(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】低温性能が改善された船舶用ディーゼル潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 159/22 20060101AFI20240401BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20240401BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20240401BHJP
C10N 40/26 20060101ALN20240401BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20240401BHJP
C10N 30/02 20060101ALN20240401BHJP
【FI】
C10M159/22
C10N10:04
C10N40:25
C10N40:26
C10N30:08
C10N30:02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022061813
(22)【出願日】2022-04-01
(62)【分割の表示】P 2019572405の分割
【原出願日】2018-06-28
【審査請求日】2022-04-28
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598037547
【氏名又は名称】シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】501381217
【氏名又は名称】シェブロン・オロナイト・テクノロジー・ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギル、ミア
(72)【発明者】
【氏名】バン ホーテン、ビルヘルムス ペトリュス アントワーヌ
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/123106(WO,A1)
【文献】特表2012-532209(JP,A)
【文献】特表2011-508063(JP,A)
【文献】国際公開第2016/071519(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/071518(WO,A1)
【文献】特表2018-504498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮点火内燃機関における潤滑剤の低温特性を改善する方法であって、前記方法が、前記機関を、潤滑油組成物であって、(a)50重量%を超える、潤滑粘度の基油、および(b)
3.0~40重量%の、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩であって、アルキル置換基が1分子当り
20~24個の炭素原子を有する異性化アルファオレフィンから誘導される残基であるアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩を含み、
前記異性化アルファオレフィンは、0.1~0.4の異性化レベルを有し。ここで異性化レベルは
1
H NMR分光法で測定される、メチレン骨格基に結合したメチル基の相対量を表し、前記潤滑油組成物がSAE20、30、40、50、または60モノグレードエンジン油への2015年1月改訂のSAE J300の要件に対する仕様に適合するモノグレード潤滑油組成物であり、かつASTM D2896により測定して、5~200mgKOH/gのTBNを有する、潤滑油組成物を用いて動作させることを含む、方法。
【請求項2】
前記アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物が、アルキル置換フェノール、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸、またはそれらの組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記異性化アルファオレフィンが、異性化ノルマルアルファオレフィンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩が、活性成分基準で、100~500mgKOH/gのTBNを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記潤滑油組成物が、
5~100mgKOH/gのTBNを有する、請求項1に記載の
方法。
【請求項6】
前記潤滑油組成物が、他の清浄剤、分散剤、耐摩耗剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、腐食防止剤、防錆剤、解乳化剤、泡抑制剤、粘度調整剤、流動点降下剤、非イオン性界面活性剤、および増粘剤のうちの1種以上をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記圧縮点火内燃機関が、250~1100rpmで動作される4ストロークエンジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記圧縮点火内燃機関が、200rpm以下で動作される2ストロークエンジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記圧縮点火内燃機関が、残渣燃料、船舶用残渣燃料、低硫黄船舶用残渣燃料、船舶用留出燃料、低硫黄船舶用留出燃料、高硫黄燃料、またはガス燃料で燃料供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
低温性能が、ASTM D6749に従って測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩がハイブリッド清浄剤ではない、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩が、添加剤用の界面活性剤として単一の種類のアニオンを含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2017年6月30日に提出された米国仮出願第62/527,349号の利益およびこれに対する優先権を主張する。
【0002】
技術分野
本開示は、圧縮点火内燃機関で動作する潤滑油の低温性能を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
船舶用ディーゼル内燃機関は、一般的に、低速、中速、または高速のエンジンに分類され得る。低速ディーゼルエンジンは、サイズと動作方法が独特である。これらのエンジンは、非常に大きく、通常は1分間当り約60~200回転(rpm)の範囲で動作する。低速ディーゼルエンジンは、2ストロークサイクルで動作し、通常は燃焼生成物がクランクケースに入ってクランクケース油と混合することを防止するために、パワーシリンダーとクランクケースとを分離する1つ以上のスタッフィングボックスとダイヤフラムを備えている「クロスヘッド」構造の直結および直接反転エンジンである。船舶用2ストロークディーゼルシリンダー潤滑剤は、シリンダーライナーの出力、負荷および温度が大幅に変化する最新のより大口径エンジンに必要とされる厳しい動作条件に適合するために、各性能要求を満たす必要がある。燃焼ゾーンからクランクケースを完全に分離することにより、当業者は、各種の潤滑剤には独特な要件があるため、異なる潤滑油、シリンダー潤滑剤およびシステム油で、燃焼室とクランクケースとをそれぞれ潤滑することになった。
【0004】
2ストローククロスヘッドエンジンでは、シリンダーは、シリンダーライナーの周りに配置された潤滑装置によって、各シリンダーに別々に噴射されるシリンダー油で、全損基準で潤滑される。シリンダー潤滑剤は再循環されず、燃料と共に燃焼される。シリンダー潤滑剤は、擦れることを防止し、潤滑剤がピストンとピストンリングの高温表面に堆積物を形成しないように熱的に安定であり、そして硫黄系酸性燃焼生成物を中和することができるように、シリンダー壁の十分な潤滑のために、シリンダーライナーとピストンリングの間に強力な膜を形成する必要がある。
【0005】
システム油は、2ストロークエンジンのクランクシャフトとクロスヘッドとを潤滑する。これは、メインベアリング、クロスヘッドベアリング、ギアおよびカムシャフトを潤滑し、ピストンのアンダークラウンを冷却し、クランクケースを腐食から保護する。システム油は、汚染水が存在する場合に、ベアリングシェルの金属の腐食を防止し、クランクケースの錆を防止することができなければならない。システム油はまた、ベアリングの適切な流体力学による潤滑を提供し、かつ極圧条件下でベアリングおよびギアを摩耗から保護するのに十分な耐摩耗システムを備えている必要もある。シリンダー潤滑剤とは対照的に、システム油は、燃料が燃焼している燃焼室にはさらされず、油の寿命を最長化するために、できるだけ長く持続するように配合される。したがって、システム油の主な性能特性は、摩耗からの保護、酸化安定性、粘度増加の抑制および堆積物に対する性能に関連する。
【0006】
中速エンジンは通常、約250~1100rpmの範囲で動作し、4ストロークサイクルで動作する。これらのエンジンは通常、トランクピストンで設計される。トランクピストンエンジンでは、クロスヘッドエンジンとは対照的に、単一の潤滑油が、エンジンのすべての領域の潤滑に使用される。したがって、トランクピストンエンジン油には独特な要件が備わっている。トランクピストンエンジンを動作させるための重要な性能パラメータには、ピストン冷却ギャラリーとピストンリングパックの堆積物の抑制、酸化および粘度増加の抑制、解乳化性能およびスラッジの抑制が含まれる。船舶用残渣燃料の動作の場合、これらの性能パラメータは、船舶用残渣燃料からのアスファルテン汚染の影響をほぼ排他的に受ける。
【0007】
最近の健康と環境への懸念から、船舶用ディーゼルエンジン動作に低硫黄燃料の使用を義務付ける規制が導入された。その結果、製造者は現在では、一般的に硫黄とアスファルテンの含有量がより多い船舶用残渣燃料などのより低品質の中質または重質燃料に対して、非残渣ガス燃料(例えば、圧縮または液化天然ガス)および高品質留出燃料を含む種々の燃料で使用する船舶用ディーゼルエンジンを設計している。非残渣燃料での動作の場合、燃料には、燃料中にアスファルテンは殆ど含まれておらず、また硫黄レベルは非常に低い。より低硫黄の燃料が燃焼する場合、燃焼室で生成される酸はより少なくなる。低硫黄ガスおよび留出燃料を使用するエンジンの動作に使用される潤滑剤の要件は、船舶用残渣燃料の場合とは非常に異なる。
【0008】
排出に対する制限的な規制、ならびに船舶用ディーゼル内燃機関に対する燃料源および動作条件の変化を考慮して、船舶用ディーゼル潤滑油添加剤技術の改善が引き続き求められている。
【発明の概要】
【0009】
一態様では、圧縮点火内燃機関における潤滑剤の低温特性を改善する方法であって、該方法が、該機関を、潤滑油組成物であって、(a)50重量%を超える、潤滑粘度の基油、および(b)0.1~40重量%の、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩であって、アルキル置換基が1分子当り12~40個の炭素原子を有する異性化アルファオレフィンから誘導される残基である、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩を含み、、該潤滑油組成物がSAE20、30、40、50、または60モノグレードエンジン油への2015年1月改訂のSAE J300の要件に対する仕様に適合するモノグレード潤滑油組成物であり、かつASTM D2896により測定して、5~200mgKOH/gのTBNを有する、潤滑油組成物を用いて動作させることを含む方法、を提供する。
なお、下記[1]から[13]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
圧縮点火内燃機関における潤滑剤の低温特性を改善する方法であって、前記方法が、前記機関を、潤滑油組成物であって、(a)50重量%を超える、潤滑粘度の基油、および(b)0.1~40重量%の、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩であって、アルキル置換基が1分子当り12~40個の炭素原子を有する異性化アルファオレフィンから誘導される残基であるアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩を含み、、前記潤滑油組成物がSAE20、30、40、50、または60モノグレードエンジン油への2015年1月改訂のSAE J300の要件に対する仕様に適合するモノグレード潤滑油組成物であり、かつASTM D2896により測定して、5~200mgKOH/gのTBNを有する、潤滑油組成物を用いて動作させることを含む、方法。
[2]
前記アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物が、アルキル置換フェノール、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸、またはそれらの組み合わせである、[1]に記載の方法。
[3]
前記異性化アルファオレフィンが、異性化ノルマルアルファオレフィンである、[1]に記載の方法。
[4]
前記アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の前記アルキル置換基が、1分子当たり14~28個の炭素原子を有するアルファオレフィンから誘導される残基である、[1]に記載の方法。
[5]
前記アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の前記アルキル置換基が、1分子当たり20~28個の炭素原子を有するアルファオレフィンから誘導される残基である、[1]に記載の方法。
[6]
前記アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の前記アルキル置換基が、1分子当たり20~24個の炭素原子を有するアルファオレフィンから誘導される残基である、[1]に記載の方法。
[7]
前記アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩が、活性成分基準で、100~500mgKOH/gのTBNを有する、[1]に記載の方法。
[8]
前記潤滑油組成物が、以下の範囲のうちの1つのTBNを有する、[1に記載の潤滑油組成物:5~10mgKOH/g、15~150mgKOH/g、20~80mgKOH/g、30~100mgKOH/g、30~80mgKOH/g、60~100mgKOH/g、60~150mgKOH/g。
[9]
前記潤滑油組成物が、他の清浄剤、分散剤、耐摩耗剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、腐食防止剤、防錆剤、解乳化剤、泡抑制剤、粘度調整剤、流動点降下剤、非イオン性界面活性剤、および増粘剤のうちの1種以上をさらに含む、[1]に記載の方法。
[10]
前記圧縮点火内燃機関が、250~1100rpmで動作される4ストロークエンジンである、[1]に記載の方法。
[11]
前記圧縮点火内燃機関が、200rpm以下で動作される2ストロークエンジンである、[1]に記載の方法。
[12]
前記圧縮点火内燃機関が、残渣燃料、船舶用残渣燃料、低硫黄船舶用残渣燃料、船舶用留出燃料、低硫黄船舶用留出燃料、高硫黄燃料、またはガス燃料で燃料供給される、[1]に記載の方法。
[13]
低温性能が、ASTM D6749に従って測定される、[1]に記載の方法。
【0010】
詳細な説明
序論
本明細書では、以下の用語および表現を使用する場合には、これらは以下の意味を有する。
【0011】
「主要量」は、組成物の50重量%を超える量を意味する。
【0012】
「より少ない量」は、組成物の50重量%より少ない量を意味する。
【0013】
本明細書および特許請求の範囲で使用される「アルファオレフィン」は、炭素原子による最長連続鎖における第1および第2炭素原子間に炭素-炭素二重結合を有するオレフィンを指す。「アルファオレフィン」という用語には、特に明記しない限り、線状および分枝状のアルファオレフィンが含まれる。分枝状アルファオレフィンの場合、分枝は、オレフィン二重結合に関して、2位(ビニリデン)および/または3位またはそれ以上にあり得る。「ビニリデン」という用語は、本明細書および特許請求の範囲で使用される場合はいつも、オレフィン二重結合に関して、2位に分枝を有するアルファオレフィンを指す。アルファオレフィンは、ほとんどの場合異性体の混合物であり、さらに、多くの場合は炭素数に幅のある化合物の混合物でもある。C6、C8、C10、C12およびC14アルファオレフィンなどの低分子量アルファオレフィンの場合は、ほぼ排他的に1-オレフィンである。C16-C18またはC20-C24などのより高分子量のオレフィンカットの場合は、内部またはビニリデン位置に異性化された二重結合の割合が増加している。
【0014】
「ノルマルアルファオレフィン」(NAO)は、第1および第2炭素原子間に炭素-炭素二重結合を有する線状脂肪族モノオレフィンを指す。「線状アルファオレフィン」という用語は、第1および第2炭素原子間に二重結合を有する線状オレフィン化合物を含み得るので、「ノルマルアルファオレフィン」は、「線状アルファオレフィン」と同義ではないことに留意する。
【0015】
「異性化オレフィン」または「異性化ノルマルアルファオレフィン」は、オレフィンを異性化することにより得られるオレフィンを指す。一般的に、異性化オレフィンは、それらが誘導される出発オレフィンとは異なる位置に二重結合を有し、さらにその特性も異なり得る。
【0016】
「TBN」は、ASTM D2896により測定される全塩基価を意味する。
【0017】
「KV100」は、ASTM D445により測定される100℃での動粘度を意味する。
【0018】
「流動点」は、慎重に制御された条件下でサンプルが流れ始める温度である。本明細書で使用される流動点は、ASTM D6749に従って測定した。
【0019】
「塩基度指数(basicity Index)」は、過塩基性清浄剤中の全セッケンに対する全塩基のモル比である。
【0020】
「過塩基性」は、酸部分の当量数に対する金属部分の当量数の比が1より大きい、金属清浄剤を表すのに使用される。
【0021】
「セッケン」は、清浄剤を作るのに使用される有機酸中に存在する酸性基(単数または複数)の中和を達成する、ほぼ化学量論量の金属を含む中性清浄剤化合物を意味する。
【0022】
「金属」は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの混合物を指す。アルカリ金属を使用する場合、アルカリ金属は、リチウム、ナトリウムまたはカリウムである。アルカリ土類金属を使用する場合、アルカリ土類金属は、カルシウム、バリウム、マグネシウムおよびストロンチウムからなる群から選択することができる。カルシウムおよびマグネシウムが好ましい。
【0023】
「重量パーセント」(重量%)は、特に明記しない限り、列挙された成分(単数または複数)、化合物(単数または複数)または置換基(単数または複数)が示す、組成物全体の全重量に対する百分率を意味する。
【0024】
記録したすべての百分率は、特に明記しない限り、活性成分基準で(すなわち、担体または希釈油に無関係で)の重量%である。潤滑油添加剤用の希釈油は、任意の適切な基油(例えば、グループI基油、グループII基油、グループIII基油、グループIV基油、グループV基油、またはそれらの混合物)であり得る。
【0025】
潤滑油組成物
本開示の潤滑油組成物は、(a)50重量%を超える、潤滑粘度の基油、および(b)0.1~40重量%の、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩であって、アルキル置換基が1分子当り12~40個の炭素原子を有する異性化アルファオレフィンから誘導される残基である、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩を含み、、該潤滑油組成物がSAE20、30、40、50、または60モノグレードエンジン油への2015年1月改訂のSAE J300の要件に対する仕様に適合するモノグレード潤滑油組成物であり、かつASTM D2896により測定して、5~200mgKOH/gのTBNを有する。
【0026】
潤滑油組成物は、SAE 20、30、40、50、または60モノグレードエンジン油への2015年1月改訂のSAE J300の要件に対する仕様に適合するモノグレード潤滑油組成物である。SAE20油の100℃での動粘度は6.9~<9.3mm2/sである。SAE30油の100℃での動粘度は、9.3~<12.5mm2/sである。SAE40油の100℃での動粘度は、12.5~<16.3mm2/sである。SAE50油の100℃での動粘度は、16.3~<21.9mm2/sである。SAE60油の100℃での動粘度は、21.9~<26.1mm2/sである。
【0027】
いくつかの実施形態では、潤滑油組成物は、船舶用シリンダー潤滑剤(MCL)としての使用に適している。船舶用シリンダー潤滑剤は通常、シリンダーライナー壁に高温で十分な厚さの潤滑剤膜を形成するために、SAE30、SAE40、SAE50またはSAE60モノグレード仕様に作られている。通常、船舶用ディーゼルシリンダー潤滑剤は、15~200mgKOH/g(例えば、15~150mgKOH/g、15~60mgKOH/g、20~200mgKOH/g、20~150mgKOH/g、20~120mgKOH/g、20~80mgKOH/g、30~200mgKOH/g、または30~150mgKOH/g、または30~120mgKOH/g、30~100mgKOH/g、30~80mgKOH/g、60~200mgKOH/g、60~150mgKOH/g、60~120mgKOH/g、60~100mgKOH/g、60~80mgKOH/g、80~200mgKOH/g、80~150mgKOH/g、80~120mgKOH/g(150mg120KOH/g)、120~200mgKOH/g、または120~150mgKOH/g)の範囲のTBNを有する。
【0028】
いくつかの実施形態では、本潤滑油組成物は、船舶用システム油としての使用に適している。船舶用システム油潤滑剤は通常、SAE20、SAE30またはSAE40モノグレード仕様に作られる。船舶用システム油の粘度は、一部ではシステム油の粘度が使用中に上昇することがあり、エンジン設計者が動作上の問題を防ぐために粘度増加の限界を設定しているため、そのような比較的低いレベルに設定される。通常、船舶用システム油潤滑剤は、5~12mgKOH/g(例えば、5~10mgKOH/g、または5~9mgKOH/g)の範囲のTBNを有する。
【0029】
いくつかの実施形態では、本潤滑油組成物は、船舶用トランクピストンエンジン油(TPEO)としての使用に適している。船舶用TPEO潤滑剤は通常、SAE30またはSAE40モノグレード仕様に作られる。通常、船舶用TPEO潤滑剤は、10~60mgKOH/g(例えば、10~30mgKOH/g、20~60mgKOH/g、20~40mgKOH/g、30~60mgKOH/g、または30~55mgKOH/g)の範囲のTBNを有する。
【0030】
潤滑粘度の油
潤滑粘度の油は、米国石油協会(American Petroleum Institute:API)基油互換性ガイドライン(Base Oil Interchangeability Guidelines)(API 1509)に規定されるグループI-Vの基油のいずれかから選択することができる。5つの基油グループを表1に纏める。
【表1】
【0031】
グループI、II、およびIIIは、鉱油プロセスストックである。グループIVの基油には、オレフィン性不飽和炭化水素の重合によって生成される真の合成分子種が含まれる。多くのグループVの基油もまた真の合成生成物であり、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、アルキル化芳香族、ポリリン酸エステル、ポリビニルエーテル、および/またはポリフェニルエーテルなどが含まれ得るが、さらに、植物油などの天然油でもある。グループIIIの基油は鉱油から誘導されるが、これらの流体が受ける厳しい処理のために、その物理的性質はPAOなどのいくつかの真の合成物によく似ていることに留意すべきである。したがって、グループIIIの基油から誘導される油は、業界では合成油と呼ばれる場合がある。
【0032】
開示された潤滑油組成物に使用される基油は、鉱油、動物油、植物油、合成油、またはそれらの混合物であり得る。適切な油は、水素化分解、水素化、水素化仕上げ、未精製、精製、再精製の油、およびそれらの混合物から誘導することができる。
【0033】
未精製油は、天然、鉱物、または合成源に由来するものであり、さらなる精製処理を行わないか、またはほとんど行わない。精製油は、未精製油に似ているが、ただし1つ以上の精製ステップで処理されているため、1つ以上の特性が改善されている場合がある。適切な精製技術の例は、溶媒抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、ろ過、浸透などである。食用の品質にまで精製された油は、有用な場合とそうでない場合がある。食用油はまたホワイトオイルと呼ばれる場合もある。いくつかの実施形態では、潤滑油組成物には食用油およびホワイトオイルは含まれない。
【0034】
再精製油はまた、再生油または再加工油としても知られている。これらのオイルは、同じかまたは類似のプロセスを使用して、精製油に類似して得られる。多くの場合、これらの油は、使用済み添加剤と油分解生成物の除去を目的とした技術によって追加的に処理される。
【0035】
鉱油には、掘削により、または植物および動物またはそれらの任意の混合物から得られる油が含まれ得る。そのような油には、ヒマシ油、ラード油、オリーブ油、落花生油、トウモロコシ油、大豆油、および亜麻仁油、ならびに液体石油などの鉱物潤滑油およびパラフィン系、ナフテン系、または混合パラフィン系-ナフテン系の溶媒処理または酸処理した鉱物潤滑油が含まれる。そのような油は、必要に応じて、部分的または完全に水素化されていてもよい。石炭または頁岩に由来するオイルも有用であり得る。
【0036】
有用な合成潤滑油には、炭化水素油、例えば、ポリマー化、オリゴマー化、またはインターポリマー化オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン/イソブチレンコポリマー);ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、1-デセンのトリマーまたはオリゴマー、例えば、ポリ(1-デセン)、(このような物質はしばしばα-オレフィンと呼ばれる)、およびそれらの混合物;アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ-(2-エチルヘキシル)-ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル);ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィドならびにそれらの誘導体、類似体および同族体またはそれらの混合物が含まれ得る。ポリアルファオレフィンは通常、水素化された物質である。
【0037】
他の合成潤滑油には、ポリオールエステル、ジエステル、リン含有酸の液体エステル(例えば、リン酸トリクレシル、リン酸トリオクチル、およびデカンホスホン酸のジエチルエステル)、または高分子テトラヒドロフランが含まれる。合成油は、フィッシャー・トロプシュ反応によって生成でき、通常、水素化異性化されたフィッシャー・トロプシュ炭化水素またはワックスであり得る。一実施形態では、油は、フィッシャー・トロプシュのガスから液体への合成手順および他のガスから液体油への手順によって調製することができる。
【0038】
本開示において有用な配合潤滑油で使用するための基油は、APIグループI、グループII、グループIII、グループIV、およびグループVの油ならびにそれらの混合物に対応する種々の油のいずれかである。一実施形態では、基油は、グループIIの基油または2種以上の異なる基油のブレンドである。別の実施形態では、基油はグループIの基油または2種以上の異なるグループIの基油のブレンドである。好適なグループIの基油には、例えば、軽質中性、中質中性、および重質中性ベースストックなどの、真空蒸留カラムからの軽質オーバーヘッドカットが含まれる。基油には、残渣ベースストックまたはボトム留分、例えばブライトストックもまた含まれ得る。ブライトストックは、残渣ストックまたはボトムから従来より製造されてきた高粘度基油であり、高度に精製および脱蝋されている。ブライトストックは、40℃で180mm2/sを超える(例えば、250mm2/sを超える、またはさらに500から1100mm2/sの範囲の)動粘度を有し得る。
【0039】
基油は、本開示の潤滑油組成物の主成分を構成し、組成物の全重量に基づいて、50重量%を超える(例えば、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、または少なくとも90重量%の)量で存在する。基油は、都合よくは、100℃で測定した動粘度が2~40mm2/sである。
【0040】
アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩
本開示のアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩は、活性成分基準で、少なくとも100mgKOH/g(例えば、100~900mgKOH/g、100~700mgKOH/g、100~500mgKOH/g、100~400mgKOH/g、または100~300mgKOH/g)、または少なくとも150mgKOH/g(例えば、150~900mgKOH/g、150~500mgKOH/g、150~400mgKOH/g、または150~300mgKOH/g)、または少なくとも200mgKOH/g(例えば、200~900mgKOH/g、200~500mgKOH/g、200~400mgKOH/g、または200~300mgKOH/g)のTBNを有する。
【0041】
本開示のアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩は、潤滑粘度の油と比較して、より少ない量で、潤滑油組成物中に存在するであろう。一般的に、この成分は、潤滑油組成物の全重量に基づいて、0.1~40重量%(0.1~30重量%、0.1~25重量%、0.1~20重量%、0.1~15重量%、0.1~10重量%、0.5~40重量%、0.5~30重量%、0.5~25重量%、0.5~20重量%、0.5~15重量%、0.5~10重量%、1.0~40重量%、1.0~30重量%、1.0~25重量%、1.0~20重量%、1.0~15重量%、1.0~10重量%、2.0~40重量%、2.0~30重量%、2.0~25重量%、2.0~20重量%、2.0~10重量%、2.0~40重量%、2.0~30重量%、2.0~25重量%、2.0~20重量%、2.0~15重量%、2.0~10重量%、2.0~8重量%、3.0~40重量%、3.0~30重量%、3.0~25重量%、3.0~20重量%、3.0~15重量%、3.0~10重量%、5.0~40重量%、5.0~30重量%、5.0~25重量%、5.0~20重量%、5.0~15重量%、または5.0~10重量%)の量で存在する。
【0042】
適切なアルカリ土類金属には、バリウム、カルシウム、およびマグネシウム、好ましくはカルシウムが含まれる。
【0043】
適切なアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物には、アルキル置換フェノールおよびアルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸が含まれる。
【0044】
一実施形態では、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩は、過塩基性異性化ノルマルアルファオレフィン系フェネート清浄剤である。
【0045】
過塩基性異性化ノルマルアルファオレフィン系フェネート清浄剤は、アルキル化ヒドロキシ化合物であり、該ヒドロキシル化合物のアルキル置換基が1分子当たり12~40個の炭素原子を有する少なくとも1種のオレフィンの残基である。異性化オレフィンは、C12-C40オレフィン(例えば、C14-C28オレフィン、C14-C24オレフィン、C14-C18オレフィン、C20-C28オレフィン、またはC20-C24オレフィン)であり得る。
【0046】
過塩基性異性化ノルマルアルファオレフィン系フェネート清浄剤は、米国特許第8,580,717号に記載されているプロセスにより調製することができる。過塩基性異性化ノルマルアルファオレフィン系フェネート清浄剤は、以下のプロセスによって調製することができる:(a)12~40個の炭素原子を有する少なくとも1種のノルマルアルファオレフィンを異性化することによって得られる少なくとも1種の異性化オレフィンで、少なくとも1種のヒドロキシ芳香族化合物をアルキル化して、少なくとも1種のアルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を提供し、(b)該アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を、任意の順序で中和および硫化して、少なくとも1種の中和、硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を提供し、そして(c)少なくとも1種の中和、硫化アルキル化ヒドロキシ芳香族化合物を過塩基化し、該ヒドロキシ芳香族化合物がフェノール、クレゾール、キシレノール、またはそれらの混合物である。
【0047】
過塩基化プロセスを実施するために使用できるアルカリ土類金属塩基には、カルシウム、マグネシウム、バリウム、またはストロンチウムの酸化物または水酸化物、特に酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、およびそれらの混合物が含まれる。一実施形態では、アルカリ土類金属塩基は、消石灰(水酸化カルシウム)である。
【0048】
一実施形態では、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩は、過塩基性アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレート清浄剤である。
【0049】
一実施形態では、本開示の過塩基性アルカリ土類金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートは、添加剤用の界面活性剤として単一の種類のアニオン、例えば、アルキルサリチレート基のメンバー(単数または複数)を含むが、スルホネート基のメンバー(単数または複数)およびサリチレートを製造するプロセスの結果としての固有のフェノールから誘導されるフェネート以外のフェネート基のメンバー(単数または(of)複数)を含まない、過塩基性アルカリ土類金属アルキル置換ヒドロキシベンゾエートである。
【0050】
一実施形態では、過塩基性アルカリ土類金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレート清浄剤は、上記の少なくとも2種の界面活性剤に由来する界面活性剤系を含む、当技術分野で知られている複合およびハイブリッド清浄剤ではない。
【0051】
一実施形態では、アルカリ土類金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートは、以下の構造(1)によって表すことができる:
【化1】
式中、(i)Mは独立して、アルカリ土類金属(例えば:Ba、Ca、およびMg)を表し、(ii)各カルボキシレート基は独立して、ヒドロキシル基に対して、オルト、メタ、またはパラ位、またはそれらの混合した位置にあり得;(iii)R
1およびR
2の各々は独立して、12~40個の炭素原子(例えば、14~28個の炭素原子、14~18個の炭素原子、18~30個の炭素原子、20~28個の炭素原子、または20~24個の炭素原子)を有するアルキル置換基である。
【0052】
過塩基性アルカリ土類金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートのアルキル置換基は、12~40個の炭素原子を有する異性化ノルマルアルファオレフィンから誘導される残基であり得る。一実施形態では、アルキル置換基は、1分子当たり14~28個の炭素原子を有する異性化アルファオレフィンから誘導される残基である。一実施形態では、アルキル置換基は、1分子当たり14~18個の炭素原子を有する異性化アルファオレフィンから誘導される残基である。一実施形態では、アルキル置換基は、1分子当たり20~28個の炭素原子を有するアルファオレフィンから誘導される残基である。一実施形態では、アルキル置換基は、1分子当たり20~24個の炭素原子を有するアルファオレフィンから誘導される残基である。一実施形態では、アルキル置換基は、プロピレン、ブチレン、またはそれらの混合物から選択されるモノマーのC12~C40オリゴマーを含むオレフィンから誘導される残基である。そのようなオレフィンの例には、プロピレンテトラマー、ブチレントリマー、イソブチレンオリゴマーなどが含まれる。使用されるオレフィンは、線状、異性化線状、分枝または部分的に分枝した線状であり得る。オレフィンは、線状オレフィンの混合物、異性化線状オレフィンの混合物、分枝状オレフィンの混合物、部分的に分枝した線状の混合物、または前述のいずれかの混合物であり得る。アルファオレフィンは、ノルマルアルファオレフィン、異性化ノルマルアルファオレフィン、またはそれらの混合物であり得る。
【0053】
アルキル置換基が異性化アルファオレフィンから誘導される残基である場合の一実施形態では、アルファオレフィンは、0.1~0.4(例えば、0.1~0.3、または0.1~0.2)の異性化レベル(I)を有することができる。異性化レベル(I)は1H NMR分光法で測定でき、メチレン骨格基(-CH2-)(化学シフト1.01-1.38ppm)に結合したメチル基(-CH3)(化学シフト0.30-1.01ppm)の相対量を表し、以下の式で定義される:
I=m/(m+n)
式中、mは化学シフトが0.30±0.03~1.01±0.03ppmのメチル基の1H NMR積分であり、nは化学シフトが1.01±0.03~1.38±0.10ppmのメチレン基の1H NMR積分である。
【0054】
過塩基性アルカリ土類金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートは、例えば、米国特許第8,030,258号および第8,993,499号に記載されているような、当技術分野で知られている方法により調製することができる。
【0055】
過塩基性アルカリ土類金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートの調製方法
本開示の過塩基性アルカリ土類金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートは、アルキル置換ヒドロキシカルボン酸を製造するための当業者に知られている任意のプロセスによって調製することができる。例えば、過塩基性アルカリ土類金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートを調製するプロセスは、(a)ヒドロキシ芳香族化合物をオレフィンでアルキル化して、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物を生成し、(b)アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物をアルカリ金属塩基で中和して、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のアルカリ金属塩を生成し、(c)アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のアルカリ金属塩をカルボキシル化剤(例えば、CO2)でカルボキシル化して、アルカリ金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートを生成し、(d)アルカリ金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートを、アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸を生成するのに十分強い酸の水溶液で酸性化し、そして(e)モル過剰のアルカリ土類金属塩基および少なくとも1種の酸性過塩基性物質で、アルカリ土類金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートを過塩基化することを含むことができる。
【0056】
(A)アルキル化
アルキル化は、ヒドロキシ芳香族化合物またはヒドロキシ芳香族化合物の混合物、オレフィンまたはオレフィンの混合物、および酸触媒を含む炭化水素フィードを、撹拌が維持される反応ゾーンに装入することにより実行される。得られた混合物は、オレフィンのヒドロキシ芳香族アルキレートへの実質的な転化(例えば、オレフィンの少なくとも70%モル%が反応した)を可能にするのに十分な時間、アルキル化条件下でアルキル化ゾーンに保持される。所望の反応時間の後、反応混合物をアルキル化ゾーンから除去し、液-液分離器に供給して、炭化水素生成物を、閉ループで反応器にリサイクルできる酸触媒から分離する。炭化水素生成物をさらに処理して、所望のアルキレート生成物から余分の未反応のヒドロキシ芳香族化合物およびオレフィン化合物を除去することができる。余分のヒドロキシ芳香族化合物もまた反応器にリサイクルすることができる。
【0057】
適切なヒドロキシ芳香族化合物には、単環式ヒドロキシ芳香族化合物、および任意選択的に一緒に縮合するか、あるいはアルキレン架橋を介して結合する1つ以上のベンゼン環などの1つ以上の芳香族部分を含む多環式ヒドロキシ芳香族化合物が含まれる。例示的なヒドロキシ芳香族化合物には、フェノール、クレゾール、およびナフトールが含まれる。一実施形態では、ヒドロキシ芳香族化合物はフェノールである。
【0058】
使用されるオレフィンは、線状、異性化線状、分枝状または部分的に分枝した線状であり得る。オレフィンは、線状オレフィンの混合物、異性化線状オレフィンの混合物、分枝状オレフィンの混合物、部分的に分枝した線状の混合物、または前述のいずれかの混合物であり得る。いくつかの実施形態では、オレフィンは、ノルマルアルファオレフィン、異性化ノルマルアルファオレフィン、またはそれらの混合物である。
【0059】
いくつかの実施形態では、オレフィンは、1分子当たり12~40個の炭素原子(例えば、1分子当たり14~28個の炭素原子、1分子当たり14~18個の炭素原子、1分子当たり18~30個の炭素原子、1分子当り20~28個の炭素原子、1分子あたり20~24個の炭素原子)を有するオレフィンから選択されるノルマルアルファオレフィンの混合物である。いくつかの実施形態では、ノルマルアルファオレフィンは、固体触媒または液体触媒の少なくとも1つを使用して異性化される。
【0060】
別の実施形態では、オレフィンには、プロピレン、ブチレンまたはそれらの混合物から選択されるモノマーのC12~C40オリゴマーを含む1種以上のオレフィンが含まれる。一般的に、1種以上のオレフィンは、主要量の、プロピレン、ブチレンまたはそれらの混合物から選択されるモノマーのC12~C40オリゴマーを含む。そのようなオレフィンの例には、プロピレンテトラマー、ブチレントリマーなどが含まれる。当業者には容易にわかるが、他のオレフィンが存在してもよい。例えば、C12~C40オリゴマーに加えて使用できる他のオレフィンには、線状オレフィン、環状オレフィン、ブチレンまたはイソブチレンオリゴマーオリゴマーなどのプロピレンオリゴマー以外の分枝状オレフィン、アリールアルキレンなど、およびそれらの混合物が含まれる。適切な線状オレフィンには、1-ヘキセン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセンなど、およびそれらの混合物が含まれる。特に適切な線状オレフィンは、エチレンオリゴマー化またはワックスクラッキングなどのプロセスから得ることができるC16~C30ノルマルアルファオレフィンなどの高分子量ノルマルアルファオレフィンである。適切な環状オレフィンには、シクロヘキセン、シクロペンテン、シクロオクテンなど、およびそれらの混合物が含まれる。適切な分枝状オレフィンには、ブチレンダイマーまたはトリマーまたはより高分子量のイソブチレンオリゴマーなど、およびそれらの混合物が含まれる。適切なアリールアルキレンには、スチレン、メチルスチレン、3-フェニルプロペン、2-フェニル-2-ブテンなど、およびそれらの混合物が含まれる。
【0061】
任意の適切な反応器の形状を反応器ゾーンに使用することができる。これらには、バッチおよび連続攪拌タンク反応器、反応器ライザー形状、および沸騰床または固定床反応器が含まれる。
【0062】
アルキル化は、15℃~200℃の温度で、フィード成分のかなりの部分が液相に残るのに十分な圧力で実施することができる。通常、0~150psigの圧力が、フィードと生成物を液相に維持するのに十分である。
【0063】
反応器内の滞留時間は、オレフィンの実質的な部分をアルキレート生成物に転化するのに十分な時間である。必要な時間は30秒~約300分であり得る。より正確な滞留時間は、アルキル化プロセスの反応速度を測定するためにバッチ式攪拌反応器を使用して、当業者によって決定され得る。
【0064】
少なくとも1種のヒドロキシ芳香族化合物またはヒドロキシ芳香族化合物の混合物およびオレフィンの混合物は、反応ゾーンに別々に注入されてもよく、または注入前に混合されてもよい。単一および複数の反応ゾーンの両方を使用して、ヒドロキシ芳香族化合物およびオレフィンを1つ、いくつか、またはすべての反応ゾーンに注入することができる。反応ゾーンを同じプロセス条件に維持する必要はない。
【0065】
アルキル化プロセス用の炭化水素フィードは、ヒドロキシ芳香族化合物の混合物とオレフィンの混合物とを含むことができ、ヒドロキシ芳香族化合物対オレフィンのモル比は0.5:1~50:1以上である。ヒドロキシ芳香族化合物対オレフィンのモル比が1:1より大きい場合には、過剰のヒドロキシ芳香族化合物が存在する。過剰のヒドロキシ芳香族化合物を使用して、反応速度を高め、生成物の選択性を向上させるのが好ましい。過剰のヒドロキシ芳香族化合物を使用する場合、反応器流出液中の過剰の未反応のヒドロキシ芳香族化合物は(例えば蒸留により)分離されて、反応器にリサイクルすることができる。
【0066】
典型的には、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物は、モノアルキル置換異性体の混合物を含む。アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のアルキル基は、典型的には、ヒドロキシル基に対して主にオルト位およびパラ位でヒドロキシ芳香族化合物に結合している。一実施形態では、アルキル化生成物は、1~99%のオルト異性体および99~1%のパラ異性体を含み得る。別の実施形態では、アルキル化生成物は、5~70%のオルト異性体および95~30%のパラ異性体を含み得る。
【0067】
酸性アルキル化触媒は、ブレンステッド酸またはルイス酸などの強酸触媒である。有用な強酸触媒には、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸、AMBERLYST(登録商標)36スルホン酸(The Dow Chemical Companyから入手可能)、硝酸、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、三フッ化ホウ素、五塩化アンチモンなど、およびそれらの混合物が含まれる。酸性イオン液体は、アルキル化プロセスで一般的に使用される強酸触媒の代替物として使用することができる。
【0068】
(B)中和
アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩基(例えば、リチウム、ナトリウムまたはカリウムの酸化物または水酸化物)で中和される。中和は、軽質溶媒(例えば、トルエン、キシレン異性体、軽質アルキルベンゼンなど)の存在下で起こり、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のアルカリ金属塩を形成し得る。一実施形態では、溶媒は水と共沸混合物を形成する。別の実施形態では、溶媒は、2-エチルヘキサノールなどのモノアルコールであり得る。この場合、2-エチルヘキサノールはカルボキシル化の前に蒸留により除去される。溶媒の導入の目的は、水の除去を促進することである。
【0069】
中和は、水を除去するのに十分高い温度で実施される。より低い反応温度を必要とするためには、中和を軽度の減圧下で行なってもよい。
【0070】
一実施形態では、キシレンを溶媒として使用し、反応は、約80kPaの絶対圧力下で130℃~155℃の温度にて行なわれる。
【0071】
別の実施形態では、2-エチルヘキサノールを溶媒として使用する。2-エチルヘキサノールの沸点(184℃)はキシレン(140℃)よりも著しく高いため、中和は、少なくとも150℃の温度で行なう。
【0072】
水の蒸留を完了するためには、圧力を、大気圧よりも下に徐々に低下させることができる。一実施形態では、圧力は7kPa以下に低下される。
【0073】
操作が十分に高い温度で行われ、反応器内の圧力を大気圧よりも下に徐々に低下させることにより、アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のアルカリ金属塩は、溶媒を添加する必要なく形成され、この反応中に形成された水と共沸混合物を形成する。例えば、温度は200℃まで上昇され、その後、圧力を大気圧よりも下に徐々に低下させる。好ましくは、圧力は7kPa以下に低下される。
【0074】
水の除去は、少なくとも1時間(例えば、少なくとも3時間)にわたって起こり得る。
【0075】
試薬の量は、以下のように対応し得る:アルカリ金属塩基対アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のモル比は、0.5:(1)~1.2:1(例えば、0.9:1~1.05:1)、および溶媒対アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の重量/重量の比は、0.1:1~5:1(例えば:0.3:1~3:1)である。
【0076】
(C)カルボキシル化
カルボキシル化ステップは、先行する中和ステップから生じる反応媒体に二酸化炭素(CO2)を単にバブリングすることにより実施され、出発物質であるアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のアルカリ金属塩の少なくとも50モル%がアルカリ金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートに転化されるまで実施される(ヒドロキシ安息香酸として電位差測定により測定)。
【0077】
出発物質であるアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のアルカリ金属塩の少なくとも50モル%(例えば、少なくとも75モル%、またはさらには少なくとも85モル%)が、アルカリ金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートに、CO2を使用して、110~200℃の温度で、0.1~1.5MPaの圧力下で、1~8時間の期間で転化される。
【0078】
カリウム塩を用いる一変形例では、温度は125℃~165℃(例えば、130℃~155℃)であり得、圧力は0.1~1.5MPa(例えば、0.1~0.4MPa)であり得る。
【0079】
ナトリウム塩を用いる別の変形例では、温度は傾向的に低くなり、110℃~155℃(例えば、120℃~140℃)であり得、圧力は0.1~2.0MPa(例えば、0.3~1.5MPa)であり得る。
【0080】
カルボキシル化は通常、炭化水素またはアルキレート(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)などの希釈剤中で実施される。この場合、溶媒対アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のアルカリ金属塩の重量比は、0.1:1~5:1(例えば、0.3:1~3:1)の範囲であり得る。
【0081】
別の変形例では、溶媒は使用されない。この場合、粘性の高過ぎる物質を回避するために、カルボキシル化は、希釈油の存在下で行う。希釈油対アルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物のアルカリ金属塩の重量比は、0.1:1~2:1(例えば、0.2:1~1:1、または0.2:1~0.5:1)の範囲であり得る。
【0082】
(D)酸性化
次に、上記で生成したアルカリ金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートを、アルカリ金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレートをアルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボン酸に転化することができる少なくとも1種の酸と接触させる。前述のアルカリ金属塩を酸性化する、このような酸は、当技術分野では周知である。通常、塩酸または硫酸水溶液が使用される。
【0083】
(E)過塩基化
過塩基性アルカリ土類金属アルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレート(carboxyate)清浄剤を生成する、アルキル化ヒドロキシ芳香族カルボン酸の過塩基化は、当業者に知られている任意の方法によって実施することができる。
【0084】
一実施形態では、過塩基化反応は、反応器内で、二酸化炭素、芳香族溶媒(例えば、キシレン)、およびヒドロカルビルアルコール(例:メタノール)の存在下で、アルキル化ヒドロキシ芳香族カルボン酸を石灰(すなわち、アルカリ土類金属水酸化物)と反応させることにより実施される。
【0085】
過塩基化の程度は、反応混合物に添加されるアルカリ土類金属水酸化物、二酸化炭素および反応物の量、ならびに炭酸化プロセス中に使用される反応条件によって制御することができる。
【0086】
使用される試薬(メタノール、キシレン、消石灰およびCO2)の重量比は、以下の重量比に対応し得る:キシレン対消石灰は1.5:1~7:1(例えば、2:1~4:1);メタノール対消石灰は0.25:1~4:1(例えば、0.4:1~1.2:1);CO2対消石灰は0.5:1~1.3:1(例えば、:0.7:1~1.0:1)のモル比;C1-C4カルボン酸対アルカリ金属塩基アルキルヒドロキシ芳香族カルボキシレートは0.02:1~1.5:1(例えば、0.1:1~0.7:1)のモル比である。
【0087】
石灰はスラリーとして(すなわち、石灰、メタノール、キシレンの予備混合物として)添加され、CO2は20℃~65℃の間の温度で1時間~4時間の期間にわたって導入される。
【0088】
任意選択的に、上記のプロセスの各々について、予備蒸留、遠心分離および蒸留を利用して、溶媒および粗堆積物を除去することができる。水、メタノールおよびキシレンの一部が、110℃~134℃に加熱することにより除去され得る。これに続いて、未反応の石灰を除去するために遠心分離を行い得る。最後に、キシレンは、ASTM D93に記載されているPensky-Martens Closed Cup(PMCC)Testerで測定される、少なくとも約160℃の引火点に到達するために、真空下で加熱することにより除去される。
【0089】
その他の機能性添加剤
本開示の配合潤滑油は、一般的に使用される他の潤滑油性能添加剤のうちの1種以上をさらに含んでもよい。そのような任意選択的な成分には、清浄剤(例えば、金属清浄剤)、分散剤、耐摩耗剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、腐食防止剤、防錆剤、解乳化剤、泡抑制剤、粘度調整剤、流動点降下剤、非イオン性界面活性剤、増粘剤などが含まれ得る。一部については、以下でさらに詳しく説明する。
【0090】
清浄剤
本開示における必須成分であるアルキル置換ヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性アルカリ土類金属塩に加えて、他の清浄剤もまた存在し得る。
【0091】
清浄剤は、ピストン堆積物、例えばエンジンでの高温ワニスおよびラッカー堆積物の形成を減少させる添加剤であり、それは通常、酸中和特性を有し、微細に分割された固体を懸濁状態に保つことができる。ほとんどの清浄剤は、金属「セッケン」、つまり酸性有機化合物の金属塩に基づいている。
【0092】
清浄剤は一般的に、疎水性の長いテイルを有する極性ヘッドを含み、極性ヘッドは酸性有機化合物の金属塩を含む。塩は通常、正塩または中性塩として記載される場合、実質的に化学量論的な量の金属を含み得、典型的には、100%の活性成分質量で0~<100mgKOH/gのTBNを有する。酸化物または水酸化物などの過剰の金属化合物と二酸化炭素などの酸性ガスとの反応により、大量の金属塩基が誘導され得る。
【0093】
得られた過塩基性清浄剤は、金属塩基(例えば、炭酸塩)ミセルの外層として中和清浄剤を含む。そのような過塩基性洗浄剤は、100%の活性成分質量で100mgKOH/g以上(例えば、200~500mgKOH/g以上)のTBNを有し得る。
【0094】
適切には、使用できる他の清浄剤には、油溶性の中性および過塩基性スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレートおよびナフテネートならびに金属、特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属(例えば、Li、Na、K、Ca、およびMg)の他の油溶性カルボキシレートが含まれる。最も一般的に使用される金属は、共に潤滑組成物に使用される洗浄剤中に存在し得る、CaおよびMg、ならびにCaおよび/またはMgとNaとの混合物である。清浄剤は種々の組み合わせで使用し得る。
【0095】
他の清浄剤は、潤滑油組成物の0.5~30重量%で存在し得る。
【0096】
分散剤
エンジン動作中、油不溶性酸化副生成物が生成される。分散剤はこれらの副生成物を溶液中に保持するのを助け、それにより、金属表面へのそれらの堆積を減少させる。分散剤は、多くの場合、無灰タイプの分散剤として知られており、これは、潤滑油組成物に混合する前は、灰形成金属を含んでおらず、潤滑剤に添加した場合通常は灰形成に寄与しないためである。無灰タイプの分散剤は、比較的高分子量の炭化水素鎖に結合した極性基によって特徴付けられる。典型的な無灰分散剤には、N-置換長鎖アルケニルスクシンイミドが含まれる。N置換長鎖アルケニルスクシンイミドの例には、500~5000ダルトン(例えば、900~2500ダルトン)の範囲の数平均分子量のポリイソブチレン置換基を有するポリイソブチレンスクシンイミドが含まれる。スクシンイミド分散剤およびそれらの調製については、例えば、米国特許第4,234,435号および第7,897,696号に開示されている。スクシンイミド分散剤は、典型的には、ポリアミン、典型的にはポリ(エチレンアミン)から形成されたイミドである。
【0097】
いくつかの実施形態では、潤滑剤組成物は、数平均分子量が500~5000ダルトン(例えば、900~2500ダルトン)の範囲のポリイソブチレンから誘導される少なくとも1種のポリイソブチレンスクシンイミド分散剤を含む。ポリイソブチレンスクシンイミドは、単独で、または他の分散剤と組み合わせて使用することができる。
【0098】
分散剤はまた、種々の薬剤のいずれかとの反応による従来の方法によって後処理することもできる。これらの薬剤には、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸)および環式カルボネート(エチレンカルボネート)が含まれる。
【0099】
別の種類の分散剤には、マンニッヒ塩基が含まれる。マンニッヒ塩基は、高分子量のアルキル置換フェノール、ポリアルキレンポリアミン、およびホルムアルデヒドなどのアルデヒドの縮合によって形成される物質である。マンニッヒ塩基は、米国特許第3,634,515号に、より詳細に記載されている。
【0100】
別の種類の分散剤には、ヒドロカルビルアシル化剤と、グリセロール、ペンタエリスリトール、またはソルビトールなどの多価脂肪族アルコールとの反応によって調製される高分子量エステルが含まれる。そのような物質は、米国特許第3,381,022号に、より詳細に記載されている。
【0101】
別の種類の分散剤には、高分子量エステルアミドが含まれる。
【0102】
分散剤は、潤滑油組成物の0.1~10重量%で存在し得る。
【0103】
耐摩耗剤
耐摩耗剤は、摩擦および過度の摩耗を低減し、通常、硫黄またはリンまたは両方を含む化合物に基づく。注目すべきは、ジヒドロカルビルジチオホスフェート金属塩であり、この場合、金属はアルカリまたはアルカリ土類金属、またはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、または亜鉛であり得る。ジヒドロカルビルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)は、ジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であり、次の式で表すことができる:
Zn [SP(S)(OR)(OR’)]2
式中、RおよびR’は、1~18個(例えば、2~12個)の炭素原子を含む、同じかまたは異なるヒドロカルビル基であり得る。油溶性を得るために、ジチオリン酸の炭素原子の全数(すなわち、RおよびR’)は一般的に5以上である。
【0104】
耐摩耗剤は、潤滑油組成物の0.1~6重量%で存在することができる。
【0105】
酸化防止剤
酸化防止剤は、使用中の基油の酸化分解を遅らせる。このような分解によって、金属表面への堆積、スラッジの存在、または潤滑剤の粘度増加が生じる可能性がある。
【0106】
有用な酸化防止剤には、ヒンダードフェノールが含まれる。ヒンダードフェノール酸化防止剤は、多くの場合、立体障害基として第二級ブチル基および/または第三級ブチル基を含む。フェノール基は、さらにヒドロカルビル基(典型的には線状または分枝状アルキル)および/または第二の芳香族基に結合する架橋基でさらに置換されていてもよい。ヒンダードフェノール酸化防止剤の例には、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルクレゾール、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-アルキル-フェノールプロピオン酸エステル誘導体、ならびに4,4’-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)および4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)などのビスフェノールが含まれる。
【0107】
硫化アルキルフェノールならびにそのアルカリおよびアルカリ土類金属塩もまた抗酸化剤として有用である。
【0108】
使用できる非フェノール系酸化防止剤には、ジアリールアミンおよびアルキル化ジアリールアミンなどの芳香族アミン酸化防止剤が含まれる。芳香族アミン酸化防止剤の特定の例には、フェニル-α-ナフチルアミン、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン、ブチル化/オクチル化ジフェニルアミン、ノニル化ジフェニルアミン、およびオクチル化フェニル-α-ナフチルアミンが含まれる。
【0109】
抗酸化剤は、潤滑油組成物の0.01~5重量%で存在し得る。
【0110】
摩擦調整剤
摩擦調整剤は、そのような物質を含む任意の潤滑剤または流体によって潤滑される表面の摩擦係数を変えることができる任意の物質である。適切な摩擦調整剤には、脂肪アミン、ホウ酸化グリセロールエステルなどのエステル、脂肪亜リン酸塩、脂肪酸アミド、脂肪エポキシド、ホウ酸化脂肪エポキシド、アルコキシル化脂肪アミン、ホウ酸化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、または脂肪イミダゾリン、およびカルボン酸とポリアルキレンポリアミンの縮合生成物が含まれ得る。本明細書で使用する場合、摩擦調整剤に関連する「脂肪」という用語は、10~22個の炭素原子を有する炭素鎖、典型的には直鎖炭素鎖を意味する。モリブデン化合物はまた、摩擦調整剤としても知られている。摩擦調整剤は、潤滑油組成物の0.01~5重量%で存在することができる。
【0111】
防錆剤
防錆剤は一般的に、水または他の汚染物質による化学的な攻撃から潤滑される金属表面を保護する。適切な防錆剤に含まれ得るのは、非イオン性の適切な防錆剤に含まれるのは、非イオン性ポリオキシアルキレン剤(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエート);ステアリン酸および他の脂肪酸;ジカルボン酸;金属セッケン;脂肪酸アミン塩;重質スルホン酸の金属塩;多価アルコールの部分カルボン酸エステル;リン酸エステル;(短鎖)アルケニルコハク酸;それらの部分エステルおよびそれらの窒素含有誘導体;ならびに合成アルカリールスルホネート(例えば、金属ジノニルナフタレンスルホネート)である。そのような添加剤は、潤滑油組成物の0.01~5重量%で存在することができる。
【0112】
解乳化剤
解乳化剤は、水または蒸気に曝露される潤滑油組成物の油-水分離を促進する。適切な解乳化剤には、リン酸トリアルキル、ならびにエチレングリコール、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、またはそれらの混合物の種々のポリマーおよびコポリマーが含まれる。そのような添加剤は、潤滑油組成物の0.01~5重量%で存在することができる。
【0113】
泡抑制剤
泡抑制剤は、安定した泡の形成を遅らせる。シリコーンと有機ポリマーは、典型的な泡抑制剤である。例えば、シリコンオイルなどのポリシロキサン、またはポリジメチルシロキサンは、泡抑制特性をもたらす。さらなる泡抑制剤には、アクリル酸エチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルおよび任意選択的に酢酸ビニルのコポリマーが含まれる。そのような添加剤は、潤滑油組成物の0.001~1重量%で存在することができる。
【0114】
粘度調整剤
粘度調整剤は、潤滑剤に高温および低温での操作性をもたらす。これらの添加剤は、高温でのせん断安定性と低温での許容可能粘度を付与する。適切な粘度調整剤には、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー(OCP)、エチレン/プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン-イソプレンポリマー、スチレン/マレイン酸エステルコポリマー、水素化スチレン/ブタジエンコポリマー、水素化イソプレンポリマー、アルファオレフィン無水マレイン酸コポリマー、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアルキルスチレン、および水素化アルケニルアリール共役ジエンコポリマーが含まれ得る。そのような添加剤は、潤滑油組成物の0.1~15重量%で存在することができる。
【0115】
流動点降下剤
流動点降下剤は、流体が流れるかまたは注ぐことができる最低温度を低下させる。適切な流動点降下剤の例には、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ハロパラフィンワックスと芳香族化合物との縮合生成物、ビニルカルボキシレートポリマー、およびジアルキルフマレートのターポリマー、脂肪酸とアリルビニルエーテルとのビニルエステルが含まれる。そのような添加剤は、潤滑油組成物の0.01~1.0重量%で存在することができる。
【0116】
非イオン性界面活性剤
アルキルフェノールなどの非イオン性界面活性剤は、エンジン動作中のアスファルテンハンドリングを改善し得る。そのよう物質の例には、9~30個の炭素原子を有する直鎖または分枝状アルキル基からのアルキル置換基を有するアルキルフェノールが含まれる。他の例には、アルキルベンゼノール、アルキルナフトールおよびアルキルフェノールアルデヒド縮合物が含まれ、この場合、アルデヒドは、縮合物がメチレン架橋アルキルフェノールであるようなホルムアルデヒドである。そのような添加剤は、潤滑油組成物の0.1~20重量%で存在することができる。
【0117】
増粘剤
ポリイソブチレン(PIB)およびポリイソブテニル無水コハク酸(PIBSA)などの増粘剤を使用して、潤滑剤を増粘することができる。PIBとPIBSAは、いくつかの製造者から市販されている物質である。PIBはPIBSAの製造に使用でき、通常は1000~8000ダルトン(例えば1500~6000ダルトン)の範囲の重量平均分子量および2000~6,000mm2/sの範囲の100℃での動粘度を有する粘性油-混和性液体である。(そのような添加剤は、)潤滑油組成物の1~20重量%で存在することができる。
【0118】
潤滑油組成物の使用
潤滑剤組成物は、船舶用ディーゼルエンジン、固定式ガスエンジンなどを含む圧縮点火内燃機関用のエンジン油またはクランクケース潤滑油として有効であり得る。
【0119】
内燃機関は、2ストロークまたは4ストロークエンジンであってよい。
【0120】
一実施形態では、内燃機関は、船舶用ディーゼルエンジンである。船舶用ディーゼルエンジンは、250~1100rpmの速度を有する中速4ストローク圧縮点火エンジン、または200rpm以下(例えば、60~200rpm)の速度を有する低速クロスヘッド2ストローク圧縮点火エンジンであり得る。
【0121】
船舶用ディーゼルエンジンは、船舶用ディーゼルシリンダー潤滑剤(通常は2ストロークエンジン)、システム油(通常は2ストロークエンジン)、またはクランクケース潤滑剤(通常は4ストロークエンジン)で潤滑され得る。
【0122】
「船舶用」という用語は、エンジンを水上船舶で使用されるものに限定せず、当技術分野で理解されているように、さらに、主推進用の補助発電および発電用の固定式陸上エンジンなどの他の産業用途向けのものも含む。
【0123】
いくつかの実施形態では、内燃機関は、残渣燃料、船舶用残渣燃料、低硫黄船舶用残渣燃料、船舶用留出燃料、低硫黄船舶用留出燃料、または高硫黄燃料で燃料供給され得る。
【0124】
「残渣燃料」は、ISO 8217:2017(“Petroleum products-Fuels(class F)-Specifications of marine fuels”)に定義されている船舶用残渣燃料のような、ISO 10370:2014により測定して、少なくとも2.5重量%(例えば、少なくとも5重量%、または少なくとも8重量%)の炭素残渣、14.0mm2/sを超える50℃での粘度を有する大型船舶用エンジンで燃焼可能な物質を指す。残渣燃料は、主に、原油蒸留の非沸騰留分である。製油所の蒸留プロセスにおける圧力と温度、および原油の種類に応じて、沸騰する可能性のあるガス油がやや多かれ少なかれ非沸騰留分に残り、異なるグレードの残渣燃料を作る。
【0125】
「船舶用残渣燃料」は、ISO 8217:2017に規定されている船舶用残渣燃料の仕様に適合する燃料である。「低硫黄船舶用残渣燃料」は、ISO 8217:2017に規定されている船舶用残渣燃料の仕様に適合する燃料であり、さらに、燃料が蒸留プロセスの残渣生成物である場合に燃料の全重量に対して1.5重量%以下、またはさらには0.5重量%以下の硫黄を有する。
【0126】
留出燃料は、製油所で沸騰プロセスまたは「蒸留」プロセスによって分離される原油の石油留分で構成される。「船舶用留出燃料」は、ISO8217:2017に記載されている船舶用留出燃料の仕様に適合する燃料である。「低硫黄船舶用留出燃料」は、ISO8217:2017に記載されている船舶用留出燃料の仕様に適合する燃料であり、さらに、燃料が蒸留プロセスの蒸留カットである場合に燃料の全重量に対して約0.1重量%以下、0.05重量%以下、またはさらに0.005重量%以下の硫黄を有する。
【0127】
「高硫黄燃料」は、燃料の全重量に対して、1.5重量%を超える硫黄を有する燃料である。
【0128】
さらに、内燃機関は、メタンを主体とする燃料(例えば、天然ガス)、バイオガス、ガス化液化ガス、またはガス化液化天然ガス(LNG)などの「ガス燃料」でも動作可能であり得る。
【実施例】
【0129】
以下の例示的な実施例は、非限定的であることを意図している。
【0130】
試験方法
堆積物抑制は、コマツホットチューブ(KHT)試験により測定され、これは、加熱ガラス管を使用し、この中を、サンプル潤滑剤が、約5mlの全サンプルで、典型的には0.31mL/時にて、16時間のような長時間の間、10mL/分の空気流と共に圧送される。試験の終了時に、ガラス管を、1.0(非常に重いワニス)から10(ワニスなし)のスケールで堆積物について評価する。試験結果を、0.5の倍数で記録する。ガラス管が堆積物で完全に閉塞している場合、試験結果は「閉塞」と記録する。閉塞は、1.0未満の堆積の結果であり、この場合、ラッカーは非常に厚くて黒っぽいが、それでもなお流体は流れることができる。試験は310℃および325℃で実行され、SAE Technical Paper840262に記載されている。潤滑剤の低温特性はASTM D6749に従って、流動点によって評価した。
【0131】
清浄剤
表2に、以下の例で使用するカルボキシレート清浄剤の性質を纏める。
【表2】
【0132】
実施例1および比較例A
一連の6BN船舶用システム油潤滑剤を、グループI基油、過塩基性カルシウムアルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレート清浄剤、アミン系酸化防止剤、およびジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)を用いて配合した。潤滑剤の低温特性を評価し、表3にまとめた。表3の添加剤について記録している重量パーセントは、入手したままの基準である。
【表3】
【0133】
実施例2および比較例B
一連の15BN船舶用TPEO潤滑剤を、グループII基油、過塩基性カルシウムアルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレート清浄剤、プロピレンテトラマーから誘導される過塩基性カルシウム分枝鎖アルキルフェネート清浄剤、無灰分散剤、粘度指数向上剤(VII)、解乳化剤、およびZDDPを用いて配合した。潤滑剤の低温特性を評価し、表4にまとめた。表4の添加剤について記録している重量パーセントは、入手したままの基準である。
【表4】
【0134】
実施例3および比較例C
一連の15BN船舶用シリンダー潤滑剤を、グループI基油、過塩基性カルシウムアルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレート清浄剤の混合物、無灰分散剤、およびPIB増粘剤を用いて配合した。潤滑剤の低温特性を評価し、表5に纏めた。表5の添加剤について記録している重量パーセントは、入手したままの基準である。
【表5】
【0135】
実施例4~5および比較例D
一連の40BN TPEO潤滑剤を、グループI基油、過塩基性カルシウムアルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレート清浄剤の混合物、解乳化剤、ZDDP、および異性化オレフィンから誘導されたC20-C24アルキルフェノール非イオン性界面活性剤を用いて配合した。
【0136】
潤滑剤の低温特性、堆積物抑制特性、および酸化安定性を評価した。その結果を表6に纏める。表6の添加剤について記録している重量パーセントは、入手したままの基準である。
【表6】
【0137】
実施例6~7および比較例E~F
一連の70BN船舶用シリンダー潤滑剤を、グループIまたはグループII基油、過塩基性カルシウムアルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレート清浄剤、プロピレンテトラマーまたは異性化C
20-C
24オレフィンのいずれかから誘導された過塩基性硫化カルシウムアルキルフェネート清浄剤、無灰分散剤、増粘剤、および任意選択的に過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤、ZDDPおよびVIIを用いて配合した。潤滑剤の低温特性を評価し、表7に纏めた。表7の添加剤について記録している重量パーセントは、入手したままの基準である。
【表7】
【0138】
実施例8および比較例G
一連の140BN船舶用シリンダー潤滑剤を、グループII基油、過塩基性カルシウムアルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレート清浄剤、過塩基性硫化カルシウムフェネート清浄剤、過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤、および無灰分散剤を用いて配合した。潤滑剤の低温特性を評価し、表8に纏めた。表8の添加剤について記録している重量パーセントは、入手したままの基準である。
【表8】
【0139】
実施例9および比較例H
一連の200BN船舶用シリンダー潤滑剤を、グループI基油、過塩基性カルシウムアルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレート清浄剤、過塩基性カルシウムスルホネート清浄剤、および無灰分散剤を用いて配合した。潤滑剤の低温特性を評価し、表9に纏めた。表9の添加剤について記録している重量パーセントは、入手したままの基準である。
【表9】
【0140】
実施例10および比較例I
一連の40BN TPEO潤滑剤を、グループI基油、少なくとも1種の過塩基性カルシウムアルキル置換ヒドロキシ芳香族カルボキシレート清浄剤、およびZDDPを用いて配合した。潤滑剤の低温特性、堆積物抑制性能、および酸化安定性を評価した。結果を表10に纏める。表10の添加剤について記録している重量パーセントは、入手したままの基準である。
【表10】