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特許7463482エレベータの運転システムおよび運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】エレベータの運転システムおよび運転方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 1/18 20060101AFI20240401BHJP
   B66B 5/02 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
B66B1/18 J
B66B5/02 Q
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022192152
(22)【出願日】2022-11-30
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 和宏
(72)【発明者】
【氏名】西田 岳人
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-206341(JP,A)
【文献】特開2019-163152(JP,A)
【文献】特開2020-090386(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126061(WO,A1)
【文献】特開2014-169143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-1/52;
5/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の建屋内に設置され、それぞれ、昇降路内を、かご用ガイドレールに沿って昇降動作するエレベータ装置の乗りかごを、監視センタによって遠隔地より集中的に監視するエレベータの運転システムであって、
前記エレベータ装置は、
前記乗りかごを昇降動作させる駆動部と、
前記かご用ガイドレールの、そのつなぎ目の部分を含む、長尺物振れが成長しない位置に設けられた補強部材と、
前記昇降路内に設置され、地震発生時の情報を取得する地震計と、
地震発生時に、前記駆動部を制御して、前記乗りかごを通常運転から管制運転に切り替える制御部と、
を備え、
前記監視センタは、
前記複数の建屋のそれぞれのエレベータ装置に関連付けて、少なくとも震度に関する情報と震源に関する情報と震源地からの距離に関する情報と管制運転への切り替えに関する情報とが割り当てられた判断表を予め記憶する記憶部と、
震発生時に、震源地から近い建屋のエレベータ装置の前記地震計によって取得された地震発生時の情報に基づいて、前記複数の建屋のいずれのエレベータ装置の前記乗りかごを管制運転させるかを前記判断表にしたがって判断し、管制運転させると判断したエレベータ装置の前記制御部に管制運転への切り替えを指示する判断部と、
を備え、
前記制御部は、前記判断部からの管制運転への切り替えの指示に伴って、当該地震の影響を受けると予想される前記エレベータ装置の、前記乗りかごを前記かご用ガイドレールの前記補強部材が設けられた位置に強制的に移動させる退避運転を行うように制御することを特徴とするエレベータの運転システム。
【請求項2】
前記エレベータ装置は、
前記昇降路内に、前記乗りかごにロープを介して繋がれ、錘用ガイドレールに沿って昇降動作するつり合い錘と、
前記錘用ガイドレールの、そのつなぎ目の部分を含む、長尺物振れが成長しない位置に設けられた補強部材と、
を、さらに備え、
前記つり合い錘は、前記退避運転により、前記錘用ガイドレールの前記補強部材が設けられた位置に強制的に移動させられることを特徴とする請求項1に記載のエレベータの運転システム。
【請求項3】
前記複数の建屋内には、それぞれ、群単位で管理される複数台のエレベータ装置が設置されていることを特徴とする請求項1に記載のエレベータの運転システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のエレベータの運転システムにおける運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータの運転システムおよび運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震が多い日本では、エレベータ装置(EV)の地震対策が当たり前となっている。特に、EV自体に対する地震対策としては、例えば、ガイドレールに免震構造を施したり、地震発生時に運転中の乗りかごを最寄階に緊急停止させる最寄階着床運転などが知られている。
【0003】
また、地震対策としてだけでなく、長周期対策としてのテールコード振れ止め機構なども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-188175号公報
【文献】特開2020-90386号公報
【文献】実開平2-69682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、地震対策には、それなりの費用がかかるものであり、だからといって、対策しないと、乗車中の利用者が乗りかご内に閉じ込められたり、テールコードが昇降路内の他の部品に絡まったりするという不具合が発生する。
【0006】
そうなると、通常運転に復帰するまでの復旧作業や点検が多大なものとなり、復旧に時間を要し、利用者に与える被害が大きくなるなどの課題があった。
【0007】
本発明の実施形態は、地震後の通常運転への早期復帰が可能で、利用者の利便性を向上できるエレベータの運転システムおよび運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は、昇降路内を、かご用ガイドレールに沿って昇降動作するエレベータ装置の乗りかごを、地震発生時に管制運転させるエレベータの運転システムであって、前記乗りかごを昇降動作させる駆動部と、前記かご用ガイドレールの、長尺物振れが成長しない位置に設けられた補強部材と、前記地震発生時に、当該エレベータ装置の前記乗りかごを管制運転させるか否かを判断する判断部と、前記判断部によって管制運転させると判断されると、前記駆動部を制御して、前記乗りかごを通常運転から管制運転に切り替える制御部と、を備え、前記制御部は、前記管制運転への切り替えに伴って、前記乗りかごを前記かご用ガイドレールの前記補強部材が設けられた位置に強制的に移動させる退避運転を行うように制御することを特徴とする。
【0009】
本発明の他の実施形態は、昇降路内を、かご用ガイドレールに沿って昇降動作するエレベータ装置の乗りかごを、地震発生時に管制運転させるエレベータの運転方法であって、駆動部によって、前記乗りかごを昇降動作させる工程と、前記地震発生時に、判断部により、当該エレベータ装置の前記乗りかごを管制運転させるか否かを判断する工程と、前記判断部によって管制運転させると判断されると、制御部により前記駆動部を制御して、前記乗りかごを通常運転から管制運転に切り替える工程と、を備え、前記かご用ガイドレールの、長尺物振れが成長しない位置には補強部材が設けられており、前記制御部は、前記管制運転への切り替えに伴って、前記乗りかごを前記かご用ガイドレールの前記補強部材が設けられた位置に強制的に移動させる退避運転を行うように制御する工程を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るエレベータシステムの概略構成図。
図2】エレベータシステムにおけるエレベータ装置の概略構成図。
図3】エレベータ装置のガイドレールの構造を示す概略図。
図4】ガイドレールの補強部材を例示するもので、(a)は、(b)の4A-4A線に沿う断面図、(b)は、平面図。
図5】エレベータ装置の昇降装置の一例を示すもので、かごローラガイドの構成図。
図6】エレベータ装置の昇降装置の一例を示すもので、かごガイドシューの構成図。
図7】エレベータシステムの動作例を説明するフローチャート。
図8】エレベータシステムの一例を示す概略図。
図9】エレベータシステムで用いられる判断表の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態に係るエレベータの運転システムおよび運転方法について、図面を参照して説明する。
【0012】
実施形態
図1は、本実施形態に係るエレベータの制御システムが適用されるエレベータシステムの概略構成を示すものである。ここでは、複数の階床を有する商業施設などのビル(建屋)BL内に設置される複数のエレベータ装置EVを群単位で管理するとともに、群単位で管理されるエレベータ装置EVを、監視センタ30によって集中監視するシステムとした場合を例に説明する。
【0013】
本実施形態のエレベータシステムが適用されるビルBLの各階床の乗場3 には、例えば図1に示すように、群単位で管理される3機のエレベータ装置EVのそれぞれに対応して、乗りかご2 のドア(図示省略)と連動して開閉する乗場ドア13が設けられている。
【0014】
また、各乗場ドア13の近傍には、乗場表示器14と乗場操作盤15とが配置されている。乗場表示器14は、例えば、各乗場ドア13の上方部に設けられ、各種の情報を表示することが可能とされている。乗場操作盤15は、エレベータ利用者が乗場呼びの操作を行うためのものであって、例えば、乗場ドア13の相互間に共通に設けられている。乗場表示器14および乗場操作盤15は、それぞれ、群管理制御装置20に接続されている。
【0015】
ここで、図2に示すように、エレベータ装置EVの乗りかご2 が設けられる昇降路1 の、例えばピット部1P内には、地震の発生などを検知する地震計(P波検知器)21が設置されている。この地震計21は、例えばエレベータ装置EV毎に設けられ、それぞれ、群管理制御装置20に接続されている。
【0016】
図1において、群管理制御装置20は、3機のエレベータ装置EVの運転状態を監視しながら、群管理制御として、3機のエレベータ装置EVに対する乗場呼びの割当などを行うものである。群管理制御装置20は、例えば通信回線を介して、監視センタ30に接続されている。
【0017】
監視センタ30は、各エレベータ装置EVの運行などを、遠隔地より集中的に監視するようになっている。この監視センタ30は、例えば地震発生時に、地震の影響を受けそうなエレベータ装置EVに対して、通常運転中の乗りかご2 を管制運転(地震時退避運転)させるように指示する、判断部としての管制運転制御装置31を備えている。
【0018】
管制運転制御装置31は、例えば図1に示すように、管制運転を行わせる乗りかご2 を判断する管制運転判断部32と、判断のための判断表(図9参照)が予め記憶される判断表記憶部(サーバ)33と、を有している。詳細については後述するが、管制運転判断部32は、判断表記憶部33に予め記憶されている判断表にしたがい、エレベータ装置EVからの地震発生時の情報に基づいて、いずれの乗りかご2 に管制運転を行わせるかを判断する。
【0019】
なお、本実施形態においては、群単位で管理されるエレベータ装置EVの台数を3機とした場合を例示しているが、これに限定されるものではない。また、1つのビルBL内には、複数の群が存在する場合もあり得る。例えば、10機のエレベータ装置EVが設置されたビルBLにおいて、10機のエレベータ装置EVを1つの群として管理することも可能であるし、複数の群として管理することも可能である。
【0020】
また、地震計21としては、P波(5km/s)検知器に限らず、例えばS波(3km/s)を検知する検知器を、さらに備えるようにしても良い。また、地震計21は、ピット部1P内に限らず、機械室9 など、ビルBL内に共通に設けることも可能である。
【0021】
また、地震計21を群管理制御装置20と接続するようにしたが、地震計21の出力である地震発生時の情報は、単体制御装置(制御部)10を介して、群管理制御装置20に提供されるようにしても良い。
【0022】
図2は、エレベータシステムにおける各エレベータ装置EVの概略構成を示すものである。
【0023】
図2に示すように、このエレベータ装置EVは、複数の階床を有するビルBLの内外に設けられる昇降路1 内において、後述するガイドレールに沿って、乗りかご2 を昇降動作させるものである。したがって、通常運転時には、当該ビルBLの利用者であるエレベータ利用者を、乗りかご2 内に乗車させることにより、各階床の乗場3 間を自由に移動(搬送)させることが可能とされている。
【0024】
即ち、乗りかご2 は、巻上機(駆動部)6 にかけ渡されたメインロープ4 を介して、つり合い錘5 と連結されている。乗りかご2 は、巻上機6 の駆動により、つり合い錘5 とバランスを取りながら昇降路1 内を昇降動作する。
【0025】
昇降路1 の下部であるピット部1P内には、コンペンシーブ7 や図示していない緩衝器などとともに、地震計21が設けられている。コンペンシーブ7 には、一端が乗りかご2 の下部に接続され、他端がつり合い錘5 の下部に接続された、コンペンロープ8 が巻き掛けられている。
【0026】
昇降路1 の上部である機械室9 内には、巻上機6 のほか、エレベータ制御装置としての単体制御装置10、および、メインロープ4 がかけ渡されるそらせ車23などが設けられている。単体制御装置10は、群管理制御装置20と接続されている。
【0027】
単体制御装置10は、かご呼びの登録、かご呼びや乗場呼びに応じて乗りかご2 を昇降動作させるための巻上機6 の駆動、および、乗りかご2 のドア(図示していない)の開閉などを制御する。この単体制御装置10は、テールコード12を介して乗りかご2 と接続され、乗りかご2 との間での電力の供給や各種の信号のやり取りが行われる。
【0028】
また、単体制御装置10は、例えば地震発生時に、監視センタ30の管制運転制御装置31より供給される管制運転の指示に応じて巻上機6 の駆動を制御し、乗りかご2 に地震時退避運転を行わせる(詳細については後述する)。
【0029】
図3は、エレベータ装置EVに設けられたかご昇降用ガイドレール115 および錘昇降用ガイドレール117 の構造を例示するものである。かご昇降用ガイドレール115 および錘昇降用ガイドレール117 は、例えば、前後方向に配置されるものであるが、便宜上、左右方向(横)に並べた状態で示している。
【0030】
図3に示すように、かご昇降用ガイドレール115 および錘昇降用ガイドレール117 は、昇降路1 内の上下方向に、2本1組で敷設されている。かご昇降用ガイドレール115 および錘昇降用ガイドレール117 は、いずれも、ほぼ等間隔で、並行に敷設されるとともに、複数のレールブラケット129 を介して、昇降路1 の内壁に固定されている。
【0031】
かご昇降用ガイドレール115 は、昇降動作する乗りかご2 の上下方向の移動をガイドするためのもので、例えば、対抗する面のガイド部G に沿って、乗りかご2 の前面側の上下の四隅に取り付けられた昇降装置130 が移動されるようになっている。この昇降装置130 の具体例については、後述する。
【0032】
ここで、かご昇降用ガイドレール115 は、例えば図4(a),(b)に示すように、断面構造がT字形状をなしており、昇降装置130 が装着されるガイド部G と、ガイド部G を支持するフランジ部F と、から構成されている。
【0033】
かご昇降用ガイドレール115 は、例えば、ほぼ同一長さの上側ガイドレール115aと下側ガイドレール115bとが、ビルBLの中間階付近で接続された構成とされている。つまり、かご昇降用ガイドレール115 は、上側ガイドレール115aと下側ガイドレール115bとのつなぎ目の部分が、例えば、ビルBLの中間階付近となるように敷設されている。例えば、地上7階建てのビルBLであれば、4階が中間階となる。
【0034】
そして、そのつなぎ目の部分を含む所定の箇所(補強位置)には、例えば図4(a),(b)に示すように、ガイド部G が設けられたフランジ部F の背面側に対して、耐震補強用の補強部材(継目板)125 が取り付けられている。この補強部材125 は、かご昇降用ガイドレール115 のフランジ部F よりも肉厚かつ幅広な部材で、より頑丈なつくりとなっている。
【0035】
即ち、補強部材125 は、かご昇降用ガイドレール115 の塑性変形を防止するために、例えば、ビルBLの中間階付近において、かご昇降用ガイドレール115 のフランジ部F の背面に、複数のレールクリップ126 とボルト127 とを用いて固定されている。これにより、かご昇降用ガイドレール115 は、補強部材125 が設けられた補強位置の変形に対する強度が、より強化される(いわゆる、ガイドレールのバッキングによる強化)。
【0036】
ほぼ同様に、錘昇降用ガイドレール117 は、昇降動作するつり合い錘5 の上下方向の移動をガイドするためのもので、例えば、対抗する面のガイド部G に沿って、つり合い錘5 の上下の四隅に取り付けられた昇降装置130 が移動されるようになっている。
【0037】
錘昇降用ガイドレール117 は、例えば図3に示すように、ほぼ同一長さの上側ガイドレール117aと下側ガイドレール117bとが、ビルBLの中間階付近で接続された構成とされている。つまり、錘昇降用ガイドレール117 は、上側ガイドレール117aと下側ガイドレール117bとのつなぎ目の部分が、例えば、ビルBLの中間階付近となるように敷設されている。
【0038】
そして、そのつなぎ目の部分を含む所定の箇所(補強位置)には、ガイド部G が設けられたフランジ部F の背面側に対して、耐震補強用の補強部材125 が取り付けられている。
【0039】
なお、錘昇降用ガイドレール117 の構造および錘昇降用ガイドレール117 に対する補強部材125 の取り付けは、上記したかご昇降用ガイドレール115 の場合と同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0040】
また、つなぎ面の有無や位置、および、ビルBLの中間階付近に限らず、長尺物振れが成長しない位置(共振点でない位置)に補強部材125 を設けることによって、かご昇降用ガイドレール115 および錘昇降用ガイドレール117 の塑性変形は軽減できる。
【0041】
ここで、ビルBLの中間階は、かご昇降用ガイドレール115 および錘昇降用ガイドレール117 などの長尺物が半分程度の長さとなるために揺れが発生し難く、管制運転に伴う地震退避運転時に移動する乗りかご2 の距離も短くなるため、退避場所としては好適である。
【0042】
ただし、この退避場所としては、ビルBLの中間階付近によらず、例えば、共振点の位置と重なることのない階床などであっても良く、その付近を補強部材125 やレールブラケット129 による補強を行う構成としても良い。
【0043】
特に、かご昇降用ガイドレール115 および錘昇降用ガイドレール117 を、全階床にわたって補強する場合に比して、コストを抑えることが可能である。
【0044】
なお、長尺物としては、ガイドレール115 ,117 以外に、例えば、メインロープ4 、コンペンロープ8 、テールコード12などが含まれる。
【0045】
即ち、メインロープ4 、コンペンロープ8 、テールコード12などの長尺物は、かご高さ位置により長さが変化し、その結果、各々の固有振動数が変化する。建物が地震や強風などによって横揺れする場合の、一次固有振動数は固定値である。この建物揺れと長尺物の固有振動数とが近接すると共振により長尺物揺れが増大し、昇降路内機器への引っ掛かりや絡まり、破損に至る可能性がある。
【0046】
これを避けるため、本実施形態においては、共振が発生しない階(もしくは、発生し難い階)を退避階として設定し、その退避階付近のガイドレール115 ,117 などの昇降案内機器を補強することで、退避時の昇降案内機器や長尺物の破損を同時に抑制可能となる。
【0047】
図5,6は、エレベータ装置EVの昇降装置130 の構成例を示すもので、図5は、かごローラガイド130Aを、図6は、かごガイドシュー130Bを、それぞれ例示している。
【0048】
かごローラガイド130Aは、例えば図5に示すように、乗りかご2 の枠体に固定させるためのとめ具133 と、とめ具133 に回転可能に保持され、各レール115 ,117 のガイド部G を三方向から挟持する3個のローラ131 と、を有して構成されている。
【0049】
かごガイドシュー130Bは、例えば図6に示すように、乗りかご2 の枠体に固定させるためのとめ具136 と、とめ具136 に保持され、各レール115 ,117 のガイド部G の三方向を挟持するシュー132 と、注油器134 と、から構成されている。注油器134 は、各レール115 ,117 との摩擦を軽減するために、シュー132 に定期的に給油するものである。
【0050】
本実施形態において、乗りかご2 およびつい合い錘5 の昇降装置130 としては、かごローラガイド130Aまたはかごガイドシュー130Bのいずれも適用可能である。
【0051】
次に、図7を参照して、本実施形態に係るエレベータシステムにおいて、地震発生時の乗りかご2 の退避運転について説明する。なお、ここでは、例えば図8に示すように、群単位で管理される9棟のビルBLに設置された(A)~(I)のエレベータ装置EVを、監視センタ30によって監視するようにした場合を例に説明する。
【0052】
例えば、エレベータ装置EVの通常運転中において(ステップST01)、地震が発生したとする(ステップST02のYES )。
【0053】
そして、その地震のP波が、例えば、震源地から最も近い(A)のエレベータ装置EVの地震計21によって検知されたとする。すると、その地震発生時の情報が、群管理制御装置20を介して、監視センタ30に送られる(ステップST03)。
【0054】
これにより、監視センタ30では、提供された地震発生時の情報に基づいて、例えば、管制運転制御装置31において、管制運転を行わせるエレベータ装置EVについて判断される(ステップST04,ST05)。
【0055】
例えば、管制運転判断部32においては、判断表記憶部33に予め記憶されている判断表にしたがい、震源地から最も近いエレベータ装置EVの地震計21より受け取った地震発生時の情報に基づいて、管制運転させるエレベータ装置EVが選択される。
【0056】
ここで、判断表記憶部33には、例えば図9に示すような判断表が、(A)~(I)のエレベータ装置EV毎に予め記憶されているものとする。この判断表は、(A)のエレベータ装置EVについてのものであるが、各エレベータ装置EVの判断表には、同様に、震度に関する情報、震源に関する情報、震源地からの距離に関する情報、および、管制運転の指示(アリ/ナシ)が割り当てられている。
【0057】
この判断表によると、管制運転判断部32は、例えば、地震発生時の、震度に関する情報が「2」、震源に関する情報が「~10km」、震源地からの距離に関する情報が「~10km」の場合、(A)のエレベータ装置EVに地震による影響がありそうだと判断する。この場合、管制運転制御装置31からは、(A)のエレベータ装置EVに対して、管制運転の指示(アリ)が出力される(ステップST06)。
【0058】
また、管制運転判断部32は、震度に関する情報が「2」、震源に関する情報が「~10km」、震源地からの距離に関する情報が「11~30km」の場合や、震度に関する情報が「2」、震源に関する情報が「11~50km」、震源地からの距離に関する情報が「~10km」の場合にも、(A)のエレベータ装置EVに地震による影響がありそうだと判断する。そして、管制運転制御装置31から、(A)のエレベータ装置EVに対して、管制運転の指示(アリ)が出力される(ステップST06)。
【0059】
同様にして、(B)~(I)の各エレベータ装置EVに対する、地震による影響の有無に応じて管制運転の必要性が判断されて、管制運転への切り替えの指示が出される。
【0060】
即ち、地震が発生する毎に、その地震(余震または本震)による影響がりそうな全てのエレベータ装置EVに対して、監視センタ30から管制運転への切り替えの指示が出される。
【0061】
一方、管制運転制御装置31から管制運転の指示(アリ)を受けたエレベータ装置EVは(ステップST07のYES )、単体制御装置10によって巻上機6 の駆動を制御して、乗りかご2 の運転状態を管制運転へと切り替える(ステップST08)。
【0062】
これにより、地震時退避運転が行われ、昇降装置130 がかご昇降用ガイドレール115 に沿って移動し、余震や本震が来る前に、乗りかご2 がビルBLの中間階付近である、かご昇降用ガイドレール115 に施された補強位置へと強制的に移動される。その後、エレベータ装置EVは休止状態とされる。
【0063】
また、つり合い錘5 は、乗りかご2 の退避運転に伴って、昇降装置130 により錘昇降用ガイドレール117 に沿って移動し、ビルBLの中間階付近である、錘昇降用ガイドレール117 に施された補強位置へと強制的に移動される。
【0064】
そして、一定時間(所定の時間)が経過する(ステップST09のYES )、例えば、監視センタ30において、長周期振動が終息したと判断された場合に、保守員による点検作業やエレベータ装置EVの自動点検が行われる(ステップST010)。
【0065】
点検作業や自動点検により異常が検出されない場合(ステップST11のNO)や復旧作業が終了したエレベータ装置EVは、処理がステップST02へと移行され、直ちに通常運転へと復帰される。
【0066】
上記したように、本実施形態のエレベータシステムによれば、通常運転への早期復帰が可能で、エレベータ利用者の利便性を向上できる。
【0067】
即ち、常に各エレベータ装置EVの地震計21をモニタリングするように、複数のエレベータ装置EVを一元管理するとともに、地震発生時には、その地震の影響を受けると予想されるエレベータ装置EVにおいて、ビルBLの中間階付近の、バッキングで強化されたかご昇降用ガイドレール115 の補強位置に、乗りかご2 を強制的に退避させるようにしている。
【0068】
これにより、エレベータ装置EVにおいては、地震発生時のゆがみや脱レールの発生を予防できるようになるなど、被害を大きくすることなく、通常運転への早期復帰が容易となる。したがって、地震が発生した際に、長い時間、休止状態となって、エレベータ利用者が利用できなくなるといった利便性の悪さを改善できる(地震後長期停止レスEV)。
【0069】
他の実施形態
なお、上記した実施形態においては、地震計21によってP波が検知された際の情報に基づいて、地震時退避運転を行うようにしたが、これに限らず、監視センタ30に提供される、例えば外部のサイトや民間企業、または、公的な情報機関からの地震予知情報などに基づいて、管制運転させるエレベータ装置EVを選択するようにしても良い。
【0070】
また、地震計21によるP波検知と外部からの地震予知情報などとに基づいて、管制運転させるエレベータ装置EVを選択するようにしても良い。
【0071】
もしくは、地震計21によりP波が検知された全てのエレベータ装置EVの管制運転を行わせるように制御することも可能である。
【0072】
いずれの場合においても、管制運転させるエレベータ装置EVの選択は、監視センタ30によらず、例えば、震源地に最も近いエレベータ装置EVの単体制御装置10などで行う構成とすることも可能である。
【0073】
また、管制運転させるエレベータ装置EVの選択を、さらに、過去の地震による故障情報を用いて行うようにしても良い。
【0074】
また、ガイドレールの補強は、かご昇降用ガイドレール115 だけに施すようにしても良く、より低コスト化できる。
【0075】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1 …昇降路、2 …乗りかご、4 …メインロープ、5 …つり合い錘、6 …巻上機(駆動部)、10…単体制御装置(制御部)、20…群管理制御装置、21…地震計、30…監視センタ、31…管制運転制御装置(判断部)、32…管制運転判断部、33…判断表記憶部、115 …かご昇降用ガイドレール、117 …錘昇降用ガイドレール、125 …補強部材、129 …レールブラケット、130 …昇降装置、EV…エレベータ装置。
【要約】
【課題】地震後の通常運転への早期復帰が可能で、エレベータ利用者の利便性を向上できるようにする。
【解決手段】昇降路1 内を、かご昇降用ガイドレール115 に沿って昇降動作するエレベータ装置EVの乗りかご2 を、地震発生時に管制運転させるエレベータの運転システムであって、乗りかご2 を昇降動作させる巻上機6 と、かご昇降用ガイドレール115 の、長尺物振れが成長しない位置に設けられた補強部材125 と、地震発生時に、当該エレベータ装置EVの乗りかご2 を管制運転させるか否かを判断する管制運転制御装置31と、管制運転させると判断されると、巻上機6 を制御して、乗りかご2 を通常運転から管制運転に切り替える単体制御装置10と、を備え、単体制御装置10は、管制運転への切り替えに伴って、乗りかご2 をかご昇降用ガイドレール115 の補強部材125 が設けられた位置に強制的に移動させる退避運転を行うように制御する。
【選択図】図2
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