(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】密封部材
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3284 20160101AFI20240402BHJP
C08L 27/20 20060101ALI20240402BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20240402BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240402BHJP
C08K 5/56 20060101ALI20240402BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
F16J15/3284
C08L27/20
C08L27/16
C08K3/22
C08K5/56
C09K3/10 M
C09K3/10 Q
C09K3/10 Z
(21)【出願番号】P 2020084084
(22)【出願日】2020-05-12
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川野 友嗣
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-193197(JP,A)
【文献】特開2003-019772(JP,A)
【文献】特開2003-055577(JP,A)
【文献】特開平10-030760(JP,A)
【文献】特開2008-144061(JP,A)
【文献】特開2006-039157(JP,A)
【文献】特開2014-051581(JP,A)
【文献】特開平08-337686(JP,A)
【文献】特開平08-337689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00- 15/56
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C09K 3/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫のフッ素ゴム、アルミナ、イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネート、及び加硫剤を含み、
各成分の含有量は、前記フッ素ゴム100質量部に対して、
前記アルミナが10~50質量部、
前記イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネートが0.2~3質量部、
前記加硫剤が0.4~20質量部、
であるゴム組成物の加硫物からなる摺動部を有する密封部材。
【請求項2】
前記未加硫のフッ素ゴムは、フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとの共重体である請求項1に記載の密封部材。
【請求項3】
前記ゴム組成物は、受酸剤を更に含み、
前記加硫剤がポリオール系加硫剤であり、
前記受酸剤は、前記フッ素ゴム100質量部に対する含有量が、3~10質量部の水酸化カルシウム及び1~5質量部の酸化マグネシウムである、請求項1又は2に記載の密封部材。
【請求項4】
前記ゴム組成物は、前記フッ素ゴム100質量部に対する含有量が、3~50質量部のカーボンブラックを更に含有する、請求項1~3のいずれかに記載の密封部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルシール等の密封部材に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスミッションやディファレンシャルギヤ用のオイルシールをはじめ、自動車では多くのオイルシールが用いられている。
自動車用途のオイルシールは、オイルの密封性とともに低燃費化の要求に伴い低トルク化が求められている。
【0003】
密封部材の低トルク化を図る手法としては、相手部材と摺動するゴム部材を低摩擦化する手法が提案されている。
具体的には、例えば、黒鉛、二硫化モリブテン、ポリテトラフルオロエチレンなどの固体潤滑剤を上記ゴム部材に配合する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、固体潤滑剤は通常、オイルが切れた状態等の貧潤滑状態になってはじめて自己潤滑性を発現する。そのため、内部空間に封入した多量のオイルによる良好な潤滑下で常時使用されるオイルシールに上記固体潤滑剤を配合しても、更なる低摩擦化を図ることは困難であった。
【0004】
また、オイルシールの低トルク化を図る手法として、例えば、特許文献2は、オイルシールの摺動部に梨地加工とコーティング処理とを施す手法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-348460号公報
【文献】特開2011-241868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2で提案されたオイルシールによれば、摺動部に梨地加工とコーティング処理とが施されているため、相手部材との接触面積を低減してオイルシールの低トルク化を図ることができる。しかしながら、コーティング層が磨滅すると、その後は早期に低トルク化効果が消失するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような状況のもと、密封性を維持しつつ、長期間に亘って低トルク化を図ることができる密封部材を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の密封部材は、未加硫のフッ素ゴム、アルミナ、イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネート、及び加硫剤を含み、
各成分の含有量は、上記フッ素ゴム100質量部に対して、
上記アルミナが10~50質量部、
上記イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネートが0.2~3質量部、
上記加硫剤が0.4~20質量部、
であるゴム組成物の加硫物からなる摺動部を有する。
【0009】
本発明の密封部材は、密封部材の摺動部を構成する上記ゴム組成物の加硫物が、フッ素ゴムをゴム成分とし、このゴム成分中に、充填剤としてのアルミナと、カップリング剤であるイソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネートとを組み合わせて含有している。そのため、上記密封部材は、密封性を維持しつつ、長期間に亘って低トルク化を図ることができる。
この理由は、以下のように考えている。
上記密封部材を構成する加硫物は、架橋したフッ素ゴム中にアルミナが含まれているため硬さが確保されており、当該加硫物からなる摺動部の低トルク化を図ることができる。
また、上記ゴム組成物の加硫物は、アルミナを特定のカップリング剤と併用しているため、上記アルミナが摺動時に摺動面から脱落しにくく、アルミナの脱落による硬さの低下や摺動面における凹凸の形成が回避される。そのため、上記加硫物からなる摺動部を備えた密封部材は、リップ先端と回転軸等の相手部材との間の隙間が過大にならず、アルミナをしゅう動部に保持し続けるため、長期間に亘って密封性と低トルク性能とを維持することができる。
【0010】
上記密封部材において、上記未加硫のフッ素ゴムは、フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとの共重体であることが好ましい。
また、上記密封部材において、上記ゴム組成物は、受酸剤を更に含み、
上記加硫剤がポリオール系加硫剤であり、
上記受酸剤は、上記フッ素ゴム100質量部に対する含有量が、3~10質量部の水酸化カルシウム及び1~5質量部の酸化マグネシウムである、ことが好ましい。
更に、上記密封部材において、上記ゴム組成物は、上記フッ素ゴム100質量部に対する含有量が、3~50質量部のカーボンブラックを更に含有する、ことが好ましい。
これらの場合、要求される密封性を確保しつつ、密封部材の低トルク化を図るのにより好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の密封部材によれば、密封性を維持しつつ、長期間に亘って低トルク化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかるオイルシールの断面図である。
【
図2】実施例及び比較例において、トルクの測定に使用したシールトルク試験機の一部を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態にかかる密封部材について図面を参照しながら詳述する。
[第1実施形態]
図1は、本実施形態にかかるオイルシールの断面図である。
オイルシール10は環状に形成され、その外周部の外周面が、例えばトランスミッションのハウジング35等に固定され、内周部のリップ先端24が回転軸36等の相手部材の軸表面のリップ当たり面36aに摺接し、ハウジング35と回転軸36との間の空間内に封入した潤滑油等を密封する。
オイルシール10は、金属環11と弾性部材12とを加硫接着してなる。金属環11は、軸方向に平行な部分14と、垂直な部分15とによって断面L字形状に屈曲して形成されている。弾性部材12は、金属環11の平行部分14の外周面及び垂直部分15の軸方向一側面を覆うように接着されるとともに、径方向内側に保護リップ19及び回転軸36との摺接部となるリップ先端24を備えるリップ頭部18を備えている。リップ頭部18の外周面には、締め付け力を補助するためのガータばね13が設けられている。
【0014】
保護リップ19は、回転軸36に向かって延び、回転軸36との間の粉塵の通過を阻止している。また、保護リップ19は、リップ頭部18から離れる方向へ向けて斜めに延びている。
リップ頭部18は、金属環11の平行部分14の内周側に配置されるとともに、その外周面にガータばね13を嵌合するばね溝18aを有し、内周面は、径方向内方に向けて先細り形状となっている。したがって、リップ頭部18の内周面には、先細り形状のリップ先端(境界縁)24を境として軸方向両側に、互いに反対方向側に傾斜する2つのリップ側面20,23が形成されている。
【0015】
保護リップ19から離れて配置された一方のリップ側面20は、密封流体側に配置されたリップ密封液側面とされ、保護リップ19側に配置された他方のリップ側面23は、リップ大気側面とされている。リップ頭部18では、主にリップ先端24が、回転軸36のリップ当たり面(軸の表面)36aに摺接する。なお、リップ頭部18は、リップ先端24が回転軸36のリップ当たり面36aに接触することによって径外方向に湾曲し、変形したリップ先端24とその近傍のリップ密封液側面20とリップ大気側面23とがリップ当たり面36aに接触するが、
図1では、湾曲していない状態のリップ頭部18を示している。
【0016】
リップ頭部18を含む弾性部材12は、ゴム組成物の加硫物からなる。上記ゴム組成物は、未加硫のフッ素ゴムと、アルミナと、特定のカップリング剤とを含む。
オイルシール10は、弾性部材12が上記加硫物からなるため、優れた密封性を維持しつつ、長期間に亘って低トルク化を図ることができる。
オイルシール10のリップ先端24は、上記加硫物からなるため摩擦係数が低く、また、回転軸36のリップ当たり面36aとの摺接によってアルミナの脱落が生じにくい。そのため、オイルシール10は、トルクが低く、かつ十分な密封性を備えた状態を長期間に亘って維持することができると考えている。
【0017】
以下、上記ゴム組成物について詳述する。
上記ゴム組成物は、原料ゴムとしての未加硫のフッ素ゴムと、アルミナと、イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネートと、加硫剤とを含有する。
上記ゴム組成物は、アルミナと特定のカップリング剤とがこの組み合わせで含まれていることが重要であり、これによってオイルシールとしての密封性を維持しつつ、当該オイルシールの低トルク化を図ることができる。
以下、本明細書では、単にフッ素ゴムと記載した場合、未加硫のフッ素ゴムを指すこととする。
【0018】
上記フッ素ゴムとしては、例えば、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、4フッ化エチレン-プロピレン系ゴム(FEPM)、4フッ化エチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル系ゴム(FFKM)等が挙げられる。
これらの中では、フッ化ビニリデン系ゴムが好ましい。
【0019】
上記フッ化ビニリデン系ゴム(FKMポリマーとも呼ばれる)としては、例えば、フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとの共重合体(VDF-HEP)、フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンと4フッ化エチレンとの共重合体(VDF-HEP-TFE)、フッ化ビニリデンとパーフルオロアルキルビニルエーテルと6フッ化プロピレンと4フッ化エチレンとの共重合体等が挙げられる。
上記フッ化ビニリデン系ゴムとしては、フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンとの共重合体(VDF-HEP)がより好ましい。オイルシールに必要な耐環境性(耐熱・耐寒)や耐油性に優れるからである。
上記フッ素ゴムは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記フッ素ゴムは、市販品を用いることもできる。
【0020】
上記未加硫のフッ素ゴムは、ムーニー粘度(ML1+10(100℃))が10~100であることが好ましく、20~80であることがより好ましく、30~60であることが更に好ましい。
加硫成型時、フッ素ゴムを含む上記ゴム組成物は、金型内の空間に、熱により軟化・流動して充填される。このとき、上記ムーニー粘度が小さいと、フッ素ゴムの軟化が過大になり、金型間の隙間から漏れたり、内圧の不足によって狙いとしたゴム組成物の加硫物(オイルシール)が得られなかったりする場合がある。一方、上記ムーニー粘度が大きいと、加硫成型時の上記ゴム組成物の流動速度が著しく低下し、金型内の空間に充填される前にフッ素ゴムの加硫反応が進行してしまい、狙いとしたゴム組成物の加硫物(オイルシール)が得られない場合がある。そのため、本発明の実施形態では、上記範囲のムーニー粘度を有するフッ素ゴムを用いることが好ましい。
上記ムーニー粘度(ML1+10(100℃))は、JIS K 6300-1に準拠して測定される値である。
【0021】
上記ゴム組成物を加硫する場合、その加硫系は、ポリオール加硫系、パーオキサイド加硫系、ポリアミン加硫系のいずれであってよい。
よって、上記加硫剤としては、例えば、ビスフェノール等のポリオール系加硫剤、有機過酸化物、モノアミン、ジアミン、ポリアミン等のアミン化合物が挙げられる。
上記加硫系は、ビスフェノールを用いたポリオール加硫系が好ましい。この理由は、上記ゴム組成物の加硫物からなるオイルシールのリップ先端が回転軸等と摺動したとき、当該リップ先端が摩耗しにくく、オイルシールによる長期密封性が良好だからである。
【0022】
上記ビスフェノールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン[ビスフェノールAF]、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン[ビスフェノールS]、ビスフェノールA-ビス(ジフェニルホフェート)、4,4′-ジヒドロキシジフェニル、4,4′-ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩などであってもよい。
これらのなかでは、ビスフェノールA、ビスフェノールAFが好ましい。
【0023】
上記加硫剤の含有量は、上記フッ素ゴム100質量部に対して、0.4~20質量部である。
上記加硫剤の含有量が0.4質量部未満では、上記ゴム組成物の加硫物の架橋密度が小さく、硬さが低くなる。そのため、オイルシールの緊迫力が低くなり、密封性に劣ることがある。一方、上記加硫剤の添加量が20重量部を超えると、上記加硫物の架橋密度が大きく、硬さが高くなる。そのため、オイルシールのリップ先端の追随性が低くなり、この場合も密封性に劣ることがある。
上記加硫剤がビスフェノールの場合、その含有量は、上記フッ素ゴム100質量部に対して、0.5~10質量部で好ましく、1~5質量部がより好ましい。
【0024】
上記ゴム組成物は、加硫系がポリオール加硫系又はアミン加硫系の場合、受酸剤を含有することが好ましい。
上記受酸剤は、ポリオール加硫やアミン加硫の際に発生する酸性物質を中和するために用いられるものである。
上記受酸剤としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0025】
上記受酸剤としては、水酸化カルシウムと酸化マグネシウムとを組み合わせて用いることが好ましい。
水酸化カルシウムは、ゴム組成物の加硫物の架橋密度を適度に調整することができ、ゴム組成物の加硫物の摩擦係数を低下させ、反発弾性率を低下させることができる。また、水酸化カルシウムは、成形時の発泡を起こしにくい。酸化マグネシウムは、ゴム組成物の加硫物の反発弾性率を低下させたり、ゴム組成物の加硫物の低摩擦係数や低粘着力を確保したりするのに適している。そのため、両者を組み合わせて用いることでこれらの効果を享受することができる。
この場合、上記受酸剤の含有量は、上記フッ素ゴム100質量部に対して、水酸化カルシウムが3~10質量部であり、酸化マグネシウムが1~5質量部であることが好ましい。
【0026】
上記ゴム組成物は、必要に応じて加硫促進剤を含有してもよい。
上記ゴム組成物の加硫系がポリオール加硫系の場合、上記加硫促進剤としては、例えば、第4級ホスホニウム塩を用いることができる。
上記ゴム組成物の加硫系がポリオール加硫系の場合、上記加硫促進剤の含有量は、上記フッ素ゴム100質量部に対して、0.3~20質量部が好ましい。
上記加硫促進剤の含有量が少ないと、上記ゴム組成物の加硫物の架橋密度が小さく、硬さが低くなる。そのため、オイルシールの緊迫力が低くなり、密封性に劣ることがある。一方、上記加硫促進剤の添加量が多いと、上記加硫物の架橋密度が大きく、硬さが高くなる。そのため、オイルシールのリップ先端の追随性が低くなり、この場合も密封性に劣ることがある。
【0027】
上記第4級ホスホニウム塩の具体例としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムクロライド、トリフェニルベンジルホスホニウムクロライド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメトキシメチルホスホニウムクロライド、トリフェニルメチルカルボニルメチルホスホニウムクロライド、トリフェニルエトキシカルボニルメチルホスホニウムクロライド、トリオクチルベンジルホスホニウムクロライド、トリオクチルメチルホスホニウムブロマイド、トリオクチルエチルホスホニウムアセテート、トリオクチルエチルホスホニウムジメチルホスフェート、テトラオクチルホスホニウムクロライド、セチルジメチルベンジルホスホニウムクロライド等が挙げられる。
【0028】
上記ゴム組成物は、充填剤としてのアルミナを含有する。
上記アルミナの形状は特に限定されないが、球状または塊状が好ましい。
上記アルミナの粒子径は、1~60μmが好ましい。上記粒子径が1μm未満では、オイルシールの摺動部にアルミナが露出し難く、低トルク化の効果を得られにくくなる。一方、上記粒子径が60μmを超えるとオイルシールの摺動幅よりもアルミナの粒子径が大きくなってしまい、オイルシールの密封性が損なわれる場合がある。
上記アルミナの粒径は、コールターカウンター法により測定した粒子径d50である。
上記アルミナは、市販品を用いることができる。市販品のアルミナとしては、例えば、昭和電工社製、アルナビーズ CBシリーズや、ASシリーズ等が挙げられる。
【0029】
上記アルミナの含有量は、上記フッ素ゴム100質量部に対して、10~50質量部である。
上記含有量が10質量部未満では、オイルシールの低トルク化が充分に達成できない。また、上記ゴム組成物の加硫物の硬さが不足し、オイルシールの密封性に劣ることがある。一方、上記含有量が50質量部を超えると、ロール等を用いた混錬によって、上記ゴム組成物を調製する際に、作業性が著しく損なわれて、均一に混練できないことがある。
上記アルミナの含有量は、上記フッ素ゴム100質量部に対して、20~40質量部が好ましい。
【0030】
上記ゴム組成物は、イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネートを含有する。イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネートは、カップリング剤としての機能を有する化合物であり、上記アルミナと併用してフッ素ゴム中に配合することにより、上記加硫物の硬さを維持しつつ、オイルシールを低トルク化する効果を特異的に発揮することができる。
【0031】
上記イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネートの含有量は、上記フッ素ゴム100質量部に対して、0.2~3質量部である。
上記含有量が0.2質量部未満では、オイルシールの低トルク化が充分に達成できず、また、上記ゴム組成物の加硫物の硬さが低下しやすい。一方、上記含有量が3質量部を超えると、混錬後のゴム組成物のムーニー粘度や加硫速度が過大になり、狙いとしたゴム組成物の加硫物(オイルシール)を得られないことがある。
上記イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネートの含有量は、上記フッ素ゴム100質量部に対して、0.7~2.5質量部が好ましい。
【0032】
上記ゴム組成物は、更に、カーボンブラックを含有することが好ましい。上記カーボンブラックを含有すると、上記ゴム組成物の加硫物の硬さを硬くしやすくなり、オイルシールの回転軸を締め付ける力(緊迫力)を適切な力に調整しやすい。
上記カーボンブラックの種類としては特に限定されず、例えば標準品種であるMAF-HS(窒素吸着比表面積:54~58m2/g)、MAF(46~50m2/g)等のMAF級、FEF-HS(42~49m2/g)、FEF(40~42m2/g)等のFEF級、GPF(26~28m2/g)、SRF-HS(28~32m2/g)、SRF(26~28m2/g)、SRF-LS(23~26m2/g)等のSRF級、FT(13~19m2/g)、MT(6m2/g)等が挙げられる。なお、括弧内の数値は、窒素吸着比表面積(N2SA)である。
ここで、窒素吸着比表面積(N2SA)は、JIS K 6217-2:2001の規定に従い測定される値である。
【0033】
上記カーボンブラックの含有量は、上記フッ素ゴム100質量部に対して、3~50質量部が好ましい。上記含有量が3質量部未満では、上記ゴム組成物の加硫物の硬さを硬くしにくく、オイルシールの密封性を保持できないことがある。一方、上記含有量が50質量部を超えると、ゴム組成物の加硫物の硬さが過大になって、オイルシールの緊迫力が過大になる。さらにオイルシールの摺動トルクが過大になって、オイルシールの摺動部が著しく摩耗し、この場合も密封性を保持できないことがある。
【0034】
上記ゴム組成物は、更に、オイルシールに配合される他の公知の添加剤等を含有してもよい。
上記他の添加剤としては、例えば、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、チタン酸カリウム、酸化チタン、硫酸バリウム、硼酸アルミニウム、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、珪藻土、ウォラストナイト等の充填剤;ワックス、金属セッケン、カルナバワックス等の加工助剤;老化防止剤;熱可塑性樹脂;クレー、その他繊維状充填剤などが挙げられる。
【0035】
上記ゴム組成物の加硫物のデュロメータA硬さは、A70~A80が好ましい。
上記加硫物のデュロメータA硬さがA70未満では、弾性部材12の相手部材(回転軸36)に対する締め付け力が不十分となりオイル漏れが発生することがある。
一方、上記加硫物のデュロメータA硬さがA80を超えると、弾性部材12の相手部材に対する追従性が不十分となり、この場合もオイル漏れが発生することがある。
上記デュロメータA硬さは、JIS K 6253-3:2012に準拠した方法で測定すればよい。
【0036】
本実施形態に係るオイルシール10は、例えば下記の工程を経て製造することができる。
(1)まず、未加硫のフッ素ゴム、加硫剤、アルミナ、及び、イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネートを含み、更には、必要に応じて配合するカーボンブラック、受酸剤、加硫促進剤等を含有するゴム組成物を調製する。このゴム組成物は、予め各配合成分を計量し、ロール、ニーダ等の混錬機で混練することによって調製すればよい。
【0037】
(2)次に、金型内に、上記ゴム組成物を注型し、所定の条件で加熱し、加硫成形する。
この工程では、上記ゴム組成物を加硫成形する際に、金属環11を金型内に予め設けておき、金属環11と弾性部材12とを加硫接着させることが好ましい。これにより、製造工数を低減することができる。
【0038】
(3)その後、成形品を金型から取り出し、ガータばね13を嵌合させ、オイルシール10を完成する。
【0039】
(他の実施形態)
本発明の実施形態に係る密封部材は、オイルシールに限定されず、例えば、ダストシールや、他のシール部材等であってもよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例のそれぞれでは、
図1に示した形状のオイルシールと、物性を測定するためのシートとを作製した。
【0041】
実施例及び比較例で、ゴム組成物の調製に用いた原料は、以下の通りである。
・フッ素ゴム(原料ゴム):Du Pont社製、バイトンA-500(ムーニー粘度:46ML1+10(100℃))
・カーボンブラック:cancarb社製、N990
・アルミナ:昭和電工社製、アルミナビーズ CB-P40(粒子径d50:44μm)
・カップリング剤A:イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネート(味の素ファインテクノ社製、プレンアクト 44、下記式(1)参照)
【0042】
【0043】
・カップリング剤B:味の素ファインテクノ社製、プレンアクト AL-M
・カップリング剤C:味の素ファインテクノ社製、プレンアクト 46B
・加硫剤:ビスフェノールAF(Du Pont社製、キュラティブ#30)
・加硫促進剤:第4級オニウム塩(Du Pont社製、キュラティブ#20)
・受酸剤:水酸化カルシウム(近江化学工業社製、CALDIC #2000)
・受酸剤:酸化マグネシウム(協和化学社製、キョーワマグ #150)
【0044】
(実施例1)
(1)フッ素ゴム(バイトンA-500)100質量部、カーボンブラック(N-990)5質量部、アルミナ(CB-P40)30質量部、イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネート(プレンアクト 44)1質量部、加硫剤(キュラティブ#30)2.5質量部、加硫促進剤(キュラティブ#20)1.2質量部、水酸化カルシウム(CALDIC #2000)6質量部、及び、酸化マグネシウム(キョーワマグ #150)3質量部をロールで混練し、ゴム組成物を得た。
【0045】
(2-1)金属環を設置した金型に上記(1)で得たゴム組成物を注型した後、180℃、10分間の条件でプレス成型した。この後、オーブン内で、230℃、24時間の条件で加熱(二次加硫)し、
図1に示した形状のオイルシールを作製した。
(2-2)上記(2-1)とは別に、上記(1)で得たゴム組成物を金型を用いて上記(2-1)と同条件でシート状に加硫成形し、上記ゴム組成物の加硫物からなる厚さ2mmのシートを作製した。
【0046】
(比較例1)
カーボンブラックの配合量を30重量部とし、アルミナを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、オイルシールとシートとを作製した。
【0047】
(比較例2)
カップリング剤A(プレンアクト 44)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、オイルシールとシートとを作製した。
【0048】
(比較例3)
カップリング剤A(プレンアクト 44)に代えて、カップリング剤B(プレンアクト AL-M)を配合した以外は、実施例1と同様にして、オイルシールとシートとを作製した。
【0049】
(比較例4)
カップリング剤A(プレンアクト 44)に代えて、カップリング剤C(プレンアクト 46B)を配合した以外は、実施例1と同様にして、オイルシールとシートとを作製した。
【0050】
実施例及び比較例のそれぞれで作製したオイルシール又はシートを使って下記の評価を行った。結果を表1に示した。
(1)デュロメータA硬さ:
この評価は、シートを使って行った。
シートを30×50mmの寸法に切り出し、タイプAデュロメータを使用して「JIS K 6253-3:2012」に準拠した方法でデュロメータA硬さを測定した。測定は、試験片を3枚重ねて行った。
【0051】
(2)トルク:
この評価は、オイルシールを使って行った。
図2に示したように、オイルシール10の外周部をシールトルク試験機100のハウジング135に固定しつつ、オイルシール10の内周部を回転軸136に挿通し、オイル140を密封した状態で回転軸136を回転させ、そのときのトルク[mN・m]をロードセル(図示せず)で測定した。このとき、試験条件としては、
試験温度:室温(25℃)
周速:10m/s
なじみ試験:30min
トルク試験:2min
を採用した。結果を表1に示した。
【0052】
【0053】
これらの評価により、本発明の実施形態に係るオイルシールによれば、良好な硬さを確保することで密封性を維持したまま、低トルク化を達成できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0054】
10:オイルシール、11:金属環、12:弾性部材、13:ガータばね、
18:シール頭部、19:保護リップ、20:リップ密封液側面、23:リップ大気側面