(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】エンドミル
(51)【国際特許分類】
B23C 5/10 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
(21)【出願番号】P 2022565012
(86)(22)【出願日】2020-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2020044552
(87)【国際公開番号】W WO2022113359
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000103367
【氏名又は名称】オーエスジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】請井 重俊
(72)【発明者】
【氏名】磯部 全孝
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-276010(JP,A)
【文献】特表2008-538729(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/297864(US,A1)
【文献】特開平6-246525(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/209201(US,A1)
【文献】米国特許第7001113(US,B2)
【文献】米国特許第3775819(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃長の全長に亘って刃径が一定の複数枚の外周切れ刃を有するエンドミルにおいて、
前記複数枚の隣り合う外周切れ刃は、ねじれ方向が途中で左右逆転するように刃長の全長において左右の一方から他方へ不可逆的に滑らかに変化しているとともに、軸心まわりに展開した展開図において円弧状乃至は弓状に湾曲した湾曲形状を成しており、且つ該湾曲形状の凹側に切れ刃が設けられている湾曲刃である
ことを特徴とするエンドミル。
【請求項2】
前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状は真円の一部から成る円弧である
ことを特徴とする請求項1に記載のエンドミル。
【請求項3】
前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状の最も凹んだ点をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とした時、P1とP2との間の周方向の幅寸法a、およびP1とP3との間の周方向の幅寸法bは、何れも刃長×0.0002以上で刃長×0.1300以下の範囲内であり、且つP1は工具軸方向においてP2から刃長の5%~95%の範囲内にある
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエンドミル。
【請求項4】
前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状の最も凹んだ点をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とし、P1とP2との間の周方向の幅寸法をa、P1とP3との間の周方向の幅寸法をbとした時、前記複数枚の各湾曲刃の前記幅寸法aと前記幅寸法bは相違しており、且つ隣り合う湾曲刃における前記幅寸法aおよび前記幅寸法bはそれぞれ互いに相違している
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のエンドミル。
【請求項5】
前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状の最も凹んだ点をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とし、P1とP2との間の周方向の幅寸法をa、P1とP3との間の周方向の幅寸法をbとした時、前記複数枚の各湾曲刃の前記幅寸法aと前記幅寸法bは相違しており、且つ隣り合う湾曲刃は前記幅寸法aおよび前記幅寸法bがそれぞれ互いに等しい同一形状である
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のエンドミル。
【請求項6】
前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状の最も凹んだ点をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とし、P1とP2との間の周方向の幅寸法をa、P1とP3との間の周方向の幅寸法をbとした時、前記複数枚の各湾曲刃の前記幅寸法aと前記幅寸法bは同じで、且つ隣り合う湾曲刃における前記幅寸法aおよび前記幅寸法bはそれぞれ互いに相違している
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のエンドミル。
【請求項7】
前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状の最も凹んだ点をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とし、P1とP2との間の周方向の幅寸法をa、P1とP3との間の周方向の幅寸法をbとした時、前記複数枚の各湾曲刃の前記幅寸法aと前記幅寸法bは同じで、且つ隣り合う湾曲刃は前記幅寸法aおよび前記幅寸法bがそれぞれ互いに等しい同一形状である
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のエンドミル。
【請求項8】
前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状の最も凹んだ点をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とし、P1とP2との間の周方向の幅寸法をa、P1とP3との間の周方向の幅寸法をbとした時、前記幅寸法aと前記幅寸法bが相違しているab相違湾曲刃と、前記幅寸法aと前記幅寸法bが同じab同一湾曲刃と、が混在している
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のエンドミル。
【請求項9】
前記複数枚の隣り合う外周切れ刃は、普通刃、ニック刃、およびラフィング刃の中の何れか1種類で構成されている
ことを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載のエンドミル。
【請求項10】
前記複数枚の外周切れ刃が設けられた刃部の表面が硬質被膜で被覆されている
ことを特徴とする請求項1~9の何れか1項に記載のエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンドミルに係り、特に、防振性能およびバリやデラミネーションの抑制に有効な新たな技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
防振性能に優れたエンドミルとして、複数枚の外周切れ刃のねじれ角が互いに相違している不等リードエンドミルが知られているが(特許文献1参照)、ねじれ角の影響で外周切れ刃がワーク表面に対して鈍角で切り込む側でバリやデラミネーション(以下、バリ等という。)が発生し易いという問題がある。これに対し、ねじれ方向が逆向きの2種類の外周切れ刃を工具軸方向に隣接して設けた所謂ヘリングボーン形状のエンドミルが提案されている(特許文献2参照)。このヘリングボーン形状のエンドミルによれば、ワークの上下両側の表面に対して何れも外周切れ刃が鋭角で切り込むようにすることが可能で、バリ等の発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-89212号公報
【文献】特開2013-22657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなヘリングボーン形状のエンドミルの場合、ねじれ方向が逆向きの2種類の外周切れ刃の重複部分の形状が複雑で切り屑が滞留し易く、切り屑詰まりにより加工条件が制約される可能性があった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、防振性能およびバリ等の抑制に有効な新たな外周切れ刃の切れ刃形状を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、刃長の全長に亘って刃径が一定の複数枚の外周切れ刃を有するエンドミルにおいて、前記複数枚の隣り合う外周切れ刃は、ねじれ方向が途中で左右逆転するように刃長の全長において左右の一方から他方へ不可逆的に滑らかに変化しているとともに、軸心まわりに展開した展開図において円弧状乃至は弓状に湾曲した湾曲形状を成しており、且つその湾曲形状の凹側に切れ刃が設けられている湾曲刃であることを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明のエンドミルにおいて、前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状は真円の一部から成る円弧であることを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第1発明または第2発明のエンドミルにおいて、前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状の最も凹んだ点をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とした時、P1とP2との間の周方向の幅寸法a、およびP1とP3との間の周方向の幅寸法bは、何れも刃長×0.0002以上で刃長×0.1300以下の範囲内であり、且つP1は工具軸方向においてP2から刃長の5%~95%の範囲内にあることを特徴とする。
【0009】
第4発明は、第1発明~第3発明の何れかのエンドミルにおいて、前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状の最も凹んだ点をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とし、P1とP2との間の周方向の幅寸法をa、P1とP3との間の周方向の幅寸法をbとした時、前記複数枚の各湾曲刃の前記幅寸法aと前記幅寸法bは相違しており、且つ隣り合う湾曲刃における前記幅寸法aおよび前記幅寸法bはそれぞれ互いに相違していることを特徴とする。
【0010】
第5発明は、第1発明~第3発明の何れかのエンドミルにおいて、前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状の最も凹んだ点をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とし、P1とP2との間の周方向の幅寸法をa、P1とP3との間の周方向の幅寸法をbとした時、前記複数枚の各湾曲刃の前記幅寸法aと前記幅寸法bは相違しており、且つ隣り合う湾曲刃は前記幅寸法aおよび前記幅寸法bがそれぞれ互いに等しい同一形状であることを特徴とする。
【0011】
第6発明は、第1発明~第3発明の何れかのエンドミルにおいて、前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状の最も凹んだ点をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とし、P1とP2との間の周方向の幅寸法をa、P1とP3との間の周方向の幅寸法をbとした時、前記複数枚の各湾曲刃の前記幅寸法aと前記幅寸法bは同じで、且つ隣り合う湾曲刃における前記幅寸法aおよび前記幅寸法bはそれぞれ互いに相違していることを特徴とする。
【0012】
第7発明は、第1発明~第3発明の何れかのエンドミルにおいて、前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状の最も凹んだ点をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とし、P1とP2との間の周方向の幅寸法をa、P1とP3との間の周方向の幅寸法をbとした時、前記複数枚の各湾曲刃の前記幅寸法aと前記幅寸法bは同じで、且つ隣り合う湾曲刃は前記幅寸法aおよび前記幅寸法bがそれぞれ互いに等しい同一形状であることを特徴とする。
【0013】
第8発明は、第1発明~第3発明の何れかのエンドミルにおいて、前記湾曲刃の前記展開図における湾曲形状の最も凹んだ点をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とし、P1とP2との間の周方向の幅寸法をa、P1とP3との間の周方向の幅寸法をbとした時、前記幅寸法aと前記幅寸法bが相違しているab相違湾曲刃と、前記幅寸法aと前記幅寸法bが同じab同一湾曲刃と、が混在していることを特徴とする。
【0014】
第9発明は、第1発明~第8発明の何れかのエンドミルにおいて、前記複数枚の隣り合う外周切れ刃は、普通刃、ニック刃、およびラフィング刃の中の何れか1種類で構成されていることを特徴とする。なお、普通刃は、ニック(溝)やラフィング(波形)が無い一定外径寸法の滑らかな通常の切れ刃である。
【0015】
第10発明は、第1発明~第9発明の何れかのエンドミルにおいて、前記複数枚の外周切れ刃が設けられた刃部の表面は硬質被膜で被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
このようなエンドミルにおいては、複数枚の隣り合う外周切れ刃が、ねじれ方向が途中で左右逆転しているとともに、軸心まわりに展開した展開図において湾曲形状を成しており、且つその湾曲形状の凹側に切れ刃が設けられている湾曲刃であるため、ねじれ角の変化によって切削力の向きが連続的に変化することで防振効果が得られる。また、湾曲刃によってワークの上下両側の表面におけるバリ等の発生が抑制されるとともに、滑らかな湾曲形状を成しているため切り屑の滞留が抑制されて加工条件の制約等が緩和される。
【0017】
第2発明は、湾曲刃が展開図において真円の一部から成る円弧の場合で、刃長の全域に亘って曲率が一定でねじれ角が一定の変化率で滑らかに変化しているため、防振効果や、バリ等の抑制効果、切り屑の滞留抑制効果が適切に得られる。
【0018】
第3発明では、P1が工具軸方向において底刃側端部のP2から刃長の5%~95%の範囲内にあり、且つ幅寸法a、bが何れも刃長×0.0002以上で刃長×0.1300以下の範囲内であるため、P2およびP3付近における曲率が比較的小さく、湾曲形状の切れ刃の内側に切り屑が溜り難くて切り屑の絡みつきが少なくなり、湾曲刃による防振効果や、バリ等の抑制効果、切り屑の滞留抑制効果が適切に得られる。
【0019】
第4発明~第8発明は、複数枚の湾曲刃の幅寸法aおよび幅寸法bの種々の態様を例示したもので、何れの場合も防振効果や、バリ等の抑制効果、切り屑の滞留抑制効果が得られる。
【0020】
第9発明は、複数枚の隣り合う外周切れ刃が普通刃、ニック刃、およびラフィング刃の中の何れか1種類で構成されている場合で、仕上げ用、中仕上げ用、荒取り用等の用途や、ワークの材質等に応じて、所定の切れ刃形状のエンドミルを採用することができる。
【0021】
第10発明では、複数枚の外周切れ刃が設けられた刃部の表面が硬質被膜で被覆されているため、ねじれ方向が途中で左右逆転している湾曲刃においても優れた切削耐久性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施例であるエンドミルを示した斜視図である。
【
図2】
図1のエンドミルが備えている3枚の外周切れ刃の湾曲形状を説明する図である。
【
図3】外周切れ刃の湾曲形状の種々の態様を例示した写真である。
【
図4】外周切れ刃の湾曲形状の更に別の態様を例示した図である。
【
図5】3枚刃のエンドミルの外周切れ刃が
図4の8種類の刃A~刃Hにて構成されている場合の組合せを説明する図である。
【
図6】3枚刃のエンドミルの外周切れ刃がニック刃またはラフィング刃にて構成されている場合を、普通刃と比較して例示した図である。
【
図7】3枚の外周切れ刃による切削力の向きおよび大きさと被削材に対する切込み態様を、本発明品と不等リードの従来品とを比較して説明する図である。
【
図8】不等リードの従来品の外周切れ刃の干渉を説明する図である。
【
図9】ヘリングボーン形状の従来品の被削材に対する位置ずれを説明する図である。
【
図10】切削加工試験を行なう際に用いた3種類の試験品を説明する図である。
【
図11】切削加工試験で測定する抵抗値の合力を説明する図である。
【
図12】切削加工試験における被削材と工具との位置関係を説明する図である。
【
図13】切削加工試験で測定した抵抗値の合力の振幅を説明する図である。
【
図14】切削加工試験の加工条件を説明する図である。
【
図15】
図14の加工条件で切削加工を行なって測定された抵抗値の合力の振幅と比率を説明する図である。
【
図16】
図15の振幅をグラフにより比較して示した図である。
【
図17】
図10と同じ試験品を用いて被削材が異なる別の切削加工試験を行なった際の加工条件を説明する図である。
【
図18】
図17の加工条件で切削加工を行なって測定された抵抗値の合力の振幅と比率を説明する図である。
【
図19】
図18の振幅をグラフにより比較して示した図である。
【
図20】外周切れ刃の湾曲形状の幅寸法a、bが異なる5種類の試験品を説明する図である。
【
図21】
図20の5種類の試験品の外周切れ刃の湾曲形状の写真である。
【
図22】
図20の試験品を用いて行なった切削加工試験の加工条件を説明する図である。
【
図23】
図22の切削加工試験で切り屑の絡み付き状況を観察した結果を説明する図である。
【
図24】
図22の切削加工試験で1刃当りの送り量が0.18mm/tの時の切り屑の写真を比較して示した図である。
【
図25】外周切れ刃の形状が異なる4種類の4枚刃の試験品を説明する図である。
【
図26】
図25の4種類の試験品が備えている外周切れ刃の形状を具体的に説明する図である。
【
図27】
図25の試験品を用いて行なった切削加工試験の加工条件を説明する図である。
【
図28】
図27の加工条件で切削加工を行なって測定された抵抗値の合力の最大値および振幅とそれぞれの比率を説明する図である。
【
図29】
図27の加工条件で切削加工を行なって測定された抵抗値の合力の振動波形を比較して示した図である。
【
図30】外周切れ刃の形状が異なる4種類の4枚刃の試験品を説明する図である。
【
図31】
図30の4種類の試験品が備えている外周切れ刃の形状を具体的に説明する図である。
【
図32】
図30の試験品を用いて行なった切削加工試験の加工条件を説明する図である。
【
図33】
図32の加工条件で切削加工を行なって測定された抵抗値の合力の最大値および振幅とそれぞれの比率を説明する図である。
【
図34】
図32の加工条件で切削加工を行なって測定された抵抗値の合力の振動波形を比較して示した図である。
【
図35】外周切れ刃の形状が異なる2種類の3枚刃の試験品を説明する図である。
【
図36】
図35の試験品No2の円弧刃の形状を具体的に説明する図である。
【
図37】
図35の試験品を用いて切削加工試験を行なった際の被削材と工具との位置関係を説明する図である。
【
図38】
図37の切削加工試験で得られた加工面のバリの写真を比較して示した図である。
【
図40】
図39の試験品を用いて行なった切削加工試験の加工条件を説明する図である。
【
図41】
図40の加工条件で切削加工試験を行なって得られた試験結果を説明する図で、抵抗値の合力の振動波形や、その合力の最大値および振幅、それ等の比率、バリの写真を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のエンドミルは、シャンク側から見て右まわりに回転駆動されて切削加工を行なうものでも、左まわりに回転駆動されて切削加工を行なうものでも良い。シャンク側から見て右まわりに回転駆動されて切削加工を行なう場合、湾曲刃はシャンク側が左ねじれで底刃側が右ねじれとなるように変化する湾曲形状を成すように構成され、シャンク側から見て左まわりに回転駆動されて切削加工を行なう場合、湾曲刃はシャンク側が右ねじれで底刃側が左ねじれとなるように変化する湾曲形状を成すように構成される。
【0024】
軸心まわりに展開した展開図において湾曲形状を成す湾曲刃は、例えば展開図において真円の一部から成る円弧とされるが、楕円形の一部から成る円弧であっても良いし、曲率が異なる複数の円弧を滑らかに接続したものでも良いし、円弧の途中に直線部が設けられたものでも良いなど、種々の態様が可能である。すなわち、シャンク側端部と底刃側端部との間において、右ねじれから左ねじれ、或いは左ねじれから右ねじれとなるように、ねじれ方向が左右の一方から他方へ不可逆的に滑らかに変化していれば良い。このような湾曲刃は、例えば5軸等の複合研削盤を用いてグラインダによる研削加工によって形成することができる。
【0025】
湾曲刃の展開図における湾曲形状の最も凹んだ点P1は、工具軸方向において底刃側端部のP2から刃長の5%~95%の範囲内にあることが望ましいが、少なくとも両端部における切れ刃のねじれ方向が逆であれば、5%未満や95%を超えた位置にP1があっても良い。また、幅寸法a、bは、何れも刃長×0.0002以上で刃長×0.1300以下の範囲内が適当であるが、刃長×0.0002未満や刃長×0.1300を超える幅寸法であっても良い。この湾曲刃の底刃側端部P2、シャンク側端部P3付近における曲率は、上記幅寸法a、bとも関係し、幅寸法a、bが大きい程一般的に曲率が大きくなる。幅寸法a、bとしては、例えば0.08mm~1.19mm程度の範囲が適当である。
【0026】
上記幅寸法a、bの少なくとも一方が異なる複数種類の湾曲刃を有する場合、隣り合う湾曲刃は異なる種類であることが望ましい。また、複数枚の湾曲刃が同一形状か否かに拘らず、複数枚の隣り合う湾曲刃は周方向に等間隔で配置することが望ましいが、周方向の間隔が異なる不等間隔で配置することも可能である。
【0027】
本発明のエンドミルは、例えばCFRP(炭素繊維強化プラスチック)やCFRTP(炭素繊維強化熱可塑性プラスチック)等のFRP(繊維強化プラスチック)に対するトリミング加工(外周切削加工)に好適に用いられるが、鉄鋼材料などの他の被削材に対する切削加工に使用することも可能である。エンドミルの材質としては、例えば超硬合金や高硬度焼結体が好適に用いられるが、高速度工具鋼等の他の硬質工具材料を採用することも可能で、必要に応じて切削耐久性を高めるために硬質被膜がコーティングされる。硬質被膜としては、金属間化合物の他、ダイヤモンド被膜などを採用することもできる。金属間化合物としては、元素の周期表の4族、5族、6族、13族の金属、例えばAl、Ti、V、Crなどの炭化物、窒化物、炭窒化物、或いはこれ等の相互固溶体が適当で、具体的にはTiN、TiAlN、TiCN、TiCrN、AlCrNなどが好適に用いられる。このような金属間化合物の硬質被膜は、例えばアークイオンプレーティング法やスパッタリング法等のPVD法によって好適に設けられるが、プラズマCVD法等の他の成膜法で設けることもできる。エンドミルの刃数は3枚または4枚が広く用いられているが、2枚刃或いは5枚刃以上のエンドミルにも適用され得る。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の一実施例であるエンドミル10を示す斜視図である。このエンドミル10は、シャンク12と刃部14とを同心に備えており、刃部14には3本の溝が設けられることにより3枚の外周切れ刃20a、20b、20c(以下、特に区別しない場合は単に外周切れ刃20という。)が形成されている。3枚の外周切れ刃20a、20b、20cの先端には、それぞれ底刃22a、22b、22c(以下、特に区別しない場合は単に底刃22という。)が連続して設けられている。エンドミル10は、シャンク12側から見て右まわりに回転駆動されることにより切削加工を行なうものである。このエンドミル10は超硬合金にて構成されているとともに、刃部14の表面にはダイヤモンド被膜等の硬質被膜24がコーティングされている。
図1の斜線部は硬質被膜24を表している。
【0029】
3枚の外周切れ刃20は、何れもねじれ方向が途中で左右逆転しているとともに、軸心まわりに展開した展開図において円弧状乃至は弓状に湾曲した湾曲形状を成しており、且つ湾曲形状の凹側に切れ刃が設けられている湾曲刃である。この湾曲刃は、例えば
図2に示す円弧刃A~Cのように、軸心まわりに展開した展開図における湾曲形状が真円の一部から成る円弧である。また、その展開図における湾曲形状の最も凹んだ点(凹点)、すなわち周方向において切削回転方向の最も後側の点、をP1、工具軸方向における底刃側端部をP2、工具軸方向におけるシャンク側端部をP3とした時、凹点P1と底刃側端部P2との間の周方向の幅寸法(底刃側幅寸法)a、および凹点P1とシャンク側端部P3との間の周方向の幅寸法(シャンク側幅寸法)bが、次式(1) 、(2) に示すように何れも刃長L×0.0002以上で刃長L×0.1300以下の範囲内となることが望ましい。幅寸法a、bの具体的寸法としては、例えば0.08mm~1.19mm程度の範囲内とされる。また、底刃側端部P2から凹点P1までの工具軸方向寸法Lp1は、次式(3) に示すように刃長Lの5%~95%の範囲内であることが望ましい。本実施例では、底刃側端部P2では右ねじれで、シャンク側端部P3では左ねじれとされている。なお、湾曲形状が円弧の場合、その円弧の中心点の工具軸方向位置は凹点P1と一致する。
L×0.0002≦a≦L×0.1300 ・・・(1)
L×0.0002≦b≦L×0.1300 ・・・(2)
L×0.05≦Lp1≦L×0.95 ・・・(3)
【0030】
本実施例のエンドミル10は、3枚の外周切れ刃20が例えば
図2の3種類の円弧刃A~Cの何れか1種類のみ、或いは2種類、或いは3種類で構成される。すなわち、例えば外周切れ刃20aは円弧刃Aで、外周切れ刃20bは円弧刃Bで、外周切れ刃20cは円弧刃Cで構成される。
【0031】
図3は、上記寸法Lp1の割合を0%、5%、50%、95%、100%とした場合の切れ刃形状の写真で、0%の場合は底刃側端部P2で軸心と平行な直刃になるため、底刃22側でバリ等を抑制する効果が適切に得られない。また、100%の場合はシャンク側端部P3で軸心と平行な直刃になるため、シャンク12側でバリ等を抑制する効果が適切に得られない。
【0032】
図4は、外周切れ刃20の更に別の例を説明する図で、刃A~刃Hは何れも外周切れ刃のことである。刃A~刃Cは、前記
図2の円弧刃A~円弧刃Cと同じである。刃Dは、刃Aと同様に底刃側幅寸法aとシャンク側幅寸法bが等しいが、円弧の曲率が小さい場合、すなわち円弧の半径が大きい場合で、幅寸法a、bは刃Aに比較して小さくなる。刃Eは、刃Aと同様に底刃側幅寸法aとシャンク側幅寸法bが等しいが、円弧の曲率が大きい場合、すなわち円弧の半径が小さい場合で、幅寸法a、bは刃Aに比較して大きくなる。刃Fは、湾曲形状が複数の曲線から構成されている場合で、凹点P1付近では刃Aと同じ曲率の円弧であるが、底刃側端部P2およびシャンク側端部P3付近では円弧の曲率が大きくされており、底刃側幅寸法aおよびシャンク側幅寸法bは互いに同じで前記刃Aの幅寸法a、bよりも大きい。刃Gは、湾曲形状が複数の曲線から構成されている場合で、刃Aに比較して底刃側端部P2付近の円弧の曲率が大きくされており、シャンク側幅寸法bは前記刃Aの幅寸法bと同じであるが、底刃側幅寸法aは前記刃Aの幅寸法aよりも大きい。刃Hは、刃Gとは逆に刃Aに比較してシャンク側端部P3付近の円弧の曲率が大きくされており、底刃側幅寸法aは前記刃Aの幅寸法aと同じであるが、シャンク側幅寸法bは前記刃Aの幅寸法bよりも大きい。
図5は、前記3枚刃のエンドミル10において、3枚の外周切れ刃20を
図4の8種類の刃A~刃Hの中の何れか3種類で構成した場合の組合せを示した図である。
図5の刃1、刃2、刃3はエンドミル10の外周切れ刃20a、20b、20cで、A~Hは
図4の刃A~刃Hを表している。上記刃A、刃D、刃E、刃Fは幅寸法a=bのab同一湾曲刃であり、他の刃B、刃C、刃G、刃Hは幅寸法a≠bのab相違湾曲刃である。なお、
図5には示されていないが、8種類の刃A~刃Hの中の何れか1種類のみ、或いは2種類で、3枚の外周切れ刃20を構成することも可能である。
【0033】
エンドミル10の外周切れ刃20はまた、
図6に示すように、ニックもラフィングも無い普通刃30a~30c(以下、特に区別しない場合は単に普通刃30という。)でも良いが、ニック刃32a~32c(以下、特に区別しない場合は単にニック刃32という。)としたりラフィング刃34a~34c(以下、特に区別しない場合は単にラフィング刃34という。)としたりすることも可能である。
図6の上段の写真は、すくい面側から見た普通刃30、ニック刃32、ラフィング刃34の拡大図で、下段は
図1のように斜め先端側から見た刃部14の写真である。普通刃30a~30cは、前記
図4に示すように展開図において所定の湾曲形状を成す湾曲刃である。ニック刃32a~32cおよびラフィング刃34a~34cは、湾曲形状の普通刃30a~30cにニックまたはラフィングを設けたもので、例えば刃長Lの全域にニックやラフィングを設けることもできるが、工具軸方向の一部、例えば刃長Lの5%~65%程度の範囲に設けるだけでも良い。ニックやラフィングを設ける位置は、刃長Lの中央部分でも良いし、シャンク12側や底刃22側であっても良く、異なる位置に設けることが望ましい。例えば
図6のニック刃32a、ラフィング刃34aは刃長Lの全域にニックやラフィングが設けられており、ニック刃32b、ラフィング刃34bはシャンク12側の一部にニックやラフィングが設けられており、ニック刃32c、ラフィング刃34cは底刃22側の一部にニックやラフィングが設けられている。上記ニックやラフィングは、例えば工具軸方向においてシャンク側端部P3から底刃22側に向かって刃長Lの70%の範囲の中の刃長Lの5%~65%の範囲に設けたり、底刃側端部P2からシャンク12側に向かって刃長Lの70%の範囲の中の刃長Lの5%~65%の範囲に設けたり、工具軸方向における刃長Lの中央から工具軸方向の両方向へ刃長Lの35%の範囲の中の刃長Lの5%~65%の範囲に設けたりすることが望ましい。
【0034】
このようなエンドミル10によれば、3枚の外周切れ刃20が、ねじれ方向が途中で左右逆転しているとともに、軸心まわりに展開した展開図において湾曲形状を成しており、且つその湾曲形状の凹側に切れ刃が設けられている湾曲刃であるため、ねじれ角の変化によって切削力の向きが連続的に変化することで防振効果が得られる。また、湾曲刃によってワークの上下両側の表面におけるバリ等の発生が抑制されるとともに、滑らかな湾曲形状を成しているため切り屑の滞留が抑制されて加工条件の制約等が緩和される。
【0035】
また、外周切れ刃20が展開図において真円の一部から成る円弧である場合、例えば
図4における刃A~刃Eの場合には、刃長Lの全域に亘って曲率が一定でねじれ角が一定の変化率で滑らかに変化しているため、防振効果や、バリ等の抑制効果、切り屑の滞留抑制効果が適切に得られる。
【0036】
また、外周切れ刃20の湾曲形状が、P1が工具軸方向において底刃側端部P2から刃長Lの5%~95%の範囲内にあり、且つ幅寸法a、bが何れも刃長L×0.0002以上で刃長L×0.1300以下の範囲内である場合、底刃側端部P2およびシャンク側端部P3付近における曲率が比較的小さく、湾曲形状の切れ刃の内側に切り屑が溜り難くて切り屑の絡みつきが少なくなり、湾曲刃による防振効果や、バリ等の抑制効果、切り屑の滞留抑制効果が適切に得られる。
【0037】
また、
図6に示すように3枚の外周切れ刃20が普通刃30、ニック刃32、およびラフィング刃34の中の何れか1種類で構成されている場合、仕上げ用、中仕上げ用、荒取り用等の用途や、ワークの材質等に応じて、所定の切れ刃形状のエンドミル10を採用することができる。
【0038】
また、複数枚の外周切れ刃20が設けられた刃部14の表面が硬質被膜24で被覆されているため、ねじれ方向が途中で左右逆転している湾曲刃である
図4の刃A~Hにおいても優れた切削耐久性が得られる。
【0039】
図7は、前記エンドミル10から成る本発明品1~3、および不等リードの従来品について、3枚の外周切れ刃の展開図に切削力を白抜き矢印で示すとともに、ワークWにトリミング加工(外周切削加工)を行なう場合の位置関係を示した図である。
図7の上段に示した白抜き矢印の方向は切削力の方向で、太さは切削力の大きさを表している。
図7の下段に示した位置関係は、ワークWが手前側で、外周切れ刃20を有する工具が奥側である。本発明品1は3枚の外周切れ刃20が何れも前記
図2の円弧刃Aの場合で、本発明品2は3枚の外周切れ刃20が
図2の円弧刃A、B、Cの場合で、本発明品3は3枚の外周切れ刃20が
図2の円弧刃Aのニック刃32の場合であり、何れの場合も切削力の向きおよび大きさが変化しているため、共振が抑制されて、不等リードの従来品と同様に防振効果が適切に得られる。本発明品3のニック刃32は、破線部分にニックが設けられている。また、本発明品1~3によれば、ワークWの上下両面に対して湾曲形状の外周切れ刃20またはニック刃32が鋭角で切り込むためバリ等の発生が抑制されるのに対し、従来品は、ワークWの上面側で鈍角になるため、星印で示す部分にバリ等が発生し易い。星印の大きさは、バリの大きさを表している。
【0040】
また、不等リードの従来品は、
図8に示すように干渉する可能性があるため、刃長や刃数、ねじれ角差が制約される場合がある。例えば左端の3枚刃の場合には、ねじれ角差が大きい刃3と刃1とが干渉する場合がある。中央の6枚刃の場合には、間隔が狭くて刃2と刃3、刃4と刃5、刃6と刃1とが、それぞれ干渉する場合がある。右端のロング刃長の4枚刃の場合には、ねじれ角差が比較的小さくても刃2と刃3、刃4と刃1とが、それぞれ干渉する場合がある。
【0041】
また、
図9に示すように、右ねじれ刃40と左ねじれ刃42とが工具軸方向に一部重複するように隣接して設けられているヘリングボーン形状のエンドミルの場合、それ等のねじれ刃40、42の重複部分で切り屑が滞留し易く、切り屑詰まりにより加工条件が制約される場合がある。また、位置ずれ1のように工具が左ねじれ刃42側へずれて右ねじれ刃40だけで切削加工が行なわれると、星印で示すようにワークWの上面にバリ等が発生する可能性があり、位置ずれ2のように工具が右ねじれ刃40側へずれて左ねじれ刃42だけで切削加工が行なわれると、星印で示すようにワークWの下面にバリ等が発生する可能性がある。また、曲面部分を加工プログラミングで動かすと、かけ上がり加工やかけ下がり加工になるため、工具にチッピングが発生し易い。
【0042】
次に、本発明の効果を具体的に明らかにするために行なった幾つかの切削加工試験を説明する。
【0043】
図10は切削加工試験を行なう際に用いた比較品(試験品No1、No2)および本発明品(試験品No3)を説明する図で、刃1~刃3は3枚の外周切れ刃のことである。本発明品(試験品No3)は3枚の刃1~刃3が前記
図2の円弧刃Aにて構成されているエンドミル10である。試験品No1、No2の3枚の刃1~刃3のねじれ角は同じで何れも5°である。試験品No3の3枚の刃1~刃3の幅寸法a、bは同じで、a=b=0.26mmである。これ等の試験品No1~No3の刃長Lは12mmで、刃径Φは6mmである。
図11は、切削加工試験で測定する抵抗値の合力Fを説明する図で、工具送り方向の送り分力Fx、加工面に直角な方向の主分力Fy、および工具軸方向(被削材の板厚方向)の背分力Fzの合力Fを測定する。この合力Fは、ワークWに加えられる負荷に対応する。
図12は、切削加工試験におけるワークWと工具Tとの位置関係を説明する図で、テーブルから30mm突き出した位置でワークWの外周面にトリミング加工が行なわれる。Wfは加工面である。
図13は、切削加工試験で測定した抵抗値の合力Fの振幅を説明する図で、合力Fの最大値と最小値との幅が振幅である。
【0044】
そして、
図14に示す加工条件で切削加工を行い、合力Fを測定してその振幅を求めた結果が
図15であり、試験品No3の本発明品によれば、従来のねじれ刃の比較品(試験品No1、No2)に比較して振幅が25%程度小さくなった。
図15の比率(%)は、試験品No1の振幅を100%とした場合の値である。また、
図16は、
図15の振幅をグラフにより比較して示した図である。
【0045】
図17は、
図10と同じ試験品No1~No3を用いて被削材が異なる別の切削加工試験を行なった際の加工条件であり、ここではS50C(機械構造用炭素鋼)に対して切込みap(軸方向)=6mm、切込みae(径方向)=0.3mmで側面切削加工を行なった。
図18は測定した合力Fの振幅と、試験品No1の振幅を100%とした場合の比率を示した図で、試験品No3の本発明品によれば、従来のねじれ刃の比較品(試験品No1、No2)に比較して振幅が36%程度小さくなった。
図19は、
図18の振幅をグラフにより比較して示した図である。
【0046】
図20~
図24は、更に別の切削加工試験を行なった結果を説明する図で、
図20は、湾曲形状の底刃側幅寸法a、シャンク側幅寸法bが異なる5種類の試験品No1~No5を説明する図であり、何れも幅寸法a=bである。すなわち、試験品No1~No5は何れも本発明品で、3枚の外周切れ刃20が前記
図2の円弧刃Aにて構成されているエンドミル10であり、幅寸法a、bの寸法がそれぞれ相違している。ここで、刃長L=12mmの場合、前記(1) 式および(2) 式におけるL×0.0002は0.0024mmで、L×0.1300は1.56mmであり、試験品No5を除いて前記(1) 式および(2) 式の条件を満たしている。
図21は、
図20の5種類の試験品No1~No5の外周切れ刃20の湾曲形状の写真であり、幅寸法a、bが大きくなるに従って円弧の曲率が大きくなる。
【0047】
そして、
図22に示す加工条件で1刃当りの送り量を変更しつつ切削加工を行い、切り屑の絡み付き状況を観察したところ、
図23に示す試験結果が得られた。
図23に示されるように、試験品No1~No4については1刃当りの送り量が0.02mm/t~0.18mm/tの総ての条件で絡み付きが認められなかった。これに対し、幅寸法a、bが比較的大きい試験品No5では、1刃当りの送り量が0.06mm/t~0.14mm/tの範囲で小さな絡み付きが認められ、1刃当りの送り量が0.18mm/tになると絡み付きが大きくなって加工不可になった。
図24は、1刃当りの送り量が0.18mm/tにおける各試験品No1~No5の切り屑の写真で、試験品No5では、多数の切り屑が絡み合って大きな固まりになっていることが分かる。これは、幅寸法a、bが大きくなるに従って外周切れ刃20の円弧の曲率が大きくなるため、その外周切れ刃20の円弧の内側に切り屑が溜まり易くなり、互いに絡み合って大きな固まりになるものと考えられる。この結果から、幅寸法a、bとしては0.08mm~1.19mm程度の範囲内が望ましい。
【0048】
図25~
図29は、更に別の切削加工試験を行なった結果を説明する図で、
図25は、4種類の4枚刃の試験品No1~No4を説明する図であり、
図26は4種類の試験品No1~No4が備えている刃1~刃4の形状を具体的に説明する図である。刃1~刃4は、何れも外周切れ刃のことである。試験品No1は、4枚の刃1~刃4が何れも右ねじれ刃の従来品で、ねじれ角は総て5°である。試験品No2~No4は、4枚の刃1~刃4が何れも円弧刃の本発明品で、試験品No2は、底刃側幅寸法aがシャンク側幅寸法bよりも大きい
図26の円弧刃Aにて4枚の刃1~刃4が構成されている。円弧刃Aの底刃側幅寸法aは0.96mmで、シャンク側幅寸法bは0.01mmである。試験品No3は、底刃側幅寸法aがシャンク側幅寸法bよりも小さい
図26の円弧刃Bにて4枚の刃1~刃4が構成されている。円弧刃Bの底刃側幅寸法aは0.01mmで、シャンク側幅寸法bは0.96mmである。試験品No4は、
図26の円弧刃Aと円弧刃Bが交互に設けられて4枚の刃1~刃4が構成されている。
【0049】
そして、
図27に示す加工条件で切削加工を行い、合力Fを測定してその最大値および振幅と、試験品No1の最大値および振幅を100%とした場合の比率を求めた結果が
図28である。また、
図29は、測定した合力Fの抵抗値の実際の振動波形を比較して示した図である。この結果から、試験品No2、No3の本発明品によれば、試験品No1の右ねじれ刃の従来品に比較して、合力Fの最大値および振幅が20%~21%程度小さくなった。また、2種類の円弧刃A、Bを交互に設けた試験品No4の本発明品によれば、試験品No1の右ねじれ刃の従来品に比較して、合力Fの最大値および振幅が何れも52%程度小さくなった。
【0050】
図30~
図34は、更に別の切削加工試験を行なった結果を説明する図で、
図30は4種類の4枚刃の試験品No1~No4を説明する図であり、刃1~刃4は何れも外周切れ刃のことである。試験品No1は、4枚の刃1~刃4が、何れもねじれ角が0°のストレート刃である
図31の刃Aにて構成されている従来品である。試験品No2は、4枚の刃1~刃4が、何れもねじれ角が5°の右ねじれ刃である
図31の刃Bにて構成されている従来品である。試験品No3、No4は、4枚の刃1~刃4が何れも円弧刃の本発明品で、試験品No3は、底刃側幅寸法aとシャンク側幅寸法bが同じab同一湾曲刃であるが、その幅寸法a、bの大きさが異なる
図31の2種類の刃Cおよび刃Dが交互に設けられて4枚の刃1~刃4が構成されている。試験品No4は、底刃側幅寸法aとシャンク側幅寸法bが同じab同一湾曲刃で、その幅寸法a、bが比較的小さい
図31の1種類の刃Cのみで4枚の刃1~刃4が構成されている。
【0051】
そして、
図32に示す加工条件で切削加工を行い、合力Fを測定してその最大値および振幅と、試験品No1の最大値および振幅を100%とした場合の比率を求めた結果が
図33である。また、
図34は、測定した合力Fの抵抗値の実際の振動波形を比較して示した図である。この結果から、試験品No3、No4の本発明品によれば、試験品No1のストレート刃の従来品に比較して、合力Fの最大値が25%~27%程度小さくなり、振幅が34%程度小さくなった。なお、2種類の異なる円弧刃からなる試験品No3と等しい円弧刃からなる試験品No4との間に有為な差異は認められなかった。また、試験品No2の右ねじれ刃の従来品は、試験品No1のストレート刃の従来品に比較して、合力Fの最大値や比率が3%~5%程度大きくなった。
【0052】
図35~
図38は、更に別の切削加工試験を行なった結果を説明する図で、
図35は2種類の3枚刃の試験品No1、No2を説明する図であり、刃1~刃3は何れも外周切れ刃のことである。試験品No1は、3枚の刃1~刃3のねじれ角が異なる不等リードの従来品で、何れも右ねじれ刃にて構成されているとともに、刃1のねじれ角は5°、刃2のねじれ角は7°、刃3のねじれ角は9°である。試験品No2は、3枚の刃1~刃3が何れも円弧刃の本発明品で、
図36に示されている円弧刃A、円弧刃B、円弧刃Cの3種類の円弧刃にて構成されている複合円弧刃である。円弧刃Aは底刃側幅寸法a=シャンク側幅寸法bのab同一湾曲刃で、円弧刃Bは底刃側幅寸法a>シャンク側幅寸法bのab相違湾曲刃で、円弧刃Cは底刃側幅寸法a<シャンク側幅寸法bのab相違湾曲刃である。
【0053】
そして、前記
図14と同じ加工条件で
図37に示すように切削加工を行い、ワークWの加工面Wfの上面側および下面側のバリの発生状況を調べたところ、
図38に示す結果が得られた。
図38は、加工面Wfの上面側および下面側のバリの写真を比較して示した図で、複合円弧刃の試験品No2の本発明品によれば、不等リードの試験品No1の従来品に比較して上面側および下面側のバリが何れも小さくなった。
【0054】
図39~
図41は、更に別の切削加工試験を行なった結果を説明する図で、
図39は3種類の3枚刃の試験品No1~No3を説明する図である。試験品No1~No3は、前記
図6および
図41の工具画像に示されているように、前記外周切れ刃20として普通刃30、ニック刃32、またはラフィング刃34が設けられたもので、何れも本発明品である。試験品No1は、3枚の普通刃30が前記
図2の円弧刃Aにて構成されているエンドミル10で、幅寸法a、bは同じで、a=b=0.26mmであり、試験品No2および試験品No3は、試験品No1の普通刃30にニックやラフィングを設けたものである。
【0055】
そして、
図40に示す加工条件で切削加工を行い、合力Fの抵抗値の振動波形や、その合力Fの最大値および振幅、試験品No1の最大値および振幅を100%とした場合の比率、加工面の上面側および下面側のバリの発生状況を調べたところ、
図41に示す結果が得られた。この結果から、ラフィング刃34が設けられた試験品No3によれば、普通刃30の試験品No1に比較して、合力Fの最大値および振幅が何れも56%程度小さくなるが、上面側および下面側のバリが何れも大きくなり、例えば荒取り用に好適に用いられる。ニック刃32が設けられた試験品No2によれば、普通刃30の試験品No1に比較して、合力Fの最大値および振幅が何れも47%程度小さくなる一方、上面側および下面側のバリが何れも大きくなるが、ラフィング刃34の試験品No3よりはバリが小さく、例えば中仕上げ用に好適に用いられる。
【0056】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0057】
10:エンドミル 12:シャンク 14:刃部 20a、20b、20c:外周切れ刃(湾曲刃) 22a、22b、22c:底刃 24:硬質被膜 30a、30b、30c:普通刃 32a、32b、32c:ニック刃 34a、34b、34c:ラフィング刃 L:刃長 P1:凹点 P2:底刃側端部 P3:シャンク側端部 a:底刃側幅寸法 b:シャンク側幅寸法