IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソフトバンクモバイル株式会社の特許一覧

特許7463583基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム
<>
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図1
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図2
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図3
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図4
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図5
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図6
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図7
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図8
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図9
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図10
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図11
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図12
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図13
  • 特許-基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】基地局、システム、並びに、アンテナ指向性のヌルを形成する方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/0456 20170101AFI20240401BHJP
   H04B 7/06 20060101ALI20240401BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20240401BHJP
   H04W 16/14 20090101ALI20240401BHJP
【FI】
H04B7/0456 300
H04B7/06 152
H04B7/06 910
H04W16/28
H04W16/14
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023035064
(22)【出願日】2023-03-07
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】田代 晃司
(72)【発明者】
【氏名】星野 兼次
(72)【発明者】
【氏名】長手 厚史
【審査官】吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-503711(JP,A)
【文献】特表2012-506194(JP,A)
【文献】米国特許第7995528(US,B1)
【文献】特表2020-512755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/0456
H04B 7/06
H04W 16/28
H04W 16/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル内の端末との無線通信に用いる複数のビームの候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナを有し地上又は海上に固定配置された基地局であって、
前記コードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定する手段と、
前記複数組のコードブックサブセットから、前記ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択する手段と、
前記ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止する手段と、
を備える、ことを特徴とする基地局。
【請求項2】
請求項1の基地局において、
前記コードブックは、前記多素子アンテナを中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックであり、
前記コードブックサブセットは、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、方位角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットであり、
前記ビームフォーミング制御において、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉対象に対応する方位角の方向への利得が最大となる干渉ビームの使用を停止する、
ことを特徴とする基地局。
【請求項3】
請求項1の基地局において、
前記コードブックは、前記多素子アンテナを中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックであり、
前記コードブックサブセットは、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、仰俯角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットであり、
前記ビームフォーミング制御において、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉対象に対応する仰俯角の方向への利得が最大となる干渉ビームの使用を停止する、
ことを特徴とする基地局。
【請求項4】
請求項1の基地局において、
前記コードブックは、前記多素子アンテナを中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックであり、
前記コードブックサブセットは、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、方位角方向及び仰俯角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットであり、
前記ビームフォーミング制御において、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉対象に対応する方位角及び仰俯角の方向への利得が最大となる干渉ビームの使用を停止する、
ことを特徴とする基地局。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの基地局において、
前記被干渉対象は、衛星通信システムの衛星地上局である、
ことを特徴とする基地局。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかの基地局において、
前記被干渉対象は、当該基地局が設置された国に隣接する隣接国に設置された他の基地局又は前記隣接国に設置された衛星通信システムの衛星地上局である、
ことを特徴とする基地局。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかの基地局において、
前記被干渉対象は、電波天文観測局のアンテナである、
ことを特徴とする基地局。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれかの基地局と、被干渉対象の他の基地局、衛星通信システムの衛星地上局又は電波天文観測局のアンテナと、を備える、ことを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれかの基地局と、被干渉対象の他の基地局、衛星通信システムの衛星地上局又は電波天文観測局のアンテナと、前記基地局と通信する端末と、を備える、ことを特徴とするシステム。
【請求項10】
セル内の端末との無線通信に用いる複数のビームの候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナを有し地上又は海上に固定配置された基地局におけるアンテナ指向性のヌルを形成する方法であって、
前記コードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定することと、
前記複数組のコードブックサブセットから、前記ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択することと、
前記ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止することと、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項11】
セル内の端末との無線通信に用いる複数のビームの候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナを有し地上又は海上に固定配置された基地局に備えるコンピュータ又はプロセッサにおいて実行されるプログラムであって、
前記コードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定するためのプログラムコードと、
前記複数組のコードブックサブセットから、前記ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択するためのプログラムコードと、
前記ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止するためのプログラムコードと、
を含む、ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コードブックを用いてビームフォーミング制御を行う基地局及びシステム、並びに、コードブックを用いてビームフォーミング制御を行う方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信における一部の周波数帯域では、互いに異なる複数の無線通信システムによる利用が認められている。例えば、日本における3.7GHz帯(3.6GHz~4.2GHz)では、第5世代の移動通信システムによる利用と、固定衛星通信システムのダウンリンクによる利用が認められている。この場合、移動通信システムの基地局から固定衛星通信システムの衛星地上局(「地球局」ともいう。)のダウンリンクへの干渉が発生するおそれがある。特に、移動通信システムの基地局のアンテナとして用いられるMassive MIMO等の超多素子で構成されたアレーアンテナは高利得であり、干渉電力も大きくなる。このような干渉を低減するため、移動通信システムの基地局を設置する事業者は、衛星地上局(被干渉対象)を運用する事業者との間で事前の干渉調整を行う必要がある。例えば、衛星地上局(被干渉対象)の近くに位置する全基地局からの干渉(電力)の総和を所定の基準値以下に抑える干渉調整を行う必要がある。
【0003】
従来、基地局間の干渉を回避する方法として、基地局アンテナの方位角及び仰俯角が互いに異なる複数の指向性ビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合であるコードブックに基づくコードブック型のビームフォーミングを行う基地局において、ビームフォーミングに使用するコードブックを制限する方法が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、送信端が、基本コードブックから選択された少なくとも一つ以上のプリコーディング行列を含む基本コードブックサブセットを生成し、前記基本コードブックサブセットに含まれるプリコーディング行列を示す基本コードブックサブセット指示子を受信端に伝送する干渉制御方法が開示されている。この干渉制御方法によれば、無線通信システムの性能を向上させる、隣接セルに及ぼす干渉を減少させる、オーバーッドを減少させる、などの効果があるとされている。
【0005】
また、特許文献2には、コードブックを使用する無線通信システムにおいてセル間干渉を回避する方法であって、基地局が、前記コードブックの一部の使用を制限するための情報を隣接セルから受信し、前記基地局が、セル内で一つ以上の端末が使用しない「制限-PMI」として前記コードブックのプリコーディング行列指示子(PMI)を決定する、セル間干渉回避方法が開示されている。このセル間干渉回避方法によれば、セル間干渉を効果的に回避することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2012-506194号公報
【文献】特表2011-518478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のビームフォーミング制御に使用するコードブックを制限する方法では、被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果は得られない、という課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る基地局は、セル内の端末との無線通信に用いる複数のビームの候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナを有し地上又は海上に固定配置された基地局である。この基地局は、前記コードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定する手段と、前記複数組のコードブックサブセットから、前記ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択する手段と、前記ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止する手段と、を備える。
【0009】
本発明の他の態様に係るシステムは、前記基地局と、被干渉対象の他の基地局、衛星通信システムの衛星地上局又は電波天文観測局のアンテナと、を備える。
【0010】
本発明の更に他の態様に係るシステムは、前記基地局と、被干渉対象の他の基地局、衛星通信システムの衛星地上局又は電波天文観測局のアンテナと、前記基地局と通信する端末と、を備える。
【0011】
本発明の更に他の態様に係る方法は、セル内の端末との無線通信に用いる複数のビームの候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナを有し地上又は海上に固定配置された基地局におけるアンテナ指向性のヌルを形成する方法である。この方法は、前記コードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定することと、前記複数組のコードブックサブセットから、前記ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択することと、前記ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止することと、を含む。
【0012】
本発明の更に他の態様に係るプログラムは、セル内の端末との無線通信に用いる複数のビームの候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナを有し地上又は海上に固定配置された基地局に備えるコンピュータ又はプロセッサにおいて実行されるプログラムである。このプログラムは、前記コードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定するためのプログラムコードと、前記複数組のコードブックサブセットから、前記ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択するためのプログラムコードと、前記ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止するためのプログラムコードと、を含む。
【0013】
前記基地局、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記コードブックは、前記多素子アンテナを中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックであり、前記コードブックサブセットは、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、方位角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットであり、前記ビームフォーミング制御において、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉対象に対応する方位角の方向への利得が最大となる干渉ビームの使用を停止してもよい。
【0014】
前記基地局、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記コードブックは、前記多素子アンテナを中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックであり、前記コードブックサブセットは、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、仰俯角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットであり、前記ビームフォーミング制御において、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉対象に対応する仰俯角の方向への利得が最大となる干渉ビームの使用を停止してもよい。
【0015】
前記基地局、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記コードブックは、前記多素子アンテナを中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックであり、前記コードブックサブセットは、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、方位角方向及び仰俯角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットであり、前記ビームフォーミング制御において、前記コードブックに対応する前記複数のビームのうち、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉対象に対応する方位角及び仰俯角の方向への利得が最大となる干渉ビームの使用を停止してもよい。
【0016】
前記基地局、前記システム、前記方法及び前記プログラムにおいて、前記被干渉対象は、衛星通信システムの衛星地上局であってもよい。前記被干渉対象は、当該基地局が設置された国に隣接する隣接国に設置された他の基地局又は前記隣接国に設置された衛星通信システムの衛星地上局であってもよい。前記被干渉対象は、電波天文観測局のアンテナであってもよい。
【0017】
前記複数組のコードブックサブセットの決定、前記コードブックサブセットの選択及び前記ビームの使用の停止を行うプログラムには、機械学習に用いられる学習済モデルを含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、コードブックを用いてビームフォーミング制御を行う基地局において、被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1(a)及び図1(b)はそれぞれ、実施形態に係る地上セル基地局におけるコードブックでビームフォーミング制御の候補となる水平面内及び垂直面内の複数のビームの一例を示す図である。
図2図2(a)及び図2(b)はそれぞれ、比較参考例のコードブック制限の一例を示す説明図である。
図3図3は、実施形態に係る地上セル基地局におけるコードブック制限の一例を示す図である。
図4図4(a)は、実施形態の水平コードブック制限による衛星地上局への干渉の低減の一例を示す図である。図4(b)は、実施形態の垂直コードブック制限による衛星地上局への干渉の低減の一例を示す図である。
図5図5は、実施形態の垂直コードブック制限による隣国間干渉の低減の一例を示す図である。
図6図6は、実施形態のコードブックを用いたビームフォーミング制御における方位角方向及び仰俯角方向の複数のビーム候補の配列の一例を示す図である。
図7図7は、図6の方位角方向における複数のビームのピーク角の一例を示す図である。
図8図8は、実施形態のコードブックを用いたビームフォーミング制御におけるコードブック制限前のビーム分布の一例を示す図である。
図9図9は、比較参考例のコードブック制限における使用停止対象のビームと、それらに対応するピークの方位角の一例を示す図である。
図10図10は、図9のコードブック制限を行った場合のビーム分布の一例を示す図である。
図11図11は、実施形態のコードブック制限における使用停止対象のビームと、それらに対応するヌルの方位角の一例を示す図である。
図12図12は、実施形態のビームフォーミング制御で選択可能な複数のコードブックサブセットの直交グループ1~4それぞれのビーム分布の一例を示す図である。
図13図13は、実施形態で選択したコードブックサブセットの直交グループ2におけるビーム使用停止の一例を示す図である。
図14図14は、実施形態に係る地上セル基地局の主要構成の一例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本書に記載された実施形態に係る基地局は、地上セル内の端末との無線通信に用いる複数の指向性ビーム(以下、単に「ビーム」ともいう。)の候補に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックを用いてビームフォーミング制御を行う多素子アンテナ(例えば、Massive MIMO等の超多素子で構成されたアレーアンテナ)を有し、地上又は海上に固定配置された地上セル基地局(以下「地上基地局」ともいう。)である。本実施形態の地上基地局は、コードブックで定義されるビームフォーミング制御における複数のビーム候補の直交性を着目して複数組のコードブックサブセットを決定し、その複数組のコードブックサブセットから特定のコードブックサブセットを選択して使用対象とし、更に、その選択したコードブックサブセットにおける複数のビームのうち、被干渉対象(例えば、衛星通信システムの衛星地上局、近隣国の衛星地上局若しくは地上基地局、又は、電波天文観測局のアンテナ)の方向への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)の使用を停止している。これにより、地上基地局が形成するビームによる被干渉対象(例えば、衛星地上局、地上基地局等)への干渉について、被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果が得られる。
【0021】
図1(a)及び図1(b)はそれぞれ、実施形態に係る地上基地局30におけるコードブックでビームフォーミング制御の候補となる水平面内及び垂直面内の複数のビーム320の一例を示す説明図である。なお、地上基地局30は、多素子アンテナである基地局アンテナ310を有するRRH(遠隔無線ヘッド)とBBU(ベースバンドユニット)とを光回線で接続した構成であってもよい。この場合、図1中の基地局30の位置に、基地局アンテナ310を有するRRHが位置する。また、基地局アンテナ310は、例えば、平板状のアンテナ基体を有し、そのアンテナ基体の平面状のアンテナ面に沿って多数のパッチアンテナなどのアンテナ素子が互いに直交する軸方向に二次配列された平面型のアレーアンテナである。
【0022】
地上基地局30とUE65との無線通信の上りリンク及び下りリンクの複信方式は、特定の方式に限定されず、例えば、時分割複信(Time Division Duplex:TDD)方式でもよいし、周波数分割複信(Frequency Division Duplex:FDD)方式でもよい。また、地上基地局30とUE65との無線通信のアクセス方式は、特定の方式に限定されず、例えば、FDMA(Frequency Division Multiple Access)方式、TDMA(Time Division Multiple Access)方式、CDMA(Code Division Multiple Access)方式、又は、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)であってもよい。
【0023】
地上基地局30のサービスリンクの無線通信には、ダイバーシティ・コーディング、送信ビームフォーミング、空間分割多重化(SDM:Spatial Division Multiplexing)等の機能を有し、多数のアンテナ素子を有するアレーアンテナを用いてマルチレイヤ伝送を行うmassive MIMO(多入力多出力:Multiple-Input Multiple-Output)伝送方式を用いている。
【0024】
特に、本実施形態では、地上基地局30から自セル内の複数のUE65への下りリンク通信において、複数の異なるUE65に同一時刻・同一周波数で信号を送信するMU-MIMO(Multi-User MIMO)技術を用いている。多数のアンテナ素子を有するアレーアンテナ310に対してコードブックを用いたビームフォーミング制御によってMU-MIMO伝送を行うことにより、各UE65の通信環境に応じてUE65ごとに適切なビームを向けて通信できるため、セル全体の通信品質を改善できる。また、同一の無線リソース(時間・周波数リソース)を用いて複数のUE65との通信ができるため、システム容量を拡大することができる。
【0025】
実施形態の地上基地局30におけるビームフォーミング制御で用いるコードブックは、基地局アンテナ310の方位角及び仰俯角が互いに異なる複数の指向性ビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合である。例えば、移動通信の国際標準化機関の一つである3GPP(3rd Generation Partnership Project)では、離散フーリエ変換(DFT)に基づくコードブックが採用されている。
【0026】
ここで、基地局アンテナ310の指向性ビームの「方位角」φは、基地局アンテナ310の中心を通る水平面において、基地局アンテナ310を中心とした特定方向を基準にした指向性ビームを投影したビームの方向の角度である。上記特定方向は、例えば、基地局アンテナ310のアンテナ面に垂直な方向を水平面に投影した方向である。また、基地局アンテナ310の指向性ビームの「仰俯角」θは、基地局アンテナ310の中心及び指向性ビームの方向を通る垂直面において、基地局アンテナ310を中心とした水平方向を基準にした指向性ビームの上下方向の角度である。仰俯角θのプラス側の角度は仰角ともいい、仰俯角θのマイナス側の角度は俯角ともいう。
【0027】
コードブックを用いたビームフォーミング制御では、例えば、ユーザ装置である端末65が、基地局・ユーザ間のチャネル推定結果に基づいて、自身に最適なビームに対応するプリコーディング行列を指定する指定情報(インデックス)であるプリコーディング行列指示子(PMI:Precoding Matrix Indicator)を地上基地局30に通知する。地上基地局30は、ユーザの端末65から通知されたビーム320Cに対応するプリコーディングウェイト行列を選択し、選択したプリコーディングウェイト行列を適用して形成されるビーム320Cを用いて端末65との通信を行う。
【0028】
前述のように、無線通信における一部の周波数帯域では、互いに異なる複数の無線通信システム(例えば、第5世代の移動通信システム、固定衛星通信システム)による利用が認められているが、移動通信システムの基地局から固定衛星通信システムの衛星地上局のダウンリンクへの干渉が発生するおそれがある。特に、本実施形態のように超多素子で構成されたアレーアンテナ310は高利得であり、干渉電力も大きくなる。
【0029】
コードブックを用いたビームフォーミング制御を行う地上基地局30から被干渉対象(例えば、衛星地上局、地上基地局等)への干渉を低減する方法として、コードブック制限を用いた方法がある。
【0030】
図2(a)及び図2(b)はそれぞれ、比較参考例における水平面内のビーム(水平ビーム)に対応するコードブック制限の一例を示す説明図である。図2(a)の方法は、地上基地局30のビームフォーミング制御において、コードブックで定義されている複数の水平ビーム320のうち被干渉対象の方向(以下「被干渉方向」ともいう。)を向いている単一のビーム320Sの利用を停止する方法である。この方法では、被干渉方向に対応するビーム320Sを停止することで、わずかな干渉低減効果が得られる。しかしながら、利用を停止するビーム320S以外の他のビーム320のサイドローブが被干渉方向にも放射されるので、干渉低減効果は限定的である。図2(b)の方法は、地上基地局30のビームフォーミング制御において、コードブックで定義されている複数の水平ビーム320のうち被干渉対象の方向(被干渉方向)を向いているビームを含む連続する複数のビーム320Sの利用を停止する方法である。この方法では、隣接する複数のビーム320Sを停止することで、サイドローブに起因する干渉を低減することができる。しかしながら、サイドローブを完全に抑圧できないので、干渉低減効果は数dB程度にとどまる。図2(a)及び図2(b)の比較参考例におけるコードブック制限を利用した方法では、被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果は得られない。
【0031】
そこで、本実施形態の地上基地局30では、ビームフォーミング制御において利用を停止するビームの選択を工夫したコードブック制限により、被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ている。ここで、上記被干渉対象は、例えば、衛星通信システムの衛星地上局90である。また、上記被干渉対象は、地上基地局30が設置された国に隣接する隣接国に設置された他の地上基地局又は前記隣接国に設置された衛星地上局、又は、電波天文観測局のアンテナであってもよい。
【0032】
例えば、コードブックに基づくビームフォーミングを利用する地上基地局30を備える無線通信システムにおいて、コードブックの一部の使用を制限することにより、基地局アンテナ310から特定の被干渉方向に対するトラフィックCH(チャネル)の干渉を低減する。
【0033】
本実施形態のビームフォーミング制御に用いられる、基地局アンテナ(多素子アンテナ)310を中心とした方位角及び仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックを制限するコードブック制限の方法では、次の(A1)~(A4)を行う。
【0034】
(A1)予め設定されたコードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定する。
【0035】
(A2)複数組のコードブックサブセットから、ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択する。
【0036】
(A3)ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止する。
【0037】
(A4)更に、ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉方向への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)の使用を停止する。
【0038】
また、本実施形態のビームフォーミング制御に用いられる、基地局アンテナ(多素子アンテナ)310を中心とした方位角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックを制限する水平コードブック制限の方法では、次の(B1)~(B4)を行う。
【0039】
(B1)予め設定されたコードブックに基づき、方位角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組の水平コードブックサブセットを決定する。
【0040】
(B2)複数組の水平コードブックサブセットから、水平面内のビームフォーミング制御に用いる水平コードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなる水平コードブックサブセットを選択する。
【0041】
(B3)水平面内のビームフォーミング制御において、前記選択した水平コードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止する。
【0042】
(B4)更に、水平面内のビームフォーミング制御において、前記選択した水平コードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉方向への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)の使用を停止する。
【0043】
また、本実施形態のビームフォーミング制御に用いられる、基地局アンテナ(多素子アンテナ)310を中心とした仰俯角が互い異なる複数のビームの候補に対応するコードブックを制限する垂直コードブック制限の方法では、次の(C1)~(C4)を行う。
【0044】
(C1)予め設定されたコードブックに基づき、仰俯角方向において互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組の垂直コードブックサブセットを決定する。
【0045】
(C2)複数組の垂直コードブックサブセットから、垂直面内のビームフォーミング制御に用いる垂直コードブックサブセットとして、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなる垂直コードブックサブセットを選択する。
【0046】
(C3)垂直面内のビームフォーミング制御において、前記選択した垂直コードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止する。
【0047】
(C4)更に、垂直面内のビームフォーミング制御において、前記選択した垂直コードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、被干渉方向への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)の使用を停止する。
【0048】
図3は、実施形態に係る地上基地局30におけるコードブック制限の一例を示す説明図である。本実施形態のコードブック制限の方法では、例えば図3に示すように、予め設定されたコードブックに基づいて、互いに直交する複数の水平ビーム321に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを、ビームフォーミング制御で利用可能な対象として選択し、更に、その選択したコードブックサブセットに対応する複数の水平ビーム321のうち被干渉対象の方向への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)321Sの使用を停止するように、コードブック制限を行う。このようにコードブック制限を行うだけで、被干渉対象の方向に向けて完全なヌルを形成することができる。前述のように異なる通信事業者間又は隣国間の干渉調整では厳しい基準が設けられるが、本実施形態の地上基地局30では被干渉方向に完全なヌルを向けることができ、与干渉を最小限にとどめることができる。
【0049】
図4(a)は、実施形態の水平コードブック制限による衛星地上局90への干渉の低減の一例を示す図である。前記選択した水平コードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、図4(a)に示すように地上基地局30から見て衛星地上局90が存在する方位角方向のビーム321Sの使用を制限することにより、地上基地局30から衛星地上局90への干渉低減効果を高めることができる。
【0050】
図4(b)は、実施形態の垂直コードブック制限による衛星地上局への干渉の低減の一例を示す図である。前記選択した垂直コードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、図4(b)に示すように地上基地局30から見て衛星地上局90が存在する仰俯角方向のビーム321Sの使用を制限することにより、地上基地局30から衛星地上局90への干渉低減効果を高めることができる。
【0051】
図5は、本実施形態の垂直コードブック制限による隣国間干渉の低減の一例を示す図である。隣国間干渉を低減する場合、前記選択した垂直コードブックサブセットに対応する複数のビームのうち、図5に示すように地上基地局30から仰俯角が0度の方向(水平方向)のビーム321Sの使用を制限することにより、国境線Bより外側の隣国領域Aに対する広範囲且つ大幅な干渉低減効果が得られるとともに、自セル300Cにカバレッジホールが発生しない。
【0052】
図6は、本実施形態のコードブックを用いたビームフォーミング制御における方位角方向及び仰俯角方向の複数のビーム候補の配列の一例を示す図である。図7は、図6の方位角方向における複数のビームのピーク角(ピーク方位角)の一例を示す図である。表1は、コードブックにおいて方位角及び仰俯角それぞれのピーク角が互いに異なる複数のビーム(本例では、方位角方向に32個かつ仰俯角方向に8個で合計256個のビーム)の候補を定義するためのパラメータの値の例である。表1中の「CSI-RSポート構成」は、チャネル状態情報参照信号(CSI-RS)で情報が伝送される水平方向及び垂直方向のアンテナポートの構成である。本例において、本実施形態の地上基地局30は、表1の構成のコードブックで定義された合計256個のビームの候補(図6及び図7参照)のうち、端末65から受信したPMIによって指定されたビームを端末65に向けて形成するように、ビームフォーミング制御を行うことができる。
【表1】
【0053】
図8は、本実施形態のコードブックを用いたビームフォーミング制御におけるコードブック制限前のビーム分布の一例を示す図である。図8のコードブック制限前の例では、水平面内において方位角のピーク角が互いに異なる32個のビーム320(1)~320(32)が部分的に重なるように分布する。
【0054】
図9は、比較参考例のコードブック制限における使用停止対象のビームと、それらに対応するピークの方位角の一例を示す図である。図10は、図9のコードブック制限を行った場合のビーム分布の一例を示す図である。図9及び図10の比較参考例では、図8の32個のビーム320(1)~320(32)のうち、被干渉対象の方向への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)320(30)(ビーム番号=30)を含む連続した4個のビーム320(28)(ビーム番号=28)~320(31)(ビーム番号=31)の利用を制限(停止)した状態で、ビームフォーミング制御を行う。このように連続するビーム320(28)~320(31)の利用を制限しても、図10中の矢印幅Dで示すように数dB程度の干渉低減効果しか得られない。
【0055】
図11は、本実施形態のコードブック制限における使用停止対象のビームと、それらに対応するヌルの方位角の一例を示す図である。図12は、本実施形態のビームフォーミング制御で選択可能な複数のコードブックサブセットの直交グループ1~4それぞれのビーム分布の一例を示す図である。図13は、本実施形態で選択したコードブックサブセットの直交グループ2におけるビーム使用停止の一例を示す図である。図11図13の例では、ビーム間の直交性に基づいて制限するビームの選択を行うことで、被干渉対象に向けたヌルフォーミングによる大幅な干渉低減を実現している。ビーム間の直交性を利用したコードブック制限法では、次の(D1)~(D4)を行う。
【0056】
(D1)まず、予め設定されたコードブックに基づき、互いに直交する複数のビーム(本例では、ビーム番号が4ずつ離れた8ビーム)に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした4組のコードブックサブセット(図12の直交グループ1~4参照)を決定する。
【0057】
(D2)次に、4組のコードブックサブセット(図12の直交グループ1~4)から、ビームフォーミング制御に用いるコードブックサブセットとして、図11に示すように、被干渉対象の方向(方位角55°の方向)への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)321(30)を含む互いに直交する8個のビーム320(2),320(6),320(10),320(14),320(18),320(22),320(26),320(30)に対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセット(図12におけるビーム321(2-1)~ビーム321(2-8)に対応する直交グループ2)を選択する。
【0058】
(D3)次に、ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット(直交グループ2)以外の未選択のコードブックサブセット(直交グループ1、3、4)に対応する複数のビームの利用を停止(制限)する。
【0059】
(D4)更に、ビームフォーミング制御において、前記選択したコードブックサブセット(直交グループ2)に対応する8個のビームのうち、被干渉方向(方位角55°の方向)への利得が最大となるビーム(干渉ビーム)320(30)(図13では、ビーム321(2-8))の利用を停止(制限)し、他の7個のビーム320(2),320(6),320(10),320(14),320(18),320(22),320(26)(図13では、ビーム321(2-1)~321(2-7))を利用する。
【0060】
図11図13のコードブック制限を行ってビームフォーミング制御を行うことにより、特定方向(図示の例では、方位角55°の方向)に位置する被干渉対象(例えば、隣接する国内又は国外に位置する衛星地上局又は電波天文観測局のアンテナ)に向けて地上基地局30のアンテナ指向性のヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ることができる。
【0061】
図14は、実施形態に係る地上基地局30の主要構成の一例を示す機能ブロック図である。図14において、地上基地局30は、コードブックサブセット決定部3001と、コードブックサブセット選択部3002と、特定ビーム使用停止部3003と、ビームフォーミング制御部3004とを備える。コードブックサブセット決定部3001は、前述の(A1)、(B1)、(C1)又は(D1)における複数組のコードブックサブセットの決定を行う。コードブックサブセット選択部3002は、前述の(A2)、(B2)、(C2)又は(D2)における複数組のコードブックサブセットの選択を行う。特定ビーム使用停止部3003は、前述の(A3)及び(A4)、(B3)及び(B4)、(C3)及び(C4)、又は、(D3)及び(D4)における特定のビームの使用の停止(制限)を行う。ビームフォーミング制御部3004は、特定ビーム使用停止部3003で特定のビームの使用が停止(制限)された後の選択コードブックサブセットと端末65から受信したプリコーディング行列指示子(PMI)とに基づいてビームフォーミング制御を行い、端末65との間の通信を行う。
【0062】
なお、上記実施形態では、地上基地局30からの干渉を受ける被干渉対象が単一の場合、すなわち、地上基地局30におけるビームフォーミング制御で選択した選択コードブックサブセットで使用を停止(制限)するビームが単一の場合について説明したが、被干渉対象は複数であってもよい。この場合、選択コードブックサブセットに対応する複数のビームのうち複数の被干渉対象それぞれの方向への利得が最大となる複数のビーム(干渉ビーム)の使用を停止するように、コードブック制限を行う。例えば、前述の図3において、選択コードブックサブセットに対応する複数の水平ビーム321のうち中央のビーム321Sと両端の2つのビーム321の使用を停止するように、コードブック制限を行ってもよい。
【0063】
また、実施形態に係るシステムは、上記コードブック制限を伴うビームフォーミング制御を行う一又は複数の地上基地局30を複数備える。また、実施形態に係るシステムは、上記コードブック制限を伴うビームフォーミング制御を行う一又は複数の地上基地局30と、被干渉対象である衛星地上局90、他の基地局又は電波天文観測局のアンテナとを備えるように構成してもよい。また、実施形態に係るシステムは、上記コードブック制限を伴うビームフォーミング制御を行う一又は複数の地上基地局30と、被干渉対象である衛星地上局90、他の基地局又は電波天文観測局のアンテナと、地上基地局30と通信する端末65とを備えるように構成してもよい。
【0064】
以上、本実施形態によれば、コードブックを用いてビームフォーミング制御を行う地上基地局30において、被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ることができる。
【0065】
特に、本実施形態によれば、地上基地局30から隣接国の他の地上基地局への干渉について、隣接国の他の地上基地局に向けて地上基地局30のアンテナ指向性のヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ることができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、地上基地局30から国内又は隣接国における衛星地上局90のダウンリンク又は電波天文観測局のアンテナへの干渉について、衛星地上局90又は電波天文観測局のアンテナに向けて地上基地局30のアンテナ指向性のヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ることができる。
【0067】
本発明は、被干渉対象に向けて地上基地局30のアンテナ指向性のヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得ることができる基地局、システム、方法及びプログラムを提供できるため、持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献できる。
【0068】
なお、本明細書で説明された処理工程並びに移動通信の基地局、衛星通信の地球局、通信中継装置の中継通信局、フィーダ局、ゲートウェイ局、管理装置、監視装置、遠隔制御装置、サーバ、端末装置(UE:ユーザ装置、移動局、通信端末)、基地局及び基地局装置の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0069】
ハードウェア実装については、実体(例えば、中継通信局、フィーダ局、ゲートウェイ局、基地局、基地局装置、中継通信局装置、端末装置(UE:ユーザ装置、移動局、通信端末)、管理装置、監視装置、遠隔制御装置、サーバ、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレー(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0070】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、前記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0071】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であればよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0072】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0073】
30 :地上基地局(地上セル基地局)
65 :端末
90 :衛星地上局
300C :セル
310 :基地局アンテナ(アレーアンテナ)
320 :コードブックのビーム
321 :選択コードブックサブセットのビーム
321S :干渉ビーム
【要約】
【課題】コードブックを用いてビームフォーミング制御を行う基地局において、被干渉対象に向けてアンテナ指向性パターンのヌルを形成するヌルフォーミングのような大幅な干渉低減効果を得る。
【解決手段】基地局は、コードブックに基づき、互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合ごとにグループ分けした複数組のコードブックサブセットを決定し、その複数組のコードブックサブセットから、被干渉対象の方向への利得が最大となる干渉ビームを含む互いに直交する複数のビームに対応する複数のプリコーディングウェイト行列の集合からなるコードブックサブセットを選択し、ビームフォーミング制御において、選択したコードブックサブセット以外の未選択のコードブックサブセットに対応する複数のビームの使用を停止し、選択したコードブックサブセットに対応する複数のビームのうち前記干渉ビームの使用を停止する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14