(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】磁気電気変換素子
(51)【国際特許分類】
H02N 2/18 20060101AFI20240402BHJP
H10N 35/85 20230101ALI20240402BHJP
H10N 35/01 20230101ALI20240402BHJP
H02J 50/00 20160101ALI20240402BHJP
【FI】
H02N2/18
H10N35/85
H10N35/01
H02J50/00
(21)【出願番号】P 2020024333
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野口 隆男
(72)【発明者】
【氏名】岡野 靖久
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-346278(JP,A)
【文献】特開2008-072120(JP,A)
【文献】特開平11-126449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/18
H10N 35/85
H10N 35/01
H02J 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に支持された積層体を有する磁気電気変換素子であって、
前記積層体は、前記基板に固定してある固定部と、伸縮振動が可能な可動部と、を有し、
前記可動部は、第1電極薄膜と、圧電体薄膜と、前記圧電体薄膜を挟んで前記第1電極薄膜の反対側に位置する強磁性体薄膜と、を有し、
前記強磁性体薄膜の外周縁は、前記圧電体薄膜の外周縁よりも、面内方向の内側に位置し、
前記可動部の面内方向において、
前記可動部に位置する前記圧電体薄膜の外周縁から前記可動部に位置する前記強磁性体薄膜の外周縁までの距離を、オフセット長とし、
前記可動部に位置する前記強磁性体薄膜の外周縁のうち、前記可動部に位置する前記圧電体薄膜の外周縁のうちの平面視における前記積層体の長手方向の端側と前記長手方向で対向する部分における前記長手方向の前記オフセット長と、前記可動部に位置する前記強磁性体薄膜の外周縁のうち、平面視における前記積層体の短手方向の両側における前記短手方向の前記オフセット長とが連続
して存在しており、それぞれの前記オフセット長が5μm以上、20μm未満である磁気電気変換素子。
【請求項2】
前記強磁性体薄膜の外周縁は、積層後の前記強磁性体薄膜の一部をエッチングまたはリフトオフにより除去することで形成してある請求項1に記載の磁気電気変換素子。
【請求項3】
基板に支持された積層体を有する磁気電気変換素子であって、
前記積層体は、前記基板に固定してある固定部と、伸縮振動が可能な可動部と、を有し、
前記可動部は、第1電極薄膜と、圧電体薄膜と、前記圧電体薄膜を挟んで前記第1電極薄膜の反対側に位置する強磁性体薄膜と、を有し、
前記可動部の積層方向において、前記圧電体薄膜と前記強磁性体薄膜とが有効に重複する部分を、有効領域とし、
前記有効領域の外周縁は、前記圧電体薄膜の外周縁よりも、面内方向の内側に位置し、
前記可動部の面内方向において、
前記可動部に位置する前記圧電体薄膜の外周縁から前記可動部に位置する前記有効領域の外周縁までの距離を、オフセット長とし、
前記可動部に位置する前記有効領域の外周縁のうち、前記可動部に位置する前記圧電体薄膜の外周縁のうちの平面視における前記積層体の長手方向の端側と前記長手方向で対向する部分における前記長手方向の前記オフセット長と、前記可動部に位置する前記有効領域の外周縁のうち、平面視における前記積層体の短手方向の両側における前記短手方向の前記オフセット長とが連続
して存在しており、それぞれの前記オフセット長が5μm以上、20μm未満である磁気電気変換素子。
【請求項4】
前記可動部の積層方向において、前記圧電体薄膜と前記強磁性体薄膜との間には、第2電極薄膜が積層してある請求項3に記載の磁気電気変換素子。
【請求項5】
前記可動部の積層方向において、前記第2電極薄膜と前記強磁性体薄膜との間には、絶縁層が介在している請求項4に記載の磁気電気変換素子。
【請求項6】
前記可動部は、前記基板と接触しない非拘束面を有し、面内伸縮振動が可能となっている請求項1~5のいずれかに記載の磁気電気変換素子。
【請求項7】
前記圧電体薄膜は、エピタキシャル成長膜であり、前記
圧電体薄膜の<110>方向が、前記積層体の長手方向または短手方向に略平行である請求項1~6のいずれかに記載の磁気電気変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体薄膜と強磁性体薄膜とを積層した磁気電気変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および2に示すように、アンテナや磁気センサ、およびエネルギー変換デバイスなどに利用する素子として、圧電体層と磁歪層とを積層した磁気電気変換素子が知られている。この磁気電気変換素子は、磁場や、電磁波、超音波などのエネルギー(入力信号)を電気出力に変換することができる。上記の素子において、電気出力は、磁歪層で発生した歪が圧電体層に伝わり、圧電体層自体が撓むことで発生する。
【0003】
このような磁気電気変換素子において、圧電体層は、金属よりも靭性が低い(すなわち脆性破壊し易い)セラミック材料で構成されている。そのため、圧電体層にクラックが発生することがあり、素子の耐久性に課題がある。特に、磁気電気変換素子においては、薄型化が求められているが、圧電体層を薄膜化すると、素子の耐久性がさらに低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実全昭58-040853号公報
【文献】米国特許出願公開第2018/0115070(US,A1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、耐久性が優れる磁気電気変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る磁気電気変換素子は、
基板に支持された積層体を有する磁気電気変換素子であって、
前記積層体は、前記基板に固定してある固定部と、伸縮振動が可能な可動部と、を有し、
前記可動部は、第1電極薄膜と、圧電体薄膜と、前記圧電体薄膜を挟んで前記第1電極薄膜の反対側に位置する強磁性体薄膜と、を有し、
前記強磁性体薄膜の外周縁は、前記圧電体薄膜の外周縁よりも、面内方向の内側に位置する。
【0007】
本発明の第1の観点に係る磁気電気変換素子は、可動部が伸縮振動可能であり、可動部の伸縮振動に伴って圧電体薄膜に歪を生じさせる構造となっている。本発明者等は、鋭意検討した結果、この磁気電気変換素子において、強磁性体薄膜を、圧電体薄膜の外周縁よりも面内方向の内側に位置するように積層することで、素子の耐久性が向上することを見出した。本発明の第1の観点では、圧電体薄膜の外周縁の近傍では歪が発生し難いため、圧電体薄膜にクラックが発生することを防止できる。
【0008】
また、本発明の第1の観点では、前記可動部の面内方向において、前記圧電体薄膜の外周縁から前記強磁性体薄膜の外周縁までの距離を、オフセット長とする。このオフセット長は、好ましくは、5μm以上、20μm未満、より好ましくは、5μm以上、10μm以下である。オフセット長が上記の範囲内であることで、圧電体薄膜の圧電活性領域を十分に確保しつつ、素子の耐久性を向上させることができる。
【0009】
また、本発明の第1の観点において、前記強磁性体薄膜の外周縁は、積層後の前記強磁性体薄膜の一部をエッチングまたはリフトオフにより除去することで形成できる。
【0010】
本発明の第2の観点に係る磁気電気変換素子は、
基板に支持された積層体を有する磁気電気変換素子であって、
前記積層体は、前記基板に固定してある固定部と、伸縮振動が可能な可動部と、を有し、
前記可動部は、第1電極薄膜と、圧電体薄膜と、前記圧電体薄膜を挟んで前記第1電極薄膜の反対側に位置する強磁性体薄膜と、を有し、
前記可動部の積層方向において、前記圧電体薄膜と前記強磁性体薄膜とが有効に重複する部分を、有効領域とし、
前記有効領域の外周縁は、前記圧電体薄膜の外周縁よりも、面内方向の内側に位置する。
【0011】
上記において、「有効に重複する部分(有効領域)」とは、強磁性体薄膜と圧電体薄膜とが、直に接する部分、もしくは、他の電極膜等を介して重複する部分である。換言すると、「有効領域」とは、強磁性体薄膜の磁歪効果によって圧電体薄膜に発生した電荷を取り出し可能な領域、を意味する。
【0012】
前述した本発明の第1の観点では、強磁性体薄膜の外周縁と圧電体薄膜の外周縁との関係性に特徴があるが、本発明の第2の観点では、有効領域の外周縁と圧電体薄膜の外周縁との関係性に特徴がある。第1の観点では、平面視において、強磁性体薄膜の平面寸法よりも圧電体薄膜の平面寸法のほうが大きくなる。一方、第2の観点では、平面視において、強磁性体薄膜の平面寸法よりも圧電体薄膜の平面寸法のほうが大きくなる場合もあるが、逆に強磁性体薄膜の平面寸法のほうが大きくなる場合もあり得る。この点が、第1の観点と第2の観点との相違点である。
【0013】
本発明の第2の観点に係る磁気電気変換素子では、有効領域の外周縁が、圧電体薄膜の外周縁よりも、面内方向の内側に位置することで、素子の耐久性が向上する。すなわち、第2の観点の場合であっても、第1の観点と同様の効果が得られる。
【0014】
また、本発明の第2の観点では、前記可動部の面内方向において、前記圧電体薄膜の外周縁から前記有効領域の外周縁までの距離を、オフセット長とする。このオフセット長は、好ましくは、5μm以上、20μm未満、より好ましくは、5μm以上、10μm以下である。オフセット長が上記の範囲内であることで、有効領域を十分に確保しつつ、素子の耐久性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明の第2の観点では、前記可動部の積層方向において、前記圧電体薄膜と前記強磁性体薄膜との間に、第2電極薄膜が積層してあってもよい。さらに、本発明の第2の観点では、前記可動部の積層方向において、前記第2電極薄膜と前記強磁性体薄膜との間に、絶縁層が介在していてもよい。
【0016】
なお、本発明の第1の観点、および第2の観点において、前記可動部は、前記基板と接触しない非拘束面を有し、面内伸縮振動が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る磁気電気変換素子を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す磁気電気変換素子の内部構造を示す平面図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の第2実施形態に係る磁気電気変換素子を示す平面図である。
【
図5A】
図5Aは、本発明の第3実施形態に係る磁気電気変換素子を示す平面図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の第4実施形態に係る磁気電気変換素子を示す平面図である。
【
図7】
図7は、耐久性試験の評価結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本発明の変形例を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0019】
第1実施形態
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る磁気電気変換素子2aは、基板6と、当該基板6に支持された積層体4と、を有する。本実施形態において、積層体4は、直方体形状であり、積層体4の長手方向をX軸、幅方向をY軸、高さ(厚み)方向をZ軸とする。なお、
図1~
図3において、X軸、Y軸およびZ軸は、相互に略垂直である。
【0020】
この磁気電気変換素子2aにおいて、積層体4のX軸方向の一端は、基板6の表面に固定してあり、積層体4のX軸方向の他端側は、自由端となっている。すなわち、磁気電気変換素子2aは、カンチレバー型の構造を有し、積層体4の一部が伸縮振動可能となっている。本実施形態では、積層体4において、基板6の表面に接している部分を固定部41と称し、伸縮振動する部分を可動部42と称する。
【0021】
積層体4の可動部42は、固定部41からX軸方向に伸びており、当該可動部42の表面および裏面は、基板と接触していない非拘束面となっている。この可動部42は、特に、面内方向で伸縮振動が可能である。ここで、面内伸縮とは、X-Y平面において可動部42が伸縮することを意味し、面外伸縮とは、Z軸方向において可動部42が伸縮することを意味する。本実施形態のように面内伸縮が可能である場合、可動部42は、面外方向においても伸縮振動が可能である。
【0022】
一方、固定部41の裏面は、基板6の表面に連結してあり、固定部41の表面には、第1外部電極8aと、第2外部電極8bとが、互いに離反して形成してある。磁気電気変換素子2aでは、この外部電極8a,8bに、図示しない外部回路などが接続される。
【0023】
次に、
図2A~
図2Cに基づいて、積層体4の内部構造を説明する。
図2A~2Cに示すように、積層体4の内部には、下地電極膜12と、圧電体薄膜14と、強磁性体薄膜16とが積層してある。下地電極膜12は、Z軸方向の最下層に位置し、当該下地電極膜12の上に圧電体薄膜14が形成してある。また、強磁性体薄膜16は、圧電体薄膜14の上に形成してあり、圧電体薄膜14を挟んで下地電極膜12の反対側に位置する。
【0024】
また、積層体4の側方および表面側には、各膜12,14,16が積層された部分を覆うように、絶縁層20が形成してある。この絶縁層20は、積層体4の外装として、各膜12,14,16を保護する役割を有する。また、絶縁層20は、下地電極膜12と強磁性体薄膜16とが短絡することを防止している。
【0025】
図2Aに示すように、強磁性体薄膜16には、引出電極18が電気的に接続してある。そして、当該引出電極18のZ軸方向の上方には、絶縁層20を貫通するようにビアホール電極19aが形成してある。本実施形態において、強磁性体薄膜16は、引出電極18およびビアホール電極19aを介して、第1外部電極8aに電気的に接続してある。
【0026】
一方、
図2Bに示す断面においては、ビアホール電極19bが、絶縁層20と圧電体薄膜14とを貫通するように形成してある。下地電極膜12は、このビアホール電極19bを介して、第2外部電極8bに電気的に接続してある。
【0027】
上記のように、本実施形態の磁気電気変換素子2aでは、可動部42において、圧電体薄膜14が下地電極膜12と強磁性体薄膜16とで挟まれた状態で積層してある。そのため、圧電体薄膜14には、下地電極膜12と強磁性体薄膜16とを介して、電圧の印加が可能である。もしくは、圧電体薄膜14の表面で発生した電荷を、下地電極膜12と強磁性体薄膜16とを介して、取り出しが可能となっている。
【0028】
次に、
図3を参照して、各膜12,14,16の積層構造をより詳細に説明する。
図3は、磁気電気変換素子2aの平面図であって、積層構造を示すために、外装である絶縁層20を仮想線(二点鎖線)で表している。
【0029】
図3に示すように、本実施形態では、積層された各膜12,14,16が、いずれも、略矩形の平面視形状を有する。ただし、強磁性体薄膜16の平面寸法は、圧電体薄膜14の平面寸法よりも小さくなっており、強磁性体薄膜16の外周縁は、圧電体薄膜14の外周縁よりも、面内方向の内側に位置している。上記のように、強磁性体薄膜16を、圧電体薄膜14よりも平面寸法が小さくなるように積層することで、磁気電気変換素子2aの耐久性を向上させることができる。
【0030】
特に、本実施形態では、可動部42の面内方向において、圧電体薄膜14の外周縁から強磁性体薄膜16の外周縁までの距離を、所定の範囲とすることが好ましい。具体的に、本実施形態では、圧電体薄膜14の外周縁から強磁性体薄膜16の外周縁までの距離をオフセット長とし、このオフセット長を、少なくとも3μm以上とする。また、オフセット長は、5μm以上、20μm未満とすることが好ましく、5μm以上、10μm以下とすることがより好ましい。
【0031】
なお、上記において、オフセット長は、圧電体薄膜14の外周縁と強磁性体薄膜16の外周縁とが近接する位置で計測する。たとえば、
図3の場合、可動部42の先端側(固定部41の反対側)において、圧電体薄膜14の外周縁から強磁性体薄膜16の外周縁までのX軸方向の距離を、オフセット長La1とする。また、可動部42のY軸方向の両端において、圧電体薄膜14の外周縁から強磁性体薄膜16の外周縁までのY軸方向の距離を、オフセット長La2とする。La1とLa2とは、同程度の幅であってもよく、異なっていてもよい。
【0032】
なお、オフセット長La1,La2は、測長機能を持つ走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡により
図3に示す表面(最表層の絶縁層20を除去した状態の表面)を観察し計測することで求められる。あるいは、走査型透過電子顕微鏡(STEM)などにより
図2A~2Cに示す断面を観察し、その際に得られる断面写真を画像解析することでも求められる。この際、計測は、少なくとも3箇所以上で行い、その平均値を算出することが好ましい。
【0033】
また、下地電極膜12の平面寸法は、圧電体薄膜14の平面寸法と同程度とすることができる。ただし、下地電極膜12の平面寸法は、圧電体薄膜14の平面寸法よりも大きくなっていてもよい。換言すると、下地電極膜12の外周縁は、Z軸方向において、圧電体薄膜14の外周縁と重複していてもよいし、圧電体薄膜14の外周縁よりも面内方向の外側に位置していてもよい。
【0034】
続いて、磁気電気変換素子2aを構成する各要素の特徴について、詳細を説明する。
【0035】
(基板6)
本実施形態において、基板6は、少なくとも積層体4を支持できる絶縁物であればよいが、単結晶の基板であることが好ましい。単結晶基板としては、Si、MgO、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)などが挙げられる。本実施形態では、特に、表面がSi(100)面の単結晶となっているシリコン基板を使用することがより好ましい。なお、Si(100)面の単結晶とは、シリコン基板において、立方晶の(100)面が、厚み方向に対して略平行となるように配向していることを意味する。
【0036】
(圧電体薄膜14)
圧電体薄膜14は、圧電材料で構成してあり、圧電効果または逆圧電効果を奏する。圧電効果とは、外力(応力)が加わることで電荷を発生する効果を意味し、逆圧電効果とは、電圧を加えることで歪が発生する効果を意味する。このような効果を奏する圧電材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O3)、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN:(K,Na)NbO3)、ジルコン酸チタン酸バリウムカルシウム(BCZT:(Ba,Ca)(Zr,Ti)O3)、などが例示される。
【0037】
本実施形態では、上記の圧電材料のうち、特に、PZT、KNN、およびBCZTなどのペロブスカイト構造を有する圧電材料を用いることが好ましい。ペロブスカイト構造の圧電材料は、優れた圧電特性を有するため、圧電体薄膜14をこれらの材質で構成することで、磁気電気変換素子2aの性能が向上する。なお、圧電体薄膜14を構成する上記の圧電材料には、圧電特性をさらに改善するために、適宜他の元素や化合物が添加してあってもよい。
【0038】
また、ペロブスカイト構造の圧電材料を用いる場合、圧電体薄膜14は、エピタキシャル成長した膜であることがより好ましい。ここで、エピタキシャル成長とは、成膜の際に、膜の結晶が、下地材料の結晶格子に整合する形で、膜厚方向(Z軸方向)および面内方向(X軸およびY軸方向)に揃いながら成長することをいう。そのため、より好ましい様態の場合、圧電体薄膜14は、成膜中の高温状態において、結晶が、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向の3軸すべての方向に揃って配向した状態(3軸配向)となる。
【0039】
3軸配向するようにエピタキシャル成長しているか否かは、薄膜形成過程において反射高速電子線回折評価(RHEED評価)を行うことで確認できる。成膜中の膜表面において、結晶配向に乱れがある場合には、RHEED像は、リング状に伸びたパターンを示す。一方で、上記のようにエピタキシャル成長している場合には、RHEED像は、スポット状またはストリーク状のシャープなパターンを示す。上記のようなRHEED像は、あくまでも成膜中の高温状態で観測される。
【0040】
エピタキシャル成長した場合、圧電体薄膜14は、成膜後の室温状態において、結晶粒界がほとんど形成されず、単結晶に近い(完全な単結晶ではない)結晶構造を有する。より具体的に、成膜後における圧電体薄膜14の結晶構造は、3軸配向したうえで、複数の結晶相を有することが好ましく、また、少なくとも3種のドメイン(域)を含むドメイン構造を有することが好ましい。圧電体薄膜14がドメイン構造を有することで、圧電特性がより向上し、外部応力に対する圧電応答性が高まる。
【0041】
圧電体薄膜14がドメイン構造を有する場合、ドメイン構造の具体的な構成は、使用する圧電材料によって異なる。たとえば、圧電体薄膜14がPZTのエピタキシャル成長膜である場合には、正方晶と菱面体晶の少なくとも2種の結晶相を有することができる。そして、この場合、正方晶は、c軸(直方体(結晶格子)の長手方向の軸)が膜厚方向を向いたドメインと、c軸が面内方向を向いたドメインと、を有する。また、菱面体晶の結晶相は、膜厚方向に対して(100)面が平行となるように配向している。すなわち、圧電体薄膜14がPZTのエピタキシャル成長膜である場合には、正方晶の2種のドメインと、菱面体晶のドメインとの計3種のドメインを含むことが好ましい。
【0042】
一方、圧電体薄膜14がKNNのエピタキシャル成長膜である場合には、斜方晶の2種のドメインと、単斜晶の1種のドメインと(計3種のドメイン)を有することが好ましい。上記の場合、斜方晶の2種のドメインとは、斜方晶の(001)面が膜厚方向に対して略平行となるように配向したドメイン(aドメイン)と、斜方晶の(010)面が膜厚方向に対して略平行となるように配向したドメイン(cドメイン)とが存在し得る。また、単斜晶のドメインでは、(100)面または(010)面が膜厚方向に対して略平行となっていることが好ましい。
【0043】
また、圧電体薄膜14がBCZTのエピタキシャル成長膜である場合には、正方晶の2種のドメインと、斜方晶の2種のドメインと(計4種のドメイン)を有することが好ましい。
【0044】
上述したような複数のドメインは、共通のドメイン境界を挟んで接しているため、各ドメインの結晶軸の向きは、膜厚方向や面内方向から最大数度程度(具体的には、±3度程度)ずれていても良い。また、上述したような複数のドメインは、少なくとも成膜時の高温状態においては、同じ結晶系の同じ方位に配向した等価なドメインであり、成膜後に室温や使用温度に冷却される過程で、より安定な結晶相やドメインに転移することで形成される。なお、複数のドメインが混在して存在する様子は、圧電体薄膜14を、透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折またはX線回折(XRD)などで分析することにより確認できる。
【0045】
また、圧電体薄膜14の厚みは、好ましくは0.5~10μmの範囲内である。圧電体薄膜14の厚みは、たとえば、SEMやSTEMなどによりX-Z断面もしくはY-Z断面を観察し、その際に得られる断面写真を画像解析することで求められる。この場合、圧電体薄膜14の厚みは、面内方向で3点以上の箇所で計測を行い、その平均値として算出することが好ましい。なお、厚みのばらつきは、±5%以下と少ない。
【0046】
(下地電極膜12)
下地電極膜12は、金属や酸化物導電体などの導電材料で構成される。特に、圧電体薄膜14がエピタキシャル成長膜である場合、下地電極膜12も、エピタキシャル成長した膜とすることが好ましい。この場合、下地電極膜12の材質は、たとえば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)などの面心立方構造の金属薄膜か、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3:以下SROと略す)やニッケル酸リチウム(LiNiO3)などの酸化物導電体薄膜とすることが好ましい。このような金属薄膜および酸化物導電体薄膜は、単結晶の基板上にエピタキシャル成長させることができ、膜厚方向に対して(100)面が配向した膜となる。
【0047】
なお、下地電極膜12は、上記の金属薄膜と上記の酸化物導電体薄膜とを積層して構成してもよい。その場合、金属薄膜と酸化物導電体薄膜との積層順は、特に限定されないが、Z軸の上方側、すなわち圧電体薄膜14側に、酸化物導電体薄膜が位置することが好ましい。また、下地電極膜12の平均厚みは、全体として、3nm~200nmとすることが好ましい。
【0048】
(強磁性体薄膜16)
本実施形態の強磁性体薄膜16は、磁歪特性を有する強磁性体を含む。強磁性体としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの純金属、または、上記金属元素のうち少なくとも1種を含む合金(たとえば、Fe-Co系、Fe-Ni系、Fe-Si系、Fe-Dy-Tb系、Fe-Ga系、Fe-Si-Al系の合金など)、もしくは、上記金属元素の酸化物を含む酸化物磁性体を用いることができる。また、強磁性体薄膜16は、上記の強磁性体を含む単一膜であっても良いし、複数の層からなる多層膜や、強磁性体と反強磁性体との積層膜であっても良い。
【0049】
本実施形態において、強磁性体薄膜16は、上記の材質の中でも特に、軟磁性の高磁歪膜とすることが好ましい。軟磁性の高磁歪膜としては、Fe-Si-B系合金、Fe-Cr-Si-B系合金、Fe-Ni-Mo-B系合金、Fe-Co-B系合金、Fe-Ni-B系合金、Fe-Al-Si-B系合金、またはFe-Co-Si-B系合金などを主成分として含む合金膜が例示される。強磁性体の多くは磁歪効果を示すが、上記の軟磁性高磁歪膜は、特に、微弱な磁場(入力信号)に対しても大きな歪みを発生することができ、磁気電気変換素子2aの性能向上に寄与する。
【0050】
強磁性体薄膜16の結晶構造は、非晶質であってもよいし、多結晶であってもよいが、強磁性体薄膜16が軟磁性の高磁歪膜である場合、非晶質相と結晶相とを、混在して有することが好ましい。強磁性体薄膜16が非晶質相を含むことで、入力信号に対する応答性を向上させることができる。つまり、磁歪を発生するために必要なしきい磁場HTHおよび保持力Hcを小さくすることができる。また、強磁性体薄膜16が結晶相を含むことで、低磁場における単位磁場あたりの磁歪変化量(dλ/dH)を大きくすることができる。
【0051】
なお、強磁性体薄膜16の結晶構造は、圧電体薄膜14と同様に、TEMの電子線回折またはXRDなどで分析することで確認できる。たとえば、強磁性体薄膜16が非晶質相のみで構成される場合、XRDを用いてCu-Kα線によるθ-2θ測定を行うと、ブロードで幅が広いハローパターンのみが検出される。一方、強磁性体薄膜16が結晶相のみで構成された場合には、半値幅が狭い極めてシャープな反射ピークのみが検出される。また、強磁性体薄膜16が非晶質相と結晶相とを混在して有する場合、非晶質相の存在を示すブロードな盛り上がり(ハロー)部分と、結晶相の存在を示すシャープなピーク部分とを共に有する反射ピークが検出される。
【0052】
また、強磁性体薄膜16の平均厚みは、好ましくは0.1~5μmの範囲内である。強磁性体薄膜16の平均厚みも、圧電体薄膜14と同様にして測定することができる。加えて、強磁性体薄膜16の厚みは、面内方向のばらつきが小さく、圧電体薄膜14と同程度のばらつきである。
【0053】
(その他の電極)
外部電極8a,8bと、引出電極18と、ビアホール電極19a,19bとは、いずれも導電性を有していればよく、その材質や寸法は特に制限されない。たとえば、上記の電極は、Pt、Ag、Cu、Au、Alなどの導電性金属を含むことができ、その他ガラス成分などが含まれていてもよい。
【0054】
(絶縁層20)
絶縁層20は、電気絶縁性を有していればよく、その材質や厚みは特に制限されない。たとえば、絶縁層20として、SiO2、Al2O3、ポリイミドなどが適用できる。
【0055】
続いて、
図1~3に示す磁気電気変換素子2aの製造方法の一例について説明する。
【0056】
磁気電気変換素子2aの製造では、まず、成膜用基板の上に下地電極膜12と、圧電体薄膜14と、強磁性体薄膜16とを、各種の薄膜作製法により形成する。薄膜作製法としては、蒸着法、スパッタリング法、ゾルゲル法、CDV法、PLD法などが適用でき、特に好ましくは、スパッタリング法である。磁性膜をスパッタリング法で形成することにより、圧電体薄膜14と強磁性体薄膜16との間の密着力が高められ、膜の剥離等の不良の発生を抑えるとともに、強磁性体薄膜の歪が圧電体薄膜に効果的に伝えられるようになる(その逆も可)。その結果、磁気電気変換効率が高められる。
【0057】
各膜12,14,16の成膜条件は、公知の条件を採用でき、特に制限されない。ただし、圧電体薄膜14をエピタキシャル成長膜とする場合には、スパッタリングターゲットの組成、成膜用基板の温度、成膜速度、ガス組成、真空度、基板ターゲット間距離などを適正に制御する。また、圧電体薄膜14がドメイン構造を有するためには、特に、スパッタリングターゲットの組成、成膜用基板の温度、もしくは、圧電体薄膜14の上に積層する強磁性体薄膜16の応力、などを制御すればよい。
【0058】
たとえば、スパッタリングターゲットの組成は、圧電材料の材質に応じて、複数のドメインや結晶相が形成されやすい組成を選択すると共に、蒸気圧の高い元素を、化学量論的組成の20~120%増しとすることが好ましい。PZTを例にとると、Pb/(Zr+Ti)で表される原子比が、1.2~2.2であることが好ましく、Zr/(Zr+Ti)で表される原子比が、1~1.5となるように制御することが好ましい。また、成膜用基板の温度については、550~650℃となるように制御することが好ましい。さらに、強磁性体薄膜16の応力は、圧縮応力とすることが好ましい。加えて、圧電体薄膜14をエピタキシャル成長させた後で、酸化雰囲気下において、300℃~500℃の温度でアニール処理することも、上述したドメイン構造を得るために効果的である。
【0059】
なお、圧電体薄膜14をエピタキシャル成長させる場合、成膜用基板としては、前述したように、単結晶のシリコン基板(ウェハ)を使用することが好ましい。また、下地電極膜12も、シリコン基板上にエピタキシャル成長させて形成することが好ましい。下地電極膜12をエピタキシャル成長させる方法については、公知の方法を採用すればよい。
【0060】
また、強磁性体薄膜16ついては、非晶質相と結晶相とを混在させる場合、スパッタリング時に、真空度、成膜用基板の温度、ガス組成、ガス圧力、パワー、ターゲットと成膜用基板との距離などの成膜条件を適切に制御する。たとえば、ガス圧力は、0.01~0.1Paとすることが好ましい。また、成膜用基板の温度は、20~200℃とすることが好ましく、ターゲットと成膜用基板との距離は、基板温度が成膜中に上昇しないように、100mm以上離すことが好ましい。
【0061】
上記のように積層膜を形成した成膜用基板については、フォトエッチングやレーザードライエッチングなどの各種エッチング法によりパターニング加工を施す。このパターニング加工では、成膜用基板の上に、
図3に示す積層パターンを形成する。
【0062】
たとえば、フォトエッチングによりパターニングする場合には、まず、スピンコート法などの各種コーティング法により、強磁性体薄膜16の上にフォトレジスト剤を塗布する。そして、塗布したフォトレジスト剤の上に所望のパターン形状を有するマスクをあてて、紫外線を照射し、強磁性体薄膜16を除去したい部分のみを露光させる(つまり、強磁性体薄膜16を残存させる部分をマスクする)。その後、フォトレジスト膜の現像と強磁性体薄膜16のエッチングを行い、露光した部分に対応するフォトレジスト膜と強磁性体薄膜16とを除去することで、強磁性体薄膜16の外周縁が形成される。なお、強磁性体薄膜16の上に残存しているフォトレジストは、酸素プラズマや所定の薬品などによる表面処理で取り除くことができる。また、強磁性体薄膜16の上に残存したフォトレジストは、取り除くことなく、保護層として利用してもよい。
【0063】
上記の手順により強磁性体薄膜16のパターンを形成した後、圧電体薄膜14および下地電極膜12についても、上記と同様の方法によりパターニングする。なお、圧電体薄膜14のパターニングに際しては、オフセット長La1,La2が、所望の間隔となるように、マスクの寸法を調整する。すなわち、圧電体薄膜14のパターニング時に使用するマスクは、強磁性体薄膜16のパターニング時に使用するマスクよりも、1パターン当たりの寸法が、大きくなるように調整する。
【0064】
また、圧電体薄膜14をエピタキシャル成長させた場合、積層体4の延面方向(パターニング形状)を、圧電体薄膜14の所定の結晶方位に合わせて制御することが好ましい。具体的に、上記のパターニング加工において、積層体4の長手方向(X軸方向)または短手方向(Y軸方向)が、圧電体薄膜16の<110>方向、および、単結晶シリコン基板の<110>方向に対して、略平行となるように、マスクの位置を調整する。
【0065】
なお、上記において略平行とは、完全に平行な方向に対して、±3度の範囲内であることを意味する。また、<110>方向とは、[110]、[101]などの等価な方位を包括的に示した方向を意味する。たとえば、圧電体薄膜14がPZTである場合、正方晶の[110]方向,[101]方向と、菱面体晶の[110]方向と、および、これらと等価な方向とが、それぞれ素子30の長手方向または短手方向と略平行となるように、マスクの位置を調整する。
【0066】
上記のように、積層体4の延面方向(パターニング形状)を制御することで、磁気電気変換素子2aの耐久性がさらに向上する傾向となる。また、圧電体の分極方向が膜厚方向に向きやすくなり、圧電体薄膜14の圧電特性が向上する。なお、マスク位置は、単結晶シリコン基板に形成してあるオリエンテーションフラット(オリフラ)やノッチを基準として調整する。つまり、成膜前の単結晶シリコン基板には、予め基板の結晶方位がわかるようにオリフラやノッチを形成しておく。また、本実施形態において、丸括弧は、ミラー指数(面)を表しており、三角括弧および角括弧は、結晶方位(方向)を表している。
【0067】
上記の手順でパターニング加工を施した後、引出電極18を形成し、さらに各膜12,14,16を覆うように絶縁層20を形成する。また、
図2Aおよび
図2Bに示すように、ビアホール電極19a,19bを公知の方法で形成し、そのビアホール電極19a,19bと接続するように外部電極8a,8bを形成する。
【0068】
そして、
図1に示すように、固定部41の下方にのみ基板6が残存するように、成膜用基板の一部をエッチングにより除去する。成膜用基板のエッチングは、Deep-RIE法などのドライエッチングや、異方性ウェットエッチングなどが適用できる。なお、成膜用基板は、上記のエッチングによりすべて除去してもよい。この場合、積層体4は、成膜用基板を除去した後、別部材の基板6に貼り付けて固定する。
【0069】
以上のような製造工程により本実施形態に係る磁気電気変換素子2aが得られる。なお、一般的に、磁気電気変換素子2aの製造では、上述した成膜用基板の上に、複数個の積層パターンをパターニングし、一つの成膜用基板から複数個の磁気電気変換素子2aを得る。そのため、成膜用基板をエッチングした後には、残った部材を素子単位に切断し、分割する。
【0070】
また、上記の製造工程では、エッチング法によりパターニングする方法を説明したが、強磁性体薄膜16のパターニング加工は、リフトオフ法により実施してもよい。リフトオフ法の場合、強磁性体薄膜16を成膜する前に、強磁性体薄膜16の形成予定領域以外を覆うように、圧電体薄膜14の上にレジスト膜を形成する。強磁性体薄膜16は、レジスト膜が形成された圧電体薄膜14の上に強磁性体成分をスパッタし、その後、レジスト膜を剥離(リフトオフ)することで形成される。つまり、リフトオフ法の場合、強磁性体薄膜16の外周縁は、レジスト膜上に成膜された強磁性体薄膜16が、リフトオフにより除去されることで、形成される。
【0071】
(第1実施形態のまとめ)
従来の磁気電気変換素子では、圧電活性領域を広くとるために、可動部において、圧電体層の平面寸法と強磁性体層と平面寸法とを同程度とすることが一般的であった。
【0072】
本実施形態の磁気電気変換素子2aでは、従来とは異なり、強磁性体薄膜16の外周縁が、圧電体薄膜14の外周縁よりも面内方向の内側に位置している。このように、強磁性体薄膜16を積層することで、圧電体薄膜14の外周縁の近傍では、強磁性体薄膜16で発生する歪の影響を受け難くなる。その結果、本実施形態の磁気電気変換素子2aでは、圧電体薄膜14にクラックが発生し難くなり、耐久性が向上する。特に本実施形態の磁気電気変換素子2aでは、圧電体薄膜14を薄型化した場合や、圧電体薄膜14をエピタキシャル成長膜とした場合であっても、素子の耐久性を向上させることができる。
【0073】
なお、本実施形態において、「強磁性体薄膜16の外周縁が、圧電体薄膜14の外周縁よりも面内方向の内側に位置する」とは、オフセット長b1,Lb2が少なくとも3μm以上であること意味する。そして、オフセット長Lb1,Lb2は、5μm以上、20μm未満とすることが好ましく、5μm以上、10μm以下とすることがより好ましい。オフセット長Lb1,Lb2が上記の範囲内であることで、圧電体薄膜14の圧電活性領域を十分に確保しつつ、磁気電気変換素子2aの耐久性を向上させることができる。なお、オフセット長Lb1,Lb2を、20μm以上とすると、素子の耐久性は向上するものの、圧電活性領域が減少する傾向となる。
【0074】
この磁気電気変素子2aは、電源や電気/電子回路と接続され、回路基板に搭載するかパッケージされることにより電子デバイスとして利用され得る。たとえば、増幅器と整流回路を接続しパッケージすれば、磁気センサなどの各種センサとなる。同じく磁気電気変換素子2aに蓄電素子と整流電力管理回路とを接続すれば、外部からの磁場や振動を受けて電力を発電するエネルギー変換デバイス(エネルギーハーベスタ)となる。
【0075】
第2実施形態
以下、
図4Aおよび
図4Bに基づいて、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態における第1実施形態と共通の構成に関しては、説明を省略し、同様の符号を使用する。
【0076】
図4Aおよび
図4Bに示すように、第2実施形態の磁気電気変換素子2bも、第1実施形態と同様に、カンチレバー型の構造を有する。ただし、磁気電気変換素子2bでは、強磁性体薄膜161の積層状態が、第1実施形態と異なっている。
【0077】
図4Aに示すように、第2実施形態において、強磁性体薄膜161は、積層体4のZ軸方向の最上層に積層してある。この強磁性体薄膜161は、中央部161aと、外周部161bと、引出部161cとを一体的に有している。中央部161aは、
図4Aにおいて、二点鎖線で囲まれた内側の部分であり、
図4Bに示すように、圧電体薄膜14と直に接触している。一方、外周部161bは、二点鎖線の外側に位置する部分であり、
図4Bに示すように、絶縁層20と直に接触している。また、引出部161cは、可動部42から固定部41に向けて引き出された部分であって、第1外部電極8aに電気的に接続してある。
【0078】
磁気電気変換素子2bでは、強磁性体薄膜161の磁歪効果により発生した歪が、圧電体薄膜14に伝わり、圧電体薄膜14が撓むことで、当該圧電体薄膜14の表面に電荷が発生する。ここで発生した電荷は、強磁性体薄膜161および下地電極膜12を介して取り出すことができる。つまり、第2実施形態の場合、強磁性体薄膜161が上述したような形態を有するため、圧電体薄膜14で発生する電荷は、圧電体薄膜14と強磁性体薄膜161とが直に接触している部分、すなわち中央部161aに対応する部分でのみ取り出し可能である。第2実施形態では、この電荷の取り出しが可能な部分、すなわち
図4Aの二点鎖線で示す領域を、有効領域10bと称する。
【0079】
第2実施形態の磁気電気変換素子2bでは、有効領域10bの外周縁が、圧電体薄膜14の外周縁よりも面内方向の内側に位置している。このような構成を有することで、圧電体薄膜14の外周縁の近傍では、強磁性体薄膜161で発生する歪の影響を受け難くなる。つまり、第2実施形態の磁気電気変換素子2bでも、第1実施形態と同様の効果が得られ、圧電体薄膜14にクラックが発生し難くなり、耐久性が向上する。
【0080】
なお、第2実施形態では、可動部42の面内方向において、圧電体薄膜14の外周縁から有効領域10bの外周縁までの距離をオフセット長とする。具体的に、オフセット長は、圧電体薄膜14の外周縁と有効領域10bの外周縁とが近接する位置で計測する。たとえば、
図4Aの場合、可動部42の先端側において、圧電体薄膜14の外周縁から有効領域10bの外周縁までのX軸方向の距離を、オフセット長Lb1とする。また、可動部42のY軸方向の両端において、圧電体薄膜14の外周縁から有効領域10bの外周縁までのY軸方向の距離を、オフセット長Lb2とする。
【0081】
オフセット長Lb1,Lb2は、いずれも、少なくとも3μm以上であり、5μm以上、20μm未満とすることが好ましく、5μm以上、10μm以下とすることがより好ましい。オフセット長Lb1,Lb2を上記の範囲とすることで、有効領域10bを十分に確保しつつ、磁気電気変換素子2bの耐久性を向上させることができる。なお、Lb1とLb2とは、同程度の幅であってもよく、異なっていてもよい。また、オフセット長Lb1,Lb2も、第1実施形態と同様に測長機能を持つSEMや光学顕微鏡等により計測することができる。
【0082】
なお、第2実施形態において、固定部41では、圧電体薄膜14と下地電極膜12とが部分的にしか積層されておらず、固定部41の厚みが、可動部42の厚みよりも薄くなっている。また、下地電極膜12は、可動部42から固定部41に向けて部分的に引き出された引出部12aを有しており、この引出部12aがビアホール電極(図示しない)を介して第2外部電極8bに電気的に接続してある。
【0083】
次に、第2実施形態に係る磁気電気変換素子2bの製造方法について説明する。磁気電気変換素子2bも、第1実施形態と同様の方法で製造できるが、成膜順が若干異なる。
【0084】
磁気電気変換素子2bの製造では、まず、下地電極膜12と圧電体薄膜14とを製膜した後に、これらの膜12,14にパターニング加工を施す。その後、パターニングした圧電体薄膜14と下地電極膜12とを覆うように絶縁層20を形成する。そして、形成した絶縁層20に対してエッチングを行い、
図4Aの二点鎖線で示す領域において絶縁層20を除去する。このようにして絶縁層20を一部除去した後、強磁性体薄膜161を、マスク蒸着、フォトエッチング法、またはリフトオフ法などにより形成する。以上が第1実施形態と第2実施形態との製法上の相違点である。
【0085】
第3実施形態
以下、
図5Aおよび
図5Bに基づいて、本発明の第3実施形態について説明する。なお、第3実施形態における第1および第2実施形態と共通の構成に関しては、説明を省略し、同様の符号を使用する。
【0086】
図5Aおよび
図5Bに示すように、第3実施形態の磁気電気変換素子2cは、第1および第2実施形態とは異なり、両端固定型の構造を有している。より具体的に、磁気電気変換素子2cの積層体4は、X軸方向の両端に固定部41を有しており、可動部42が当該2つの固定部41を架け渡すように存在している。このような両端固定型の構造であっても、可動部42は、基板と接触していない非拘束面を有するため、面内方向で伸縮振動が可能である。
【0087】
また、
図5Aに示すように、磁気電気変換素子2cでは、第1外部電極8aが、一方の固定部41の表面に形成してあり、強磁性体薄膜162と電気的に接続してある。第2外部電極8bは、他方の固定部41の表面に形成してあり、ビアホール電極19を介して下地電極膜12と電気的に接続してある。
【0088】
また、磁気電気変換素子2cでは、第2実施形態と同様に、強磁性体薄膜162が積層体4の最上層に形成してあり、当該強磁性体薄膜162が、中央部162aと、外周部162bと、引出部162cとを有する。ただし、磁気電気変換素子2cでは、
図5Bに示すように、圧電体薄膜14と強磁性体薄膜162との間に上部電極膜13が積層してある。そのため、強磁性体薄膜162の中央部162aは、上部電極膜13と直に接触している。なお、上部電極膜13は、導電性材料で構成されていればよく、下地電極膜12と同様の構成とすることができる。
【0089】
上記のような構成を有する場合、圧電体薄膜14に発生した電荷は、中央部162aで取り出し可能となる。つまり、第3実施形態の磁気電気変換素子2cでは、有効領域10cは、Z軸方向において、圧電体薄膜14と強磁性体薄膜162とが上部電極膜13を介して重複する部分である。
図5Aでは、有効領域10cを、二点鎖線で示している。
【0090】
この第3実施形態の磁気電気変換素子2cにおいても、有効領域10cの外周縁が、圧電体薄膜14の外周縁よりも面内方向の内側に位置しており、第2実施形態と同様の作用効果が得られる。なお、磁気電気変換素子2bの場合、
図5Aに示すように、可動部42のX軸方向の両端において、圧電体薄膜14の外周縁から有効領域10cの外周縁までのX軸方向の距離を、オフセット長Lc1とする。また、可動部42のY軸方向の両端において、圧電体薄膜14の外周縁から有効領域10cの外周縁までのY軸方向の距離を、オフセット長Lc2とする。オフセット長Lc1,Lc2は、第2実施形態と同様に、少なくとも3μm以上であり、5μm以上、20μm未満とすることが好ましく、5μm以上、10μm以下とすることがより好ましい。
【0091】
なお、前述した第1実施形態では、圧電活性領域が強磁性体薄膜16の平面寸法に依存するため、強磁性体薄膜16の平面寸法を、圧電体薄膜14よりも小さくしている。これに対して、第3実施形態の磁気電気変換素子2cでは、
図5Aに示すように、強磁性体薄膜162の平面寸法を、圧電体薄膜14の平面寸法よりも大きくしている。第3実施形態で示すように、圧電活性領域である有効領域10cの平面寸法が、圧電体薄膜14よりも小さくなっている場合には、強磁性体薄膜16の平面寸法は、特に制限されない。つまり、強磁性体薄膜162の平面寸法は、圧電体薄膜16よりも大きくてもよく、同程度であってもよく、小さくてもよい。
【0092】
なお、第3実施形態の磁気電気変換素子2cは、第2実施形態と同様の方法で製造できる。ただし、第3実施形態では、圧電体薄膜14を成膜した後に、上部電極膜13を成膜する。
【0093】
第4実施形態
以下、
図6Aおよび
図6Bに基づいて、本発明の第4実施形態について説明する。
なお、第4実施形態における第1~3実施形態と共通の構成に関しては、説明を省略し、同様の符号を使用する。
【0094】
図6Aおよび
図6Bに示すように、第4実施形態の磁気電気変換素子2dは、第3実施形態と同様に、両端固定型の構造を有している。この磁気電気変換素子2dでは、
図6Bに示すように、上部電極膜13と強磁性体薄膜16との間に絶縁層20が介在している。つまり、磁気電気変換素子2dの製造においては、可動部42の中央において絶縁層20を除去することなく、絶縁層20の上に直接的に、強磁性体薄膜16を成膜している。なお、上部電極膜13と強磁性体薄膜16との間に位置する絶縁層20の平均厚みは、0.01μm~10μmとすることが好ましい。
【0095】
上記のように絶縁層20の上に強磁性体薄膜16が形成してある場合、強磁性体薄膜16は、電極としては機能しない。そのため、磁気電気変換素子2dでは、第1外部電極8aは、ビアホール電極19を介して上部電極膜13に電気的に接続してある。このように構成することで、圧電体薄膜14で発生した電荷は、下地電極膜12と上部電極膜13とを介して取り出し可能である。なお、第4実施形態で示すように、強磁性体薄膜16と圧電体薄膜14との間に絶縁層が介在する場合であっても、可動部42は、強磁性体薄膜16の磁歪効果によって面内方向での伸縮振動が可能である。
【0096】
また、磁気電気変換素子2dの場合であっても、Z軸方向において、圧電体薄膜14と強磁性体薄膜16とが上部電極膜13を介して重複する部分が、有効領域10dとなる。具体的に、
図6Aでは、有効領域10dをハッチングで示している。
【0097】
そして、第4実施形態においても、第2,第3実施形態と同様に、有効領域10dの外周縁が、圧電体薄膜14の外周縁よりも面内方向の内側に位置している。したがって、第4実施形態の磁気電気変換素子2dでも、圧電体薄膜14にクラックが発生し難くなり、素子の耐久性が向上する。また、
図6Aに示すオフセット長Ld1,Ld2は、少なくとも3μm以上であり、5μm以上、20μm未満とすることが好ましく、5μm以上、10μm以下とすることがより好ましい。
【0098】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0099】
たとえば、上述した実施形態では、可動部42は、略矩形の平面視形状を有していたが、可動部42の形態は、これに限定されず、楕円形状、円形状、ミアンダ状、もしくは渦巻き状の平面視形状であってもよい。また、上述した各実施形態では、固定部41と可動部42とが、一体的に連続して形成してあり、Y軸方向の幅が同程度であったが、これに限定されない。たとえば、固定部41と可動部42とは、接続部を介して連結してあってもよく、Y軸方向の幅が異なっていてもよい。
【0100】
また、上述した実施形態では、磁気電気変換素子は、カンチレバー型もしくは両端固定型の構造を有していたが、
図8に示すような形態であってもよい。
図8に示す磁気電気変換素子2eでは、基板6が開口部61を有しており、この開口部61のZ軸方向の上方に、可動部42が位置している。より具体的に、可動部42は、X軸方向の両端に位置する支持部43を介して、基板6に固定してあり、開口部61の上方で面内方向での伸縮振動が可能となっている。
【0101】
さらに、磁気電気変換素子の積層体4には、
図1~
図6Bに図示していないその他の機能膜が含まれていてもよい。たとえば、下地電極膜12のZ軸方向の下方には、結晶性制御膜としてバッファ層が形成してあってもよい。バッファ層としては、酸化ジルコニウム(ZrO2)、もしくは、希土類元素(ScおよびYを含む)により安定化された酸化ジルコニウム(安定化ジルコニア)を主成分とすることが好ましい。
【0102】
このバッファ層は、成膜用基板の一部をエッチングにより除去する際に、エッチングストッパ層として機能する。また、圧電体薄膜14をエピタキシャル成長膜とする場合には、バッファ層が形成してあることで、バッファ層より積層方向の上方に位置する膜のエピタキシャル成長が促進される(高品質となる)。なおバッファ層を形成する場合、その平均厚みは、5nm~100nmとすることが好ましい。
【0103】
なお、上述したいずれの実施形態においても、圧電体薄膜14をエピタキシャル成長膜とする場合には、下地電極膜、バッファ層ともにエピタキシャル成長膜であることが好ましい。膜厚方向においては、バッファ層、下地電極膜、圧電体薄膜はいずれも(001)配向した膜であることが好ましく、面内方向においては、それぞれの(100)面がほぼ平行になるように形成されたエピタキシャル膜であることが好ましい。具体的には、バッファ層がZrO2、下地電極膜がPt、圧電体薄膜がPZTの場合、各層の好ましい配向関係は、膜厚方向においてはZrO2(001)//Pt(001)//PZT(001)であって、面内方向においてはZrO2(100)//Pt(100)//PZT(100)である。
【0104】
また、上述した各実施形態において、磁気電気変換素子は、伸縮振動が可能な可動部42を一つ有していたが、複数の可動部42を有するアレー素子であってもよい。アレー素子としては、たとえば、1Dアレー素子、2Dアレー素子、および3Dアレー素子などが挙げられる。
【0105】
1Dアレー素子とは、複数の可動部42が、共通の固定部から1軸方向に配列して接続された構造を有する。2Dアレー素子とは、
図9に示すように、複数の可動部42が、単一の基板60のX-Y平面に配列された構造を有する。なお、
図9に示す2Dアレー型の磁気電気変換素子2fにおいて、基板60には、複数の開口部61が形成してあり、当該開口部61に対応して複数の可動部42が形成してある。そして、複数の可動部42には、配線80a、80bを介して電力の受渡が可能となっている。さらに3Dアレー素子は、
図9に示すような2Dアレー型の基板60を、厚さ方向(Z軸方向)に複数積層して構成される。
【0106】
磁気電気変換素子を上記のようなアレー素子とすることで、入力するエネルギーを効果的に吸収することができ、高い出力が得られるようになる。さらに、アレー素子を構成する複数の可動部の固有振動数をそれぞれ異なるように設定することで、幅広い周波数や複数の周波数に対して、高い感度を持つ磁気電気変換素子が得られる。なお、各可動部の固有振動数は、可動部の寸法や厚みを変更することで調整可能である。
【実施例】
【0107】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
本実施例では、オフセット長の水準を振って、
図1に示す磁気電気変換素子2aを複数作製し、得られた磁気電気変換素子2aの耐久性を評価した。
【0109】
具体的に、本実施例では、表面がSi(100)面の単結晶となっているシリコンウェハ(シリコン基板)上に各膜12,14,16を成膜した。この際、下地電極膜12は、平均厚みが100nmのPt電極膜と、平均厚みが100nmのSrRuO3(以下、SROと記す)からなる導電性酸化物薄膜との積層膜とし、これらの膜をエピタキシャル成長させて形成した。また、圧電体薄膜14は、平均厚みが1μmであるPZTのエピタキシャル成長膜とした。さらに、強磁性体薄膜16は、平均厚みが1μmのFeCoSiB合金膜とした。
【0110】
各膜12,14,16のパターニング加工は、フォトエッチング法により実施したその際、パターニング加工の条件を、オフセット長La1,La2が、3μm、4μm、5μm、6μm、9μm、10μm、12μmとなるように調整し、複数の磁気電気変換素子2aを製造した。そして、各オフセット長の磁気電気変換素子2aについて、以下に示す耐久性試験を実施した。
【0111】
耐久性試験(加速試験)
耐久性試験では、得られた磁気電気変換素子2aに、1kHz、6366A/m(80Oe)の交流磁場を100時間印可し続けた。そして、試験実施後の磁気電気変換素子2aを光学顕微鏡で観察し、素子(特に圧電体薄膜14)にクラックが発生しているか否かを確認した。なお、耐久性試験は、オフセット長の各水準において、それぞれ100個の素子に対して実施し、クラックが発生した割合を不良発生率として算出した。
【0112】
(比較例)
比較例では、オフセット長を1μmおよび2μmとして磁気電気変換素子を作製し、上記の実施例と同様の耐久性試験を行った。なお、比較例に係る磁気電気変換素子の作製において、オフセット長以外の製造条件は、実施例と同様とした。
【0113】
評価結果
実施例および比較例の耐久試験の結果を
図7に示す。
図7に示すように、オフセット長を3μm以上とすることで、不良発生率が低減し10%以下となっていることが確認できた。また、オフセット長が5μm以上の場合は、不良発生率が2%以下まで低減し、オフセット長が9μm以上の場合は、不良発生率が0%で素子にクラックが生じなかった。
【0114】
以上の結果から、オフセット長を大きくすることで、素子の耐久性が向上していくことが立証できた。なお、実施形態で述べたように、オフセット長が20μm以上となると、耐久性は良好であるものの、圧電活性領域が減少する。そのため、
図7の実験結果を鑑みると、オフセット長は、5μm以上、20μm未満とすることが好ましく、5μm以上、10μm以下とすることが好ましい。
【0115】
また、上記のような耐久性試験は、
図4A、
図5A、
図6Aに示す磁気電気変換素子2b~2dについても実施した。その結果、全ての素子において、上記の実施例と同様の結果が得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0116】
2a~2e … 磁気電気変換素子
4 … 積層体
41 … 固定部
42 … 可動部
6 … 基板
8a … 第1外部電極
8b … 第2外部電極
10 … 有効領域
12 … 下地電極膜
13 … 上部電極膜
14 … 圧電体薄膜
16 … 強磁性体薄膜
18 … 引出電極
19 … ビアホール電極
20 … 絶縁層