核酸ベクターはリコンビナーゼ制御系をさらに含む。さらなる実施形態では、リコンビナーゼ制御系は、リコンビナーゼに作動可能に連結した誘導性プロモーター及び/又はステロイドホルモン受容体リガンド結合ドメインの制御下のリコンビナーゼ遺伝子を含む。さらなる実施形態では、ステロイドホルモン受容体のリガンド結合ドメインはエストロゲン受容体リガンド結合ドメイン(ER)である。一実施形態では、ERはリコンビナーゼ遺伝子の上流及び下流に作動可能に連結される(すなわち、リコンビナーゼ遺伝子は、ERに隣接する)。一実施形態では、ERはERT2である。
【0125】
一実施形態では、核酸ベクターは、クロマチンインスレーターなどのインスレーターを付加的に含む。用語「インスレーター」は、当技術分野で周知であり、それらの周辺環境から出現する不適当なシグナルから遺伝子を保護する一般的な能力を持つ、DNA配列エレメントのクラスを指す(Westら、2002年、Genes Dev 16:271~288頁)。さらなる実施形態では、インスレーター(例えばクロマチンインスレーター)は、各核酸配列の間に存在する。この文脈における核酸配列は、インスレーター配列が発現カセットの間に存在するように、発現カセット内の核酸配列を指す。一実施形態では、インスレーターは各発現カセットの間に存在する。
【0126】
宿主細胞ゲノムへと安定に組み込まれる大きな遺伝子構築物を作製する場合、インスレーター配列によって構築物の各エレメント(すなわち、発現カセット)を分離する必要があることが多い。一時的なトランスフェクション方法は、多重遺伝子ベクターによる主要な問題、すなわちタンデムなプロモーターからのプロモーター干渉をマスクする(Moriarityら(2013年) Nucleic Acids Res. 41:e92頁)。Moriarityらは、各発現エレメント間のcHS4インスレーター(2×cHS4)の2つのタンデムなコピーを含む、大きく安定な構築物を作製した。インスレーター配列は、トリβ様グロビン遺伝子クラスター由来の1.2kb cHS4エレメントである。DNAのこれらのストレッチは、強力なエンハンサーブロッカーとして作用し、プロモーター干渉を克服することが示された。理論にとらわれずに、cHS4の2つのタンデムなコピーは、クロマチン修飾宿主因子を補充することによりオープンクロマチン状態を維持するいくつかのタンパク質(CBP、CTCF及びUSF1)の結合部位を提供することによってプロモーター干渉を緩和すると考えられる(Yahataら(2007年) J. Mol. Biol. 374:580)。
【0127】
さらに、インスレーターエレメントはまた、宿主癌遺伝子のレベルを上げることもある宿主ゲノムへと導入されたエンハンサーエレメントから生じる問題を緩和する安全性の特徴として用いることができる。Rivellaら(Rivellaら(2000年) J Virol. 74: 4679頁)も、cHS4がレトロウイルスエンハンサー/プロモーターの上流に組み込まれた場合、組み込まれたレトロウイルスからの導入遺伝子発現が改善され、組み込まれたレトロウイルスのサイレンシングに関係があるとされる5'の長い末端反復配列のメチル化が減少することを示した。上記で概説した理由のため、したがって、安定なAAVベクタープロデューサーBAC構築物を作製する場合、各発現エレメント間にインスレーターを含むことは利点である。
【0128】
一実施形態では、インスレーターは、トリ(ニワトリ(Gallus gallus))HS4(cHS4)インスレーター配列(例えば、ゲノム受託番号U78775.2、塩基対1~1205を参照)と少なくとも90%の配列同一性、例えば、少なくとも95%の配列同一性を有する。さらなる実施形態では、インスレーターは、2つのタンデムなcHS4インスレーター配列(およそ2.4キロベース)、すなわち2×cHS4を含む。
【0129】
安定なAAVベクタープロデューサー構築物の各発現カセット(すなわち、先に概説したように、それぞれ、AAVベクタープロデューサー細胞株を生成するために必要な遺伝子をコードする核酸配列)を、2×cHS4エレメントと一緒にBACへと順次クローニングするため、エレメントと2×cHS4の両方をBACへと移入する前に、cHS4の隣に各エレメントのクローニングを可能とする、切断頻度の低い制限酵素部位の下流にcHS4を含有するドナープラスミドを作製することは役立つ。これを促進するため、発現カセット及び2×cHS4のクローニング部位はメガヌクレアーゼ部位、長い構築物でさえも、稀にしか出現しない長い認識配列を有する制限酵素の切断部位に隣接させることができる。メガヌクレアーゼ制限酵素I-SceI及びPI-PspIの制限部位は、それぞれ発現カセットの5'末端及び2×cHS4の3'末端において、ドナープラスミドに存在することができる。I-SceI及びPI-PspIは、適合性のオーバーハングを作製する。これは、各発現カセットをドナープラスミドへとクローニングすることを可能とし、Liuら(Liuら(2014年) PLoS One 9:e110852頁)に概説されるようにいわゆるiBrickクローニングによって、先のエレメント+cHS4の下流でBACへと、2×cHS4と一緒に順にクローニングされる。
【0130】
さらなる実施形態では、インスレーターは、各ヘルパーウイルス遺伝子(例えば、E1A、E1B、E2A、E4及び/若しくはVA、又はHEK293ベースのプロデューサー細胞において、E2A、E4及び/若しくはVA)の間に存在し得る。これは、隣接するウイルス核酸配列間のプロモーター干渉(すなわち、ある転写単位からのプロモーターが隣接する転写単位の発現を損なう場合)を防ぐ助けをする。理論にとらわれずに、これは、複製コンピテントウイルスを生じるウイルス配列間の組換えのリスクを最小限とする助けとなるとも考えられる。
【0131】
例えば、1つの例示的な実施形態では、核酸ベクターは以下のインサートを含む:CMVプロモーター及びIRESを含む選択マーカーに作動可能に連結したTetR-KRAB遺伝子、インスレーター(例えばクロマチンインスレーター)、CMVTO2プロモーターに作動可能に連結したアデノウイルスヘルパー遺伝子E2A、インスレーター(例えばクロマチンインスレーター)、CMVTO2プロモーターに作動可能に連結したアデノウイルスヘルパー遺伝子E4、インスレーター(例えばクロマチンインスレーター)、7 TetO配列、プロモーターに作動可能に連結したアデノウイルスヘルパー遺伝子VA、インスレーター(例えばクロマチンインスレーター)、LoxP部位に続いて転写ターミネーター配列に続いてハイグロマイシン遺伝子に続いてLoxP部位を含有するP19とP40プロモーターの間にイントロンを有するAAV rep及びcap遺伝子をコードする核酸配列、インスレーター(例えばクロマチンインスレーター)、CMVTO2プロモーターに作動可能に連結したCre又はERT2-Cre-ERT2をコードする核酸配列、インスレーター(例えばクロマチンインスレーター)、2つのAAV ITR間のプロモーターに作動可能に連結した導入遺伝子を含む核酸配列、及び複数のクローニング部位。核酸ベクターの例示的な実施形態は、
図5に概略的に提供される。
【0132】
一実施形態では、核酸ベクターは、バクテリア人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、P1由来人工染色体(PAC)、フォスミド又はコスミドから選択される。さらなる実施形態では、核酸ベクターは、バクテリア人工染色体(BAC)である。一実施形態では、核酸ベクターはプラスミドである。
【0133】
バクテリア人工染色体
用語「バクテリア人工染色体」又は「BAC」は、大きな外因性DNAインサートを保持することができるバクテリアプラスミド由来のDNA構築物を指す。これらは、通常およそ350kbの最大DNAインサートを保持することができる。BACは、バクテリアの細胞分裂後にプラスミドの均一な分布を促進する分配遺伝子を含有する、十分に特徴付けられたバクテリア機能的稔性プラスミド(Fプラスミド)から開発された。これは、BACが安定に複製し、内因性バクテリアゲノム(例えば、大腸菌)と共に分離することを可能とする。BACは、通常、少なくとも1コピーの複製起点(例えば、oriS又はoriV遺伝子)、repE遺伝子(プラスミド複製及びコピー数の調節のため)及びバクテリア細胞内でのBACの安定な維持を保証する分配遺伝子(例えば、sopA、sopB、parA、parB及び/又はparC)を含有する。BACは、通常、環状及びスーパーコイル型であり、これは、それらをYACなどの直鎖状人工染色体よりも回収容易とする。これらはまた、エレクトロポレーションなどの単純な方法を使用して、比較的容易にバクテリア宿主細胞へと導入することができる。
【0134】
一実施形態では、バクテリア人工染色体は、oriS遺伝子を含む。一実施形態では、バクテリア人工染色体は、repE遺伝子を含む。一実施形態では、バクテリア人工染色体は、分配遺伝子を含む。さらなる実施形態では、分配遺伝子は、sopA、sopB、parA、parB及び/又はparCから選択される。なおさらなる実施形態では、バクテリア人工染色体は、sopA及びsopB遺伝子を含む。
【0135】
本発明において使用するためのBACは、例えば、LUCIGEN(商標)(全長骨格配列については、ゲノム受託番号EU101022.1を参照のこと)からのpSMART BACなど、商業供給源から入手可能である。このBACは、L-アラビノース「コピーアップ」系を含有し、これはまた、TrfA複製タンパク質の存在下でのみ活性であるoriVミディアムコピーの複製起点も含有する。TrfAの遺伝子は、L-アラビノース誘導プロモーターaraC-PBADの制御下で、バクテリア宿主細胞のゲノムへと組み込むことできる(Wildら(2002) Genome Res. 12(9):1434~1444頁を参照のこと)。L-アラビノースの添加はTrfAの発現を誘導し、TrfAはoriVを活性化し、細胞当たり50コピーまでプラスミドを複製させる。
【0136】
酵母人工染色体
用語「酵母人工染色体」又は「YAC」は、酵母DNAがバクテリアプラスミドへと組み込まれている染色体を指す。それらは、自律的複製配列(ARS)(すなわち、複製起点)、セントロメア及びテロメアを含有する。BACと異なり、YACは直鎖状であり、したがって、宿主細胞後代に受け渡される際に、染色体の各末端に、その末端を分解から保護する酵母テロメアを含有する。YACは、100~2000kbであれば、ある範囲のDNA挿入サイズを保持することができる。
【0137】
P1由来人工染色体
用語「P1由来人工染色体」又は「PAC」は、P1バクテリオファージ及びバクテリアFプラスミドのDNAに由来するDNA構築物を指す。それらは、通常、およそ100~300kbの最大DNAインサートを保持することができ、大腸菌においてクローニングベクターとして使用される。PACは、精製及びバクテリア宿主細胞への導入が容易であるなど、BACと同様の利点を有する。
【0138】
コスミド及びフォスミド
用語「コスミド」は、バクテリオファージラムダに由来するcos部位を付加的に含有するバクテリアプラスミドに由来するDNA構築物を指す。コスミドは、一般的に、バクテリア複製起点(例えば、oriV)、選択マーカー、クローニング部位及び少なくとも1つのcos部位を含有する。コスミドは、通常、40~45kbの最大DNAインサートを受容することができる。コスミドは、大腸菌細胞感染において標準的なバクテリアプラスミドよりも効率的であることが示されている。用語「フォスミド」は、バクテリアFプラスミドに基づくこと以外は、コスミドと同様の非哺乳動物核酸ベクターを指す。特に、これらは、大きなDNA断片のクローニングを可能とするFプラスミド複製起点及び分配機序を使用する。フォスミドは、通常、40kbの最大DNAインサートを受容することができる。
【0139】
複製欠損AAVベクターをコードする核酸配列は、野生型遺伝子と同様であるか、又はそれに由来する、すなわち、配列は、野生型ウイルスに含有される配列の、遺伝的に又は他の方法による変更バージョンであり得る。したがって、核酸ベクター又は宿主細胞のゲノムへと組み込まれたウイルス遺伝子はまた、野生型遺伝子のコドン最適化バージョンを指し得る。
【0140】
核酸ベクターに関する実施形態は、AAVベクタープロデューサー細胞にも適用可能であることが当業者に理解される。例として、限定はされないが、宿主細胞ゲノムは、それに組み込まれた組換えAAVベクター産生のために必要な遺伝子をコードする核酸配列間にインスレーターを含み得る。
【0141】
一旦、哺乳動物宿主細胞へと形質導入されると、核酸ベクターは、哺乳動物宿主細胞の内因性ゲノムにランダムに組み込まれる。したがって、本方法は、核酸ベクターにコードされた核酸が組み込まれた哺乳動物宿主細胞を選択することを付加的に含む(例えば、ゼオシン耐性マーカーなどの抗生物質耐性選択マーカーを使用する)。
【0142】
当業者であれば、例えば、核酸ベクターが自然状態で環状であれば(例えば、BAC、PAC、コスミド又はフォスミド)、それを直鎖化するなど、核酸ベクターの組込みを促進する方法を認識する。核酸ベクターは、内因性ゲノム内の選択された部位に組込みをガイドするための、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体と相同性を共有する領域を付加的に含み得る。さらに、組換え部位が核酸ベクター上に存在すれば、これらは標的組換えに使用可能である。例えば、核酸ベクターは、Creリコンビナーゼと組み合わせた場合に(すなわち、P1バクテリオファージに由来するCre/lox系を使用する)、標的組込みを可能とするLoxP部位を含有し得る。あるいは(又はさらに)、組換え部位は、att部位(例えば、ラムダファージ由来)であり、このatt部位は、ラムダインテグラーゼの存在下での部位特異的組込みを可能とする。これは、ウイルス遺伝子が、内因性ゲノム内の遺伝子座に標的化されることを可能とする。
【0143】
標的化組込みの他の方法も当技術分野で周知である。例えば、選択された染色体遺伝子座での標的組換えを助長するために、ゲノムDNAの標的切断を誘導する方法を使用することができる。これらの方法は、多くの場合、非相同末端結合(NHEJ)若しくは修復テンプレート(すなわち、相同性特異的修復又はHDR)を使用する修復などの天然プロセスにより切断の修復を誘導するための内因性ゲノムの二重鎖切断(DSB)又はニックを誘導するための操作された切断系の使用を含む。
【0144】
切断は、特異的切断をガイドするためにCRISPR/Cas9系を、操作されたcrRNA/tracr RNA(「シングルガイドRNA」)と共に使用する、及び/又はアルゴノート系に基づくヌクレアーゼ(例えば、T.サーモフィラス(T. thermophilus)由来、「TtAgo」として知られる、Swartsら(2014) Nature 507(7491):258~261頁を参照されたい)を使用する、操作されたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)などの特異的ヌクレアーゼの使用を介して起こり得る。これらのヌクレアーゼ系のうちの1つを使用する標的切断は、HDR又はNHEJのいずれかにより媒介されるプロセスを使用して、特定の標的位置に核酸を挿入するために活用することができる。したがって、一実施形態では、本方法は、少なくとも1つのヌクレアーゼを使用して核酸ベクターにコードされた核酸配列を哺乳動物宿主細胞のゲノム(すなわち、内因性染色体)に組み込むことを付加的に含み、少なくとも1つのヌクレアーゼは、核酸配列が細胞のゲノムへと組み込まれるように、哺乳動物宿主細胞のゲノムを切断する。さらなる実施形態では、ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR/Casヌクレアーゼ系及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0145】
本発明の核酸ベクターの実施形態を、
図5に概略的に示す。
【0146】
付加的成分
一実施形態では、核酸ベクターは選択可能マーカーを含む。終結イントロンが選択可能マーカーを含む実施形態では、選択可能マーカーは終結イントロンの選択可能マーカーに加えて、異なる選択可能マーカーであり得る。選択可能マーカーは、核酸ベクター配列が組み込まれた細胞が選択されるのを可能とする。さらなる実施形態では、選択可能マーカーは、薬物耐性遺伝子、例えば、抗生物質耐性遺伝子、例えば、ゼオシン、カナマイシン又はピューロマイシン耐性遺伝子、特に、ゼオシン(ZeoR)耐性遺伝子である。なおさらなる実施形態では、ゼオシン耐性遺伝子は、ストレプトアロテイカス・ヒンダスタンス(Streptoalloteichus hindustans)のble遺伝子に由来し、例えば、ゲノム受託番号X52869.1の塩基対3~377を参照のこと。
【0147】
遺伝子増幅という自然現象は、細胞株によって産生される組換え産物の力価を増加させる方法として、生物製剤工業において活用されている。組換え遺伝子が、宿主細胞のゲノムへと組み込まれている場合、組換え遺伝子のコピー数及び付随して発現される組換えタンパク質の量は、組換え遺伝子が、宿主細胞のゲノムへと組み込まれた後に増幅した細胞株を選択することによって増加され得る。したがって、一実施形態では、選択可能マーカーは、増幅可能な選択マーカーである。
【0148】
遺伝子増幅は、宿主細胞を増幅可能な選択マーカー遺伝子により安定にトランスフェクトすることによって誘導されてもよい。安定にトランスフェクトされた宿主細胞は、増幅可能な選択マーカーを阻害することが知られている、濃度の増大した毒性薬物に供される。例えば、トランスフェクトされた細胞は、毒性薬物を含有する培地中で、親細胞(すなわち、トランスフェクトされていない細胞)をプレーティングした後3から5日以内に、細胞の死滅が98%より多くに達する濃度で毒性薬物を含有する培地中で培養されてもよい。このような阻害を介して、増幅可能な選択マーカーの発現レベルが増加し、結果として、用いられる濃度の薬物に対する耐性を有する細胞集団が選択され得る。
【0149】
上記のように、本明細書に開示の核酸ベクターは、その中に含有されるすべての発現カセット(すなわち、核酸ベクターDNA)が、宿主細胞ゲノム内の単一の遺伝子座に一緒に組み込まれるのを可能とする。遺伝子増幅のプロセスが、増幅可能な選択マーカー遺伝子及び周辺DNA配列の増幅を引き起こすため、組み込まれた核酸ベクターDNAにおける残りのDNA配列も増幅されることとなる。このようにして、宿主細胞のゲノムへと安定に組み込まれたウイルスベクター遺伝子の遺伝子増幅のためのプロセスを提供することが可能である。
【0150】
各増幅可能な選択マーカーは、増幅及び選択レジームの間に細胞培養培地に添加される関連する選択薬剤(すなわち、毒性薬物)を有する。好適な増幅可能な選択マーカー/選択薬剤の組合せとして、アデノシンデアミナーゼ/デオキシコホルマイシン、アスパラギン酸トランスカルバミラーゼ/N(ホスホアセチル)-L-アスパラギン酸、ジヒドロ葉酸レダクターゼ/メトトレキサート、グルタミン合成酵素/メチオニンスルホキシミン、メタロチオネイン-I/重金属が挙げられる。
【0151】
一実施形態では、増幅可能な選択マーカー遺伝子及び/又は選択可能マーカーは、発現カセット内に提供される。
【0152】
一実施形態では、増幅可能な選択マーカーは、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)である。DHFR選択方法は、dhfr遺伝子(増幅可能な選択マーカー遺伝子)を核酸ベクターに組み込み、それによって、DHFR選択圧を核酸ベクター内の他の発現カセットに誘導することが関与する。宿主細胞を、核酸ベクターによりトランスフェクトし、DHFR阻害剤であるメトトレキサート(MTX)の濃度を増加させながら増殖させて、宿主ゲノムへと組み込まれたdhfr遺伝子、及びそれに付随して、残りの組み込まれた核酸ベクターDNAを増幅した細胞を選択する。
【0153】
一実施形態では、dhfr遺伝子は、ゲノム受託番号NM_010049.3に対して少なくとも60%の配列同一性、例えば、少なくとも70%、80%、90%又は100%の配列同一性を含む。
【0154】
別の実施形態では、増幅可能な選択マーカーは、グルタミン合成酵素(GS)である。GS選択方法は、gs遺伝子を核酸ベクターに組み込み、それによって、GS選択圧を核酸ベクター内の他の発現カセットに誘導することが関与する。宿主細胞を、核酸ベクターによりトランスフェクトし、GS阻害剤であるメチオニンスルホキシミン(MSX)の濃度を増加させながら増殖させて、宿主ゲノムへと組み込まれたgs遺伝子及び、それに付随して、残りの組み込まれた核酸ベクターDNAを増幅した細胞を選択する。
【0155】
gs遺伝子の核酸配列を含む発現構築物は、当技術分野で公知のgs遺伝子をコードする発現構築物の核酸配列を含有してもよい(例えば、それに含まれる配列が参照により本明細書に組み込まれる、WO874462)。
【0156】
このようにして、増幅可能な選択マーカー及び関連する選択薬剤を使用することによって、関連する薬剤の新たな(増加した)濃度で増殖する細胞の選択を可能とする培養期間の後、選択圧を保有するゲノム領域が増幅し、それによって、増幅可能な選択マーカーのコピー数が増加する。結果として、ウイルス遺伝子を含む核酸ベクターの発現カセットが、増幅可能な選択マーカー遺伝子を含む発現カセットと一緒に、単一の遺伝子座において宿主ゲノムへと組み込まれると、これらの発現カセットも増幅される。したがって、このような増幅及び選択の繰り返しによって増殖する細胞株が、次いで、力価/収率に関してスクリーニングされ、最も優れたクローンが、AAVベクターの次の産生のために選択される。
【0157】
好ましい実施形態では、宿主細胞は、増幅可能な選択マーカーに対して陰性である。すなわち、宿主細胞の内因性染色体は、内因性の増幅可能な選択マーカー遺伝子を含まない。例えば、増幅可能な選択マーカーとしてDHFRを使用する場合、DHFR-陰性宿主株、例えば、CHO DG44又はCHO DUX-B11を用いることが好ましい。
【0158】
しかし、本発明は、特定の宿主細胞株の選択に限定されない。急速な増殖速度を有し(すなわち、12時間以下の倍加時間)、同様か又はそれより速い速度で内因性の増幅可能な選択マーカー遺伝子を増幅させることなく、合理的な速度で増幅可能な選択マーカーを増幅させることができる任意の細胞株を、本発明の方法において使用することができる。
【0159】
優性マーカー(すなわち、外因性の増幅可能な選択マーカー)で形質転換した細胞株を、選択薬剤の濃度を増加させても増殖する細胞の能力が、増幅可能な選択マーカーのコピー数の増加と相関することを決定することによって特定する(これは、サザンブロッティングによって増幅可能なマーカーのコピー数の増加を実証することによって直接的に、又はノーザンブロッティング、若しくはqPCRによって増幅可能なマーカーから生じるmRNAの量の増加を実証することによって間接的に測定することができる)。
【0160】
宿主細胞が内因性の増幅可能な選択マーカー遺伝子を含む場合、核酸ベクターは、増幅可能な選択マーカーに加えて、選択マーカーをコードする核酸配列をさらに含んでもよい。これによって、関連する選択薬剤による選択の間の内因性の増幅可能な選択マーカー遺伝子の増幅の問題が回避される。宿主細胞は、選択可能マーカーと同様に、増幅可能な選択マーカーを含む核酸ベクターによりトランスフェクトされる。トランスフェクトされた宿主細胞は、まず、選択可能マーカーの抗生物質、例えば、ゼオシン又はハイグロマイシンpの下で増殖する能力について選択される。次いで、細胞は、選択薬剤、例えば、MTXの濃度を増加させても増殖する能力について選択される。
【0161】
一実施形態では、核酸ベクターは、終結イントロンに存在するポリAシグナルに加えてポリAシグナルを含む。ポリAシグナルの使用は、mRNAを酵素分解から保護し、翻訳を補助するという利点を有する。さらなる実施形態では、ポリAシグナルは、SV40、ウシ成長ホルモン及び/又はヒトベータグロビンから得られるか又はそれに由来する。一実施形態では、ポリAシグナルは、SV40初期ポリAシグナルに由来する(例えば、ゲノム受託番号EF579804.1、マイナス鎖からの塩基対2668から2538を参照のこと)。一実施形態では、ポリAシグナルは、ヒトベータグロビンポリAシグナルに由来する(例えば、ゲノム受託番号GU324922.1、塩基対3394から4162を参照のこと)。
【0162】
一実施形態では、核酸ベクターは、終結イントロンに加えてイントロン配列を付加的に含む。エンハンサー/プロモーター領域の下流並びにcDNAインサート(すなわち、導入遺伝子)の上流のイントロンの使用によって、インサートの発現レベルが増加することが知られている。さらなる実施形態では、イントロン配列は、ヒトベータグロビンイントロン又はウサギベータグロビンイントロンIIの配列である。一実施形態では、ヒトベータグロビンイントロンは、ゲノム受託番号KM504957.1(例えば、塩基対476から1393)で取得可能な配列に由来する。一実施形態では、ウサギベータグロビンイントロンIIは、ゲノム受託番号V00882.1(例えば、塩基対718から1290)で取得可能な配列に由来する。
【0163】
一実施形態では、核酸ベクターは、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節因子(WPRE)を付加的に含む。WPREの存在によって、発現が増強され、それ自体、高レベルの発現を達成するのに有益である傾向があることが示された。さらなる実施形態では、WPREは、ゲノム受託番号J04514.1(例えば、塩基対1093から1684)で取得可能な配列に由来する。
【0164】
一実施形態では、核酸ベクターは、配列内リボソーム進入部位(IRES)を付加的に含む。IRESは、末端非依存的方式における翻訳開始を可能とする。IRESは、通常、5'-capの下流(開始複合体のアセンブリーに必要とされる)で、ウイルスの5'-非翻訳領域(UTR)に見られる構造RNAエレメントである。IRESは、翻訳開始因子によって認識され、cap非依存性翻訳を可能とする。さらなる実施形態では、IRESは、脳心筋炎ウイルス(Encephalomyocarditis virus)(EMCV)ゲノム(例えば、ゲノム受託番号KF836387.1、塩基対151~724を参照のこと)に由来する。
【0165】
一実施形態では、核酸ベクターは、多重クローニング部位(MCS)を付加的に含む。MCSは、多重制限部位(例えば、10、15又は20部位)を含有する核酸ベクター内の短いDNAセグメントである。これらの部位は、通常、エンドヌクレアーゼが一箇所でのみ切断することを保証するために核酸ベクター内に一個しか存在しない。これは、ウイルス遺伝子が適切なエンドヌクレアーゼ(すなわち、制限酵素)を使用して容易に挿入されることを可能とする。
【0166】
発現カセットが核酸ベクター内に任意の順序で配置されていてもよいことが当業者に理解される。
【0167】
核酸配列は、順次、核酸ベクターへと導入され得る。これによって、必要とされる核酸配列のすべてが、核酸ベクターへと組み込まれることに成功することを保証するための、各組込み後の選択を可能とする。あるいは、少なくとも2つ以上の核酸配列が、同時に、核酸ベクターへと導入される。
【0168】
本明細書に記載の追加の遺伝子は、当技術分野で公知の標準的分子クローニング技法によって、例えば、制限エンドヌクレアーゼ及びライゲーション技法を使用して、核酸ベクターへと導入され得ることが理解される。さらに、核酸ベクター、特に、BAC、PAC、フォスミド及び/又はコスミドは、標準的技法、例えば、エレクトロポレーションによって、バクテリア宿主細胞(例えば、大腸菌細胞、特に大腸菌株DH10B)へと導入され得る。
【0169】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書で定義される方法によって得られるAAVベクタープロデューサー細胞が提供される。
【0170】
本明細書で定義される方法を使用して得られる細胞株は、高力価のAAVベクターを産生するために使用することができる。ウイルス力価は、AAV粒子のゲノムコピー数を与える定量的PCR(qPCR)によって、及び感染ウイルス力価のTCID50測定をもたらすELISAによって測定することができる。2つの測定値を比較することによって、AAVバッチの形質導入の効率を決定することができる。
【0171】
本明細書で用語「高力価」についての言及は、患者細胞などの標的細胞に形質導入できるAAVベクターの有効量を指す。一実施形態では、高力価は、濃縮せずに106TU/ml(TU=形質導入単位)を超えるものである。
【0172】
一実施形態では、本明細書で定義される方法はスケーラブルであるため、培養培地の任意の所望の体積、例えば10ml(例えば、振盪フラスコ内)から10L、50L、100L、又はそれより多く(例えば、バイオリアクター、例えばウェーブバイオリアクター系及び撹拌タンク)で実行することができる。
【0173】
本発明のさらなる態様によれば、複製欠損AAVベクターを産生する方法であって、
(a)本明細書に記載される核酸ベクターを哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、及び
(b)培養物内で、ベクターにコードされた核酸配列が哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれた哺乳動物宿主細胞を選択すること、及び
(c)選択された哺乳動物宿主細胞を複製欠損AAVベクターが産生される条件下でさらに培養すること
を含む、方法が提供される。
【0174】
本明細書に記載の方法において使用される条件は、使用される宿主細胞によることが当業者によって理解される。典型的な条件、例えば、使用される培養培地又は温度は、当技術分野で周知である。一実施形態では、培養は、哺乳動物宿主細胞を加湿条件下でインキュベートすることによって実施される。さらなる実施形態では、加湿条件は、トランスフェクト細胞を37℃で、5%CO2にてインキュベートすることを含む。一実施形態では、培養は、10%(vol/vol)ウシ胎仔血清(FBS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、無血清UltraCULTURE(商標)培地(Lonza、カタログ番号12-725F)、又はFreeStyle(商標)Expression培地(Thermo Fisher、カタログ番号12338 018)から選択される培養培地を使用して実施される。
【0175】
適切な培養方法は、当業者に周知である。例えば、細胞は、懸濁液中及び/又は動物成分不含条件で培養することができる。一実施形態では、細胞は、培養培地の任意の体積、10ml(例えば、振盪フラスコ内で)から10L、50L、100L、又はそれより多く(例えば、バイオリアクター内で)で培養するのに好適である。
【0176】
本明細書に記載されるように、特許請求される発明の使用によって、プラスミドの製造コストが削減され、トランスフェクション試薬(例えば、ポリエチレンイミン[PEI])の必要性が低減され、必要とされるBenzonase処理の量が削減され(ウイルス収穫物中のDNAの量が低減するので、下流処理で余分なものを除去するために必要なBenzonaseが少なくなる)、検査コストが削減される(ウイルス産物中の残留プラスミドを検査する必要がなくなる)。これらの利点はすべて、本発明の態様として考慮され得る。
【0177】
一実施形態では、本方法は、複製欠損AAVベクターを単離することを付加的に含む。例えば、一実施形態では、単離は、フィルターを使用することによって実施される。さらなる実施形態では、フィルターは、低タンパク質結合膜(例えば、0.22μm低タンパク質結合膜又は0.45μm低タンパク質結合膜)、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はポリエーテルスルホン(PES)人工膜である。
【0178】
一旦、哺乳動物宿主細胞内にあれば、核酸ベクターに存在する核酸配列は、内因性ゲノム内の無作為な位置に組み込まれ得る。組込みステップは、本明細書の以上に記載されるように、例えば、直鎖化及び/又は共通相同性領域を使用して助長され得る。組換え部位もまた、標的化組換えのために使用され得る。
【0179】
標的遺伝子が抗生物質耐性遺伝子などの選択マーカーと共に内因性染色体に組み込まれる場合、本方法は、ウイルス核酸が組み込まれるのに成功した哺乳動物宿主細胞を選択することを付加的に含み得る。
【0180】
一旦単離されると、AAVベクターは、インビボ適用のために濃縮され得る。濃縮方法として、例えば、超遠心分離、沈降又は陰イオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。超遠心分離は、小規模でのAAVベクター濃縮のための迅速法として有用である。あるいは、陰イオン交換クロマトグラフィー(例えば、Mustang Q陰イオン交換膜カートリッジを使用する)又は沈降(例えば、PEG 6000を使用する)は、大容量のAAVベクター上清を処理するために得に有用である。
【0181】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書で定義される方法によって得られる複製欠損AAVベクターが提供される。
【0182】
本明細書に記載の方法において使用される核酸ベクターの実施形態は、AAVベクタープロデューサー細胞の実施形態としてもとられ、実施形態が、それぞれの方法によってAAVベクタープロデューサー細胞の宿主ゲノムへと組み込まれる核酸ベクターの特徴に関する限り逆もまた真であることが注意される。
【0183】
以下、本発明を下記の限定されない例を参照してさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0184】
[実施例1]
AAVベクター産生に使用される標準的なパッケージングプラスミド(rep及びcap遺伝子)、ヘルパーウイルスプラスミド(E2A、E4及びVA遺伝子)及びトランスファーベクタープラスミド(組換えAAVベクターのDNAゲノムをコードする、ITR配列に隣接する導入遺伝子)に以下の修飾を行った。
【0185】
LoxP部位に隣接した転写終結配列を含有する終結イントロンの設計
インシリコで3つのSV40ポリA配列を再現するため、初期ポリA配列を完全SV40ゲノム(受託番号J02400.1)からコピーし、3つのコピーをタンデムにライゲーションした。
【0186】
HSV TKプロモーター配列は、ハイグロマイシン耐性遺伝子配列(GenBank受託番号U40398.1)の上流に置いた。HSV TKプロモーター及びハイグロマイシン耐性遺伝子は、3つのSV40ポリA配列の下流に置いた。
【0187】
LoxP部位の配列は、Qiaoら(2002年、Journal of Virology 76: 13015~13027頁)から直接取った。この配列は、3×ポリA-HygR断片の5'末端及び3'末端に貼り付けられ、同じ方向で転写ターミネーターに隣接するLoxP部位をもたらす。
【0188】
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)イントロン1配列は、hCG遺伝子5ベータサブユニット(受託番号X00265.1)から得た。LoxPに隣接した3×SV40ポリA-HygR配列をhCGイントロンの196塩基目に挿入した。全終結イントロン配列の長さは3120bpであった。
【0189】
終結イントロンのAAV rep遺伝子へのクローニング
終結イントロンは、rep2cap2及びrep2cap5発現プラスミドへと、野生型AAV2ゲノム配列(GenBank受託番号:J01901)と比較して1022位に挿入した。これは、プロモーターP19の下流のrep遺伝子内である。この位置は、(AAG/G)へと挿入されるイントロンのコンセンサススプライスドナー/アクセプター配列を含有する。
【0190】
コドン最適化Cre(iCre)配列の設計
iCreと名付けられたCreのコドン改善バリアントは、Shimshekら(2002年Genesis 32: 19~26頁)によって設計され、CV1-5B細胞へと一時的にトランスフェクトした場合に野生型Creと比較して、「floxed」終止コドンを含有するLacZのほぼ2×のβガラクトシダーゼ活性を回復することが示された(Casanovaら、2002年Genesis 34: 208~14頁)。
【0191】
Cre配列は、GenBank受託番号DQ023272から得た。iCre配列はGenBank受託番号AY056050から得た。
【0192】
Tet誘導性発現のための遺伝子のCMV-TO2プロモーターのクローニング
Rep発現の調節に加えて、これらも同様に細胞に毒性である可能性があるため、BACにおいてアデノウイルス2ヘルパー遺伝子(HEK293細胞でE2A、E4及びVA)の発現を調節する必要もあり得る(Ferrariら、1996年、Journal Of Virology 70: 3227~3234頁)。したがって、E2A DNA結合タンパク質コード領域及び6個すべてのE4 ORFを含有するE4領域を、PCMV-TO2の下流にそれぞれクローニングした。しかしながら、PolIIIプロモーターから転写されるVAは、PCMV-TO2の下流に置かれた場合、正確に転写されないであろう。したがって、いくつかのTetO配列はネイティブVAプロモーターの上流に置かれ、これらの部位へのTetR-KRABの結合はドキシサイクリンの非存在下では転写を阻害し得る。
【0193】
したがって、CMV-TO2プロモーターを、Gibsonアセンブリーを使用して個々にCre、iCre、ERT2-Cre-ERT2、ERT2-iCre-ERT2、アデノウイルス2 E2A、及びE4の上流にクローニングした。さらに、7×TetO配列を、Gibsonアセンブリーを使用してアデノウイルス2 VAの上流にクローニングした。
【0194】
TetR-KRABの設計
Creの発現は条件プロモーター(PCMV-TO2)の制御下にあり、通常の細胞条件下でそれは転写レプレッサーTetR-KRABによって結合される。細胞増殖培地へのドキシサイクリンの添加は、細胞がrAAV産生を開始するのに妥当な密度である場合、TetR-KRABレプレッサーを不安定にし、Cre遺伝子の転写を可能とする。続いて、CreリコンビナーゼはAAV rep遺伝子の組換えイントロンにおいてLoxPに隣接する転写ターミネーターをスプライスアウトし、rep遺伝子の転写を可能とする。この系は、Repが培地へのドキシサイクリンの添加時にのみ細胞において発現され、AAVベクター産生に好適な必要とされる密度に達するまで細胞への毒性を緩和することを意味する。
【0195】
ヒトKox1遺伝子由来のKRABドメインをコードする配列を、Gibsonアセンブリーによってコドン最適化TetR遺伝子の3'末端にクローニングして、PCMVプロモーターの制御下にあるTetR遺伝子をTetR-KRAB遺伝子へと変換する。
【0196】
タモキシフェン調節ERT2Cre/iCreERT2の設計
Tet条件発現系の制御下での任意のリーキーなCre発現は、依然として組換えAAV rep遺伝子から転写ターミネーターを効果的に除去することができ、培養における安定な細胞の生存率を低減させる。したがって、これに対する保護として、Casanovaら(2002年、Genesis 34: 208~214頁)に記載のように、ERT2ドメインと隣接させることによりCre遺伝子を修飾することによってCreリコンビナーゼ制御のさらなる層を追加した。タンパク質のN末端及びC末端のこれらのERT2ドメインは、4-ヒドロキシ-タモキシフェンが細胞培養培地に添加されるまで、Creが核に侵入するのを阻害し、転写レベルでの任意のリーキーな発現の効果を除くことができるタンパク質レベルでCre活性に対する制御レベルを与える。
【0197】
ERT2ドメイン配列(Wagner J、Metzger D、Chambon P (1997年) Biochem Biophys Res Commun 237:752~757頁)を、Gibsonアセンブリーを使用してCMVTO2条件プロモーターの下流で、Cre及びiCre遺伝子の5'末端及び3'末端にクローニングした。
【0198】
[実施例2]
rep遺伝子から終結イントロンを除去するCreの能力を試験する一時的なトランスフェクション方法
すべてLoxP部位に隣接する3個のSV40ポリA転写終結部位及びハイグロマイシン耐性遺伝子を含有する終結イントロンを、上記のように本発明者らのrep2/cap2及びrep2/cap5発現プラスミドにおいてP19プロモーターの下流のAAV2 rep配列へと挿入した。終結イントロンは、Creも細胞で発現されない限り、これらのプラスミドによってトランスフェクトした細胞におけるRepタンパク質の発現を阻害し得る。Cre発現プラスミドのコトランスフェクションは、2つのLoxP部位を組み換え、転写ターミネーターをスプライスアウトし、RNAポリメラーゼが残りのイントロンをリードスルーすることを可能とする。いくつかのプラスミドが前もって構築され、様々なCreバリアント(野生型Cre、iCre、ERT2-Cre-ERT2及びERT2-iCre-ERT2)がCMVTO2プロモーターの下流にクローニングされ、Tetレプレッサータンパク質の非存在下で細胞において構成的に活性である。Creタンパク質に隣接するERT2も、それらの核への侵入を可能とするリガンドとして作用する4-ヒドロキシ-タモキシフェンを必要とする。
【0199】
組換えrepイントロンに存在する終結イントロンの能力を、それらのRepタンパク質の産生を停止する能力について試験した。さらに、様々なCre発現プラスミドを、それらがコトランスフェクトされる細胞においてRep発現を回復するそれらの能力について試験した。
【0200】
接着HEK293細胞を、TrypLE Expressによって脱凝集させ、DMEM+10% FCS中に再懸濁し、NucleoCounter NC-250を使用して計数し、2×10
5細胞/mlに希釈した。細胞を24ウェルプレートにウェル当たり1mlで播種し、37℃で終夜インキュベートした。次の日、24ウェルプレートの細胞は、サブコンフルエントであった。ウェルの細胞を、以下に列挙したプラスミドの組合せ(
図1及び2を参照して)でコトランスフェクトし、各プラスミドは0.5μg/ウェルで使用した。使用する場合、4-ヒドロキシタモキシフェンは1μMで細胞増殖培地に添加した(エタノールで溶解した1mMストックの1:1000希釈)。
【0201】
図1
1. pG.AAV2.R2C2 + pG3.Ad2ヘルパー
2. pG.AAV2.R2C2-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー
3. pG.AAV2.R2C2-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー + pG3.CMVTO2-Cre
4. pG.AAV2.R2C2-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー + pG3.CMVTO2-iCre
5. pG.AAV2.R2C2-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー + pG3.CMVTO2-ERT2-Cre-ERT2
6. pG.AAV2.R2C2-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー + pG3.CMVTO2-ERT2-iCre-ERT2
7. pG.AAV2.R2C2-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー + pG3.CMVTO2-ERT2-Cre-ERT2 + 4-ヒドロキシタモキシフェン
8. pG.AAV2.R2C2-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー + pG3.CMVTO2-ERT2-iCre-ERT2 + 4-ヒドロキシタモキシフェン
9. pG.AAV2.R2C2-hCGイントロン 3x pA Hyg(陰性対照)
10. pG3.Ad2 Helper GSK(陰性対照)
11. pG.AAV2.R2C2-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー GSK + pG3.CMVTO2-Cre + 1μM 4-ヒドロキシタモキシフェン(ERT2の非存在下で、4-ヒドロキシタモキシフェンが任意の作用を有する場合)
12. 非トランスフェクト細胞
【0202】
図2
1. pG2.AAV5.R2C5 + pG3.Ad2ヘルパー
2. pG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー
3. pG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー + pG3.CMVTO2-Cre
4. pG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー + pG3.CMVTO2-iCre
5. pG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー + pG3.CMVTO2-ERT2-Cre-ERT2
6. pG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー + pG3.CMVTO2-ERT2-iCre-ERT2
7. pG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー + pG3.CMVTO2-ERT2-Cre-ERT2 + 4-ヒドロキシタモキシフェン
8. pG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン 3x pA Hyg + pG3.Ad2ヘルパー + pG3.CMVTO2-ERT2-iCre-ERT2 + 4-ヒドロキシタモキシフェン
9. pG3.Ad2ヘルパー
10. pG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン 3x pA Hyg (陰性対照)
11. pG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン 3x pA Hyg + 1μM 4-ヒドロキシタモキシフェン(陰性対照)
12. 非トランスフェクト細胞
【0203】
プラスミドはすべて、75μlのOPTI MEMを含有するチューブに添加した。各チューブに、さらに2μlのPEI Proを含有する75μlのOPTI MEMを添加した。トランスフェクションミックスを含有するチューブは、短くボルテックスすることによって混合し、室温で10分間インキュベートした。この後、増殖培地を24ウェルプレートの細胞から除去し、それぞれ150μlのトランスフェクションミックスと置き換えた。10分間のインキュベーション後、ウェルを1mlのDMEM+10% FCSで満たし、プレートを37℃で24時間インキュベートした。次の日、トランスフェクトした細胞を含有するウェルから培地を除去し、ウェル当たり300μlの1×Halt(商標)プロテアーゼ阻害剤を含有するM-PER哺乳動物タンパク質抽出試薬の添加により細胞を溶解し、上下にピペッティングした。次いで、チューブを14,000gで5分間スピンして、細胞残屑を除去し、溶解液を新しいチューブに移した。各試料の総タンパク質濃度は、Pierce BCAタンパク質アッセイキットを使用して決定した。BSA標準曲線は、キットのマニュアルに記載のように設定した。25μlの容積の各標準及び試料を平底96ウェルプレートに三連で添加し、200μlのBCA作用試薬を各ウェルに添加した。プレートを37℃で30分間インキュベートし、次いでFlexStation3を使用して562nmの波長で吸光度を測定した。試料はすべて、M-PER溶解緩衝液を使用して0.25mg/mlの濃度に標準化した。
【0204】
試料は、Peggy Sueサイズプロトコールを使用して実行のために調製した。Standard Pack 1から再構成した容積1μlの蛍光マスターミックスをエッペンドルフチューブ内の4μlの各試料へと添加した。次いで、Standard Pack 1からの試料及びビオチン化ラダーをボルテックスし、95℃で5分間加熱することによって変性させた。次いで試料をスピンダウンし、氷上に置いた。αAAV Rep一次抗体(1:100希釈)とαβアクチン一次抗体(1:500希釈)をAntibody Diluent 2中で合わせた。試料、抗体、ルミノール/ペルオキシドミックス、一次及び二次抗体(αマウス、used neat)、ストレプトアビジン-HRP、並びに分離及びスタッキングしたマトリクスをPeggy及びSally Sue 12~230kDa分離キットからのプレートに積載した。
【0205】
技術的な困難により、週末にかけてプレートを4℃で保存する必要があり、Peggy Sueで次の月曜日から実行した。プレートを蓋のあるPeggy Sueにマウントし、各試料及び試薬の位置をSWソフトウェアのCompassに入力した。Peggy及びSally Sue 12~230kDa分離キットからのキャピラリーの新しいセットをインストールし、次いでPeggy Sueを終夜実行した。
【0206】
予測されるように、Ad2ヘルパープラスミドとrep2/cap2又はrep2/cap5発現プラスミドのいずれかをコトランスフェクトした細胞の溶解物において、Rep2の4個すべてのスプライスバリアントを検出した。Ad2ヘルパープラスミドとpG.AAV2.R2C2-hCGイントロン3×pA Hyg又はpG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン3×pA Hygのいずれかをコトランスフェクトした細胞の溶解物は、いずれの検出可能なRep2タンパク質も含有しなかった。それらは、βアクチンのバンドを含有せず、これがPeggy Sueのキャピラリーの失敗によらなかったことを示した。これは、LoxP隣接3×SV40ポリA転写ターミネーター及びrepのP19プロモーターの下流にハイグロマイシン耐性遺伝子を含有するイントロンが、Repの発現の阻害に有効であることを示す。
【0207】
Ad2ヘルパープラスミドとpG.AAV2.R2C2-hCGイントロン3×pA Hyg又はpG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン3×pA Hygのいずれかを、Cre又はiCre発現プラスミドのいずれかと一緒にコトランスフェクトした細胞の溶解物は、高レベルのRep2タンパク質を含有した。これは、LoxP部位でのCre組換えによる、repのP19の下流のhCGイントロンからの3×SV40ポリA転写ターミネーター及びハイグロマイシン耐性遺伝子の除去が、発現を回復したことを示す。各場合では、iCre発現プラスミドは、野生型Cre発現プラスミドよりもRep2発現回復時にわずかに有効であるようだった。
【0208】
Ad2ヘルパープラスミドとpG.AAV2.R2C2-hCGイントロン3×pA Hyg又はpG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン3×pA Hygのいずれかを、4-ヒドロキシタモキシフェンの非存在下で、ERT2-Cre-ERT2又はERT2-iCre-ERT2発現プラスミドのいずれかと一緒にコトランスフェクトした細胞の溶解物は、痕跡量のRep2タンパク質のみを発現した。これは、細胞においてそのような高レベルである可能性があるERT2隣接Creタンパク質の残存する活性によると考えられ、したがって少量がリガンドの非存在下で細胞核に入り、rep2のイントロンから転写ターミネーターを切断することができる。あるいは、DMEM細胞培養培地中のフェノールレッドは、弱いエストロゲン受容体リガンドとして作用し得る。増殖培地中に1μMの4-ヒドロキシタモキシフェンの存在下で、これらのプラスミドでトランスフェクトした細胞は、Cre及びiCre発現プラスミドでトランスフェクトした細胞と類似したRep2発現レベルを有した。したがって、4-ヒドロキシタモキシフェンの添加は、ERT2-隣接Creタンパク質への完全なCre活性を回復した。各場合では、ERT2-iCre-ERT2を発現するプラスミドでトランスフェクトした細胞は、4-ヒドロキシタモキシフェンの非存在下でより低い残りのRep2発現を有し、EET2-Cre-ERT2でトランスフェクトした細胞より、4-ヒドロキシタモキシフェンの存在下でより高レベルのRep2発現を有した。
【0209】
Rep2は、陰性の非トランスフェクト細胞の溶解物では検出されなかった。βアクチン抗体は、積載は完全に等しくはなかったが、Rep2発現のいずれの非存在もキャピラリーの失敗によらなかったことを示すのに十分良好であったことを示した。溶解物がRep2を含有するキャピラリーでは、より低いRep2スプライスバリアントがβアクチンシグナルを不明瞭にした。
【0210】
この実験は、AAV2 rep遺伝子へとクローニングした終結イントロンのLoxP隣接転写ターミネーターが、Rep2発現の阻害に有効であり、細胞におけるCre活性はこのRep2発現を回復できることを示す。この実験はまた、ERT2-隣接Creタンパク質の活性は4-ヒドロキシタモキシフェン次第であるが、それらはこのリガンドの非存在下では低レベルの残効性を有したことを示した。また、コドン改善iCreは、野生型Creよりもわずかに高いRep2発現を回復した。
【0211】
この組換えrep遺伝子を含有する安定にトランスフェクトした細胞株は、Cre発現が活性化されるまでRepを発現しないであろう。したがって、Cre遺伝子は条件プロモーターの制御下で、Rep発現のスイッチをオンにし、AAVベクター産生を開始するために使用することができ、一旦細胞がバイオリアクター内で最適な密度に達すると、それらがその時点に達するまでRep発現と関連する毒性を緩和する。
【0212】
[実施例3]
AAVベクター産生を維持する条件プロモーターを有するアデノウイルス2ヘルパー遺伝子の能力を決定する、及びCre依存性rep/capが機能的AAVベクターを産生することができるかどうか決定する試験
アデノウイルス2 E2A及びE4遺伝子のネイティブプロモーターが条件プロモーターCMV-TO2と置き換えられた組換えAAVベクター産生のために、安定なBAC構築物を設計及び構築した。BACは、構成的プロモーターPCMVの下流にDOX感受性「tet-on」転写抑制遺伝子TetR-KRABも有する。この構築物でトランスフェクトした細胞は、E2A及びE4 ORFの上流にCMVTO2プロモーターを結合するTetR-KRABを構成的に発現し、ドキシサイクリンが細胞増殖培地に添加されるまでそれらの転写を遮断する。TetR-KRABも、Tetオペロン配列の近くに結合することによってPol.IIIプロモーターからの転写をブロッキングすることができ、7個のTetオペロンがネイティブPol.IIIプロモーターのVAの上流に置かれ、通常の条件下でこの機能的RNAの発現も遮断され得る。
【0213】
E2A及びE4の内因性プロモーターの置換がそれらの発現を崩壊させ、したがってベクター産生の間に細胞においてAAV Rep及びCapタンパク質にヘルパー機能を提供するそれらの能力を阻害するかどうかは知られていなかった。
【0214】
すべてのAd2ヘルパー遺伝子がそれらの内因性プロモーター(BAC6)を保持する同様の構築物と比較して、HEK293 T細胞における一時的なAAVベクター産生の間にヘルパー機能を提供する、条件プロモーター及びTetR-KRAB遺伝子(CreBAC6)を有するすべてのAd2ヘルパー遺伝子を含むBAC構築物の能力を試験することは重要であった。CreBAC6がヘルパーとして活性であるために、細胞増殖培地へのDOXの添加が必要となり得る。ヘルパー機能は、ベクター産生の一時的な3プラスミド系及びそれらのインキュベーションで使用されるAAV rep/cap(pG2.AAV2.R2C5-イントロン)を有するプラスミド及びEGFP発現トランスファーベクター(pG.AAV2.C.GFP.P2a.fLuc.W6.ssb)と一緒に、これらのBACでフラスコの懸濁適応HEK293細胞をトランスフェクションすることによって試験した。産生された任意のベクターは、細胞を溶解することによって回収し、レシピエントCHO細胞を形質導入するために使用することができる。形質導入のレベル、したがって機能的AAVベクター産生のレベルは、フローサイトメトリーによるGFP陽性細胞のパーセンテージを測定することによって評価した。
【0215】
AAV産生
フラスコのHEK293Tsa細胞(この出願で使用される場合HEK293Tsa細胞は、懸濁適応HEK293細胞を指す)を、公知の陽性対照として一時的なrAAV5産生のための3-プラスミド系の標準的なプラスミドでトランスフェクトした(pG3.Ad2 Helper GSK、pG2.AAV5.R2C5-イントロン及びpG.AAV2.C.GFP.P2a.fLuc.W6.ssb)。
【0216】
フラスコ当たり60mlのBalanCD HEK293培地、2% Glutamax、0.1% Pluronic F-68中、HEK293Tsa細胞をml当たり2×106個の細胞で250mlの振盪培養フラスコに播種した。ヘルパー機能を試験されるBACの大きなサイズ及び制限された収率により、1.6:1:1のヘルパープラスミド:rep/capプラスミド(すなわちパッケージングプラスミド):トランスファーベクターのrAAV産生のための3-プラスミド一時系の通常のモル比で細胞をトランスフェクトすることはできなかった。このため、BACがヘルパー機能を提供するトランスフェクションは、モル比0.62:1.0:0.86であった。3プラスミド系プラスミドは、ヘルパープラスミド対rep/capプラスミド対トランスファーベクタープラスミドの1.6:1:0.86のモル比で使用した。Cre依存性rep/capプラスミド(pG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン3×pA HygR)でトランスフェクトした細胞の1つのフラスコに、8.4μgのpG3.CMVTO2-iCreを添加した。rep/capプラスミドを含有しない陰性対照トランスフェクション(ヘルパー及びトランスファーベクターのみ)も含まれた。細胞の1つのフラスコは、非トランスフェクション対照であった。プラスミドを、58.5μlのPEI Proを含有する6mlのOpti-MEM培地に添加した。トランスフェクションミックスをボルテックスし、15分間室温でインキュベートした後、細胞を含有する振盪フラスコに添加した。CreBAC6でトランスフェクトした細胞のフラスコの1つに、最終濃度が2μg/mlになるように細胞培養培地にDOXを添加した。細胞を振盪しながら37℃でインキュベートした。次の日、最終濃度が5mMになるように各フラスコに1Mの酪酸ナトリウムを添加した。
【0217】
トランスフェクションの72時間後に、細胞を1,300rpmで10分間の遠心分離によってペレットにし、4mlの溶解緩衝液中に再懸濁した。細胞は、ドライアイス+エタノールで凍結後、37℃で解凍するステップの3サイクルによって溶解した。次いで、ベンゾナーゼを50U/mlで溶解物に添加し、チューブを30分間37℃でインキュベートした。次いで、溶解物を1,300rpmで10分間の遠心分離によって透明にし、その後上清を分注し、ペレットを廃棄した。
【0218】
AAV形質導入
AAV2とAAV5の両方による形質導入に受容性であるCHO細胞を、8×10
3個の細胞/ウェルで96ウェルプレートに蒔いた(ウェル当たり10% FCS、1×Glutamax及び1×非必須アミノ酸を含有する200μlのDMEM中で増殖する)。次の日、rAAV5を含有する細胞溶解物及び陰性対照溶解物のそれぞれ20μlをCHO細胞のウェルに二連で添加した。CHO細胞のプレートを37℃で5時間インキュベートし、その後、溶解物を含有する培地をウェルから吸引して新しい培地と置き換えた。次いで、プレートを37℃でさらに67時間インキュベートした。次いで、培地を形質導入したCHO細胞から吸引し、細胞を200μlのEDTA溶液によって脱凝集させ、次いでAccuri C6フローサイトメーターで解析してGFP蛍光のレベルを測定し、FlowJoソフトウェアによっても解析した。生細胞集団をゲートにかけ(FSC-A/SSC-A)、次いでゲートを単一細胞に設定した(FSC-A/FSC-H)。非形質導入CHO細胞を使用して、その上であれば細胞はGFP陽性であると考えることができるベースライン蛍光(FL1-A/FSC-A)を設定した。蛍光ベースラインを超える細胞のパーセンテージは、形質導入細胞の各ウェルについて計算し、次いで平均及び標準偏差を二連のそれぞれについて計算した。結果は
図3に示す。
【0219】
図3は、すべてのAd2ヘルパー遺伝子がそれらの内因性プロモーターを保持するBACが、一時的なAAVベクター産生においてヘルパー機能を提供することができたことを示す。形質導入されたレシピエント細胞が比較的低レベルであることは(約2.4%)、組換えベクターの比較的低い力価を反映し、プロデューサー細胞のトランスフェクションに使用される最適以下のプラスミド比及び細胞へのそのような大きな(>30kb)構築物の低い形質導入効率によるようであった。細胞培養培地中のDOXの非存在下では、すべてのヘルパー遺伝子が条件制御下にあるCreBAC6は、検出可能なレベルの蛍光にCHO細胞を形質導入するのに十分な組換えベクターを産生する、トランスフェクトした細胞に十分なヘルパー遺伝子機能を提供しなかった。これは、DOXの非存在下では、このBACによってトランスフェクトした細胞がすべてのヘルパー遺伝子の転写を阻害するTetR-KRABを一定に発現するという事実による。これは、このBACからのこれらの遺伝子の発現がDOXの非存在下では著しく抑制されたことを示す。これは、そのような構築物で安定にトランスフェクトした細胞へのAd2ヘルパータンパク質の毒性のレベルを低減するようである。細胞培養培地中に2μg/mlのDOXの存在下で、CreBAC6でトランスフェクトした細胞は、内因性プロモーターを有するヘルパーBACでトランスフェクトした細胞からの溶解物で形質導入したものより、より多くのパーセンテージのCHO細胞(約3.4%)を形質導入するのに十分高いレベルで組換えAAVベクターを産生した。TetR-KRAB抑制から解放された場合、CMVTO2プロモーターがE2A及びE4の内因性プロモーターよりも活性であり、トランスフェクトした細胞におけるこれらの遺伝子のより高いレベルの発現を可能とし、高レベルの組換えベクター産生をもたらす。このデータは、E2A及びE4ヘルパー遺伝子の発現が、それらのネイティブプロモーターを条件プロモーターで置き換えることによって破壊されず、改善さえされ得ることを示す。
【0220】
陰性対照ヘルパープラスミドで形質導入した細胞+トランスファーベクターのみトランスフェクトした細胞の溶解物は、いずれの検出可能なレベルの蛍光も示さなかった。これは、形質導入したCHO細胞においてベースラインを超えて測定されたすべての蛍光が、細胞へのEGFP遺伝子のAAV形質導入送達によるものであり、細胞へのプロデューサー細胞溶解物からのEGFPタンパク質吸収によらなかったことを示す。
【0221】
図4は、予測されるように、3-プラスミド系でトランスフェクトした細胞が、高レベル(約52.3%)にレシピエント細胞を形質導入するのに十分な量の組換えAAV5ベクターを産生することができることを示す。
【0222】
Cre発現プラスミドの非存在下で、Ad2ヘルパープラスミド及びEGFPトランスファーベクターと一緒にCre依存性rep/cap発現プラスミド(すなわち、終結イントロンを含むrep遺伝子)(pG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン3×pA HygR)でトランスフェクトした細胞は、形質導入した細胞において検出可能な蛍光を産出することができるレベルに組換えベクターを産生しなかった。これは、Creの非存在下では、終結イントロンを含むrep遺伝子が機能的にサイレントであることを示す。
【0223】
Ad2ヘルパープラスミド、EGFPトランスファーベクター及びiCre発現プラスミド(pG3.CMVTO2-iCre)と一緒にCre依存性rep/cap発現プラスミドでトランスフェクトした細胞は、高レベル(約22.2%)にレシピエント細胞を形質転換するには十分であるが標準的な非Cre依存性rep/capでトランスフェクトした細胞ほどではない組換えベクターを産生した。これは、このCre依存性rep遺伝子(すなわち終結イントロンを含むrep遺伝子)が機能的AAVベクターを産生することができることを示す。非Cre依存性rep/capプラスミドと比較して産生されたベクターの量が少ないことは、スプライスバリアント比の破壊以外のいくつかの因子により得る。Repの発現の遅延は、まず翻訳されるためのiCre、組換えのためのLoxP部位の必要性により、より少ないベクター収率をもたらすことができる可能性がある。細胞におけるiCre発現のレベルが最適ではなく、より多くのiCre発現プラスミドで細胞をトランスフェクトすることがより高いベクター収率をもたらすことができる可能性がある。iCreが一定に発現され、細胞において活性である場合、転写ターミネーターはそれらがすでに除去されたrep遺伝子へと再挿入し、細胞に一定に流入するRep発現をもたらすことができる可能性がある。Cre依存性及び標準的なrep/capプラスミドは、異なるキット(それぞれQiagen Plasmid Plus Midi Kit及びNucleobond Xtra Maxi EF Kit)を使用して精製し、単純に標準的なrep/capプラスミド調製の質がより高い場合があり得た。
【0224】
したがって、
図3のデータは、Ad2ヘルパー遺伝子の内因性プロモーターを条件プロモーターで置き換えることは、それらが活性化される場合、それらの発現にネガティブに影響しないことを示す。
図4のデータは、Cre依存性repがCre/iCreの存在下で機能的組換えAAVベクターを産生することができることを示す。条件付きヘルパー遺伝子とCre依存性repの両方とも、活性化されない場合、機能的にサイレントである。したがって、すべての細胞毒性が、構築物が組み込まれた細胞で抑制されるべきである安定なAAVプロデューサーBAC構築物では、組換えベクター産生が開始されるまで、それらを正常に分裂させる。
【0225】
[実施例4]
AAVバクテリア人工染色体の設計
以下の方法をBACへとエレメントをクローニングするために使用した。
1.各エレメントを、エレメントがBACドナープラスミド、pDonorの多重クローニング部位へとクローニングされるのを可能とするユニークな制限部位を含むプライマーとプルーフリーディングDNAポリメラーゼを使用してPCR増幅する。
2.PCR増幅断片をゲル精製し、TOPOクローニングプラスミド、pCR-BluntII TOPOへとライゲートする。このライゲーションは、化学的にコンピテントな大腸菌を形質転換するために使用する。
3.PCR増幅エレメントを含有するプラスミドを、大腸菌ブロス培養物から抽出し、その部位がPCRプライマーによって導入された2つの制限酵素で消化する。
4.消化したプラスミドをアガロースゲル電気泳動によって分離し、消化したエレメントをゲルから切り出し、精製する。
5.消化及び精製したエレメントをpDonorの多重クローニング部位へとライゲートする。このプラスミドは多重クローニング部位の近位に2個のトリ高感度インスレーター部位(2×cHS4)を含有する。エレメントをpDonorへと方向性クローニングし、その結果2×cHS4はエレメントの3'末端に位置する。メガヌクレアーゼ酵素I-SceIの制限部位は、方向性クローニングしたエレメントの5'末端のpDonor上流に位置するが、メガヌクレアーゼ酵素PI-PspIの制限部位は2×cHS4の3'末端に位置する。このライゲーションは、化学的にコンピテントな大腸菌を形質転換するために使用する。
6.方向性クローニングしたエレメントを有するpDonorプラスミドを、大腸菌ブロス培養物から抽出し、まずメガヌクレアーゼI-SceIで37℃にて消化し、次いでPI-PspIで65℃にて消化する。
7.消化したプラスミドをアガロースゲル電気泳動によって分離し、3'末端に2×cHS4を含む消化したエレメントをゲルから切り出し、精製する。
8.BACは、単一のPI-PspI制限部位を含有する。BAC DNAをPI-PspIで65℃にて消化し、次いで消化反応にFastAPアルカリホスファターゼを添加し、37℃で30分間インキュベートすることによって脱リン酸化する。次いでFastAPを、反応を75℃で5分間インキュベートすることによって不活性化する。
9.メガヌクレアーゼI-SceI及びPI-PspIはDNAを切断し、適合性であるが非対称のオーバーハングを残す。したがって、3'末端に2×cHS4を有するI-SceI及びPI-PspI消化したエレメントは、PI-PspI消化BACへと方向性ライゲートすることができる。エレメントの5'末端のI-SceIオーバーハングはBACのPI-PspIオーバーハングの1つに結合し、もはやI-SceI又はPI-PspIのいずれによっても切断することができない新しい配列を生じる。エレメントの下流の2×cHS4の3'末端におけるPI-PspIオーバーハングは、BACの他のPI-PspIオーバーハングに結合し、ライゲートしたBACの2×cHS4の3'末端に新しいPI-PspI部位の形成をもたらす。このライゲーションは、エレクトロポレーターを使用してエレクトロコンピテントな大腸菌を形質転換するために使用する。
10.3'末端に2×cHS4を有する新しくクローニングしたエレメントを含有するBACを大腸菌ブロス培養物から抽出する。このBACは、PI-PspIによって消化され、脱リン酸化することができ、pDonorへと方向性サブクローニングしたさらなるエレメントをこの部位へとライゲートすることができる。最初にpDonorへとクローニングした任意の新しいエレメントは、BACへとライゲートした場合、先にクローニングした断片からその5'末端に2×cHS4を、それをpDonorへとクローニングした後その3'末端に2×cHS4を常に有する。
【0226】
この方法で産生した核酸ベクターの概略図を
図5に示す。
【0227】
[実施例5]
AAV5 BAC構築物でトランスフェクトした細胞の安定なプールの生成
rAAV BAC構築物のトランスフェクション及び選択を、接着HEK293T細胞で実施した。振盪培養で、BalanCD培地中で増殖する懸濁適応HEK293Tsa pre-MCB細胞を計数し、10% FCSを含有するDMEM培地中に2×105細胞/mlで再懸濁し、それらの接着行動を戻した。細胞をウェル当たり2mlで6ウェルプレートに蒔き、次いで37℃で終夜インキュベートした。次の日、EGFPトランスファーベクターを含有する安定なAAV BAC構築物:TetR-KRAB iCreBAC9b-GFP及びTetR iCreBAC9b-GFPのマキシプレップを蒔いた細胞へとトランスフェクトした。各トランスフェクションは、300μlのOPTI-MEMに添加したBACマキシプレップからの5μgのDNAを含有し、それに5μlのPEI-proを添加した。チューブを短くボルテックスし、10分間インキュベートした。この後、トランスフェクション混合物を各ウェルに添加した。48時間後、ウェルを吸引し、培地を10% FCS及び300μg/mlのゼオシンを含有するDMEMと置き換えた。プレートは数日間インキュベートし、その間にほとんどの非トランスフェクト細胞が死滅し、ウェルの表面に浮いた。培地を10% FCS及び300μg/mlのゼオシンを含有する新しいDMEMと数回置き換えた。7日後、ウェルの細胞はほとんどEGFP陽性であり、正常速度で倍増した。
【0228】
安定なプールの組換えAAVベクター産生の誘導
TetR-KRAB iCreBAC9b-GFP及びTetR iCreBAC9b-GFP構築物で安定にトランスフェクトしたHEK293T細胞のプールを計数し、10% FCS及び50μg/mlのゼオシンを含有する25mlのDMEM中、フラスコ当たり1×107細胞でT175フラスコに蒔いた。すべてのフラスコの細胞を37℃で終夜インキュベートした。次の日、細胞におけるベクター産生を、培地を2μg/mlのDOX及び5mMの酪酸ナトリウムと10% FCSを含有する新しいDMEMと置き換えることによって誘導した。2つの安定なプールのそれぞれのフラスコは、陰性対照として未誘導のままにした。1つの誘導したフラスコ及び未誘導対照の細胞をDOXの添加の72時間後に回収した。安定なプールのそれぞれの別の誘導したフラスコは、DOXの添加の96時間後に回収した。
【0229】
誘導及び未誘導細胞から溶解物を得るため、細胞を1,300rpmで10分間の遠心分離によってペレットにし、2mlの溶解緩衝液中に再懸濁した。次いで細胞は、ドライアイス+エタノールで凍結後、37℃で解凍するステップの3サイクルによって溶解した。溶解物を1,300rpmで10分間の遠心分離によって分離し、その後上澄み液を新しいチューブに取り出し、ペレットを廃棄した。
【0230】
安定なプロデューサーからの溶解物によるレシピエント細胞の形質導入
AAV5による形質導入に受容性であるCHO細胞を、8×103個の細胞/ウェルで96ウェルプレートに蒔いた(ウェル当たり10% FCS、1×Glutamax及び1×非必須アミノ酸を含有する200μlのDMEM中で増殖する)。次の日、rAAV5を含有する細胞溶解物及び陰性対照溶解物のそれぞれ20μlをCHO細胞のウェルに二連で添加した。CHO細胞のプレートを37℃で5時間インキュベートし、その後、溶解物を含有する培地をウェルから吸引し、新しい培地と置き換えた。次いで、プレートを37℃でさらに67時間インキュベートした。次いで、培地を形質導入したCHO細胞から吸引し、細胞を200μlのEDTA溶液によって脱凝集させ、次いでAccuri C6フローサイトメーターで解析してGFP蛍光のレベルを測定した。生細胞集団をゲートにかけ(FSC-A/SSC-A)、次いでゲートを単一細胞に設定した(FSC-A/FSC-H)。非形質導入CHO細胞を使用して、その上であれば細胞はGFP陽性であると考えることができるベースライン蛍光(FL1-A/FSC-A)を設定した。蛍光ベースラインを超える細胞のパーセンテージは、形質導入細胞の各ウェルについて計算した。誘導した安定なプールからの溶解物によって形質導入した細胞は、ベースラインを超えるいずれのGFP蛍光も示さなかった。
【0231】
AAV5 BAC構築物でトランスフェクトした細胞の安定なプールのRNAseq解析
構築物が細胞においてメカニズム上機能的であるか決定するため、DOX誘導及び未誘導細胞からのすべてのポリアデニル化RNAのRNAシークエンシング解析を比較した。TetRKRAB iCreBAC9b-GFP及びTetR iCreBAC9b-GFP構築物で安定にトランスフェクトしたHEK293T細胞のプールを計数し、10% FBSを含有するDMEM中で3×105細胞/mlに希釈し、それぞれウェル当たり2mlで6ウェルプレートに蒔いた。プレートを37℃で終夜インキュベートした。次の日、各安定なプールの3ウェルを、培地を10% FBS、2μg/mlのDOX、及び5mMの酪酸ナトリウムを含有するDMEMに交換することによって誘導した。各プレートの残りの3ウェルでは、培地を新しいDMEM+10% FCSと単に置き換えた。プレートを37℃で5日間インキュベートし、その後未誘導細胞をトリプシンによってそれらを脱凝集することによって回収し、それらを1mlの培地中に再懸濁し、それらを300×gでスピンダウンして、細胞をペレットにした。培地を吸引し、細胞ペレットを-80℃で保存した。誘導細胞の培地は、10% FBS、2μg/mlのDOX、及び5mMの酪酸ナトリウムを含有する新しいDMEMと置き換え、プレートを37℃でさらに2日間インキュベートした。この後、誘導細胞も回収し、ペレットにし、-80℃で保存した。RNA seq解析を、Illuminaを使用するGeneWizによって細胞ペレットから抽出したポリアデニル化RNAで実施した。リードはGSKに戻り、そこでIGVソフトウェアを使用してそれらをBAC配列とアラインした(データは示さない)。
【0232】
アライメントは、そのすべてが構築物の構成的CMVプロモーターの制御下にあるTetR、TetR-KRAB及びEGFP-fLucが、予測されるように、DOX誘導HEK293T細胞と未誘導HEK293T細胞の両方で発現したことを示した。しかしながら、アライメントは、構築物の条件付きで発現されたORF:E2A、E4、iCre及びrep2cap5が、設計されたように、DOX誘導細胞で転写活性化されたが、未誘導細胞では検出できなかったことも示した。DOX誘導細胞RNAにおいてこれらのORFにアラインするリードの数は、構成的に活性なORFにアラインするリードの数より実質的に少なかった。これらの転写物が未誘導細胞で検出できないという事実から、これらのORFの転写が、DOXの非存在下でTetRによって及びTetR-KRABによってブロックされることが確認された。リードは、いずれの細胞からのRNAのVA ORFにもアラインしなかった。これは、ポリアデニル化したRNAのみが精製され、pol.IIIプロモーターから発現されるVAはポリアデニル化されないためと考えられた。これはすべて、構築物がHEK293T細胞でメカニズム上機能的であり、DOX誘導細胞における検出可能なRepタンパク質又は形質導入するベクターの欠如が、転写のレベルが低いことによる可能性が最も高かったことが確認された。
【0233】
誘導と未誘導両方の安定なプールに関する、各BAC構築物ORFの100万個当たりの転写物数(TPM)を、以下の表2に示す:
【0234】
【0235】
構築物のTetR部分のリード数は、100万個の転写物あたりおよそ3600~5100であった。EGFP-fLuc転写物は、TetRと類似したレベルで存在した。
【0236】
条件付きで発現したORFのうち、E2Aは、TetRを発現する細胞においてDOXによって最も高く誘導される。TetR又はTetR-KRABを発現する未誘導細胞では、E2A転写物は検出できなかった。これは、標準的なGSKコドン最適化TetRタンパク質が、正常な増殖条件下でCMVTO2プロモーターの下流の遺伝子の転写を完全にブロックするのに十分であり、TetR-KRABのKRABドメインによって囲まれるDNAの余分なヘテロクロマチン化が、この遺伝子の場合には必ずしもネガティブな調節を増強しないことを意味する。細胞増殖培地へのDOXの添加によるE2A転写の誘導は、TetR-KRAB構築物よりもTetR構築物で安定にトランスフェクトした細胞において6.89倍高かった。これは、KRABドメインによるネガティブな調節の増加によるものであった可能性があった。iCre遺伝子も、誘導TetR-KRAB発現細胞よりも誘導TetR発現細胞において高レベル(2.71×)で発現された。
【0237】
E4及びrepcap5 ORFは、両方の安定なプールにおいてより低レベルで発現した。
【0238】
E2A及びiCreとは逆に、E4 ORFは、TetRを発現するものよりもTetR-KRABを発現するDOX誘導細胞においてより高く(5.65×)発現された。1つの仮説は、E4 ORF6が細胞に対して非常に毒性であり、BAC構築物がまず細胞へとトランスフェクトされる場合、TetR又はTetR-KRABタンパク質が十分なレベルに発現される前に時間のウィンドウがあり、その間にCMVTO2プロモーターの下流で条件付きに発現された遺伝子は転写され、タンパク質を産生することができるというものである。その毒性により、E4 ORFに対抗する選択が起こり、DNAのこの領域がサイレンシングされるか又はスプリットされた細胞のみが生き残り、E4領域を欠損する安定な細胞が生じた可能性がある。TetR単独よりも強いネガティブな調節を提供するTetR-KRABを発現する細胞は、TetRを発現する細胞よりも早い時点で産生されるE4 ORF6タンパク質を停止する可能性がより高く、それらのゲノムに組み込まれたBACの無傷のE4領域を有するより多くの細胞の生存をもたらすことが可能である。BACのE4領域がそれに対して選択されるのを避けるため、細胞をTetR/TetR-KRAB RNAで前もってトランスフェクトする必要があり得、それによりE4のCMVTO2プロモーターが結合され、それが細胞に入るとすぐに転写がブロックされる。
【0239】
これは、誘導細胞においてrep2cap2転写物が増加することも示した。未誘導細胞に見られる低レベルのrep転写物は、HEK293細胞では、repプロモーターが構成的に活性であるためであった。P19の下流の転写ターミネーターがDOXの非存在下でも同じ場所にある場合、これらの転写物は短い、未成熟で終結したRNAを表す。DOX誘導安定プールのrep2cap5転写物の増加は、転写ターミネーターの除去によるものであり、転写物が全ORFを通して進行するのを可能とするが、転写物の実際の数は実際には増加しないようである。誘導細胞におけるrep2cap5 RNAのこの増加は、誘導細胞におけるiCreのレベルが、転写ターミネーターに隣接するLoxP部位を組み換えるのに十分に高いことの証拠である。
【0240】
各安定なプール内では、クローニングした場合、DOX誘導時に検出可能なレベルの組換えAAVベクターを産生することができ得る多くのインテグレーションを有する細胞がある可能性があった。
【0241】
トランスポザーゼ調節rep/capの構築
repプロモーターの下流の転写ターミネーターがトランスポゾンITRに隣接し、iCreがトランスポザーゼと置き換えられるさらなるBAC構築物を試験した。
【0242】
Piggy Bac系で使用されるキャベツルーパーモス(イラクサギンウワバ)トランスポザーゼにおける3つのアミノ酸の変異によって、切除+組込み-表現型を作製することが可能であることが報告されている(Liら、2013年“PiggyBac transposase tools for genome engineering" PNAS 110: E2279-E2287)。これは、そのような構築物で安定にトランスフェクトした細胞へのDOXの添加によるトランスポザーゼの発現が、repプロモーターの下流の転写ターミネーターの不可逆的な除去をもたらし、うまくいけばより優れたRep発現をもたらし得ることを意味し得る。
【0243】
オオキクギンウワバ由来のトランスポザーゼは、イラクサギンウワバ由来のものと98.82%同一である。Yusaら(Yusa Kら“A hyperactive piggyBac transposase for mammalian applications、2011年、PNAS 108: 1531~1536頁)は、機能亢進性の表現型をもたらしたイラクサギンウワバのトランスポザーゼにおいて7個のアミノ酸置換(I30V、S103P、G165S、M282V、S509G、N538K、N571S)を見出した。これらの置換をオオキクギンウワバのトランスポザーゼのアミノ酸配列に適用した。さらに、イラクサギンウワバのトランスポザーゼにおいて切除+組込み-表現型をもたらす、Liら(2013年、PNAS110: E2279-E2287)によって見出された3個のアミノ酸置換(R372A、K375A、D450N)もオオキクギンウワバのトランスポザーゼの配列に適用された。赤でハイライトした機能亢進性の表現型置換及び緑でハイライトした切除+組込み-表現型置換を有する修飾されたオオキクギンウワバのトランスポザーゼのアミノ酸配列を以下に示す。
【0244】
下線及び太字の機能亢進性の表現型置換及び太字のイタリック体の切除+組込み-表現型置換を有する修飾されたオオキクギンウワバのトランスポザーゼのアミノ酸配列(配列番号1)を以下に示す:
【0245】
このアミノ酸配列は、コドン最適化したDNA配列へと変換され、合成された。
【0246】
オオキクギンウワバのトランスポゾン(EU287451)由来のITRも合成された。
【0247】
repのイントロンへの転写ターミネーターに隣接するトランスポゾンITRのクローニングのためのDNA断片を生成するため、プライマーを設計して(表3参照)、GSKの社内のrep2cap5発現プラスミドpG2.AAV5.R2C5-イントロン、9.15kbの断片の全配列をプライマーInt-3'ITR Gib F & Int-5'ITR Gib RによってPCR増幅した。転写ターミネーターを含有する2.72kbの断片は、3xpA-5'ITR Gib F & 3xpA-3'ITR Gib Rを使用してpUC57.Int-3A-HygからPCR増幅した。349bpの5'トランスポゾンITRは、プライマー5'ITR-Int Gib F & 5'ITR-3xpA Gib Rを使用してpUC57.5'-ITRから増幅した。278bpの3'トランスポゾンITRは、プライマー3'ITR-3xpA Gib F & 3'ITR-Int Gib Rを使用してpUC57.3'-ITRから増幅した。
【0248】
【0249】
2つのトランスポゾンITR及び転写ターミネーターのPCR後、pG2.AAV5.R2C5-イントロンの増幅を実施した。まず、2つのトランスポゾンITRをオーバーラップPCRによって3×pA HygR転写ターミネーター断片のいずれかの端に接合した。5'ITRと転写ターミネーターの断片を、プライマー5'ITR-Int Gib F & 3xpA-3'ITR Gib Rを使用するPCRで合わせた。次いでこの断片を3'トランスポゾンITR断片と、プライマー5'ITR-Int Gib F & 3'ITR-Int Gib Rを使用するPCRで合わせた。
【0250】
5'ITR-3xpA-HygR-3'ITR断片及びpG2.AAV5.R2C5-イントロン断片を5μlの等しい体積で合わせ、NEBuilder HiFi DNA Assembly Mastermixを使用してクローニングした。
【0251】
オオキクギンウワバのトランスポザーゼを、以下のようにCMVTO2プロモーターの下流にクローニングした。
【0252】
CMVTO2プロモーターの下流及びSV40ポリAの上流にオオキクギンウワバのトランスポザーゼをクローニングするためのDNAを生成するため、プライマーを設計し、4.25kbの断片としてpG3.CMVTO2-をPCR増幅した。プライマーは、トランスポザーゼ配列端を有するオーバーラップを含有した。
【0253】
pG3.CMVTO2断片及びオオキクギンウワバのトランスポザーゼ断片を5μlの等しい体積で合わせ、NEBuilder HiFi DNA Assembly Mastermixを使用してクローニングした。
【0254】
一時的にトランスフェクトした細胞において機能的AAVベクターを産生するトランスポザーゼ調節性rep2cap5の試験
repにおいて組換えトランスポゾンを除去する、及びAAVベクター産生を開始するトランスポザーゼの能力を試験するため、成分を一時的トランスフェクションで試験した。フラスコの懸濁適応HEK293細胞を、以下のプラスミドでトランスフェクトした:
1. rep2/cap5+ヘルパープラスミド + EGFPトランスファーベクタープラスミド
2. rep2/cap5-トランスポゾン3xpA + ヘルパープラスミド + EGFPトランスファーベクタープラスミド
3. rep2/cap5-トランスポゾン3xpA + ヘルパープラスミド + EGFPトランスファーベクタープラスミド + トランスポザーゼ
4. rep2/cap5-LoxP 3xpA + ヘルパープラスミド + EGFPトランスファーベクタープラスミド
5. rep2/cap5-LoxP 3xpA + ヘルパープラスミド + EGFPトランスファーベクタープラスミド + iCre
6. ヘルパープラスミド + EGFPトランスファーベクタープラスミド
7. 非トランスフェクト細胞
【0255】
トランスフェクション手順は以下の通りである。
フラスコ当たり60mlのBalanCD HEK293培地、2% Glutamax、0.1% Pluronic F-68中、HEK293Tsa細胞をml当たり2×106細胞で250mlの振盪培養フラスコに播種した。プラスミドは、ヘルパープラスミド対rep/capプラスミド対トランスファーベクターを1.6:1:1のモル比で使用した。プラスミドを、58.5μlのPEI Proを含有する6mlのOpti-MEM培地に添加した。トランスフェクションミックスをボルテックスし、15分間室温でインキュベートした後、細胞を含有する振盪フラスコに添加した。細胞を振盪しながら37℃でインキュベートした。次の日、最終濃度が5mMになるように各フラスコに1Mの酪酸ナトリウムを添加した。
【0256】
トランスフェクションの72時間後に、細胞を1,300rpmで10分間の遠心分離によってペレットにし、4mlの溶解緩衝液中に再懸濁した。細胞は、ドライアイス+エタノールで凍結後、37℃で解凍するステップの3サイクルによって溶解した。次いで、ベンゾナーゼを50U/mlで溶解物に添加し、チューブを30分間37℃でインキュベートした。次いで、溶解物を1,300rpmで10分間の遠心分離によって透明にし、その後上清を回収し、ペレットを廃棄した。
【0257】
AAV5による形質導入に受容性であるCHO細胞を、8×103細胞/ウェルで96ウェルプレートに蒔いた(ウェル当たり10% FCS、1×Glutamax及び1×非必須アミノ酸を含有する200μlのDMEM中で増殖する)。次の日、rAAV5を含有する細胞溶解物及び陰性対照溶解物のそれぞれ20μlをCHO細胞のウェルに二連で添加した。CHO細胞のプレートを37℃で5時間インキュベートし、その後、溶解物を含有する培地をウェルから吸引して新しい培地と置き換えた。次いで、プレートを37℃でさらに67時間インキュベートした。次いで、培地を形質導入したCHO細胞から吸引し、細胞を200μlのEDTA溶液によって脱凝集させ、次いでフローサイトメーターで解析してGFP蛍光のレベルを測定した。生細胞集団をゲートにかけ(FSC-A/SSC-A)、次いでゲートを単一細胞に設定した(FSC-A/FSC-H)。非形質導入CHO細胞を使用して、その上であれば細胞はGFP陽性であると考えることができるベースライン蛍光(FL1-A/FSC-A)を設定した。蛍光ベースラインを超える細胞のパーセンテージは、形質導入細胞の各ウェルについて計算し、次いで平均及び標準偏差を二連のそれぞれについて計算した。これらを表4に示す。
【0258】
【0259】
構成的、トランスポザーゼ依存性及びCre依存性rep2/cap5を使用して産生したrAAVによる形質導入の比較
このデータは、予測されるように、標準的な3-プラスミド系でトランスフェクトした細胞が、高レベル(約42%)にレシピエント細胞を形質導入するのに十分な量の組換えAAV5ベクターを産生することができることを示す。
【0260】
Ad2ヘルパープラスミド及びEGFPトランスファーベクターと一緒にトランスポゾン依存性rep/cap発現プラスミド(pGA2.AAV5.R2C5-イントロン転移性3×pA)でトランスフェクトした細胞は、トランスポザーゼ発現プラスミドの非存在下では、形質導入した細胞において検出可能な蛍光を産生することができるレベルまで組換えベクターを産生しなかった。これは、トランスポザーゼの非存在下では、この組換えrep/capが機能的にサイレントであり、転写ターミネーターによることを示す。
【0261】
Ad2ヘルパープラスミド、EGFPトランスファーベクター及びオオキクギンウワバトランスポザーゼ発現プラスミド(pG3.CMVTO2-オオキクギンウワバトランスポザーゼ)と一緒にトランスポゾン依存性rep/cap発現プラスミドでトランスフェクトした細胞は、高レベル(約20.6%)にレシピエント細胞を形質導入するのに十分な組換えベクターを産生した。これは、Cre依存性rep/cap発現プラスミド(pG2.AAV5.R2C5-hCGイントロン3×pA HygR)を、Ad2ヘルパープラスミド、EGFPトランスファーベクター及びiCre発現プラスミド(pG3.CMVTO2-iCre)をコトランスフェクトした場合に産生される組換えベクターの量に相当したが(22.4%)、標準的な非トランスポザーゼ依存性rep/capでトランスフェクトした細胞ほどではなかった。これは、このトランスポザーゼ依存性rep遺伝子が機能的AAVベクターを産生することができることを示す。非トランスポザーゼ依存性rep/capプラスミドと比較して、産生されたベクターの量が少ないのは因子の数によるものであり得る。Repの発現の遅延は、まず翻訳されるためのトランスポザーゼ、及び組換えのためのITRの必要性によるものであり、より少ないベクター収率をもたらし得る可能性がある。細胞におけるトランスポザーゼ発現のレベルが最適ではなく、より多くのトランスポザーゼ発現プラスミドで細胞をトランスフェクトすることがより高いベクター収率をもたらし得る可能性がある。
【0262】
このデータは、トランスポザーゼ依存性repがトランスポザーゼの存在下で機能的組換えAAVベクターを産生することができることを示す。トランスポザーゼ依存性repは活性化されない場合、機能的にサイレントである。Cre依存性rep遺伝子とは違い、陽性/インテグレーション陰性組換えトランスポザーゼによる転写ターミネーターの除去は、可逆的ではない。これは、安定な細胞の誘導後にRepタンパク質のより安定な発現をもたらし得る。
(付記)
[付記1]
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクタープロデューサー細胞であって、
AAV rep及びcap遺伝子、
ヘルパーウイルス遺伝子、並びに
AAVベクターのDNAゲノム
をコードする核酸配列を含み、
AAV rep遺伝子がイントロンを含み、前記イントロンが転写終結配列の上流に位置する第1の組換え部位及び下流に位置する第2の組換え部位を有する転写終結配列を含み、
前記核酸配列が、AAVベクタープロデューサー細胞のゲノム内の単一の遺伝子座にすべて一緒に組み込まれる、AAVベクタープロデューサー細胞。
[付記2]
イントロンが、組換え部位の間に遺伝子をさらに含み、任意選択で、遺伝子が選択可能マーカー遺伝子であり、さらに任意選択で、選択可能マーカーがハイグロマイシンである、付記1に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記3]
リコンビナーゼ遺伝子をコードする核酸配列をさらに含む、付記1又は2に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記4]
リコンビナーゼ遺伝子をコードする前記核酸配列が、AAV rep及びcap遺伝子、ヘルパーウイルス遺伝子並びにAAVベクターのDNAゲノムをコードする核酸配列と一緒にAAVベクタープロデューサー細胞のゲノム内の単一の遺伝子座に組み込まれる、付記3に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記5]
リコンビナーゼ制御系をさらに含む、付記3又は4に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記6]
リコンビナーゼ制御系が、リコンビナーゼに作動可能に連結した誘導プロモーター及び/又はステロイドホルモン受容体リガンド結合ドメインの制御下のリコンビナーゼ遺伝子を含む、付記5に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記7]
ステロイドホルモン受容体リガンド結合ドメインが、エストロゲン受容体リガンド結合ドメイン(ER)であり、任意選択でERがERT2である、付記6に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記8]
組換え部位がLoxP部位であり、リコンビナーゼ遺伝子がcreリコンビナーゼ遺伝子であり、任意選択で、creリコンビナーゼ遺伝子がコドン最適化creリコンビナーゼ遺伝子(icre)である、付記3~7のいずれか一項に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記9]
組換え部位がトランスポゾンITRであり、リコンビナーゼ遺伝子がトランスポザーゼ遺伝子であり、任意選択で、トランスポザーゼ遺伝子がコドン最適化トランスポザーゼ遺伝子である、付記3~7のいずれか一項に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記10]
トランスポゾンITR及びトランスポザーゼ遺伝子が真核生物のものである、付記9に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記11]
トランスポゾンITR及びトランスポザーゼが、イラクサギンウワバ(T. ni)、オオキクギンウワバ(M. crassisigna)、バクトロセラ・ミヌタ、オオミノガ、又はオオタバコガ由来である、付記10に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記12]
1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子が転写制御下にある、付記1~11のいずれか一項に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記13]
誘導プロモーター又は転写制御が、それぞれpCMV-TO2プロモーターを含む、付記6~12のいずれか一項に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記14]
インスレーターをさらに含み、任意選択で、インスレーターが各核酸配列の間に存在する、付記1~13のいずれか一項に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記15]
選択可能マーカーをさらに含み、任意選択で、選択可能マーカーが増幅可能な選択マーカーである、付記1~14のいずれか一項に記載のAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記16]
非哺乳動物の複製起点及び少なくとも25キロベース(kb)のDNAを保持する能力を含む核酸ベクターであって、前記核酸ベクターが、
AAV rep及びcap遺伝子、
ヘルパーウイルス遺伝子、並びに
AAVベクターのDNAゲノム
をコードする核酸配列を含むことを特徴とし、
rep遺伝子がイントロンを含み、前記イントロンが転写終結配列の上流に位置する第1の組換え部位及び下流に位置する第2の組換え部位を有する転写終結配列を含み、
AAV rep及びcap遺伝子、ヘルパーウイルス遺伝子のそれぞれ並びにAAVベクターのDNAゲノムをコードする核酸配列が、核酸ベクター内に個々の発現カセットとして配置される、核酸ベクター。
[付記17]
イントロンが組換え部位の間に遺伝子をさらに含み、任意選択で、遺伝子が選択可能マーカー遺伝子であり、さらに任意選択で、選択可能マーカーがハイグロマイシンである、付記16に記載の核酸ベクター。
[付記18]
リコンビナーゼ遺伝子をコードする核酸配列をさらに含み、核酸ベクター内に個々の発現カセットとして配置される、付記16又は17に記載の核酸ベクター。
[付記19]
リコンビナーゼ制御エレメントをさらに含む、付記16~18のいずれか一項に記載の核酸ベクター。
[付記20]
リコンビナーゼ制御エレメントが、リコンビナーゼ遺伝子に作動可能に連結した誘導プロモーター及び/又は前記リコンビナーゼ遺伝子と融合したステロイドホルモン受容体リガンド結合ドメインを含む、付記19に記載の核酸ベクター。
[付記21]
ステロイドホルモン受容体リガンド結合ドメインがエストロゲン受容体リガンド結合ドメイン(ER)であり、任意選択で、ERがERT2である、付記20に記載の核酸ベクター。
[付記22]
ERが前記リコンビナーゼ遺伝子の上流及び下流に作動可能に連結される、付記21に記載の核酸ベクター。
[付記23]
組換え部位がLoxP部位であり、リコンビナーゼ遺伝子がcreリコンビナーゼ遺伝子であり、任意選択で、creリコンビナーゼ遺伝子がコドン最適化creリコンビナーゼ遺伝子(icre)である、付記18~22のいずれか一項に記載の核酸ベクター。
[付記24]
組換え部位がトランスポゾンITRであり、リコンビナーゼ遺伝子がトランスポザーゼ遺伝子であり、任意選択で、トランスポザーゼ遺伝子がコドン最適化トランスポザーゼ遺伝子である、付記18~22のいずれか一項に記載の核酸ベクター。
[付記25]
トランスポゾンITR及びトランスポザーゼ遺伝子が真核生物のものである、付記24に記載の核酸ベクター。
[付記26]
トランスポゾンITR及びトランスポザーゼ遺伝子が、イラクサギンウワバ(T. ni)、オオキクギンウワバ(M. crassisigna)、バクトロセラ・ミヌタ、オオミノガ、又はオオタバコガ由来である、付記25に記載の核酸ベクター。
[付記27]
個々の発現カセットとして、1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子が転写制御下にある、付記16~26のいずれか一項に記載の核酸ベクター。
[付記28]
インスレーターをさらに含み、任意選択で、インスレーターが各発現カセットの間に存在する、付記16~27のいずれか一項に記載の核酸ベクター。
[付記29]
選択可能マーカーをさらに含み、任意選択で、選択可能マーカーが増幅可能な選択マーカーである、付記16~28のいずれか一項に記載の核酸ベクター。
[付記30]
ベクターが、バクテリア人工染色体、酵母人工染色体、P1由来人工染色体、フォスミド又はコスミドの1つから選択される、付記16~29のいずれか一項に記載の核酸ベクター。
[付記31]
安定なAAVベクタープロデューサー細胞株を産生する方法であって、
(a)付記16~30のいずれか一項に記載の核酸ベクターを哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、及び
(b)培養物内で、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれたベクターにコードされた核酸配列を有する哺乳動物宿主細胞を選択すること
を含む、方法。
[付記32]
付記31に記載の方法によって得られるAAVベクタープロデューサー細胞。
[付記33]
複製欠損AAVベクターを産生する方法であって、
(a)付記16~30のいずれか一項に記載の核酸ベクターを、哺乳動物宿主細胞の培養物へと導入すること、及び
(b)培養物内で、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体へと組み込まれたベクターにコードされた核酸配列を有する哺乳動物宿主細胞を選択すること、及び
(c)複製欠損AAVベクターが産生される条件下で、選択された哺乳動物宿主細胞をさらに培養すること
を含む、方法。
[付記34]
付記33に記載の方法によって得られる複製欠損AAVベクター。
[付記35]
哺乳動物宿主細胞がHEK293細胞である、付記31又は33に記載の方法。
【配列表】