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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】インクジェット用インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20240402BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20240402BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C09D11/38
C09D11/326
B41J2/01 501
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020024199
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021127419
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】喜田 友香里
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-137398(JP,A)
【文献】特開2016-196551(JP,A)
【文献】特開2019-001907(JP,A)
【文献】特開2008-260820(JP,A)
【文献】特開2017-019918(JP,A)
【文献】特開2012-214628(JP,A)
【文献】特開2013-177513(JP,A)
【文献】特開2015-182347(JP,A)
【文献】特開2021-102726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C1/00-3/12;C09D15/00-17/00
B41J2/01;2/165-2/20;2/21-2/215
B41M5/00;5/50-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料分散体と、溶媒と、界面活性剤とを含有するインクジェット用インクであって
前記顔料分散体は、第1顔料分散体、第2顔料分散体又は第3顔料分散体を含み、
前記第1顔料分散体、前記第2顔料分散体及び前記第3顔料分散体は、それぞれ、顔料及び分散樹脂のみを含み、
前記インクジェット用インクにおける前記分散樹脂の含有割合は、0.5質量%以上6.0質量%以下であり、
前記顔料分散体における、前記顔料の質量に対する前記分散樹脂の質量の比率は、0.2以上1.5以下であり、
前記溶媒は、第1溶媒、第2溶媒、第3溶媒、第4溶媒又は第5溶媒を含み、
前記第1溶媒、前記第2溶媒、前記第3溶媒、前記第4溶媒及び前記第5溶媒は、それぞれ、水及び水溶性有機溶媒のみを含み、
前記顔料分散体及び前記溶媒の組み合わせは、
前記顔料分散体が前記第2顔料分散体のみを含み、前記溶媒が前記第1溶媒のみを含む第1の組み合わせ、
前記顔料分散体が前記第2顔料分散体のみを含み、前記溶媒が前記第2溶媒のみを含む第2の組み合わせ、
前記顔料分散体が前記第1顔料分散体のみを含み、前記溶媒が前記第3溶媒のみを含む第3の組み合わせ、
前記顔料分散体が前記第3顔料分散体のみを含み、前記溶媒が前記第4溶媒のみを含む第4の組み合わせ、
前記顔料分散体が前記第3顔料分散体のみを含み、前記溶媒が前記第5溶媒のみを含む第5の組み合わせ、又は
前記顔料分散体が前記第3顔料分散体のみを含み、前記溶媒が前記第1溶媒のみを含む第6の組み合わせであり、
前記第1顔料分散体は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が20.0MPa0.5以上22.0MPa0.5以下、分極項(dP)が21.0MPa0.5以上23.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が18.0MPa0.5以上20.0MPa0.5以下であり、
前記第2顔料分散体は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が12.0MPa0.5以上14.0MPa0.5以下、分極項(dP)が25.0MPa0.5以上27.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が17.0MPa0.5以上19.0MPa0.5以下であり、
前記第3顔料分散体は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.0MPa0.5以上18.0MPa0.5以下、分極項(dP)が13.5MPa0.5以上15.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が25.5MPa0.5以上27.5MPa0.5以下であり、
前記第1溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が14.7MPa0.5以上15.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が16.0MPa0.5以上16.5MPa0.5以下であり、
前記第2溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が14.0MPa0.5以上14.6MPa0.5以下、水素結合項(dH)が16.0MPa0.5以上17.0MPa0.5以下であり、
前記第3溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が17.0MPa0.5以上18.0MPa0.5以下であり、
前記第4溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が14.0MPa0.5以上15.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が14.7MPa0.5以上15.7MPa0.5以下であり、
前記第5溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が13.5MPa0.5以上14.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が13.5MPa0.5以上14.5MPa0.5以下であり、
前記第1顔料分散体は、前記顔料がC.I.ピグメントブラック7のみを含み、前記分散樹脂がスチレン-(メタ)アクリル樹脂のみを含み、
前記第2顔料分散体は、前記顔料がC.I.ピグメントブルー15のみを含み、前記分散樹脂が第1ウレタン樹脂のみを含み、
前記第3顔料分散体は、前記顔料がC.I.ピグメントブルー15のみを含み、前記分散樹脂が第2ウレタン樹脂のみを含み、
前記第2ウレタン樹脂は、三級アミノ基末端及びノニオン性極性基を有し、
前記第1ウレタン樹脂は、前記第2ウレタン樹脂以外のウレタン樹脂であり、
前記第1溶媒は、
水、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、2-ピロリドン、1,2-オクタンジオール、及びソルビトールのみを含み、
前記インクジェット用インクにおける水の含有割合は、42.0質量%以上52.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける1,5-ペンタンジオールの含有割合は、12.0質量%以上20.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有割合は、5.0質量%以上12.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおけるトリエチレングリコールの含有割合は、2.5質量%以上7.5質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおけるテトラエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合は、4.0質量%以上12.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける2-ピロリドンの含有割合は、2.5質量%以上7.5質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける1,2-オクタンジオールの含有割合は、1.0質量%以上4.0質量%以下であり、かつ
前記インクジェット用インクにおけるソルビトールの含有割合は、0.3質量%以上1.5質量%以下であり、
前記第2溶媒は、
水、グリセリン、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、トリエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-ピロリドン、1,5-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、及びソルビトールのみを含み、
前記インクジェット用インクにおける水の含有割合は、37.0質量%以上47.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおけるグリセリンの含有割合は、4.0質量%以上8.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおけるテトラエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合は、12.0質量%以上18.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有割合は、7.0質量%以上11.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおけるトリエチレングリコールの含有割合は、3.0質量%以上7.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける1,3-プロパンジオールの含有割合は、4.0質量%以上7.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける2-ピロリドンの含有割合は、0.5質量%以上2.5質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける1,5-ペンタンジオールの含有割合は、1.0質量%以上5.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける1,2-オクタンジオールの含有割合は、1.0質量%以上5.0質量%以下であり、かつ
前記インクジェット用インクにおけるソルビトールの含有割合は、0.3質量%以上1.5質量%以下であり、
前記第3溶媒は、
水、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,3-プロパンジオール、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、2-ピロリドン、1,2-オクタンジオール、及びソルビトールのみを含み、
前記インクジェット用インクにおける水の含有割合は、45.0質量%以上55.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有割合は、8.0質量%以上14.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける1,3-プロパンジオールの含有割合は、20.0質量%以上25.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおけるテトラエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合は、3.0質量%以上6.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける2-ピロリドンの含有割合は、1.0質量%以上5.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける1,2-オクタンジオールの含有割合は、0.1質量%以上1.0質量%以下であり、かつ
前記インクジェット用インクにおけるソルビトールの含有割合は、0.3質量%以上1.5質量%以下であり、
前記第4溶媒は、
水、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、トリエチレングリコール、2-ピロリドン、1,2-オクタンジオール、及びソルビトールのみを含み、
前記インクジェット用インクにおける水の含有割合は、40.0質量%以上50.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおけるテトラエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合は、12.0質量%以上18.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける1,5-ペンタンジオールの含有割合は、7.0質量%以上12.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有割合は、4.0質量%以上8.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおけるトリエチレングリコールの含有割合は、3.0質量%以上7.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける2-ピロリドンの含有割合は、5.0質量%以上10.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける1,2-オクタンジオールの含有割合は、1.5質量%以上4.5質量%以下であり、かつ
前記インクジェット用インクにおけるソルビトールの含有割合は、0.3質量%以上1.5質量%以下であり、
前記第5溶媒は、
水、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、2-ピロリドン、グリセリン、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、及びソルビトールのみを含み、
前記インクジェット用インクにおける水の含有割合は、37.0質量%以上47.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおけるテトラエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合は、16.0質量%以上21.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける2-ピロリドンの含有割合は、12.0質量%以上16.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおけるグリセリンの含有割合は、0.1質量%以上1.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有割合は、10.0質量%以上14.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおけるトリエチレングリコールの含有割合は、0.1質量%以上1.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける1,5-ペンタンジオールの含有割合は、1.0質量%以上3.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける1,2-オクタンジオールの含有割合は、0.5質量%以上1.5質量%以下であり、かつ
前記インクジェット用インクにおけるソルビトールの含有割合は、0.3質量%以上1.5質量%以下であり、
前記界面活性剤は、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物であり、
前記界面活性剤の含有割合は、0.1質量%以上3.0質量%以下である、インクジェット用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
顔料を用いたインクジェット用インクは、染料を用いた一般的なインクジェット用インクと比較して、耐水性及び耐光性に優れる画像を形成できる傾向がある。顔料を用いたインクジェット用インクは、優れた保存安定性を有し、かつ白抜けと呼ばれる画像不良の発生を抑制できることが要求されている。ここで、白抜けとは、顔料を用いたインクジェット用インクにより普通紙に画像を形成した際に、顔料が載っていない点状の領域が画像に形成される現象を示す。
【0003】
顔料を用いたインクジェット用インクにおいて白抜けの発生を抑制する方法として、例えば、水、水溶性有機溶媒、顔料、分散樹脂、及び特定の界面活性剤を含有し、かつ粘度及び表面張力がそれぞれ特定範囲であるインクジェット用インクが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/070243号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェット用インクによっても、白抜けの発生を十分に抑制することは困難である。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、保存安定性に優れ、かつ白抜けの発生を抑制できるインクジェット用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェット用インクは、顔料分散体と、溶媒とを含有する。前記顔料分散体は、第1顔料分散体、第2顔料分散体又は第3顔料分散体を含む。前記第1顔料分散体、前記第2顔料分散体及び前記第3顔料分散体は、それぞれ、顔料及び分散樹脂を含む。前記溶媒は、第1溶媒、第2溶媒、第3溶媒、第4溶媒又は第5溶媒を含む。前記第1溶媒、前記第2溶媒、前記第3溶媒、第4溶媒及び第5溶媒は、それぞれ、水及び水溶性有機溶媒を含む。前記顔料分散体及び前記溶媒の組み合わせは、前記顔料分散体が前記第2顔料分散体を含み、前記溶媒が前記第1溶媒を含む第1の組み合わせ、前記顔料分散体が前記第2顔料分散体を含み、前記溶媒が前記第2溶媒を含む第2の組み合わせ、前記顔料分散体が前記第1顔料分散体を含み、前記溶媒が前記第3溶媒を含む第3の組み合わせ、前記顔料分散体が前記第3顔料分散体を含み、前記溶媒が前記第4溶媒を含む第4の組み合わせ、前記顔料分散体が前記第3顔料分散体を含み、前記溶媒が前記第5溶媒を含む第5の組み合わせ、又は前記顔料分散体が前記第3顔料分散体を含み、前記溶媒が前記第1溶媒を含む第6の組み合わせである。前記第1顔料分散体は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が20.0MPa0.5以上22.0MPa0.5以下、分極項(dP)が21.0MPa0.5以上23.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が18.0MPa0.5以上20.0MPa0.5以下である。前記第2顔料分散体は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が12.0MPa0.5以上14.0MPa0.5以下、分極項(dP)が25.0MPa0.5以上27.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が17.0MPa0.5以上19.0MPa0.5以下である。前記第3顔料分散体は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.0MPa0.5以上18.0MPa0.5以下、分極項(dP)が13.5MPa0.5以上15.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が25.5MPa0.5以上27.5MPa0.5以下である。前記第1溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が14.7MPa0.5以上15.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が16.0MPa0.5以上16.5MPa0.5以下である。前記第2溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が14.0MPa0.5以上14.6MPa0.5以下、水素結合項(dH)が16.0MPa0.5以上17.0MPa0.5以下である。前記第3溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が17.0MPa0.5以上18.0MPa0.5以下である。前記第4溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が14.0MPa0.5以上15.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が14.7MPa0.5以上15.7MPa0.5以下である。前記第5溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が13.5MPa0.5以上14.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が13.5MPa0.5以上14.5MPa0.5以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るインクジェット用インクは、保存安定性に優れ、かつ白抜けの発生を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下において、Z-Averageの測定値は、何ら規定していなければ、動的光散乱式粒径分布測定装置(シスメックス株式会社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて測定された値である。
【0010】
本明細書において、「溶媒」とは、インクジェット用インクに含まれる成分のうち、顔料、樹脂及び界面活性剤を除く成分をいう。
【0011】
本明細書では、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。本明細書に記載の各成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
<インクジェット用インク>
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット用インク(以下、単にインクと記載することがある)を説明する。本発明のインクは、顔料分散体と、溶媒とを含有する。顔料分散体は、第1顔料分散体、第2顔料分散体又は第3顔料分散体を含む。第1顔料分散体、第2顔料分散体及び第3顔料分散体は、それぞれ、顔料及び分散樹脂を含む。溶媒は、第1溶媒、第2溶媒、第3溶媒、第4溶媒又は第5溶媒を含む。第1溶媒、第2溶媒、第3溶媒、第4溶媒及び第5溶媒は、それぞれ、水及び水溶性有機溶媒を含む。顔料分散体及び溶媒の組み合わせは、顔料分散体が第2顔料分散体を含み、溶媒が第1溶媒を含む第1の組み合わせ、顔料分散体が第2顔料分散体を含み、溶媒が第2溶媒を含む第2の組み合わせ、顔料分散体が第1顔料分散体を含み、溶媒が第3溶媒を含む第3の組み合わせ、顔料分散体が第3顔料分散体を含み、溶媒が第4溶媒を含む第4の組み合わせ、顔料分散体が第3顔料分散体を含み、溶媒が第5溶媒を含む第5の組み合わせ、又は顔料分散体が第3顔料分散体を含み、溶媒が第1溶媒を含む第6の組み合わせである。
【0013】
第1顔料分散体は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が20.0MPa0.5以上22.0MPa0.5以下、分極項(dP)が21.0MPa0.5以上23.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が18.0MPa0.5以上20.0MPa0.5以下である。第2顔料分散体は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が12.0MPa0.5以上14.0MPa0.5以下、分極項(dP)が25.0MPa0.5以上27.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が17.0MPa0.5以上19.0MPa0.5以下である。第3顔料分散体は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.0MPa0.5以上18.0MPa0.5以下、分極項(dP)が13.5MPa0.5以上15.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が25.5MPa0.5以上27.5MPa0.5以下である。第1溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が14.7MPa0.5以上15.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が16.0MPa0.5以上16.5MPa0.5以下である。第2溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が14.0MPa0.5以上14.6MPa0.5以下、水素結合項(dH)が16.0MPa0.5以上17.0MPa0.5以下である。第3溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が17.0MPa0.5以上18.0MPa0.5以下である。第4溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が14.0MPa0.5以上15.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が14.7MPa0.5以上15.7MPa0.5以下である。第5溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が15.5MPa0.5以上16.5MPa0.5以下、分極項(dP)が13.5MPa0.5以上14.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が13.5MPa0.5以上14.5MPa0.5以下である。
【0014】
まず、ハンセン溶解度パラメーター(Hansen solubility parameter:HSP)について説明する。HSPは、物質の溶解性の予測に用いられる値である。HSPは、以下の3つのパラメーター(単位:MPa0.5)で構成されている。
分散項(dD):分子間の分散力によるエネルギー
分極項(dP):分子間の双極子相互作用によるエネルギー
水素結合項(dH):分子間の水素結合によるエネルギー
【0015】
HSPを構成する3つのパラメーターは、3次元空間(ハンセン空間)における座標と見做すことができる。ハンセン空間に特定の2つの物質を配置した場合、2つの物質の座標の距離が近いほど、2つの物質の性質が近似している傾向がある。
【0016】
HSPが未知である物質は、以下の方法によりHSPを測定することができる。まず、密閉可能な容器に、HSPを測定しようとする物質(以下、対象物質と記載することがある)1質量部と、HSPが公知である溶媒(例えば、文献値が存在する溶媒)49質量部とを投入する。次に、容器をハンドシェイクすることで対象物質及び溶媒を十分に混合する。次に、常温環境下(23℃)で容器を12時間静置する。次に、容器を上下反転させ、容器の底面を観察する。容器の底面に沈殿物及び凝集物の何れも存在しない場合、その溶媒は対象物質を溶解させたと判断する。この試験を、溶媒の種類を適宜変更しながら繰り返す。これにより、対象物質を溶解させる溶媒と、対象物質を溶解させない溶媒とにより構成される10種類の溶媒の組み合わせを決定する。10種類の溶媒の組み合わせとしては、半数程度(例えば4~6種)の溶媒が対象物質を溶解させる溶媒であり、残りの溶媒が対象物質を溶解させない溶媒である組み合わせが望ましい。そして、10種類の溶媒に対する試験結果に基づいて、ハンセン空間に、ハンセン球と呼ばれる球を描画する。
【0017】
ハンセン球を描画する方法を説明する。ハンセン空間に、対象物質を溶解させた溶媒の座標を含み、かつ対象物質を溶解させなかった溶媒の座標を含まない球(ハンセン球)を描画する。描画されたハンセン球の中心座標が、対象物質のHSPを示す。ハンセン球のサイズは、対象物質の種類によって異なる。詳しくは、性質の異なる様々な溶媒に対して溶解する対象物質は、ハンセン球の半径R0が大きい。逆に、限られた特定の性質の溶媒に対してのみ溶解する対象物質は、ハンセン球の半径R0が小さい。
【0018】
HSPを用いて2つの物質(例えば、溶媒X及び溶質Y)の溶解性を予測する具体的手法を説明する。まず、2つの物質を、HSPに基づいてハンセン空間内にそれぞれ配置する。そして、2つの物質の座標の距離Raを算出する。この距離Raが近いほど、2つの物質は互いに溶解し易いことを示す。2つの物質の距離Raは、下記数式(R)によって算出することができる。
【0019】
【数1】
【0020】
数式(R)において、dDx、dPx及びdHxは、それぞれ、溶媒Xの分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)を示す。dDy、dPy及びdHyは、それぞれ、溶質Yの分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)を示す。
【0021】
これを本発明のインクに当てはめると、ハンセン空間において、溶媒及び顔料分散体の距離Raは、下記数式(R-1)により算出される。
【0022】
【数2】
【0023】
数式(R-1)において、dDs、dPs及びdHsは、それぞれ、溶媒の分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)を示す。dDp、dPp及びdHpは、それぞれ、顔料分散体の分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)を示す。
【0024】
溶質Yが溶媒Xに溶解するか否かは、ハンセン空間において、溶質Yのハンセン球が溶媒XのHSPの座標を含んでいるか否かで決定される。具体的には、溶質Yが溶媒Xに溶解するか否かは、溶質Yのハンセン球の半径R0に対する2つの物質の距離Raの比(Ra/R0)の大きさで決定される。以下、比(Ra/R0)を、相対エネルギー差(relative energy difference:RED)と記載する(下記数式(r))。REDが1未満である場合、溶質Yのハンセン球の内側に溶媒XのHSPの座標が存在するため、溶質Yは溶媒Xに溶解する。一方、REDが1超である場合、溶質Yのハンセン球の外側に溶媒XのHSPの座標が存在するため、溶質Yは溶媒Xに溶解しない。なお、REDがちょうど1である場合、溶質Yは溶媒Xに部分的に溶解する。
RED=Ra/R0・・・(r)
【0025】
溶媒Xが混合溶媒である場合、溶媒XのHSPは以下の方法により算出できる。まず、溶媒Xを構成する各溶媒について、その溶媒の分散項(dD)とその溶媒の質量比率(溶媒Xの質量に対するその溶媒の質量の比率)との積Aを算出する。次に、各溶媒の積Aを合算して和Bを算出する。この和Bを、混合溶媒の分散項(dD)とする。溶媒Xの分極項(dP)及び水素結合項(dH)についても、溶媒Xの分散項(dD)を算出する方法と同様の方法で算出することができる。これにより、混合溶媒である溶媒XのHSPが算出される。
【0026】
本発明のインクは、上述の構成を備えることにより、保存安定性に優れ、かつ白抜けの発生を抑制できる。その理由を以下に説明する。本発明のインクは、特定の組み合わせ(上述の第1~第6の組み合わせ)の顔料分散体及び溶媒を含有する。第1~第6の組み合わせにおいては、溶媒及び顔料分散体の相対エネルギー差(RED)は、概ね0.65以上0.77以下となる。本発明のインクにおいて、顔料分散体は、REDが0.77以下であるため、溶媒に十分に分散している。そのため、本発明のインクは、保存安定性に優れる。一方、本発明のインクにおいて、顔料分散体は、REDが0.65以上であるため、分散状態がやや不安定である。そのため、本発明のインクは、記録媒体(例えば、紙)の表面に着弾した直後に、顔料分散体が凝集し始める。記録媒体の表面で凝集した顔料分散体は、記録媒体の内部には浸透せず、記録媒体の表面に留まる。このように、本発明のインクにより形成された画像は、記録媒体の表面に顔料分散体が留まり易いため、白抜けの発生を抑制できる。
【0027】
(顔料分散体)
顔料分散体は、顔料及び分散樹脂により構成される粒子である。顔料分散体は、第1顔料分散体、第2顔料分散体、又は第3顔料分散体を含む。第1顔料分散体、第2顔料分散体及び第3顔料分散体は、それぞれ、顔料及び分散樹脂を含む。
【0028】
第1顔料分散体は、HSPにおける分散項(dD)が20.5MPa0.5以上21.5MPa0.5以下、分極項(dP)が21.2MPa0.5以上22.2MPa0.5以下、水素結合項(dH)が18.5MPa0.5以上19.5MPa0.5以下であることが好ましい。第2顔料分散体は、HSPにおける分散項(dD)が12.2MPa0.5以上13.2MPa0.5以下、分極項(dP)が25.5MPa0.5以上26.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が17.3MPa0.5以上18.3MPa0.5以下であることが好ましい。第3顔料分散体は、HSPにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上17.5MPa0.5以下、分極項(dP)が14.0MPa0.5以上15.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が26.0MPa0.5以上27.0MPa0.5以下であることが好ましい。
【0029】
顔料分散体のZ-Average(累積平均)としては、50nm以上150nm以下が好ましく、80nm以上120nm以下がより好ましい。
【0030】
本発明のインクにおける顔料分散体の含有割合としては、2.5質量%以上15.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以上10.0質量%以下が好ましい。顔料分散体の含有割合を2.5質量%以上とすることで、本発明のインクにより形成される画像の画像濃度を向上できる。顔料分散体の含有割合を15.0質量%以下とすることで、本発明のインクの吐出性を向上できる。
【0031】
(顔料)
顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、及び黒色顔料が挙げられる。黄色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193)が挙げられる。橙色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ(34、36、43、61、63、及び71)が挙げられる。赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(122及び202)が挙げられる。青色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(15、より具体的には15:3)が挙げられる。紫色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット(19、23、及び33)が挙げられる。黒色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック(7)が挙げられる。
【0032】
本発明のインクにおける顔料の含有割合としては、2.0質量%以上10.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以上6.0質量%以下が好ましい。顔料の含有割合を2.0質量%以上とすることで、本発明のインクにより形成される画像の画像濃度を向上できる。顔料の含有割合を10.0質量%以下とすることで、本発明のインクの吐出性を向上できる。
【0033】
(分散樹脂)
分散樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂及びポリエステル樹脂が挙げられる。分散樹脂としては、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、又はウレタン樹脂が好ましい。
【0034】
(スチレン-(メタ)アクリル樹脂)
スチレン-(メタ)アクリル樹脂は、スチレン単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位とを有する樹脂である。スチレン-(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸に由来する繰り返し単位を更に有してもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸ブチルが挙げられる。スチレン-(メタ)アクリル樹脂としては、スチレン単位と、(メタ)アクリル酸に由来する繰り返し単位と、(メタ)アクリル酸メチルに由来する繰り返し単位と、(メタ)アクリル酸ブチルに由来する繰り返し単位とを有する樹脂が好ましく、スチレン単位と、メタクリル酸に由来する繰り返し単位と、メタクリル酸メチルに由来する繰り返し単位と、アクリル酸n-ブチルに由来する繰り返し単位とを有する樹脂がより好ましい。
【0035】
(ウレタン樹脂)
ウレタン樹脂は、例えば、ポリオールと、ポリイソシアネートとを公知のウレタン樹脂の製造方法に従って共重合することによって得られる。
【0036】
ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオールが挙げられる。ポリオールとしては、ポリエステルポリオールが好ましい。
【0037】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、ジカルボン酸及びポリオールを縮重合させて得られる化合物と、ラクトン化合物の開環重合により得られる化合物とが挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、及びテレフタル酸が挙げられる。ポリエステルポリオールの原料となるポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、ジエチレングリコール、スピログリコール、及びトリメチロールプロパンが挙げられる。
【0038】
ポリオールとしては、上述した化合物以外に、炭素原子数8以上12以下のアルキル基で置換されたフェニル基を有するポリオール、親水基(例えば、カルボキシ基)を有するポリオール(例えば、ジメチロールプロピオン酸)、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、ポリオレフィンポリオール、又はポリ(メタ)アクリル酸エステル系ポリオールを用いることもできる。炭素原子数8以上12以下のアルキル基で置換されたフェニル基を有するポリオールとしては、例えば、N,N’-ジエタノールアミンとノニルフェニルテトラエチレンエーテルグリコール(メタ)アクリレートとの反応生成物が挙げられる。
【0039】
ポリイソシアネートとしては、例えば、ジイソシアネートが挙げられる。ジイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ジイソシアネート化合物、脂環式ジイソシアネート化合物及び芳香族ジイソシアネート化合物が挙げられる。
【0040】
脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、エチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、及び1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、水素添加4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(例えば、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート)、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びノルボルナンジイソシアネートが挙げられる。芳香族ジイソシアネート化合物としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネートが挙げられる。
【0041】
ポリイソシアネートとしては、脂環式ジイソシアネートが好ましく、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネートがより好ましい。
【0042】
ウレタン樹脂としては、ジメチロールプロピオン酸と、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネートと、ポリエステルポリオールと、ポリテトラメチレンエーテルグリコールとを原料とするウレタン樹脂が好ましい。また、ウレタン樹脂としては、N,N’-ジエタノールアミンとノニルフェニルテトラエチレンエーテルグリコール(メタ)アクリレートとの反応生成物と、ジメチロールプロピオン酸と、3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、ポリエチレングリコールと、イソホロンジイソシアネートとを原料とするウレタン樹脂も好ましい。
【0043】
第1顔料分散体は、顔料がC.I.ピグメントブラック7を含み、分散樹脂がスチレン-(メタ)アクリル樹脂を含むことが好ましい。第2顔料分散体は、顔料がC.I.ピグメントブルー15を含み、分散樹脂が第1ウレタン樹脂を含むことが好ましい。第3顔料分散体は、顔料がC.I.ピグメントブルー15を含み、分散樹脂が第2ウレタン樹脂を含むことが好ましい。ここで、第2ウレタン樹脂は、三級アミノ基末端及びノニオン性極性基を有するウレタン樹脂である。また、第1ウレタン樹脂は、第2ウレタン樹脂以外のウレタン樹脂である。
【0044】
本発明のインクにおける分散樹脂の含有割合としては、0.5質量%以上6.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上4.0質量%以下がより好ましい。分散樹脂の含有割合を0.5質量%以上6.0質量%以下とすることで、顔料分散体の分散性を向上できる。
【0045】
顔料分散体において、顔料の質量に対する分散樹脂の質量の比率(分散樹脂の質量/顔料の質量)としては、0.2以上1.5以下が好ましく、0.4以上0.8以下がより好ましい。
【0046】
[溶媒]
溶媒は、第1溶媒、第2溶媒、第3溶媒、第4溶媒又は第5溶媒を含む。第1溶媒、第2溶媒第3溶媒、第4溶媒及び第5溶媒は、それぞれ、水及び水溶性有機溶媒を含む。溶媒は、水及び水溶性有機溶媒のみを含有することが好ましい。溶媒における水及び水溶性有機溶媒の合計含有割合としては、80質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0047】
第1溶媒は、HSPにおける分散項(dD)が15.7MPa0.5以上16.2MPa0.5以下、分極項(dP)が14.7MPa0.5以上15.1MPa0.5以下、水素結合項(dH)が16.1MPa0.5以上16.4MPa0.5以下であることが好ましい。第2溶媒は、HSPにおける分散項(dD)が15.7MPa0.5以上16.2MPa0.5以下、分極項(dP)が14.2MPa0.5以上14.4MPa0.5以下、水素結合項(dH)が16.4MPa0.5以上16.8MPa0.5以下であることが好ましい。第3溶媒は、HSPにおける分散項(dD)が15.7MPa0.5以上16.2MPa0.5以下、分極項(dP)が15.8MPa0.5以上16.3MPa0.5以下、水素結合項(dH)が17.6MPa0.5以上17.8MPa0.5以下であることが好ましい。第4溶媒は、HSPにおける分散項(dD)が15.7MPa0.5以上16.2MPa0.5以下、分極項(dP)が14.2MPa0.5以上14.6MPa0.5以下、水素結合項(dH)が15.0MPa0.5以上15.5MPa0.5以下であることが好ましい。第5溶媒は、HSPにおける分散項(dD)が15.8MPa0.5以上16.3MPa0.5以下、分極項(dP)が13.7MPa0.5以上14.2MPa0.5以下、水素結合項(dH)が13.8MPa0.5以上14.3MPa0.5以下であることが好ましい。
【0048】
なお、溶媒のHSPは、水の含有割合と、水溶性有機溶媒の種類及び含有割合とを適宜変更することにより調整することができる。例えば、溶媒のHSPにおける分散項(dD)を増大しようとする場合、高い分散項(dD)を有する化合物(例えば、水)の含有割合を増大させるか、又は低い分散項(dD)を有する化合物の含有割合を低下させればよい。
【0049】
(水)
本発明のインクにおける水の含有割合としては、37.0質量%以上55.0質量%以下がより好ましい。水の含有割合を37.0質量%以上55.0質量%以下とすることで、溶媒のHSPを上述の範囲に調整し易くなる。
【0050】
(水溶性有機溶媒)
水溶性有機溶媒としては、例えば、多価アルコール、多価アルコールのエーテル化合物、含窒素化合物、アルコール化合物、含硫黄化合物、糖アルコール、炭酸プロピレン及び炭酸エチレンが挙げられる。
【0051】
多価アルコールとしては、例えば、炭素原子数5以上8以下の第1ジオール化合物、炭素原子数2以上4以下の第2ジオール化合物、1,2,6-ヘキサントリオール及びグリセリンが挙げられる。
【0052】
第1ジオール化合物としては、例えば、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、及び1,2-ヘキサンジオールが挙げられる。第1ジオール化合物としては、2-メチルペンタン-2,4-ジオールが好ましい。
【0053】
第2ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブチレングリコール及びジエチレングリコールが挙げられる。第2ジオール化合物としては、1,3-プロパンジオールが好ましい。
【0054】
多価アルコールのエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル及びジグリセリンのエチレンオキシド付加物が挙げられる。
【0055】
含窒素化合物としては、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン及びトリエタノールアミンが挙げられる。
【0056】
アルコール化合物としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール及びベンジルアルコールが挙げられる。
【0057】
含硫黄化合物としては、例えば、チオジエタノール、チオジグリセロール、スルフォラン及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0058】
糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール、エリスリトール及びキシリトールが挙げられる。糖アルコールとしては、ソルビトールが好ましい。
【0059】
本発明のインクが糖アルコールを含有する場合、本発明のインクにおける糖アルコールの含有割合としては、0.1質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。
【0060】
本発明のインクにおける水溶性有機溶媒の含有割合としては、35.0質量%以上55.0質量%以下が好ましい。水溶性有機溶媒の含有割合を35.0質量%以上55.0質量%以下とすることで、溶媒のHSPを上述の範囲に調整し易くなる。
【0061】
第1溶媒は、水、1,5-ペンタンジオール及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールを含むことが好ましい。この場合、本発明のインクにおける水の含有割合としては、42.0質量%以上52.0質量%以下が好ましい。本発明のインクにおける1,5-ペンタンジオールの含有割合としては、12.0質量%以上20.0質量%以下が好ましい。本発明のインクにおける3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有割合としては、5.0質量%以上12.0質量%以下が好ましい。
【0062】
第1溶媒は、水、1,5-ペンタンジオール及び3-メチル-1,5-ペンタンジオールに加え、トリエチレングリコール(例えば、2.5質量%以上7.5質量%以下)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(例えば、4.0質量%以上12.0質量%以下)、2-ピロリドン(例えば、2.5質量%以上7.5質量%以下)、1,2-オクタンジオール(例えば、1.0質量%以上4.0質量%以下)、及びソルビトール(例えば0.3質量%以上1.5質量%以下)を更に含有することが好ましい。
【0063】
第2溶媒は、水、グリセリン及びテトラエチレングリコールモノブチルエーテルを含むことが好ましい。この場合、本発明のインクにおける水の含有割合としては、37.0質量%以上47.0質量%以下が好ましい。本発明のインクにおけるグリセリンの含有割合としては、4.0質量%以上8.0質量%以下が好ましい。本発明のインクにおけるテトラエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合としては、12.0質量%以上18.0質量%以下が好ましい。
【0064】
第2溶媒は、水、グリセリン及びテトラエチレングリコールモノブチルエーテルに加え、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(例えば、7.0質量%以上11.0質量%以下)、トリエチレングリコール(例えば、3.0質量%以上7.0質量%以下)、1,3-プロパンジオール(例えば、4.0質量%以上7.0質量%以下)、2-ピロリドン(例えば、0.5質量%以上2.5質量%以下)、1,5-ペンタンジオール(例えば、1.0質量%以上5.0質量%以下)、1,2-オクタンジオール(例えば、1.0質量%以上5.0質量%以下)、及びソルビトール(例えば0.3質量%以上1.5質量%以下)を更に含有することが好ましい。
【0065】
第3溶媒は、水、3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び1,3-プロパンジオールを含むことが好ましい。この場合、本発明のインクにおける水の含有割合としては、45.0質量%以上55.0質量%以下が好ましい。本発明のインクにおける3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有割合としては、8.0質量%以上14.0質量%以下が好ましい。本発明のインクにおける1,3-プロパンジオールの含有割合としては、20.0質量%以上25.0質量%以下が好ましい。
【0066】
第3溶媒は、水、3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び1,3-プロパンジオールに加え、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(例えば、3.0質量%以上6.0質量%以下)、2-ピロリドン(例えば、1.0質量%以上5.0質量%以下)、1,2-オクタンジオール(例えば、0.1質量%以上1.0質量%以下)、及びソルビトール(例えば0.3質量%以上1.5質量%以下)を更に含有することが好ましい。
【0067】
第4溶媒は、水、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル及び1,5-ペンタンジオールを含むことが好ましい。この場合、本発明のインクにおける水の含有割合としては、40.0質量%以上50.0質量%以下が好ましい。本発明のインクにおけるテトラエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合としては、12.0質量%以上18.0質量%以下が好ましい。本発明のインクにおける1,5-ペンタンジオールの含有割合としては、7.0質量%以上12.0質量%以下が好ましい。
【0068】
第4溶媒は、水、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル及び1,5-ペンタンジオールに加え、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(例えば、4.0質量%以上8.0質量%以下)、トリエチレングリコール(例えば、3.0質量%以上7.0質量%以下)、2-ピロリドン(例えば、5.0質量%以上10.0質量%以下)、1,2-オクタンジオール(例えば、1.5質量%以上4.5質量%以下)、及びソルビトール(例えば0.3質量%以上1.5質量%以下)を更に含有することが好ましい。
【0069】
第5溶媒は、水、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル及び2-ピロリドンを含むことが好ましい。この場合、本発明のインクにおける水の含有割合としては、37.0質量%以上47.0質量%以下が好ましい。本発明のインクにおけるテトラエチレングリコールモノブチルエーテルの含有割合としては、16.0質量%以上21.0質量%以下が好ましい。本発明のインクにおける2-ピロリドンの含有割合としては、12.0質量%以上16.0質量%以下が好ましい。
【0070】
第5溶媒は、水、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル及び2-ピロリドンに加え、グリセリン(例えば、0.1質量%以上1.0質量%以下)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(例えば、10.0質量%以上14.0質量%以下)、トリエチレングリコール(例えば、0.1質量%以上1.0質量%以下)、1,5-ペンタンジオール(例えば、1.0質量%以上3.0質量%以下)、1,2-オクタンジオール(例えば、0.5質量%以上1.5質量%以下)、及びソルビトール(例えば0.3質量%以上1.5質量%以下)を更に含有することが好ましい。
【0071】
[他の成分]
本発明のインクは、必要に応じて、公知の添加剤(より具体的には、例えば、界面活性剤、保湿剤、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0072】
(界面活性剤)
界面活性剤は、本発明のインクに含まれる各成分の相溶性及び分散安定性を向上させる。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0073】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートエーテル、モノデカノイルショ糖、及びアセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0074】
本発明のインクが界面活性剤を含有する場合、本発明のインクにおける界面活性剤の含有割合としては、0.1質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.2質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。
【0075】
[インクの調製方法]
本発明のインクは、例えば、顔料分散体を含む顔料分散液と、水溶性有機溶媒と、水と、必要に応じて配合される他の成分(例えば、界面活性剤)とを攪拌機により均一に混合することにより調製できる。本発明のインクの調製では、各成分を均一に混合した後、フィルター(例えば、孔径5μm以下のフィルター)でろ過することにより、異物及び粗大粒子を除去してもよい。
【0076】
顔料分散体は、分散媒(例えば、水)中で顔料及び分散樹脂を分散処理することにより調製することができる。分散処理としては、例えば、ビーズミルを用いた処理が挙げられる。
【実施例
【0077】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0078】
<インクの調製>
以下の方法により、実施例及び比較例のインクを調製した。まず、各インクの調製に用いる成分を準備した。
【0079】
(分散樹脂Aの調製)
四つ口フラスコに、スターラーと、窒素導入管と、攪拌機の付いたコンデンサーと、滴下漏斗とをセットした。この四つ口フラスコを反応容器とした。次に、反応容器に、200.0gのイソプロピルアルコールと350.0gのメチルエチルケトンとを投入した。次に、反応容器に窒素ガスを通気し、かつ内容物を攪拌した状態で、反応容器の内容物を90℃(還流状態)に加熱した後、この温度を保持した。別途、50.0gのスチレンと、5.0gのメタクリル酸と、50.0gのメタクリル酸メチルと、5.0gのアクリル酸n-ブチルと、0.6gのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN、重合開始剤)とを混合し、モノマー溶液を得た。次に、反応容器の内容物の温度を90℃(還流状態)に保ったまま、上述のモノマー溶液を反応容器に約2時間かけて滴下した。滴下後、反応容器の内容物の温度を90℃(還流状態)で3時間保持した。
【0080】
次に、AIBN0.3gを含有するメチルエチルケトン溶液150gを反応容器に1時間かけて滴下した。滴下後、反応容器の内容物の温度を90℃(還流状態)で5時間保持し、内容物を熟成させた。次に、反応容器の内容物を減圧処理し、溶媒を除去した。これにより、スチレン-(メタ)アクリル樹脂である分散樹脂Aを得た。
【0081】
(分散樹脂Bの調製)
冷却管付きのフラスコに、スターラーと、窒素導入管と、攪拌機付きのコンデンサーと、滴下漏斗とをセットした。このフラスコを反応容器とした。次に、反応容器に、メチルエチルケトン73.0gと、ジメチロールプロピオン酸20.0gと、ジシクロヘキシルメタン-4,4’?ジイソシアネート80.0gとを投入した。次に、反応容器の内容物を80℃(還流状態)に加熱した後、この温度で3時間保持した。次に、反応容器に、ポリエステルポリオール35.0g(株式会社クラレ製「クラレポリオールP-1010」)と、ポリテトラメチレンエーテルグリコール35.5g(三菱ケミカル株式会社製「PTMG1000」)と、メチルエチルケトン71.0gとを添加した。次に、反応容器の内容物の温度を70℃(還流状態)で4時間保持した。次に、反応容器の内部に、N-ジメチルアミノエタノール10.0gと、メチルエチルケトン60.0gとを加えた。次に、反応容器の内容物を80℃(還流状態)で2時間保持した。次に、反応容器の内容物を30℃に冷却した。次に、反応容器にN-メチルモロホリン16.0gと、メチルエチルケトン57.0gとを加えた後、1時間攪拌した。次に、反応容器の内容物を減圧処理し、溶媒を除去した。これにより、ウレタン樹脂である分散樹脂Bを得た。
【0082】
(分散樹脂Cの調製)
冷却管付きのフラスコに、スターラーと、窒素導入管と、攪拌機付きのコンデンサーと、滴下漏斗とをセットした。このフラスコを第1反応容器とした。次に、第1反応容器に、N,N’-ジエタノールアミン114.0gと、ノニルフェニルテトラエチレンエーテルグリコールアクリレート89.0gとを投入した。次に、第1反応容器の内容物を85℃(還流状態)に加熱した後、この温度で9時間保持した。これにより、分子中にノニルフェニル基を有するジオールXを得た。
【0083】
別の冷却管付きのフラスコに、スターラーと、窒素導入管と、攪拌機付きのコンデンサーと、滴下漏斗とをセットした。このフラスコを第2反応容器とした。第2反応容器に、メチルエチルケトン161.0gと、ジメチロールプロピオン酸28.0gと、上述のジオールXを28.0gと、3-メチル-1,5-ペンタンジオール112.0gと、ポリエチレングリコール112.0gと、イソホロンジイソシアネート238gとを投入した。次に、第2反応容器の内容物を60℃(還流状態)に加熱した後、この温度で8時間保持した。次に、第2反応容器に、N,N’-ジメチルアミノメタノール49.0g及びメチルエチルケトン161.0gを添加し、80℃で1時間保持した。次に、第2反応容器の内容物の温度を35℃に冷却した。次に、第2反応容器にN-メチルモロホリン49.0gを添加して、1時間攪拌した。次に、第2反応容器の内容物を減圧処理し、溶媒を除去した。これにより、分子中に三級アミノ基末端とノニオン性極性基とを有するウレタン樹脂である分散樹脂Cを得た。
【0084】
(顔料分散液(P-1)の調製)
90.0gの分散樹脂Aに、イオン交換水760.0gを添加して希釈した後、顔料としてのピグメントブラック7(三菱ケミカル株式会社製「MA600B」)150.0gを添加した後、高速回転ディスパー(T.K.ロボミックス+T.K.ホモディスパー2.5型、プライミクス社製)を用いて5000rpm、1時間攪拌することでプレミックスした。次に、ビーズミル(日本コークス工業株式会社製「SCミル」)を用い、分散処理を行った。分散処理において、メディアとしては、ジルコニアビーズ(直径0.2mm)を用いた。また、分散処理において、ビーズミルのベッセルにおけるメディアの充填率は、80体積%とした。これにより、顔料分散体(p-1)を含有する顔料分散液(P-1)(顔料:15.0質量%、分散樹脂A:9.0質量%)を得た。顔料分散体(p-1)のZ-Averageは、103nmであった。
【0085】
(顔料分散液(P-2)の調製)
75.0gの分散樹脂Bに、イオン交換水775.0gを添加して希釈した後、顔料としてのピグメントブルー15:3(大日精化工業株式会社製「ECB-301」)150.0gを添加した後、高速回転ディスパー(T.K.ロボミックス+T.K.ホモディスパー2.5型、プライミクス社製)を用いて5000rpm、1時間攪拌することでプレミックスした。次に、ビーズミル(日本コークス工業株式会社製「SCミル」)を用い、分散処理を行った。分散処理において、メディアとしては、ジルコニアビーズ(直径0.2mm)を用いた。また、分散処理において、ビーズミルのベッセルにおけるメディアの充填率は、80体積%とした。これにより、顔料分散体(p-2)を含有する顔料分散液(P-2)(顔料:15.0質量%、分散樹脂B:7.5質量%)を得た。顔料分散体(p-2)のZ-Averageは、101nmであった。
【0086】
(顔料分散液(P-3)の調製)
80.0gの分散樹脂Cに、イオン交換水770.0gを添加して希釈した後、顔料としてのピグメントブルー15:3(大日精化工業株式会社製「ECB-301」)150.0gを添加した後、高速回転ディスパー(T.K.ロボミックス+T.K.ホモディスパー2.5型、プライミクス社製)を用いて5000rpm、1時間攪拌することでプレミックスした。次に、ビーズミル(日本コークス工業株式会社製「SCミル」)を用い、分散処理を行った。分散処理において、メディアとしては、ジルコニアビーズ(直径0.2mm)を用いた。また、分散処理において、ビーズミルのベッセルにおけるメディアの充填率は、80体積%とした。これにより、顔料分散体(p-3)を含有する顔料分散液(P-3)(顔料:15.0質量%、分散樹脂C:8.0質量%)を得た。顔料分散体(p-3)のZ-Averageは、105nmであった。
【0087】
実施形態に記載の方法により、顔料分散体(p-1)~(p-3)のHSP及びハンセン球の半径R0を測定した。測定された値を下記表1に示す。下記表1において、種類の「第1」、「第2」及び「第3」は、それぞれ、実施形態に記載の第1顔料分散体、第2顔料分散体及び第3顔料分散体の何れに分類されるかを示す。
【0088】
【表1】
【0089】
(混合)
下記表2に示す通りの組成となるように各成分を混合した。これにより、実施例1~6及び比較例1~4のインクを調製した。
【0090】
下記表2において、各数値は、インクにおける含有割合[質量%]を示す。「TEGMBE」は、KHネオケム株式会社製「ブチセノール(登録商標)40」(テトラエチレングリコールモノブチルエーテル)を示す。「MPD」は、3-メチル-1,5-ペンタンジオールを示す。「PD」は、1,3-プロパンジオールを示す。これらの説明は、下記表3でも同様である。また、下記表2において、界面活性剤は、日信化学工業株式会社「サーフィノール(登録商標)104」(アセチレングリコール系界面活性剤)を示す。
【0091】
【表2】
【0092】
各インクの調製に用いた溶媒のHSP(文献値)を下記表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
(HSP)
実施形態に記載の方法により、各インクの溶媒(水及び水溶性有機溶媒を含む混合溶媒)のHSPを算出した。以下、実施例1の溶媒のHSPの算出方法を具体例として挙げる。実施例2~6及び比較例1~4の溶媒のHSPについても、以下の算出方法と同様の方法により算出した。
【0095】
まず、実施例1のインクの溶媒の分散項(dD)を算出した。実施例1のインクにおいて、水の含有割合は、50.0質量%である。全溶媒の質量における水の質量の比率は、0.513である。水の分散項(dD)は、15.1MPa0.5である。以上から、水の分散項(dD)及び質量比率(0.513)の積Aは、7.7MPa0.5である。同様の方法で、グリセリン、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、2-ピロリドン、1,5-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、及びソルビトールのそれぞれについて、積Aを求めた。各溶媒の分散項(dD)の積Aを下記表4に示す。そして、各溶媒の分散項(dD)の積Aを合算した和Bを、実施例1のインクの溶媒の分散項(dD)とした。実施例1のインクの溶媒の分散項(dD)は、16.0MPa0.5であった。
【0096】
【表4】
【0097】
同様の方法により、実施例1のインクの溶媒の分極項(dP)及び水素結合項(dH)と、実施例2~6及び比較例1~4のインクの溶媒の分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)とを算出した。算出した各インクの溶媒のHSPを下記表5に示す。下記表5には、各インクの溶媒が、実施形態に記載の第1~第5溶媒の何れに分類されるかを併せて示す。なお、下記表5において、「N/A」は、第1~第5溶媒の何れにも該当しない溶媒であることを示す。
【0098】
【表5】
【0099】
(REDの算出)
各インクについて、溶媒及び顔料分散体の相対エネルギー差(RED)を算出した。詳しくは、各インクについて、実施形態に記載の数式(R-1)を用いて、溶媒及び顔料分散体のハンセン空間内での距離Raを算出した。次に、実施形態に記載の数式(r)を用いて、距離Raと、顔料分散体のハンセン球の半径R0とから、REDを算出した。算出したREDを下記表6に示す。
【0100】
【表6】
【0101】
<評価>
実施例1~6及び比較例1~4のインクについて、以下の方法により、白抜けの発生の抑制できているか否かと、保存安定性とを評価した。評価結果を下記表7に示す。
【0102】
[白抜け]
評価機として、京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の試作機を用いた。評価機は、内部に保温用ヒーター及び温度検知機能を有する記録ヘッド(京セラ株式会社製「KJ4B-QA」)を備えていた。評価において、記録ヘッドの温度は25℃に設定した。また、評価は温度23℃、湿度50%RH環境下(常温常湿環境下)で行った。
【0103】
評価機を用いて、10枚の印刷用紙(Mondi BP社製「COLOR COPY(登録商標)90」)に、150mm×200mmのソリッド画像をそれぞれ形成した。ソリッド画像が形成された10枚の印刷用紙(以下、評価用紙Aと記載することがある)を、常温常湿環境下にて24時間保存した。その後、10枚の評価用紙Aに形成されたソリッド画像をスキャナーで読み取り、画像処理ソフト「ImageJ(パブリックドメイン)」を用いて直径150μm以上の白点の個数をカウントした。10枚の評価用紙Aのうち、白点が最も多い評価用紙Aにおける白点の個数(白点の最大数)を評価値とした。白抜けの発生を抑制できているか否かは、以下の基準で評価した。
【0104】
(白抜けの評価基準)
A(特に良好):白点の最大数が30個未満
B(良好):白点の最大数が30個以上50個未満
C(不良):白点の最大数が50個以上
【0105】
[保存安定性]
振動式粘度計(ニッテツ北海道制御システム株式会社製「VM-200T」)を用い、評価対象となるインクの粘度(初期粘度V1)を測定した。次に、容積50mLの容器に、評価対象となるインクを約30g投入した。上述の容器を、内温60℃に設定された恒温器に入れ、1ヶ月間保温した。その後、上述の容器を恒温器から取り出した後、上述の容器を室温にて3時間静置した。その後、上述の容器から測定対象となるインクを取り出し、上述の振動式粘度計を用いて粘度(処理後粘度V2)を測定した。測定された初期粘度V1及び処理後粘度V2に基づいて、粘度変化率[%]を算出した(下記数式(V))。算出された粘度変化率を、測定対象となるインクの保存安定性の評価値とした。インクの保存安定性は、以下の評価基準に沿って評価した。
粘度変化率[%]=100×(V1-V2)/V1・・・(V)
【0106】
(保存安定性の評価基準)
A(特に良好):粘度変化率の絶対値が2%以下
B(良好):粘度変化率の絶対値が2%超5%以下
C(不良):粘度変化率の絶対値が5%超
【0107】
下記表7において、組み合わせ「第1」、「第2」、「第3」、「第4」、「第5」及び「第6」は、それぞれ、実施形態に記載の第1~第6の組み合わせの何れに分類されるかを示す。N/Aは、該当する組み合わせが存在しないことを示す。
【0108】
【表7】
【0109】
表7に示すように、実施例1~6のインクは、顔料分散体と、溶媒とを含有していた。顔料分散体は、実施形態に記載の第1顔料分散体、第2顔料分散体又は第3顔料分散体を含んでいた。第1顔料分散体、第2顔料分散体及び第3顔料分散体は、それぞれ、顔料及び分散樹脂を含んでいた。溶媒は、実施形態に記載の第1溶媒、第2溶媒、第3溶媒、第4溶媒又は第5溶媒を含んでいた。第1溶媒、第2溶媒、第3溶媒、第4溶媒及び第5溶媒は、それぞれ、水及び水溶性有機溶媒を含んでいた。顔料分散体及び溶媒の組み合わせは、顔料分散体が第2顔料分散体を含み、溶媒が第1溶媒を含む第1の組み合わせ、顔料分散体が第2顔料分散体を含み、溶媒が第2溶媒を含む第2の組み合わせ、顔料分散体が第1顔料分散体を含み、溶媒が第3溶媒を含む第3の組み合わせ、顔料分散体が第3顔料分散体を含み、溶媒が第4溶媒を含む第4の組み合わせ、顔料分散体が第3顔料分散体を含み、溶媒が第5溶媒を含む第5の組み合わせ、又は顔料分散体が第3顔料分散体を含み、溶媒が第1溶媒を含む第6の組み合わせであった。実施例1~6のインクは、上述の構成を満たすことにより、優れた保存性を発揮しつつ、白抜けの発生を抑制できた。
【0110】
一方、比較例1及び2のインクは、第1~第6の組み合わせを満たさなかったため、白抜けの発生を十分に抑制できなかった。比較例1及び2のインクは、REDが0.65未満となる顔料分散体及び溶媒の組み合わせであったため、記録媒体の表面で顔料分散体が十分に凝集しなかったと判断される。
【0111】
比較例3及び4のインクは、第1~第6の組み合わせを満たさなかったため、保存安定性が不良であった。比較例3及び4のインクは、REDが0.77超となる顔料分散体及び溶媒の組み合わせであったため、顔料分散体の分散状態が不安定であったと判断される。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のインクは、画像を形成するために用いることができる。