(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】3-メチルチオプロピオンアルデヒドの貯蔵安定形態
(51)【国際特許分類】
C07C 323/12 20060101AFI20240401BHJP
C07C 323/22 20060101ALI20240401BHJP
C07C 323/27 20060101ALI20240401BHJP
C07C 319/20 20060101ALI20240401BHJP
C07C 323/58 20060101ALI20240401BHJP
C07D 233/76 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
C07C323/12
C07C323/22
C07C323/27
C07C319/20
C07C323/58
C07D233/76
(21)【出願番号】P 2021528353
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2019082083
(87)【国際公開番号】W WO2020104589
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-11-18
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ユーディト ヒエロルト
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア コップ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ラウテンベアク
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン レナー
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-012012(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102399177(CN,A)
【文献】特表2014-513699(JP,A)
【文献】特開2002-105048(JP,A)
【文献】特表2014-529616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40~95重量%の3-メチルチオプロピオンアルデヒドと、
1~20重量%の3-メチルチオ-1,1-プロパンジオールと、
2~25重量%の式I:
【化1】
の化合物と、
2.5~25重量%の水と
を含む、組成物。
【請求項2】
40~94.5重量%の3-メチルチオプロピオンアルデヒドと、
1~20重量%の3-メチルチオ-1,1-プロパンジオールと、
2~25重量%の式Iの化合物と、
2.5~25重量%の水と
を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
40~92重量%の3-メチルチオプロピオンアルデヒドと、
1~20重量%の3-メチルチオ-1,1-プロパンジオールと、
2~25重量%の式Iの化合物と、
5~10重量%の水と
を含む、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
3-メチルチオプロピオンアルデヒドを貯蔵および/または輸送するための、3-メチルチオ-1,1-プロパンジオール、または請求項1記載の化合物I、または請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項5】
前記貯蔵および/または輸送が、0~60
℃の温度で、最大12ヶ
月の期間にわたって実施されることを特徴とする、請求項4記載の使用。
【請求項6】
2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)
ブチロニトリルを製造するための
、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項7】
メチオニンヒダントインを製造するための
、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項8】
メチオニンを製造するための
、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項9】
2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)酪酸を製造するための
、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項10】
3-メチルチオプロピオンアルデヒドと、使用される3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよび水の総量を基準として、2.5~25重量
%の水とを、激しく混合しながら、0~100
℃の温度で反応させることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物の製造方法。
【請求項11】
前記反応の継続時間が、0.5~72時
間であることを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記使用される3-メチルチオプロピオンアルデヒドを事前に蒸留させたことを特徴とする、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物を、アミン塩基の存在下で青酸と反応させることを特徴とする、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)
ブチロニトリルの製造方法。
【請求項14】
請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物を、水の存在下で、青酸、アンモニア、および二酸化炭素と反応させることを特徴とする、メチオニンヒダントインの製造方法。
【請求項15】
請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物と、HCN、NH
3、二酸化炭素とを反応させてメチオニンヒダントインにし、続いて、アルカリけん化によってメチオニンアルカリ塩にし、その後、酸で中和することよってメチオニンにす
る、D,L-メチオニンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-(1’-ヒドロキシ-3’-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールという名称の式(I)の化合物、この化合物を含む組成物、および3-メチルチオプロピオンアルデヒド(=3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒド、MMP)と水とから一般式(I)の化合物を製造する方法に関する。さらに、本発明は、一般式(I)の化合物からまたはこの化合物を含む組成物からメチオニンを製造する方法、ならびに3-メチルチオプロピオンアルデヒドを貯蔵および/または輸送するための、一般式(I)の化合物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
3-メチルチオプロピオンアルデヒドは、D,L-メチオニンおよびそのヒドロキシ類似体である2-ヒドロキシ-4-メチルチオ酪酸の製造における重要な中間体であり、メチオニンヒドロキシ類似体を表す略語MHAとしても知られている。通常、3-メチルチオプロピオンアルデヒドは、マイケル付加においてメチルメルカプタンとアクロレインとを反応させることによって製造される。英国特許出願公告第1618884号明細書、英国特許出願公告第1173174号明細書、および英国特許出願公告第1166961号明細書の特許には、メチルメルカプタンとアクロレインとを反応させることによって3-メチルチオプロピオンアルデヒドを直接的に製造する方法、または最初に3-メチルチオプロピオンアルデヒドとメチルメルカプタンとを反応させ、そのようにして得られた反応生成物とアクロレインとを直接反応させて3-メチルチオプロピオンアルデヒドにする、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを間接的に製造する方法が開示されている。引用されている文献は、得られる3-メチルチオプロピオンアルデヒドの貯蔵安定性が低いことを主題にしていないので、そこでは、この問題に対して解決策は提供されていない。
【0003】
今では、高分子量の高沸点物質(これは単純な蒸留において蒸留残渣として残るので、総称して「残渣」と称する)の形成を理由にMMPの貯蔵安定性が低いという問題が知られている。この場合、残渣の形成は、主にα-アジドアルデヒド官能基の高い反応性に起因しており、これは、例えば、分子間アルドール付加反応およびアルドール縮合反応を促進する。製造においては、多くの場合、着色が強いこともある副生成物の導入を避けるために、蒸留されたMMPが使用されるものの、中間貯蔵および場所移動の伴う輸送は、多くの場合、未蒸留のメチルメルカプトプロピオンアルデヒドの非常により安定した段階において行う必要がある。また、多くの場合、これを、残渣の形成を大幅に抑制するpH調整添加剤と混ぜる必要がある。
【0004】
これまで、メチオニンを合成するために用いられる中間体であるMMPを貯蔵安定性にするために、ひいては輸送可能にするために、多種多様な添加剤が添加されてきた。添加剤としては、例えば、国際公開第93/13059号では、トリエタノールアミンとアスコルビン酸との混合物が使用されており、欧州特許出願公開第899258号明細書では、飽和金属錯体を形成する有機酸、例えば、L-酒石酸が使用されており、特願昭49116017号では、N,N-ジアルキルアニリンが使用されており、特願平10152467号では、酸化鉄が使用されており、または欧州特許出願公開第2813489号明細書では、アミンおよび有機酸が連続的に使用されている。
【0005】
これらの添加剤は、プロセスにおけるさらなる使用の前に、蒸留によって大部分が分離される。したがって、蒸留されたMMP(純粋なMMP)は、貯蔵安定性が数日間と著しく低下しているので、可能な限り迅速に製造においてさらに加工され、基本的に、副生成物の形成による損失を避けるためにそれ以上は輸送されない。
【0006】
添加剤の使用の欠点は、これを最初に添加し、続いて再び除去する必要があることである。よって、これらの添加剤が必要なければ、かなりの労力およびコストを削減することができる。さらに、未蒸留のMMPしか輸送できないという制限によって、中間体を物流でやり取りする際の柔軟性が低くなる。
【0007】
より最近の特許出願である欧州特許出願公開第3205643号明細書では、1,3-ビス(メチルチオ)プロパン-1-オール、すなわち、1分子のMMPと1分子のメチルメルカプタンとの付加生成物を、メチルメルカプトプロピオンアルデヒドおよび/またはメチルメルカプタンの安定した貯蔵形態として使用することによって、添加剤の使用の問題が回避されている。
【0008】
さらに、欧州特許出願公開第3339290号明細書では、MMPとメチルメルカプタンとが反応させられて、貯蔵安定性化合物である1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オール、すなわち、2分子のMMPと1分子のメチルメルカプタンとの付加生成物が形成される、3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒドおよび/またはメチルメルカプタンの貯蔵および/または輸送のための組成物の使用、ならびにこの生成物を含有する組成物によって、添加剤の使用の問題が解決されている。
【0009】
しかしながら、この貯蔵形態の欠点、ならびに欧州特許出願公開第3205643号明細書からの貯蔵形態である1,3-ビス(メチルチオ)プロパン-1-オールの欠点は、これらの生成物を直接メチオニンへとさらに変換させることができず、予めその中に結合されているメチルメルカプタンの割合を、まずアクロレインとのさらなる反応によって完全に3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒドに変換させなければならないことであり、これは、さらなる費用を意味する。しかしながら、同時に、MMP自体に比べてリスクの可能性がより高いことから、安全要件は、MMPの貯蔵の場合よりも高くなる。
【0010】
それとは対照的に、米国特許第4,048,232号明細書には、触媒としてのヘキサメチレンテトラミンを用いてアクロレインおよびメチルメルカプタンからMMPを製造する方法がまず記載されている。さらに、そのようにして生じた生成物が精製なしで直接さらに使用可能であることが言及されている。しかしながら、生成物がより長い期間にわたって貯蔵されることが望ましい場合、生成物を水で処理し、その目的のために、この生成物を、例えば、0.01~1体積部の水で単純な洗浄工程にかけること、すなわち、水との非常に短い接触を確立すること(先の段2)が有利である場合がある。しかしながら、洗浄以外に他の処理の可能性が存在するかどうか、もし存在するなら、これらをどのように実施すべきであり得るか、またはこれによってどのような効果が達成され得るかは記載されていない。
【0011】
それとは対照的に、国際公開第03/13059号には、MMPなどの安定化させるべきS置換アルデヒドにおける水の存在は、最小限に、すなわち、最大300ppm、好ましくは100ppm未満に制限される必要があることが開示されている(22頁)。
【0012】
また、欧州特許出願公開第899258号明細書の[0007]には、これまでに記載した、一般にアルカナールを安定化させる方法のいずれも、安定化が少量の非毒性物質を伴って生じるという要件および最大2%の含水量が許容可能であるという要件を満たさないと開示されている。
【0013】
発明が解決しようとする課題
よって、中間体である3-メチルチオプロピオンアルデヒドを、例えば蒸留によって生じるその純粋な形態でも可能な限り安定的に貯蔵することができる解決策が必要とされていた。その際、コストの高いまたは後のプロセス工程の邪魔になる添加剤の使用を大幅に省略可能にすべきである。また、可能な限りさらなる危険物質を使用することなく安定化を達成し、安定した形態を可能な限り直接メチオニンへとさらに変換できるようにすべきである。
【0014】
課題を解決するための手段
驚くべきことに、比較的少量の、例えば準化学量論量の水(生じる混合物中で2.5~25重量%)を選択的に添加して、水の実質的な分離を起こすことなく反応させること(例えば、水での洗浄が該当するであろう)によって、蒸留されたMMPにおける残渣の形成が著しく低減されることが見出された。
【0015】
1分子の水によって2分子のMMPがマスキングされている、ここで本発明によって形成される式Iの化合物は、式Iの化合物と、3-メチルチオプロピオンアルデヒドと、3-メチルチオ-1,1-プロパンジオールと、水とを含む本発明による組成物においても、明らかにこの非常に有益な効果をもたらす。例えば、0.14重量%の含水量を有する蒸留されたMMPは、室温での6週間にわたる貯蔵後に、すでに7.3重量%の残渣を有し、その一方で、10重量%の含水量を有する蒸留されたMMPは、6週間にわたる貯蔵後に、0.6重量%の残渣しか有さず、すなわち、著しくより低い値を有する(実施例6~9、
図1を参照)。このようにして、蒸留されたMMPの貯蔵における損失を、極めて単純かつ非常に費用効果の高い手法で回避することができる。
【0016】
したがって、本発明の対象は、上記の課題の解決に寄与する、IUPAC名1-(1’-ヒドロキシ-3’-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールの式(I)の化学化合物の使用である。
【0017】
【0018】
これまでに記載されていない化合物Iは、二量体のMMP水和物(MMP2O)として解釈することができ、2つのジアステレオマーの形態で生じ、一方のジアステレオマーは、エナンチオマー対として存在し、第2のジアステレオマーは、アキラルメソ形態として存在し、以下の体系的な名称を有する:
・ メソ-1-(1’-ヒドロキシ-3’-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オール、
・ 1-(1’R-1’-ヒドロキシ-3’-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1S-オール、および
・ 1-(1’S-1’-ヒドロキシ-3-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1R-オール。
【0019】
本発明によると、化合物Iは、有利には、製造条件的に生じるジアステレオマー混合物で直接使用することができるが、ジアステレオマーまたはエナンチオマーの純粋な形態でも使用することができる。
【0020】
同様に、単MMP水和物である3-メチルチオ-1,1-プロパンジオールは、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを貯蔵および/または輸送するための保護形態として使用することができる。この化合物については、Chem. Commun. 2017, 53, 4919においてC.Fernandez-Garciaが初めて記載した。しかしながら、これまで、本発明によるその使用は見られなかった。
【0021】
よって、本発明の課題は、主に、上記の課題を解決する、
40~95重量%の3-メチルチオプロピオンアルデヒドと、
1~20重量%の3-メチルチオ-1,1-プロパンジオールと、
2~25重量%の式Iの化合物と、
2.5~25重量%の水と
を含む、組成物である。
【0022】
ここで、
40~94.5重量%の3-メチルチオプロピオンアルデヒドと、
1~20重量%の3-メチルチオ-1,1-プロパンジオールと、
2~25重量%の式Iの化合物と、
2.5~25重量%の水と
を含む、組成物が好ましい。
【0023】
ここで、
40~92重量%の3-メチルチオプロピオンアルデヒドと、
1~20重量%の3-メチルチオ-1,1-プロパンジオールと、
2~25重量%の式Iの化合物と、
5~10重量%の水と
を含む、組成物が極めて特に好ましい。
【0024】
この組成物は、特に0~60℃、好ましくは5~40℃の温度範囲において、特に安定かつ貯蔵可能であることが証明されている。ここでは、大部分が均質な液相が存在する。これには、例えば激しい撹拌などによる事前の均質化なしで、または分離された相を下流で個別に計量供給もしくは分析することを伴う比較的煩雑な相分離なしで、混合物をMMP等価物としてメチオニンプロセスに直接導入することができるという特別な利点がある。他方で、最大25重量%、好ましくは10重量%の必要含水量は、まだそれほど多くないので、MMP等価物あたりの貯蔵容量を大幅に増加させることが必要になるであろう。容量が増加しており、かつ組成が変更されているにもかかわらず、基本的に、既存のMMP貯蔵タンクを引き続き使用することができ、これには大きな価値がある。
【0025】
したがって、本発明の対象は、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを貯蔵および/または輸送するための保護形態としての、3-メチルチオ-1,1-プロパンジオール、または式Iの化合物、または上記の組成物の使用でもある。この場合、貯蔵は、好ましくは0~60℃で、特に好ましくは5~40℃の温度範囲で、最大12ヶ月、好ましくは最大8ヶ月、特に好ましくは最大4ヶ月の期間にわたって行われる。これらの条件下では、残渣の形成は低水準に保たれる(特に、実施例8および9を参照)。
【0026】
本発明によると、上記のタイプの組成物は、3-メチルチオプロピオンアルデヒドと、(混合物の総量を基準として)2.5~25重量%、好ましくは5~20重量%、特に好ましくは5~10重量%の水とを、激しく混合しながら、0~100℃、好ましくは3~70℃、特に好ましくは5~40℃の温度で反応させることを特徴とする方法によって有利に製造することができる。この文脈において、成分の激しい混合は、例えば撹拌機を使用する場合、約60~180rpmで達成される。
【0027】
ここで、反応の好ましい継続時間は、0.5~72時間、特に1~48時間であり、温度が高いほど短く、温度が低いほど長くなるように選択される。
【0028】
【0029】
本発明による方法は、非常に容易な手法にて、さらなる助剤なしで、水を用いて適度な温度で問題なく実施できる点で優れている。水はメチオニンの後続の製造プロセスにおいていずれにせよ必要となるので、MMPの代わりに本発明によるMMP含有組成物を使用する場合、比較的多く水を導入しても重大ではない。
【0030】
したがって、本発明の対象は、3-メチルチオプロピオンアルデヒドと、3-メチルチオ-1,1-プロパンジオールと、式Iの化学化合物と、水とを含む本発明による組成物であって、前述のタイプの本発明による方法によって製造された組成物でもある。
【0031】
また、本発明による上記の方法は、式Iの化合物を製造および濃縮または単離するのに非常に良好に適しており、この方法は、3-メチルチオプロピオンアルデヒドと、2.5~25重量%の水とを、激しく混合しながら、0~60℃、好ましくは20~50℃、極めて特に好ましくは25~45℃の温度で反応させ、続いて、化合物Iを濃縮または単離するように実施される。工業用の3-メチルチオプロピオンアルデヒドから本発明による方法を実施する場合、通常、混合物中のpH値は、複合電極を有するpH計で直接測定して、2.5~7に調整される。好ましくは、pH値は、pH3~6のやや酸性の範囲にある。pH値は、有機または無機の酸または塩基を少量添加することによって正確に調整することができる。これは、挙げられたMMP誘導体の極めて明確な平衡割合を得ることが望ましい場合、特に有利である。
【0032】
ここで、純粋な形態の式Iの化合物の濃縮または単離は、クロマトグラフィー、結晶化、または真空蒸留によって実施することが適切である。式Iの化合物は、MMP、MMP水和物、および水と温度依存性平衡にあるので、穏やかな方法変形形態のみを使用することが適切である。ここで、クロマトグラフィー法では、塩基性から中性のpH値を生じさせる担体材料を固定相として選択すべきである。同様のことが溶離液にも当てはまり、これは酸性反応を示してはならない。蒸留精製には、特に薄膜蒸発器システムおよび短経路蒸発器システムが考えられ、これらは、高真空において特に穏やかな条件を可能にする。本発明による方法変形形態すべてにおいて、好ましくは、純粋なMMP品質、すなわち、例えば事前に蒸留された3-メチルチオプロピオンアルデヒドが使用される。
【0033】
3-メチルチオ-1,1-プロパンジオールおよび化合物Iまたは上記のタイプの組成物のどちらも、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMPシアンヒドリン)、すなわち、メチオニンまたはメチオニンヒドロキシ類似体への経路における工業的に非常に重要な中間生成物を製造するために、MMPの代わりに直接使用することができる。その際、挙げられた出発物質は、それぞれ等モル量の青酸と反応させられ、ここで、青酸はまた、その塩のうちの1つから、例えば、アルカリ金属シアン化物およびNH4Cl、NH4HSO4、または(NH4)2SO4などのプロトン供与塩からその場で初めて放出され得る。
【0034】
3-メチルチオ-1,1-プロパンジオールおよび化合物Iまたは上記のタイプの組成物のどちらも、メチオニンヒダントイン、すなわち、一般的なメチオニン合成(すなわち、Degussaの炭酸カリウム循環法(Degussa-Kaliumcarbonat-Kreislauf Verfahren))の中心的な中間生成物を製造するために、MMPの代わりに直接使用することができる。ここで、この反応は、例えば、直接的に、青酸、アンモニア、および二酸化炭素または炭酸水素アンモニウム/炭酸アンモニウムを用いて行われるか、または青酸との反応によって事前に生成された、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリルの中間段階を介して行われる。
【0035】
さらに、本発明によると、相応して、3-メチルチオ-1,1-プロパンジオール、または化合物I、または上記のタイプの組成物は、例えばメチオニンヒダントインの中間段階を介してメチオニンを製造するために、MMPの代わりに使用することが可能である。
【0036】
同様に、本発明の対象は、すでに先に説明したようにMHA前駆体である2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリルを最初に製造するメチオニン代替物質2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)酪酸(MHA)製造のための、3-メチルチオ-1,1-プロパンジオール、または式Iの化合物、または上記のタイプの組成物の使用である。このようにして、本発明による使用を、例えば欧州特許第143100号明細書(特に、例1)に記載されているようなMHA製造の手順に組み込むことができる。
【0037】
本発明の相応するさらなる対象は、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリルの製造方法において、3-メチルチオ-1,1-プロパンジオール、または請求項1に記載の化合物、または上記の本発明による組成物を、アミン塩基(例えば、トリエチルアミン、ピリジン、またはルチジン)および必要に応じてさらに酸(緩衝液)の存在下で、青酸または他のシアン化物源と反応させることを特徴とする方法である。プロセスパラメータは、それ以外では、例えば、欧州特許出願公開第2678313号明細書(特に、例1および2)または欧州特許出願公開第2768312号明細書、および米国特許第5705675号明細書(特に、例4、段13、列29以降)、ならびにこれらにそれぞれ引用されている関連文献などの関連する専門文献(これらはすべて参照によって本明細書に組み込まれる)の説明から当業者がMMPから出発する方法について知っているものに相応し得る。
【0038】
同様に、本発明の対象は、メチオニンヒダントインの製造方法において、3-メチルチオ-1,1-プロパンジオール、または式Iの化合物、または上記のタイプの組成物を、水の存在下で、青酸、アンモニア、および二酸化炭素または炭酸水素アンモニウム/炭酸アンモニウムと、または青酸との反応によって事前に生成された、2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリルの中間段階を介して、反応させることを特徴とする方法である。プロセスパラメータは、それ以外では、例えば、欧州特許出願公開第780370号明細書(特に、例1~4)およびこれにそれぞれ引用されている関連文献などの関連する専門文献(これらはすべて参照によって本明細書に組み込まれる)の説明から当業者がMMPから出発する方法について知っているものに相応し得る。
【0039】
最後となるが、本発明のさらなる対象は、上記のタイプの組成物と、HCN、NH3、二酸化炭素とを反応させてメチオニンヒダントインにし、続いて、アルカリけん化によってメチオニンアルカリ塩にし、その後、酸で中和することよってメチオニンにすることで、D,L-メチオニンを製造する相応した方法である。当業者であれば、例えば、欧州特許出願公開第780370号明細書、特に例1~7などの関連する専門文献(これは参照によって本明細書に組み込まれる)から、使用すべきプロセスパラメータも見つけることができる。
【0040】
相応する本発明の実施例11および12は、メチオニン、メチオニンアミド、およびメチオニルメチオニンの高い変換率および総収率を示す。
【0041】
また、これに関して表4に要約されている結果は、2.5重量%以上の含水量を有するMMP2Oの多い本発明による組成物(実施例11、12)および約1重量%の含水量しか有しないMMP2Oの少ない本発明によるものではない組成物(比較例1、2)が、メチオニンの製造において同等の収率および副生成物組成物をもたらすことを明確にしている。
【0042】
また、これらの結果は、本発明による組成物中に部分的に2.5重量%をはるかに上回る割合で含有されているMMP誘導体MMP2OおよびMMP水和物が、驚くべきことに、同等の実施条件において、誘導体化されていないMMPと少なくとも同等なほど良好に目的生成物中のメチオニン等価物に変換可能であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】様々な含水量での3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒドの残渣形成の傾向(実施例6~9)を示す図。
【
図2】本発明による組成物の例示的な
13C-NMRスペクトルを示す図。
【
図3】本発明による組成物の例示的な
1H-NMRスペクトルを示す図。
【0044】
実施例
使用される方法:
1.真空蒸留による残渣の測定
残渣の測定を、Buechi社のGKR-50タイプのクーゲルロール蒸発器内で実施した。この目的のために、蒸留に使用される受器の空重量を最初に特定した。次いで、15gの重量(m(初期量))の蒸留すべき物質を正確に量り入れ、受器をクーゲルロール蒸発器内に入れた。蒸留受器の加熱を200℃に調整し、真空ポンプの圧力調整器によって圧力を30mbarに調整した。すべてのサンプルにおいて、蒸留を20分間の期間にわたって行った。蒸留装置を冷却した後に、この装置を通気した。続いて、受器を取り出して量り、重量(m(残渣))を特定した。残渣は、以下の式によって特定した:
【数1】
【0045】
2.NMR分光法での調査
サンプル中の平衡状態で存在する化合物である3-メチルチオプロピオンアルデヒド、3-メチルチオ-1,1-プロパンジオール、および1-(1’-ヒドロキシ-3-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールの含有量を、BrukerのAdvance 600タイプの装置を用いてNMR分光法(核磁気共鳴)によって特定した。
【0046】
例として、溶媒が混ぜられていないサンプルの13C-NMRスペクトルを150MHzで記録した。記録されたスペクトルから、構成要素のモル比を相互に読み取った。参照物質としては、d6-DMSOを使用し、これを密閉された毛細管内に入れて、当該サンプルのNMR管に導入した。13C-NMRスペクトルにおける、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、3-メチルチオ-1,1-プロパンジオール、および1-(1’-ヒドロキシ-3-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールの特性シグナルを選択して、比を形成した。これは、3-メチルチオプロピオンアルデヒドの場合、42.3ppmにおけるシグナル-CH2-CHOであり、3-メチルチオ-1,1-プロパンジオールの場合、89.7ppmにおけるシグナル-CH2-C(OH)2であり、1-(1’-ヒドロキシ-3-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールの場合、91.2または96.4ppmにおけるシグナルO(C(OH)-CH2-CH2-SCH3)2であり、ここでは、双方のジアステレオマーについて合計積分を形成した。
【0047】
質量比は、カールフィッシャー滴定によって特定された総含水量を考慮してモル比から計算した。
【0048】
添付の
図2および
図3はそれぞれ、本発明による組成物の例示的な
13C-NMR(150MHz、溶媒なし、d
6-DMSO毛細管)および
1H-NMRスペクトル(600MHz、d
6-DMSO)を示す。
【0049】
3.カールフィッシャー滴定による含水量の特定
本発明による組成物中の含水量を、終点の双電極電流指示(biamperometrischer Indikation)を伴う滴定によるカールフィッシャー法によって特定した。この目的のために、滴定容器内に、20~30mlの滴定媒体、例えば、Fluka社のHydranal Solvent 5を予め挿入し、滴定剤、例えば、Fluka社のHydranal Titrant 5で乾式滴定した。約500mgのサンプル量をプラスチック製の使い捨てシリンジで乾式滴定される受器に加えて、滴定剤で終点まで滴定した。正確なサンプルの初期量は、示差秤量によって特定した。
【0050】
この標準的な方法の実施は、当業者に公知であり、関連文献、例えば、P. A. Bruttel, R. Schlink, ”Wasserbestimmung durch Karl-Fischer-Titration“, Metrohm AG, 2006に広く記載されている。
【0051】
4.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
クロマトグラフィーによる調査(MMPシアンヒドリン、MMP、メチオニン、メチオニンアミド、ヒダントイン、ヒダントインアミド、ヒダントイン酸、Met-Met)を、RP-18塔(250×4.6mm;5μm)におけるJASCO社のHPLCによって、続いて210nmでのUV検出によって実施した。溶離液としては、リン酸を含有するアセトニトリル-水混合物(3.3gのH3PO4、6.8gのアセトニトリル、89.9gのH2O)を用いた。1mL/分の流速で、10μLの各サンプル溶液(25mLのH2O中に入った50mgのサンプル)を注入した。較正は、適切な較正溶液を注入することによって事前に行い、評価は、外部標準法によりピーク面積を比較することによって行った。この標準法の実施は、当業者に公知である。
【0052】
実施例1~2:3-メチルチオ-1,1-プロパンジオール(MMP-OH)および1-(1’-ヒドロキシ-3’-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オール(MMP2O)の製造
工業的製造からの蒸留された3-メチルチオプロピオンアルデヒド(97.4重量%;196.0g(実施例1)、180.1g(実施例2))をフラスコに予め挿入し、室温で撹拌しながら水(4.0g(実施例1)、20.0g(実施例2))と混ぜた。続いて、得られた生成物混合物を室温で3日間にわたって撹拌し、NMR分光法およびカールフィッシャー滴定によって分析した。実施例1では、2.9mol%(6.0重量%に相当、表1を参照)のMMP2O含有量が特定された。実施例2では、7.9mol%または14.3重量%の含有量が特定された。実施例1および2の結果は、表1に要約されている。
【0053】
【0054】
(MMP=3-メチルチオプロピオンアルデヒド、MMP-OH=3-メチルチオ-1,1-プロパンジオール、MMP2O=1-(1’-ヒドロキシ-3-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパノール)
【0055】
実施例3~5:温度に応じた、本発明による組成物を有する単相水飽和混合物の平衡位置の調査
温度制御ジャケットを有する反応フラスコ内で、工業的製造からの蒸留された3-メチルチオプロピオンアルデヒド(96.1重量%;それぞれ30mL)を水(それぞれ30mL)と混ぜた。混合物を温度制御(実施例3:5℃、実施例4:25℃、実施例5:40℃)して、この温度で強く撹拌(120rpm)しながら15分間にわたって混合した。15分後に、撹拌機のスイッチを切り、温度制御をさらに維持した。数分(実施例5)または数日(実施例3)以内に、2つの透明な無色の相が形成された。下側の有機相を取り出し、HPLC、温度制御したNMR分光法、およびカールフィッシャー滴定によって迅速に特性評価した。MMP2Oの最大含有量は、25℃で約23重量%であると特定された(実施例4)。サンプルは、一連の試験の中で最大のMMP-OH含有量を5℃で示し、含有量は、約15重量%であると特定された(実施例3)。実施例3~5の結果は、表2に要約されている。
【0056】
【0057】
(MMP=3-メチルチオプロピオンアルデヒド、MMP-OH=3-メチルチオ-1,1-プロパンジオール、MMP2O=1-(1’-ヒドロキシ-3-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパノール)
【0058】
実施例6~9:1-(1’-ヒドロキシ-3’-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパノール(MMP
2O)含有混合物の貯蔵安定性
蒸留された3-メチルチオプロピオンアルデヒド(MMP、99.8重量%;含水量0.14重量%)を、室温で撹拌しながら様々な量の水と混ぜた(実施例6:182.2gのMMPに対して0.0gの水、実施例7:179.4gのMMPに対して4.6gの水、実施例8:178.6gのMMPに対して9.4gの水、実施例9:176.4gのMMPに対して19.6gの水)。サンプルを室温で数週間にわたって貯蔵し、一定の時間間隔を空けて残渣を真空蒸留によって特定した。これらの結果は、表3および添付の
図1に要約されている。これらの結果は、特に実施例8および9の場合のような増加したMMP
2Oの割合を有する混合物が、MMP
2Oなしの混合物よりも残渣の形成が著しく低減されていることを明確に示す。
【0059】
【0060】
(MMP=3-メチルチオプロピオンアルデヒド、MMP2O=1-(1’-ヒドロキシ-3-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オール)
【0061】
実施例10:1-(1’-ヒドロキシ-3-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オール(MMP2O)と、3-メチルチオ-1,1-プロパンジオール(MMP-OH=MMP水和物)と、MMPとを含有する本発明による組成物からの2-ヒドロキシ-4-(メチルチオ)ブチロニトリル(MMPシアンヒドリン)の製造
工業的製造からの蒸留された180.1gの3-メチルチオプロピオンアルデヒド(97.4重量%)をフラスコに予め挿入し、室温で撹拌しながら20.0gの水と混ぜた。続いて、得られた生成物混合物を室温で3日間(72時間)にわたって後撹拌した。NMR分光法およびカールフィッシャー滴定による特性評価によって、68.2重量%の3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒド、10.1重量%のMMP-OH、および14.3重量%のMMP2O(以下、MMP等価物と称する)の含有量が生じた。
【0062】
強力冷却器と滴下漏斗とを備えた三口フラスコ内で、173.6gの生成物混合物(1.50molのMMP等価物)を、触媒量のトリエタノールアミン(58mg)と混ぜて、氷浴によって冷却した。冷却された青酸(43.48g、1.59mol、1.06当量)を滴下漏斗によって20分間にわたって追加した。その際、30℃の温度を上回らないように計量供給量を調節した。溶液を室温で一晩にわたって後撹拌した。無色透明の生成物(205.28g)は、HPLC分析によって特性評価され、目的化合物であるMMPシアンヒドリン92.82重量%(1.45mol、使用されたMMP等価物を基準として96.8%の収率)と、遊離青酸と平衡している3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒド1.15重量%(0.03mol、2重量%)とを含有していた。上記の結果は、MMPシアンヒドリンが、MMP2OおよびMMP-OHの多い含水MMP、すなわち、本発明による組成物からも製造できることを示す。
【0063】
実施例11~12と比較例1~2:中間段階である5-[2’-(メチルチオ)エチル]-イミダゾリジン-2,4-ジオン(メチオニンヒダントイン)を介した、ならびに1-(1’-ヒドロキシ-3-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)-プロパン-1-オール(MMP2O)とMMPとを含有する本発明による組成物からのMMPシアンヒドリンを介したメチオニンの製造
工業的製造からの蒸留された180.1gの3-メチルチオプロピオンアルデヒド(97.4重量%)をフラスコに予め挿入し、室温で撹拌しながら20.0gの水を混ぜた。続いて、得られた生成物混合物を室温で3日間(72時間)にわたって後撹拌した。NMR分光法およびカールフィッシャー滴定による特性評価によって、68.2重量%の3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒド、10.1重量%のMMP-OH、14.3重量%のMMP2O、および7.4重量%の水の含有量が生じた。
【0064】
強力冷却器と滴下漏斗とを備えた三口フラスコ内で、173.6gの生成物混合物(1.50molのMMP等価物)を触媒量のトリエタノールアミン(58mg)と混ぜて、氷浴によって冷却した。冷却された青酸(43.48g、1.59mol、1.06当量)を滴下漏斗によって20分間にわたって追加した。その際、30℃の温度を上回らないように計量供給量を調節した。溶液を室温で一晩にわたって後撹拌し、過剰の青酸を特性評価によって特定した。12.6gの3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(0.12mol)を後計量供給し、室温で20時間にわたって後撹拌して、過剰の青酸を0.0mol%に調節した。
【0065】
撹拌子を備えた300mLのオートクレーブカップ(Autoklavbecher)内で、そのようにして得られたMMPシアンヒドリン37.2g(0.257molのMMP等価物)を、蒸留水(35.5g)、炭酸アンモニウム(13.9g、0.15mol)、および炭酸水素アンモニウム(23.4g、0.30mol)と混ぜた。反応容器を、マノメータと、加熱器と、温度センサと、圧力放出部とを備えたROTH社の高圧実験室用オートクレーブ内に移した。オートクレーブをしっかりと密閉し、撹拌しながら15分以内に105℃に加熱し、次いで、この温度でさらに20分間にわたって保持した。反応時間の経過後に、オートクレーブを流水で室温まで冷却し、生じた圧力(約15bar)を放出した。
【0066】
ここで、41.3gのKOH水溶液(24.3gのH2O中に入った17gのKOH)を、導入管を介して計量供給した。添加終了後に、撹拌しながらオートクレーブを25分以内に180℃に加熱し、次いで、この温度でさらに40分間にわたって保持した。反応時間の間、約5分ごとに、また10barを上回ったら少なくとも、圧力を放出して5barにした。反応時間の経過後に、オートクレーブを流水で室温まで冷却し、標準圧力まで放圧した。反応生成物(134.7g)のHPLC分析によって、変換率97.2%の場合、60.1%のメチオニン、6.9%のメチオニンアミド、および30.2%のメチオニルメチオニンが生じた。反復試験(実施例12)において、変換率99.5%の場合、71.4%のメチオニン、6.6%のメチオニンアミド、および21.4%のメチオニルメチオニンが得られた。
【0067】
比較例1および2
実施例11に類似しているが、実施例1による(1.2重量%の水を含有する)MMP2Oの少ない3-メチルメルカプトプロピオンアルデヒドから製造されたMMPシアンヒドリンを用いてメチオニンを製造する比較例1では、変換率95.0%の場合、63.0%のメチオニン、5.5%のメチオニンアミド、および26.5%のメチオニルメチオニンが生じ、反復試験(比較例2)では、変換率96.5%の場合、65.8%のメチオニン、6.5%のメチオニンアミド、および24.2%のメチオニルメチオニンが得られた。
【0068】
【0069】
(MMP=3-メチルチオプロピオンアルデヒド、MMP-OH=3-メチルチオ-1,1-プロパンジオール、MMP2O=1-(1’-ヒドロキシ-3-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オール)
【0070】
表4に要約されている結果は、MMP2Oの多い本発明による組成物(実施例11、12)およびMMP2Oの少ない本発明による組成物(比較例1、2)が、メチオニンの製造において同等の収率および副生成物スペクトルをもたらし、そのため、明らかに、MMP2O(1-(1’-ヒドロキシ-3-(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)-プロパン-1-オール)およびMMP-OH(3-メチルチオプロパン-1,1-ジオール)も、MMPシアンヒドリンおよびメチオニンヒダントインを介してメチオニンへと変換されることを示す。ここで、20%超という比較的高いMet-Metの割合は、実験室レベルの技術で実施したことに起因するものであり、メチオニンプロセスの連続工業用けん化塔(kontinuierlichen technischen Verseifungskolonnen)では、低いパーセント範囲になる。