IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧

特許7463815プリプレグ、繊維強化複合材、及び高圧ガス貯蔵タンク
<>
  • 特許-プリプレグ、繊維強化複合材、及び高圧ガス貯蔵タンク 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】プリプレグ、繊維強化複合材、及び高圧ガス貯蔵タンク
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20240402BHJP
   C08G 59/44 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
C08G59/44
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020066110
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021161326
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池内 孝介
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-026225(JP,A)
【文献】特開2006-070125(JP,A)
【文献】国際公開第2016/208344(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/105282(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/179358(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065248(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
C08F 283/01;290/00-290/14
299/00-299/08
C08G 59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、及び下記の成分(x1)と成分(x2)との反応生成物(X)を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)を含有するエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させたプリプレグ。
(x1)メタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種
(x2)下記一般式(1)で表される不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種
【化1】

(式(1)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~13のアラルキル基を表す。)
【請求項2】
前記強化繊維が長繊維又は連続繊維である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記強化繊維がガラス繊維及び炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂(A)がメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂を主成分とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記成分(x2)がアクリル酸、メタクリル酸、及びこれらのアルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記成分(x1)に対する前記成分(x2)の反応モル比[(x2)/(x1)]が0.3~1.0の範囲である、請求項1~5のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基の数に対する前記エポキシ樹脂硬化剤(B)中の活性アミン水素数の比が1.0超5.0以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の水素ガス透過係数が8.0×10-11[cc・cm/(cm・s・cmHg)]以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のプリプレグ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のプリプレグの硬化物である繊維強化複合材。
【請求項10】
請求項9に記載の繊維強化複合材を用いた高圧ガス貯蔵タンク。
【請求項11】
ライナーと、前記繊維強化複合材を含む外層とを有する請求項10に記載の高圧ガス貯蔵タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ、該プリプレグの硬化物である繊維強化複合材、及び、該繊維強化複合材を用いた高圧ガス貯蔵タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮した天然ガス自動車(CNG車)や燃料電池自動車(FCV)の普及が進んでいる。燃料電池自動車は燃料電池を動力源としており、その燃料となる水素を高圧に圧縮して自動車に充填する水素ステーションの整備が不可欠である。
燃料電池自動車用の水素ステーション、あるいは、CNG車、燃料電池自動車等の車載用燃料タンクとして用いられる高圧ガス貯蔵タンクとして、これまで鋼製のタンクが使用されてきたが、タンクのライナーあるいはその外層に樹脂材料を用いた、より軽量な高圧ガス貯蔵タンクの開発が進められてきている。車載用燃料タンクを軽量化することにより、搭載車の燃費を改善できるなどのメリットがある。
【0003】
高圧ガス貯蔵タンクを構成する樹脂材料として、ガスバリア性を有する樹脂、及び、該樹脂を強化繊維に含浸させた繊維強化複合材(FRP)を用いることが知られている。
例えば特許文献1には、ガスバリア性を有する主材料としてのナイロン等の樹脂と、水素吸着性能を有する添加剤を含有するエラストマーとを有する樹脂ライナー、及び、その外周面にFRP層が積層された高圧水素タンクが開示されている。
特許文献2には、ライナーと、該ライナーの外層とを有し、外層が連続繊維と該連続繊維に含浸した所定のガスバリア性ポリアミド樹脂を含む複合材料から構成された圧力容器、及び、該複合材料から構成されるライナーが開示されている。
特許文献3には、高圧水素貯蔵タンクの被覆物である構造物が、分子内にメソゲン基を有し、硬化反応によりスメクチックの構造を形成可能なエポキシモノマー等の熱硬化性樹脂と、マイカとを含有する樹脂組成物の硬化物を含む硬化層、及び、該硬化層の片面又は両面に炭素繊維含有層を有する構造物であるものが開示されている。また、樹脂組成物中のマイカの含有率を増やすことで、マイカの迷路効果により水素ガスバリア性が向上することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-276146号公報
【文献】国際公開第2016/084475号
【文献】国際公開第2017/175775号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高圧水素貯蔵タンクのライナー、あるいは該ライナーの外層である被覆材料には、水素ガスバリア性に加えて、耐圧性、耐衝撃性の観点で伸びが良好であることが求められる。
特許文献3に開示された高圧水素貯蔵タンクの被覆物は、エポキシモノマー等の熱硬化性樹脂と、マイカとを含有する樹脂組成物の硬化物と炭素繊維とを含むものであり、熱硬化性樹脂を炭素繊維で強化することで、高圧水素貯蔵タンクにも適用可能な高強度の材料が得られる。
しかしながら、一般にエポキシ樹脂組成物の硬化物は伸び率が低く、更に、マイカ等の無機充填剤、炭素繊維等の強化繊維を添加したエポキシ樹脂組成物の硬化物は伸びが極端に低下し、耐衝撃性に劣る傾向がある。
【0006】
本発明の課題は、エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させたプリプレグ、及び該プリプレグの硬化物である繊維強化複合材において、水素ガス等のガスバリア性と、耐衝撃性とを両立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、エポキシ樹脂、及び所定のエポキシ樹脂硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させたプリプレグ、及びその硬化物である繊維強化複合材が、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、下記[1]~[3]に関する。
[1]エポキシ樹脂(A)、及び下記の成分(x1)と成分(x2)との反応生成物(X)を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)を含有するエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させたプリプレグ。
(x1)メタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種
(x2)下記一般式(1)で表される不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種
【化1】

(式(1)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~13のアラルキル基を表す。)
[2][1]に記載のプリプレグの硬化物である繊維強化複合材。
[3][2]に記載の繊維強化複合材を用いた高圧ガス貯蔵タンク。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水素ガス等のガスバリア性と、耐衝撃性とを両立し得るプリプレグ及び繊維強化複合材を提供することができる。本発明のプリプレグの硬化物である繊維強化複合材は、高いガスバリア性及び耐衝撃性を有し、例えば高圧ガス貯蔵タンクを構成する材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の高圧ガス貯蔵タンクの一実施形態を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[プリプレグ]
本発明のプリプレグは、エポキシ樹脂(A)、及び下記の成分(x1)と成分(x2)との反応生成物(X)を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)を含有するエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させたプリプレグである。
(x1)メタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種
(x2)下記一般式(1)で表される不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種
【化2】

(式(1)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~13のアラルキル基を表す。)
【0011】
本発明のプリプレグは上記構成であることにより、その硬化物である繊維強化複合材(以下、単に「複合材」ともいう)において、水素ガス等のガスバリア性と、耐衝撃性とを両立することができる。
本発明のプリプレグ及びその硬化物である複合材が上記効果を奏する理由については定かではないが、プリプレグに用いられるエポキシ樹脂組成物がエポキシ樹脂硬化剤として反応生成物(X)を含むことで、得られる硬化物が水素ガス等のガスバリア性に優れ、伸びも良好になるため、耐衝撃性が向上すると考えられる。さらに、該硬化物は強化繊維との界面接着性にも優れるため、得られる複合材の耐衝撃性がより向上すると推察される。
以下、本発明のプリプレグに用いられるエポキシ樹脂組成物及び強化繊維について説明する。
【0012】
<エポキシ樹脂組成物>
本発明に用いるエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、及び下記の成分(x1)と成分(x2)との反応生成物(X)を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)を含有する。該エポキシ樹脂組成物は、さらに溶剤を含有することが好ましい。
(x1)メタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種
(x2)下記一般式(1)で表される不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種
【化3】

(式(1)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~13のアラルキル基を表す。)
【0013】
(エポキシ樹脂(A))
エポキシ樹脂(A)(以下、単に「成分(A)」ともいう)は、エポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ樹脂であれば特に制限されないが、高いガスバリア性の発現を考慮した場合には、芳香環又は脂環式構造を分子内に含む多官能エポキシ樹脂が好ましい。
当該多官能エポキシ樹脂の具体例としては、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミノ基及び/又はグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂及びレゾルシノールから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1つの樹脂が挙げられる。柔軟性や耐衝撃性、耐湿熱性などの諸性能を向上させるために、上記のエポキシ樹脂を適切な割合で2種以上混合して用いることもできる。
上記の中でも、ガスバリア性の観点から、エポキシ樹脂(A)としてはメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、パラキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂、及びビスフェノールFから誘導されたグリシジルオキシ基を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とするものが好ましく、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂を主成分とするものがより好ましい。
なお、ここでいう「主成分」とは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含みうることを意味し、好ましくは全体の50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、さらに好ましくは90~100質量%を意味する。
【0014】
(エポキシ樹脂硬化剤(B))
本発明に用いるエポキシ樹脂硬化剤(B)(以下、単に「成分(B)」ともいう)は、プリプレグ及び複合材において高いガスバリア性と耐衝撃性とを発現する観点から、下記の成分(x1)と成分(x2)との反応生成物(X)を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)を含有する。
(x1)メタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種
(x2)下記一般式(1)で表される不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種
【化4】

(式(1)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~13のアラルキル基を表す。)
【0015】
〔反応生成物(X)〕
反応生成物(X)は、前記成分(x1)と成分(x2)との反応生成物である。
成分(x1)はガスバリア性の観点から用いられ、ガスバリア性の点からメタキシリレンジアミンが好ましい。成分(x1)は、1種を単独で用いてもよく、2種類を混合して用いてもよい。
【0016】
成分(x2)は、前記一般式(1)で表される不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種である。プリプレグ及び複合材において高いガスバリア性と耐衝撃性とを発現する観点から、前記一般式(1)におけるRは水素原子又は炭素数1~8のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、水素原子又はメチル基であることがさらに好ましく、水素原子であることがよりさらに好ましい。
また、プリプレグ及び複合材において高いガスバリア性と耐衝撃性とを発現する観点から、前記一般式(1)におけるRは水素原子又は炭素数1~8のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、水素原子又はメチル基であることがさらに好ましく、水素原子であることがよりさらに好ましい。
【0017】
前記一般式(1)で表される不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば当該不飽和カルボン酸のエステル、アミド、酸無水物、酸塩化物が挙げられる。不飽和カルボン酸のエステルとしてはアルキルエステルが好ましく、良好な反応性を得る観点から当該アルキル炭素数は、好ましくは1~6、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2である。
【0018】
前記一般式(1)で表される不飽和カルボン酸及びその誘導体としては、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、α-プロピルアクリル酸、α-イソプロピルアクリル酸、α-n-ブチルアクリル酸、α-t-ブチルアクリル酸、α-ペンチルアクリル酸、α-フェニルアクリル酸、α-ベンジルアクリル酸、クロトン酸、2-ペンテン酸、2-ヘキセン酸、4-メチル-2-ペンテン酸、2-ヘプテン酸、4-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-2-ヘキセン酸、4,4-ジメチル-2-ペンテン酸、4-フェニル-2-ブテン酸、桂皮酸、o-メチル桂皮酸、m-メチル桂皮酸、p-メチル桂皮酸、2-オクテン酸等の不飽和カルボン酸、及びこれらのエステル、アミド、酸無水物、酸塩化物等が挙げられる。
上記の中でも、プリプレグ及び複合材において高いガスバリア性と耐衝撃性とを発現する観点から、成分(x2)はアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸及びこれらのアルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、及びこれらのアルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、アクリル酸のアルキルエステルがよりさらに好ましく、アクリル酸メチルがよりさらに好ましい。
成分(x2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
成分(x1)と成分(x2)との反応は、成分(x2)として不飽和カルボン酸、エステル、アミドを使用する場合には、0~100℃、より好ましくは0~70℃の条件下で成分(x1)と成分(x2)とを混合し、100~300℃、好ましくは130~250℃の条件下でマイケル付加反応及び脱水、脱アルコール、脱アミンによるアミド基形成反応を行うことにより実施される。
この場合、アミド基形成反応の際には、反応を完結させるために、必要に応じて反応の最終段階において反応装置内を減圧処理することもできる。また、必要に応じて非反応性の溶剤を使用して希釈することもできる。さらに脱水剤、脱アルコール剤として、亜リン酸エステル類などの触媒を添加することもできる。
【0020】
一方、成分(x2)として不飽和カルボン酸の酸無水物、酸塩化物を使用する場合には、0~150℃、好ましくは0~100℃の条件下で混合後、マイケル付加反応及びアミド基形成反応を行うことにより実施される。この場合、アミド基形成反応の際には、反応を完結させるために、必要に応じて反応の最終段階において反応装置内を減圧処理することもできる。また、必要に応じて非反応性の溶剤を使用して希釈することもできる。さらにピリジン、ピコリン、ルチジン、トリアルキルアミンなどの3級アミンを添加することもできる。
【0021】
成分(x1)と成分(x2)との反応により形成されるアミド基部位は高い凝集力を有しているため、当該成分(x1)と成分(x2)との反応生成物(X)を含むエポキシ樹脂硬化剤を用いたエポキシ樹脂組成物の硬化物は、高いガスバリア性と、強化繊維に対する良好な接着性とを有する。
【0022】
反応生成物(X)において、成分(x1)に対する成分(x2)の反応モル比[(x2)/(x1)]は、0.3~1.0の範囲であることが好ましく、0.6~1.0の範囲であることがより好ましい。上記反応モル比が0.3以上であれば、エポキシ樹脂硬化剤中に十分な量のアミド基が生成し、高いレベルのガスバリア性及び強化繊維に対する接着性が発現する。一方、上記反応モル比が1.0以下の範囲であれば、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基との反応に必要なアミノ基の量が十分であり、耐熱性、有機溶剤に対する溶解性にも優れる。
【0023】
反応生成物(X)は、前記成分(x1)及び成分(x2)と、さらに下記成分(x3)、成分(x4)及び成分(x5)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物との反応生成物であってもよい。
(x3)R-COOHで表される一価のカルボン酸及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種(Rは水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~7のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表す。)
(x4)環状カーボネート
(x5)炭素数2~20のモノエポキシ化合物
【0024】
成分(x3)である、R-COOHで表される一価のカルボン酸及びその誘導体は、必要に応じて反応生成物(X)を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)とエポキシ樹脂(A)との反応性を低下させ、作業性、ポットライフ等を向上させる観点から用いられる。
は水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~7のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表し、Rは、好ましくは炭素数1~3のアルキル基又はフェニル基である。
またR-COOHで表される一価のカルボン酸の誘導体としては、例えば当該カルボン酸のエステル、アミド、酸無水物、酸塩化物が挙げられる。当該カルボン酸のエステルとしてはアルキルエステルが好ましく、当該アルキル炭素数は、好ましくは1~6、より好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2である。
成分(x3)としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、グリコール酸、安息香酸等の一価のカルボン酸及びその誘導体が挙げられる。
成分(x3)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
成分(x4)である環状カーボネートは、反応生成物(X)を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)とエポキシ樹脂(A)との反応性を低下させ、作業性、ポットライフ等を向上させる観点から、必要に応じて用いられる。
成分(x1)との反応性の観点から、成分(x4)は六員環以下の環状カーボネートであることが好ましい。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、グリセリンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-メトキシメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,3-ジオキサン-2-オンなどが挙げられる。これらの中でも、ガスバリア性の観点から、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びグリセリンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
成分(x4)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
成分(x5)であるモノエポキシ化合物は、炭素数2~20のモノエポキシ化合物であり、反応生成物(X)を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)とエポキシ樹脂(A)との反応性を低下させ、作業性、ポットライフ等を向上させる観点から、必要に応じて用いられる。ガスバリア性の観点から、成分(x5)は炭素数2~10のモノエポキシ化合物であることが好ましく、下記式(2)で示される化合物であることがより好ましい。
【0027】
【化5】

(式(2)中、Rは水素原子、炭素数1~8のアルキル基、アリール基、クロロメチル基、又はR-O-CH-を表し、Rはフェニル基又はベンジル基を表す。)
前記式(2)で示されるモノエポキシ化合物としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、スチレンオキシド、エピクロロヒドリン、フェニルグリシジルエーテル、及びベンジルグリシジルエーテル等が挙げられる。
成分(x5)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
反応生成物(X)に成分(x3)、成分(x4)又は成分(x5)を用いる場合には、成分(x3)、成分(x4)及び成分(x5)からなる群から選ばれるいずれか1種の化合物を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
なお、反応生成物(X)は、前記成分(x1)~成分(x5)のほか、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに他の成分と反応させた反応生成物であってもよい。ここでいう他の成分としては、例えば芳香族ジカルボン酸又はその誘導体等が挙げられる。
但し、該「他の成分」の使用量は、反応生成物(X)を構成する反応成分の合計量の30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
成分(x1)及び成分(x2)と、さらに成分(x3)、成分(x4)及び成分(x5)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物との反応生成物は、成分(x3)、成分(x4)及び成分(x5)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を、成分(x2)と併用して、ポリアミン化合物である成分(x1)と反応させて得られる。該反応は、成分(x2)~(x5)を任意の順序で添加して成分(x1)と反応させてもよく、成分(x2)~(x5)を混合して成分(x1)と反応させてもよい。
【0031】
成分(x1)と成分(x3)との反応は、成分(x1)と成分(x2)との反応と同様の条件で行うことができる。成分(x3)を用いる場合には、成分(x2)及び成分(x3)を混合して成分(x1)と反応させてもよく、初めに成分(x1)と成分(x2)とを反応させてから成分(x3)を反応させてもよい。
一方、成分(x4)及び/又は成分(x5)を用いる場合には、初めに成分(x1)と成分(x2)とを反応させてから、成分(x4)及び/又は成分(x5)と反応させることが好ましい。
成分(x1)と成分(x4)及び/又は成分(x5)との反応は、25~200℃の条件下で成分(x1)と成分(x4)及び/又は成分(x5)とを混合し、30~180℃、好ましくは40~170℃の条件下で付加反応を行うことにより実施される。また、必要に応じナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドなどの触媒を使用することができる。
上記反応の際には、反応を促進するために、必要に応じて成分(x4)及び/又は成分(x5)を溶融させるか、もしくは非反応性の溶剤で希釈して使用することもできる。
【0032】
反応生成物(X)が、前記成分(x1)及び成分(x2)と、さらに前記成分(x3)、成分(x4)及び成分(x5)からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物との反応生成物である場合にも、前記成分(x1)に対する成分(x2)の反応モル比[(x2)/(x1)]は、前記と同様の理由で0.3~1.0の範囲であることが好ましく、0.6~1.0の範囲であることがより好ましい。一方、成分(x1)に対する、前記成分(x3)、成分(x4)及び成分(x5)の反応モル比[{(x3)+(x4)+(x5)}/(x1)]は、0.05~3.1の範囲であることが好ましく、0.07~2.5の範囲であることがより好ましく、0.1~2.0の範囲であることがさらに好ましい。
ただし、ガスバリア性及び作業性、ポットライフ等の観点から、成分(x1)に対する、成分(x2)~成分(x5)の反応モル比[{(x2)+(x3)+(x4)+(x5)}/(x1)]は、0.35~2.5の範囲であることが好ましく、0.35~2.0の範囲であることがより好ましい。
【0033】
エポキシ樹脂硬化剤(B)は、反応生成物(X)以外の硬化剤成分を含有していてもよい。「反応生成物(X)以外の硬化剤成分」とは、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基と反応し得る官能基を2つ以上有する、反応生成物(X)以外の成分であり、エポキシ樹脂(A)との反応性及びガスバリア性の観点からは、成分(x1)以外の、分子内に2つ以上のアミノ基を有するポリアミン化合物、及び、ポリアミン化合物の変性体が好ましい成分として挙げられる。 成分(x1)以外のポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等の鎖状脂肪族ポリアミン化合物;o-キシリレンジアミン等の芳香環含有脂肪族ポリアミン化合物;イソホロンジアミン、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メンセンジアミン、ノルボルナンジアミン、トリシクロデカンジアミン、アダマンタンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-メチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-3,6-ジエチルシクロヘキサン、ジアミノジエチルメチルシクロヘキサン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の脂環式構造を有するポリアミン化合物;フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、2,2’-ジエチル-4,4’-メチレンジアニリン等の芳香族ポリアミン化合物;N-アミノエチルピペラジン、N,N’-ビス(アミノエチル)ピペラジン等の複素環式構造を有するポリアミン化合物;ポリエーテルポリアミン化合物等が挙げられる。
また、ポリアミン化合物の変性体としては、ポリアミン化合物のマンニッヒ変性物、エポキシ変性物、マイケル付加物、マイケル付加・重縮合物、スチレン変性物、ポリアミド変性物等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
但し、プリプレグ及び複合材において高いガスバリア性と耐衝撃性とを発現する観点からは、エポキシ樹脂硬化剤(B)は、反応生成物(X)の含有量が高いことが好ましい。上記観点から、エポキシ樹脂硬化剤(B)中の反応生成物(X)の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上である。また、上限は100質量%である。
【0035】
エポキシ樹脂硬化剤(B)は、さらに、カップリング剤を含有していてもよい。エポキシ樹脂硬化剤(B)がカップリング剤を含有することで、得られるエポキシ樹脂組成物の硬化物(以下、単に「エポキシ樹脂硬化物」ともいう)の、強化繊維に対する界面接着性を安定化させることができる。
該カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等が挙げられ、エポキシ樹脂硬化物と強化繊維との界面接着性の向上、及びエポキシ樹脂組成物のポットライフの観点からはシランカップリング剤が好ましい。
シランカップリング剤としては、例えば、ビニル基を有するシランカップリング剤、アミノ基を有するシランカップリング剤、エポキシ基を有するシランカップリング剤、(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂硬化物と強化繊維との界面接着性の向上、及びエポキシ樹脂組成物のポットライフの観点からは、アミノ基を有するシランカップリング剤及びエポキシ基を有するシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
エポキシ樹脂硬化剤(B)がカップリング剤を含有する場合、エポキシ樹脂硬化剤(B)中のカップリング剤の含有量は、上記効果を得る観点から、エポキシ樹脂硬化剤(B)中の硬化剤成分100質量部に対し、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは1~8質量部である。
【0036】
エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂硬化剤(B)の配合割合については、一般にエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤との反応によりエポキシ樹脂反応物を作製する場合の標準的な配合範囲であってよい。具体的には、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基の数に対するエポキシ樹脂硬化剤(B)中の活性アミン水素数の比(エポキシ樹脂硬化剤(B)中の活性アミン水素数/エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基の数)が0.2~12.0の範囲であることが好ましい。プリプレグ及び複合材において高いガスバリア性と耐衝撃性とを発現する観点からは、(エポキシ樹脂硬化剤(B)中の活性アミン水素数/エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基の数)は、より好ましくは0.4~10.0、さらに好ましくは0.6~8.0、よりさらに好ましくは0.9~6.0、よりさらに好ましくは1.0超5.0以下の範囲である。
水素ガスのバリア性をより向上させる観点からは、(エポキシ樹脂硬化剤(B)中の活性アミン水素数/エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基の数)は、よりさらに好ましくは1.1以上、よりさらに好ましくは1.4以上、よりさらに好ましくは2.0以上であり、耐衝撃性をより向上させる観点からは、より好ましくは4.0以下、よりさらに好ましくは3.2以下である。
【0037】
(溶剤)
本発明に用いるエポキシ樹脂組成物は、該組成物を低粘度化して強化繊維への含浸性を高める観点から、さらに溶剤を含有することが好ましい。
溶剤としては非反応性溶剤が好ましく、その具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶剤:トルエン等の炭化水素系溶剤等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。
エポキシ樹脂(A)及びエポキシ樹脂硬化剤(B)の溶解性の観点、並びに溶剤の除去しやすさの観点からは、溶剤としては炭素数8以下の、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、及び炭化水素系溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、酢酸エチル、及びトルエンからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、メタノール及び酢酸エチルからなる群から選ばれる少なくとも1種がさらに好ましい。
【0038】
エポキシ樹脂組成物が溶剤を含有する場合、その含有量は特に制限されないが、エポキシ樹脂組成物の強化繊維への含浸性を高める観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、よりさらに好ましくは20質量%以上、よりさらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは40質量%以上であり、溶剤の除去しやすさの観点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、よりさらに好ましくは70質量%以下である。
【0039】
エポキシ樹脂組成物は、得られる硬化物と強化繊維との界面接着性向上等の観点から、さらに炭素数14~24の不飽和脂肪酸アミド(以下、単に「不飽和脂肪酸アミド」ともいう)を含有することができる。不飽和脂肪酸アミドを構成する不飽和脂肪酸は、少なくとも1つの不飽和結合を有する炭素数14~24の脂肪酸であればよい。該不飽和脂肪酸中の不飽和結合の数は、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2である。
当該不飽和脂肪酸アミドとしては、好ましくはパルミトレイン酸アミド、オレイン酸アミド、エイコセン酸アミド、及びエルカ酸アミドからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。エポキシ樹脂組成物中の不飽和脂肪酸アミドの含有量は、エポキシ樹脂(A)及びエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量100質量部に対し、好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.2~15質量部である。
【0040】
エポキシ樹脂組成物は、得られるプリプレグ及び複合材のガスバリア性等を向上させる観点から、さらに非球状無機粒子を含有させることができる。
非球状無機粒子の形状は、球状(略真円球状)以外の三次元形状であればよく、例えば、板状、鱗片状、柱状、鎖状、繊維状等が挙げられる。板状、鱗片状の無機粒子は複数積層されて層状になっていてもよい。
【0041】
非球状無機粒子を構成する無機物としては、シリカ、アルミナ、雲母(マイカ)、タルク、アルミニウム、ベントナイト、スメクタイト等が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果を損なわずにガスバリア性等を向上させる観点からはシリカ及びアルミナからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、シリカがより好ましい。
上記非球状無機粒子は、エポキシ樹脂組成物への分散性を高めることを目的として、必要に応じ表面処理されていてもよい。
【0042】
非球状無機粒子の平均粒径は、好ましくは1~2,000nm、より好ましくは1~1,500nm、さらに好ましくは1~1,000nm、よりさらに好ましくは1~800nm、よりさらに好ましくは1~500nm、よりさらに好ましくは5~300nm、よりさらに好ましくは5~200nm、よりさらに好ましくは5~100nm、よりさらに好ましくは8~70nmの範囲である。当該平均粒径が1nm以上であれば無機粒子の調製が容易であり、2,000nm以下であれば本発明の効果を損なわずにガスバリア性等を向上できる。なお、当該平均粒径は一次粒子の平均粒径である。
【0043】
非球状無機粒子を用いる場合、エポキシ樹脂組成物中の非球状無機粒子の含有量は、本発明の効果を損なわずにガスバリア性等を向上させる観点から、エポキシ樹脂(A)及びエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量100質量部に対し、好ましくは0.5~10.0質量部、より好ましくは1.0~8.0質量部、さらに好ましくは1.5~7.5質量部である。
但し、耐衝撃性とのバランスの観点からは、エポキシ樹脂組成物中の非球状無機粒子の含有量は、エポキシ樹脂(A)及びエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量100質量部に対し、5.0質量部未満としてもよく、3.0質量部以下としてもよい。
【0044】
エポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてさらにエポキシ樹脂(A)以外の熱硬化性樹脂、反応性希釈剤、前記溶剤以外の非反応性希釈剤、硬化促進剤、湿潤剤、粘着付与剤、消泡剤、防錆剤、滑剤、顔料、酸素捕捉剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤を配合してもよい。
エポキシ樹脂組成物が上記添加剤を含有する場合、該組成物中の上記添加剤の合計含有量は、エポキシ樹脂(A)及びエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計量100質量部に対し20.0質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.001~15.0質量部である。
【0045】
但し本発明の効果を得る観点から、エポキシ樹脂組成物の固形分中のエポキシ樹脂(A)及びエポキシ樹脂硬化剤(B)の合計含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは85質量%以上であり、上限は100質量%である。「エポキシ樹脂組成物の固形分」とは、エポキシ樹脂組成物中の水及び溶剤を除いた成分を意味する。
【0046】
エポキシ樹脂組成物は、例えばエポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、溶剤、及び、必要に応じ用いられる添加剤をそれぞれ所定量配合した後、公知の方法及び装置を用いて攪拌、混合することにより調製できる。
【0047】
本発明に用いるエポキシ樹脂組成物の硬化物は、高いガスバリア性を有する。例えば、該硬化物の水素ガス透過係数は、好ましくは8.0×10-11[cc・cm/(cm・s・cmHg)]以下、より好ましくは6.0×10-11[cc・cm/(cm・s・cmHg)]以下、さらに好ましくは4.5×10-11[cc・cm/(cm・s・cmHg)]以下とすることができる。
エポキシ樹脂組成物の硬化物の水素ガス透過係数は、23℃の乾燥条件下で、実施例に記載の方法により測定できる。
【0048】
<強化繊維>
本発明に用いる強化繊維の形態としては、短繊維、長繊維、連続繊維が挙げられる。これらの中でも、プリプレグ及び複合材を、高圧ガス貯蔵タンクを構成する材料として用いる観点からは、長繊維又は連続繊維が好ましく、連続繊維がより好ましい。
なお本明細書において、短繊維とは繊維長が0.1mm以上10mm未満、長繊維とは繊維長が10mm以上100mm以下のものをいう。また連続繊維とは、100mmを超える繊維長を有する繊維束をいう。
【0049】
連続繊維の形状としては、トウ、シート、テープ等が挙げられ、シート又はテープを構成する連続繊維としては、一方向(UD)材、織物、不織布等が挙げられる。
プリプレグを高圧ガス貯蔵タンクの外層を構成する材料として用いる観点からは、連続繊維の形状としてはトウ又はテープが好ましく、トウがより好ましい。トウを構成する連続繊維束の本数(フィラメント数)は、高強度及び高弾性率が得られやすいという観点から、好ましくは3K~50K、より好ましくは6K~40Kである。
【0050】
連続繊維において、連続繊維束の平均繊維長には特に制限はないが、成形加工性の観点から、好ましくは1~10,000m、より好ましくは100~10,000mである。
連続繊維束の平均繊度は、成形加工性の観点、高強度及び高弾性率が得られやすいという観点から、好ましくは50~2000tex(g/1000m)、より好ましくは200~1500tex、さらに好ましくは500~1500texである。
また連続繊維束の平均引張弾性率は、好ましくは50~1000GPaである。
【0051】
強化繊維の材質としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ボロン繊維、セラミック繊維等の無機繊維;アラミド繊維、ポリオキシメチレン繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の有機繊維が挙げられる。これらの中でも、高強度を得る観点からは無機繊維が好ましく、軽量で且つ高強度、高弾性率であることからガラス繊維及び炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、炭素繊維がさらに好ましい。
炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。また、リグニンやセルロースなど、植物由来原料の炭素繊維も用いることができる。
【0052】
本発明に用いる強化繊維は、処理剤で処理されたものでもよい。処理剤としては、表面処理剤又は集束剤が例示される。
上記表面処理剤としては、エポキシ樹脂硬化剤(B)中の任意成分として例示したカップリング剤が挙げられ、シランカップリング剤が好ましい。
シランカップリング剤としては、前記と同様に、ビニル基を有するシランカップリング剤、アミノ基を有するシランカップリング剤、エポキシ基を有するシランカップリング剤、(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
【0053】
上記集束剤としては、例えば、ウレタン系集束剤、エポキシ系集束剤、アクリル系集束剤、ポリエステル系集束剤、ビニルエステル系集束剤、ポリオレフィン系集束剤、ポリエーテル系集束剤、及びカルボン酸系集束剤等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上を組み合わせた集束剤としては、例えば、ウレタン/エポキシ系集束剤、ウレタン/アクリル系集束剤、ウレタン/カルボン酸系集束剤等が挙げられる。
【0054】
ウレタン系集束剤としては、ポリオールとポリイソシアネートとの反応により得られるウレタン樹脂が挙げられる。
ポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリネオペンチルテレフタレートジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等のポリエステルポリオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド付加物等のポリエーテルポリオール;等が挙げられる。
ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートもしくは4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-トリレンジイソシアネートもしくは2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネートもしくは1,4-フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;エチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;イソフォロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)等の脂環式ポリイソシアネート;等が挙げられる。
上記ポリオール及びポリイソシアネートは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
エポキシ系集束剤としては、分子内に2以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が挙げられる。具体的には、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型2官能エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフトール-クレゾール共縮合ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-フェノール共縮合ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、当該エポキシ樹脂はビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール構造を有するエポキシ樹脂が好ましい。
【0056】
アクリル系集束剤としてはアクリル樹脂が挙げられ、具体的には(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等のアクリル系モノマーの単独重合体又はこれらの共重合体、並びに、上記アクリル系モノマーと、該アクリルモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体等を例示できる。
ポリエステル系集束剤としては、例えば脂肪族ジオール、芳香族ジオール、3価以上の多価アルコール等のポリオールと、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸等のポリカルボン酸との重縮合反応により得られるポリエステル樹脂が挙げられる。
ビニルエステル系集束剤としては酢酸ビニル樹脂が挙げられ、具体的には酢酸ビニルの単独重合体、又は、酢酸ビニルと、酢酸ビニルと共重合可能な他のモノマーとの共重合体等を例示できる。
【0057】
ポリオレフィン系集束剤としては、例えば超高分子量ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、超低密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、及びポリエチレン共重合体等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。ポリエチレン共重合体としては、エチレンと、エチレンと共重合可能な他のモノマー、例えばプロピレン、ブテン-1、イソプレン、ブタジエン等のα-オレフィン類等との共重合体が挙げられる。
また、上記ポリオレフィン樹脂を不飽和カルボン酸又はカルボン酸無水物等の酸性化合物により変性した酸変性ポリオレフィン樹脂も用いることができる。
【0058】
ポリエーテル系集束剤としては、例えばポリアルキレングリコール、ビスフェノールA-アルキレンオキシド付加物等の、ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテル樹脂が挙げられる。
また、カルボン酸系集束剤としては、例えば無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等のカルボン酸無水物含有不飽和ビニルモノマーと、スチレン、α-メチルスチレン、エチレン、ブタジエン等の他の不飽和ビニルモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0059】
上記の中でも、エポキシ樹脂組成物の硬化物との界面接着性を向上させ、得られるプリプレグ及び複合材の強度及び耐衝撃性をより向上させる観点から、強化繊維はウレタン系集束剤、エポキシ系集束剤及びウレタン/エポキシ系集束剤からなる群から選ばれる1種以上により処理されたものであることが好ましく、エポキシ系集束剤により処理されたものであることがより好ましい。
【0060】
前記処理剤の量は、エポキシ樹脂組成物の硬化物との界面接着性を向上させ、得られるプリプレグ及び複合材の強度及び耐衝撃性をより向上させる観点から、強化繊維に対し、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.1~3質量%、さらに好ましくは0.5~2質量%である。
【0061】
強化繊維として市販品を用いることもできる。連続繊維である炭素繊維の市販品としては、例えば東レ(株)製のトレカ糸「T300」、「T300B」、「T400HB」、「T700SC」、「T800SC」、「T800HB」、「T830HB」、「T1000GB」、「T100GC」、「M35JB」、「M40JB」、「M46JB」、「M50JB」、「M55J」、「M55JB」、「M60JB」、「M30SC」、「Z600」の各シリーズ、トレカクロス「CO6142」「CO6151B」、「CO6343」、「CO6343B」、「CO6347B」、「CO6644B」、「CK6244C」、「CK6273C」、「CK6261C」、「UT70」シリーズ、「UM46」シリーズ、「BT70」シリーズ等が挙げられる。
【0062】
<含有量>
本発明のプリプレグ中の強化繊維の含有量は特に制限されないが、高強度及び高弾性率を得る観点から、プリプレグ中の強化繊維の体積分率が、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.30以上、よりさらに好ましくは0.40以上となる範囲である。また、ガスバリア性、耐衝撃性及び成形加工性の観点からは、好ましくは0.98以下、より好ましくは0.95以下、さらに好ましくは0.80以下、よりさらに好ましくは0.70以下となる範囲である。
プリプレグ中の強化繊維の体積分率Vfは下記式から算出することができる。
Vf={強化繊維の質量(g)/強化繊維の比重}÷[{強化繊維の質量(g)/強化繊維の比重}+{含浸させたエポキシ樹脂組成物の固形分の質量(g)/エポキシ樹脂組成物の固形分の比重}]
【0063】
また、本発明のプリプレグを構成するエポキシ樹脂組成物の固形分及び強化繊維の合計含有量は、本発明の効果を得る観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0064】
本発明のプリプレグの形状は、使用する強化繊維の形態、並びに用途に応じて適宜選択することができ、例えば、トウ、シート、テープ等が挙げられる。シート又はテープを構成するプリプレグの種類としては、一方向(UD)材、織物、不織布等が挙げられる。
例えば、本発明のプリプレグを高圧ガス貯蔵タンクの外層を構成する材料として用いる場合には、外層を後述する方法により形成する観点から、プリプレグの形状はトウプリプレグ又はテープ状のプリプレグであることが好ましく、トウプリプレグであることがより好ましい。
【0065】
<プリプレグの製造方法>
本発明のプリプレグの製造方法には特に制限されず、常法に従って製造できる。例えば、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂硬化剤(B)、及び溶剤を含有するエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させた後、乾燥工程に供して溶剤を除去し、プリプレグを得ることができる。
【0066】
エポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させる方法は特に制限されず、強化繊維の形態等に応じて、適宜、公知の方法を用いることができる。例えばトウプリプレグを製造する場合は、前述したエポキシ樹脂組成物を充填した樹脂浴に、ロールから巻き出した連続繊維束を浸漬させ、該組成物を含浸させた後に樹脂浴から引き上げる方法が挙げられる。その後、絞りロール等を用いて余剰のエポキシ樹脂組成物を除去する工程を行ってもよい。
エポキシ樹脂組成物の含浸は、必要に応じ加圧条件下、又は減圧条件下で行うこともできる。
【0067】
次いで、エポキシ樹脂組成物を含浸させた上記強化繊維を乾燥工程に供して溶剤を除去する。乾燥工程における乾燥条件は特に制限されないが、溶剤を除去することが可能であって、且つエポキシ樹脂組成物の硬化が過度に進行しない条件であることが好ましい。この観点から、例えば乾燥温度は30~100℃の範囲で、乾燥時間は10秒~5分の範囲で選択できる。
【0068】
上記乾燥工程を経て得られたプリプレグは、一旦巻き取り等を行ってプリプレグ製品としてもよく、巻き取り等を行わず、乾燥工程を行った後に連続的に複合材の製造に供することもできる。
【0069】
[繊維強化複合材]
本発明の繊維強化複合材は、前記プリプレグの硬化物であり、マトリクス樹脂である前記エポキシ樹脂組成物の硬化物と、強化繊維とを含むものである。該エポキシ樹脂組成物及び強化繊維、並びにこれらの好適態様については、プリプレグにおいて記載したものと同じである。
【0070】
複合材の製造は、本発明のプリプレグを用いて所望の形状となるようプレ成形を行った後、該プリプレグを硬化させることにより行われる。例えば、本発明の複合材をパイプ、シャフト、ボンベ、タンク等に適用する場合は、前述したトウプリプレグをマンドレル又はライナーの外表面に巻き付け、次いで硬化させることにより、所望の形状の複合材を製造できる。
複合材の製造におけるプリプレグの硬化方法も特に制限されず、プリプレグに含まれるエポキシ樹脂組成物を硬化させるのに十分な温度及び時間において、公知の方法により行われる。プリプレグの硬化条件はプリプレグ及び形成される複合材の厚さ等にも依存するが、例えば、硬化温度は10~140℃の範囲で、硬化時間は5分~200時間の範囲で選択でき、生産性の観点から、好ましくは、硬化温度は80~120℃、硬化時間は10分~5時間の範囲である。
【0071】
本発明の複合材は、例えばパイプ、シャフト、ボンベ、タンク等に好適に用いられ、水素ガス等のガスバリア性及び耐衝撃性に優れることから、特に、後述する高圧ガス貯蔵タンクの外層を形成する材料として好適である。
【0072】
[高圧ガス貯蔵タンク]
本発明の高圧ガス貯蔵タンクは、前記繊維強化複合材を用いたものである。本発明の高圧ガス貯蔵タンクは、前記複合材を用いることにより、水素ガス等のガスバリア性が良好で、耐圧性、耐衝撃性にも優れるものとなる。
【0073】
本発明の高圧ガス貯蔵タンクは、前記複合材のみで構成されていてもよく、一部分が前記複合材で構成されたものでもよい。水素ガス等のガスバリア性、耐圧性、耐衝撃性、及び生産性の観点からは、該高圧ガス貯蔵タンクは、ライナーと、前記繊維強化複合材を含む外層とを有するものであることが好ましい。
【0074】
以下、ライナーと、繊維強化複合材を含む外層とを有する本発明の高圧ガス貯蔵タンクについて、図面を用いて説明する。
図1は本発明の高圧ガス貯蔵タンクの一実施形態を示す断面模式図であり、高圧ガス貯蔵タンク10は、ライナー1と外層2とを有するものである。ライナー1は、内部に気体が充填される空間を備える耐圧性部材であり、通常、中空状に形成される。外層2は、本発明の繊維強化複合材を含み、ライナー1の外表面を覆うように形成されている。
口金3は、例えば、略円筒状であり、ライナー1と外層2との間に嵌入されて、固定されている。口金3の略円筒状の開口部は、高圧ガス貯蔵タンク10の開口部として機能する。口金3は、ステンレス、アルミニウム等他の金属からなるものであってもよいし、樹脂製でもよい。
ボス4は、例えば、アルミニウムからなり、一部分が外部に露出した状態で組みつけられ、タンク内部の発熱及び吸熱を、外部に導く働きをするものである。
バルブ5は、例えば、円柱状の部分に、雄ねじが形成された形状であり、口金3の内側面に形成されている雌ねじに螺合されることにより、バルブ5によって、口金3の開口部が閉じられる。なお本発明の高圧ガス貯蔵タンクにおいて、口金3、ボス4、バルブ5は、他の手段によって置き換えることもできる。
【0075】
<ライナー>
高圧ガス貯蔵タンク10を構成するライナー1の材質としては、樹脂を主成分とするライナー(以下、「樹脂ライナー」ともいう)、及び金属を主成分とするライナー(以下、「金属ライナー」ともいう)が例示される。軽量化が要求される車載用タンク等においては、樹脂ライナーを用いることが好ましい。
【0076】
樹脂ライナーに用いる樹脂としては、水素ガス等のガスバリア性及び耐圧性に優れる樹脂であれば特に制限されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の硬化物、光硬化性樹脂の硬化物等が挙げられる。これらの中でも、ライナーを容易に成形できるという観点からは熱可塑性樹脂が好ましい。
当該熱可塑性樹脂としては、例えばポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
水素ガス等のガスバリア性及び耐圧性の観点から、熱可塑性樹脂の中でもポリアミド樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリアミド樹脂がより好ましい。
【0077】
ポリアミド樹脂としては、水素ガス等のガスバリア性及び耐圧性の観点から、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂が好ましい。具体的には、特許文献2(国際公開第2016/084475号)に記載されたポリアミド樹脂が挙げられる。
ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン樹脂が挙げられる。
【0078】
樹脂ライナーは、高強度及び高弾性率を得る観点から、強化繊維を含有していてもよい。強化繊維としては、前記プリプレグにおいて例示したものと同様のものを用いることができ、軽量性、高強度及び高弾性率を得る観点からは炭素繊維が好ましい。
樹脂ライナーが強化繊維を含有する場合、その含有量は、高強度及び高弾性率を得る観点から、樹脂ライナー中の体積分率が、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.30以上、よりさらに好ましくは0.40以上となる範囲である。また、ガスバリア性、耐衝撃性及び成形加工性の観点からは、好ましくは0.98以下、より好ましくは0.95以下、さらに好ましくは0.80以下、よりさらに好ましくは0.70以下となる範囲である。
【0079】
その他、耐衝撃性を高める観点から、樹脂ライナーにはエラストマー成分を含有させることもできる。エラストマー成分としては、例えば、前記熱可塑性樹脂以外の、ポリオレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーン系エラストマー等が挙げられる。また、これらのエラストマーを、ラジカル開始剤の存在下又は非存在下で、α,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物、アクリルアミド並びにそれらの誘導体等で変性した変性エラストマーでもよい。エラストマー成分としては、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。
樹脂ライナーがエラストマー成分を含有する場合、その含有量は、ガスバリア性を維持しつつ耐衝撃性を高める観点から、樹脂ライナー中、好ましくは5~20質量%、より好ましくは10~15質量%の範囲である。
【0080】
金属ライナーに用いる金属としては、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽合金を例示することができる。
【0081】
ライナーの厚さは、高圧ガス貯蔵タンクの容量、形状等に応じて適宜選択することができるが、水素ガス等のガスバリア性及び耐圧性の観点から、好ましくは100μm以上、より好ましくは200μm以上、さらに好ましくは400μm以上であり、高圧ガス貯蔵タンクの小型化及び軽量化の観点からは、好ましくは60mm以下、より好ましくは40mm以下である。
【0082】
<外層>
高圧ガス貯蔵タンク10を構成する外層2は、前記繊維強化複合材を含むものである限り特に制限されない。
水素ガス等のガスバリア性及び耐衝撃性の観点から、外層を構成する材料中の繊維強化複合材の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上であり、上限は100質量%である。水素ガス等のガスバリア性及び耐衝撃性の観点、並びに成形性の観点から、外層は本発明の繊維強化複合材のみから構成されたものであることが好ましい。
【0083】
当該外層においては、繊維強化複合材中の強化繊維が規則的に配列していることが好ましい。規則的に配列しているとは、外層に含まれる強化繊維の50質量%以上、好ましくは70質量%以上が、一定の方向性を持って並んでいることをいう。一定の方向性とは、螺旋状、縦方向、横方向又はこれらの組み合わせが例示される。
なお、本明細書において、螺旋状、縦方向、横方向とは、厳密な螺旋状等の配列に加え、当業者に一般的に解釈される程度の誤差を含む趣旨である。
【0084】
外層の厚さは、高圧ガス貯蔵タンクの容量、形状等に応じて適宜選択することができるが、高いガスバリア性及び耐衝撃性を付与する観点から、好ましくは100μm以上、より好ましくは200μm以上、さらに好ましくは400μm以上であり、高圧ガス貯蔵タンクの小型化及び軽量化の観点からは、好ましくは80mm以下、より好ましくは60mm以下である。
【0085】
外層2の態様としては、例えば図1に示すように、ライナー1の本体部分の外表面を、前記繊維強化複合材により隙間なく覆うように形成した態様が挙げられる。
外層は、ライナー外表面に直接設けてもよい。あるいは、ライナーの外表面に1層又は2層以上の他の層を設け、該他の層の表面に設けてもよい。例えば、ライナーと外層の密着性を向上させるため、ライナーと外層との間に接着層を設けることが挙げられる。
また外層の表面には、保護層、塗料層、錆止含有層等の任意の層が形成されていてもよい。
【0086】
本発明の高圧ガス貯蔵タンクの貯蔵対象となるガスは、25℃、1atmで気体のものであればよく、水素の他、酸素、二酸化炭素、窒素、アルゴン、LPG、代替フロン、メタン等が挙げられる。これらの中でも、本発明の有効性の観点から、好ましくは水素である。
【0087】
<高圧ガス貯蔵タンクの製造方法>
本発明の高圧ガス貯蔵タンクの製造方法は特に限定されない。例えば前記繊維強化複合材のみから構成される高圧ガス貯蔵タンクであれば、トウプリプレグ等の連続繊維を含むプリプレグを、バルーン、セラミック等の鋳型の外表面に巻き付け、加熱硬化させた後に鋳型を除去する方法;前記プリプレグを用いて3Dプリンターにより成形する方法;等が挙げられる。
【0088】
ライナーと、繊維強化複合材を含む外層とを有する高圧ガス貯蔵タンクの製造方法は、生産性の観点から、下記工程(I)~工程(III)を順に有することが好ましい。
工程(I):エポキシ樹脂(A)、下記の成分(x1)と成分(x2)との反応生成物(X)を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)、及び溶剤を含有するエポキシ樹脂組成物を連続繊維束に含浸させる工程
(x1)メタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種
(x2)下記一般式(1)で表される不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種
【化6】

(式(1)中、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、又は炭素数7~13のアラルキル基を表す。)
工程(II):前記エポキシ樹脂組成物を含浸させた連続繊維束を乾燥させて前記溶剤を除去し、トウプリプレグを得る工程
工程(III):前記トウプリプレグをライナーの外表面に巻き付け、次いで加熱して、繊維強化複合材からなる外層を形成する工程
【0089】
(工程(I))
工程(I)では、エポキシ樹脂(A)、前記成分(x1)と成分(x2)との反応生成物(X)を含むエポキシ樹脂硬化剤(B)、及び溶剤を含有するエポキシ樹脂組成物を連続繊維束に含浸させる。これにより、未乾燥のトウプリプレグを得る。
エポキシ樹脂組成物及びその好適態様は前記と同じである。また連続繊維束を構成する強化繊維及びその好適態様も前記と同じであり、ガラス繊維及び炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、炭素繊維がより好ましい。
【0090】
エポキシ樹脂組成物を連続繊維束に含浸させる方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、前述したエポキシ樹脂組成物を充填した樹脂浴に、ロールから巻き出した連続繊維束を浸漬させ、該組成物を含浸させた後に樹脂浴から引き上げる方法が挙げられる。その後、絞りロール等を用いて余剰のエポキシ樹脂組成物を除去する工程を行ってもよい。
【0091】
(工程(II))
工程(II)では、前記エポキシ樹脂組成物を含浸させた連続繊維束を乾燥させて前記溶剤を除去し、トウプリプレグを得る。
乾燥条件は特に制限されないが、溶剤を除去することが可能であって、且つ前記エポキシ樹脂組成物の硬化が過度に進行しない条件であることが好ましい。この観点から、例えば乾燥温度は30~100℃の範囲で、乾燥時間は10秒~5分の範囲で選択できる。
【0092】
なお、トウプリプレグ中でのエポキシ樹脂組成物の硬化を過度に進行させずに溶剤を除去する観点から、上記乾燥は、下記式(i)を満たす条件で行うことがより好ましい。
8,000≦(K×T)/W≦30,000・・・(i)
K:乾燥温度(K)
T:乾燥時間(秒)
W:未乾燥トウプリプレグの厚み(mm)
未乾燥トウプリプレグの厚みとは、工程(II)に供される、溶剤乾燥前のトウプリプレグの、長手方向に垂直な断面における外径のうち最も短い部分の長さを意味する。
上記式(i)における(K×T)/Wの値は、残留溶剤由来のボイド等の発生抑制する観点から、より好ましくは8,500以上、さらに好ましくは9,000以上である。また、トウプリプレグの段階でエポキシ樹脂組成物の硬化が過度に進行するのを抑制する観点から、より好ましくは25,000以下であり、さらに好ましくは20,000以下、よりさらに好ましくは15,000以下、よりさらに好ましくは12,000以下である。
【0093】
上記式(i)において、乾燥温度Kは、残留溶剤由来のボイド等の発生を抑制する観点、及び、トウプリプレグの段階でエポキシ樹脂組成物の硬化が過度に進行するのを抑制する観点から、好ましくは300~400(K)、より好ましくは320~380(K)、さらに好ましくは330~370(K)である。
【0094】
上記式(i)において、乾燥時間Tは、残留溶剤由来のボイド等の発生を抑制する観点から、好ましくは10秒以上、より好ましくは20秒以上である。また、トウプリプレグの段階でエポキシ樹脂組成物の硬化が過度に進行するのを抑制する観点から、好ましくは220秒以下、より好ましくは200秒以下である。
【0095】
上記式(i)において、未乾燥トウプリプレグの厚みWは、高圧ガス貯蔵タンクの外層を形成する観点から、通常、0.1~20mmであり、好ましくは0.2~10mm、より好ましくは0.5~5mm、さらに好ましくは0.5~3mmである。
【0096】
未乾燥トウプリプレグの乾燥は、熱風乾燥機、ヒーター、加熱ロール、熱板等を用いて公知の方法により行うことができる。例えば、未乾燥トウプリプレグを熱風乾燥機、ヒーター等による加熱雰囲気内を走行させる方法;未乾燥トウプリプレグを加熱ロール、熱板等の加熱体に接触させる方法;等が挙げられる。これらの中でも、熱風乾燥機を用いる方法が好ましい。
【0097】
工程(II)で得られたトウプリプレグは、一旦巻き取り等を行ってもよく、巻き取り等を行わずに連続的に工程(III)に供することもできる。
【0098】
(工程(III))
工程(III)では、工程(II)で得られた前記トウプリプレグをライナーの外表面に巻き付け、次いで加熱して、繊維強化複合材からなる外層を形成する。これにより、ライナーと、繊維強化複合材からなる外層とを有する高圧ガス貯蔵タンクを製造できる。なお、ライナーと外層の密着性を向上させるために、ライナーの外表面に予め1層又は2層以上の他の層を設ける工程を行ってもよい。
【0099】
トウプリプレグをライナーの外表面に巻き付ける方法は特に制限されない。例えば、公知のフィラメントワインディング法を用いて、ライナーの外表面を覆うように螺旋状に隙間なく巻き付けることができる。トウプリプレグをライナーの外表面に適用するに際し、必要に応じ接着剤等を用いてもよい。
【0100】
加熱は、トウプリプレグに含まれるエポキシ樹脂組成物を硬化させるのに十分な温度及び時間において、公知の方法により行われる。生産性向上の観点から、加熱温度は80~120℃の範囲で、加熱時間は10分~5時間の範囲とすることが好ましい。
【0101】
上記のようにして外層を形成した後、さらに外層の表面に保護層、塗料層、錆止含有層等の任意の層を形成することもできる。
【実施例
【0102】
次に実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
本実施例における測定及び評価は以下の方法で行った。
【0103】
<水素ガス透過係数[cc・cm/(cm・s・cmHg)]>
各製造例で得られたエポキシ樹脂組成物を、バーコーターを用いて、離型剤を塗布した平滑な金属板に厚み100μmで200mm角に塗工した後、100℃で5分間加熱して硬化させ、硬化物を作製した。この硬化物について、蒸気透過率測定装置(GTRテック製「G2700T・F」)を使用して、23℃、乾燥状態で水素ガス透過係数を測定した。
【0104】
<衝撃強度>
各例で得られた複合材について、切削加工により1.0mm厚、80×10mmサイズのノッチなし試験片を作製した。JIS K7111-1:2012に準拠して、温度23±2℃、湿度50±5%環境下で、フラットワイズにてシャルピー衝撃値を測定した。
【0105】
製造例1
(エポキシ樹脂硬化剤溶液Aの調製)
反応容器に1molのメタキシリレンジアミン(MXDA)を仕込んだ。窒素気流下60℃に昇温し、0.93molのアクリル酸メチルを1時間かけて滴下した。生成するメタノールを留去しながら165℃に昇温し、2.5時間165℃を保持することで、MXDAとアクリル酸メチルとの反応生成物であるエポキシ樹脂硬化剤を得た。そこに、メタノールを1.5時間かけて滴下し、前記エポキシ樹脂硬化剤が65質量%、メタノールが35質量%のエポキシ樹脂硬化剤溶液Aを得た。
(エポキシ樹脂組成物1の調製)
得られたエポキシ樹脂硬化剤溶液A 14.4gに、溶剤としてメタノールを1.5g及び酢酸エチルを9.9g、エポキシ樹脂としてメタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミノ基を有するエポキシ樹脂(三菱瓦斯化学(株)製「TETRAD-X」)4.5g(エポキシ樹脂硬化剤中の活性アミン水素数/エポキシ樹脂中のエポキシ基の数=1.2)を加えて撹拌し、固形分濃度40質量%のエポキシ樹脂組成物1を調製した。
【0106】
製造例2(エポキシ樹脂組成物2の調製)
製造例1において、エポキシ樹脂硬化剤溶液AとTETRAD-Xとの比率を、エポキシ樹脂硬化剤中の活性アミン水素数/エポキシ樹脂中のエポキシ基の数が3.0となる比率に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、固形分濃度40質量%のエポキシ樹脂組成物2を調製した。
【0107】
製造例3(エポキシ樹脂組成物3の調製)
製造例1において、エポキシ樹脂硬化剤溶液AとTETRAD-Xとの比率を、エポキシ樹脂硬化剤中の活性アミン水素数/エポキシ樹脂中のエポキシ基の数が5.0となる比率に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、固形分濃度40質量%のエポキシ樹脂組成物3を調製した。
【0108】
比較製造例1(比較用エポキシ樹脂組成物1の調製)
エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル(株)製「jER828」)を23.5g、エポキシ樹脂硬化剤としてジアミノジフェニルメタンを6.2g(エポキシ樹脂硬化剤中の活性アミン水素数/エポキシ樹脂中のエポキシ基の数=1.2)、溶剤としてメタノールを20g用いた。これらを配合して撹拌し、固形分濃度40質量%の比較用エポキシ樹脂組成物1を調製した。
【0109】
実施例1(プリプレグ及び複合材の作製、評価)
製造例1で得られたエポキシ樹脂組成物1を、サイズ100mm×100mm、質量3gの連続炭素繊維(東レ(株)製「トレカクロスUT70-30G」、一方向クロス、シート厚さ0.167mm)に含浸させ、未乾燥プリプレグを作製した。未乾燥プリプレグにおける樹脂組成物の含浸量は2.97g、未乾燥プリプレグの厚みは0.95mmであった。次いで、未乾燥プリプレグを、80℃の熱風乾燥機内で80秒間加熱して乾燥し、プリプレグを作製した。プリプレグ中の連続炭素繊維の含有量は、体積分率で51%であった。得られたプリプレグを100℃の熱風乾燥機内で1時間保持して硬化させ、複合材を作製した。この複合材を用いて、前記方法で各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
実施例2
実施例1において、エポキシ樹脂組成物1に替えて、製造例2で得られたエポキシ樹脂組成物2を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でプリプレグ及び複合材を作製し、前記方法で各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
実施例3
実施例1において、エポキシ樹脂組成物1に替えて、製造例3で得られたエポキシ樹脂組成物3を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でプリプレグ及び複合材を作製し、前記方法で各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0112】
比較例1
実施例1において、エポキシ樹脂組成物1に替えて、比較製造例1で得られた比較用エポキシ樹脂組成物1を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でプリプレグ及び複合材を作製し、前記方法で各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
表1より、本発明のプリプレグ及び複合材に用いたエポキシ樹脂組成物の硬化物は水素ガス透過係数が低く、水素ガスバリア性が良好であった。また、本発明の複合材は比較例1の複合材と比較して耐衝撃性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、水素ガス等のガスバリア性と、耐衝撃性とを両立し得るプリプレグ及び繊維強化複合材を提供することができる。本発明のプリプレグの硬化物である繊維強化複合材は、高いガスバリア性及び耐衝撃性を有し、例えば高圧ガス貯蔵タンクを構成する材料として好適である。
【符号の説明】
【0116】
10 高圧ガス貯蔵タンク
1 ライナー
2 外層
3 口金
4 ボス
5 バルブ
図1