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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】蓄電池用集電体および電極板
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/74 20060101AFI20240402BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H01M4/74 D
H01M4/14 Q
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019234082
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021103630
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺井 篤史
(72)【発明者】
【氏名】今村 智宏
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-139215(JP,A)
【文献】特開2015-053284(JP,A)
【文献】特開2014-235844(JP,A)
【文献】特開2015-213034(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056417(WO,A1)
【文献】特開昭63-051055(JP,A)
【文献】特開昭51-067929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64-4/84
H01M 4/14-4/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体と、前記枠体に設けられた耳と、前記枠体の内側の内骨と、を有し、
前記枠体は、前記耳と連続する第1枠骨と、前記第1枠骨と対向する第2枠骨と、前記第1枠骨と前記第2枠骨とを連結する一対の側部枠骨と、を具備し、
前記内骨は、前記第1枠骨から前記第2枠骨に向かう第1方向および一方の前記側部枠骨から他方の前記側部枠骨に向かう第2方向のいずれとも交差する斜め骨を具備し、
前記斜め骨は、前記第1方向と15°以上の角度で交差し、かつ前記第2方向と15°以上の角度で交差し、
前記斜め骨の前記第2方向に垂直な断面において、金属の繊維状組織の縞模様が見られ、前記断面の外周領域は、前記繊維状組織が前記断面の輪郭に沿って延びる第1部分と、前記第1部分以外の第2部分と、で構成され、
前記断面の輪郭の全長に占める、前記第2部分に対応する部分の長さの百分率をr1%とし、
前記側部枠骨の前記第2方向への投影面積Sに対する、前記斜め骨の前記第2方向への投影面積sの積算値Σsの比率:Σs/Sをr2とするとき、
r1とr2との積:R1が、110%以下である、蓄電池用集電体。
【請求項2】
前記割合r1は、40%以下である、請求項1に記載の蓄電池用集電体。
【請求項3】
前記割合R1が、40%以下である、請求項1または2に記載の蓄電池用集電体。
【請求項4】
前記側部枠骨の厚さに対する前記内骨の厚さの割合R2が、78~95%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄電池用集電体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用集電体と、前記鉛蓄電池用集電体に保持された電極材料と、を備え、
前記電極材料の最大厚さTと前記内骨の厚さtとが、T-t≦1mmである、電極板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池用集電体および電極板に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、正極板と負極板とが交互にセパレータを介して積層された極板群を具備する。電極板は、集電体と、集電体に保持された電極材料とで構成されている。
【0003】
特許文献1は、矩形状をなす枠骨と、前記枠骨の四辺のうち第1辺部から枠外に突出した耳部と、前記第1辺部と前記第1辺部に対向する第2辺部とを接続するメイン骨と、少なくとも前記メイン骨から分岐し、前記メイン骨を軸とした両側に向かい、且つ、前記第2辺部側に向かって斜めに延びる複数の第1サブ骨と、を備え、前記複数の第1サブ骨のうち少なくとも一部が、屈曲している蓄電池用格子を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-235844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の蓄電池用格子を用いる場合、格子の機械的強度を向上させるとともに、格子の電気抵抗を小さくして、蓄電池用格子における電位分布を均一化することが可能である。しかし、蓄電池用格子の腐食が進行すると、蓄電池用格子の伸びが顕著になる傾向がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、枠体と、前記枠体に設けられた耳と、前記枠体の内側の内骨と、を有し、前記枠体は、前記耳と連続する第1枠骨と、前記第1枠骨と対向する第2枠骨と、前記第1枠骨と前記第2枠骨とを連結する一対の側部枠骨と、を具備し、前記内骨は、前記第1枠骨から前記第2枠骨に向かう第1方向および一方の前記側部枠骨から他方の前記側部枠骨に向かう第2方向のいずれとも交差する斜め骨を具備し、前記斜め骨の前記第2方向に垂直な断面において、金属の繊維状組織の縞模様が見られ、前記断面の外周領域は、前記繊維状組織が前記断面の輪郭に沿って延びる第1部分と、前記第1部分以外の第2部分と、で構成され、前記断面の輪郭の全長に占める、前記第2部分に対応する部分の長さの百分率をr1%とし、前記側部枠骨の前記第2方向への投影面積Sに対する、前記斜め骨の前記第2方向への投影面積sの積算値Σsの比率:Σs/Sをr2とするとき、r1とr2との積:R1が、110%以下である、蓄電池用集電体に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、蓄電池用集電体の腐食による伸びが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池用集電体の外観を示す平面図である。
図2】斜め骨の第2方向に垂直な断面Cの写真である。
図3】断面Cの概念図である。
図4】斜め骨の腐食の進行状態を示す断面Cの概念図である。
図5】横骨の延伸方向に垂直な断面G1の概念図である。
図6】縦骨の延伸方向に垂直な断面G2の概念図である。
図7】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の外観を示す斜視図である。
図8】集電体の幅伸びおよび高さ伸びとR1との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様に係る鉛蓄電池用集電体は、枠体と、枠体に設けられた耳と、枠体の内側の内骨とを有する。枠体は、耳と連続する第1枠骨と、第1枠骨と対向する第2枠骨と、第1枠骨と第2枠骨とを連結する一対の側部枠骨とを具備する。内骨は、第1枠骨から第2枠骨に向かう第1方向および一方の側部枠骨から他方の側部枠骨に向かう第2方向のいずれとも交差する斜め骨を具備する。なお、集電体は、格子体とも称する。
【0010】
枠体は、通常、概ね四角形であり、矩形であってもよい。四角形は、第1枠骨と一対の側部枠骨とがそれぞれ成す角度、および第2枠骨と一対の側部枠骨とがそれぞれ成す角度(合計4つの角度)のうち、少なくとも1つが90°ではない四角形(例えば台形)であってもよい。四角形の四隅のうち、少なくとも1つは、面取りされていてもよい。面取りは、C面取りでもR面取りでもよい。通常は、隅部を丸めるR面取りが好ましい。
【0011】
枠体が矩形の場合、第1方向は、側部枠骨に平行な方向であり、第2方向は、第1枠骨および第2枠骨に平行な方向である。枠体が矩形以外の四角形であり、液式の鉛蓄電池の場合、通常の鉛蓄電池の使用状態において、第1方向は、鉛直方向に対応し、第2方向は、水平方向に対応する。枠体が矩形以外の四角形であり、制御弁式の鉛蓄電池の場合、通常の鉛蓄電池の使用状態において、第1方向は、鉛直方向(または水平方向)に対応し、第2方向は、水平方向(または鉛直方向)に対応する。
【0012】
斜め骨は、第1方向および第2方向のいずれとも交差する。内骨が斜め骨を有することで、集電体の電気抵抗を低減でき、集電体における電位分布を均一化することができる。ただし、第1方向と15°未満の方向は第1方向と見なす。また、第2方向と15°未満の方向は、第2方向と見なす。すなわち、斜め骨とは、第1方向および第2方向のいずれとも15°以上の角度で交差する内骨をいう。なお、斜め骨と第1方向および第2方向との角度とは、斜め骨の延伸方向と第1方向および第2方向との角度である。斜め骨の延伸方向とは、斜め骨の両端を結ぶ線分の延伸方向である。
【0013】
内骨は、斜め骨のみを有してもよいが、第1方向に延びる縦骨を有してもよく、第2方向に延びる横骨を有してもよい。例えば、内骨は、少なくとも、縦骨と斜め骨とを有する網目状であってもよい。この場合、内骨は横骨を有してもよく、有さなくてもよい。具体的には、内骨は、縦骨と斜め骨のみを有する網目状でもよく、縦骨と斜め骨と横骨とを有する網目状でもよい。
【0014】
斜め骨の第2方向に垂直な断面(以下、断面Cと称する。)には、金属の繊維状組織の縞模様が見られる。断面Cの外周領域は、繊維状組織(縞の方向)が断面Cの輪郭に沿って延びる第1部分と、第1部分以外の第2部分とで構成されている。
【0015】
断面Cの輪郭とは、斜め骨の外表面に対応する線を意味する。断面Cの外周領域とは、断面Cの輪郭に沿う周縁領域であり、外表面に対応する線から少なくとも55μm以上の深さを有し、好ましくは100μm以上の深さを有する周縁領域である。なお、第2部分においては縞模様が観測されなくてもよく、外周領域の深さ方向に延びる縞模様が観測されてもよい。
【0016】
第2部分では、繊維状組織の繊維長に垂直な断面が露出し得る。繊維状組織の繊維長に垂直な断面は多くの粒界を有する。一般に、集電体の腐食は、外表面に露出する粒界において優先的に進行する。第2部分では、繊維状組織が内骨の深さ方向に延びており、結晶粒界も内骨の深さ方向に延びている。そのため、第2部分では、斜め骨の腐食は、深くまで楔状に進行しやすい。第2部分に形成される深い腐食層は、内骨に応力を与えて内骨を変形させやすい。第2部分の割合が大きいほど、斜め骨の腐食に起因する集電体の伸びが大きくなりやすい。
【0017】
一方、第1部分では、繊維状組織が内骨の面方向に延びており、結晶粒界も内骨の面方向に延びている。そのため、第1部分に形成される腐食層は、内骨の面方向に沿って形成され、内骨の内部の深い位置まで形成されにくい。第1部分では、斜め骨の腐食は、浅く進行しやすく、浅い腐食による集電体の伸びは小さい。
【0018】
原理上、集電体は、第1方向への伸び(高さ伸び)と第2方向への伸び(幅伸び)を生じ得る。しかし、鉛蓄電池の構造上、集電体の第1方向における両端は自由度が小さいため、第1方向への高さ伸びは抑制される。よって、第2方向への幅伸びを抑制することが重要である。
【0019】
なお、横骨の延伸方向(すなわち第2方向)に垂直な断面(以下、断面G1と称する。)には、金属の繊維状組織の縞模様がほとんど見られず、一般的には繊維状組織の繊維長に垂直な断面が見られる。断面G1の外周領域は、ほぼ全周が第2方向に延びる繊維状組織で構成されている。よって、横骨の腐食は集電体の伸びにそれほど寄与しない。
【0020】
縦骨の延伸方向(すなわち第1方向)に垂直な断面(以下、断面G2と称する。)には、金属の繊維状組織の縞模様が見られ、かつ断面G2の外周領域は相当割合の第2部分を有する。縦骨の腐食が進行すると、集電体は第1方向に延びようとするが、鉛蓄電池の構造上の理由で第1方向への高さ伸びは抑制される。
【0021】
一方、斜め骨は、第1方向成分(縦ベクトル)と第2方向成分(横ベクトル)とを有する。第1方向成分に起因する腐食は、抑制された第1方向への高さ伸びには寄与せず、第2方向成分の伸びに寄与する。すなわち、斜め骨が存在すると、第2方向への幅伸びが大きくなりやすい。第2方向への幅伸びは、斜め骨を有する集電体に特有の問題であるといえる。
【0022】
ここで、断面Cの輪郭の全長に占める、第2部分に対応する部分の長さの百分率(すなわち、第2部分の割合)をr1%とする。また、側部枠骨の第2方向への投影面積Sに対する、斜め骨の第2方向への投影面積sの積算値Σsの比率:Σs/Sをr2とする。このとき、r1とr2との積(r1×r2)で定義されるR1を110%以下とすることで、集電体の腐食による伸びが抑制される。R1が110%を超えると、集電体の幅伸びが急激に顕著になるとともに集電体の高さ伸びも顕在化するようになる。R1が110%を超え、構造上の規制によって高さ伸びを抑制することが困難となるほどに斜め骨の寄与が大きくなると、腐食によって集電体に蓄積される応力を集電体が伸びることで緩和する必要性が高くなる。幅伸びおよび高さ伸びは応力の緩和に寄与する。構造的には第1方向よりも第2方向への伸びが容易に進行し得るため、幅伸びの度合いが大きくなるものと考えられる。なお、積算値Σsは、全ての斜め骨の第1方向成分の積算値の大きさの指標となる。R1は、110%以下でもよく、40%以下でもよく、25%以下であってもよい。
【0023】
百分率(第2部分の割合)r1は小さいほど望ましく、例えば40%以下でもよく、20%以下でもよく、10%以下でもよい。ただし、集電体が合金シートの打ち抜き加工により得られる打ち抜き格子である場合には、通常、5%よりも小さくすることは困難である。r1が5%以上である場合、斜め骨の外表面には、集電体の伸びに影響を与え得る量の金属組織の粒界が露出している。
【0024】
r2(Σs/S)が大きいほど、集電体の電気抵抗を低減する効果や電位分布を均一化する効果は大きくなると考えられる。有意な効果を得るには、少なくともr2が1.6以上であることが望まれ、更には2.0以上(例えば2.1以上)であることが望まれる。しかし、r2が大きすぎると、集電体の腐食による伸びが大きくなるため、r2は2.6以下が望ましい。これに対し、R1を110%以下(例えば102%以下)、もしくは40%以下(例えば39%以下)とする場合、斜め骨のメリットを享受しつつ、集電体の腐食による伸びを効果的に抑制でき、電極材料の脱落を顕著に低減し得る。
【0025】
R1が小さいほど、集電体の腐食による伸びは抑制されるが、その分、斜め骨の寄与が小さくなり、集電体の電気抵抗を低減する効果や電位分布を均一化する効果を得にくくなる。斜め骨の十分な寄与を確保するには、R1が、例えば20%以上であることが好ましい。
【0026】
また、縦骨以外の内骨に占める斜め骨の割合(すなわち、斜め骨と横骨との合計長さに占める斜め骨の合計長さの割合)は、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、100%であってもよい。
【0027】
なお、各内骨の合計長さを算出する場合は、異なる骨同士が交わる交差部(ノード)以外の部分を積算する。
【0028】
R1は、r1およびr2の選択により制御し得る。r1およびr2は、例えば、プレス加工で内骨を変形させることで制御し得る。r1の変化は、例えば、プレスのスピード、プレス圧力、金型形状などによっても制御可能である。プレス加工で内骨を変形させるだけではr1を変化させるのに十分ではない。プレス加工の条件を適宜制御することが必要である。
【0029】
側部枠骨の厚さに対する内骨の厚さの割合R2を、78~95%としてもよく、78~90%としてもよく、78~85%でもよい。R2を変化させることで、r1、r2も変化する。よって、R2によりR1を制御し得る。なお、枠体を構成する枠骨の厚さは通常は一定であり、内骨の厚さも一定である。各骨の厚さが変化している場合は、平均厚さを用いればよい。平均厚さは、常識的もしくは一般的な方法で求めればよいが、例えば、任意の10箇所における厚さの平均値として算出すればよい。
【0030】
より具体的には、内骨の厚さは、例えば0.7mm~3mmであればよい。内骨の骨幅は、例えば0.7mm~3mmであればよい。骨幅とは、内骨の延伸方向に垂直な骨幅をいう。
【0031】
本発明の一態様に係る鉛蓄電池用集電体は、内骨の前駆体である中間骨をプレス加工することを含む方法により製造することができる。そのような製造方法は、例えば、(i)圧延板を準備する工程と、(ii)圧延板に対して打ち抜き加工を行うことにより、格子状に形成された複数の中間骨を有する中間格子体を形成する工程と、(iii)中間格子体に対して中間格子体の厚さ方向からプレス加工を行って内骨の少なくとも一部を形成する工程とを含む。ここで、プレス加工では、複数の中間骨の少なくとも一部において、中間骨の延びる方向と交差する骨幅方向における中央部よりも、骨幅方向における少なくとも一方の端部が薄くなるように変形させてもよい。
【0032】
(r1の求め方)
まず、集電体の斜め骨の任意の5箇所を斜め骨の第2方向に垂直に切断し、10個の断面Cを形成する。断面Cの外周領域のうち、繊維状組織の縞が断面Cの輪郭と45°未満の角度を有する部分は第1部分である。具体的には、各断面Cの輪郭上の任意の点Pにおいて、点Pの接線S1を描き、更に接線S1の垂線Lを、点Pを通るように描く。次に、垂線L上の点Pから55μmの深さに存在し、かつ垂線Lと交差する縞の接線S2を当該交差点で描く。接線S2と接線S1との角度θが45°未満である場合、点Pは、第1部分に対応する輪郭部分を構成している。このような観察を断面Cの輪郭で適宜行い、第1部分に対応する輪郭部分の長さを特定し、その長さを輪郭の全長から差し引いて第2部分に対応する輪郭部分の長さを求める。そして、第2部分に対応する輪郭部分の全長に占める割合をr1として求める。なお、角度θが45°以上である場合、点Pは、第2部分に対応する輪郭部分を構成している。繊維状組織が観測できないなどの理由で、点Pが第1部分に対応するか否かを判別できないときも、当該点Pは第2部分を構成するものとする。10個の断面Cにおいて、それぞれr1を求め、平均値を計算する。
【0033】
断面Cを形成する際には、電極材料を充填する前の集電体を用いてもよい。もしくは、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した集電体を用いてもよい。すなわち、満充電状態の鉛蓄電池を解体して電極板を取り出し、水洗して電解液を除去し、乾燥する。準備した集電体の全体が覆われるように熱硬化性樹脂に埋め込んで樹脂を硬化させた後、硬化樹脂とともに集電体を切断すればよい。断面Cにおける金属組織の状態は、集電体の断面をエッチング処理してからマイクロスコープで撮影し、観測すればよい。
【0034】
なお、満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい。例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい。 使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0035】
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、液式の電池の場合、25℃±2℃の水槽中で、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で2.5V/セルに達するまで定電流充電を行った後、さらに定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で2時間、定電流充電を行った状態である。また、制御弁式の電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流(A)が定格容量(Ah)として記載の数値の0.005倍になった時点で充電を終了した状態である。なお、定格容量として記載の数値は、単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値をもとに設定される電流の単位はAとする。
【0036】
第1部分の厚さは、55μm以上であればよい。また、一見すると第1部分に見える外周領域であっても、繊維状組織の縞模様が観測される領域の厚さが55μm未満の場合には、第1部分ではなく、第2部分と見なす。厚さ55μm以上の第1部分は、腐食の内側への入り込みを抑制する十分な作用を有する。縦骨の腐食の内側への入り込みの抑制を更に向上させる観点から、第1部分の厚さは、100μm以上が好ましい。
【0037】
断面Cにおける第1部分の厚さは、以下のように測定すればよい。まず、第1部分に対応する輪郭部分上の任意の点P1において接線S1を描き、接線S1の垂線Lを、点P1を通るように描く。次に、垂線L上を点P1からXμmの深さまで移動する点Pxにおいて、垂線Lと交差する縞の接線S2を連続的に描く。このとき、接線S1と接線S2との角度が連続的に45°以下である場合には、点P1の直下の第1部分の厚さは、Xμm以上であるといえる。
【0038】
(r2の求め方)
まず、集電体の側部枠骨の第2方向への投影面積Sを求める。投影面積Sは、通常、側部枠骨の厚さと、側部枠骨の第1方向における長さと、の積に一致する。側部枠骨の厚さが変化している場合は、平均厚さを用いればよい。平均厚さは、常識的もしくは一般的な方法で求めればよいが、例えば、任意の10箇所における厚さの平均値として算出すればよい。なお、側部枠骨の第1方向における長さとは、集電体の第1方向における長さ(高さ)から第1枠骨および第2枠骨の第1方向における長さを引いた長さである。ここで、集電体の第1方向における高さに、耳は含めない。
【0039】
次に、全ての斜め骨の第2方向への投影面積sをそれぞれ求める。このとき、異なる骨同士が交わる交差部(ノード)以外の部分の投影面積を積算する。具体的には、斜め骨は、第1方向および第2方向のいずれとも交差する2つの側面を有する。斜め骨の一方の側面は、一方の側部枠骨側に面し、斜め骨の他方の側面は、他方の側部枠骨側に面している。2つの側面は、集電体が打ち抜き格子体である場合、打ち抜き加工で形成される切断面に対応する。2つの側面(切断面)の面積は同じと見なすことができる。いずれかの側面を選択し、当該側面が面する側部枠骨への投影面積を、当該斜め骨の投影面積sとして求める。そして、全ての斜め骨の投影面積の和をΣsとして求め、ΣsのSに対する比率をr2として求める。
【0040】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について更に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る集電体100の外観を示す平面図である。集電体100は、いずれも枠体110と、枠体110の内側の網目状の内骨120とを有する。枠体110は、耳130と連続する第1枠骨111と、第1枠骨111と対向する第2枠骨112と、第1枠骨111と第2枠骨112とを連結する一対の側部枠骨113、114とを具備する。
【0041】
内骨120は、第1枠骨111から第2枠骨112に向かう第1方向、および一方の側部枠骨113から他方の側部枠骨114に向かう第2方向のいずれとも交差する斜め骨123を具備する。斜め骨123は、一方の側部枠骨113側に向かうほどに第2枠骨112に近づく斜め骨123Aと、他方の側部枠骨114側に向かうほどに第1枠骨111に近づく斜め骨123Bとに分類できる。また、図示例の内骨120は、更に、第1方向に延びる縦骨121と、第2方向に延びる横骨122とを具備する。
【0042】
集電体100は、例えば、鉛または鉛合金の延伸シートの打ち抜き格子体であり、延伸方向は、図1中の矢印MDで示される方向である。延伸方向MDは、第1方向と垂直な方向であり、第2方向に平行な方向である。斜め骨の第2方向に垂直な断面Cは、例えば図1中のII-II線における断面である。延伸シートの金属組織は、延伸方向に延びた層状もしくは繊維状の組織を形成しやすい。よって、断面Cには金属の繊維状組織の縞模様が見られる。
【0043】
図2は、斜め骨の第2方向に垂直な断面Cの写真である。図2では、断面Cは概ね八角形の形状を有し、かつ金属の繊維状組織の縞模様が見られる。断面Cの外周領域は、繊維状組織が断面Cの輪郭に沿って延びる第1部分210と、第1部分210以外の第2部分220とで構成される。第2部分220は、図2中の白線で囲われる領域Xに含まれている。断面Cの輪郭の全長に占める第2部分に対応する部分の長さの百分率がr1%である。なお、図2の第2部分220の最表層には、厚さ約55μm未満の繊維状組織の縞模様が観測される領域が存在するが、このような薄い部分は、第1部分210を構成しない。
【0044】
図3は、断面Cの概念図である。第1部分210では、繊維状組織の縞(接線S2)が断面Cの輪郭(線S1)と45°未満の角度θ1を有する。一方、第2部分220では、繊維状組織の縞が確認できないか、もしくは縞(接線S2)が断面Cの輪郭(線S1)と45°を超える角度θ2を有する。
【0045】
側部枠骨113または114の第2方向への投影面積Sに対する斜め骨123の第2方向への投影面積sの積算値Σsの比率(Σs/S)がr2である。r1とr2との積で定義されるR1は、110%以下に設定される。なお、図1に、側部枠骨113、114の第2方向への投影面積Sおよび代表的な斜め骨123A、123Bの第2方向への投影面積sa、sbにそれぞれ対応する投影面上の線分を示す。なお、側部枠骨113、114の第2方向への投影面積Sには、第1枠骨111および第2枠骨112の第2方向への投影面積との重複部分を含めない。
【0046】
図4は、斜め骨の腐食の進行状態を示す断面Cの概念図である。浅い腐食層が形成されている部分は、繊維状組織が断面Cの輪郭に沿って延びる第1部分210であり、腐食が進行しても腐食層が深くまで形成されにくい。一方、集電体と電極材料との界面付近で剥離が生じやすくなる傾向がある。よって、集電体が変形しようとする応力が緩和されやすいと考えられる。一方、くさび状の深い腐食層が形成されている部分は第2部分220である。深い腐食層が形成されると、集電体の不均一な変形が生じやすく、集電体が伸び、電極材料の脱落が生じやすくなる。
【0047】
なお、横骨の延伸方向(すなわち第2方向)に垂直な断面G1の概念図を図5に示す。断面G1には、金属の繊維状組織の縞模様がほとんど見られず、繊維状組織の繊維長に垂直な断面が見られる。断面G1の外周領域は、ほぼ全周が第2方向に延びる繊維状組織で構成されている。
【0048】
また、縦骨の延伸方向(すなわち第1方向)に垂直な断面G2の概念図を図6に示す。断面G2には、金属の繊維状組織の縞模様が見られ、かつ断面G2の外周領域は相当割合の第2部分を有する。
【0049】
次に、本発明の一態様に係る電極板は、上記鉛蓄電池用集電体と、電極材料とを備える。電極材料は、集電体に保持されている。電極材料とは、集電体以外の部分であるが、電極板に不織布を主体とするマットが貼り付けられている場合、マットは電極材料に含まれない。ただし、電極板の厚さは、マットを含む厚さとする。マットは電極板と一体として使用されるためである。ただし、セパレータにマットが貼り付けられている場合は、マットの厚さはセパレータの厚さに含まれる。
【0050】
電極板において、電極材料の最大厚さTと、集電体の内骨の厚さtとは、T-t≦1mmを満たすことが好ましい。既に述べたように、内骨の厚さは、通常、一定であるが、厚さが変化している場合は、平均厚さを用いればよい。電極材料の最大厚さは、集電体が介在していない電極材料のみの部位の厚さを、任意の10箇所で測定して、その平均として算出すればよい。
【0051】
ここで、(T-t)/2は、オーバーペーストの厚さに相当する。集電体は、耐腐食性に優れ、腐食による集電体の伸びも生じにくいため、腐食を抑制する(もしくは電解液との接触を抑制する)ために厚い電極材料で集電体を覆う必要がない。よって、例えば、電極材料から集電体が露出し、集電体が電解液と直接的に接触する間際のような状況でも、腐食による集電体の劣化が進行しにくい。よって、T-t≦1mmを満たすような電極板であっても、長期間の使用に供することができる。T-t≧0mmであってもよい。
【0052】
本発明に係る集電体は、正極板および負極板のどちらに適用してもよい。すなわち、本発明に係る電極板は、正極板でも負極板でもあり得る。ただし、集電体の腐食による伸びの抑制の観点から、本発明に係る集電体は、特に正極板の集電体として適している。
【0053】
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、負極集電体と、負極電極材料とで構成されている。
集電体に用いる鉛もしくは鉛合金としては、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系、スリーナイン以上の純度の鉛などが好ましく用いられる。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなど含んでもよい。負極集電体は、組成の異なる複数の鉛合金層を有してもよい。
【0054】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を必須成分として含み、有機防縮剤、炭素質材料、硫酸バリウムなどの添加剤を含み得る。充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0055】
有機防縮剤には、リグニン類および合成有機防縮剤からなる群より選択される少なくとも1種を用いてもよい。リグニン類としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(ナトリウム塩などのアルカリ金属塩など)などが挙げられる。合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0056】
有機防縮剤の具体例としては、硫黄含有基を有するとともに芳香環を有する化合物のアルデヒド化合物(アルデヒドまたはその縮合物、例えば、ホルムアルデヒドなど)による縮合物が好ましい。芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香環を有する化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合や連結基(例えば、アルキレン基、スルホン基など)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなどが挙げられる。芳香環を有する化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基および/またはアミノ基とを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基やアミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、ヒドロキシ基やアミノ基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。芳香環を有する化合物としては、ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物などが好ましい。芳香環を有する化合物は、さらに置換基を有していてもよい。有機防縮剤は、これらの化合物の残基を一種含んでもよく、複数種含んでもよい。ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。
【0057】
硫黄含有基は、化合物に含まれる芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。
【0058】
また、例えば、上記の芳香環を有する化合物と、単環式の芳香族化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸またはその置換体など)との、アルデヒド化合物による縮合物を、有機防縮剤として用いてもよい。
【0059】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。一方、1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0060】
負極電極材料中に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0061】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば0.05質量%以上が好ましく、0.2質量%以上が更に好ましい。一方、4.0質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0062】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、1.3質量%以上が更に好ましい。一方、3.0質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0063】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成工程では、室温、もしくはより高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0064】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0065】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。
正極集電体は、鉛または鉛合金のシートのプレス打ち抜き加工により形成することができる。シートは、延伸加工が施された延伸シート(または圧延板とも称する。)であることが好ましい。延伸シートは、一軸延伸シートでも二軸延伸シートでもよい。
【0066】
正極集電体に用いる鉛もしくは鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金またはPb-Ca-Sn系合金が好ましく、スリーナイン以上の純度の鉛を用いてもよい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。
【0067】
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、添加剤を含んでもよい。
【0068】
未化成の正極板は、正極集電体に正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。その後、未化成の正極板を化成する。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸などを練合することで調製される。
【0069】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。既化成で満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば1.20~1.35であり、1.25~1.32であることが好ましい。
【0070】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、通常、セパレータが配置される。セパレータには、不織布、微多孔膜などが用いられる。不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維、パルプ繊維などを用いることができる。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末、オイルなど)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0071】
図7に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0072】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2の耳2aを並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3の耳3aを並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0073】
図7には、液式電池(ベント型電池)の例を示したが、鉛蓄電池は、制御弁式電池(VRLA型)でもよい。
【0074】
次に、集電体および鉛蓄電池の性能評価について説明する。
[試験電池の評価]
単板過充電試験を行う。所定の試験電池を用い、75℃水槽内で定電流1.7A(電流密度:0.0054A/cm2)による過充電試験を5日間行い、その後、2日間休止させる操作(1週間)を3週間繰り返す。電流密度を算出する際の正極板の面積は、正極集電体の枠体の外法の高さと幅との積の2倍とする。
【0075】
3週間の過充電試験後、試験電池を解体し、正極集電体の枠体の第1方向(高さ方向)および第2方向(幅方向)へ最も膨らんでいる部分の寸法をそれぞれ測定し、初期寸法と比較して幅伸び量と高さ伸び量を求める。
【0076】
本発明に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
(1)蓄電池用集電体であって、枠体と、前記枠体に設けられた耳と、前記枠体の内側の内骨と、を有し、前記枠体は、前記耳と連続する第1枠骨と、前記第1枠骨と対向する第2枠骨と、前記第1枠骨と前記第2枠骨とを連結する一対の側部枠骨と、を具備し、前記内骨は、前記第1枠骨から前記第2枠骨に向かう第1方向および一方の前記側部枠骨から他方の前記側部枠骨に向かう第2方向のいずれとも交差する斜め骨を具備し、前記斜め骨の前記第2方向に垂直な断面において、金属の繊維状組織の縞模様が見られ、前記断面の外周領域は、前記繊維状組織が前記断面の輪郭に沿って延びる第1部分と、前記第1部分以外の第2部分と、で構成され、前記断面の輪郭の全長に占める、前記第2部分に対応する部分の長さの百分率をr1%とし、前記側部枠骨の前記第2方向への投影面積Sに対する、前記斜め骨の前記第2方向への投影面積sの積算値Σsの比率:Σs/Sをr2とするとき、r1とr2との積:R1が、110%以下である。
【0077】
(2)上記(1)において、前記割合r1が、40%以下である蓄電池用集電体。
【0078】
(3)上記(1)または(2)において、前記割合R1が、40%以下である蓄電池用集電体。
【0079】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、前記側部枠骨の厚さに対する前記内骨の厚さの割合R2が、78~95%である蓄電池用集電体。
【0080】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つの鉛蓄電池用集電体と、前記鉛蓄電池用集電体に保持された電極材料と、を備え、前記電極材料の最大厚さTと前記内骨の厚さtとが、T-t≦1mmである電極板。
【0081】
[実施例]
以下、本発明の実施形態について実施例および比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
(1)格子体A1の作製
Pb-Ca-Sn系合金の圧延シートを打ち抜き、内骨にプレス加工を施して、集電体として格子体A1を得る。
【0083】
格子体A1の緒元は下記の通りである。
<枠体>
枠体の高さH:115mm
側部枠骨の第1方向における長さ:110.5mm
枠体の幅W:137mm
枠体の厚さ:0.95mm(任意の10箇所の平均値)
側部枠骨の第2方向への投影面積S:105mm
【0084】
<内骨>
内骨の厚さ:0.90mm(任意の10箇所の平均値)
斜め骨の第2方向への投影面積sの積算値Σs:267.0mm
第2部分の割合r1:40%
内骨の合計長さに占める斜め骨の割合:35.9%
斜め骨と横骨との合計長さに占める斜め骨の割合:79.1%
【0085】
<その他>
側部枠骨の厚さに対する内骨の厚さの割合R2:94.7%
r2(Σs/S):2.54
R1(r1(%)×r2):102%
【0086】
(2)正極板の作製
鉛粉を含む正極ペーストを調製し、格子体A1に正極ペーストを充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を作製する。正極電極材料の化成後の密度は3.6g/cm3となるように調整する。正極電極材料の最大厚さTと内骨の厚さtとはT-t≦1mの関係を満たす。
【0087】
(3)負極板の作製
鉛粉、水、希硫酸、硫酸バリウム、カーボンブラックおよび有機防縮剤を混合して、負極ペーストを調製する。格子体A1に負極ペーストを充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。
【0088】
(4)試験電池(2V、定格5時間率容量6Ah)の作製
未化成の正極板1枚とこれを挟持する未化成の負極板2枚とで試験電池を構成し、電解液中で化成を施し、電池A1を作製する。負極板は袋状セパレータに収容する。化成後、満充電状態の各試験電池において、電解液(硫酸水溶液)の20℃における比重を1.28に調整する。
【0089】
《実施例2》
R2を84.2%に変更するなどして、r1=17.4%、r2=2.26(Σs:237.4mm)と変更したこと以外、実施例1と同様にして、R1=39%の格子体A2を作製し、電池A2を作製する。
【0090】
《実施例3》
R2を79%に変更するなどして、r1=10.1%、r2=2.12に変更したこと以外、実施例1と同様にして、R1=21%の格子体A3を作製し、電池A3を作製する。
【0091】
《比較例1》
R2を97.9%に変更するなどして、r1=43.8%、r2=2.63(Σs:275.9mm))に変更したこと以外、実施例1と同様にして、R1=115%の格子体B1を作製し、電池B1を作製する。
【0092】
[評価結果]
単板過充電試験の結果を表1および図8に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1、図8より、R1が110%を超えると、幅伸びが顕著になることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る鉛蓄電池用格子体は、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能であり、自動車、バイクなどの始動用電源や、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0096】
1:鉛蓄電池、2:負極板、3:正極板、4:セパレータ、5:正極棚部、6:負極棚部、7:正極柱、8:貫通接続体、9:負極柱、11:極板群、12:電槽、13:隔壁、14:セル室、15:蓋、16:負極端子、17:正極端子、18:液口栓、100:集電体、110:枠体、111:第1枠骨、112:第2枠骨、113,114:側部枠骨、120:内骨、121:縦骨、122:横骨、123:斜め骨、130:耳、210:第1部分、220:第2部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8