(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体および刃先交換式クーラント孔付きエンドミル
(51)【国際特許分類】
B23C 5/28 20060101AFI20240402BHJP
B23C 5/10 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B23C5/28
B23C5/10 D
(21)【出願番号】P 2019154686
(22)【出願日】2019-08-27
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】萩原 隆行
(72)【発明者】
【氏名】尾上 太一
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-066682(JP,A)
【文献】国際公開第2017/055156(WO,A1)
【文献】特開2005-262348(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0304381(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109352056(CN,A)
【文献】特開2018-149656(JP,A)
【文献】特開2018-149655(JP,A)
【文献】特開2016-068172(JP,A)
【文献】特開2013-111743(JP,A)
【文献】特開2008-194775(JP,A)
【文献】特表2010-537838(JP,A)
【文献】特表平11-507880(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0367429(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0141220(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110328395(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00-51/14
B23C 1/00-9/00
B23D 67/00-81/00
B23F 1/00-23/12
B23P 5/00-17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りにエンドミル回転方向に回転させられる刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体であって、
後端部に上記軸線を中心としたシャンク部を備えるとともに、このシャンク部の先端側には切刃部を備え、
上記切刃部の外周には、この切刃部の先端から後端側に向かうに従い上記軸線回りに捩れる螺旋状の切屑排出溝が形成されるとともに、この切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面には、切削インサートが着脱可能に取り付けられる複数のインサート取付座が上記軸線方向に並んで列をなすように形成されており、
上記シャンク部には上記軸線に沿って第1のクーラント孔が形成されるとともに、
上記切刃部には、上記第1のクーラント孔と連通して、周方向において上記切屑排出溝の間に螺旋状に延びる第2のクーラント孔と、この第2のクーラント孔から分岐して上記インサート取付座に向けて開口する複数の第3のクーラント孔とが形成されており、
上記第2のクーラント孔は、上記切刃部の外周面と、上記切屑排出溝の内壁面と、上記インサート取付座のエンドミル回転方向を向く取付座底面および該取付座底面から上記切屑排出溝のエンドミル回転方向に延びる取付座壁面との間に1mm以上の間隔をあけていることを特徴とする刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体。
【請求項2】
上記軸線に直交する断面において、個々の上記第2のクーラント孔の最大断面積は、上記第1のクーラント孔の最大断面積よりも小さくされるとともに、
個々の上記第3のクーラント孔の開口部の面積は、上記軸線に直交する断面における個々の上記第2のクーラント孔の最大断面積よりも小さくされていることを特徴とする請求項
1に記載の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体。
【請求項3】
上記第2のクーラント孔の最外周部が、上記第1のクーラント孔の最外周部よりも上記軸線に対する径方向の外周側に位置していることを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体。
【請求項4】
上記第2のクーラント孔は、上記第1のクーラント孔から離れるに従い上記軸線に対する径方向の外周側に向かうように該第1のクーラント孔と連通していることを特徴とする請求項1から請求項
3のうちいずれか一項に記載の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体。
【請求項5】
上記第3のクーラント孔は、上記第2のクーラント孔から離れるに従い上記軸線方向先端側に向かうように該第2のクーラント孔から分岐していることを特徴とする請求項1から請求項
4のうちいずれか一項に記載の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体。
【請求項6】
上記軸線に直交する断面において、上記第2のクーラント孔は、上記切刃部の直径に対して0.15倍の直径の上記軸線を中心とする円よりも上記軸線に対する径方向の外周側に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項
5のうちいずれか一項に記載の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体。
【請求項7】
上記第3のクーラント孔は、該第3のクーラント孔の開口部に向かうに従い、上記インサート取付座のエンドミル回転方向を向く取付座底面に向けて、または該取付座底面の上記軸線に対する径方向外周側への延長面に向けて延びていることを特徴とする請求項1から請求項
6のうちいずれか一項に記載の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体。
【請求項8】
上記第2のクーラント孔の捩れ角は、上記切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面に形成された複数の上記インサート取付座が並ぶ列の捩れ角よりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項
7のうちいずれか一項に記載の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体。
【請求項9】
請求項1から請求項
8のうちいずれか一項に記載の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体の上記インサート取付座に、切刃を備えた切削インサートが着脱可能に取り付けられていることを特徴とする刃先交換式クーラント孔付きエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線回りにエンドミル回転方向に回転させられる刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体、およびこのエンドミル本体の切刃部に形成されたインサート取付座に切刃を備えた切削インサートが着脱可能に取り付けられた刃先交換式クーラント孔付きエンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタンやニッケル基耐熱合金のような難削材を切削加工するには、クーラント(切削油剤)を供給する湿式切削を行う必要がある。このような湿式切削が可能な刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体および刃先交換式クーラント孔付きエンドミルとして、例えば特許文献1には、中心軸(軸線)に沿って延び、この中心軸の周りで回転される棒形状の本体部(エンドミル本体)と、この本体部の先端面および外周面に開口して切削インサートが装着されるインサートポケット(インサート取付座)と、本体部の内部に設けられ、本体部の後端面からインサートポケットに向かって冷却液が流れる流路(クーラント孔)とを備えたものが記載されている。
【0003】
ここで、この流路は、中心軸に沿って後端面から先端面に向かって設けられた直線形状の第1流路と、第1流路に繋がっており、第1流路から外周面に向かって設けられた直線形状の第2流路と、第2流路に繋がっており、第2流路からインサートポケットにかけて設けられた直線形状の第3流路とを有している。
【0004】
そして、この特許文献1に記載されたエンドミル本体および刃先交換式クーラント孔付きエンドミルでは、上記流路を先端面の側から透視した場合において、第3流路は、第2流路からさらに中心軸の回転方向の後方側に向かって延びており、第2流路は、一方の端部が第3流路に繋がっているとともに、他方の端部が外周面に開口しており、外周面に開口する他方の端部を塞ぐシール部材をさらに備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この特許文献1に記載された刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体および刃先交換式クーラント孔付きエンドミルでは、インサート取付座が形成される切屑排出溝が軸線に平行な直線状に延びているとともに、1つの切屑排出溝に形成されるインサート取付座も1つであるが、より大きな切り込み量を確保する場合には、1つの切屑排出溝に複数のインサート取付座を上記軸線方向に並んで列をなすように形成しなければならない。
【0007】
しかも、これらのインサート取付座に取り付けられる複数の切削インサートの切刃が徐々に被削材に食い付くように、切屑排出溝を軸線回りに捩れる螺旋状に形成して、複数のインサート取付座が並んだ列も、軸線回りに捩れる螺旋状に配置されるようにしなければならない。
【0008】
しかしながら、そのような刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体および刃先交換式クーラント孔付きエンドミルにおいて、特許文献1に記載されたように第2流路がエンドミル本体の外周面に向かって設けられた直線形状のものであると、1つの第2流路では切屑排出溝の捩れに合わせることができなくなるため、複数の第2流路を切屑排出溝の捩れに沿って曲折するように繋いで形成しなければならない。このため、第2流路が曲折する部分で圧力損失が生じるおそれがある。
【0009】
しかも、これら複数の第2流路がエンドミル本体の外周面に開口する部分が多くなるので、切屑排出溝が形成されるエンドミル本体先端部の切刃部の剛性や強度が低下するおそれがある。そして、このように切刃部の剛性や強度が低下すると、特に上述のように切り込み量を大きくした切削加工では、切刃部に振動が生じて加工精度が損なわれたり、切刃部に損傷が生じたりする結果となる。また、エンドミル本体の外周面に開口する第2流路の開口部は埋め栓等のシール部材で塞がなければならないが、劣化等により埋め栓が外れてクーラントが噴き出すおそれもある。
【0010】
本発明は、このような背景の下になされたもので、切屑排出溝が螺旋状に形成されて、1つの切屑排出溝に複数のインサート取付座が軸線方向に並んで列をなすように形成されていても、クーラント圧や切刃部の剛性、強度が低下するのを避けることができるとともに埋め栓の劣化等によるクーラントの噴き出しがなく、上述のように切り込み量を大きくした切削加工においても切刃部の振動や損傷を防ぐことが可能な刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体および刃先交換式クーラント孔付きエンドミルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体は、軸線回りにエンドミル回転方向に回転させられる刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体であって、後端部に上記軸線を中心としたシャンク部を備えるとともに、このシャンク部の先端側には切刃部を備え、上記切刃部の外周には、この切刃部の先端から後端側に向かうに従い上記軸線回りに捩れる螺旋状の切屑排出溝が形成されるとともに、この切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面には、切削インサートが着脱可能に取り付けられる複数のインサート取付座が上記軸線方向に並んで列をなすように形成されており、上記シャンク部には上記軸線に沿って第1のクーラント孔が形成されるとともに、上記切刃部には、上記第1のクーラント孔と連通して、周方向において上記切屑排出溝の間に螺旋状に延びる第2のクーラント孔と、この第2のクーラント孔から分岐して上記インサート取付座に向けて開口する複数の第3のクーラント孔とが形成されており、上記第2のクーラント孔は、上記切刃部の外周面と、上記切屑排出溝の内壁面と、上記インサート取付座のエンドミル回転方向を向く取付座底面および該取付座底面から上記切屑排出溝のエンドミル回転方向に延びる取付座壁面との間に1mm以上の間隔をあけていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルは、このような刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体の上記インサート取付座に、切刃を備えた切削インサートが着脱可能に取り付けられていることを特徴とする。
【0013】
このような刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体および刃先交換式クーラント孔付きエンドミルにおいては、切屑排出溝がエンドミル本体の軸線回りに捩れているのに合わせて、シャンク部の第1のクーラント孔に連通する第2のクーラント孔が周方向において切屑排出溝の間に螺旋状に延びているので、この第2のクーラント孔が切刃部の外周面に開口することはない。
【0014】
このため、クーラントの圧力損失を抑えることができるともに、切刃部の剛性や強度を確保することができ、切り込み量を大きくした切削加工においても、切刃部に振動や損傷が生じるのを防ぐことができる。また、第2のクーラント孔を切刃部の外周面に開口させることなく形成することができるので、埋め栓のようなシール部材を必要とすることもない。
【0015】
さらに、この第2のクーラント孔からは、複数の第3のクーラント孔が複数のインサート取付座に向けて開口するように形成されているので、これら複数のインサート取付座に取り付けられる切削インサートに向けてクーラントを満遍なく供給することができる。また、シャンク部の第1のクーラント孔は、エンドミル本体の軸線に沿って形成されているので、シャンク部の剛性が損なわれることもない。
さらに、上記第2のクーラント孔は、上記切刃部の外周面と、上記切屑排出溝の内壁面と、上記インサート取付座のエンドミル回転方向を向く取付座底面および該取付座底面から上記切屑排出溝のエンドミル回転方向に延びる取付座壁面との間に1mm以上の間隔をあけている。この間隔が1mmを下回ると、第2のクーラント孔と、切刃部の外周面、切屑排出溝の内壁面、インサート取付座の取付座底面や取付座壁面との肉厚が薄くなって亀裂が生じるおそれがある。
【0016】
ここで、上記軸線に直交する断面において、個々の上記第2のクーラント孔の最大断面積を、上記第1のクーラント孔の最大断面積よりも小さくするとともに、個々の上記第3のクーラント孔の開口部の面積を、上記軸線に直交する断面における個々の上記第2のクーラント孔の最大断面積よりも小さくすることにより、クーラント供給の上流側である第1のクーラント孔へのクーラント流量を多くしてさらに圧力損失を抑えることができるとともに、インサート取付座側への開口部からのクーラント吐出圧を確保することができる。
【0017】
また、上記第2のクーラント孔の最外周部を、上記第1のクーラント孔の最外周部よりも上記軸線に対する径方向の外周側に位置させることにより、シャンク部においては、剛性をさらに確保して撓みや振動を一層確実に防止することができるとともに、切刃部においては、クーラントの供給圧に加えてエンドミル本体の回転による遠心力によっても第3のクーラント孔への供給圧を高めることが可能となる。
【0018】
さらに、上記第2のクーラント孔を、上記第1のクーラント孔から離れるに従い上記軸線に対する径方向の外周側に向かうように該第1のクーラント孔と連通させたり、上記第3のクーラント孔を、上記第2のクーラント孔から離れるに従い上記軸線方向先端側に向かうように該第2のクーラント孔から分岐させたりすることにより、第2のクーラント孔が第1のクーラント孔と連通する箇所での折れ曲がりや、第3のクーラント孔が第2のクーラント孔から分岐する箇所での折れ曲がりを小さくすることができ、このような折れ曲がり箇所での圧力損失を抑えることができる。
【0019】
また、切刃部の剛性を一層確実に確保するには、上記軸線に直交する断面において、上記第2のクーラント孔は、上記切刃部の直径に対して0.15倍の直径の上記軸線を中心とする円よりも上記軸線に対する径方向の外周側に形成されていることが望ましい。第2のクーラント孔が切刃部の直径の0.15倍の直径の円よりも軸線に対する径方向の内周側にあると、切刃部の軸線周辺の肉厚を確保することができずに剛性が低下するおそれがある。
【0021】
一方、上記第3のクーラント孔を、該第3のクーラント孔の開口部に向かうに従い、上記インサート取付座のエンドミル回転方向を向く取付座底面、または該取付座底面の上記軸線に対する径方向外周側への延長面に向けて延びるように形成することにより、この取付座底面に着座面を密着させて取り付けられる切削インサートの着座面とは反対側のすくい面にクーラントを効果的に供給することができる。
【0022】
また、上記第2のクーラント孔の捩れ角を、上記切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面に形成された複数の上記インサート取付座が並ぶ列の捩れ角よりも小さくすることにより、螺旋状をなす第2のクーラント孔の曲率を小さくすることができるとともに、第2のクーラント孔を短くすることができ、クーラントの流れを滑らかにして圧力損失をさらに抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、クーラントの圧力損失を抑えて切削インサートに満遍なくクーラントを供給することができるともに、切刃部やシャンク部の剛性や強度を確保することが可能となり、切り込み量を大きくした切削加工においても、切刃部に振動や撓み、損傷が生じるのを防いで、加工精度や加工面粗さの向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体の一実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す実施形態を軸線O方向先端側から見た正面図である。
【
図7】
図3に示した平面図において第1~第3のクーラント孔を透視した図である。
【
図8】
図4に示した側面図において第1~第3のクーラント孔を透視した図である。
【
図9】
図1に示した実施形態における第1~第3のクーラント孔の第1の斜視図である。
【
図10】
図1に示した実施形態における第1~第3のクーラント孔の第2の斜視図である。
【
図11】
図1に示した実施形態における第1~第3のクーラント孔の
図2における矢線W方向視の平面図である。
【
図12】
図1に示した実施形態における第1~第3のクーラント孔の
図2における矢線X方向視の側面図である。
【
図13】本発明の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルの一実施形態を示す斜視図である。
【
図14】
図13に示す実施形態を軸線O方向先端側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1~
図12は、本発明の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体を示すものであり、
図13~
図20は、この実施形態のエンドミル本体に切削インサートを取り付けた本発明の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルの一実施形態を示すものである。
【0027】
【0028】
切刃部3の外周には、エンドミル本体1の先端面に開口して後端側に向かうに従い、本実施形態では図中に符号Tで示すエンドミル回転方向とは反対側に軸線Oを中心に捩れる螺旋状の切屑排出溝4が形成されている。本実施形態では、複数条の切屑排出溝4がエンドミル本体1の周方向に間隔をあけて形成されており、特に2条の切屑排出溝4が周方向に等間隔に形成されていて、軸線Oに関して対称に形成されている。
【0029】
また、これらの切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面には、複数(本実施形態では4つ)のインサート取付座5が軸線O方向に並んで列をなすようにして階段状に形成されている。これらのインサート取付座5も、2条の切屑排出溝4において軸線Oに関して対称に形成されており、エンドミル回転方向Tを向く平行四辺形状の取付座底面5aと、この取付座底面5aから切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tに向けて延びる軸線O方向後端側を向く取付座壁面5bおよび軸線Oに対する径方向外周側を向く取付座壁面5cとを備えている。また、取付座底面5aの中央部にはネジ孔5dが垂直に形成されている。
【0030】
このようなインサート取付座5に取り付けられる切削インサート6は、エンドミル本体1よりも硬度の高い超硬合金等により本実施形態では平行四辺形板状に形成されている。この切削インサート6は、上記平行四辺形の長手方向を軸線O方向に向けて、一方の平行四辺形面を着座面として取付座底面5aに密着させるとともに、他方の平行四辺形面をすくい面としてエンドミル回転方向Tに向け、これらの平行四辺形面の中央部に開口した切削インサート6を貫通する取付孔に挿通されたクランプネジ7が上記ネジ孔5dにねじ込まれることによってインサート取付座5に着脱可能に取り付けられる。
【0031】
このようにインサート取付座5に取り付けられた状態で、切削インサート6の上記すくい面と着座面の周囲に配置される4つの側面のうち、軸線O方向先端側を向く側面はインサート取付座5の軸線O方向後端側を向く取付座壁面5bに当接させられるとともに、軸線Oに対する径方向内周側を向く側面はインサート取付座5の軸線Oに対する径方向外周側を向く取付座壁面5cに当接させられる。
【0032】
また、これら切削インサート6の4つの側面と上記すくい面との交差稜線部には切刃6aが形成されている。上記複数のインサート取付座5に取り付けられる切削インサート6のうち、エンドミル本体1の最先端のインサート取付座5に取り付けられる切削インサート6は、軸線O方向先端側を向く側面とすくい面との交差稜線部に形成された切刃6aを底刃として軸線Oに垂直な平面上に略位置させられる。
【0033】
さらに、この最先端の切削インサート6は、軸線Oに対する径方向外周側を向く側面とすくい面との交差稜線部に形成された切刃6aを外周刃として、軸線Oを中心とする円筒面状に略位置させられる。また、この最先端の切削インサート6よりも軸線O方向後端側に配設される切削インサート6は、軸線Oに対する径方向外周側を向く側面とすくい面との交差稜線部に形成された切刃6aを外周刃として、最先端の切削インサート6の外周刃とされる切刃6aが位置する上記円筒面上に略位置させて軸線O回りの回転軌跡が連続するようにして取り付けられる。
【0034】
このように本実施形態の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体1に切削インサート6が取り付けられた本実施形態の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルは、シャンク部2が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ、通常は軸線Oに垂直な方向に送り出されて、切削インサート6の切刃6aにより例えばチタンやニッケル基耐熱合金のような難削材を切削加工する。このとき、本実施形態の刃先交換式クーラント孔付きエンドミルによれば、軸線O方向に複数の切削インサート6が取り付けられているので、切り込み量の大きな切削加工が可能となる。
【0035】
そして、上記構成のエンドミル本体1には、クーラント孔8が形成されており、このクーラント孔8は、シャンク部2に形成される軸線Oに沿った第1のクーラント孔8aと、この第1のクーラント孔8aと連通して切刃部3に形成される周方向において切屑排出溝4の間に螺旋状に延びる第2のクーラント孔8bと、この第2のクーラント孔8bから分岐してインサート取付座5に向けて開口する複数のインサート取付座5と同数(4つ)の第3のクーラント孔8cとを備えている。
【0036】
第1のクーラント孔8aは、本実施形態では
図7および
図8に示すように、シャンク部2の後端面からシャンク部2と切刃部3との境界にまで延びており、軸線Oを中心とする一定内径で軸線Oに垂直な断面が円形に形成されている。また、螺旋状に延びる第2のクーラント孔8bも、先端部を除いてこの第2のクーラント孔8bが延びる螺旋の中心線に垂直な断面が一定内径の円形に形成されている。
【0037】
なお、この第2のクーラント孔8bは、先端部では
図9~
図12に示すように内径が先端側に向かうに従い小さくなって断面積が小さくなるようにして最先端の第3のクーラント孔8cに連通しており、エンドミル本体1の先端面や外周面には開口していない。さらに、第3のクーラント孔8cも、その中心線に垂直な断面が一定内径の円形に形成されている。
【0038】
これら第3のクーラント孔8cは、本実施形態では各切屑排出溝4に形成された4つのインサート取付座5の取付座底面5aに向けて、またはこの取付座底面5aの軸線Oに対する径方向外周側への延長面に向けて、開口部の延長線が軸線Oに垂直な平面に沿って上記ネジ孔5dの直上を通るように開口している。
【0039】
さらに、軸線Oに直交する断面において、個々の第2のクーラント孔8bの最大断面積は、第1のクーラント孔8aの最大断面積よりも小さくされるとともに、個々の第3のクーラント孔8cの開口部の面積は、軸線Oに直交する断面における第2のクーラント孔8bの最大断面積よりも小さくされている。なお、4つの第3のクーラント孔8cの開口部の面積は互いに等しくされている。
【0040】
さらにまた、
図5~
図12に示すように、第2のクーラント孔8bの最外周部は、第1のクーラント孔8aの最外周部よりも軸線Oに対する径方向の外周側に位置している。すなわち、第2のクーラント孔8bに外接する軸線Oを中心とした円筒面の直径は、第1のクーラント孔8aに外接する軸線Oを中心とした円筒面の直径(第1のクーラント孔8aの直径)よりも大きい。
【0041】
また、第2のクーラント孔8bは、
図7~
図12に示すように第1のクーラント孔8aから離れるに従い軸線Oに対する径方向外周側に向かうように第1のクーラント孔8aと連通している。さらに、第3のクーラント孔8cは、第2のクーラント孔8bから離れるに従い軸線O方向先端側に向かうように第2のクーラント孔8bから分岐した後に、上述のように開口部の中心線が軸線Oに垂直な平面に沿って延びるように曲折している。従って、第2のクーラント孔8bの上記螺旋の中心線と、第1のクーラント孔8aの中心線(軸線O)および第3のクーラント孔8cの中心線とは、軸線O方向先端側に向けて鈍角に交差することになる。
【0042】
さらに、
図18~
図20に示すように軸線Oに直交する断面において、第2のクーラント孔8bは、切刃部3の直径に対して0.15倍の直径の軸線Oを中心とする円Cよりも軸線Oに対する径方向の外周側に形成されている。また、第2のクーラント孔8bは、切刃部3の外周面と、切屑排出溝4の内壁面と、インサート取付座5のエンドミル回転方向Tを向く上記取付座底面5aおよび取付座壁面5b、5cとの間に1mm以上の間隔をあけている。
【0043】
さらにまた、第2のクーラント孔8bの捩れ角は、切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面に形成された複数のインサート取付座5が並ぶ列の捩れ角よりも小さくされている。この複数のインサート取付座5が並ぶ列の捩れ角とは、例えば各インサート取付座5の取付座底面5aの軸線O方向後端側の辺稜部と切刃部3の外周面との交点を繋いだ軸線O回りに捩れる弦巻線の捩れ角とすればよい。このようなエンドミル本体1は、例えば3Dプリンターを用いた積層加工によってエンドミル本体1の原型を形成した後に、ネジ孔5dを含めたインサート取付座5等を機械加工によって形成することによって製造することができる。
【0044】
このように構成された刃先交換式クーラント孔付きエンドミルのエンドミル本体1、およびこのエンドミル本体1に切削インサート6を取り付けた刃先交換式クーラント孔付きエンドミルでは、切屑排出溝4がエンドミル本体1の軸線O回りに捩れているのに合わせて、シャンク部2の第1のクーラント孔8aに連通して切刃部3に延びる第2のクーラント孔8bが周方向において切屑排出溝4の間に螺旋状に延びているので、直線状のクーラント孔を曲折させて繋ぐ場合のように切刃部3の外周面に開口させることなく、切刃部3の先端部に延長させることができる。
【0045】
このため、第2のクーラント孔8bが切刃部3の外周面に開口していて開口部がシール部材によって塞がれている場合に比べ、クーラントの圧力損失を抑えることができるとともに、切刃部3の剛性や強度を確保することができるので、複数のインサート取付座5が軸線O方向に並んで切り込み量を大きくした切削加工においても、切刃部3に振動や撓み、損傷が生じるのを防止することができる。また、埋め栓のようなシール部材を必要とすることもないので、劣化等によって埋め栓が外れてクーラントが噴き出すおそれもない。
【0046】
さらに、この第2のクーラント孔8bからは、複数の第3のクーラント孔8cが複数のインサート取付座5に向けて開口するように形成されているので、これら複数のインサート取付座5にそれぞれ取り付けられる切削インサート6に向けてクーラントを満遍なく供給することが可能となる。
【0047】
その一方で、シャンク部2の第1のクーラント孔8aは、エンドミル本体1の軸線Oに沿って形成されているので、シャンク部2の剛性も確保することができる。このため、上記構成のエンドミル本体1および刃先交換式クーラント孔付きエンドミルによれば、加工精度や加工面粗さの向上を図ることが可能となる。
【0048】
また、本実施形態では、軸線Oに直交する断面において、個々の第2のクーラント孔8bの最大断面積が、第1のクーラント孔8aの最大断面積よりも小さくされるとともに、個々の第3のクーラント孔8cの開口部の面積は、軸線Oに直交する断面における個々の第2のクーラント孔8bの最大断面積よりも小さくされている。例えば、切刃部3の外径が25mm、切刃部3における心厚が11mm、第2のクーラント孔8b間の間隔が5.5mmの場合、第1のクーラント孔8aの最大断面積は28.3mm2、個々の第2のクーラント孔8bの最大断面積は13.0mm2、個々の第3のクーラント孔8cの開口部の面積は3.3mm2とされる。
【0049】
ここで、同じ量のクーラントを供給した場合、クーラントの圧力損失はクーラント孔の内径の4乗に反比例することが知られているので、このように第1~第3のクーラント孔8a~8cの順で断面積や開口部の面積を小さくすることにより、クーラント供給の下流側で圧力損失を抑えてインサート取付座5側への第3のクーラント孔8cの開口部からのクーラント吐出圧を確保し、切屑の確実な排出や切削インサート6の効率的な冷却を図ることができる。また、クーラント供給の上流側である第1のクーラント孔8aには、大きなクーラント供給量を確保することができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、第2のクーラント孔8bの最外周部が、第1のクーラント孔8aの最外周部よりも軸線Oに対する径方向の外周側に位置させられている。このため、シャンク部2においては第1のクーラント孔8aの直径が大きくなりすぎるのを防いで剛性をさらに確保することにより、エンドミル本体1の撓みや振動を一層確実に防止することができる。
【0051】
その一方で、切刃部3においては、第1のクーラント孔8aからのクーラントの供給圧に加えてエンドミル本体1の回転による遠心力によっても第2のクーラント孔8b内のクーラントを加圧することができ、第3のクーラント孔8cへの供給圧を高めることができる。
【0052】
さらにまた、本実施形態では、第2のクーラント孔8bが第1のクーラント孔8aから離れるに従い軸線Oに対する径方向外周側に向かうように第1のクーラント孔8aと連通させられるとともに、第3のクーラント孔8cは第2のクーラント孔8bから離れるに従い軸線O方向先端側に向かうように第2のクーラント孔8bから分岐しており、上述のように第2のクーラント孔8bの螺旋の中心線と、第1のクーラント孔8aの中心線(軸線O)および第3のクーラント孔8cの中心線とが、軸線O方向先端側に向けて鈍角に交差するように形成されている。
【0053】
このため、第2のクーラント孔8bが第1のクーラント孔8aと連通する箇所での折れ曲がりや、第3のクーラント孔8cが第2のクーラント孔8bから分岐する箇所での折れ曲がりを小さくすることができる。従って、本実施形態によれば、このような折れ曲がり箇所におけるクーラントの流れを滑らかにすることができるので、一層効果的に圧力損失を抑えることが可能となる。
【0054】
また、本実施形態では、軸線Oに直交する断面において、第2のクーラント孔8bは切刃部3の直径に対して0.15倍の直径の軸線Oを中心とする円Cよりも軸線Oに対する径方向外周側に形成されており、これによっても切刃部3の剛性を一層確実に確保することができる。ここで、第2のクーラント孔8bが上記円Cよりも軸線Oに対する径方向内周側に形成されていると、切刃部3の軸線O周辺の肉厚を確保することができなくなって剛性が低下するおそれがある。
【0055】
さらに、本実施形態では、第2のクーラント孔8bが、切刃部3の外周面と、切屑排出溝4の内壁面と、インサート取付座5の取付座底面5aおよび取付座壁面5b、5cとの間に1mm以上の間隔をあけているので、これら第2のクーラント孔8bと、切刃部3の外周面、切屑排出溝4の内壁面、インサート取付座5の取付座底面5aおよび取付座壁面5b、5cとの間に十分な肉厚を確保することができる。すなわち、この間隔が1mmを下回ると、この肉厚が薄くなることによってエンドミル本体1に亀裂が生じるおそれがある。
【0056】
一方、本実施形態では、第3のクーラント孔8cが、第3のクーラント孔8cの開口部に向かうに従い、インサート取付座5の取付座底面5aに向けて、またはこの取付座底面5aの軸線Oに対する径方向外周側への延長面に向けて延びるように形成されている。従って、この取付座底面5aに着座面を密着させて取り付けられる切削インサート6の着座面とは反対側のすくい面やこのすくい面と側面との交差稜線部に形成される切刃6aに効果的にクーラントを供給することが可能となる。
【0057】
また、本実施形態では、第2のクーラント孔8bの捩れ角が、切屑排出溝4の複数のインサート取付座5が並ぶ列の捩れ角よりも小さくされているので、螺旋状をなす第2のクーラント孔8bの曲率を小さくすることができるとともに、第2のクーラント孔8bの全長を短くすることができる。このため、第2のクーラント孔8b内のクーラントの流れを滑らかにすることができ、圧力損失をさらに抑制することが可能となる。
【0058】
なお、本実施形態では、第2のクーラント孔8bが、切刃部3の先端部において軸線O方向先端側に向かうに従い断面積が減少するように内径が小さくされているが、第2のクーラント孔8bの全体が軸線O方向先端側に向かうに従い断面積が減少するように形成されていてもよい。これにより、第2のクーラント孔8bの全体でクーラントの供給圧を確保することができ、十分な吐出圧で第3のクーラント孔8cからクーラントを吐出させることができる。また、第2のクーラント孔8bは、全長に亙って一定の内径であってもよい。
【0059】
さらに、第3のクーラント孔8cは、本実施形態では上述のように、第2のクーラント孔8bから離れるに従い軸線O方向先端側に向かうように第2のクーラント孔8bから分岐した後、開口部の中心線が軸線Oに垂直な平面に沿って延びるように曲折しているが、第2のクーラント孔8bから軸線Oに垂直な平面に沿って直線状に延びるように形成されていてもよい。
【0060】
また、第1~第3のクーラント孔8a~8cは、本実施形態ではそれぞれの中心線に垂直な断面が円形に形成されているが、楕円形等の他の形状とされていてもよい。特に、第3のクーラント孔8cを、インサート取付座5に取り付けられた切削インサート6の外周刃とされる切刃6aが延びる方向に沿った長軸を有する楕円形や長円形に形成することにより、この外周刃とされる切刃6aに一層効率的にクーラントを供給することが可能となる。
【0061】
さらに、本実施形態では、切刃部3に2条の切屑排出溝4が形成されているが、切屑排出溝4は3条以上であってもよく、また1条であってもよい。さらにまた、この切屑排出溝4は、軸線O方向後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tに向かうように捩れる螺旋状であってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 エンドミル本体
2 シャンク部
3 切刃部
4 切屑排出溝
5 インサート取付座
6 切削インサート
6a 切刃
7 クランプネジ
8 クーラント孔
8a 第1のクーラント孔
8b 第2のクーラント孔
8c 第3のクーラント孔
O エンドミル本体1の軸線
T エンドミル回転方向
C 切刃部3の直径に対して0.15倍の直径の軸線Oを中心とする円