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特許7463532リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240401BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240401BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240401BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240401BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240401BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240401BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/0567
H01M4/133
H01M4/587
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022548240
(86)(22)【出願日】2021-08-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 CN2021111788
(87)【国際公開番号】W WO2023015444
(87)【国際公開日】2023-02-16
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張翠平
(72)【発明者】
【氏名】韓昌隆
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-026590(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107437634(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 10/0567
H01M 4/133
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池であって、正極極板、負極極板、セパレータ及び電解液を有し、前記正極極板は、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一つの表面に設けられる正極材料層とを含み、前記正極材料層は、正極活物質を含み、
前記正極活物質は、LiNiCo1-x-y-zを含み、Nは、Mn及びAlから選択され、Mは、Co、Ni、Mn、Mg、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、Sr、V及びTiのうちのいずれかの一つから選択され、0.5≦x<1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z≦1であり、
前記電解液は、化学式(1)の化合物と、化学式(2)の化合物と、化学式(3)の化合物とを含み、
【化1】
Rは、フッ素原子及びフルオロC1-C6アルキル基から選択され
【化2】
~Rは、それぞれ独立して、C1-C6ハロゲン化アルキル基、ハロゲン、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基及びN又はPを含むC1-C6アルキル基から選択され、そのうち、ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素であり、かつ前記化学式(2)の化合物におけるハロゲン原子個数とP原子個数との比は、1:3~2:1であり
【化3】
及びRは、それぞれ独立して、フッ素原子で置換されたC1-C3アルキル基、水素原子、フッ素原子及び塩素原子から選択され、
また、前記化学式(1)の化合物の含有量は、W1%であり、前記化学式(2)の化合物の含有量は、W2%であり、前記化学式(3)の化合物の含有量は、W3%であり、いずれも電解液の総重量に対する重量%含有量であり、W1、W2及びW3は、1≦W3/W2≦4かつ0.5≦W1/W2≦1を満たす、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
W1%は、1%~15%範囲である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
W2%は、1%~20%範囲である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
W3%は、5%~20%範囲である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記化学式(2)において、R~Rは、それぞれ独立して、ハロゲン及びC1-C6アルコキシ基から選択される、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記化学式(3)の化合物は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドである、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
W3=25xという条件(a)と、
W2=10xという条件(b)とのうちの少なくとも一方を満たす、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
0.65≦x≦0.9である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記電解液に含まれるリチウム塩の総濃度は、0.8M~1.5Mである、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記負極極板は、負極集電体と、負極集電体の少なくとも一つの表面に設けられる負極材料層とを含み、前記負極材料層は、負極活物質を含み、前記負極活物質は、負極活物質の総重量に対して、含有量≦20重量%のOI≧8の黒鉛を含、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を含む、電池モジュール。
【請求項12】
請求項11に記載の電池モジュールを含む、電池パック。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池、請求項11に記載の電池モジュール又は請求項12に記載の電池パックのうちの一つ以上を含む、電力消費装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、リチウムイオン二次電池分野に関し、特に高エネルギー密度と高熱安定性を有するリチウムイオン二次電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化石エネルギーの枯渇及び人々の環境汚染問題への関心の高まりに伴い、新エネルギーは、次第に人々の視野に入り、激しく広がる勢いを形成してきた。リチウムイオン二次電池は、そのコストが低く、寿命が長く、安全性が良いなどの特徴によって、最も人気のある電力貯蔵システムになり、現在すでに純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、スマートグリッドなどの分野に幅広く応用されている。
【0003】
電池コアの実際の動作状況を考慮すると、単体電池コアの容量密度を向上させることが従来から望まれていた。正極に高ニッケル三元系材料を採用することは、もちろん容量密度を向上させる最も直接的な方式である。しかし、正極活物質のニッケル含有量の向上に伴い、その熱安定性が低下し、より容易に活性酸素が発生し、電解液酸化を引き起こし、比較的に多くの熱を発生させる。特に、外部温度が比較的高い場合(南方又はアフリカの異常気象)では、熱の放出が追いつかなく、電池コア温度が急激に上昇し、さらに電解液分解を招く。このような悪循環は、その結果、電池コアの熱暴走、即ち、電池コア温度急激上昇、発煙、発火などの厳重な安全事故が発生するという問題が生じる。
【0004】
そのため、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を向上させながら、電池の熱安定性を確保するという要望がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高ニッケル三元正極材料を用いることにより、高エネルギー密度を実現する電池コアの熱安定性が比較的悪いという問題を解決するためのリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成させるために、本出願の第一の態様によるリチウムイオン二次電池は、正極極板、負極極板、セパレータ及び電解液を有し、前記正極極板は、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一つの表面に設けられる正極材料層とを含み、前記正極材料層は、正極活物質を含み、そのうち、
前記正極活物質は、LiNiCo1-x-y-zを含み、そのうち、Nは、Mn及びAlから選択され、Mは、Co、Ni、Mn、Mg、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、Sr、V及びTiのうちのいずれかの一つから選択され、0.5≦x<1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z≦1であり、
前記電解液は、化学式(1)の化合物と、化学式(2)の化合物と、化学式(3)の化合物とを含み、
【化1】
Rは、フッ素原子及びフルオロC1-C6アルキル基から選択され、選択的に、フルオロC1-C6アルキル基であり、
【化2】
~Rは、それぞれ独立して、C1-C6ハロゲン化アルキル基、ハロゲン、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基及びN又はPを含むC1-C6アルキル基から選択され、ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素であり、かつ化学式(2)の化合物におけるハロゲン原子個数とP原子個数との比は、1:3~2:1であり、選択的に、5:3であり、
【化3】
及びRは、それぞれ独立して、フッ素原子で置換されたC1-C3アルキル基、水素原子、フッ素原子及び塩素原子から選択され、
また、化学式(1)の化合物の含有量は、W1%であり、化学式(2)の化合物の含有量は、W2%であり、化学式(3)の化合物の含有量は、W3%であり、いずれも電解液の総重量に対する重量%含有量であり、W1、W2及びW3は、1≦W3/W2≦4かつ0.5≦W1/W2≦1を満たす。
【0007】
高ニッケル正極活物質を含むリチウムイオン二次電池に、特定の使用量比の化学式(1)、化学式(2)及び化学式(3)の化合物を含む電解液を用いることにより、高い電池コアエネルギー密度を得るとともに、良好な高温貯蔵性能、比較的高い熱暴走温度及び良好な低温放電電力性能を電池にもたらすことができる。
【0008】
任意の実施の形態では、W1%は、1%~15%範囲、選択的に、3%~10%範囲である。これによって電解液の導電率をさらに改善し、極板材料をより良好に浸潤することができる。
【0009】
任意の実施の形態では、W2%は、1%~20%範囲、選択的に、5%~15%範囲である。これによって電池の安全性能を改善させるとともに、電解液の導電率を両立させることができる。
【0010】
任意の実施の形態では、W3%は、5%~20%範囲、選択的に、5%~16%範囲である。これによって電解液の熱安定性をより良好に向上させるとともに、アルミニウム箔への腐食を回避することができる。
【0011】
任意の実施の形態では、化学式(2)において、R~Rは、それぞれ独立して、ハロゲン及びC1-C6アルコキシ基から選択され、選択的に、R~Rは、いずれもフッ素原子であり、かつRは、C1-C6アルコキシ基である。置換基をさらに選択することにより、電池コアの安全性能をさらに改善させることができる。
【0012】
任意の実施の形態では、化学式(3)の化合物は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドである。リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを選択することにより、電池コアのエネルギー密度の向上及び電解液の導電率の向上に役立つ。
【0013】
任意の実施の形態では、前記リチウムイオン二次電池は、
W3=25xという条件(a)と、
W2=10xという条件(b)とのうちの少なくとも一つを満たす。
【0014】
条件(a)及び条件(b)のうちの少なくとも一つを満たす場合、電解液の熱安定性と難燃性能をさらに向上させることができ、それによって電池コアの安全性能を著しく改善する。
【0015】
任意の実施の形態では、0.65≦x≦0.9、選択的に、x=0.8である。x値を選択することにより、安定した高エネルギー密度電池を得るのに役立つ。
【0016】
任意の実施の形態では、電解液に含まれるリチウム塩の総濃度は、0.8M~1.5Mであり、選択的に、0.8M~1.2Mである。リチウム塩の総濃度を選択することにより、電池コアの出力性能の改善、安全性の向上に役立つ。
【0017】
任意の実施の形態では、負極極板は、負極集電体と、負極集電体の少なくとも一つの表面に設けられる負極材料層とを含み、前記負極材料層は、負極活物質を含み、前記負極活物質は、負極活物質の総重量に対して、含有量≦20重量%のOI≧8の黒鉛を含み、選択的に、前記OI≧8の黒鉛の含有量は、負極活物質の総重量に対して、10重量%~20重量%である。特定の含有量のOI≧8の高膨張黒鉛、前記電解液及び正極活物質の組み合わせを用いることにより、電池コアのサイクル性能、貯蔵性能及びレート性能を著しく改善させることができる。
【0018】
本出願の第二の態様による電池モジュールは、本出願の第一の態様のリチウムイオン二次電池を含む。
【0019】
本出願の第三の態様による電池パックは、本出願の第二の態様の電池モジュールを含む。
【0020】
本出願の第四の態様による電力消費装置は、本出願の第一の態様から選択されたリチウムイオン二次電池、本出願の第二の態様の電池モジュール又は本出願の第三の態様の電池パックのうちの一つ以上を含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本出願の技術的解決手段をより明確に説明するために、以下では、本出願の実施例で使用する必要がある図面を簡単に説明するが、明らかなことに、以下に説明する図面は、本出願のいくつかの実施例に過ぎず、当業者にとっては、創造的な労力を支払うことなく、図面に基づいて他の図面を入手することができる。
図1】本出願の一実施形態のリチウムイオン二次電池の概略図である。
図2図1に示される本出願の一実施形態のリチウムイオン二次電池の分解図である。
図3】本出願の一実施形態の電池モジュールの概略図である。
図4】本出願の一実施形態の電池パックの概略図である。
図5図4に示される本出願の一実施形態の電池パックの分解図である。
図6】本出願の一実施形態のリチウムイオン二次電池が電源として用いられる装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
簡潔のために、本出願では、幾つかの数値の範囲が具体的に開示されている。しかしながら、任意の下限と任意の上限とを組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよく、さらに任意の下限と他の下限とを組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよく、同様に、任意の上限と他の任意の上限とを組み合わせて明確に記載されていない範囲を形成してもよい。なお、単独に開示された各点又は単一の数値自体は、下限又は上限として他の任意の点又は単一の数値と組み合わせるか、又は、他の下限又は上限と組み合わせて、明確に記載されていない範囲を形成してもよい。
【0023】
リチウムイオン二次電池の電池コアエネルギー密度を向上させるために最もよく用いられる方法は、正極材料のニッケル含有量を向上させることである。しかし、高ニッケル三元系正極活物質表面は、一般的には、比較的に多くのLiOHとLiCOを有し、これらの物質は一定のアルカリ性を有する。従来のLiPF-カーボネート溶媒系電解液は、高温で分解すると、HFが発生することになる。発生したHFは、LiOH、LiCOと反応し、正極界面を破壊し、電解液を正極界面で絶えずに酸化させ、活性リチウムの消費に伴い、サイクル性能が低下する。特に、満充電状態では、正極電位が比較的高いため、このような酸化副反応はさらに激化し、また、電解液分解の生成物は、陰極、陽極界面に堆積し、リチウムイオンの輸送を遮断し、DCRを増大させ、低温放電電力を悪化させ、そしてジュールの法則によると、電池充放電過程に比較的に多くの熱が生じ、最終的に安全問題が生じるおそれがある。本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、本出願の第一の態様のリチウムイオン二次電池が特定の電解液を用いることにより、高ニッケル三元系で電池コアの安全性能を大きく向上させることができることを見出した。
【0024】
リチウムイオン二次電池
一般的には、リチウムイオン二次電池は、正極極板、負極極板、セパレータ及び電解液を含む。電池の充放電過程において、活性イオンは、正極極板と負極極板との間で往復して吸蔵し放出する。セパレータは、正極極板と負極極板との間に設けられ、隔離の作用を奏する。電解液は、正極極板と負極極板との間でイオンを伝導する作用を奏する。
【0025】
本出願の第一の態様によるリチウムイオン二次電池は、正極極板、負極極板、セパレータ及び電解液を有し、前記正極極板は、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一つの表面に設けられる正極材料層とを含み、前記正極材料層は、正極活物質を含み、そのうち、
前記正極活物質は、LiNiCo1-x-y-zを含み、そのうち、Nは、Mn及びAlから選択され、Mは、Co、Ni、Mn、Mg、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、Sr、V及びTiのうちのいずれかの一つから選択され、0.5≦x<1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z≦1であり、
前記電解液は、化学式(1)の化合物と、化学式(2)の化合物と、化学式(3)の化合物とを含み、
【化1】
Rは、フッ素原子及びフルオロC1-C6アルキル基から選択され、選択的に、フルオロC1-C6アルキル基であり、
【化2】
~Rは、それぞれ独立して、C1-C6ハロゲン化アルキル基、ハロゲン、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基及びN又はPを含むC1-C6アルキル基から選択され、ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素であり、かつ化学式(2)の化合物におけるハロゲン原子個数とP原子個数との比は、1:3~2:1であり、選択的に、5:3であり、
【化3】
及びRは、それぞれ独立して、フッ素原子で置換されたC1-C3アルキル基、水素原子、フッ素原子及び塩素原子から選択され、
また、化学式(1)の化合物の含有量は、W1%であり、化学式(2)の化合物の含有量は、W2%であり、化学式(3)の化合物の含有量は、W3%であり、いずれも電解液の総重量に対する重量%含有量であり、W1、W2及びW3は、1≦W3/W2≦4かつ0.5≦W1/W2≦1を満たす。
【0026】
具体的には、高ニッケル正極活物質を含むリチウムイオン二次電池に、特定の使用量比の化学式(1)、化学式(2)及び化学式(3)の化合物を含む電解液を用いることにより、高い電池コアエネルギー密度を得るとともに、良好な高温貯蔵性能、比較的高い熱暴走温度及び良好な低温放電電力性能を電池にもたらすことができる。W3/W2の比が1より小さい場合、電解液粘度が著しく増大するだけでなく、電解液における解離可能なリチウム塩含有量が比較的低く、電解液の導電率が著しく低下し、電池コアの寿命、レート、パワーなどの性能に厳しく影響する。W3/W2の比が4より大きい場合、化学式(3)の化合物のアルミニウム箔への腐食を抑制することは困難である。W1/W2の比が0.5より小さい場合、電解液の粘度が悪化し、さらに電解液の導電率が悪化する。W1/W2の比が1より大きい場合、電解液におけるホスファゼンは少なく、電池の安全性能を十分に改善する効果を提供することは困難である。
【0027】
化学式(2)の化合物におけるハロゲン原子個数とP原子個数との比を選択することにより、この化合物が電池コア熱暴走の温度(温度≧100℃)で熱を分解吸収し、リン酸塩を発生して極板表面に堆積させ、電解液と極板との接触を遮断し、熱暴走を緩和し、そして十分なハロゲンラジカルを発生させ、有効に水素、酸素ラジカルを捕獲することができ、それによって電池コアの安全性能を著しく改善させることができる。ハロゲン原子個数とP原子個数との比が1:3より小さい場合、この化合物は、分解して固体のリン酸塩を発生させるが、電解液分解による水素ラジカル、酸素ラジカルを除去することは困難であるため、電解液熱分解の連鎖反応が終了せず、電池コアの安全性を著しく向上させることは困難である。ハロゲン原子個数とP原子個数との比が2:1より大きい場合、前記化合物の分解によるリン酸塩の含有量は少なすぎ、正負極界面を十分に覆うには不十分であり、正負極界面での電解液の副反応を阻止することは困難である。
【0028】
いくつかの実施形態では、W1%は、1%~15%範囲、選択的に、3%~10%範囲である。化学式(1)の化合物の含有量を選択することにより、電解液の導電率をさらに改善し、極板材料をより良好に浸潤することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、W2%は、1%~20%範囲、選択的に、5%~15%範囲である。化学式(2)の化合物の含有量を選択することにより、電池の安全性能を改善させるとともに、電解液の導電率を両立させることができる。
【0030】
いくつかの実施形態では、W3%は、5%~20%範囲、選択的に、5%~16%範囲である。化学式(3)の化合物の含有量を選択することにより、電解液の熱安定性をより良好に向上させるとともに、アルミニウム箔への腐食を回避することができる。
【0031】
いくつかの実施形態では、化学式(2)において、R~Rは、それぞれ独立して、ハロゲン及びC1-C6アルコキシ基から選択され、選択的に、R~Rは、いずれもフッ素原子であり、かつRは、C1-C6アルコキシ基である。化学式(2)のホスファゼンは、高温で分解可能であり、発生したリン含有、フッ素含有ラジカル基は、電解液溶媒分解による水素酸素ラジカルをキャプチャし、溶媒の連鎖反応を終了させ、安全性能を改善させることができる。ホスファゼン構造上の置換基をさらに選択することにより、電池コアの安全性能をさらに改善させることができる。
【0032】
いくつかの実施形態では、化学式(3)の化合物は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドである。他のフッ素含有スルホンイミドリチウム塩に比べて、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの分子量が最小であり、同個数でその質量が最小であり、電池コアの質量をある程度軽減し、電池コアのエネルギー密度を向上させる。また、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドは、リチウムイオンを解離させやすいため、電解液の導電率の向上に役立つ。
【0033】
いくつかの実施形態では、リチウムイオン二次電池は、
W3=25xという条件(a)と、
W2=10xという条件(b)とのうちの少なくとも一つを満たす。
【0034】
正極活物質のニッケル含有量の向上、即ちxの増加に伴い、電池コアのエネルギー密度は向上するが、正極活物質の熱分解温度が低下し、発熱量が増加し、材料の熱安定性が悪くなる。ニッケル含有量xと電解液におけるホスファゼン及びイミドリチウム含有量が上記条件(a)及び条件(b)のうちの少なくとも一つを満たす場合、電解液の熱安定性と難燃性能を向上させることができ、それによって電池コアの安全性能を著しく改善させることができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、0.65≦x≦0.9、選択的に、x=0.8である。Xが0.9を超えた場合、正極構造が不安定になる傾向があり、電池満充電状態では電解液への酸化が深刻になり、xが0.65よりも低い場合、正極は比較的に安定しているが、材料のグラム容量が比較的低く、高エネルギー密度電池の需要を満たすことができない。
【0036】
いくつかの実施形態では、電解液に含まれるリチウム塩の総濃度は、0.8M~1.5Mであり、選択的に、0.8M~1.2Mである。本発明者らは、リチウム塩濃度の電解液導電率への影響がパラボラ型を呈することを見出した。リチウム塩濃度が高すぎると、電解液の粘度が急激に増加し、かつ解離されたリチウムイオン数の増加が遅くなる可能性があり、そのため、電解液の導電率も低下し、それによって電池コアのパワー性能が悪化する。また、電解液のリチウム塩濃度は、電池コアの安全性能に直接に影響を与え、電解液リチウム塩濃度が低すぎると、充電の終わりに、陽極分極が深刻化になり、陽極界面にリチウムデンドライトが析出しやすく、デンドライトがセパレータを透過すると、短絡するリスクがある。
【0037】
いくつかの実施形態では、前記負極極板は、負極集電体と、負極集電体の少なくとも一つの表面に設けられる負極材料層とを含み、前記負極材料層は、負極活物質を含み、前記負極活物質は、負極活物質の総重量に対して、含有量≦20重量%のOI≧8の黒鉛を含み、選択的に、前記OI≧8の黒鉛の含有量は、負極活物質の総重量に対して、10重量%~20重量%である。
【0038】
前記OI値は、当分野で通常理解されている意味を有し、配向度を指す。高エネルギー密度電池コアは、高エネルギー密度を実現するために、高容量黒鉛、例えばOI≧8の黒鉛を用いて、高ニッケル三元正極材料と整合することが多い。しかし、このような黒鉛にとって、充電過程で、リチウムイオンが黒鉛に吸蔵されやすく、黒鉛極板にある程度の膨張が生じる。即ち、高容量黒鉛は、比較的高い程度の膨張を有することが多い。高膨張黒鉛は、寿命の過程で膨張し、電解液を押出し、陽極のリチウムの析出を招き、極板の厚さが増加し、電池コア性能が悪化する。含有量≦20%のOI≧8の高膨張黒鉛を用いて、前記電解液と正極活物質との組み合わせは、電池コアのサイクル性能、貯蔵性能及びレート性能を著しく改善させることができる。
【0039】
以下では、電池の正極極板、負極極板、セパレータ及び電解液についてそれぞれ説明する。
【0040】
[電解液]
電解液は、正極極板と負極極板との間でイオンを伝導する作用を奏する。電解液は、電解質塩と、溶媒とを含む。
【0041】
本出願では、電解質塩は、リチウムイオン二次電池における慣用の電解質塩、例えばリチウム塩であってもよく、上記化学式(3)のリチウム塩を含む。例として、電解質塩は、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)、LiBF(テトラフルオロホウ酸リチウム)、LiAsF(六フッ化ヒ酸リチウム)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、LiTFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム)、LiTFS(トリフルオロメタスルホン酸リチウム)、LiDFOB(リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート)、LiPO(ジフルオロリン酸リチウム)、LiDFOP(リチウムジフルオロビスオキサレートホスフェート)、LiSOF(フルオロスルホン酸リチウム)、NDFOP(ジフルオロビスオキサレート)、LiF(SON)SOF、KFSI、CsFSI、Ba(FSI)及びLiFSONSOCHCHCFのうちの一つ以上から選択されてもよい。いくつかの実施形態では、電解質塩は、LiPFを含む。
【0042】
前記溶媒の種類は、特に限定されなく、実際の具体的な需要に応じて選択してもよい。いくつかの実施形態では、前記溶媒は、非水性溶媒である。選択的に、前記溶媒は、鎖状カーボネート、環状カーボネート、カルボン酸エステルのうちの一つ又は複数を含んでもよい。いくつかの実施形態では、溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、酪酸メチル(MB)、酪酸エチル(EB)、1,4-ブチロラクトン(GBL)、テトラヒドロフラン、スルホラン(SF)、ジメチルスルホン(MSM)、エチルメチルスルホン(EMS)及びジエチルスルホン(ESE)のうちの一つ以上から選択されてもよい。比較的高い温度及び比較的高い電圧で良好な熱安定性と電気化学的安定性を有する観点から、選択的に、溶媒は、ジメチルカーボネートに加えて、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、エチルプロピルカーボネート、1,4-ブチロラクトン、ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチルとテトラヒドロフランから一つ又は複数を選択してもよく、これにより、4V及びそれ以上の高ニッケルリチウムイオン電池のために安定な電気化学環境を提供することができる。選択的に、電解液における非水性溶媒の質量パーセントは、65%~85%である。
【0043】
いくつかの実施形態では、前記電解液には、選択的に他の添加剤をさらに含んでもよい。例えば、添加剤は、負極成膜添加剤、正極成膜添加剤を含んでもよく、電池のなんらかの性能を改善できる添加剤、例えば電池の過充電性能を改善させる添加剤、電池の高温性能を改善させる添加剤、及び電池の低温性能を改善させる添加剤などをさらに含んでもよい。例として、前記添加剤は、不飽和結合を含む環状カーボネート化合物、ハロゲンで置換された環状カーボネート化合物、硫酸エステル化合物、亜硫酸エステル化合物、スルホン酸ラクトン化合物、ジスルホン酸化合物、ニトリル化合物、芳香族化合物、イソシアネート化合物、ホスファゼン化合物、環状酸無水物化合物、亜リン酸エステル化合物、リン酸エステル化合物、ホウ酸エステル化合物、カルボン酸エステル化合物のうちの少なくとも一つから選択される。
【0044】
[正極極板]
正極極板は、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一つの表面に設けられる正極材料層とを含み、前記正極材料層は、正極活物質と、炭素とを含む。
【0045】
例として、正極集電体は、それ自体の厚さ方向において対向する二つの表面を有し、正極材料層は、正極集電体の対向する二つの表面のうちのいずれか一つ又は両者に設けられている。
【0046】
本出願のリチウムイオン二次電池において、前記正極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。金属箔シートとしては、例えば、アルミニウム箔を採用してもよい。複合集電体は、高分子材料基層と、高分子材料基層の少なくとも一つの表面に形成された金属層とを含んでもよい。複合集電体は、金属材料(例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)に形成することによって形成されてもよい。
【0047】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、前記LiNiCo1-x-y-zに加えて、リチウム遷移金属酸化物、オリビン構造のリチウム含有リン酸塩、及びそれらの夫々の改質化合物から選択された他の一つ又は複数を含んでもよい。選択的に、前記LiNiCo1-x-y-zは、正極活物質の総重量の60~100重量%を占め、選択的に、80~100重量%である。リチウム遷移金属酸化物の例は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物LiNiCoMn(a+b+c=1、a<0.8)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、及びそれらの改質化合物のうちの一つ又は複数を含んでもよいが、それらに限られない。オリビン構造のリチウム含有リン酸塩の例は、リン酸鉄リチウム、リン酸鉄リチウムと炭素との複合材料、リン酸マンガンリチウム、リン酸マンガンリチウムと炭素との複合材料、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウムと炭素との複合材料及びその改質化合物のうちの一つ又は複数を含んでもよいが、それらに限られない。これらの材料は、いずれも商業的に入手してもよい。正極活物質表面には、炭素が被覆されてもよい。
【0048】
正極材料層は、選択的に導電剤を含む。しかし、導電剤の種類は、特に限定されなく、当業者は、実際の具体的な需要に応じて選択してもよい。例として、正極材料に用いられる導電剤は、Super P、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンスポット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0049】
正極材料層は、選択的に接着剤をさらに含む。例として、接着剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水性アクリル樹脂(water-based acrylic resin)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)及びポリビニルブチラール(PVB)のうちの一つ又は複数であってもよい。
【0050】
本出願では、当分野で既知の方法に従って正極極板を製造してもよい。例として、正極活物質、導電剤と接着剤を溶媒(例えば、N-メチルピロリドン(NMP))に分散させて、均一な正極スラリーを形成し、正極スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥、冷間プレスなどのプロセスを経て、正極極板を得ることができる。
【0051】
[負極極板]
負極極板は、負極集電体と、負極集電体の少なくとも一つの表面に設けられる負極材料層とを含み、前記負極材料層は、負極活物質を含む。
【0052】
例として、負極集電体は、その自体の厚さ方向において対向する二つの表面を有し、負極材料層は、負極集電体の対向する二つの表面のうちのいずれか一つ又は両者に設けられている。
【0053】
本出願のリチウムイオン二次電池において、前記負極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。例えば、金属箔シートとして、銅箔を採用してもよい。複合集電体は、高分子材料基層と、高分子材料基層の少なくとも一つの表面に形成された金属層とを含んでもよい。複合集電体は、金属材料(例えば、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)に形成することによって形成されてもよい。
【0054】
本出願のリチウムイオン二次電池において、前記負極材料層は、一般的には、負極活物質及び選択的な接着剤、選択的な導電剤及び他の選択的な助剤を含み、一般的には、負極スラリーをコーティングし乾燥して得られるものである。負極スラリーは、一般的には、負極活物質及び選択的な導電剤と接着剤などを溶媒に分散させて均一に撹拌して形成されるものである。溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)又は脱イオン水であってもよい。
【0055】
前記負極活物質の具体的な種類は、特に限定されなく、当分野で既知のリチウムイオン二次電池の負極に利用可能な活物質を採用してもよく、当業者は、実際の具体的な需要に応じて選択してもよい。例として、負極活物質は、天然グラファイト、人造グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ(MCMBと略称)、ハードカーボン、ソフトカーボン、シリコン、シリコン-炭素複合体、Li-Sn合金、Li-Sn-O合金、Sn、SnO、SnO、スピネル構造のリチウム化TiO-LiTi12、Li-Al合金のうちの一つ又は複数から選択されてもよい。
【0056】
例として、導電剤は、Super P、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンスポット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0057】
例として、接着剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、ポリメタクリル酸(PMAA)及びカルボキシメチルキトサン(CMCS)のうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0058】
他の選択的な助剤は、例えば増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na))などである。
【0059】
[セパレータ]
電解液を採用するリチウムイオン二次電池には、セパレータがさらに含まれる。セパレータは、正極極板と負極極板との間に設けれ、隔離作用を奏する。本出願では、セパレータの種類に対して特に限定されなく、良好な化学的安定性と機械的安定性を有する任意のよく知られている多孔質構造のセパレータを選択してもよい。いくつかの実施形態では、セパレータの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリフッ化ビニリデンのうちの一つ以上から選択されてもよい。セパレータは、単層フィルムであってもよく、多層複合フィルムであってもよく、特に制限はない。セパレータが多層複合フィルムである場合、各層の材料は同じであってもよく、異なってもよく、特に制限はない。
【0060】
いくつかの実施形態では、正極極板、負極極板とセパレータは、巻回プロセス又は積層プロセスによって電極コンポーネントを製造してもよい。
【0061】
いくつかの実施形態では、リチウムイオン二次電池は、外装を含んでもよい。この外装は、上記電極コンポーネント及び電解液のパッケージングに用いられてもよい。
【0062】
いくつかの実施形態では、リチウムイオン二次電池の外装は、硬質ケース、例えば、硬質プラスチックケース、アルミニウムケース、スチールケースなどであってもよい。リチウムイオン二次電池の外装は、軟質バッグ、例えば、袋式軟質バッグであってもよい。軟質バッグの材質は、プラスチックであってもよく、プラスチックとして、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリブチレンサクシネート(PBS)などが挙げられる。
【0063】
本出願では、リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されなく、それは円筒形、四角形又は他の任意の形状であってもよい。例えば、図1は、一例としての四角形構造のリチウムイオン二次電池5である。
【0064】
いくつかの実施形態では、図2を参照すると、外装は、ケース51と、蓋板53とを含んでもよい。そのうち、ケース51は、底板と、底板上に接続された側板とを含んでもよく、底板と側板とで取り囲んで収容室を形成する。ケース51は、収容室と連通する開口部を有し、蓋板53は、収容室を塞ぐために開口部に蓋設することができる。正極極板、負極極板とセパレータは、巻回プロセス又は積層プロセスによって電極コンポーネント52を形成することができる。電極コンポーネント52は、前記収容室内にパッケージされている。電解液は、電極コンポーネント52に浸潤されている。リチウムイオン二次電池5に含まれる電極コンポーネント52の数は、一つ又は複数であってもよく、当業者は、実際の具体的な需要に応じて選択してもよい。
いくつかの実施形態では、リチウムイオン二次電池は、電池モジュールに組み立てることができ、電池モジュールに含まれるリチウムイオン二次電池の数は、一つ又は複数であってもよく、具体的な数は、当業者が電池モジュールの用途と容量に基づいて選択してもよい。
【0065】
図3は、一例としての電池モジュール4である。図3を参照すると、電池モジュール4において、複数のリチウムイオン二次電池5は、電池モジュール4の長手方向に沿って順次配列して設置されてもよい。無論、他の任意の方式で配置してもよい。さらに、締結具を介してこの複数のリチウムイオン二次電池5を固定してもよい。
【0066】
選択的に、電池モジュール4は、収容空間を有するハウジングをさらに含んでもよく、複数のリチウムイオン二次電池5は、この収容空間に収容されている。
【0067】
いくつかの実施形態では、上記電池モジュールは、さらに電池パックに組み立てることができ、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、当業者が電池パックの用途と容量に基づいて選択してもよい。
【0068】
図4及び図5は、一例としての電池パック1である。図4及び図5を参照すると、電池パック1には、電池ボックス及び電池ボックス内に設けられる複数の電池モジュール4を含んでもよい。電池ボックスは、上ケース2と、下ケース3とを含み、上ケース2は、下ケース3に蓋設し、かつ電池モジュール4を収容するための密閉空間を形成することができる。複数の電池モジュール4は、任意の方式で電池ボックス内に配置されてもよい。
【0069】
また、本出願は、装置をさらに提供し、前記装置は、本出願によるリチウムイオン二次電池、電池モジュール、又は電池パックのうちの一つ以上を含む。前記リチウムイオン二次電池、電池モジュール又は電池パックは、前記装置の電源として機能することができ、前記装置のエネルギー貯蔵ユニットとして機能することもできる。前記装置は、モバイル機器(例えば、携帯電話、ノートパソコンなど)、電気自動車(例えば、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電気スクーター、電気ゴルフカート、電気トラックなど)、電車、船舶及び衛星、エネルギー貯蔵システムなどであってもよいが、それらに限られない。
【0070】
前記装置として、その使用上の需要に応じてリチウムイオン二次電池、電池モジュール又は電池パックを選択してもよい。
【0071】
図6は、一例としての装置である。この装置は、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、又はプラグインハイブリッド電気自動車などである。この装置がリチウムイオン二次電池に対する高パワーと高エネルギー密度の需要を満たすために、電池パック又は電池モジュールを採用してもよい。
【0072】
別の例としての装置は、携帯電話、タブレットパソコン、ノートパソコンなどであってもよい。この装置に、一般的には薄型化と軽量化が求められており、電源としてリチウムイオン二次電池を採用してもよい。
【0073】
実施例
以下では、本出願の実施例を説明する。以下に記述されている実施例は、例示的なもので、本出願を解釈することのみに用いられ、本出願を制限するものとして理解すべきではない。実施例において具体的な技術又は条件が明記されていないものは、当分野の文献に記述されている技術若しくは条件、又は製品説明書に従って実行する。使用する試薬又は機器について、製造メーカーが明記されていないものは、いずれも市販で購入できる一般的な製品である。
【0074】
実施例1-1
1.リチウムイオン二次電池の製造
(1)電解液の製造
アルゴンガスが充足されたグローブボックス(水含有量<10ppm、酸素ガス含有量<1ppm)内において、化学式(1)の化合物としてフルオロベンゼンと、化学式(2)の化合物としてエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンをECとDECとの混合溶媒(質量比EC:DEC=3:5)に添加し、ビニレンカーボネート1重量%及び1,3-プロペンスルトン1重量%を添加する。均一混合した後、リチウム塩LiPF及び化学式(3)の化合物としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを徐々に溶解し、得られた溶液におけるリチウム塩総濃度を1mol/Lとし、溶液の総重量に対して、フルオロベンゼン含有量を5重量%、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン含有量を5重量%、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド含有量を5重量%とし、電解液を得る。
【0075】
(2)正極極板の製造
正極活物質LiNi0.8Co0.1Mn0.1、導電剤Super P、接着剤ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比8:1:1でN-メチルピロリドン(NMP)において正極スラリーとして製造する。正極スラリーにおける固体含有量は、50重量%とする。正極スラリーを集電体アルミニウム箔(正極活物質のアルミニウム箔への塗布質量は0.14mg/mmとする)に塗布し、85℃で乾燥させた後冷間プレスを行い、その後、エッジカット、切断、ストリップを経た後、85℃の真空条件で4時間乾燥させ、正極極板を製造する。
【0076】
(3)負極極板の製造
負極活物質としての黒鉛(ここで、OI≧8の黒鉛は、全黒鉛において10%質量比を占める)、導電剤Super P、増稠剤CMC、結着剤スチレンブタジエンゴム(SBR)を質量比80:15:3:2で脱イオン水に均一に混合し、負極スラリーとして製造する。負極スラリーにおける固体含有量は、30重量%とする。負極スラリーを集電体銅箔(負極活物質の銅箔への塗布重量は、0.08mg/mmとする)に塗布し、85℃で乾燥させた後、冷間プレス、エッジカット、切断、ストリップを行い、120℃の真空条件で12時間乾燥させ、負極極板を製造する。
【0077】
(4)リチウムイオン二次電池の組み立て
16μmのポリエチレンフィルム(PE)をセパレータとし、作製された正極極板、セパレータ、負極極板を順に積層し、セパレータを正負極極板の中央に位置させて正負極を隔離する作用を奏し、巻回してベアセルを得る。タブを溶接し、ベアセルを外装に配置し、上記で製造された電解液を乾燥した電池コアに注入し、パッケージ、静置、化成、整形を経て、リチウムイオン二次電池の製造を完成する。電池の厚さ4.0mm、幅60mm、長さ140mmである。
【0078】
2.リチウムイオン二次電池の試験
(1)リチウムイオン電池高温貯蔵性能試験
25℃で、リチウムイオン電池を1Cで4.2Vまで定電流充電し、そして4.2Vの電圧で電流が0.05Cになるまで定電圧充電し、さらに0.5Cで2.8Vまで放電し、放電容量D0を得る。電池を60℃の恒温槽に入れて保管し、30日後取り出し、室温に冷却した後、1Cで2.8Vまで定電流放電し、5分静置し、さらに1Cで4.2Vまで定電流充電し、そして4.2Vの電圧で電流が0.05Cになるまで定電圧充電し、さらに0.5Cで2.8Vまで放電し、このときの放電容量をD1とし、電池の高温貯蔵可逆容量維持率=D1/D0*100%である。
【0079】
(2)リチウムイオン電池の熱暴走性能試験
環境温度を25℃に調節し、リチウムイオン電池を1Cで4.2Vまで定電流充電し、そして4.2Vの電圧で電流が0.05Cになるまで定電圧充電する。感温線を電池コア表面の中心位置に貼り付ける。そして電池を加熱炉に入れ、炉を10℃/分で昇温させ、10℃昇温するごとに30分保温し、感温線の温度が瞬間的に急激に増加し、炉温度よりもはるかに高くなると、このときの電池コアが熱暴走していると考えられる。電池が熱暴走したときの炉の温度を記録する。
【0080】
(3)リチウムイオン電池の低温放電力値試験
25℃で、リチウムイオン電池を1Cで4.2Vまで定電流充電し、そして4.2Vの電圧で電流が0.05Cになるまで定電圧充電し、そして1Cで30分放電する。電池コアを0℃で2時間放置し、このときの電圧V1を記録し、そして0.36Cで10秒定電流放電し、このときの電圧V2を記録し、DCR=(V1-V2)/0.36Cである。DCRが低いほど、低温放電パワー値が高くなる。
【0081】
実施例1-2~実施例1-7及び比較例1~比較例4
実施例1-1と同様である方式で行われるが、実施例1-1との相違点は、表1に示すように、W1、W2及びW3を変更したことである。
【0082】
比較例5~比較例7
実施例1-1と同様である方式で行われるが、実施例1-1との相違点は、フルオロベンゼンを使用しないこと、エトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンを使用しないこと又はリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを使用しないことである。
【0083】
実施例1-1~実施例1-7及び比較例1~比較例7の電解液における各物質含有量及び電池性能試験の結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例2-1~実施例2-9
実施例1-1と同様である方式で行われるが、実施例1-1との相違点は、W1、W2及びW3を変更したことである。
【0086】
実施例2-1~実施例2-9の電解液における各物質含有量及び電池性能試験の結果を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
実施例3-1~実施例3-6
実施例1-1と同様である方式で行われるが、実施例1-1との相違点は、正極活物質の種類、W1、W2及びW3を変更したことである。
【0089】
実施例3-1~実施例3-6の正極活物質、電解液における各物質含有量及び電池性能試験の結果を表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
実施例4-1~実施例4-4
実施例1-1と同様である方式で行われるが、実施例1-1との相違点は、化学式(1)の化合物としてトリフルオロメチルベンゼンを用い、化学式(2)の化合物としてメトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンを用い、化学式(3)の化合物として(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチル)スルホイミドリチウムを用い、そして表4に示されるW1、W2及びW3値を用いたことである。
【0092】
実施例4-1~実施例4-4の電解液における各物質含有量及び電池性能試験の結果を表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
表1~4の結果から、各比較例に比べて、各実施例の低温放電電力性能、高温貯蔵性能、熱暴走性能がバランスされ、改善されていることが分かった。本出願の特定の割合で化学式(1)~(3)の化合物を併用することにより、高ニッケル正極活物質を有する電池コアの総合性能を向上させることができることを説明した。
【0095】
比較例1と比較例2から分かるように、W1/W2の値が0.5~1の範囲内にない場合には、二つの状況に分けられる。1):W1/W2が0.5より小さい場合、電解液の導電率が比較的低く、DCRが比較的高く、電池コアの低温出力性能が大きく悪化し、そして、導電率が比較的低く、満充電時に陽極にリチウムの析出が発生しやすいため、電池コアの貯蔵寿命もある程度悪化すると推測される。2)W1/W2が1より大きい場合、電解液におけるホスファゼンの含有量が比較的に少なく、電池コアの安全性能を有効に改善できない。比較例3と比較例4から分かるように、W3/W2の値が1より小さい場合、電解液の導電率が比較的低く、DCRが比較的高く、電池コアの寿命、レート、パワーなどの性能が比較的悪く、W3/W2の比が4より大きい場合、電池コアの安全性能が悪化する。
【0096】
比較例5では、化学式(1)の化合物を使用せず、低温放電電力性能が悪い。比較例6には、化学式(2)の化合物が含まれておらず、電池コア熱暴走温度は比較的低い。比較例7には、化学式(3)の化合物が含まれておらず、電池コア熱暴走温度が比較的低く、かつ電解液の導電率が低く、電池コア低温放電電力性能が悪い。
【0097】
表2から分かるように、W1%が1~15%の範囲内にある場合、W1%の上昇に伴い低温DCRは徐々に低下し、W1%をさらに低下させることはパワー改善に対するコストパフォーマンスが高くない。W2%が1~20%の範囲内、W3%が5~20%の範囲内にある場合、電池コアの熱暴走温度は徐々に向上し、即ち、電池コアの安全性能は徐々に良くなる。
【0098】
表3の実施例3-1、3-2、3-4、3-5から分かるように、W3=25x、及び/又はW2=10xを満たす場合、電解液の熱安定性及び難燃性能を向上させることができ、それによって電池コアの安全性能を著しく改善させる。
【0099】
表4から分かるように、1≦W3/W2≦4かつ0.5≦W1/W2≦1を満たす場合、他の式(1)~(3)の化合物を用いても高ニッケル正極活物質を含む電池にて改善された低温放電電力性能、高温貯蔵性能及び熱暴走性能が得られる。
【0100】
以上、実施例を挙げて本出願を説明したが、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な改良、等価物でそのうちの部品を代替することが可能である。特に、構成の矛盾がない限り、各実施例において説明した各項技術特徴は、任意の方式で組み合わせて実施可能である。本出願は、これらの記載の特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された全ての技術案を含むものである。
【符号の説明】
【0101】
1 電池パック
2 上ケース
3 下ケース
4 電池モジュール
5 リチウムイオン二次電池
51 ケース
52 電極コンポーネント
53 蓋板
図1
図2
図3
図4
図5
図6