(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】改質天然ゴム及びゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08C 1/00 20060101AFI20240402BHJP
C08L 7/02 20060101ALI20240402BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20240402BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240402BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C08C1/00
C08L7/02
C08K5/00
C08K3/013
B60C1/00 B
(21)【出願番号】P 2020010866
(22)【出願日】2020-01-27
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】宮地 大樹
(72)【発明者】
【氏名】カマリン カンヤワララック
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/012365(WO,A1)
【文献】特開2007-204545(JP,A)
【文献】特開2009-256482(JP,A)
【文献】国際公開第2010/074245(WO,A1)
【文献】特開2007-284637(JP,A)
【文献】特表2011-512429(JP,A)
【文献】国際公開第2012/105681(WO,A1)
【文献】特開昭60-238326(JP,A)
【文献】特開2007-291347(JP,A)
【文献】特開2015-199866(JP,A)
【文献】特開2018-058975(JP,A)
【文献】特開2018-199790(JP,A)
【文献】特開2020-090640(JP,A)
【文献】特許第5364231(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)防腐殺菌剤
(ただし、ギ酸を除く)を添加した天然ゴムラテックスより得られる固形原料及び/又は(2)天然ゴムラテックスの凝固物に防腐殺菌剤
(ただし、ギ酸を除く)を添加して得られる固形原料から作製され、該防腐殺菌剤が、トリアジン類、パラベン類、ホウ酸類、グリコールエーテル類、並びに、pKa4以上の有機酸及びその金属塩からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記グリコールエーテル類が、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノール、及びフェノキシイソプロパノールからなる群より選択される少なくとも1種である改質天然ゴム。
【請求項2】
前記防腐殺菌剤は、ホウ酸類、グリコールエーテル類、並びに、pKa4以上の有機酸及びその金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載の改質天然ゴム。
【請求項3】
前記天然ゴムラテックスのゴム固形分100質量部に対する前記防腐殺菌剤の添加量が0.01~10質量部である請求項1又は2記載の改質天然ゴム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の改質天然ゴムを含有するゴム成分を含むゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分100質量部に対するフィラーの含有量が5~150質量部である請求項4記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項4又は5記載のゴム組成物を用いたタイヤ部材を有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質天然ゴム、それを用いたゴム組成物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、天然ゴムはヘベア・ブラジリエンシスと呼ばれるゴムノキから採取された樹液(ラテックス)を固形化したもので、ギ酸等の酸で凝固、シート化、乾燥して製造する方法、ラテックス採取用のカップの中で自然に凝固させたり、カップに酸を添加して凝固させて得られたカップランプを粉砕、洗浄を繰り返し、乾燥後プレスして製造する方法等により固形化されている。
【0003】
このような方法で製造された天然ゴムは、タンパク質、脂質、糖等の非ゴム成分を多量に含んでいるので、原材料の貯蔵期間中に非ゴム成分が腐敗したり、乾燥工程での熱分解により非ゴム成分が分解することで悪臭が発生する。特にカップランプは、非ゴム成分を多く含み、農園での貯蔵、加工所での貯蔵・輸送期間などから貯蔵期間が長く、臭気の問題が生じ易い。その一方で、製造のし易さ、コストの面から、これを原材料とした天然ゴムが多用されているが、天然ゴムの加工工場、タイヤ等のゴム製品の製造工場では、天然ゴムの腐敗臭による作業環境の悪化、周辺の環境への影響などが問題視されている。
【0004】
特許文献1、2は、カップランプ(天然ゴム原材料)の微細化、シート化して水分率を低減することや、乾燥温度を低温化することで、非ゴム成分の分解を抑制し、臭気を低減する方法を開示している。しかし、この方法で菌体や微生物の活性は減少するものの、完全ではなく、保管期間が長期化すると徐々に臭気物質が発生する懸念がある。
【0005】
特許文献3は、防腐剤を添加した天然ゴムラテックスを酵素処理する改質天然ゴムラテックスの製法を開示している。この製法は、防腐剤を添加して液体状態のラテックスの凝固を抑制し、後工程の液体状態での酵素処理を円滑に進めるための方法であり、カップランプ等の固形材料に添加するものではない。また、酵素処理により、老化防止作用を有する非ゴム成分が分解されて耐劣化性能に劣る、天然ゴムの主鎖が切断されて分子量が小さくなるため耐摩耗性が低下する、という問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-58975号公報
【文献】特開2018-199790号公報
【文献】特許第5364231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、カップランプ等の固形原料を原材料とするにもかかわらず、臭気抑制性及び耐劣化性能に優れた改質天然ゴム、これを用いたゴム組成物及びタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(1)防腐殺菌剤を添加した天然ゴムラテックスより得られる固形原料及び/又は(2)天然ゴムラテックスの凝固物に防腐殺菌剤を添加して得られる固形原料から作製され、該防腐殺菌剤が、トリアジン類、パラベン類、ホウ酸類、グリコールエーテル類、並びに、pKa4以上の有機酸及びその金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である改質天然ゴムに関する。
【0009】
前記防腐殺菌剤は、ホウ酸類、グリコールエーテル類、並びに、pKa4以上の有機酸及びその金属塩からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
前記改質天然ゴムは、前記天然ゴムラテックスのゴム固形分100質量部に対する前記防腐殺菌剤の添加量が0.01~10質量部であることが好ましい。
【0011】
本発明は、前記改質天然ゴムを含むゴム組成物に関する。
前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対するフィラーの含有量が5~150質量部であることが好ましい。
【0012】
前記ゴム組成物は、臭気成分指数が5.0×105以下であることが好ましい。
本発明はまた、前記ゴム組成物を用いたタイヤ部材を有するタイヤに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、(1)防腐殺菌剤を添加した天然ゴムラテックスより得られる固形原料及び/又は(2)天然ゴムラテックスの凝固物に防腐殺菌剤を添加して得られる固形原料から作製され、該防腐殺菌剤が、トリアジン類、パラベン類、ホウ酸類、グリコールエーテル類、並びに、pKa4以上の有機酸及びその金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である改質天然ゴムであるので、臭気抑制性及び耐劣化性能に優れた改質天然ゴム、ゴム組成物及びタイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔改質天然ゴム〕
本発明の改質天然ゴムは、(1)防腐殺菌剤を添加した天然ゴムラテックスより得られる固形原料及び/又は(2)天然ゴムラテックスの凝固物に防腐殺菌剤を添加して得られる固形原料から作製され、該防腐殺菌剤が、トリアジン類、パラベン類、ホウ酸類、グリコールエーテル類、並びに、pKa4以上の有機酸及びその金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である。該天然ゴムは、固形原料を原材料として作製したものにもかかわらず、臭気抑制性及び耐劣化性能に優れている。
【0015】
天然ゴムの臭気は、天然ゴムの非ゴム成分であるタンパク質、脂質、糖などが貯蔵中に腐敗することや、乾燥中に分解することで、臭気の原因物質である低級脂肪酸やその他の臭気物質が発生することが原因と考えられる。また、腐敗したタンパク質や糖は、天然ゴム中に含まれる水分やゴム成分の間隙に含まれていると考えられる。本発明は、トリアジン類、パラベン類、ホウ酸類、グリコールエーテル類、並びに、pKa4以上の有機酸及びその金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である防腐殺菌剤を添加した天然ゴムラテックスより得られる固形原料や、天然ゴムラテックスの凝固物に、トリアジン類、パラベン類、ホウ酸類、グリコールエーテル類、並びに、pKa4以上の有機酸及びその金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である防腐殺菌剤を添加して得られる固形原料を原材料とすることにより、原材料の貯蔵中に菌体や微生物が原材料に付着しても、菌体や微生物を死滅させたり、生理的活性を抑制し、生育を阻害して活性を低下させることで、非ゴム成分の分解が抑制され、それにより、天然ゴム臭気の原因となる低級脂肪酸類やその他の臭気物質の発生を抑制できるという知見を見出したものである。また、天然ゴムには元々トコトリエノールなどの天然の老化防止剤も含まれ、これらの物質も菌体により分解されると考えられるが、前記改質天然ゴムは、上記防腐殺菌剤により、トコトリエノールなどの天然老化防止剤の分解も抑制され、優れた耐老化性能も有している。従って、カップランプ等の固形原料を原材料とする天然ゴムにもかかわらず、臭気抑制性及び耐劣化性能の両性能に優れた改質天然ゴムを提供できる。
【0016】
前記改質天然ゴムは、(1)防腐殺菌剤を添加した天然ゴムラテックスより得られる固形原料、及び(2)天然ゴムラテックスの凝固物に防腐殺菌剤を添加して得られる固形原料からなる群より選択される少なくとも1種の固形原料(固形状の原材料)から作製され、該防腐殺菌剤が、トリアジン類、パラベン類、ホウ酸類、グリコールエーテル類、並びに、pKa4以上の有機酸及びその金属塩からなる群より選択される少なくとも1種であるものである。
【0017】
天然ゴムは、2つの製造方法により作製されるリブド・スモークド・シート(RSS)、技術的格付けゴム(TSR)が代表的である。RSSは、タッピング後、採取した天然ゴムラテックスを酸等によりゴム成分を凝固し、固形ゴムを燻煙乾燥(スモーキング)して作製される。TSRは、タッピング後、天然ゴムラテックスのゴム成分を自然凝固又は酸凝固(カップランプ)させ、粉砕、水洗、脱水後、固形ゴムを乾燥して作製される。そして、前記(1)、(2)の固形原料としては、凝固前の天然ゴムラテックスに上記防腐殺菌剤を添加したものを凝固して作製される固形状の材料、天然ゴムラテックスのゴム成分を自然凝固又は酸凝固させて得られたカップランプに上記防腐殺菌剤を添加して作製される固形状の材料、等が挙げられる。
【0018】
天然ゴムラテックスとしては、ゴムノキをタッピングして出てくる生ラテックス(フィールドラテックス)、遠心分離法やクリーミング法によって濃縮した濃縮ラテックス(精製ラテックス、常法によりアンモニアを添加したハイアンモニアラテックス、亜鉛華とTМTDとアンモニアによって安定化させたLATZラテックス等)等の従来公知のものを使用できる。
【0019】
前記(1)、(2)の固形材料に使用される防腐殺菌剤は、菌体や微生物を死滅させるために殺菌作用を有する薬剤、又は、製品の保存を目的として菌体や微生物の生理的活性を抑制し、生育を阻害するために添加される防腐剤である。防腐殺菌剤を用いることで、原材料の貯蔵中に菌体や微生物が原材料に付着しても、菌体や微生物を死滅させたり、生理的活性を抑制し、生育を阻害して活性を低下させることで非ゴム成分の分解が抑制され、それにより、臭気が抑制されると共に、耐劣化性能の低下も抑制できる。
【0020】
前記防腐殺菌剤は、菌体や微生物の殺菌作用や防腐作用を持つものであり、トリアジン類、パラベン類(パラオキシ安息香酸エステル類)、ホウ酸類、グリコールエーテル類、並びに、pKa4以上の有機酸及びその金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である。なかでも、臭気抑制性、耐劣化性能の観点から、ホウ酸類、グリコールエーテル類、pKa(酸解離定数)4以上の有機酸及びその金属塩が好ましい。
【0021】
トリアジン類としては、菌体や微生物の殺菌作用や防腐作用を持つものが使用可能であり、例えば、1,3,5-トリアジン、アメトリン、アトラジン、シアナジン、デスメトリン、ジメタメトリン、プロメトン、プロメトリン、プロパジン、シマジン、シメトリン、テルブメトン、テルブチラジン、テルブトリン、トリエタジン、アニラジン等が挙げられる。
【0022】
パラベン類(パラオキシ安息香酸エステル類)としては、菌体や微生物の殺菌作用や防腐作用を持つものが使用可能であり、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、イソプロピルパラベン、イソブチルパラベン等が挙げられる。
【0023】
ホウ酸類としては、菌体や微生物の殺菌作用や防腐作用を持つものが使用可能であり、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等が挙げられる。
【0024】
グリコールエーテル類としては、菌体や微生物の殺菌作用や防腐作用を持つものが使用可能であり、例えば、フェノキシエタノール、フェノキシプロパノール、フェノキシイソプロパノール等が挙げられる。
【0025】
前記pKa4以上の有機酸及びその金属塩としては、菌体や微生物の殺菌作用や防腐作用を持つものが使用可能である。pKa4以上の有機酸としては、安息香酸、ソルビン酸、デヒドロ酢酸、グルコン酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸等が挙げられる。pKa4以上の有機酸の金属塩としては、これらの有機酸の金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩等)が挙げられ、例えば、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム等が挙げられる。
【0026】
前記(1)の上記防腐殺菌剤を添加した天然ゴムラテックスより得られる固形原料は、上記防腐殺菌剤を添加した天然ゴムラテックスを凝固(凝集)させることで、固形状の材料(凝集ゴム)を作製できる。
【0027】
上記防腐殺菌剤を添加した天然ゴムラテックスは、天然ゴムラテックスと上記防腐殺菌剤との混合が可能な公知の混合方法で作製できる。混合に供する防腐殺菌剤としては、例えば、水等の溶媒に防腐殺菌剤を溶解し、適宜濃度を調整した溶液、分散液等を使用できる。
【0028】
凝固(凝集)方法としては、ギ酸、酢酸、硫酸などの酸を添加してpHを調整し、必要に応じて更に高分子凝集剤を添加する方法などが挙げられる。上記pHは、好ましくは3.0~5.0、より好ましくは3.5~4.5の範囲に調整される。高分子凝集剤としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの塩化メチル4級塩の重合体などのカチオン性高分子凝集剤、アクリル酸塩の重合体などのアニオン系高分子凝集剤、アクリルアミド重合体などのノニオン性高分子凝集剤、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの塩化メチル4級塩-アクリル酸塩の共重合体などの両性高分子凝集剤などが挙げられる。高分子凝集剤の添加量は、適宜調整すればよい。
【0029】
前記(2)の天然ゴムラテックスの凝固物に上記防腐殺菌剤を添加して得られる固形原料において、天然ゴムラテックスの凝固物(凝集ゴム)は、前述の凝固(凝集)方法を用いて天然ゴムラテックスを凝固(凝集)させることにより作製できる。次いで、得られた天然ゴムラテックスの凝固物と上記防腐殺菌剤との混合が可能な公知の混合方法により、固形原料を作製できる。混合に供する防腐殺菌剤は、前述の溶液、分散液等を使用できる。
【0030】
前記(1)、(2)の固形原料の作製において、上記防腐殺菌剤の添加量は、天然ゴムラテックスのゴム固形分100質量部に対して、臭気抑制の観点から、0.01質量部以上が好ましく、0.03質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上が更に好ましく、0.1質量部以上がより更に好ましく、0.3質量部以上が特に好ましく、0.5質量部以上が最も好ましい。該添加量の上限は特に限定されないが、経済性の観点から、10質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましい。
【0031】
そして、前述の方法で作製された前記(1)、(2)の固形原料(含水凝固物)を、必要に応じて、洗浄、乾燥することで、改質天然ゴムを製造できる。前記(1)、(2)の固形原料は、天然ゴムラテックスと上記防腐殺菌剤を用いて作製した原材料で長期間貯蔵しても、腐敗の進行が抑制され、臭気が低減されるもので、これを用いた作製される改質天然ゴムも同様に臭気を低減できる。
【0032】
上記洗浄工程は特に限定されず、公知の洗浄方法を適用できる。例えば、固形原料を水で希釈した後、遠心分離する方法、固形原料を水浴に静置して浮かせ、水相のみを排出する方法、固形原料を水浴で撹拌しながら洗浄し、水相のみを排出する方法等が挙げられる。なお、洗浄工程に供される固形原料は、そのまま凝固物を用いても、適宜任意の大きさに切断、破砕した破砕物を用いてもよい。
【0033】
上記乾燥工程は特に限定されず、公知の乾燥手法を使用可能である。乾燥温度は、140℃以下が好ましい。これにより、非ゴム成分の分解による低級脂肪酸の発生を抑制でき、臭気を低減できる。該乾燥温度は、135℃以下がより好ましく、130℃以下が更に好ましく、125℃以下がより更に好ましく、120℃以下が特に好ましい。下限は特に制限されないが、生産性の観点から、75℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上が更に好ましい。乾燥時間は、乾燥温度、乾燥状態に応じて適宜設定すればよい。
【0034】
上記洗浄工程の前に、前記(1)、(2)の固形原料(含水凝固物)を、その水分率を低減させる脱水工程に供してもよい。この工程により、臭気の原因となる物質が水分とともに除去され、臭気を低減できる。
【0035】
上記脱水工程において、上記固形原料(含水凝固物)の水分率を低減する方法としては、固形原料の水分率の低減が可能な方法であれば特に限定されないが、固形原料内部に含まれる水分も除去できる観点から、固形原料物を搾る方法(固形原料を圧搾する方法等)が好ましい。固形原料を搾る方法としては、例えば、固形原料をミリングロール等のロールに通して圧搾する等の方法が挙げられる。含水凝固物をロールに通して圧搾する装置としては、クリーパーを使用すればよい。
【0036】
固形原料(含水凝固物)をロールに通して圧搾した場合、圧搾後の固形原料は比較的平たい形状となる。上記圧搾後の固形原料の厚みは、生産性の観点から、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上、更に好ましくは8mm以上である。一方、上限は、脱水工程による効果の観点から、好ましくは3cm以下、より好ましくは2cm以下である。
【0037】
上記脱水工程後の固形原料(含水凝固物)の水分率は、貯蔵中の腐敗の進行抑制の観点から、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、更に好ましくは20%以下、より更に好ましくは15%以下である。下限は特に限定されず、低ければ低いほどよいが、水分率の調整の効率性の観点から、3%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上が更に好ましい。なお、上記水分率は、脱水工程後の固形原料(含水凝固物)における乾燥前後の重量差から測定できる。
【0038】
例えば、クリーパーを用いて、上記固形原料(含水凝固物)の水分率を低減する場合、クリーパーに通す回数は4回以下が好ましく、3回以下がより好ましく、1回でも十分な臭気改善効果を発揮できる。5回以上になると、水分の除去効率が低下するため、工数に対する臭気改善効果が薄くなってしまう。概ね、クリーパーを通す回数が1回であれば、通した後の固形原料(含水凝固物)の水分率は30%以下、クリーパーを通す回数が3回であれば、通した後の固形原料(含水凝固物)の水分率は20%以下になる。他方、クリーパーを通す回数を5回にすると、通した後の含水凝固物の水分率は10%以下まで減少する。
【0039】
上記洗浄工程の前において、上記脱水工程に加え、更に上記固形原料(含水凝固物)を塩基性溶液に接触させる塩基処理工程に供してもよい。すなわち、上記脱水工程の後、該脱水工程により得られた固形原料(含水凝固物)を塩基性溶液に接触させる塩基処理工程を行うことが好ましい。脱水工程後に固形原料を貯蔵した場合でも、臭気原因物質である低級脂肪酸の発生を抑制できるものの、発生を完全に抑えられない。一方、貯蔵後の固形原料(含水凝固物)を塩基性溶液に接触させると、発生した少量の低級脂肪酸が中和、除去され、臭気を低減できる。なお、上記塩基処理工程において、固形原料(含水凝固物)を塩基性溶液に接触させる際には、そのまま凝固物(固形原料)を用いても、適宜任意の大きさに切断、破砕した破砕物を用いてもよい。
【0040】
上記塩基処理工程において、固形原料(含水凝固物)を塩基性溶液に接触させる方法としては、例えば、固形原料に塩基性溶液を塗布したり、スプレー、シャワーなどにより噴霧したり、固形原料を塩基性溶液に浸漬したりすることで実施できるが、脱臭効果、効率の観点から、固形原料を塩基性溶液に浸漬する方法が好ましい。固形原料を塩基性溶液に浸漬する方法を採用する場合、塩基性溶液中に固形原料を放置することで実施できるが、更に、浸漬時に撹拌及び/又はマイクロ波照射を行うことで、脱臭効果が促進される。
【0041】
固形原料(含水凝固物)と塩基性溶液との接触時間(処理時間)は特に限定されないが、臭気低減効果の観点から、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上が更に好ましく、3時間以上が特に好ましい。上限は、塩基性溶液のpH、濃度にも依存するため、特に規定されないが、生産性の観点から、48時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましく、16時間以下が更に好ましい。
【0042】
固形原料(含水凝固物)と塩基性溶液との接触温度(処理温度)は特に限定されないが、例えば、10~50℃が好ましく、15~35℃がより好ましく、室温(20~30℃)が特に好ましい。
【0043】
上記塩基性溶液は、塩基性を呈する溶液であれば特に限定されないが、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、金属リン酸塩、及びアンモニアからなる群より選択される少なくとも1種の塩基性物質(塩基性無機物)を含む溶液を好適に使用できる。これにより、臭気成分が良好に中和、除去され、臭気を低減でき、また、耐熱老化性等の物性の低下も防止できる。上記塩基性溶液としては、上記塩基性物質を含有する水溶液、上記塩基性物質を含有するアルコール溶液等が挙げられるが、上記塩基性物質を含有する水溶液が好ましい。なお、上記塩基性溶液は、上記塩基性物質を水、アルコール等の溶媒で希釈、溶解することで調製できる。
【0044】
金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩;等が挙げられる。金属炭酸水素塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩等が挙げられる。金属リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属リン酸塩等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、アンモニアが好ましく、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アンモニアがより好ましく、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムが更に好ましく、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが特に好ましい。
【0045】
上記塩基性溶液における上記塩基性物質の濃度は、臭気成分の中和、除去の観点から、上記塩基性溶液100質量%中、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。該濃度の上限は、経済性、処理後のゴム物性(耐熱老化性等)の維持性の観点から、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5.0質量%以下が更に好ましく、3.0質量%以下が特に好ましい。
【0046】
上記塩基性溶液は、臭気成分の中和、除去の観点から、上記塩基性物質に加え、更に界面活性剤を含む溶液であることが好ましい。界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を使用できる。陰イオン性界面活性剤としては、カルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系、リン酸エステル系等の陰イオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂質エステル系、アルキルポリグリコシド系等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。両性界面活性剤としては、アミノ酸型、ベタイン型、アミンオキサイド型等の両性界面活性剤が挙げられる。なかでも、陰イオン性界面活性剤が好ましい。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
好適な陰イオン性界面活性剤として具体的には、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、脂肪酸塩等が挙げられる。これらの塩としては、アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)、アンモニウム塩、アミン塩(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン塩などのアルカノールアミン塩)などが挙げられる。なかでも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が特に好ましい。
【0048】
アルキル硫酸エステル塩としては、高級アルキル硫酸エステル塩(高級アルコール硫酸エステル塩)が好適であり、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩が好ましい。また、アルキル硫酸エステル塩におけるアルキル基の炭素数は10~20が好ましく、10~16がより好ましい。上記アルキル硫酸エステル塩の具体例としては、ラウリル硫酸ナトリウム(ドデシル硫酸ナトリウム)、ラウリル硫酸カリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ミリスチル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸カリウム、セチル硫酸ナトリウム、セチル硫酸カリウムなどが挙げられる。なかでも、タンパク質量などの低減効果に優れるという理由から、ラウリル硫酸ナトリウムが好ましい。
【0049】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩としては、炭素数10~18のアルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好ましく、アミン塩、ナトリウム塩がより好ましく、ナトリウム塩が更に好ましい。上記炭素数は10~14が好ましい。また、オキシエチレン基の平均重合度は、好ましくは1~10、より好ましくは1~5である。具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミンなどが挙げられる。なかでも、タンパク質量などの低減効果に優れるという理由から、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムが好ましい。
【0050】
アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキルベンゼンスルホン酸塩が挙げられ、アルカリ金属塩が好適である。具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、セチルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩、カルシウム塩などが挙げられる。なかでも、タンパク質量などの低減効果に優れるという理由から、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0051】
アルキルナフタレンスルホン酸塩としては、例えば、モノ、ジ又はトリイソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム、モノ、ジ又はトリイソプロピルナフタレンスルホン酸カリウム、オクチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、オクチルナフタレンスルホン酸カリウム、ドデシルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ドデシルナフタレンスルホン酸カリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸アルカリ金属塩が挙げられる。なかでも、タンパク質量などの低減効果に優れるという理由から、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0052】
脂肪酸塩としては、炭素数10~20の高級脂肪酸塩が好適であり、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。具体例としては、オレイン酸、ステアリン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、ドコサン酸、リノール酸、2-エチルヘキサン酸、2-オクチルウンデカン酸などのナトリウム塩、カリウム塩;やし油、パーム油、ヒマシ油、パーム核油、牛脂などから誘導される混合脂肪酸などのナトリウム塩、カリウム塩(ヒマシ油カリウム石けんなど)などが挙げられる。なかでも、タンパク質量などの低減効果に優れるという理由から、オレイン酸カリウム石けんが好ましい。
【0053】
上記塩基性溶液における上記界面活性剤の濃度は、臭気成分の中和、除去の観点から、上記塩基性溶液100質量%中、0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。該濃度の上限は、経済性の観点から、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましい。
【0054】
上記塩基処理工程により得られる塩基処理含水凝固物をそのpHを2~7に調整するpH調整工程に供してもよい。すなわち、上記塩基性溶液による処理の後、必要に応じて上記洗浄工程を行い、更に得られた処理済み含水凝固物のpHを2~7に調整してもよい。調整するpHの範囲は、3~6が好ましく、4~6がより好ましい。該pH調整により、脱臭効果が長期持続し、耐熱老化性の低下も防止できる。
【0055】
なお、上記pHは、上記塩基処理含水凝固物(5g)を各辺2mm角以内の大きさに切って蒸留水に浸漬し、マイクロ波を照射しながら90℃で15分間抽出して、該浸漬水をpHメーターを用いて測定された値である。ここで、上記抽出は、超音波洗浄器などで1時間抽出してもゴム内部から完全に水溶性成分を抽出することはできないため、正確に内部のpHを知ることはできないが、上記マイクロ波を用いた抽出方法により抽出することで、処理後の含水凝固物の実体(pH)を知ることができる。
【0056】
上記pH調整工程において、塩基処理含水凝固物のpHを2~7に調整する方法としては、例えば、塩基処理含水凝固物を酸性雰囲気下に曝したり、塩基処理含水凝固物に酸性化合物及び/又は酸性溶液を塗布したり、塩基処理含水凝固物に酸性化合物及び/又は酸性溶液をスプレー、シャワーなどにより噴霧したり、塩基処理含水凝固物を酸性溶液に浸漬したりすることで実施できる。なかでも、塩基処理含水凝固物を酸性溶液に接触させる方法により、pHを2~7に調整することが好ましい。
【0057】
上記酸性溶液としては、pHが6以下に調整されたものを用いることが好ましい。これにより、脱臭効果の長期持続性、優れた耐熱老化性が得られる。該酸性溶液のpHの上限は、5以下がより好ましく、4.5以下が更に好ましい。また、下限は特に限定されず、接触時間にもよるが、酸性が強すぎるとゴムが劣化したり、廃水処理により手間がかかったりするため、好ましくは1以上、より好ましくは2以上である。
【0058】
塩基処理含水凝固物と酸性溶液との処理時間(接触時間)、処理温度(接触温度)は、適宜設定すればよく、例えば、処理時間3秒~30分、処理温度10~50℃の範囲で適宜設定できる。
【0059】
上記酸性溶液は、酸性化合物溶液であることが好ましい。該酸性化合物溶液としては、酸性化合物の水溶液、酸性化合物のアルコール溶液等が挙げられるが、酸性化合物の水溶液が好ましい。なお、上記酸性溶液は、酸性化合物を水、アルコール等の溶媒で希釈、溶解することで調製することができる。
【0060】
上記酸性化合物としては、特に制限されず、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ホウ酸、ボロン酸、スルファニル酸、スルファミン酸などの無機酸;ギ酸、酢酸、グリコール酸、シュウ酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、グルタル酸、グルコン酸、乳酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、イタコン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、スチレンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、バルビツール酸、アクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸、4-ヒドロキシ安息香酸、アミノ安息香酸、ナフタレンジスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、トルエンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸、α-レゾルシン酸、β-レゾルシン酸、γ-レゾルシン酸、没食子酸、フロログリシン、スルホサリチル酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、ビスフェノール酸などの有機酸等が挙げられる。上記酸性化合物としては、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、硫酸、ギ酸、酢酸が好ましい。
【0061】
上記酸性溶液における上記酸性化合物の濃度は適宜設定すればよいが、耐熱老化性の観点から、上記酸性溶液100質量%中、0.1~20質量%が好ましく、0.3~10質量%がより好ましく、0.5~5.0質量%が更に好ましい。
【0062】
上記塩基処理含水凝固物のpHを2~7に調整するpH調整工程の後、得られたものの表面上に残存する酸性溶液を洗浄する工程を行ってもよい。当該洗浄工程を行う方法としては、上述した方法を採用できる。
【0063】
前記改質天然ゴムは、臭気抑制性の観点から、臭気成分指数が4.0×106以下であることが好ましく、より好ましくは2.0×106以下、更に好ましくは1.5×106以下、より更に好ましくは1.0×106以下である。該臭気成分指数の上限は小さいほど望ましく下限は特に限定されない。なお、臭気低減天然ゴムの臭気成分指数は、GCMSを用いて検出される天然ゴムの臭気の主な原因物質のピーク面積比を各成分の嗅覚閾値で補正し、全てを足したものであり、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0064】
〔ゴム組成物〕
前記ゴム組成物は、改質天然ゴムを含有するゴム成分を含む。該ゴム組成物は、前記改質天然ゴムを含むため、臭気抑制性及び耐劣化性能に優れている。
【0065】
前記ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。該含有量の上限は特に限定されず、100質量%でもよい。上記範囲内にすることで、ゴム組成物の臭気が抑制されると共に、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0066】
改質天然ゴム以外に使用可能なゴム成分としては、改質天然ゴム以外のイソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)等のジエン系ゴムが挙げられる。これらジエン系ゴムは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、イソプレン系ゴム、BRが好ましい。
【0067】
前記ゴム組成物が改質天然ゴム以外のイソプレン系ゴムを含む場合、ゴム成分100質量%中の該イソプレン系ゴムの合計含有量(改質天然ゴム、他の天然ゴム、イソプレンゴム等の合計含有量)は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。該含有量の上限は特に限定されず、100質量%でもよいが、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。上記範囲内にすることで、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0068】
イソプレン系ゴムとしては、前記改質天然ゴム以外の天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
前記ゴム組成物がBRを含む場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量(合計含有量)は、好ましくは20質量%以上、好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。該含有量の上限は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。上記範囲内にすることで、ゴム組成物の臭気が抑制されると共に、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0070】
前記ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴム及びBRの合計含有量は、好ましくは50質量%以上、好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。該含有量の上限は特に限定されず、100質量%が好ましい。上記範囲内にすることで、ゴム組成物の臭気が抑制されると共に、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0071】
BRとしては特に限定されず、高シス含量BR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR、希土類系BR等を使用できる。市販品としては、例えば、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。BRは、非変性BR、変性BRのいずれでもよく、変性BRとしては、後述の官能基が導入された変性BRが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、高シス含量BR、希土類系BRが好適である。なお、高シス含量BRのシス含量(シス-1,4-結合量)は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。
【0072】
変性BRとしては、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を有するBRであればよく、例えば、BRの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性BR(末端に上記官能基を有する末端変性BR)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性BRや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性BR(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性BR)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性BR等が挙げられる。
【0073】
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)が好ましい。
【0074】
変性BRとして、特に下記式で表される化合物(変性剤)により変性されたBRが好適である。
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アセタール基、カルボキシル基(-COOH)、メルカプト基(-SH)又はこれらの誘導体を表す。R
4及びR
5は、同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を表す。R
4及びR
5は結合して窒素原子と共に環構造を形成してもよい。nは整数を表す。)
【0075】
R1、R2及びR3としてはアルコキシ基が好適である(好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基)。R4及びR5としてはアルキル基(好ましくは炭素数1~3のアルキル基)が好適である。nは、好ましくは1~5、より好ましくは2~4、更に好ましくは3である。また、R4及びR5が結合して窒素原子と共に環構造を形成する場合、4~8員環であることが好ましい。なお、アルコキシ基には、シクロアルコキシ基(シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、ベンジルオキシ基等)も含まれる。
【0076】
上記変性剤の具体例としては、2-ジメチルアミノエチルトリメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-ジメチルアミノエチルトリエトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、2-ジエチルアミノエチルトリメトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-ジエチルアミノエチルトリエトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。なかでも、3-ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルトリエトキシシラン、3-ジエチルアミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
変性BRとしては、以下の化合物(変性剤)により変性された変性BRも好適に使用できる。変性剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル;ジグリシジル化ビスフェノールA等の2個以上のフェノール基を有する芳香族化合物のポリグリシジルエーテル;1,4-ジグリシジルベンゼン、1,3,5-トリグリシジルベンゼン、ポリエポキシ化液状ポリブタジエン等のポリエポキシ化合物;4,4’-ジグリシジル-ジフェニルメチルアミン、4,4’-ジグリシジル-ジベンジルメチルアミン等のエポキシ基含有3級アミン;ジグリシジルアニリン、N,N’-ジグリシジル-4-グリシジルオキシアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、テトラグリシジル-p-フェニレンジアミン、ジグリシジルアミノメチルシクロヘキサン、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等のジグリシジルアミノ化合物;
【0078】
ビス-(1-メチルプロピル)カルバミン酸クロリド、4-モルホリンカルボニルクロリド、1-ピロリジンカルボニルクロリド、N,N-ジメチルカルバミド酸クロリド、N,N-ジエチルカルバミド酸クロリド等のアミノ基含有酸クロリド;1,3-ビス-(グリシジルオキシプロピル)-テトラメチルジシロキサン、(3-グリシジルオキシプロピル)-ペンタメチルジシロキサン等のエポキシ基含有シラン化合物;
【0079】
(トリメチルシリル)[3-(トリメトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(トリエトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(トリプロポキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(トリブトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(メチルジメトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(メチルジエトキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(メチルジプロポキシシリル)プロピル]スルフィド、(トリメチルシリル)[3-(メチルジブトキシシリル)プロピル]スルフィド等のスルフィド基含有シラン化合物;
【0080】
エチレンイミン、プロピレンイミン等のN-置換アジリジン化合物;メチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン;4-N,N-ジメチルアミノベンゾフェノン、4-N,N-ジ-t-ブチルアミノベンゾフェノン、4-N,N-ジフェニルアミノベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジフェニルアミノ)ベンゾフェノン、N,N,N’,N’-ビス-(テトラエチルアミノ)ベンゾフェノン等のアミノ基及び/又は置換アミノ基を有する(チオ)ベンゾフェノン化合物;4-N,N-ジメチルアミノベンズアルデヒド、4-N,N-ジフェニルアミノベンズアルデヒド、4-N,N-ジビニルアミノベンズアルデヒド等のアミノ基及び/又は置換アミノ基を有するベンズアルデヒド化合物;N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、N-フェニル-2-ピロリドン、N-t-ブチル-2-ピロリドン、N-メチル-5-メチル-2-ピロリドン等のN-置換ピロリドン;N-メチル-2-ピペリドン、N-ビニル-2-ピペリドン、N-フェニル-2-ピペリドン等のN-置換ピペリドン;N-メチル-ε-カプロラクタム、N-フェニル-ε-カプロラクタム、N-メチル-ω-ラウリロラクタム、N-ビニル-ω-ラウリロラクタム、N-メチル-β-プロピオラクタム、N-フェニル-β-プロピオラクタム等のN-置換ラクタム類;の他、
【0081】
N,N-ビス-(2,3-エポキシプロポキシ)-アニリン、4,4-メチレン-ビス-(N,N-グリシジルアニリン)、トリス-(2,3-エポキシプロピル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン類、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルマレイミド、N,N-ジエチル尿素、1,3-ジメチルエチレン尿素、1,3-ジビニルエチレン尿素、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1-メチル-3-エチル-2-イミダゾリジノン、4-N,N-ジメチルアミノアセトフェン、4-N,N-ジエチルアミノアセトフェノン、1,3-ビス(ジフェニルアミノ)-2-プロパノン、1,7-ビス(メチルエチルアミノ)-4-ヘプタノン等を挙げることができる。なかでも、アルコキシシランにより変性された変性BRが好ましい。
なお、上記化合物(変性剤)による変性は公知の方法で実施可能である。
【0082】
前記ゴム組成物は、タイヤ部材の要求特性を確保できる観点から、フィラーを含むことが好ましい。
【0083】
前記ゴム組成物において、フィラーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは25質量部以上である。下限以上にすることで、良好な補強効果が得られ、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。該含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは80質量部以下である。上限以下にすることで、良好なフィラー分散性が得られる傾向がある。
【0084】
フィラーとしては、カーボンブラック等の有機フィラー;シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、チタン白、チタン黒、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化アルミニウムマグネシウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ケイ酸マグネシウム、ジルコニウム、酸化ジルコニウムなどの無機フィラー;が挙げられる。なかでも、タイヤ部材の要求特性を確保できる観点から、カーボンブラック、シリカが好ましい。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0085】
前記ゴム組成物において、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。上記範囲内にすることで、良好な補強効果が得られ、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0086】
タイヤ部材の要求特性を確保できる観点から、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは35m2/g以上、より好ましくは50m2/g以上、更に好ましくは80m2/g以上であり、また、好ましくは200m2/g以下、より好ましくは150m2/g以下である。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、ASTM D4820-93に従って測定される。
【0087】
カーボンブラックとしては特に限定されず、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。市販品としては、例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、新日化カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0088】
前記ゴム組成物において、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。上記範囲内にすることで、良好な補強効果が得られ、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0089】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは40m2/g以上、より好ましくは70m2/g以上、更に好ましくは110m2/g以上である。下限以上にすることで、良好な補強効果が得られ、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。また、シリカのN2SAは、好ましくは220m2/g以下、より好ましくは200m2/g以下である。上限以下にすることで、良好な分散性が得られる傾向がある。
なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0090】
シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられる。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。市販品としては、例えば、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。
【0091】
ゴム組成物の他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、軟化剤、固体樹脂、ワックス、各種老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、加工助剤、粘着剤などの従来ゴム工業で使用される配合剤が挙げられる。
【0092】
シランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフィド系、メルカプト系が好ましい。市販品としては、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。
【0093】
前記ゴム組成物がシリカを含む場合、更にシランカップリング剤を含むことが好ましい。
前記ゴム組成物において、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。3質量部以上であると、添加による効果が得られる傾向がある。また、上記含有量は、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。25質量部以下であると、配合量に見合った効果が得られ、良好な混練時の加工性が得られる傾向がある。
【0094】
軟化剤(常温(25℃)で液体状態の炭化水素、樹脂等)としては特に限定されないが、オイル、液状ジエン系重合体等を用いることが好ましい。軟化剤を用いることで、良好なタイヤ部材の要求特性を確保できる。なかでも、オイルが好ましい。
【0095】
前記ゴム組成物において、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。また、下限は特に限定されない。上記範囲内にすることで、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
なお、オイルの含有量には、ゴム(油展ゴム)に含まれるオイルの量も含まれる。
【0096】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物が挙げられる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。市販品としては、例えば、出光興産(株)、三共油化工業(株)、(株)ジャパンエナジー、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)等の製品を使用できる。
【0097】
固体樹脂(常温(25℃)で固体状態の樹脂(固体樹脂))としては、タイヤ工業で汎用されているものであれば特に限定されず、石油樹脂、スチレン系樹脂、クマロンインデン樹脂、テルペン系樹脂、p-t-ブチルフェノールアセチレン樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。なかでも、石油樹脂が好ましい。
【0098】
前記ゴム組成物において、石油樹脂の含有量は、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。また、下限は特に限定されない。上記範囲内にすることで、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0099】
石油樹脂とは、石油化学工業で用いられるナフサ分解の副生油の一部(C5留分やC9留分など)の重合により生成した樹脂を指し、C5の鎖状オレフィン混合物をカチオン重合したC5系石油樹脂、ジシクロペンタジエン留分を熱重合したジシクロペンタジエン系石油樹脂、C9芳香族オレフィン類混合物をカチオン重合したC9系石油樹脂、C5C9系石油樹脂、C9留分に含有されるアルファメチルスチレンを抜き取り、純アルファメチルスチレンで製造したピュアモノマーレジンと呼ばれる石油樹脂、およびこれらを水素添加した樹脂などが挙げられる。なかでも、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5C9系石油樹脂が好ましく、C5系石油樹脂、C5C9系石油樹脂がより好ましい。
【0100】
石油樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1500以上、より好ましくは1700以上である。また、上記Mwは、好ましくは5000以下、より好ましくは4500以下、更に好ましくは4000以下である。上記範囲内にすることで、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
なお、本明細書において、石油樹脂のMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0101】
石油樹脂の軟化点は、好ましくは30℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは80℃以上である。また、上記軟化点は、140℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましい。上記範囲内にすることで、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
本明細書において、石油樹脂の軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0102】
ワックスとしては、特に限定されず、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;植物系ワックス、動物系ワックス等の天然系ワックス;エチレン、プロピレン等の重合物等の合成ワックスなどが挙げられる。市販品としては、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、石油系ワックスが好ましく、パラフィンワックスがより好ましい。
【0103】
前記ゴム組成物において、ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは1.0~10質量部である。上記範囲内にすることで、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0104】
老化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4′-ビス(α,α′-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、p-フェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤が好ましく、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物がより好ましい。市販品としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
【0105】
前記ゴム組成物において、老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1~10質量部以上、より好ましくは2~7質量部以上である。上記範囲内にすることで、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0106】
ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、花王(株)、富士フィルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0107】
前記ゴム組成物において、ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5~10.0質量部、より好ましくは1.0~5.0質量部である。上記範囲内にすることで、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0108】
前記ゴム組成物において、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~7質量部である。上記範囲内にすることで、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0109】
ゴム組成物に配合する材料としては、例えば、加硫剤、加硫促進剤等を好適に使用できる。加硫剤としては、ゴム成分を架橋可能な薬品であれば特に限定されないが、例えば、硫黄等が挙げられる。また、ハイブリッド架橋剤(有機架橋剤)についても加硫剤として使用できる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、硫黄が好ましい。
【0110】
前記ゴム組成物において、硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1~10.0質量部、より好ましくは0.5~5.0質量部、更に好ましく0.7~3.0質量部である。上記範囲内にすることで、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0111】
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。有機架橋剤としては、特に限定されず、マレイミド化合物類、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物類、有機過酸化物類、アミン有機サルファイド類等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。市販品としては、例えば、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0112】
前記ゴム組成物において、有機架橋剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1~10.0質量部、より好ましくは0.5~5.0質量部、更に好ましく0.7~3.0質量部である。上記範囲内にすることで、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0113】
前記ゴム組成物において、加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1~7.0質量部、より好ましくは0.3~5.0質量部、更に好ましくは0.5~3.0質量部である。上記範囲内にすることで、タイヤ部材の要求特性を確保できる傾向がある。
【0114】
加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。
【0115】
前記ゴム組成物は、例えば、前記改質天然ゴム、フィラー等の各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどの混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0116】
混練条件としては、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常100~180℃、好ましくは120~170℃である。加硫剤、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常120℃以下、好ましくは85~110℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫等の加硫処理が施される。加硫温度としては、通常140~190℃、好ましくは150~185℃である。
【0117】
前記ゴム組成物(加硫済)は、臭気抑制性の観点から、臭気成分指数が5.0×105以下であることが好ましく、より好ましくは4.5×105以下、更に好ましくは4.0×105以下である。該臭気成分指数の上限は小さいほど望ましく下限は特に限定されない。なお、ゴム組成物(加硫済)の臭気成分指数は、ゴム組成物(加硫済)について、GCMSを用いて検出される天然ゴムの臭気の主な原因物質のピーク面積比を各成分の嗅覚閾値で補正し、全てを足したものであり、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0118】
前記ゴム組成物は、各種タイヤ部材(トレッド(キャップトレッド))、サイドウォール、ベーストレッド、アンダートレッド、クリンチエイペックス、ビードエイペックス、ブレーカークッションゴム、カーカスコード被覆用ゴム、インスレーション、チェーファー、インナーライナー等や、ランフラットタイヤのサイド補強層に用いてもよい。なかでも、臭気を低減できる点から、トレッド、サイドウォール、クリンチ、ウイング等のタイヤ外層部材にも好適に使用可能であり、特にサイドウォールに好適である。
【0119】
〔タイヤ〕
前記タイヤは、ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。
すなわち、前記成分を配合したゴム組成物(未加硫)を、未加硫の段階で各タイヤ部材の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0120】
前記タイヤとしては、空気入りタイヤ、エアレス(ソリッド)タイヤなどが挙げられるが、なかでも、空気入りタイヤが好ましい。タイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック、バスなどの重荷重用タイヤ、ライトトラック用タイヤ、二輪自動車用タイヤ、レース用タイヤ(高性能タイヤ)などに使用可能である。また、オールシーズンタイヤ、サマータイヤ、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ、スノータイヤ、スタッドタイヤなど)等に使用できる。
【実施例】
【0121】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0122】
実施例、比較例の天然ゴムサンプルの作製で用いた各種薬品を下記に示す。
フィールドラテックス:ムヒバラテックス社から入手したフィールドラテックス
フェノキシエタノール:富士フィルム和光純薬(株)製のフェノキシエタノール
ホウ酸:富士フィルム和光純薬(株)製のホウ酸
デヒドロ酢酸:富士フィルム和光純薬(株)製のデヒドロ酢酸
1,3,5-トリアジン:シグマ・アルドリッチ社製の1,3,5-トリアジン
プロピルパラベン:シグマ・アルドリッチ社製のプロピルパラベン
塩基性物質:炭酸ナトリウム(Na2CO3)(シグマ・アルドリッチ社製)
界面活性剤:花王(株)製のエマールE-27C(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)
硫酸:富士フィルム和光純薬(株)製(有効成分98%)
ギ酸:関東化学(株)製のギ酸
【0123】
<天然ゴムサンプルの入手>
通常のゴム農園で作製されたカップランプを入手した。そして、入手したカップランプをナチュラルラバーマシーンアンドイクイップメント社製のハンマーミルで処理した後、ラバーグラヌュエイターで微細化(粉砕)した後、粉砕したカップランプを、水浴で撹拌しながら洗浄し、水相のみを排出して粉砕したカップランプを取り出すことにより洗浄した(粉砕洗浄処理)。粉砕、洗浄後のカップランプの平均径は5mmであった。
【0124】
(実施例1~8)
フィールドラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、該ラテックスのゴム固形分100質量部に対して、防腐殺菌剤の含有量が表1に示す量になるように防腐殺菌剤の水溶液を添加、混合した。次いで、得られた混合物に、表1の濃度の酸を添加、混合して凝固(凝集)させ、含水凝固物(固形原料)を得た。含水凝固物を約1ヶ月間貯蔵した。貯蔵する前の含水凝固物の水分率を下記方法にて測定したところ、表1のとおりであった。
上述のように約1ヶ月間貯蔵した含水凝固物を、破砕し、水で5回繰り返し洗浄した後、表1に示す濃度で作製した水溶液1Lに、当該含水凝固物100gを、6時間、室温(20~30℃)で浸漬した。浸漬中は含水凝固物が水溶液の液面に浮いてこないように適宜重し等を載せ、全体が水溶液に沈むよう配置した。含水凝固物を取り出し、水で洗浄した後、表1に記載の温度で乾燥し、各天然ゴムサンプル(改質NR1~8)を得た。
【0125】
(比較例1~3)
粉砕、洗浄後のカップランプを室温(20~30℃)で約1ヶ月間貯蔵した。貯蔵する前のカップランプの水分率を下記方法にて測定したところ、表1のとおりであった。
上述のように約1ヶ月間貯蔵したカップランプを、破砕し、水で5回繰り返し洗浄した後、表1に示す濃度で作製した水溶液1Lに、当該カップランプ100gを、6時間、室温(20~30℃)で浸漬した。浸漬中はカップランプが水溶液の液面に浮いてこないように適宜重し等を載せ、全体が水溶液に沈むよう配置した。カップランプを取り出し、水で洗浄した後、表1に記載の温度で乾燥し、各天然ゴムサンプル(NR1~3)を得た。
【0126】
(比較例4~5)
フィールドラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、該ラテックスのゴム固形分100質量部に対して、表1の濃度の酸を添加、混合して凝固(凝集)させ、含水凝固物(固形原料)を得た。含水凝固物を約1ヶ月間貯蔵した。貯蔵する前の含水凝固物の水分率を下記方法にて測定したところ、表1のとおりであった。
上述のように約1ヶ月間貯蔵した含水凝固物を、破砕し、水で5回繰り返し洗浄した後、表1に示す濃度で作製した水溶液1Lに、当該含水凝固物100gを、6時間、室温(20~30℃)で浸漬した。浸漬中は含水凝固物が水溶液の液面に浮いてこないように適宜重し等を載せ、全体が水溶液に沈むよう配置した。含水凝固物を取り出し、水で洗浄した後、表1に記載の温度で乾燥し、各天然ゴムサンプル(NR4~5)を得た。
【0127】
試験用タイヤの製造で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
改質NR1~8、NR1~5:上記比較例、実施例で製造した天然ゴムサンプル
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス含量98質量%)
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のダイアブラックN550(N2SA42m2/g)
石油樹脂:東ソー(株)製のペトロタック100V(C5C9系石油樹脂、Mw3800、軟化点96℃)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤6C:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
老化防止剤RD:大内新興化学工業(株)製のノクラック224(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
オイル:H&R社製のVIVATEC400(TDAEオイル)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄(5%オイル含有)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS))
【0128】
〔試験用タイヤの製造〕
表2に示す配合内容に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物をサイドウォールの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、150℃の条件下で12分間加硫し、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を製造した。
【0129】
比較例、実施例における貯蔵前のカップランプ、天然ゴムサンプル、試験用タイヤについて、下記の評価を行った。結果を表1~2に示す。なお、表の「n.d.」は、臭気成分がごく微量のため、GCMSでは検知できなかったことを表している。
【0130】
(水分率の測定)
カップランプ又は天然ゴムサンプル1gを正確に量り取り(乾燥前の重量)、細かく切断してから70℃、14時間乾燥させた後、乾燥後の重量を測定した。そして、下記式により、水分率を求めた。
水分率(%)={(乾燥前の重量(g)-乾燥後の重量(g))/乾燥前の重量(g)}×100
【0131】
1.天然ゴムの分析方法
(天然ゴムの臭気成分指数)
天然ゴムの臭気の主な原因物質としては、酢酸、吉草酸、イソ吉草酸、イソ吉草酸アルデヒド、酪酸のような低級脂肪酸及びそれらのアルデヒドが挙げられる。
そこでHead-Space GCMS(株式会社島津製作所製、製品名「GCMS-QP2010 Ultra」、ヘッドスペースサンプラ―として株式会社島津製作所製「HS-20」を使用)を用いて検出される上記成分のピーク面積比を各成分の嗅覚閾値で補正し、全てを足したものを臭気成分指数(天然ゴム)とした。
【0132】
(天然ゴムの臭気成分率(%))
上記で得られた臭気成分指数について、下記式により、臭気成分率を評価した。
天然ゴムの臭気成分率(%)=(各例の天然ゴムサンプルにおける臭気成分指数/比較例1の天然ゴムサンプルにおける臭気成分指数)×100
【0133】
(天然ゴムの劣化特性評価)
天然ゴムサンプルの劣化特性は、下記式により、80℃で72時間老化させた後のムーニー粘度の保持率を評価した。ムーニー粘度保持率の値が大きいほど、天然ゴムサンプルが劣化特性(耐熱老化性)に優れていることを示す。具体的には、85%以上であれば非常に劣化特性に優れているといえる。
ムーニー粘度保持率(%)=(老化後のムーニー粘度/老化前のムーニー粘度)×100
【0134】
2.ゴム組成物の分析方法
(ゴム組成物の臭気成分指数)
試験用タイヤのサイドウォール部からサンプル(ゴム組成物サンプル)を採取し、そのサンプルについて、天然ゴムの臭気成分の分析方法と同様に測定し、検出される上記成分のピーク面積比を各成分の嗅覚閾値で補正し、全てを足したものを臭気成分指数(ゴム組成物)とした。
【0135】
(ゴム組成物の臭気成分率(%))
上記で得られた臭気成分指数について、下記式により、臭気成分率を評価した。
ゴム組成物の臭気成分率(%)=(各例のゴム組成物サンプルにおける臭気成分指数/比較例1のゴム組成物サンプルにおける臭気成分指数)×100
【0136】
(ゴム組成物の劣化特性評価)
JIS K6251に準じて、サンプル(ゴム組成物サンプル)からなる3号ダンベル型試験片を用いて引張試験を実施し、各サンプルの破断強度(TB)を測定した。次に、サンプルを80℃、168時間熱老化させた後のTBを測定した。下記式により、老化前後の破断強度(TB)の保持率を求めた。数値が高い方が熱老化によるゴム物性変化が小さく、耐熱老化性に優れる。具体的には、破断強度保持率が70%以上であれば充分劣化特性に優れているといえる。
保持率(%)=熱老化後のTB/熱老化前のTB×100
【0137】
【0138】
【0139】
各表から、(1)防腐殺菌剤を添加した天然ゴムラテックスより得られる固形原料及び/又は(2)天然ゴムラテックスの凝固物に防腐殺菌剤を添加して得られる固形原料から作製され、該防腐殺菌剤が、トリアジン類、パラベン類、ホウ酸類、グリコールエーテル類、並びに、pKa4以上の有機酸及びその金属塩からなる群より選択される少なくとも1種である実施例の改質天然ゴム、並びにこれを用いたゴム組成物は、臭気抑制性が良好で、耐劣化性能にも優れていた。