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  • 特許-情報表示体およびその製造方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】情報表示体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20240402BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240402BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20240402BHJP
   B28B 1/14 20060101ALI20240402BHJP
   B26F 3/00 20060101ALI20240402BHJP
   B28D 1/18 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B28B1/30
C04B28/02
C04B20/00 B
B28B1/14 J
B26F3/00 S
B28D1/18
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020040230
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021138116
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】千石 理紗
(72)【発明者】
【氏名】前堀 伸平
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 真一
(72)【発明者】
【氏名】扇 嘉史
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-176923(JP,A)
【文献】国際公開第2005/121048(WO,A1)
【文献】特開平09-315053(JP,A)
【文献】特開2004-066299(JP,A)
【文献】特開2007-034958(JP,A)
【文献】特開2014-031638(JP,A)
【文献】特開平11-247354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/00-1/54
B28B 11/12-11/16
C04B 7/00-28/36
B33Y 10/00
B33Y 80/00
E04G 9/00-19/00
E04G 25/00-25/08
G06K 19/00-19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形性を有する材料で形成された情報表示体であって、
複数の凹部および凸部が設けられた情報表示部と、を備え、
前記凹部および凸部を、前記情報表示部上に交互または連続して1方向または2方向に設けることにより、特定の情報を表し、
隣り合った前記凹部および凸部によって生じる陰影により前記特定の情報が読み取られることを特徴とする情報表示体。
【請求項2】
前記凹部の底面および凸部の上面の間の傾斜面は、前記情報表示部に対し直角または鋭角に傾斜していることを特徴とする請求項1記載の情報表示体。
【請求項3】
前記凸部の上面または前記凹部の開口端部の幅をlとし、前記各凸部の高さまたは前記各凹部の深さをdとした場合、d/lで算出される縦横比は、0.5以上であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の情報表示体。
【請求項4】
前記材料は、セメントペースト、モルタルまたはコンクリートであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の情報表示体。
【請求項5】
固形性を有する材料で形成された情報表示体の製造方法であって、
情報表示部に複数の凹部および凸部を設ける工程と、を含み、
前記凹部および凸部を、前記情報表示部上に交互または連続して1方向または2方向に設けられることにより、特定の情報を表し、
前記凹部の底面および凸部の上面の間の傾斜面は、前記情報表示部に対し直角または鋭角に傾斜し、
前記各凸部の上面または前記各凹部の開口端部の幅をlとし、前記各凸部の高さまたは前記各凹部の深さをdとした場合、d/lで算出される縦横比は、0.5以上であることを特徴とする情報表示体の製造方法。
【請求項6】
前記情報表示部は、粉末状の水硬性組成物に水性硬化剤を噴射することにより固化した固化物を、垂直方向に積層することにより形成されたことを特徴とする請求項5記載の情報表示体の製造方法。
【請求項7】
前記情報表示部は、前記情報表示部の立体的形状が予め形成された型枠に、セメントと水、またはセメントと水と骨材を練り混ぜて作製したセメント混練物を充填し、硬化させた後、脱枠することにより形成されることを特徴とする請求項5または請求項6記載の情報表示体の製造方法。
【請求項8】
前記骨材の最大粒径は、前記情報表示部の最小幅以下であることを特徴とする請求項7記載の情報表示体の製造方法。
【請求項9】
前記情報表示部は、セメント硬化体を切削することにより形成されたことを特徴とする請求項5または請求項6記載の情報表示体の製造方法。
【請求項10】
前記セメント硬化体中の骨材の最大粒径は、5mm以下であることを特徴とする請求項9記載の情報表示体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形性を有する材料で形成された情報表示体およびその製造方法に関する。
【0002】
従来から、様々な商品にバーコードを付して、商品管理を行う技術や、広告やパンフレット、チラシなどにQRコードを付して情報を提供する技術が用いられている。
【0003】
また、近年では、例えば、特許文献1では、セメントと、そのセメントとコントラストが異なる骨材から構成され、骨材を表面に露出させることにより、二次元コードなどの情報図柄を表面に形成したコンクリート製品に関する技術が開示されている。また、特許文献2では、ブロックの型枠に二次元コードを設けてそれをコンクリート表面に転写する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-176923号公報
【文献】特開2014-031638号公報
【0005】
しかしながら、特許文献1では、硬化体そのものに凹凸を施すため、二次元コードなどの情報図柄の部分に、異種材料(コントラストが異なる骨材)を埋め込むため、手間が掛かる。また、特許文献2では、複数の型枠を用いて表層ブロックを提供するため、形成するのに手間が掛かることに加え、形成された表層ブロックの一体性が保たれにくい。
【0006】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、情報表示部に特定の情報を示す凹凸形状を形成し、形成した凹凸の陰影により特定の情報を読み取ることを可能とする情報表示体を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の情報表示体は、固形性を有する材料で形成された情報表示体であって、複数の凹部および凸部が設けられた情報表示部を備え、前記凹部および凸部を、前記情報表示部上に交互または連続して1方向または2方向に設けることにより、特定の情報を表し、隣り合った前記凹部および凸部によって生じる陰影により前記特定の情報が読み取られることを特徴としている。これにより、特定の情報を情報表示体に直接付すことが可能となる。また、特定の情報を表す複数の凹凸形状を2方向に形成することにより、2次元コードを形成することができ、より多くの情報を提供することが可能となる。
【0008】
(2)また、本発明の情報表示体において、前記凹部の底面および凸部の上面の間の傾斜面は、前記情報表示部に対し直角または鋭角に傾斜していることを特徴としている。これにより、読み取り装置が、情報表示部に示された情報を、正確に認識することが可能となる。
【0009】
(3)また、本発明の情報表示体において、前記凸部の上面または前記凹部の開口端部の幅をlとし、前記各凸部の高さまたは前記各凹部の深さをdとした場合、d/lで算出される縦横比は、0.5以上であることを特徴としている。これにより、読み取り装置が、情報表示部に示された情報を、正確に認識することが可能となる。
【0010】
(4)また、本発明の情報表示体において、前記材料は、セメントペースト、モルタルまたはコンクリートであることを特徴としている。これにより、構造物等の壁面や道路の法面等に、直接情報表示体を設置することが可能となり、その結果、構造物に関する情報、道路情報、観光情報等の情報を提供することが可能となる。
【0011】
(5)また、本発明の情報表示体において、前記情報表示部は、粉末状の水硬性組成物に水性硬化剤を噴射することにより固化した固化物を、垂直方向に積層することにより形成されたことを特徴としている。これにより、情報表示部の形状が複雑であっても、容易に情報表示体を形成することができる。
【0012】
(6)また、本発明の情報表示体において、前記情報表示部は、前記情報表示部の立体的形状が予め形成された型枠に、セメントと水、またはセメントと水と骨材を練り混ぜて作製したセメント混練物を充填し、硬化させた後、脱枠することにより形成されることを特徴としている。これにより、容易に凹凸が施された情報表示体を形成することが可能となる。
【0013】
(7)また、本発明の情報表示体において、前記骨材の最大粒径は、前記情報表示部の最小幅以下であることを特徴としている。これにより、型枠内部の細部に空隙を作ることなくセメント混練物を型枠に充填することが可能となる。
【0014】
(8)また、本発明の情報表示体において、前記情報表示部は、セメント硬化体を切削することにより形成されたことを特徴としている。これにより、大型のセメント硬化体に凹凸が施された情報表示体を形成することが可能となる。
【0015】
(9)また、本発明の情報表示体において、前記セメント硬化体中の骨材の最大粒径は、5mm以下であることを特徴としている。これにより、切削に伴う骨材とペーストとの界面の剥離に起因する骨材ポップアウトによる欠損を防ぐことが可能となる。
【0016】
(10)また、本発明の情報表示体の製造方法は、固形性を有する材料で形成された情報表示体の製造方法であって、情報表示部に複数の凹部および凸部を設ける工程と、を含み、前記凹部および凸部を、前記情報表示部上に交互または連続して1方向または2方向に設けられることにより、特定の情報を表し、前記凹部の底面および凸部の上面の間の傾斜面は、前記情報表示部に対し直角または鋭角に傾斜し、前記各凸部の上面または前記各凹部の開口端部の幅をlとし、前記各凸部の高さまたは前記各凹部の深さをdとした場合、d/lで算出される縦横比は、0.5以上であることを特徴としている。これにより、特定の情報を情報表示体に直接付すことが可能となる。また、特定の情報を表す複数の凹凸形状を2方向に形成することにより、2次元コードを形成することができ、より多くの情報を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、凹部および凸部によって生じる陰影により読み取られる特定の情報が付された情報表示体を提供することができる。その結果、例えば、建造物等の壁面に情報表示体を設けた場合には、製造日、製造場所、使用材料といった情報を提供することができ、また道路の法面等に情報表示体を設けた場合には、道路情報や観光情報等の情報提供を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】本実施形態である情報表示体の正面図である。
図1B】本実施形態である情報表示体の斜視図である。
図2】本実施形態に係る情報表示体の概要図である。
図3】本実施形態に係る情報表示体の断面の一部を示す図である。
図4】セメント硬化体の作製手順を示すフローである。
図5】付加製造装置で積層してセメント硬化体を製造する手順の概略を示す図である。
図6A】本検証に用いた情報表示体を示す図である。
図6B】本検証に用いた情報表示体を示す図である。
図7】本検証に用いた情報表示体を示す図である。
図8A】本実施形態に係る情報表示体の変形例を示す図である。
図8B図8Aの情報表示体200を長軸方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、固形性を有する材料で形成された情報表示体にコード情報を付加することで多くの情報を提供できることに着目し、情報表示体に特定の情報を表す複数の凹部および凸部を設け、凹部および凸部によって陰影を生じさせることにより特定の情報が読み取れることを見出し、本発明に至った。
【0020】
すなわち、本発明の情報表示体は、固形性を有する材料で形成された情報表示体であって、複数の凹部および凸部が設けられた情報表示部と、を備え、前記凹部および凸部を、前記情報表示部上に交互または連続して1方向または2方向に設けることにより、特定の情報を表し、隣り合った前記凹部および凸部によって生じる陰影により前記特定の情報が読み取られることを特徴としている。これにより、本発明者らは、情報表示体に情報を付すことを可能とした。以下、本実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
[1.情報表示体の構成]
図1Aは、本実施形態に係る情報表示体の正面図である。図1Bは、本実施形態に係る情報表示体の斜視図である。図1Aおよび図1Bに示す情報表示体100は、情報表示体100の主平面に特定の情報を表す複数の凹部および凸部が付された情報表示部11を備えている。情報表示部11に付された凹部21および凸部31は、情報表示体100の主平面上に交互または連続して2方向に設けられ、正方形または点を格子状に配列した構造をもつ2次元コードを形成している。このように、情報表示部11に形成されたコードを、2次元コードリーダ等の読み取り装置によって読み取ることで、ユーザは2次元コードに付された情報を取得することができる。
【0022】
なお、図1Aおよび図1Bに示した情報表示体100は、10cm×10cm×1.0cm(セル数33×33)、各凸部の上面または各凹部の開口端部の長さ(幅)lは2mm、各凸部の高さまたは各凹部の深さdは、3mmで形成されている。
【0023】
図2は、本実施形態に係る情報表示体の概要図である。読み取り装置は、自装置で撮影した2次元コードの画像から2値化処理を行い、図2に示した読み込みエリアの寸法や情報を含むコードを抽出し、認識する。しかしながら、撮影した画像から2値化した画像で正しくコードが認識できないと、コードを正しく読み取ることができない。つまり、読み取り装置が2次元コードとして情報を取得するために、2次元コードのセル部分にあたる凹凸部分(凹部および凸部)を、読み取り装置に認識させる必要がある。本実施形態では、隣り合った凹部21および凸部31によって陰影を生じさせることにより、セルを判別させている。
【0024】
図3は、本実施形態に係る情報表示体100の断面の一部を示す図である。図3に示す情報表示体100の断面は、積層型三次元造形装置で作製した場合(作製方法の詳細は後述する)の断面図であるため、凹部21の底面23および凸部31の上面33の間の傾斜面45が、階段状のようになっているが、これに限定されない。例えば、凹部21の底面23および凸部31の上面33の間の傾斜面45は、直線状であってもよい。凹凸形状で陰影を生じさせるため、図3に示すように、凹部の底面および凸部の上面の間の傾斜面45は、情報表示体の主平面に対し直角または鋭角に傾斜している(θは90℃以下である)ことが好ましい。
【0025】
また、2次元コードの最小単位(1セル)の長さ(幅)にあたる凸部の上面または凹部の開口端部の長さ(幅)をl、各凸部の高さまたは各凹部の深さをdとした場合、d/lで算出される縦横比は、0.5以上であることが好ましい。よりはっきりとした陰影をつけるために、縦横比(d/l)は、1.0以上がより好ましく、2.0以上であるとさらに好ましい。縦横比(d/l)の詳細ついては、後述する。
【0026】
本実施形態では、2次元コードのうちマトリクス型2次元コードの一例であるQRコードを用いて説明したが、これに限定されない。例えば、1次元コードで表されるバーコードでもよいし、スタック型2次元コードや、QRコード以外のマトリクス型2次元コードであってもよい。
【0027】
[2.凹凸形状を施した情報表示体の製造方法]
本実施形態に係る情報表示体の製造方法について、説明する。製造方法は、積層型三次元造形装置(付加製造装置/3Dプリンター)による製造方法、型枠による製造方法、切削による製造方法がある。それぞれについて、以下に説明する。なお、本実施形態に係る情報表示体としてセメント硬化体を一例として説明するが、これに限定されない。
【0028】
(1)積層型三次元造形装置(付加製造装置/3Dプリンター)を用いた製造方法
図4は、凹凸形状を施した情報表示体(以下、セメント硬化体)の作製手順を示すフローである。まず、凹部および凸部を施したセメント硬化体の3Dモデルデータを作製する(ステップS1)。次に、作製した3Dモデルデータを、出力用3Dデータに変換する(ステップS2)。変換した出力用3Dデータを多数の水平面に分割する(ステップS3)。次に、分割した水平面の形状を、付加製造装置を用いて順次積層する(ステップS4)。
【0029】
ステップS4の作業について、詳細を説明する。図5は、付加製造装置で積層して硬化体を製造する手順の概略を示す図である。ここでは、材料として積層型三次元造形装置で使用可能な無機粉末を用いる。無機粉末の材料の詳細は、後述する水硬性組成物の材料を、機械や手作業で混合し、または粉砕機で混合粉砕し、調整する。
【0030】
まず、粉末供給機51でテーブル上に配置された無機粉末を平らにならす(図5(a))。次に、分割した水平面の形状のデータに基づき、ヘッド55から水性硬化剤を噴射し、粉末を固化させる(図5(b))。ステップT2を終えると、テーブル57が一層下がり、粉末供給槽59が一層上がり、テーブル57上に無機粉末を敷く(図5(c))。図5(a)から図5(c)の作業を繰り返し、分割した水平面の形状を積層していくことにより造形された造形物61の余分な粉末を除去することにより、凹凸形状が施されたセメント硬化体を製造することができる(図5(d))。このように、積層型三次元造形装置を用いた製造方法では、上述したように3Dデータに基づき、セメント硬化体を形成するため、複雑な形状を作製することが可能である。
【0031】
製造したセメント硬化体は、気中養生単独、気中養生した後に続けて水中養生する方法、または、表面含浸剤養生、蒸気養生等がある。これらの中でも、本実施形態に係るセメント硬化体においては、気中養生単独が好ましい。また、材料の詳細は後述するが、水硬性組成物に含まれるカルシウムアルミネート、速硬セメント、およびポリビニルアルコールによる強度増進の点から、気中養生の温度は、10~100℃が好ましく、さらに30~80℃がより好ましい。また、気中養生の相対湿度は、充分な強度発現と生産効率の点から、10~90%が好ましく、15~80%、さらには20~60%がより好ましい。さらに、気中養生期間は、充分な強度発現と生産効率の点から、1時間~1週間が好ましく、2時間~5日間、さらには3時間~4日間がより好ましい。
【0032】
(水硬性組成物)
本実施形態で用いる水硬性組成物は、柔らかすぎると加工時等に造形物が崩壊してしまうため、ある程度の強度が必要とされる。積層型三次元造形装置を用いて、セメント硬化体に潜像加工を行う場合の水硬性組成物について、説明する。
【0033】
水硬性組成物は、無機結合材100に対し、ポリビニルアルコールを2~12質量部含む複合結合材の合計質量100質量部に対し、さらに、水を28~130質量部、および砂を含有する。
【0034】
無機結合材は、カルシウムアルミネート類から選ばれる1種以上を必須成分として含み、さらに石膏と速硬セメント等を任意成分として含む結合材である。カルシウムアルミネートは、無機結合材の中でも、強度発現性が高いため、無機結合材として用いるのに好ましく、特に、非晶質カルシウムアルミネートを用いるのが、より好ましい。特に、非晶質カルシウムアルミネートは、原料を溶融した後、急冷して製造するため、実質的に結晶構造を有せず、通常、そのガラス化率は80%以上であり、ガラス化率が高い程、早期強度発現性は高いため、ガラス化率は好ましくは、90%以上である。
【0035】
早期強度発現性の更なる向上のため、無機結合材は、石膏を任意成分として含んでもよい。石膏には、無水石膏、半水石膏、および二水石膏から選ばれる1種類以上があげられるが、半水石膏は早期強度発現性がより高いため好ましい。
【0036】
また、早期強度発現性の更なる向上のため、無機結合材は、速硬セメント(超速硬セメントともいう)を任意成分として含んでもよく、該速硬セメントは、JIS R 5210に準拠して測定した凝結が30分以内である速硬セメント(超速硬セメント)、または止水セメントが好ましい。
【0037】
無機結合材中のその他の成分として、セメントを含んでもよい。セメントは、JIS R 5210に準拠して測定した凝結が3時間30分以内であれば、成形から3時間後の早期強度発現性が高いため好ましく、1時間以内がより好ましい。セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、およびセメントクリンカー粉末から1種類以上が挙げられる。また、セメント中の珪酸カルシウムの含有率は、セメント全体を10質量%として、好ましくは25質量%以上である。該含有率が25質量%以上あれば、材齢1日以後の強度発現性が高く、また長期強度発現性が必要な場合、該含有率は、好ましくは45質量%以上である。
【0038】
無機結合材中のセメント含有率は、早期強度発現性の向上のため、無機結合材全体を100質量%として、0~50質量%が好ましく、0~30質量%がより好ましく、0~20%であるとさらに好ましい。
【0039】
複合結合材は、無機結合材100に対し、ポリビニルアルコールを2~12質量部含む結合材である。ポリビニルアルコールの配合割合が2質量部未満では、強度の向上効果は低く、また、12質量部を超えると、形状によっては成形物の収縮により変形やひび割れが生じ、複雑な形状を製造することができない場合がある。ポリビニルアルコールの配合割合は、無機結合材100質量部に対し、より好ましくは2~10質量部、さらに好ましくは3~9質量部である。
【0040】
また、ポリビニルアルコールの平均粒径(メディアン径、D50)は、高い強度が得られるため、150μm以下が好ましく、90μm以下がより好ましく、10~75μm以下であるとさらに好ましい。94μmより大きいポリビニルアルコールの粒子の含有率は、90質量%以下が好ましく、45質量%以下、さらには30質量%以下であるとより好ましい。また、77μmより大きいポリビニルアルコールの粒子の含有率は、90質量%以下が好ましく、60質量%以下、さらには50質量%以下であるとより好ましい。
【0041】
水硬性組成物は、複合結合材の合計100質量部に対し、水を28~130質量部、および砂を含む組成物である。水の配合割合が該範囲であれば、強度発現性を確保できる。また、砂の配合割合は、複合結合材100質量部に対し、好ましくは、100~1500質量部、より好ましくは150~1200質量部、さらに好ましくは200~1000質量部である。砂の配合割合が該範囲にあれば、同じく、強度発現性を確保できる。
【0042】
水硬性組成物中のその他の成分として、造形後に残った水硬性組成物の未硬化の粉末を、成形物から除去する作業(デパウダー)を容易にするため、さらに、複合結合材の合計100質量部に対し、任意の成分として疎水性フュームドシリカを0.1~2質量部、より好ましくは0.5~1.5質量部含むことができる。
【0043】
(2)型枠による製造方法
次に、型枠による製造方法について説明する。まず、予め作製したい形状に凹部および凸部が設けられた型枠を準備する(ステップP1)。次に、セメントと水、またはセメントに砂・砂利等の骨材と水を練り混ぜて作製したセメント混練物を、型枠に充填し、硬化させる(ステップP2)。セメント混練物が硬化した後、脱枠する(ステップP3)。
【0044】
本実施形態のセメント硬化体は、凹凸形状で陰影を生じさせるため、凹部の底面および凸部の上面の間の傾斜面は、情報表示体の主平面に対し直角または鋭角に傾斜していることが好ましい。そのため、凹部の底面および凸部の上面にある傾斜面が鋭角に傾斜している場合は、本製造方法においては、セメント混練物が硬化した後、脱枠することは難しい。そのため、型枠に用いる材料には蝋などの熱で溶ける材料、あるいは高い変形性を有する樹脂などを用いて型枠を形成し、セメント混練物が硬化した後、型枠を溶解して、あるいは型枠を物理的に変形させて脱枠することが好ましい。複数の凹部および凸部が設けられた複雑な形状を有する型枠の場合は、上述した積層型三次元造形装置を用いて形成された型枠を用いることがより好ましい。
【0045】
型枠によりセメント硬化体を製造する場合、充填するセメント混練物の空気量が多い場合、硬化後に空気泡が生じてしまい、表面の凹凸が変形してしまう可能性がある。そのため、セメント混練物中に消泡剤等を混入し、空気量を減じることが好ましい。
【0046】
また、セメント混練物を型枠に充填する際に、セメント混練物が型枠に空隙を作ることなく充填されるよう、骨材の最大粒形は、形成したいセメント硬化体の凹部および凸部の最小幅以下であることが好ましい。より好ましくは、最小幅の3分の2以下であることがよく、さらには最小幅の2分の1以下であることがよい。
【0047】
また、形成するセメント硬化体の凹部および凸部にブリーディング水が残ることがないよう、適度な粘性と材料分離抵抗性を有し、ブリーディング量の少ない配合であることが好ましい。
【0048】
(3)切削による製造方法
まず、セメント硬化体を準備し、作製した3Dモデルデータに基づき、セメント硬化体を切削する。切削工法には、機械を用いた切削工法と、ウォータジェット工法がある。機械を用いた切削方法では、硬化させたモルタルを、切削機を用いて切削するため、大型のモルタル硬化体に凹部および凸部を形成し加工することが可能である。ウォータジェット工法を用いた切削方法では、高圧ポンプにより圧縮し噴射する高圧水の力を利用して、セメント硬化体を切削することにより、凹部および凸部を形成し加工することが可能である。ウォータジェット工法を用いた場合、機械を用いた切削方法よりも、モルタル硬化体への振動等を抑えることが可能であるため、セメント硬化体への影響を最小限に抑えながら、凹部および凸部を形成し加工することができる。
【0049】
切削により加工する際は、セメント硬化体中の骨材がペーストとの界面で剥がれてポップアウトし欠損を生じる恐れがある。そこで、骨材とペーストの強度は近いものを使用するのが好ましい。また、骨材の最大粒径は、5mm以下の小さいものを使用することが好ましく、2mm以下がより好ましく、さらには1mm以下であることがより好ましい。さらに、骨材は角ばったものを使用することが好ましい。
【0050】
[3.セルの縦横比]
読み取り装置が2次元コードとして情報を取得するためには、2次元コードのセル部分にあたる凹部および凸部を、読み取り装置に認識させる必要がある。本実施形態では、隣り合った凹部および凸部によって陰影を生じさせることにより、セルを判別させている。そこで、2次元コードの最小単位(1セル)の長さ(幅)にあたる凸部の上面または各凹部の開口端部の幅をlとし、各凸部の高さまたは各凹部の深さをdとした場合、d/lで表される縦横比の値をいくつにすると、読み取りが可能となるのか、以下、検証を行なった。
【0051】
図6A図6Bおよび図7は、本検証に用いた情報表示体を示す図である。図6A図6Bおよび図7は、上述した水硬性組成物を材料とし、積層型三次元造形装置(付加製造装置/3Dプリンター)を用いた製造方法で作製したセメント硬化体である。また、各セメント硬化体は、造形物の寸法:100mm×100mm×10mm、読み込みエリア寸法:80mm×80mm×8mm(セル数:33pixel×33pixel)で作製されている。
【0052】
また、図6Aに示す情報表示体は、情報表示部に凹部を形成したセメント硬化体(以下、凹型セメント硬化体という)である。図6Bに示す情報表示体は、情報表示部に凸部を形成したセメント硬化体(以下、凸型セメント硬化体という)である。図7(a)~(c)に示す情報表示体は、凹型セメント硬化体の各凹部の深さをそれぞれ(a)d=1.0mm、(b)d=1.5mm、(c)d=3.0mmで作製した凹型セメント硬化体である。図7(a)~(c)からわかるように、各凹部の深さによって、陰影の明暗度が異なることがわかる。
【0053】
そこで、各凹部の深さdが異なる5種類の凹型セメント硬化体を作製し、2次元コード読み取り装置で読み取りできたか否かの検証を行ない、表1にまとめた。なお、本検証で用いたセメント硬化体の情報表示部に形成された最小単位である1セルの長さ(幅)lは、2.4mmとした。
【0054】
【表1】
【0055】
以上の検証結果から、縦横比(d/l)は、0.5以上であることが好ましい。よりはっきりとした陰影をつけるために、縦横比(d/l)は、1.0以上がより好ましく、2.0以上であるとさらに好ましいことがわかった。
【0056】
(変形例)
図8Aは、本実施形態に係る情報表示体の変形例を示す図である。図8Bは、図8Aの情報表示体200を長軸方向から見た図である。図8Aおよび図8Bは、上述した水硬性組成物を材料とし、積層型三次元造形装置(付加製造装置/3Dプリンター)を用いた製造方法で作製したセメント硬化体200である。また、セメント硬化体200は、造形物の寸法:100mm×200mm×10mm、読み込みエリア寸法:80mm×160mm×10mm(セル数:33pixel×33pixel)で作製されている。また、図8Aに示す変形例では、セル数を変えず、情報表示部つまり各セルを形成する凹部の開口端部または凸部の上面の縦横比を変えて、情報表示体200を作製されているため、情報表示体200を別の角度からみると、図8Bに示すように、2次元コードとして認識することができる。
【0057】
このように、各セルを形成する凹部の開口端部または凸部の上面の縦横比を変えて、情報表示体を作製することにより、例えば、道路面や壁面に、道路情報や観光情報等の情報提供を行うことができる。
【0058】
以上説明したように、セメント硬化体の表面に特定の情報を示す複数の凹部および凸部を設け、凹部および凸部の陰影により特定の情報を読み取ることを可能とする。その結果、例えば、建造物等の壁面に情報表示体を設けた場合には、製造日、製造場所、使用材料やといった情報を提供することができ、また道路の法面等に情報表示体を設けた場合には、道路情報や観光情報等の情報提供を行うことができる。
【符号の説明】
【0059】
100、200 情報表示体(セメント硬化体)
11 情報表示部
21 凹部
23 底面
31 凸部
33 上面
45 傾斜面
51 粉末供給機
53 ローラー
55 ヘッド
57 テーブル
59 粉末供給槽
61 造形物
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B