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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】セメント硬化体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20240402BHJP
   B28B 1/14 20060101ALI20240402BHJP
   B28B 11/08 20060101ALI20240402BHJP
   E04C 2/04 20060101ALI20240402BHJP
   E04C 2/30 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B28B1/30
B28B1/14 B
B28B11/08
E04C2/04 C
E04C2/30 J
E04C2/30 X
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019217211
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021084851
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 真一
(72)【発明者】
【氏名】前堀 伸平
(72)【発明者】
【氏名】扇 嘉史
(72)【発明者】
【氏名】千石 理紗
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋二
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-287211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B1/00-23/22
B33Y10/00-99/00
E04C2/00-2/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜像が施されたセメント硬化体であって、
セメント硬化体本体の表面に設けられた少なくとも一つの表示面と、
前記表示面に対して0度から90度の範囲内で傾斜する少なくとも一つの傾斜面を有し、前記傾斜面が特定の方向を向くように前記表示面上に設けられた複数の情報表示部と、を備え、
前記各情報表示部の傾斜面に、情報の構成要素がそれぞれ付されることによって、前記複数の情報表示部が、特定の方向に情報を表示することを特徴とするセメント硬化体。
【請求項2】
前記情報表示部は、円錐または多角錘のいずれかの立体形状を有することを特徴とする請求項1記載のセメント硬化体。
【請求項3】
前記情報表示部は、前記表示面に設けられた平行な複数の溝によって断面が鋸歯状に形成されたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のセメント硬化体。
【請求項4】
前記各溝の間隔は、0.1mm以上であることを特徴とする請求項3記載のセメント硬化体。
【請求項5】
前記情報表示部は、粉末状の水硬性組成物に水性硬化剤を噴射することにより固化した固化物を、垂直方向に積層することにより形成されたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のセメント硬化体。
【請求項6】
前記情報表示部は、前記情報表示部の立体的形状が予め形成された型枠に、セメントに骨材が混合されたモルタルを充填し、硬化させた後、脱枠することにより形成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のセメント硬化体。
【請求項7】
前記骨材の最大粒径は、前記情報表示部の最小幅以下であることを特徴とする請求項6記載のセメント硬化体。
【請求項8】
前記情報表示部は、セメントに骨材が混合し硬化させたセメントを切削することにより形成されたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のセメント硬化体。
【請求項9】
前記骨材の最大粒径は、5mm以下であることを特徴とする請求項8記載のセメント硬化体。
【請求項10】
潜像が施されたセメント硬化体の製造方法であって、
セメント硬化体本体の表面に少なくとも一つの表示面を設ける工程と、
前記表示面に対して0度から90度の範囲内で傾斜する少なくとも一つの傾斜面を設け、前記傾斜面が特定の方向を向くように前記表示面上に複数の凹状または凸状の情報表示部を設ける工程と、を含むことを特徴とするセメント硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜像が形成されたセメント硬化体およびその製造方法に関する。
【0002】
従来から、500円硬貨の偽造防止や遊戯用コイン、その他の偽造防止対策として、潜像加工が用いられている。例えば、特許文献1には、製品そのものに形成されるブランドロゴの文字や、ブランドや製造者を示すトレードマークなどの図形に直接、偽造防止対策を施す技術が開示されている。この技術では、バルク体に文字または図形を形成し、その後に文字または図形を加熱する。更に、所定の格子、スリット、突起、穴、または潜像の何れかの形状が形成された金型を文字または図形に押圧して、格子、スリット、突起、穴、または潜像の何れかを、文字または図形の少なくとも一部に転写する。転写後に、冷却および押圧を解除して金型を文字または図形から離型し、更に、文字または図形を冷却または鋳造によって、文字または図形の少なくとも一部に、所定の格子、スリット、突起、穴、または潜像の何れか1つまたは2つ以上を形成する。このバルク体を、腕時計用の外装部品かムーブメント、装身具、タグ、またはファスナーに備える。
【0003】
また、潜像加工技術として、切削による加工技術が提案されている。例えば、非特許文献1には、5軸マシニングセンタを使って、潜像加工を実現するためのシステムの開発が行われ、加工サンプルの製作を通して、切削による潜像加工に必要な設備、手順、課題が明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】再公表特許WO2015/049913号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】“切削による潜像加工の実現に向けた取組み”山本通,大分工業高等専門学校紀要第55号,2018.11
【0006】
上記のような潜像加工技術は、セメント硬化体に適用されたことがない。セメント硬化体にも潜像加工が可能となれば、様々な用途が考えられ、広告や道路標識などにも活用することが期待される。
【0007】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、潜像が形成されたセメント硬化体を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明のセメント硬化体は、潜像が施されたセメント硬化体であって、セメント硬化体本体の表面に設けられた少なくとも一つの表示面と、前記表示面に対して0度から90度の範囲内で傾斜する少なくとも一つの傾斜面を有し、前記傾斜面が特定の方向を向くように前記表示面上に設けられた複数の情報表示部と、を備え、前記各情報表示部の傾斜面に、情報の構成要素がそれぞれ付されることによって、前記複数の情報表示部が、特定の方向に情報を表示することを特徴としている。これにより、傾斜面が向いている方向毎に、情報を潜像させることができる。
【0009】
(2)また、本発明のセメント硬化体において、前記情報表示部は、円錐または多角錘のいずれかの立体形状を有することを特徴としている。これにより、傾斜面が向いている方向毎に、情報を潜像させることができる。
【0010】
(3)また、本発明のセメント硬化体において、前記情報表示部は、前記表示面に設けられた平行な複数の溝によって断面が鋸歯状に形成されたことを特徴としている。これにより、平行に設けられた溝に対し垂直方向に、情報を潜像させることができる。
【0011】
(4)また、本発明のセメント硬化体において、前記各溝の間隔は、0.1mm以上であることを特徴としている。これにより、加工時に各溝が崩壊することを防ぐことが可能となる。
【0012】
(5)また、本発明のセメント硬化体において、前記情報表示部は、粉末状の水硬性組成物に水性硬化剤を噴射することにより固化した固化物を、垂直方向に積層することにより形成されたことを特徴としている。これにより、情報表示部の形状が複雑であっても、容易に潜像が施されたセメント硬化体を形成することが可能となる。
【0013】
(6)また、本発明のセメント硬化体において、前記情報表示部は、前記情報表示部の立体的形状が予め形成された型枠に、セメントペーストまたはセメントに骨材が混合されたモルタルを充填し、硬化させた後、脱枠することにより形成されることを特徴としている。これにより、容易に潜像が施されたセメント硬化体を形成することが可能となる。
【0014】
(7)また、本発明のセメント硬化体において、前記骨材の最大粒径は、前記情報表示部の最小幅以下であることを特徴としている。これにより、型枠内部の細部に空間を作ることなくセメントペーストまたはモルタルを型枠に充填することが可能となる。
【0015】
(8)また、本発明のセメント硬化体において、前記情報表示部は、セメントに骨材が混合し硬化させたセメントを切削することにより形成されたことを特徴としている。これにより、大型のセメント硬化体に潜像加工を施すことが可能となる。
【0016】
(9)また、本発明のセメント硬化体において、前記骨材の最大粒径は、5mm以下であることを特徴としている。これにより、切削することにより、骨材とペーストとの界面の剥離を防ぐことが可能となる。
【0017】
(10)また、本発明のセメント硬化体の製造方法は、潜像が施されたセメント硬化体の製造方法であって、セメント硬化体本体の表面に少なくとも一つの表示面を設ける工程と、前記表示面に対して0度から90度の範囲内で傾斜する少なくとも一つの傾斜面を設け、前記傾斜面が特定の方向を向くように前記表示面上に複数の凹状または凸状の情報表示部を設ける工程と、を含むことを特徴としている。これにより、傾斜面が向いている方向毎に、情報を潜像させたセメント硬化体を製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、潜像を施したセメント硬化体を提供することができる。その結果、道路標識の補助的な情報提供や、セメントペーストまたはモルタルで作られた壁面を用いた情報提供を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態である潜像加工を施したセメント硬化体の概要図である。
図2A】本実施形態である潜像加工を施したセメント硬化体の正面図である。
図2B】本実施形態である潜像加工を施したセメント硬化体を右斜め上から見た図である。
図2C】本実施形態である潜像加工を施したセメント硬化体を左斜め上から見た図である。
図2D】本実施形態である潜像加工を施したセメント硬化体の部分拡大図である。
図3】潜像を施したセメント硬化体の作成手順を示すフローである。
図4】出力用3Dデータに変換した状態を示す図である。
図5】付加製造装置で積層してセメント硬化体を製造する手順の概略を示す図である。
図6A】情報表示部の形状の一例を示す図である。
図6B】情報表示部の形状の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、潜像加工技術をセメント硬化体に適用することに着目し、セメント硬化体の表面に複数の傾斜面を形成し、傾斜面に情報を付することによって、セメント硬化体に、潜像を形成することを見出し、本発明に至った。
【0021】
すなわち、本発明のセメント硬化体は、潜像が施されたセメント硬化体であって、セメント硬化体本体の表面に設けられた少なくとも一つの表示面と、前記表示面に対して0度から90度の範囲内で傾斜する少なくとも一つの傾斜面を有し、前記傾斜面が特定の方向を向くように前記表示面上に設けられた複数の情報表示部と、を備え、前記各情報表示部の傾斜面に、情報の構成要素がそれぞれ付されることによって、前記複数の情報表示部が、特定の方向に情報を表示することを特徴としている。これにより、本発明者らは、セメント硬化体において、傾斜面が向いている方向毎に、情報を潜像させることを可能とした。以下、本実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係るセメント硬化体の概要図である。図2Aは、本実施形態に係るセメント硬化体を、溝に平行となる方向から見下ろした図であり、図2Bは、本実施形態に係るセメント硬化体を、図2Aに示す状態に対して右斜め上から見た図であり、図2Cは、本実施形態に係るセメント硬化体を、図2Aに示す状態に対して左斜め上から見た図である。本実施形態では、図1に示すように、2つの潜像(“太平洋”およびマーク)が施されたセメント硬化体100について説明するが、本発明は、これに限られるわけではない。例えば、1方向のみに潜像が形成されていてもよいし、3方向またはそれ以上の方向に潜像が形成されていてもよい。
【0023】
本実施形態に係るセメント硬化体100は、セメント硬化体本体の表面に設けられた少なくとも一つの表示面3と、表示面に対して0度から90度の範囲内で傾斜する少なくとも一つの傾斜面を有し、傾斜面が特定の方向を向くように表示面上に設けられた複数の情報表示部5と、を備えている。各情報表示部5の傾斜面に、情報の構成要素がそれぞれ付されることによって、複数の情報表示部5が特定の方向に情報を表示する。また、複数の潜像を形成できるように、各情報表示部5の傾斜面の傾斜角は、10度から80度が好ましく、20度から70度がより好ましい。このように、複数の傾斜面を設けることにより、複数の潜像を形成することができる。その結果、異なる方向から見たときに、別の潜像をみることができる。
【0024】
図1図2A~Dに示す本実施形態に係るセメント硬化体100では、表示面3上に、複数の情報表示部5が設けられている。本実施形態に係るセメント硬化体100では、情報表示部5は、図2Aの正面図に対し、下から上方向に向かって複数の平行な溝が設けられることにより形成され、各情報表示部5は2つの傾斜面を有し、断面は三角形状となっている。このように形成された各情報表示部5の2つの傾斜面に対し、例えば、文字やマークを形成したい部分の傾斜面の傾斜角が、他の傾斜角と異なるように、傾斜面を形成することにより、文字やマークの潜像を形成することができる。断面の形状は、三角形状に限定されず、その他の鋸歯状であってもよいし、矩形状や波形状であってもよい。また、平行な複数の溝ではなく、各情報表示部5自体が、円錐、多角錘などの立体形状を有していてもよく、図6Aおよび図6Bに示すように、表示面3に対して凹んでいたり、凸となっていてもよい。さらに、傾斜面は平らである必要はなく、球状であってもよい。
【0025】
セメント硬化体100の情報表示部5において、例えば、図2Bに示すように右斜め上からみたときに、「太平洋」の文字が見えるよう画像(潜像)を形成したい場合、各情報表示部の図2Aの正面図に対し右側の傾斜面において、文字の潜像を形成したい箇所の情報表示部の傾斜面の傾斜角を、他の情報表示部の傾斜角よりも大きくまたは小さくすることにより、「太平洋」の文字の潜像を形成することができる。
【0026】
また、セメント硬化体100の情報表示部5において、例えば、図2Cに示すように左斜め上から見たときに、マークが見えるよう画像(潜像)を形成したい場合、各情報表示部の図2Aの正面図に対し左側の傾斜面において、マークの潜像を形成したい箇所の情報表示部の傾斜面の傾斜角を、他の情報表示部の傾斜角よりも大きくまたは小さくすることにより、マークの潜像を形成することができる。
【0027】
このように、複数の情報表示部5のうち、一部の情報表示部5の傾斜面に、他の情報表示部の傾斜面とは異なる傾斜角度を付すことによって、文字や模様等の潜像を形成することができる。さらに、潜像を形成する各情報表示部の傾斜面に、色彩を付すことも可能である。
【0028】
図1図2A~Dに示したセメント硬化体100は、10cm×10cm×1.0cmであるが、5cm×5cm×0.5cm以上であれば、形成することが可能である。また、本実施形態のセメント硬化体100に形成された凹凸のピッチのサイズは、2.0mmであるが、1.0mm以上であれば、形成することが可能である。
【0029】
(潜像加工されたセメント硬化体の製造方法)
本実施形態に係るセメント硬化体の製造方法について、説明する。製造方法は、積層型三次元造形装置(付加製造装置/3Dプリンター)による製造方法、型枠による製造方法、切削による製造方法がある。それぞれについて、以下に説明する。
【0030】
(1)積層型三次元造形装置(付加製造装置/3Dプリンター)を用いた製造方法
図3は、潜像を施したセメント硬化体の作成手順を示すフローである。まず、潜像加工したセメント硬化体の3Dモデルデータを作成する(ステップS1)。次に、作成した3Dモデルデータを、出力用3Dデータに変換する(ステップS2)。
【0031】
図4(a)および図4(b)は、2種類の潜像を加工したセメント硬化体の出力用3Dデータに変換した状態を示す図である。変換した出力用3Dデータを多数の水平面に分割する(ステップS3)。次に、分割した水平面の形状を、付加製造装置を用いて順次積層する(ステップS4)。
【0032】
ステップS4の作業について、詳細を説明する。図5は、付加製造装置で積層して硬化体を製造する手順の概略を示す図である。ここでは、材料として積層型三次元造形装置で使用可能な無機粉末を用いる。無機粉末の材料の詳細は、後述する水硬化性組成物の材料を、機械や手作業で混合し、または粉砕機で混合粉砕し、調整する。
【0033】
まず、粉末供給機21でテーブル上に配置された無機粉末を平らにならす(図5(a))。次に、分割した水平面の形状のデータに基づき、ヘッド25から水性硬化剤を噴射し、粉末を固化させる(図5(b))。図5(a)、(b)の作業を終えると、テーブル27が一層下がり、粉末供給槽29が一層上がり、テーブル27上に無機粉末を敷く(図5(c))。図5(a)から図5(c)の作業を繰り返し、分割した水平面の形状を積層していくことにより造形された造形物31の余分な粉末を除去することにより、潜像加工が施されたセメント硬化体を製造することができる(図5(d))。このように、積層型三次元造形装置を用いた製造方法では、上述したように3Dデータに基づき、セメント硬化体を形成するため、複雑な形状を作製することが可能である。
【0034】
製造したセメント硬化体は、気中養生単独、気中養生した後に続けて水中養生する方法、または、表面含浸剤養生等がある。これらの中でも、早期強度発現性と本実施形態に係るセメント硬化体の製造時に発生する水蒸気の抑制の点から、気中養生単独が好ましい。また、材料の詳細は後述するが、水硬化性組成物に含まれるカルシウムアルミネート、速硬セメント、およびポリビニルアルコールによる強度増進の点から、気中養生の温度は、10~100℃が好ましく、さらに30~80℃がより好ましい。また、気中養生の相対湿度は、充分な強度発現と生産効率の点から、10~90%が好ましく、15~80%、さらには20~60%がより好ましい。さらに、気中養生期間は、充分な強度発現と生産効率の点から、1時間~1週間が好ましく、2時間~5日間、さらには3時間~4日間がより好ましい。
【0035】
(水硬化性組成物)
本実施形態で用いる水硬化性組成物は、柔らかすぎると加工時に造形物が崩壊してしまうため、ある程度の強度が必要とされる。積層型三次元造形装置を用いて、セメント硬化体に潜像加工を行う場合の水硬性組成物について、説明する。
【0036】
水硬化性組成物は、無機結合材100に対し、ポリビニルアルコールを2~12質量部含む複合結合材の合計質量100質量部に対し、さらに、水を28~45質量部、および砂を含有する。
【0037】
無機結合材は、カルシウムアルミネート類から選ばれる1種以上を必須成分として含み、さらに石膏と速硬セメント等を任意成分として含む結合材である。カルシウムアルミネートは、無機結合材の中でも、強度発現性が高いため、無機結合材として用いるのに好ましく、特に、非晶質カルシウムアルミネートを用いるのが、より好ましい。特に、非晶質カルシウムアルミネートは、原料を溶融した後、急冷して製造するため、実質的に結晶構造を有せず、通常、そのガラス化率は80%以上であり、ガラス化率が高い程、早期強度発現性は高いため、ガラス化率は好ましくは、90%以上である。
【0038】
早期強度発現性の更なる向上のため、無機結合材は、石膏を任意成分として含んでもよい。石膏には、無水石膏、半水石膏、および二水石膏から選ばれる1種類以上があげられるが、半水石膏は早期強度発現性がより高いため好ましい。
【0039】
また、早期強度発現性の更なる向上のため、無機結合材は、速硬セメント(超速硬セメントともいう)を任意成分として含んでもよく、該速硬セメントは、JIS R 5210に準拠して測定した凝結が30分以内である速硬セメント(超速硬セメント)、または止水セメントが好ましい。
【0040】
無機結合材中のその他の成分として、セメントを含んでもよい。セメントは、JIS R 5210に準拠して測定した凝結が3時間30分以内であれば、成形から3時間後の早期強度発現性が高いため好ましく、1時間以内がより好ましい。セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、およびセメントクリンカー粉末から1種類以上が挙げられる。また、セメント中の珪酸カルシウムの含有率は、セメント全体を10質量%として、好ましくは25質量%以上である。該含有率が25質量%以上あれば、材齢1日以後の強度発現性が高く、また長期強度発現性が必要な場合、該含有率は、好ましくは45質量%以上である。
【0041】
無機結合材中のセメント含有率は、早期強度発現性の向上のため、無機結合材全体を100質量%として、0~50質量%が好ましく、0~30質量%がより好ましく、0~20%であるとさらに好ましい。
【0042】
複合結合材は、無機結合材100に対し、ポリビニルアルコールを2~12質量部含む結合材である。ポリビニルアルコールの配合割合が2質量部未満では、強度の向上効果は低く、また、12質量部を超えると、形状によっては成形物の収縮により変形やひび割れが生じ、複雑な形状を製造することができない場合がある。ポリビニルアルコールの配合割合は、無機結合材100質量部に対し、より好ましくは2~10質量部、さらに好ましくは3~9質量部である。
【0043】
また、ポリビニルアルコールの平均粒径(メディアン径、D50)は、高い強度が得られるため、150μm以下が好ましく、90μm以下がより好ましく、10~75μm以下であるとさらに好ましい。94μmより大きいポリビニルアルコールの粒子の含有率は、90質量%以下が好ましく、45質量%以下、さらには30質量%以下であるとより好ましい。また、77μmより大きいポリビニルアルコールの粒子の含有率は、90質量%以下が好ましく、60質量%以下、さらには50質量%以下であるとより好ましい。
【0044】
水硬性組成物は、複合結合材の合計100質量部に対し、水を28~45質量部、および砂を含む組成物である。水の配合割合が該範囲であれば、強度発現性を確保できる。また、砂の配合割合は、複合結合材100質量部に対し、好ましくは、100~600質量部、より好ましくは150~500質量部、さらに好ましくは200~400質量部である。砂の配合割合が該範囲にあれば、同じく、強度発現性を確保できる。
【0045】
水硬化性組成物中のその他の成分として、造形後に残った水硬性組成物の未硬化の粉末を、成形物から除去する作業(デパウダー)を用意にするため、さらに、複合結合材の合計100質量部に対し、任意の成分として疎水性フュームドシリカを0.1~2質量部、より好ましくは0.5~1.5質量部含むことができる。
【0046】
(2)型枠による製造方法
次に、型枠による製造方法について説明する。まず、予め潜像加工された型枠を準備する(ステップP1)。次に、セメントに水を混ぜて作成したセメントペースト、またはセメントに砂等の骨材、水を練り混ぜて作製したモルタルを、型枠に充填し、硬化させる(ステップP2)。モルタルが硬化した後、脱枠する(ステップP3)。潜像加工のように複雑な形状を有する型枠の場合は、上述した積層型三次元造形装置を用いて形成された型枠を用いることがより好ましい。
【0047】
型枠によりセメント硬化体を製造する場合、充填するセメントペーストまたはモルタルの空気量が多い場合、硬化後に空気泡が生じてしまい、表面の凹凸が変形してしまう可能性がある。そのため、セメントペーストまたはモルタルを練り混ぜる際に、消泡剤等を混入し、空気量を減じることが好ましい。
【0048】
また、セメントペーストまたはモルタルを型枠に充填する際に、セメントペーストまたはモルタルが型枠に空間を作ることなく充填されるよう、骨材の最大粒形は、形成したいセメント硬化体の凹凸部分の最小面以下であることが好ましい。より好ましくは、最小幅の3分の2以下であることがよく、さらには最小幅の2分の1以下であることがよい。
【0049】
また、形成するセメント硬化体の凹凸部分にブリーディング水が残ることがないよう、材料は同じような径を有する材料を用い、適度な粘性と材料分離抵抗性を有し、ブリーディング量の少ない配合であることが好ましい。
【0050】
(3)切削による製造方法
まず、硬化させたモルタルを準備する。作成した3Dモデルデータに基づき、硬化させたモルタルを切削する。切削工法には、機械を用いた切削工法と、ウォータジェット工法がある。機械を用いた切削方法では、硬化させたモルタルを、切削機を用いて切削するため、大型のモルタル硬化体に潜像加工することが可能である。ウォータジェット工法を用いた切削方法では、高圧ポンプにより圧縮し噴射する高圧水の力を利用して、モルタルを切削することにより、潜像加工することが可能である。ウォータジェット工法を用いた場合、機械を用いた切削方法よりも、モルタル硬化体への振動等を抑えることが可能であるため、モルタル硬化体への影響を最小限に抑えながら、潜像加工を行うことができる。
【0051】
切削により加工する際は、骨材とペーストとの界面ではがれる恐れがあるため、骨材とペーストの強度は近いものを使用するのが好ましい。また、骨材とペーストとの界面ではがれる恐れがあるため、骨材の最大粒径は、5mm以下の小さいものを使用することが好ましく、2mm以下がより好ましく、さらには1mm以下であることがより好ましい。また、切削により加工する際は、骨材は角ばったものを使用することが好ましい。
【0052】
以上説明したように、セメント硬化体の表面に複数の傾斜面を設け、一部の傾斜面に対し、他の傾斜面とは異なる傾斜面を付することによって、セメント硬化体に潜像を形成することができる。その結果、道路標識の補助的な情報提供や、モルタルで作られた壁面を用いた情報提供を行うことが可能となる。例えば、車道のカーブにおいて、車両が進行してくる方向に対し、カーブや注意喚起のマーク等の潜像を路面や壁面に形成することによって、事故の発生を抑止または防止することができる。また、潜像を形成するセメント硬化体の表面に複数の傾斜面に、色彩を付することも可能である。
【符号の説明】
【0053】
100 潜像が形成されたセメント硬化体
3 表示面
5 情報表示部
21 粉末供給機
23 ローラー
25 ヘッド
27 テーブル
29 粉末供給槽
31 造形物
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6A
図6B