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特許7463725p型不純物拡散組成物とその製造方法、それを用いた半導体素子の製造方法および太陽電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】p型不純物拡散組成物とその製造方法、それを用いた半導体素子の製造方法および太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/225 20060101AFI20240402BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20240402BHJP
   H01L 31/068 20120101ALN20240402BHJP
【FI】
H01L21/225 R
H01L21/225 Q
H01L31/04 440
H01L31/06 300
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019565963
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2019046319
(87)【国際公開番号】W WO2020116270
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2018229582
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北田 剛
(72)【発明者】
【氏名】橘 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】秋本 旭
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/040990(WO,A1)
【文献】特開2010-062223(JP,A)
【文献】特開2014-030011(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121641(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/021117(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/225
H01L 31/18
H01L 31/068
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリビニルアルコールおよびポリエチレンオキサイドから選ばれる少なくとも1つの樹脂、
(b)溶媒、および
(c)第13族元素を含む化合物
(d)界面活性剤
を含むp型不純物拡散組成物であって、組成物のpHが4~6.5であり、(b)溶媒が、(b-1)沸点110℃以上、210℃以下の有機溶媒と(b-2)水とを含み、(b-2)水の量が(b)溶媒中の10~50質量%であり、(d)界面活性剤がシリコーン系および/またはアクリル系化合物であり、(d)界面活性剤/(c)第13族元素化合物の質量比率が0.03~0.1であることを特徴とするp型不純物拡散組成物。
【請求項2】
(b-1)有機溶媒の沸点が165℃以上、180℃以下であり、(b-2)水の量が(b)溶媒中の20~35質量%であることを特徴とする請求項1に記載のp型不純物拡散組成物。
【請求項3】
(b-1)有機溶媒が3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールである請求項2に記載のp型不純物拡散組成物。
【請求項4】
(c)第13族元素化合物/(a)樹脂の質量比率が0.25~0.45である請求項1~のいずれかに記載のp型不純物拡散組成物。
【請求項5】
さらに、3級アミンを含む請求項1~のいずれかに記載のp型不純物拡散組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載のp型不純物拡散組成物の製造方法であって、(a)~(c)の成分を含む組成物全体、または、(a)~(c)の成分のうち少なくとも1つを、イオン交換樹脂によってイオン交換処理する工程を含む、p型不純物拡散組成物の製造方法。
【請求項7】
前記イオン交換処理を、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とを組み合わせて行う請求項記載のp型不純物拡散組成物の製造方法。
【請求項8】
半導体基板に請求項1~のいずれかに記載のp型不純物拡散組成物を塗布してp型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、前記p型不純物拡散組成物膜からp型不純物を前記半導体基板に拡散させて該半導体基板にp型不純物拡散層を形成する工程を含む半導体素子の製造方法。
【請求項9】
半導体基板にn型不純物拡散組成物を部分的に塗布してn型不純物拡散組成物膜を形成した後、n型不純物拡散組成物膜をマスクにしてn型不純物拡散組成物が未塗布の部分に請求項1~のいずれかに記載のp型不純物拡散組成物を塗布してp型不純物拡散組成物膜を形成する工程を含む半導体素子の製造方法。
【請求項10】
半導体基板の一方の面に請求項1~のいずれかに記載のp型不純物拡散組成物を塗布してp型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、前記半導体基板のもう一方の面にn型不純物拡散組成物を塗布してn型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、前記p型不純物拡散組成物膜と前記n型不純物拡散組成物膜を同時に加熱することにより、p型不純物拡散層とn型不純物拡散層を形成する工程を含む半導体素子の製造方法。
【請求項11】
半導体基板の一方の面に請求項1~のいずれかに記載のp型不純物拡散組成物を塗布してp型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、p型不純物拡散組成物膜を形成した半導体基板を、二枚の一組でp型不純物拡散組成物膜が形成された面が互いに向い合せになるように配置する工程と、前記p型不純物拡散組成物膜からp型不純物を前記半導体基板に拡散させて該半導体基板にp型不純物拡散層を形成する工程と、そのまま連続してn型の不純物を含むガスを有する雰囲気下で前記半導体基板を加熱して、前記半導体基板の他方の面にn型の不純物を拡散して、n型不純物拡散層を形成する工程を含む半導体素子の製造方法。
【請求項12】
請求項8~11のいずれかに記載の製造方法で得られた半導体素子を含む太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体基板にp型不純物を拡散させるための組成物とその製造方法、それを用いた半導体素子の製造方法および太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、太陽電池の製造において、半導体基板中にp型またはn型の不純物拡散層を形成する主な方法として、p型の場合はBBr等、n型の場合はPOCl等のガスを基板に接触させながら加熱する方法が採られている。
【0003】
一方で、近年は、p型またはn型の不純物成分を含有した組成物を基板上に塗布し、熱により拡散することによって不純物拡散層を形成する方法などが検討されている。以降、基板上に塗布した不純物成分を含有した組成物から、不純物が基板中に熱により拡散することを、熱拡散と記すこともある。
【0004】
p型の不純物拡散層を形成する不純物拡散組成物(以降、p型不純物拡散組成物と記す)は、ホウ素などの第13族元素を含む化合物をポリビニルアルコール等の樹脂と配合して錯体形成させたものを、溶媒に溶解または分散させて得られる。このような組成物は、スピンコート法やスクリーン印刷法等で半導体基板に塗布できるよう設計されている。基板へのぬれ性が良ければ、溶媒を除去した後に得られる塗膜の膜厚の均一性が良好ものとなるため、溶媒は表面張力の低い有機溶媒であることが好ましいが、第13族元素を含む化合物を配合して錯体形成させるポリビニルアルコール等の樹脂は水溶性樹脂であることが多いため、実際の組成物の溶媒は水と有機溶媒とを混合したものである場合が多い(例えば、特許文献1~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許3519847号公報
【文献】特開2007-35719号公報
【文献】特開2010-62223号公報
【文献】特開2010-161317号公報
【文献】特開平9-181009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溶媒が水と有機溶媒とを混合したものの場合、第13族元素を含む化合物とポリビニルアルコールとの錯体が不安定化したり、得られる塗膜の膜厚の均一性が低下したり、不純物が拡散された基板のシート抵抗値(不純物拡散濃度)の面内における均一性が低下したり、p型不純物拡散組成物の保存中に粘度が経時変化するという問題があった。
【0007】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、半導体基板への均一な不純物の拡散と、塗膜の膜厚の均一性の向上と、組成物の保存安定性の向上とを可能とするp型不純物拡散組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のp型不純物拡散組成物は以下の構成を有する。すなわち、
(a)ポリビニルアルコールおよびポリエチレンオキサイドから選ばれる少なくとも1つの樹脂、
(b)溶媒、および
(c)第13族元素を含む化合物
を含むp型不純物拡散組成物であって、前記p型不純物拡散組成物のpHが4~6.5であり、(b)溶媒が、(b-1)沸点110℃以上、210℃以下の有機溶媒と(b-2)水とを含み、(b-2)水の量が(b)溶媒中の10~50質量%であることを特徴とするp型不純物拡散組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、半導体基板への不純物拡散の均一性や塗膜の膜厚の均一性に優れ、保存安定性の高いp型不純物拡散組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のp型不純物拡散組成物を用いた不純物拡散層の形成方法の一例を示す工程断面図である。
図2】本発明のp型不純物拡散組成物を用いた不純物拡散層の形成方法の一例を示す工程断面図である。
図3】本発明のp型不純物拡散組成物を用いた裏面接合型太陽電池の作製方法の一例を示す工程断面図である。
図4】本発明のp型不純物拡散組成物を用いた不純物拡散層の形成方法の別の一例を示す工程断面図である。
図5】本発明のp型不純物拡散組成物を用いた不純物拡散層の形成方法の別の一例を示す工程断面図である。
図6】本発明のp型不純物拡散組成物を用いた不純物拡散層の形成方法の別の一例を示す工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のp型不純物拡散組成物は、
(a)ポリビニルアルコールおよびポリエチレンオキサイドから選ばれる少なくとも1つの樹脂、
(b)溶媒、および
(c)第13族元素を含む化合物
を含むp型不純物拡散組成物であって、組成物のpHが4~6.5であり、(b)溶媒が、(b-1)沸点110℃以上、210℃以下の有機溶媒と(b-2)水とを含み、(b-2)水の量が(b)溶媒中の10~50質量%であることを特徴とするp型不純物拡散組成物である。
【0012】
(a)ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイドから選ばれる少なくとも1つの樹脂(以下、単に「(a)樹脂」と記す場合がある。)
本発明のp型不純物拡散組成物は、(a)ポリビニルアルコールおよびポリエチレンオキサイドから選ばれる少なくとも1つの樹脂を含む。(a)樹脂は、(c)第13族元素を含む化合物と錯体を形成し、塗布時に均一な塗膜を形成するための成分である。(c)第13族元素を含む化合物との錯体の形成性および形成した錯体の安定性の面から、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0013】
ポリビニルアルコールの平均重合度としては、溶解度と錯体安定性の点で150~1000が好ましい。さらに、ポリビニルアルコールのけん化度としては、溶解度と錯体安定性の点で70~95モル%が好ましい。本発明において、平均重合度およびけん化度は、いずれもJIS K 6726(1994)に従って測定した値である。けん化度は当該JISに記載の中でも逆滴定法によって測定した値である。
【0014】
錯体安定性の点で、p型不純物拡散組成物中に含まれる(a)樹脂は、組成物中に含まれる全ての樹脂中の80質量%以上、好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上であることが好ましい。
【0015】
また、(c)第13族元素を含む化合物の半導体基板への熱拡散が良好となる点と、組成物除去後の基板上の有機残渣抑制の点で、(a)樹脂の量は、組成物全体を100質量%としたときの0.1~20質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。
【0016】
(b-1)沸点110℃以上、210℃以下の有機溶媒(以下、単に「(b-1)有機溶媒」と記す場合がある。)
本発明のp型不純物拡散組成物は(b-1)沸点110℃以上、210℃以下の有機溶媒を含む。(b-1)有機溶媒の沸点がこの範囲であると、半導体基板にp型不純物拡散組成物を塗布した後、(c)第13族元素を含む化合物と(a)樹脂からなる錯体を溶解している(b)溶媒に含まれる(b-2)水と(b-1)有機溶媒がバランス良く揮発し、膜厚の均一性及び不純物拡散濃度の均一性に優れた塗膜を得ることができる。
【0017】
(b-1)有機溶媒の沸点の範囲として、好ましくは120℃以上、185℃以下、より好ましくは165℃以上、180℃以下である。
【0018】
(b-1)有機溶媒の具体例としては、ジメチルホルムアミド(沸点153℃、以下同様)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(193℃)、1-ブタノール(118℃)、シクロヘキサノール(161℃)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(156.4℃)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(145℃)、乳酸メチル(145℃)、乳酸エチル(155℃)、ジアセトンアルコール(169℃)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(174℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(188℃)、γ-ブチロラクトン(204℃)、アセト酢酸エチル(181℃)、N-メチル-2-ピロリドン(204℃)、プロピレングリコールt-ブチルエーテル(151℃)、プロピレングリコールn-ブチルエーテル(170℃)、アセチルアセトン(140℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(171℃)、フルフリルアルコール(170℃)、1,3-ブタンジオール(207℃)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(176℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(145℃)、ジイソブチルケトン(168℃)、エチレングリコール(197℃)、プロピレングリコール(188℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(120℃)、などを挙げることができる。
【0019】
(c)第13族元素を含む化合物と(a)樹脂からなる錯体との相溶性をより向上し、塗膜の膜厚の均一性をより向上させるという点で、(b-1)有機溶媒は1級アルコールであることがさらに好ましく、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールであることが特に好ましい。
【0020】
(c)第13族元素を含む化合物と(a)樹脂とから形成される錯体がより安定となり、p型不純物拡散組成物の保存安定性がより良好である点で、p型不純物拡散組成物中に含まれる(b-1)有機溶媒の量は、(b)溶媒中の50~90質量%であることが好ましい。より好ましくは(b)溶媒中の55~85質量%であり、さらに好ましくは(b)溶媒中の65~80質量%である。
【0021】
(b-2)水
本発明のp型不純物拡散組成物は(b-2)水を含む。そして、(b-2)水の量が(b)溶媒中の10~50質量%である。この範囲内であると、(c)第13族元素を含む化合物と(a)樹脂とから形成される錯体が安定で、p型不純物拡散組成物が保存安定性に優れたものとなる。(b-2)水の量は、好ましくは(b)溶媒中の15~45質量%であり、より好ましくは(b)溶媒中の20~35質量%である。
【0022】
以上より、(b)溶媒としては、(b-1)有機溶媒の沸点が120℃以上、185℃以下であり、かつ、(b-2)水の量が(b)溶媒中の15~45質量%であることが好ましく、(b-1)有機溶媒の沸点が165℃以上、180℃以下であり、かつ、(b-2)水の量が(b)溶媒中の15~45質量%であることがより好ましく、(b-1)有機溶媒の沸点が165℃以上、180℃以下であり、かつ、(b-2)水の量が(b)溶媒中の20~35質量%であることがさらに好ましい。
【0023】
(c)第13族元素を含む化合物
本発明のp型不純物拡散組成物は(c)第13族元素を含む化合物を含む。
【0024】
第13族元素としては、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ニホニウムが挙げられるが、半導体基板への拡散性の観点からホウ素が好ましく用いられる。
【0025】
ホウ素を含む化合物としては、具体的には、ホウ酸、三酸化二ホウ素などのホウ酸類、ホウ酸アンモニウムなどのホウ酸塩類、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三ヨウ化ホウ素などのハロゲン化物、メチルボロン酸、フェニルボロン酸などのボロン酸類、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリオクチル、ホウ酸トリフェニルなどのホウ酸エステル類を挙げることができる。中でも取扱いの容易性の点でホウ酸類、ボロン酸類およびホウ酸エステル類が好ましい。
【0026】
p型不純物拡散組成物中に含まれる(c)第13族元素化合物の量は、半導体素子に求められる抵抗値により任意に決めることができるが、p型不純物拡散組成物に対し、0.05~1質量%含まれることが好ましい。より好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0027】
また、p型不純物拡散組成物の保存安定性の観点から、(c)第13族元素を含む化合物/(a)樹脂の質量比率が0.25~0.45であることがより好ましい。
【0028】
(d)界面活性剤
本発明のp型不純物拡散組成物は(d)界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤を含むことにより、(c)第13族元素を含む化合物の分散性を上げ、(c)第13族元素を含む化合物と(a)樹脂との錯体形成がより良好になる。これによって、半導体基板に(c)第13族元素を含む化合物を熱拡散させた後にp型不純物拡散組成物を除去する際の基板上の有機残渣を低減することができる。
【0029】
(d)界面活性剤としてはフッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アクリル系界面活性剤などが好ましく用いられる。
【0030】
フッ素系界面活性剤の具体的な例としては、1,1,2,2-テトラフロロオクチル(1,1,2,2-テトラフロロプロピル)エーテル、1,1,2,2-テトラフロロオクチルヘキシルエーテル、オクタエチレングリコールジ(1,1,2,2-テトラフロロブチル)エーテル、ヘキサエチレングリコール(1,1,2,2,3,3-ヘキサフロロペンチル)エーテル、オクタプロピレングリコールジ(1,1,2,2-テトラフロロブチル)エーテル、ヘキサプロピレングリコールジ(1,1,2,2,3,3-ヘキサフロロペンチル)エーテル、パーフロロドデシルスルホン酸ナトリウム、1,1,2,2,8,8,9,9,10,10-デカフロロドデカン、1,1,2,2,3,3-ヘキサフロロデカン、N-[3-(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル]-N,N′-ジメチル-N-カルボキシメチレンアンモニウムベタイン、パーフルオロアルキルスルホンアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル-N-エチルスルホニルグリシン塩、リン酸ビス(N-パーフルオロオクチルスルホニル-N-エチルアミノエチル)、モノパーフルオロアルキルエチルリン酸エステルなどの末端、主鎖および側鎖の少なくとも何れかの部位にフルオロアルキルまたはフルオロアルキレン基を有する化合物からなるフッ素系界面活性剤を挙げることができる。
【0031】
また、フッ素系界面活性剤の市販品としては、メガファックF142D、同F172、同F173、同F183、同F444、同F475、同F477(以上、大日本インキ化学工業(株)製)、エフトップEF301、同303、同352(以上、新秋田化成(株)製)、フロラードFC-430、同FC-431(以上、住友スリーエム(株)製))、アサヒガードAG710、サーフロンS-382、同SC-101、同SC-102、同SC-103、同SC-104、同SC-105、同SC-106(以上、旭硝子(株)製)、BM-1000、BM-1100(以上、裕商(株)製)、NBX-15、FTX-218、DFX-218(以上、(株)ネオス製)などのフッ素系界面活性剤がある。
【0032】
シリコーン系界面活性剤の市販品としては、SH28PA、SH7PA、SH21PA、SH30PA、ST94PA(以上、東レ・ダウコーニング(株)製)、BYK067A、BYK310、BYK322、BYK331、BYK333,BYK355(以上、ビックケミー・ジャパン(株)製)などが挙げられる。
【0033】
アクリル系界面活性剤の市販品としては、ポリフロー77、ポリフロー75(以上、共栄社化学(株)製)などが挙げられる。
【0034】
特に、(c)第13族元素を含む化合物の半導体基板への熱拡散が良好となる点と、組成物除去後の有機残渣をより低減する観点から、シリコーン系界面活性剤および/またはアクリル系界面活性剤がより好ましく用いられる。
【0035】
また、(c)第13族元素を含む化合物の分散性を上げ、半導体基板へのより良好な熱拡散と、組成物除去後の有機残渣をさらに低減する観点から(d)界面活性剤/(c)第13族元素化合物の質量の比率が0.03~0.1であることが好ましい。この比率は、より好ましくは0.03~0.045である。
【0036】
(pH)
本発明のp型不純物拡散組成物のpHは4~6.5である。この範囲においては(a)樹脂と(c)第13族元素を含む化合物との錯体が安定化する。また、組成物をある程度の期間保存した後に拡散用途に供しても、不純物拡散濃度の基板面内均一性が良好に保たれる。
【0037】
pHのより好ましい範囲は4.5~5.5である。pHの調整方法としては、組成物に酸、塩基を添加する方法や、後述するようにイオン交換樹脂による不純物低減時に調整する方法などがあるが、これらに限定されない。
【0038】
酸としては、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸や酢酸、シュウ酸などの有機酸が好ましく、金属元素やハロゲンが含まれていない硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸がより好ましい。
【0039】
塩基としては、金属元素やハロゲンが含まれていない有機アミンが好ましい。
【0040】
特に、保存安定性がより向上するという観点から、有機アミンの添加と硫酸、硝酸、酢酸またはシュウ酸の添加を組み合わせる方法や、有機アミンの添加とイオン交換樹脂による調整を組み合わせる方法が好ましい。
【0041】
用いる有機アミンは芳香族アミン、脂肪族アミンなどが上げられるが、塩基性が高く、より少量添加で効果のある脂肪族アミンが好ましい。組成物の他成分との副反応抑制の観点からより好ましくは3級アミンである。
【0042】
脂肪族3級アミンの具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、エチルピペリジン、ピペリジンエタノールなどが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくはピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、エチルピペリジン、ピペリジンエタノールなどの脂肪族環状3級アミンが用いられる。
【0043】
pH調整効果の観点より、有機アミンの含有量として好ましいのは、組成物全体の0.01~2質量%である。より好ましくは組成物全体の0.02~0.5質量%、さらに好ましくは組成物全体の0.03~0.1質量%である。
【0044】
本発明におけるpHは、pHメーター(LAQUA F-71、堀場製作所製)を用いて測定される値である。pHの校正は、JIS Z 8802:2011「pH測定方法」に定められているうち、下記の5種類の標準液(pH2、4、7、9、12)を用いて行う。
○pH2標準液(しゅう酸塩)
0.05mol/L 四しゅう酸カリウム水溶液
○pH4標準液(フタル酸塩)
0.05mol/L フタル酸水素カリウム水溶液
○pH7標準液(中性りん酸塩:下記2水溶液の混合液)
0.025mol/L リン酸二水素カリウム水溶液
0.025mol/L リン酸水素二ナトリウム水溶液
○pH9標準液(ほう酸塩)
0.01mol/L 四ホウ酸ナトリウム(ホウ砂)水溶液
○pH12標準液
飽和水酸化カルシウム水溶液。
【0045】
本発明のp型不純物拡散組成物は、ナトリウム(Na)の量が0.05ppm以下であることが好ましい。Naの低減方法としては、組成物の各構成物を、再結晶、蒸留、カラム分別、イオン交換等で高純度化する方法が用いられるが、イオン交換樹脂を用いた方法が好ましく、本発明のp型不純物拡散組成物の製造方法は、イオン交換樹脂によってイオン交換処理する工程を含むことが好ましい。
【0046】
イオン交換処理する工程については、(a)~(c)の成分を含む組成物全体、または、(a)~(c)の成分のうち少なくとも1つを、イオン交換樹脂によってイオン交換処理する工程が上げられる。Naは製造工程の過程で混入する場合があるため、(a)~(c)の成分を含む組成物全体の状態で、最後にイオン交換処理を行うのが最も好ましい。具体的なイオン交換処理の方法としては、陽イオン交換樹脂を充填したカラムにp型不純物拡散組成物を通して行う、p型不純物拡散組成物の液中に陽イオン交換樹脂を添加して攪拌し、イオン交換後にイオン交換樹脂を除去するなどがあるが、これらに限定されない。
【0047】
特に、陽イオン交換樹脂を用いた場合、イオン交換後のp型不純物拡散組成物のpHは7未満となるため、不純物低減と同時に目的のpHに調整することが可能である。
【0048】
pHの値を4~6.5に調整するためのイオン交換処理方法として、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂とを組み合わせてイオン交換処理を行う方法が好ましい。組み合わせの方法としては、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を適宜混合してカラムに充填し、p型不純物拡散組成物を通す方法や、陽イオン交換樹脂を充填したカラムと陰イオン交換樹脂を充填したカラムに連続して通す方法などがあるが、これらに限定されない。
【0049】
本発明のp型不純物拡散組成物の粘度に制限はなく、塗布法、得ようとする膜厚に応じて適宜変更することができる。ここで、例えば好ましい塗布形態の一つであるスピンコート法による塗布に適用する場合、p型不純物拡散組成物の粘度は1~100mPa・sであることが好ましく、1~50mPa・sであることがさらに好ましい。粘度は、JIS Z 8803:1991「溶液粘度-測定方法」に基づきE型デジタル粘度計を用いて回転数20rpmで測定された値である。
【0050】
本発明のp型不純物拡散組成物は、固形分濃度としては特に制限はないが、1質量%以上~10質量%以下が好ましい範囲である。本濃度範囲であると特に保存安定性がよく、塗布する際の膜厚の制御が容易であるため、所望の拡散濃度とするための調整が容易なためである。
【0051】
本発明のp型不純物拡散組成物を用いた不純物拡散層の形成方法およびこれを利用した半導体素子の製造方法について説明する。本発明の半導体素子の製造方法は、半導体基板に上述のp型不純物拡散組成物を塗布してp型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、前記p型不純物拡散組成物膜からp型不純物を前記半導体基板に拡散させて該半導体基板にp型不純物拡散層を形成する工程を含む半導体素子の製造方法である。ここでp型不純物拡散組成物膜とは、本発明のp型不純物拡散組成物を塗布した後(b)溶媒に含まれる(b-1)有機溶媒および(b-2)水を揮発させ塗膜としたものであり、前述のp型不純物拡散組成物の使用態様における塗膜として説明されてきたものである。また、前記説明において、本発明のp型不純物拡散組成物を塗布してp型不純物拡散組成物膜を形成する工程には、(b)溶媒に含まれる(b-1)有機溶媒および(b-2)水を揮発させる操作が含まれている(以降、塗布して形成するは、塗布した後に溶媒を揮発させる操作が含まれるものとする。後述するn型不純物拡散組成物に関しても同様とする)。また、本発明においてp型不純物拡散組成物膜は、名称に「p型不純物拡散組成物」が含まれるが、本発明のp型不純物拡散組成物に比較して、(b)溶媒が少ない、または、(b)溶媒を含まない点において組成は異なるものである。ここで(b)溶媒が少ないとは、塗膜(p型不純物拡散組成物膜)が、流動しない程度に(b)溶媒が除かれた状態をいうものとする。また、本発明の半導体素子の製造方法は、半導体基板にn型不純物拡散組成物を部分的に塗布してn型不純物拡散組成物膜を形成した後、n型不純物拡散組成物膜をマスクにしてn型不純物拡散組成物が未塗布の部分にp型不純物拡散組成物を塗布してp型不純物拡散組成物膜を形成する工程を含む半導体素子の製造方法である。このとき、p型不純物拡散組成物を塗布前にn型不純物拡散組成物膜を加熱して先にn型不純物拡散層を形成しても良いし、n型、p型の不純物拡散組成物膜を形成したあとに一括加熱してn型不純物拡散層とp型不純物拡散層を同時に形成しても良い。
【0052】
n型不純物拡散組成物とは、組成物中にn型不純物拡散成分を含有し、半導体基板中にn型不純物拡散層を形成するためのものである。n型不純物拡散成分としては、15族の元素を含む化合物であることが好ましく、中でもリン化合物であることが好ましい。リン化合物としては、五酸化二リン、リン酸、ポリリン酸、リン酸メチル、リン酸ジメチル、リン酸トリメチル、リン酸エチル、リン酸ジエチル、リン酸トリエチル、リン酸プロピル、リン酸ジプロピル、リン酸トリプロピル、リン酸ブチル、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、リン酸フェニル、リン酸ジフェニル、リン酸トリフェニルなどのリン酸エステルや、亜リン酸メチル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸エチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸プロピル、亜リン酸ジプロピル、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸ブチル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリフェニルなどの亜リン酸エステルなどが例示される。なかでもドーピング性の点から、リン酸、五酸化二リンまたはポリリン酸が好ましい。
【0053】
また、本発明の半導体素子の製造方法は、半導体基板の一方の面に上述のp型不純物拡散組成物を塗布してp型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、前記半導体基板のもう一方の面にn型不純物拡散組成物を塗布してn型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、前記p型不純物拡散組成物膜と前記n型不純物拡散組成物膜を同時に加熱することにより、前記半導体基板にp型不純物拡散層とn型不純物拡散層を形成する工程を含む半導体素子の製造方法である。
【0054】
また、本発明の半導体素子の製造方法は、半導体基板の一方の面に上述のp型不純物拡散組成物を塗布してp型不純物拡散組成物膜を形成する工程と、p型不純物拡散組成物膜を形成した半導体基板を、二枚の一組でp型不純物拡散組成物膜が形成された面が互いに向い合せになるように配置する工程と、前記p型不純物拡散組成物膜からp型不純物を前記半導体基板に拡散させて該半導体基板にp型不純物拡散層を形成する工程と、そのまま連続してn型の不純物を含むガスを有する雰囲気下で前記半導体基板を加熱して、前記半導体基板の他方の面にn型の不純物を拡散して、n型不純物拡散層を形成する工程を含む半導体素子の製造方法である。
【0055】
以下、これらの半導体素子の製造方法に適用できる不純物拡散層の形成方法を図面を用いて説明する。なお、いずれも一例であり、本発明の半導体素子の製造方法に適用できる方法はこれらに限られるものではない。
【0056】
図1は、半導体基板に本発明のp型不純物拡散組成物を塗布し、そこから半導体基板にp型不純物を拡散させることによる、不純物拡散層の形成方法を示すものである。まず、図1(a)に示すように、半導体基板1の上に本発明のp型不純物拡散組成物を塗布した後(b)溶媒に含まれる(b-1)有機溶媒および(b-2)水を揮発させ、p型不純物拡散組成物膜2を形成する。
【0057】
半導体基板1としては、例えば不純物濃度が1015~1016atoms/cmであるn型単結晶シリコン、多結晶シリコン、およびゲルマニウム、炭素などのような他の元素が混合されている結晶シリコン基板が挙げられる。p型結晶シリコンやシリコン以外の半導体を用いることも可能である。半導体基板1は、厚さが50~300μm、外形が一辺100~250mmの概略四角形であることが好ましい。また、スライスダメージや自然酸化膜を除去するために、フッ酸溶液やアルカリ溶液などで表面をエッチングしておくことが好ましい。
【0058】
p型不純物拡散組成物の塗布方法としては、例えばスピンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、スリット塗布法、スプレー塗布法、凸版印刷法、凹版印刷法などが挙げられる。
【0059】
これらの方法でp型不純物拡散組成物を塗布した後、塗布されたp型不純物拡散組成物をホットプレート、オーブンなどで、50~200℃の範囲で30秒~30分間加熱し(b)溶媒に含まれる(b-1)有機溶媒および(b-2)水を揮発させ乾燥する。乾燥した後に得られたp型不純物拡散組成物膜2の膜厚は、p型不純物の半導体基板1への拡散性の観点から100nm以上が好ましく、エッチング後の残渣の観点から3μm以下が好ましい。
【0060】
次に、図1(b)に示すように、p型不純物を半導体基板1に拡散させ、p型不純物拡散層3を形成する。p型不純物の半導体基板への拡散方法は、既知の熱拡散による方法が利用でき、例えば、電気加熱、赤外加熱、レーザー加熱、マイクロ波加熱などの方法を用いることができる。
【0061】
熱拡散の時間および温度は、得られるp型不純物拡散層における、p型不純物の濃度、p型不純物の拡散深さなど所望の拡散特性が得られるように適宜設定することができる。例えば、800℃以上1200℃以下で1~120分間、加熱して拡散することで、表面不純物濃度が1019~1021のp型拡散層を形成できる。
拡散雰囲気は、特に限定されず、大気中で行ってもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを用いて雰囲気中の酸素量等を適宜コントロールしてもよい。拡散時間短縮の観点から雰囲気中の酸素濃度を3%以下にすることが好ましい。また、必要に応じて拡散前に200℃~850℃の範囲で加熱を行ってもよい。
【0062】
次に、図1(c)に示すように、既知のエッチング法により、半導体基板1の表面に形成されたp型不純物拡散組成物膜2を除去する。エッチングに用いる材料としては、特に限定されないが、例えばエッチング成分としてフッ化水素、アンモニウム、リン酸、硫酸、硝酸のうち少なくとも1種類を含み、それ以外の成分として水や有機溶剤などを含むものが好ましい。以上の工程により、半導体基板の片面にp型の不純物拡散層を形成することができる。
【0063】
図2は、半導体基板にn型不純物拡散組成物を塗布し、n型不純物拡散組成物から半導体基板にn型不純物を拡散させる工程と、前記n型不純物拡散組成物をマスクとして、前記半導体基板にp型不純物を塗布し拡散させる工程と、を含むことを特徴とする不純物拡散層の形成方法を示すものである。図3図2のような工程を用いて得られる前記不純物拡散層を利用した半導体素子の製造方法について、裏面接合太陽電池の製造方法を例に説明したものである。
【0064】
まず、図2(a)に示すように、半導体基板1の上にn型不純物拡散組成物膜4をパターン形成する。
【0065】
n型不純物拡散組成物膜4の形成方法としては、例えばスクリーン印刷法、インクジェット印刷法、スリット塗布法、スプレー塗布法、凸版印刷法、凹版印刷法などが挙げられる。これらの方法でn型不純物拡散組成物を塗布した後、塗布されたn型不純物拡散組成物ホットプレート、オーブンなどで、50~200℃の範囲で30秒~30分間乾燥してn型不純物拡散組成物膜4とすることが好ましい。得られたn型不純物拡散組成物膜4の膜厚は、p型不純物に対するマスク性を考慮すると、200nm以上が好ましく、耐クラック性の観点から5μm以下が好ましい。
【0066】
次に、図2(b)に示すように、n型不純物拡散組成物膜4中のn型不純物を半導体基板1中に拡散させ、n型不純物拡散層5を形成する。n型不純物の拡散方法は既知の熱拡散方法が利用でき、例えば、電気加熱、赤外加熱、レーザー加熱、マイクロ波加熱などの方法を用いることができる。
【0067】
熱拡散の時間および温度は、得られるn型不純物拡散層における、n型不純物の濃度、n型不純物の拡散深さなど所望の拡散特性が得られるように適宜設定することができる。例えば、800℃以上1200℃以下で1~120分間、加熱して拡散することで、表面不純物濃度が1019~1021のn型拡散層を形成できる。
【0068】
拡散雰囲気は、特に限定されず、大気中で行ってもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを用いて雰囲気中の酸素量等を適宜コントロールしてもよい。拡散時間短縮の観点から雰囲気中の酸素濃度を3%以下にすることが好ましい。また、必要に応じて拡散前に200℃~850℃の範囲で加熱を行ってもよい。
【0069】
n型不純物の拡散後、必要に応じてn型不純物拡散組成物膜4を加熱してから、図2(c)に示すように、n型不純物拡散組成物膜4をマスクとして本発明のp型不純物拡散組成物を塗布する。この場合、図2(c)に示すように、p型不純物拡散組成物膜2を全面に形成してもよいし、n型不純物拡散組成物膜4がない部分にのみ形成しても構わない。なお、図2(c)に示すように、p型不純物拡散組成物膜2を全面に形成する場合、p型不純物拡散組成物膜2の一部がn型不純物拡散組成物膜4に重なるように塗布することとなるが、特に問題はない。
【0070】
p型不純物拡散組成物の塗布方法としては、例えばスピンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、スリット塗布法、スプレー塗布法、凸版印刷法、凹版印刷法などが挙げられる。
【0071】
これらの方法でp型不純物拡散組成物塗布した後、塗布されたp型不純物拡散組成物をホットプレート、オーブンなどで、50~200℃の範囲で30秒~30分間乾燥してp型不純物拡散組成物膜2することが好ましい。得られたp型不純物拡散組成物膜2の膜厚は、p型不純物の拡散性の観点から100nm以上が好ましく、エッチング後の残渣の観点から3μm以下が好ましい。
【0072】
次に、図2(d)に示すように、加熱後のn型不純物拡散組成物膜4をマスク層としてp型不純物拡散組成物膜2からp型不純物拡散組成物を半導体基板1に拡散させ、p型不純物拡散層3を形成する。p型不純物の半導体基板への拡散方法は、既知の熱拡散方法が利用でき、例えば、電気加熱、赤外加熱、レーザー加熱、マイクロ波加熱などの方法を用いることができる。
【0073】
熱拡散の時間および温度は、得られるp型不純物層における、p型不純物の拡散濃度、p型不純物の拡散深さなど所望の拡散特性が得られるように適宜設定することができる。例えば、800℃以上1200℃以下で1~120分間加熱拡散することで、表面不純物濃度が1019~1021のp型拡散層を形成できる。
【0074】
拡散雰囲気は、特に限定されず、大気中で行ってもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを用いて雰囲気中の酸素量等を適宜コントロールしてもよい。拡散時間短縮の観点から雰囲気中の酸素濃度を3%以下にすることが好ましい。また、必要に応じて拡散前に200℃~850℃の範囲で加熱を行ってもよい。
【0075】
次に、図2(e)に示すように、既知のエッチング法により、半導体基板1の表面に形成されたn型不純物拡散組成物膜4およびp型不純物拡散組成物膜2を除去する。エッチングに用いる材料としては、特に限定されないが、例えばエッチング成分としてフッ化水素、アンモニウム、リン酸、硫酸、硝酸のうち少なくとも1種類を含み、それ以外の成分として水や有機溶剤などを含むものが好ましい。以上の工程により、半導体基板にn型およびp型の不純物拡散層を形成することができる。このような工程とすることにより従来法と比較し、工程を簡略化することができる。
【0076】
ここでは、n型不純物拡散組成物の塗布・拡散の後、p型不純物拡散組成物の塗布・拡散を行う例を示したが、p型不純物拡散組成物の塗布・拡散の後、n型不純物拡散組成物の塗布・拡散を行うことも可能である。
【0077】
続いて、図3を用いて、本発明の半導体素子の製造方法を、裏面接合型太陽電池を例に挙げて説明する。まず図3(f)に示すように、片面にn型不純物拡散層5およびp型不純物拡散層3が形成された半導体基板9の、n型不純物拡散層5およびp型不純物拡散層3が形成された面上の全面に保護膜6を形成する。なお、n型不純物拡散層5およびp型不純物拡散層3が形成された面を、裏面と記すこともある。次に図3(g)に示すように、保護膜6をエッチング法などによりパターン加工して、保護膜開口6aを形成する。さらに、図3(h)に示すように、ストライプ塗布法やスクリーン印刷法などにより、開口6aを含む領域に電極ペーストをパターン塗布して加熱することで、n型コンタクト電極8およびp型コンタクト電極7を形成する。これにより、裏面接合型太陽電池10が得られる。
【0078】
また、本発明のp型不純物拡散組成物を用いた不純物拡散層の別の形成方法について、図4を利用して説明する。図4は、n型不純物拡散組成物を用いてパターンを形成する工程と、前記n型不純物拡散組成物をマスクとしてp型不純物拡散組成物を塗布する工程と、前記n型不純物拡散組成物およびp型不純物拡散組成物から前記半導体基板中にn型およびp型不純物を拡散させる工程と、を含む不純物拡散層の形成方法を示すものである。
【0079】
まず図4(a)に示すように、半導体基板1の上にn型不純物拡散組成物膜4をパターン形成する。次に、必要に応じてn型不純物拡散組成物4を加熱してから、図4(b)に示すように、n型不純物拡散組成物膜4をマスクとしてp型不純物拡散組成物膜2を形成する。続いて、図4(c)に示すように、n型不純物拡散組成物膜4中のn型不純物とp型不純物拡散組成物膜2中のp型不純物とを同時に半導体基板1中に拡散させ、n型不純物拡散層5とp型不純物拡散層3を形成する。n型およびp型の不純物拡散組成物の塗布方法、加熱方法および拡散方法としては前記図2をベースにした説明の際と同様の方法が挙げられる。
【0080】
次に、図4(d)に示すように、既知のエッチング法により、半導体基板1の表面に形成されたn型不純物拡散組成物膜4およびp型不純物拡散組成物膜2を除去する。以上の工程により、半導体基板の片面にn型およびp型の不純物拡散層を形成することができる。このような工程とすることにより従来法と比較し、さらに工程を簡略化することができる。
【0081】
また、本発明のp型不純物拡散組成物を用いた別の不純物拡散層の形成方法について、図5を用いて説明する。
【0082】
図5(a)に示すように、半導体基板1の上に本発明のp型不純物拡散組成物膜2を形成する。必要に応じてp型不純物拡散組成物膜2を加熱してから、図5(b)に示すように、半導体基板1のp型不純物拡散組成物膜2が形成された面と反対側の面にn型不純物拡散組成物膜4を形成する。
【0083】
次に、図5(c)に示すように、p型不純物拡散組成物膜2からp型不純物を、n型不純物拡散組成物膜4からn型不純物を、半導体基板1中に同時に拡散させ、p型不純物拡散層3とn型不純物拡散層5を形成する。n型およびp型の不純物拡散組成物の塗布方法、加熱方法および拡散方法としては前記図1をベースにした説明の際と同様の方法が挙げられる。
【0084】
次に、図5(d)に示すように、既知のエッチング法により、半導体基板1の表面に形成されたp型不純物拡散組成物膜2およびn型不純物拡散組成物膜4を除去する。以上の工程により、半導体基板にn型およびp型の不純物拡散層を形成することができる。このような工程とすることにより従来法と比較し、工程を簡略化することができる。
【0085】
ここでは、p型不純物拡散組成物の塗布後、n型不純物拡散組成物の塗布を行う例を示したが、n型不純物拡散組成物の塗布後、p型不純物拡散組成物の塗布を行うことも可能である。
【0086】
また、本発明のp型不純物拡散組成物を用いた別の不純物拡散層の形成方法について、図6を用いて説明する。
【0087】
図6(a)に示すように、半導体基板1の上に本発明のp型不純物拡散組成物膜2を形成する。
【0088】
次に、図6(b)に示すように、p型不純物拡散組成物膜2が形成された半導体基板を二枚の一組でp型不純物拡散組成物膜2が形成された面が互いに向い合せになるように配置する。向かい合わせの面間の距離は5mm以下であることが好ましく、接触していることがより好ましい。
【0089】
次に、図6(c)に示すように、p型不純物拡散組成物膜2からp型不純物を半導体基板1中に拡散させ、p型不純物拡散層3を形成する。p型不純物拡散組成物の塗布方法、加熱方法および拡散方法としては前記図1をベースにした説明の際と同様の方法が挙げられる。
【0090】
次に、図6(d)に示すように、p型不純物拡散層3が向かい合わせになっている状態のまま、連続して連続してn型の不純物を含むガスを有する雰囲気下で半導体基板1を加熱して、半導体基板1のp型不純物拡散組成物膜2の形成されていない側の面にn型不純物拡散層5を形成する。
【0091】
このとき、n型の不純物を含むガスを導入する前に、酸素を含む雰囲気下で半導体基板1を加熱して、半導体基板1に酸化膜を形成させても良い。
【0092】
次に、図6(e)に示すように、既知のエッチング法により、半導体基板1の表面に形成されたp型不純物拡散組成物膜2、および、(必要に応じて)n型不純物拡散層5に残留している酸化膜を除去する。以上の工程により、半導体基板にn型およびp型の不純物拡散層を形成することができる。このような工程とすることにより従来法と比較し、工程を簡略化することができる。
【0093】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれるものである。
【0094】
本発明のp型不純物拡散組成物は、太陽電池などの光起電力素子や、半導体表面に不純物拡散領域をパターン形成する半導体デバイス、例えば、トランジスターアレイやダイオードアレイ、フォトダイオードアレイ、トランスデューサーなどにも展開することができる。
【実施例
【0095】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。なお、用いた化合物のうち、略語を使用しているものについて、以下に示す。(溶媒に関して、カッコ内に溶媒の沸点を示す)
PVA:ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ホバール(株)製、JP-03)
GBL:γ-ブチロラクトン(204℃)
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル(120℃)
EtOH:エタノール(78℃)
1-BuOH:1-ブタノール(118℃)
DEG:ジエチレングリコール(245℃)
MMB:3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(174℃)
DAA:ジアセトンアルコ-ル(169℃)
BYK333:シリコーン系界面活性剤(ビックケミー・ジャパン(株)製)
F444:フッ素系界面活性剤(大日本インキ化学工業(株)製)。
【0096】
<評価方法>
(1)溶液粘度および保存安定性
東機産業(株)製回転粘度計TVE-25L(E型デジタル粘度計)を用い、液温25℃、回転数20rpmでの粘度を測定した。
【0097】
ここでp型不純物拡散組成物の作製直後の粘度と作製後25℃で30日間保管後、および、3℃で30日間保管後の粘度を測定し、粘度の上昇率が20%以下のものを合格、20%を越えるものを不合格とした。
【0098】
(2)塗膜の膜厚の均一性
6インチシリコンウェハー((株)エレクトロニクスエンドマテリアルズコーポレーション製)を1%フッ酸水溶液に1分浸漬したあと水洗し、エアブロー後ホットプレートで140℃、5分間処理した。
【0099】
ついでp型不純物拡散組成物を、スピンコート法で塗膜の膜厚が1μmになるように該シリコンウェハーに塗布した。塗布後、シリコンウェハーを140℃で5分間加熱した。
【0100】
加熱後のウェハーを直径方向に等間隔で15点測定し、(最大値-最小値)の値が
0.3μm以下のものを合格、0.3μmを越えるものを不合格とした。
【0101】
(3)シート抵抗値均一性(不純物拡散濃度均一性)
6インチ角のテクスチャー付きn型シリコンウェハー((株)エレクトロニクスエンドマテリアルズコーポレーション製、表面抵抗200Ω□)を1%フッ酸水溶液に1分浸漬したあと水洗し、エアブロー後ホットプレートで140℃で5分間加熱した。
【0102】
ついでp型不純物拡散組成物を、スピンコート法で塗膜の膜厚が500nm程度になるように該シリコンウェハーに塗布した。塗布後、シリコンウェハーを140℃で5分間加熱した。
【0103】
続いて各シリコンウェハーを電気炉内に配置し、窒素:酸素=99:1(体積比)の雰囲気下、950℃で30分間維持して不純物を熱拡散させた。熱拡散後、各シリコンウェハーを、5重量%のフッ酸水溶液に23℃で1分間浸漬させて、硬化した拡散剤を剥離した。剥離後のシリコンウェハーに対して、p/n判定機を用いてp/n判定し、表面抵抗を四探針式表面抵抗測定装置RT-70V (ナプソン(株)製)を用いて方向に等間隔で15点測定し、平均値、最大値、最小値をそれぞれA、B、Cとした時、(B-C)/A×100(%)の値が、25%未満のものを合格、25%以上のものを不合格とした。評価については組成物作製直後と作製後25℃で30日間保管後で実施した。
【0104】
(4)有機残渣評価
6インチシリコンウェハー((株)エレクトロニクスエンドマテリアルズコーポレーション製)を3cm×3cmにカットし、1%フッ酸水溶液に1分浸漬したあと水洗し、エアブロー後ホットプレートで140℃、5分間処理した。
【0105】
ついでp型不純物拡散組成物を、スピンコート法で塗膜の膜厚が2μm程度になるように該シリコンウェハーに塗布した。塗布後、シリコンウェハーを140℃で5分間加熱した。
【0106】
続いて各シリコンウェハーを電気炉内に配置し、窒素:酸素=99:1(体積比)の雰囲気下、950℃で30分間維持して不純物を熱拡散させた。
【0107】
熱拡散後の各シリコンウェハーを、5質量%のフッ酸水溶液に23℃で1分間浸漬させて、組成物を剥離した。剥離後、シリコンウェハーを純水に浸漬させて洗浄し、表面の目視により残渣の有無を観察した。1分浸漬後目視で表面付着物が確認でき、ウエスでこすっても除去できないが、さらに5分浸漬後はウエスでこすることで除去できるものをD、1分浸漬後目視で表面付着物が確認できるがウエスでこすることで除去できるものをC、30秒を上回り1分以内で表面付着物が目視確認できなくなったものをB、30秒以内で表面付着物が目視確認できなくなったものをAとした。有機残渣の抑制の観点ではD<C<B<Aの順により好ましい結果と判断できる。
【0108】
(5)Na含有率評価
組成物を“テフロン”(登録商標)分解容器に精秤し、硫酸-硝酸-フッ化水素酸-過酸化水素水を用いて分解後、希硝酸で溶解したものを定溶液とした。得られた溶液についてICP質量分析法(パーキンエルマー社製 ELAN DRC II)で測定した。
【0109】
配合例1
150mLの三口フラスコにPVA(日本酢ビ・ホバール(株)製、JP-03)を4.21g、水14.2gを仕込み、撹拌しながら80℃に昇温し、1時間撹拌した後、1-BuOH(東京化成(株)製)を80.3g、ホウ酸(富士薬品工業(株)製)1.29gを入れ、80℃で1時間撹拌した。40℃に冷却後、シリコーン系界面活性剤BYK333(ビックケミー・ジャパン(株)製)0.05gを添加し、30分間撹拌した。この混合液をイオン交換処理Aで処理後、20μmのフィルターで濾過を行い、p型不純物拡散組成物Aを得た。得られた組成物の粘度は18mPa・s、pHは5.0であった。
【0110】
配合例2~23
表1に示す各組成を、配合例1と同様にして混合、イオン交換、20μmのフィルターで濾過してp型不純物拡散組成物B~Xを得た。ただし配合例16、21、22、23ではイオン交換処理を行わなかった。また、配合例15、16、21、22では有機塩基または酸をさらに添加した。
【0111】
ここで、イオン交換処理については、以下の(A)または(B)いずれかの方法にて実施した。
(A)各成分を配合した混合液を陽イオン交換樹脂(オルガノ(株)製、アンバーリスト15JS-HG-DRY)を充填したカラムに通す。
(B)各成分を配合した混合液を陽イオン、陰イオン混合の交換樹脂(オルガノ(株)製、アンバーリストMSPS2-1-DRY)を充填したカラムに通す。
【0112】
実施例1~16(実施例8、9、11は参考例である)、比較例1~7
評価結果を表2に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
表中、「(d)/(c)」(†1)は、「(d)界面活性剤/(c)第13族元素化合物の質量比率」を、「(c)/(a)」(†2)は、「(c)第13族元素化合物/(a)樹脂の質量比率」を表す。
【0115】
【表2】
【符号の説明】
【0116】
1 半導体基板
2 p型不純物拡散組成物膜
3 p型不純物拡散層
4 n型不純物拡散組成物膜
5 n型不純物拡散層
6 保護膜
6a 保護膜開口
7 p型コンタクト電極
8 n型コンタクト電極
9 片面にn型不純物拡散層およびp型不純物拡散層が形成された半導体基板
10 裏面接合型太陽電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6