IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 寧徳新能源科技有限公司の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】電気化学装置及びそれを含む電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240401BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240401BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240401BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240401BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240401BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240401BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240401BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20240401BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20240401BHJP
   H01G 11/42 20130101ALI20240401BHJP
   H01G 11/28 20130101ALI20240401BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20240401BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20240401BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/133
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/36 C
H01G11/64
H01G11/24
H01G11/42
H01G11/28
H01G11/38
H01M10/0525
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022519794
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-30
(86)【国際出願番号】 CN2019128445
(87)【国際公開番号】W WO2021128093
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】王 可飛
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109860703(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0267671(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0379086(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105280954(CN,A)
【文献】特開2012-182132(JP,A)
【文献】特開2016-178125(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109037676(CN,A)
【文献】特開2017-069181(JP,A)
【文献】特開2005-005118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M、H01G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、電解液、及び負極を含み、
前記電解液は、リンと酸素を有する化合物を含み、
前記電解液は、ホスホン酸環状無水物を含み、前記ホスホン酸環状無水物は、式3で示される化合物の一種又は多種を含み、
【化1】
ここで、R 10 、R 11 及びR 12 は、それぞれ独立して水素原子、C 1-20 アルキル基、C 6-50 アリール基であり、R 10 、R 11 及びR 12 は、それぞれ異なっても、同様でも、又は任意の両者が同様であってもよく、
前記負極は、負極集電体及び前記負極集電体上に形成した負極合剤層を含み、100回の充放電サイクル後、前記負極合剤層の総表面積に対して、前記負極合剤層の表面のリチウム析出面積は2%以下であり、
前記負極合剤層は、炭素材料を含み、前記炭素材料の表面にアモルファスカーボンを有する、
電気化学装置。
【請求項2】
前記電解液の総重量に対して、前記リンと酸素を有する化合物の含有量は0.001wt%~10wt%である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
前記負極合剤層は炭素材料を含み、前記炭素材料は、
(a)比表面積が5m/g未満であることと、
(b)メディアン径が5μm~30μmであることと、
のうちの少なくとも一つの特徴を有する、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項4】
前記負極合剤層は、
(a)厚さが200μm以下であることと、
(b)10%~60%の孔隙率を有することと、
(c)直径15mm、重量12グラムのボールが前記負極合剤層上に落下した場合、前記負極合剤層に亀裂を発生させるボールの最小高さは50cm以上であることと、
のうちの少なくとも一つの特徴を有する、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項5】
前記負極合剤層は助剤を含み、前記助剤は、
(a)ポリエーテルシロキサンを含むことと、
(b)酸化電位が4.5V以上であり、且つ還元電位が0.5V以下であることと、
(c)前記助剤を0.1wt%含む水溶液の表面張力が30mN/m以下であることと、
のうちの少なくとも一つの特徴を有する、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項6】
前記負極合剤層の総重量に対して、前記助剤の含有量は3000ppm以下である、請求項に記載の電気化学装置。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関し、具体的に、電気化学装置及びそれを含む電子装置に関し、特にリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
技術の発展及び携帯装置への需要の増加につれて、電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)への需要が著しく増加している。高いエネルギー密度、優れた寿命及びサイクル特性をあわせて持つリチウムイオン電池は研究の方向の一つである。
【0003】
リチウムイオン電池の理論容量は負極活物質の種類によって変わる。サイクルの進行に伴い、リチウムイオン電池には、通常、充電/放電容量低下の現象が起こり、それによって、リチウムイオン電池の性能が劣化する。近年では、リチウムイオン電池の製造において、環境への負担を軽減するなどのため、水性媒体を分散媒体として使用する水性スラリー組成物がますます注目されるが、水性スラリーは、スラリー組成物における泡の存在により、活物質層に複数のピンホール、ピット等の欠陥が生じ、それによって、電気化学装置のサイクル特性及び高温保存特性が影響される。
【0004】
それに鑑みて、改善されたサイクル特性、保存特性及び安全特性を有する電気化学装置及びそれを含む電子装置を提供する必要は確かにある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の実施例は、電気化学装置及びそれを含む電子装置を提供することで、少なくとも一種の関連分野に存在する問題を少なくともある程度に解決する。
【0006】
本発明の一つの態様では、正極、電解液、及び負極を含む電気化学装置が提供され、前記電解液は、リンと酸素を有する化合物を含み、前記負極は、負極集電体、及び前記負極集電体上に形成した負極合剤層を含み、100回の充放電サイクル後、前記負極合剤層の総表面積に対して、前記負極合剤層の表面のリチウム析出面積は2%以下である。
【0007】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記電解液は、
(a)モノフルオロリン酸リチウムと、
(b)ジフルオロリン酸リチウムと、
(c)リン酸エステルと、
(d)ホスホン酸環状無水物と、
(e)式1で示される化合物と、
のうちの少なくとも一種を含み、
【化1】
ここで、Rは置換又は無置換のC-C10炭化水素基であり、置換の場合、置換基はハロゲン基である。
【0008】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記電解液は前記式1で示される化合物を含み、前記式1で示される化合物は、
【化2】
のうちの少なくとも一種の構造式を含む。
【0009】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記電解液はリン酸エステルを含み、前記リン酸エステルは式2を有し、
【化3】
式2
ここで、Xは1~5個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐アルキル基、又は-SiRであり、R、R及びRはそれぞれ独立して1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
は、2~3個の炭素原子を有し、且つ以下の置換基で置換されたアルキレン基であり、前記置換基は、少なくとも1つのフッ素原子、または、少なくとも1つのフッ素原子を含み、且つ1~3個の炭素原子を有するアルキル基である。
【0010】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記電解液の総重量に対して、前記リンと酸素を有する化合物の含有量は0.001wt%~10wt%である。
【0011】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層は炭素材料を含み、前記炭素材料は、
(a)比表面積が5m/g未満であることと、
(b)メディアン径が5μm~30μmであることと、
(c)表面にアモルファスカーボンを有することと、
のうちの少なくとも一つの特徴を有する。
【0012】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層は、
(a)厚さが200μm以下であることと、
(b)10%~60%の孔隙率を有することと、
(c)直径15mm、重量12グラムのボールが前記負極合剤層上に落下した場合、前記負極合剤層に亀裂を発生させるボールの最小高さが50cm以上であることと、
のうちの少なくとも一つの特徴を有する。
【0013】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層は助剤を含み、前記助剤は、
(a)ポリエーテルシロキサンを含むことと、
(b)酸化電位は4.5V以上であり、還元電位は0.5V以下であることと、
(c)前記助剤を0.1wt%含む水溶液の表面張力は30mN/m以下であることと、
のうちの少なくとも一つの特徴を有する。
【0014】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層の総重量に対して、前記助剤の含有量は3000ppm以下である。
【0015】
本発明のもう一つの態様では、本発明による電気化学装置を含む電子装置が提供される。
【0016】
本発明の実施例の追加の態様及び利点は、部分的に後続の説明で説明され、示されるか、又は本発明の実施例の実施を通じて説明される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を詳しく説明する。本発明の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0018】
本文にて用いられる以下の用語は、特に断らない限り、以下に示される意味を有する。
【0019】
発明を実施するための形態及び請求の範囲において、用語「うちの少なくとも一つ」又はその他の類似な用語に繋げる項目のリストは、リストされる項目の任意の組み合わせを意味することができる。例えば、項目A及びBがリストされると、フレーズ「A及びBのうちの少なくとも一つ」は、Aのみ、Bのみ、又は、A及びBを意味する。もう一つの実例において、項目A、B及びCがリストされると、フレーズ「A、B及びCのうちの少なくとも一つ」は、Aのみ;又はBのみ;Cのみ;A及びB(Cを除く);A及びC(Bを除く);B及びC(Aを除く);又はA、B及びCの全て、を意味する。項目Aは一つの要素又は複数の要素を含んでもよい。項目Bは一つの要素又は複数の要素を含んでもよい。項目Cは一つの要素又は複数の要素を含んでもよい。用語「うちの少なくとも一種」は用語「うちの少なくとも一つ」と同じ意味を有する。
【0020】
本発明に使用されたように、用語「炭化水素基」は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基を含む。
【0021】
本発明に使用されたように、用語「アルキル基」は、1~20個の炭素原子を有する直鎖飽和炭化水素構造と予期される。「アルキル基」は、3~20個の炭素原子を有する分岐鎖又は環状炭化水素構造と予期される。具体的な炭素数を有するアルキル基が指定された場合、その炭素数を有する全ての幾何異性体を含むことが予期される。従って、例えば、「ブチル基」とは、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基及びシクロブチル基を含むことを意味する。「プロピル基」は、n-プロピル基、イソプロピル基及びシクロプロピル基を含む。アルキル基の実例は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、オクチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、ノルボルニル基等を含むが、それらに限定されるものではない。
【0022】
本発明に使用されたように、用語「アルケニル基」とは、直鎖又は分岐鎖を有する不飽和炭化水素基であって、少なくとも一つ、通常は1個、2個又は3個の炭素炭素二重結合を有する一価のものを指す。前記アルケニル基は、特に定義されない限り、通常、2~20個の炭素原子を有するものであり、(例えば)-C2-4アルケニル基、-C2-6アルケニル基、及び-C2-10アルケニル基を含む。代表的なアルケニル基は、(例えば)ビニル基、n-プロペニル基、イソプロペニル基、n-ブト-2-エニル基、ブト-3-エニル基、n-ヘキサ-3-エニル基等を含む。
【0023】
本発明に使用されたように、用語「アルキニル基」とは、直鎖又は分岐鎖を有する不飽和炭化水素基であって、少なくとも一つ、通常は1個、2個又は3個の炭素炭素三重結合を有する一価のものを指す。前記アルキニル基は、特に定義されない限り、通常、2~20個の炭素原子を有するものであり、(例えば)-C2-4アルキニル基、-C3-6アルキニル基、及び-C3-10アルキニル基を含む。代表的なアルキニル基は、(例えば)エチニル基、プロプ-2-イニル基(n-プロピニル基)、n-ブト-2-イニル基、n-ヘキサ-3-イニル基等を含む。
【0024】
本発明に使用されたように、用語「アルキレン基」とは、直鎖又は分岐鎖を有する二価の飽和炭化水素基を意味する。前記アルキレン基は、特に定義されない限り、通常、2~10個の炭素原子を有するものであり、(例えば)-C2-3アルキレン基、及び-C2-6アルキレン基を含む。代表的なアルキレン基は、(例えば)メチレン基、エタン-1,2-ジイル基(「エチレン基」)、プロパン-1,2-ジイル、プロパン-1,3-ジイル、ブタン-1,4-ジイル、ペンタン-1,5-ジイルなどを含む。
【0025】
用語「アリール基」とは、単環(例えば、フェニル基)又は縮合環を有する一価の芳香族炭化水素を意味する。縮合環系は、完全に不飽和な環系(例えば、ナフタレン)及び部分的に不飽和な環系(例えば、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン)を含む。前記アリール基は、特に定義されない限り、通常、6~26個の炭素原子を有するものであり、(例えば)-C6-10アリール基を含む。代表的なアリール基は、(例えば)フェニル基、メチルフェニル基、プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ベンジル基、及び、ナフタレン-1-イル基、ナフタレン-2-イル基等を含む。
【0026】
本発明に使用されたように、用語「ハロゲン」とは、周期表の第17族の安定な原子、例えば、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素を指す。
【0027】
電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)の理論容量は負極活物質の種類によって変わる。サイクルの進行に伴い、電気化学装置には、通常、充電/放電容量低下の現象が起こる。それは、電気化学装置は充電及び/又は放電の過程で、電極の界面に変化が起こることにより、電極活物質がその機能を発揮できなくなるからである。
【0028】
本発明は、特定の負極材料と特定の電解液との組み合わせを使用することで、電気化学装置のサイクル過程での界面安定性を保証し、それによって、電気化学装置のサイクル特性及び高温保存特性を向上させる。
【0029】
本発明の特定の負極材料は、負極活物質層の表面のリチウム析出面積を制御することにより達成するものである。リチウム析出面積は、負極スラリーに助剤を添加する、又は負極活物質層の表面に助剤コート層を配置する方法で、制御することができる。さらに、リチウム析出面積は、電解液の組成の調整、特殊構造の添加剤の添加、又は正負極極片の圧縮密度(Compaction density)、正極活性材料の割合の調整などで制御することができる。
【0030】
一つの実施例において、本発明は下記の正極、負極、及び電解液を含む電気化学装置を提供する。
【0031】
I、負極
負極は、負極集電体、及び前記負極集電体の一つ又は二つの表面上に配置される負極合剤層を含む。
【0032】
1、負極合剤層
負極合剤層は負極活物質層を含み、負極活物質層は負極活物質を含む。負極合剤層は、単層でも複層でもよく、複層負極活物質における各層は、同様な、又は異なる負極活物質を含んでもよい。負極活物質は、可逆的にリチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出することができるあらゆるものである。いくつかの実施例において、充電中にリチウム金属が意図せずに負極上に析出することを防ぐため、負極活物質の充電可能容量は正極活物質の放電容量より大きい。
【0033】
(1)リチウム析出面積
本発明の電気化学装置の一つの主要な特徴は、100回の充放電サイクル後、前記負極合剤層の総表面積に対して、前記負極合剤層の表面のリチウム析出面積は2%以下である。いくつかの実施例において、100回の充放電サイクル後、前記負極合剤層の総表面積に対して、前記負極合剤層の表面のリチウム析出面積は1%以下である。いくつかの実施例において、100回の充放電サイクル後、前記負極合剤層の総表面積に対して、前記負極合剤層の表面のリチウム析出面積は0.5%以下である。
【0034】
負極合剤層のリチウム析出面積は、負極合剤層の表面の性質を反映でき、負極合剤層を特徴づける物理化学パラメータの一つである。リチウム析出面積が小さいほど、負極合剤層の表面が平らになり、ピンホール又はピットの欠陥が少なくなり、電気化学装置のサイクル特性及び高温保存特性を著しく改善することができる。負極合剤層のリチウム析出面積は複数の要因に影響され、主に助剤及び負極合剤層の孔隙率等を含む。
【0035】
負極合剤層が上記のリチウム析出面積を有する場合、安定性が良好な合剤層界面が得られ、それによって、リチウムイオン電池が充放電サイクル中に改善されたサイクル特性、保存特性及び安全特性を有するようになる。
【0036】
(2)接触角
本発明のいくつかの実施例によれば、接触角測定法で測定された、前記負極合剤層の非水溶媒に対する接触角は60°以下である。いくつかの実施例において、接触角測定法で測定された、前記負極合剤層の非水溶媒に対する接触角は50°以下である。いくつかの実施例において、接触角測定法で測定された、前記負極合剤層の非水溶媒に対する接触角は30°以下である。負極合剤層が非水溶媒に対して上記のような接触角を有する場合、負極合剤層の界面に欠陥が少なく、電気化学装置の充放電サイクルでの安定性が良好であり、電気化学装置のサイクル特性及び高温保存特性が保証される。
【0037】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記接触角測定法とは、前記負極合剤層の表面に3マイクロリットルのジエチルカーボネートの液滴を滴下した後に、100秒間以内に前記液滴の前記負極合剤層の表面での接触角を測定することを指す。
【0038】
本発明のいくつかの実施例によれば、接触角測定法で測定された、前記非水溶媒の前記負極合剤層上での液滴直径は30mm以下である。いくつかの実施例において、接触角測定法で測定された、前記非水溶媒の前記負極合剤層上での液滴直径は20mm以下である。いくつかの実施例において、接触角測定法で測定された、前記非水溶媒の前記負極合剤層上での液滴直径は15mm以下である。いくつかの実施例において、接触角測定法で測定された、前記非水溶媒の前記負極合剤層上での液滴直径は10mm以下である。負極合剤層が非水溶媒に対して上記の接触角を有するとともに、前記非水溶媒が上記の液滴直径を有する場合、電気化学装置のサイクル特性及び高温保存特性がさらに向上する。
【0039】
負極合剤層の非水溶媒に対する接触角及び非水溶媒の液滴直径は以下の方法で測定される。負極合剤層の表面に3マイクロリットルのジエチルカーボネートを滴下し、100秒間以内に、JC2000D3E型接触角測定装置で液滴直径を測定し、5点フィッティング法(即ち、まず、液滴の左右の2つの端点を求め、液固界面を確定し、そして液滴の輪郭で3点を選択する)でフィッティングし、負極合剤層の非水溶媒に対する接触角が得られる。各サンプルを少なくとも3回測定し、差が5°未満のデータを少なくとも3個選択し、平均値を取り、負極合剤層の非水溶媒に対する接触角が得られる。接触角の測定に用いられる非水溶媒は、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、又はメチルイソプロピルカーボネートなどの一般的に使用される電解液溶媒を選択してもよい。
【0040】
(3)炭素材料
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層は炭素材料を含む。
【0041】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層は、人造黒鉛、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ソフトカーボン、ハードカーボン、及びアモルファスカーボンのうちの少なくとも一種を含む。
【0042】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状、及び鱗片状を含むが、それらに限定されない。
【0043】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記炭素材料は、
(a)比表面積(BET)が5m/g未満であることと、
(b)メディアン径(D50)が5μm~30μmであることと、
(c)表面にアモルファスカーボンを有することと、
のうちの少なくとも一つの特徴を有する。
【0044】
比表面積(BET)
いくつかの実施例において、前記炭素材料は5m/g未満の比表面積を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は3m/g未満の比表面積を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は1m/g未満の比表面積を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は0.1m/g超の比表面積を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は0.7m/g未満の比表面積を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は0.5m/g未満の比表面積を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料の比表面積は上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。前記炭素材料の比表面積が上記の範囲内にある場合、リチウムが電極の表面に析出することを抑制し、負極と電解液との反応によりガスが生成することを抑制することができる。
【0045】
炭素材料の比表面積(BET)は、以下の方法により測定することができる。表面積計(大倉理研製全自動表面積測定装置)を使用し、窒素ガス流通下で、350℃にて、試料に15分間の予備乾燥を行い、そして窒素ガスの大気圧に対する相対圧力値を0.3に正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを使用し、ガス流動法による窒素吸着BET1点法で測定する。
【0046】
メディアン径(D50)
前記炭素材料のメディアン径(D50)とは、レーザ回折/散乱法で得られた体積基準の平均粒子径を指す。いくつかの実施例において、前記炭素材料は5μm~30μmのメディアン径(D50)を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は10μm~25μmのメディアン径(D50)を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は15μm~20μmのメディアン径(D50)を有する。いくつかの実施例において、前記炭素材料は1μm、3μm、5μm、7μm、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm又は以上の任意の二つの数値の範囲内にあるメディアン径(D50)を有する。前記炭素材料のメディアン径が上記の範囲内にある場合、電気化学装置の不可逆な容量が比較的に小さく、且つ負極に均一に塗布されやすい。
【0047】
前記炭素材料のメディアン径(D50)は、炭素材料をポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2wt%水溶液(10mL)に分散させ、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製LA-700)で測定される。
【0048】
X線回折スペクトルパラメータ
本発明のいくつかの実施例によれば、学振法に基づくX線回折スペクトルにおいて、前記炭素材料の格子面(002面)の層間距離が、0.335nm~0.360nmの範囲内にあり、0.335nm~0.350nmの範囲内にあり、又は0.335nm~0.345nmの範囲内にある。
【0049】
本発明のいくつかの実施例によれば、学振法に基づくX線回折スペクトルにおいて、前記炭素材料の微結晶サイズ(Lc)は1.0nm超、又は1.5nm超である。
【0050】
ラマンスペクトルパラメータ
いくつかの実施例において、前記炭素材料のラマンR値は、0.01超、0.03超、又は0.1超である。いくつかの実施例において、前記炭素材料のラマンR値は1.5未満、1.2未満、1.0未満、又は0.5未満である。いくつかの実施例において、前記炭素材料のラマンR値は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0051】
前記炭素材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は特に制限されない。いくつかの実施例において、前記炭素材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は10cm-1超、又は15cm-1超である。いくつかの実施例において、前記炭素材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は、100cm-1未満、80cm-1未満、60cm-1未満、又は40cm-1未満である。いくつかの実施例において、前記炭素材料の1580cm-1付近のラマン半値幅は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0052】
ラマンR値及びラマン半値幅は、炭素材料の表面の結晶性を示す指標である。適度な結晶化度は、充電及び放電過程中でリチウムを収容する炭素材料の層間サイトを、消えないように維持することができ、それによって、炭素材料の化学安定性に有利である。
【0053】
ラマンR値及び/又はラマン半値幅が前記のような範囲内にある場合、炭素材料は負極表面で適宜な被膜を形成し、電気化学装置の保存特性、サイクル特性以及負荷特性等の改善に有利であるとともに、炭素材料と電解液との反応による効率低下及びガスの生成を抑制することができる。
【0054】
ラマンR値又はラマン半値幅は、アルゴンイオンレーザラマン分光法で測定されることができる。測定は、ラマン分光器(日本分光社製のラマン分光器)を使用し、試料を測定セル内へ自然落下させて充填し、セル内のサンプル表面にアルゴンイオンレーザを照射しながら、セルをレーザと垂直な面で回転させることによって行なう。得られたラマンスペクトルに対して、1580cm-1付近のピークPAの強度IA及び1360cm-1付近のピークPBの強度IBを測定し、その強度比R(R=IB/IA)を算出する。
【0055】
上記のラマンスペクトル法の測定条件は以下の通りである。
・アルゴンイオンレーザ波長:514.5nm
・試料上のレーザパワー:15-25mW
・解像度:10-20cm-1
・測定範囲:1100cm-1-1730cm-1
・ラマンR値、ラマン半値幅の解析:バックグラウンド処理
・スムージング処理:単純平均、コンボリューシヨン5ポイント
【0056】
円形度
「円形度」は次のように定義される。円形度=(粒子の投影形状と同じ面積を有する相当円の周囲長)/(粒子の投影形状の実際の周囲長)。円形度が1.0である場合、理論的な真球である。
【0057】
いくつかの実施例において、前記炭素材料の粒子径が3μm~40μmであり、かつ円形度が0.1超、0.5超、0.8超、0.85超、0.9超、又は1.0である。
【0058】
高電流密度充放電特性に対して、炭素材料の円形度が大きいほど、充填性が高くなり、それは粒子間の抵抗を抑制することに有利であり、それによって電気化学装置の高電流密度充放電特性が改善される。
【0059】
炭素材料の円形度は、フロー式粒子画像分析装置(シスメックス社製FPIA)を使用して測定されることができる。0.2gの試料をポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2wt%水溶液(50mL)に分散させ、出力パワー60Wで28kHzの超音波を1分間照射した後、検出範囲を0.6μm~400μmに指定し、粒子径が3μm~40μmの範囲の粒子を測定する。
【0060】
円形度を高める方法は特に制限されない。電極を調製する時の炭素材料の粒子間の空隙の形状を均一にするための球状化処理を採用することができる。球状化処理は、せん断力または圧縮力を与えるなどの機械的方法によって実施してもよく、複数の微粒子をバインダーまたは粒子自身の有する付着力によって造粒するなどの機械的/物理的方法によって実施してもよい。球状化処理を実施することで、炭素材料粒子をほぼ真球状にする。
【0061】
タップ密度
いくつかの実施例において、前記炭素材料のタップ密度は、0.1g/cm超、0.5g/cm超、0.7g/cm超、又は1g/cm超である。いくつかの実施例において、前記炭素材料のタップ密度は、2g/cm未満、1.8g/cm未満、又は1.6g/cm未満である。いくつかの実施例において、前記炭素材料のタップ密度は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。炭素材料のタップ密度が上記の範囲内にある場合、電気化学装置の容量を確保することができるとともに、炭素材料の粒子間の抵抗の増加を抑制することができる。
【0062】
炭素材料のタップ密度は、以下の方法で測定することができる。試料を目開き300μmの篩に通過させて、20cmのタッピングセルに落下させて、セルの上端面まで試料を満たした後、粉体密度測定器(例えば、株式会社セイシン製Tap densor)を使用して、ストローク長10mmのタッピングを1000回行い、この時の体積及び試料の質量から、タップ密度を算出する。
【0063】
配向比
いくつかの実施例において、前記炭素材料の配向比は、0.005超、0.01超、又は0.015超である。いくつかの実施例において、前記炭素材料の配向比は、0.67未満である。いくつかの実施例において、前記炭素材料の配向比は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。炭素材料の配向比が上記の範囲内にある場合、電気化学装置に優れた高密度充放電特性を持たせることができる。
【0064】
炭素材料の配向比は、試料を加圧成型した後、X線回折で測定されることができる。試料0.47gを直径17mmの成形機に充填し、58.8MN・m-2で圧縮して得られた成形体を、粘土を用いて測定用試料ホルダーの面と同一面になるようにセットして、X線回折測定を行う。得られた炭素の(110)回折及び(004)回折のピーク強度から、(110)回折ピーク強度/(004)回折ピーク強度に示される比を算出する。
【0065】
X線回折の測定条件は以下の通りである。
・ターゲット:Cu(Kα線)グラファイトモノクロメーター
・スリット:発散スリット=0.5度;受光スリット=0.15mm;散乱スリット=0.5度
・測定範囲とステップ角度/測定時間(「2θ」は回折角を示す):
(110)面:75度≦2θ≦80度 1度/60秒
(004)面:52度≦2θ≦57度 1度/60秒
【0066】
アスペクト比
いくつかの実施例において、前記炭素材料のアスペクト比は、1超、2超、又は3超である。いくつかの実施例において、前記炭素材料のアスペクト比は、10未満、8未満、又は5未満である。いくつかの実施例において、前記炭素材料のアスペクト比は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0067】
炭素材料のアスペクト比が上記の範囲内にある場合、さらに均一に塗布することができ、それによって、電気化学装置に優れた高電流密度充放電特性を持たせることができる。
【0068】
(4)孔隙率
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層の孔隙率は10%~60%である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の孔隙率は15%~50%である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の孔隙率は20%~40%である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の孔隙率は25%~30%である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の孔隙率は10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%であり、又は以上の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0069】
前記負極合剤層の孔隙率は、真密度測定計AccuPyc II 1340で測定し、各サンプルに対して少なくとも3回の測定を行い、少なくとも3つのデータを選択し、平均値を計算することで、測定される。負極合剤層の孔隙率は、以下の式で計算される。孔隙率=(V1-V2)/V1×100%、V1は見かけ体積であり、V1=サンプルの表面積×サンプルの厚さ×サンプルの数量;V2は真体積である。
【0070】
(5)厚さ
負極合剤層の厚さとは、負極集電体のいずれかの片側にある負極合剤層の厚さを指す。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは200μm以下である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは150μm以下である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは100μm以下である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは50μm以下である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは15μm以上である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは20μm以上である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の厚さは30μm以上である。いくつかの実施例において、負極合剤層の厚さは、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0071】
(6)負極合剤層のボール落下試験
本発明のいくつかの実施例によれば、直径15mm、重量12グラムのボールが前記負極合剤層上に落下した場合、前記負極合剤層に亀裂を発生させるボールの最小高さは50cm以上である。いくつかの実施例によれば、直径15mm、重量12グラムのボールが前記負極合剤層上に落下した場合、前記負極合剤層に亀裂を発生させるボールの最小高さは150cm以下である。
【0072】
負極合剤層に亀裂を発生させるボールの最小高さは合剤層の界面に関連する。前記最小高さが50cm以上である場合、負極合剤層の界面が割れる時、望まない方向で亀裂が発生することはない。
【0073】
縦方向(Machine Direction、MD)と横方向(Transverse Direction、TD)とのバランスを取った上で、前記負極合剤層に亀裂を発生させるボールの最小高さは負極合剤層の厚さ及び孔隙率に関連する。負極合剤層の厚さが大きいほど、負極合剤層に亀裂を発生させるボールの最小高さは大きくなるが、厚すぎた負極合剤層は、電気化学装置のエネルギー密度を低下させる。負極合剤層の孔隙率が小さいほど、前記負極合剤層に亀裂を発生させるボールの最小高さは大きくなるが、低すぎた孔隙率は、電気化学装置の電気化学特性(例えば、レート特性)を低下させる。
【0074】
(7)助剤
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層はさらに助剤を含む。
【0075】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記助剤は、
(a)ポリエーテルシロキサンを含むことと、
(b)酸化電位が4.5V以上であり、還元電位は0.5V以下であることと、
(c)前記助剤を0.1wt%含む水溶液の表面張力が30mN/m以下であることと、
のうちの少なくとも一つの特徴を有する。
【0076】
ポリエーテルシロキサン
いくつかの実施例において、前記助剤はポリエーテルシロキサンを含む。いくつかの実施例において、前記ポリエーテルシロキサンはSi-C結合及びSi-O結合を有する。いくつかの実施例において、前記ポリエーテルシロキサンは、複合シリコーンポリエーテル複合物、ポリエーテル変性トリシロキサン、又はポリエーテル変性シリコーンポリエーテルシロキサンのうちの少なくとも一種を含む。
【0077】
ポリエーテルシロキサンの実例は、トリシロキサン界面活性剤(CAS No.3390-61-2;28855-11-0)、シリコーン界面活性剤(Sylgard 309)、ジヒドロキシポリジメチルシロキサン((PMX-0156))、又はメチルシリコーンオイルポリジメチルシロキサン(CAS No.63148-62-9)を含むが、それらに限定されない。
【0078】
上記のポリエーテルシロキサンは、単独で、又は任意に組み合わせて使用してもよい。前記助剤が二種又は多種のポリエーテルシロキサンを含む場合、ポリエーテルシロキサンの含有量は、二種又は多種のポリエーテルシロキサンの合計含有量である。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の総重量に対して、前記ポリエーテルシロキサンの含有量は3000ppm以下、2000ppm以下、1000ppm以下、500ppm以下、300ppm以下、又は200ppm以下である。ポリエーテルシロキサンの含有量が上記の範囲内にある場合、電気化学装置の出力パワー特性、負荷特性、低温特性、サイクル特性、及び高温保存特性等の特性を改善することに有利である。
【0079】
酸化/還元電位
いくつかの実施例において、前記助剤の酸化電位は4.5V以上であり、且つ還元電位は0.5V以下である。いくつかの実施例において、前記助剤の酸化電位は5V以上であり、且つ還元電位は0.3V以下である。上記の酸化/還元電位を有する助剤は、電気化学特性が安定で、電気化学装置のサイクル特性及び高温保存特性の改善に有利である。
【0080】
表面張力
いくつかの実施例において、前記助剤を0.1wt%含む水溶液の表面張力は30mN/m以下である。いくつかの実施例において、前記助剤を0.1wt%含む水溶液の表面張力は25mN/m以下である。いくつかの実施例において、前記助剤を0.1wt%含む水溶液の表面張力は20mN/m以下である。いくつかの実施例において、前記助剤を0.1wt%含む水溶液の表面張力は15mN/m以下である。いくつかの実施例において、前記助剤を0.1wt%含む水溶液の表面張力は10mN/m以下である。上記の表面張力を有する助剤は、負極合剤層に良好な界面を持たせ、電気化学装置のサイクル特性及び高温保存特性の改善に有利である。
【0081】
前記助剤の表面張力は、次の方法で測定されることができる。JC2000D3E型接触角測定器を使用し、固形分が1%の助剤の水溶液を測定し、各サンプルを少なくとも3回測定し、データを少なくとも3個選択し、平均値を取り、助剤の表面張力が得られる。
【0082】
(8)その他の成分
微量元素
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層はさらに、モリブデン、鉄、及び銅のうちの少なくとも一種の金属を含む。それらの金属元素は、負極活物質における導電能力の悪い有機物の一部と反応することができ、それによって、負極活物質の表面の成膜に有利である。
【0083】
本発明のいくつかの実施例によれば、上記の金属元素は微量で前記負極合剤層に存在し、過量の金属元素は、導電しない副産物を生成して負極の表面に付着しやすい。いくつかの実施例において、前記負極合剤層の総重量に対して、前記少なくとも一種の金属の含有量は0.05wt%以下である。いくつかの実施例において、前記少なくとも一種の金属の含有量は0.03wt%以下である。いくつかの実施例において、前記少なくとも一種の金属の含有量は0.01wt%以下である。
【0084】
ケイ素及び/又はスズを含む材料
本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層はさらに、ケイ素含有材料、スズ含有材料、合金材料のうちの少なくとも一種を含む。本発明のいくつかの実施例によれば、前記負極合剤層はさらに、ケイ素含有材料、及びスズ含有材料のうちの少なくとも一種を含む。いくつかの実施例において、前記負極合剤層はさらに、ケイ素含有材料、ケイ素炭素複合材料、ケイ素酸素材料、合金材料、及びリチウム含有金属複合酸化物材料のうちの一種又は多種を含む。いくつかの実施例において、前記負極合剤層はさらに、他の種類の負極活物質を含む。例えば、一種又は多種のリチウムと合金を形成することができる金属元素及び半金属元素を含む材料である。いくつかの実施例において、前記金属元素及び半金属元素の実例は、Mg、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Bi、Cd、Ag、Zn、Hf、Zr、Y、Pd、及びPtを含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、前記金属元素及び半金属元素の実例は、Si、Sn、及びそれらの組み合わせを含む。Si及びSnは、優れたリチウムイオン放出能力を有し、リチウムイオン電池に高いエネルギー密度を与えることができる。いくつかの実施例において、他の種類の負極活物質はさらに、金属酸化物、及び高分子化合物のうちの一種又は多種を含む。いくつかの実施例において、前記金属酸化物は、酸化鉄、酸化ルテニウム、及び酸化モリブデンを含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、前記高分子化合物は、ポリアセチレン、ポリアニリン、及びポリピロールを含むが、それらに限定されない。
【0085】
負極導電材料
いくつかの実施例において、前記負極合剤層はさらに、負極導電材料を含み、当該導電材料は、化学変化を起こさない限り、あらゆる導電材料を含んでもよい。導電材料の制限ではない例示は、炭素による材料(例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等)、導電性重合体(例えば、ポリフェニレン誘導体)、及びそれらの混合物を含む。
【0086】
負極バインダー
いくつかの実施例において、前記負極合剤層はさらに、負極粘着剤を含む。負極粘着剤は、負極活物質粒子同士の粘着及び負極活物質と集電体との粘着を向上させることができる。負極粘着剤の種類は特に制限されず、電解液又は電極製造時に用いられる溶媒に対して安定な材料であればよい。
【0087】
負極粘着剤の実例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、芳香族ポリアミド、ポリイミド、セルロース、ニトロセルロースなどの樹脂系高分子;スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、エチレン-プロピレンゴムなどのゴム状高分子;スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体又はその水素化物;エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体又はそれらの水素化物などの熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体などの軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体などのフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(例えば、リチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等を含むが、それらに限定されない。上記の負極粘着剤は単独で、又は任意に組み合わせて使用してもよい。
【0088】
いくつかの実施例において、負極合剤層の総重量に対して、前記負極バインダーの含有量は0.1wt%超、0.5wt%超、又は0.6wt%超である。いくつかの実施例において、負極合剤層の総重量に対して、前記負極バインダーの含有量は20wt%未満、15wt%未満、10wt%未満、又は8wt%未満である。いくつかの実施例において、前記負極バインダーの含有量は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。負極バインダーの含有量が上記の範囲にある場合、電気化学装置の容量及び負極の強度を十分に保証することができる。
【0089】
負極合剤層がゴム状高分子(例えば、SBR)を含有する場合、いくつかの実施例において、負極合剤層の総重量に対して、前記負極バインダーの含有量は0.1wt%超、0.5wt%超、又は0.6wt%超である。いくつかの実施例において、負極合剤層の総重量に対して、前記負極バインダーの含有量は5wt%未満、3wt%未満、又は2wt%未満である。いくつかの実施例において、負極合剤層の総重量に対して、前記負極バインダーの含有量は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0090】
負極合剤層がフッ素系高分子(例えば、ポリフッ化ビニリデン)を含有する場合、いくつかの実施例において、負極合剤層の総重量に対して、前記負極バインダーの含有量は1wt%超、2wt%超、又は3wt%超である。いくつかの実施例において、負極合剤層の総重量に対して、前記負極バインダーの含有量は15wt%未満、10wt%未満、又は8wt%未満である。負極合剤層の総重量に対して、前記負極バインダーの含有量は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0091】
溶媒
負極スラリーを形成するための溶媒の種類は特に制限されず、負極活物質、負極バインダー、並びに必要に応じて用いられた増粘剤及び導電材料を溶解又は分散させることができる溶媒であればよい。いくつかの実施例において、負極スラリーを形成するための溶媒は、水系溶媒及び有機系溶媒のいずれか一種を使用してもよい。水系溶媒の実例は、水、アルコールなどを含むが、それらに限定されない。有機系溶媒の実例は、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等を含むが、それらに限定されない。上記の溶媒は単独で、又は任意に組み合わせて使用してもよい。
【0092】
増粘剤
増粘剤は、通常、負極スラリーの粘度を調整するために使用されるものである。増粘剤の種類は特に制限されず、その実例は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化デンプン、リン酸化デンプン、カゼイン及びそれらの塩を含むが、それらに限定されない。上記の増粘剤は単独で、又は任意に組み合わせて使用してもよい。
【0093】
いくつかの実施例において、負極合剤層の総重量に対して、前記増粘剤の含有量は0.1wt%超、0.5wt%超、又は0.6wt%超である。いくつかの実施例において、負極合剤層の総重量に対して、前記増粘剤の含有量は5wt%未満、3wt%未満、又は2wt%未満である。増粘剤の含有量が上記の範囲内にある場合、電気化学装置の容量の低下及び抵抗の増加を抑制することができるとともに、負極スラリーが良好な塗布性を有することを確保することができる。
【0094】
(9)表面被覆
いくつかの実施例において、負極合剤層は表面にその組成と異なる物質を付着してもよい。負極合剤層の表面付着物質の実例は、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどの酸化物;硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩;炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等を含むが、それらに限定されない。
【0095】
(10)負極活物質の含有量
いくつかの実施例において、負極合剤層の総重量に対して、負極活物質の含有量は80wt%超、82wt%超、又は84wt%超である。いくつかの実施例において、負極合剤層の総重量に対して、負極活物質の含有量は99wt%未満、又は、98wt%未満である。いくつかの実施例において、負極合剤層の総重量に対して、負極活物質の含有量は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0096】
(11)負極活物質の密度
いくつかの実施例において、負極合剤層における負極活物質の密度は1g/cm超、1.2g/cm超、又は1.3g/cm超である。いくつかの実施例において、負極合剤層における負極活物質の密度は2.2g/cm未満、2.1g/cm未満、2.0g/cm未満、又は1.9g/cm未満である。いくつかの実施例において、負極合剤層における負極活物質の密度は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0097】
負極活物質の密度が上記の範囲内にある場合、負極活物質粒子の破壊を防止することができ、電気化学装置の初期不可逆容量の増加又は負極集電体/負極活物質界面付近で電解液の浸透性が低下することによる高電流密度充放電特性の劣化を抑制することができ、さらに、電気化学装置の容量の低下及び抵抗の増加を抑制することができる。
【0098】
2、負極集電体
負極活物質を保持するための集電体として、任意の公知の集電体が用いられる。負極集電体の実例は、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルめっき鋼等の金属材料を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、負極集電体は銅である。
【0099】
負極集電体が金属材料である場合、負極集電体の形態は、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、負極集電体は金属薄膜である。いくつかの実施例において、負極集電体は銅箔である。いくつかの実施例において、負極集電体は、圧延法による圧延銅箔又は電解法による電解銅箔である。
【0100】
いくつかの実施例において、負極集電体の厚さは1μm超、又は5μm超である。いくつかの実施例において、負極集電体の厚さは100μm未満、又は50μm未満である。いくつかの実施例において、負極集電体の厚さは、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0101】
負極集電体と負極合剤層との厚さ比とは、電解液が注入される前の片面の負極合剤層の厚さと負極集電体の厚さとの比を指し、その数値は特に限制されない。いくつかの実施例において、負極集電体と負極合剤層との厚さの比は150未満、20未満、又は10未満である。いくつかの実施例において、負極集電体と負極合剤層との厚さの比は0.1超、0.4超、又は、1超である。いくつかの実施例において、負極集電体と負極合剤層との厚さの比は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。負極集電体と負極合剤層との厚さの比が上記の範囲内にある場合、電気化学装置の容量を確保することができるとともに、高電流密度充放電時の負極集電体の放熱を抑制することができる。
【0102】
II、電解液
本発明の電気化学装置に使用される電解液は電解質及び当該電解質を溶解させる溶媒を含む。いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置に使用される電解液はさらに、添加剤を含む。
【0103】
本発明の電気化学装置の一つの主な特徴は、前記電解液が、リンと酸素を有する化合物を含むことにある。
【0104】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記電解液の総重量に対して、前記リンと酸素を有する化合物の含有量は、0.001wt%~10wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記リンと酸素を有する化合物の含有量は、0.005wt%~8wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記リンと酸素を有する化合物の含有量は、0.01wt%~5wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記リンと酸素を有する化合物の含有量は、0.05wt%~3wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記リンと酸素を有する化合物の含有量は、0.1wt%~2wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記リンと酸素を有する化合物の含有量は、0.5wt%~1wt%である。
【0105】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記電解液は、
(a)モノフルオロリン酸リチウムと、
(b)ジフルオロリン酸リチウムと、
(c)リン酸エステルと、
(d)ホスホン酸環状無水物と、
(e)式1で示される化合物と、
のうちの少なくとも一種を含み、
【化4】
ここで、Rは置換又は無置換のC-C10炭化水素基であり、置換の場合、置換基はハロゲン基である。
【0106】
(a)モノフルオロリン酸リチウム
いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記モノフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.001wt%~10wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記モノフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.005wt%~8wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記モノフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.01wt%~5wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記モノフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.05wt%~3wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記モノフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.1wt%~2wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記モノフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.5wt%~1wt%である。
【0107】
(b)ジフルオロリン酸リチウム
いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.001wt%~10wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.005wt%~8wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.01wt%~5wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.05wt%~3wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.1wt%~2wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は、0.5wt%~1wt%である。
【0108】
(c)リン酸エステル
本発明のいくつかの実施例によれば、前記リン酸エステルは式2を有し、
【化5】
式2
ここで、Xは1~5個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐アルキル基、又は-SiRであり、ここで、R、R及びRはそれぞれ独立して1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、且つ、
は、2~3個の炭素原子を有し、且つ以下の置換基で置換されたアルキレン基であり、前記置換基は、少なくとも1つのフッ素原子、または、少なくとも1つのフッ素原子を含み、且つ1~3個の炭素原子を有するアルキル基である。
【0109】
本発明のいくつかの実施例によれば、式2において、Xは-SiRであり、Rは、2~3個の炭素原子を有し、且つ以下の置換基で置換されたアルキレン基であり、前記置換基は、少なくとも1つのフッ素原子、または、少なくとも1つのフッ素原子を含み、且つ1~3個の炭素原子を有するアルキル基である。
【0110】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記式2で示される化合物は、式2a~式2hで示される化合物のうちの少なくとも一種である。
【化6】
【0111】
本発明のいくつかの実施例によれば、前記電解液の総重量に対して、前記式2で示される化合物の含有量は、0.001wt%~10wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式2で示される化合物の含有量は、0.005wt%~9wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式2で示される化合物の含有量は、0.01wt%~8wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式2で示される化合物の含有量は、0.05wt%~7wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式2で示される化合物の含有量は、0.1wt%~6wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式2で示される化合物の含有量は、0.5wt%~5wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式2で示される化合物の含有量は、1wt%~4wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式2で示される化合物の含有量は、2wt%~3wt%である。
【0112】
(d)ホスホン酸環状無水物
いくつかの実施例において、前記ホスホン酸環状無水物は、式3で示される化合物の一種又は多種を含む。
【化7】
ここで、R10、R11及びR12は、それぞれ独立して水素原子、C1-20アルキル基(例えば、C1-15アルキル基、C1-10アルキル基、C1-5アルキル基、C5-20アルキル基、C5-15アルキル基、C5-10アルキル基)、C6-50アリール基(例えば、C6-30アリール基、C6-26アリール基、C6-20アリール基、C10-50アリール基、C10-30アリール基、C10-26アリール基、又はC10-20アリール基)であり、ここで、R10、R11及びR12は、それぞれ異なっても、同様でも、又は任意の両者が同様であってもよい。
【0113】
いくつかの実施例において、前記ホスホン酸環状無水物は、以下化合物を含むが、それらに限定されない。
【化8】
【化9】
【0114】
いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記ホスホン酸環状無水物の含有量は、0.01wt%~10wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記ホスホン酸環状無水物の含有量は、0.05wt%~8wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記ホスホン酸環状無水物の含有量は、0.1wt%~5wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記ホスホン酸環状無水物の含有量は、0.5wt%~3wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記ホスホン酸環状無水物の含有量は、1wt%~2wt%である。
【0115】
(e)式1で示される化合物
本発明のいくつかの実施例によれば、前記式1で示される化合物は、以下の構造式のうちの少なくとも一種を含む。
【化10】
【0116】
いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、0.01wt%~15wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、0.05wt%~12wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、0.1wt%~10wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、0.5wt%~8wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、1wt%~5wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記式1で示される化合物の含有量は、2wt%~4wt%である。
【0117】
溶媒
いくつかの実施例において、前記電解液は、さらに先行技術で既知されたいずれの電解液の溶媒として用いられる非水溶媒を含む。
【0118】
いくつかの実施例において、前記非水溶媒は、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、リン含有有機溶媒、硫黄含有有機溶媒、及び芳香族フッ素含有溶媒の一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0119】
いくつかの実施例において、前記環状炭酸エステルの実例は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、及びブチレンカーボネートのうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例においては、前記環状炭酸エステルは、3~6個の炭素原子を有する。
【0120】
いくつかの実施例において、前記鎖状炭酸エステルの実例は、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルn-プロピルカーボネート、エチルn-プロピルカーボネート、ジn-プロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステル等のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。フッ素に置換された鎖状炭酸エステルの実例は、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロメチル)カーボネート、ビス(トリスフルオロメチル)カーボネート、ビス(2-フルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、2-フルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、及び2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート等のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0121】
いくつかの実施例において、前記環状カルボン酸エステルの実例は、γ-ブチロラクトン、及びγ-バレロラクトンのうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、環状カルボン酸エステルの水素原子の一部はフッ素で置換されてもよい。
【0122】
いくつかの実施例において、前記鎖状カルボン酸エステルの実例は、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、ピバル酸メチル、及びピバル酸エチル等のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、鎖状カルボン酸エステルの水素原子の一部はフッ素で置換されてもよい。いくつかの実施例において、フッ素で置換された鎖状カルボン酸エステルの実例は、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸プロピル、トリフルオロ酢酸ブチル、及びトリフルオロ酢酸2,2,2-トリフルオロエチルなどを含むが、それらに限定されない。
【0123】
いくつかの実施例において、前記環状エーテルの実例は、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、2-メチル1,3-ジオキソラン、4-メチル1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、及びジメトキシプロパンのうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0124】
いくつかの実施例において、前記鎖状エーテルの実例は、ジメトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン、1,2-ジメトキシエタン、ジエトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシメタン、1,1-エトキシメトキシエタン、及び1,2-エトキシメトキシエタンなどのうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0125】
いくつかの実施例において、前記リン含有有機溶媒の実例は、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸ジメチルエチル、リン酸メチルジエチル、リン酸エチレンメチル、リン酸エチレンエチル、リン酸トリフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)、及びリン酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)等のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0126】
いくつかの実施例において、前記硫黄含有有機溶媒の実例は、スルホラン、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルプロピルスルホン、ジメチルスルホキシド、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、エタンスルホン酸メチル、エタンスルホン酸エチル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、及び硫酸ジブチルのうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、硫黄含有有機溶媒の水素原子の一部はフッ素で置換されてもよい。
【0127】
いくつかの実施例において、前記芳香族フッ素含有溶媒は、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、及びトリフルオロメチルベンゼンのうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0128】
いくつかの実施例において、本発明の電解液に使用される溶媒は、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、及びそれらの組み合せを含む。いくつかの実施例において、本発明の電解液に使用される溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸n-プロピル、酢酸エチル、及びそれらの組み合せ、からなる群から選択された有機溶媒を含む。いくつかの実施例において、本発明の電解液に使用される溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、及びそれらの組み合せを含む。
【0129】
電解液に鎖状カルボン酸エステル及び/又は環状カルボン酸エステルを入れた後、鎖状カルボン酸エステル及び/又は環状カルボン酸エステルは電極の表面にパッシベーション膜を形成し、それによって、電気化学装置の断続的な充電サイクル後の容量維持率を向上させる。いくつかの実施例において、前記電解液は1wt%~60wt%の鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、及びそれらの組み合わせを含有する。いくつかの実施例において、前記電解液は、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、及びそれらの組み合わせを含有し、電解液の総重量に対して、その組み合わせの含有量は1wt%~60wt%、10wt%~60wt%、10wt%~50wt%、20wt%~50wt%である。いくつかの実施例において、電解液の総重量に対して、前記電解液は1wt%~60wt%、10wt%~60wt%、20wt%~50wt%、20wt%~40wt%、又は30wt%のプロピオン酸プロピルを含有する。
【0130】
添加剤
いくつかの実施例において、前記添加剤の実例は、フッ素化炭酸エステル、炭素炭素二重結合を含む炭酸ビニルエステル、硫黄酸素二重結合を含む化合物及び酸無水物のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0131】
いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対して、前記添加剤の含有量は、0.01wt%~15wt%、0.1wt%~10wt%、又は1wt%~5wt%である。
【0132】
本発明の実施例によれば、前記電解液の総重量に対して、前記プロピオン酸エステルの含有量は、前記添加剤の1.5~30倍、1.5~20倍、2~20倍、又は5-20倍である。
【0133】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、一種又は多種のフッ素化炭酸エステルを含む。リチウムイオン電池が充電/放電の場合、フッ素化炭酸エステルは、プロピオン酸エステルとともに負極の表面上に安定な保護膜を形成し、それによって、電解液の分解反応を抑制する。
【0134】
いくつかの実施例において、前記フッ素化炭酸エステルは式C=O(OR)(OR)で示される構造を有し、ここで、R及びRはそれぞれ1~6個の炭素原子を有するアルキル基又はハロアルキル基から選択され、R及びRのうちの少なくとも一つは1~6個の炭素原子を有するハロアルキル基から選択され、且つR及びRは、任意にそれらがつながる原子とともに5員~7員環を形成する。
【0135】
いくつかの実施例において、前記フッ素化炭酸エステルの実例は、フルオロエチレンカーボネート、シス4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、トランス4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、及びトリフルオロエチルエチルカーボネート等のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0136】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、一種又は多種の炭素炭素二重結合を含む炭酸ビニルエステルを含む。前記炭素炭素二重結合を含む炭酸ビニルエステルの実例は、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルエチレンカーボネート、1,2-ジメチルエチレンカーボネート、1,2-ジエチルエチレンカーボネート、フルオロビニレンカーボネート、トリフルオロメチルビニレンカーボネート;ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-n-プロピル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1,1-ジビニルエチレンカーボネート、1,2-ジビニルエチレンカーボネート、1,1-ジメチル-2-メチレンエチレンカーボネート、及び1,1-ジエチル-2-メチレンエチレンカーボネート等のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、前記炭素炭素二重結合を含む炭酸ビニルエステルは、獲得の易さ及びより優れた効果が実現できることから、ビニレンカーボネートを含む。
【0137】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、一種又は多種の硫黄酸素二重結合を含む化合物を含む。前記硫黄酸素二重結合を含む化合物の実例は、環状硫酸エステル、鎖状硫酸エステル、鎖状スルホン酸エステル、環状スルホン酸エステル、鎖状亜硫酸エステル、及び環状亜硫酸エステル等のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0138】
前記環状硫酸エステルの実例は、1,2-エチレンスルフェート、1,2-プロピレンスルフェート、1,3-プロピレンスルフェート、1,2-ブチレンスルフェート、1,3-ブチレンスルフェート、1,4-ブチレンスルフェート、1,2-ペンチレンスルフェート、1,3-ペンチレンスルフェート、1,4-ペンチレンスルフェート及び1,5-ペンチレンスルフェートなどのうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0139】
前記鎖状硫酸エステルの実例は、ジメチルスルフェート、エチルメチルスルフェート及びジエチルスルフェートなどのうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0140】
前記鎖状スルホン酸エステルの実例は、フルオロスルホン酸メチル、及びフルオロスルホン酸エチル等のフルオロスルホン酸エステル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、ジメタンスルホン酸ブチル、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸メチル、及び2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸エチル等のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0141】
前記環状スルホン酸エステルの実例は、1,3-プロパンスルトン、1-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、2-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、1-メチル-1,3-プロパンスルトン、2-メチル-1,3-プロパンスルトン、3-メチル-1,3-プロパンスルトン、1-プロペン-1,3-スルトン、2-プロペン-1,3-スルトン、1-フルオロ-1-プロペン-1,3-スルトン、2-フルオロ-1-プロペン-1,3-スルトン、3-フルオロ-1-プロペン-1,3-スルトン、1-フルオロ-2-プロペン-1,3-スルトン、2-フルオロ-2-プロペン-1,3-スルトン、3-フルオロ-2-プロペン-1,3-スルトン、1-メチル-1-プロペン-1,3-スルトン、2-メチル-1-プロペン-1,3-スルトン、3-メチル-1-プロペン-1,3-スルトン、1-メチル-2-プロペン-1,3-スルトン、2-メチル-2-プロペン-1,3-スルトン、3-メチル-2-プロペン-1,3-スルトン、1,4-ブタンスルトン、1,5-ペンタンスルトン、メタンジスルホン酸メチレン、及びメタンジスルホン酸エチレン等のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0142】
前記鎖状亜硫酸エステルの実例は、ジメチルスルファイト、エチルメチルスルファイト及びジエチルスルファイトなどのうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0143】
前記環状亜硫酸エステルの実例は、1,2-エチレンスルファイト、1,2-プロピレンスルファイト、1,3-プロピレンスルファイト、1,2-ブチレンスルファイト、1,3-ブチレンスルファイト、1,4-ブチレンスルファイト、1,2-ペンチレンスルファイト、1,3-ペンチレンスルファイト、1,4-ペンチレンスルファイト及び1,5-ペンチレンスルファイトなどのうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0144】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、一種又は多種の酸無水物を含む。前記酸無水物の実例は、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物、及びカルボン酸スルホン酸無水物のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。前記カルボン酸無水物の実例は、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、及びマレイン酸無水物のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。前記ジスルホン酸無水物の実例は、エタンジスルホン酸無水物、及びプロパンジスルホン酸無水物のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。前記カルボン酸スルホン酸無水物の実例は、スルホ安息香酸無水物、スルホプロピオン酸無水物、及びスルホ酪酸無水物のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。
【0145】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルと炭素炭素二重結合を含む炭酸ビニルエステルとの組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルと硫黄酸素二重結合を含む化合物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルと2-4個のシアノ基を有する化合物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルと環状カルボン酸エステルとの組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルとホスホン酸環状無水物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルとカルボン酸無水物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルとスルホン酸無水物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フッ素化炭酸エステルとカルボン酸スルホン酸無水物との組み合わせである。
【0146】
電解質
電解質は、特に制限されず、任意に電解質として公知されたものを用いてもよい。リチウム二次電池の場合、通常、リチウム塩が用いられる。電解質の実例は、LiPF、LiBF、LiClO、LiAlF、LiSbF、LiTaF、LiWF等の無機リチウム塩;LiWOF等のタングステン酸リチウム類;HCOLi、CHCOLi、CHFCOLi、CHFCOLi、CFCOLi、CFCHCOLi、CFCFCOLi、CFCFCFCOLi、CFCFCFCFCOLi等のカルボン酸リチウム塩類;FSOLi、CHSOLi、CHFSOLi、CHFSOLi、CFSOLi、CFCFSOLi、CFCFCFSOLi、CFCFCFCFSOLi等のスルホン酸リチウム塩類;LiN(FCO)、LiN(FCO)(FSO)、LiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンビススルホンイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンビススルホンイミド、LiN(CFSO)(CSO)等のイミドリチウム塩類;LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO等のリチウムメチラート塩類;リチウムビス(マロネート)ボレート、リチウムジフルオロ(マロネート)ボレート等のリチウム(マロナト)ボレート塩類;リチウムトリス(マロネート)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(マロネート)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(マロネート)ホスフェート等のリチウム(マロナト)ホスフェート塩類;及び、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CFSO、LiPF(CSO、LiBFCF、LiBF、LiBF、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(CFSO、LiBF(CSO等のフッ素含有有機リチウム塩類;リチウムジフルオロオキサレートボレート、リチウムビス(オキサレート)ボレート等のリチウムオキサラトボレート塩類;リチウムテトラフルオロオキサレートホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサレート)ホスフェート、リチウムトリス(オキサレート)ホスフェート等のリチウム(オキサラト)ホスフェート塩類等を含むが、それらに限定されない。
【0147】
いくつかの実施例において、電解質は、電気化学装置の出力パワー特性、高レート充放電特性、高温保存特性、及びサイクル特性等の改善に寄与することから、LiPF、LiSbF、LiTaF、FSOLi、CFSOLi、LiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンビススルホンイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンビススルホンイミド、LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiBFCF、LiBF、LiPF(CF、LiPF(C、リチウムジフルオロオキサレートボレート、リチウムビス(オキサレート)ボレート、及びリチウムジフルオロビス(オキサレート)ホスフェートから選択される。
【0148】
電解質の含有量は、本発明の効果を損なわない限り、特に制限されない。いくつかの実施例において、電解液におけるリチウムの合計モル濃度は、0.3mol/L以上超、0.4mol/L超、又は0.5mol/L超である。いくつかの実施例において、電解液におけるリチウムの合計モル濃度は、3mol/L未満、2.5mol/L未満、又は2.0mol/L以下未満である。いくつかの実施例において、電解液におけるリチウムの合計モル濃度は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。電解質の濃度が上記の範囲内にある場合、荷電粒子としてのリチウムの量が十分となり、また、粘度を適切な範囲にすることができるため、良好な導電率を確保しやすい。
【0149】
二種以上の電解質を使用した場合、電解質は、ホウ酸塩、シュウ酸塩、及びフルオロスルホン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種の塩を含む。いくつかの実施例において、電解質は、シュウ酸塩、及びフルオロスルホン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種の塩を含む。いくつかの実施例において、電解質は、リチウム塩を含む。いくつかの実施例において、電解質の総重量に対して、ホウ酸塩、シュウ酸塩、及びフルオロスルホン酸塩からなる群から選択される塩の含有量は、0.01wt%超、又は0.1wt%超である。いくつかの実施例において、電解質の総重量に対して、ホウ酸塩、シュウ酸塩、及びフルオロスルホン酸塩からなる群から選択される塩の含有量は、20wt%未満、又は10wt%未満である。いくつかの実施例において、ホウ酸塩、シュウ酸塩、及びフルオロスルホン酸塩からなる群から選択される塩の含有量は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0150】
いくつかの実施例において、電解質は、ホウ酸塩、シュウ酸塩、及びフルオロスルホン酸塩からなる群から選択される一種以上のもの、並びにそれ以外の一種以上の塩を含む。それ以外の塩として、上記で例示されたリチウム塩が挙げられ、いくつかの実施例において、その他の塩は、LiPF、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンビススルホンイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンビススルホンイミド、LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiBFCF、LiBF、LiPF(CF、LiPF(Cである。いくつかの実施例において、それ以外の塩は、LiPFである。
【0151】
いくつかの実施例において、電解質の総重量に対して、それ以外の塩の含有量は、0.01wt%超、又は0.1wt%超である。いくつかの実施例において、電解質の総重量に対して、それ以外の塩の含有量は、20wt%未満、15wt%未満、又は10wt%未満である。いくつかの実施例において、それ以外の塩の含有量は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。上記の含有量を有するのそれ以外の塩は、電解液の導電率と粘度とのバランスに寄与する。
【0152】
電解液において、上記の溶媒、添加剤、及び電解質塩に加えて、必要に応じて、負極被膜形成剤、正極保護剤、過充電防止剤等の追加添加剤を含有してもよい。添加剤として、通常、非水電解質の二次電池にて使用される添加剤を使用してもよく、その実例は、ビニレンカーボネート、コハク酸無水物、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、2,4-ジフルオロアニソール、プロパンスルトン、プロペンスルトン等を含むが、それらに限定されない。それらの添加剤は、単独で、又は任意に組み合わせて使用してもよい。なお、電解液中のそれらの添加剤の含有量は、特に制限されず、当該添加剤の種類等に応じて、適宜に設定すればよい。いくつかの実施例において、電解液の総重量に対して、添加剤の含有量は、5wt%未満、0.01wt%~5wt%の範囲内にあり、又は0.2wt%~5wt%の範囲内にある。
【0153】
III、正極
正極は、正極集電体、及び前記正極集電体の一つ又は二つの表面上に配置される正極合剤層を含む。
【0154】
1、正極合剤層
正極合剤層は、正極活物質層を含み、前記正極活物質層は、正極活物質を含む。前記正極活物質層は、単層、又は複層であってもよい。複層正極活物質における各層は、同様な、又は異なる正極活物質を含んでもよい。正極活物質は、任意のリチウムイオンなどの金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるものである。
【0155】
正極活物質の種類は、特に制限されず、電気化学的に金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸藏及び放出することができればよい。いくつかの実施例において、正極活物質は、リチウム及び少なくとも一種の遷移金属を含むものである。正極活物質の実例は、リチウム遷移金属複合酸化物、及びリチウム含有遷移金属リン酸化合物を含むが、それらに限定されない。
【0156】
いくつかの実施例において、リチウム遷移金属複合酸化物における遷移金属は、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等を含む。いくつかの実施例において、リチウム遷移金属複合酸化物は、LiCoO等のリチウムコバルト複合酸化物、LiNiO等のリチウムニッケル複合酸化物、LiMnO、LiMn、LiMnO等のリチウムマンガン複合酸化物、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.5Mn0.3Co0.2等のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を含み、ここで、それらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体としての遷移金属原子の一部が、Na、K、B、F、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Nb、Mo、Sn、W等のその他の元素で置換される。リチウム遷移金属複合酸化物の実例は、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi0.33Co0.33Mn0.33、LiNi0.45Co0.10Al0.45、LiMn1.8Al0.2、及びLiMn1.5Ni0.5等を含むが、それらに限定されない。リチウム遷移金属複合酸化物の組み合わせの実例は、LiCoOとLiMnとの組み合わせを含むが、それらに限定されず、ここで、LiMnにおけるMnの一部は、遷移金属で置換されてもよく(例えば、LiNi0.33Co0.33Mn0.33)、LiCoOにおけるCoの一部は、遷移金属で置換されてもよい。
【0157】
いくつかの実施例において、リチウム含有遷移金属リン酸化合物における遷移金属は、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等を含む。いくつかの実施例において、リチウム含有遷移金属リン酸化合物は、LiFePO、LiFe(PO、LiFeP等のリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類を含み、ここで、それらのリチウム含有遷移金属リン酸化合物の主体のとしての遷移金属原子の一部が、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等のその他の元素で置換される。
【0158】
いくつかの実施例において、正極活物質は、電気化学装置の連続充電特性を向上させることができるリン酸リチウムを含む。リン酸リチウムの使用は制限されない。いくつかの実施例において、正極活物質とリン酸リチウムとが混合して使用される。いくつかの実施例において、上記の正極活物質とリン酸リチウムとの総重量に対して、リン酸リチウムの含有量は、0.1wt%超、0.3wt%超、又は0.5wt%超である。いくつかの実施例において、上記の正極活物質とリン酸リチウムとの総重量に対して、リン酸リチウムの含有量は、10wt%未満、8wt%未満、又は5wt%未満である。いくつかの実施例において、リン酸リチウムの含有量は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0159】
表面被覆
上記の正極活物質の表面には、正極活物質とは異なる組成の物質が付着していてもよい。表面付着物質の実例は、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどの酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩等を含むが、それらに限定されない。
【0160】
これらの表面付着物質は、表面付着物質を溶媒に溶解又は懸濁させることにより、正極活物質に含浸添加し、そして乾燥する方法;表面付着物質の前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させ、正極活物質に含浸添加した後、加熱等により反応させる方法;及び正極活物質の前駆体に添加して同時に焼成する方法などの方法により、正極活物質の表面に付着させることができる。炭素を付着させる場合、炭素材料(例えば、活性炭等)を機械的に付着させる方法を使用してもよい。
【0161】
いくつかの実施例において、正極合剤層の総重量に対して、表面付着物質の含有量は、0.1ppm超、1ppm超、又は10ppm超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の総重量に対して、表面付着物質の含有量は、20%未満、10%未満、又は10%未満である。いくつかの実施例において、正極合剤層の総重量に対して、表面付着物質の含有量は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0162】
正極活物質の表面付着物質により、正極活物質の表面における電解液の酸化反応を抑制することができ、電気化学装置の寿命を向上させることができる。表面付着物質の量が少なすぎると、その効果は十分に発揮することができない。表面付着物質の量が多すぎると、リチウムイオンの出入りが妨害されることにより、抵抗が増加することがある。
【0163】
本発明において、正極活物質の表面に正極活物質とは異なる組成の物質が付着しているものも、「正極活物質」と称される。
【0164】
形状
いくつかの実施例において、正極活物質粒子の形状は、塊状、多面体状、球状、楕円体状、板状、針状、及び柱状等を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、正極活物質粒子は、一次粒子、二次粒子、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施例において、一次粒子は凝集して二次粒子を形成してもよい。
【0165】
タップ密度
いくつかの実施例において、正極活物質のタップ密度は、0.5g/cm超、0.8g/cm超、又は1.0g/cm超である。正極活物質のタップ密度が上記の範囲内にある場合、正極合剤層が形成する時に必要とされる分散媒体の量並びに導電材料及び正極粘着剤の必要量を抑制することができ、それによって、正極活物質の充填率及び電気化学装置の容量を確保することができる。タップ密度の高い複合酸化物粉体を使用することで、密度の高い正極合剤層を形成することができる。タップ密度は、通常、大きいほど好ましく、上限は特にない。いくつかの実施例において、正極活物質のタップ密度は、4.0g/cm未満、3.7g/cm未満、又は3.5g/cm未満である。正極活物質のタップ密度は、上記の上限を有する場合、負荷特性の低下を抑制することができる。
【0166】
正極活物質のタップ密度は、正極活物質粉体5g~10gを10mLのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク20mmで200回タップした時の粉体充填密度(タップ密度)として求める。
【0167】
メディアン径(D50)
正極活物質粒子が一次粒子である場合、正極活物質粒子のメディアン径(D50)とは、正極活物質粒子の一次粒子径を指す。正極活物質粒子の一次粒子が凝集し、二次粒子になる場合、正極活物質粒子のメディアン径(D50)とは、正極活物質粒子の二次粒子径を指す。
【0168】
いくつかの実施例において、正極活物質粒子のメディアン径(D50)は、0.3μm超、0.5μm超、0.8μm超、又は1.0μm超である。いくつかの実施例において、正極活物質粒子のメディアン径(D50)は30μm未満、27μm未満、25μm未満、又は22μm未満である。いくつかの実施例において、正極活物質粒子のメディアン径(D50)は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。正極活物質粒子のメディアン径(D50)が上記の範囲内にある場合、タップ密度の高い正極活物質が得られ、電気化学装置の性能の低下を抑制することができる。一方、電気化学装置の正極の調製過程で(即ち、正極活物質、導電材料、及びバインダー等を溶媒でスラリー化し、フィルム状に塗布される場合)、スジが発生するなどの問題を防ぐことができる。ここで、異なるメディアン径を有する二種以上の正極活物質を混合することで、正極調製時の充填性をさらに向上させることができる。
【0169】
正極活物質粒子のメディアン径(D50)は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で測定することができる。粒度分布計としてHORIBA社製のLA-920を用いる場合、0.1wt%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を測定時に使用される分散媒体とし、5分間の超音波分散させた後に、測定屈折率を1.24に設定して測定する。
【0170】
平均一次粒子径
正極活物質粒子の一次粒子が凝集して二次粒子を形成する場合、いくつかの実施例において、正極活物質の平均一次粒子径は、0.05μm超、0.1μm超、又は0.5μm超である。いくつかの実施例において、正極活物質の平均一次粒子径は、5μm未満、4μm未満、3μm未満、又は2μm未満である。いくつかの実施例において、正極活物質の平均一次粒子径は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。正極活物質の平均一次粒子径が上記の範囲内にある場合、粉体の充填性及び比表面積を確保し、電池性能の低下を抑制し、適度の結晶性を得ることができ、それによって、電気化学装置の充放電の可逆性を確保することができる。
【0171】
正極活物質の平均一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)によって得られた画像を観察することで得られる。倍率が10000倍のSEM画像において、任意の50個の一次粒子について、水平方向の直線に対する一次粒子の左右の境界線による切片の最長値を求め、それらの平均値を求めることで、平均一次粒子径が得られる。
【0172】
比表面積(BET)
いくつかの実施例において、正極活物質の比表面積(BET)は、0.1m/g超、0.2m/g超、又は0.3m/g超である。いくつかの実施例において、正極活物質の比表面積(BET)は、50m/g未満、40m/g未満、又は30m/g未満である。いくつかの実施例において、正極活物質の比表面積(BET)は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。正極活物質の比表面積(BET)が上記の範囲内にある場合、電気化学装置の性能を確保することができるとともに、正極活物質を良好な塗布性を有するようにすることができる。
【0173】
正極活物質の比表面積(BET)は、以下の方法により測定することができる。表面積計(例えば、大倉理研製全自動表面積測定装置)を使用し、窒素ガス流通下で、150℃にて、試料に30分間の予備乾燥を行い、そして窒素ガスの大気圧に対する相対圧力値を0.3に正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを使用し、ガス流動法による窒素吸着BET1点法で測定する。
【0174】
正極導電材料
正極導電材料の種類は制限されず、いずれの既知の導電材料を使用してもよい。正極導電材料の実例は、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;アセチレンブラック等のカーボンブラック;ニードルコークス等のアモルファスカーボン等の炭素材料;カーボンナノチューブ;グラフェン等を含むが、それらに限定されない。上記の正極導電材料は、単独で、又は任意に組み合わせて使用してもよい。
【0175】
いくつかの実施例において、正極合剤層の総重量に対して、正極導電材料の含有量は、0.01wt%超、0.1wt%超、又は1wt%超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の総重量に対して、正極導電材料の含有量は、50wt%未満、30wt%以下未満、又は15wt%未満である。正極導電材料の含有量が上記の範囲内にある場合、導電性及び電気化学装置の容量を十分に確保することができる。
【0176】
正極バインダー
正極合剤層の製造中に使用された正極バインダーの種類は、特に制限されず、塗布法の場合、電極製造時に使用される液体媒体に溶解又は分散できる材料であればよい。正極バインダーの実例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体又はその水素化物、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スチレン-エチレン-ブタジエン-エチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体又はその水素化物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体などの軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン-エチレン共重合体などのフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特に、リチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等のうちの一種又は多種を含むが、それらに限定されない。上記の正極バインダーは、単独で、又は任意に組み合わせて使用してもよい。
【0177】
いくつかの実施例において、正極合剤層の総重量に対して、正極バインダーの含有量は、0.1wt%超、1wt%超、又は1.5wt%超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の総重量に対して、正極バインダーの含有量は、80wt%未満、60wt%未満、40wt%未満、又は10wt%未満である。正極バインダーの含有量が上記の範囲内にある場合、正極を良好な導電性及び十分な機械的強度を有するようにし、そして電気化学装置の容量を保証することができる。
【0178】
溶媒
正極スラリーを形成するための溶媒の種類は特に制限されず、正極活物質、導電材料、正極バインダー、及び必要に応じて用いられた増粘剤を溶解又は分散させることができる溶媒であればよい。正極スラリーを形成するための溶媒の実例は、水系溶媒及び有機系溶媒のいずれか一種を含んでもよい。水系媒体の実例は、水、及びアルコールと水との混合媒体等を含むが、それらに限定されない。有機系媒体の実例は、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジンなどの複素環化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチル等のエステル類;ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン等のアミン類;ジエチルエーテル、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等を含むが、それらに限定されない。
【0179】
増粘剤
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調整するために使用されるものである。水系媒体を使用する場合、増粘剤及びスチレンブタジエンゴム(SBR)エマルジョンを使用してスラリー化を行うことができる。増粘剤の種類は特に制限されず、その実例は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化デンプン、リン酸化デンプン、カゼイン及びそれらの塩などを含むが、それらに限定されない。上記の増粘剤は単独で、又は任意に組み合わせて使用してもよい。
【0180】
いくつかの実施例において、正極合剤層の総重量に対して、増粘剤の含有量は、0.1wt%超、0.2wt%超、又は0.3wt%超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の総重量に対して、増粘剤の含有量は、5wt%未満、3wt%未満、又は2wt%未満である。いくつかの実施例において、正極合剤層の総重量に対して、増粘剤の含有量は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。増粘剤の含有量が上記の範囲内にある場合、正極スラリーを良好な塗布性を有するようにするとともに、電気化学装置の容量の低下及び抵抗の増加を抑制することができる。
【0181】
正極活物質の含有量
いくつかの実施例において、正極合剤層の総重量に対して、正極活物質の含有量は80wt%超、82wt%超、又は84wt%超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の総重量に対して、正極活物質の含有量は99wt%未満、又は、98wt%未満である。いくつかの実施例において、正極合剤層の総重量に対して、正極活物質の含有量は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。正極活物質の含有量が上記の範囲内にある場合、正極合剤層における正極活物質の電気容量を確保するとともに、正極の強度を維持することができる。
【0182】
正極活物質の密度
塗布、乾燥して得られた正極合剤層に対して、正極活物質の充填密度を高めるために、ハンドプレス又はロールプレスなどにより圧密処理を行ってもよい。いくつかの実施例において、正極合剤層の密度は、1.5g/cm超、2g/cm超、又は2.2g/cm超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の密度は、5g/cm未満、4.5g/cm未満、又は4g/cm未満である。いくつかの実施例において、正極合剤層の密度は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。正極合剤層の密度が上記の範囲内にある場合、電気化学装置を良好な充放電特性を有するようにするとともに、抵抗の増加を抑制することができる。
【0183】
正極合剤層の厚さ
正極合剤層の厚さとは、正極集電体のいずれかの片側における正極合剤層の厚さを指す。いくつかの実施例において、正極合剤層の厚さは、10μm超、又は20μm超である。いくつかの実施例において、正極合剤層の厚さは、500μm未満、又は450μm未満である。
【0184】
正極活物質の製造方法
正極活物質は、無機化合物を製造するための一般的な方法で製造することができる。球状又は楕円体状の正極活物質を製造するために、以下の製造方法を採用することができる。遷移金属の原料物質を水等の溶媒に溶解又は粉砕・分散させ、撹拌しながらpHを調整し、球状の前駆体を製造して回収し、必要に応じてそれを乾燥させた後にLiOH、LiCO、LiNO等のLi源を入れ、高温で焼成し、正極活物質が得られる。
【0185】
2、正極集電体
正極集電体の種類は特に制限されず、いずれの既知の正極集電体として適する材料であってもよい。正極集電体の実例は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、正極集電体は金属材料である。いくつかの実施例において、正極集電体はアルミニウムである。
【0186】
正極集電体の形態は特に制限されない。正極集電体が金属材料である場合、正極集電体の形態は、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等を含むが、それらに限定されない。正極集電体が炭素材料である場合、正極集電体の形態は、炭素板、炭素フィルム、炭素円柱等を含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、正極集電体は金属薄膜である。いくつかの実施例において、前記金属薄膜はメッシュ状である。前記金属薄膜の厚さは、特に制限されない。いくつかの実施例において、前記金属薄膜の厚さは、1μm超、3μm超、又は5μm超である。いくつかの実施例において、前記金属薄膜の厚さは、1mm未満、100μm未満、又は50μm未満である。いくつかの実施例において、前記金属薄膜の厚さは、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。
【0187】
正極集電体と正極合剤層との電子接触抵抗を低減するために、正極集電体の表面は、導電助剤を含んでもよい。導電助剤の実例は、炭素、及び金、白金、銀等の貴金属類を含むが、それらに限定されない。
【0188】
正極集電体と正極合剤層との厚さ比とは、電解液が注入される前の片面の正極合剤層の厚さと正極集電体の厚さとの比を指し、その数値は特に限制されない。いくつかの実施例において、正極集電体と正極合剤層との厚さの比は20未満、15未満、又は10未満である。いくつかの実施例において、正極集電体と正極合剤層との厚さの比は0.5超、0.8超、又は、1超である。いくつかの実施例において、正極集電体と正極合剤層との厚さの比は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。正極集電体と正極合剤層との厚さの比が上記の範囲内にある場合、高電流密度充放電時の正極集電体の放熱を抑制することができ、電気化学装置の容量を確保することができる。
【0189】
3、正極の構成と製造方法
正極は、集電体上に正極活物質及びバインダーを含有する正極合剤層を形成することで製造することができる。正極活物質を使用する正極の制造は、通常の方法で行うことができる。即ち、正極活物質及びバインダー、並びに必要に応じた導電材料及び増粘剤等などを乾式混合し、シート状に形成し、得られたシート状のものを正極集電体上に圧接すること、あるいは、それらの材料を液体媒体に溶解又は分散させ、スラリーを調製し、当該スラリーを正極集電体上に塗布して、乾燥させて集電体上に正極合剤層を形成することにより、正極が得られる。
【0190】
IV、セパレータ
短絡を防止するため、正極と負極との間に、通常、セパレータが配置されている。この場合、本発明の電解液は、通常、当該セパレータに含浸して使用される。
【0191】
セパレータの材料及び形状は、特に限制されず、本発明の効果を著しく損なわなければよい。前記セパレータは、本発明の電解液に対して安定な材料で形成された樹脂、ガラス繊維、無機物等であってもよい。いくつかの実施例において、前記セパレータは、保液性に優れる多孔質シート又は不織布状形態の物質等を含む。樹脂又はガラス繊維であるセパレータの材料の実例は、ポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルターなどを含むが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、前記セパレータの材料はガラスフィルターである。いくつかの実施例において、前記ポリオレフィンは、ポリエチレン又はポリプロピレンである。いくつかの実施例において、前記ポリオレフィンはポリプロピレンである。上記のセパレータの材料は単独で、又は任意に組み合わせて使用してもよい。
【0192】
前記セパレータは、上記の材料を積層してなる材料であってもよく、その実例は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンをこの順に積層してなる三層セパレータ等を含むが、それらに限定されない。
【0193】
無機物の材料の実例は、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、硫酸塩(例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等)を含むが、それらに限定されない。無機物の形態は、粒子状又は繊維状を含むが、それらに限定されない。
【0194】
前記セパレータの形態は、フィルム形態であってもよく、その実例は、不織布、織布、微多孔質フィルム等を含むが、それらに限定されない。フィルム形態において、前記セパレータの孔径は0.01μm~1μmであり、厚さは5μm~50μmである。上記の独立したフィルム状セパレータ以外に、樹脂類の粘着剤を使用して正極及び/又は負極の表面に上記の無機物粒子を含有する複合多孔層を形成してなるセパレータ、例えば、フッ素樹脂を粘着剤とし、90%粒子径が1μm未満である酸化アルミニウム粒子を正極の両面に多孔層を形成させてなるセパレータを使用してもよい。
【0195】
前記セパレータの厚さは任意である。いくつかの実施例において、前記セパレータの厚さは、1μm超、5μm超、又は8μm超である。いくつかの実施例において、前記セパレータの厚さは、50μm未満、40μm未満、又は30μm未満である。いくつかの実施例において、前記セパレータの厚さは、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。前記セパレータの厚さが上記の範囲内にある場合、絶縁性及び機械的強度を確保することができ、電気化学装置のレート特性及びエネルギー密度を確保することができる。
【0196】
セパレータとして、多孔質シート又は不織布等の多孔質材料を用いる場合、セパレータの孔隙率は任意である。いくつかの実施例において、前記セパレータの孔隙率は、20%超、35%超、又は45%超である。いくつかの実施例において、前記セパレータの孔隙率は、90%未満、85%未満、又は75%未満である。いくつかの実施例において、前記セパレータの孔隙率は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。前記セパレータの孔隙率が上記の範囲内にある場合、絶縁性及び機械的強度を確保することができ、セパレータの抵抗を抑制することができ、それによって、電気化学装置が良好なレート特性を有する。
【0197】
前記セパレータの平均孔径も任意である。いくつかの実施例において、前記セパレータの平均孔径は、0.5μm未満、又は0.2μm未満である。いくつかの実施例において、前記セパレータの平均孔径は、0.05μm超である。いくつかの実施例において、前記セパレータの平均孔径は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。前記セパレータの平均孔径が上記の範囲を超えると、短絡が発生しやすい。セパレータの平均孔径が上記の範囲内にある場合、短絡を防止するとともに、セパレータの抵抗を抑制することができ、それによって、電気化学装置が良好なレート特性を有する。
【0198】
V、電気化学装置の構成要素
電気化学装置の構成要素は、電極群、集電構造、外装ケース、及び保護素子を含む。
【0199】
電極群
電極群は、上記の正極と負極とを上記のセパレータを介してなる積層してなる積層構造、及び上記の正極と負極とを上記のセパレータを介して渦巻き状に巻回してなる構造のいずれかであってもよい。いくつかの実施例において、電極群の体積が電池内容積に占める割合(電極群占有率)は、40%超、又は50%超である。いくつかの実施例において、電極群占有率は、90%未満、又は80%未満である。いくつかの実施例において、電極群占有率は、上記の任意の二つの数値からなる範囲内にある。電極群占有率が上記の範囲内にある場合、電気化学装置の容量を確保することができるとともに、内部圧力の上昇と伴い、充放電繰り返し性能及び高温保存等の特性の低下を抑制することができ、さらにガス放出弁の作動を防止することができる。
【0200】
集電構造
集電構造は特に限制されない。いくつかの実施例において、集電構造は、配線部とボンディング部の抵抗を低減するための構造である。電極群が上記の積層構造である場合、それぞれの電極層の金属コア部分が束ねられ、端子に溶接される構造が好適に用いられる。1枚の電極面積が大きくなると内部抵抗が大きくなるため、電極内に2つ以上の端子を配置し、抵抗を低減させることも好適に用いられる。電極群が上記の巻回構造である場合、正極と負極のそれぞれに2つ以上のリード構造を配置し、端子に束ねることにより、内部抵抗を低減することができる。
【0201】
外装ケース
外装ケースの材料は特に限制されず、使用される電解液に対して安定な物質であればよい。外装ケースは、ニッケルメッキ鋼板、ステンレス鋼、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は樹脂とアルミニウム箔との積層フィルムを使用してもよいが、それらに限定されない。いくつかの実施例において、外装ケースは、アルミニウム若しくはアルミニウム合金の金属、又は積層フィルムである。
【0202】
金属類の外装ケースは、レーザ溶接、抵抗溶接、超音波溶接によって金属同士を溶接することによって形成された密閉構造;又は樹脂製ガスケットを介して、上記の金属類で形成されたかしめ構造を含むが、それらに限定されない。上記の積層フィルムを使用した外装ケースは、樹脂層同士の熱融着により形成された封止密閉構造等を含むが、それらに限定されない。シール性を高めるために、上記の樹脂層の間に積層フィルムに用いられた樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂、又は極性基を導入した変性樹脂を使用してもよい。なお、外装ケースの形状は任意であり、例えば円筒形、角形、積層型、ボタン型、大型等のうちのいずれかであってもよい。
【0203】
保護素子
保護素子は、異常な熱放出又は過大な電流が流れる場合に抵抗が増大する正温度係数(PTC)デバイス、温度ヒューズ、サーミスタ、異常発熱時に電池の内部圧力又は内部温度を急激に増加させることにより回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用してもよい。上記した保護素子は、高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択してもよく、保護素子がなくても異常発熱または熱暴走に至らない設計してもよい。
【0204】
VI、使用
本発明の電気化学装置は、電気化学反応を発生させるいずれかの装置を含み、その具体的な実例は、全ての種類の、一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池又はキャパシタを含む。特に、その電気化学装置は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウム重合体二次電池又はリチウムイオン重合体二次電池を含むリチウム二次電池である。
【0205】
本発明は、さらに、本発明による電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0206】
本発明の電気化学装置の使用は、特に制限はなく、先行技術で公知の任意の電子装置に使用してもい。いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置は、ノートコンピューター、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子書籍プレーヤー、携帯電話、ポータブルファックス、ポータブルコピー機、ポータブルプリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、ポータブルCDプレーヤー、ミニディスク、トランシーバー、電子ノートブック、電卓、メモリーカード、ポータブルレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機、時計、電動工具、フラッシュ、カメラ、家庭用大型蓄電池、及びリチウムイオンキャパシター等に使用してもよいが、それらに限定されない。
【0207】
以下では、例としてリチウムイオン電池を挙げ、具体的な実施例を参照してリチウムイオン電池の調製を説明するが、当業者は、本願に記載された調製方法が単なる例示であり、他の好適な調製方法が本願の範囲内にあることを理解すべきである。
【0208】
実施例
以下では、本発明によるリチウムイオン電池の実施例及び比較例を説明し、性能評価を行う。
【0209】
一、リチウムイオン電池の調製
1、負極の調製
人造黒鉛、スチレンブタジエンゴム、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを96%:2%:2%の質量割合で脱イオン水と混合し、さらに助剤2000ppmを入れ、均一に撹拌し、負極スラリーが得られた。当該負極スラリーを12μmの銅箔上に塗布した。乾燥、冷間圧延して、そしてカッティングし、タブを溶接して、負極が得られた。以下の実施例及び比較例の条件で、対応のパラメータを有するように、負極を配置した。
【0210】
以下の実施例で使用された助剤は以下の通りであった。
【0211】
【表1A】
【0212】
2、正極の調製
コバルト酸リチウム(LiCoO)、導電材料(Super-P)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を95%:2%:3%の質量割合でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、均一に撹拌し、正極スラリーが得られた。当該正極スラリーを12μmのアルミニウム箔上に塗布し、乾燥、冷間圧延して、そしてカッティングし、タブを溶接して、正極が得られた。
【0213】
3、電解液の調製
乾燥なアルゴンガス雰囲気で、EC、PC及びDEC(重量比1:1:1)を混合し、LiPFを入れて均一に混合し、基本電解液とし、基本電解液中のLiPFの濃度は1.15mol/Lであった。基本電解液に含有量の異なる添加剤を入れ、異なる実施例及び比較例の電解液が得られた。
【0214】
4、セパレータの調製
セパレータとして、ポリエチレン(PE)多孔質ポリマーフィルムが使用された。
【0215】
5、リチウムイオン電池の調製
得られた正極、セパレータ及び負極をこの順に巻取り、外装箔に置き、注液口を残した。注液口から電解液を注ぎ、パッケージし、そしてフォーメーション、容量測定等の工程を経て、リチウムイオン電池を製造した。
【0216】
二、測定方法
1、負極合剤層のリチウム析出面積の測定方法
12℃で、リチウムイオン電池を1Cの定電流で4.45Vに充電し、そして定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、そして1Cの定電流で3.0Vに放電し、それを初回サイクルとした。上記の条件に従い、リチウムイオン電池に100回のサイクルをした。以下の方法で負極合剤層のリチウム析出面積を得た。フル充電した電池を分解し、負極極片が得られ、ゴールド色の領域は通常の領域であり、白色の領域はリチウム析出領域であり、高倍率(20倍以上)顕微鏡で写真を撮った後、異なる領域を分析し、白色の領域を円形に抽象化し、グレースケール差により、リチウム析出領域を統計し、リチウム析出面積が得られた。
【0217】
2、リチウムイオン電池の極片厚さ膨張率の測定方法
12℃で、リチウムイオン電池を1Cの定電流で4.45Vに充電し、そして定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、そして1Cの定電流で3.0Vに放電し、それを初回サイクルとした。上記の条件に従い、リチウムイオン電池に20回のサイクルをした。マイクロメータでサイクル前とサイクル後の極片厚さを測定した。以下の式により、極片厚さ膨張率を算出した。
【0218】
極片厚さ膨張率=[(サイクル後の厚さ-サイクル前の厚さ)/サイクル前の厚さ]×100%。
【0219】
3、リチウムイオン電池の厚さ膨張率の測定方法
12℃で、リチウムイオン電池を1Cの定電流で4.45Vに充電し、そして定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、そして1Cの定電流で3.0Vに放電し、それを初回サイクルとした。上記の条件に従い、リチウムイオン電池に20回のサイクルをした。ハイトゲージでサイクル前とサイクル後の電池厚さを測定した。以下の式により、厚さ膨張率を算出した。
【0220】
厚さ膨張率=[(サイクル後の厚さ-サイクル前の厚さ)/サイクル前の厚さ]×100%。
【0221】
4、リチウムイオン電池の低温保存特性の測定方法
0℃で、リチウムイオン電池を1Cの定電流で4.45Vに充電し、そして定電圧で電流が0.05Cになるまで充電し、そして1Cの定電流で3.0Vに放電し、それを初回サイクルとした。上記の条件に従い、リチウムイオン電池に20回のサイクルをした。以下の式により、リチウムイオン電池の低温容量維持率を算出した。
【0222】
低温容量維持率=[(サイクル後の容量-サイクル前の容量)/サイクル前の容量]×100%。
【0223】
5、リチウムイオン電池の高温保存厚さ膨張率の測定方法
25℃で、リチウムイオン電池を30分間静置し、そして0.5Cのレートで定電流で4.45Vに充電し、さらに4.45Vで定電圧で0.05Cに充電し、5分間静置し、厚さを測定した。60℃で21日間保管した後に電池の厚さを測定した。以下の式により、リチウムイオン電池の高温保存厚さ膨張率を算出した。
【0224】
高温保存厚さ膨張率=[(保存後の厚さ-保存前の厚さ)/保存前の厚さ]×100%。
【0225】
三、測定結果
表1には、各実施例及び比較例の負極合剤層のリチウム析出面積及び電解液の成分、並びにリチウムイオン電池の極片厚さ膨張率及び電池厚さ膨張率が示された。表1における実施例は助剤1を使用した。
【0226】
【表1B】
【0227】
比較例1に示されたように、負極合剤層のリチウム析出面積が2%超であり、且つ電解液がリンと酸素を有する化合物を含まない場合、リチウムイオン電池の極片厚さ膨張率及び電池厚さ膨張率が比較的に高い。比較例2に示されたように、負極合剤層のリチウム析出面積が2%であるが、電解液がリンと酸素を有する化合物を含まない場合、リチウムイオン電池の極片厚さ膨張率及び電池厚さ膨張率が依然として比較的に高い。実施例1-9に示されたように、負極合剤層のリチウム析出面積が2%以下であり、且つ電解液がリンと酸素を有する化合物を含む場合、リンと酸素を有する化合物は負極合剤層の界面安定性を効果的に改善し、それによって、リチウムイオン電池の極片厚さ膨張率及び電池厚さ膨張率を著しく低下させ、リチウムイオン電池の安全特性を向上させる。
【0228】
表2には、負極合剤層における炭素材料の特性がリチウムイオン電池の極片厚さ膨張率及び電池厚さ膨張率に対する影響が示された。表2に記載されたパラメータ以外、実施例10-20のその他のセッティングは実施例9と同じ、いずれも助剤1を使用した。
【0229】
【表2】
【0230】
表2に示されたように、負極合剤層における炭素材料は、比表面積が5m/g未満である特性、メディアン径が5μm~30μmである特性、及び/又は表面にアモルファスカーボンを有する特性を有する。負極合剤層における炭素材料が以上の特性を有する場合、リチウムイオン電池の極片厚さ膨張率及び電池厚さ膨張率がさらに著しく低下する。
【0231】
表3には、負極合剤層の特性がリチウムイオン電池の極片厚さ膨張率及び電池厚さ膨張率に対する影響が示された。表3に記載されたパラメータ以外、実施例21-32のその他のセッティングは実施例8と同じ、いずれも助剤1を使用した。
【0232】
【表3】
【0233】
実施例8及び21-32に示めされたように、負極合剤層は、厚さは200μm以下である特性、10%~60%の孔隙率を有する特性、及び/又はボール落下の高さ(即ち、直径15mm、重量12グラムのボールが前記負極合剤層上に落下した場合、前記負極合剤層に亀裂を発生させるボールの最小高さ)は50cm以上である特性を有する。負極合剤層が以上の特性を有する場合、リチウムイオン電池の極片厚さ膨張率及び電池厚さ膨張率が著しく低下する。
【0234】
表4には、負極合剤層における助剤がリチウムイオン電池の低温容量維持率及び高温保存厚さ膨張率に対する影響が示される。表4における実施例33-40と実施例9との区別は助剤の種類及び含有量が異なるのみにある。
【0235】
【表4】
【0236】
結果より、使用された助剤の種類は、負極合剤層の表面のリチウム析出面積を2%以下にすることができればよい。助剤の含有量が負極合剤層の総重量の3000ppm以下を占める場合、負極合剤層の界面安定性をさらに向上させることができ、それによって、リチウムイオン電池の低温容量維持率及び/又は高温保存厚さ膨張率が改善され、それによって、リチウムイオン電池の保存特性が改善される。
【0237】
明細書全体では、「実施例」、「いくつかの実施例」、「一つの実施例」、「もう一つの例」、「例」、「具体例」、又は「いくつかの例」の引用については、本発明の少なくとも一つの実施例又は例は、当該実施例又は例に記載の特定の特徴、構造、材料又は特性を含むことを意味する。従って、明細書全体の様々な場所に記載された、例えば「いくつかの実施例において」、「実施例において」、「一つの実施例において」、「もう一つの例において」、「例において」、「特定の例において」又は「例」は、必ずしも本発明の同じ実施例又は例を引用するわけではない。また、本発明の特定の特徴、構造、材料、又は特性は、一つ又は複数の実施例又は例において、あらゆる好適な形態で組み合わせることができる。
【0238】
例示的な実施例が開示及び説明されているが、当業者は、上述実施例が本発明を限定するものとして解釈されることができなく、且つ、本発明の技術思想、原理、及び範囲から逸脱しない場合に実施例を改変、置換及び変更することができること、を理解すべきである。