(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】R-T-B系希土類焼結磁石およびR-T-B系希土類焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20240402BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240402BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240402BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20240402BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20240402BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
B22F3/00 F
C22C33/02 H
B22F9/04 E
B22F9/04 D
B22F9/04 C
H01F41/02 G
(21)【出願番号】P 2020051883
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】河村 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 信
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-017121(JP,A)
【文献】特開2017-157833(JP,A)
【文献】特開2017-183710(JP,A)
【文献】特開2019-169567(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129861(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
C22C 38/00
B22F 3/00
C22C 33/02
B22F 9/04
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rは希土類元素、Tは鉄族元素、Bはホウ素であるR-T-B系希土類焼結磁石であって、
RとしてNdおよびPrから選択される1種以上を含み、
MおよびCを含有し、
MはZrであり、
前記R-T-B系希土類焼結磁石は主相粒子および粒界を含み、前記粒界にM-C化合物、M-B化合物および6-13-1相が共存する共存組織が含まれ、
前記共存組織におけるM-B化合物とM-C化合物との合計面積割合が40%以上75%以下であり、6-13-1相の面積割合が25%以上60%以下であるR-T-B系希土類焼結磁石。
【請求項2】
R-T-B系希土類焼結磁石を100質量%として、
Nd,Pr,DyおよびTbの合計含有量が28.00質量%以上34.00質量%以下、
Coの含有量が0.05質量%以上3.00質量%以下、
Bの含有量が0.70質量%以上0.95質量%以下、
Cの含有量が0.07質量%以上0.25質量%以下、
Cuの含有量が0.10質量%以上0.50質量%以下、
Gaの含有量が0.20質量%以上1.00質量%以下、
Alの含有量が0.10質量%以上0.50質量%以下、
Mの合計含有量が0.20質量%以上2.00質量%以下、
重希土類元素の合計含有量が0.10質量%以下(0を含む)であり、
Feが実質的な残部である請求項1に記載のR-T-B系希土類焼結磁石。
【請求項3】
前記R-T-B系希土類焼結磁石の一つの断面における前記共存組織の面積割合が0.10%以上15.00%以下である請求項1または2に記載のR-T-B系希土類焼結磁石。
【請求項4】
前記共存組織におけるM-C化合物の面積割合が30%以上70%以下、前記共存組織におけるM-B化合物の面積割合が5%以上10%以下である請求項1~3のいずれかに記載のR-T-B系希土類焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-T-B系希土類焼結磁石およびR-T-B系希土類焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、M-B系化合物、M-B-Cu系化合物、M-C系化合物のうち少なくとも2種と、さらに、R酸化物とを合金組織中に細かく析出させたNd-Fe-B系希土類永久磁石が記載されており、異常粒成長の抑制、最適焼結温度幅の拡大、および良好な磁気特性を実現することを目的とする旨、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、BrおよびHk/Hcjを良好に維持しながらHcjを向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係るR-T-B系希土類焼結磁石は、
Rは希土類元素、Tは鉄族元素、Bはホウ素であるR-T-B系希土類焼結磁石であって、
RとしてNdおよびPrから選択される1種以上を含み、
MおよびCを含有し、
MはZr,TiおよびNbから選択される1種以上であり、
前記R-T-B系希土類焼結磁石は主相粒子および粒界を含み、前記粒界にM-C化合物、M-B化合物および6-13-1相が共存する共存組織が含まれる。
【0006】
本発明に係るR-T-B系希土類焼結磁石は、上記の構成を有することにより、BrおよびHk/Hcjを良好に維持しながらHcjを向上させることができる。
【0007】
R-T-B系希土類焼結磁石を100質量%として、
Nd,Pr,DyおよびTbの合計含有量が28.00質量%以上34.00質量%以下、
Coの含有量が0.05質量%以上3.00質量%以下、
Bの含有量が0.70質量%以上0.95質量%以下、
Cの含有量が0.07質量%以上0.25質量%以下、
Cuの含有量が0.10質量%以上0.50質量%以下、
Gaの含有量が0.20質量%以上1.00質量%以下、
Alの含有量が0.10質量%以上0.50質量%以下、
Mの合計含有量が0.20質量%以上2.00質量%以下、
重希土類元素の合計含有量が0.10質量%以下(0を含む)であってもよく、
Feが実質的な残部であってもよい。
【0008】
前記R-T-B系希土類焼結磁石の一つの断面における前記共存組織の面積割合が0.10%以上15.00%以下であってもよい。
【0009】
前記共存組織におけるM-B化合物とM-C化合物との合計面積割合が40%以上75%以下であり、6-13-1相の面積割合が25%以上60%以下であってもよい。
【0010】
前記共存組織におけるM-C化合物の面積割合が30%以上70%以下、M-B化合物の面積割合が5%以上10%以下であってもよい。
【0011】
本発明に係るR-T-B系希土類焼結磁石の製造方法は、
原料合金を粉砕して粒径が数μm程度の合金粉末を得る工程と、
前記合金粉末にMの単体を含む粉末を添加する工程と、を含み、
MはZr,TiおよびNbから選択される1種以上である。
【0012】
上記の方法で製造されたR-T-B系希土類焼結磁石は、上記の共存組織を含みやすい。そして、BrおよびHk/Hcjを良好に維持しながらHcjを向上させやすい。
【0013】
Mの合計添加量が前記合金粉末100質量部に対して0.50質量部以上1.40質量部以下であってもよい。
【0014】
前記原料合金におけるCの含有量が0.01質量%以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、実施形態に基づき説明する。
【0017】
<R-T-B系希土類焼結磁石>
本実施形態に係るR-T-B系希土類焼結磁石について説明する。
【0018】
Rは、希土類元素から選択される1種以上である。R-T-B系希土類焼結磁石の製造コストおよびR-T-B系希土類焼結磁石の磁気特性を好適に制御するため、Rとしてネオジム(Nd)およびプラセオジム(Pr)から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0019】
Tは、鉄族元素である。Tは、鉄(Fe)であってよく、Feとコバルト(Co)との組合せであってもよい。Bはホウ素である。R-T-B系希土類焼結磁石は、Mおよび炭素(C)を含有する。Mはジルコニウム(Zr),チタン(Ti)およびニオブ(Nb)から選択される1種以上である。M全体を100質量%としてZrを80質量%以上含むことが好ましく、Mが実質的にZrのみであることがさらに好ましい。なお、Mが実質的にZrのみであるとは、M全体を100質量%としてZrの含有割合が99質量%以上であることを指す。
【0020】
R-T-B系希土類焼結磁石における各元素の含有量には特に制限はない。NdおよびPrの合計含有量は、R-T-B系希土類焼結磁石全体を100質量%として、28.00質量%以上34.00質量%以下であってもよく、29.55質量%以上31.01質量%以下であってもよい。NdおよびPrの合計含有量を上記の範囲内とすることで、好適な磁気特性を得やすくなる。NdおよびPr以外の希土類元素は実質的に含まれなくてもよい。
【0021】
R-T-B系希土類焼結磁石におけるBの含有量は、0.70質量%以上0.95質量%以下であってもよく、0.82質量%以上0.94質量%以下であってもよい。Bの含有量を上記の範囲内とすることで、角形比Hk/Hcjおよび製造安定性を好適にしやすくなる。
【0022】
R-T-B系希土類焼結磁石におけるCoの含有量は0.05質量%以上3.00質量%以下であってもよく、0.50質量%以上2.50質量%以下であってもよく、1.00質量%以上2.00質量%以下であってもよい。Coの含有量を上記の範囲内とすることで、製造コストの上昇を抑制しつつ、耐食性を向上させやすくなる。
【0023】
R-T-B系希土類焼結磁石におけるMの合計含有量には特に制限はなく、例えば0.20質量%以上2.00質量%以下であってもよく、0.21質量%以上1.89質量%以下であってもよく、0.21質量%以上1.60質量%以下であってもよく、0.21質量%以上1.40質量%以下であってもよい。Mの合計含有量が少ないほど後述する共存組織の面積割合が小さくなり、本願発明の効果が得られにくくなる。Mの合計含有量が多いほど後述する共存組織の面積割合が大きくなり、BrおよびHk/Hcjが低下しやすくなる。
【0024】
R-T-B系希土類焼結磁石は銅(Cu)を含んでもよく、Cuを含まなくてもよい。Cuの含有量は0.10質量%以上0.50質量%以下であってもよく、0.19質量%以上0.30質量%以下であってもよい。Cuの含有量が少ないほど、R-T-B系希土類焼結磁石の耐食性が低下しやすくなる。Cuの含有量が多いほど、R-T-B系希土類焼結磁石のBrが低下しやすくなる。
【0025】
R-T-B系希土類焼結磁石はガリウム(Ga)を含んでもよく、Gaを含まなくてもよい。Gaの含有量は0.20質量%以上1.00質量%以下であってもよく、0.20質量%以上0.45質量%以下であってもよい。Gaの含有量が少ないほど、R-T-B系希土類焼結磁石の耐食性が低下しやすくなる。Gaの含有量が多いほど、R-T-B系希土類焼結磁石のBrが低下しやすくなる。
【0026】
R-T-B系希土類焼結磁石はアルミニウム(Al)を含んでもよく、Alを含まなくてもよい。Alの含有量は0.10質量%以上0.50質量%以下であってもよく、0.21質量%以上0.37質量%以下であってもよい。Alの含有量が少ないほど、R-T-B系永久磁石のHcjおよび耐食性が低下しやすくなる。Alの含有量が多いほど、R-T-B系永久磁石のBrが低下しやすくなる。
【0027】
R-T-B系希土類焼結磁石は、Cを含む。R-T-B系希土類焼結磁石におけるCの含有量は、0.07質量%以上0.25質量%以下であってもよく、0.09質量%以上0.23質量%以下であってもよい。Cの含有量が上記の範囲内であることにより、R-T-B系希土類焼結磁石の磁気特性が改善され、高いHk/Hcjが得やすくなる。Cの含有量が少ないほど高いHk/Hcjが得られにくくなる。特に焼結温度が低い場合に高いHk/Hcjが得られにくくなる。Cの含有量が多いほど、Hcjが低下しやすくなる。
【0028】
R-T-B系希土類焼結磁石合金におけるCの含有量は、例えば、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により測定される。
【0029】
R-T-B系希土類焼結磁石における重希土類元素の合計含有量は0.10質量%以下(0を含む)であってもよい。重希土類元素の含有量が多いほどHcjが上昇しやすくなるがBrが低下しやすくなる。本実施形態では、重希土類元素とはGd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luのことをいう。
【0030】
Feおよび不可避不純物の含有量は、R-T-B系希土類焼結磁石の構成要素における実質的な残部である。なお、不可避不純物の含有量が合計で0.5質量%以下(0を含む)であってもよい。
【0031】
以下、本実施形態に係るR-T-B系希土類焼結磁石1について、図面を用いて説明する。なお、
図1は断面図のSEM画像(組成像)であり、
図2は
図1に示す共存組織含有部100の一つを拡大した写真である。なお、
図1、
図2は後述する実施例5で観察されるSEM画像である。
【0032】
R-T-B系希土類焼結磁石1の一つの断面をSEMで観察すると、例えば
図1、
図2に示すように主相粒子3、および、粒界に存在する複数種の粒界相が見える。そして、複数種の粒界相は、それぞれ組成に応じた色の濃淡や結晶系に応じた形状を有する。
【0033】
EPMAを用いて各粒界相を点分析し組成を明らかにすることで、それらがどのような粒界相であるかを特定することができる。
【0034】
さらに各粒界相の結晶構造をTEMにより確認することで、各粒界相を明確に特定することができる。
【0035】
R-T-B系希土類焼結磁石1は、
図1、
図2のSEM画像に示すように、主相粒子3および主相粒子3の間に存在する粒界を含む。主相粒子3は、主にR
2T
14B相からなる。R
2T
14B相はR
2T
14B型の正方晶からなる結晶構造を有する相である。主相粒子3はSEM画像では黒色である。主相粒子3の大きさには特に制限はないが、円相当径が概ね1μm~10μmである。主相粒子3は後述するM-C化合物13およびM-B化合物15よりも明らかに大きい。
【0036】
粒界は、粒界三重点や二粒子粒界を含む。粒界三重点とは3つ以上の主相粒子に囲まれた粒界であり、二粒子粒界とは隣り合う2つの主相粒子の間に存在する粒界である。
【0037】
粒界は、少なくともM-C化合物13、M-B化合物15、および6-13-1相17を含む。
【0038】
M-C化合物13は、MおよびCからなる化合物であり、主にMC化合物である。M-C化合物13は面心立方構造(NaCl構造)を有する。粒界にM-C化合物13を含むことにより、異常粒成長を抑制できる。SEM画像ではM-C化合物13は黒色であり、かつ、粒状の形状を有する。略正方形に見えることが多い。また、M-C化合物13は円相当径が0.1~1μmである。
【0039】
M-B化合物15はMおよびBからなる化合物であり、主にMB2化合物である。M-B化合物15はAlB2系の六方晶の結晶構造を有する。SEM画像ではM-B化合物15は黒色であり、かつ、針状の形状となる。細長い略長方形に見えることが多い。粒界にM-B化合物15を含むことにより、異常粒成長を抑制できる。また、M-B化合物15は長辺の長さが0.3~3.5μmである。
【0040】
6-13-1相17には、La6Co11Ga3型の結晶構造を有する化合物であるR6T13M´化合物が含まれる。ここで、M´の種類には特に制限はない。例えば、Ga,Al,Cu,Zn,In,P,Sb,Si,Ge,Sn,Bi等が挙げられる。また、6-13-1相17には、M´としてGaを含むR6T13Ga化合物が含まれてもよい。SEM画像では6-13-1相17は灰色となる。
【0041】
R-T-B系希土類焼結磁石1は、粒界にM-C化合物13、M-B化合物15および6-13-1相17が共存する共存組織を含む。R-T-B系希土類焼結磁石1は、共存組織を含むことにより、粒界の生成量が増加し、Hcjが向上する。
図1、
図2には、共存組織を含む共存組織含有部100を示す。
【0042】
共存組織内の全てのM-C化合物13は、その外周の50%以上が同一共存組織内の自分以外のM-C化合物13、M-B化合物15および/または6-13-1相17に覆われている。全てのM-B化合物15は、その外周の50%以上が同一共存組織内のM-C化合物13、自分以外のM-B化合物15および/または6-13-1相17に覆われている。
【0043】
M-C化合物13と、当該M-C化合物13を覆う自分以外のM-C化合物13、M-B化合物15および/または6-13-1相17と、が接している必要はない。例えば、M-C化合物13と、当該M-C化合物13を覆う自分以外のM-C化合物13、M-B化合物15および/または6-13-1相17と、の間に粒界中のその他の部分が幅1000nm以下で存在していてもよい。
【0044】
全ての共存組織の面積は、それぞれ200μm2以下である。共存組織の面積は、SEM画像におけるコントラストの違いから画像解析により算出される。
【0045】
R-T-B系希土類焼結磁石1の断面における共存組織の面積割合は0.10%以上15.00%以下であってもよく、0.25%以上10.13%以下であってもよい。共存組織の面積割合が大きいほどHcjを向上させやすくなる。共存組織の面積割合が10.13%より大きい場合には、共存組織の面積割合が大きいほどHcjが逆に低下しやすくなり、BrおよびHk/Hcjも低下しやすくなる。
【0046】
前記共存組織におけるM-B化合物15とM-C化合物13との合計面積割合が40%以上75%以下であってもよく、6-13-1相17の面積割合が25%以上60%以下であってもよい。M-C化合物13の面積割合が30%以上70%以下であってもよく、M-B化合物15の面積割合が5%以上10%以下であってもよい。共存組織における各化合物および6-13-1相の面積割合が上記の範囲内であることでHcjを向上させやすくなる。
【0047】
共存組織の面積割合および共存組織におけるM-B化合物、M-C化合物および6-13-1相の面積割合を算出するためには、100μm×100μmの範囲を倍率1500倍で観察して得られた画像を少なくとも3枚、解析して算出する。
【0048】
粒界11は上記のM-B化合物15、M-C化合物13、6-13-1相17以外の部分を含んでいてもよい。例えば、
図1、
図2に示すように、Rの含有割合が40at%以上であるRリッチ相19を含んでいてもよい。Rリッチ相19はSEM画像では6-13-1相17よりも白く見える。
【0049】
<R-T-B系希土類焼結磁石の製造方法>
以下、本実施形態に係るR-T-B系希土類焼結磁石を製造する方法の一例について説明する。R-T-B系希土類焼結磁石(R-T-B系焼結磁石)を製造する方法は、以下の工程を有する。
【0050】
(a)R-T-B系永久磁石用合金(原料合金)を作製する合金準備工程
(b)原料合金を粉砕する粉砕工程
(c)得られた合金粉末にM粉末を添加・混合する工程
(d)得られた合金粉末を成形する成形工程
(e)成形体を焼結し、R-T-B系永久磁石を得る焼結工程
(f)R-T-B系永久磁石を時効処理する時効処理工程
(g)R-T-B系永久磁石を冷却する冷却工程
(h)R-T-B系永久磁石を加工する加工工程
(i)R-T-B系永久磁石の粒界に重希土類元素を拡散させる粒界拡散工程
(j)R-T-B系永久磁石に表面処理する表面処理工程
【0051】
[合金準備工程]
R-T-B系希土類焼結磁石用合金を準備する(合金準備工程)。以下、合金準備方法の一例としてストリップキャスティング法について説明するが、合金準備方法はストリップキャスティング法に限定されない。
【0052】
R-T-B系希土類焼結磁石の組成に対応する原料金属を準備し、真空またはArガスなどの不活性ガス雰囲気中で準備した原料金属を溶解する。その後、溶解した原料金属を鋳造することによってR-T-B系希土類焼結磁石の原料となる原料合金を作製する。なお、本実施形態では、1合金法について説明するが、第1合金と第2合金との2合金を混合して原料粉末を作製する2合金法でもよい。
【0053】
原料金属の種類には特に制限はない。例えば、希土類金属あるいは希土類合金、純鉄、純コバルト、フェロボロン、さらにはこれらの合金や化合物等を使用することができる。原料金属を鋳造する鋳造方法には特に制限はない。例えばインゴット鋳造法やストリップキャスト法やブックモールド法や遠心鋳造法などが挙げられる。得られた原料合金は、凝固偏析がある場合は必要に応じて均質化処理(溶体化処理)を行ってもよい。また、原料合金におけるCの含有量が0.01質量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.1質量%以上である。原料合金におけるCの含有量には特に上限はない。例えば0.2質量%以下である。
【0054】
[粉砕工程]
原料合金を作製した後、原料合金を粉砕する(粉砕工程)。粉砕工程は、粒径が数百μm~数mm程度になるまで粉砕する粗粉砕工程と、粒径が数μm程度になるまで微粉砕する微粉砕工程との2段階で行ってもよいが、微粉砕工程のみの1段階で行ってもよい。
【0055】
(粗粉砕工程)
原料合金を粒径が数百μm~数mm程度になるまで粗粉砕する(粗粉砕工程)。これにより、原料合金の粗粉砕粉末を得る。粗粉砕は、例えば原料合金に水素を吸蔵させた後、異なる相間の水素吸蔵量の相違に基づいて水素を放出させ、脱水素を行なうことで自己崩壊的な粉砕を生じさせること(水素吸蔵粉砕)によって行うことができる。脱水素の条件には特に制限はないが、例えば300~650℃、アルゴンフロー中または真空中で脱水素を行う。
【0056】
粗粉砕の方法は、上記の水素吸蔵粉砕に限定されない。例えば、不活性ガス雰囲気中にて、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等の粗粉砕機を用いて粗粉砕を行ってもよい
【0057】
高い磁気特性を有するR-T-B系希土類焼結磁石を得るために、粗粉砕工程から後述する焼結工程までの各工程の雰囲気は、低酸素濃度の雰囲気とすることが好ましい。酸素濃度は、各製造工程における雰囲気の制御等により調節される。各製造工程の酸素濃度が高いと原料合金を粉砕して得られる合金粉末中の希土類元素が酸化してR酸化物が生成されてしまう。R酸化物は、焼結中に還元されず、R酸化物の形でそのまま粒界に析出する。その結果、得られるR-T-B系希土類焼結磁石のBrが低下する。そのため、例えば、各工程(微粉砕工程、成形工程)は酸素濃度を100ppm以下の雰囲気で実施することが好ましい。
【0058】
(微粉砕工程)
原料合金を粗粉砕した後、得られた原料合金の粗粉砕粉末を平均粒子径が数μm程度になるまで微粉砕する(微粉砕工程)。これにより、原料合金の微粉砕粉末を得ることができる。微粉砕粉末に含まれる粒子のD50には特に制限はない。例えば、D50が2.0μm以上4.5μm以下であってもよく、2.5μm以上3.5μm以下であってもよい。D50が小さいほどR-T-B系希土類焼結磁石のHcjが向上しやすくなる。しかし、焼結工程で異常粒成長が発生しやすくなり、焼結温度幅の上限が低くなる。D50が大きいほど焼結工程で異常粒成長が発生しにくくなり、焼結温度幅の上限が高くなる。しかし、R-T-B系希土類焼結磁石のHcjが低下しやすくなる。
【0059】
微粉砕は、粉砕時間等の条件を適宜調整しながら、例えばジェットミル、ボールミル、振動ミル、湿式アトライター等の微粉砕機を用いて粗粉砕した粉末の更なる粉砕を行なうことで実施される。以下、ジェットミルについて説明する。ジェットミルは、高圧の不活性ガス(たとえば、Heガス、N2ガス、Arガス)を狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により原料合金の粗粉砕粉末を加速して原料合金の粗粉砕粉末同士の衝突やターゲットまたは容器壁との衝突を発生させて粉砕する微粉砕機である。
【0060】
原料合金の粗粉砕粉末を微粉砕する際には粉砕助剤を添加してもよい。粉砕助剤の種類には特に制限はない。例えば、有機物潤滑剤や固体潤滑剤を用いてもよい。有機物潤滑剤としては、例えばオレイン酸アミド、ラウリン酸アミド、ステアリン酸亜鉛などが挙げられる。固体潤滑剤としては、例えばグラファイトなどが挙げられる。粉砕助剤を添加することで、成形工程において磁場を印加した際に配向が生じやすい微粉砕粉末を得ることができる。有機物潤滑剤および固体潤滑剤は、いずれか一方のみを使用してもよいが、両方を混合して使用してもよい。特に固体潤滑剤のみを使用する場合には、配向度が低下する場合があるためである。
【0061】
微粉砕工程により得られた微粉砕粉末にM粉末を添加する。添加するM粉末は個数割合で99%以上の粒子の粒子径が1.0μm以上45μm以下であることが好ましい。微粉砕粉末にM粉末を添加したのちに、ミキサーにて混合することが好ましいが、微粉砕粉末とM粉末との混合方法は特定の方法に限定されない。
【0062】
M粉末とはZr,Ti、Nbを質量基準で合計80%以上含む粉末である。M以外の元素を20%以下の範囲で含んでもよい。M以外の元素としては、例えば、R,Fe,Ga,Cu,Co,Al,Zn,In,P,Sb,Si,Ge,Sn,Bi等が挙げられる。また、Mの酸化物を含む粉末をM粉末として用いてもよい。
【0063】
[成形工程]
微粉砕粉末を目的の形状に成形する(成形工程)。成形工程では、微粉砕粉末を、磁場中に配置された金型内に充填して加圧することによって、微粉砕粉末を成形し、成形体を得る。このとき、磁場を印加しながら成形することで、微粉砕粉末の結晶軸を特定の方向に配向させた状態で成形することができる。得られる成形体は、特定方向に配向するので、より磁性の強い異方性を有するR-T-B系希土類焼結磁石が得られる。成形時に、成形助剤を添加してもよい。成形助剤の種類には特に制限はない。粉砕助剤と同一の潤滑剤を用いてもよい。また、粉砕助剤が成形助剤を兼ねてもよい。
【0064】
加圧時の圧力は、例えば30MPa以上300MPa以下としてもよい。印加する磁場は、例えば1000kA/m以上1600kA/m以下としてもよい。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場とを併用することもできる。
【0065】
なお、成形方法としては、上記のように微粉砕粉末をそのまま成形する乾式成形のほか、微粉砕粉末を油等の溶媒に分散させたスラリーを成形する湿式成形を適用することもできる。
【0066】
微粉砕粉末を成形して得られる成形体の形状は特に限定されるものではなく、例えば直方体、平板状、柱状、リング状、C型等、所望とするR-T-B系希土類焼結磁石の形状に応じた形状とすることができる。
【0067】
[焼結工程]
得られた成形体を真空または不活性ガス雰囲気中で焼結し、R-T-B系希土類焼結磁石を得る(焼結工程)。焼結時の保持温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要がある。保持温度は、異常粒成長が生じず、かつ、Hk/Hcjが十分に高くなる温度とする。保持温度には特に制限はないが、例えば、1000℃以上1150℃以下としてもよく、1050℃以上1130℃以下としてもよい。保持時間には特に制限はないが、例えば2時間以上10時間以下としてもよく、2時間以上8時間以下としてもよい。保持時間が短いほど生産効率が向上する。保持時の雰囲気には特に制限はない。例えば、不活性ガス雰囲気としてもよく、100Pa未満の真空雰囲気としてもよく、10Pa未満の真空雰囲気としてもよい。保持温度までの加熱速度には特に制限はない。焼結により、微粉砕粉末が液相焼結を生じ、R-T-B系希土類焼結磁石(R-T-B系磁石の焼結体)が得られる。成形体を焼結して焼結体を得た後の冷却速度には特に制限はないが、生産効率を向上させるために焼結体を急冷してもよい。30℃/分以上の速度で急冷してもよい。
【0068】
[時効処理工程]
成形体を焼結した後、R-T-B系希土類焼結磁石を時効処理する(時効処理工程)。焼結後、得られたR-T-B系希土類焼結磁石を焼結時よりも低い温度で保持することなどによって、R-T-B系希土類焼結磁石に時効処理を施す。以下、時効処理を第1時効処理と第2時効処理との2段階に分ける場合について説明するが、いずれか一つの時効処理のみを行ってもよく、3段階以上の時効処理を行ってもよい。
【0069】
各時効処理における保持温度および保持時間には特に制限はない。例えば、第1時効処理は、800℃以上900℃以下の保持温度で30分以上4時間以下、行ってもよい。保持温度までの昇温速度は5℃/分以上50℃/分以下としてもよい。第1時効処理時の雰囲気は大気圧以上の圧力の不活性ガス雰囲気(例えば、Heガス、Arガス)としてもよい。第2時効処理は、保持温度を450℃以上550℃以下としてもよい点以外は第1時効処理と同条件で実施してもよい。時効処理によって、R-T-B系希土類焼結磁石の磁気特性を向上させることができる。また、時効処理工程は後述する加工工程の後に行ってもよい。
【0070】
[冷却工程]
R-T-B系希土類焼結磁石に時効処理(第1時効処理または第2時効処理)を施した後、R-T-B系希土類焼結磁石は不活性ガス雰囲気中で急冷を行う(冷却工程)。これにより、R-T-B系希土類焼結磁石を得ることができる。冷却速度は、特に限定されるものではない。30℃/分以上としてもよい。
【0071】
[加工工程]
得られたR-T-B系希土類焼結磁石は、必要に応じて所望の形状に加工してもよい(加工工程)。加工方法は、例えば切断、研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などが挙げられる。
【0072】
[粒界拡散工程]
加工されたR-T-B系希土類焼結磁石の粒界に対して、さらに重希土類元素を拡散させてもよい(粒界拡散工程)。粒界拡散の方法には特に制限はない。例えば、塗布または蒸着等により重希土類元素を含む化合物をR-T-B系希土類焼結磁石の表面に付着させた後に熱処理を行うことで実施してもよい。また、重希土類元素の蒸気を含む雰囲気中でR-T-B系希土類焼結磁石に対して熱処理を行うことで実施してもよい。粒界拡散により、R-T-B系希土類焼結磁石のHcjをさらに向上させることができる。
【0073】
[表面処理工程]
以上の工程により得られたR-T-B系希土類焼結磁石は、めっきや樹脂被膜や酸化処理、化成処理などの表面処理を施してもよい(表面処理工程)。これにより、耐食性をさらに向上させることができる。
【0074】
なお、本実施形態では、加工工程、粒界拡散工程、表面処理工程を行っているが、これらの工程は必ずしも行う必要はない。
【0075】
以上のようにして得られるR-T-B系希土類焼結磁石は、特にHcjが良好であり、さらにBrおよびHk/Hcjも高いR-T-B系希土類焼結磁石となる。
【0076】
微粉砕粉末にM粉末を添加させることで、最終的に得られるR-T-B系希土類焼結磁石が上記の共存組織を含むようになる。共存組織を含むようになるメカニズムは不明だが、微粉砕粉末にM粉末を添加させることで、Mは成形体の粒界に含まれることになる。粒界には微粉砕粉末に付着している粉砕助剤も含まれる。その結果、焼結時において、粒界に含まれるMに対して、粉砕助剤に含まれるC、および、主相粒子に含まれるBが優先的に反応すると考えられる。この反応により、M-C化合物、M-B化合物および6-13-1相が共存する共存組織が生成すると考えられる。
【0077】
M粉末を添加しない場合、粉砕助剤に含まれるCは、粒界(主に粒界三重点)において、主相粒子に含まれるR等の元素とR-O-C-N化合物等を形成してしまう。R-O-C-N化合物等は、Hcjを低下させる。本実施形態に係るR-T-B系希土類焼結磁石は、粉砕助剤に含まれるCがR等と反応する代わりに上記の共存組織が生成するため、粉砕助剤に含まれるCがR等と反応しにくくなり、R-O-C-N化合物等のHcjを低下させる化合物を形成しにくくなる。そして、粉砕助剤に含まれるCがMとM-C化合物を形成することで余ったRがRリッチ相を形成する。Rリッチ相は二粒子粒界にも形成されるために二粒子粒界が厚くなり、Hcjが向上しやすくなる。
【0078】
また、主相粒子を形成するBの一部がMと反応してM-B化合物を形成することで、主相粒子が一部、分解する。その結果、主相粒子に含まれていたRが粒界に生成する。そして、Rリッチ相が増加し、二粒子粒界が厚くなり、Hcjが向上する。
【0079】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
(合金準備工程)
原料合金として表1に示す組成の合金1、合金2を準備した。なお、T.REは、Nd,Pr,DyおよびTbの合計含有量を意味する。各合金組成におけるDyおよびTbの合計含有量は0.01質量%未満である。
【0082】
まず、所定の元素を有する原料金属を準備した。原料金属としては、表1に記載した元素の単体または表1に記載した元素を含む合金等の化合物を適宜選択して準備した。
【0083】
次に、これらの原料金属を、表1に示す組成の合金が得られるように秤量し、ストリップキャスティング法により原料合金を準備した。なお、炭素の含有量は原料金属に用いる銑鉄の割合を変化させることで制御した。そして、実験例ごとに表2に示す原料合金を選択した。
【0084】
(粉砕工程)
合金準備工程により得られた原料合金を粉砕し、合金粉末を得た。粗粉砕と微粉砕との2段階で粉砕を行った。粗粉砕は、水素吸蔵粉砕により行った。原料合金に対して水素を600℃で吸蔵させた後、アルゴンフロー中または真空中、600℃で3時間、脱水素を行った。粗粉砕により、数百μm~数mm程度の粒径の合金粉末を得た。
【0085】
微粉砕は、粗粉砕で得られた合金粉末100質量部に対して粉砕助剤としてステアリン酸亜鉛を0.10質量部、添加し、混合した後にジェットミルを用いて行った。ジェットミルでは窒素ガスを用いた。微粉砕は、実施例1~4および比較例1では合金粉末のD50が3.0μm程度となるまで行い、実施例5および比較例2は合金粉末のD50が4.0μm程度となるまで行った。
【0086】
次に、各実験例において微粉砕粉末を120gずつ準備し、微粉砕粉末にZr粉末を添加した。微粉砕粉末100質量部に対するZr粉末の添加量を表2に示す。比較例1、比較例2ではZr粉末を添加しなかった。また、添加したZr粉末は個数割合で少なくとも99%の粉末粒子が粒子径1.0μm以上35μm未満であった。また、微粉砕粉末にZr粉末を添加したのちに、ミキサーにて混合し、混合粉末を得た。
【0087】
(成形工程)
粉砕工程により得られた混合粉末を磁場中で成形して成形体を得た。混合粉末を電磁石の間に配置された金型内に充填した後に、電磁石により磁場を印加しながら加圧して成形した。具体的には、混合粉末を20g秤量し、3Tの磁場中、40kNの圧力で圧粉成形した。
【0088】
(焼結工程)
得られた成形体を焼結して焼結体を得た。焼結時の保持温度を各実施例および各比較例について1070℃として焼結体を得た。保持温度まで昇温させるときの昇温速度は8.0℃/分、保持時間は4.0時間、保持温度から室温まで冷却させるときの冷却速度は50℃/分とした。焼結時の雰囲気は真空雰囲気または不活性ガス雰囲気化とした。
【0089】
(時効工程)
得られた焼結体に時効処理を行いR-T-B系希土類焼結磁石を得た。第1時効処理と第2時効処理との2段階で時効処理を行った。
【0090】
第1時効処理では、保持温度まで昇温させるときの昇温速度は8.0℃/分、保持温度は900℃、保持時間は1.0時間、保持温度から室温まで冷却させるときの冷却速度は50℃/分とした。第1時効処理時の雰囲気はAr雰囲気とした。
【0091】
第2時効処理では、保持温度まで昇温させるときの昇温速度は8.0℃/分、保持温度は500℃、保持時間は1.5時間、保持温度から室温まで冷却させるときの冷却速度は50℃/分とした。第2時効処理時の雰囲気はAr雰囲気とした。
【0092】
(評価)
各実施例および比較例において最終的に得られたR-T-B系希土類焼結磁石の組成が表2に示す組成となっていることは、蛍光X線分析法、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP法)、およびガス分析により組成分析することで確認した。特に炭素の含有量は、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により測定した。
【0093】
各実施例および比較例の原料合金から作成されたR-T-B系希土類焼結磁石の磁気特性をB-Hトレーサーを用いて測定した。磁気特性として、Br、HcjおよびHk/Hcjを室温で測定した。本実施例でのHkは、磁化がBr×0.9であるときの磁界の値である。結果を表2に示す。
【0094】
本実施例のR-T-B系希土類焼結磁石では、原料合金として合金1を用いた場合と合金2を用いた場合とで組成が異なり、特にBの含有量が大きく異なる。このため、合金1を用いた場合と合金2を用いた場合とで同一の基準で磁気特性を評価できない。
【0095】
合金1を用いた場合については、Brが1300mT以上である場合を良好とし、1350mT以上である場合をさらに良好とした。Hcjが1600kA/m以上である場合を良好とし、1700kA/m以上である場合をさらに良好とした。Hk/Hcjが85.00%以上である場合を良好とし、95.00%以上である場合をさらに良好とした。
【0096】
合金2を用いた場合については、Brが1440mT以上である場合を良好とした。Hcjが1250kA/m以上である場合を良好とした。Hk/Hcjが95.00%以上である場合を良好とした。
【0097】
共存組織の面積割合については、各実験例のR-T-B系希土類焼結磁石についてSEMを用いて断面を倍率1500倍で観察した。観察範囲の大きさは100μm×100μmとした。この観察をそれぞれ異なる箇所で3回行い、得られた3枚のSEM画像を画像解析することで共存組織の有無を確認し、共存組織の面積割合を算出した。結果を表2に示す。なお、
図1、
図2は実施例5のSEM画像の一つである。
【0098】
実施例1~3において、観察された共存組織のうち一つをピックアップして各相の面積割合を確認した。結果を表3に示す。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
表2より、Zrの添加量を変化させた点以外は同条件で実施した実施例1~4および比較例1では、Zrを添加しなかった比較例1以外のR-T-B系希土類焼結磁石は共存組織を有していた。実施例1~4のR-T-B系希土類焼結磁石は比較例1のR-T-B系希土類焼結磁石と比較して良好なBrおよびHk/Hcjを維持しつつ、高いHcjを有していた。
【0103】
共存組織の面積割合が0.25%以上10.13%以下である実施例1~3は共存組織の面積割合が12.11%である実施例4と比較してBrおよびHk/Hcjが良好であった。
【0104】
Zrの添加量を変化させた点以外は同条件で実施した実施例5および比較例2では、Zrを添加しなかった比較例2のR-T-B系希土類焼結磁石は共存組織を有さず、Zrを添加した実施例5のR-T-B系希土類焼結磁石は共存組織を有していた。実施例5のR-T-B系希土類焼結磁石は比較例2のR-T-B系希土類焼結磁石と比較して、良好なBrおよびHk/Hcjを維持しつつ、高いHcjを有していた。
【0105】
表3より、実施例1~3のR-T-B系希土類焼結磁石に含まれる共存組織におけるZr-B化合物とZr-C化合物との合計面積割合が40%以上75%以下、Zr-C化合物の面積割合が30%以上70%以下、Zr-B化合物の面積割合が5%以上10%以下、6-13-1相の面積割合が25%以上60%以下であることが確認できた。実施例4のR-T-B系希土類焼結磁石に含まれる共存組織でも同様であることを確認できた。
【0106】
実施例5においては、共存組織におけるZr-B化合物とZr-C化合物との合計面積割合が40%以上75%以下、Zr-C化合物の面積割合が5%以上15%以下、Zr-B化合物の面積割合が25%以上70%以下、6-13-1相の面積割合が25%以上60%以下であることが確認できた。Zr-B化合物の面積割合が実施例1~4よりも多いのは、実施例5におけるBの含有量が実施例1~4におけるBの含有量よりも多いためである。
【符号の説明】
【0107】
1・・・R-T-B系希土類焼結磁石
3・・・主相粒子
13・・・M-C化合物
15・・・M-B化合物
17・・・6-13-1相
19・・・Rリッチ相
100・・・共存組織含有部