(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】垂直離着陸車両
(51)【国際特許分類】
B64C 27/28 20060101AFI20240401BHJP
B64D 27/24 20240101ALI20240401BHJP
B64C 27/82 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
B64C27/28
B64D27/24
B64C27/82
(21)【出願番号】P 2021552238
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 NL2020000004
(87)【国際公開番号】W WO2020180173
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-09
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】521391690
【氏名又は名称】パル - フェー イーペー ベー.フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロス、エドウイン アントン
(72)【発明者】
【氏名】ヨーレ、ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ステケレンブルフ、ミハエル アルウィン ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ディガマンサ、ローレンス ヤコブス
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】英国特許出願公開第02238996(GB,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0057157(US,A1)
【文献】米国特許第05507453(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0014580(US,A1)
【文献】英国特許出願公開第02238995(GB,A)
【文献】米国特許第09611037(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0104154(US,A1)
【文献】英国特許出願公開第02130984(GB,A)
【文献】米国特許第04905932(US,A)
【文献】特開平03-121996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 27/28
B64D 27/24
B64C 27/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空中を飛行することが可能な車両(1)であって、
- 尾部セクション(20)を有する本体(10)
であって、前記車両(1)の長手方向を規定する、前記本体(10)と、
- 前記本体(10)の頂部に
、略垂直な回転軸を有するメイン・ロータ(100)と、
- 前記メイン・ロータ(100)の前記回転軸から、ある距離のところに、前記車両(1)の長手方向軸線に沿って配置された少なくとも1つの中央推力ユニット(200)と、
- 前記本体(10)の両側の少なくとも1つの設置支持体(40)と、
- 各設置支持体(40)に設置された少なくとも1つの側部推力ユニット(400)と
を備え、
前記車両(1)は、前記長手方向と前記回転軸とにより規定される仮想の垂直中央平面を有し、
前記
少なくとも1つの中央推力ユニット(200)は、前記車両の
前記仮想の垂直中央平面に直交する流れ成分を少なくとも有する空気流を提供するファンを備え、
前記側部推力ユニット(400)の各々は、前記仮想の垂直中央平面に平行な流れ成分を少なくとも有する空気流を提供するファンを備え、
前記
少なくとも1つの側部推力ユニット
(400
)は、対応する出力空気流を制御可能な手法で偏向させるための制御可能な空気
流偏向手段(420)
を備
え、
前記少なくとも1つの中央推力ユニット(200)のうちの少なくとも1つは、対応する出力空気流を制御可能な手法で偏向させるための制御可能な空気流偏向手段(420)を備える、車両(1)。
【請求項2】
前記中央推力ユニット(200)は、略水平方向を有する空気流を提供する、請求項1に記載の車両(1)。
【請求項3】
前記中央推力ユニット(200)は、前記尾部セクション(20)内に、又は前記尾部セクション(20)に、配置される、請求項1又は2に記載の車両(1)。
【請求項4】
側部推力ユニット(400)は、前記側部推力ユニットが略水平方向を有する空気流を提供する少なくとも1つの水平の作動位置を有する、請求項1から3までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項5】
側部推力ユニット(400)は、水
平軸の周りで傾斜させることが可能になっている、請求項1から4までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項6】
前記制御可能な空気
流偏向手段(420)は、前記出力空気流を横切る長手方向を有する一セットの相互に平行なディフレクタ・ストリップ(421)を備え、前記ディフレクタ・ストリップ(421)は、前記ディフレクタ・ストリップ(421)が、前記空気流と平行に配置されたそれらの幅方向を有する静止位置と、前記ディフレクタ・ストリップ(421)が、
前記空気流を偏向させるために前記空気流に対してある角度を成すそれらの幅方向を有する傾斜位置との間で、それら自体の長手方向軸線の周りで傾斜させることが可能になっている、請求項1から5までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項7】
前記ディフレクタ・ストリップ(421)には、グループ単位の又は個々の作動のための、複数の傾斜アクチュエータが備わっている、請求項6に記載の車両(1)。
【請求項8】
各推力ユニット(200、400)は、
- 入り口開口(411)及び出口開口(412)を有する略円筒形のシュラウド(410)
を備え、
前記
ファンは、シュラウド(410)の内部に配置され、前記シュラウド(410)と略同軸のファン心棒(431)を有す
る、請求項1から
7までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項9】
少なくとも1つの中央推力ユニット(200)
を使用して、トルク対抗力を生成して、前記車両を静止させて維持する、及び/又はヨー制御を提供する様式で作動することが可能になっている、請求項1から
8までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項10】
前記側部推力ユニット(400)のうちの少なくとも1つを使用してトルク対抗力を生成して、前記車両を静止させて維持する、及び/又はヨー制御を提供する特定の様式で作動することが可能になっている、請求項1から
9までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項11】
両方の側部推力ユニット(400)を使用してトルク対抗力を生成して、前記車両を静止させて維持する、及び/又はヨー制御を提供する様式で作動することが可能になっている、請求項1から
10までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項12】
前記側部推力ユニット(400)のうちの少なくとも1つを、少なくとも1つの中央推力ユニット(200)と協働して使用してトルク対抗力を生成して、前記車両を静止させて維持する、及び/又はヨー制御を提供する様式で作動することが可能になっている、請求項1から
11までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項13】
両方の側部推力ユニット(400)を使用して推進力を生成する様式で作動することが可能になっている、請求項1から
12までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項14】
少なくとも1つの側部推力ユニット(400)の前記
空気流偏向手段(420)を使用してロール制御を提供する様式で作動することが可能になっている、請求項1から
13までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項15】
少なくとも1つの中央推力ユニット(200)の前記
空気流偏向手段(420)を使用してピッチ制御を提供する様式で作動することが可能になっている、請求項1から
14までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項16】
少なくとも1つの推力ユニット(200;400)の前記
空気流偏向手段(420)が、ヨー制御を変えるため、及び/又はロール制御を変えるため、及び/又はピッチ制御を変えるために変更される様式で作動することが可能になっている、請求項1から
15までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項17】
前記推力ユニット(200;400)は、電気モータによって駆動され、前記車両は、前記メイン・ロータ(100)が発電機を駆動して電力を生成するオートローテーション・モードで作動することが可能であり、前記推力ユニット(200;400)のうちの少なくとも一方の前記電
気モータは、前記メイン・ロータ(100)によって、こうして生成される前記電力の少なくとも一部によって供給される、請求項1から
16までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項18】
前記メイン・ロータは、独立した区画化されたコイルを備える電気モータによって駆動される、請求項1から
17までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項19】
前記メイン・ロータは、常に相互に同一のピッチを有するロータ・ブレードを有する、請求項1から
18までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項20】
前記ロータ・ブレードのピッチは、ひとまとめに調節可能になっている、請求項
19に記載の車両(1)。
【請求項21】
各設置支持体(40)は、翼として成形される、請求項1から
20までのいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項22】
中央推力ユニット(200)は、前記尾部セクション(20)内に設置され、
前記中央推力ユニット(200)の前記
ディフレクタ・ストリップ(421)は、前記ユニットの入り口側及び出口側、すなわち、前記
尾部セクション(20)の右側及び前記
尾部セクション(20)の左側に配置され、
前記
ディフレクタ・ストリップ(421)は、それらが前記中央推力ユニット(200)の周りで前記
尾部セクション(20)と略同一平面になる閉鎖位置を有する、請求項6
または7に記載の車両(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く言えば、垂直に離着陸することが可能であり、それ故、いかなる長さの滑走路も必要とせずに、比較的小さい面積から離陸し、比較的小さい面積に着陸することができる、航空機又は飛行機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
垂直離着陸車両は、以後、VTOL車両と示され、それ自体は既知である。一部は、本体の両側に設置された2つの推力提供ジェット・エンジンに基づいて設計されており、このジェット・エンジンは、AV-8ハリア・ジャンプ・ジェットなど、垂直の推力を提供するために傾斜させることができる。他の実例は、V-22オスプレイなど、翼に設置された傾斜可能なプロペラの原理を利用する。
【0003】
別の設計は、ヘリコプターなど、本体の上方に設置された1つ又は複数のリフト・ロータを有することに基づいている。ロータ・ブレード及び/又は車両全体の傾斜の好適な制御は、前方への飛行のための水平の推力を提供する。
【0004】
動力の供給に関して、より大型の航空機は、燃料によって常に動力が供給される。電気により動力が供給される航空機を有することが望ましいが、必要とされる動力は、意図される任務の方針に対して電力供給源(バッテリ)がかなり重たくなるようなものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、飛行することが可能であり、比較的軽量であり、応答性のよい制御を有し、推進力/推力システムの故障、すなわち、推力生成器の故障及びその電力供給源における故障に対して安全性が高められた、乗客のいる車両のための簡素化された設計を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、電気により動力が供給されるのに適したそのような設計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提示される設計の基盤は、ロータ上昇式の車両であり、すなわち、上昇は、中央ロータによって提供される。一実施例において、車両は、いかなる水平の速度も必要とせずに垂直に離着陸することが可能である。別の実施例において、車両は、ジャイロコプターの原理に従って設計されており、これは、離着陸時に何らかの水平の速度を必要とし、必要とされる速度は、典型的には100m未満の比較的短い距離の滑走路で獲得される(離陸する)、又は取り除かれる(着陸する)。「短い離着陸(Short TakeOff and Landing)」という表現は、「STOL」と短縮され、このような、及び他の実施例を包含するための一般的なフレーズとして使用される。
【0008】
本発明のこのような及び他の態様、特徴及び利点は、図面を参照して1つ又は複数の好ましい実施例の以下の記載によってさらに説明され、これらの図面では、同一の参照符号は、同一又は同様の部分を指している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明によるSTOL車両の一例を概略的に示す図である。
【
図3A】ディフレクタの動作を概略的に図示するための側部推力ユニットの概略断面図である。
【
図3B】ディフレクタの動作を概略的に図示するための側部推力ユニットの概略断面図である。
【
図3C】ディフレクタの動作を概略的に図示するための側部推力ユニットの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明に従って設計されたSTOL車両1を概略的に示す。車両1は、尾部セクション20を備え、車両の長手方向を画定する細長い本体10を備える。尾部セクション20には、尾部フォイル構造30が備わっている。本体10の各側に、少なくとも1つの設置支持体40が設けられている。本体10の頂部には、マスト50が設けられ、これは、メイン・ロータ100を担持し、実質的に垂直の回転軸を有する。車両の仮想の垂直中央平面は、前記長手方向と組み合わせてその回転軸によって画定される。
【0011】
メイン・ロータ100の他に、車両1には、尾部セクション20内に、又は尾部セクション20に配置された中央推力ユニット200と、設置支持体40に配置された側部推力ユニット400とが備わっている。車両は、面ごとに2つ以上の設置支持体を有してもよく、設置支持体は、2つ以上の側部推力ユニットを担持してもよい。設置支持体40の主な目的は、対応する側部推力ユニットを本体10からいくらかの水平の距離に保持することであり、その正確な設計は、本発明にとって本質的ではない。例えば、設置支持体40は、管で構成されてもよい。それでもやはり、設置支持体40は、空気力学的な外形を有することが好ましく、設置支持体40は、飛行中、機体を上昇させるのに貢献するために翼として成形されることが望ましい場合がある。
【0012】
推力ユニット200、400は以下でより詳細に記載される。この点では、推力ユニット200、400は、メイン・ロータによって提供される反応トルクに対抗し、且つ方位制御を提供するために水平の成分を有する力を提供するという目的を果たし、また、それらは、ピッチ制御及びロール制御を提供するために垂直の成分を有する力を提供するという目的も果たす。結果として、車両を水平に、すなわち前後に操縦するため、また横向きにも操縦するために、ピッチ制御及びロール制御を使用して、メイン・ロータによって提供される垂直の上昇ベクトルをわずかに傾斜させることができ、その一方で、メイン・ロータ自体は、循環制御のない比較的簡素な設計を有してよい。そのような簡素なロータ設計は、メンテナンスを含めたコストの低下を伴い、また故障のリスクも低下する。最も簡素な実施例では、ロータ・ブレードは、固定されたピッチを有するが、ロータ・ブレードのピッチは、上昇を(素早く)変更するために、ひとまとめに調節できることが好ましい。
【0013】
メイン・ロータ100は、比較的大きく、その結果、車両1は、効率的にホバリングすることができる。メイン・ロータ100は、例えば、2、3、4、5、6又はそれ以上のブレードを有してよいが、ブレードの数が増えることは、複雑さ及び重量が増すことになる。
【0014】
中央推力ユニット200は、原則としては、車両1の長手方向軸線に沿ったいずれの場所に配置されてもよく、機首でもよい。メイン・ロータ100の回転軸から比較的大きな距離が有利であり、このような理由で、尾部セクション20内の、又は尾部セクション20における場所が好ましい。車両は、2つ以上の中央推力ユニットを有する場合もある。
【0015】
中央推力ユニット200は、前記垂直中央平面に概ねに直交するその回転軸を有する少なくとも1つのファンを備える。中央推力ユニット200の正確な配向は、本発明にとってそれほど重大ではなく、中央推力ユニット200が、いずれの場合でも、前記垂直中央平面に直交する成分を推力に提供することが可能である限り、二次設計の検討事項によって決められてよい。
【0016】
車両1は、2つ以上の中央推力ユニット200の1つのグループを備える場合もある。そのようなケースでは、それぞれのファンは、直線になるように整列されてよく、それらの回転軸は、共通の仮想平面内に配置されており、これは、水平であっても、車両1の長手方向に傾いていてもよい。三角形の構成では、例えば3つのファンが配置されてよい。車両1は、メイン・ロータ100の前方に少なくとも1つの中央推力ユニット200を備え、メイン・ロータ100の後方に少なくとも1つの中央推力ユニット200を備えてもよい。
【0017】
各側部推力ユニット400は好ましくは、対応する支持体40の遠位端に設置される。支持体40の正確な長さは、本発明にとって本質的ではなく、一般に、長い支持体ほど、側部推力ユニット400の力のベクトルのためにより長いアームを提供するとみなされてよく、また、翼形状の場合、より大きな上昇を提供するが、これにはより多くの空気抵抗も伴う。
【0018】
側部推力ユニット400は、前記垂直中央平面に概ね平行なその回転軸を有する少なくとも1つのファンを備える。側部推力ユニット400の正確な配向は、本発明にとって重大ではなく、側部推力ユニット400が、いずれの場合にも、前記垂直中央平面に概ね平行な成分を推力に提供することが可能である限り、二次設計の検討事項によって決められてよい。推力に常に概ね水平の成分が提供されているように、側部推力ユニット400は位置固定される場合もある。側部推力ユニット400は、前記垂直中央平面に概ね直交する軸の周りで傾斜させることが可能である場合もあり、そのようなケースでは、傾斜範囲は、概ね水平の成分を有する推力が提供される作動位置を含む。
【0019】
図2は、推力ユニットの概略斜視図である。一例として、側部推力ユニット400がここに描かれ以下で考察されるが、基本的に同一の設計の問題は、中央推力ユニットにも同様に適用される。これはまた、推力ユニットの概略断面図である
図3A~
図3Cにも適用される。
【0020】
空気のよりよい誘導のために、推力ユニット400は、入り口開口411と、出口開口412とを有する実質的に円筒形のシュラウド410を備える。シュラウド410の内側に、シュラウド410と実質的に同軸のファン心棒431を有して、ファン430が配置される。一セットのファン・ブレード432が、特定の軸方向の位置でファン心棒431に設置される。ファン430は、示されるように、互いに対して軸方向距離に、2つ以上のそのようなセットのスタックを有してよい。
【0021】
ファン430は、入り口411から出口412へと、その心棒431に概ね並行な空気流を生成し、これはシュラウド410によって閉じ込められ、シュラウド410によって運ばれる。推力ユニット400には、その出口412に空気流偏向手段420が備わっていることは、本発明の特定の特徴である。そのような空気流偏向手段420は、例えば、非対称の出口開口412によって、及び/又はシュラウド内の湾曲によって実現されてよい。好ましい一実施例では、示されるように、前記空気流偏向手段420は、以後、空気流ディフレクタ420とも呼ばれ、シュラウド軸に実質的に直交する、前記出口開口411を横切る長手方向を有する一セットの相互に平行なディフレクタ・ストリップ421を備える。ディフレクタ・ストリップ421は、傾斜可能に設置され、すなわちその後、いずれかの方向にその独自の長手方向軸線の周りで傾斜させることができる。安全性の問題のために、各ディフレクタ・ストリップ421には、個別の傾斜アクチュエータが備わっているのが好ましく、これは、例えば、小型電気モータ又は油圧式制御装置を含んでもよい。ディフレクタ・ストリップをグループで配置し、専用の傾斜アクチュエータを各グループに設けることも可能である。いずれの方法も、比較的簡素で軽量の設計は、1つの傾斜するストリップ又はストリップの1つのグループが故障した場合に、他のストリップが適切に作動を続けるという意味において冗長性を有する結果となる。結果として、そのような故障は、機能及び/又は制御のほんの小さなロスにしかならない。
【0022】
静止位置では、
図3Aに例示されるように、ディフレクタ・ストリップ421は、シュラウド410から外に流れる空気を偏向させないために、ファン心棒431に平行に配置されたその幅方向を有する。
図3B及び
図3Cに例示される、傾斜位置では、ディフレクタ・ストリップ421は、ファン心棒431に対してある角度を成し、このことから、シュラウド410から外に流れる空気を偏向させる。流れディフレクタ420は、ディフレクタ・ストリップ421が、実質的に水平に延びるそれぞれの長手方向軸線を有する水平の作動位置を有する。その後、
図3Bのケースでは、空気流は上向きに偏向され、流れディフレクタ420に対して下向きに反応力を及ぼし、その一方で
図3Cのケースでは、空気流は下向きに偏向され、流れディフレクタ420に対して上向きに反応力を及ぼす。
【0023】
流れディフレクタ420は、ファン心棒431の回転軸に平行な、又はそれと一致するディフレクタ軸を中心に、支持体40に対して全体で回転可能であるように設置されることが可能である。流れディフレクタ420が、そのディフレクタ軸を中心に回転されるとき、偏向された空気は、水平の流れ成分を獲得し、これにより水平の力成分を有する反応力を及ぼす。流れディフレクタ420が少なくとも90°に広がる回転範囲を有する場合、それは、垂直の作動位置に到達することが可能であり、この位置では、ディフレクタ・ストリップ421は垂直方向に延び、その結果、傾斜されるとき、それらは、水平方向にシュラウド410から流れる空気を、中央平面に向けて、又は中央平面から離れるように偏向させる。
【0024】
推力ユニット200、400は、
図4の概略的な上面図を参照して説明するように、2つの重要な機能を有する。
【0025】
1つの機能は、メイン・ロータ100によって生成される反応トルクに対抗することである。この目的を達成するために、水平の推力が利用される。前記機能は、中央推力ユニット200によって実行することができ、これは、矢印F2によって示されるように、反対方向に水平の推力を提供する。前記機能はまた、側部推力ユニット400のうちのいずれか1つによって個々に実行することもでき、これは、矢印F4A及びF4Bによって示されるように、長手方向に水平の推力を提供する。よって、システムは、冗長であり、このことは、安全性の観点から有利な特徴であるが、その理由は、推力ユニットのうちの1つ又は複数が故障したとしても、車両を制御するための反トルク力をなおも提供することができるためである。
【0026】
第2の機能は、配向制御を提供することである。ここでもまた、中央推力ユニット200及び/又は側部推力ユニット400のうちのいずれか1つの水平の推力を方位制御を提供する目的で使用することができる。側部推力ユニット400の水平の推力はまた、車両を長手方向に変位させるのに使用することもできる。中央推力ユニット200の空気流ディフレクタによって、中央推力ユニット200がピッチ制御のために垂直の推力を提供することが可能になる。側部推力ユニット400の空気流ディフレクタによって、側部推力ユニット400がロール制御のために垂直の推力を提供することが可能になる。この点におけるユーザ入力に対する車両による反応は、かなり素早くなる。
【0027】
別の詳細では、側部推力ユニット400は、上昇力を提供するのに貢献するため、及び/又は偏向された空気流を通してではなく、直接のファン出力を通してピッチ・モーメント又は回転モーメントを提供するのに貢献するために中央平面に実質的に直交する水平軸の周りで傾斜させることができる場合がある。
【0028】
前記推力ユニット200、400によって提供される出力の適切な制御は、車両が例えば、ゆっくりとした制御された速度で、垂直軸を中心に回転されることを可能にする。側部推力ユニット400を制御することは、車両が、前方に進むことを可能にする。同時に、中央推力ユニット200(
図4の矢印F2を参照)によって、及び/又は相互に異なる動力で側部推力ユニット400を駆動することによって(
図4の矢印F4A及びF4Bを参照)反トルク力を提供することができる。
【0029】
別の詳細では、中央推力ユニット200は、尾部セクション20の中に設置され、ディフレクタ・ブレードは、ユニットの入り口側並びに出口側に配置される、すなわち、機体の右側並びに左側に配置されることが可能である。これらのディフレクタ・ブレードは、シャッターとして機能することができる、すなわちそれらは、閉鎖位置を有し、その位置では、それらは、中央推力ユニット200の周りで機体と実質的に同一平面にある。これは、とりわけ、空気抵抗を低下させるために、飛行中に有益であり、尾部フォイル構造30は、場合によって側部推力ユニット400と協働して、そのような場合にピッチ制御及びヨー制御を提供することができる。
【0030】
推力ユニットは、燃焼機関によって駆動することができ、同じものをメイン・ロータにも適用することが可能であるが、推力ユニット及び任意選択でメイン・ロータが、電気モータによって駆動されることは本発明の特有の特徴であり、更にはこの電気モータは、バッテリ、燃料電池から、又はさらには燃焼機関及び/又は発電機を駆動するタービンからも動力を供給されてよい。これらの動力源の組み合わせも可能である。
【0031】
電気モータの使用によって、重要な安全機能が可能になる。動力源が故障した、又は使い果たされたと仮定されたい。このとき推力ユニット及びメイン・ロータはもはや駆動されず、車両は、降下することになる。メイン・ロータは、 オートローテーション・モードで作動することが可能であり、これは、いずれの場合でも、降下をかなり減速させることになる。さらに、メイン・ロータは、そのような場合に、発電機(これは、電気駆動式のメイン・ロータの場合には、発電モードで作動中のその独自の電気モータであり得る)を駆動するように設定される場合もあり、その結果、空気駆動式のメイン・ロータは、電気エネルギーの供給源となり、この電気エネルギーによって電気推力ユニットが駆動されて降下中の車両を制御することができる。
【0032】
簡素なメイン・ロータの使用を可能にすることは本発明の重要な態様である。よって、好ましい実施例では、メイン・ロータは、常に相互に同一のピッチを有するロータ・ブレードを有する。可能な一実施例では、そのピッチは、固定すらされる。別の可能な実施例では、そのピッチは調節可能である。
【0033】
本発明は、上記で考察した例示の実施例に限定されるものではなく、そのいくつかの変形形態及び修正形態は、添付の特許請求の範囲に定義されるような本発明の保護範囲内にあると見込まれることは当業者にとって明白であろう。例えば、推力ユニットに推力の逆転が備わっている場合もある。
【0034】
さらに、メイン・ロータは、並列に配置された2つ以上の(電気)モータによって駆動されてもよい。一方で、これにより、必要とされる動力を提供するためにより小型のモータの使用が可能になる。一方で、一つのモータが故障した場合、残りのモータがロータの稼働を維持することができる場合、これは冗長性をもたらす。モータはまた、冗長性を提供するために、いくつかの独立したセクションで構成されてもよい。
【0035】
さらに冗長性を拡大するために、推力ユニットは、二重又はそれ以上で提供されてもよい。
【0036】
さらに、メイン・ロータの軸は、わずかに後方に、及びわずかに側方に傾斜されて、離陸中に推力ユニットによって提供される推力の一部を相殺することが可能である。
【0037】
たとえ特定の特徴が異なる従属請求項において説明されていたとしても、本発明は、これらの特徴を共通して含む実施例にも関する。
【0038】
たとえ特定の特徴が互いとの組み合わせで記載されていたとしても、本発明は、これらの特徴のうちの1つ又は複数が省略された実施例にも関する。
【0039】
必須であるとして明示的に記載されていない特徴もまた、省略される場合がある。
【0040】
請求項におけるいかなる参照符号も、その請求項の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。