(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】切削インサート
(51)【国際特許分類】
B23B 27/10 20060101AFI20240402BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B23B27/10
B23B27/14 C
(21)【出願番号】P 2020053643
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】白瀬 文一
(72)【発明者】
【氏名】ホアンティー スーン
(72)【発明者】
【氏名】河田 与志則
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第01/064376(JP,A1)
【文献】特開2018-027605(JP,A)
【文献】特開2019-077002(JP,A)
【文献】特開平04-183503(JP,A)
【文献】特開平05-301104(JP,A)
【文献】特開2013-049106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00 - 27/24
B23B 51/00
B23Q 11/10
B23C 5/16 - 5/24
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
すくい面と逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたインサート本体内にクーラント孔が形成されたクーラント孔付き切削インサートであって、
上記クーラント孔の両端部は、上記インサート本体の表面の互いに異なる位置に開口しており、
上記クーラント孔は、上記インサート本体内で湾曲するように曲線状に延びて
おり、
上記クーラント孔の一方の端部は、上記すくい面に開口しており、
このすくい面への開口部の近傍において上記クーラント孔は、上記すくい面に対して第1の傾斜角で交差する方向に延びる第1の部分と、
この第1の部分に曲折して接続され、上記すくい面に対して上記第1の傾斜角よりも小さい第2の傾斜角で交差する方向に延びる第2の部分とを有している
ことを特徴とするクーラント孔付き切削インサート。
【請求項2】
上記インサート本体は四角形板状に形成されていて、このインサート本体の2つの四角形面が第1の上記すくい面および第2の上記すくい面とされるとともに、これらのすくい面の周囲に配置される側面が上記逃げ面とされ、
上記インサート本体の第1の角部と、この第1の角部とは反対側の第2の角部とには、上記第1のすくい面と第2のすくい面とに、それぞれ上記切刃のうちのコーナ刃が形成されており、
上記インサート本体は2つの上記クーラント孔を有し、
第1の上記クーラント孔は、上記第1のすくい面における上記第1の角部の内側と、上記第2のすくい面における上記第2の角部の内側に開口し、
第2の上記クーラント孔は、上記第1のすくい面における上記第2の角部の内側と、上記第2のすくい面における上記第1の角部の内側に開口していることを特徴とする請求項
1に記載のクーラント孔付き切削インサート。
【請求項3】
上記インサート本体には、該インサート本体を貫通して上記すくい面の中央部に開口する取付孔が形成されており、
上記2つのクーラント孔は、上記取付孔の外周側を、この取付孔の中心線であるインサート中心線回りに互いに反対側を1/2周するようにそれぞれ延びていることを特徴とする請求項
2に記載のクーラント孔付き切削インサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すくい面と逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたインサート本体内にクーラント孔が形成されたクーラント孔付き切削インサートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の切削装置の高性能化はめざましく、その一方で切削加工に対する省力化、省エネルギー化、さらに低コスト化の要求は強くなってきており、これに伴って高速での切削加工が行われる傾向にある。また、構造物の軽量化や薄肉化のために構造材材質の高強度化を図るために構造材材質が難削化しており、切削インサートによる切削の場合には、切刃の加工点の温度が高温化することになる。従って、従来のような外部からのクーラントの供給では効率的に切刃を冷却することができなくなり、十分な工具寿命が得られないという問題があった。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には、第1の上面と、第1の下面と、前記第1の上面と前記第1の下面とを接続する第1の側面と、を備えるベースインサートと、第2の上面と、第2の下面と、前記第2の上面と前記第2の下面とを接続する第2の側面と、を備える切削チップとを備えるクーラント孔付き切削インサートが記載されている。
【0004】
この特許文献1に記載されたクーラント孔付き切削インサートでは、第1の側面は、第2の側面と対向する第1の装着面と、第1の上面、第1の下面および第1の装着面と接続する第1の周側面とを備え、第2の側面は、第1の装着面と対向する第2の装着面と、第2の上面、第2の下面および第2の装着面と接続し、少なくとも第2の上面と接続する稜線に第1の切れ刃が形成される第2の周側面とを備えている。
【0005】
そして、特許文献1に記載されたクーラント孔付き切削インサートにおいては、第1の装着面は、第2の装着面と固着する第1の固着面と、第2の装着面と離間して対向する第1の流路面とを備え、第1の流路面と、第2の装着面のうち、第1の流路面に対向する第2の流路面とによって、第2の上面および第2の下面に連通し、切削チップを冷却するクーラントが流通するための流路(クーラント孔)を構成している。
【0006】
また、特許文献2にも、すくい面と、すくい面に連なる逃げ面と、すくい面と逃げ面との稜線により構成される切れ刃とを備える切削インサートであって、切削インサートは、第1面と、第1面に連なる第2面とを有し、切削インサートは、角にノーズ部を有し、ノーズ部に位置する第1面は、すくい面を構成し、第2面は、ノーズ部に位置して逃げ面を構成する第1部分と、第1部分に連なる第2部分とを含み、切削インサートの内部には、クーラント溜まりと、クーラント流路(クーラント孔)とが設けられたクーラント孔付き切削インサートが記載されている。
【0007】
そして、この特許文献2に記載されたクーラント孔付き切削インサートにおいて、クーラント流路は、クーラント溜まりに接続する第1端と、第2部分に接続する第2端とを有し、第1端は、第2端よりもノーズ部から離れた位置にあり、かつ第2端よりも第1面から離れた位置にあり、第1面に平行な断面におけるクーラント溜まりの断面積は、第1面に平行な断面におけるクーラント流路の断面積よりも大きく、クーラント溜まりの内壁面のうち、第2面に対向する部分は、第2面と平行とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-077002号公報
【文献】特開2019-018294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような特許文献1、2に記載されたクーラント孔付き切削インサートでは、インサート本体内にクーラント孔が形成されているので、インサート本体の外部からクーラントを供給するのに比べては、インサート本体を内部から冷却する効果を多少は望むことができる。
【0010】
しかしながら、これ特許文献1、2に記載されたクーラント孔付き切削インサートにおいては、クーラント孔が、四角形板状のインサート本体の表裏の四角形面の同じ側の角部の内側同士を結ぶように、または裏面の角部の内側と表面側の角部に隣接する側面とを結ぶように、直線を折り曲げた折れ線状や直線状に延びているので、クーラント孔の長さが限定されてしまう。
【0011】
このため、特許文献1、2に記載されたクーラント孔付き切削インサートでは、インサート本体の全体を効率的に冷却することは困難であり、切り込み量が大きくなった場合には、角部に形成されたコーナ刃から離れた部分の切刃において損傷が生じるおそれがあって、依然として十分な工具寿命を得ることが困難となる。
【0012】
本発明は、このような背景の下になされたもので、高速での切削加工が要求される場合や、構造材材質の高強度化に伴って難削化した場合でも、インサート本体の全体を効率的に冷却することにより長寿命化を図ることが可能なクーラント孔付き切削インサートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、すくい面と逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたインサート本体内にクーラント孔が形成されたクーラント孔付き切削インサートであって、上記クーラント孔の両端部は、上記インサート本体の表面の互いに異なる位置に開口しており、上記クーラント孔は、上記インサート本体内で湾曲するように曲線状に延びていることを特徴とする。
【0014】
このように構成されたクーラント孔付き切削インサートにおいては、クーラント孔がインサート本体内で湾曲するように曲線状に延びているので、特許文献1、2に記載されたクーラント孔付き切削インサートのようにクーラント孔が直線状や直線を折り曲げた折れ線状に延びているのに比べ、クーラント孔の長さを長くすることができる。
【0015】
このため、クーラント孔を、切刃のうちのコーナ刃の近傍だけでなく、コーナ刃から離れた部分にも延長することができ、インサート本体の全体を効率的に冷却して、切り込み量が大きくなった場合でも切削熱による損傷を防ぐことにより、インサート寿命の長寿命化を図ることが可能となる。
【0016】
ここで、クーラント孔の一方の端部が、上記すくい面に開口している場合には、このすくい面への開口部の近傍において上記クーラント孔は、上記すくい面に対して第1の傾斜角で交差する方向に延びる第1の部分と、この第1の部分に曲折して接続され、上記すくい面に対して上記第1の傾斜角よりも小さい第2の傾斜角で交差する方向に延びる第2の部分とを有していることが望ましい。
【0017】
これにより、クーラント孔の開口部の近傍の第1の部分では、すくい面に垂直な方向のインサート本体の肉厚を大きく確保することができて強度を向上させることができ、例えば特許文献1に記載されたクーラント孔付き切削インサートのように表裏のすくい面の同じ角部にクーラント孔の開口部が形成されて連通しているとともに、固着面と装着面がすくい面に垂直な方向に延びている場合のように、切削負荷によってこの角部に欠損が生じたり、固着面と装着面が剥離したりするなどの損傷を防ぐことができる。
【0018】
また、例えば特許文献1に記載されたクーラント孔付き切削インサートのように、上記インサート本体が四角形板状に形成されていて、このインサート本体の2つの四角形面が第1の上記すくい面および第2の上記すくい面とされるとともに、これらのすくい面の周囲に配置される側面が上記逃げ面とされ、上記インサート本体の第1の角部と、この第1の角部とは反対側の第2の角部とには、上記第1のすくい面と第2のすくい面とに、それぞれ上記切刃のうちのコーナ刃が形成されている場合には、上記インサート本体に2つの上記クーラント孔を有し、第1の上記クーラント孔は、上記第1のすくい面における上記第1の角部の内側と、上記第2のすくい面における上記第2の角部の内側に開口し、第2の上記クーラント孔は、上記第1のすくい面における上記第2の角部の内側と、上記第2のすくい面における上記第1の角部の内側に開口していることが望ましい。
【0019】
これにより、これら2つのクーラント孔は、上記第1、第2のすくい面の第1、第2の2つの角部の対角線方向の間と、インサート本体の2つの四角形面の第1、第2のすくい面の間とに渡って延長されることになるので、一層確実にインサート本体の全体を冷却することが可能となる。
【0020】
さらに、この場合において、上記インサート本体には、該インサート本体を貫通して上記2つのすくい面の中央部に開口する取付孔が形成されているときには、上記2つのクーラント孔を、上記取付孔の外周側において、この取付孔の中心線であるインサート中心線回りに互いに反対側を1/2周してそれぞれ延びるように形成することにより、2つのクーラント孔を互いにも、また取付孔とも干渉させることなく、切刃が形成されるすくい面と逃げ面との交差稜線部に近づけることができ、さらに効率的なインサート本体の冷却を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、クーラント孔の長さを長くすることができるので、クーラント孔を、切刃のうちのコーナ刃の近傍だけでなく、コーナ刃から離れた部分にも延長することができ、インサート本体の全体を効率的に冷却することが可能となる。このため、切り込み量が大きくなった場合でもインサート本体の損傷を防ぐことができ、インサート寿命の長寿命化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す実施形態のクーラント孔を透視した斜視図である。
【
図3】
図1に示す実施形態のクーラント孔を透視した四角形面に対向する方向から見た平面図である。
【
図4】
図3における矢線X方向視のクーラント孔を透視した正面図である。
【
図5】
図3における矢線Y方向視のクーラント孔を透視した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1~
図5は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態におけるインサート本体1は、超硬合金、サーメット、セラミックス等の硬質材料により、接合などはされずに一体に四角形の板状に形成されており、特に菱形の板状に形成されている。なお、このインサート本体1は、このような硬質材料を基体として、その表面にPVDやCVDによる硬質皮膜が被覆されていてもよい。
【0024】
本実施形態では、インサート本体1の2つの菱形面がすくい面2A、2Bとされるとともに、これらのすくい面2A、2Bの周囲に配置される側面が逃げ面3とされ、これらすくい面2A、2Bと逃げ面3との交差稜線部に切刃4が形成されている。また、2つのすくい面2A、2Bの中央部には、インサート本体1を貫通する断面円形の取付孔5が開口しており、インサート本体1は、この取付孔5の中心線であるインサート中心線Lの回りに180°回転対称形状とされるとともに、2つのすくい面2A、2Bに関して表裏反転対称形状とされている。
【0025】
また、すくい面2A、2Bはインサート中心線Lに垂直な平坦面とされるとともに、逃げ面3はインサート中心線Lに平行、すなわちすくい面2A、2Bに垂直な平面に形成されている。これにより、本実施形態のクーラント孔付き切削インサートは、ネガティブタイプのクーラント孔付き切削インサートとされる。
【0026】
切刃4には、インサート本体1がなす菱形板の鋭角の角部C1、C2に、インサート中心線L方向にすくい面2A、2Bに対向する方向から見て
図3に示すように凸円弧等の凸曲線状をなすコーナ刃4aが形成されている。また、このコーナ刃4aの両端部からすくい面2A、2Bがなす菱形の鈍角角部に延びる直線状の辺稜部は、主切刃4bとされている。
【0027】
そして、このインサート本体1の内部にはクーラント孔6A、6Bが形成されており、このクーラント孔6A、6Bは、その両端部がインサート本体1の表面の互いに異なる位置に開口しているとともに、インサート本体1内で湾曲するように曲線状に延びている。本実施形態では、インサート本体1に2つのクーラント孔6A、6Bが形成されており、これら2つのクーラント孔6A、6Bは、第1のクーラント孔6Aが、第1のすくい面2Aにおける第1の角部C1の内側と、第2のすくい面2Bにおける第2の角部C2の内側に開口し、第2のクーラント孔6Bは、第1のすくい面2Aにおける第2の角部C2の内側と、第2のすくい面2Bにおける第1の角部C1の内側に開口するようにそれぞれ延びている。
【0028】
すなわち、これら2つのクーラント孔6A、6Bは、表裏のすくい面2A、2Bにおいて互い違いの鋭角の角部C1、C2に開口するように、1つのすくい面2A、2Bから他の1つのすくい面2B、2Aに向けて
図5に示すようにすくい面2A、2Bに対して傾斜して、インサート本体1をインサート中心線L方向に貫通して延びるように形成される。なお、クーラント孔6A、6Bは、本実施形態では断面円形に形成されている。
【0029】
また、インサート本体1に、該インサート本体1を貫通して2つのすくい面2A、2Bの中央部に開口する取付孔5が形成された本実施形態では、これら2つのクーラント孔6A、6Bは、取付孔5の外周側を、
図3に示すようにインサート中心線L回りに互いに反対側を1/2周するように半長円状または半楕円状にそれぞれ延びている。
【0030】
さらに、これらのクーラント孔6A、6Bは、すくい面2A、2Bへの開口部6a近傍の第1の部分6bにおいては、
図3に示すようにすくい面2A、2Bにおける鋭角の角部C1、C2を結ぶ対角線に沿って、
図5に示すようにすくい面2A、2B側に向かうに従いコーナ刃4a側に向けて、すくい面2A、2Bに対して第1の傾斜角αで直線状に延びてすくい面2A、2Bに開口している。従って、クーラント孔6A、6Bの開口部6aはすくい面2A、2Bに楕円状に開口する。
【0031】
また、上記第1の部分6bの間におけるクーラント孔6A、6Bの取付孔5の外周側を1/2周する第2の部分6cは、第1の部分6bに曲折して接続され、やはり
図5に示すようにすくい面2A、2B側に向かうに従いコーナ刃4a側に向けて、すくい面2A、2Bに対して第2の傾斜角βで延びている。そして、この第2の傾斜角βは、上記第1の傾斜角αよりも小さくされている。
【0032】
なお、このようにインサート本体1内を湾曲して曲線状に延びるクーラント孔6A、6Bは、上述のような材質よりなるインサート本体1の基材を3Dプリンターによる積層加工によって成形し、この基材を焼結することによって製造することができる。また、上述のような硬質皮膜を被覆するには、こうして製造されたインサート本体1の表面に、PVDやCVDによって硬質皮膜を被覆すればよい。
【0033】
このように製造されたクーラント孔付き切削インサートは、刃先交換式バイト等の刃先交換式切削工具の工具本体に形成されたインサート取付座に、すくい面2A、2Bの一方を着座面として上記インサート取付座の底面に密着させ、上記取付孔5に挿入されたクランプネジやクランプ駒、レバー等によって着脱可能に取り付けられる。
【0034】
このとき、着座面とされるすくい面2A、2Bの一方とは反対側のすくい面2A、2Bの他方においては、切刃4のうちのコーナ刃4aと、このコーナ刃4aの一端に連なる主切刃4bとが工具本体の先端側と送り方向側とに突出させられ、切削加工に使用される。また、インサート取付座の底面の工具本体後端側には、着座面とされたすくい面2A、2Bの一方における工具本体後端側のクーラント孔6A、6Bの一方の開口部6aに連通するクーラント供給孔が形成されており、切削加工中はこのクーラント供給孔から工具本体後端側のクーラント孔6A、6Bの一方に切削油剤や圧縮空気等のクーラントが供給される。
【0035】
こうしてクーラント孔6A、6Bの一方に供給されたクーラントは、このクーラント孔6A、6Bの一方を流れるうちにインサート本体1を冷却し、切削加工に使用されるコーナ刃4aの内側のクーラント孔6A、6Bの一方の開口部6aからすくい面2A、2Bの他方に噴出させられる。このとき、取付孔5の外周側を1/2周するクーラント孔6A、6Bの一方が、送り方向側を向く主切刃4bと取付孔5との間を通るようにすることが望ましい。
【0036】
また、この切削加工に使用されるコーナ刃4aの内側のクーラント孔6A、6Bの一方の開口部6aからすくい面2A、2Bに噴出されたクーラントは、このコーナ刃4aと主切刃4bとを含む切刃4を冷却、潤滑するとともに、この切刃4によって被削材から生成された切屑を除去することにもなる。
【0037】
このように、上記構成のクーラント孔付き切削インサートにおいては、クーラント孔6A、6Bがインサート本体1の内部で湾曲するように曲線状に延びているので、特許文献1、2に記載されたクーラント孔付き切削インサートのようにクーラント孔が直線状や直線を折り曲げた折れ線状に延びているのに比べて、クーラント孔6A、6Bの長さを長くすることが可能となる。
【0038】
このため、クーラント孔6A、6Bを切刃4のうちのコーナ刃4aの近傍だけでなく、コーナ刃4aから離れた部分の主切刃4bの内方にも延長することができ、インサート本体1の全体を効率的に冷却することができる。従って、切り込み量が大きくなった場合に主切刃4bのコーナ刃4aから離れた部分が使用されるときでも、切削熱による切刃4やインサート本体1の損傷を防ぐことができるので、インサート寿命の長寿命化を図ることが可能となる。
【0039】
また、本実施形態では、クーラント孔6A、6Bは、すくい面2A、2Bへの開口部6aの近傍の第1の部分6bにおいてすくい面2A、2Bに対する第1の傾斜角αが、第1の部分6bの間の第2の部分6cがすくい面2A、2Bに対してなす第2の傾斜角βよりも大きくされることになるので、特にインサート本体1が一体形成された本実施形態では、表裏のすくい面2A、2Bにおけるクーラント孔6A、6Bの開口部6aの間の肉厚を大きくして強度を確保することができる。
【0040】
このため、例えば特許文献1に記載されたクーラント孔付き切削インサートのように、表裏のすくい面の同じ角部にクーラント孔の開口部が形成されて連通しているとともに、固着面と装着面がすくい面に垂直な方向に延びている場合と比べ、切削負荷によってこの角部に欠損が生じたり、固着面と装着面が剥離したりするなどの損傷を防ぐことが可能となる。
【0041】
さらに、本実施形態では、インサート本体1が四角形板状に形成されており、2つの四角形面がすくい面2A、2Bとされるとともに、これらのすくい面2A、2Bの周囲に配置される側面が逃げ面3とされ、すくい面2A、2Bの対角線上に位置するインサート本体1の2つの角部C1、C2には、切刃4のうちのコーナ刃4aが形成されている。
【0042】
そして、これに対して、本実施形態では、2つのクーラント孔6A、6Bが、第1のクーラント孔6Aは、第1のすくい面2Aにおける第1の角部C1の内側と、第2のすくい面2Bにおける第2の角部C2の内側に開口し、第2のクーラント孔6Bは、第1のすくい面2Aにおける第2の角部C2の内側と、第2のすくい面2Bにおける第1の角部C1の内側に開口するようにそれぞれ延びている。
【0043】
このため、これら2つのクーラント孔6A、6Bは、すくい面2A、2Bの2つの鋭角の角部C1、C2の対角線方向の間の略全域と、インサート中心線L方向におけるインサート本体1の2つのすくい面2A、2Bの間との全体とに渡って延長されることになるので、一層確実にインサート本体1の全体を冷却することが可能となる。
【0044】
さらにまた、本実施形態では、このように2つのクーラント孔6A、6Bが、第1のクーラント孔6Aは、第1のすくい面2Aにおける第1の角部C1の内側と、第2のすくい面2Bにおける第2の角部C2の内側に開口し、第2のクーラント孔6Bは、第1のすくい面2Aにおける第2の角部C2の内側と、第2のすくい面2Bにおける第1の角部C1の内側に開口するようにそれぞれ延びている場合において、インサート本体1には、インサート本体1をインサート中心線L方向に貫通して2つのすくい面2A、2Bの中央部に開口する取付孔5が形成されている。
【0045】
そして、このような場合に、本実施形態においては2つのクーラント孔6A、6Bが、取付孔5の外周側を、インサート中心線L回りに互いに反対側に1/2周してそれぞれ延びるように形成されている。このため、これら2つのクーラント孔6A、6Bを互いにも干渉させることなく、また取付孔5とも干渉させることなく、切刃4が形成されるすくい面2A、2Bと逃げ面3との交差稜線部に近づけることができるので、さらに効率的なインサート本体1の冷却を図ることができる。
【0046】
特に、この場合には、上述のようにこうして取付孔5の外周側を1/2周するクーラント孔6A、6Bを、送り方向側を向く主切刃4bと取付孔5との間を通るようにすることにより、切削加工によって高温となるインサート本体1の送り方向側の主切刃4bを効率的に冷却することが可能となるので、インサート本体1や切刃4の損傷をさらに確実に防止することができる。
【0047】
なお、本実施形態では、すくい面2A、2Bにクーラント孔6A、6Bが開口しているが、逃げ面3とされる側面の例えば切刃4側に、コーナ刃4aや主切刃4bに向けて開口するように形成してもよい。また、本実施形態では、本発明をネガティブタイプのクーラント孔付き切削インサートに適用した場合について説明したが、逃げ面3とされる側面が切刃4から離れるに従いインサート本体1の内方に向かうように傾斜するポジティブタイプのクーラント孔付き切削インサートに本発明を適用することも可能である。
【0048】
さらに、本実施形態では、本発明を四角形板状(菱形板状)のインサート本体1を有するクーラント孔付き切削インサートに適用した場合について説明したが、他の多角形板状や円板状等のインサート本体1を有するクーラント孔付き切削インサートに本発明を適用することも可能であるし、インサート本体1は板状でなくても構わない。また、クーラント孔は1つであってもよく、2つ以上のクーラント孔が形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 インサート本体
2A、2B すくい面
3 逃げ面
4 切刃
4a コーナ刃
4b 主切刃
5 取付孔
6A、6B クーラント孔
6a クーラント孔6A、6Bのすくい面2A、2Bへの開口部
6b クーラント孔6A、6Bの第1の部分
6c クーラント孔6A、6Bの第2の部分
L インサート中心線
α クーラント孔6A、6Bの第1の部分がすくい面2A、2Bに対してなす第1の傾斜角
β クーラント孔6A、6Bの第2の部分がすくい面2A、2Bに対してなす第2の傾斜角
C1、C2 インサート本体1の角部