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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】ラケット
(51)【国際特許分類】
   A63B 49/022 20150101AFI20240402BHJP
   A63B 49/028 20150101ALI20240402BHJP
   A63B 102/02 20150101ALN20240402BHJP
   A63B 102/04 20150101ALN20240402BHJP
   A63B 102/06 20150101ALN20240402BHJP
【FI】
A63B49/022
A63B49/028
A63B102:02
A63B102:04
A63B102:06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020023520
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021126393
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽介
(72)【発明者】
【氏名】阪本 尚桂
【審査官】遠藤 孝徳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5368297(US,A)
【文献】実公昭49-42106(JP,Y1)
【文献】米国特許第5435550(US,A)
【文献】特許第5401185(JP,B2)
【文献】特許第6615498(JP,B2)
【文献】特開平11-9723(JP,A)
【文献】特開2000-61004(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0078828(US,A1)
【文献】特表2002-537004(JP,A)
【文献】特開2003-117027(JP,A)
【文献】特開2008-17951(JP,A)
【文献】米国特許第4314699(US,A)
【文献】特開2011-41800(JP,A)
【文献】特開2017-113124(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0134351(US,A1)
【文献】特開2017-217067(JP,A)
【文献】特開2019-107057(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0159253(US,A1)
【文献】米国特許第5944625(US,A)
【文献】特表2000-505711(JP,A)
【文献】特開2013-226298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 49/00 - 49/14
A63B 102/00 - 102/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グロメット、フレーム及びストリングを備えており、
上記グロメットが、ベースと、
このベースから起立しており上記ストリングが通されるパイプとを有しており、
上記フレームが、
上記ベースが収容されるグロメット溝と、
上記グロメット溝から窪む小溝とを有し、
上記小溝の底と上記ベースの裏側面との間に、スペースが存在するラケット。
【請求項2】
上記小溝の幅が0.5mm以上1.5mm以下である請求項1に記載のラケット。
【請求項3】
上記小溝の深さが0.1mm以上1.0mm以下である請求項1又は2に記載のラケット。
【請求項4】
上記ストリングの径に対する上記小溝の幅の比率が、50%以上100%以下である請求項1から3のいずれかに記載のラケット。
【請求項5】
ベース及びこのベースから起立するパイプを有するグロメット、並びにストリングが装着されうる、ラケット用のフレームであって、
上記ベースが収容されるグロメット溝と、
上記グロメット溝から窪む小溝とを有し、
上記グロメット溝に上記グロメットの上記ベースを収容したとき、上記小溝の底と上記ベースの裏側面との間にスペースが存在する、ラケット用のフレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニス等に使用されるラケットに関する。
【背景技術】
【0002】
テニスラケットは、フレームとストリングとを有している。テニスプレーヤーは、このラケットでボールを打撃する。打撃後のボールは、相手のコートに向かって飛行する。飛行の速度が速いボールは、このテニスプレーヤーの勝利に寄与しうる。
【0003】
特開2019-107057公報には、フレームが溝を有するテニスラケットが開示されている。この溝を有するラケットでは、ボールとのインパクトのときの変形量が大きい。従ってこのラケットは、反発性能に優れている。
【0004】
古くは、フレームに形成された孔に直接にストリングが通されていた。近年のテニスラケットでは、グロメットを介して孔にストリングが通されている。
【0005】
特表2002-537004公報には、シャンクを含むグロメットを有するテニスラケットが開示されている。このラケットは、フレームとグロメットとの間に、スペースを有する。従ってグロメットは、フレームの方向に向かって撓みうる。グロメットの撓みは、ラケットの反発性能に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-107057公報
【文献】特表2002-537004公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2019-107057公報に開示されたラケットでは、溝がヘッドの外周面に露出している。従って、フレームの製造時になされる研磨に起因して、溝の深さがばらつく。深さのばらつきは、反発性能及び外観を損なう。
【0008】
特表2002-537004公報に開示されたグロメットにおいて十分な撓みが達成されるには、十分な厚みが必要である。しかし、厚みが過大であるグロメットを有するラケットの質量は、大きい。厚みが大きいグロメットはグロメット溝から大幅にはみ出るので、スイング中の空気抵抗を増大させる。はみ出たグロメットは、スイング中に地面と擦れやすい。深いグロメット溝は、グロメットのはみ出しを抑制する。しかし、深いグロメット溝は、フレームの強度を損なう。シャンクによる反発性能の向上には、限界がある。
【0009】
本発明の目的は、グロメットの仕様に依存することなく優れた反発性能が達成されうるラケットの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るラケットは、グロメット、フレーム及びストリングを備える。このグロメットは、ベースと、このベースから起立しておりストリングが通されるパイプとを有する。フレームは、ベースが収容されるグロメット溝と、このグロメット溝から窪む小溝とを有する。
【0011】
好ましくは、小溝の幅は、0.5mm以上1.5mm以下である。好ましくは、小溝の深さは、0.1mm以上1.0mm以下である。
【0012】
好ましくは、ストリングの径に対する小溝の幅の比率は、50%以上100%以下である。
【0013】
本発明に係るラケット用のフレームには、ベース及びこのベースから起立するパイプを有するグロメット、並びにストリングが装着されうる、このフレームは、ベースが収容されるグロメット溝と、このグロメット溝から窪む小溝とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るラケットでは、ボール等とのインパクト時に、フェースの中心方向に向かってベースが撓む。この撓みは、微小な変形である。変形したベースは、その後に復元する。この変形と復元とにより、ボール等に大きな運動エネルギーが伝達される。このラケットは、反発性能に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るラケットが示された正面図である。
図2図2は、図1のラケットの一部が示された拡大分解図である。
図3図3は、図1のラケットのヘッドの一部が示された拡大右側面図である。
図4図4は、図3のIV-IV線に沿った断面図である。
図5図5は、図4のV-V線に沿った拡大断面図である。
図6図6は、図4のヘッドの一部がグロメット及びストリングと共に示された拡大図である。
図7図7は、図6のVII-VII線に沿った断面図である。
図8図8は、図6のVIII-VIII線に沿った断面図である。
図9図9は、本発明の他の実施形態に係るラケットのグロメットが示された斜視図である。
図10図10は、本発明の実施例1に係るラケットの評価結果が比較例1のラケットの評価結果と共に示されたグラフである。
図11図11は、本発明の実施例1に係るラケットの評価結果が比較例1のラケットの評価結果と共に示されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0017】
図1及び2に、テニスラケット2が示されている。このテニスラケット2は、フレーム4、グリップ6、エンドキャップ8、グロメット10及びストリング12を有している。このテニスラケット2は、硬式テニスに使用されうる。図1において、矢印Xはテニスラケット2の幅方向を表し、矢印Yはテニスラケット2の軸方向を表す。
【0018】
フレーム4は、ヘッド14、2つのスロート16及びシャフト18を有している。ヘッド14は、フェース(後に詳説)の輪郭を形成している。ヘッド14の正面形状は、略楕円である。楕円の長径方向は、テニスラケット2の軸方向Yと一致している。楕円の短径方向は、テニスラケット2の幅方向Xと一致している。それぞれのスロート16の一端は、ヘッド14と連続している。このスロート16は、他端の近傍で他のスロート16と合流している。スロート16は、ヘッド14から延びてシャフト18に至っている。シャフト18は、2つのスロート16が合流する箇所から延びている。シャフト18は、スロート16と連続的にかつ一体的に形成されている。ヘッド14のうち2つのスロート16に挟まれた部分は、ヨーク20である。図1において符号Tpは、ヘッド14のトップを表す。
【0019】
このフレーム4は、中空である。このフレーム4の材質は、繊維強化樹脂である。本実施形態では、この繊維強化樹脂のマトリクス樹脂は、熱硬化樹脂である。典型的な熱硬化樹脂は、エポキシ樹脂である。繊維強化樹脂の典型的な繊維は、カーボン繊維である。この繊維は、長繊維である。
【0020】
図2に示されるように、ヘッド14は、グロメット溝22を有している。このグロメット溝22は、ヘッド14の外周面から窪んでいる。図1に示されるように、グロメット溝22は、ヨーク20を除き、ヘッド14のほぼ全周に渡って形成されている。
【0021】
ヘッド14はさらに、複数の孔24を有している。それぞれの孔24は、ヘッド14を貫通している。ヘッド14のほぼ全周において、複数の孔24が配置されている。
【0022】
グリップ6は、シャフト18に巻かれたテープによって形成されている。グリップ6は、テニスラケット2がスイングされたときの、プレーヤーの手とテニスラケット2とのスリップを抑制する。このグリップ6の端に、エンドキャップ8が取り付けられている。
【0023】
図2に示されるように、グロメット10は、ベース26と複数のパイプ28とを有している。ベース26は、ベルト形状を有している。ベース26は、表側面30及び裏側面32を有している。表側面30の形状は、概ね平坦である。裏側面32の形状は、概ね平坦である。それぞれのパイプ28は、ベース26と一体的に形成されている。このパイプ28は、ベース26から起立している。
【0024】
図2において矢印Tcは、ベース26の厚みを表す。ベース26の強度の観点から、厚みTcは0.5mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましく、0.8mm以上が特に好ましい。軽量の観点から、厚みTcは1.5mm以下が好ましく、1.3mm以下がより好ましく、1.2mm以下が特に好ましい。
【0025】
このグロメット10の典型的な材質は、フレーム4よりも軟質な合成樹脂である。ラケット2が、複数のグロメット10を有してもよい。グロメット10が、これに隣接するグロメット10と離間してもよい。それぞれのグロメット10におけるパイプ28の数が、1でもよい。
【0026】
グロメット10はヘッド14に装着される。グロメット10がヘッド14に装着された状態では、ベース26がグロメット溝22に収容される。ベース26の一部が、グロメット溝22からはみ出てもよい。さらに、グロメット10がヘッド14に装着された状態では、パイプ28が孔24を貫通する。
【0027】
図1に示されるように、ストリング12はヘッド14に張られている。ストリング12は、幅方向X及び軸方向Yに沿って張られる。ストリング12により、多数のスレッド34(thread)が形成されている。ストリング12のうち幅方向Xに沿って延在する部分は、横スレッド34aと称される。ストリング12のうち軸方向Yに沿って延在する部分は、縦スレッド34bと称される。複数の横スレッド34a及び複数の縦スレッド34bにより、フェース36が形成される。フェース36は、概してX-Y平面に沿っている。フェース36が、2以上のストリング12から形成されてもよい。
【0028】
図3は、図1のヘッド14の一部が示された拡大右側面図である。図4は、図3のIV-IV線に沿った断面図である。図5は、図4のV-V線に沿った拡大断面図である。図3-5には、グロメット10及びストリング12は、示されていない。図3において矢印Zは、厚み方向を表す。
【0029】
図3-5に示されるように、フレーム4は、複数の小溝38を有している。図4及び5に示されるように、それぞれの小溝38は、グロメット溝22から窪んでいる。図3及び4に示されるように、この小溝38は、2つの孔24に挟まれている。小溝38は、孔24から、この孔24に隣接する他の孔24にまで、延在している。小溝38は、ヨーク20を除き、ヘッド14のほぼ全体に渡って形成されている。図5に示されるように、本実施形態では、小溝38の断面形状は、概ね半円である。小溝38が、他の断面形状を有してもよい。
【0030】
図6図4のヘッド14の一部がグロメット10及びストリング12と共に示された拡大図であり、図7図6のVII-VII線に沿った断面図であり、図8図6のVIII-VIII線に沿った断面図である。
【0031】
図6-8では、グロメット10がヘッド14に装着されている。ベース26は、グロメット溝22に収容されている。ベース26の裏側面32は、グロメット溝22の底面に当たっている。それぞれのパイプ28は、孔24を貫通している。パイプ28の軸方向は、概ね、孔24の軸方向と一致している。
【0032】
図6-8では、ストリング12がヘッド14に張られている。図6に示されるように、ストリング12の一部は、ベース26に当たっている。ベース26とパイプ28との境界の近傍にて、ストリング12は曲がっている。ストリング12の一部は、パイプ28を貫通している。
【0033】
図6及び8から明らかなように、ベース26は、小溝38にはほとんど入り込んでいない。ベース26は、小溝38の底から離れている。従って、ベース26の裏側面32のさらに裏側には、小溝38に由来するスペースが存在している。
【0034】
このテニスラケット2にてテニスボールが打撃されると、インパクト時にフェース36がテニスボールから衝撃を受ける。この衝撃により、フェース36は変形する。具体的には、フェース36は、スイング方向とは逆方向に撓む。この撓みは、ストリング12の伸張を伴う。
【0035】
ストリング12の伸張により、ストリング12には、図7にて矢印A1が示す方向に、張力が発生する。この張力に起因して、ストリング12のうちのベース26に当たっている部分が、図8にて矢印A2が示す方向に、ベース26を押す。
【0036】
ストリング12に押されることで、ベース26は撓む。この撓みの方向は、図8において矢印A2が示す方向である。前述の通り、ベース26の裏側には、小溝38に由来してスペースが存在している。従ってベース26は、フレーム4にさほど妨げられることなく、撓みうる。換言すれば、ベース26は、比較的フリーな状態で撓みうる。このベース26の変形量は、大きい。
【0037】
撓んでいたフェース36は、インパクトの後、復元する。伸張していたストリング12は、インパクトの後、復元する。従って、撓んでいたベース26は、インパクトの後、復元する。
【0038】
一般的なテニスラケットは、ストリング12の伸張及び復元により、テニスボールにエネルギーを伝達する。本発明に係るテニスラケット2は、ストリング12の伸張及び復元に加え、ベース26の撓み及び復元によっても、テニスボールにエネルギーを伝達する。このテニスラケット2で打撃されると、テニスボールは、高速で飛行する。このテニスラケット2は、反発性能に優れる。
【0039】
フェース36のセンターから離れた位置でテニスボールが打撃されたとき、ストリング12は十分には伸張しない。しかし、ベース26の撓みが伸張の不足を補う。従って、フェース36のセンターから離れた位置でテニスボールが打撃されたときでも、早い速度でテニスボールは飛行する。
【0040】
ベース26の撓みは、衝撃の吸収にも寄与しうる。フェース36のセンターから離れた位置でテニスボールが打撃されたときでも、このテニスラケット2では、優れた打球感が得られうる。
【0041】
このテニスラケット2では、小溝38はベース26に覆われている。従ってこの小溝38は、テニスラケット2の外観を損なわない。しかも、小溝38の近傍が直接地面と衝突しないので、このテニスラケット2は破損しにくい。
【0042】
このテニスラケット2に、厚いベース26は必要ない。従って、このテニスラケット2は軽量であり得る。このテニスラケット2では、グロメット溝22からのベース26のはみ出し量が小さい。従って、このテニスラケット2のスイング中の空気抵抗は、小さい。このテニスラケット2では、グロメット10が地面と擦れることが抑制される。テニスラケット2が、小溝38と共に、特表2002-537004公報に開示された、シャンクを有するグロメットを有してもよい。
【0043】
図3において矢印Wdは、小溝38の幅を表す。幅Wdは、厚み方向に沿って測定される。幅Wdは、0.5mm以上1.5mm以下が好ましい。幅Wdが0.5mm以上であるテニスラケット2では、ベース26が十分に撓む。この観点から、幅Wdは0.7mm以上がより好ましく、0.8mm以上が特に好ましい。幅Wdが1.5mm以下であるテニスラケット2では、小溝38に入り込んだベース26の小溝38からの脱出が阻害されることが、抑制される。この観点から、幅Wdは1.3mm以下がより好ましく、1.2mm以下が特に好ましい。
【0044】
図7において矢印Dmは、ストリング12の径を表す。ストリング12の径Dmに対する小溝38の幅Wdの比率は、50%以上100%以下が好ましい。この比率が50%以上であるテニスラケット2では、ベース26が十分に撓む。この観点から、この比率は60%以上がより好ましく、65%以上が特に好ましい。この比率が100%以下であるテニスラケット2では、小溝38に入り込んだベース26の小溝38からの脱出が阻害されることが、抑制される。この観点から、この比率は90%以下がより好ましく、85%以下が特に好ましい。ストリング12の断面形状が非円形である場合、この形状に外接する円の直径が、径Dmである。
【0045】
図5において矢印Dpは、小溝38の深さを表す。深さDpは、0.1mm以上1.0mm以下が好ましい。深さDpが0.1mm以上であるテニスラケット2では、ベース26が十分に撓む。この観点から、深さDpは0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上が特に好ましい。深さDpが1.0mm以下であるテニスラケット2は、強度に優れる。この観点から、深さDpは0.8mm以下がより好ましく、0.7mm以下が特に好ましい。
【0046】
本実施形態では、前述の通り、複数の小溝38が、ヘッド14のほぼ全体に渡って形成されている。小溝38が、ヘッド14の一部にのみ形成されてもよい。本実施形態では、横スレッド34aは、縦スレッド34bよりも短い。従って、横スレッド34aの伸張量は、縦スレッド34bの伸張量よりも小さい傾向がある。ヘッド14の、2つの横スレッド34aに挟まれたゾーンに小溝38が形成されることで、この小溝38が横スレッド34aの伸張不足を補う。
【0047】
以下、本発明に係るテニスラケット2の製造方法の一例が、説明される。この製造方法では、マンドレル、チューブ及び複数のプリプレグが準備される。それぞれのプリプレグは、並列する複数の強化繊維と、マトリクス樹脂とからなる。この製造方法では、まずチューブにマンドレルが挿入される。このチューブに、プリプレグが順次巻かれる。巻かれることにより、プリプレグは筒状を呈する。
【0048】
このチューブからマンドレルが抜かれた後、チューブ及びプリプレグが金型にセットされる。この金型は、キャビティ面に、小さなリッジ(小さな筋山)を有している。この金型内で、チューブに気体が充填されてチューブが膨張する。この膨張により、プリプレグが金型のキャビティ面に押し付けられる。このプリプレグが加熱され、マトリクス樹脂が硬化する。硬化により、成形体が得られる。成形体は、キャビティ面の形状が反転した形状を有する。この成形体は、小溝38を有する。この小溝38は、リッジの形状が反転した形状を有する。
【0049】
この成形体に、孔24が穿たれる。さらにこの成形体に、表面研磨、塗装等の処理がなされ、フレーム4が得られる。このフレーム4にグリップ6、グロメット10等が装着される。さらにこのフレーム4にストリング12が張られて、テニスラケット2が完成する。
【0050】
図9は、本発明の他の実施形態に係るラケットのグロメット40が示された斜視図である。図示されないが、このラケットのフレームは、図1-8に示されたラケット2と同様、グロメット溝及び小溝を有する。
【0051】
このグロメット40は、ベース42とパイプ44とを有している。ベース42は、円盤形状を有している。ベース42は、表側面46及び裏側面48を有している。表側面46の形状は、概ね平坦である。裏側面48の形状は、概ね平坦である。パイプ44は、ベース42と一体的に形成されている。このパイプ44は、ベース42から起立している。
【0052】
図9において矢印Tcは、ベース42の厚みを表す。厚みTcは、図2に示された厚みTcと同等である。
【0053】
前述の通り、このラケットのフレームは、グロメット溝を有する。このフレームにグロメット40が装着されると、裏側面48がグロメット溝の底に当接する。
【0054】
前述の通り、このラケットのフレームは、小溝を有する。従ってこのラケットでは、裏側面48のさらに裏側に、スペースが存在する。このラケットでは、ストリングの伸張により、ベース42が容易に変形しうる。このラケットは、ストリングの伸張及び復元に加え、ベース42の撓み及び復元によっても、ボール(又はシャトル)にエネルギーを伝達する。このラケットで打撃されると、ボール等は、高速で飛行する。このラケットは、反発性能に優れる。
【実施例
【0055】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0056】
[実験1]
[実施例1]
リッジを有する金型内でプリプレグのマトリクス樹脂を硬化させ、フレームを制作した。このフレームを用いて、図1-8に示されたテニスラケットを得た。このラケットは、多数の小溝を有している。小溝の幅Wdは、1.0mmである。小溝の深さDpは、0.5mmである。
【0057】
[比較例1]
異なる金型を用いた他は実施例1と同様にして、比較例1のテニスラケットを得た。この金型は、リッジを有していない。従ってこのテニスラケットは、小溝を有していない。
【0058】
[反発係数]
30m/sの速度にてテニスボールを飛行させ、テニスラケットのフェースに衝突させた。衝突の後、テニスボールはリバウンドした。衝突直前のテニスボールの速度、及び衝突直後のテニスボールの速度を測定し、反発係数を算出した。下記の表1に示される5の測定点にて、反発係数を測定した。表1において、xは原点からのX方向距離であり、yは原点からのY方向距離である。原点は、フェースのセンターである。
【0059】
表1 反発係数の測定点
第一測定点 x=-6cm y=0cm
第二測定点 x=-3cm y=0cm
第三測定点 x=0cm y=0cm
第四測定点 x=3cm y=0cm
第五測定点 x=6cm y=0cm
【0060】
この測定結果が、図10のグラフに示されている。図10において、横軸はセンターから測定点までの距離であり、縦軸は反発係数である。図10から明らかな通り、実施例1のテニスラケットは、幅方法の全体に渡って反発性能に優れている。
【0061】
[実験2]
実験1に供した実施例1及び比較例1のテニスラケットにて、下記の表2に示される8の測定点にて、反発係数を測定した。表2において、xは原点からのX方向距離であり、yは原点からのY方向距離である。原点は、トップである。
【0062】
表2 反発係数の測定点
第一測定点 x=0cm y=9cm
第二測定点 x=0cm y=12cm
第三測定点 x=0cm y=15cm
第四測定点 x=0cm y=18cm
第五測定点 x=0cm y=21cm
第六測定点 x=0cm y=24cm
第七測定点 x=0cm y=27cm
第八測定点 x=0cm y=30cm
【0063】
この測定結果が、図11のグラフに示されている。図11において、横軸はトップから測定点までの距離であり、縦軸は反発係数である。図11から明らかな通り、実施例1のテニスラケットは、軸方法の全体に渡って反発性能に優れている。
【0064】
[実験3]
[実施例2-4]
異なる金型を用いた他は実施例1と同様にして、実施例2-4のテニスラケットを得た。これらのテニスラケットの溝のサイズが、下記の表3に示されている。
【0065】
[反発係数]
実験1と同様の方法で各テニスラケットのフェースセンターでの反発係数を測定した。この結果が、下記の表3に示されている。
【0066】
表3 測定結果

Wd Dp 反発係数
実施例2 0.5mm 0.5mm 0.355
実施例1 1.0mm 0.5mm 0.361
実施例3 1.5mm 0.5mm 0.365
実施例4 1.0mm 0.2mm 0.360
比較例 0mm 0mm 0.346
【0067】
表3から明らかな通り、各実施例のテニスラケットは、反発性能に優れている。
【0068】
[まとめ]
実験1-3の結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係るラケットは、ソフトテニス、スカッシュ、バドミントン等の種々の競技において用いられうる。
【符号の説明】
【0070】
2・・・テニスラケット
4・・・フレーム
10、40・・・グロメット
12・・・ストリング
14・・・ヘッド
22・・・グロメット溝
24・・・孔
26、42・・・ベース
28、44・・・パイプ
30、46・・・表側面
32、48・・・裏側面
34・・・スレッド
36・・・フェース
38・・・小溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11