(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】放射線硬化型インクジェット組成物及びインクジェット方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20240402BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240402BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 100
B41M5/00 120
B41J2/01 501
B41J2/01 129
(21)【出願番号】P 2020053853
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】小池 直樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 恭平
(72)【発明者】
【氏名】中村 潔
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-201815(JP,A)
【文献】特開2012-140550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-54
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物と、光重合開始剤とを含む放射線硬化型インクジェット組成物であって、
前記重合性化合物が、単官能モノマーを含み、
該単官能モノマーの含有量が、前記重合性化合物の総量に対して、90質量%以上であ
り、
前記光重合開始剤が、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル
を含
み、
前記単官能モノマーが、窒素含有単官能モノマーを含み、
該窒素含有単官能モノマーの含有量が、前記放射線硬化型インクジェット組成物の総量
に対して、0.01~20質量%であり、
前記重合性化合物の含有質量比を重みとする、前記重合性化合物のSP値の加重平均が
、9.0以上10.5以下である、放射線硬化型インクジェット組成物。(
前記窒素含有単官能モノマーが下記一般式(A)である場合を除く。)
(nは1~5の整数を表す。)
【請求項2】
前記重合性化合物が、芳香族系単官能モノマーを含み、
該芳香族系単官能モノマーの含有量が、前記重合性化合物の総量に対して、30質量%
以下である、
請求項1に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項3】
前記重合性化合物の含有質量比を重みとする、前記重合性化合物のホモポリマーのガラ
ス転移温度の加重平均が、48℃以上である、
請求項1又は2に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項4】
前記窒素含有単官能モノマーが、アクリロイルモルフォリンを含む、
請求項3に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項5】
前記重合性化合物が、多官能モノマーを含み、
該多官能モノマーの含有量が、前記重合性化合物の総量に対して、10質量%以下であ
る、
請求項1~4のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項6】
前記2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルの含有量が、前記
放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、2.0質量%以上である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項7】
前記単官能モノマーが、下記一般式(1)で表わされる脂肪族基含有単官能モノマーを
含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
H
2
C=CR
1
-CO-O-R
2
・・・ (1)
(式(1)中、R
1
は水素原子又はメチル基を表し、R
2
は炭素数4以上20以下の直鎖
又は分枝鎖の脂肪族基を表す。)
【請求項8】
前記単官能モノマーが、ヒドロキシ基含有単官能モノマーを含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項9】
前記重合性化合物が、ウレタンアクリレートを含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項10】
前記重合性化合物が、下記一般式(2)で表わされるビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
CH
2
=CR
1
-COOR
2
-O-CH=CH-R
3
・・・ (2)
(式中、R
1
は水素原子又はメチル基であり、R
2
は炭素数2~20の2価の有機残基であ
り、R
3
は水素原子又は炭素数1~11の1価の有機残基である。)
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の放射線硬化型インクジェット組成物を液体噴射
ヘッドで吐出して記録媒体に付着させる吐出工程と、
前記記録媒体に付着した前記放射線硬化型インクジェット組成物に対して、放射線を照
射する照射工程と、を有する、インクジェット方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線硬化型インクジェット組成物及びインクジェット方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、放射線が照射されることにより硬化するインクジェット組成物の塗膜の硬化性等について種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、薄膜状の硬化膜及び厚膜状の硬化膜の双方において、硬化性に優れた紫外線硬化型インクジェット用インク組成物を提供することを目的として、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートと、芳香環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートと、光重合性開始剤と、を含む紫外線硬化型インクジェット組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、放射線硬化型インクジェット組成物に用いられる光重合性開始剤としては、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤が挙げられる。しかしながら、常温で固体のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤は溶解性が高いとは言えず、このようなアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を溶解するためにフェノキシエチルアクリレートなどの芳香族系モノマーが用いられる。
【0005】
しかしながら、光重合開始剤の溶解性確保のために、フェノキシエチルアクリレートなどの芳香族系モノマーを多用すると、他の重合性モノマーの選択の幅が狭くなり、インク組成が制限されるという問題がある。そのため、切り出しや折り曲げ等の後加工を施した際にインク塗膜のひび割れや欠けが起こるなどの課題が生じるサイン用途などにおいて、これらの課題を解決するための所望のインク塗膜物性を得るために必要なモノマー組成を実現し難いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、重合性化合物と、光重合開始剤とを含む放射線硬化型インクジェット組成物であって、重合性化合物が、単官能モノマーを含み、単官能モノマーの含有量が、重合性化合物の総量に対して、90質量%以上であり、光重合開始剤が、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルを含む、放射線硬化型インクジェット組成物である。
【0007】
本発明は、放射線硬化型インクジェット組成物を液体噴射ヘッドで吐出して記録媒体に付着させる吐出工程と、記録媒体に付着した放射線硬化型インクジェット組成物に対して、放射線を照射する照射工程と、を有する、インクジェット方法である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態のシリアル方式のインクジェット装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0010】
1.放射線硬化型インクジェット組成物
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)は、重合性化合物と、光重合開始剤とを含む放射線硬化型インクジェット組成物であって、重合性化合物が、単官能モノマーを含み、単官能モノマーの含有量が、重合性化合物の総量に対して、90質量%以上であり、光重合開始剤が、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル(以下、TPO-Lともいう。)を含む。
【0011】
また、本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物は、必要に応じて、上記以外の光重合開始剤、重合禁止剤、色材、界面活性剤などを含んでもよい。
【0012】
放射線硬化型インクジェット組成物においては、光重合開始剤の溶解性の観点から、フェノキシエチルアクリレートなどの芳香族系モノマーが併用されていた。しかしながら、光重合開始剤の溶解性の観点から芳香族系モノマーの使用量を比較的多くすると、相対的に他のモノマーの使用量を少なくする必要があり、インク塗膜の所望の物性を達成するために必要なモノマー組成を実現し難いという問題がある。
【0013】
また、組成物の硬化性を上げるために光重合開始剤の使用量を増やそうとすると、それに伴い芳香族系モノマーの使用量を増やす必要があった。しかし、芳香族系モノマーは比較的高粘度であるため、単純に使用量を増やすと組成物の粘度が上昇してしまいインクジェット適性に課題が生じるという問題もある。
【0014】
これに対して、本実施形態においては、常温で液体の重合開始剤である2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルを用いる。これにより、芳香族系モノマーによって常温で固体の光重合開始剤を溶解させるという制限を解消することができ、モノマー設計の自由度を確保できる。そのため、密着性等の得られるインク塗膜の物性をより向上させることができる。さらに、芳香族系モノマーを用いることによる組成物の粘度上昇の問題も解消することが可能となる。
【0015】
なお、本実施形態の放射線硬化型インクジェット組成物は、インクジェット法によりインクジェットヘッドから吐出して用いる組成物である。以下、放射線硬化型インクジェット組成物の一実施形態として放射線硬化型インク組成物について説明するが、本実施形態に係る組成物はインク組成物以外の組成物、例えば3D造形用に用いられる組成物であってもよい。
【0016】
なお、本実施形態に係る「放射線硬化型インクジェット組成物」は、放射線を照射することにより硬化する。放射線としては、紫外線、電子線、赤外線、可視光線、エックス線、活性エネルギー線等が挙げられる。放射線としては、放射線源が入手しやすく広く用いられている点、及び紫外線の放射による硬化に適した材料が入手しやすく広く用いられている点から、紫外線が好ましい。
【0017】
以下、本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物において、含まれ得る成分、製造方法について説明する。
【0018】
1.1.重合性化合物
本実施形態においては、放射線を照射することにより硬化する化合物を総じて重合性化合物という。重合性化合物としては、重合性官能基を1つもつ単官能モノマーと、重合性官能基を複数持つ多官能モノマーと、重合性官能基を1又は複数もつオリゴマーと、が挙げられる。各重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本実施形態において、各重合性化合物の含有質量比を重みとする、各重合性化合物のホモポリマーのガラス転移温度の加重平均は、好ましくは38℃以上であり、より好ましくは45℃以上であり、さらに好ましくは48℃以上であり、よりさらに好ましくは50℃以上である。ガラス転移温度の加重平均が38℃以上であることにより、室温での塗膜の耐擦性がより向上する傾向にある。また、ガラス転移温度の加重平均の上限は、特に制限されないが、好ましくは60℃以下であり、より好ましくは55℃以下であり、さらに好ましくは50℃以下である。
【0020】
ガラス転移温度の加重平均の計算方法について説明する。ガラス転移温度の加重平均の値をTgAll、各重合性化合物のホモポリマーのガラス転移温度をTgN、その重合性化合物の含有質量比をXN(質量%)とする。Nは放射線硬化型インクジェット組成物に含まれる重合性化合物の種類に応じ、1から順に数字が入る。例えば3種類の重合性化合物を用いた場合、Tg1、Tg2、Tg3が生じる。なお各重合性化合物のホモポリマーのガラス転移温度は、その重合性化合物の安全データシート(SDS)やカタログ情報により入手することができる。ガラス転移温度の加重平均TgAllは、各重合性化合物によって計算されたガラス転移温度TgNと、含有量XNとの積の総和である。したがって下記式(2)が成り立つ。
TgAll=ΣTgN×XN・・・(2)
【0021】
本実施形態において、各重合性化合物の含有質量比を重みとする、各重合性化合物のSP値の加重平均は、好ましくは8.5~10.8であり、より好ましくは9.0~10.5であり、さらに好ましくは9.1~10.0である。SP値の加重平均が上記範囲内であることにより、様々な材質の記録媒体、例えばポリプロピレンなどのポリオレフィンやポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルなどの記録媒体に対する密着性がより向上する傾向にある。
【0022】
SP値の加重平均の計算方法について説明する。SP値の加重平均の値をSPAll、各重合性化合物のSP値をSPN、その重合性化合物の含有質量比をXN(質量%)とする。Nは放射線硬化型インクジェット組成物に含まれる重合性化合物の種類に応じ、1から順に数字が入る。例えば3種類の重合性化合物を用いた場合、SP1、SP2、SP3が生じる。なお各重合性化合物のSP値は、その重合性化合物の安全データシート(SDS)やカタログ情報により入手することができる。SP値の加重平均SPAllは、各重合性化合物によって計算されたSPNと、含有量XNとの積の総和である。したがって下記式(2)が成り立つ。
SPAll=ΣSPN×XN・・・(2)
【0023】
なお、ガラス転移温度の加重平均及びSP値の加重平均は、用いる重合性化合物のガラス転移温度及びSP値、並びに、用いる重合性化合物の含有質量比により、調整することができる。
【0024】
1.1.1.単官能モノマー
本実施形態の単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、芳香族基含有単官能モノマー、窒素含有単官能モノマー、脂環族基含有単官能モノマー、ウレタンアクリレート、脂肪族基含有単官能モノマー、ヒドロキシ基含有単官能モノマー等が挙げられる。また、必要に応じてその他の単官能モノマーを含んでもよい。なお、その他の単官能モノマーとしては、特に限定されないが、従来公知の、重合性官能基、特に炭素間の不飽和二重結合を有する重合性官能基を有する単官能モノマーが使用可能である。
【0025】
単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、90質量%以上であり、好ましくは91質量%以上であり、より好ましくは92質量%以上である。単官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して90質量%以上であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する。また、単官能モノマーの含有量の上限は、特に制限されないが、重合性化合物の総量に対して、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは98質量%以下であり、さらに好ましくは97質量%以下である。単官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して99質量%以下であることにより、耐擦性がより向上する傾向にある。
【0026】
また、単官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは72質量%以上であり、さらに好ましくは74質量%以上である。単官能モノマーの含有量が組成物の総量に対して70質量%以上であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。また、単官能モノマーの含有量の上限は、組成物の総量に対して、好ましくは86質量%以下であり、より好ましくは84質量%以下であり、さらに好ましくは82質量%以下である。単官能モノマーの含有量が組成物の総量に対して86質量%以下であることにより、耐擦性がより向上する傾向にある。
【0027】
以下、単官能モノマーについて例示するが、本実施形態における単官能モノマーは以下に限定されるものではない。
【0028】
1.1.1.1. 芳香族基含有単官能モノマー
芳香族基含有単官能モノマーとしては、芳香族基を有するものであれば特に制限されないが、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アルコキシ化2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、アルコキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、p-クミルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、及び2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0029】
このなかでも、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、フェノキシエチルアクリレート(PEA)がさらに好ましい。このような芳香族基含有モノマーを用いることにより、常温で固体の光重合開始剤をTPO-Lと併用する際に、その溶解性がより向上し、組成物の硬化性がより向上する傾向にある。特に、常温で固体のアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤やチオキサントン系重合開始剤を用いる場合にその溶解性が良好となる傾向にある。また、フェノキシエチル(メタ)アクリレートを用いることにより、さらに臭気を低減できる傾向にある。
【0030】
芳香族基含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは35質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは28質量%以下であり、さらに好ましくは25質量%以下である。また、芳香族基含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは15質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%である。本実施形態の組成物はTPO-Lを用いることにより、芳香族基含有単官能モノマーの使用量を低減させることができ、それによりモノマー組成の設計自由度がより向上し、また、組成物の粘度を低下させることもできる。重合性化合物の総量に対する芳香族基含有単官能モノマーの含有量が35質量%以下であることにより、組成物の粘度がより低下し、塗膜の密着性や耐擦性がより向上する傾向にある。
【0031】
芳香族基含有単官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは15~40質量%であり、より好ましくは20~40質量%であり、さらに好ましくは、25~35量%である。組成物の総量に対する芳香族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、組成物の粘度がより低下し、塗膜の耐擦性がより向上する傾向にある。
【0032】
1.1.1.2. 窒素含有単官能モノマー
窒素含有単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルフォルムアミド、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルアセトアミド及びN-ビニルピロリドン等の窒素含有単官能ビニルモノマー;アクリロイルモルフォリン等の窒素含有単官能アクリレートモノマー;(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド4級塩等の(メタ)アクリルアミド等の窒素含有単官能アクリルアミドモノマーが挙げられる。
【0033】
このなかでも、窒素含有単官能ビニルモノマー又は窒素含有単官能アクリレートモノマーの何れかを含むことが好ましく、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルピロリドン、又はアクリロイルモルフォリン等の含窒素複素環構造を有するモノマーがより好ましく、アクリロイルモルフォリンを含むことがさらに好ましい。このような窒素含有単官能モノマーを用いることにより、塗膜の耐擦性がより向上する傾向にある。
【0034】
窒素含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは5.0~30質量%であり、より好ましくは10~26質量%であり、さらに好ましくは13~20質量%である。窒素含有単官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して5質量%以上であることにより、塗膜の耐擦性がより向上する傾向にある。また、窒素含有単官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して30質量%以下であることにより、密着性がより向上する傾向にある。
【0035】
窒素含有単官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは5.0質量%以上であり、さらに好ましくは7.0質量%以上であり、よりさらに好ましくは10質量%以上である。また、窒素含有単官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは25質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以下である。窒素含有単官能モノマーの含有量が組成物の総量に対して0.01質量%以上であることにより、組成物の保存安定性がより向上し、塗膜の耐擦性がより向上する傾向にある。また、窒素含有単官能モノマーの含有量が組成物の総量に対して25質量%以下であることにより、密着性がより向上する傾向にある。
【0036】
1.1.1.3. 脂環族基含有単官能モノマー
脂環族基含有単官能モノマーとしては、芳香族性を有しない飽和又は不飽和の炭素環を一つ以上有するモノマーであれば特に制限されないが、例えば、tertブチルシクロヘキサノールアクリレート(TBCHA)、2-(メタ)アクリル酸-1,4-ジオキサスピロ[4,5]デシ-2-イルメチル等の単環炭化水素基を有するモノマー;ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート等の不飽和の多環炭化水素基を有するモノマー;ジシクロペンタニルアクリレート、イソボルニルアクリレート等の飽和の多環炭化水素基を有するモノマーが挙げられる。このような脂環族基含有単官能モノマーを用いることにより、組成物の硬化性がより向上する傾向にある。
【0037】
脂環族基含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは15~50質量%であり、より好ましくは20~45質量%であり、さらに好ましくは25~40質量%である。重合性化合物に対する脂環族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の耐擦性がより向上する傾向にある。
【0038】
脂環族基含有単官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは15~45質量%であり、より好ましくは20~40質量%であり、さらに好ましくは25~35質量%である。組成物に対する脂環族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の耐擦性がより向上する傾向にある。
【0039】
1.1.1.4. ウレタンアクリレート
ウレタンアクリレートは、ウレタン結合を有する(メタ)アクリル酸エステルであれば特に制限されず、例えば、(メチルカルバモイルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、(エチルカルバモイルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、(プロピルカルバモイルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、(ブチルカルバモイルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、(メチルカルバモイルオキシ)エトキシエチル(メタ)アクリレート、(エチルカルバモイルオキシ)エトキシエチル(メタ)アクリレート、(プロピルカルバモイルオキシ)エトキシエチル(メタ)アクリレート、(ブチルカルバモイルオキシ)エトキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。このようなウレタンアクリレートを用いることにより、組成物の粘度がより低下し、得られる塗膜の耐擦性がより向上する傾向にある。
【0040】
ウレタンアクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、0.5~10質量%であり、好ましくは1.0~7.0質量%であり、より好ましくは2.0~5.0質量%である。重合性化合物に対するウレタンアクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、組成物の粘度がより低下し、得られる塗膜の耐擦性がより向上する傾向にある。
【0041】
ウレタンアクリレートの含有量は、組成物の総量に対して、0.5~7.5質量%であり、好ましくは1.0~5.0質量%であり、より好ましくは2.0~4.0質量%である。組成物に対するウレタンアクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、組成物の粘度がより低下し、得られる塗膜の耐擦性がより向上する傾向にある。
【0042】
1.1.1.5. 脂肪族基含有単官能モノマー
脂肪族基含有単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、下記一般式(1)で表わされるモノマーが挙げられる。
H2C=CR1-CO-O-R2 ・・・ (1)
(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は炭素数4以上20以下の直鎖又は分枝鎖の脂肪族基を表す。)
【0043】
このような脂肪族基含有単官能モノマーとしては、炭素環を有しない飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐鎖を有するモノマーであれば特に制限されないが、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。このなかでも、飽和の直鎖又は分岐鎖を有する脂肪族基含有単官能モノマーが好ましく、ラウリル(メタ)アクリレート及びイソノニル(メタ)アクリレートがより好ましい。このような脂肪族基含有単官能モノマーを用いることにより、組成物の粘度がより低下し、また、塗膜の密着性がより向上する傾向にある。なお、脂肪族基含有単官能モノマーを用いることにより、SP値の加重平均が大きくなる傾向にある。
【0044】
脂肪族基含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1.0~18質量%であり、より好ましくは3.0~15質量%であり、さらに好ましくは5.0~12質量%である。重合性化合物に対する脂肪族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、組成物の粘度がより低下し、塗膜の密着性がより向上する傾向にある。
【0045】
脂肪族基含有単官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは1.0~17質量%であり、より好ましくは3.0~15質量%であり、さらに好ましくは5.0~12質量%である。組成物に対する脂肪族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、組成物の粘度がより低下し、塗膜の密着性がより向上する傾向にある。
【0046】
1.1.1.6. ヒドロキシ基含有単官能モノマー
ヒドロキシ基含有単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキプロピルアクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、2-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルフタレート等が挙げられる。このようなヒドロキシ基含有単官能モノマーを用いることにより、組成物の粘度がより低下し、また、塗膜の密着性がより向上する傾向にある。なお、ヒドロキシ基含有単官能モノマーを用いることにより、SP値の加重平均が小さくなる傾向にある。
【0047】
ヒドロキシ基含有単官能モノマーとの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1.0~35質量%であり、より好ましくは3.0~25質量%であり、さらに好ましくは5.0~15質量%である。重合性化合物に対するヒドロキシ基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、粘度がより低下し、得られる塗膜の密着性がより向上する傾向にある。
【0048】
ヒドロキシ基含有単官能モノマーとの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは1.0~35質量%であり、より好ましくは3.0~25質量%であり、さらに好ましくは5.0~15質量%である。組成物に対するヒドロキシ基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、粘度がより低下し、得られる塗膜の密着性がより向上する傾向にある。
【0049】
1.1.1.7. その他
その他の単官能モノマーとしては、上記の他に、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸;該不飽和カルボン酸の塩;不飽和カルボン酸のエステル、ウレタン、アミド及び無水物;アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミドを用いてもよい。
【0050】
1.1.2. 多官能モノマー
多官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレート、2官能(メタ)アクリレート、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、多官能モノマーは、上記に限定されるものではない。
【0051】
多官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1.0~10質量%であり、より好ましくは2.0~9.0質量%であり、さらに好ましくは3.0~8.0質量%である。重合性化合物に対する多官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、硬化性がより向上する傾向にある。
【0052】
また、多官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.5~12質量%であり、より好ましくは1.0~10質量%であり、さらに好ましくは2.0~7.0質量%である。組成物に対する多官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、硬化性がより向上する傾向にある。
【0053】
以下、多官能モノマーについて例示するが、本実施形態における多官能モノマーは以下に限定されるものではない。
【0054】
1.1.2.1 ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレート
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートとしては、特に制限されないが、例えば、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。このようなビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートを含むことにより、組成物の粘度が低下し、吐出安定性がより向上する傾向にある。また、組成物の硬化性がより向上し、塗膜の密着性や耐擦性がより向上する傾向にある。
CH2=CR1-COOR2-O-CH=CH-R3 ・・・ (2)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2~20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1~11の1価の有機残基である。)
【0055】
上記式(2)において、R2で表される炭素数2~20の2価の有機残基としては、炭素数2~20の直鎖状、分枝状又は環状の、置換されていてもよいアルキレン基、構造中にエーテル結合及び/又はエステル結合による酸素原子を有する、置換されていてもよい炭素数2~20のアルキレン基、炭素数6~11の、置換されていてもよい2価の芳香族基が挙げられる。これらの中でも、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基等の炭素数2~6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn-プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基等の構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2~9のアルキレン基が好ましい。さらに、組成物をより低粘度化でき、かつ、組成物の硬化性をさらに良好にする観点から、R2が、オキシエチレン基、オキシn-プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基等の構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2~9のアルキレン基となっている、グリコールエーテル鎖を有する化合物がより好ましい。
【0056】
上記式(2)において、R3で表される炭素数1~11の1価の有機残基としては、炭素数1~10の直鎖状、分枝状又は環状の、置換されていてもよいアルキル基、炭素数6~11の、置換されていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基又はエチル基である炭素数1~2のアルキル基、フェニル基及びベンジル基等の炭素数6~8の芳香族基が好適に用いられる。
【0057】
上記の各有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基及び炭素原子を含まない基に分けられる。まず、上記置換基が炭素原子を含む基である場合、当該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基として、以下に限定されないが、例えばカルボキシル基、アルコキシ基が挙げられる。次に、炭素原子を含まない基として、以下に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
【0058】
式(2)の化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1-ジメチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6-ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o-ビニロキシメチルフェニルメチル、メタアクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。これらの具体例のうち、組成物の硬化性、粘度のバランスがとりやすい点で、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルが特に好ましい。なお、本実施形態において、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルは、VEEAということもある。
【0059】
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量は、好ましくは1.0~10質量%であり、より好ましくは2.0~9.0質量%であり、さらに好ましくは3.0~8.0質量%である。重合性化合物の総量に対するビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、組成物の粘度が低下し、硬化性がより向上する傾向にある。
【0060】
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.5~12質量%であり、より好ましくは1.0~10質量%であり、さらに好ましくは2.0~7.0質量%である。重合性化合物の総量に対するビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、組成物の粘度が低下し、硬化性がより向上する傾向にある。
【0061】
1.1.2.2 2官能(メタ)アクリレート
2官能(メタ)アクリレートとしては、特に制限されないが、例えば、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジメタアクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0062】
1.1.2.3 3官能以上の多官能(メタ)アクリレート
3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、特に制限されないが、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0063】
1.1.2.4.芳香族基含有多官能モノマー
上記多官能モノマーの中で芳香族基を有する芳香族基含有多官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは0.05~20質量%であり、より好ましくは0.05~10質量%であり、さらに好ましくは、0.05~5.0質量%である。
【0064】
また、芳香族基含有多官能モノマーと芳香族基含有単官能モノマーの総含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは10~45質量%であり、より好ましくは15~40質量%であり、さらに好ましくは20~35質量%である。
【0065】
このような芳香族基含有多官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、上記のビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0066】
1.1.3.オリゴマー
オリゴマーは、重合性化合物を構成成分とした多量体であって、1又は複数の重合性官能基を有する化合物をいう。なお、ここでいう、重合性化合物は、上記した単官能モノマー及び多官能モノマーに限られない。本実施形態では、分子量が1000以上のものをオリゴマーとし、分子量が1000以下のものをモノマーと定義する。
【0067】
このようなオリゴマーとしては、特に制限されないが、例えば、繰り返し構造がウレタンであるウレタンアクリレートオリゴマー、繰り返し構造がエステルであるポリエステルアクリレートオリゴマー、繰り返し構造がエポキシであるエポキシアクリレートオリゴマーなどが挙げられる。
【0068】
このなかでも、ウレタンアクリレートオリゴマーが好ましく、脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー、芳香族ウレタンアクリレートオリゴマーがより好ましく、脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマーがさらに好ましい。また、ウレタンアクリレートオリゴマーは、4官能以下のウレタンアクリレートオリゴマーであることが好ましく、2官能のウレタンアクリレートオリゴマーであることがより好ましい。このようなオリゴマーを用いることにより、粘度がより低下し、硬化性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0069】
オリゴマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは1~15質量%であり、より好ましくは1~10質量%であり、さらに好ましくは2~7質量%である。放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対するオリゴマーの含有量が上記範囲内であることにより、粘度がより低下し、硬化性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0070】
1.2. 光重合開始剤
光重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルを用い、必要に応じて、その他の光重合開始剤を用いてもよい。常温で液体である2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルを用いることにより、常温で固体である光重合開始剤の溶解性に関する問題を根本から解決することができる。なお、以下において、単に「アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤」という時は、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル以外のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を意味するものとする。
【0071】
2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1.0質量%以上であり、さらに好ましくは2.0質量%以上であり、よりさらに好ましくは2.5質量%以上であり、さらにより好ましくは3.0質量%以上である。組成物の総量に対する2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルの含有量が0.5質量%以上であることにより、組成物の硬化性がより向上し、また、他の光重合開始剤を用いるとした場合においても他の光重合開始剤の使用量が相対的に減少するため、光重合開始剤の溶解性がより向上する傾向にある。
【0072】
また、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは17.5質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは12.5質量%以下であり、よりさらに好ましくは10質量%以下である。組成物の総量に対する2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルの含有量が17.5質量%以下であることにより、組成物の粘度がより低下する傾向にある。
【0073】
さらに、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルの含有量は、光重合開始剤の総量に対して、好ましくは10~100質量%であり、より好ましくは20~80質量%であり、さらに好ましくは30~60質量%である。光重合開始剤の総量に対する2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルの含有量が上記範囲内であることにより、組成物の硬化性がより向上し、また、他の光重合開始剤を用いるとした場合においても他の光重合開始剤の使用量が相対的に減少するため、光重合開始剤の溶解性がより向上する傾向にある。また、組成物の粘度もより低下する傾向にある。
【0074】
その他の光重合開始剤としては、放射線を照射することにより活性種を生じるものであれば特に制限されないが、例えば、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、アルキルフェノン系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤等の公知の光重合開始剤が挙げられる。これらの中でも、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤及びチオキサントン系光重合開始剤が好ましく、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤がより好ましい。このような光重合開始剤を用いることにより、組成物の硬化性がより向上し、特にUV-LEDの光による硬化プロセスによる硬化性がより向上する傾向にある。光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
その他の光重合開始剤の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは1.0~10.0質量%であり、より好ましくは1.0~8.0質量%であり、さらに好ましくは2.0~7.0質量%である。その他の光重合開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、組成物の硬化性及び光重合開始剤の溶解性がより向上する傾向にある。
【0076】
また、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルとその他の光重合開始剤を含む光重合開始剤の総含有量は、好ましくは5.0~19質量%であり、より好ましくは6.0~17質量%であり、さらに好ましくは7.0~15質量%である。光重合開始剤の総含有量が上記範囲内であることにより、組成物の硬化性及び光重合開始剤の溶解性がより向上する傾向にある。
【0077】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、IRGACURE 819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)、SPEEDCURE TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)等が挙げられる。また、上記に加えて、Speedcure DETX(2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン)等の、増感剤を併用してもよい。
【0078】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは2.0~12質量%であり、より好ましくは2.0~10質量%であり、さらに好ましくは2.0~7.5質量%である。アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、組成物の硬化性及び光重合開始剤の溶解性がより向上する傾向にある。
【0079】
アルキルフェノン系光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、IRGACURE 127(2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン)、IRGACURE 369(2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1)、IRGACURE 379(2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン)、IRGACURE 907(2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン)などが挙げられる。
【0080】
アルキルフェノン系光重合開始剤の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.1~5.0質量%であり、より好ましくは0.5~4.0質量%であり、さらに好ましくは1.0~3.0質量%である。アルキルフェノン系光重合開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、組成物の硬化性がより向上する傾向にある。
【0081】
1.3. 重合禁止剤
重合禁止剤としては、以下に制限されないが、例えば、p-メトキシフェノール、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、ヒドロキノン、クレゾール、t-ブチルカテコール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-ブチルフェノール)、及び4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ヒンダードアミン化合物、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル(TEMPO)、または2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシルの誘導体などが挙げられる。
【0082】
重合禁止剤の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.01~0.5質量%であり、より好ましくは0.05~0.3質量%である。重合禁止剤の含有量が上記範囲内であることにより、組成物の保存安定性がより向上する傾向にある。
【0083】
1.4.界面活性剤
界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0084】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
が挙げられる。
【0085】
フッ素系界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。
【0086】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエステル変性シリコーンまたはポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。ポリエステル変性シリコーンとしては、BYK-347、348、BYK-UV3500、3510、3530(以上、BYK Additives&Instruments社製)等が挙げられ、ポリエーテル変性シリコーンとしては、BYK-3570(BYK Additives&Instruments社製)等が挙げられる。
【0087】
界面活性剤の含有量は、組成物の総質量に対し、好ましくは0.1~1質量%であり、より好ましくは0.2~0.8質量%である。界面活性剤の含有量が上記範囲内であることにより、組成物の濡れ性がより向上する傾向にある。
【0088】
1.5.その他の成分
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物は、必要に応じて、顔料や染料などの色材、顔料等の分散剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
【0089】
2.放射線硬化型インクジェット組成物の製造方法
放射線硬化型インクジェット組成物の製造(調製)は、組成物に含有する各成分を混合し、成分が充分均一に混合するよう撹拌することにより行う。本実施形態において、放射線硬化型インクジェット組成物の調製は、調製の過程において、重合開始剤とモノマーの少なくとも一部とを混合した混合物に対して、超音波処理と加温処理の少なくとも何れかを施す工程を有することが好ましい。これにより、調製後の組成物の溶存酸素量を低減することができ、吐出安定性や保存安定性に優れた放射線硬化型インクジェット組成物とすることができる。上記混合物は、少なくとも上記の成分を含むものであればよく、放射線硬化型インクジェット組成物に含む他の成分を更に含むものでも良いし、放射線硬化型インクジェット組成物に含む全ての成分を含むものでもよい。混合物に含むモノマーは、放射線硬化型インクジェット組成物に含むモノマーの少なくとも一部であればよい。
【0090】
3.インクジェット方法
本実施形態に係るインクジェット方法は、所定の液体噴射ヘッドを用いて、上記放射線硬化型インクジェット組成物を、吐出して記録媒体に付着させる吐出工程と、記録媒体に付着した放射線硬化型インクジェット組成物に対して、放射線を照射する照射工程と、を有する。
【0091】
2.1.吐出工程
吐出工程では、加熱した組成物を液体噴射ヘッドから吐出して記録媒体に付着させる。より具体的には、圧力発生手段を駆動させて、液体噴射ヘッドの圧力発生室内に充填された組成物をノズルから吐出させる。このような吐出方法をインクジェット法ともいう。
【0092】
吐出工程において用いる液体噴射ヘッド10としては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0093】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の記録幅以上の幅を有する液体噴射ヘッドをインクジェット装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(記録媒体の縦方向、搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動して液体噴射ヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0094】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジに液体噴射ヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(記録媒体の横方向、幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してヘッドのノズル開口からインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録することができる。
【0095】
2.2.照射工程
照射工程では、記録媒体に付着した放射線硬化型インクジェット組成物に対して、放射線を照射する。放射線が照射されると、モノマーの重合反応が開始することで組成物が硬化し、塗膜が形成される。このとき、重合開始剤が存在すると、ラジカル、酸、及び塩基等の活性種(開始種)を発生し、モノマーの重合反応が、その開始種の機能によって促進される。また、光増感剤が存在すると、放射線を吸収して励起状態となり、重合開始剤と接触することによって重合開始剤の分解を促進し、より硬化反応を達成させることができる。
【0096】
ここで、放射線としては、紫外線、赤外線、可視光線、エックス線等が挙げられる。放射線源は、液体噴射ヘッドの下流に設けられた放射線源によって、組成物に対して照射する。放射線源としては、特に制限されないが、例えば、紫外線発光ダイオードが挙げられる。このような放射線源を使用することで、装置の小型化やコストの低下を実現できる。紫外線源としての紫外線発光ダイオードは、小型であるため、インクジェット装置内に取り付けることができる。
【0097】
例えば、紫外線発光ダイオードは、放射線硬化型インクジェット組成物を吐出する液体噴射ヘッドが搭載されているキャリッジ(媒体幅方向に沿った両端及び/又は媒体搬送方向側)に取り付けることができる。さらに、上述の放射線硬化型インクジェット組成物の組成に起因して低エネルギーかつ高速での硬化を実現できる。照射エネルギーは、照射時間に照射強度を乗じて算出される。そのため、照射時間を短縮することができ、印刷速度が増大する。一方、照射強度を減少させることもできる。これにより、印刷物の温度上昇を低減できるので、硬化膜の低臭気化にも繋がる。
【0098】
4.インクジェット装置
本実施形態のインクジェット装置は、組成物を吐出するノズルと、組成物が供給される圧力室と、を備える液体噴射ヘッドと、組成物に対して放射線を照射する放射線源と、を備え、組成物として上記放射線硬化型インクジェット組成物を用いる。また、液体噴射ヘッド内またはインク流路内、あるいは記録媒体上の組成物を加熱する加熱部を有していてもよい。
【0099】
インクジェット装置の一例として、
図1に、シリアルプリンタの斜視図を示す。
図1に示すように、シリアルプリンタ20は、搬送部220と、記録部230とを備えている。搬送部220は、シリアルプリンタに給送された記録媒体Fを記録部230へと搬送し、記録後の記録媒体をシリアルプリンタの外に排出する。具体的には、搬送部220は、各送りローラを有し、送られた記録媒体Fを副走査方向T1へ搬送する。
【0100】
また、記録部230は、搬送部220から送られた記録媒体Fに対して組成物を吐出するインクジェットヘッド231と、付着した組成物に対して放射線を照射する放射線源232と、これらを搭載するキャリッジ234と、キャリッジ234を記録媒体Fの主走査方向S1、S2に移動させるキャリッジ移動機構235を備える。
【0101】
シリアルプリンタの場合には、インクジェットヘッド231として記録媒体の幅より小さい長さであるヘッドを備え、ヘッドが移動し、複数パス(マルチパス)で記録が行われる。また、シリアルプリンタでは、所定の方向に移動するキャリッジ234にヘッド231と放射線源232が搭載されており、キャリッジの移動に伴ってヘッドが移動することにより記録媒体上に組成物を吐出する。これにより、2パス以上(マルチパス)で記録が行われる。なお、パスを主走査ともいう。パスとパスの間には記録媒体を搬送する副走査を行う。つまり主走査と副走査を交互に行う。
【0102】
なお、
図1においては放射線源がキャリッジに搭載される態様が示されているが、これに限らず、キャリッジに搭載されない放射線源を有していてもよい。
【0103】
また、本実施形態のインクジェット装置は、上記シリアル方式のプリンタに限定されず、上述したライン方式のプリンタであってもよい。
【0104】
4. 記録物
本実施形態の記録物は、記録媒体上に上記放射線硬化型インクジェット組成物が付着し、硬化したものである。上記組成物が良好な延伸性と密着性を有することにより、切り出しや折り曲げ等の後加工を施した際に塗膜のひび割れや欠けを抑制することができる。そのため、本実施形態の記録物は、サイン用途やラベル用途等に好適に用いることができる。
【0105】
記録媒体の素材としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等のプラスチック類及びこれらの表面が加工処理されているもの、ガラス、紙、金属、木材等が挙げられる。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を、実施例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0107】
1.放射線硬化型インクジェット組成物の調製
まず、色材、分散剤、各モノマーの一部を秤量して顔料分散用のタンクに入れ、タンクに直径1mmのセラミック製ビーズミルを入れて攪拌することにより、色材をモノマー中に分散させた顔料分散液を得た。次いで、表1に記載の組成となるように、ステンレス製容器である混合物用タンクに、残りのモノマー、重合開始剤及び重合禁止剤を入れ、混合攪拌して完全に溶解させた後、上記で得られた顔料分散液を投入して、さらに常温で1時間混合撹拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過することにより各例の放射線硬化型インクジェット組成物を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は質量%を表す。
【0108】
表1中で使用した略号や製品の成分は、以下の通りである。
【0109】
<単官能モノマー>
・PEA(商品名「ビスコート#192、大阪有機化学工業株式会社製、フェノキシエチルアクリレート」)
・ACMO(KJケミカルズ株式会社製、アクリロイルモルフォリン)
・DCPA(日立化成株式会社製、ジシクロペンテニルアクリレート)
・IBXA(大阪有機化学工業株式会社製、イソボルニルアクリレート)
・MUA(東京化成工業株式会社製、2-(ブチルカルバモイルオキシ)エチルアクリレート)
・SR217(東京化成工業株式会社製、tertブチルシクロヘキサノールアクリレート)
・4-HBA(大阪有機化学工業社製、4-ヒドロキシブチルアクリレート)
・LA(大阪有機化学工業社製、ラウリルアクリレート)
・INAA(大阪有機化学工業社製、イソノニルアクリレート)
<多官能モノマー>
・VEEA(株式会社日本触媒製、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル)
<光重合開始剤>
・TPO-L(Accela ChemBio Inc.、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチル)
・IRGACURE 819(BASF社製、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)
・Speedcure TPO(Lambson社製、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)
・Speedcure DETX(Lambson社製、2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン)
・IRGACURE 127(BASF社製、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン)
<重合禁止剤>
・MEHQ(商品名「p-メトキシフェノール」、関東化学株式会社製、ヒドロキノンモノメチルエーテル)
<界面活性剤>
・BYK-UV3500(BYK Additives&Instruments社製、アクリロイル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)
<色材>
・Pigment Blue15:3(商品名「C.I.ピグメントブルー15:3」、DIC社製、フタロシアニンブルー)
<分散剤>
・Solsperse 36000(Lubrizol社製、高分子分散剤)
【0110】
2.評価方法
2.1.粘度の評価
回転粘度計(製品名「レオメーターMCR-301」、アントンパール社製)を用いて、20℃の環境下で、各放射線硬化型インクジェット組成物の粘度を測定した。評価基準は下記のとおりである。
(評価基準)
A:粘度が6mPa・s未満
B:粘度が6mPa・s以上、10mPa・s未満
C:粘度が10mPa・s以上、15mPa・s未満
D:粘度が15mPa・s以上
【0111】
2.2.密着性の評価
ポリ塩化ビニルフィルムにバーコーターで塗布厚が10μmになるように各放射線硬化型インクジェット組成物を塗布し、積算エネルギーが照射強度200mJ/cm2となるよう、紫外線を照射した。その際、光源としては、395nmにピーク波長を有するLEDを用いた。そして、得られた塗膜に対して、JIS K5600-5-6に準じてクロスカット試験の評価を行った。
【0112】
より具体的には、カッターで、塗膜に対して垂直になるように切込み工具の刃を当てて、切込み間の距離が1mmのマス目を入れて、10×10マスの格子を作った。格子に、約75mmの長さの透明付着テープ(幅25mm)を貼り付け、硬化膜が透けて見えるように十分指でテープを擦った。次に、テープを貼り付けて5分以内に、60°に近い角度で、0.5~1.0秒で確実にテープを硬化膜から引き剥がして、格子の状態を目視にて観察した。評価基準は下記のとおりである。
(評価基準)
A:格子の10%未満に硬化膜の剥離が認められた。
B:格子の10%以上35%未満に硬化膜の剥離が認められた。
C:格子の35%以上に硬化膜の剥離が認められた。
【0113】
2.3.耐擦性の評価
上記密着性の評価において作製した、硬化後の塗膜に対して、JIS R3255に準じてマイクロスクラッチ試験の評価を行った。測定には超薄膜スクラッチ試験機(CSR-5000、ナノテック社製)を用いて耐擦性としての耐荷重を測定した。耐荷重は荷重をかけながらマイクロスクラッチを行い、触針がメディア面に達した時の荷重とした。測定は触針スタイラス径:15μm、振幅:100μm、スクラッチ速度:10μm/secで行った。評価基準は下記のとおりである。
(評価基準)
A:30mN/cm2以上
B:25mN/cm2以上30mN/cm2未満
C:20mN/cm2以上25mN/cm2未満
D:20mN/cm2未満
【0114】
2.4.硬化性の評価
綿棒加重タック性評価を行った。具体的にはポリ塩化ビニルメディアにバーコーターでインクジェット組成物の塗布厚が10μmになるように各放射線硬化型インクジェット組成物を塗布し、所定の照射強度で0.04sec/cmの速度で、紫外線を照射した。その際、光源としては、395nmにピーク波長を有するLEDを用いた。そして、塗膜表面を綿棒で擦り、綿棒が着色しない照射エネルギーを基準に硬化性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
A:照射エネルギーが200mJ/cm2未満
B:照射エネルギーが200mJ/cm2以上350mJ/cm2未満
C:照射エネルギーが350mJ/cm2以上500mJ/cm2未満
D:照射エネルギーが500mJ/cm2以上
【0115】
【0116】
3.評価結果
表1に、各例で用いた放射線硬化型インクジェット組成物の組成、並びに評価結果を示した。各実施例と比較例1との対比から、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸エチルを用いることにより、モノマー設計の自由度が向上するため、組成物の粘度を低下できることが分かる。また、各実施例と比較例2との対比から、単官能モノマーの含有量を重合性化合物の総量に対して90質量%以上とすることにより密着性がより向上することが分かる。
【符号の説明】
【0117】
20…シリアルプリンタ、220…搬送部、230…記録部、231…インクジェットヘッド、232、233…光源、234…キャリッジ、235…キャリッジ移動機構、F…記録媒体、S1,S2…主走査方向、T1…副走査方向