(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】発光素子アレイ、発光装置、光学装置、計測装置及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/042 20060101AFI20240402BHJP
H01S 5/42 20060101ALI20240402BHJP
H01L 31/12 20060101ALI20240402BHJP
G01S 7/484 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H01S5/042 630
H01S5/42
H01L31/12 E
G01S7/484
(21)【出願番号】P 2020046693
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】井口 大介
(72)【発明者】
【氏名】崎田 智明
(72)【発明者】
【氏名】白川 佳則
(72)【発明者】
【氏名】大野 誠治
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-212742(JP,A)
【文献】特開2020-035879(JP,A)
【文献】特開2017-174906(JP,A)
【文献】特開2000-022274(JP,A)
【文献】特開2018-146525(JP,A)
【文献】特表2018-534592(JP,A)
【文献】特表2017-501052(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0170913(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
H01L 33/00 - 33/64
G01S 7/48 - 7/51
G01S 17/00 - 17/95
G01B 11/00 - 11/30
H01L 31/12 - 31/173
H05B 39/00 - 39/10
H05B 45/00 - 45/59
H05B 47/00 - 47/29
G09G 3/00 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に向けて配列された複数の発光指示部と、
複数の発光素子で構成された発光素子群が前記第1の方向と交差する方向に配列された第1の発光素子群列と、
複数の発光素子で構成された発光素子群が、前記第1の発光素子群列に対し前記第1の方向側において当該第1の発光素子群列に沿って配列された第2の発光素子群列と、
前記複数の発光指示部のそれぞれと、前記第1の発光素子群列及び前記第2の発光素子群列のそれぞれの発光素子群とを接続して発光指示を行う複数の配線であって、当該複数の発光指示部が前記第1の方向に向けて順次発光指示を行った場合に、当該第1の発光素子群列が当該第1の方向と交差する方向に順次発光するとともに、当該第1の発光素子群列の点灯が完了した後、当該第2の発光素子群列が当該第1の方向と交差する方向に順次発光するように接続された複数の配線と、を備え
、
前記第1の発光素子群列に配列された発光素子群、及び前記第2の発光素子群列に配列された発光素子群は、複数の半導体層が積層された半導体層積層体で構成され、それぞれが分離されている
発光素子アレイ。
【請求項2】
前記第1の発光素子群列と前記第2の発光素子群列とは隣接して設けられ、
前記配線は、前記第1の発光素子群列における発光素子群が順次発光する方向と、前記第2の発光素子群列における発光素子群が順次発光する方向とが同じ方向となるように接続されていることを特徴とする請求項1に記載の発光素子アレイ。
【請求項3】
前記第1の発光素子群列と前記第2の発光素子群列とは隣接して設けられ、
前記配線は、前記第1の発光素子群列における発光素子群が順次発光する方向と、前記第2の発光素子群列における発光素子群が順次発光する方向とが逆の方向となるように接続されていることを特徴とする請求項1に記載の発光素子アレイ。
【請求項4】
前記複数の発光指示部のそれぞれと、前記第1の発光素子群列及び前記第2の発光素子群列のそれぞれの発光素子群とを接続して発光指示を行う複数の配線は、互いに交差することなく設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発光素子アレイ。
【請求項5】
前記複数の発光指示部のそれぞれと、前記第1の発光素子群列及び前記第2の発光素子群列のそれぞれの発光素子群とを接続して発光指示を行う複数の配線は、当該発光素子群における発光素子間に多くとも1つ設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発光素子アレイ。
【請求項6】
前記複数の発光指示部は、自己走査により順次に発光指示を行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の発光素子アレイ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の発光素子アレイと、
前記発光素子アレイに含まれる複数の発光素子群を包含する大きさを有し、当該複数の発光素子群の出射経路に設けられた円形の光学素子と、
を備えた発光装置。
【請求項8】
前記光学素子は、前記複数の発光素子群から出射された光の拡がり角を狭めるレンズであることを特徴とする請求項7に記載の発光装置。
【請求項9】
前記複数の発光素子群から出射され、前記光学素子を透過した光を拡散させて出射する拡散部材を備えることを特徴とする請求項7又は8に記載の発光装置。
【請求項10】
前記複数の発光素子群から出射され、前記光学素子を透過した光を回折させて出射する回折部材を備えることを特徴とする請求項7又は8に記載の発光装置。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか1項に記載の発光装置と、
前記発光装置が備える複数の発光素子群から出射され、被計測物で反射された反射光を受光する受光部と、
を備える光学装置。
【請求項12】
請求項11に記載の光学装置と、
前記光学装置が備える複数の発光素子群から出射されてから、当該光学装置が備える受光部で受光されるまでの時間に基づいて、三次元形状を計測し、被計測物の三次元形状を特定する三次元形状特定部と、
を備える計測装置。
【請求項13】
請求項12に記載の計測装置と、
前記計測装置が備える三次元形状特定部での特定結果に基づき、自装置の使用に関する認証処理を行う認証処理部と、
を備える情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子アレイ、発光装置、光学装置、計測装置及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、しきい電圧もしくはしきい電流が外部から光によって制御可能な発光素子多数個を、一次元、二次元、もしくは三次元的に配列し、各発光素子から発生する光の少なくとも一部が、各発光素子近傍の他の発光素子に入射するように構成し、各発光素子に、外部から電圧もしくは電流を印加させるクロックラインを接続した発光素子アレイが記載されている。
【0003】
特許文献2には、pnpnpn6層半導体構造の発光素子を構成し、両端のp型第1層とn型第6層、および中央のp型第3層およびn型第4層に電極を設け、pn層に発光ダイオード機能を担わせ、pnpn4層にサイリスタ機能を担わせた自己走査型発光装置が記載されている。
【0004】
特許文献3には、基板と基板上にアレイ状に配設された面発光型半導体レーザと基板上に配列され前記面発光型半導体レーザの発光を選択的にオン・オフさせるスイッチ素子としてのサイリスタとを備える自己走査型の光源ヘッドが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平01-238962号公報
【文献】特開2001-308385号公報
【文献】特開2009-286048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光の飛行時間による、いわゆるToF(Time of Flight)法に基づいて、被計測物の三次元形状の計測を行う場合、複数の発光素子群から被計測物に光を照射することがある。
本発明は、それぞれが複数の発光素子を備える複数の発光素子群おいて、発光素子群ごとに設けられた発光指示部が順次発光を指示する方向に発光素子群を発光させる場合に比較し、発光指示部から発光素子群に発光指示を行う複数の配線を構成しやすくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、第1の方向に向けて配列された複数の発光指示部と、複数の発光素子で構成された発光素子群が前記第1の方向と交差する方向に配列された第1の発光素子群列と、複数の発光素子で構成された発光素子群が、前記第1の発光素子群列に対し前記第1の方向側において当該第1の発光素子群列に沿って配列された第2の発光素子群列と、前記複数の発光指示部のそれぞれと、前記第1の発光素子群列及び前記第2の発光素子群列のそれぞれの発光素子群とを接続して発光指示を行う複数の配線であって、当該複数の発光指示部が前記第1の方向に向けて順次発光指示を行った場合に、当該第1の発光素子群列が当該第1の方向と交差する方向に順次発光するとともに、当該第1の発光素子群列の点灯が完了した後、当該第2の発光素子群列が当該第1の方向と交差する方向に順次発光するように接続された複数の配線と、を備え、前記第1の発光素子群列に配列された発光素子群、及び前記第2の発光素子群列に配列された発光素子群は、複数の半導体層が積層された半導体層積層体で構成され、それぞれが分離されている発光素子アレイである。
請求項2に記載の発明は、前記第1の発光素子群列と前記第2の発光素子群列とは隣接して設けられ、前記配線は、前記第1の発光素子群列における発光素子群が順次発光する方向と、前記第2の発光素子群列における発光素子群が順次発光する方向とが同じ方向となるように接続されていることを特徴とする請求項1に記載の発光素子アレイである。
請求項3に記載の発明は、前記第1の発光素子群列と前記第2の発光素子群列とは隣接して設けられ、前記配線は、前記第1の発光素子群列における発光素子群が順次発光する方向と、前記第2の発光素子群列における発光素子群が順次発光する方向とが逆の方向となるように接続されていることを特徴とする請求項1に記載の発光素子アレイである。
請求項4に記載の発明は、前記複数の発光指示部のそれぞれと、前記第1の発光素子群列及び前記第2の発光素子群列のそれぞれの発光素子群とを接続して発光指示を行う複数の配線は、互いに交差することなく設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発光素子アレイである。
請求項5に記載の発明は、前記複数の発光指示部のそれぞれと、前記第1の発光素子群列及び前記第2の発光素子群列のそれぞれの発光素子群とを接続して発光指示を行う複数の配線は、当該発光素子群における発光素子間に多くとも1つ設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の発光素子アレイである。
請求項6に記載の発明は、前記複数の発光指示部は、自己走査により順次に発光指示を行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の発光素子アレイである。
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の発光素子アレイと、前記発光素子アレイに含まれる複数の発光素子群を包含する大きさを有し、当該複数の発光素子群の出射経路に設けられた円形の光学素子と、を備えた発光装置である。
請求項8に記載の発明は、前記光学素子は、前記複数の発光素子群から出射された光の拡がり角を狭めるレンズであることを特徴とする請求項7に記載の発光装置である。
請求項9に記載の発明は、前記複数の発光素子群から出射され、前記光学素子を透過した光を拡散させて出射する拡散部材を備えることを特徴とする請求項7又は8に記載の発光装置である。
請求項10に記載の発明は、前記複数の発光素子群から出射され、前記光学素子を透過した光を回折させて出射する回折部材を備えることを特徴とする請求項7又は8に記載の発光装置である。
請求項11に記載の発明は、請求項7乃至10のいずれか1項に記載の発光装置と、前記発光装置が備える複数の発光素子群から出射され、被計測物で反射された反射光を受光する受光部と、を備える光学装置である。
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の光学装置と、前記光学装置が備える複数の発光素子群から出射されてから、当該光学装置が備える受光部で受光されるまでの時間に基づいて、三次元形状を計測し、被計測物の三次元形状を特定する三次元形状特定部と、を備える計測装置である。
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の計測装置と、前記計測装置が備える三次元形状特定部での特定結果に基づき、自装置の使用に関する認証処理を行う認証処理部と、を備える情報処理装置である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、発光素子群ごとに設けられた発光指示部が順次発光を指示する方向に発光素子群を発光させる場合に比較し、発光指示部から発光素子群に発光指示を行う複数の配線を構成しやすい。
請求項2、3に記載の発明によれば、発光素子群の順次発光の方向が設定できる。
請求項4に記載の発明によれば、配線を交差して設ける場合に比較し、発光素子アレイの製造が容易になる。
請求項5に記載の発明によれば、発光素子間に2以上の配線が設けられる場合に比較し、発光素子を高密度に配列できる。
請求項6に記載の発明によれば、自己走査でない場合に比較し、発光素子アレイの駆動が容易になる。
請求項7に記載の発明によれば、円形の光学素子を備えない場合に比較し、照射領域に照射される光の制御が容易になる。
請求項8に記載の発明によれば、光学素子がレンズでない場合に比較し、発光装置の構成が容易になる。
請求項9に記載の発明によれば、拡散部材を備えない場合に比較し、広い照射領域が得られる。
請求項10に記載の発明によれば、回折部材を備えない場合に比較し、広い照射領域が得られる。
請求項11に記載の発明によれば、三次元形状に対応した信号が取得できる光学装置が提供される。
請求項12に記載の発明によれば、三次元形状が計測できる計測装置が提供される。
請求項13に記載の発明によれば、三次元形状に基づく認証処理を搭載した情報処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】情報処理装置の構成を説明するブロック図である。
【
図3】発光装置により、被計測物に向けて光を照射した状態を説明する図である。
【
図4】発光装置を説明する図である。(a)は、発光装置の平面図、(b)は、(a)のIVB-IVB線での発光装置の断面図である。
【
図5】第1の実施の形態が適用される発光装置の配列領域と、比較のための第1の実施の形態が適用されない発光装置の配列領域とを示す図である。(a)は、第1の実施の形態が適用される発光装置の配列領域、(b)は、第1の実施の形態が適用されない発光装置の配列領域である。
【
図6】第1の実施の形態が適用される発光装置におけるVCSELアレイの等価回路の一例である。
【
図7】第1の実施の形態が適用されるVCSELアレイの平面レイアウトの一例を示す図である。
【
図8】VCSELアレイの断面構造を示す図である。
【
図9】設定サイリスタとVCSELとの積層構造をさらに説明する図である。(a)は、設定サイリスタとVCSELとの積層構造における模式的なエネルギーバンド図、(b)は、トンネル接合層の逆バイアス状態におけるエネルギーバンド図、(c)は、トンネル接合層の電流電圧特性を示す。
【
図10】VCSELアレイにおけるVCSEL群の発光/非発光を制御するタイムチャートの一例を示す図である。
【
図11】第1の実施の形態が適用されるVCSELアレイにおけるVCSEL群の配列について説明する図である。
【
図12】比較のための第1の実施の形態が適用されないVCSELアレイにおけるVCSEL群の配列について説明する図である。
【
図13】第2の実施の形態が適用されるVCSELアレイにおけるVCSEL群の配列について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
被計測物の三次元形状を計測する計測装置には、光の飛行時間による、いわゆるToF(Time of Flight)法に基づいて、三次元形状を計測する装置がある。ToF法では、計測装置が備える発光装置から光が出射されたタイミングから、照射された光が被計測物で反射して計測装置が備える三次元センサ(以下では、3Dセンサと表記する。)で受光されるタイミングまでの時間を計測し、計測された三次元形状から被計測物の三次元形状を特定する。なお、三次元形状を計測する対象を被計測物と表記する。三次元形状を三次元像と表記することがある。また、三次元形状を計測することを、三次元計測、3D計測又は3Dセンシングと表記することがある。
【0011】
このような計測装置は、携帯型情報処理装置などに搭載され、アクセスしようとするユーザの顔認証などに利用されている。従来、携帯型情報処理装置などでは、パスワード、指紋、虹彩などにより、ユーザを認証する方法が用いられてきた。近年、セキュリティ性がより高い認証方法が求められるようになってきた。そこで、携帯型情報処理装置に三次元形状を計測する計測装置を搭載するようになってきた。つまり、アクセスしたユーザの顔の三次元形状を取得し、アクセスすることが許可されているか否かを識別し、アクセスが許可されているユーザであると認証された場合にのみ、自装置(携帯型情報処理装置)の使用を許可することが行われている。
【0012】
ここでは、情報処理装置は、一例として携帯型情報処理端末であるとして説明し、三次元形状として捉えられた顔の形状を認識することで、ユーザを認証するとして説明する。なお、情報処理装置は、携帯型情報処理端末以外のパーソナルコンピュータ(PC)などの情報処理装置に適用しうる。
【0013】
本実施の形態で説明する構成、機能、方法等は、顔以外を被計測物とし、計測された三次元形状から被計測物を認識することにも適用しうる。また、このような計測装置は、拡張現実(AR:Augmented Reality)など、継続的に被計測物の三次元形状を計測する場合にも適用される。また、被計測物までの距離は問わない。
【0014】
[第1の実施の形態]
(情報処理装置1)
図1は、情報処理装置1の一例を示す図である。前述したように、情報処理装置1は、一例として携帯型情報処理端末である。
情報処理装置1は、ユーザインターフェイス部(以下では、UI部と表記する。)2と三次元形状を計測する光学装置3とを備える。UI部2は、例えばユーザに対して情報を表示する表示デバイスとユーザの操作により情報処理に対する指示が入力される入力デバイスとが一体化されて構成されている。表示デバイスは、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイであり、入力デバイスは、例えばタッチパネルである。
【0015】
光学装置3は、発光装置4と、三次元センサ(以下では、3Dセンサと表記する。)5とを備える。発光装置4は、被計測物、ここでの例では顔に向けて光を照射する。3Dセンサ5は、発光装置4が照射して、顔で反射されて戻ってきた光を取得する。ここでは、光の飛行時間による、いわゆるToF法に基づいて、三次元形状を計測する。そして、三次元形状から、顔の三次元形状を特定する。上述したように、顔以外を被計測物として、三次元形状を計測してもよい。3Dセンサ5は、受光部の一例である。
【0016】
情報処理装置1は、CPU、ROM、RAMなどを含むコンピュータとして構成されている。なお、ROMには、不揮発性の書き換え可能なメモリ、例えばフラッシュメモリを含む。そして、ROMに蓄積されたプログラムや定数が、RAMに展開され、CPUがプログラムを実行することによって、情報処理装置1が動作し、各種の情報処理が実行される。
【0017】
図2は、情報処理装置1の構成を説明するブロック図である。
情報処理装置1は、上記した光学装置3と、計測制御部8と、システム制御部9とを備える。計測制御部8は、光学装置3を制御する。そして、計測制御部8は、三次元形状特定部8Aを含む。システム制御部9は、情報処理装置1全体をシステムとして制御する。そして、システム制御部9は、認証処理部9Aを含む。そして、システム制御部9には、UI部2、スピーカ9B、二次元カメラ(
図2では、2Dカメラと表記する。)9Cなどが接続されている。
【0018】
計測制御部8が備える三次元形状特定部8Aは、被計測物からの反射光から三次元形状を計測し、被計測物の三次元形状を特定する。システム制御部9が備える認証処理部9Aは、三次元形状特定部8Aによって特定された三次元形状から、アクセスすることが許可されているか否かを識別し、アクセスが許可されているユーザを認証する。
図2において、計測装置6は、光学装置3と計測制御部8とを備える。
【0019】
(発光装置4)
図3は、発光装置4により、被計測物に向けて光を照射した状態を説明する図である。ここでは、発光装置4は、光を出射する側と反対側(これを裏側と表記する。)から見た状態を示している。発光装置4と照射領域40とは対向するように配置されるが、
図3では、発光装置4と照射領域40とを紙面の上下方向にずらして示している。なお、照射領域40とは、発光装置4が出射する光の方向のある距離における、光の方向に直交する面であって、発光装置4が出射する光が被計測物に向かって照射される領域である。ここでは、紙面の左方向をx方向とし、紙面の上方向をy方向とし、紙面の裏側方向をz方向とする。
【0020】
照射領域40は、x方向が長さSx、y方向が長さSyである。そして、x方向の長さSxがy方向の長さSyより大きい(Sx>Sy)。つまり、照射領域40は、x方向を長手方向とする形状である。
【0021】
発光装置4は、後述するように複数の面発光レーザ素子を含む面発光レーザ素子群が、配列領域100に二次元状に配列されて構成されている。配列領域100は、x方向が長さLx、y方向が長さLyである。そして、x方向が長さLxとy方向が長さLyとの比、つまり配列領域100の縦横比は、1:1に近く設定されている。なお、x方向の長さLxは、y方向の長さLyの0.8倍以上且つ1.2倍以下であればよい。また、x方向の長さLxは、y方向の長さLyの0.9倍以上且つ1.1倍以下であればよりよい。そして、x方向の長さLxは、y方向の長さLyの0.95倍以上且つ1.05倍以下であればさらによい。
【0022】
以上説明したように、発光装置4における面発光レーザ素子群が配列された配列領域100の形状は、照射領域40の形状と相似でなく、異なるように設定されている。なお、x方向が第1の方向の一例、y方向が第1の方向に交差する方向の一例であって、第2の方向の一例である。
【0023】
図4は、発光装置4を説明する図である。
図4(a)は、発光装置4の平面図、
図4(b)は、
図4(a)のIVB-IVB線での発光装置4の断面図である。
図4(a)において、発光装置4は、
図3と異なり、光を出射する側(これを表側と表記する。)から見た状態を示している。よって、紙面の右方向がx方向、紙面の上方向がy方向、紙面の表方向がz方向である。平面図とは、発光装置4を+z方向側から見た図である。また、
図4(b)において、紙面の右方向がx方向、紙面の上方向がy方向、紙面の裏方向がz方向である。
【0024】
図4(b)に示すように、発光装置4は、下側(-y方向側)から面発光レーザ素子アレイ10と、集光レンズ60と、拡散部材30とを備える。
面発光レーザ素子アレイ10は、複数の面発光レーザ素子を備える。ここでは、面発光レーザ素子は、一例として垂直共振器面発光レーザ素子VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)である。以下では、発光素子は垂直共振器面発光レーザ素子VCSELであるとして説明する。そして、垂直共振器面発光レーザ素子VCSELをVCSELと表記する。よって、面発光レーザ素子アレイ10をVCSELアレイ10と表記する。
図4(b)において、模式的に光を、斜線を付して示している。面発光レーザ素子、垂直共振器面発光レーザ素子VCSELが発光素子の一例であり、面発光レーザ素子アレイ10が発光素子アレイの一例である。
【0025】
図4(a)に示すように、複数の面発光レーザ素子(VCSEL)により、面発光レーザ素子群を構成される。なお、面発光レーザ素子群をVCSEL群と表記する。VCSEL群が配列された領域が配列領域100である。ここでは、
図4(a)に示すように、7個のVCSELを含む8個のVCSEL群を構成する。なお、各VCSEL群を区別する場合には、VCSEL群#1~#8と表記する。VCSEL群は、x方向に4個、y方向に2個並ぶように配列されている。つまり、配列領域100において配列されたVCSEL群は、x方向の数がy方向の数より多い。VCSEL群が発光素子群の一例である。
【0026】
そして、各VCSEL群における7個のVCSELは、x方向に2個、y方向に4個配列されている。各VCSEL群において、紙面の右上側には、VCSELが設けられていない。これは、p型オーミック電極を設けるためである(後述する
図8参照)。なお、p型オーミック電極を設ける位置をずらして、VCSELを設けてもよい。よって、x方向に2個、y方向に4個が配置されているとした。つまり、各VCSEL群において、VCSELは、y方向の数がx方向の数より多い。
ここで、各VCSEL群のVCSELをVCSELij(i、j≧1)と表記した場合、「i」がVCSEL群の番号、「j」がVCSEL群内でのVCSELの番号である。ここでは、VCSEL群#1は、VCSEL11~17を備える。
図4(a)のVCSEL群#1に示すように、各VCSEL群において、jが1~3のVCSELijと、jが4~8のVCSELijとは、-y方向に配列されている。そして、jが1~3のVCSELijと、jが4~8のVCSELijとは、-x方向に並列に配列されている。このとき、VCSELi1とVCSELi5とが、VCSELi2とVCSELi6とが、VCSELi3とVCSELi7とが、x方向に並ぶように配列されている。
【0027】
本明細書では、「~」は、番号によってそれぞれが区別された複数の構成要素を示すもので、「~」の前後に記載されたもの及びその間の番号のものを含むことを意味する。例えば、VCSEL11~17は、VCSEL11から番号順にVCSEL17までを含む。
【0028】
図4(b)に示すように、集光レンズ60は、各VCSELが出射する光の経路(出射経路と表記することがある。)上に設けられ、各VCSELが出射する光の拡がり角を狭めて、拡散部材30に入射させる。拡散部材30は、平行光が入射した場合に、予め定められた機能を有するように設計されている。VCSELは、構造によって決まる拡がり角を有する光を出射する。よって、VCSELが出射する光を直接に拡散部材30に入射させても、拡散部材30は、設計された機能を果たせない。よって、集光レンズ60によって、VCSELが出射する光の拡がり角を狭めて、拡散部材30に入射させている。なお、拡がり角とは、VCSELが出射する光の半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)をいう。集光レンズ60は、光学素子の一例である。
【0029】
集光レンズ60は、例えば-y方向側が平坦な平凸レンズであって、x方向が長さCx、y方向が長さCyである。ここでは、x方向の長さCxとy方向の長さCyとが同じである円形とする(Cx=Cy)。なお、円形とは、例えばx方向の長さCxがy方向の長さCyの0.95倍且つ1.05倍であるような楕円形である場合を含む。楕円の長軸は、x方向又はy方向である場合に限られない。集光レンズ60は、レンズの一例であって、平凸レンズに限らない。
【0030】
拡散部材30は、例えば、両面が平行で平坦なガラス基材の裏面(-z方向)側に光を拡散させるための凹凸が形成された樹脂層を備える。拡散部材30は、集光レンズ60を介して出射される各VCSELの出射経路上に設けられ、入射する光の拡がり角を拡げて、照射領域40に光を出射する。つまり、拡散部材30は、樹脂層に形成された凹凸により、光を屈折させたり、散乱させたりして、入射する光を照射領域40に広げて出射する。拡散部材30は、x方向が長さDx、y方向が長さDyである。
なお、拡散部材30に変えて、入射する光の方向と異なる方向に変化させて出射する回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)などの回折部材であってもよい。
【0031】
図4(b)では、図示を省略しているが、VCSELアレイ10は、不図示の回路基板上に設けられ、回路基板上に設けられた不図示の保持部材により、集光レンズ60及び拡散部材30がVCSELアレイ10から予め定められた距離を離して保持される。
【0032】
図4(a)に示すように、VCSELの配列領域100は、縦横比が1:1に近くなるように設定されている。そして、配列領域100が包含されるように、集光レンズ60が設けられている。このようにすることで、円形の集光レンズ60の面積(サイズと表記することがある。)が有効に使用されるようになっている。上述したように、各VCSEL群において、VCSELをy方向の数がx方向の数より多くなるように配置し、VCSEL群をx方向の数がy方向の数より多くなるように配置している。これにより、配列領域100の縦横比が1:1に近くなっている。
【0033】
図5は、第1の実施の形態が適用される発光装置4の配列領域100と、比較のための第1の実施の形態が適用されない発光装置4′の配列領域100′とを示す図である。
図5(a)は、第1の実施の形態が適用される発光装置4の配列領域100、
図5(b)は、第1の実施の形態が適用されない発光装置4′の配列領域100′である。
図5(a)、(b)は、
図3と同様に、発光装置4、4′と照射領域40とを紙面の上下方向にずらして示している。さらに、発光装置4、4′において、拡散部材30を分けて示している。なお、発光装置4、4′は、共に8個のVCSEL群(VCSEL群#1~#8)を備えるとする。
【0034】
第1の実施の形態が適用される発光装置4と第1の実施の形態が適用されない発光装置4′とで、照射領域40は、同じである。つまり、照射領域40は、x方向の長さSxがy方向の長さSyより大きい、x方向を長手とする形状である。
【0035】
図5(a)に示す、第1の実施の形態が適用される発光装置4では、配列領域100の縦横比(長さLx:長さLy)が1:1に近くなるように設けられている。つまり、照射領域40と配列領域100とは、相似形ではない。この場合、VCSEL群#1の配列領域110の形状と、VCSEL群#1によって照射される照射領域41の形状とは、相似形でない。
【0036】
一方、
図5(b)に示す、第1の実施の形態が適用されない発光装置4′では、配列領域100′は、照射領域40と相似形に設けられている。つまり、配列領域100′のx方向が長さLx′、y方向が長さLy′である場合、比例係数をkとして、配列領域100′は、x方向の長さLx′がSx/kであり、配列領域100′のy方向が長さLy′がSy/kである。この場合、VCSEL群#1の配列領域110′の形状と、VCSEL群#1によって照射される照射領域41の形状とは、相似形である。すると、
図5(b)に示すように、円形の集光レンズ60′の上下方向の部分は、利用されていない。このため、配列領域100′の面積と配列領域100の面積とが同じであるとすると、第1の実施の形態が適用される発光装置4の集光レンズ60より大きい集光レンズ60′を用いることになる。
【0037】
以上説明したように、第1の実施の形態が適用される発光装置4は、第1の実施の形態が適用されない発光装置4′に比べ、集光レンズ60の面積を有効に利用している。
【0038】
(VCSELアレイ10の等価回路)
図6は、第1の実施の形態が適用される発光装置4におけるVCSELアレイ10の等価回路の一例である。ここでは、VCSELアレイ10の動作を制御する制御部50を合わせて示している。紙面の左方向がy方向である。なお、制御部50は、
図2における計測制御部8に設けられている。
VCSELアレイ10は、VCSELを複数備える。一例として、
図4(a)と同様に、7個のVCSELにより1個のVCSEL群が構成されている。
図6では、4個のVCSEL群(VCSEL群#1~#4)を示している。
【0039】
そして、VCSELアレイ10は、VCSEL群毎に設定サイリスタSを備える。VCSEL群と設定サイリスタSとは直列接続されている。そして、設定サイリスタSについても、VCSEL群の番号である「i」を付すこととする。つまり、VCSEL群#1の備える設定サイリスタSは、設定サイリスタS1である。
【0040】
VCSELアレイ10は、さらに複数の転送サイリスタT、複数の結合ダイオードD、複数の電源線抵抗Rg、スタートダイオードSD、電流制限抵抗R1、R2を備える。ここでは、複数の転送サイリスタTをそれぞれ区別する場合、転送サイリスタT1、T2、T3、…のように、VCSEL群の番号である「i」を付して区別する。結合ダイオードD、電源線抵抗Rgも同様である。後述するように、例えば、転送サイリスタT1は、VCSEL群#1に対応するように設けられている。
【0041】
図6は、iが1~4に対応する部分を示している。VCSELアレイ10における「i」は、予め定められた数であってよい。例えば128個、512個、1024個などであってよい。転送サイリスタTの数は、VCSEL群の数と同じであればよい。なお、転送サイリスタTの数は、VCSEL群の数を超えてもよいし、少なくてもよい。
【0042】
転送サイリスタTは、転送サイリスタT1、T2、T3、…の順に-y方向に配列されている。結合ダイオードDは、結合ダイオードD1、D2、D3、…の順に-y方向に配列されている。なお、結合ダイオードD1は、転送サイリスタT1と転送サイリスタT2との間に設けられている。他の結合ダイオードDも同様である。また、電源線抵抗Rgも、電源線抵抗Rg1、Rg2、Rg3、…の順に-y方向に配列されている。
【0043】
VCSEL、結合ダイオードDは、アノードとカソードとを備える2端子素子である。設定サイリスタS、転送サイリスタTは、アノード、カソード、ゲートを備える3端子素子である。なお、転送サイリスタTのゲートをゲートGt、設定サイリスタSのゲートを、ゲートGsとする。なお、それぞれを区別する場合には、前述したと同様に「i」を付す。
ここで、VCSELと設定サイリスタSとで構成される部分を発光部12、転送サイリスタT、結合ダイオードD、スタートダイオードSD、電源線抵抗Rg、電流制限抵抗R1、R2で構成される部分を駆動部11とする。
【0044】
次に、各素子(VCSEL、設定サイリスタS、転送サイリスタTなど)の接続関係を説明する。
前述したように、VCSELijと設定サイリスタSiとは直列接続されている。つまり、設定サイリスタSiは、アノードが基準電位Vsub(接地電位(GND)など)に接続され、カソードがVCSELijのアノードに並列接続されている。
VCSELijのカソードは、VCSELijを発光/非発光の状態に制御する点灯信号φIが供給される点灯信号線76に共通に接続されている。
【0045】
基準電位Vsubは、後述するように、VCSELアレイ10を構成する基板80の裏面に設けられた裏面電極90(後述する
図7、
図8参照)を介して供給される。
【0046】
転送サイリスタTは、アノードが基準電位Vsubに接続されている。奇数番号の転送サイリスタT1、T3、…は、カソードが転送信号線72に接続されている。転送信号線72は、電流制限抵抗R1を介してφ1端子に接続されている。
偶数番号の転送サイリスタT2、T4、…は、カソードが転送信号線73に接続されている。転送信号線73は、電流制限抵抗R2を介してφ2端子に接続されている。
【0047】
結合ダイオードDは、互いに直列接続されている。つまり、一つの結合ダイオードDのカソードが-y方向に隣接する結合ダイオードDのアノードに接続されている。スタートダイオードSDは、アノードが転送信号線73に接続され、カソードが結合ダイオードD1のアノードに接続されている。
【0048】
そして、スタートダイオードSDのカソードと結合ダイオードD1のアノードとが、転送サイリスタT1のゲートGt1に接続されている。結合ダイオードD1のカソードと結合ダイオードD2のアノードとが、転送サイリスタT2のゲートGt2に接続されている。他の結合ダイオードDについても同様である。
【0049】
転送サイリスタTのゲートGtは、電源線抵抗Rgを介して、電源線71に接続されている。電源線71は、Vgk端子に接続されている。
そして、転送サイリスタTiのゲートGtiは、設定サイリスタSiのゲートGsiに接続されている。
【0050】
制御部50の構成を説明する。
制御部50は、点灯信号φIなどの信号を生成してVCSELアレイ10に供給する。VCSELアレイ10は、供給された信号によって動作する。制御部50は、電子回路で構成されている。例えば、制御部50は、VCSELアレイ10の動作を制御するために構成された集積回路(IC)であってもよい。
制御部50は、転送信号生成部51、点灯信号生成部52、電源電位生成部53及び基準電位生成部54を備える。
【0051】
転送信号生成部51は、転送信号φ1、φ2を生成し、転送信号φ1をVCSELアレイ10のφ1端子に、転送信号φ2をVCSELアレイ10のφ2端子に供給する。
点灯信号生成部52は、点灯信号φIを生成し、電流制限抵抗RIを介して、VCSELアレイ10のφI端子に供給する。なお、電流制限抵抗RIは、VCSELアレイ10内に設けられてもよい。また、電流制限抵抗RIがVCSELアレイ10の動作に必要でない場合には、電流制限抵抗RIを設けなくともよい。
【0052】
電源電位生成部53は、電源電位Vgkを生成し、VCSELアレイ10のVgk端子に供給する。基準電位生成部54は、基準電位Vsubを生成し、VCSELアレイ10のVsub端子に供給する。電源電位Vgkは、一例として-3.3Vである。基準電位Vsubは、前述したように、一例として接地電位(GND)である。
【0053】
転送信号生成部51の生成する転送信号φ1、φ2、点灯信号生成部52が生成する点灯信号φIについては、後述する。
【0054】
図6に示したVCSELアレイ10では、1個の転送サイリスタTiには、7個のVCSELij(j=1~7)がVCSEL群として、設定サイリスタSiを介して接続されている。
後述するように、転送サイリスタTiは、オン状態になることで、転送サイリスタTiに接続された設定サイリスタSiをオン状態に移行可能に設定する。よって、VCSELを発光可能な状態に設定することから設定サイリスタSと表記する。また、設定サイリスタSiがオン状態なると、VCSELijが発光する。なお、転送サイリスタTiは、「i」の順にオン状態を転送するように駆動される。つまり、転送サイリスタTiにおいて、オン状態が順に伝搬する。これにより、転送サイリスタTiは、VCSEL群を順次点灯させている。転送サイリスタTは、発光指示部の一例である。
ここでは、複数のVCSELにより1個のVCSEL群が構成されている。そして、転送サイリスタT毎に、VCSEL群が接続され、VCSEL群に含まれる複数のVCSELが並行して発光する。
【0055】
なお、
図6に示す例では、各VCSEL群は、同じ数(ここでは、7個)のVCSELを備えるが、VCSEL群間でVCSELの数が異なってもよい。
【0056】
VCSELは、低次の単一横モード(シングルモード)で発振することがよい。シングルモードでは、VCSELの発光点(後述する
図8の光出射口310)から出射する光(出射光)の強度プロファイルが単峰性(強度ピークが1つである特性)となる。一方、高次を含む多重横モード(マルチモード)で発振するVCSELでは、複数峰になるなど、強度プロファイルがいびつになりやすい。また、シングルモードでは、マルチモードに比べて、発光点から出射する光(出射光)の拡がり角が小さい。
【0057】
そして、VCSELは、発光点の面積が小さいほど単一横モード(シングルモード)で発振しやすい。このため、シングルモードのVCSELは、光出力が小さい。光出力を大きくしようとして、発光点の面積を大きくすると、マルチモードに移行しやすい。そこで、複数のVCSELをVCSEL群とし、VCSEL群に含まれる複数のVCSELを並行して発光させることで、光出力を大きくしている。
【0058】
(VCSELアレイ10の平面レイアウト)
図7は、第1の実施の形態が適用されるVCSELアレイ10の平面レイアウトの一例を示す図である。
図7において、紙面の上方向がx方向、左方向がy方向である。
VCSELアレイ10は、レーザ光を出射しうる半導体材料で構成される。例えば、VCSELアレイ10は、GaAs系の化合物半導体で構成される。そして、後述する断面図(後述する
図8)に示すように、VCSELアレイ10は、p型のGaAsの基板80上に、GaAs系の化合物半導体層が複数積層された半導体層積層体が複数の島状に分離されることで構成される。なお、島状に残された領域は、アイランドと呼ばれる。半導体層積層体を島状にエッチングして、素子を分離することは、メサエッチングと呼ばれる。ここでは、
図7に示すアイランド301~306により、VCSELアレイ10の平面レイアウトを説明する。なお、アイランド301、302、303は、VCSEL群毎に設けられる。よって、アイランド301、302、303を、VCSEL群ごとに区別する場合には、前述と同様に「i」を付し、アイランド301-i、302-i、303-iと表記する場合がある。なお、
図7では、iが1~8の部分を示している。また、VCSEL群におけるVCSELの数を前述と同様に「j」と表記する。ここでは、jは1~7である。このように、VCSELアレイ10は、共通の半導体基板に構成されている。よって、発光装置4が小型化される。
【0059】
アイランド301-iには、VCSELij、設定サイリスタSiが設けられている。なお、後述する
図8に示すように、VCSELijと設定サイリスタSiとは、積層されている。なお、
図7では、VCSELijと設定サイリスタSiとを、VCSELij/Siと表記する。例えば、「i」が1の場合、VCSEL1j/S1と表記する。iが1~4のアイランド301-iと、iが5~8のアイランド301-iとは、-x方向に並列に配列されている。そして、iが1~4のアイランド301-iと、iが5~8のアイランド301-iとは、-y方向に並列に配列されている。
【0060】
なお、アイランド301-iにおいて、
図4(a)におけるVCSEL群#1に示したように、7個のVCSELが配列されている。なお、符号は付さない。
【0061】
アイランド302-iには、転送サイリスタTi及び結合ダイオードDiが設けられている。アイランド302-iは、-y方向に並列するように設けられている。
【0062】
アイランド303-iには、電源線抵抗Rgiが設けられている。アイランド303-iは、-y方向に並列するように設けられている。
【0063】
アイランド304には、スタートダイオードSDが設けられている。アイランド305には、電流制限抵抗R1が、アイランド306には、電流制限抵抗R2が設けられている。
【0064】
(VCSELアレイ10の断面構造)
次に、これらのアイランド301~306の接続関係を説明する前に、アイランド301、302の断面構造を説明する。
【0065】
図8は、VCSELアレイ10の断面構造を示す図である。なお、
図8は、
図7におけるVIII-VIII線でのVCSELアレイ10の断面図である。つまり、
図8に示す断面図は、紙面において、左側から結合ダイオードD1、転送サイリスタT1、VCSEL11/S1、VCSEL12/S1を横切る断面である。つまり、アイランド301-1とアイランド302-1の部分を示している。
【0066】
まず、設定サイリスタSとVCSELとが設けられたアイランド301-1を説明する。ここでは、設定サイリスタSとVCSELとが積層されて構成されている(VCSEL11/S1、VCSEL12/S1)。
図8に示すように、p型のGaAsの基板80上に、設定サイリスタS1を構成するp型のアノード層(以下では、pアノード層と表記する。以下同様とする。)81、n型のゲート層(nゲート層)82、p型のゲート層(pゲート層)83、n型のカソード層(nカソード層)84が積層されている。つまり、設定サイリスタSは、pアノード層81をアノード、nゲート層82をnゲート、pゲート層83をpゲート、nカソード層84をカソードとして構成されている。
【0067】
次に、nカソード層84上にトンネル接合層85が積層されている。
そして、トンネル接合層85上に、VCSEL11、VCSEL12を構成するp型のアノード層(pアノード層)86、発光層87、n型のカソード層(nカソード層)88が積層されている。つまり、VCSELは、pアノード層86をアノード、発光層87を発光層、nカソード層88をカソードとして構成されている。
設定サイリスタS1とVCSEL11、VCSEL12とは、トンネル接合層85を介して直列接続されている。トンネル接合層85については後述する。
【0068】
VCSEL11及びVCSEL12の部分では、VCSELの周囲のトンネル接合層85が露出するように、nカソード層88、発光層87、pアノード層86がエッチングにより除去されている。ここでは、VCSELの断面形状が円形になっている。つまり、VCSELの部分は、円柱状に形成されている。よって、VCSELの部分をポスト311と表記する(
図7参照)。
【0069】
設定サイリスタSを構成するpアノード層81、nゲート層82、pゲート層83、nカソード層84、トンネル接合層85は、VCSEL群#1に属するVCSEL(VCSEL11~17)間で連続する。
【0070】
また、アイランド301-1では、さらにトンネル接合層85とnカソード層84とを除去してpゲート層83を露出させた部分に、pゲート層83などp型の半導体層とオーミック接触が形成しやすい金属材料で構成されたpオーミック電極331が、設定サイリスタS1のゲートGs1として設けられている。
【0071】
VCSELのnカソード層88上には、nカソード層88などn型の半導体層とオーミック接触が形成しやすい金属材料で構成されたnオーミック電極321が設けられている。なお、nオーミック電極321は、光出射口310を取り囲むように、円形に設けられている(
図7参照)。
【0072】
ポスト311のpアノード層86には、電流狭窄層86bが含まれる。ここでは、一例として、pアノード層86は、下側pアノード層86a、電流狭窄層86b、上側pアノード層86cの3層から構成されている。電流狭窄層86bは、AlAsのように、Alの組成比が高い材料で構成され、酸化によりAlがAl
2O
3になることにより、電気抵抗が高くなって、電流が流れにくくなる部分(
図8中の黒塗りの部分)が形成される層をいう。
【0073】
ポスト311は円柱状に設けられているので、露出したpアノード層86の側面から電流狭窄層86bの酸化を行うと、円形の断面における周辺部から中心部へと酸化が進む。そして、中心部を酸化させないことで、VCSELの断面における中心部が電流の流れやすい電流通過領域86dとなり、周辺部が電流の流れにくい電流阻止領域86eとなる。なお、VCSELは、発光層87の電流通過領域86dにより電流経路が制限された部分において発光が生じる。この電流通過領域86dに対応するVCSELの表面の領域が発光点であり、光出射口310である。
【0074】
電流狭窄層86bを設けるのは、VCSELを低次の単一横モード(シングルモード)で発振させるためである。つまり、VCSELが形成されるポスト311の断面形状を円形にして周辺部から酸化させることで、光出射口310の断面形状を円形とするとともに、面積を小さくしている。
また、VCSELの周辺部は、メサエッチングに起因した欠陥が多く、非発光再結合が起こりやすい。このため、電流阻止領域86eを設けることで、非発光再結合に消費される電力が抑制される。よって、低消費電力化及び光取り出し効率の向上が図れる。なお、光取り出し効率とは、電力当たりに取り出すことができる光量である。
【0075】
次に、転送サイリスタT1と結合ダイオードD1とが設けられたアイランド302-1を説明する。転送サイリスタT1は、設定サイリスタSと同様に、pアノード層81、nゲート層82、pゲート層83、nカソード層84で構成される。つまり、転送サイリスタT1は、pアノード層81をアノード、nゲート層82をnゲート、pゲート層83をpゲート、nカソード層84をカソードとして構成される。ここでは、pゲート層83上にゲート電極(後述するpオーミック電極332)が設けられている。
【0076】
結合ダイオードD1は、pゲート層83、nカソード層84で構成されている。つまり、結合ダイオードD1は、pゲート層83をアノード、nカソード層84をカソードとして構成されている。
【0077】
アイランド302-1では、設定サイリスタSとVCSELとが積層された部分におけるnカソード層88、発光層87、pアノード層86及びトンネル接合層85が除去されている。そして、転送サイリスタT1の部分と、結合ダイオードD1の部分とにおいて、nカソード層84がポスト312と、ポスト313として残るように、nカソード層84が除去されている。
【0078】
ポスト312のnカソード層84上に、nオーミック電極322が転送サイリスタT1のカソード電極として設けられている。同様に、ポスト313のnカソード層84上に、nオーミック電極323が結合ダイオードD1のカソード電極として設けられている。
【0079】
pゲート層83上に設けられたpオーミック電極332は、転送サイリスタT1のゲートGt1及び結合ダイオードD1のアノード電極として機能する。
【0080】
そして、表面を覆うように層間絶縁層91が設けられている。層間絶縁層91上には、スルーホールを介して、アイランド301-1に設けられたpオーミック電極331(ゲートGs1)とアイランド302-1に設けられたpオーミック電極332(ゲートGt1)とを接続する配線75-1と、アイランド301-2に設けられたpオーミック電極(ゲートGs2)とアイランド302-2に設けられたpオーミック電極(ゲートGt1)とを接続する配線75-2が設けられている。また、層間絶縁層91上には、nオーミック電極322に接続された転送信号線72が設けられている。そして、層間絶縁層91上には、転送信号線73が設けられている。さらに、層間絶縁層91上には、スルーホールを介して、nオーミック電極323に接続された配線74-2が設けられている。
【0081】
さらに、表面を覆うように層間絶縁層92が設けられている。そして、層間絶縁層92上には、層間絶縁層92及び層間絶縁層91に設けたスルーホールを介して、アイランド301-1に設けられたnオーミック電極321に接続された点灯信号線76が設けられている。つまり、配線75(配線75-1、75-2)と点灯信号線76とは、層間絶縁層92を介した多層配線構造となっている。配線75は、発光素子群列の一例であるVCSEL群と発光指示部の一例である転送サイリスタTとを接続する配線であって、発光指示部から発光素子群に発光指示を行う配線である。
【0082】
なお、層間絶縁層91、92が、VCSELの出射光に対して透過性が劣る場合には、光出射口310上の層間絶縁層91、92の代わりに、VCSELの出射光に対して透過性に優れる光出射層を設けてもよい。
【0083】
アイランド301、302、303、304、305、306は、周囲の半導体層積層体が基板80に至るまでエッチングにより除去されることで、互いに分離されている。なお、pアノード層81に至るまでエッチングされてもよく、pアノード層81の厚さ方向の一部に至るまでエッチングされてもよい。
【0084】
図7に戻って、他のアイランド303、304、305、306を説明する。アイランド303には、電源線抵抗Rg1が構成されている。アイランド303-1は、半導体層積層体におけるnカソード層88、発光層87、pアノード層86、トンネル接合層85、nカソード層84が除去されて、pゲート層83を露出させている。露出させたpゲート層83上に一対のpオーミック電極が設けられている。そして、pオーミック電極間のpゲート層83が抵抗として用いられている。
【0085】
アイランド304には、スタートダイオードSDが設けられている。アイランド304は、半導体層積層体におけるnカソード層88、発光層87、pアノード層86、トンネル接合層85が除去されている。そして、nカソード層84が残されたポスト314を除いて、pゲート層83を露出させている。スタートダイオードSDは、ポスト314を構成するnカソード層84がカソード、pゲート層83がアノードである。そして、ポスト314のnカソード層84上に設けられたnオーミック電極がカソード電極、露出させたpゲート層83上に設けられたpオーミック電極がアノード電極である。
【0086】
アイランド305には、電流制限抵抗R1、アイランド306には、電流制限抵抗R2が設けられている。アイランド305、306は、アイランド303と同様の構成であって、露出させたpゲート層83上に設けられた1対のpオーミック電極間のpゲート層83をそれぞれ電流制限抵抗R1、R2とする。
【0087】
アイランド301~306及びアイランド間の接続関係を説明する。
前述したように、アイランド301-1のポスト311に設けられたVCSELのカソードであるnカソード層88は、nオーミック電極321を介して、点灯信号線76に並列に接続される。他のアイランド301も同様である。
アイランド302-1のポスト312に設けられた転送サイリスタT1のカソードであるnカソード層88は、nオーミック電極322を介して、転送信号線72に接続されている。なお、アイランド302-3(-y方向側の3番目に位置するアイランド302)に設けられた転送サイリスタT3も同様である。つまり、奇数番号iの転送サイリスタTiのカソード(nカソード層88)は、転送信号線72に接続されている。
【0088】
一方、アイランド302-2(-y方向側の2番目に位置するアイランド302)に設けられた転送サイリスタT2のカソード(nカソード層88)は、転送信号線73に接続されている。つまり、偶数番号iの転送サイリスタTiのカソード(nカソード層88)は、転送信号線73に接続されている。
【0089】
そして、アイランド301-1のゲートGs1であるpオーミック電極331とアイランド301-2のゲートGt1であるpオーミック電極332とは、配線75-1で接続されている。アイランド302-1のポスト313に設けられた結合ダイオードD1のカソード(nカソード層88)は、nオーミック電極323(
図8参照)を介して、配線74-2に接続されている。配線74-2は、隣接するアイランド302-2のpオーミック電極(符号なし)及びアイランド303-2の電源線抵抗Rg2のpオーミック電極(符号なし)に接続されている。
【0090】
アイランド302-1に設けられたpオーミック電極333(ゲートGt1のpオーミック電極332と同様にpゲート層83上に設けられている。)と、アイランド303-1に設けられた電源線抵抗Rg1の一方のpオーミック電極と、アイランド304に設けられたスタートダイオードSDのカソード電極であるnオーミック電極とは、配線74-1により接続されている。
【0091】
また、アイランド303-1の電源線抵抗Rg1の他方のpオーミック電極は、電源線71に接続されている。電源線71は、Vgk端子に接続されている。他のアイランド303も同様である。
【0092】
転送信号線72は、アイランド305の電流制限抵抗R1の一方のpオーミック電極(符号なし)に接続されている。電流制限抵抗R1の他方のpオーミック電極(符号なし)は、φ1端子に接続されている。転送信号線73は、アイランド303のスタートダイオードSDのpオーミック電極に接続されるとともに、アイランド306の電流制限抵抗R2の一方のpオーミック電極(符号なし)に接続されている。アイランド306の電流制限抵抗R2の他方のpオーミック電極(符号なし)は、φ2端子に接続されている。
【0093】
以上においては、アイランド301-1、302-1、303-1を例として説明したが、他のアイランド301、302、303でも同様である。よって、
図7では、例えば、配線74-1(74)などのように表記して、他の配線74も同様であることを示す。
【0094】
<サイリスタ>
次に、設定サイリスタS、転送サイリスタTの動作について説明する。設定サイリスタSと転送サイリスタTとをまとめてサイリスタと表記する。
サイリスタは、pアノード層81、nゲート層82、pゲート層83、nカソード層84が積層されて構成されている。
サイリスタは、前述したように、アノード、カソード、ゲートの3端子を有する半導体素子であって、例えば、GaAs、GaAlAs、AlAsなどによるp型の半導体層(pアノード層81、pゲート層83)、n型の半導体層(nゲート層82、nカソード層84)を積層して構成されている。つまり、サイリスタは、pnpn構造を成している。ここでは、一例として、p型の半導体層とn型の半導体層とで構成されるpn接合の順方向電位(拡散電位)Vdを1.5Vとする。
【0095】
一例として、pアノード層81の基準電位Vsubをハイレベルの電位(以下では「H」と表記する。)として0V、Vgk端子(
図6参照)に供給される電源電位Vgkをローレベルの電位(以下では「L」と表記する。)として-3.3Vとする。よって、「H(0V)」、「L(-3.3V)」と表記することがある。
図6に示したように、Vgk端子は、電源線抵抗Rg1を介して、ゲート(サイリスタが転送サイリスタT1の場合はゲートGt1)に接続されている。
【0096】
アノードとカソードとの間に電流が流れていないオフ状態のサイリスタは、しきい電圧より低い電位(絶対値が大きい負の電位)がカソードに印加されるとオン状態に移行(ターンオン)する。ここで、サイリスタのしきい電圧は、ゲートの電位からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた値である。
オン状態になると、サイリスタのゲートは、アノードの電位に近い電位になる。ここでは、アノードは0Vであるので、ゲートは0Vになるとする。また、オン状態のサイリスタのカソードは、アノードの電位からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた電位に近い電位(絶対値を保持電圧と表記する。)となる。ここでは、アノードは0Vであるので、オン状態のサイリスタのカソードは、-1.5Vに近い電位(絶対値が1.5Vより大きい負の電位)となる。ここでは、保持電圧は、1.5Vであるとする。
【0097】
オン状態のサイリスタは、カソードにオン状態を維持するために必要な電位より低い電位(絶対値が大きい負の電位)が継続的に印加され、オン状態を維持しうる電流(維持電流)が供給されると、オン状態を維持する。
一方、オン状態のサイリスタは、カソードがオン状態を維持するために必要な電位(上記の-1.5Vに近い電位)より高い電位(絶対値が小さい負の電位、0V又は正の電位)になると、オフ状態に移行(ターンオフ)する。
【0098】
<トンネル接合層85>
次に、
図8に示したように、アイランド301における設定サイリスタSとVCSELとは、トンネル接合層85を介して積層されている。これにより、設定サイリスタSとVCSELとが、直列接続されている。
図9は、設定サイリスタSとVCSELとの積層構造をさらに説明する図である。
図9(a)は、設定サイリスタSとVCSELとの積層構造における模式的なエネルギーバンド図、
図9(b)は、トンネル接合層85の逆バイアス状態におけるエネルギーバンド図、
図9(c)は、トンネル接合層85の電流電圧特性を示す。
【0099】
図7、
図8に示したnオーミック電極321に印加される点灯信号φIと裏面電極90の基準電位Vsubとの間に、設定サイリスタSとVCSELとのそれぞれが順バイアスになるように電圧を印加する。すると、
図9(a)のエネルギーバンド図に示すように、トンネル接合層85を構成するn
++層85aとp
++層85bとの間が逆バイアスになる。
【0100】
トンネル接合層85は、n型の不純物を高濃度に添加したn
++層85aと、p型の不純物を高濃度に添加したp
++層85bとの接合である。このため、空乏領域の幅が狭く、順バイアスされると、n
++層85a側の伝導帯(コンダクションバンド)からp
++層85b側の価電子帯(バレンスバンド)に電子がトンネルする。この際、負性抵抗特性が表れる(
図9(c)の順バイアス側(+V)参照)。
【0101】
一方、
図9(b)に示すように、トンネル接合層85は、逆バイアス(-V)されると、p
++層85b側の価電子帯(バレンスバンド)の電位Evが、n
++層85a側の伝導帯(コンダクションバンド)の電位Ecより上になる。そして、p
++層85bの価電子帯(バレンスバンド)から、n
++層85a側の伝導帯(コンダクションバンド)に電子がトンネルする。そして、逆バイアス電圧(-V)が大きくなるほど、電子のトンネルがしやすくなる。すなわち、
図9(c)の逆バイアス側(-V)に示すように、トンネル接合層85(トンネル接合)は、逆バイアスが大きいほど、電流が流れやすい。
【0102】
よって、
図9(a)に示すように、設定サイリスタSとVCSELとのそれぞれが順バイアスになるように電圧が印加され、設定サイリスタSがターンオンしてオン状態に移行すると、トンネル接合層85が逆バイアスであっても、設定サイリスタSからVCSELへ電流が流れる。
【0103】
なお、トンネル接合層85の代わりに、金属的な導電性を有し、III-V族の化合物半導体層にエピタキシャル成長するIII-V族化合物層を用いてもよい。金属的導電性III-V族化合物層の材料の一例として説明するInNAsは、例えばInNの組成比xが約0.1~約0.8の範囲において、バンドギャップエネルギが負になる。また、InNSbは、例えばInNの組成比xが約0.2~約0.75の範囲において、バンドギャップエネルギが負になる。バンドギャップエネルギが負になることは、バンドギャップを持たないことを意味する。よって、金属と同様な導電特性(伝導特性)を示すことになる。すなわち、金属的な導電特性(導電性)とは、金属と同様に電位に勾配があれば電流が流れることをいう。
【0104】
そして、GaAs、InPなどのIII-V族化合物(半導体)の格子定数は、5.6Å~5.9Åの範囲にある。そして、この格子定数は、Siの格子定数の約5.43Å、Geの格子定数の約5.66Åに近い。
これに対して、同様にIII-V族化合物であるInNの格子定数は、閃亜鉛鉱構造において約5.0Å、InAsの格子定数は、約6.06Åである。よって、InNとInAsとの化合物であるInNAsの格子定数は、GaAsなどの5.6Å~5.9Åに近い値になりうる。
また、III-V族化合物であるInSbの格子定数は、約6.48Åである。よって、InNの格子定数の約5.0Åであるので、InSbとInNとの化合物であるInNSbの格子定数は、GaAsなど5.6Å~5.9Åに近い値になりうる。
【0105】
すなわち、InNAs及びInNSbは、GaAsなどのIII-V族化合物(半導体)の層に対してモノリシックにエピタキシャル成長させうる。また、InNAs又はInNSbの層上に、GaAsなどのIII-V族化合物(半導体)の層をエピタキシャル成長によりモノリシックに積層させうる。
【0106】
よって、トンネル接合層85の代わりに、金属的導電性III-V族化合物層を介して、設定サイリスタSとVCSELとを直列接続されるように積層すれば、設定サイリスタSのnカソード層84とVCSELのpアノード層86とが逆バイアスになることが抑制される。
【0107】
<積層された設定サイリスタSとVCSELの動作>
次に、積層された設定サイリスタSとVCSELの動作を説明する。
ここで、VCSELは、立ち上がり電圧を1.5Vとする。つまり、VCSELのアノードとカソードとの間に1.5V以上の電圧が印加されていれば、VCSELが発光する。
点灯信号φIは、0V(「H(0V)」)又は-3.3V(「L(-3.3V)」)であるとする。0Vは、VCSELをオフ状態にする電位、-3.3Vは、VCSELをオフ状態からオン状態にする電位である。
【0108】
VCSELをオフ状態からオン状態に移行させる場合、点灯信号φIが、「L(-3.3V)」に設定される。このとき、設定サイリスタSのゲートGsに-1.5Vが印加されると、設定サイリスタSのしきい値は、ゲートGsの電位(-1.5V)からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた、-3Vになる。このとき、点灯信号φIは、-3.3Vであるので、設定サイリスタSがターンオンしてオフ状態からオン状態に移行するとともに、VCSELもオフ状態からオン状態に移行する。つまり、VCSELは、レーザ発振して発光する。すると、オン状態の設定サイリスタSに印加される電圧(保持電圧Vr)は1.5Vであるので、レーザダイオードLDには1.8Vが印加される。なお、VCSELは立ち上がり電圧が1.5Vであるので、VCSELは、発光を継続する。
【0109】
一方、点灯信号φIを0Vにすると、設定サイリスタSとVCSELとの直列接続の両端が0Vになり、設定サイリスタSがオン状態からオフ状態に移行(ターンオフ)するとともに、VCSELが非発光になる。
VCSELアレイ10の動作については、後に詳述する。
【0110】
(半導体層積層体の構成)
半導体層積層体は、前述したように、基板80、pアノード層81、nゲート層82、pゲート層83、nカソード層84、トンネル接合層85、pアノード層86、発光層87、nカソード層88が積層されて構成されている。
上述したように、基板80は、p型のGaAsを例として説明するが、n型のGaAs、不純物を添加していないイントリンシック(i)のGaAsでもよい。また、InP、GaN、InAs、その他III-V族、II-VI材料からなる半導体基板、サファイア、Si、Geなどでもよい。基板を変更した場合、基板上にモノリシックに積層される材料は、基板の格子定数に略整合(歪構造、歪緩和層、メタモルフィック成長を含む)する材料を用いる。一例として、InAs基板上には、InAs、InAsSb、GaInAsSbなどを使用し、InP基板上にはInP、InGaAsPなどを使用し、GaN基板上又はサファイア基板上には、GaN、AlGaN、InGaNを使用し、Si基板上にはSi、SiGe、GaPなどを使用する。ただし、基板80が電気絶縁性である場合には、基準電位Vsubを供給する配線を別途設けることが必要となる。また、基板80を除く半導体層積層体を他の支持基板に張り付け、他の支持基板上に半導体層積層体を設ける場合は、支持基板と格子定数が整合している必要はない。
【0111】
pアノード層81は、例えば不純物濃度1×1018/cm3のp型のAl0.9GaAsである。Al組成は、0~1の範囲で変更してもよい。
nゲート層82は、例えば不純物濃度1×1017/cm3のn型のAl0.9GaAsである。Al組成は、0~1の範囲で変更してもよい。
pゲート層83は、例えば不純物濃度1×1017/cm3のp型のAl0.9GaAsである。Al組成は、0~1の範囲で変更してもよい。
nカソード層84は、例えば不純物濃度1×1018/cm3のn型のAl0.9GaAsである。Al組成は、0~1の範囲で変更してもよい。
【0112】
トンネル接合層85は、n型の不純物を高濃度に添加したn
++層85aとn型の不純物を高濃度に添加したp
++層85bとの接合(
図7(a)参照。)で構成されている。n
++層85a及びp
++層85bは、例えば不純物濃度1×10
20/cm
3と高濃度である。なお、通常の接合の不純物濃度は、10
17/cm
3台~10
18/cm
3台である。n
++層85aとp
++層85bとの組み合わせ(以下では、n
++層85a/p
++層85bで表記する。)は、例えばn
++GaInP/p
++GaAs、n
++GaInP/p
++AlGaAs、n
++GaAs/p
++GaAs、n
++AlGaAs/p
++AlGaAs、n
++InGaAs/p
++InGaAs、n
++GaInAsP/p
++GaInAsP、n
++GaAsSb/p
++GaAsSbである。なお、組み合わせを相互に変更したものでもよい。
【0113】
pアノード層86は、下側pアノード層86a、電流狭窄層86b、上側pアノード層86cを順に積層して構成されている。下側pアノード層86a、上側pアノード層86cは、例えば不純物濃度5×1017/cm3のp型のAl0.9GaAsである。Al組成は、0~1の範囲で変更してもよい。
電流狭窄層86bは、例えばAlAs又はAlの不純物濃度が高いp型のAlGaAsである。Alが酸化されてAl2O3が形成されることにより、電気抵抗が高くなって、電流阻止領域86eが形成されるものであればよい。なお、GaAs、AlGaAsなどの半導体層に水素イオン(H+)を打ち込むことで、電流阻止領域86eを形成してもよい(H+イオン打ち込み)。
【0114】
発光層87は、井戸(ウエル)層と障壁(バリア)層とが交互に積層された量子井戸構図である。井戸層は、例えばGaAs、AlGaAs、InGaAs、GaAsP、AlGaInP、GaInAsP、GaInPなどであり、障壁層は、AlGaAs、GaAs、GaInP、GaInAsPなどである。なお、発光層87は、量子線(量子ワイヤ)や量子箱(量子ドット)であってもよい。
【0115】
nカソード層88は、例えば不純物濃度5×1017/cm3のn型のAl0.9GaAsである。Al組成は、0~1の範囲で変更してもよい。
【0116】
これらの半導体層は、例えば有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)、分子線エピタキシー法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)などによって積層され、半導体層積層体が形成される。
【0117】
なお、上記のAlGaAs系の材料の代わりに、GaInPなどで構成してもよい。また、GaN基板、InP系基板を用いて構成してもよい。また、pアノード層86、発光層87、nカソード層88で構成されるVCSELと、pアノード層81、nゲート層82、pゲート層83、nカソード層84で構成される設定サイリスタS、転送サイリスタTのそれぞれは、格子定数が異なる材料で作成されていてもよい。メタモルフィック成長や、設定サイリスタS及び転送サイリスタTとVCSELとを別々に成長させてお互いを張り付けることで実現できる。その際、トンネル接合層85はどちらかの格子定数に略整合していればよい。
【0118】
VCSELアレイ10は、公知のフォトリソグラフィ、エッチングなどの技術によって製造しうるので、製造方法については説明を省略する。
【0119】
(VCSELアレイ10の動作)
図10は、VCSELアレイ10におけるVCSEL群の発光/非発光を制御するタイムチャートの一例を示す図である。ここでは、
図6、7で説明した各VCSEL群が7個のVCSELを備える場合を例として説明する。
図10において、アルファベット順(a、b、c、…)に時間が経過するとする。
図10に示すタイミングチャートでは、VCSEL群#1~#4を制御する部分を示している。そして、VCSEL群#1~#4を順に発光させる期間を期間U-1~U-4とする。ここでは、後述するように、期間U-1~U-4の各期間の長さは、異なるとしているが、同じとしてもよい。
【0120】
図6を参照しつつ、
図10のタイムチャートを説明する。
時刻aにおいて、
図6に示した制御部50に電源が供給される。すると、基準電位Vsubが「H(0V)」、電源電位Vgkが「L(-3.3V)」に設定される。
次に、各信号(転送信号φ1、φ2、点灯信号φI)の波形を説明する。なお、期間U-1~U-8は、基本的に同じであるので、期間U-1を中心に説明する。なお、期間U-1~U-8を区別しない場合には、期間Uと表記する。
【0121】
転送信号φ1は、「H(0V)」又は「L(-3.3V)」となる信号である。転送信号φ1は、時刻aにおいて「H(0V)」であって、時刻bにおいて「L(-3.3V)」に移行する。そして、時刻iにおいて、「H(0V)」に戻る。そして、時刻mにおいて、再び「L(-3.3V)」に移行する。転送信号φ2も、「H(0V)」又は「L(-3.3V)」となる信号である。転送信号φ2は、時刻aにおいて「H(0V)」であって、時刻hにおいて「L(-3.3V)」に移行する。そして、時刻nにおいて、「H(0V)」に戻る。
【0122】
時刻b以降において、転送信号φ1、φ2は、互いに「L(-3.3V)」となる期間(例えば時刻hから時刻iの期間)を挟んで、「H(0V)」と「L(-3.3V)」とが交互に入れ替わる。そこで、転送信号φ1が「H(0V)」から「L(-3.3V)」に移行する時刻bから、転送信号φ2が「H(0V)」から「L(-3.3V)」に移行する時刻hまでを期間U-1とし、逆に、転送信号φ2が「H(0V)」から「L(-3.3V)」に移行する時刻hから、転送信号φ1が「H(0V)」から「L(-3.3V)」に移行する時刻mまでを期間U-2としている。期間U-3、U-4も同様である。
【0123】
点灯信号φIは、「H(0V)」又は「L(-3.3V)」となる信号である。そして、点灯信号φIは、各期間Uにおいて、転送信号φ1、φ2の一方が「H(0V)」で他方が「L(-3.3V)」である期間、例えば期間U-1における時刻cから時刻gまで、又は期間U-2における時刻jから時刻lまでにおいて、「H(0V)」と「L(-3.3V)」とを繰り返す。そして、それ以外の期間において「H(0V)」である。
【0124】
次に、
図6を参照しつつ、
図10のタイムチャートを説明する。なお、
図10では、VCSELが発光している期間を実線で示している。
時刻aにおいて、
図1に示す制御部50に電源が供給され、基準電位Vsubが「H(0V)」、電源電位Vgkが「L(-3.3V)」に設定される。すると、転送信号φ1、φ2が「H(0V)」に設定される。スタートダイオードSDは、カソードが電源線抵抗Rg1を介して電源電位Vgk(「L(-3.3V)」)になり、アノードが電流制限抵抗R2を介して転送信号φ2「H(0V)」になる。よって、スタートダイオードSDは、順バイアスになり、転送サイリスタT1のゲートGt1が-1.5Vになる。これにより、転送サイリスタT1のしきい電圧が-3Vになっている。
【0125】
時刻bにおいて、転送信号φ1が「H(0V)」から「L(-3.3V)」に移行する。このとき、転送サイリスタT1は、しきい電圧が-3Vであるので、ターンオンして、オフ状態からオン状態に移行する。すると、ゲートGt1が0Vになる。これにより、ゲートGt1に接続された設定サイリスタS1のゲートGs1が0Vになる。すると、設定サイリスタS1のしきい電圧が-1.5Vになる。時刻bにおいては、点灯信号φIは、「H(0V)」である。つまり、設定サイリスタS1とVCSEL11~VCSEL17との直列接続には、0Vが印加されている。このため、設定サイリスタS1はオフ状態であり、VCSEL11~VCSEL17は発光しない。
【0126】
時刻cにおいて、点灯信号φIが「H(0V)」から「L(-3.3V)」に移行すると、しきい電圧が-1.5Vの設定サイリスタS1がターンオンしてオフ状態からオン状態に移行する。すると、前述したように、VCSEL11~VCSEL17に電流が流れて発光する。このとき、設定サイリスタS1のカソード-アノード間は1.5Vになり、VCSEL11~VCSEL17のカソード-アノード間は、1.8Vとなる。よって、VCSEL11~VCSEL17の発光が維持される。つまり、時刻cにおいて、VCSEL群#1に属するVCSEL11~VCSEL17が並行して発光する。
【0127】
時刻dにおいて、点灯信号φIが「L(-3.3V)」から「H(0V)」に移行すると、設定サイリスタS1とVCSEL11~VCSEL17との直列接続の両端が0Vになり、設定サイリスタS1がターンオフしてオン状態からオフ状態に移行するとともに、VCSEL11~VCSEL17が非点灯になる。つまり、時刻dにおいて、VCSEL群#1に属するVCSEL11~VCSEL17が並行して非発光になる。しかし、設定サイリスタS1のしきい電圧は、-3Vに維持されている。
【0128】
よって、時刻eにおいて、点灯信号φIが「H(0V)」から「L(-3.3V)」に移行すると、しきい電圧が-3Vの設定サイリスタS11~S14が再びターンオンしてオフ状態からオン状態に移行し、VCSEL11~VCSEL17が発光する。
時刻fにおいて、点灯信号φIが「L(-3.3V)」から「H(0V)」に移行すると、設定サイリスタS1が再びターンオフしてオン状態からオフ状態に移行し、VCSEL11~VCSEL17が非点灯になる。
【0129】
つまり、転送信号φ1が「H(0V)」から「L(-3.3V)」に移行する時刻bから、転送信号φ2が「H(0V)」から「L(-3.3V)」に移行する時刻hまでの期間U-1において、点灯信号φIを「H(0V)」から「L(-3.3V)」に移行させ、次に「L(-3.3V)」に「H(0V)」に移行させることを繰り返すことにより、VCSEL群#1に属するVCSEL11~VCSEL14が並行して、パルス状(間欠的)に発光する。なお、期間U-1では、4回のパルスを発光させている。
【0130】
同様にして、時刻hから時刻mまでの期間U-2では、VCSEL群#2に属するVCSEL21~VCSEL27を並行して3回のパルスとして発光させている。また、時刻mから時刻oまでの期間U-3では、VCSEL群#3に属するVCSEL31~VCSEL34を並行して3回のパルスとして発光させている。なお、期間U-3におけるパルス当たりの発光時間は、期間U-1、U-2に比べて長く設定されている。さらに、時刻oから時刻rまでの期間U-4では、VCSEL群#4に属するVCSEL41~VCSEL44を並行して5回のパルスとして発光させている。なお、期間U-4におけるパルス当たりの発光時間は、期間U-1、U-2に比べて短く設定されている。
【0131】
以上においては、期間Uにおいて、複数のパルスを発光するとしたが、単発であってもよい。また、期間Uにおいて、点灯信号φIを「H(0V)」に維持すれば、設定サイリスタSとVCSEL群との直列接続の両端は0Vのままとなる。よって、VCSEL群は、発光しない。つまり、予め定めた期間Uにおいて、VCSEL群を非発光に維持してもよい。
【0132】
時刻bにおいて、転送サイリスタT1のゲートGt1が0Vになり、配線75-1を介してゲートGs1を0Vにすることが、転送サイリスタT1からの発光指示である。他の場合も同様である。
【0133】
以上説明したように、駆動部11を用いることにより、隣接する転送サイリスタT間においてオン状態が順に伝搬することにより、VCSEL群の点灯制御、つまりVCSEL群に対して発光指示が行われる。このように、隣接する転送サイリスタT間においてオン状態が順に伝搬することを、自己走査と表記する。このような自己走査されるVCSELアレイ10のような発光素子アレイを自己走査型発光素子アレイ(SLED:Self-scanning Light Emitting Device)と呼ぶことがある。このようにすることで、発光素子アレイの制御が容易になる。
なお、自己走査によらず、発光指示部をVCSEL群毎に個別設けてもよい。VCSEL群に順に発光指示が行われればよい。
【0134】
また、VCSEL群に属する複数のVCSELを並行して発光させることで、発光点のサイズを大きくして光出力を大きくする場合に比べ、発光の均一性が損なわれたり、発光プロファイルがいびつになったり、拡がり角が大きくなるなどVCSELの発光特性が損なわれることが抑制される。
【0135】
(VCSEL群の配列)
図11は、第1の実施の形態が適用されるVCSELアレイ10におけるVCSEL群の配列について説明する図である。
図11では、VCSELアレイ10は、
図4、
図7に示したように、一例として8個のVCSEL群を備えるとして説明する。なお、
図11は、
図7において、アイランド302における転送サイリスタTのゲートGtとアイランド301における設定サイリスタSのゲートGsとの接続関係を取り出して図示している。
【0136】
図11に示すように、アイランド301-1~301-4及びアイランド301-5~301-8は、それぞれが-x方向に配列されている。そして、アイランド301-1~301-4の配列と、アイランド301-5~301-8の配列とは、-y方向に並列に配列されている。このようにすることで、ゲートGt1~Gt8とゲートGs1~Gs8とを接続する配線75(配線75-1~75-8)は、互いに交差したり、互いに近接したりすることなく設けられる。
【0137】
図11に示す配列では、転送サイリスタTのオン状態を順に-y方向に転送させていくと、VCSEL群は、-x方向に順に点灯が制御されていく。つまり、VCSEL群は、VCSEL群#1からVCSEL群#4まで-x方向に順に点灯が制御された(点灯が完了した)のち、VCSEL群#5からVCSEL群#8まで-x方向に順に点灯が制御される。つまり、点灯制御は、転送サイリスタTのオン状態が転送されていく方向(-y方向)と直交する方向(-x方向)に行われる。VCSEL群#1~#4が第1の発光素子群列の一例であり、VCSEL群#5~#8が第2の発光素子群列の一例である。
【0138】
図12は、比較のための第1の実施の形態が適用されないVCSELアレイ10′におけるVCSEL群の配列について説明する図である。
図12に示すVCSELアレイ10′でも、アイランド302における転送サイリスタTのゲートGtとアイランド301における設定サイリスタSのゲートGsとの接続関係を取り出して図示している。
【0139】
図12に示すように、アイランド301-1~301-2、アイランド301-3~301-4、アイランド301-5~301-6、及びアイランド301-7~301-8がそれぞれ-y方向に配列されている。そして、アイランド301-1~301-2の配列、アイランド301-3~301-4の配列、アイランド301-5~301-6の配列、及びアイランド301-7~301-8の配列が、-x方向に並列に配列されている。このようにすると、転送サイリスタTのオン状態を順に-y方向に転送させていくと、配列領域100において、VCSEL群も、-y方向に順に点灯が制御されていく。つまり、VCSEL群#1とVCSEL群#2とが-y方向に順に点灯が制御された(点灯が完了した)のち、VCSEL群#3とVCSEL群#4とが-y方向に順に点灯が制御される。VCSEL群#5~#8についても同様である。すなわち、点灯制御は、転送サイリスタTのオン状態が転送されていく方向(-y方向)と平行する方向(-y方向)に行われる。
【0140】
しかし、VCSELアレイ10′では、ゲートGt2とゲートGs2とを接続する配線75-2と、ゲートGt3とゲートGs3とを接続する配線75-3とが交差してしまう(αで示す箇所)。また、ゲートGt2とゲートGs2とを接続する配線75-2と、ゲートGt4とゲートGs4とを接続する配線75-4と、ゲートGt5とゲートGs5とを接続する配線75-5とが近接してしまう(βで示す箇所)。そして、ゲートGt5とゲートGs5とを接続する配線75-5と、ゲートGt6とゲートGs6とを接続する配線75-6とが近接してしまう(γで示す箇所)。さらに、ゲートGt7とゲートGs7とを接続する配線75-7と、ゲートGt8とゲートGs8とを接続する配線75-8とが近接してしまう(δで示す箇所)。
【0141】
図12に示す配列では、点灯制御は、転送サイリスタTのオン状態が転送されていく方向(-y方向)と平行する方向(-y方向)に行われるが、アイランド302における転送サイリスタTのゲートGtとアイランド301における設定サイリスタSのゲートGsとを接続する配線75が互いに交差したり、近接したりするため、配線75を設けにくい。
【0142】
以上説明したように、
図11に示した第1の実施の形態が適用されるVCSELアレイ10のように、VCSEL群の点灯制御を、転送サイリスタTのオン状態が転送されていく方向と直交する方向に行うようにすれば、アイランド302における転送サイリスタTのゲートGtとアイランド301における設定サイリスタSのゲートGsとを接続する配線75が交差や近接することなく設けられる。
【0143】
なお、
図11では、VCSEL群は、-x方向に点灯制御されたが、+x方向に点灯制御するようにVCSEL群及び配線75を配置してもよい。
【0144】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態が適用されるVCSELアレイ10では、VCSEL群の点灯制御が、転送サイリスタTのオン状態が転送されていく方向と直交する方向に行った。なお、VCSELアレイ10では、VCSEL群の点灯制御は、転送サイリスタTのオン状態が転送されていく方向と直交する一方方向に行われた。第2の実施の形態が適用されるVCSELアレイ20では、VCSEL群の点灯制御は、転送サイリスタTのオン状態が転送されていく方向と直交する方向において、交互に往復するように行われる。他の構成は第1の実施の形態と同様であるので説明を省略し、異なる部分であるVCSELアレイ20におけるVCSEL群の配列を説明する。なお、同じ機能を有する部材には、同じ符号を付している。
【0145】
(VCSEL群の配列)
図13は、第2の実施の形態が適用されるVCSELアレイ20におけるVCSEL群の配列について説明する図である。
図13では、VCSELアレイ20は、第1の実施の形態における
図4、
図7に示したように、8個のVCSEL群を備えるとして説明する。なお、
図13においても、アイランド302における転送サイリスタTのゲートGtとアイランド301における設定サイリスタSのゲートGsとの接続関係を取り出して図示している。
【0146】
図13に示すように、アイランド301-1~301-4は、-x方向に配列され、アイランド301-5~301-8は、+x方向に配列されている。そして、アイランド301-5~301-8は、
図11に示した第1の実施の形態におけるアイランド301-5~301-8を、y方向において反転させた平面構造である。このようにしても、ゲートGt1~Gt8とゲートGs1~Gs8とを接続する配線75(配線75-1~75-8)は、互いに交差したり、互いに近接したりすることなく設けられる。
【0147】
転送サイリスタTのオン状態を順に-y方向に転送させていくと、配列領域100において、VCSEL群#1~#4は、-x方向に順に点灯が制御されていく。次に、VCSEL群#5~#8は、+x方向に順に点灯が制御されていく。つまり、第2の実施の形態におけるVCSELアレイ20では、VCSEL群の点灯制御は、転送サイリスタTのオン状態が転送されていく方向と直交する方向において、交互(-x方向と+x方向と)に行われる。そして、アイランド302における転送サイリスタTのゲートGtとアイランド301における設定サイリスタSのゲートGsとを接続する配線が交差や近接することなく設けられる。
【0148】
第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、VCSELアレイ10、20は、基板80側の設定サイリスタS上にVCSELを積層した構造とした。VCSELアレイ10、20は、基板80側のVCSEL上に設定サイリスタSを積層した構造としてもよい。
【0149】
また、VCSELは、発光状態と非発光状態とで制御するとしたが、予め微小な光量の発光状態としておき、設定サイリスタSがオフ状態からオン状態に移行した際に、光量を増加させるように制御してもよい。また、順に点灯されるVCSEL群間において、発光状態が重複するように制御してもよい。
【0150】
第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、VCSEL群の点灯制御を、順にオン状態が転送される転送サイリスタTを備える駆動部11による自己走査で行った。このようにすることで、VCSEL群の点灯制御が容易になる。しかし、駆動部11は、VCSEL群を独立して点灯制御できればよい。また、VCSEL群は、順番に駆動されることを要しない。そして、駆動部11は、転送サイリスタTなどの代わりに、VCSEL群毎に設けられたトランジスタで構成されてもよい。
【符号の説明】
【0151】
1…情報処理装置、2…ユーザインターフェイス(UI)部、3…光学装置、4、4′…発光装置、5…三次元センサ(3Dセンサ)、6…計測装置、8…計測制御部、8A…三次元形状特定部、9…システム制御部、9A…認証処理部、10、10′、20…面発光レーザ素子アレイ(VCSELアレイ)、11…駆動部、12…発光部、30…拡散部材、40、41…照射領域、50…制御部、51…転送信号生成部、52…点灯信号生成部、53…電源電位生成部、54…基準電位生成部、60、60′…集光レンズ、71…電源線、72、73…転送信号線、74、75…配線、76…点灯信号線、100、100′、110、110′…配列領域、φ1、φ2…転送信号、D…結合ダイオード、S…設定サイリスタ、T…転送サイリスタ、VCSEL…垂直共振器面発光レーザ素子