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特許7463478圧縮成形法による樹脂封止プロセス用離型フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】圧縮成形法による樹脂封止プロセス用離型フィルム
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/68 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
B29C33/68
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022180935
(22)【出願日】2022-11-11
(62)【分割の表示】P 2018146878の分割
【原出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2023001351
(43)【公開日】2023-01-04
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000220099
【氏名又は名称】三井化学東セロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 勝
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直紀
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特許第7177622(JP,B2)
【文献】特開2017-132162(JP,A)
【文献】特開2020-001328(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008562(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/098203(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 43/00-43/58
H01L 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮成形法による樹脂封止プロセスに使用するプロセス用離型フィルムであって、その少なくとも1の表面の水に対する接触角が、90°から130°であり、
前記フィルムのMD方向における、温度175℃で、100mm/分で37.5%伸長させたときの引張強度が1.0MPaから10.0MPaであり、
かつ同条件でMD方向に37.5%伸長後に、2分間静止後、圧縮方向に100mm/分で原点方向へ戻したとき、荷重が0になるまでの変位である戻り値から、下記式(1)式にしたがって得られる復元率(%)が、30~80(%)であり、
前記圧縮成形による樹脂封止プロセスが、その際に前記プロセス用離型フィルムが伸張及び圧縮されるものであり、
前記圧縮成形法による樹脂封止プロセスにおいて、キャビティの初期深さとキャビティの最終深さの差が、1.0mm以上である、前記プロセス用離型フィルム、
戻り値/伸長長さ×100=復元率% ・・・(1)。
【請求項2】
請求項1に記載のプロセス用離型フィルムを用いる樹脂封止プロセスを有する、樹脂封止半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂封止プロセスにおいて、封止後の樹脂厚みが0.5mm以上である、請求項2に記載の樹脂封止半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂封止プロセスにおける最高温度が、110から190℃である、請求項2又は3に記載の樹脂封止半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂封止プロセスにおいて用いる封止樹脂が、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びシリコーン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含有する、請求項2から4のいずれか一項に記載の樹脂封止半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂封止プロセスにおいて、半導体チップが封止される、請求項2から5のいずれか一項に記載の樹脂封止半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記プロセス用離型フィルムが、離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含み、前記少なくとも1の表面が離型層Aの表面で構成される、請求項2から6のいずれか一項に記載の樹脂封止半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記離型層Aが、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含む、請求項7に記載の樹脂封止半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記プロセス用離型フィルムが、更に離型層A’を有し、かつ、前記離型層Aと、前記耐熱樹脂層Bと、前記離型層A’とが、この順で積層され、前記離型層Aと、前記離型層A’の水に対する接触角が、90°から130°である、請求項7又は8に記載の樹脂封止半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記離型層A’が、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含む、請求項9に記載の樹脂封止半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮成形法による樹脂封止プロセスに使用するプロセス用離型フィルムに関し、より好ましくは、金型内に半導体チップ等を配置して樹脂を注入成形する際に、該半導体チップ等と金型内面との間に配置されるプロセス用離型フィルムであって、封止後の剥離不良が有効に抑制されたプロセス用離型フィルム、に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等の製造方法において、半導体チップ等を樹脂封止する方法としては、半導体チップ等を、金型内の所定の場所に位置するように配置し、金型内に硬化性樹脂を充填して硬化させる、トランスファ成形法または圧縮成形法による方法が知られている。
近年、大容量のNAND型フラッシュメモリが増えてきている。この種の素子はメモリチップを多段に積層するため、全体の厚みが大きい。したがって、これを製造するための金型のキャビティも深くなってきている。圧縮成形法にて離型フィルムを用いる場合、金型の表面に配置された離型フィルムは一度伸ばされ、その後に縮められるため、離型フィルムにシワが発生する問題がある。シワの問題は、金型のキャビティが深くなるにつれて顕著になり、場合によっては、シワになった離型フィルムが硬化性樹脂に食い込み離型しない、という現象が発生する。すなわち、大容量のNAND型フラッシュメモリ等の厚みの大きい素子の製造プロセスにおいては、シワによる剥離不良や外観不良の問題が一層深刻であり、その解決が強く求められていた。
半導体チップ等を樹脂封止する際の剥離不良や外観不良を防止するための対策としては、金型設計を改良することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この対策は金型の構造を複雑化し、また金型設計上の自由度を制限するため、可能な限りプロセス用離型フィルムで剥離不良対策をすることが好ましい。
また、伸縮時のシワの防止については、特定の物性を有するエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体フィルムをプロセス用離型フィルムとして使用することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、剥離不良の防止の点で、更なる改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-225133号公報
【文献】国際公開第2018/008562 A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の従来技術の限界に鑑み、圧縮成形法により半導体チップ等の物品を樹脂封止する工程において、樹脂封止後の成形品を、金型構造や離型剤等に依存することなく容易に離型でき、かつシワや樹脂欠け等の外観不良のない成形品を得ることができる、プロセス用離型フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討の結果、特定の条件下でフィルムを伸張したときの引張強度、及びその後に荷重を除去したときのフィルム長さの復元率が、フィルムを伸縮させたときのシワの発生と密接な関係を有することを見出し、当該知見を利用して剥離不良や外観不良を効果的に抑制できるフィルムを特定することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
[1]圧縮成形法による樹脂封止プロセスに使用するプロセス用離型フィルムであって、その少なくとも1の表面の水に対する接触角が、90°から130°であり、
前記フィルムのMD方向(フィルムの流れ方向)における、温度175℃で、100mm/分で37.5%伸長させたときの引張強度が1.0MPaから10.0MPaであり、
かつ同条件でMD方向に37.5%伸長後に、2分間静止後、圧縮方向に100mm/分で原点方向へ戻したとき、荷重が0になるまでの変位である戻り値から、下記式(1)式にしたがって得られる復元率(%)が、30~80(%)である、前記プロセス用離型フィルム、である。
戻り値/伸長長さ×100=復元率% ・・・(1)。
【0006】
また、下記[2]から[10]は、いずれも本発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[2]
前記圧縮成形法による樹脂封止プロセスにおいて、キャビティの初期深さとキャビティの最終深さの差が、1.0mm以上である、[1]に記載のプロセス用離型フィルム。
[3]
前記圧縮成形法による樹脂封止プロセスにおいて、封止後の樹脂厚みが0.5mm以上である、[1]又は[2]に記載のプロセス用離型フィルム。
[4]
前記圧縮成形法による樹脂封止プロセスにおける最高温度が、110から190℃である、[1]から[3]のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
[5]
前記圧縮成形法による樹脂封止プロセスにおいて用いる封止樹脂が、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びシリコーン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含有する、[1]から[4]のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
[6]
前記圧縮成形法による樹脂封止プロセスにおいて、半導体チップが封止される、[1]から[5]のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
[7]
離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、を含み、前記少なくとも1の表面が離型層Aの表面で構成される、前記[1]から[6]のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
[8]
前記離型層Aが、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含む、[1]から[7]のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
[9]
更に離型層A’を有し、かつ、前記離型層Aと、前記耐熱樹脂層Bと、前記離型層A’とが、この順で積層され、前記離型層Aと、前記離型層A’の水に対する接触角が、90°から130°である、[1]から[8]のいずれか一項に記載のプロセス用離型フィルム。
[10]
前記離型層A’が、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含む、樹脂を含む、[9]に記載のプロセス用離型フィルム。
なお、上記課題は、下記[11]の本願第二発明によっても解決される、
[11]圧縮成形法による樹脂封止プロセスに使用するプロセス用離型フィルムであって、その少なくとも1の表面の水に対する接触角が、90°から130°であり、離型層Aと、耐熱樹脂層Bとを少なくとも含み、前記少なくとも1の表面が離型層Aの表面で構成され、かつ耐熱樹脂層Bの、温度175℃で、100mm/分でMD方向(フィルムの流れ方向)に37.5%伸長後に、2分間静止後、圧縮方向に100mm/分で原点方向へ戻したとき、荷重が0になるまでの変位である戻り値から、下記式(1)式にしたがって得られる復元率(%)が30~80(%)である、上記プロセス用離型フィルム、
戻り値/伸長長さ×100=復元率% ・・・(1)。
なお、本願第二発明の好ましい諸態様及び諸実施形態として、[11]記載の本願第二発明に、上記[1]から[10]記載の技術的事項の少なくとも一部を適宜付加したもの、を挙げることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のプロセス用離型フィルムによれば、圧縮成形法によって半導体チップ等を樹脂封止する工程において、樹脂封止後の成形品を、金型構造や離型剤量によることなく容易に離型でき、かつシワや樹脂欠け等の外観不良のない成形品を得ることができる、という実用上高い価値を有する顕著な技術的効果が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明のプロセス用離型フィルムを用いた、半導体チップの樹脂封止プロセスの一例を示す模式図である。
図2】本発明の実施例/比較例における、成形後の剥離状態等の試験方法を示す模式図である。
図3】本発明の実施例/比較例における、フィルム引張試験、及びフィルム伸びの戻り値評価の試験方法を示す模式図である。
図4】本発明の実施例/比較例における、フィルム引張試験、及びフィルム伸びの戻り値評価の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
プロセス用離型フィルム
本発明は、圧縮成形法による樹脂封止プロセスに使用するプロセス用離型フィルムであって、その少なくとも1の表面の水に対する接触角が、90°から130°であり、
前記フィルムのMD方向(フィルムの流れ方向)における、温度175℃で、100mm/分で37.5%伸長させたときの引張強度が1.0MPaから10.0MPaであり、
かつ同条件でMD方向に37.5%伸長後に、2分間静止後、圧縮方向に100mm/分で原点方向へ戻したとき、荷重が0になるまでの変位である戻り値から、下記式(1)式にしたがって得られる復元率(%)が、30~80(%)である、前記プロセス用離型フィルム、である。
戻り値/伸長長さ×100=復元率% ・・・(1)。
【0010】
上記の様に、本発明のプロセス用離型フィルムは、その少なくとも1の表面の水に対する接触角が、90°から130°である。その少なくとも1の表面の水に対する接触角が上記範囲にあることにより、本発明のプロセス用離型フィルムは、封止樹脂からの剥離性に優れる。
本発明のプロセス用離型フィルムは、その少なくとも1の表面の水に対する接触角は、好ましくは95°から120°であり、より好ましくは98°から115°、更に好ましくは100°から110°である。
本発明のプロセス用離型フィルムは、その両面の水に対する接触角が、上記条件を満たすことが好ましい。両面の水に対する接触角が、上記条件を満たすことで、封止樹脂及び金型の両方からの離型性に優れる、プロセス用離型フィルムを実現することができる。
フィルム表面の水に対する接触角は、当該技術分野における通常の方法で測定すればよく、例えば本願実施例に記載の方法で測定することができる。
【0011】
少なくとも1の表面の水に対する接触角が上記条件を満たすように、本発明のプロセス用離型フィルムは、水に対する接触角が上記条件を満たす樹脂、例えばフッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含むこと、またはその様な樹脂からなることが好ましい。また、本発明のプロセス用離型フィルムが多層フィルムである場合には、少なくとも1の表面を構成する層に、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を使用することも好ましい。
【0012】
同じく上記の様に、本発明のプロセス用離型フィルムは、本発明のプロセス用離型フィルムは、MD方向(フィルムの流れ方向)における、温度175℃で、100mm/分で37.5%伸長させたときの引張強度が1.0MPaから10.0MPaである。
引張強度が上記範囲内にあることで、本発明のプロセス用離型フィルムは、樹脂封止プロセスにおける破れやシワ等の問題を有効に抑制することができる。
本発明のプロセス用離型フィルムの、MD方向(フィルムの流れ方向)における、温度175℃で、100mm/分で37.5%伸長させたときの引張強度の上限は、9.0MPaであることが好ましく、8.0MPaであることがより好ましい。また、本発明のプロセス用離型フィルムの、MD方向(フィルムの流れ方向)における、温度175℃で、100mm/分で37.5%伸長させたときの引張強度の下限は、2.0MPaであることが好ましく、4.0MPaであることがより好ましく、6.0MPaであることが更に好ましい。
更にはMD方向およびMD方向に直交するTD方向において、ともに上記条件を満たすことがより好ましい。
フィルムの引張強度は、当該技術分野において従来公知の方法で測定することができ、例えば本願明細書実施例に記載の方法で測定することができる。
本発明のプロセス用離型フィルムの引張強度は、フィルムの素材、厚み、製造条件、とりわけ延伸及び熱処理条件を適宜設定することで、調整することができる。また、本発明のプロセス用離型フィルムが多層フィルムである場合には、各層を構成するフィルムの素材、厚み、製造条件等を適宜組み合わせることで、調整することができる。
【0013】
同じく上記の様に、本発明のプロセス用離型フィルムは、温度175℃で、100mm/分でMD方向に37.5%伸長後に、2分間静止後、圧縮方向に100mm/分で原点方向へ戻したとき、荷重が0になるまでの変位である戻り値から、下記式(1)式にしたがって得られる復元率(%)が、30~80(%)である。
戻り値/伸長長さ×100=復元率% ・・・(1)。
復元率が上記条件を満たすことで、本発明のプロセス用離型フィルムは、樹脂封止プロセスにおける破れや成形体の外観不良等の問題を有効に抑制しながら、離型フィルムの噛み込みによる剥離不良を効果的に防止することができる。
復元率は、43%以上であることが好ましく、45%以上であることが特に好ましい。
更にはMD方向およびMD方向に直交するTD方向において、ともに上記条件を満たすことがより好ましい。
【0014】
図3に、戻り値の測定方法を模式的に示す。
まず、測定するフィルムを、テンシロン万能材料試験機等の引張試験を行うことができる試験機にチャック間距離Lでセットする(図3(a))。
次に、温度175℃で、チャック間に引張応力をかけ、100mm/分で37.5%伸張させる(伸びΔL=L×0.375)(図3(b))。
そのまま2分間静止した後、圧縮方向(伸張とは逆方向)に100mm/分で戻したとき、荷重が0になる点の変異を戻り値ΔLとした(図3(c))。
上記測定結果から、復元率を下式に従い算出する。
復元率(%)=100×ΔL/ΔL
これにより得られる荷重と変位との関係を模式的に図4に示す。
【0015】
復元率が上記範囲内にあることで、離型フィルムの噛み込みによる剥離不良が効果的に防止されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、例えば、図2に示す様な、樹脂封止プロセスにおける工程と、何らかの関係があることが推定される。
より具体的には、プロセス用離型フィルムが下金型上に配置された直後(図2(a))と比較して、真空吸着工程後(図2(b))には、プロセス用離型フィルムは初期キャビティ深さの例えば2倍(2×a)伸張した状態にある。
その後、型締め、圧縮を行なうと、プロセス用離型フィルムは、圧縮方向(伸張とは逆方向)に戻された状態になり、キャビティ深さは、初期と比べ例えば1/3程度に圧縮される。このとき、復元率がキャビティ深さの減少率(a-a)/aと較べて極端に小さいと、キャビティ側面の離型フィルムにシワが発生しやすくなり、その結果封止樹脂との間に噛みこみが発生しやすくなる方向に作用し得ることと、何らかの関係があることが推定される。
【0016】
本発明のプロセス用離型フィルムの復元率は、フィルムの素材、厚み、製造条件、とりわけ延伸及び熱処理条件を適宜設定することで、調整することができる。また、本発明のプロセス用離型フィルムが多層フィルムである場合には、各層を構成するフィルムの素材、厚み、製造条件等を適宜組み合わせることによっても、調整することができる。
【0017】
本発明のプロセス用離型フィルムは、上記の所要特性を具備する限り、単層フィルムであっても、多層フィルムであってもよいが、所要の各特性を同時に満足し、かつ好ましい特性を適宜具備する観点からは、設計上の自由度の高い多層フィルムであることが好ましい。
多層フィルムである場合のフィルム構成にも特に限定は無いが、成形品や金型に対する離型性を有する離型層A、及び該離型層Aを支持する耐熱樹脂層B、を含む積層フィルムであることが好ましい。この形態においては、プロセス用離型フィルムの、水に対する接触角が、90°から130°である少なくとも1の表面は、離型層Aで構成される。
この形態のプロセス用離型フィルムは、所望により、更に離型層A’を有していてもよく、このとき、離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、離型層A’とが、この順で積層されることが好ましい。更にこのとき、離型層A’の水に対する接触角も、90°から130°であることが好ましい。
【0018】
本形態のプロセス用離型フィルムは、圧縮成形法により、成形金型の内部で半導体素子等を樹脂封止するときに、成形金型の内面に配置される。このとき、離型フィルムの離型層A(離型層A’が存在する場合には離型層A’であってもよい)を、封止樹脂側に配置することが好ましい。本形態の離型フィルムを配置することで、樹脂封止された半導体素子等を、金型から容易に離型することができる。
離型層Aの水に対する接触角は、90°から130°であり、この様な接触角を有することにより離型層Aは濡れ性が低く、硬化した封止樹脂や金型表面に固着することなく、成形品を容易に離型することができる。
離型層Aの水に対する接触角は、好ましくは95°から120°であり、より好ましくは98°から115°、更に好ましくは100°から110°である。
【0019】
離型層A
上記好ましい実施形態のプロセス用離型フィルムを構成する離型層Aは、水に対する接触角が、90°から130°であり、好ましくは95°から120°であり、より好ましくは98°から115°、更に好ましくは100°から110°である。成形品の離型性に優れること、入手の容易さなどから、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体、及びポリスチレン系樹脂からなる群より選ばれる樹脂を含むことが好ましい。
【0020】
離型層Aに用いることができるフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレンに由来する構成単位を含む樹脂であってもよい。テトラフルオロエチレンの単独重合体であってもよいが、他のオレフィンとの共重合体であってもよい。他のオレフィンの例には、エチレンが含まれる。モノマー構成単位としてテトラフルオロエチレンとエチレンとを含む共重合体は好ましい一例であり、この様な共重合体においては、テトラフルオロエチレンに由来する構成単位の割合が55~100質量%であり、エチレンに由来する構成単位の割合が0~45質量%であることが好ましい。
【0021】
離型層Aに用いることができる4-メチル-1-ペンテン(共)重合体は、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体であってもよく、また4-メチル-1-ペンテンと、それ以外の炭素原子数2~20のオレフィン(以下「炭素原子数2~20のオレフィン」という)との共重合体であってもよい。
【0022】
4-メチル-1-ペンテンと、炭素原子数2~20のオレフィンとの共重合体の場合、4-メチル-1-ペンテンと共重合される炭素原子数2~20のオレフィンは、4-メ
チル-1-ペンテンに可とう性を付与し得る。炭素原子数2~20のオレフィンの例には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が含まれる。これらのオレフィンは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0023】
4-メチル-1-ペンテンと、炭素原子数2~20のオレフィンとの共重合体の場合、4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位の割合が96~99質量%であり、それ以外の炭素原子数2~20のオレフィンに由来する構成単位の割合が1~4質量%であることが好ましい。炭素原子数2~20のオレフィン由来の構成単位の含有量が少なくすることで、共重合体を硬く、すなわち貯蔵弾性率E’が高くすることができ、封止工程等における皺が発生の抑制に有利である。一方、炭素原子数2~20のオレフィン由来の構成単位の含有量が多くすることで、共重合体を軟らかく、すなわち貯蔵弾性率E’を低くすることができ、金型追随性を向上させるのに有利である。
【0024】
4-メチル-1-ペンテン(共)重合体は、当業者において公知の方法で製造されうる。例えば、チーグラ・ナッタ触媒、メタロセン系触媒等の公知の触媒を用いた方法により製造されうる。4-メチル-1-ペンテン(共)重合体は、結晶性の高い(共)重合体であることが好ましい。結晶性の共重合体としては、アイソタクチック構造を有する共重合体、シンジオタクチック構造を有する共重合体のいずれであってもよいが、特にアイソタクチック構造を有する共重合体であることが物性の点からも好ましく、また入手も容易である。さらに、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体は、フィルム状に成形でき、金型成形時の温度や圧力等に耐える強度を有していれば、立体規則性や分子量も、特に制限されない。4-メチル-1-ペンテン共重合体は、例えば、三井化学株式会社製TPX(登録商標)等、市販の共重合体であってもよい。
【0025】
離型層Aに用いることができるポリスチレン系樹脂には、スチレンの単独重合体及び共重合体が包含され、その重合体中に含まれるスチレン由来の構造単位は少なくとも60重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上である。
ポリスチレン系樹脂は、アイソタクチックポリスチレンであってもシンジオタクチックポリスチレンであってもよいが、透明性、入手の容易さなどの観点からはアイソタクチックポリスチレンが好ましく、離型性、耐熱性などの観点からは、シンジオタクチックポリスチレンが好ましい。ポリスチレンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
離型層Aは、成形時の金型の最高温度(典型的には110~190℃)に絶え得る耐熱性を有することが好ましい。かかる観点から、離型層Aとしては、結晶成分を有する結晶性樹脂を含むことが好ましく、当該結晶性樹脂の融点は190℃以上であることが好ましく、200℃以上300℃以下がより好ましい。
離型層Aに結晶性をもたらすため、例えばフッ素樹脂においてはテトラフルオロエチレンから導かれる構成単位を少なくとも含むことが好ましく、4-メチル-1-ペンテン(共)重合体においては4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位を少なくとも含むことが好ましく、ポリスチレン系樹脂においてはシンジオタクチックポリスチレンを少なくとも含むことが好ましい。離型層Aを構成する樹脂に結晶成分が含まれることにより、樹脂封止工程等において皺が発生し難く、皺が成形品に転写されて外観不良を生じることを抑制するのに好適である。
【0027】
離型層Aを構成する上記結晶性成分を含む樹脂は、JISK7221に準じて示差走査熱量測定(DSC)によって測定した第1回昇温工程での結晶融解熱量が15J/g以上、60J/g以下であることが好ましく、20J/g以上、50J/g以下であることがより好ましい。15J/g以上であると、樹脂封止工程等での熱プレス成形に耐え得る耐熱性及び離型性をより効果的に発現することが可能であることに加え、寸法変化率も抑制することができるため、皺の発生も防止することができる。一方、前記結晶融解熱量が60J/g以下であると、離型層Aが適切な硬度となるため、樹脂封止工程等においてフィルムの金型への十分な追随性を得ることができるため、フィルムの破損のおそれもない。
【0028】
離型層Aは、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン共重合体、及び/又はポリスチレン系樹脂の他に、さらに他の樹脂を含んでもよい。この場合、他の樹脂の硬度が比較的高いことが好ましい。他の樹脂の例には、ポリアミド-6、ポリアミド-66、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートが含まれる。このように、離型層Aが、例えば柔らかい樹脂を多く含む場合(例えば、4-メチル-1-ペンテン共重合体において炭素原子数2~20のオレフィンを多く含む場合)でも、硬度の比較的高い樹脂をさらに含むことで、離型層Aを硬くすることができ、封止工程等における皺の発生の抑制に有利である。
【0029】
これらの他の樹脂の含有量は、離型層Aを構成する樹脂成分に対して例えば3~30質量%であることが好ましい。他の樹脂の含有量を3質量以上とすることで、添加による効果を実質的なものとすることができ、30質量%以下とすることで、金型や成形品に対する離型性を維持することができる。
【0030】
また離型層Aは、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン共重合体、及び/又はポリスチレン系樹脂に加えて、本発明の目的を損なわない範囲で、耐熱安定剤、耐候安定剤、発錆防止剤、耐銅害安定剤、帯電防止剤等、フィルム用樹脂に一般的に配合される公知の添加剤を含んでもよい。これらの添加剤の含有量は、フッ素樹脂、4-メチル-1-ペンテン共重合体、及び/又はポリスチレン系樹脂100重量部に対して、例えば0.0001~10重量部とすることができる。
【0031】
離型層Aの厚みは、成形品に対する離型性が十分であれば、特に制限はないが、通常1~50μmであり、好ましくは5~30μmである。
【0032】
離型層Aの表面は、必要に応じて凹凸形状を有していてもよく、それにより離型性を向
上させることができる。離型層Aの表面に凹凸を付与する方法は、特に制限はないが、エ
ンボス加工等の一般的な方法が採用できる。
【0033】
離型層A’
上記実施形態のプロセス用離型フィルムは、離型層A及び耐熱樹脂層Bに加えて、更に離型層A’を有していてもよい。すなわち、本形態のプロセス用離型フィルムは、離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、離型層A’とをこの順で含む積層フィルムであるプロセス用離型フィルムであってもよい。
本発明のプロセス用離型フィルムを構成してもよい離型層A’の水に対する接触角は、90°から130°であり、好ましくは95°から120°であり、より好ましくは98°から115°、更に好ましくは100°から110°である。そして、離型層A’の好ましい材質、構成、物性等は、上記において離型層Aについて説明したものと同様である。
【0034】
プロセス用離型フィルムが、離型層Aと、耐熱樹脂層Bと、離型層A’とをこの順で含む積層フィルムである場合の離型層Aと離型層A’とは同一の構成の層であってもよいし、異なる構成の層であってもよい。
反りの防止や、いずれの面も同様の離型性を有することによる取り扱いの容易さ等の観点からは、離型層Aと離型層A’とは同一または略同一の構成であることが好ましく、離型層Aと離型層A’とを使用するプロセスとの関係でそれぞれ最適に設計する観点、例えば、離型層Aを金型からの離型性に優れたものとし、離型層A’を成形物からの剥離性に優れたものとする等の観点からは、離型層Aと離型層A’とを異なる構成のものとすることが好ましい。
離型層Aと離型層A’とを異なる構成のものとする場合には、離型層Aと離型層A’とを同一の材料であって厚み等の構成が異なるものとしてもよいし、材料もそれ以外の構成も異なるものとしてもよい。
【0035】
耐熱樹脂層B
上記実施形態のプロセス用離型フィルムを構成する耐熱樹脂層Bは、離型層A(及び場合により離型層A’)を支持し、かつ金型温度等による皺発生を抑制する機能を有することが好ましい。
【0036】
本実施形態のプロセス用離型フィルムにおいては、耐熱樹脂層Bの、温度175℃で、100mm/分で37.5%伸長後に、2分間静止後、圧縮方向に100mm/分で原点方向へ戻したとき、荷重が0になるまでの変位である戻り値から、下記式(1)式にしたがって得られる復元率(%)が、30(%)以上であることが好ましい。
戻り値/伸長長さ×100=復元率% ・・・(1)。
耐熱樹脂層Bの復元率が上記条件を満たすことで、本実施形態のプロセス用離型フィルムが所定の復元率を具備することが容易になり、当該プロセス用離型フィルムが、樹脂封止プロセスにおける破れや成形体の外観不良等の問題を有効に抑制しながら、離型フィルムの噛み込みによる剥離不良を防止することが、いっそう容易になる。
耐熱樹脂層B復元率は、40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることが特に好ましい。
本実施形態のプロセス用離型フィルムにおいては、耐熱樹脂層BのMD方向において復元率が上記条件を満たすことが好ましく、プロセス用離型フィルムのMD方向に相当する方向において復元率が上記条件を満たすことがより好ましい。MD方向およびTD方向において、ともに上記条件を満足することがさらに好ましい。
【0037】
耐熱樹脂層Bには、無延伸フィルム、延伸フィルムを含め任意の樹脂層を用いることができる。
【0038】
無延伸フィルムの中でも、上述の復元率の観点から、エラストマー性を有した樹脂であることが好ましい。エラストマー性を有する樹脂としては、熱可塑性エラストマー及びシリコーン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、熱可塑性を有するものが好ましく、熱可塑性エラストマーが特に好ましい。
【0039】
熱可塑性エラストマーは、ハードセグメント及びソフトセグメントを有したブロック共重合体からなってもよく、ハードポリマーとソフトポリマーとのポリマーアロイからなってもよく、これらの両方の特性を有したものであってもよい。
【0040】
耐熱樹脂層Bの復元率にかかわる特性は、これらの成分の調整によりコントロールできる。即ち、樹脂種、複数種の樹脂を含む場合にはそれらの割合、樹脂を構成する重合体の分子構造(ハードセグメント及びソフトセグメントの割合)を調整することによってコントロールできる。
【0041】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(熱可塑ポリエステルエラストマー)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(熱可塑ポリアミドエラストマー)、スチレン系熱可塑性エラストマー(熱可塑スチレンエラストマー)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(熱可塑ポリオレフィンエラストマー)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(熱可塑塩化ビニルエラストマー)、ポリイミド系熱可塑性エラストマー{熱可塑ポリイミドエラストマー、ポリイミドエステル系熱可塑性エラストマー(熱可塑ポリイミドエステルエラストマー)、ポリイミドウレタン系熱可塑性エラストマー(熱可塑ポリイミドウレタンエラストマー)等}、ポリウレタン系熱可塑エラストマー(熱可塑ポリウレタンエラストマー)などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらのうちでは、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリイミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーが好ましく、更には、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーが特に好ましい。
【0042】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ポリエステル成分をハードセグメントとするものであればよく、それ以外の点については、どのような構成であってもよい。ソフトセグメントとしては、ポリエステル、ポリエーテル及びポリエーテルエステル等を利用できる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。ハードセグメントを構成するポリエステル成分としては、テレフタル酸ジメチル等のモノマーに由来する構成単位を含むことができる。一方、ソフトセグメントを構成する成分としては、1,4-ブタンジオール及びポリ(オキシテトラメチレン)グリコール等のモノマーに由来する構成単位を含むことができる。より具体的には、PBT-PE-PBT型ポリエステル系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。尚、上記「PBT-PE-PBT」の記載におけるPBTはポリブチレンテレフタレートを、PEはポリエーテルを、各々意味する。
【0043】
ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、ポリアミド成分をハードセグメントとするものであればよく、それ以外の点については、どのような構成であってもよい。ソフトセグメントとしては、ポリエステル、ポリエーテル及びポリエーテルエステル等を利用できる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。ハードセグメントを構成するポリアミド成分としては、ポリアミド6、ポリアミド11及びポリアミド12等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのポリアミド成分には、各種のラクタム等をモノマーとして利用できる。一方、ソフトセグメントを構成する成分としては、ジカルボン酸等のモノマーやポリエーテルポリオールに由来する構成単位を含むことができる。このうち、ポリエーテルポリオールとしては、ポリエーテルジオールが好ましく、例えば、ポリ(テトラメチレン)グリコール、ポリ(オキシプロピレン)グリコール等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。より具体的には、ポリエーテルアミド型ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステルアミド型ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエーテルエステルアミド型ポリアミド系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0044】
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、ポリウレタン成分をハードセグメントとするものであればよく、それ以外の点については、どのような構成であってもよい。ソフトセグメントとしては、ポリエステル、ポリエーテル及びポリエーテルエステル、ポリカーボネート等を利用できる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
ハードセグメントを構成するポリウレタン成分としては、短鎖グリコール(低分子ポリオール)とイソシアネートの反応で得られるポリウレタン由来する構成単位を含むことができる。ここでポリウレタンとは、イソシアネート(-NCO)とアルコール(-OH)の重付加反応(ウレタン化反応)で得られる、ウレタン結合(-NHCOO-)を有する化合物の総称である。より具体的には、ポリエステル型ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエーテル型ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、及びポリカーボネート型ポリウレタン系熱可塑性エラストマー挙げられる。
【0045】
延伸フィルムは、当該フィルムを面内方向に延伸された状態にすることで弾性による復元力を利用した伸縮性を示すフィルム基材とすることができるため、復元率が30(%)以上という上記の好ましい特性を実現することが比較的容易であるので、耐熱樹脂層Bとして好適に使用することができる。
【0046】
上記延伸フィルムは、一軸延伸フィルムであってもよく、二軸延伸フィルムであってもよい。一軸延伸フィルムである場合には、縦延伸、横延伸のいずれであっても良い。
上記延伸フィルムを得るための方法、装置にも特に限定は無く、当業界において公知の方法で延伸を行えばよい。例えば、加熱ロールやテンター式延伸機で延伸することができる。
【0047】
上記延伸フィルムとしては、延伸ポリエステルフィルム、延伸エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、延伸ポリアミドフィルム、延伸ポリエチレンフィルム、及び延伸ポリプロピレンフィルムからなる群より選ばれる延伸フィルムを使用することが好ましい。これらの延伸フィルムは、機械的物性が本発明の用途に適したものであり、また低コストで入手が比較的容易であるため、耐熱樹脂層Bにおける延伸フィルムとして特に好適である。
【0048】
延伸ポリエステルフィルムとしては、延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが好ましく、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルムが特に好ましい。
延伸ポリアミドフィルムを構成するポリアミドには特に限定は無いが、ポリアミド-6、ポリアミド-66等を好ましく用いることができる。
延伸ポリエチレンフィルムとしては、一軸延伸ポリエチレンフィルム、二軸延伸ポリエチレンフィルム等を好ましく用いることができる。
延伸ポリプロピレンフィルムとしては、一軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム等を好ましく用いることができる。
延伸倍率には特に限定はなく、熱寸法変化率を適切に制御し、好適な機械的性質を実現するために適切な値を適宜設定すれば良いが、例えば縦方向、横方向ともに2.0~10.0倍の範囲であることが好ましい。
【0049】
耐熱樹脂層Bは、フィルムの強度や、その熱寸法変化率を適切な範囲に制御する観点から、成形時の金型の最高温度(典型的には110~190℃)に絶え得る耐熱性を有することが好ましい。かかる観点から、耐熱樹脂層Bは、結晶成分を有する結晶性樹脂を含むことが好ましく、当該結晶性樹脂の融点は100℃以上であることが好ましく、140℃以上300℃以下であることがより好ましく、150以上270℃以下であることが更に好ましく、170以上240℃以下であることが特に好ましい。融点は必ずしも成形時の金型の最高温度以上である必要はない。また、融点は熱分析法(DSC法)によって測定することができるが、融解ピークが複数検出される場合は、最も高い温度にある融解ピークから融点を求める。
【0050】
上述の様に、耐熱樹脂層Bは結晶成分を有する結晶性樹脂を含むことが好ましい。耐熱樹脂層Bに含有させる結晶性樹脂として、例えばポリエステル樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の結晶性樹脂をその一部または全部に用いることができる。具体的にはポリエステル樹脂においてはポリブチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレート、ポリアミド樹脂においてはポリアミド6やポリアミド66、ポリエチレン樹脂においては高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン樹脂においてはアイソタクチックポリプロピレンを用いることが好ましい。ポリブチレンテレフタレート、及びエチレン-ビニルアルコール共重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂を含むことが、特に好ましい。
耐熱樹脂層Bに前記結晶性樹脂の結晶成分を含ませることにより、本発明所定の引張強度、及び復元率を実現するのにより有利になる。また、樹脂封止工程等において皺が発生し難く、皺が成形品に転写されて外観不良を生じることを抑制するのにより有利となる。
【0051】
耐熱樹脂層Bの厚みは、フィルム強度を確保できれば、特に制限はないが、通常1~200μm、好ましくは5~100μm、特に好ましくは10~50μmである。
【0052】
なお、本願の課題の別の解決手段として、圧縮成形法による樹脂封止プロセスに使用するプロセス用離型フィルムであって、その少なくとも1の表面の水に対する接触角が、90°から130°であり、離型層Aと、耐熱樹脂層Bとを少なくとも含み、前記少なくとも1の表面が離型層Aの表面で構成され、かつ耐熱樹脂層Bの復元率が、30~80(%)であるプロセス用離型フィルムを使用することもできる(以下、「本願第二発明」ともいう。)。
ここで、耐熱樹脂層Bの復元率は、耐熱樹脂層B単独(積層しない状態)で、温度175℃で、100mm/分でMD方向に37.5%伸長し、2分間静止後、圧縮方向に100mm/分で原点方向へ戻したとき、荷重が0になるまでの変位である戻り値から、下記式(1)式にしたがって得られるものである。
戻り値/伸長長さ×100=復元率% ・・・(1)
耐熱樹脂層Bの復元率は40%以上が好ましく、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることが特に好ましい。
本願第二発明を構成する耐熱樹脂層Bは、そのMD方向における、温度175℃で、100mm/分で37.5%伸長させたときの引張強度が、1.0MPaから30.0MPaであることが好ましい。当該引張強度は、5.0MPaから25.0MPaであることがより好ましく、10.0MPaから20.0MPaであることが特に好ましい。
【0053】
本願第二発明のプロセス用離型フィルムは、本発明のプロセス用離型フィルムについてのここまで述べてきた要件を備えていてもよく、備えていなくともよい。例えば、積層フィルム全体のMD方向の復元率が、30~80(%)の範囲内であってもよく、その範囲外であってもよい。また、積層フィルム全体のMD方向の引張強度が、1.0MPaから10.0MPaの範囲内であってもよく、その範囲外であってもよい。
本願の課題を効率よく解決する観点からは、本願第二発明のプロセス用離型フィルムは、本発明についての要件の少なくとも一部を具備していることが好ましく、本発明についての要件の全てを具備していることが特に好ましい。
【0054】
また、本願第二発明のプロセス用離型フィルムは、本発明について本願明細書に記載された、好ましい技術的特徴の一部又は全部を備えていてもよく、備えていなくともよい。
本願の課題を効率よく解決する観点からは、本願第二発明のプロセス用離型フィルムは、本発明について本願明細書に記載された、好ましい技術的特徴の少なくとも一部を具備していることが好ましい。
【0055】
それ以外の層
本形態のプロセス用離型フィルムは、本発明の目的に反しない限りにおいて、離型層A、耐熱樹脂層B及び離型層A’以外の層を有していてもよい。例えば、離型層A(又は離型層A’)と耐熱樹脂層Bとの間に、必要に応じて接着層やクッション層を有してもよい。接着層に用いる材料は、離型層Aと耐熱樹脂層Bとを強固に接着でき、樹脂封止工程や離型工程においても剥離しないものであれば、特に制限されない。クッション層に用いる材料は、金型や被成形品上の凹凸にスムーズに追随させられるようにフィルムの破れ等なく段差を追随できるものであれば、特に制限されない。
【0056】
例えば、離型層A(又は離型層A’)が4-メチル-1-ペンテン共重合体を含む場合は、接着層は、不飽和カルボン酸等によりグラフト変性された変性4-メチル-1-ペンテン系共重合体樹脂、4-メチル-1-ペンテン系共重合体とα-オレフィン系共重合体とからなるオレフィン系接着樹脂等であることが好ましい。離型層A(又は離型層A’)がフッ素樹脂を含む場合は、接着層は、ポリエステル系、アクリル系、フッ素ゴム系等の粘着剤であることが好ましい。接着層の厚みは、離型層A(又は離型層A’)と耐熱樹脂層Bとの接着性を向上できれば、特に制限はないが、例えば0.5~10μmである。
また例えば、クッション層は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、α-オレフィン系共重合体、ポリエステル系、アクリル系、フッ素ゴム系等であることが好ましい。クッション層の厚みは、所望の段差追随性を満たせられるクッション性が得られれば、特に制限はないが、例えば10~250μmが好ましい。
【0057】
本発明のプロセス用離型フィルムの総厚みには特に制限は無いが、例えば10~300μmであることが好ましく、30~150μmであることがより好ましい。離型フィルムの総厚みが上記範囲にあると、巻物として使用する際のハンドリング性が良好であるとともに、フィルムの廃棄量が少ないため好ましい。
【0058】
プロセス用離型フィルムの製造方法
本発明のプロセス用離型フィルムは、任意の方法で製造されうる。
本発明のプロセス用離型フィルムが単層フィルムの場合には、押し出し法、延伸法等の従来公知のフィルム製造方法で、本発明のプロセス用離型フィルムを製造することができる。
また、本発明のプロセス用離型フィルムが多層フィルム、例えば離型層Aと耐熱樹脂層Bとを含む多層フィルムである場合、例えば、1)離型層Aと耐熱樹脂層Bを共押出成形して積層することにより、プロセス用離型フィルムを製造する方法(共押出し形成法)、2)耐熱樹脂層Bとなるフィルム上に、離型層Aや接着層となる樹脂の溶融樹脂を塗布・乾燥したり、または離型層Aや接着層となる樹脂を溶剤に溶解させた樹脂溶液を塗布・乾燥したりして、プロセス用離型フィルムを製造する方法(塗布法)、3)予め離型層Aとなるフィルムと、耐熱樹脂層Bとなるフィルムとを製造しておき、これらのフィルムを積層(ラミネート)することにより、プロセス用離型フィルムを製造する方法(ラミネート法)などを採用することができる。
【0059】
3)の方法において、各樹脂フィルムを積層する方法としては、公知の種々のラミネート方法が採用でき、例えば押出ラミネート法、ドライラミネート法、熱ラミネート法等が挙げられる。
ドライラミネート法では、接着剤を用いて各樹脂フィルムを積層する。接着剤としては、ドライラミネート用の接着剤として公知のものを使用できる。例えばポリ酢酸ビニル系接着剤;アクリル酸エステル(アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルエステル等)の単独重合体もしくは共重合体、またはアクリル酸エステルと他の単量体(メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、スチレン等)との共重合体等からなるポリアクリル酸エステル系接着剤;シアノアクリレ-ト系接着剤;エチレンと他の単量体(酢酸ビニル、アクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸等)との共重合体等からなるエチレン共重合体系接着剤;セルロ-ス系接着剤;ポリエステル系接着剤;ポリアミド系接着剤;ポリイミド系接着剤;尿素樹脂またはメラミン樹脂等からなるアミノ樹脂系接着剤;フェノ-ル樹脂系接着剤;エポキシ系接着剤;ポリオール(ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等)とイソシアネートおよび/またはイソシアヌレートと架橋させるポリウレタン系接着剤;反応型(メタ)アクリル系接着剤;クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム等からなるゴム系接着剤;シリコーン系接着剤;アルカリ金属シリケ-ト、低融点ガラス等からなる無機系接着剤;その他等の接着剤を使用できる。3)の方法で積層する樹脂フィルムは、市販のものを用いてもよく、公
知の製造方法により製造したものを用いてもよい。樹脂フィルムには、コロナ処理、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ処理、プライマー塗工処理等の表面処理が施されてもよい。樹脂フィルムの製造方法としては、特に限定されず、公知の製造方法を利用できる。
【0060】
1)共押出し成形法は、離型層Aとなる樹脂層と耐熱樹脂層Bとなる樹脂層との間に、異物が噛み込む等による欠陥や、離型フィルムの反りが生じ難い点で好ましい。3)ラミネート法は、耐熱樹脂層Bに延伸フィルムを用いる場合に好適な製造方法である。この場合は、必要に応じてフィルム同士の界面に適切な接着層を形成することが好ましい。フィルム同士の接着性を高める上で、フィルム同士の界面に、必要に応じてコロナ放電処理等の表面処理を施してもよい。
【0061】
上記2)塗布法における塗布手段は、特に限定されないが、例えばロールコータ、ダイコータ、スプレーコータ等の各種コータが用いられる。溶融押出手段は、特に限定されないが、例えばT型ダイやインフレーション型ダイを有する押出機などが用いられる。
【0062】
プロセス用離型フィルムは、必要に応じて1軸または2軸延伸されていてもよく、それによりフィルムの膜強度を高めることができる。
【0063】
樹脂封止プロセス
本発明のプロセス用離型フィルムは、圧縮成形法による樹脂封止プロセスに使用するものである。本発明のプロセス用離型フィルムは、金型内に半導体チップ等を配置して樹脂を注入成形する際に、半導体チップ等と金型内面との間に配置して使用することができる。本発明のプロセス用離型フィルムを用いることで、金型からの剥離不良、バリの発生等を効果的に防止することができる。
上記圧縮成形法による製造プロセスに用いる樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよいが、当該技術分野においては熱硬化性樹脂が広く用いられており、特にエポキシ系の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0064】
本発明のプロセス用離型フィルムを用いる樹脂封止プロセスは、当該技術分野において従来公知のものを適宜採用することができ、特に制限は無いが、例えば、半導体チップの樹脂封止プロセスの場合には、図1に示す1.から9.の各工程をこの順で実施するプロセスが好ましい。
【0065】
より具体的には、まず「1.フィルムカット」工程において、本発明のプロセス用離型フィルム11を、ロール状の巻物からから引き出して、X-Yステージ13上に展開し、所定のサイズに切断する。このプロセス用離型フィルム11の所定のサイズには特に制限は無いが、樹脂封止プロセスに用いる下金型19内に設けられたキャビティ19cの全面をカバーし、更に下金型19を構成するクランパ19bと上金型15の間にフィルム11を挟んで固定するための固定代を含む大きさであることが好ましい。
【0066】
次に、「2.枠型設置」工程において、上記固定代と略重なる形状を有する枠14を、上記X-Yステージ13上に展開され、所定のサイズに切断されたプロセス用離型フィルム11上に、上記固定代と略重なるように設置する。
【0067】
次に、「3.樹脂計量」工程において、上記プロセス用離型フィルム11上であって、上記枠14内に、所定量の封止樹脂18を計量しながら配置する。封止樹脂18の量には特に制限は無いが、後記「8.圧縮」工程後のキャビティ19cの体積と略同一であることが望ましい。
【0068】
次に、「4.樹脂+フィルム搬送」工程において、上記プロセス用離型フィルム11を上記枠14に吸着したまま、当該離型フィルム11上に配置された封止樹脂18とともに、X-Yステージ13から分離して搬送し、樹脂封止を行なう下金型19上に配置する。このとき、下金型19に設けられたキャビティ19cを上記プロセス用離型フィルム11が覆い、かつ、上記プロセス用離型フィルム11上に配置された封止樹脂18が上記キャビティ19c上に位置するように、配置することが好ましい。
【0069】
次に、「5.真空吸着」工程において、上記プロセス用離型フィルム11の固定代を、上記枠14と下金型19を構成するクランパ19bとの間で固定しながら、上記下金型19中のキャビティ19c内に設けられた吸着孔から脱気して、上記プロセス用離型フィルム11を、キャビティ19cの内面に沿って吸着支持する。このとき、上記プロセス用離型11フィルムの固定代を、下金型19の周縁部に設けられた吸着孔に吸着することで固定してもよい。
フィルム周縁部にある固定代を固定したまま、キャビティ19cの内面に沿って吸着支持されることで、上記プロセス用離型フィルムは、キャビティ深さに略相当する長さだけ伸張される。本工程におけるキャビティ19cの(初期)深さは、本実施形態の樹脂封止プロセスにより作製される樹脂封止半導体素子の厚さに応じて適宜設定することができる。本工程におけるキャビティ19cの(初期)深さは、通常1.0~10.0mmであるが、これに限定されない。
本工程においては、プロセス用離型フィルム11は、容易にキャビティ19cの内面に沿って吸着支持される柔軟性を有するとともに、金型15、19の加熱温度に耐えられる耐熱性を有することが好ましい。また、樹脂封止後に金型19から容易に離型し、かつ、封止樹脂18から容易に剥離できるものであることが好ましい。
【0070】
次に、「6.基板設置」工程において、半導体チップ17(及び必要に応じて回路部品)が搭載された基板16を、半導体チップ17が下向きとなる様に上金型15に吸着し、該半導体チップ17が下金型19中のキャビティ19cの略中心に位置するように、上金型15を移動して位置合わせする。
【0071】
次に、「7.型締め」工程において、当初のキャビティ19cの空間を維持したまま(下金型19中のキャビティブロック19aを当初位置のまま)、上金型15と下金型19とを接触させ、型締めを行なう。
【0072】
次に、「8.圧縮」工程において、キャビティブロック19aを上昇させ、キャビティ19c中の封止樹脂18を圧縮成形する。これにより、基板16上の半導体チップ17(及び必要に応じて回路部品)が、封止樹脂18によって封止される。
キャビティ19cの初期深さと、圧縮成形後のキャビティ19cの最終深さとの差は、1.0mm以上であることが好ましく、1.3mm以上であることがより好ましく、1.6mm以上であることが特に好ましい。大容量のNAND型フラッシュメモリ等の厚みの大きい半導体チップ17を樹脂封止する場合、キャビティ19cの初期深さと、圧縮成形後のキャビティ19cの最終深さとの差が大きくなる傾向にあり、その様な場合であっても、本発明のプロセス用離型フィルムは、剥離不良等の問題を有効に抑制しながら、厚みの大きい半導体チップ17を適切に樹脂封止することができる。
また、キャビティ19cの最終深さ(圧縮成形後の樹脂厚み)は、0.5mm以上であることが好ましく、0.7mm以上であることがより好ましく、1.0mm以上であることが特に好ましい。キャビティ19cの最終深さが0.5mm以上であることによって、大容量のNAND型フラッシュメモリ等の厚みの大きい半導体チップ17を適切に樹脂封止することができる。
圧縮成形にあたっては、封止樹脂18が適切な流動性を示す温度まで加熱することが好ましく、また封止樹脂18が熱硬化性樹脂である場合にあっては、成形後の封止樹脂が十分に硬化する温度、時間で加熱することが好ましい。例えば、樹脂封止プロセスにおける最高温度を、110から190℃に設定することができ、120から180℃に設定することがより好ましい。
その際の成形圧力、硬化時間にも特に限定は無く、封止樹脂18の種類、および封止温度に対応して適宜好ましい条件を設定すればよいが、例えば成形圧力50~300kN、より好ましくは70~150kN、硬化時間1~60分、より好ましくは2~10分の範囲で適宜設定することができる。
【0073】
封止樹脂18としては、液状樹脂であっても、常温で固体状の樹脂であってもよいが、樹脂封止時加熱により液状となるものなどの封止材を適宜採用できる。封止樹脂材料として、具体的には、主としてエポキシ系樹脂(高分子内に残存させたエポキシ基で架橋ネットワークを形成することで硬化させることが可能な熱硬化性樹脂であり、好ましくはビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールエポキシ樹脂、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)が用いられ、エポキシ系樹脂以外の封止樹脂として、ポリイミド系樹脂(主鎖の繰り返し単位にイミド結合を有する高分子樹脂であり、好ましくはビスマレイミド系など)、シリコーン系樹脂(主骨格の繰り返し単位にシロキサン結合を有する高分子樹脂であり、好ましくは熱硬化付加型など)など封止樹脂として通常使用されているものを好適に用いることができる。
【0074】
次に、「9.型開き(離型)」工程において、上金型15を下金型19から分離し、成形品(樹脂封止半導体チップ)を金型外へ取り出す。このとき、成形品がプロセス用離型フィルム11から容易に剥離することが好ましく、特にキャビティ19c側面のプロセス用離型フィルム11が、成形品に噛み込むことなく剥離することが好ましい。また、剥離後の成形品の表面が、樹脂欠け等の無い良好な外観を有することが好ましい。本発明のプロセス用離型フィルムを用いると、この様な好ましい結果を実現することが容易となる。
【0075】
上記方法をはじめとする、本発明のプロセス用離型フィルムを用いた樹脂封止プロセス、より好ましくは半導体チップを樹脂封止する方法、又はその様な工程を有する樹脂封止半導体素子の製造方法によって、大容量のNAND型フラッシュメモリなどの、メモリチップを多段に積層するため全体の厚みが大きい半導体チップを樹脂封止した樹脂封止半導体素子をはじめとする厚みの大きい樹脂封止成形品を、外観不良や、側面の噛み込みによる外観不良を抑制しながら、高い生産性で製造することができる。
この様な樹脂封止半導体素子をはじめとする樹脂封止成形品は、メモリ系半導体に限らず、ロジック系半導体や、SiP(システムインパッケージ)と呼ばれる異種の半導体パッケージや半導体チップを3次元で積層する高性能半導体チップへも適用でき、更には、光電素子、センサー素子、または光学素子に用いられるレンズ成形などの樹脂成形物、にも適用することができる。
これらの高性能の半導体チップ等が樹脂封止された成形品は、例えば高性能の半導体チップが、封止樹脂中に適切に封止された、優れた樹脂封止半導体素子等の高い付加価値を有するものであり、また生産効率を高めることができるので、電気電子機器、輸送機械等に実装して、その高機能化、高性能化、低コスト化に資することができる。
【実施例
【0076】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これにより何ら限定されるものではない。
【0077】
以下の実施例/比較例において、物性/特性の評価は下記の方法で行った。
【0078】
(水に対する接触角(水接触角))
JIS R 3 2 5 7 に準拠して、接触角測定器(Kyowa Inter face Science社製、FACECA-W)を用いて離型層A又はA’の表面の水接触角を測定した。
【0079】
(引張強度)
各実施例/比較例で作製したプロセス用離型フィルムを用い、初期チャック間を20mmとし、175℃環境下、100mm/minで7.5mm(37.5%)伸長させたときのフィルムにかかる荷重を、引張強度として測定した。
【0080】
(戻り値、復元率)
各実施例/比較例で作製したプロセス用離型フィルムを用い、初期チャック間を20mmとし、175℃環境下、100mm/minで7.5mm伸長(このときの伸びΔLを、伸長長さΔLとする。)後、2分間そのまま保持後、100mm/minで伸びと逆方向にチャックを戻したときの荷重が0になったときの伸びΔLの変位(戻り)量を測定し、戻り値ΔL(mm)とした。
具体的な、フィルムの伸縮を、図3に示す。図3(a)中、初期フィルム長さLは、20mmであり、図3(b)中、最大フィルム伸びΔLは、7.5mmであった。図3(c)中、荷重が0になったときの戻り値ΔLを各試料について測定し、ΔL及びΔLから下式に従い復元率を算出した。

復元率(%)=100×ΔL/ΔL
【0081】
(融点(Tm))
示差走査熱量計(DSC)としてティー・エイ・インスツルメント社製Q100を用い、重合体試料約5mgを精秤し、JISK7121に準拠し、窒素ガス流入量:50ml/分の条件下で、25℃から加熱速度:10℃/分で280℃まで昇温して熱融解曲線を測定し、得られた熱融解曲線から、試料の融点(Tm)を求めた。
【0082】
(離型性)
各実施例/比較例で作製したプロセス用離型フィルムを用い、図1に示すようなプロセスで、半導体チップの樹脂封止を行なった。
封止樹脂としては、日立化成工業(株)製のエポキシ系リードフレームパッケージ用封止材(銘柄:CEL-9750ZHF10)を用いた。
当該図1のプロセス中の、「4.樹脂+フィルム搬送」、「5.真空吸着」、並びに「7型締め」及び「9.圧縮」の詳細条件を、図2(a)、(b)、並びに(c)に示す。図2(a)中、型締め初期のキャビティ29cの深さaは、2.4mmであり、図2(b)中、キャビティ29cの幅は、54mmであり、図2(b)中、キャビティ29cの紙面垂直方向の長さは、221mmであり、図2(c)中、型締め、圧縮後のキャビティ最終深さaは、0.8mmであった。また、成形金型の温度(成形温度)は175℃、成形圧力は96kN、成形時間は120秒であった。
その後、図1中の「9.型開き(離型)」に示すようにして、上金型を引き上げ、樹脂封止された半導体チップ(半導体パッケージ)を離型フィルムから離型した。離型フィルムの離型性を、以下の基準で評価した。
◎:離型フィルムが、金型の開放と同時に自然に剥がれる。
○:離型フィルムは自然には剥がれないが、手で引っ張ると(張力を加えると)簡単に剥がれる。
×:離型フィルムが、半導体パッケージの樹脂封止面に密着しており、手では剥がせない。
【0083】
(金型追随性)
上記工程で離型を行った際の離型フィルムの金型追随性を、以下の基準で評価した。
◎:半導体パッケージに、樹脂欠け(樹脂が充填されない部分)が全くない。
○:半導体パッケージの端部に、樹脂欠けが僅かにある。
×:半導体パッケージの端部に、樹脂欠けが多くある。または成形時フィルム破れが発生する。
【0084】
(側面かみ込みによる剥離不良)
上記工程で離型を行った際の、離型フィルムの側面かみこみによる剥離不良を、以下の基準で評価した。
◎:半導体パッケージ側面に、かみ込み跡もなく剥離不良もなし。
○:半導体パッケージ側面に、かみ込み跡はあるが、剥離不良はなし。
×:半導体パッケージ側面に、かみ込み跡があり、剥離不良も発生あり。
【0085】
[実施例1]
耐熱樹脂層Bとして、膜厚15μmの二軸延伸PBT(ポリブチレンテレフタレート)フィルム(興人フィルム&ケミカルズ社製、銘柄名:ボブレットST、融点223℃)を使用し、離型層A及びA’として、無延伸の4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムを使用した。具体的には、三井化学株式会社製4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂(製品名:TPX、銘柄名:MX022)」を270℃で溶融押出して、T型ダイのスリット幅を調整することにより、厚み15μmの無延伸フィルムを成膜したものを使用した。
無延伸の4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムは、接着面となる一方のフィルム表面が、JIS R3257に基づく水接触角が30°以上の場合、30以下となるように、接着剤による接着性向上の観点からコロナ処理を施した。
【0086】
(接着剤)
各フィルムを貼り合せるドライラミ工程で使用する接着剤としては、以下のウレタン系接着剤Aを用いた。
[ウレタン系接着剤A]
主剤:タケラックA-616(三井化学社製)。硬化剤:タケネートA-65(三井化学社製)。主剤と硬化剤とを、質量比(主剤:硬化剤)が16:1となるように混合し、希釈剤として酢酸エチルを用いた。
【0087】
(離型フィルムの製造)
二軸延伸PBTフィルムの一方の面に、グラビアコートでウレタン系接着剤Aを1.5g/mで塗工し、無延伸の4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムのコロナ処理面をドライラミネートにて貼り合わせ後、続いてこのラミネートフィルムの二軸延伸PBTフィルム面の側に、ウレタン系接着剤Aを1.5g/mで塗工し、もう1枚の無延伸の4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂フィルムのコロナ処理面をドライラミネートにて貼り合わせて、5層構造(離型層A/接着層/耐熱樹脂層B/接着層/離型層A’)のプロセス用離型フィルムを得た。
ドライラミネート条件は、基材幅900mm、搬送速度30m/分、乾燥温度50~60℃、ラミネートロール温度50℃、ロール圧力3.0MPaとした。
【0088】
当該プロセス用離型フィルムの、引張強度は7.5MPa、戻り値は、3.6mm、復元率は、48%であった。 離型性、金型追随性、及び剥離不良の評価結果を表1に示す。離型フィルムが、金型の開放と同時に自然に剥がれる良好な離型性を示し、半導体パッケージに樹脂欠けが全くない良好な金型追随性を示した。また、半導体パッケージの側面に、かみ込み跡は認められず、剥離不良もなく、側面かみ込みによる剥離不良が有効に抑制された。すなわち、実施例1のプロセス用離型フィルムは、離型性、及び金型追随性が良好で、側面かみ込みによる剥離不良が有効に抑制された、優れたプロセス用離型フィルムであった。
【0089】
[実施例2~3]
表1に示す組み合わせで表1記載の各フィルムを離型層A及びA’並びに耐熱樹脂層Bとして用いた他は、実施例1と同様にしてプロセス用離型フィルムを作製し、封止、離型を行い、特性を評価した。結果を表1に示す。
一部に側面かみ込みによる剥離不良の抑制が実施例1には及ばないものもあったが、いずれの実施例も離型性、皺の抑制、及び金型追随性が高いレベルでバランスした良好なプロセス用離型フィルムであった。
【0090】
なお、表に記載の各フィルムの詳細は、以下のとおりである。
(TPX-1)無延伸4MP-1(TPX)フィルム
三井化学株式会社製4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂(製品名:TPX、銘柄名:MX022、融点:229℃)を用いて厚み15μmの無延伸フィルムを成膜したもの。
(TPX-2)無延伸4MP-1(TPX)フィルム
三井化学株式会社製4-メチル-1-ペンテン共重合樹脂(製品名:TPX、銘柄名:MX022、融点:229℃)を用いて厚み50μmの無延伸フィルムを成膜したもの。
(OPBT1)二軸延伸PBTフィルム
興人フィルム&ケミカルズ社製の厚み15μmの、二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム(銘柄名:ボブレットST、融点:223℃、引張強度:20.0MPa)を用いた。
(OPBT2)二軸延伸PBTフィルム
興人フィルム&ケミカルズ社製の厚み25μmの、二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム(銘柄名:ボブレットST、融点:223℃、引張強度:19.2MPa)を用いた。
(CPBT1)無延伸PBTフィルム
三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリブチレンテレフタレート樹脂(銘柄名:5020、融点:223℃)を用いて、厚み50μmの無延伸単層フィルムを成膜したもの。
(CPBT2)無延伸PBTフィルム
三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリブチレンテレフタレート樹脂(銘柄名:5020、融点:223℃、引張強度:2.1MPa)を用いて、厚み20μmの無延伸単層フィルムを成膜したもの。
(無延伸Ny)無延伸ナイロンフィルム
三菱ケミカル社製の厚み20μmの無延伸ナイロンフィルム(商品名:ダイアミロン C、融点:220℃、引張強度:1.9MPa)を使用した。
(OPET1)二軸延伸PETフィルム
帝人フィルム・ソリューション社製の厚み13μmの二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(製品名:テレフレックスFT、融点:227℃)を使用した。
(OPET2)二軸延伸PETフィルム
帝人フィルム・ソリューション社製の厚み13μmの二軸延伸PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(製品名:テレフレックスFW2、融点:227℃)を使用した。
(EVOH)二軸延伸EVOHフィルム
クラレ社製の厚み15μmの二軸延伸EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)フィルム(商品名:エバール EF-XL、融点182℃、引張強度:2.2MPa)を使用した。
これらのフィルムのうち、耐熱樹脂層Bとして使用したものについては、フィルム単独(積層しない状態)についても、上記測定方法に従って戻り値、及び復元率を測定した。結果を表2に示す。
【0091】
[比較例1~2]
又は表1に示すフィルムを、それぞれ単独でプロセス用離型フィルムとして使用して、実施例1と同様にして封止、離型を行い、プロセス用離型フィルムの特性を評価した。結果を表1に示す。比較例1については、フィルム引張試験、及びフィルム伸びの戻り値評価の結果を図4にも示す。
いずれの比較例も、総合的に実施例には及ばない性能に留まり、特に側面かみ込みによる剥離不良を有効に抑制することができなかった。
【0092】
[比較例3~6]
表1に示す組み合わせで表1記載の各フィルムを離型層A及びA’並びに耐熱樹脂層Bとして用いたこと以外は、実施例1と同様にしてプロセス用離型フィルムを作製し、封止、離型を行い、特性を評価した。結果を表1に示す。
離型性、及び金型追随性は実施例と同様に良好であったが、皺の発生を抑制することができなかった。
【表1】
【0093】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のプロセス用離型フィルムは、圧縮成形法により、半導体チップ等を樹脂封止する工程において、樹脂封止後の成形品を、金型構造や離型剤等に依存することなく容易に離型でき、かつ該成形品の外観不良が有効に抑制されるので、これを用いることで、樹脂封止半導体素子等を高い生産性で製造することができるという実用上高い価値を有する技術的効果をもたらすものであり、半導体プロセス産業、光学素子製造産業をはじめとする産業の各分野において、高い利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0095】
11、21:プロセス用離型フィルム
12:カッター
13:X-Yステージ
14、24:枠
15、25:上金型
16:26基板
17:27:半導体チップ
18:封止樹脂
19、29:下金型
19a、29a:キャビティブロック
19b、29b:クランパ
19c、29c:キャビティ
: キャビティの初期深さ
: キャビティの最終深さ
: 初期フィルム長
ΔL:最大フィルム伸び
ΔL:戻り値
図1
図2
図3
図4