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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/52 20060101AFI20240401BHJP
   F16D 43/12 20060101ALI20240401BHJP
   F16D 43/21 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
F16D13/52 D
F16D43/12
F16D43/21
F16D13/52 C
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2024502075
(86)(22)【出願日】2023-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2023037702
【審査請求日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2022168647
(32)【優先日】2022-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】曾 恒香
(72)【発明者】
【氏名】志水 亮太
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-145785(JP,A)
【文献】特開2017-133530(JP,A)
【文献】特開2019-090429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14
F16D 41/00-47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の駆動力で回転する入力部材と共に回転しかつ複数の駆動側クラッチ板を保持するクラッチハウジングに収容され、かつ、車輪を回転させ得る出力部材と連結され、かつ、前記駆動側クラッチ板と交互に配置された複数の被動側クラッチ板を保持するクラッチ部材と、
前記クラッチ部材と共に前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板を押圧可能なプレッシャ部材と、
前記クラッチハウジングの回転に伴う遠心力により内径側位置から外径側位置に移動可能とされたウェイト部材を有し、前記ウェイト部材が前記内径側位置から前記外径側位置に移動することに伴い前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板に第1圧接力を付与し、前記ウェイト部材が前記外径側位置にあるときに前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させて前記駆動源の駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とするとともに、前記ウェイト部材が前記内径側位置にあるときに前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板に付与された前記第1圧接力を解放させて前記駆動源の駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る遠心クラッチ手段と、
前記駆動源の回転数の増加に伴い、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を増幅する第2圧接力を発生させる圧接力増幅機構と、
前記クラッチ部材が前記プレッシャ部材に対して相対回転した際に、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を増幅する第3圧接力を発生させるアシストカム機構と、を備えている、動力伝達装置。
【請求項2】
前記駆動源の回転数が所定の回転数に達したときに、前記圧接力増幅機構および前記アシストカム機構が作動して前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板に前記第2圧接力および前記第3圧接力が付与される、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記駆動源の回転数が、前記駆動源の駆動力が前記車輪に伝達されない回転数のときには、前記第1圧接力と前記第2圧接力との合計値は、前記第3圧接力よりも大きい、請求項1または2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記圧接力増幅機構は、前記第2圧接力を発生させる複数の増幅カムを有し、
前記アシストカム機構は、前記第3圧接力を発生させる複数のアシストカムを有し、
前記増幅カムの数は、前記アシストカムの数と同じまたは多い、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記増幅カムの数は、前記アシストカムの数よりも多い、請求項4に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記圧接力増幅機構が前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板に前記第2圧接力を付与する方向と、前記アシストカム機構が前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板に前記第3圧接力を付与する方向とは互いに対向する、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記プレッシャ部材を前記クラッチ部材に近づく方向に付勢するクラッチスプリングを備え、
前記ウェイト部材が前記外径側位置にあるときには、前記第1圧接力と前記第2圧接力との合計値は、前記第3圧接力と前記クラッチスプリングのセット荷重との合計値と同じである、請求項6に記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記遠心クラッチ手段は、前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板を挟んで前記プレッシャ部材の反対側に配置され、
前記第1圧接力および前記第2圧接力は、前記遠心クラッチ手段から前記プレッシャ部材に向かう方向に付与され、
前記第3圧接力は、前記プレッシャ部材から前記遠心クラッチ手段に向かう方向に付与される、請求項6または7に記載の動力伝達装置。
【請求項9】
前記圧接力増幅機構が作動し始める前記駆動源の回転数と、前記アシストカム機構が作動し始める前記駆動源の回転数とは異なる、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項10】
前記圧接力増幅機構が作動し始める前記駆動源の回転数は、前記アシストカム機構が作動し始める前記駆動源の回転数よりも低い、請求項9に記載の動力伝達装置。
【請求項11】
前記圧接力増幅機構が作動する前記駆動源の回転数の範囲と、前記アシストカム機構が作動する前記駆動源の回転数の範囲とは異なる、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項12】
前記アシストカム機構が作動する前記駆動源の回転数の範囲は、前記圧接力増幅機構が作動する前記駆動源の回転数の範囲よりも広い、請求項11に記載の動力伝達装置。
【請求項13】
前記アシストカム機構が作動し始める前記駆動源の回転数と、前記圧接力増幅機構の作動が完了する前記駆動源の回転数とは異なる、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項14】
前記アシストカム機構が作動し始める前記駆動源の回転数は、前記圧接力増幅機構の作動が完了する前記駆動源の回転数よりも低い、請求項13に記載の動力伝達装置。
【請求項15】
前記アシストカム機構が作動し始める前記駆動源の回転数は、前記ウェイト部材が前記外径側位置に移動することを完了するときの前記駆動源の回転数よりも低い、請求項13に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意に入力部材の回転力を出力部材に伝達させ又は遮断させ得る動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の動力伝達装置として、例えば特許文献1で開示されているように、クラッチハウジングの回転に伴う遠心力で内径側位置から外径側位置に移動することにより駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させ得るウェイト部材を具備した遠心クラッチ手段について提案されている。かかる従来の動力伝達装置によれば、エンジン等の駆動源の駆動に伴ってクラッチハウジングが回転することにより、ウェイト部材に遠心力を付与させることができ、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させてエンジンの駆動力を車輪に伝達させることができる。
【0003】
また、上記従来の動力伝達装置によれば、入力部材に入力された回転力が出力部材に伝達され得る状態となったときに駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を増幅するカム推力を発生させる圧接力増幅機構が設けられている。このため、運転者がクラッチ操作して駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板とを圧接させる際、操作力を低減して円滑な動力伝達を行わせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2013/183588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の動力伝達装置では、エンジンの駆動力を車輪に伝達させるために、圧接力増幅機構によって駆動側クラッチ板と被動側クラッチとの圧接力を増幅しているが、駆動側クラッチ板と被動側クラッチとの圧接力をより大きくすることができれば、エンジンの駆動力を車輪により効率よく伝達することができる。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、駆動源の駆動力をより効率よく車輪に伝達することができる動力伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る動力伝達装置は、駆動源の駆動力で回転する入力部材と共に回転しかつ複数の駆動側クラッチ板を保持するクラッチハウジングに収容され、かつ、車輪を回転させ得る出力部材と連結され、かつ、前記駆動側クラッチ板と交互に配置された複数の被動側クラッチ板を保持するクラッチ部材と、前記クラッチ部材と共に前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板を押圧可能なプレッシャ部材と、前記クラッチハウジングの回転に伴う遠心力により内径側位置から外径側位置に移動可能とされたウェイト部材を有し、前記ウェイト部材が前記内径側位置から前記外径側位置に移動することに伴い前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板に第1圧接力を付与し、前記ウェイト部材が前記外径側位置にあるときに前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板とを圧接させて前記駆動源の駆動力を前記車輪に伝達可能な状態とするとともに、前記ウェイト部材が前記内径側位置にあるときに前記駆動側クラッチ板および前記被動側クラッチ板に付与された前記第1圧接力を解放させて前記駆動源の駆動力が前記車輪に伝達されるのを遮断し得る遠心クラッチ手段と、前記駆動源の回転数の増加に伴い、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を増幅する第2圧接力を発生させる圧接力増幅機構と、前記クラッチ部材が前記プレッシャ部材に対して相対回転した際に、前記駆動側クラッチ板と前記被動側クラッチ板との圧接力を増幅する第3圧接力を発生させるアシストカム機構と、を備えている。
【0008】
本発明に係る動力伝達装置は、第1圧接力を付与する遠心クラッチ手段および第2圧接力を発生させる圧接力増幅機構に加えて、クラッチ部材がプレッシャ部材に対して相対回転した際に、駆動側クラッチ板と被動側クラッチ板との圧接力を増幅する第3圧接力を発生させるアシストカム機構を備えている。上記態様によれば、車両の運転状態に応じて、駆動側クラッチ板および被動側クラッチ板には、第1圧接力および第2圧接力に加えて第3圧接力が発生するため、駆動側クラッチ板および被動側クラッチ板の圧接力を最大化することができる。これにより、駆動源の駆動力をより効率よく車輪に伝達することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、駆動源の駆動力をより効率よく車輪に伝達することができる動力伝達装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態に係る動力伝達装置を示す外観図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図3は、図1のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、第1実施形態に係るクラッチハウジングを示す斜視図である。
図5A図5Aは、第1実施形態に係るクラッチ部材の平面図である。
図5B図5Bは、第1実施形態に係るクラッチ部材の分解斜視図である。
図6図6は、第1実施形態に係る第1クラッチ部材を示す3面図である。
図7図7は、第1実施形態に係る第1クラッチ部材を示す斜視図である。
図8図8は、第1実施形態に係る第2クラッチ部材を示す3面図である。
図9図9は、図8のIX-IX線に沿った断面図である。
図10図10は、第1実施形態に係るプレッシャ部材を示す3面図である。
図11図11は、第1実施形態に係る遠心クラッチ手段を示す3面図である。
図12図12は、図11のXII-XII線に沿った断面図である。
図13図13は、第1実施形態に係る遠心クラッチ手段を示す斜視図である。
図14図14は、第1実施形態に係る動力伝達装置が適用される車両を示す模式図である。
図15図15は、第1実施形態に係る遠心クラッチ手段のウェイト部材が内径側位置から外径側位置に向かって移動開始した状態(抑制手段による抑制が解除された状態)を示す断面図である。
図16図16は、第1実施形態に係る遠心クラッチ手段のウェイト部材が内径側位置から外径側位置に向かう過程(増幅カムが作動)を示す断面図である。
図17図17は、第1実施形態に係る遠心クラッチ手段のウェイト部材が外径側位置に達した状態を示す断面図である。
図18図18は、第1実施形態に係る増幅カムの作動が抑制された状態を示す模式図である。
図19図19は、第1実施形態に係る増幅カムの作動の抑制が解除された状態を示す模式図である。
図20図20は、第1実施形態に係る増幅カムが作動している状態を示す模式図である。
図21図21は、第1実施形態に係る増幅カムの作動が完了した状態を示す模式図である。
図22図22は、第1実施形態に係るバックトルクリミッタ用カムが作動している状態を示す模式図である。
図23図23は、第2実施形態に係る動力伝達装置を示す外観図である。
図24図24は、図23のXXIV-XXIV線に沿った断面図である。
図25図25は、第2実施形態に係る第1クラッチ部材及び第2クラッチ部材を示す分解斜視図である。
図26図26は、第2実施形態に係る第1クラッチ部材及び第2クラッチ部材を示す分解斜視図である。
図27図27は、第2実施形態に係る第1クラッチ部材を示す3面図である。
図28図28は、第2実施形態に係る遠心クラッチ手段のウェイト部材が内径側位置から外径側位置に向かって移動開始した状態(抑制手段による抑制が解除された状態)を示す断面図である。
図29図29は、第2実施形態に係る遠心クラッチ手段のウェイト部材が内径側位置から外径側位置に向かう過程(増幅カムが作動)を示す断面図である。
図30図30は、第2実施形態に係る遠心クラッチ手段のウェイト部材が外径側位置に達した状態を示す断面図である。
図31図31は、エンジンの回転数と各部材との関係を示すグラフである。
図32図32は、第3実施形態に係るクラッチ部材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。図14に示すように、動力伝達装置Kは、車両に配設されて任意にエンジンEの駆動力をミッションMを介して駆動輪W側へ伝達し又は遮断するためのものである。エンジンEは、駆動源の一例である。駆動輪Wは、車輪の一例である。図1~13に示すように、動力伝達装置Kは、車両のエンジンEの駆動力で回転する入力ギア1が形成されたクラッチハウジング2と、ミッションMに接続された出力シャフト3と、クラッチ部材4と、プレッシャ部材5と、積層状態で組付けられた複数の駆動側クラッチ板6及び複数の被動側クラッチ板7と、ウェイト部材10を有する遠心クラッチ手段9とを有している。なお、図中符号Sは、クラッチスプリングを示している。クラッチスプリングSは、プレッシャ部材5をクラッチ部材4に近づく方向(図2の矢印DR1方向)に付勢する。入力ギア1は、入力部材の一例である。出力シャフト3は、出力部材の一例である。
【0012】
入力ギア1は、エンジンEから伝達された駆動力(回転力)が入力されると出力シャフト3を中心として回転可能に構成されている。入力ギア1は、リベット等によりクラッチハウジング2と連結されている。クラッチハウジング2は、図2、3中右端側が開口した円筒状に形成されている。クラッチハウジング2は、エンジンEの駆動力により入力ギア1と共に回転する。
【0013】
図4に示すように、クラッチハウジング2には、周方向に亘って複数の切欠き2aが形成されている。複数の駆動側クラッチ板6は、切欠き2aに嵌合して取り付けられている。即ち、クラッチハウジング2は、複数の駆動側クラッチ板6を保持する。駆動側クラッチ板6は、略円環状を有する板材から構成されている。駆動側クラッチ板6は、クラッチハウジング2の回転と共に回転し、かつ、出力シャフト3の軸方向(即ち図2、3中の左右方向)に移動可能に構成されている。
【0014】
図2に示すように、クラッチ部材4は、クラッチハウジング2に収容されている。クラッチ部材4は、駆動側クラッチ板6と交互に配置された複数の被動側クラッチ板7を保持する。クラッチ部材4は、車両のミッションMを介して駆動輪Wを回転させ得る出力シャフト3と連結されている。図5Aおよび図5Bに示すように、クラッチ部材4は、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとを含む。第1クラッチ部材4aは第2クラッチ部材4bに嵌合する。
【0015】
図5A図7に示すように、第1クラッチ部材4aは、中央に形成された挿通孔4acを有する。挿通孔4acには、出力シャフト3が挿通され、互いに形成されたギアが噛み合って回転方向に連結されている。即ち、第1クラッチ部材4aは、出力シャフト3と連結されている。第1クラッチ部材4aは、周方向に並ぶ複数の凹部Aを有する。凹部Aは、第1クラッチ部材4aの外周面に形成されている。凹部Aには、圧接アシスト用カムを構成する第1勾配面4aaと、バックトルクリミッタ用カムを構成する第3勾配面4abとが形成されている。第1クラッチ部材4aは、ボス部4adを有する。ボス部4adには、第1クラッチ部材4aと固定部材8とを連結するためのボルトBが挿通される挿通穴が形成されている。第1クラッチ部材4aは、出力シャフト3の軸方向に貫通し、かつ、周方向に並ぶ複数の貫通孔4agを備えている。貫通孔4agは、挿通孔4acよりも径方向外側に位置する。貫通孔4agは、隣り合うボス部4adの間に配置されている。
【0016】
図8に示すように、第2クラッチ部材4bは、円環状に形成された外周壁4beと、外周壁4beから径方向外側に延びるフランジ部4bdとを備えている。外周壁4beには、スプライン嵌合部4bcが形成されている。スプライン嵌合部4bcには、被動側クラッチ板7がスプライン嵌合にて取り付けられる。即ち、第2クラッチ部材4bは、被動側クラッチ板7を保持する。第2クラッチ部材4bは、出力シャフト3の軸方向に移動可能に構成されている。後述するように、第2クラッチ部材4bは、後述する抑制部材Dが第2圧接力の発生を抑制しているとき、ウェイト部材10の付勢力によってプレッシャ部材5に近づく方向(図2の矢印DR2方向)に移動可能に構成されている。第2クラッチ部材4bは、周方向に並び、かつ、凹部Aに嵌入可能な複数の凸部Tを有する。図9に示すように、凸部Tには、圧接アシスト用カムを構成する第2勾配面4baと、バックトルクリミッタ用カムを構成する第4勾配面4bbとが形成されている。
【0017】
図10に示すように、プレッシャ部材5は、周縁部にフランジ部5aが形成された円板状部材から構成されている。プレッシャ部材5は、クラッチ部材4と共に駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を押圧可能に構成されている。プレッシャ部材5が駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させることにより、エンジンEの駆動力を駆動輪Wに伝達することができる。すなわち、プレッシャ部材5のフランジ部5aと第2クラッチ部材4bのフランジ部4bdとの間には駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7が積層状態に配置されており、第2クラッチ部材4bがプレッシャ部材5に接近する方向(図2の矢印DR2方向)に移動すると、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7が圧接されて、クラッチハウジング2の回転力が第2クラッチ部材4bおよび第1クラッチ部材4aを介して出力シャフト3に伝達される状態となる。一方、第2クラッチ部材4bがプレッシャ部材5から離隔する方向(図2の矢印DR1方向)に移動すると、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接力が解放されて第1クラッチ部材4aおよび第2クラッチ部材4bがクラッチハウジング2の回転に追従しなくなり、出力シャフト3へクラッチハウジング2の回転力が伝達されなくなる。
【0018】
このように、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接された状態では、クラッチハウジング2に入力された回転力(即ちエンジンEの駆動力)は出力シャフト3を介して駆動輪側(即ちミッションM)に伝達される。また、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接が解放された状態では、クラッチハウジング2に入力された回転力は出力シャフト3に伝達されない。
【0019】
第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとが嵌合した状態では凹部Aに凸部Tが嵌入する。また、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとが嵌合した状態では第1勾配面4aaと第2勾配面4baとが対峙して圧接アシスト用カムを構成し、かつ、第3勾配面4abと第4勾配面4bbとが対峙してバックトルクリミッタ用カムを構成する。図8に示すように、凸部Tには、後述するコイルスプリングD2(図3参照)が収容される収容凹部Taが形成されている。
【0020】
動力伝達装置Kは、圧接力増幅機構20(図18参照)を備えている。圧接力増幅機構20は、エンジンEの回転数の増加に伴い、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増幅する第2圧接力を発生させる。第2圧接力は、カム推力の一例である。圧接力増幅機構20は、入力ギア1に入力された回転力が出力シャフト3に伝達され得る状態となったときに駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増幅する第2圧接力を発生させる。圧接力増幅機構20は、クラッチ部材4の一部(ここでは第2クラッチ部材4b)がプレッシャ部材5に近づく方向(図2の矢印DR2方向)に移動することによって第2圧接力を発生させるように構成されている。圧接力増幅機構20は、クラッチ部材4の一部(ここでは第2クラッチ部材4b)が出力シャフト3の軸心3C(図5A参照)を中心に第1の周方向S1(図5A参照)に回転しながらプレッシャ部材5に近づく方向に移動することによって第2圧接力を発生させるように構成されている。圧接力増幅機構20は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に第2圧接力を図2の矢印DR2方向(図2中左方向)に付与する。圧接力増幅機構20は、複数の増幅カム22を有する。増幅カム22は、第2圧接力を発生させる。増幅カム22は、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとが相互に接触可能な部分に設けられている。増幅カム22は、第1クラッチ部材4aの凹部Aおよび第2クラッチ部材4bの凸部Tに形成されている。増幅カム22は、凹部Aに形成された第1勾配面4aaと、凸部Tに形成され、かつ、第1勾配面4aaと摺動する第2勾配面4baと、を含む。増幅カム22が作動することによって(即ち第1勾配面4aaと第2勾配面4baとが摺動することによって)第2圧接力が発生する。本実施形態では、圧接力増幅機構20は、6つの増幅カム22を有する。なお、増幅カム22の数は6に限定されない。増幅カム22は、第1カムの一例である。
【0021】
ここで、図20に示すように、エンジンEの回転数が上がり、入力ギア1及びクラッチハウジング2に入力された回転力が、第1クラッチ部材4a及び第2クラッチ部材4bを介して出力シャフト3に伝達され得る状態(即ちウェイト部材10が外径側位置に位置する状態)となったときに、第2クラッチ部材4bには図20の矢印a方向の回転力が付与される。これにより、第1勾配面4aa及び第2勾配面4baが互いに摺動して増幅カム22が作動して、第2クラッチ部材4bには図20の矢印c方向の力が発生する。そして、第2クラッチ部材4bは、プレッシャ部材5に接近する方向(即ち第2クラッチ部材4bのフランジ部4bdがプレッシャ部材5のフランジ部5aに対して接近する方向。図2および図3の矢印DR2方向。)に移動して、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増幅する第2圧接力が発生する。
【0022】
一方、図22に示すように、出力シャフト3の回転が入力ギア1及びクラッチハウジング2の回転数を上回ってバックトルクが生じた際には、第2クラッチ部材4bには図22の矢印b方向の回転力が付与される。これにより、第3勾配面4ab及び第4勾配面4bbが互いに摺動してバックトルクリミッタ用カムが作動して、第2クラッチ部材4bはプレッシャ部材5から離隔する方向(即ち図22の矢印d方向)に移動し、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力(ここでは第2圧接力)を解放するように構成されている。これにより、バックトルクによる動力伝達装置Kや動力源(エンジンE側)に不具合が発生することを回避することができる。
【0023】
図11~13に示すように、遠心クラッチ手段9は、クラッチハウジング2の回転に伴う遠心力により内径側位置(図2参照)から外径側位置(図17参照)に移動可能とされたウェイト部材10を有する。遠心クラッチ手段9は、クラッチハウジング2の開口側(図2、3中右側)に配置されている。遠心クラッチ手段9は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を挟んでプレッシャ部材5の反対側に配置されている。ここでは、遠心クラッチ手段9は、プレッシャ部材5よりも図2の矢印DR1方向側に配置されている。遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材10が外径側位置にあるとき駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させてエンジンEの駆動力を駆動輪Wに伝達可能な状態とする。遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動することに伴い駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に第1圧接力を付与するように構成されている。ウェイト部材10は、内径側位置から外径側位置に移動することに伴い、クラッチ部材4(ここでは第2クラッチ部材4b)をプレッシャ部材5に近づく方向(図2の矢印DR2方向)に付勢する。遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材10が内径側位置にあるときに、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を解放させてエンジンEの駆動力が駆動輪Wに伝達されるのを遮断し得るように構成されている。即ち、遠心クラッチ手段9は、ウェイト部材10が内径側位置にあるときに、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に付与された第1圧接力を解放させてエンジンEの駆動力が車輪に伝達されるのを遮断し得るように構成されている。
【0024】
図12に示すように、遠心クラッチ手段9は、複数のウェイト部材10と、スプリング11と、リテーナ12と、被押圧部材13とを有している。複数のウェイト部材10は、周方向に並ぶ。ウェイト部材10は、円環状のリテーナ12に収容されている。ウェイト部材10は、金属製である。ウェイト部材10は、遠心力が付与されない状態で内径側位置(図2参照)に保持される。例えば、エンジンEの回転数が所定の回転数以下のときに、ウェイト部材10は内径側位置に位置する。ウェイト部材10は、遠心力が付与されることにより(即ちエンジンEの回転数が所定の回転数より高くなることにより)スプリング11の付勢力に抗して径方向外側に向かって移動し、外径側位置(図17参照)に至るように構成されている。所定の回転数は、アイドリング回転数よりも高い。
【0025】
図12に示すように、遠心クラッチ手段9は、クラッチ部材4(ここでは第2クラッチ部材4b)をプレッシャ部材5に近づく方向(図2の矢印DR2方向)に移動させる複数の押圧カム18を有する。押圧カム18は、第2カムの一例である。押圧カム18は、第1圧接力を発生させる。押圧カム18は、ウェイト部材10と被押圧部材13とが相互に接触可能な部分に設けられている。押圧カム18は、ウェイト部材10および被押圧部材13に形成されている。押圧カム18は、ウェイト部材10の先端(径方向外側の先端)に形成された傾斜面10aと、被押圧部材13に形成された傾斜面13aと、を含む。傾斜面10aと傾斜面13aとは摺動可能に設けられている。出力シャフト3の軸方向と直交する方向である径方向に対する押圧カム18の傾斜面10aおよび傾斜面13aの傾斜角度θ1(図15参照)は、径方向に対する第1勾配面4aaの傾斜角度θ2(図18参照)および第2勾配面4baの傾斜角度θ2(図18参照)と異なる。傾斜角度θ1は、径方向に延びる直線L1と傾斜面10aおよび傾斜面13aとのなす角度である。傾斜角度θ2は、径方向に延びる直線L2と第1勾配面4aaおよび第2勾配面4baとのなす角度である。傾斜面10aおよび傾斜面13aは、カム面の一例である。径方向に対する第1勾配面4aaの傾斜角度θ2および第2勾配面4baの傾斜角度θ2は、径方向に対する傾斜面10aおよび傾斜面13aの傾斜角度θ1よりも大きい。
【0026】
遠心力によりウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に向かって移動すると、被押圧部材13が図2の矢印DR2方向に移動し、被押圧リング14を介して第2クラッチ部材4bのフランジ部4bdを押圧する。これにより、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接される。即ち、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に第1圧接力が付与される。駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接されることにより、エンジンEの駆動力が出力シャフト3に伝達される。
【0027】
一方、遠心力が低下すると、スプリング11の付勢力によりウェイト部材10は外径側位置から内径側位置に向かって移動するとともに、コイルスプリングD2(図3参照)の付勢力により第2クラッチ部材4bが図3の矢印DR1方向に移動し、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力が解放される。駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力が解放されることにより、エンジンEの駆動力が出力シャフト3に伝達されるのを遮断する。
【0028】
動力伝達装置Kは、エンジンEの回転数が所定の回転数以下(例えばウェイト部材10が内径側位置にあるとき)のときに、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接して駆動輪WにエンジンEの駆動力(例えばエンジンEの駆動力の一部)が伝達されるのを抑制する抑制部材D(図3および図6参照)を備えている。抑制部材Dは、エンジンEの回転数が所定の回転数以下のときに、圧接力増幅機構20による第2圧接力の発生を抑制する。抑制部材Dは、エンジンEの回転数が所定の回転数以下のときに増幅カム22の作動を抑制することによって第2圧接力の発生を抑制する。抑制部材Dは、エンジンEの回転数がアイドリング回転数よりも低い回転数の少なくとも一部の範囲において、第2圧接力の発生を抑制する。本実施形態では、抑制部材Dは、エンジンEの回転数がアイドリング回転数よりも低い回転数の全ての範囲において、第2圧接力の発生を抑制する。抑制部材Dは、エンジンEの回転数が所定の回転数より高いときに、圧接力増幅機構20による第2圧接力の発生を許容する。抑制部材Dは、エンジンEの回転数が所定の回転数より高いときに増幅カム22の作動を許容することによって第2圧接力の発生を許容する。抑制部材Dは、第2クラッチ部材4bの凸部Tと係合する段部D1(図6参照)と、コイルスプリングD2(図3参照)と、を含む。抑制部材Dは、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとが相互に接触可能な部分に設けられている。
【0029】
図6および図7に示すように、段部D1は、第1クラッチ部材4aと第2クラッチ部材4bとが相互に接触可能な部分に設けられている。段部D1は、第1クラッチ部材4aの凹部Aの所定部分に形成されている。第2クラッチ部材4bの凸部Tと段部D1とが係合するとき、第1勾配面4aaと第2勾配面4baとの摺動が抑制される。凸部Tと段部D1との係合が解除されることによって、第1勾配面4aaと第2勾配面4baとの摺動の抑制が解除される。
【0030】
図3に示すように、コイルスプリングD2は、第2クラッチ部材4bの凸部Tに形成された収容凹部Taに収容されている。コイルスプリングD2は、その一端が第1クラッチ部材4aに固定された支持リング15に当接して組付けられ、凸部Tを介して第2クラッチ部材4bを図3の矢印DR1方向に付勢する。即ち、コイルスプリング16は、クラッチ部材4の一部である第2クラッチ部材4bをプレッシャ部材5から遠ざかる方向に付勢する。コイルスプリングD2が第2クラッチ部材4bを付勢する方向(図3の矢印DR1方向)と、ウェイト部材10によって駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に付与される第1圧接力の方向(図3の矢印DR2方向)とは互いに対向する。コイルスプリングD2の軸心は、出力シャフト3の軸心と平行である。図5Aに示すように、コイルスプリングD2は、出力シャフト3の軸方向と直交する方向である径方向において、出力シャフト3と第2クラッチ部材4bの外周壁4beとの間に配置されている。コイルスプリングD2は、周方向に関して、隣り合う貫通孔4agの間に配置されている。第1圧接力がコイルスプリングD2の付勢力以下のとき、第1勾配面4aaと第2勾配面4baとの摺動が抑制される。第1圧接力がコイルスプリングD2の付勢力より大きくなることによって、第1勾配面4aaと第2勾配面4baとの摺動の抑制が解除される。
【0031】
図18に示すように、抑制部材Dは、ウェイト部材10が内径側位置にあるとき(即ちエンジンEの回転数が所定の回転数以下のとき)、増幅カム22の作動を抑制(例えば規制)する。抑制部材Dは、ウェイト部材10が内径側位置にあるとき、凸部Tの所定部位Fと係合(当接)して第1勾配面4aaおよび第2勾配面4baの摺動を抑制(例えば規制)する。即ち、抑制部材Dは、第2圧接力の発生を抑制する。なお、抑制部材Dが第2圧接力の発生を抑制しているとき、クラッチ部材の一部(ここでは第2クラッチ部材4b)は、ウェイト部材10の付勢力によってプレッシャ部材5に近づく方向(図2の矢印DR2方向)に移動可能に構成されている。このため、図19に示すように、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動することに伴い抑制部材Dと凸部Tの所定部位Fとの係合が解除される(即ち凸部Tの所定部位Fは抑制部材Dから離間する)。図20に示すように、抑制部材Dと凸部Tの所定部位Fとの係合が解除された状態では、抑制部材Dは、第1勾配面4aaおよび第2勾配面4baの摺動を許容する。抑制部材Dは、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に向かって移動することにより増幅カム22の作動の抑制を解除して増幅カム22を作動させ得る。即ち、抑制部材Dは、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動する過程において、第2圧接力の発生の抑制を解除する。この際、例えば、抑制部材Dは、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接されてエンジンEの駆動力が駆動輪Wに伝達し始める回転数のときに、第2圧接力の発生の抑制を解除してもよい。これにより、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが圧接して(即ち遠心クラッチ手段9の接続が開始され)エンジンEの駆動力が駆動輪Wに伝達される状態において、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を効果的に増幅することができる。
【0032】
図18に示すように、ウェイト部材10が内径側位置にあるとき(即ちエンジンEの回転数が所定の回転数以下のとき)、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との間で引きずりトルクが生じた場合であっても、段部D1が凸部Tの所定部位Fと係合(当接)しているため、増幅カム22が意図せず作動してしまうのを抑制することができる。また、ウェイト部材10が内径側位置にあるとき(即ちエンジンEの回転数が所定の回転数以下のとき)、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との間で引きずりトルクが生じた場合であっても、コイルスプリングD2が第2クラッチ部材4bをプレッシャ部材5から遠ざかる方向に付勢しているため、増幅カム22が意図せず作動してしまうのを抑制することができる。さらに、図15に示すように、エンジンEの回転数が上がると、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に向かって移動を開始して、第1圧接力がコイルスプリングD2のセット荷重を上回ると、第2クラッチ部材4bが図15の矢印DR2方向(第2クラッチ部材4bのフランジ部4bdがプレッシャ部材5のフランジ部5aに接近する方向)に移動する。このとき、図19に示すように、凸部Tは図19の矢印DR2方向に移動するので、段部D1と凸部Tの所定部位Fとの係合が解除され(即ち凸部Tの所定部位Fは段部D1から離間し)増幅カム22を作動させることができる。
【0033】
そして、図16に示すように、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動する過程において、図20に示すように、第1勾配面4aaと第2勾配面4baとが互いに摺動して増幅カム22が作動すると、遠心クラッチ手段9による第1圧接力に加えて、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増幅する第2圧接力が発生する。さらに、図17に示すように、ウェイト部材10が外径側位置に達すると、図21に示すように、凸部Tの所定部位Fが凹部Aの内周縁と当接して増幅カム22の作動が停止する。
【0034】
<第2実施形態>
図23図30に示すように、動力伝達装置K2は、クラッチハウジング2と、出力シャフト3と、クラッチ部材204と、プレッシャ部材205と、積層状態で組付けられた複数の駆動側クラッチ板6及び複数の被動側クラッチ板7と、ウェイト部材10を有する遠心クラッチ手段9とを備えている。なお、第1の実施形態と同様の構成部品には同一の符号を付し、それらの詳細な説明を省略する。
【0035】
動力伝達装置K2は、クラッチスプリングSを備えている。クラッチスプリングSは、プレッシャ部材205をクラッチ部材204に近づく方向(図24の矢印DR2方向)に付勢する。
【0036】
図26に示すように、プレッシャ部材5には、第6勾配面5bおよび第8勾配面5cが形成されている。プレッシャ部材5は、被動側クラッチ板7を保持する複数の嵌合歯5eを有する。複数の嵌合歯5eは周方向に並ぶ。嵌合歯5eは、フランジ部5aよりも径方向の内側に位置する。嵌合歯5eは、第6勾配面5bおよび第8勾配面5cよりも径方向の外側に位置する。プレッシャ部材5は、クラッチ部材4に対して接近または離隔可能に設けられている。プレッシャ部材5は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を押圧可能に構成されている。
【0037】
図27に示すように、第1クラッチ部材204aには、第5勾配面4aeおよび第7勾配面4afが形成されている。第1クラッチ部材204aとプレッシャ部材205とが組み付けられた状態では第5勾配面4aeと第6勾配面5bとが対峙してバックトルクリミッタ用カムを構成し、かつ、第7勾配面4afと第8勾配面5cとが対峙して圧接アシスト用カムを構成する。エンジンEの回転数が所定の回転数以上になると第7勾配面4af及び第8勾配面5cが互いに摺動する。これにより、プレッシャ部材205は図24の矢印DR1方向に移動し、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7が圧接される。即ち、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7には第3圧接力が発生する。一方、第5勾配面4ae及び第6勾配面5bが互いに摺動することにより、プレッシャ部材5は図24の矢印DR2方向に移動する。これにより、駆動側クラッチ板6及び被動側クラッチ板7の圧接力(ここでは第3圧接力)が解放される。
【0038】
図24に示すように、遠心クラッチ手段9は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を挟んでプレッシャ部材205の反対側に配置されている。ここでは、遠心クラッチ手段9は、プレッシャ部材205よりも図24の矢印DR2方向側に配置されている。遠心クラッチ手段9のウェイト部材10は、は、クラッチハウジング2の回転に伴う遠心力により内径側位置(図24参照)から外径側位置(図30参照)に移動可能に構成されている。ウェイト部材10は、内径側位置から外径側位置に移動することに伴い、クラッチ部材4(ここでは第2クラッチ部材4b)をプレッシャ部材5に近づく方向(図24の矢印DR1方向)に付勢する。
【0039】
圧接力増幅機構20は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に第2圧接力を図24の矢印DR1方向に付与する。
【0040】
動力伝達装置K2は、アシストカム機構30を備えている。アシストカム機構30は、第1クラッチ部材204aがプレッシャ部材205に対して相対回転した際に、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7の圧接力を増幅する第3圧接力を発生させる。アシストカム機構30は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に第3圧接力を図24の矢印DR2方向に付与する。即ち、第2圧接力が付与される方向(図24の矢印DR1方向)と、第3圧接力が付与される方向(図24の矢印DR2方向)とは互いに対向する。アシストカム機構30は、複数のアシストカム32を有する。アシストカム32は、第7勾配面4afと第8勾配面5cとを含む。本実施形態では、アシストカム機構30は、3つのアシストカム32を有する。なお、アシストカム32の数は3に限定されない。本実施形態では、増幅カム22の数は6つであり、増幅カム22の数はアシストカム32の数よりも多い。なお、増幅カム22の数は、アシストカム32の数と同じであってもよい。
【0041】
圧接力増幅機構20は、図31の矢印ER1に示すようにエンジンEの回転数の範囲がR5~R9のときに作動する。圧接力増幅機構20は、エンジンEの回転数がR5のときに第2圧接力を発生し始め、エンジンEの回転数がR9のときに第2圧接力の発生を完了する。アシストカム機構30は、図31の矢印ER2に示すようにエンジンEの回転数の範囲がR7~R10のときに作動する。アシストカム機構30は、エンジンEの回転数がR7のときに第3圧接力を発生し始め、エンジンEの回転数がR10のときに第3圧接力の発生を完了する。ウェイト部材10は、図31の矢印ER3に示すようにエンジンEの回転数の範囲がR2~R8のときに作動する。ウェイト部材10は、エンジンEの回転数がR2のときに内径側位置から外径側位置に向けて移動し始め、エンジンEの回転数がR8のときに移動が完了して外径側位置に位置する。抑制部材Dは、図31の矢印ER4に示すようにエンジンEの回転数の範囲がR1~R3のときに作動する。即ち、抑制部材Dは、エンジンEの回転数の範囲がR1~R3のときに圧接力増幅機構20による第2圧接力の発生を抑制する。抑制部材Dは、エンジンEの回転数がR1のときに第2圧接力の発生を抑制し始め、エンジンEの回転数がR3のときに第2圧接力の発生の抑制を解除する。なお、抑制部材Dは、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との接続が開始される回転数R4のときに、第2圧接力の発生の抑制を解除してもよい。図31において、エンジンEの回転数RIはアイドリング回転数を示し、エンジンEの回転数RMAXは最大回転数を示す。また、エンジンEの回転数がR4のときに駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との接続が開始され、エンジンEの回転数がR6のときに駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが完全に接続される。エンジンEの回転数がR4のときに、エンジンEの駆動力が駆動輪Wに伝達され始める。なお、上述の各回転数の範囲は矢印ER1~矢印ER4で示す範囲に限定されない。
【0042】
図31に示すように、アシストカム機構30が作動し始めるエンジンEの回転数(R7)と、圧接力増幅機構20が作動し始めるエンジンEの回転数(R5)とは異なる。圧接力増幅機構20が作動し始めるエンジンEの回転数(R5)は、アシストカム機構30が作動し始めるエンジンEの回転数(R7)よりも低い。アシストカム機構30が作動し始めるエンジンEの回転数(R7)と、圧接力増幅機構20の作動が完了するエンジンEの回転数(R9)とは異なる。アシストカム機構30が作動し始めるエンジンEの回転数(R7)は、圧接力増幅機構20の作動が完了するエンジンEの回転数(R9)よりも低い。アシストカム機構30が作動し始めるエンジンEの回転数(R7)は、ウェイト部材10が外径側位置に移動することを完了するときのエンジンEの回転数(R8)よりも低い。アシストカム機構30が作動するエンジンEの回転数の範囲(R7~R10)と、圧接力増幅機構20が作動するエンジンEの回転数の範囲(R5~R9)とは異なる。アシストカム機構30が作動するエンジンEの回転数の範囲(R7~R10)は、圧接力増幅機構20が作動するエンジンEの回転数の範囲(R5~R9)よりも広い。
【0043】
ここで、エンジンEの回転数が上がり、入力ギア1及びクラッチハウジング2に入力された回転力が、第1クラッチ部材204a及び第2クラッチ部材4bを介して出力シャフト3に伝達され得る状態(即ちウェイト部材10が外径側位置に位置する状態)となったときには、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に第1圧接力が付与されると共に、第1勾配面4aa及び第2勾配面4baが互いに摺動しかつ第7勾配面4af及び第8勾配面5cが互いに摺動する。これにより、第2クラッチ部材4bおよびプレッシャ部材205が互いに接近する方向にそれぞれ移動して、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増幅する第2圧接力および第3圧接力が発生する。即ち、エンジンEの回転数が所定の回転数に達したときに、圧接力増幅機構20およびアシストカム機構30が作動して駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に第2圧接力および前記第3圧接力が付与される。このとき、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7には、第1圧接力、第2圧接力および第3圧接力が付与されている。第1圧接力および第2圧接力は、遠心クラッチ手段9からプレッシャ部材205に向かう方向(図24の矢印DR1方向)に付与され、第3圧接力は、プレッシャ部材205から遠心クラッチ手段9に向かう方向(図24の矢印DR2方向)に付与される。なお、エンジンEの回転数が、エンジンEの駆動力が駆動輪Wに伝達されない回転数のときには、第1圧接力と第2圧接力との合計値は、第3圧接力よりも大きい。なお、第1圧接力と第2圧接力との合計値は、第3圧接力よりも大きくなる関係は、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7が複数のグループに分かれているか否かに関わらず成立する。例えば、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7が複数のグループに分かれており、そのうちの1つのグループにおいては駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の少なくとも一部が互いに接触しているが、他のグループにおいては駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板とが接触しておらず、エンジンEの駆動力が駆動輪Wに伝達されない場合にも上記関係は成立する。また、エンジンEの回転数が、エンジンEの駆動力が駆動輪Wに伝達されない回転数とは、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とが接触していない、もしくは、少なくとも一部の駆動側クラッチ板6と少なくとも一部の被動側クラッチ板7とが接触している状態で、エンジンEの駆動力が駆動輪Wに伝達されない回転数である。ウェイト部材10が外径側位置にあるときには、第1圧接力と第2圧接力との合計値は、第3圧接力とクラッチスプリングSのセット荷重との合計値と同じである。
【0044】
一方、出力シャフト3の回転が入力ギア1及びクラッチハウジング2の回転数を上回ってバックトルクが生じた際には、第3勾配面4ab及び第4勾配面4bbが互いに摺動しかつ第5勾配面4ae及び第6勾配面5bが互いに摺動する。これにより、第2クラッチ部材4bおよびプレッシャ部材205は互いに離隔する方向にそれぞれ移動して、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力(即ち第2圧接力および第3圧接力)が解放される。このとき、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7には、第1圧接力が付与されている。
【0045】
以上のように、本実施形態の動力伝達装置K2は、第1圧接力を付与する遠心クラッチ手段9および第2圧接力を発生させる圧接力増幅機構20に加えて、クラッチ部材4がプレッシャ部材5に対して相対回転した際に、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増幅する第3圧接力を発生させるアシストカム機構30を備えている。上記態様によれば、車両の運転状態に応じて、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7には、第1圧接力および第2圧接力に加えて第3圧接力が発生するため、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接力を最大化することができる。これにより、エンジンEの駆動力をより効率よく駆動輪Wに伝達することができる。
【0046】
本実施形態の動力伝達装置K2では、エンジンEの回転数が所定の回転数に達したときに、圧接力増幅機構20およびアシストカム機構30が作動して駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に第2圧接力および第3圧接力が付与される。上記態様によれば、エンジンEの回転数が所定の回転数に達したときに、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接力を最大化することができる。
【0047】
本実施形態の動力伝達装置K2では、エンジンEの回転数が、エンジンEの駆動力が駆動輪Wに伝達されない回転数のときには、第1圧接力と第2圧接力との合計値は、第3圧接力よりも大きい。上記態様によれば、エンジンEの駆動力が駆動輪Wに伝達されない回転数のときであっても、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7の圧接を開始することができる。
【0048】
本実施形態の動力伝達装置K2では、増幅カム22の数は、アシストカム32の数と同じまたは多くてもよい。上記態様によれば、増幅カム22によって十分な第2圧接力を発生させることができる。
【0049】
本実施形態の動力伝達装置K2では、増幅カム22の数は、アシストカム32の数よりも多くてもよい。上記態様によれば、増幅カム22によって十分な第2圧接力を発生させることができる。
【0050】
本実施形態の動力伝達装置K2では、圧接力増幅機構20が駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に第2圧接力を付与する方向と、アシストカム機構30が駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に第3圧接力を付与する方向とは互いに対向する。上記態様によれば、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を両側から圧接することができるため、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を確実かつより強固に圧接することができる。
【0051】
本実施形態の動力伝達装置K2では、ウェイト部材10が外径側位置にあるときには、第1圧接力と第2圧接力との合計値は、第3圧接力とクラッチスプリングSのセット荷重との合計値と同じである。上記態様によれば、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を両側からバランスよく圧接することができる。
【0052】
本実施形態の動力伝達装置K2では、第1圧接力および第2圧接力は、遠心クラッチ手段9からプレッシャ部材5に向かう方向に付与され、第3圧接力は、プレッシャ部材5から遠心クラッチ手段9に向かう方向に付与される。上記態様によれば、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を両側から圧接することができるため、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を確実かつより強固に圧接することができる。
【0053】
本実施形態の動力伝達装置K2では、圧接力増幅機構20が作動し始めるエンジンEの回転数と、アシストカム機構30が作動し始めるエンジンEの回転数とは異なっていてもよい。上記態様によれば、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に対して第2圧接力および第3圧接力をエンジンEの最適な回転数において加えることができる。
【0054】
本実施形態の動力伝達装置K2では、圧接力増幅機構20が作動し始めるエンジンEの回転数は、アシストカム機構30が作動し始めるエンジンEの回転数よりも低くてもよい。上記態様によれば、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に対して第2圧接力をエンジンEの最適な回転数において加えることができる。
【0055】
本実施形態の動力伝達装置K2では、圧接力増幅機構20が作動するエンジンEの回転数の範囲と、アシストカム機構30が作動するエンジンEの回転数の範囲とは異なっていてもよい。上記態様によれば、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に対して第2圧接力および第3圧接力をエンジンEの最適な回転数において加えることができる。
【0056】
本実施形態の動力伝達装置K2では、アシストカム機構30が作動するエンジンEの回転数の範囲は、圧接力増幅機構20が作動するエンジンEの回転数の範囲よりも広くてもよい。上記態様によれば、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に対して第3圧接力をエンジンEの最適な回転数において加えることができる。
【0057】
本実施形態の動力伝達装置K2では、アシストカム機構30が作動し始めるエンジンEの回転数と、圧接力増幅機構20の作動が完了するエンジンEの回転数とは異なる。上記態様によれば、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に対して第2圧接力および第3圧接力をエンジンEの最適な回転数において加えることができる。
【0058】
本実施形態の動力伝達装置K2では、アシストカム機構30が作動し始めるエンジンEの回転数は、圧接力増幅機構20の作動が完了する前記駆動源の回転数よりも低い。上記態様によれば、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に対して第3圧接力をエンジンEの最適な回転数において加えることができる。
【0059】
本実施形態の動力伝達装置K2では、アシストカム機構30が作動し始めるエンジンEの回転数は、ウェイト部材10が外径側位置に移動することを完了するときのエンジンEの回転数よりも低い。上記態様によれば、駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に対して第3圧接力をエンジンEの最適な回転数において加えることができる。
【0060】
<第3実施形態>
図32は、第3実施形態に係るクラッチ部材304の平面図である。図32に示すように、クラッチ部材304は、第1クラッチ部材304aと、第2クラッチ部材304bと、トーションスプリングD3と、を含む。第1クラッチ部材304aは第2クラッチ部材304bに嵌合する。トーションスプリングD3は、抑制部材Dの一例である。なお、第3実施形態では、段部D1は他の抑制部材の一例である。
【0061】
図32に示すように、第1クラッチ部材304aは、トーションスプリングD3が収容される収容部305と、収容部305に形成されかつトーションスプリングD3を保持する保持部306とを備えている。保持部306は、円柱状に形成され、出力シャフト3の軸方向に延びる。
【0062】
図32に示すように、トーションスプリングD3は、第1クラッチ部材304aに形成された収容部305に収容されている。トーションスプリングD3は、その一端が収容部305の側壁に当接可能に組み付けられ、その他端が第2クラッチ部材304bに形成された挿入孔307に挿入されて外周壁4beに当接している。トーションスプリングD3は、クラッチ部材の一部(ここでは第2クラッチ部材304b)を第1の周方向S1の反対方向である第2の周方向S2に付勢する。トーションスプリングD3は、第1クラッチ部材304aと第2クラッチ部材304bとの間に配置されている。トーションスプリングD3は、出力シャフト3の軸方向と直交する方向である径方向において、出力シャフト3よりも径方向外側かつ第2クラッチ部材304bの外周壁4beの外周縁4bfよりも径方向内側に配置されている。トーションスプリングD3は、周方向に関して、隣り合う貫通孔4agの間に配置されている。第1圧接力によって第2クラッチ部材304bに発生する第1の周方向S1の回転トルクがトーションスプリングD3の付勢力以下のとき、第1勾配面4aaと第2勾配面4baとの摺動が抑制される。即ち、トーションスプリングD3は、圧接力増幅機構20による第2圧接力の発生を規制する。上記回転トルクがトーションスプリングD3の付勢力より大きくなることによって、第1勾配面4aaと第2勾配面4baとの摺動の抑制が解除される。即ち、トーションスプリングD3は、圧接力増幅機構20による第2圧接力の発生を許容する。
【0063】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【0064】
上述した各実施形態では、駆動源としてエンジンEを用いていたが、駆動源はエンジンEに限定されず、例えば電動モータ等であってもよい。
【0065】
上述した各実施形態では、第1クラッチ部材4aは凹部Aを有し、第2クラッチ部材4bは凸部Tを有していたが、これに限定されない。例えば、第1クラッチ部材4aが凸部Tを有し、第2クラッチ部材4bが凹部Aを有していてもよい。
【0066】
上述した各実施形態では、出力シャフト3の軸方向に関して、ウェイト部材10を有する遠心クラッチ手段9とプレッシャ部材5との間にクラッチ部材4が配置され、ウェイト部材10は、内径側位置から外径側位置に移動することに伴い、クラッチ部材4(ここでは第2クラッチ部材4b)をプレッシャ部材5に近づく方向(例えば図2の矢印DR2方向)に付勢していたが、これに限定されない。例えば、出力シャフト3の軸方向に関して、ウェイト部材10を有する遠心クラッチ手段9とクラッチ部材4との間にプレッシャ部材5が配置され、ウェイト部材10は、内径側位置から外径側位置に移動することに伴い、プレッシャ部材5をクラッチ部材4に近づく方向に付勢してもよい。
【0067】
上述した第1実施形態では、抑制部材Dは、段部D1とコイルスプリングD2とを含んでいたが、いずれか一方のみを含んでいれば圧接力増幅機構20による第2圧接力の発生を抑制することができる。
【0068】
上述した第3実施形態では、抑制部材Dは、段部D1とトーションスプリングD3とを含んでいたが、いずれか一方のみを含んでいれば圧接力増幅機構20による第2圧接力の発生を抑制することができる。
【0069】
本発明の動力伝達装置は、自動二輪車の他、自動車、3輪又は4輪バギー、或いは汎用機等種々の多板クラッチ型の動力伝達装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 入力ギア(入力部材)
2 クラッチハウジング
3 出力シャフト(出力部材)
4 クラッチ部材
4a 第1クラッチ部材
4aa 第1勾配面
4ab 第3勾配面
4ae 第5勾配面
4af 第7勾配面
4ag 貫通孔
4b 第2クラッチ部材
4ba 第2勾配面
4bb 第4勾配面
4bc スプライン嵌合部
4bd フランジ部
4be 外周壁
5 プレッシャ部材
5a フランジ部
5b 第6勾配面
5c 第8勾配面
5e 嵌合歯
6 駆動側クラッチ板
7 被動側クラッチ板
9 遠心クラッチ手段
10 ウェイト部材
10a 傾斜面
13 被押圧部材
13a 傾斜面
18 押圧カム(第2カム)
20 圧接力増幅機構
22 増幅カム(第1カム)
30 アシストカム機構
32 アシストカム
A 凹部
D 抑制部材
D1 段部(抑制部材)
D2 コイルスプリング(抑制部材)
D3 トーションスプリング(抑制部材)
E エンジン
K 動力伝達装置
S クラッチスプリング
T 凸部
Ta 収容凹部
W 駆動輪
【要約】
動力伝達装置Kは、複数の被動側クラッチ板7を保持するクラッチ部材4と、クラッチ部材4と共に駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7を押圧可能なプレッシャ部材5と、ウェイト部材10が内径側位置から外径側位置に移動することに伴い駆動側クラッチ板6および被動側クラッチ板7に第1圧接力を付与し、ウェイト部材10が外径側位置にあるときに駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7とを圧接させてエンジンEの駆動力を駆動輪Wに伝達可能な状態とする遠心クラッチ手段9と、エンジンEの回転数の増加に伴い、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7との圧接力を増幅する第2圧接力を発生させる圧接力増幅機構20と、クラッチ部材4がプレッシャ部材5に対して相対回転した際に、駆動側クラッチ板6と被動側クラッチ板7の圧接力を増幅する第3圧接力を発生させるアシストカム機構30と、を備えている。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
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図10
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図30
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図32