(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルムロール
(51)【国際特許分類】
B65H 75/00 20060101AFI20240402BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240402BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240402BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20240402BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20240402BHJP
B65H 18/28 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B65H75/00 Z
B32B27/36
C08J5/18 CFD
C08J7/04 Z
H01G13/00 351Z
B65H18/28
(21)【出願番号】P 2019058137
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2022-01-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】郡司 淳史
(72)【発明者】
【氏名】高木 順之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-017932(JP,A)
【文献】特開2003-192203(JP,A)
【文献】特開2016-044035(JP,A)
【文献】特開2013-137984(JP,A)
【文献】特開2018-090803(JP,A)
【文献】特開2012-236387(JP,A)
【文献】特開2012-046736(JP,A)
【文献】特開2010-069661(JP,A)
【文献】特開2003-146496(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235907(WO,A1)
【文献】特開2018-123318(JP,A)
【文献】特開2015-145086(JP,A)
【文献】特開2008-138103(JP,A)
【文献】特開2018-203818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 75/00
B32B 27/36
C08J 5/18
C08J 7/04
H01G 13/00
B65H 18/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型用途に用いられるポリエステルフィルムを巻き取ってなるポリエステルフィルムロールであって、
前記ポリエステルフィルムが、フィルム幅が400mm以上、フィルム長さが1000m以上であり、
前記ポリエステルフィルムの厚みが10μmを超えて500μm以下であり、
前記ポリエステルフィルムロールの幅方向の一方の端部ともう一方の端部を最短で繋ぐ線分を8等分する7点において硬度Hを測定し、一方の端部側から当該硬度を、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7とし、当該硬度H1~H7のうちもっとも硬度が高いものをH
high、もっとも硬度が低いものをH
low、H1~7の平均をH
aveとしたとき、下記(1)、(2)式を満たすポリエステルフィルムロール。
(H1+H2+H6+H7)/4-(H3+H4+H5)/3 >0 ・・・(1)
4.0×10
-2>(H
high-H
low)/H
ave>2.0×10
-3 ・・・(2)
【請求項2】
前記ポリエステルフィルムの一方のフィルム表面の中心線粗さSRa(A)が1nm以上15nm未満であり、もう一方のフィルム表面の中心線粗さSRa(B)が20nm以上40nm以下である、請求項
1に記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムが3層以上の層構成を有する、請求項1
または2に記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項4】
積層セラミックコンデンサの成型用基材として用いられる、請求項1~
3のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
【請求項5】
自動車用積層セラミックコンデンサの成型用基材として用いられる、請求項1~
3のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は離型用途に用いられるポリエステルフィルムを巻き取ってなるポリエステルフィルムロールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、機械特性や熱特性、コシの強さやコストの観点から、工業材料用途として多様な用途にて用いられており、最近では、各種の離型用途に広く用いられている。例えば、電子部材関連の工程用離型フィルムとして、積層セラミックコンデンサのグリーンシートを成型用基材や、液晶偏光板のセパレータ、ドライフィルムレジスト用基材などに用いられている。
【0003】
昨今のスマートフォンの機能高度化や、スマートウォッチ、ウェアラブル機器の普及に伴い、積層セラミックコンデンサの小型高容量化が更に進んでいる。積層セラミックコンデンサの製造に用いる離型フィルムに関しては、グリーンシートの薄膜化に伴い、平滑性が高く、フィルム表面および内部に欠陥の無く、フィルムの平面性に優れたポリエステルフィルムの需要が伸び続けている。一方で、自動車に搭載される積層セラミックコンデンサは、自動車のIoT(Internet Of Things)化や、自動運転機能の搭載により、需要が急速に拡大している。これら自動車用積層セラミックコンデンサに対しては、従来の要求より更に厳しく信頼性を求められている。特に、積層セラミックコンデンサの誘電体部品となるグリーンシートの成形においては、フィルムが起因となって発生するスラリーの欠陥や、厚みの不均一さに対する要求がより厳しくなっている。
【0004】
フィルムの厚みむらは、特許文献1に示すように、長手方向に15mの測定を実施し判定することや、1m長を5mm毎に測定して判定する手法が公知の手法としてして知られている。また、特許文献2に示すように、偏光板を検査するクロスニコル法において偏光板から漏れる光の強度のむらが強くなり、検査の障害となることから、厚みむらを所定の範囲にする必要がある。特許文献3に示すように、同時二軸延伸を実施し、面配向を高めることで達成することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-246685号公報
【文献】特開2017-007175号公報
【文献】特開2004-291240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年のコンデンサに対する要求は、小型化、大容量化に加え、高信頼性化の傾向にある。小型化はすなわち電極の縮小化により達成される。大容量化はすなわちグリーンシートの薄膜化により、また、高信頼性化は、電極やグリーンシートを設ける際の、幅、長さ、厚み方向に対する寸法精度の向上により達成される。この中で、スラリー塗布時における、塗布厚みの均一性は、後に電極印刷を実施する工程において、一つ一つの電極面積が微細となっているため、電極パターンの歪みやズレを極小化することが、コンデンサの誘電率ばらつき、すなわちコンデンサの静電容量ばらつきを決定づける大きな要因の一つとして挙げられている。このため、フィルムに対する、厚みむらの極小化に関する要求が厳しくなっている。とくに、コンデンサ製造時において、スラリー厚みを常時監視し、ダイの傾きなどを修正しながらスラリーの薄膜塗布を実施する工程においては、ロール全長におけるベースフィルムの厚みむらが寄与する可能性が高いことが判明している。
【0007】
本発明者らが、鋭意検討を行った結果、ポリエステルフィルムの製造段階でポリエステルフィルムの厚みむらを抑制したとしても、ポリエステルフィルムをロール状に巻き取る際にポリエステルフィルムに外力が加わるとポリエステルフィルムが変形するため、ポリエステルフィルムロールから巻き出されるポリエステルフィルムの長手方向の厚みにばらつきが生じることが判った。厚みにばらつきが生じたポリエステルフィルムを離型用途、特に積層セラミックコンデンサ部材を成型する際の基材として用いると、剥離特性にばらつきが生じ、積層セラミックコンデンサの積層精度が悪化する。
【0008】
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであり、フィルム幅が400mm以上、かつ、フィルムの長さを1000m以上のポリエステルフィルムが巻き取られてなるポリエステルフィルムロールであって、かかるポリエステルフィルムロールから巻き出されたポリエステルフィルムを、離型用途に用いた際に離型フィルムの変形による剥離特性のばらつきが小さいポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフィルムは、上記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、
(I)離型用途に用いられるポリエステルフィルムを巻き取ってなるポリエステルフィルムロールであって、前記ポリエステルフィルムが、フィルム幅が400mm以上、フィルム長さが1000m以上であり、前記ポリエステルフィルムロールの幅方向の一方の端部ともう一方の端部を最短で繋ぐ線分を8等分する7点において硬度Hを測定し、一方の端部側から当該硬度を、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7とし、当該硬度H1~H7のうちもっとも硬度が高いものをHhigh、もっとも硬度が低いものをHlow、H1~7の平均をHaveとしたとき、下記(1)、(2)式を満たすポリエステルフィルムロール。
(H1+H2+H6+H7)/4-(H3+H4+H5)/3 >0 ・・・(1)
4.0×10-2>(Hhigh-Hlow)/Have>2.0×10-3 ・・・(2)
[II]前記ポリエステルフィルムロールの幅方向の一方の端部ともう一方の端部を最短で繋ぐ線分を8等分する7点においてロールの円周長を測定し、一方の端部側から当該円周長を、L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7とし、当該円周長L1~L7のうちもっとも円周長が長いものをLhigh、もっとも円周長が短いものをLlow、L1~7の平均をLaveとしたとき、下記(3)、(4)式を満たす[I]に記載のポリエステルフィルムロール。
(L1+L2+L6+L7)/4-(L3+L4+L5)/3 <0 ・・・(3)
3.0×10-3>(Lhigh-Llow)/Lave>3.0×10-5 ・・・(4)
[III]前記ポリエステルフィルムの一方のフィルム表面の中心線粗さSRa(A)が1nm以上15nm未満であり、もう一方のフィルム表面の中心線粗さSRa(B)が20nm以上40nm以下である、[I]または[II]に記載のポリエステルフィルムロール。
[IV]前記ポリエステルフィルムが3層以上の層構成を有する、[I]~[III]のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
[V]前記ポリエステルフィルムの厚みが10μmを超えて500μm以下である、[I]~[IV]のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
[VI]積層セラミックコンデンサの成型用基材として用いられる、[I]~[V]のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
[VII]自動車用積層セラミックコンデンサの成型用基材として用いられる、[I]~[V]のいずれかに記載のポリエステルフィルムロール。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フィルム幅が400mm以上、かつ、フィルムの長さを1000m以上のポリエステルフィルムが巻き取られてなるポリエステルフィルムロールであって、かかるポリエステルフィルムロールから巻き出されたポリエステルフィルムを、離型用途に用いた際に剥離特性のばらつきが小さいポリエステルフィルムを提供することができる。かかるポリエステルフィルムを積層セラミックコンデンサの成型用基材として用いると、獲られる積層セラミックコンデンサの積層精度を良好なものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0012】
本発明は離型用途に用いられるポリエステルフィルムを巻き取ってなるポリエステルフィルムロールに関する。本発明のロールに巻き取られているポリエステルフィルムは二軸配向していることが好ましい。ここで二軸配向とは、未延伸(未配向)フィルムを、常法により、二次元方向に延伸された状態を指し、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものを意味する。延伸は、逐次二軸延伸または同時二軸延伸のいずれの方法も採ることができる。逐次二軸延伸は、長手方向(縦)および幅方向(横)に延伸する工程を、縦-横の1回ずつ実施することもできるし、縦-横-縦-横など、2回ずつ実施することもできる。
【0013】
本発明のポリエステルフィルムにおけるポリエステルとは、二塩基酸とグリコールを構成成分とするポリエステルであり、芳香族二塩基酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、ナトリウムスルホイソフタル酸、ジブロモテレフタル酸などを用いることができる。脂環族二塩基酸としては、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸などを用いることができる。グリコールとしては、脂肪族ジオールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコールなどを用いることができ、芳香族ジオールとして、ナフタレンジオール、2,2ビス(4-ヒドロキシジフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ハイドロキノンなどを用いることができ、脂環族ジオールとしては、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどを用いることができる。
【0014】
上記ポリエステルは公知の方法で製造することができ、固有粘度は下限0.5、上限0.8のものを用いることが好ましい。さらに好ましくは下限0.55、上限0.70である。なお、固有粘度の測定は、オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から、下式で計算した値を用いる。
【0015】
ηsp/C=[η]+K[η]2・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1であり、Cは、溶媒100mlあたりの溶解ポリマー質量(g/100ml、通常1.2)、Kはハギンス定数(0.343とする)である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定する。単位は[dl/g]で示す。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムは、単層フィルムであってもよく、2層以上の積層構成であってもよい。2層積層時は、ポリエステルA層およびポリエステルB層からなり、3層の場合は、ポリエステルA層およびポリエステルB層およびポリエステルC層あるいは、ポリエステルA層およびポリエステルB層およびポリエステルA層の3層からなる積層フィルムとなる。3層以上の構成とすると、表層を有さない層(内層)にフィルム表面の特性に悪影響を与えない範囲で、製膜工程で発生するエッジ部分の回収原料、あるいは他の製膜工程のリサイクル原料などを適時混合して使用でき、石油資源の消費を減らすことが可能となるとともに、コストメリットを得ることが可能であるため好ましい。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムは、表面の平滑性と、搬送や巻き取りなどのハンドリング性を両立させるために、一方のフィルム表面ともう一方のフィルム表面の粗さが異なることが好ましい。すなわち、一方のフィルム表面の中心線粗さSRa(A)が1nm以上15nm未満であり、他方のフィルム表面の中心線粗さSRa(B)が20nm以上40nm以下であることが好ましい。一方のフィルム表面のSRa(A)が1nmを下回ると、該表面に離型層を積層し、その上にセラミックスラリーを積層した後の剥離工程で剥離が困難となることがある。また、SRa(A)が15nm以上になると、スラリーの表面状態が悪くなり厚みに斑が生じ、結果としてコンデンサの特性にバラツキが生じやすくなる場合がある。また、もう一方のフィルム表面のSRa(B)が20nmを下回ると、離型層塗布後の巻き取りや、セラミックスラリーを塗布後の巻き取りにてブロッキングが発生しやすくなり、繰り出した際に帯電が発生することがある。さらに好ましくは、一方のフィルム表面の中心線粗さSRa(A)が2nm以上12nm未満であり、他方のフィルム表面の中心線粗さSRa(B)が25nm以上35nm以下である。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは、10μmを超えることが好ましく、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは25μm以上である。また、500μm以下であることが好ましく、より好ましくは188μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。厚みが薄すぎると、セラミックススラリーを保持するための腰がなくなり、セラミックススラリーの塗布において、セラミックススラリーを支えられなくなり、後工程で均一な乾燥ができなくなることや、熱しわの抑制が不十分となる場合がある。厚みが厚すぎると、熱しわに対する耐久性は格段に優れるものの、巻き長さが少なくなる分、セラミックスラリーを形成する基材としての単位面積あたりの単価が高くなる傾向にある。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムは、粒子を含有していてもよい。このとき含有する粒子の体積平均粒径は、1.3μm以下であることが好ましい。粒子の体積平均粒径が大きすぎると、延伸時に粒子とポリマーとの界面に空隙、すなわちボイドが発生する機会が高くなるため、表面構造に凹凸のバラツキが生じることもあり、スラリーの厚みバラツキが大きくなる場合がある。特に、超薄膜グリーンシートを形成する際に顕著となる。なお、本発明における超薄膜グリーンシートとは、厚み1μm未満のグリーンシートを指す。本発明のポリエステルフィルムは、超薄膜グリーンシートを形成する際にもスラリー厚みのバラツキを抑制することが可能である。
【0020】
本発明に用いる粒子は、球状シリカ、凝集シリカ、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、酸化チタン等の無機粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子等の有機粒子を用いることができる。これら粒子は、フィルム表面に突起を形成する役割のほかに、ボイドを形成する核材にもなりうるため、粒子径とともに、その種類も選定することが望ましい。好ましくは粒子の弾性が高い有機粒子を用いる。有機粒子は、前述の有機粒子の内、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子より選ばれる有機粒子が特に好ましい。無機粒子においては、球状シリカ、酸化アルミニウムが特に好ましい。
【0021】
粒子の形状・粒子径分布については均一なものが好ましく、とくに粒子形状は球形に近いものが好ましい。体積形状係数は好ましくはf=0.3~π/6であり、より好ましくはf=0.4~π/6である。体積形状係数fは、次式で表される。
【0022】
f=V/Dm3
ここでVは粒子体積(μm3)、Dmは粒子の投影面における最大径(μm)である。
【0023】
なお、体積形状係数fは粒子が球のとき、最大のπ/6(=0.52)をとる。また、必要に応じて濾過などを行うことにより、凝集粒子や粗大粒子などを除去することが好ましい。中でも、乳化重合法で等で合成された、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子が好適に使用できるが、とくに架橋ポリスチレン粒子、架橋シリコーン、さらに球状シリカなどは体積形状係数が真球に近く、粒径分布が極めて均一であり、均一にフィルム表面突起を形成する観点で好ましい。
【0024】
本発明のポリエステルフィルムロールは、フィルム幅が400mm以上、フィルム長さが1000m以上のポリエステルフィルムを巻き取ってなるものである。当該ポリエステルフィルムロールから巻き出したポリエステルフィルムについて、フィルム長手方向1000mを連続測定した厚みの平均値に対するばらつき(σMD)が0.25以下であることが好ましく、0.20以下であることがより好ましく、0.15以下であることがさらに好ましい。ここでいうフィルム長手方向1000mで連続測定した厚みとは、フィルムを連続的に非接触測定した際の厚みである。また、以下において、σMDのことを長手方向のフィルム厚みむらということがある。σMDを低減させることにより、薄膜セラミックスラリー塗布時のスラリー厚みむらを低減でき、静電容量のばらつきを低減し、またショートの確率を抑制できる効果を奏する。なお、σMDが大きいと、薄膜セラミックスラリーの塗工においてスラリーの厚みむらが大きくなり上述の効果が低減する場合がある。
【0025】
また、本発明者らが鋭意検討した結果、ポリエステルフィルムを溶融製膜した後、フィルムロールに巻く前のポリエステルフィルムにおいて長手方向のフィルム厚みむらを抑制したとしても、ポリエステルフィルムをロール状に巻き取る際にポリエステルフィルムに外力が加わるとポリエステルフィルムが変形するため、ポリエステルフィルムロールから巻き出されるポリエステルフィルムの厚みにばらつきが生じてしまうことが判った。
【0026】
かかる問題を解決するため、本発明のポリエステルフィルムロールは、前記ポリエステルフィルムロールの幅方向の一方の端部ともう一方の端部を最短で繋ぐ線分を8等分する7点において硬度Hを測定し、一方の端部側から当該硬度を、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7とし、当該硬度H1~H7のうちもっとも硬度が高いものをHhigh、もっとも硬度が低いものをHlow、H1~7の平均をHaveとしたとき、下記(1)、(2)式を満たす必要がある。
(H1+H2+H6+H7)/4-(H3+H4+H5)/3 >0 ・・・(1)
4.0×10-2>(Hhigh-Hlow)/Have>2.0×10-3 ・・・(2)
ポリエステルフィルムロールの硬度が(1)、(2)式を満たすようにポリエステルフィルムを巻き取ることで、ポリエステルフィルムに局所的に外力が加わることを抑制し、ポリエステルフィルムロールに巻き取られているポリエステルフィルムの長手方向のフィルム厚みむらを抑制することができる。より好ましくは、(1)’、(2)’を満たすことが好ましい。
4.0> (H1+H2+H6+H7)/4-(H3+H4+H5)/3 >0.1 ・・・(1)’
3.0×10-2>(Hhigh-Hlow)/Have>3.0×10-3 ・・・(2)’
また、本発明のポリエステルフィルムロールは、前記ポリエステルフィルムロールの幅方向の一方の端部ともう一方の端部を最短で繋ぐ線分を8等分する7点においてロールの円周長を測定し、一方の端部側から当該円周長を、L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7とし、当該円周長L1~L7のうちもっとも円周長が長いものをLhigh、もっとも円周長が短いものをLlow、L1~7の平均をLaveとしたとき、下記(3)、(4)式を満たすことが好ましい。
(L1+L2+L6+L7)/4-(L3+L4+L5)/3 <0 ・・・(3)
3.0×10-3>(Lhigh-Llow)/Lave>3.0×10-5・・・(4)
ポリエステルフィルムロールの円周長が(3)、(4)式を満たすようにポリエステルフィルムを巻き取ることで、ポリエステルフィルムの巻きずれを抑制することが可能となり、ポリエステルフィルムの表面粗さのばらつきを抑制することができる。より好ましくは、(3)’、(4)’を満たすことが好ましい。
-5.0<(L1+L2+L6+L7)/4-(L3+L4+L5)/3 <0 ・・・(3)’
1.0×10-3>(Lhigh-Llow)/Lave>7.0×10-5・・・(4)’
また、本発明のポリエステルフィルムロールは、フィルム幅が400mm以上、フィルム長さが1000m以上のポリエステルフィルムを巻き取ってなるものである。フィルム幅が400mm未満、あるいはフィルム長さが1000m未満のポリエステルフィルムを巻き取ったポリエステルフィルムロールにおいては、フィルム幅方向のロール硬度や円周長の差による問題が発生しにくい。一方で、フィルム幅を大きくしたり、フィルム長さを長くすれば、大型の成型部材の離型用途にも使用することができ、またコスト的にもメリットがあるが、フィルム幅方向のロール硬度や円周長の差による問題が発生しやすくなる。本発明において、フィルム幅は800mm以上8000mm以下が好ましく、1000mm以上6000mm以下がより好ましい。また、フィルム長さは5000m以上100000m以下が好ましい。
【0027】
次に本発明のポリエステルフィルムロールの製造方法について説明するが、本発明はかかる例に限定して解釈されるものではない。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムが不活性粒子を含有する場合、不活性粒子を含有せしめる方法としては、例えば、ポリエステル原料を合成する段階で含有せしめる方法が挙げられる。具体的には、ジオール成分であるエチレングリコールに不活性粒子を所定割合にてスラリーの形で分散せしめ、このエチレングリコールスラリーをポリエステル重合完結前の任意段階で添加する。ここで、粒子を添加する際には、例えば、粒子を合成時に得られる水ゾルやアルコールゾルを一旦乾燥させることなく添加すると粒子の分散性が良好であり、粗大突起の発生を抑制でき好ましい。また粒子の水スラリーを直接、所定のポリエステルペレットと混合し、ベント方式の2軸混練押出機に供給しポリエステルに練り込む方法も本発明の製造に有効である。
【0029】
このようにして、準備した、粒子含有マスターペレットと粒子などを実質的に含有しないペレットを所定の割合で混合し、乾燥したのち、公知の溶融積層用押出機に供給する。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの製造における押出機は、1軸、2軸の押出機を用いることができる。また、ペレットの乾燥工程を省くために、押出機に真空引きラインを設けた、ベント式押出機を用いることもできる。
【0030】
押出機で溶融して押出したポリマーは、フィルターにより濾過する。ごく小さな異物もフィルム中に入ると粗大突起欠陥となるため、フィルターには例えば3μm以上の異物を95%以上捕集する高精度のものを用いることが有効である。続いてスリット状のスリットダイからシート状に押し出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。たとえば3層積層の場合は、3台の押出機、3層のマニホールドまたは合流ブロック(例えば矩形合流部を有する合流ブロック)を用いて3層に積層し、口金からシートを押し出す。この際の口金は、口金の間隙をヒーターにより自動調整できることが望ましい。さらには、延伸後のフィルム厚みを口金の間隙にフィードバックできることが、厚みむらを抑制する上で更に望ましい。また、この際フィルム厚みをポリエステルフィルム幅方向で均一とするか、もしくは、フィルムの幅方向の端部がやや厚くなるように口金の間隙を調整すると、ポリエステルフィルムロールの硬度を(1)、(2)式を満たすように制御することが容易となる。また、口金はタングステンカーバイドで表面処理を行うことで、口金の清掃やメンテナンス時の耐キズ、耐磨耗性に優れ、口金スジを抑制する観点から好ましい。口金スジは発生位置が固定厚みとなり、結果、厚み斑を生じさせる。口金から押し出したシートは、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを作る。この場合、背圧の安定化および厚み変動の抑制の観点からポリマー流路にスタティックミキサー、ギヤポンプを設置する方法は、本発明における厚みむらを抑制する手段として有効である。ギヤポンプは、押出工程における圧力変動を遮断する機能があるため、厚みを均一に制御するために必要であり、ギヤポンプに内蔵されるギアの回転数を一定にすることにより厚みむらを小さく押さえることができる。本発明においては、ギヤポンプの回転数を、巻き上がった中間製品の重量換算の厚みをフィードバックし制御することも有効である。フィルター圧力の上昇に伴い吐出が低下するためである。
【0031】
キャスティングロールに密着し冷却したフィルムは、引き離しロールを用いて、キャスティングロールからフィルムを剥離させ、次の延伸工程に導く。この際の引き離しロールには、フィルム冷却のための通水を行ってもよいし、引き離しロールを駆動させてもよい。
【0032】
延伸方法は同時二軸延伸であっても逐次二軸延伸であってもよい。同時二軸延伸においては、縦横の延伸を同時に実施する際、風速むらやフィルムに沿って流れる気流(随伴気流)が幅方向の延伸時に加え、長手方向にも外乱として影響するため、逐次二軸延伸が好ましく適用される形態である。
【0033】
本発明のポリエステルフィルムを逐次延伸を用いて製造する場合は、長手方向を延伸した後、幅方向に延伸することが好ましい。この際、最初の長手方向の延伸は、傷の発生を抑制する上および、長手方向の厚みむらを抑制する上で重要であり、延伸温度は90℃以上130℃以下、好ましくは100℃以上120℃以下である。延伸温度が90℃よりも低くなるとフィルムが破断しやすく、延伸温度が130℃よりも高くなるとフィルム表面が熱ダメージを受けやすくなる場合がある。また、延伸ムラ、及びキズを防止する観点からは延伸は2段階以上に分けて行うことが好ましく、トータル倍率は長さ方向に2.8倍以上5.0倍以下、好ましくは3.3倍以上4.0倍以下であり、幅方向に3.5倍以上5倍以下、好ましくは4.0倍以上4.5倍以下である。面積倍率(長手方向の延伸倍率×幅方向の延伸倍率)は、10.0倍以上20.0倍以下が好ましく、12.0倍以上18.0倍以下がより好ましい。縦延伸倍率を先述の数値に設定する際には、延伸区間を複数設定して、延伸ロールとフィルムとの滑りが起こりにくい状態にすることが、滑りによる延伸張力の変動を抑制できるために望ましい。この際、1つの延伸区間での延伸倍率は3.0倍以下とするのが、適切な延伸張力を担保できるので好ましい。かかる温度、倍率範囲を外れると延伸ムラあるいはフィルム破断などの問題を引き起こし、本発明の特徴とするフィルムが得られにくい。
【0034】
逐次延伸において、長手方向の延伸過程は、フィルムとロールの接触し、ロールの周速とフィルムの速度差により、フィルムが滑った際に傷が発生しやすく、また、長手方向の厚みむらの要因ともなるため、ロール周速がロール毎に個別に設定できる駆動方式が好ましい。長手方向の延伸過程において、搬送ロールの材質は、延伸前に未延伸フィルムをガラス転移点以上に加熱するか、ガラス転移点未満の温度に保った状態で延伸ゾーンまで搬送し、延伸時に一挙に加熱するか、いずれかにより選択される。延伸前に未延伸フィルムをガラス転移点以上まで加熱する際は、加熱による粘着が延伸むらを誘発するため、これを防止するうえでは、非粘着性シリコーンロール、セラミックス、テフロン(登録商標)から選択することが好ましい。
【0035】
また、延伸ロールは最もフィルムに負荷がかかり、該プロセスで傷や長手方向の厚みむらの原因となる延伸むらが発生しやすい工程であるため、延伸ロールの表面粗さRaは、0.005μm以上1.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上0.6μm以下である。Raが1.0μmよりも大きいと延伸時ロール表面の凸凹がフィルム表面に転写しやすくなり、一方0.005μmよりも小さいとロールとフィルム地肌が粘着し、フィルムが熱ダメージを受けやすくなる。表面粗さを制御するためには研磨剤の粒度、研磨回数などを適宜調整することが有効である。
【0036】
逐次延伸において、縦延伸倍率を横延伸倍率より低く設定することが、長手方向の厚みむらを低減させるうえで、好ましい延伸条件である。
【0037】
次いで、未延伸フィルムをガラス転移点未満の温度に保った状態で延伸ゾーンまで搬送するが、延伸時に一挙に加熱する際、予熱ゾーンの搬送ロールは、ハードクロムやタングステンカーバイドで表面処理を行った、表面粗さRaが0.2μm以上0.6μm以下の金属ロールを使用するのが、熱しわや厚み斑の原因となる粘着を抑制するうえで好ましい。また、延伸工程ではニップロール方式を採用することも好ましく、幅方向での厚み斑抑制の観点から、ニップロールのロール径のばらつきは幅方向で±0.05%以内であることが望ましい。また、ニップロールの面圧分布を確認し、幅方向での圧力バランスを調整することも有効である。
【0038】
次に、かかる長手方向に延伸された一軸延伸フィルムを、横延伸機にて90℃以上120℃未満に加熱した後、3倍以上6倍未満で幅方向に延伸し、二軸延伸(二軸配向)フィルムとする。この横延伸機はオーブンの部屋ごとに自己循環を実施し温風をフィルムに吹き付けることで、フィルムを昇温させ、延伸や熱固定を実施する。その際、オーブン内で熱処理したフィルムより析出したオリゴマーが、冷却されオーブンに付着することを防止するため、オーブン内で給気・排気を実施し、空気を置換するとよい。このとき、オーブン内に給気した空気が循環エアーと合流する際に、空気の温度が外気に近いままであると合流後の空気に温度むらが発生し、長手方向および、幅方向の厚みむらを悪くすることがあるため、給気エアーは循環エアーと同じか、循環エアーを加熱する熱交換器の能力に見合った温度で加熱することが好ましい。
【0039】
また、オーブン内の給気・排気量を調節する上では、搬送されるフィルム上下を流れる空気の方向が、同一方向であることが好ましい。オーブンの各室においては、自己循環の空気に加え、上流からフィルム搬送方向と同一方向に流れる随伴気流、オーブン外で給気あるいは排気を行うことで、STN内部の空気の流れが複雑に変化する。この際に、室間の圧力差によって、室間での空気の流れが、例えば上流から下流への流れが、下流から上流の流れに変わることもある。室間の空気の流れは、空気の温度が室間で異なる場合には、フィルムの伸縮むらにつながることもある。このために、オーブンの吸気・排気の条件については、給気量より排気量を多くすることで、同一方向への空気の流れを誘導することができる。かかる給排気方式を採用して得られたフィルムは、局所的にオリゴマーが付着するのを抑制できる。局所的にオリゴマーが付着したフィルムをロールに巻き取ると、フィルムロールの硬度、円周長を上述の範囲に制御することが困難になるだけでなく、フィルムとフィルムの間にオリゴマーが存在したままフィルムに巻き締まり圧力がかかるため、フィルムの厚みむらを発生させる要因となる。
【0040】
本発明のポリエステルフィルムは、さらに、再延伸を各方向に対して1回以上行なってもよいし、同時2軸にて再延伸してもよい。長手方向の厚みむらを抑制する方法としては、長手方向の再延伸工程にて、前の横延伸工程で発生したボーイングの緩和を行うことが挙げられる。この際、長手方向の再縦延伸前の搬送ロールにて80℃~100℃の温度にて加熱してもよいし、加熱していないロールを用い搬送してもよい。更には、延伸倍率をかけずに再縦延伸工程を通過させてもよい。再縦延伸後には更に横延伸を実施し、延伸の後にフィルムの熱処理を行なうが、この熱処理はオーブン中、加熱されたロール上等、従来公知の任意の方法で行なうことができる。熱処理温度は通常150℃以上245℃未満の任意の温度とすることができ、熱処理時間は、通常1秒間以上60秒間以下行なうことが好ましい。熱処理は、フィルムをその長手方向および/または幅方向に弛緩させつつ行なってもよい。また、熱処理後は熱処理温度より0℃以上150℃以下の低い温度で幅方向に0%以上10%以下で弛緩させるとよい。
【0041】
熱処理後のフィルムは、例えば中間冷却ゾーンや除冷ゾーンを設け、寸法変化率や平面性を調整することができる。また特に、特定の熱収縮性を付与するために、熱処理時あるいはその後の中間冷却ゾーンや除冷ゾーンにおいて、縦方向および/または横方向に弛緩してもよい。この際には、オーブン内部における幅方向の温度差は、5℃以内にコントロールすることが、幅方向の厚みむらを良好にする上で望ましい。
【0042】
二軸延伸後のフィルムは、搬送工程にて冷却させた後、エッジを切断後、スリット工程により適切な幅・長さにスリットしてコアに巻き取り、二軸配向ポリエステルフィルムのロールが得られる。
【0043】
コアに巻き取る方式は、センターワインド方式(巻取中心に配した回転軸駆動により巻き取る方式)とサーフェースワインド方式(表面駆動により、あるいは表面駆動を併
用して巻き取る方式)があるが、本発明のロールを得るためにはそのどちらの方式を選んでもよい。
【0044】
本発明のポリエステルフィルムロールは、上記の製造条件によって長手方向の厚みむらを抑制したポリエステルフィルムを、巻取張力を4~20kg/m、巻取接圧5~45kg/m、巻取速度150~450m/分とした巻き取り条件にて巻き取ることが好ましい。かかる巻き取り条件によりポリエステルフィルムロール巻き取ることで、フィルム長さを1000m以上に巻き取った際の局所的な巻き締まりや巻きづれの発生を抑制できるため、ポリエステルフィルムロールの硬度を(1)、(2)式を満たすように制御することが容易となり、また、ポリエステルフィルムロールの円周長を(3)、(4)式を満たすように制御することが容易となる。より好ましくは、巻取張力を6~15kg/m、巻取接圧10~35kg/m、巻取速度200~350m/分である。
【0045】
また、上記スリット工程の搬送に用いられる複数のスリッター搬送に用いられる複数のスリッター搬送ロールのうち、半数以上のロールがゴムロールであることが好ましい。より好ましくはスリット工程における全ての搬送ロールがゴムロールであることである。ここで、ゴムロールとは少なくともロールの表面がゴムで被覆されているロールをいう(ロール全体がゴムであるロールも勿論含まれる)。かかるゴムロールを用いることにより、スリット中のフィルムの蛇行を抑制することに効果がある。ゴムロールに用いられるゴムの種類は、二トリルゴム(アクリルニトリルとブタジエンの共重合体)、クロプレンゴム(ポリクロルプレン)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、およびクロロスルホン化ポリエチレンゴムから選択された少なくとも1つのゴムであることが好ましい。より好ましくはクロロプレンゴムを用いることである。クロロプレンゴムは適度なグリップ力を得ることが出来る点、フィルムの帯電特性を制御できる点、滑り処理を効果的に施すことが出来る点で好ましい。また、ゴムロール表面には、搬送中にフィルムとロールの間に入った空気を排除するために、斜めに溝を掘ったもの(この加工を以下「網目加工」と称する。また、「網目加工」を施したゴムロールを「ダイヤカットロール」と称する)を使用することが好ましい。この網目加工の溝は、幅1~2mm、深さ1~1.5mmで、角度がロール幅方向に対して20~45°の角度でX字状に付与することが好ましい。また、ゴムロールにはUV(紫外光)照射によるゴム表面を劣化させる処理等で滑り処理を施すことが好ましい。しかし、滑り処理を行いすぎると、ロールのグリップ力が低下して、ロールとフィルムの周速差が生じやすくなり、搬送状態の悪化、フィルムロール巻姿の悪化に繋がるため、ロール表面の静摩擦係数μsは0.5以上1.0以下が好ましい。また、ポリエステルフィルムを巻き取るのに使用するコアは、プラスチックからなる円筒形の巻き芯が挙げられる。湿度による伸縮が少なく、巻き取り圧力による変形の少ないコアを用いると、フィルム長さを1000m以上に巻き取った際の局所的な巻き締まりや巻きずれの発生を抑制できるため好ましい。巻取りコアは軸方向及び円周方向の弾性率が9.8GPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは14.0GPa以上である。かかる範囲に満たない巻取りコアを使用すると、フィルムの巻取り時にかかる張力と接圧により巻取りコアが変形してしまうことがある。巻き取りコアの強度をかかる範囲とするための方法は特に限定されないが、プラスチックをガラス繊維や炭素繊維で強化する方法がある。スリット工程におけるフィルムの切断工程は、中間製品の不要部分を除去し、所望の製品幅を有するポリエステルフィルムロールを得るための工程である。この切断工程にて、中間製品の幅方向に対して3か所から10か所を同時に切断する。この切断に用いる方式は、下刃と上刃の剪断にて切断する方式や、パスライン間の空中で切断する切断の方式から選定できる。スリットに使用する刃は、シャー刃、丸刃、レザー刃等を用いるが、端面のヘり高さ制御の観点から、丸刃、レザー刃を用いることが、好ましい形態である。また、使用するコア、コンタクトロールの幅について、何れもフィルム幅に対して1.05倍~1.25倍の幅のものを用いることが好ましい。
【0046】
フィルム幅とは、当該スリット工程により、スリットした後のフィルムの幅であり、先述の切断工程における切断場所を幅方向で調節することにより、所望の製品幅を有するポリエステルフィルムロールを得ることができる。また、本発明におけるフィルム長手方向の長さは、スリット工程の任意のロール上に設置した測長器にて計測する。このように、中間製品を幅方向で切断し、コアに任意の長さにて巻き取ったものを、本発明ではポリエステルフィルムロールと称する。
【0047】
上述の方法により得られたポリエステルフィルムロールは、ポリエステルフィルムロールから巻き出されるポリエステルフィルムの長手方向の厚みのばらつきが抑制されているため、離型用途、特には積層セラミックコンデンサの成形用部材として、更には自動車用積層セラミックコンデンサの成形用部材としてより好ましく用いることができる。なお、本発明における離型用途とは、本発明のポリエステルフィルムロールから巻き出されるフィルムを成型用基材として用い、当該ポリエステルフィルム上にて部材を成型し、部材成型後に当該ポリエステステルフィルム基材から部材から剥離する用途を指す。ここでいうところの部材とは、積層セラミックコンデンサにおけるグリーンシートや、多層回路基板における、層間絶縁樹脂(電気絶縁樹脂)、光学関連部材におけるポリカーボネート(この際は溶液製膜において使用される)などが挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例で本発明を詳細に説明する。
【0049】
本発明に関する測定方法、評価方法は次の通りである。
【0050】
(1)長手方向のフィルム厚みむら(σMD)
巻返し検査機に設置したキーエンス社製SI-80Pを用いて、製品ロール幅方向中央部について、長手方向の厚みを10,000m測定した。巻返し速度は50m/min、サンプリング周期は20msec、この厚みデータを元に、平均値に対する偏差σを求め、これを長手方向のフィルム厚みむらとした。
【0051】
(2)フィルム表面粗さ表面の中心線粗さ(SRa値)
三次元微細表面形状測定器(小坂製作所製ET-350K)を用いて測定し、得られた表面のプロファイル曲線より、JIS・B0601(1994)に準じ、算術平均粗さ(中心線粗さ)SRa値を求める。測定条件は下記のとおり。
X方向測定長さ:0.5mm
X方向送り速度:0.1mm/秒
Y方向送りピッチ:5μm
Y方向ライン数:40本
カットオフ:0.25mm
触針圧:0.02mN
高さ(Z方向)拡大倍率:5万倍。
なお、X方向はサンプルの幅方向、Y方向はサンプルの長手方向で測定する。
【0052】
(3)フィルムロール硬度H
ポリエステルフィルムロールの幅方向の一方の端部ともう一方の端部を最短で繋ぐ線分を8等分する7点において、アスカーゴム硬度計C型(高分子計器株式会社)を用いて、押圧荷重を1kgとして、硬度Hを測定し、一方の端部側から当該硬度を、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7とし、当該硬度H1~H7のうちもっとも硬度が高いものをHhigh、もっとも硬度が低いものをHlow、H1~7の平均をHaveとした。硬度Hの測定はスリット直後に実施した。
【0053】
(4)フィルムロール円周長L
ポリエステルフィルムロールの幅方向の一方の端部ともう一方の端部を最短で繋ぐ線分を8等分する7点において、0.1mmの精度の帯状スケール(JIS1級)を使用し測定ロールの円周長を測定した。一方の端部側から当該硬度を、L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7とし、当該円周長L1~L7のうちもっとも円周長が長いものをLLigL、もっとも円周長が短いものをLlow、L1~7の平均をLaveとした。
【0054】
(実施例1)
(1)ポリエステルペレットの作成
(ポリエステルAの作成)
テレフタル酸86.5質量部とエチレングリコール37.1質量部を255℃で、水を留出しながらエステル化反応を行う。エステル化反応終了後、トリメチルリン酸0.02質量部、酢酸マグネシウム0.06質量部、酢酸リチウム0.01質量部、三酸化アンチモン0.0085質量部を添加し、引き続いて、減圧下、290℃まで加熱、昇温して重縮合反応を行い、固有粘度0.63dl/gのポリエステルペレットAを得た。このチップの溶融比抵抗を測定した結果、7.0×107Ω・cmであった。
【0055】
(ポリエステルBの作成)
上記と同様にポリエステルを製造するにあたり、エステル交換後、体積平均粒径0.2μm、体積形状係数f=0.51、モース硬度7の球状シリカを添加し、重縮合反応を行い、粒子をポリエステルに対し1質量%含有するシリカ含有マスターペレットを得た(ポリエステルB)。
【0056】
なお、ポリエステルBで用いる球状シリカは、エタノールとエチルシリケートとの混合溶液を攪拌しながら、この混合溶液に、エタノール、純水、および塩基性触媒としてアンモニア水からなる混合溶液を添加し、得られた反応液を攪拌して、エチルシリケートの加水分解反応およびこの加水分解生成物の重縮合反応を行なった後に、反応後の攪拌を行い得られた単分散シリカ粒子である。
【0057】
(ポリエステルC、Dの作成)
さらに別に、シード法によるジビニルベンゼン80質量%、エチルビニルベンゼン15質量%、スチレン5質量%からなるモノマーを吸着させる方法によって得た体積平均粒径0.3μm、体積形状係数f=0.51、モース硬度3のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子(架橋度80%)の水スラリーを、上記の実質的に粒子を含有しないホモポリエステルペレットに、ベント式二軸混練機を用いて含有させ、体積平均粒径0.3μm、0.8μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子をポリエステルに対し1質量%含有するマスターペレットをそれぞれ得た(ポリエステルC、ポリエステルD)。
【0058】
(ポリエステルEの作成)
ポリエステルAを製造するにあたりエステル交換後、炭酸ガス法にて作成した(体積平均粒径体積平均粒子径1.1μm、モース硬度3)の炭酸カルシウム10質量部とエチレングリコール90質量部を湿式粉砕し、炭酸カルシウム/エチレングリコール分散スラリーを得た。この炭酸カルシウムの体積平均粒子径は1.1μmであった。他方、ジメチルテレフタレート100質量部、エチレングリコール64質量部に触媒として酢酸マンガン0.04質量部、三酸化アンチモン0.03質量部を加えエステル交換反応を行い、その後反応生成物に、リン化合物としてトリメチルホスフェート0.04質量部を加え、さらにその後、先に調整したスラリー1質量部を加えて重縮合反応を行い、ポリエステルに対し1質量%の炭酸カルシウムを含有するマスターペレット(ポリエステルE)を得た。
【0059】
一方で、下記処方のフィルムを製造した後のフィルムを回収し、ペレット化したものを回収原料Aとした。なお以下に記載する比率は、フィルム全体の質量に対する質量比(質量%)で表す。
ポリエステルA 93.4
ポリエステルD: 0.6
ポリエステルG: 6.0。
【0060】
(2)ポリエステルペレットの調合
A層、B層、C層それぞれの層の押出機に供給するポリエステルペレットは、以下の比率にて調合した。なお以下に記載する比率は、おのおのの層を構成するポリエステルペレットに対する質量比(単位:質量%)である。
【0061】
A層
ポリエステルA:87.5
ポリエステルB:12.5
B層
ポリエステルA:60.0
回収原料A :40.0
C層
ポリエステルA:65.0
ポリエステルC:30.0
ポリエステルD: 5.0。
【0062】
(3)二軸配向ポリエステルフィルムの製造
先述の、各層について調合した原料を、ブレンダー内で攪拌した後、A層およびC層の原料は、攪拌後の原料を、A層およびC層用のベント付き二軸押出機に供給し、B層の原料は160℃で8時間減圧乾燥し、B層用の一軸押出機に供給した。275℃で溶融押出し、3μm以上の異物を95%以上捕集する高精度なフィルターにて濾過した後、矩形の異種3層用合流ブロックで合流積層し、層A、層B、層Cからなる3層積層とした。その後、285℃に保った口金を介し、口金からシートを押し出す。この際フィルム厚みを製品幅方向で均一になるように調整した。未延伸フィルムの全幅に対して静電印加を行う静電印加キャスト法を用いて、表面温度25℃のキャスティングドラムに巻き付け冷却固化して未延伸積層フィルムを得た。この際、キャストはアライメント調整を行い、振れは25μmであった。
【0063】
この未延伸積層フィルムに逐次延伸(長手方向、幅方向)を実施した。まず長手方向の延伸を実施し、105℃で搬送した後に、長手方向に120℃で3.8倍延伸して一軸延伸フィルムとした。
【0064】
この一軸延伸フィルムをステンター内で横方向に115℃で4.0倍延伸し、続いて230℃で熱固定し、その際幅方向に5%弛緩し搬送工程にて冷却させた後、エッジを切断後に巻き取った後、スリッターにてスリットし、厚さ31μm、フィルム幅1400mm、長手方向の長さが15000mの二軸配向ポリエステルフィルムを巻き取ってなるポリエステルフィルムロールを得た。このとき、ステンター内のオーブンは、オーブン外からの給気・排気を調整して、一定方向に空気が流れるようにした。また、フィルムを巻き取るコアは、軸方向、円周方向共に弾性率11.5GPaのガラス繊維で強化したのプラスチック製コアを用い、フィルムを巻き取る条件は、巻取張力を10kg/m、巻取接圧15kg/m、巻取速度250m/分とした。
この二軸配向ポリエステルフィルムの積層厚みを測定した結果、A層:6.5μm、B層:23.5μm、C層:1.0μmであった。得られた製品よりデータを採取し、その特性評価結果を表1に示した。
【0065】
(4)離型層の塗布
次にこの二軸配向ポリエステルフィルムロールに、架橋プライマー層(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製商品名BY24-846)を固形分1質量%に調整した塗布液を塗布/乾燥し、乾燥後の塗布厚みが0.1μmとなるようにグラビアコーターで塗布し、100℃で20秒乾燥硬化した。その後1時間以内に付加反応型シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製商品名LTC750A)100質量部、白金触媒(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製商品名SRX212)2質量部を固形分5質量%に調整した塗布液を、乾燥後の塗布厚みが0.1μmとなるようにグラビアコートで塗布し、120℃で30秒乾燥硬化した後に巻き取り、離型フィルムを得た。
【0066】
(5)グリーンシートの成型塗布
チタン酸バリウム(富士チタン工業(株)製商品名HPBT-1)100質量部、ポリビニルブチラール(積水化学(株)製商品名BL-1)10質量部、フタル酸ジブチル5質量部とトルエン-エタノール(質量比30:30)60質量部に、数平均粒径2mmのガラスビーズを加え、ジェットミルにて20時間混合・分散させた後、濾過してペースト状のセラミックスラリーを調整した。得られたセラミックスラリーを、離型フィルムの上に乾燥後の厚みが0.5μmとなるように、ダイコーターにて塗布し乾燥させ、乾燥後のスラリー厚みを、塗布の中央部で非接触方式で連続測定した。その後巻き取り、グリーンシートを得た。この際、スラリー厚みむらσ値を評価し、0.13以下を◎、0.13を超えて0.15以下を○、0.15を超えて0.25以下を△、0.25を超えるものを×とした。実施例1の実施形態におけるスラリー厚みむらは◎であった。
【0067】
(実施例2)
延伸倍率の製膜条件を表1のとおりに変更した以外は実施例1と同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0068】
(実施例3)
ギヤポンプの回転数制御を、ポリマーフィルター圧力の上昇に応じて低下させ厚みの中心値を補正した。延伸倍率や厚みの製膜条件を変えるほかは実施例1と同様に実施した。得られた結果を表1に示す。
【0069】
(実施例4~6)
フィルムの巻取条件を表1のとおりに変更した以外は実施例1と同じ条件で製膜を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0070】
(実施例7)
口金の間隙をスリット後のポリエステルフィルムロール幅方向で端部が厚めになるように調整した以外は実施例1と同じ条件で製膜を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0071】
(比較例1、2)
延伸倍率の製膜条件を表2のとおりに変更した以外は実施例1と同様に実施した。比較例1では、コアは、軸方向、円周方向共に弾性率1.3GPaの紙製コアを用いた。得られた結果を表2に示す。フィルムロール硬度、円周長が目的とする範囲から外れ、また、フィルムロールから巻き出されるフィルムに厚みむらが発生した。また、スラリー厚みむらも実施例に比べて悪化した。
【0072】
(比較例3~5)
フィルムの巻取条件を表2のとおりに変更した以外は実施例1と同様に実施した。フィルムロール硬度、円周長が目的とする範囲から外れ、また、フィルムロールから巻き出されるフィルムに厚みむらが発生した。また、スラリー厚みむらも実施例に比べて悪化した。
【0073】
(比較例6)
熱固定ゾーンでの空気の換気回数を増やして、オーブン内のオリゴマーを除去するため、熱固定ゾーン各室に吸排気を行った、他の製膜条件は実施例1と同じとした。フィルムロール硬度、円周長が目的とする範囲から外れ、また、周期は不定であるがフィルム厚みむらが悪化する状態が見られた。また、スラリー厚みむらも実施例に比べて悪化した。
【0074】
(比較例7)
口金の間隙をスリット後のポリエステルフィルムロール幅方向で中央部が厚めになるように調整した以外は実施例1と同様に実施した。得られた結果を表2に示す。フィルムロール硬度、円周長が目的とする範囲から外れ、また、フィルムロールから巻き出されるフィルムに厚みむらが発生した。また、スラリー厚みむらも実施例に比べて悪化した。
【0075】
【0076】