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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】正極、電極群、二次電池及び電池パック
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240401BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240401BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20240401BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240401BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240401BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20240401BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240401BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240401BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240401BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M50/443 M
H01M50/46
H01M50/489
H01M50/434
H01M50/449
H01M4/48
H01M4/485
H01M10/052
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023506402
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2021010387
(87)【国際公開番号】W WO2022195678
(87)【国際公開日】2022-09-22
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉井 卓
(72)【発明者】
【氏名】杉本 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】村司 泰章
(72)【発明者】
【氏名】菊地 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 好太郎
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-224496(JP,A)
【文献】特開2015-170578(JP,A)
【文献】特開平10-241656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
H01M 10/05-0587
H01M 50/40-497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、
前記正極集電体上に設けられた正極活物質含有層と、
前記正極活物質含有層上の少なくとも一部に設けられ、無機粒子を含む多孔質層とを備え、
前記多孔質層の厚みは3.0μm以下であり、
前記正極活物質含有層及び前記多孔質層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Xと、前記正極活物質含有層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Yとの比X/Yが、下記式1を満たす正極。
1.0<X/Y<1.5 ・・・(1)
【請求項2】
前記無機粒子の平均粒子径(D50)は、0.1μm~3.0μmの範囲内にある請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記無機粒子は、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸リチウム、水酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化鉄、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、ギブサイト、ベーマイト、バイヤライト、酸化ジルコニウム、水酸化マグネシウム、シリカ、チタン酸バリウム、四ホウ酸リチウム、タンタル酸リチウム、雲母、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び沸石からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の正極。
【請求項4】
前記多孔質層は更にバインダを含み、
前記多孔質層の質量に占める前記無機粒子の質量の割合は50質量%~100質量%の範囲内にある請求項1~3の何れか1項に記載の正極。
【請求項5】
前記比X/Yは、1.20以上である請求項1~4の何れか1項に記載の正極。
【請求項6】
前記正極活物質含有層の厚みは5μm~100μmの範囲内にある請求項1~5の何れか1項に記載の正極。
【請求項7】
前記正極活物質含有層及び前記多孔質層の前記log微分細孔体積分布曲線における0.01μm以上10μm以下の範囲内にあるピークの数は1つである請求項1~6の何れか1項に記載の正極。
【請求項8】
請求項1~の何れか1項に係る正極と、
負極と、
前記多孔質層と接しており、且つ、前記正極及び前記負極の間に介在するセパレータとを備える電極群。
【請求項9】
前記セパレータの厚みは5μm~30μmの範囲内にある請求項に記載の電極群。
【請求項10】
前記負極は、負極活物質を含む負極活物質含有層を備えており、
前記負極活物質は、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、ニオブチタン複合酸化物及びナトリウムニオブチタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも一種のチタン含有酸化物を含む請求項8又は9に記載の電極群。
【請求項11】
請求項8~10の何れか1項に係る電極群と、電解質とを備える二次電池。
【請求項12】
請求項11に記載の二次電池を具備する電池パック。
【請求項13】
複数の前記二次電池を具備し、前記二次電池が、直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている請求項12に記載の電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、正極、電極群、二次電池及び電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は高エネルギー密度であるという特徴を持つことから、携帯電話及びノートパソコンなどの小型民生機器に留まらず、電気自動車用又はハイブリッド電気自動車用の電源としても用途が拡大している。こうした用途では頻繁に出力と回生が繰り返される。それ故、エネルギーロスをより少なくする必要があることから、電池の低抵抗化が求められている。また、充電した電池を長期間保管する際に、時間経過による電圧低下を抑制するために、自己放電特性の向上が求められている。
【0003】
負極活物質としてリチウムチタン複合酸化物などの絶縁性を有するものを使用する場合には、高い安全性を確保し易いことから、より薄いセパレータの使用が可能となった。しかしながらセパレータを薄くすると、自己放電が大きくなるという問題がある。これまで、セパレータ表面上に無機粒子層を設けることにより自己放電の抑制が図られているが、この場合には、電池のエネルギー密度及び入出力特性の低下が新たな問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許第6602050号公報
【文献】日本国特許第6094840号公報
【文献】日本国特許第5035650号公報
【文献】日本国特許第4847861号公報
【文献】日本国特許第4667242号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】神保元二ら:「微粒子ハンドブック」、初版、朝倉書店、1991年9月1日、p.151-152
【文献】早川宗八郎編:「粉体物性測定法」、初版、朝倉書店、1973年10月15日、p.257-259
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低抵抗であり且つ自己放電が抑制された二次電池を実現可能な正極、この正極を含む電極群、この電極群を含む二次電池、及びこの二次電池を含む電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態によると、正極が提供される。正極は、正極集電体と、正極集電体上に設けられた正極活物質含有層と、正極活物質含有層上の少なくとも一部に設けられ、無機粒子を含む多孔質層とを備える。多孔質層の厚みは3.0μm以下である。正極活物質含有層及び多孔質層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Xと、正極活物質含有層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Yとの比X/Yが下記式1を満たす。
1.0<X/Y<1.5 ・・・(1)
【0008】
他の実施形態によると、電極群が提供される。電極群は、実施形態に係る正極と、負極と、多孔質層と接しており、且つ、正極及び負極の間に介在するセパレータとを備える。
【0009】
他の実施形態によると、二次電池が提供される。二次電池は、実施形態に係る電極群と、電解質とを具備する。
【0010】
他の実施形態によると、電池パックが提供される。電池パックは、実施形態に係る二次電池を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る正極の一例を概略的に示す断面図。
図2】実施形態に係る正極の他の例を概略的に示す断面図。
図3】実施形態に係る正極の他の例を概略的に示す断面図。
図4図3に係る正極を他の方向から観察した場合を示す平面図。
図5】実施形態に係る電極群の一例を概略的に示す断面図。
図6】実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図。
図7図6に示す二次電池のA部を拡大した断面図。
図8】実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図。
図9図8に示す二次電池のB部を拡大した断面図。
図10】実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図。
図11】実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図。
図12図11に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図。
図13】一実施例に係るlog微分細孔容積分布曲線を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0013】
セパレータの表面上に無機粒子を含む多孔質層を設ける場合、多孔質層の密度を高めるためのプレスを実施することは困難である。なぜなら、プレスを実施することによりセパレータが破損するため、正負極間の短絡を有意に防ぐことができなくなるためである。一方、活物質含有層上に多孔質層を設ける場合、所定の荷重で多孔質層にプレスを施すことが可能である。しかしながら、当該プレスを高い荷重で行うと、多孔質層の密度が過度に高まる恐れがある。多孔質層の密度が過度に高まった場合、多孔質層を厚み方向に通過するリチウムイオンの移動が妨げられるため、電池抵抗が増大する傾向がある。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態によると、正極が提供される。正極は、正極集電体と、正極集電体上に設けられた正極活物質含有層と、正極活物質含有層上の少なくとも一部に設けられ、無機粒子を含む多孔質層とを備える。多孔質層の厚みは3.0μm以下である。正極活物質含有層及び多孔質層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Xと、正極活物質含有層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Yとの比X/Yが下記式1を満たす。
1.0<X/Y<1.5 ・・・(1)
【0015】
実施形態に係る正極において、正極活物質含有層上の少なくとも一部には、正極活物質含有層と比較して、大きな細孔径をより多く含む多孔質層が積層されている。具体的には、上記式1に示しているように、正極活物質含有層及び多孔質層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Xが、正極活物質含有層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Yと比較して大きい。そのため、多孔質層がリチウムイオンの移動を妨げにくい。但し、モード径Xがモード径Yと比較して大きすぎる場合、正負極間での自己放電を抑制する効果が期待できない。
【0016】
自己放電を抑制する観点から、実施形態に係る正極は、正極活物質含有層及び多孔質層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Xと、正極活物質含有層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Yとの比X/Yが1.5未満である。即ち、比X/Yは、1.0超であり且つ1.5未満である。比X/Yが1.5未満であるため、過剰量のリチウムイオンが多孔質層を通過することを抑制することができる。つまり、式1を満たす正極は、自己放電を抑制しつつも、電池抵抗を過度に高めることがない。比X/Yは、好ましくは1.20以上1.50未満の範囲内にあり、より好ましくは1.20以上1.40以下の範囲内にある。
【0017】
モード径Xは、正極活物質含有層及び多孔質層に対して、後述する方法で水銀圧入法を実施することにより得られるlog微分細孔体積分布曲線から決定することができる。モード径Xは、このlog微分細孔体積分布曲線において最も存在比率の高いピークPXのピークトップの位置に対応した細孔径である。一方、モード径Yは、正極活物質含有層に対して、後述する方法で水銀圧入法を実施することにより得られるlog微分細孔体積分布曲線から決定することができる。モード径Yは、このlog微分細孔体積分布曲線において最も存在比率の高いピークPYのピークトップの位置に対応した細孔径である。
【0018】
正極活物質含有層のみに関する測定により決定されるモード径Yに対して、モード径Xは、正極活物質含有層上に、更に多孔質層が積層された状態の二層に関する測定により決定される。従って、モード径Xとモード径Yとを対比することにより、主として、多孔質層に由来する細孔径分布の相違を比較することができる。
【0019】
比X/Yが1.0以下である場合、例えば、多孔質層中の細孔容積が不足しているか、又は、多孔質層において比較的大きな細孔径の存在割合が不足している。それ故、正負極間におけるリチウムイオンの移動が、多孔質層において律速となる可能性がある。比X/Yが1.5以上である場合、例えば、多孔質層中の細孔容積が過度に多いか、又は、多孔質層において比較的大きな細孔径の存在割合が過剰である。それ故、時間経過に伴い電池電圧が低下し易い傾向があるため好ましくない。
【0020】
モード径Xは、例えば、0.45μm以上6.20μm以下の範囲内にある。モード径Xが過度に大きいと、多孔質層中の空隙が多い傾向があるため、自己放電特性に劣る可能性がある。モード径Xが過度に小さいと、電池抵抗が増大する可能性がある。但し、自己放電特性及び電池抵抗の優劣を評価する上では、モード径X単独で評価されるべきではなく、当該評価は、モード径Xとモード径Yとの比X/Yに基づいてなされるべきである。
【0021】
モード径Yは、例えば、0.36μm以上0.45μm未満の範囲内にある。モード径Yが過度に大きい場合、活物質含有層の空隙が多い傾向がある。それ故、電極密度が低下して体積エネルギー密度が低下する傾向がある。モード径Yが過度に小さいと、活物質含有層の空隙が少ない傾向がある。それ故、電極密度が高くなり、活物質付近の電解液量が不足するため、出力特性低下の傾向がある上、多孔質層の密度を高めるのが困難となる可能性がある。
【0022】
また、実施形態に係る正極が備える多孔質層は、3.0μm以下という薄い厚みを有する。無機粒子を含む多孔質層の厚みが3.0μmを超えると、正負極間におけるリチウムイオンの移動距離が長くなることから、電池抵抗の増大が顕著となるため好ましくない。多孔質層の厚みを3.0μm以下にすることにより、電池抵抗の増大を抑制すると共に、自己放電を抑制する効果が得られる。多孔質層の厚みは、0.5μm以上でありうる。多孔質層の厚みは、0.5μm以上2.5μm以下であってもよく、1.0μm以上2.0μm以下であってもよい。多孔質層の厚みが非常に小さい場合であっても、比X/Yが上記式1を満たしている限り、低抵抗であり且つ自己放電が抑制された二次電池を実現可能である。
【0023】
上述したように、従来の態様としてセパレータ上に多孔質層が形成される場合には、多孔質層にプレスを施すことが困難であったため、3.0μm以下という薄膜であり且つ高密度な多孔質層を形成することは困難であった。実施形態に係る正極は、正極活物質含有層上に多孔質層が積層されているため、多孔質層に対して所定の荷重を掛けることができる。この結果、上記式1を満たす細孔径分布を有すると共に3.0μm以下という薄い厚みを有する多孔質層を実現できる。
【0024】
なお、負極と比較して正極の方が熱暴走を起こしやすいため、正極活物質含有層上に多孔質層を備えることにより、より安全性の高い電池を実現することができる。しかしながら、負極活物質含有層上にも多孔質層を備えることができる。
【0025】
実施形態に係る正極の一例を、図1図3を参照しながら説明する。図1は、正極の一例を概略的に示す断面図である。図2は、正極の他の例を概略的に示す断面図である。図3は、正極の更に他の例を概略的に示す断面図である。図1に示すように、正極5は、正極集電体5aと、正極集電体5a上に設けられた正極活物質含有層5bと、正極活物質含有層5b上の少なくとも一部に設けられた多孔質層8とを備える。正極集電体5aは、その表面に正極活物質含有層5bが形成されていない部分を含むことができる。この部分は、正極集電タブとして働くことができる。
【0026】
正極5は、図3に示すように、正極集電体5aの両面上に、それぞれ、正極集電体5a及び正極活物質含有層5bがこの順に積層されていてもよい。
【0027】
多孔質層8は、正極活物質含有層5bの主面全体を被覆していてもよく、主面全体を被覆していなくてもよい。多孔質層8による正極活物質含有層5bの主面の被覆率は、例えば30%以上であり、好ましくは50%以上であり、より好ましくは70%以上である。この被覆率は100%であってもよい。多孔質層8は、正極活物質含有層5bの主面のみならず、側面を更に被覆していてもよい。例えば図2に示しているように、多孔質層8は、正極活物質含有層5bの主面から正極集電タブの表面までに亘って、正極活物質含有層5bの側面を更に被覆していてよい。この場合、多孔質層8は、正極集電体5a表面の一部を更に被覆している。多孔質層8は絶縁性を有しているため、多孔質層8が正極活物質含有層5bの側面を更に被覆している場合、正負極間での短絡をより生じ難くすることができる。
【0028】
多孔質層に含まれる無機粒子の平均粒子径(D50)は、例えば0.1μm~3.0μmの範囲内にある。3.0μm以下という薄い厚みを、面内方向の全域に亘って均一に達成するためには、無機粒子の平均粒子径(D50)は0.1μm~2.0μmの範囲内にあることが好ましい。なお、多孔質層の厚みの測定方法は後述する。
【0029】
多孔質層は、少なくとも無機粒子を含む。多孔質層は更に結着剤を含むことができる。多孔質層の質量に占める無機粒子の質量の割合は、例えば50質量%~100質量%の範囲内にあり、好ましくは70質量%~99質量%の範囲内にある。この割合が好ましい範囲内にあると、活物質含有層上への多孔質層の形成において、薄い多孔質層を均等に形成できる。この割合が過度に高い場合、多孔質層の柔軟性が不足するため、クラック等の欠陥が生じやすい可能性がある。多孔質層に含まれる無機粒子の含有割合は、示差熱分析(DTA:Differential thermal analysis)により分析することができる。
【0030】
無機粒子としては、絶縁性を有するものを制限無く使用することができる。無機粒子は、例えば、金属酸化物であり得る。無機粒子の例は、アルミナ等の酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸リチウム、水酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化鉄、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、ギブサイト、ベーマイト、バイヤライト、酸化ジルコニウム、水酸化マグネシウム、シリカ、チタン酸バリウム、四ホウ酸リチウム、タンタル酸リチウム、雲母、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、及び沸石などが挙げられる。無機粒子は、上記以外であっても絶縁機能を有しているものであれば構わない。無機粒子として、1種類の化合物のみを使用してもよく、2種類以上の化合物の混合物であってもよい。
【0031】
結着剤としては、後述する正極活物質含有層に使用可能な結着剤を使用することができる。本願明細書及び請求の範囲においては、多孔質層が含み得る結着剤を、第1結着剤とも呼ぶことができる。
【0032】
正極集電体の片面上に形成される正極活物質含有層の厚みは、例えば5μm~100μmの範囲内にあり、好ましくは10μm~50μmの範囲内にある。正極活物質含有層の厚みがこの範囲内にあると、リチウムイオンの移動距離を短くすることができる。その結果、電池抵抗を低減でき且つ優れた入出力特性を実現することができる。
【0033】
正極活物質含有層は、正極活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含むことができる。正極活物質含有層は、上記無機粒子を含まないことが好ましい。例えば、正極活物質含有層は、正極活物質、導電剤及び結着剤からなっていてもよい。この場合、活物質含有層に無機粒子が更に含まれている場合と比較して、電池抵抗の増大を抑制することができる。
【0034】
正極活物質としては、例えば、酸化物又は硫化物を用いることができる。正極は、正極活物質として、1種類の化合物を単独で含んでいてもよく、或いは2種類以上の化合物を組み合わせて含んでいてもよい。酸化物及び硫化物の例には、Li又はLiイオンを挿入及び脱離させることができる化合物を挙げることができる。
【0035】
このような化合物としては、例えば、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24又はLixMnO2;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoy2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiy4;0<x≦1、0<y<2)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4;0<x≦1、LixFe1-yMnyPO4;0<x≦1、0<y<1、LixCoPO4;0<x≦1)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、バナジウム酸化物(例えばV25)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。
【0036】
上記のうち、正極活物質としてより好ましい化合物の例には、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24;0<x≦1)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2;0<x≦1)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2;0<x≦1)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoy2;0<x≦1、0<y<1)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiy4;0<x≦1、0<y<2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2;0<x≦1、0<y<1)、リチウムリン酸鉄(例えばLixFePO4;0<x≦1)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LixNi1-y-zCoyMnz2;0<x≦1、0<y<1、0<z<1、y+z<1)が含まれる。これらの化合物を正極活物質に用いると、正極電位を高めることができる。
【0037】
正極活物質の一次粒子径は、100nm以上1μm以下であることが好ましい。一次粒子径が100nm以上の正極活物質は、工業生産上の取り扱いが容易である。一次粒子径が1μm以下の正極活物質は、リチウムイオンの固体内拡散をスムーズに進行させることが可能である。
【0038】
正極活物質の比表面積は、0.1m2/g以上10m2/g以下であることが好ましい。0.1m2/g以上の比表面積を有する正極活物質は、Liイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保できる。10m2/g以下の比表面積を有する正極活物質は、工業生産の上で取り扱い易く、かつ良好な充放電サイクル性能を確保できる。
【0039】
結着剤は、分散された正極活物質の間隙を埋め、また、正極活物質と正極集電体とを結着させるために配合される。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。本願明細書及び請求の範囲において、正極活物質含有層に含まれる結着剤を第2結着剤とも呼ぶことができる。
【0040】
導電剤は、集電性能を高め、且つ、正極活物質と正極集電体との接触抵抗を抑えるために配合される。導電剤の例には、気相成長カーボン繊維(Vapor Grown Carbon Fiber;VGCF)、アセチレンブラックなどのカーボンブラック及び黒鉛のような炭素質物が含まれる。これらの1つを導電剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて導電剤として用いてもよい。また、導電剤を省略することもできる。
【0041】
正極活物質含有層において、正極活物質及び結着剤は、それぞれ、80質量%以上98質量%以下、及び2質量%以上20質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0042】
結着剤の量を2質量%以上にすることにより、十分な電極強度が得られる。また、結着剤は、絶縁体として機能し得る。そのため、結着剤の量を20質量%以下にすると、電極に含まれる絶縁体の量が減るため、内部抵抗を減少できる。
【0043】
導電剤を加える場合には、正極活物質、結着剤及び導電剤は、それぞれ、77質量%以上95質量%以下、2質量%以上20質量%以下、及び3質量%以上15質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0044】
導電剤の量を3質量%以上にすることにより、上述した効果を発揮することができる。また、導電剤の量を15質量%以下にすることにより、電解質と接触する導電剤の割合を低くすることができる。この割合が低いと、高温保存下において、電解質の分解を低減することができる。
【0045】
正極集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0046】
アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の厚さは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。アルミニウム箔の純度は99質量%以上であることが好ましい。アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔に含まれる鉄、銅、ニッケル、及びクロムなどの遷移金属の含有量は、1質量%以下であることが好ましい。
【0047】
以下、正極に対する水銀圧入法、各層の層厚の測定方法及び無機粒子の平均粒子径(D50)を測定する方法について説明する。
【0048】
<水銀圧入法>
まず、測定対象の電池を用意する。測定対象の電池は、定格容量の80%以上の放電容量を有するものとする。すなわち、劣化が過剰に進行した電池は測定対象としない。
【0049】
次に、用意した電池を、開回路電圧が2.0~2.2Vになるまで放電する。次に、放電した電池を、内部雰囲気の露点が-70℃である、アルゴンを充填したグローブボックス内に移す。このようなグローブボックス内で、電池を開く。切り開いた電池から、電極群を取り出す。取り出した電極群が正極リード及び負極リードを含む場合は、正極と負極とを短絡させないように注意しながら、正極リード及び負極リードを切断する。
【0050】
次に、電極群を解体し、正極、負極及びセパレータに分解する。このようにして得られた正極を、ジエチルカーボネートを溶媒として用いて洗浄する。この洗浄では、分解して得られた部材をジエチルカーボネート溶媒に完全に浸し、その状態で60分間放置する。
【0051】
洗浄後、正極を真空乾燥に供する。真空乾燥に際しては、25℃環境において、大気圧から-97kpa以上となるまで減圧し、その状態を10分間保持する。このような手順で取り出した正極について、以下の方法で測定を行う。
【0052】
正極を裁断して、正極活物質含有層及び多孔質層が積層した状態の試料Aと、正極活物質含有層上の多孔質層を取り除いた試料Bとを用意する。これら試料は、何れも25mm×25mmのサイズに切り出される。
【0053】
測定装置には、島津オートポア9520形又はこれと同等の機能を有する装置を用いる。各試料を折りたたんで測定セルに採り、初期圧20kPa(約3psia、細孔直径約60μm相当)の条件で測定する。試料A及び試料Bのそれぞれについて、3試料の平均値を測定結果とする。試料Aについての細孔径分布曲線からモード径Xを決定することができる。試料Bについての細孔径分布曲線からモード径Yを決定することができる。
【0054】
データ整理に当り、細孔比表面積は、細孔の形状を円筒形として計算する。なお、水銀圧入法の解析原理はWashburnの式(B)に基づく。
D=-4γcosθ/P (B)式
【0055】
ここで、Pは加える圧力、Dは細孔直径、γは水銀の表面張力(480dyne・cm-1)、θは水銀と細孔壁面の接触角で140°である。γ、θは定数であるからWashburnの式より、加えた圧力Pと細孔直径Dの関係が求められ、そのときの水銀侵入体積を測定することにより、細孔直径とその体積分布を導くことができる。測定法・原理等の詳細は、神保元ニら:「微粒子ハンドブック」朝倉書店、(1991)、早川宗八郎編:「粉体物性測定法」朝倉書店(1978)などを参照されたい。
【0056】
<層厚の測定方法>
図3及び図4を参照しながら、正極活物質含有層及び多孔質層の層厚の測定方法を説明する。層厚は、正極を、正極活物質含有層及び多孔質層の積層方向に沿って裁断した断面、例えば図3に例示される断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)で観察することによって求められる。SEMに加えて、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を実施することにより、多孔質層に含まれる粒子が無機粒子か否かを判定することができる。
【0057】
図4に示す通り、電極Eを任意方向(以下、X方向)に対して5cm分選択する。図4に示す電極Eは、電極Eを上記積層方向と平行な方向から観察した状態を示している。X方向に対して垂直な方向(以下、Y方向)に5分割し、5サンプル得る。図4には、5サンプルのうちの1つを概略的に示している。得られた5サンプルのうちのX方向に対して中心に位置するサンプルZを測定サンプルとする。サンプルZのY方向の幅を二分割して断面を二つ得る。断面の一例が図3である。得られた二つの断面のうち任意の一断面をSEM観察し、倍率1000倍で観察される範囲を5等分する位置(例えば図3の一点鎖線で示す4箇所)において、正極活物質含有層5bと正極集電体5aの接点と、正極集電体5aと接しない正極活物質含有層5b表面との距離を測定し、得られた4点の測定値の平均値を正極活物質含有層の厚みとする。同様に、多孔質層8と正極活物質含有層5bとの接点と、正極活物質含有層5bと接しない多孔質層8表面との距離を測定し、得られた4点の測定値の平均値を多孔質層の厚みとする。
【0058】
<粒度分布測定>
前述した水銀圧入法の項で説明した方法に沿って、乾燥後の正極を準備する。この正極から、多孔質層を剥ぎ取り、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの溶媒に分散させる。多孔質層がバインダを含む場合には、遠心分離機を使用して、無機粒子のみを分離する。分離した無機粒子をNMPに分散させて、例えばマイクロトラック・ベル株式会社製 マイクロトラックMT3100IIなどのレーザー回折式分布測定装置を用いて粒度分布測定を実施する。こうして、多孔質層が含む無機粒子の平均粒子径(D50)を決定することができる。
【0059】
<正極の製造方法>
次に、実施形態に係る正極の製造方法の一例を説明する。下記の製造方法は一例であり、比X/Yに関する式1を満たすと共に、多孔質層の厚みが3.0μm以下である正極を得ることができれば、その製造方法は特に限定されない。
【0060】
まず、正極活物質、導電剤及び結着剤を適切な溶媒に懸濁してスラリー(以下、第1スラリー)を調製する。次いで、第1スラリーを集電体の片面又は両面に塗布する。集電体上の塗膜を乾燥することにより、プレス前の正極活物質含有層を形成する。その後、集電体及びその上に形成されたプレス前の正極活物質含有層にプレスを施すことで、正極活物質含有層を形成することができる。
【0061】
続いて、無機粒子及びバインダを適切な溶媒に分散させてスラリー(以下、第2スラリー)を作製する。第2スラリーを、少なくとも正極活物質含有層上に塗布する。第2スラリーは、正極集電体が有する正極集電タブ表面の一部にも塗布され得る。塗布された第2スラリーを乾燥させた後、プレスに供することで多孔質層を形成することができる。
【0062】
第1スラリー及び/又は第2スラリーの粘度、塗布量(目付)及びプレス圧、並びに、無機粒子の平均粒子径等を変化させることにより、モード径X及びYを調節することができる。例えば、正極活物質含有層を形成する際のプレスを低荷重とするか、又は、正極活物質含有層上の多孔質層を形成する際のプレスを高荷重とすることで、比X/Yを小さくすることができる。また、例えば、正極活物質含有層を形成する際のプレスを高荷重とするか、又は、正極活物質含有層上の多孔質層を形成する際のプレスを低荷重とすることで、比X/Yを大きくすることができる。或いは、無機粒子として比較的小さな平均粒子径を有するものを使用することで、多孔質層が含む細孔径が小さくなる傾向がある。即ち、モード径Yが小さくなる傾向がある。
【0063】
なお、上述した方法は、正極活物質含有層形成用の第1スラリーを塗布及び乾燥し、この塗膜に対してプレスを施した後に、多孔質層を形成する方法である。しかしながら、実施形態に係る正極は、第1スラリーの塗布及び乾燥後に、プレスを施すこと無しに第2スラリーを塗布及び乾燥させて、第1スラリーの塗膜及び第2スラリーの塗膜をまとめてプレスに供することで形成してもよい。この場合にも、例えばプレス荷重を変化させることで比X/Yを調整することが可能である。
【0064】
以上説明した第1実施形態によると、正極が提供される。正極は、正極集電体と、正極集電体上に設けられた正極活物質含有層と、正極活物質含有層上の少なくとも一部に設けられ、無機粒子を含む多孔質層とを備える。多孔質層の厚みは3.0μm以下である。正極活物質含有層及び多孔質層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Xと、正極活物質含有層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Yとの比X/Yが下記式1を満たす。
【0065】
1.0<X/Y<1.5 ・・・(1)
【0066】
実施形態に係る正極は、無機粒子を含む多孔質層により自己放電を抑制しつつも、式1を満たすため、低い電池抵抗を実現することができる。
【0067】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る電極群は、第1実施形態に係る正極と、負極と、セパレータとを備える。セパレータは、正極が備える多孔質層と接しており、且つ、正極及び負極の間に介在している。電極群は、1又は複数の正極と、1又は複数の負極と、1又は複数のセパレータとを備えることができる。実施形態に係る電極群は、捲回型電極群であってもよく、積層型電極群であってもよい。
【0068】
以下、電極群が備える負極及びセパレータの詳細を説明する。正極としては第1実施形態において説明したものを使用することができる。
【0069】
(1)負極
負極は、負極集電体と、負極集電体の片面又は両面に担持される負極活物質含有層とを含み得る。負極活物質含有層上の少なくとも一部には、第1実施形態において説明した多孔質層が積層されていてもよい。負極活物質含有層は、負極活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含むことができる。
【0070】
負極集電体の材料には、アルカリ金属イオンが挿入又は脱離するときの負極電位範囲において、電気化学的に安定である物質が用いられる。負極集電体は、例えば、亜鉛(Zn)箔、アルミニウム箔、又は、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、亜鉛、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)及びケイ素(Si)から選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0071】
負極集電体は、多孔体又はメッシュなどの他の形態であってもよい。負極集電体の厚さは、5μm以上30μm以下であることが好ましい。このような厚さを有する集電体は、電極の強度と軽量化のバランスをとることができる。
【0072】
また、負極集電体は、その表面に負極活物質含有層が形成されていない部分を含むことができる。この部分は、負極集電タブとして働くことができる。
【0073】
負極活物質は、炭素材料、シリコン、シリコン酸化物及びチタン含有酸化物からなる群より選択される少なくとも一種を含む。負極活物質は、これら材料のうちの1種、又は2種以上含むことができる。炭素材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛、及び、天然黒鉛を圧密化し炭素で被覆した紡錘状黒鉛などが挙げられる。
【0074】
チタン含有酸化物は、例えば、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、ニオブチタン複合酸化物及びナトリウムニオブチタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも一種を含む。負極活物質がチタン含有酸化物を含む場合、二次電池の安全性に優れているため、多孔質層をより薄くすることができる。その結果、入出力特性を向上させることができる。
【0075】
チタン酸化物は、例えば、単斜晶構造のチタン酸化物、ルチル構造のチタン酸化物、アナターゼ構造のチタン酸化物を含む。各結晶構造のチタン酸化物は、充電前の組成をTiO2、充電後の組成をLiTiO(xは0≦x≦1)で表すことができる。また、単斜晶構造のチタン酸化物の充電前構造をTiO(B)と表すことができる。
【0076】
リチウムチタン酸化物は、例えば、スピネル構造のリチウムチタン酸化物(例えば一般式Li4+xTi12(xは-1≦x≦3))、ラムスデライト構造のリチウムチタン酸化物(例えば、Li2+xTi(-1≦x≦3))、Li1+xTi(0≦x≦1)、Li1.1+xTi1.8(0≦x≦1)、Li1.07+xTi1.86(0≦x≦1)、LiTiO(0<x≦1)などを含む。また、リチウムチタン酸化物は、異種元素が導入されているリチウムチタン複合酸化物であってもよい。
【0077】
ニオブチタン複合酸化物は、例えば、単斜晶型の結晶構造を有している。単斜晶型ニオブチタン複合酸化物は、例えば、一般式LixTi1-yM1yNb2-zM2z7+δで表される複合酸化物、及び、一般式LixTi1-yM3y+zNb2-z7-δで表される複合酸化物からなる群より選択される少なくとも1つである。ここで、M1は、Zr,Si,及びSnからなる群より選択される少なくとも1つである。M2は、V,Ta,及びBiからなる群より選択される少なくとも1つである。M3は、Mg,Fe,Ni,Co,W,Ta,及びMoからなる群より選択される少なくとも1つである。組成式中のそれぞれの添字は、0≦x≦5、0≦y<1、0≦z<2、及び、-0.3≦δ≦0.3を満たす。
【0078】
単斜晶型ニオブチタン複合酸化物の具体的な例として、例えば、Nb2TiO7、Nb2Ti29、Nb10Ti229、Nb14TiO37及びNb24TiO62を挙げることができる。単斜晶型ニオブチタン複合酸化物は、Nb及び/又はTiの少なくとも一部が異種元素に置換された置換ニオブチタン複合酸化物であってもよい。置換元素の例は、Na、K、Ca、Co、Ni、Si、P、V、Cr、Mo、Ta、Zr、Mn、Fe、Mg、B、Pb及びAlなどである。置換ニオブチタン複合酸化物は、1種類の置換元素を含んでいてもよく、2種類以上の置換元素を含んでいてもよい。
【0079】
ナトリウムチタン複合酸化物は、例えば、一般式Li2+VNa2―WM1Ti6-y-zNbM214+δ(0≦v≦4、0≦w<2、0≦x<2、0≦y<6、0≦z<3、-0.5≦δ≦0.5、M1はCs,K,Sr,Ba,Caより選択される少なくとも1つを含み、M2はZr,Sn,V,Ta,Mo,W,Fe,Co,Mn,Alより選択される少なくとも1つを含む)で表される直方晶(orthorhombic)型Na含有ニオブチタン複合酸化物を含む。
【0080】
負極活物質としては、アナターゼ構造のチタン酸化物、単斜晶構造のチタン酸化物、スピネル構造のリチウムチタン酸化物、ニオブチタン複合酸化物又はこれらの混合物を用いることが好ましい。これらの酸化物を負極活物質として用いると、例えば正極活物質としてのリチウムマンガン複合酸化物と組み合わせることで、高い起電力を得ることができる。
【0081】
負極活物質は、例えば粒子の形態で負極活物質含有層に含まれている。負極活物質粒子は、一次粒子、一次粒子の凝集体である二次粒子、あるいは、単独の一次粒子及び二次粒子の混合物であり得る。粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、球状、楕円形状、扁平形状、及び繊維状などにすることができる。
【0082】
負極活物質の一次粒子の平均粒子径(直径)は3μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01μm以上1μm以下である。負極活物質の二次粒子の平均粒子径(直径)は30μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上20μm以下である。
【0083】
この一次粒子径及び二次粒子径は、レーザー回折式の粒度分布測定装置により求めた粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径を意味している。レーザー回折式の粒度分布測定装置としては、例えば、島津SALD-300を用いる。測定に際しては、2秒間隔で64回光度分布を測定する。この粒度分布測定を行う際の試料としては、負極活物質粒子の濃度が0.1重量%乃至1重量%となるようにN-メチル-2-ピロリドンで希釈した分散液を用いる。あるいは、測定試料としては、0.1gの負極活物質を、界面活性剤を含む1~2mlの蒸留水に分散させたものを用いる。
【0084】
導電剤は、集電性能を高め、且つ活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために、必要に応じて配合される。結着剤は、活物質、導電剤及び集電体を結着させる作用を有する。
【0085】
導電剤の例には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、黒鉛及びコークスなどの炭素質物が含まれる。導電剤は、1種類であってもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0086】
結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸化合物、イミド化合物、カルボキシルメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、及びCMCの塩が含まれる。これらの1つを結着剤として用いてもよく、或いは、2つ以上を組み合わせて結着剤として用いてもよい。
【0087】
負極活物質含有層中の負極活物質、導電剤及び結着剤の配合割合は、負極活物質が70質量%以上95質量%以下、導電剤が3質量%以上20質量%以下、結着剤が2質量%以上10質量%以下の範囲であることが好ましい。導電剤の配合割合が3質量%以上であると、負極活物質含有層の集電性能を向上させることができる。また、結着剤の配合割合が2質量%以上であると、十分な電極強度が得られ、10質量%以下であると電極の絶縁部を減少させることができる。
【0088】
負極は、例えば、以下の方法により得ることができる。まず、活物質、導電剤及び結着剤を適切な溶媒に懸濁してスラリーを調製する。次いで、このスラリーを集電体の片面又は両面に塗布する。集電体上の塗膜を乾燥することにより活物質含有層を形成する。その後、集電体及びその上に形成された活物質含有層にプレスを施す。活物質含有層としては、活物質、導電剤及び結着剤の混合物をペレット状に形成したものを用いてもよい。
【0089】
負極活物質含有層の密度(集電体を含まず)は、1.8g/cm3以上2.8g/cm3以下であることが好ましい。負極活物質含有層の密度がこの範囲内にある負極は、エネルギー密度と電解質の保持性とに優れている。負極活物質含有層の密度は、2.1g/cm3以上2.6g/cm3以下であることがより好ましい。
【0090】
(2)セパレータ
セパレータは、例えば、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、セルロース、若しくはポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)を含む多孔質フィルム、又は合成樹脂製不織布から形成される。安全性の観点からは、ポリエチレン又はポリプロピレンから形成された多孔質フィルムを用いることが好ましい。これらの多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能なためである。
【0091】
セパレータの厚みは特に制限されないが、セパレータが過剰に厚い場合には電池抵抗が増大するため好ましくない。セパレータの厚みは、例えば5μm~30μmであり、好ましくは5μm~20μmの範囲内にある。セパレータの厚みは、10μm~20μmの範囲内にあってもよい。実施形態に係る電極群が備える正極は所定の多孔質層を備えているため、セパレータの厚みが20μm以下であっても優れた自己放電特性を示しうる。
【0092】
実施形態に係る電極群の一例を、図5を参照しながら説明する。図5は、一例の電極群に係る部分展開斜視図である。偏平型の電極群1は、正極5と負極3がその間にセパレータ4を介して偏平形状に捲回されたものである。正極5は、第1実施形態において説明した正極である。ここでは、正極5は、例えば金属箔からなる帯状の正極集電体5aと、正極集電体の長辺に平行な一端部からなる正極集電タブと、正極集電タブの部分を除いて正極集電体5a上に形成された正極活物質含有層5b(図示せず)と、正極活物質含有層5b上に設けられた多孔質層8とを含む。図5においては、正極活物質含有層5bは、正極集電体5aと多孔質層8との間に形成されているため、図示されていない。
【0093】
一方、負極3は、例えば金属箔からなる帯状の負極集電体3aと、負極集電体3aの長辺に平行な一端部からなる負極集電タブと、少なくとも負極集電タブの部分を除いて負極集電体3a上に形成された負極活物質含有層3bとを含む。
【0094】
正極5、セパレータ4及び負極3は、正極集電体5aが電極群1の捲回軸方向にセパレータ4から突出し、且つ、負極集電体3aがこれとは反対方向にセパレータ4から突出するよう、正極5及び負極3の位置をずらして捲回されている。このような捲回により、電極群1は、図5に示すように、一方の端面から渦巻状に捲回された正極集電タブが突出し、かつ他方の端面から渦巻状に捲回された負極集電タブが突出している。
【0095】
負極3上に、更にセパレータ4、正極5、セパレータ4及び負極3の順で、複数の正極5、複数のセパレータ4及び複数の負極3が積層されていてもよい。即ち、電極群1は、負極3と正極5とをその間にセパレータ4を介在させながら、交互に繰り返し積層した積層型電極群であってもよい。この場合の一例は図8及び図9に示しているが、これら図に関しては後で詳述する。図8及び図9は、二次電池の一態様を概略的に示す図である。電極群1が複数の正極5を備える場合、全ての正極5が多孔質層8を備える必要はなく、少なくとも1つの正極5が多孔質層8を備えていればよい。
【0096】
第2実施形態に係る電極群は、第1実施形態に係る正極を含む。それ故、第2実施形態に係る電極群は、低抵抗であり且つ自己放電が抑制された二次電池を実現可能である。
【0097】
(第3実施形態)
第3実施形態によると、第2実施形態に係る電極群と、電解質とを含む二次電池が提供される。二次電池は、例えば、リチウムイオン二次電池、又は、非水電解質を含んだ非水電解質二次電池であり得る。
【0098】
電解質は、電極群に保持され得る。二次電池は、電極群及び電解質を収容する外装部材を更に具備することができる。二次電池は、負極に電気的に接続された負極端子及び正極に電気的に接続された正極端子を更に具備することができる。
【0099】
以下、電解質、外装部材、負極端子及び正極端子について説明する。なお、電極群が備える正極、負極及びセパレータとしては、前述したものを使用することができる。
【0100】
(A)電解質
電解質としては、例えば液状非水電解質又はゲル状非水電解質を用いることができる。液状非水電解質は、溶質としての電解質塩を有機溶媒に溶解することにより調製される。なお、ここでいう液状非水電解質とは、常温(例えば、20℃)及び1気圧で液体である非水電解質をいう。電解質塩の濃度は、1mol/L以上3mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2.5mol/L以下であることがより好ましい。
【0101】
電解質塩の例には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、六フッ化アンチモンリチウム(LiSbF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]、ビスペンタフルオロエタンスルホニルイミドリチウム[Li(C25SO2)2N]、ビスオキサラトホウ酸リチウム[LiB(C242]、ジフルオロ(トリフルオロ-2-オキシド-2-トリフルオロ-メチルプロピオナト(2-)-0,0)ホウ酸リチウム[LiBF2(OCOOC(CF3)2]のようなリチウム塩、及び、これらの混合物が含まれる。電解質塩は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiBF4又はLiPF6が最も好ましい。
【0102】
有機溶媒の例には、プロピレンカーボネート(propylene carbonate;PC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate;EC)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate;VC)のような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(diethyl carbonate;DEC)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate;DMC)、メチルエチルカーボネート(methyl ethyl carbonate;MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2-methyl tetrahydrofuran;2MeTHF)、ジオキソラン(dioxolane;DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(dimethoxy ethane;DME)、ジエトキシエタン(diethoxy ethane;DEE)のような鎖状エーテル;γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone;GBL)、アセトニトリル(acetonitrile;AN)、及びスルホラン(sulfolane;SL)が含まれる。これらの有機溶媒は、単独で、又は混合溶媒として用いることができる。
【0103】
ゲル状非水電解質は、液状非水電解質と高分子材料とを複合化することにより調製される。高分子材料の例には、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride;PVdF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile;PAN)、ポリエチレンオキサイド(polyethylene oxide;PEO)、又はこれらの混合物が含まれる。
【0104】
或いは、電解質としては、液状非水電解質及びゲル状非水電解質の他に、リチウムイオンを含有した常温溶融塩(イオン性融体)、高分子固体電解質、及び無機固体電解質等を用いてもよい。
【0105】
常温溶融塩(イオン性融体)は、有機物カチオンとアニオンとの組合せからなる有機塩の内、常温(15℃以上25℃以下)で液体として存在し得る化合物を指す。常温溶融塩には、単体で液体として存在する常温溶融塩、電解質塩と混合させることで液体となる常温溶融塩、有機溶媒に溶解させることで液体となる常温溶融塩、又はこれらの混合物が含まれる。一般に、二次電池に用いられる常温溶融塩の融点は、25℃以下である。また、有機物カチオンは、一般に4級アンモニウム骨格を有する。
【0106】
高分子固体電解質は、電解質塩を高分子材料に溶解し、固体化することによって調製される。
【0107】
無機固体電解質は、Liイオン伝導性を有する固体物質である。
【0108】
(B)外装部材
外装部材としては、例えば、ラミネートフィルムからなる容器、又は金属製容器を用いることができる。
【0109】
ラミネートフィルムの厚さは、例えば、0.5mm以下であり、好ましくは、0.2mm以下である。
【0110】
ラミネートフィルムとしては、複数の樹脂層とこれらの樹脂層間に介在した金属層とを含む多層フィルムが用いられる。樹脂層は、例えば、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、ポリエチレン(polyethylene;PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate;PET)等の高分子材料を含んでいる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔からなることが好ましい。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行うことにより、外装部材の形状に成形され得る。
【0111】
金属製容器の壁の厚さは、例えば、1mm以下であり、より好ましくは0.5mm以下であり、更に好ましくは、0.2mm以下である。
【0112】
金属製容器は、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、及びケイ素等の元素を含むことが好ましい。アルミニウム合金は、鉄、銅、ニッケル、及びクロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は100質量ppm以下であることが好ましい。
【0113】
外装部材の形状は、特に限定されない。外装部材の形状は、例えば、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、又はボタン型等であってもよい。外装部材は、電池寸法や電池の用途に応じて適宜選択することができる。
【0114】
(C)負極端子
負極端子は、上述の負極活物質のLi吸蔵放出電位において電気化学的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成することができる。具体的には、負極端子の材料としては、銅、ニッケル、ステンレス若しくはアルミニウム、又は、Mg,Ti,Zn,Mn,Fe,Cu,及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子の材料としては、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることが好ましい。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料からなることが好ましい。
【0115】
(D)正極端子
正極端子は、リチウムの酸化還元電位に対し3V以上4.5V以下の電位範囲(vs.Li/Li)において電気的に安定であり、且つ導電性を有する材料から形成することができる。正極端子の材料としては、アルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0116】
次に、第3実施形態に係る二次電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。
【0117】
図6は、第3実施形態に係る二次電池の一例を概略的に示す断面図である。図7は、図6に示す二次電池のA部を拡大した断面図である。
【0118】
図6及び図7に示す二次電池100は、図6に示す袋状外装部材2と、図6及び図7に示す電極群1と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、袋状外装部材2内に収納されている。電解質(図示しない)は、電極群1に保持されている。
【0119】
袋状外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0120】
図6に示すように、電極群1は、扁平状の捲回型電極群である。扁平状で捲回型である電極群1は、図7に示すように、負極3と、セパレータ4と、正極5とを含む。セパレータ4は、負極3と正極5との間に介在している。
【0121】
負極3は、負極集電体3aと負極活物質含有層3bとを含む。負極3のうち、捲回型の電極群1の最外殻に位置する部分は、図7に示すように負極集電体3aの内面側のみに負極活物質含有層3bが形成されている。負極3におけるその他の部分では、負極集電体3aの両面に負極活物質含有層3bが形成されている。
【0122】
正極5は、正極集電体5aと、その両面に形成された正極活物質含有層5bと、正極活物質含有層5b上の少なくとも一部に形成された多孔質層8とを含んでいる。
【0123】
図6に示すように、負極端子6及び正極端子7は、捲回型の電極群1の外周端近傍に位置している。この負極端子6は、負極集電体3aの最外殻に位置する部分に接続されている。また、正極端子7は、正極集電体5aの最外殻に位置する部分に接続されている。これらの負極端子6及び正極端子7は、袋状外装部材2の開口部から外部に延出されている。袋状外装部材2の内面には、熱可塑性樹脂層が設置されており、これが熱融着されていることにより、開口部が閉じられている。
【0124】
第3実施形態に係る二次電池は、図6及び図7に示す構成の二次電池に限らず、例えば図8及び図9に示す構成の二次電池であってもよい。
【0125】
図8は、第2実施形態に係る二次電池の他の例を模式的に示す部分切欠斜視図である。図9は、図8に示す二次電池のB部を拡大した断面図である。
【0126】
図8及び図9に示す二次電池100は、図8及び図9に示す電極群1と、図8に示す外装部材2と、図示しない電解質とを具備する。電極群1及び電解質は、外装部材2内に収納されている。電解質は、電極群1に保持されている。
【0127】
外装部材2は、2つの樹脂層とこれらの間に介在した金属層とを含むラミネートフィルムからなる。
【0128】
電極群1は、図8に示すように、積層型の電極群である。積層型の電極群1は、負極3と正極5とをその間にセパレータ4を介在させながら交互に積層した構造を有している。
【0129】
電極群1は、複数の負極3を含んでいる。複数の負極3は、それぞれが、負極集電体3aと、負極集電体3aの両面に担持された負極活物質含有層3bとを備えている。また、電極群1は、複数の正極5を含んでいる。複数の正極5は、それぞれが、正極集電体5aと、正極集電体5aの両面に担持された正極活物質含有層5bと、正極活物質含有層5b上の少なくとも一部に形成された多孔質層8とを備えている。
【0130】
各負極3の負極集電体3aは、その一辺において、いずれの表面にも負極活物質含有層3bが担持されていない部分3cを含む。この部分3cは、負極集電タブとして働く。図8に示すように、負極集電タブとして働く部分3cは、正極5と重なっていない。また、複数の負極集電タブ(部分3c)は、帯状の負極端子6に電気的に接続されている。帯状の負極端子6の先端は、外装部材2の外部に引き出されている。
【0131】
また、図示しないが、各正極5の正極集電体5aは、その一辺において、いずれの表面にも正極活物質含有層5bが担持されていない部分を含む。この部分は、正極集電タブとして働く。正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)と同様に、負極3と重なっていない。また、正極集電タブは、負極集電タブ(部分3c)に対し電極群1の反対側に位置する。正極集電タブは、帯状の正極端子7に電気的に接続されている。帯状の正極端子7の先端は、負極端子6とは反対側に位置し、外装部材2の外部に引き出されている。
【0132】
第3実施形態に係る二次電池は、第2実施形態に係る電極群を含んでいる。それ故、第3実施形態に係る二次電池は、低抵抗であり且つ優れた自己放電特性を示す。
【0133】
(第4実施形態)
第4実施形態によると、組電池が提供される。第4実施形態に係る組電池は、第3実施形態に係る二次電池を複数個具備している。
【0134】
第4実施形態に係る組電池において、各単電池は、電気的に直列若しくは並列に接続して配置してもよく、又は直列接続及び並列接続を組み合わせて配置してもよい。
【0135】
次に、第4実施形態に係る組電池の一例について、図面を参照しながら説明する。
【0136】
図10は、第3実施形態に係る組電池の一例を概略的に示す斜視図である。図10に示す組電池200は、5つの単電池100a~100eと、4つのバスバー21と、正極側リード22と、負極側リード23とを具備している。5つの単電池100a~100eのそれぞれは、第2実施形態に係る二次電池である。
【0137】
バスバー21は、例えば、1つの単電池100aの負極端子6と、隣に位置する単電池100bの正極端子7とを接続している。このようにして、5つの単電池100は、4つのバスバー21により直列に接続されている。すなわち、図10の組電池200は、5直列の組電池である。
【0138】
図10に示すように、5つの単電池100a~100eのうち、左端に位置する単電池100aの正極端子7は、外部接続用の正極側リード22に接続されている。また、5つの単電池100a~100eうち、右端に位置する単電池100eの負極端子6は、外部接続用の負極側リード23に接続されている。
【0139】
第4実施形態に係る組電池は、第3実施形態に係る二次電池を具備する。従って、この組電池は、低抵抗であり且つ優れた自己放電特性を示す。
【0140】
(第5実施形態)
第5実施形態によると、電池パックが提供される。この電池パックは、第4実施形態に係る組電池を具備している。この電池パックは、第4実施形態に係る組電池の代わりに、単一の第3実施形態に係る二次電池を具備していてもよい。
【0141】
第5実施形態に係る電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、二次電池の充放電を制御する機能を有する。或いは、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用してもよい。
【0142】
また、第5実施形態に係る電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、外部に二次電池からの電流を出力するため、及び/又は二次電池に外部からの電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車などの動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
【0143】
次に、第5実施形態に係る電池パックの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0144】
図11は、第5実施形態に係る電池パックの一例を概略的に示す分解斜視図である。図12は、図11に示す電池パックの電気回路の一例を示すブロック図である。
【0145】
図11及び図12に示す電池パック300は、収容容器31と、蓋32と、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35と、図示しない絶縁板とを備えている。
【0146】
図11に示す収容容器31は、長方形の底面を有する有底角型容器である。収容容器31は、保護シート33と、組電池200と、プリント配線基板34と、配線35とを収容可能に構成されている。蓋32は、矩形型の形状を有する。蓋32は、収容容器31を覆うことにより、上記組電池200等を収容する。収容容器31及び蓋32には、図示していないが、外部機器等へと接続するための開口部又は接続端子等が設けられている。
【0147】
組電池200は、複数の単電池100と、正極側リード22と、負極側リード23と、粘着テープ24とを備えている。
【0148】
単電池100は、図6及び図7に示す構造を有している。複数の単電池100の少なくとも1つは、第3実施形態に係る二次電池である。複数の単電池100は、外部に延出した負極端子6及び正極端子7が同じ向きになるように揃えて積層されている。複数の単電池100の各々は、図12に示すように電気的に直列に接続されている。複数の単電池100は、電気的に並列に接続されていてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されていてもよい。複数の単電池100を並列接続すると、直列接続した場合と比較して、電池容量が増大する。
【0149】
粘着テープ24は、複数の単電池100を締結している。粘着テープ24の代わりに、熱収縮テープを用いて複数の単電池100を固定してもよい。この場合、組電池200の両側面に保護シート33を配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて複数の単電池100を結束させる。
【0150】
正極側リード22の一端は、単電池100の積層体において、最下層に位置する単電池100の正極端子7に接続されている。負極側リード23の一端は、単電池100の積層体において、最上層に位置する単電池100の負極端子6に接続されている。
【0151】
プリント配線基板34は、収容容器31の内側面のうち、一方の短辺方向の面に沿って設置されている。プリント配線基板34は、正極側コネクタ341と、負極側コネクタ342と、サーミスタ343と、保護回路344と、配線345及び346と、通電用の外部端子347と、プラス側配線348aと、マイナス側配線348bとを備えている。プリント配線基板34の一方の主面は、組電池200において負極端子6及び正極端子7が延出する面と向き合っている。プリント配線基板34と組電池200との間には、図示しない絶縁板が介在している。
【0152】
正極側コネクタ341には、貫通孔が設けられている。この貫通孔に、正極側リード22の他端が挿入されることにより、正極側コネクタ341と正極側リード22とは電気的に接続される。負極側コネクタ342には、貫通孔が設けられている。この貫通孔に、負極側リード23の他端が挿入されることにより、負極側コネクタ342と負極側リード23とは電気的に接続される。
【0153】
サーミスタ343は、プリント配線基板34の一方の主面に固定されている。サーミスタ343は、単電池100の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路344に送信する。
【0154】
通電用の外部端子347は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。通電用の外部端子347は、電池パック300の外部に存在する機器と電気的に接続されている。
【0155】
保護回路344は、プリント配線基板34の他方の主面に固定されている。保護回路344は、プラス側配線348aを介して通電用の外部端子347と接続されている。保護回路344は、マイナス側配線348bを介して通電用の外部端子347と接続されている。また、保護回路344は、配線345を介して正極側コネクタ341に電気的に接続されている。保護回路344は、配線346を介して負極側コネクタ342に電気的に接続されている。更に、保護回路344は、複数の単電池100の各々と配線35を介して電気的に接続されている。
【0156】
保護シート33は、収容容器31の長辺方向の両方の内側面と、組電池200を介してプリント配線基板34と向き合う短辺方向の内側面とに配置されている。保護シート33は、例えば、樹脂又はゴムからなる。
【0157】
保護回路344は、複数の単電池100の充放電を制御する。また、保護回路344は、サーミスタ343から送信される検出信号、又は、個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号に基づいて、保護回路344と外部機器への通電用の外部端子347との電気的な接続を遮断する。
【0158】
サーミスタ343から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の温度が所定の温度以上であることを検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100若しくは組電池200から送信される検出信号としては、例えば、単電池100の過充電、過放電及び過電流を検出した信号を挙げることができる。個々の単電池100について過充電等を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池100に挿入する。
【0159】
なお、保護回路344としては、電池パック300を電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を用いてもよい。
【0160】
また、この電池パック300は、上述したように通電用の外部端子347を備えている。したがって、この電池パック300は、通電用の外部端子347を介して、組電池200からの電流を外部機器に出力するとともに、外部機器からの電流を、組電池200に入力することができる。言い換えると、電池パック300を電源として使用する際には、組電池200からの電流が、通電用の外部端子347を通して外部機器に供給される。また、電池パック300を充電する際には、外部機器からの充電電流が、通電用の外部端子347を通して電池パック300に供給される。この電池パック300を車載用電池として用いた場合、外部機器からの充電電流として、車両の動力の回生エネルギーを用いることができる。
【0161】
なお、電池パック300は、複数の組電池200を備えていてもよい。この場合、複数の組電池200は、直列に接続されてもよく、並列に接続されてもよく、直列接続及び並列接続を組み合わせて接続されてもよい。また、プリント配線基板34及び配線35は省略してもよい。この場合、正極側リード22及び負極側リード23を通電用の外部端子として用いてもよい。
【0162】
このような電池パックは、例えば大電流を取り出したときにサイクル性能が優れていることが要求される用途に用いられる。この電池パックは、具体的には、例えば、電子機器の電源、定置用電池、各種車両の車載用電池として用いられる。電子機器としては、例えば、デジタルカメラを挙げることができる。この電池パックは、車載用電池として特に好適に用いられる。
【0163】
第5実施形態に係る電池パックは、第3実施形態に係る二次電池又は第4実施形態に係る組電池を備えている。それ故、この電池パックは低抵抗であり且つ優れた自己放電特性を示す。
【0164】
[実施例]
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に記載される実施例に限定されるものではない。
【0165】
(実施例1)
<負極の作製>
負極活物質としてチタン酸リチウム96重量%、導電剤として燐片状黒鉛2重量%、バインダとしてポリフッ化ビニリデン2重量%を混合して、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えてスラリーを調製した。厚み12μmである帯状のアルミニウム箔の表裏それぞれに対して、未塗工部分が一部に形成されるようにスラリーを塗布及び乾燥した。短辺方向についての塗工幅が94mmであり且つ未塗工幅が20mmとなるように、長辺と平行に裁断を行った。その後、ロールプレスでアルミニウム箔及び塗膜を圧延し、負極を作製した。
【0166】
<正極の作製>
正極活物質としてマンガン酸リチウム92重量%、導電剤としてアセチレンブラック5重量%、バインダとしてポリフッ化ビニリデン3重量%を混合して、NMPを加えてスラリーを作製した。厚み12μmである帯状のアルミニウム箔の表裏それぞれに対して、未塗工部分が一部に形成されるようにスラリーを塗布及び乾燥した。短辺方向についての塗工幅が90mmであり且つ未塗工幅が25mmとなるように、長辺と平行に裁断を行った。その後、ロールプレスでアルミニウム箔及び塗膜を圧延し、正極を作製した。正極活物質含有層の膜厚は、プレス後に30μmとなるように調整を行った。
【0167】
<多孔質層の形成>
無機粒子として、平均粒子径が0.8μmのチタン酸リチウム97重量%、バインダとしてポリフッ化ビニリデン3重量%を混合して、NMPを加えてスラリーを作製した。スラリーを、正極活物質含有層の主面上を被覆すると共に、同主面から正極集電体の未塗工部に亘って、未塗工部を5mm幅で被覆するように塗布した。この塗膜を乾燥させ、裁断を行った後、ロールプレスで圧延に供して、多孔質層が一体形成された正極を得た。多孔質層の膜厚は、プレス後に1.0μmとなるように調整した。
【0168】
<捲回型電極群の作製>
セパレータとして、厚さが15μmである帯状の不織布を用意した。そして、図5を参照しながら説明したようにセパレータ、負極及び正極を積層し、これらシートの短辺方向と平行な方向が捲回軸となるように、これらシートを捲回して電極群を作製した。
【0169】
<非水電解質の調製>
非水電解質として、プロピレンカーボネートを30体積%及びジエチルカーボネートを70体積%の量で含む溶媒に、濃度が1.5mol/Lとなるように六フッ化リン酸リチウムを溶解させて電解液を調製した。
【0170】
<二次電池の作製>
電極群の周囲を、外装部材としてのアルミニウムラミネートで覆い、一部を除いて周囲を熱溶着した。一部の未熱溶着部から、電極群が全て浸る程度の量で上記電解液を注入した。その後、一部の未熱溶着部を熱溶着して電極群及び電解液を封止することで二次電池を作製した。
【0171】
(実施例2)
多孔質層形成時に、プレス圧を小さくしたことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0172】
(実施例3)
正極作製時に、プレス圧を大きくしたことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0173】
(実施例4)
多孔質層形成時に、目付量を変更して、プレス後の膜厚が0.5μmとなるように変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0174】
(実施例5)
多孔質層形成時に、目付量を変更して、プレス後の膜厚が2.0μmとなるように変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0175】
(実施例6)
多孔質層形成時に、目付量を変更して、プレス後の膜厚が3.0μmとなるように変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0176】
(実施例7)
多孔質層形成時に、無機粒子として、チタン酸リチウムの代わりに平均粒子径が0.6μmの二酸化チタンを使用したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0177】
(実施例8)
負極活物質として、チタン酸リチウムの代わりに人造黒鉛を使用したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0178】
(実施例9)
セパレータとして、厚さが25μmである帯状の不織布を使用したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0179】
(比較例1)
多孔質層の形成を省略したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0180】
(比較例2)
多孔質層形成時に、目付量を変更して、プレス後の膜厚が5.0μmとなるように変更したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
【0181】
(比較例3)
下記の通り捲回型電極群を作製したことを除いて、実施例1と同様の方法で二次電池を作製した。
まず、実施例1と同様の方法で負極及び正極を作製した。但し、正極作製時に多孔質層を形成しなかった。次に、セパレータとして、厚さ15μmの不織布上に5.0μmのアルミナ粒子層が担持された帯状のセパレータを2枚用意した。2枚のセパレータを、アルミナ粒子層が正極活物質含有層と接するように、正極の両面上にそれぞれ積層し、更に、一方のセパレータ上に負極を積層した。積層されたこれらシートを、その短辺方向と平行な方向が捲回軸となるように捲回して、捲回型電極群を作製した。
【0182】
<層厚の測定>
各例において作製した二次電池が備える正極について、第1実施形態において説明した方法に従って、正極活物質含有層及び多孔質層の層厚をそれぞれ測定した。結果を下記表1に示す。
【0183】
<充電状態の調整>
各例において作製した二次電池を、25℃環境下において、0.2Aの定電流且つ2.7Vの定電圧条件で、10時間に亘り充電した後、25℃環境下において、0.2Aの定電流且つカットオフ電圧1.5Vの条件で放電を行った。次に、25℃環境下において、0.2Aの条件で放電容量の50%に相当する容量の分だけ充電を行った。こうして、二次電池のSOCを50%に調整した。
【0184】
<抵抗測定>
SOCを50%に調整した二次電池について、25℃環境下において、直流抵抗を測定した。結果を下記表1に示す。
【0185】
<自己放電容量の測定>
SOC100%に調整した二次電池を65℃環境下で1週間に亘り放置し、この間の自己放電容量を算出した。
【0186】
<細孔径分布の測定>
各例において作製した二次電池について、第1実施形態において説明した方法に従って水銀圧入法を実施し、正極活物質含有層及び多孔質層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Xと、正極活物質含有層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Yとを求めた。結果を下記表1に示す。なお、比較例3においては、正極活物質含有層上に多孔質層が直接積層されていなかったため、モード径Yを適切に測定することができなかった。それ故、比較例3に関しては細孔径分布を測定しなかった。下記表1中、比較例3に係る多孔質層の厚みの列には、アルミナ粒子層の厚さを示している。
【0187】
また、実施例1に係る細孔径分布測定の結果を図13に示す。図13に示すlog微分細孔容積分布曲線において、横軸は細孔径[μm]を示し、縦軸はlog微分細孔容積[mL/g]を示す。図13に示すグラフにおいて、正極活物質含有層及び多孔質層についてのlog微分細孔体積分布曲線を実線で示しており、正極活物質含有層についてのlog微分細孔体積分布曲線を破線で示している。正極活物質含有層及び多孔質層についてのlog微分細孔体積分布曲線は、最も存在比率の高いピークPXを有しており、ピークPXのピークトップの位置に対応したモード径Xは0.510μmであった。また、正極活物質含有層についてのlog微分細孔体積分布曲線は、最も存在比率の高いピークPYを有しており、ピークPYのピークトップの位置に対応したモード径Yは0.405μmであった。それ故、モード径Yに対するモード径Xの比X/Yは、1.26であった。
【0188】
【表1】
【0189】
実施例1~9に示しているように、多孔質層の厚みが3.0μm以下であり且つ比X/Yが1.0<X/Y<1.5…(1)を満たす場合、低い抵抗と自己放電の抑制を両立できていることが分かる。実施例1及び4~6は、多孔質層の厚みを0.5μm~3.0μmの範囲内で変更した場合である。これら例は、何れも比X/Yが式1を満たしているため、多孔質層の厚さを適宜変更した場合であっても低抵抗であり且つ自己放電が抑制された二次電池が得られた。実施例1~3に示すように、多孔質層の厚さを変化させずに比X/Yを高めた場合、電池抵抗は低減する傾向があるが、これに伴い自己放電容量が増大する。活物質含有層についてのモード径Yが小さい、即ち、細かな細孔を多数含む活物質含有層を備えていても、多孔質層が積層された状態でのモード径Xが大きい場合には、リチウムイオンが多孔質層を通過しやすいため、自己放電容量が増大すると考えられる。
【0190】
実施例7及び8に示す通り、無機粒子の種類又は負極活物質の種類を変更しても、多孔質層の厚みが3.0μm以下であり且つ比X/Yが式1を満たす正極を備える二次電池は、直流抵抗が低く、自己放電を有意に抑制することができた。なお、人造黒鉛を負極活物質として使用した実施例5は、負極作動電位が低いため、他の実施例と比較して自己放電容量が大きかったと考えられる。セパレータ厚みを25μmに変更した実施例6は、他の実施例と比較して自己放電容量を小さくすることができたが、直流抵抗は比較的高い値であった。実施例1~9のように多孔質層の厚さが3.0μm以下である場合、表1には示していないが、電池の外装部材の容積に対する多孔質層が占める体積を小さくすることができるため、電池容量をより大きくできるという利点がある。
【0191】
多孔質層の形成を省略した比較例1は、直流抵抗が実施例1などと同程度であったが、自己放電特性が劣っていた。また、多孔質層の厚さが3.0μm超であり且つ比X/Yも1.5超である比較例2は、多孔質層が厚いため自己放電特性は優れていた。比較例2のモード径Xは大きいことから、多孔質層は大きな細孔径を比較的多く含んでいたと判断できるが、リチウムイオンの移動距離が長いため直流抵抗が大きかったと考えられる。
【0192】
比較例3では、正極活物質含有層上に多孔質層が直接積層されていなかった。その代わりに、正極活物質含有層上には、セパレータ表面に担持されたアルミナ粒子層が接触していた。また、当該アルミナ粒子層の厚みは5.0μmであった。セパレータ厚みが15μmである実施例1~8及び比較例3に着目すると、比較例3は自己放電特性に優れていたが、電池抵抗には劣る傾向があった。
【0193】
以上に説明した少なくとも一つ実施形態及び実施例によると、正極が提供される。正極は、正極集電体と、正極集電体上に設けられた正極活物質含有層と、正極活物質含有層上の少なくとも一部に設けられ、無機粒子を含む多孔質層とを備える。多孔質層の厚みは3.0μm以下である。正極活物質含有層及び多孔質層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Xと、正極活物質含有層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Yとの比X/Yが下記式1を満たす。
1.0<X/Y<1.5 ・・・(1)
【0194】
実施形態に係る正極は、無機粒子を含む多孔質層により自己放電を抑制しつつも、式1を満たすため、低い電池抵抗を実現することができる。
【0195】
本発明のいくつか実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 正極集電体と、
前記正極集電体上に設けられた正極活物質含有層と、
前記正極活物質含有層上の少なくとも一部に設けられ、無機粒子を含む多孔質層とを備え、
前記多孔質層の厚みは3.0μm以下であり、
前記正極活物質含有層及び前記多孔質層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Xと、前記正極活物質含有層に対する水銀圧入法により得られるlog微分細孔体積分布曲線におけるモード径Yとの比X/Yが、下記式1を満たす正極。
1.0<X/Y<1.5 ・・・(1)
[2] 前記無機粒子の平均粒子径(D50)は、0.1μm~3.0μmの範囲内にある[1]に記載の正極。
[3] 前記無機粒子は、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸リチウム、水酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化鉄、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、ギブサイト、ベーマイト、バイヤライト、酸化ジルコニウム、水酸化マグネシウム、シリカ、チタン酸バリウム、四ホウ酸リチウム、タンタル酸リチウム、雲母、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及び沸石からなる群より選択される少なくとも一種である[1]又は[2]に記載の正極。
[4] 前記多孔質層は更にバインダを含み、
前記多孔質層の質量に占める前記無機粒子の質量の割合は50質量%~100質量%の範囲内にある[1]~[3]の何れか1つに記載の正極。
[5] 前記比X/Yは、1.20以上である[1]~[4]の何れか1つに記載の正極。
[6] 前記正極活物質含有層の厚みは5μm~100μmの範囲内にある[1]~[5]の何れか1つに記載の正極。
[7] [1]~[6]の何れか1つに係る正極と、
負極と、
前記多孔質層と接しており、且つ、前記正極及び前記負極の間に介在するセパレータとを備える電極群。
[8] 前記セパレータの厚みは5μm~30μmの範囲内にある[7]に記載の電極群。
[9] 前記負極は、負極活物質を含む負極活物質含有層を備えており、
前記負極活物質は、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、ニオブチタン複合酸化物及びナトリウムニオブチタン複合酸化物からなる群より選択される少なくとも一種のチタン含有酸化物を含む[7]又は[8]に記載の電極群。
[10] [7]~[9]の何れか1つに係る電極群と、電解質とを備える二次電池。
[11] [10]に記載の二次電池を具備する電池パック。
[12] 複数の前記二次電池を具備し、前記二次電池が、直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて電気的に接続されている[10]又は[11]に記載の電池パック。
【符号の説明】
【0196】
1…電極群、2…外装部材、3…負極、3a…負極集電体、3b…負極活物質含有層、3c…負極集電タブ、4…セパレータ、5…正極、5a…正極集電体、5b…正極活物質含有層、6…負極端子、7…正極端子、8…多孔質層、21…バスバー、22…正極側リード、23…負極側リード、24…粘着テープ、31…収容容器、32…蓋、33…保護シート、34…プリント配線基板、35…配線、100…二次電池、200…組電池、300…電池パック、341…正極側コネクタ、342…負極側コネクタ、343…サーミスタ、344…保護回路、345…配線、346…配線、347…通電用の外部端子、348a…プラス側配線、348b…マイナス側配線。
図1
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図13