(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】撥水シート、および、撥水シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 19/20 20060101AFI20240402BHJP
D21H 21/16 20060101ALI20240402BHJP
D21H 19/10 20060101ALI20240402BHJP
D21H 21/56 20060101ALI20240402BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20240402BHJP
C08J 9/26 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
D21H19/20 A
D21H21/16
D21H19/10 Z
D21H21/56
C09K3/18 101
C08J9/26 102
(21)【出願番号】P 2020065159
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】星 沙耶佳
(72)【発明者】
【氏名】増子 達也
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/026368(WO,A1)
【文献】特開昭62-116645(JP,A)
【文献】特開2012-046840(JP,A)
【文献】特開2001-168543(JP,A)
【文献】特開2005-253711(JP,A)
【文献】実開昭58-138620(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C08J9/00-9/42
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材と、
ラジカル重合性モノマーの重合体を含む多孔質部であって、前記繊維基材が有する2つの
面と、前記繊維基材が含む繊維間の間隙とに位置する前記多孔質部と、
撥水剤を含む膜であって、前記多孔質部の表面上に位置する撥水膜と、を備え
、
前記繊維基材は、紙であり、
前記多孔質部は、粒状の塊が連なった構造を有するとともに、前記繊維基材の厚さ方向の全体に渡って連続するように前記繊維基材の前記2つの面の各々と前記繊維間の間隙とに位置し、かつ、前記繊維基材の前記2つの面の各々において連続的な1つの膜状を有する
撥水シート。
【請求項2】
前記撥水シートの端面には、前記繊維基材が含む繊維間から前記多孔質部が露出している
請求項
1に記載の撥水シート。
【請求項3】
前記撥水シートの単位面積あたりにおいて、前記繊維基材の質量に対する前記繊維基材以外の材料の質量の比は、1未満である
請求項1
または2に記載の撥水シート。
【請求項4】
前記撥水シートの表面であって、前記多孔質部を含む表層部が有する前記表面における水の接触角は135°以上である
請求項1~
3のいずれか一項に記載の撥水シート。
【請求項5】
前記ラジカル重合性モノマーは、分子量が1000以下であり、かつ、下記式(1)で表される反応点価が500以下である低分子量モノマーを含む
分子量/分子中のラジカル重合反応官能基の数 ・・・(1)
請求項1~
4のいずれか一項に記載の撥水シート。
【請求項6】
ラジカル重合性モノマーと、前記ラジカル重合性モノマーに対して不活性な溶媒である細孔形成剤とを含む塗布液を
紙である繊維基材に塗布して前記繊維基材に浸透させることにより、塗膜を形成する工程と、
前記塗膜にてラジカル重合反応を進行させる工程と、
前記ラジカル重合反応後の前記塗膜から前記細孔形成剤を除去することで、当該膜に細孔を形成して多孔質部を形成する工程と、
前記多孔質部に撥水剤を塗布する工程と、を含
み、
前記多孔質部が、粒状の塊が連なった構造を有するとともに、前記繊維基材の厚さ方向の全体に渡って連続するように前記繊維基材の2つの面の各々と前記繊維基材が含む繊維間の間隙とに位置し、かつ、前記繊維基材の前記2つの面の各々において連続的な1つの膜状を有するように、前記多孔質部を形成する
撥水シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維基材を備える撥水シート、および、撥水シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙等の繊維基材に撥水性が付与されたシートである撥水シートが知られている。こうした撥水シートは、繊維基材の表面に、撥水剤を含む表面層を備えている(例えば、特許文献1参照)。従来から、表面層の化学的な性質を改良して撥水性を向上させるために、表面層の材料の研究開発が重ねられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表面層の化学的な性質の改良のみによって撥水性を高めることには限界がある。そこで、撥水シートにおいては、表面層の化学的な性質とは異なる観点からの撥水性の向上が望まれている。
【0005】
本発明は、撥水性の向上を可能とした撥水シート、および、撥水シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する撥水シートは、繊維基材と、ラジカル重合性モノマーの重合体を含む多孔質部であって、前記繊維基材が有する2つの面のうちの少なくとも一方の面と、前記繊維基材が含む繊維間の間隙とに位置する前記多孔質部と、撥水剤を含む膜であって、前記多孔質部の表面上に位置する撥水膜と、を備える。
【0007】
上記構成によれば、撥水シートの表面に微細な凹凸構造が位置するため、撥水シートの撥水性が高められる。
【0008】
上記構成において、前記多孔質部は、前記撥水シートの厚さ方向の全体に渡って、前記繊維基材の前記2つの面の各々と前記繊維間の間隙とに位置してもよい。
上記構成によれば、撥水シートの厚さ方向の全体に渡って繊維間の間隙が多孔質部で埋められているため、水が繊維基材の内部に浸入し難い。したがって、撥水シートの耐水性が高められる。
【0009】
上記構成において、前記撥水シートの端面には、前記繊維基材が含む繊維間から前記多孔質部が露出していてもよい。
上記構成によれば、撥水シートの端面まで繊維間の間隙が多孔質部で埋められているため、撥水シートの端面から繊維基材の内部へ水が浸入することが抑えられる。したがって、撥水シートの耐水性がより高められる。
【0010】
上記構成において、前記撥水シートの単位面積あたりにおいて、前記繊維基材の質量に対する前記繊維基材以外の材料の質量の比は、1未満であってもよい。
上記構成によれば、撥水シートにおいて繊維基材以外の樹脂等の材料の比率が抑えられるため、繊維基材由来の性質が撥水シートにて発現しやすい。
【0011】
上記構成において、前記撥水シートの表面であって、前記多孔質部を含む表層部が有する前記表面における水の接触角は135°以上であってもよい。
上記構成によれば、撥水シートにおいて、高い撥水性が得られる。
【0012】
上記構成において、前記ラジカル重合性モノマーは、分子量が1000以下であり、かつ、下記式(1)で表される反応点価が500以下である低分子量モノマーを含んでもよい。分子量/分子中のラジカル重合反応官能基の数 ・・・(1)
上記構成によれば、多孔質部の凹凸構造が好適に形成されて撥水性が高められるとともに、多孔質部の耐摩耗性が高められる。
【0013】
上記構成において、前記繊維基材は、紙であってもよい。
上記構成によれば、撥水シートを千切ることや、撥水シートの生分解が可能となるため、リサイクル等の撥水シートの廃棄のための処理が容易である。
【0014】
上記課題を解決する撥水シートの製造方法は、ラジカル重合性モノマーと、前記ラジカル重合性モノマーに対して不活性な溶媒である細孔形成剤とを含む塗布液を繊維基材に塗布して前記繊維基材に浸透させることにより、塗膜を形成する工程と、前記塗膜にてラジカル重合反応を進行させる工程と、前記ラジカル重合反応後の前記塗膜から前記細孔形成剤を除去することで、当該膜に細孔を形成して多孔質部を形成する工程と、前記多孔質部に撥水剤を塗布する工程と、を含む。
【0015】
上記製法によれば、表面に微細な凹凸構造が形成された撥水シートを製造することができるため、撥水性の高い撥水シートの製造が可能である。上記製法においては、多孔質部の材料が液体の状態で塗布液を繊維基材に浸透させた後に、細孔の形成により多孔質部を形成するため、繊維基材の内部まで、繊維間の間隙を多孔質部で埋めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、撥水シートの撥水性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】撥水シートの一実施形態について、撥水シートの断面構造を示す図。
【
図2】一実施形態の撥水シートの断面構造を拡大して示す図。
【
図3】一実施形態の撥水シートの一例について、撥水シートの断面のSEM画像を示す図。
【
図4】繊維基材の一例について、繊維基材の断面のSEM画像を示す図。
【
図5】撥水シートの製造方法の一実施形態について、製造の手順を示す図。
【
図6】(a)~(d)は、比較対象の撥水シートの構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して、撥水シート、および、撥水シートの製造方法の一実施形態を説明する。
[撥水シートの構造]
図1が示すように、撥水シート10は、繊維からなる基材である繊維基材11と、多孔質部12とを備えている。多孔質部12は、ラジカル重合性モノマーの重合体を含む。多孔質部12は、繊維基材11が有する2つの表面の各々の面上と、繊維基材11の内部における繊維間の隙間に位置する。
【0019】
図2は、撥水シート10の断面を拡大して模式的に示す図である。繊維基材11は複数の繊維20が絡み合った構造を有し、繊維20間には間隙Sfが形成されている。
多孔質部12は、微小な粒状の塊が連なった構造を有する。こうした粒状の塊の連なりによって、多孔質部12は、その表面に微細な凹凸構造Rgを有し、その内部に多数の細孔Prを有している。言い換えれば、凹凸構造Rgは、多孔質部12の内部にも形成されており、凹凸構造Rgの連なりによって区画される隙間が細孔Prである。多孔質部12は、繊維基材11の両面の各々に位置するとともに、繊維基材11の厚さ方向の全体に渡って間隙Sfを埋めている。
さらに、撥水シート10は、多孔質部12の凹凸構造Rgの表面に、撥水剤を含む撥水膜13を有している。
【0020】
上記構成によれば、撥水シート10の表面は、多孔質部12の凹凸構造Rgに基づく微細な凹凸を有する。こうした微細な凹凸へは水が浸入し難いため、撥水シート10の表面に水滴が付着したとしても、表面と水滴との接触面積が非常に小さくなる。そのため、撥水シート10の表面において水滴が弾かれやすくなり、高い撥水性が得られる。そして、撥水膜13が形成されていることにより、撥水シート10の表面の撥水性がより高められる。
【0021】
さらに、仮に撥水シート10の継続的な使用によって多孔質部12の最表面が摩耗したとしても、その下の凹凸構造Rgが最表面に露出することにより撥水シート10の表面には凹凸が位置し続ける。したがって、長期的な撥水性の持続が可能である。
【0022】
また、繊維基材11の内部の間隙Sfにも多孔質部12が位置するため、水が撥水シート10の内部へ入り込みにくい。したがって、高い耐水性が得られる。特に、撥水シート10の端面からの水の浸入が抑えられるため、耐水性が好適に高められる。それゆえ、例えば雨にさらされる環境のように、水との接触が多い環境で撥水シート10が用いられる場合にも、撥水シート10の剛度等の性能が吸水によって低下することが抑えられる。
【0023】
撥水シート10の端面からの水の浸入をより的確に抑える観点では、繊維基材11の端面まで、間隙Sfが多孔質部12で埋まっていることが好ましい。すなわち、繊維20の間から多孔質部12が繊維基材11の端面に露出していることが好ましい。
【0024】
一方で、多孔質部12は細孔Prを有しているため、間隙Sfの全体が樹脂で充填された構造や、樹脂シートが繊維基材11に積層された構造と比較して、撥水シート10における樹脂の比率は小さくなる。したがって、繊維基材11由来の性質が撥水シート10にて発現しやすい。例えば、撥水シート10の廃棄時に、撥水シート10を繊維基材11と同様に取り扱うことが可能となる。特に、繊維基材11が紙である場合には、撥水シート10を千切って廃棄することや、撥水シート10の生分解が可能となるため、リサイクルのための処理も容易になる。
【0025】
撥水シート10において、単位面積あたりの繊維基材11の質量に対する繊維基材11以外の材料の質量の比である対繊維比率は、1未満であることが好ましい。対繊維比率が1未満であれば、撥水シート10における繊維基材11以外の材料の比率、特に樹脂材料の比率が低く抑えられるため、上述した効果が高く得られる。なお、繊維基材11以外の材料には、多孔質部12と撥水膜13とが含まれるが、撥水膜13の質量は微小であることから、上記繊維基材11以外の材料の質量は、ほぼ多孔質部12の質量である。
【0026】
繊維基材11の表面上において、多孔質部12は、粒状の塊が少なくとも1粒ずつ繊維基材11の表面に沿って並ぶ膜状を有していればよい。繊維基材11の表面上における多孔質部12の厚さが100nm以上であれば、繊維基材11の表面上にて多孔質部12が連続的な膜状に形成されて良好な撥水性が得られるため、好ましい。
【0027】
上記多孔質部12の厚さが大きいほど、撥水性の持続性が高められる。一方で、上記多孔質部12の厚さが小さいほど、繊維基材11の表面から多孔質部12が剥離し難くなる、撥水シート10における樹脂の比率が小さくなる、多孔質部12の製造に要するコストや時間が削減される、といった効果が得られる。こうした観点から、繊維基材11の表面上における多孔質部12の厚さは、100μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
【0028】
なお、多孔質部12の上記厚さは、以下の方法によって算出される。まず、撥水シート10における複数の箇所から、断面観察用の試料を作製する。例えば、撥水シート10が平面視にて矩形状を有する場合、撥水シートの中央部と四隅との5箇所から試料を作製する。そして、各試料について、走査型電子顕微鏡を用いて断面を観察し、100μm間隔で5点の測定点について繊維基材11の表面上の多孔質部12の厚さを測定して、その平均値を試料ごとの厚さとする。すべての試料についての当該厚さを平均した値が、多孔質部12の厚さである。
繊維基材11の厚さは特に限定されないが、例えば、50μm以上500μm以下の範囲から選択されればよい。
【0029】
撥水膜13は、少なくとも、繊維基材11の一方の面に位置する多孔質部12の最表面、言い換えれば、凹凸構造Rgの最外部に形成されていればよい。撥水シート10の撥水性の持続性と耐水性とを高める観点では、撥水膜13は、多孔質部12の最表面に加えて、多孔質部12の内部で細孔Prを区画している凹凸構造Rgの表面にも形成されていることが好ましい。
【0030】
なお、多孔質部12における細孔Prの大きさおよび凹凸構造Rgの粗さは、多孔質部12の形成のための材料によって調整可能である。多孔質部12は、凹凸構造Rgの連なりからなる細孔Prを有する多孔質状であれば、微小な粒状の塊が連なった構造とは異なる構造を有していてもよい。
【0031】
凹凸構造Rgの粗さの調整によって、撥水性の調整が可能である。高い撥水性を得るためには、撥水シート10の表面における水の接触角は、135°以上であることが好ましい。なお、水の接触角は、JIS R 3257(1999)に規定される静滴法に従って測定される。
【0032】
図3は、本実施形態の撥水シート10の一例について、その断面を走査型電子顕微鏡で撮影した画像を示す。繊維基材11としては紙を用いている。矢印A1で示す領域が、繊維基材11を構成する繊維20が位置する領域であり、矢印A2で示す領域が、多孔質部12が位置する領域である。多孔質部12は、繊維基材11の表面上、および、繊維20間の間隙Sf内に位置している。なお、
図4は、繊維基材11のみの断面を走査型電子顕微鏡で撮影した画像を示す。すなわち、
図4は、多孔質部12の形成のための塗布液が塗布される前の繊維基材11の断面の画像である。繊維基材11の内部において繊維20間に間隙Sfが形成されており、間隙Sfが他の物質によっては充填されていないことが確認できる。
【0033】
なお、撥水シート10は、表層部に、インクの塗布によって形成される有色の印刷部を備えていてもよい。印刷部は、撥水膜13上に位置してもよいし、多孔質部12と撥水膜13との間に位置してもよい。すなわち、印刷部が形成されている部分では、撥水膜13は、多孔質部12の表面上に位置していれば、多孔質部12と直接に接していなくてもよい。
【0034】
本実施形態の撥水シート10においては、多孔質部12が繊維基材11の表面に位置するため、インクが含む顔料等の色素成分の濡れ広がりが抑えられる。それゆえ、印刷による精細な像の形成が可能である。
【0035】
[撥水シートの材料]
<繊維基材>
繊維基材11は紙であることが好ましい。紙である繊維基材11を構成するパルプとしては、バージンパルプ、古紙パルプ、木材パルプ、非木材パルプ、機械パルプ、化学パルプ等の各種のパルプが使用可能である。繊維基材11は、1種類のパルプから構成されていてもよいし、複数種類のパルプの混合により構成されていてもよい。また、紙である繊維基材11は、各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、例えば、クレー、タルク、炭酸カルシウム等の填料、ロジン、アルキルケテンダイマー等の内部サイジング剤、スターチ、カゼイン、ワックス、ポリビニルアルコール、メラミン樹脂等の表面サイジング剤、ポリアクリルアミド、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ホルマリン樹脂等の紙力増強剤、染料等である。
【0036】
なお、リサイクルが容易であるとともに、材料費が低減可能である観点からは、繊維基材11として、填料や紙力増強剤等の添加剤の含有量が少ない印刷用紙や包装用紙を用いることが好ましい。
【0037】
また、繊維基材11は、織物、編物、不織布であってもよい。織物、編物、不織布を構成する繊維としては、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維等の各種の繊維が使用可能である。繊維基材11は、1種類の繊維から構成されていてもよいし、複数種類の繊維から構成されていてもよい。
【0038】
<塗布液>
多孔質部12の形成のために繊維基材11に塗布される塗布液は、ラジカル重合性モノマーと、細孔形成剤として機能する溶媒とを含む。また、塗布液は、重合開始剤や各種の添加剤を含んでいてもよい。以下、塗布液に含まれる材料の詳細を説明する。
【0039】
(ラジカル重合性モノマー)
塗布液が含有するラジカル重合性モノマーは、反応速度の速さが良好である等の観点から、アクリル基、メタクリル基、α塩素置換アクリル基、アクリルアミド、メタクリルアミド等の構造を有するモノマーであることが好ましい。特に、アクリル基やメタクリル基を有するモノマーであれば、様々な構造のモノマーを安価に入手できることから、これらのモノマーを用いることで、多孔質部12の製造に要するコストの削減が可能である。
【0040】
塗布液が含有するラジカル重合性モノマーには、分子量が1000以下であり、かつ、下記式(1)で表される反応点価Vが500以下である低分子量モノマーが含まれることが好ましい。反応点価Vは、下記式(1)に示すように、モノマーの分子量を、モノマー1分子が有する反応点の数、すなわち、ラジカル重合反応官能基の数で除した値である。
反応点価V=分子量/分子中のラジカル重合反応官能基の数 ・・・(1)
【0041】
なお、モノマーの構造に分布がある場合、反応点価Vの計算に際して、分子量および反応点の数については、その平均値が代表値として用いられる。
上記低分子量モノマーが重合されることにより、多孔質部12の凹凸構造Rgが好適に形成されて撥水性が高められるとともに、多孔質部12の耐摩耗性が高められる。
【0042】
上記低分子量モノマーは、例えば、硬化樹脂膜を形成する際に汎用的に用いられるモノマーのなかから、塗布液の粘度の調整、多孔質部12の硬度の調整、多孔質部12における細孔Prの形状や大きさの調整等の観点に基づき適宜選択することができる。
【0043】
上記低分子量モノマーの一例は、1官能(メタ)アクリル基を有するモノマーである。1官能(メタ)アクリル基を有するモノマーとしては、例えば、市販されているモノマーとして、アルキル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、ω-カルボキシカプロラクトンモノアクリレート、フッ素置換アルキル(メタ)アクリレート、塩素置換アルキル(メタ)アクリレート、スルホン酸-2-メチルプロパン-2-アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルクロライド、(メタ)アクリルアルデヒド、シラノ基含有(メタ)アクリレート、((ジ)アルキル)アミノ基含有(メタ)アクリレート、4級((ジ)アルキル)アンモニウム基含有(メタ)アクリレート、(N-アルキル)アクリルアミド、(N、N-ジアルキル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ポリジメチルシロキサン鎖含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0044】
ここで、撥水性の向上のために多孔質部12の表面における自由エネルギーを低下させる場合は、低分子量モノマーとして、炭素鎖1から18の分岐したアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートやイソボルニル(メタ)アクリレート等の炭化水素基を含有するモノマー、フッ素置換アルキル(メタ)アクリレート、ポリ-パーフルオロアルキルエーテル鎖含有(メタ)アクリレート、ポリジメチルシロキサン鎖含有(メタ)アクリレート等を用いることが好ましい。
【0045】
また、上記低分子量モノマーの他の例は、(メタ)アクリル基を有し、1分子中に2つ以上の官能基を有するモノマーである。
(メタ)アクリル基を有する低分子量モノマーのうち、2官能モノマーの例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、エチレングリコール3-20量体を架橋鎖として有するジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコール3-20量体を架橋鎖として有するジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2′-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、2,2′-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン、ヒドロキシジピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ビス(アクロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、N-メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0046】
(メタ)アクリル基を有する低分子量モノマーのうち、3官能モノマーの例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0047】
(メタ)アクリル基を有する低分子量モノマーのうち、4官能モノマーの例としては、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられ、6官能モノマーの例としては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0048】
また、塗布液が含有するラジカル重合性モノマーには、分子量が10000以上であり、かつ、上記式(1)で表される反応点価Vが250以上である高分子量多官能モノマーが含まれていてもよい。ラジカル重合性モノマーに高分子量多官能モノマーが含まれることにより、多孔質部12の耐摩耗性が高められる。また、上記高分子量多官能モノマーの分子量が25000以上であれば、多孔質部12の耐摩耗性がより高められる。
【0049】
塗布液が、上記低分子量モノマーに加えて上記高分子量多官能モノマーを含む場合、高分子量多官能モノマーとしては、低分子量モノマーと相溶性を有するモノマーが選択される。本実施形態において、低分子量モノマーと相溶性を有するモノマーとは、低分子量モノマーと、対象のモノマーとを1対1の質量比で混合した際に、透明な均一液体になるモノマーである。
【0050】
高分子量多官能モノマーは、例えば、ポリエチレングリコールである軸分子と、ラジカル重合性反応基を有するシクロデキストリンである環状分子とを有するポリロタキサン分子である。当該ポリロタキサン分子は、環状分子であるシクロデキストリンに、軸分子であるポリエチレングリコール鎖が包摂された構造を有する。こうした構造では、環状分子が軸分子に共有結合していないため、環状分子が軸分子に沿って自由に移動できる。このため、多孔質部12の変形に対する耐性を高めることができる。
【0051】
こうしたポリロタキサン分子の例としては、アドバンスト・ソフトマテリアル社製のSREMシリーズ(SM1303P、SM2403P、SM3403P、SA1303P、SA2403P、SA3403P)が挙げられる。
【0052】
塗布液が高分子量多官能モノマーを含む場合、塗布液が含有するラジカル重合性モノマー全体に対する高分子量多官能モノマーの質量割合は、1wt%以上30wt%以下であることが好ましい。当該範囲内の添加量で高分子量多官能モノマーを加えることによって、多孔質部12の耐摩耗性を好適に高めることができる。
なお、塗布液が含有するラジカル重合性モノマーには、上記低分子量モノマーおよび上記高分子量多官能モノマー以外のモノマーが含まれてもよい。
【0053】
(細孔形成剤)
細孔形成剤は、塗膜に細孔Prを形成するための溶媒であり、ラジカル重合性モノマーに対して不活性である。細孔形成剤は、ラジカル重合反応である付加重合反応を阻害しない溶媒であって、塗布液の全ての成分が混合された後に、経時で不均一化しない相溶状態を形成するとともに、繊維基材11に浸透し、かつ、ラジカル重合反応の完了後に除去されることで細孔Prを形成可能な組成を有していればよい。
【0054】
細孔Prの形成に適した細孔形成剤は、塗布液に含まれるラジカル重合性モノマーの組成によって異なる。このため、細孔形成剤は、ラジカル重合性モノマーとして用いられる各種のモノマーに応じて適切に選択される必要がある。例えば、塗布液が、ラジカル重合性モノマーとして親水性の官能基を有するモノマーを多く含む場合には、ミリスチン酸メチル等のように、長い炭化水素鎖を有する極性の低い分子からなる溶媒を細孔形成剤として用いると、発達した相分離構造が形成される傾向があるため好ましい。
【0055】
また、ラジカル重合反応を開放環境で行う場合には、少なくともラジカル重合反応の進行期間における細孔形成剤の揮発量の割合が小さいことが求められる。このため、細孔形成剤としては、揮発性の小さい分子からなる溶媒を使用することが望ましい。
【0056】
開放環境においてラジカル重合反応を行う場合に適した細孔形成剤としては、例えば、ジエチルカーボネート、キシレン、ジメチルアセトアミド、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、オルトクレゾール、パラクレゾール、デカン酸メチル、ミリスチン酸メチル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエキシルエーテル、ジイソペンチルエーテル、酢酸2-(2-エトキシエトキシ)エチル、酢酸2-(2ブトキシエトキシ)エチル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0057】
なお、塗布液に高分子量多官能モノマーを添加する場合には、高分子量多官能モノマーを溶解するために、例えばジエチレングリコールジブチルエーテル等のように、極性の高い分子からなる溶媒を、細孔形成剤として用いる、あるいは、細孔形成剤に添加することが好ましい。
【0058】
(重合開始剤)
ラジカル重合性モノマーの重合に活性エネルギー線の照射を利用する場合、重合開始剤としては、活性エネルギー線の照射によりラジカル重合反応を開始させることが可能な化合物であれば、特に制限なく用いることができる。
【0059】
例えば、重合開始剤としては、p-tert-ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2′-ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン等のアセトフェノン類、ベンゾフェノン、4,4′-ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等のケトン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のベンジルケタール類、N-アジドスルフォニルフェニルマレイミド等のアジドが挙げられる。こうした重合開始剤を塗布液に添加することで、塗布液に活性エネルギー線を照射することによってラジカル重合反応を開始させることができる。
【0060】
また、活性エネルギー線の照射に代えて、塗布液を加熱することによりラジカル重合反応を開始させる場合は、重合開始剤として、アゾ-ビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物や、過酸化ベンゾイル等の過酸化物を用いればよい。こうした重合開始剤を塗布液に添加することで、塗布液の加熱によってラジカル重合反応を開始させることができる。
重合反応の好適な進行のためには、塗布液への重合開始剤の添加量は、ラジカル重合性モノマー全体の質量に対して0.5wt%以上10wt%以下であることが好ましい。
【0061】
(添加剤)
塗布液には、細孔形成剤として用いられる溶媒に溶解可能な増粘剤が添加されてもよい。増粘剤の添加量は、塗布液の均一性が保持される範囲内とされる。例えば、塗布液には、増粘剤として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールの誘導体、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート等が加えられてもよい。多孔質部12における細孔Prの形状は、塗布液の粘度によって変化する。細孔形成剤の除去工程において、洗浄によって細孔形成剤を除去する場合には、塗布液に添加される増粘剤の質量割合が、塗布液全体の質量に対して2wt%以下であると、細孔形成剤の除去が容易であるため好ましい。
【0062】
また、塗布液には、塗布適正の調整のために表面調整剤が添加されてもよい。例えば、塗布液には、表面調整剤として、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン化合物等の低表面張力化合物が添加されてもよい。表面調整剤の添加は少量でよく、塗布液全体の質量に対して0.1wt%以下の量の表面調整剤を加えることで、表面調整剤は十分に機能する。
【0063】
<撥水剤>
撥水膜13の形成のための撥水剤としては、例えば、フッ素化アルキル基含有アクリレート重合体を含むポリマー、パーフルオロポリエーテル基を有するポリマー、ポリジメチルシロキサン部分を含むポリマー、C4以上のアルキル基を有するポリマー等が挙げられる。撥水剤が、凹凸構造Rgの表面との共有結合を形成可能な官能基を有していると、塗布された撥水剤と凹凸構造Rgの表面との間に共有結合が形成されて撥水膜13が凹凸構造Rgの表面から脱落しにくくなるため、好ましい。
【0064】
[撥水シートの製造方法]
図5が示すように、撥水シート10の製造方法は、塗布液の塗布工程(ステップS10)と、ラジカル重合反応工程(ステップS11)と、細孔形成剤の除去工程(ステップS12)と、撥水剤の塗布工程(ステップS13)とを含む。ステップS10~ステップS13の工程が順に行われることにより、撥水シート10が製造される。さらに、撥水シート10の製造方法は、印刷工程を含んでもよい。以下、各工程について説明する。
【0065】
<塗布液の塗布工程>
塗布液の塗布工程では、上述の各材料を含むように調整した塗布液を、繊維基材11に塗布する。塗布液は、繊維基材11の内部に浸透し、繊維基材11の両面上にも広がるように、繊維基材11に塗布される。これにより、繊維基材11の両面を覆うとともに繊維基材11の内部の間隙Sfを埋める塗膜が形成される。
【0066】
繊維基材11への塗布液の塗布方法は、特に限定されず、グラビアコート、ダイコート、スプレーコート、ディップコート、スピンコート等の公知の塗布方法が用いられる。大面積かつ高速な塗布が可能であるという観点からは、グラビアコート、ダイコート、スプレーコートの各塗布方法が用いられることが好ましい。
【0067】
<ラジカル重合反応工程>
ラジカル重合反応工程では、上記塗膜に対して、活性エネルギー線の照射または加熱を行うことにより、ラジカル重合反応を進行させる。
【0068】
重合反応の開始に活性エネルギーの線の照射を利用する場合、例えば、重合開始剤として光ラジカル発生剤あるいは光酸発生剤を用い、塗膜の表面に紫外線を照射することで、重合反応を開始させる。塗膜に照射される紫外線の波長は、塗布液に含まれる重合開始剤が効率的にエネルギーを吸収して分解可能な波長であればよい。また、紫外線の照射に用いる光源は、所望の波長の紫外線を照射可能な光源であればよい。光源としては、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を用いることができる。ラジカル重合反応工程において、塗膜の表面に酸素分子が存在するとラジカル重合反応が阻害される。これを避けるために、紫外線は、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で照射されてもよい。
【0069】
また、重合反応の開始に加熱を利用する場合には、塗膜の表面を加熱することで重合反応を開始させる。塗膜表面の加熱温度は、塗布液に含まれる重合開始剤の分解温度に基づいて決定すればよい。
【0070】
なお、ラジカル重合反応工程では、重合反応の進行が可能であれば、上記とは異なる方法が用いられてもよい。例えば、塗膜の表面に電子線を照射することでラジカル重合反応を開始させてもよい。この場合、重合開始剤を塗布液に添加せずともラジカル重合反応を進めることが可能である。
【0071】
<細孔形成剤の除去工程>
細孔形成剤の除去工程では、ラジカル重合反応工程を経た塗膜から、細孔形成剤を除去する。細孔形成剤を除去することで、細孔形成剤が存在していた領域に細孔Prが形成される。これにより、繊維基材11の両面を覆うとともに繊維基材11の内部の間隙Sfを埋める多孔質部12が形成される。
【0072】
細孔形成剤の除去方法としては、例えば、細孔形成剤を溶出させる溶媒を用いて塗膜を洗浄する方法や、加熱または減圧によって塗膜を乾燥させることにより細孔形成剤を除去する方法を用いることができる。
【0073】
<撥水剤の塗布工程>
撥水剤の塗布工程では、多孔質部12に撥水剤を塗布することにより、多孔質部12における凹凸構造Rgの表面を被覆する撥水膜13を形成する。
【0074】
撥水剤は、所定の溶媒を用いて希釈された後に、グラビアコート、ダイコート、スプレーコート、ディップコート、スピンコート等の公知の塗布方法によって多孔質部12に塗布されればよい。撥水剤と凹凸構造Rgの表面との間に共有結合を形成するために、撥水剤が塗布された多孔質部12に対して、加熱や活性エネルギー線の照射が行われてもよい。
【0075】
細孔Prを通じて多孔質部12の内部にも撥水剤が浸透するように、撥水剤を多孔質部12に塗布することで、多孔質部12の内部で細孔Prを区画している凹凸構造Rgの表面にも撥水膜13が形成される。
【0076】
<印刷工程>
印刷工程は、細孔形成剤の除去工程の後、撥水剤の塗布工程の前に行われてもよいし、撥水剤の塗布工程の後に行われてもよい。印刷工程が撥水剤の塗布工程の前に行われる場合、多孔質部12の最表面と撥水膜13との間に印刷部が形成される。印刷工程が撥水剤の塗布工程の後に行われる場合、多孔質部12の最表面を覆う撥水膜13上に印刷部が形成される。
印刷方法は、特に限定されず、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷等の公知の印刷方法を用いることができる。
【0077】
[撥水シートの効果]
本実施形態の撥水シート10によれば、上述したように、撥水性の向上、耐水性の向上、対繊維比率の抑制、といった効果が得られる。これらの効果について、本実施形態の撥水シート10の構造を、繊維基材の撥水性を高めるため構造として想定される他の構造と比較しつつ、さらに説明する。
【0078】
図6は、本実施形態の撥水シート10と比較される他の構造を模式的に示す。
図6(a)に示す第1例は、繊維基材100を構成する繊維110の表面に、撥水剤からなる膜である撥水膜120が形成された構造を有する。第1例は、例えば、繊維基材100への撥水剤の塗布、あるいは、撥水剤への繊維基材100の浸漬等によって形成される。
【0079】
第1例によれば、単独の繊維基材よりは撥水性の向上が可能であるものの、第1例のシートの表面は、本実施形態のような微細な凹凸構造Rgを有してはいないため、凹凸構造Rg上に撥水膜13が形成されている本実施形態の撥水シート10と比較すると、撥水性は低くなる。
【0080】
また、第1例においては、撥水膜120は、繊維110の表面に沿って形成されているにすぎず、繊維110間の間隙は埋まっていない。したがって、第1例では、繊維基材100の内部への水の浸入が容易であるため、耐水性は悪くなる。これに対し、本実施形態では、上述のように、繊維基材11の内部の間隙Sfに多孔質部12が位置するため、水が撥水シート10の内部へ浸入しにくく、高い耐水性が得られる。
また、撥水膜120の膜厚は微小であるため、第1例において、対繊維比率は、本実施形態の撥水シート10と同程度以下に低く抑えられる。
【0081】
図6(b)に示す第2例は、繊維110間の間隙が樹脂部130によって充填された構造を有する。樹脂部130は、多孔質状ではなく、細孔および凹凸構造を有していない。第2例は、例えば、粘度の低い液状の樹脂材料を繊維基材100に塗布した後、樹脂材料を硬化させることによって形成される。
【0082】
第2例によっても、単独の繊維基材よりは撥水性の向上が可能である。しかしながら、第2例のシートも、微細な凹凸構造Rgを表面に有してはいないため、本実施形態の撥水シート10と比較すると、撥水性は低くなる。
また、第2例においては、繊維110間の間隙が樹脂部130で充填されているため、繊維基材100の内部への水の浸入は抑えられる。したがって、耐水性は良好となる。
【0083】
一方、樹脂部130は細孔を有していないため、シートにおける樹脂の比率は高くなる。すなわち、第2例においては、対繊維比率が、本実施形態と比較して高くなる。したがって、例えば繊維基材100が紙の場合、本実施形態の撥水シート10と比較して第2例のシートの解体は困難であり、廃棄に際しての処理が煩雑になる。
【0084】
図6(c)に示す第3例は、繊維基材100の表面に樹脂層140が積層された構造を有する。樹脂層140は、多孔質状ではなく、細孔および凹凸構造を有していない。第3例は、例えば、繊維基材100と樹脂シートとを貼り合わせることや、粘度の高い液状の樹脂材料を繊維基材100に塗布した後、樹脂材料を硬化させることによって形成される。
【0085】
第3例によっても、単独の繊維基材よりは撥水性の向上が可能である。しかしながら、第3例のシートも、微細な凹凸構造Rgを表面に有してはいないため、本実施形態の撥水シート10と比較すると、撥水性は低くなる。
【0086】
また、第3例においては、樹脂層140が積層されていることにより、樹脂層140の位置する表面からの繊維基材100の内部への水の浸入は抑えられる。したがって、耐水性は良好となる。ただし、繊維110間の間隙は埋まっていないため、シートの端面からは水が入り込むことがあり得る。
【0087】
また、樹脂層140は細孔を有しておらず、さらに、繊維基材100に樹脂層140を積層して撥水性を発現させるためには、樹脂層140は数10μm以上の厚さを要するため、シートにおける樹脂の比率は高くなる。すなわち、第3例においても、対繊維比率は、本実施形態と比較して高くなる。
【0088】
図6(d)に示す第4例は、繊維基材100の表面に微小な粒子150が膜状に配置された構造を有する。第4例は、例えば、粒子150を含む塗布液を繊維基材100に塗布することによって形成される。
第4例においては、粒子150の並びによる微細な凹凸構造がシートの表面に形成されている。したがって、第1例、第2例、第3例よりも撥水性の向上が可能である。
【0089】
一方、第4例において、粒子150は繊維基材100の表面に位置するのみであり、繊維100間の間隙は埋まっていない。したがって、粒子150間やシートの端面から繊維基材100の内部へ水が入り込みやすく、第4例によっては、本実施形態の撥水シート10ほど高い耐水性は得られない。
また、粒子150は微小であるため、第4例において、対繊維比率は、本実施形態の撥水シート10と同程度以下に低く抑えられる。
【0090】
第4例のように、粒子150を含む塗布液を繊維基材100に塗布したとしても、繊維110の間を通って繊維基材100の内部の間隙にまで粒子150が入り込むことは困難であり、厚さ方向の全体に渡って間隙を粒子150で埋めることはできない。これに対し、本実施形態の撥水シート10の製造工程では、液体の塗布液を繊維基材11へ塗布した後に、重合反応と細孔形成剤の除去とによって粒状の塊を形成する。このように、本実施形態では、塗布液の塗布時においては多孔質部12の材料が液状であるため、繊維基材11の内部まで塗布液が浸透可能であり、その結果、厚さ方向の全体に渡って繊維基材11の間隙を多孔質部12で埋めることが可能である。
【0091】
以上のように、第1例~第4例では、撥水性、耐水性、対繊維比率のうち、1つもしくは2つが良好であったとしても、他の1つもしくは2つが悪くなる。これに対し、本実施形態の撥水シート10によれば、撥水性の向上と、耐水性の向上と、対繊維比率の抑制とのすべてが可能である。
【0092】
[実施例]
上述した撥水シートおよびその製造方法について、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。なお、以下の実施例の構成は一例であって、実施可能な範囲を限定するものではない。
【0093】
(実施例1)
ラジカル重合性モノマーとしてポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業社製、A-200)、細孔形成剤としてデカン酸メチル(富士フィルム和光純薬社製)を用い、4gのラジカル重合性モノマーと5gの細孔形成剤とを混合して塗布液を調整した。塗布液には、光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)と、表面調整剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-330)とを、0.1gずつ添加した。
【0094】
繊維基材として紙(トッパン・フォームズ社製、リサイクルカット判G80)を用い、バーコーター(番手#9)を利用して、塗布液を繊維基材に塗布した。塗膜に対して、UV照射装置(アイグラフィックス社製、ECS-401XN2-6)を用いて窒素雰囲気下で紫外線を照射した。その後、80℃のオーブンで1分間、塗膜を乾燥し、細孔形成剤を除去した。これにより、繊維基材と多孔質部とからなるシートが形成された。
【0095】
撥水剤としてパーフルオロアルキル基含有アクリレート(信越化学工業社製、KY-1203(不揮発成分20wt%))を用い、3.3gの撥水剤と、6.55gの酢酸ブチルとを混合して、撥水剤の希釈液を調整した。希釈液には、0.17gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)を添加した。バーコーター(番手#6)を利用して、上記シートの表面に上記希釈液を塗布した。希釈液の塗布後のシートに対して、UV照射装置(アイグラフィックス社製、ECS-401XN2-6)を用いて窒素雰囲気下で紫外線を照射した。これにより、多孔質部の凹凸構造の表面に撥水膜が形成された。以上により、実施例1の撥水シートを得た。
【0096】
(実施例2)
塗布液の塗布により形成する塗膜の厚さを変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例2の撥水シートを得た。実施例2では、バーコーター(番手#20)を利用して、塗布液を繊維基材に塗布した。
【0097】
(実施例3)
繊維基材として紙(日本製紙社、フロンティタフ75)を用いたこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例3の撥水シートを得た。
【0098】
(実施例4)
塗布液の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例4の撥水シートを得た。実施例4では、ラジカル重合性モノマーとしてアルコキシ化ビスフェノールAアクリレート(新中村化学工業社製、A-BPE-4)、細孔形成剤としてミリスチン酸メチル(富士フィルム和光純薬社製)を用い、4gのラジカル重合性モノマーと12gの細孔形成剤と0.1gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)とを混合して塗布液を調整した。
【0099】
(実施例5)
繊維基材として布(厚さが240μmのポリエステルツイル)を用いたこと以外は、実施例1と同様の材料および工程によって、実施例5の撥水シートを得た。
【0100】
(比較例1)
実施例1と同様の組成の撥水剤の希釈液を調整した。繊維基材として紙(トッパン・フォームズ社製、リサイクルカット判G80)を用い、バーコーター(番手#6)を利用して、繊維基材に上記希釈液を塗布した。希釈液の塗布後のシートに対して、UV照射装置(アイグラフィックス社製、ECS-401XN2-6)を用いて窒素雰囲気下で紫外線を照射した。
【0101】
以上により、比較例1の撥水シートを得た。比較例1の撥水シートは、多孔質部を有さず、繊維基材を構成する繊維の表面に撥水膜が形成された構造を有する。すなわち、比較例1の構造は、上述の第1例の構造に相当する。
【0102】
(比較例2)
4gのポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業社製、A-200)と、0.1gの光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)と、0.1gの表面調整剤(ビックケミー・ジャパン社製、BYK-330)とを混合して塗布液を調整した。当該塗布液は、細孔形成剤を含んでいない。
【0103】
繊維基材として紙(トッパン・フォームズ社製、リサイクルカット判G80)を用い、バーコーター(番手#9)を利用して、塗布液を繊維基材に塗布した。塗膜に対して、UV照射装置(アイグラフィックス社製、ECS-401XN2-6)を用いて窒素雰囲気下で紫外線を照射した。その後、80℃のオーブンで1分間、塗膜を乾燥した。さらに、上記のバーコーターによる塗布液の塗布工程と、UV照射装置による紫外線の照射工程と、オーブンによる塗膜の乾燥工程とをもう一度繰り返した。すなわち、比較例2では、繊維基材に対する樹脂膜の形成を2回、行った。これにより、繊維基材に樹脂層が積層されたシートが形成された。
【0104】
実施例1と同様の組成の撥水剤の希釈液を調整し、バーコーター(番手#6)を利用して、上記シートの表面に上記希釈液を塗布した。希釈液の塗布後のシートに対して、UV照射装置(アイグラフィックス社製、ECS-401XN2-6)を用いて窒素雰囲気下で紫外線を照射した。これにより、樹脂層の表面に撥水膜が形成された。
【0105】
以上により、比較例2の撥水シートを得た。比較例2において、樹脂層は多孔質状ではない。比較例2の構造は、上述の第3例の樹脂層の表面に撥水膜が形成された構造に相当する。なお、樹脂層の一部は繊維基材の表層に重なっており、繊維基材の表面付近の繊維間の間隙には、樹脂が充填されている。
【0106】
(比較例3)
14gのテトラエトキシシラン(信越化学工業社製、KBE-04)、4gの0.1N塩酸、3gのイソプロパノール、および、16gの水を混合して、マグネチックスターラーで30分間攪拌し加水分解溶液を得た。0.8gのフュームドシリカ(日本アエロジル社製、RY200S)と、11gのイソプロパノールとを混合して、マグネチックスターラーで30分間攪拌した分散液を、上記加水分解液と混合して、塗布液を調整した。
【0107】
繊維基材として紙(トッパン・フォームズ社製、リサイクルカット判G80)を用い、バーコーター(番手#12)を利用して、塗布液を繊維基材に塗布した。60℃のオーブンで1分間、塗膜を乾燥した。これにより、繊維基材の表面にシリカ系粒子が積層されたシートが形成された。
【0108】
実施例1と同様の組成の撥水剤の希釈液を調整し、バーコーター(番手#6)を利用して、上記シートの表面に上記希釈液を塗布した。希釈液の塗布後のシートに対して、UV照射装置(アイグラフィックス社製、ECS-401XN2-6)を用いて窒素雰囲気下で紫外線を照射した。これにより、粒子からなる層の表面に撥水膜が形成された。
以上により、比較例3の撥水シートを得た。比較例3の構造は、上述の第4例の粒子の表面に撥水膜が形成された構造に相当する。
【0109】
<対繊維比率の測定>
各実施例および各比較例について、一辺が10cmの正方形状に裁断した繊維基材の重さW1を測定し、当該繊維基材を用いた撥水シートの作製後に、撥水シートの重さW2を測定した。撥水シートの重さW2から繊維基材の重さW1を減算した値を、撥水シート中の繊維以外の材料の重さW3とし、繊維基材の重さW1に対する繊維以外の材料の重さW3を算出することにより、対繊維比率を算出した。
【0110】
<評価方法>
各実施例および各比較例の撥水シートに対して、以下の各評価を実施した。なお、撥水シートの表面を試験対象とする評価に関して、比較例2については、樹脂層が位置する方の面を試験対象とし、比較例3については、粒子が位置する方の面を試験対象とした。
【0111】
(表面の接触角)
撥水性の評価として、撥水シートの表面における純水の接触角を測定した。測定は、協和界面化学社製の接触角測定システム(DropMaster300)を用い、水滴サイズを2μL以上3μL以下として行った。
【0112】
(端面の接触角)
耐水性の評価として、撥水シートの浸水後に、撥水シートの端面付近における純水の接触角を測定した。まず、撥水シートを一辺が5cmの正方形状に裁断して試験片を作製し、試験片を水中に1時間静置した。その後、試験片を水中から取り出し、試験片の端面から5mm以内の領域に対して、試験片表面の接触角を測定した。測定は、協和界面化学社製の接触角測定システム(DropMaster300)を用い、水滴サイズを2μL以上3μL以下として行った。
【0113】
(吸水度)
耐水性の評価として、撥水シートの吸水度を測定した。まず、撥水シートを一辺が13cmの正方形状に裁断して試験片を作製した。そして、試験片に対し、JISP 8140(紙および板紙の吸水度試験方法)に準拠して、試験時間120秒の吸水度を測定した。
【0114】
(印刷精度)
印刷適性の評価として、撥水シートに細線を印刷して、その精度を評価した。まず、撥水シートに、UVインクジェットプリンタ(ローランドディージー社製、LEF-12)を用い、UVインク(ローランドディージー社製、ECO-UV,Ver.2)を使用して、幅を100μmに設定した細線を印刷した。そして、印刷された細線を、光学顕微鏡(オリンパス社製、LEXT OLS4000)を用いて観察し、細線の幅を測定した。100μmを基準として、測定した細線の幅の基準に対する比率を算出した。
【0115】
(印刷密着性)
印刷適性の評価として、撥水シートへの印刷によって形成した印刷部に対する引っかき硬度試験を行って、印刷部と撥水シートとの密着性を評価した。まず、撥水シートに、UVインクジェットプリンタ(ローランドディージー社製、LEF-12)を用い、UVインク(ローランドディージー社製、ECO-UV,Ver.2)を使用して、短辺が10mm、長辺が100mmの長方形領域を、その内部を塗りつぶすように印刷した。そして、印刷された長方形領域上を、JIS K5600-5-4(引っかき硬度(鉛筆法))に準拠した方法により鉛筆で引っかき、印刷部の剥がれの有無を検証した。なお、3H以上の硬度の鉛筆を用いると、繊維基材の破損が生じるため、2Hの硬度の鉛筆を使用した。
評価においては、印刷部の剥がれが生じなかった場合を「〇」、印刷部の一部が剥がれた場合を「△」、印刷部の全体が剥がれた場合を「×」とした。
【0116】
<評価結果>
表1に、各実施例および各比較例についての、対繊維比率の測定結果、および、表面の接触角、端面の接触角、吸水度、印刷精度、印刷密着性の各評価結果を示す。
【0117】
【0118】
表1が示すように、多孔質部による微細な凹凸構造を表面に有する実施例1~5では、表面の接触角が135°以上であり、高い撥水性が得られている。また、実施例1~5では、浸水後の端面の接触角が未浸水の表面の接触角と同等に高く、さらに、吸水度は0に近かった。したがって、実施例1~5では、繊維基材の内部へ水が浸入することが抑えられ、高い耐水性が得られることが示された。
【0119】
これに対し、多孔質部による凹凸構造を有さない比較例1,2では、表面の接触角が120°よりも低く、撥水性が不十分であった。また、比較例1では、浸水後の端面の接触角が未浸水の表面の接触角よりも明らかに低く、吸水度も実施例より明らかに大きかった。一方、比較例2では、浸水後の端面の接触角が未浸水の表面の接触角と同等に保たれており、吸水度も0であった。したがって、樹脂層が積層されている比較例2では良好な耐水性が得られるものの、繊維の表面に撥水膜が形成されているのみの比較例1では、繊維基材の内部へ水が浸入しやすく、耐水性が低いことが示された。
【0120】
また、粒子による凹凸構造を有する比較例3では、表面の接触角が実施例と同等以上に大きく、高い撥水性が得られている。しかしながら、比較例3では、浸水後の端面の接触角が未浸水の表面の接触角よりも大きく低下しており、吸水度も実施例より顕著に大きかった。したがって、繊維基材の表面のみに粒子が位置する比較例3では、繊維基材の内部へ水が浸入しやすく、耐水性が低いことが示された。
【0121】
そして、実施例1~5では、樹脂層を積層した比較例2と比べて、低い対繊維比率で、こうした高い撥水性および耐水性の実現が可能であることが示された。このように、比較例1~3によっては、高撥水性、高耐水性、低対繊維比率のすべてを満たすことはできないことに対し、実施例1~5ではそれが可能であることが示された。
【0122】
また、印刷精度について、実施例1~5、および、比較例3では、設定された細線の幅に対して、実際に印刷された細線の幅の拡大は認められなかった。これに対し、比較例1,2では、印刷された細線の幅の拡大が認められた。したがって、表面の凹凸構造によってインクの濡れ広がりが抑えられることが示唆され、比較例1,2と比べて、実施例1~5では、高い印刷精度が得られることが示された。
【0123】
さらに、印刷密着性については、比較例2でやや不良が確認された。比較例2においては、多孔質部が形成されていないことに加え、樹脂層の積層によって、繊維基材の表面の繊維に沿った凹凸も撥水シート表面では均されている。すなわち、比較例2は、各実施例および各比較例のなかで、最も平滑な表面を有する。したがって、表面に凹凸がある方が、印刷部と撥水シートとの密着性が高められることが示唆される。
【0124】
以上、実施形態および実施例にて説明したように、上記撥水シート、および、撥水シートの製造方法によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)多孔質部12が、繊維基材11の表面と、繊維基材11が含む繊維20間の間隙Sfとに位置する。上記構成によれば、撥水シート10の表面に微細な凹凸構造Rgが位置するため、撥水性が高められる。
特に、撥水シート10の表面、すなわち、多孔質部12を含む表層部が有する表面における水の接触角が135°以上であれば、高い撥水性が得られる。
【0125】
(2)多孔質部12が、撥水シート10の厚さ方向の全体に渡って、繊維基材11の2つの面の各々と繊維20間の間隙Sfとに位置する。上記構成によれば、撥水シート10の厚さ方向の全体に渡って間隙Sfが多孔質部12で埋められているため、水が繊維基材11の内部に浸入し難い。したがって、撥水シート10の耐水性が高められる。
【0126】
(3)撥水シート10の端面に、繊維基材11の繊維20間から多孔質部12が露出している。上記構成によれば、撥水シート10の端面まで間隙Sfが多孔質部12で埋められているため、撥水シート10の端面から繊維基材11の内部へ水が浸入することが抑えられる。それゆえ、撥水シート10の耐水性がより高められる。
【0127】
(4)繊維基材11の質量に対する、撥水シート10が含む繊維基材11以外の材料の質量の比は、1未満である。上記構成によれば、撥水シート10において繊維基材11以外の樹脂等の材料の比率が抑えられるため、繊維基材11由来の性質が撥水シート10にて発現しやすい。
【0128】
特に、繊維基材11が紙であると、撥水シート10を千切ることや、撥水シート10の生分解が可能となるため、リサイクル等の撥水シート10の廃棄のための処理が容易である。
【0129】
(5)多孔質部12が、ラジカル重合性モノマーの重合体を含み、ラジカル重合性モノマーが、分子量が1000以下であり、かつ、反応点価Vが500以下である低分子量モノマーを含む。上記構成によれば、多孔質部12の凹凸構造Rgが好適に形成されて撥水性が高められるとともに、多孔質部12の耐摩耗性が高められる。
【0130】
(6)撥水シート10の製造方法は、ラジカル重合性モノマーと細孔形成剤とを含む塗布液を繊維基材11に塗布する工程と、塗膜にてラジカル重合反応を進行させる工程と、塗膜から細孔形成剤を除去することで多孔質部12を形成する工程と、多孔質部12に撥水剤を塗布する工程と、を含む。上記製造方法によれば、多孔質部12の材料が液体の状態で塗布液を繊維基材11に浸透させた後に、細孔Prの形成により多孔質部12を形成するため、繊維基材11の内部まで、間隙Sfを多孔質部12で埋めることが可能である。
【0131】
[変形例]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
多孔質部12は、少なくとも、繊維基材11が有する2つの面のうちの一方の面と、この面の付近における繊維20間の間隙Sfに位置していればよい。言い換えれば、繊維基材11の少なくとも一方の面に多孔質部12が位置するとともに、繊維基材11における繊維20間の間隙Sfに、多孔質部12で埋められた間隙Sfが含まれていればよい。例えば、多孔質部12は、撥水シート10の厚さ方向の一部で、繊維基材11の表面上と間隙Sfとに位置していてもよい。
【0132】
繊維基材11の一方の面とその付近の間隙Sfにのみ多孔質部12が位置する場合であっても、撥水シート10が有する面のうち、多孔質部12を含む表層部が有する表面には微細な凹凸構造が位置するため、当該表面の撥水性は高められる。
【0133】
多孔質部12が、撥水シート10の厚さ方向の全体に位置するか一部に位置するかは、繊維基材11に対する塗布液の塗布量によって調整することができる。
【符号の説明】
【0134】
Pr…細孔、Rg…凹凸構造、Sf…間隙、10…撥水シート、11,100…繊維基材、12…多孔質部、13,120…撥水膜、20,110…繊維、130…樹脂部、140…樹脂層、150…粒子。