(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】四輪駆動の電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240402BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20240402BHJP
B60K 1/02 20060101ALI20240402BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20240402BHJP
B60W 20/15 20160101ALN20240402BHJP
B60W 10/08 20060101ALN20240402BHJP
【FI】
B60L15/20 S ZHV
B60L9/18 L
B60K1/02
B60K6/52
B60W20/15
B60W10/08 900
(21)【出願番号】P 2020002394
(22)【出願日】2020-01-09
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】宮本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 公伸
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-073458(JP,A)
【文献】特開2002-227679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
B60L 9/18
B60K 1/02
B60K 6/52
B60W 20/15
B60W 10/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後輪の一方が第1のモータ及び前記第1のモータと異なる第2のモータにより駆動され、前記前後輪の他方が前記第1のモータ及び前記第2のモータとは異なる駆動源により駆動される四輪駆動の電動車両の制御装置であって、
前記車両が要求する総駆動トルクから前記前後輪に要求される駆動トルクを算出する前後トルク配分演算部と、
前記車両に作用するヨーモーメントを制御すべく前記前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差が生じるように、前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクから前記前後輪の一方の左右輪に要求される駆動トルクを算出する左右トルク配分演算部と、
前記左右トルク配分演算部で算出された駆動トルクに基づいて前記第1のモータの出力トルクと前記第2のモータの出力トルクとを算出するモータトルク演算部と、
前記モータトルク演算部で算出された前記第1のモータの出力トルクを前記第1のモータが出力し、前記モータトルク演算部で算出された前記第2のモータの出力トルクを第2のモータが出力するように、前記第1のモータと前記第2のモータを制御するモータ制御部と、
前記モータトルク演算部で算出された前記第1のモータの出力トルクが前記第1のモータの動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第1の上限値を超えるか否か、及び前記モータトルク演算部で算出された前記第2のモータの出力トルクが前記第2のモータの動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第2の上限値を超えるか否かを判定するモータトルク判定部と、
前記モータトルク判定部において前記第1の上限値を超え、又は前記第2の上限値を超えると判定された場合に、前記総駆動トルクを出力すべく、前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクを算出し直す前後トルク再配分演算部と
、
前記前後輪の一方の左右輪を夫々単独で制動可能な制動ユニットと、
を備え
、
前記モータトルク判定部において前記第1のモータ及び前記第2のモータのみで前記前後輪の一方の左右輪間に前記所望の駆動トルク差を生じさせることができないと判定された場合に、前記前後輪の一方の左右輪のうち要求される駆動トルクが小さい一輪の制動力が増大するように、前記制動ユニットに制動させる四輪駆動の電動車両の制御装置。
【請求項2】
車両の前後輪の一方が第1のモータ及び前記第1のモータと異なる第2のモータにより駆動され、前記前後輪の他方が前記第1のモータ及び前記第2のモータとは異なる駆動源により駆動される四輪駆動の電動車両の制御装置であって、
前記車両が要求する総駆動トルクから前記前後輪に要求される駆動トルクを算出する前後トルク配分演算部と、
前記車両に作用するヨーモーメントを制御すべく前記前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差が生じるように、前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクから前記前後輪の一方の左右輪に要求される駆動トルクを算出する左右トルク配分演算部と、
前記左右トルク配分演算部で算出された駆動トルクに基づいて前記第1のモータの出力トルクと前記第2のモータの出力トルクとを算出するモータトルク演算部と、
前記モータトルク演算部で算出された前記第1のモータの出力トルクを前記第1のモータが出力し、前記モータトルク演算部で算出された前記第2のモータの出力トルクを第2のモータが出力するように、前記第1のモータと前記第2のモータを制御するモータ制御部と、
前記モータトルク演算部で算出された前記第1のモータの出力トルクが前記第1のモータの動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第1の上限値を超えるか否か、及び前記モータトルク演算部で算出された前記第2のモータの出力トルクが前記第2のモータの動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第2の上限値を超えるか否かを判定するモータトルク判定部と、
前記モータトルク判定部において前記第1の上限値を超え、又は前記第2の上限値を超えると判定された場合に、前記総駆動トルクを出力すべく、前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクを算出し直す前後トルク再配分演算部と
を備え
、
前記前後トルク再配分演算部は、前記モータトルク判定部において前記第1の上限値を超え、又は前記第2の上限値を超えると判定された場合でも、前記第1のモータのモータ温度が予め設定された第1の温度以下であり、かつ、前記第2のモータのモータ温度が予め設定された第2の温度以下である場合に、前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクの算出し直しを中止する四輪駆動の電動車両の制御装置。
【請求項3】
前記前後トルク再配分演算部は、前記モータトルク判定部において前記第1の上限値を超え、又は前記第2の上限値を超えると判定された場合に、前記第1のモータの出力トルクが前記第1の上限値以下、かつ、前記第2のモータの出力トルクが前記第2の上限値以下となる範囲で、前記前後輪の一方の左右輪間に前記所望の駆動トルク差が生じるように、前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクを算出し直す、請求項1
又は2に記載の四輪駆動の電動車両の制御装置。
【請求項4】
前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクに基づいて算出された前記駆動源の出力トルクが前記駆動源の動作状態及び前記駆動源の温度に基づいて定められる第3の上限値を超えるか否かを判定する駆動源トルク判定部を備え、
前記前後トルク再配分演算部は、
前記駆動源トルク判定部において前記第3の上限値を超えると判定された場合に、前記駆動源の出力トルクが前記第3の上限値以下となるように、前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクを算出し直す、請求項1
から3のいずれか一項に記載の四輪駆動の電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、四輪駆動の電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、左右輪を駆動する少なくとも二つの電動機を備えた電動車両の駆動力制御装置が開示されている。かかる電動車両の駆動力制御装置は、ドライバによる運転操作を検出する検出手段と、ドライバの要求トルクと旋回時に左右輪に与えるトルク差とを演算するとともに、トルク差を維持した状態で要求トルクを発生させる場合の電動機の左右のトルク差維持トルクを演算し、トルク差維持トルクに基づき電動機を制御する制御手段とを備えている。制御手段は、前記左右のトルク差維持トルクのうち旋回外輪側のトルク差維持トルクが電動機の最大出力トルクを超える場合には、検出手段で検出された運転操作に応じて、要求トルクを発生させる要求トルクモードとトルク差を発生させるトルク差モードとの優先度を決定する。かかる電動車両の駆動力制御装置によれば、ドライバ要求を実現しながら旋回性能を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、四輪駆動の電動車両では、車両に働くヨーモーメントを制御すべく、前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせつつ、車両が要求する総駆動トルクを車両全体として出力することが好ましい。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、前後輪の一方に要求される駆動トルクを第1のモータ及び第2のモータが出力できない場合でも、前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせつつ、車両が要求する総駆動トルクを車両全体として出力できる四輪駆動の電動車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の少なくとも一実施形態に係る四輪駆動の電動車両のモータ制御装置は、車両の前後輪の一方が第1のモータ及び前記第1のモータと異なる第2のモータにより駆動され、前記前後輪の他方が前記第1のモータ及び前記第2のモータとは異なる駆動源により駆動される四輪駆動の電動車両の制御装置であって、前記車両が要求する総駆動トルクから前記前後輪に要求される駆動トルクを算出する前後トルク配分演算部と、前記車両に作用するヨーモーメントを制御すべく前記前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差が生じるように、前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクから前記前後輪の一方の左右輪に要求される駆動トルクを算出する左右トルク配分演算部と、前記左右トルク配分演算部で算出された駆動トルクに基づいて前記第1のモータの出力トルクと前記第2のモータの出力トルクとを算出するモータトルク演算部と、前記モータトルク演算部で算出された前記第1のモータの出力トルクを前記第1のモータが出力し、前記モータトルク演算部で算出された前記第2のモータの出力トルクを第2のモータが出力するように、前記第1のモータと前記第2のモータを制御するモータ制御部と、前記モータトルク演算部で算出された前記第1のモータの出力トルクが前記第1のモータの動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第1の上限値を超えるか否か、及び前記モータトルク演算部で算出された前記第2のモータの出力トルクが前記第2のモータの動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第2の上限値を超えるか否かを判定するモータトルク判定部と、前記モータトルク判定部において前記第1の上限値を超え、又は前記第2の上限値を超えると判定された場合に、前記総駆動トルクを出力すべく、前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクを算出し直す前後トルク再配分演算部とを備える。
【0007】
上記の構成によれば、前後トルク再配分演算部は、モータトルク判定部において第1の上限値を超え、又は第2の上限値を超えると判定された場合に、総駆動トルクを出力すべく、前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクを算出し直す。これにより、前後輪の一方に要求される駆動トルクを第1のモータ及び第2のモータが出力できない場合でも、前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせつつ、車両が要求する総駆動トルクを車両全体として出力できる。
【0008】
本発明の一実施形態では、前記前後トルク再配分演算部は、前記モータトルク判定部において前記第1の上限値を超え、又は前記第2の上限値を超えると判定された場合に、前記第1のモータの出力トルクが前記第1の上限値以下、かつ、前記第2のモータの出力トルクが前記第2の上限値以下となる範囲で、前記前後輪の一方の左右輪間に前記所望の駆動トルク差が生じるように、前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクを算出し直す。
【0009】
上記の構成によれば、第1のモータの出力トルクが第1の上限値以下、かつ、第2のモータの出力トルクが第2の上限値以下となり、前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差が生じる。これにより、第1のモータの出力トルクが第1の上限値を超え、又は第2のモータの出力トルクが第2の上限値を超える場合でも、前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせることができる。
【0010】
本発明の一実施形態では、前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクに基づいて算出された駆動源の出力トルクが前記駆動源の動作状態及び前記駆動源の温度に基づいて定められる第3の上限値を超えるか否かを判定する駆動源トルク判定部を備え、前記前後トルク再配分演算部は、前記駆動源トルク判定部において前記第3の上限値を超えると判定された場合に、前記駆動源の出力トルクが前記第3の上限値以下となるように、前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクを算出し直す。
【0011】
上記の構成によれば、前後トルク再配分演算部は、駆動源トルク判定部において第3の上限値を超えると判定された場合に、駆動源の出力トルクが第3の上限値以下となるように、前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクを算出し直す。これにより、前後輪の他方に要求される駆動トルクを駆動源が出力できない場合でも、車両が要求する総駆動トルクを車両全体として出力できる。
【0012】
本発明の一実施形態では、前記前後輪の一方の左右輪を夫々単独で制動可能な制動ユニットを備え、前記モータトルク判定部において前記第1のモータ及び前記第2のモータのみで前記前後輪の一方の左右輪間に前記所望の駆動トルク差を生じさせることができないと判定された場合に、前記前後輪の一方の左右輪のうち要求される駆動トルクが小さい一輪の制動力が増大するように、前記制動ユニットに制動させる。
【0013】
上記の構成によれば、モータトルク判定部において第1のモータ及び第2のモータのみで前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせることができないと判定された場合に、前後輪の一方の左右輪のうち要求される駆動トルクが小さい一輪の制動力が増大するように、制動ユニットに制動させる。これにより、第1のモータ及び第2のモータのみで前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせることができない場合にも、前後輪の一方の左右輪のうち要求される駆動トルクが小さい一輪の制動力が増大することで、前後輪の一方の左右輪間に所望のトルク差を生じさせることができる。
【0014】
本発明の一実施形態では、前記前後トルク再配分演算部は、前記モータトルク判定部において前記第1の上限値を超え、又は前記第2の上限値を超えると判定された場合でも、前記第1のモータのモータ温度が予め設定された第1の温度以下であり、かつ、前記第2のモータのモータ温度が予め設定された第2の温度以下である場合に、前記前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクの算出し直しを中止する。
【0015】
上記の構成によれば、前後トルク再配分演算部は、第1のモータの出力トルクが第1の上限値を超え、又は第2のモータの出力が第2の上限値を超える場合でも、第1のモータのモータ温度が予め設定された第1の温度以下であり、かつ、第2のモータのモータ温度が予め設定された第2の温度以下である場合に、前後トルク配分演算部で算出された駆動トルクの算出し直しを中止する。これにより、第1のモータの出力トルクが第1の上限値を超え、又は第2のモータの出力が第2の上限値を超える場合でも、第1のモータのモータ温度が予め設定された第1の温度以下であり、かつ、第2のモータのモータ温度が予め設定された第2の温度以下である場合には、前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせつつ、車両が要求する総駆動トルクを出力できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、前後輪の一方に要求される駆動トルクを第1のモータ及び第2のモータが出力できない場合でも、前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせつつ、車両が要求する総駆動トルクを車両全体として出力できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る四輪駆動の電動車両の制御装置が搭載される電動車両の構成を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る四輪駆動の電動車両の制御装置の制御構成を概略的に示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る四輪駆動の電動車両の制御装置の制御内容を概略的に示すフローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態に係る四輪駆動の電動車両の制御装置の制御構成を概略的に示すブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る四輪駆動の電動車両の制御装置の制御内容を概略的に示すフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態に係る四輪駆動の電動車両の制御装置の制御構成を概略的に示すブロック図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る四輪駆動の電動車両の制御装置の制御内容を概略的に示すフローチャートである。
【
図8】本発明の一実施形態に係る四輪駆動の電動車用の制御装置の制御内容を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0019】
図1に示すように、本発明の幾つかの実施形態に係る制御装置1は、駆動用バッテリ110に充電された電気を動力源とする、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)又はプラグインハイブリッド自動車(PHV,PHEV)等の電動車両に搭載される。本発明の幾つかの実施形態に係る制御装置1が搭載される車両100は、車両100の前後輪の一方が第1のモータ及び第1のモータと異なる第2のモータにより駆動され、前後輪の他方が第1のモータ及び第2のモータと異なる駆動源により駆動される。
【0020】
本発明の一実施形態に係る制御装置1が搭載される車両100は、例えば、車両100の後輪102が第1のモータ141(以下「第1の後輪モータ141」という)及び第1の後輪モータ141と異なる第2のモータ142(以下「第2の後輪モータ142」という)により駆動され、前輪101が第1の後輪モータ141及び第2の後輪モータ142と異なる第3のモータ131(以下「前輪モータ131」という)により駆動される。
【0021】
また、本発明の幾つかの実施形態に係る制御装置1が搭載される車両100は、車両100に働くヨーモーメントを制御すべく、前後輪101,102の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差が生じるように制御可能である。
【0022】
本発明の一実施形態に係る制御装置1が搭載される車両100は、例えば、車両100に働くヨーモーメントを制御すべく、後輪102の左右輪間に所望の駆動トルク差が生じるように制御可能である。
【0023】
本発明の一実施形態に係る車両100は、前輪101と前輪モータ131との間にトランスアクスル132が設けられ、前輪モータ131から前輪101に供給される動力はトランスアクスル132において減速され、前輪101に配分される。また、本発明の一実施形態に係る車両100では、後輪102と第1の後輪モータ141及び第2の後輪モータ142との間には例えば動力分配装置143が設けられ、第1の後輪モータ141から後輪102(左輪102L及び右輪102R)に動力が分配され、第2の後輪モータ142から後輪102(左輪102L及び右輪102R)に動力が分配される。
【0024】
前輪モータ131、第1の後輪モータ141及び第2の後輪モータ142は例えば交流モータであって、前輪モータ131と駆動用バッテリ110との間、第1の後輪モータ141と駆動用バッテリ110との間、及び、第2の後輪モータ142と駆動用バッテリ110との間にはそれぞれインバータ133,145,146を備えている。インバータ133,145,146は駆動用バッテリ110に充電された直流電力を交流電力に変換するものであり、前輪モータ131、第1の後輪モータ141及び第2の後輪モータ142の出力トルクを任意に出力可能である。
【0025】
車両100は、車両制御装置2と複数のモータ制御装置135,147,148を備えている。車両制御装置2(以下「EV-ECU2」という)は車両100を統括的に制御する上位の制御装置であり、複数のモータ制御装置135,147,148はEV-ECU2からの命令に基づいてモータ131,141,142を制御する下位の制御装置である。
【0026】
EV-ECU2は、演算装置、命令や情報を格納するレジスタ、周辺回路等から構成されるプロセッサ(図示せず)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリ(図示せず)のほか入出力インターフェース(図示せず)によって構成される。
【0027】
EV-ECU2には、ステアリング情報(例えば操舵角)、車速情報(例えば車輪速)、アクセルペダル情報(例えば踏込量)やブレーキペダル情報(例えば踏込量)等の情報が入力される。
【0028】
複数のモータ制御装置135,147,148は、EV-ECU2と同様に、演算装置、命令や情報を格納するレジスタ、周辺回路等から構成されるプロセッサ(図示せず)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のメモリ(図示せず)のほか入出力インターフェース(図示せず)によって構成される。
【0029】
複数のモータ制御装置135,147,148には、前輪モータ131を制御するモータ制御装置135、第1の後輪モータ141を制御するモータ制御装置147及び第2の後輪モータ142を制御するモータ制御装置148が含まれ、EV-ECU2からの命令が各モータ制御装置135,147,148に入力され、各モータ制御装置135,147,148からの情報がEV-ECU2に出力される。
【0030】
図2に示すように、本発明の幾つかの実施形態に係る制御装置1は、前後トルク配分演算部21、左右トルク配分演算部22、モータトルク演算部23、モータ制御部24、モータトルク判定部25、及び前後トルク再配分演算部26を備えている。
【0031】
本発明の幾つかの実施形態に係る前後トルク配分演算部21は、車両が要求する総駆動トルクから前後輪101,102に要求される駆動トルクを算出する部分である。
【0032】
本発明の一実施形態に係る前後トルク配分演算部21は、例えばEV-ECU2に設けられる。前後トルク配分演算部21は、上述したように、車両100が要求する総駆動トルクから前後輪101,102に要求される駆動トルクを算出するが、車両100が要求する総駆動トルクは車両100の走行条件や運転者の操作に基づいて算出される。走行条件は例えば車速情報から求められ、運転者の操作は例えばアクセルペダルやブレーキペダルの操作から求められる。前後輪に要求される駆動トルクは、前輪101に要求される駆動トルクと後輪102に要求される駆動トルクであり、車両100が要求する総駆動トルクが配分される。前後トルク配分演算部21が算出する前輪101に要求される駆動トルクと後輪102に要求される駆動トルクは、車両100の走行条件や運転者の操作に基づいて算出されるが、予め定められた配分に基づいて算出してもよい。尚、前後トルク配分演算部21が算出する駆動トルクは車両100が要求する総駆動トルクに対する配分量であってもよいが、車両100が要求する総駆動トルクに対する配分比率であってもよい。これにより、前後トルク配分演算部21では、前輪101に要求される駆動トルクと後輪102に要求される駆動トルクとが算出される。
【0033】
本発明の幾つかの実施形態に係る左右トルク配分演算部22は、車両100に作用するヨーモーメントを制御すべく、前後輪101,102の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差が生じるように、前後トルク配分演算部21で算出された駆動トルクから前後輪101,102の一方の左右輪に要求される駆動トルクを算出する部分である。
【0034】
本発明の一実施形態に係る左右トルク配分演算部22は、例えばEV-ECU2に設けられる。左右トルク配分演算部22は、車両100に左右するヨーモーメントを制御すべく、後輪102の左右輪間に所望のトルク差が生じるように、前後トルク配分演算部21で算出された後輪102に要求される駆動トルクから後輪102の左右輪102L,102Rに要求される駆動トルクを算出する。所望のトルク差は、例えばステアリング情報(例えば操舵角)、車速情報(例えば車輪速)、アクセルペダル情報やブレーキペダル情報等(例えばヨーレイト、駆動トルク、ブレーキ圧)に基づいて算出される。これにより、左右トルク配分演算部22では、後輪102の左輪102Lに要求される駆動トルクと後輪102の右輪102Rに要求される駆動トルクとが算出される。
【0035】
本発明の幾つかの実施形態に係るモータトルク演算部23は、左右トルク配分演算部22で算出された駆動トルクに基づいて第1のモータの出力トルクと第2のモータの出力トルクとを算出する部分である。
【0036】
本発明の一実施形態に係るモータトルク演算部23は、例えばEV-ECU2に設けられる。モータトルク演算部23は、左右トルク配分演算部22で算出された後輪102の左輪102Lに要求される駆動トルクに基づいて第1の後輪モータ141の出力トルクを算出するとともに、後輪102の右輪102Rに要求される駆動トルクに基づいて第2の後輪モータ142の出力トルクを算出する。これにより、モータトルク演算部23では、第1の後輪モータ141の出力トルクと第2の後輪モータ142の出力トルクとが算出される。
【0037】
本発明の幾つかの実施形態に係るモータ制御部24は、モータトルク演算部23で算出された第1のモータの出力トルクを第1のモータが出力し、モータトルク演算部23で算出された第2のモータの出力トルクを第2のモータが出力するように、第1のモータと第2のモータを制御する部分である。
【0038】
本発明の一実施形態に係るモータ制御部24は、例えば、第1の後輪モータ141を制御するモータ制御装置147(以下「RMCU(R)147」という)と第2の後輪モータ142を制御するモータ制御装置148(以下「RMCU(L)148」という)とに設けられる。
【0039】
RMCU(R)147に設けられたモータ制御部24は、モータトルク演算部23で算出された第1の後輪モータ141の出力トルクを第1の後輪モータ141が出力するように第1の後輪モータ141を制御する。モータ制御部24は、例えばモータトルク演算部23で算出された第1の後輪モータ141の出力トルクを第1の後輪モータ141が出力するように、駆動用バッテリ110と第1の後輪モータ141との間に設けられたインバータ145を制御する。また、RMCU(R)147に設けられたモータ制御部24は、第1の後輪モータ141の動作状態及びモータ温度を直接又は間接に取得し、これらの情報(第1の後輪モータ141の動作温度及びモータ温度)を管理するとともにEV-ECU2と共有する(EV-ECU2に出力する)。尚、第1の後輪モータ141の動作状態は例えば負荷の大きさあり、第1の後輪モータ141のモータ温度は例えばモータのコイル温度、冷却オイルの温度又はモータのハウジングの温度である。
【0040】
RMCU(L)148に設けられたモータ制御部24は、モータトルク演算部23で算出された第2の後輪モータ142の出力トルクを第2の後輪モータ142が出力するように第2の後輪モータ142を制御する。モータ制御部24は、例えばモータトルク演算部23で算出された第2の後輪モータ142の出力トルクを第2の後輪モータ142が出力するように、駆動用バッテリ110と第2の後輪モータ142との間に設けられたインバータ146を制御する。また、RMCU(L)148に設けられたモータ制御部24は、第2の後輪モータ142の動作状態及びモータ温度並びにトルク差(第1のモータの出力トルクと第2のモータの出力トルクの差)を直接又は間接に取得し、これらの情報(第2のモータの動作状態及びモータ温度並びにトルク差)を管理するとともにEV-ECU2と共有する(EV-ECU2に出力する)。尚、第2の後輪モータ142の動作状態は例えば負荷の大きさであり、第2の後輪モータ142のモータ温度は例えばモータのコイル温度、冷却オイルの温度又はモータのハウジングの温度である。
【0041】
本発明の幾つかの実施形態に係るモータトルク判定部25は、モータトルク演算部23で算出された第1のモータの出力トルクが第1のモータの動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第1の上限値を超えるか否か、及びモータトルク演算部23で算出された第2のモータの出力トルクが第2のモータの動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第2の上限値を超えるか否かを判定する部分である。
【0042】
本発明の一実施形態に係るモータトルク判定部25は、例えばEV-ECU2に設けられる。モータトルク判定部25は、モータトルク演算部23で算出された第1の後輪モータ141の出力トルクが第1の後輪モータ141の動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第1の上限値を超えるか否か、及びモータトルク演算部23で算出された第2の後輪モータ142の出力トルクが第2の後輪モータ142の動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第2の上限値を超えるか否かを判定する。これにより、モータトルク判定部25では、モータトルク演算部23で算出された第1の後輪モータ141の出力トルクを第1の後輪モータ141が出力できるか否か、及び、モータトルク演算部23で算出された第2の後輪モータ142の出力トルクを第2の後輪モータ142が出力できるか否かが判定される。
【0043】
本発明の幾つかの実施形態に係る前後トルク再配分演算部26は、モータトルク判定部25において第1の上限値を超え、又は第2の上限値を超えると判定された場合に、総駆動トルクを出力すべく、前後トルク配分演算部21で演算された駆動トルクを算出し直す部分である。
【0044】
本発明の一実施形態に係る前後トルク再配分演算部26は、例えば、EV-ECU2に設けられる。前後トルク再配分演算部26は、モータトルク判定部25において第1の上限値を超え、又は、第2の上限値を超えると判定した場合に、第1の後輪モータ141の出力トルクが第1の上限値以下となり、第2の後輪モータ142の出力トルクが第2の上限値以下となるように、前後トルク配分演算部21で算出された前輪101に要求される駆動トルクと後輪102に要求される駆動トルクを算出し直す。
【0045】
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る制御装置1では、前後トルク配分演算部21が車両100の走行条件や運転者の操作に基づいて車両100が要求する総駆動トルクを算出し、車両100の走行条件や運転者の操作に基づいて該総駆動トルクから前輪101に要求される駆動トルクと後輪102に要求される駆動トルクを算出する(ステップS11)。
【0046】
次に、本発明の一実施形態に係る制御装置1では、左右トルク配分演算部22が車両100に作用するヨーモーメントを制御すべく後輪102の左右輪間に所望の駆動トルク差が生じるように、前後トルク配分演算部21で算出された後輪102の駆動トルクから後輪102の左輪102Lに要求される駆動トルクと右輪102Rに要求される駆動トルクを算出する(ステップS12)。
【0047】
例えば、左右トルク配分演算部22は、ステアリング情報、車速情報、アクセルペダル情報やブレーキペダル情報等に基づいて所望の駆動トルク差を算出する(ステップS121)。そして、後輪102に要求される駆動トルクと所望の駆動トルク差に基づいて後輪102の左輪102Lに要求される駆動トルクと右輪102Rに要求される駆動トルクを算出する(ステップS122)。
【0048】
次に、本発明の一実施形態に係る制御装置1では、モータトルク演算部23が左右トルク配分演算部22で算出された後輪102の左輪102Lに要求される駆動トルクと後輪102の右輪102Rに要求される駆動トルクに基づいて第1の後輪モータ141の出力トルクと第2の後輪モータ142の出力トルクを算出する(ステップS13)。
【0049】
次に、本発明の一実施形態に係る制御装置1では、モータトルク判定部25がモータトルク演算部23で算出された第1の後輪モータ141の出力トルクが第1の後輪モータ141の動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第1の上限値を超えるか否か、及びモータトルク演算部23で算出された第2の後輪モータ142の出力トルクが第2の後輪モータ142の動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第2の上限値を超えるか否かを判定する(ステップS14)。
【0050】
次に、本発明の一実施形態に係る制御装置1では、モータトルク判定部25において第1の上限値以下、及び第2の上限値以下であると判定された場合に、RMCU(R)147に設けられたモータ制御部24がモータトルク演算部23で算出された第1の後輪モータ141の出力トルクを第1の後輪モータ141が出力するように制御し、RMCU(L)148に設けられたモータ制御部24がモータトルク演算部23で算出された第2の後輪モータ142の出力トルクを第2の後輪モータ142が出力するように制御する(ステップS15)。
【0051】
次に、本発明の一実施形態に係る制御装置では、モータトルク判定部25において第1の上限値を超え、又は第2の上限値を超えると判定された場合に、車両100が要求する総駆動トルクを出力すべく、前後トルク再配分演算部26が前後トルク配分演算部21で算出された前輪101に要求される駆動トルクと後輪102に要求される駆動トルクを算出し直す(ステップS16)。これにより、前輪101に要求される駆動トルクが増加し、後輪102に要求される駆動トルクが減少する。
【0052】
上述した本発明の一実施形態に係る制御装置1によれば、前後トルク再配分演算部26は、モータトルク判定部25において第1の上限値を超え、又は第2の上限値を超えると判定された場合に、総駆動トルクを出力すべく、前後トルク配分演算部21で算出された前輪101に要求される駆動トルクと後輪102に要求される駆動トルクを算出し直す。これにより、前輪101に要求される駆動トルクが増加し、後輪102に要求される駆動トルクが減少する。そして、モータトルク判定部25において第1の上限値以下、及び第2の上限値以下であると判定され、RMCU(R)147に設けられたモータ制御部24がモータトルク演算部23で算出された第1の後輪モータ141の出力トルクを第1の後輪モータ141が出力するように制御し、RMCU(L)148に設けられたモータ制御部24がモータトルク演算部23で算出された第2の後輪モータ142の出力トルクを第2の後輪モータ142が出力するように制御する。この結果、前後輪の一方に要求される駆動トルクを第1のモータ及び第2のモータが出力できない場合でも、前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせつつ、車両100が要求する総駆動トルクを車両全体として出力できる。
【0053】
本発明の幾つかの実施形態に係る制御装置1では、前後トルク再配分演算部26は、モータトルク判定部25において第1の上限値を超え、又は第2の上限値を超えると判定された場合に、第1のモータの出力トルクが第1の上限値以下、かつ、第2のモータの出力トルクが第2の上限値以下となる範囲で、前後輪の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差が生じるように、前後トルク配分演算部21で算出された駆動トルクを算出し直す。
【0054】
本発明の一実施形態に係る制御装置1では、前後トルク再配分演算部26は、モータトルク判定部25において第1の上限値を超え、又は第2の上限値を超えると判定された場合に、第1の後輪モータ141の出力トルクが第1の上限値以下、かつ、第2の後輪モータ142の出力トルクが第2の上限値以下となる範囲で、後輪102の左右輪間に所望の駆動トルク差が生じるように、前後トルク配分演算部21で算出された前輪101に要求される駆動トルクと後輪102に要求される駆動トルクを算出し直す。
【0055】
上述した本発明の一実施形態に係る制御装置1によれば、第1の後輪モータ141の出力トルクが第1の上限値以下、かつ、第2の後輪モータ142の出力トルクが第2の上限値以下となり、後輪102の左右輪間に所望の駆動トルク差が生じる。これにより、第1の後輪モータ141の出力トルクが第1の上限値を超え、又は第2の後輪モータ142の出力トルクが第2の上限値を超える場合でも、後輪102の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせることができる。
【0056】
図4に示すように、本発明の幾つかの実施形態に係る制御装置1は、更に、駆動源制御部27及び駆動源トルク判定部28を備える。
【0057】
本発明の幾つかの実施形態に係る駆動源制御部27は、前後トルク配分演算部21で算出された駆動トルクに基づいて駆動源の出力トルクを算出し、該出力トルクを駆動源が出力するように駆動源を制御する部分である。
【0058】
本発明の一実施形態に係る駆動源制御部27は、例えば、前輪モータ131を制御するモータ制御装置135(以下「FMCU135」という)に設けられる。駆動源制御部27は、前後トルク配分演算部21で算出された前輪101に要求される駆動トルクに基づいて前輪モータ131の出力トルクを算出し、該出力トルクを前輪モータ131が出力するように前輪モータ131を制御する。駆動源制御部27は、例えば駆動源制御部27で算出された前輪モータ131の出力トルクを前輪モータ131が出力するように、駆動用バッテリ110と前輪モータ131との間に設けられたインバータ133を制御する。また、駆動源制御部27は、前輪モータ131の動作状態及びモータ温度を直接又は間接に取得し、これらの情報(前輪モータ131の動作温度及びモータ温度)を管理するとともにEV-ECU2と共有する(EV-ECU2に出力する)。尚、前輪モータ131の動作状態は例えば負荷の大きさであり、前輪モータ131のモータ温度は例えばモータのコイルの温度、冷却オイルの温度又はモータのハウジングの温度である。
【0059】
本発明の幾つかの実施形態に係る駆動源トルク判定部28は、前後トルク配分演算部21で算出された駆動トルクに基づいて算出された駆動源の出力トルクが駆動源の動作状態及び駆動源の温度に基づいて定められる第3の上限値を超えるか否かを判定する部分である。
【0060】
本発明の一実施形態に係る駆動源トルク判定部28は、例えばEV-ECU2に設けられる。駆動源トルク判定部28は、前後トルク配分演算部21で算出された前輪101に要求される駆動トルクに基づいて算出された前輪モータ131の出力トルクが前輪モータ131の動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第3の上限値を超えるか否かを判定する。これにより、駆動源トルク判定部28では、前後トルク配分演算部21で算出された前輪101に要求される駆動トルクを前輪モータ131が出力できるか否かが判定される。
【0061】
本発明の幾つかの実施形態に係る制御装置1では、前後トルク再配分演算部26は、駆動源トルク判定部28において第3の上限値を超えると判定された場合に、駆動源の出力トルクが第3の上限値以下となるように、前後トルク配分演算部21で算出された駆動トルクを算出し直す。
【0062】
本発明の一実施形態に係る制御装置1では、前後トルク再配分演算部26は、駆動源トルク判定部28において第3の上限値を超えると判定された場合に、前輪モータ131の出力トルクが第3の上限値以下となるように、前後トルク配分演算部21で算出された駆動トルクを算出し直す。
【0063】
図5に示すように、上述した本発明の一実施形態に係る制御装置1では、モータトルク判定部25が第1の上限値以下であり、かつ、第2の上限値以下であると判定された場合に、駆動源トルク判定部28が前後トルク配分演算部21で算出された前輪101に要求される駆動トルクに基づいて算出された前輪モータ131の出力トルクが前輪モータ131の動作状態及びモータ温度に基づいて定められる第3の上限値を超えるか否かを判定する(ステップS21)。
【0064】
次に、本発明の一実施形態に係る制御装置1では、駆動源トルク判定部28において第3の上限値以下であると判定された場合(ステップS21:No)に、駆動源制御部27が前後トルク配分演算部21で算出された前輪101に要求される駆動トルクに基づいて算出された前輪モータ131の出力トルクを前輪モータ131が出力するように制御する(ステップS22)。
【0065】
次に、本発明の一実施形態に係る制御装置1では、駆動源トルク判定部28において第3の上限値を超えると判定された場合に、車両100が要求する総駆動トルクを出力すべく、前後トルク再配分演算部26が前後トルク配分演算部21で算出された前輪101に要求される駆動トルクと後輪102に要求される駆動トルクを算出し直す(ステップS23)。これにより、前輪101に要求される駆動トルクが減少し、後輪102に要求される駆動トルクが増加する。
【0066】
上述した本発明の一実施形態に係る制御装置1によれば、前後トルク再配分演算部26は、駆動源トルク判定部28において第3の上限値を超えると判定された場合に、前輪モータ131の出力トルクが第3の上限値以下となるように、前後トルク配分演算部21で算出された駆動トルクを算出し直す。これにより、前輪101に要求される駆動トルクを前輪モータ131が出力できない場合でも、車両100が要求する総駆動トルクを車両全体として出力できる。
【0067】
図6に示すように、本発明の幾つかの実施形態に係る車両100は、制動ユニット160を備える。制動ユニット160は、前後輪101,102の一方の左右輪を夫々単独で制動可能である。
【0068】
本発明の一実施形態に係る制動ユニット160は、後輪102の左右輪を夫々単独で制動可能である。制動ユニット160(以下「ASCユニット160」という)は、ハイドロリックユニット161及び制御装置162(以下「ASC-ECU162」という)を備え、ASC-ECU162がハイドロリックユニット161を制御することで、一輪又は複数輪の制動が可能である。
【0069】
本発明の幾つかの実施形態に係る制御装置1では、モータトルク判定部25において第1のモータ及び第2のモータのみで前後輪101,102の一方の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせることができないと判定された場合に、前後輪101,102の一方の左右輪のうち要求される駆動トルクが小さい一輪の制動力が増大するように、制動ユニット160に制動させる。
【0070】
本発明の一実施形態に係る制御装置1では、モータトルク判定部25において第1の後輪モータ141及び第2の後輪モータ142のみで後輪102の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせることができないと判定された場合に、後輪102の左右輪102L,102Rのうち要求される駆動輪が小さい一輪の制動力が増大するように、ASC-ECU162にハイドロリックユニット161を制御させる。
【0071】
図7に示すように、本発明の一実施形態に係る車両100では、モータトルク判定部25において第1の上限値を超え、又は第2の上限値を超えると判定された場合に(ステップS14:No)、第1の後輪モータ141及び第2の後輪モータ142のみで後輪102の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせることができるか否かを判定する(ステップS31)。
【0072】
モータトルク判定部25において所望の駆動トルク差を生じさせることができると判定した場合に(ステップS31:Yes)、RMCU(R)147に設けられたモータ制御部24がモータトルク演算部23で算出された第1の後輪モータ141の出力トルクを第1の後輪モータ141が出力するように制御し、RMCU(L)148に設けられたモータ制御部24がモータトルク演算部23で算出された第2の後輪モータ142の出力トルクを第2の後輪モータ142が出力するように制御する(ステップS15)。
【0073】
一方、モータトルク判定部25において所望の駆動トルク差を生じさせることができないと判定した場合に(ステップS31:No)、後輪102の左右輪のうち要求される駆動トルクが小さい一輪の制動力が増大するように、ASC-ECU162にハイドロリックユニット161を制御する(ステップS32)。これにより、後輪102の左右輪のうち要求される駆動輪の駆動トルクが小さくなるので、後輪102の左右輪に所望のトルク差が生じる。
【0074】
上述した本発明の一実施形態に係る車両100によれば、第1の後輪モータ141及び第2の後輪モータ142のみで後輪102の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせることができない場合にも、後輪102の左右輪102L,102Rのうち要求される駆動トルクが小さい一輪の制動力が増大することで、後輪102の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせることができる。
【0075】
本発明の幾つかの実施形態に係る制御装置1では、前後トルク再配分演算部26は、モータトルク判定部25において第1の上限値を超え、又は第2の上限値を超えると判定された場合でも、第1のモータのモータ温度が予め設定された第1の温度以下であり、かつ、第2のモータのモータ温度が予め設定された第2の温度以下である場合に、前後トルク配分演算部21で算出された駆動トルクの算出し直しを中止する。
【0076】
本発明の一実施形態に係る制御装置1では、前後トルク再配分演算部26は、モータトルク判定部25において第1の上限値を超え、又は第2の上限値を超えると判定された場合であっても、第1の後輪モータ141のモータ温度が予め設定された第1の温度以下であり、かつ、第2の後輪モータ142のモータ温度が予め設定された第2の温度以下である場合に、前後トルク配分演算部21で算出された駆動トルクの算出し直しを中止する。
【0077】
図8に示すように、本発明の一実施形態に係る制御装置1では、モータトルク判定部25において第1の上限値を超え、又は第2の上限値を超えると判定された場合(ステップS14:Yes)には、第1の後輪モータ141のモータ温度が第1の温度を超え、及び第2の後輪モータ142のモータ温度が第2の温度を超えるか否かを判定する(ステップS41)。
【0078】
第1の後輪モータ141のモータ温度が第1の温度を超え、又は第2の後輪モータ142のモータ温度が第2の温度を超えると判定された場合(ステップS41:Yes)に、前後トルク配分演算部21で算出された駆動トルクの算出し直しを中止する(ステップS42)。
【0079】
一方、第1の後輪モータ141のモータ温度が第1の温度以下であり、第2の後輪モータ142のモータ温度が第2の温度以下であると判定された場合(ステップS41:No)に、第1の後輪モータ141の出力トルクが第1の上限値以下、かつ、第2の後輪モータ142の出力トルクが第2の上限値以下となる範囲で、後輪102の左右輪間に所望の駆動トルク差が生じるように、前後トルク配分演算部21で算出された前輪101に要求される駆動トルクと後輪102に要求される駆動トルクを算出し直す。
【0080】
上述した本発明の一実施形態に係る制御装置1によれば、第1の後輪モータ141の出力トルクが第1の上限値を超え、又は第2の後輪モータ142の出力が第2の上限値を超える場合でも、第1の後輪モータ141のモータ温度が第1の温度以下であり、かつ、第2の後輪モータ142のモータ温度が第2の温度以下である場合には、後輪102の左右輪間に所望の駆動トルク差を生じさせつつ、車両100が要求する総駆動トルクを出力できる。
【0081】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0082】
例えば、上述した一実施形態では、前輪101を前輪モータ131で駆動する例を説明したが、エンジンで駆動するものであってもよいし、モータ及びエンジンで駆動するものであってもよい。前輪101をモータ及びエンジンで駆動する場合には、駆動用バッテリ110に充電された電力のみで走行する場合にモータを駆動源とし、エンジンで駆動用バッテリ110に充電しながら駆動用バッテリ110に充電された電力で走行する場合にはモータを駆動源とする。また、エンジン及びモータによって走行する場合にはエンジン及びモータを駆動源とする。
【符号の説明】
【0083】
1 制御装置(四輪駆動の電動車両の制御装置)
2 車両制御装置(EV-ECU)
21 前後トルク配分演算部
22 左右トルク配分演算部
23 モータトルク演算部
24 モータ制御部
25 モータトルク判定部
26 前後トルク再配分演算部
27 駆動源制御部
28 駆動源トルク判定部
100 電動車両
101 前輪
102 後輪
102L 左輪
102R 右輪
110 駆動用バッテリ
131 前輪モータ
132 トランスアクスル
133 インバータ
135 モータ制御装置(FMCU)
141 第1の後輪モータ
142 第2の後輪モータ
143 動力分配装置
145 インバータ
146 インバータ
147 モータ制御装置(RMCU(R))
148 モータ制御装置(RMCU(L))
160 制動ユニット(ASCユニット)
161 ハイドロリックユニット
162 ASC-ECU