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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 37/02 20060101AFI20240401BHJP
   B23K 9/028 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
B23K37/02 301A
B23K9/028 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022069386
(22)【出願日】2022-04-20
(65)【公開番号】P2023159602
(43)【公開日】2023-11-01
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】391019658
【氏名又は名称】株式会社中部プラントサービス
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 省吾
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/064125(WO,A1)
【文献】特開2001-321944(JP,A)
【文献】特開昭52-063841(JP,A)
【文献】特開2014-205154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 37/02
B23K 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管の突き合わせ溶接を行う溶接装置であって、
溶接ヘッドと、
前記溶接ヘッドを保持するヘッド保持部と、
前記ヘッド保持部を前記配管の周方向に回転させるポジショナと、を備え、
前記溶接ヘッドは、
前記配管を前記溶接ヘッドに対して固定する固定部と、
前記配管に向かって放電して溶接を行う電極と、
前記固定部により固定された前記配管の周方向、かつ、前記ポジショナによる前記ヘッド保持部の回転とは逆方向に、前記電極を回転させる駆動部と、を有し、
前記駆動部は、前記電極の回転で前記ヘッド保持部の回転を相殺することで、前記配管から見た前記電極の方向が維持されるように、前記電極を回転させ、
前記電極は、前記配管の軸線よりも上方に位置し、前記配管に対して下向きに放電して、前記配管の周方向の溶接を行う、溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接装置であって、
前記電極の、前記配管に対する位置は、前記配管の軸線方向から見た軸線の鉛直上方を0°として、前記軸線を中心とする-45°から+45°の範囲内である、溶接装置。
【請求項3】
請求項1に記載の溶接装置であって、
前記溶接ヘッドは、前記配管の軸線を中心として前記配管の軸線周りに回転する環状のリングを有し、
前記リングの回転軸は、前記軸線と重畳しており、
前記電極は、前記リングの内周壁から前記軸線に向かって延びている、溶接装置。
【請求項4】
請求項2に記載の溶接装置であって、
前記溶接ヘッドは、前記配管の軸線を中心として前記配管の軸線周りに回転する環状のリングを有し、
前記リングの回転軸は、前記軸線と重畳しており、
前記電極は、前記リングの内周壁から前記軸線に向かって延びている、溶接装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の溶接装置であって、
前記ポジショナは、溶接の開始に伴って前記電極に流れる電流を検出する検出器を有し、
前記ポジショナは、前記検出器が電流を検出すると、前記ヘッド保持部の回転を開始する、溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2本の配管(鋼管)を突き合わせて溶接する技術として、特許文献1の技術が知られている。特許文献1は、溶接手段(トーチ)を配管の軸心周りに回転させながら、配管の周方向に溶接を行う自動溶接装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-334617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、図12図13に示すように、トーチ100による溶接の際に溶融した金属が重力により垂れ下がり、配管Pの下部に片寄った状態で凝固しやすい。配管Pの上部におけるビード101の余盛高さH1と、下部における余盛高さH2では、下部の余盛高さH2の方が大きくなり、周方向における余盛高さが不均一になることが懸念される。本発明は、周方向における溶融金属の片寄りを抑制して、余盛高さを均一にする自動溶接装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
配管の突き合わせ溶接を行う溶接装置は、溶接ヘッドと、前記溶接ヘッドを保持するヘッド保持部と、前記ヘッド保持部を前記配管の周方向に回転させるポジショナと、を備え、前記溶接ヘッドは、前記配管を前記溶接ヘッドに対して固定する固定部と、前記配管に向かって放電して溶接を行う電極と、前記固定部により固定された前記配管の周方向、かつ、前記ポジショナによる前記ヘッド保持部の回転とは逆方向に、前記電極を回転させる駆動部と、を有し、前記駆動部は、前記電極の回転で前記ヘッド保持部の回転を相殺することで、前記配管から見た前記電極の方向が維持されるように、前記電極を回転させ、前記電極は、前記配管の軸線よりも上方に位置し、前記配管に対して下向きに放電して、前記配管の周方向の溶接を行う。
【0006】
この構成では、配管を周方向に回転させながら、配管に対して上方の位置を維持する電極が下向きに放電して、配管の上部を溶接する。配管が回転しているため、配管は周方向に溶接される。配管上部で発生した溶融金属は、配管と共に回転するが、配管の側部に到達するまでの間に冷却されて凝固するため、垂れ下がりにくい。
【0007】
これにより、溶融金属の片寄りを抑制して、周方向における余盛高さを均一にすることができる。余盛高さが全周にわたって均一になることで、配管の内面までの溶け込みを確保しやすく、のど厚不足を解消できる。
【0008】
前記電極の、前記配管に対する位置は、前記配管の軸線方向から見た前記軸線の鉛直上方を0°として、前記軸線を中心とする-45°から+45°の範囲内であってもよい。
【0009】
このようにすると、溶融金属の垂れ下がりがさらに抑制され、周方向における余盛高さをより均一にできる。
【0010】
前記溶接ヘッドは、前記配管の軸線を中心として前記配管の軸線周りに回転する環状のリングを有し、前記リングの回転軸は、前記軸線と重畳しており、前記電極は、前記リングの内壁から前記軸線に向かって延びていてもよい。
【0011】
電極の回転中心が配管の軸線上に位置するため、電極と配管表面との距離を一定に保ちやすく、溶接品質を安定させることができる。
【0012】
前記ポジショナは、溶接の開始に伴って前記電極に流れる電流を検出する検出器を有し、前記検出器が電流を検出すると、前記ヘッド保持部の回転を開始してもよい。
【0013】
溶接の開始に伴い、自動的にポジショナの回転を開始できるため、溶接ヘッドによる溶接開始からポジショナの回転開始までの時間差のバラツキを抑制して、溶接箇所の品質を安定させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、配管の突き合わせ溶接において、周方向における余盛高さを均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】溶接装置の側面図(Y方向から見た図)
図2】溶接装置の平面図
図3】溶接装置の側面図(X方向から見た図)
図4】溶接装置の電気的構成を示すブロック図
図5】溶接ヘッドの側面図(X方向から見た図)
図6】溶接ヘッドのA-A断面図
図7】溶接の過程を示す断面図(1)
図8】溶接の過程を示す断面図(2)
図9】溶接の過程を示す断面図(3)
図10】溶接の過程を示す断面図(4)
図11】溶接箇所の拡大図
図12】従来技術による溶接を示す図
図13】従来技術による溶接箇所の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.溶接装置の構成
本発明の実施形態を、図1図11を用いて説明する。溶接装置1は、軸線に沿って配置される配管P1、P2の開口端同士を突き合わせ、周方向に溶接を行う装置である(図6参照)。溶接装置1は、架台10A、10B、ヘッド保持部20、溶接ヘッド30、溶接機本体51(図4参照)、ポジショナ60等を備える。以降の説明において、配管P1及びP2を、単に配管Pと表記する場合がある。配管Pの軸を軸線C1、ポジショナ60の回転軸を軸線C2とする。
【0017】
軸線C1に平行な方向をX方向、上下方向をZ方向、X方向とZ方向の両方に対して垂直な方向をY方向とする。
【0018】
<架台>
図1から図3に示すように、架台10Aの上面にはX方向に平行な回転軸を有する一対のローラ11が設けられている。一対のローラ11はY方向に間隔を空けて配されている。また、架台10Bは天板を有し、天板の上にポジショナ60が載置されている。ローラ11及びポジショナ60は、ヘッド保持部20を支持している。
【0019】
<ヘッド保持部>
図1から図3に示すように、ヘッド保持部20は、一対の円筒部21A、21Bと、フレーム22と、アーム23と、ヘッド固定部24と、を備える。フレーム22は矩形枠状であり、X方向に延びる一対の平行な長辺部25と、長辺部25の両端同士を接続する一対の平行な短辺部26と、からなる。
【0020】
一対の短辺部26には、フレーム22の外側に向かって延び、X方向を軸とする円筒部21A、22Bがそれぞれ接続されている。円筒部21Aは、ローラ11によって回転可能に支持されている。また、円筒部21Bは、ポジショナ60の回転板61に対して固定されている。円筒部21A、21Bの軸の高さが一致するように、架台10A、10Bの高さが調整されている。円筒部21A、21Bの軸は、回転板の軸線C2上に並んでいる。なお、円筒部21A、21Bの直径は異なっていてもよい。
【0021】
長辺部25には、アーム23が接続されている。アーム23は、図3に示すように、第1アーム23A、第2アーム23B、及び第3アーム23Cが、順次接続されて構成されている。
【0022】
第1アーム23Aは、基端が長辺部25の任意の箇所に接続され、長辺部25及び短辺部26の両方に垂直な方向に延びている。第1アーム23Aの先端には、第2アーム23Bの基端が接続されている。第2アーム23Bは、短辺部26と平行な方向に延び、先端には第3アーム23Cが接続されている。第3アーム23Cには、ヘッド固定部24が取り付けられている。ヘッド固定部24は例えばクランプであり、後述する溶接ヘッド30を、X方向の両側から挟んで固定している。
【0023】
溶接ヘッド30に固定された配管Pの軸線C1と、ポジショナ60の回転軸である軸線C2とが、X方向から見て重畳するように、アーム23の各部の長さは調整されている。
【0024】
溶接ヘッド30は、ヘッド固定部24及びアーム23を介してフレーム22に対して固定される。ポジショナ60がヘッド保持部20を回転させると、ヘッド保持部20と溶接ヘッド30は、軸線C2周りに一体的に回転する。
【0025】
<自動溶接機>
自動溶接機50は、電源Sから電源ケーブル54を介して電力の供給を受け、配管Pの突き合わせ溶接を自動で行う装置である。自動溶接機50は、図4に示すように、溶接機本体51と、溶接ヘッド30と、を有する。
【0026】
溶接機本体51は、制御部52と、入力部53と、を有する。制御部52は、あらかじめ設定された溶接プログラムや、オペレータが入力部53を介して入力した指示に基づき、溶接ヘッド30の動作を制御する。オペレータは入力部53を操作することで、溶接の開始や終了、溶接プログラムの変更等を制御部52に指示できる。溶接プログラムには、後述する電極36に流す電流の大きさや、電極36の角速度ω1が含まれる。
【0027】
溶接ヘッド30は、TIG溶接を行う溶接ヘッドである。図5は、溶接ヘッド30を、X方向から見た側面図である。図5に示すように、溶接ヘッド30は、ヘッド本体31と、ヘッドカバー32と、リング駆動部(駆動部の一例)33と、リング34と、ヘッドケーブル35と、電極36と、を有する。
【0028】
ヘッド本体31は、一端(図5における左側)が開口した箱状の部材である。開口の下側には、ヒンジ37が設けられている。ヒンジ37を介して、ヘッド本体31とヘッドカバー32とが連結されている。ヘッドカバー32はヒンジ37の軸を中心に回動可能であり、ヘッド本体31の開口を開閉できるようになっている。
【0029】
ヘッド本体31の開口端の一部は、半円状に切り欠かれており、本体凹部31Aを形成している。また、ヘッドカバー32の、本体凹部31Aと対向する箇所も、一部が半円状に切り欠かれており、カバー凹部32Aを形成している。ヘッドカバー32を閉じると、それぞれ半円状の本体凹部31Aとカバー凹部32Aとが繋がって、1つの円形の開口を形成する。
【0030】
開口の直径は、溶接対象の配管Pの外径と略同じである。ヘッドカバー32を閉じて、ヘッド本体31とヘッドカバー32との間で配管Pを挟持することで、溶接ヘッド30に対して配管Pを固定することができる。
【0031】
ヘッド本体31とヘッドカバー32は、反対側(X方向の反対側)も同様の構成になっている。溶接ヘッド30は、X方向の両側において1本ずつ配管Pを挟持して、配管P1、P2を突き合せた状態で固定することができる(図6参照)。ヘッド本体31及びヘッドカバー32は、固定部の一例である。
【0032】
ヘッド本体31の内部には、リング駆動部33と、リング34が収容されている。リング駆動部33は、例えば電気モータであり、ヘッドケーブル35から電力の供給を受けて駆動力を発生する。リング駆動部33が発生した駆動力は、ギヤやベルト等を介してリング34に伝達され、配管Pの軸線C1を中心にリング34を回転させる。
【0033】
リング34は環状であり、内周壁から中心に向かって針状の電極36が延びている。リング34の回転に伴って、電極36は、電極36の先端と配管Pとの距離を一定に保ちつつ、軸線C1を中心に回転する。電極36はヘッドケーブル35を介して供給される電力により、配管Pとの間でアークを発生させつつ回転して、配管Pを周方向に溶接する。
【0034】
<ポジショナ>
ポジショナ60は、架台10Bの上に載置されており、回転板61、入力部62、制御部63、駆動部64、検出器65等を有する(図1図4参照)。ポジショナ60は、駆動部64の駆動力により回転板61を軸線C2周りに回転させる単軸ポジショナである。
【0035】
入力部62は、オペレータがポジショナ60を動作させるためのボタンやスイッチ類を含む入力装置である。制御部63は、入力部62に入力された情報に基づき、駆動部64の動作を制御する。オペレータは入力部62を操作することで、回転板61の回転の開始や停止が可能である。また、オペレータは、入力部62を操作して、回転板61の回転方向の切り替えや、回転速度(角速度ω2)を任意に変更できる。
【0036】
上述したように、回転板61には、ヘッド保持部20の円筒部21Bが固定されている。オペレータは入力部62を操作することにより、任意の角速度ω2、及び回転方向で、ヘッド保持部20を回転板61の回転軸である軸線C2周りに回転させることができる。本実施形態では、角速度ω2は、電極36の角速度ω1と同じ大きさ、かつ、逆向きに設定される。
【0037】
検出器65は、センサ65Aを有し、電源ケーブル54に流れる電流を検出する。センサ65Aとしては、例えば電源ケーブル54の周囲に発生する磁界の強度から電流を検出する磁場検出型のセンサが用いられる。
【0038】
電源ケーブル54に取り付けられたセンサ65Aは、電源ケーブル54に流れる電流により発生する磁界を検出する。磁界強度があらかじめ設定した閾値以上になると、検出器65は制御部63にON信号を送信する。ON信号を受信した制御部63は、すぐに駆動部64を駆動してヘッド保持部20の回転を開始する。
【0039】
これにより、オペレータの操作によって自動溶接機50の溶接が始まるタイミングと、ポジショナ60の回転が始まるタイミングのずれが小さく、かつ一定になり、溶接品質を安定させることができる。
【0040】
検出器65に設定される電流値の閾値は、リング駆動部33のみが稼働しているときに流れる電流によりも大きい値であって、かつ、リング駆動部33が稼働しておらず、電極36が放電して溶接を行っているときの電流値よりも小さい値に設定される。
【0041】
2.溶接時の動作
次に、本実施形態に係る溶接装置1が配管Pの突き合わせ溶接を行うときの動作を図7図11を参照して説明する。図7図10では、簡略化のため、ヘッド保持部20、溶接ヘッド30、配管Pのみを図示している。
【0042】
図7は、溶接開始前の初期状態を示している。図7(a)はヘッド保持部20及び溶接ヘッド30の外観を示し、図7(b)は、溶接ヘッド30の内部における電極36及び配管Pの位置関係を示している。図8(a)(b)、図9(a)(b)も同様である。
【0043】
なお、ヘッド保持部20の回転を分かりやすくするため、図7(a)に示す初期状態において、ヘッド保持部20の短辺部26を、Z方向に平行な方向にしている。
【0044】
以下の説明において、図7(b)における軸線C1の鉛直上方の方向を0°として、軸線C1を中心とする反時計回りの角度を+(プラス)、時計回りの角度を-(マイナス)で表記する。また、配管Pに対する電極36の方向及び位置を、軸線C1を中心とする角度を用いて表記する。例えば、図7(b)に示す電極36は、「0°の方向」又は「0°の位置」と表記する。
【0045】
オペレータは、溶接開始前に自動溶接機50の入力部53を操作してリング34を回転させ、電極36を0°の位置に移動させる(図7(b)の初期状態)。その後、電極36による放電が始まり、下向きの溶接が開始される。電極36は溶接ヘッド30に対して角速度ω1で回転する(矢線70)。配管Pの外周上において溶接が開始された位置を、溶接開始位置PAとする。この実施形態では、溶接開始位置PAは外周上の0°の位置としたが、溶接開始位置PAは、配管Pの軸線C1よりも上方(つまり-90°~+90°の範囲)の任意の位置でよい。
【0046】
検出器65は、放電の開始に伴って電源ケーブル54に流れる電流を検出し、制御部63にON信号を発信する。制御部63はON信号を受けて駆動部64を駆動させ、ヘッド保持部20を角速度ω2で回転させる(矢線71)。
【0047】
ヘッド保持部20が、初期状態から+45°回転したときの状態を図8(a)、(b)に示す。ヘッド保持部20と、ヘッド保持部20に保持されている溶接ヘッド30と、溶接ヘッド30に対して固定されている配管Pは、一体的に回転する。これに対し、リング34及び電極36は、溶接ヘッド30の内部で-45°回転する。
【0048】
ヘッド保持部20(及び配管P)の回転と、電極36の回転は相殺され、電極36の方向は初期状態から変わらず0°に維持されて下向きの溶接を継続して行っている。一方、配管Pはヘッド保持部20と共に+45°回転しているため、配管Pの外周は45°にわたって溶接されており、溶接開始位置PAから電極36の直下まで、45°分のビード72が形成される。
【0049】
ヘッド保持部20がさらに+45°(初期状態からは+90°)回転したときの状態を図9(a)、(b)に示す。ヘッド保持部20(及び配管P)の回転と、電極36の回転は相殺されるため、配管Pから見た電極36の方向は、初期状態から変わらず0°に維持される。一方、配管Pは、ヘッド保持部20と共に、図8の状態からさらに+45°回転しているため、配管Pの外周は合計90°溶接され、溶接開始位置PAから電極36の直下まで90°分のビード72が形成される。この後もヘッド保持部20の回転と溶接ヘッド30による溶接を続け、配管Pから見た電極36の方向を初期状態から維持したまま、配管Pの外周を1周以上(例えば2周)溶接することで、配管Pの突き合わせ溶接が完了する。
【0050】
3.効果説明
図10は、図9(b)の配管Pと電極36の拡大図である。電極36の近傍である配管Pの上部では、電極36から発生したアークによって配管Pが熱せられて溶融金属が生じる。
【0051】
ビード72のうち、配管Pの上部に位置するA点は電極36の近傍を通過した直後なため、高温で、溶融金属が多く存在している。一方、B点は電極36の下を通過してから時間が経っているため、A点と比べて溶融金属の温度が低下しており、A点よりも金属の凝固が進行している。
【0052】
配管上部のA点では傾斜が緩やかなため、溶融金属が垂れ下がりにくい。また、B点はA点よりも傾斜が急であるが、A点よりも金属の凝固が進行しており、溶融金属は管周方向のいずれの方向に対しても垂れ下がりにくい。本実施形態の構成によると、溶接により生じた溶融金属の垂れ下がりが抑制され、溶融金属が周方向に流れて特定の箇所に片寄ることを抑制できる。
【0053】
本実施形態の溶接装置1を用いて突き合わせ溶接を行った配管Pを図11に示す。ビード72の余盛高さは配管上部のH3と、下部のH4とで略同じ大きさである。本実施形態の構成では、従来技術による溶接(図12図13参照)と比べて、周方向における余盛高さを均一にすることができる。
【0054】
また、余盛高さを均一にすることで、配管Pの内面までの溶け込みを確保しやすくなり、のど厚不足を解消することができる。これにより、溶接箇所の強度を高めることができる。
【0055】
また、溶接装置1に含まれる溶接ヘッド30としては、従来技術による溶接で用いられる既存の溶接ヘッドを適用することができる。そのため、本実施形態の溶接装置1を低コストで導入することができる。
【0056】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0057】
(1)上述した実施形態では、TIG溶接を行う溶接ヘッド30を例示したが、TIG溶接以外の方法で溶接を行う溶接ヘッドを用いてもよい。また、溶接箇所に溶加材を送り込む方式の溶接ヘッドでもよい。
【0058】
(2)上述した実施形態では、溶接の開始を検出するために、電源Sと自動溶接機50との間を接続する電源ケーブル54に検出器65を取り付けたが、検出器65を設けず、オペレータが手動でポジショナ60の回転を開始してもよい。この場合、オペレータは自動溶接機50の入力部53及びポジショナ60の入力部62の両方を手動で操作して、溶接ヘッド30による溶接と、ポジショナ60の回転が並行して行われるようにする。
【0059】
(3)上述した実施形態では、電源Sと自動溶接機50との間を接続する電源ケーブル54の電流を検出するように検出器65を設けたが、検出器65を他の場所に設けてもよい。例えば溶接機本体51と溶接ヘッド30との間を接続するヘッドケーブル35に検出器65を設けてもよい。また、溶接機本体51の内部に検出器65を設けてもよい。
【0060】
(4)上述した実施形態では、ヘッド保持部20のフレーム22が矩形枠状である場合を例示したが、フレーム22の形状はこれに限られない。例えば、2本の短辺部26と1本の長辺部25からなるクランク形状のフレームであってもよい。また、円筒部21A、21Bを直線的に接続する形状であってもよい。つまり、ヘッド保持部20は、溶接ヘッド30を保持して、溶接ヘッド30を軸線C2周りに回転させることができる構成であればよい。
【0061】
(5)上述した実施形態では、検出器65として磁場検出型のセンサを用いたが、他の方法により電源ケーブル54に流れる電流を検出してもよい。電源ケーブル54に直列に接続する検出器であってもよい。
【0062】
(6)上述した実施形態では、配管Pの軸線C1と、ポジショナ60(及びヘッド保持部20)の軸線C2がX方向から見て重畳する場合を例示したが、軸線C1と軸線C2が重畳していなくてもよい。
【0063】
(7)上述した実施形態では、ヘッド保持部20の回転方向と、電極36の回転方向を、それぞれ図7に示す矢線71の方向及び矢線70の方向としたが、それぞれ逆向きの回転方向であってもよい。
【0064】
(8)上述した実施形態では、配管Pに対して電極36が0°の位置を維持しつつ配管Pの周方向に溶接を行う場合を例示したが、溶接時の電極36の位置は0°に限られず、また、溶接中に位置が変動してもよい。電極36は、配管Pの軸線C1よりも上方に位置する状態を維持して下向きに溶接を行えばよい。具体的には、溶接中の電極36が-90°~+90°の範囲に位置していればよく、-45°~+45°の範囲が特に望ましい。
【0065】
(9)上述した実施形態では、検出器65からON信号を受信した制御部63は、すぐにヘッド保持部20の回転を開始したが、ヘッド保持部20の回転は、ON信号の受信後、任意のタイミングで開始してもよい。例えば、電極36による溶接が開始されても、ON信号の受信後すぐにはヘッド保持部20を回転させず、周方向に所定角度溶接を行った後、ヘッド保持部20の回転を開始してもよい。また、ON信号の受信後、、所定時間経過後にヘッド保持部20の回転を開始してもよい。オペレータによる入力部62の操作や、オペレータがあらかじめポジショナ60の動作プログラムを設定しておくことにより、ヘッド保持部20の回転の開始を、ON信号受信後の任意のタイミングにすることができる。
【符号の説明】
【0066】
1: 溶接装置
10A、10B: 架台
11: ローラ
20: ヘッド保持部
30: 溶接ヘッド
34: リング
35: ヘッドケーブル
36: 電極
54: 電源ケーブル
60: ポジショナ
61: 回転板
65: 検出器
P: 配管
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