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特許7463836インクセット及びインクジェット記録装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】インクセット及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20240402BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20240402BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240402BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B41J2/165 401
C09D11/326
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020085009
(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公開番号】P2021178464
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】喜田 友香里
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-100341(JP,A)
【文献】特開2006-274128(JP,A)
【文献】特開2018-119078(JP,A)
【文献】特開2012-007101(JP,A)
【文献】特開2019-084684(JP,A)
【文献】特開2010-285504(JP,A)
【文献】特開2015-021084(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0194363(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
C09D 11/326
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット用インクと、クリーニング液とを備えるインクセットであって、
前記インクジェット用インクは、第1水性媒体と、カーボンブラックと、分散樹脂と、アミドアルキルベタイン構造を有する第1両性界面活性剤と、第1糖アルコールとを含有し、
前記カーボンブラックの吸油量は、130mL/100g以上165mL/100g以下であり、
前記カーボンブラックの含有量に対する前記分散樹脂の含有量の比率は、12.0質量%以上19.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける第1糖アルコールの含有割合は、5.0質量%以上15.0質量%以下であり、
前記クリーニング液は、第2水性媒体と、アミドアルキルベタイン構造を有する第2両性界面活性剤と、第2糖アルコールとを含有し、
前記クリーニング液における前記第2糖アルコールの含有割合は、10.0質量%以上22.0質量%以下である、インクセット。
【請求項2】
前記インクジェット用インク及び前記クリーニング液は、それぞれ、塩基性化合物を更に含有し、
前記インクジェット用インクのpH及び前記クリーニング液のpHは、それぞれ、7.5以上10.0以下である、請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
前記インクジェット用インクにおける前記第1両性界面活性剤の含有割合は、0.7質量%以上2.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項4】
前記クリーニング液における前記第2両性界面活性剤の含有割合は、8.0質量%以上22.0質量%以下である、請求項1~3の何れか一項に記載のインクセット。
【請求項5】
前記第1糖アルコール及び前記第2糖アルコールは、それぞれ、ソルビトール又はマルチトールを含む、請求項1~4の何れか一項に記載のインクセット。
【請求項6】
前記第1両性界面活性剤及び前記第2両性界面活性剤は、それぞれ、下記一般式(1)で表される化合物を含む、請求項1~5の何れか一項に記載のインクセット。
【化1】
(前記一般式(1)中、Rは、炭素原子数6以上20以下の1価の鎖状炭化水素基を表し、nは、1以上5以下の整数を表す。)
【請求項7】
前記第2水性媒体は、グリコールエーテル化合物を含む、請求項1~6の何れか一項に記載のインクセット。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載のインクセットを用いる記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドは、
記録媒体の画像形成領域に前記インクジェット用インクを吐出する記録部と、
前記記録部のインク吐出面を前記クリーニング液でクリーニングするクリーニング部とを有し、
前記インク吐出面は、撥水膜で被覆されている、インクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセット及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録装置は、画質及び記録速度の向上に伴い、ビジネス分野での大量印刷に使用される機会が増加している。それに伴って、インクジェット装置には、インクの信頼性(例えば、インクの吐出安定性及び保存安定性)及び形成される画像の画質(例えば、画像濃度の高さ、及び白抜けの発生の抑制)が要求されるようになっている。なお、白抜けは、インクが記録媒体に着弾した後に、インクに含まれる顔料が記録媒体の表面に留まらず、顔料が記録媒体の内部に浸透することで発生する。
【0003】
また、インクジェット装置には、記録部のインク吐出面に撥水膜が設けられている。上述の撥水膜は、インクが吐出される際に、記録部のインク吐出面にインクが濡れ広がることでインクの着弾精度が低下する現象を抑制する機能を有する。上述の撥水膜は、記録部のインク吐出面がクリーニングされる際に徐々に摩耗する。そのため、インクジェット装置には、上述の撥水膜の摩耗を抑制することも要求されている。
【0004】
ここで、インクジェット記録装置に用いるインクジェット用インクとしては、環境負荷の観点から水性媒体を含有するインク(水性インク)が好ましい。水性インクとしては、分散樹脂及び顔料により形成される顔料分散体を含有する水性インクと、自己分散顔料を含有する水性インクとが挙げられる。このうち、自己分散顔料を含有する水性インクは、硬度が比較的高い無機成分である自己分散顔料を剥き出しの状態で含むため、上述の撥水膜の摩耗を促進し易い。また、自己分散顔料は、水溶性が高い成分であるため、耐水性の高い画像の形成には適していない。一方、顔料分散体を含有する水性インクは、記録媒体の内部に顔料が浸透し易いため、形成される画像の画像濃度の低下及び白抜けが発生し易い傾向がある。上述の画像濃度の低下及び白抜けの発生は、表面が平滑でない記録媒体(例えば、表面にコーティングを行っていない紙)に対して画像形成を行う場合に顕著である。
【0005】
顔料分散体を含有する水性インクにおいて、画像濃度を向上させる方法として、例えば、特定の比表面積及び吸油量を有する2種類のカーボンブラックを組み合わせて用いる方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-217508号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の水性インクによっても、優れた保存安定性及び吐出安定性を発揮しつつ、白抜けの発生とインクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗とを抑制し、かつ画像濃度に優れる画像を形成することは困難である。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、インクジェット用インクの保存安定性及び吐出安定性に優れ、白抜けの発生とインクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗とを抑制でき、かつ画像濃度に優れる画像を形成できるインクセットと、上述のインクセットを用いるインクジェット記録装置とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るインクセットは、インクジェット用インクと、クリーニング液とを備える。前記インクジェット用インクは、第1水性媒体と、カーボンブラックと、分散樹脂と、アミドアルキルベタイン構造を有する第1両性界面活性剤と、第1糖アルコールとを含有する。前記カーボンブラックの吸油量は、130mL/100g以上165mL/100g以下である。前記カーボンブラックの含有量に対する前記分散樹脂の含有量の比率は、12.0質量%以上19.0質量%以下である。前記インクジェット用インクにおける第1糖アルコールの含有割合は、5.0質量%以上15.0質量%以下である。前記クリーニング液は、第2水性媒体と、アミドアルキルベタイン構造を有する第2両性界面活性剤と、第2糖アルコールとを含有する。前記クリーニング液における前記第2糖アルコールの含有割合は、10.0質量%以上22.0質量%以下である。
【0010】
本発明に係るインクジェット記録装置は、上述のインクセットを用いる記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置である。前記記録ヘッドは、記録媒体の画像形成領域に前記インクジェット用インクを吐出する記録部と、前記記録部のインク吐出面を前記クリーニング液でクリーニングするクリーニング部とを有する。前記インク吐出面は、撥水膜で被覆されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るインクセット及びインクジェット記録装置は、インクジェット用インクの保存安定性及び吐出安定性に優れ、白抜けの発生とインクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗とを抑制でき、かつ画像濃度に優れる画像を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録装置の一例を示す図である。
図2図1の記録ヘッド及びヘッドハウジングの下面を示す図である。
図3図1の第1記録ヘッドの側面を示す図である。
図4図3の第1記録ヘッドの下面を示す拡大図である。
図5図1のインクジェット記録装置によるクリーニング動作の一工程を示す図である。
図6図5の次の工程を示す図である。
図7図6の次の工程を示す図である。
図8図7の次の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書において、「pH」は、何ら規定していなければ、25℃において測定される水素イオン指数を意味する。アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。カーボンブラックの吸油量は、ASTM D2414「カーボンブラック吸油量(OAN)の標準試験法」に記載の方法に準拠して測定される。本明細書に記載の各成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
<第1実施形態:インクセット>
以下、本発明の第1実施形態に係るインクセットを説明する。本発明のインクセットは、インクジェット用インク(以下、インクと記載することがある)と、クリーニング液とを備える。インクは、第1水性媒体と、カーボンブラックと、分散樹脂と、アミドアルキルベタイン構造を有する第1両性界面活性剤と、第1糖アルコールとを含有する。カーボンブラックの吸油量は、130mL/100g以上165mL/100g以下である。カーボンブラックの含有量に対する分散樹脂の含有量の比率(以下、比率pと記載することがある)は、12.0質量%以上19.0質量%以下である。インクにおける第1糖アルコールの含有割合は、5.0質量%以上15.0質量%以下である。クリーニング液は、第2水性媒体と、アミドアルキルベタイン構造を有する第2両性界面活性剤と、第2糖アルコールとを含有する。クリーニング液における第2糖アルコールの含有割合は、10.0質量%以上22.0質量%以下である。
【0015】
本発明のインクセットが備えるクリーニング液は、例えば、後述するインクジェット記録装置において、記録部のインク吐出面をクリーニングするためのクリーニング液として好適である。
【0016】
本発明のインクセットは、上述の構成を備えることにより、インクの保存安定性及び吐出安定性に優れ、白抜けの発生とインクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗とを抑制でき、かつ画像濃度に優れる画像を形成できる。その理由は以下の通りであると推察される。
【0017】
本発明のインクセットが画像濃度に優れる画像を形成できる理由を説明する。本発明のインクセットの備えるインクは、吸油量が比較的高いカーボンブラック(ハイストラクチャーカーボンブラック)を含有する。ハイストラクチャーカーボンブラックは、構造が複雑であるため、記録媒体の表面にインクが着弾した後に、記録媒体の表面に留まり易い。このように、本発明のインクセットは、インクがハイストラクチャーカーボンブラックを含有するため、画像濃度に優れる画像を形成できる。
【0018】
本発明のインクセットが白抜けの発生を抑制でき、かつ保存安定性に優れる理由を説明する。本発明のインクセットの備えるインクは、分散樹脂を含有する。分散樹脂は、顔料の分散性を向上させることで、インクの保存安定性を向上させる。一方、分散樹脂の含有量が少ないインクは、白抜けの発生を抑制できる。その理由を説明する。分散樹脂を少量のみ含有するインクは、顔料がやや不安定な状態で第1水性媒体に分散している。このようなインクは、記録媒体の表面に着弾した後に、顔料が凝集して記録媒体の表面に留まり易くなる。その結果、白抜けの発生を抑制できる。本発明のインクセットの備えるインクは、カーボンブラックの含有量に対する分散樹脂の含有量の比率pが12.0質量%以上であり、一定量の分散樹脂を含有するため、インクの保存安定性に優れる。一方、本発明のインクセットの備えるインクは、比率pが19.0質量%以下であり、分散樹脂の含有量が比較的少ないため、白抜けの発生を抑制できる。
【0019】
本発明のインクセットが吐出安定性に優れる理由を説明する。上述の通り、本発明のインクセットは、インクにおける分散樹脂の含有量が比較的少ないため、顔料がやや不安定な状態で第1水性媒体に分散している。このようなインクは、本来であれば、顔料が凝集してインクノズルの表面に付着することでインクの吐出安定性を低下させる傾向がある。一方、本発明のインクセットは、インクが第1糖アルコールを含有し、クリーニング液が第2糖アルコールを含有する。糖アルコールは、潮解性に優れた化合物である。そのため、本発明のインクセットは、インク及びクリーニング液が第1糖アルコール及び第2糖アルコールを含有することで、インクノズルの表面を保湿する。その結果、本発明のインクセットは、インクにおける分散樹脂の含有量が比較的少ないにも関わらず、インクノズルの表面に顔料が凝集して付着することを抑制し、インクの吐出安定性を向上できる。
【0020】
本発明のインクセットがインクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗を抑制できる理由を説明する。上述の通り、本発明のインクセットは、インクがハイストラクチャーカーボンブラックを含有する。上述のハイストラクチャーカーボンブラックは、構造が複雑であるため、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜を摩耗させる研磨粒子として機能し易い。また、本発明のインクセットは、インクにおける分散樹脂の含有量が比較的少ないため、上述のハイストラクチャーカーボンブラックが剥き出しにやや近い状態で第1水性媒体に分散している。このような状態で存在するハイストラクチャーカーボンブラックは、研磨粒子として更に機能し易い。一方、本発明のインクセットは、インクが第1両性界面活性剤を含有し、クリーニング液が第2両性界面活性剤を含有する。界面活性剤を含有するインク及びクリーニング液は、界面活性剤の潤滑作用により、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗を抑制できる。特に、アミドアルキルベタイン構造を有する第1両性界面活性剤及び第2両性界面活性剤は、詳細な理由は不明であるが、他の界面活性剤と比較して潤滑作用を発揮し易い。そのため、本発明のインクセットは、ハイストラクチャーカーボンブラックを含有し、かつ分散樹脂の含有量が比較的少ないインクを備えるにも関わらず、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗を抑制できる。以下、本発明のインクセットの詳細を説明する。
【0021】
[インク]
インクは、第1水性媒体と、カーボンブラックと、分散樹脂と、アミドアルキルベタイン構造を有する第1両性界面活性剤と、第1糖アルコールとを含有する。インクは、ノニオン界面活性剤及び塩基性化合物のうち少なくとも一方を更に含有することが好ましい。
【0022】
インクのpHとしては、7.5以上10.0以下が好ましく、8.5以上9.0以下がより好ましい。ここで、第1両性界面活性剤は、アルカリ性環境下で容易にイオン化し、更に優れた潤滑作用を発揮する傾向がある。そのため、インクのpHが7.5以上10.0以下であることで、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗を更に効果的に抑制できる。
【0023】
(第1水性媒体)
第1水性媒体は、水を含む媒体である。第1水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。第1水性媒体としては、例えば、水のみを含む水性媒体、及び水と水溶性有機溶媒とを含む水性媒体が挙げられる。
【0024】
インクにおける水の含有割合としては、30.0質量%以上80.0質量%以下が好ましく、40.0質量%以上55.0質量%以下がより好ましい。水の含有割合を30.0質量%以上80.0質量%以下とすることで、インクの吐出安定性を向上できる。
【0025】
第1水性媒体が含む水溶性有機溶媒としては、例えば、グリコール化合物、グリコールエーテル化合物、ラクタム化合物、含窒素化合物、アセテート化合物、チオジグリコール、グリセリン及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0026】
グリコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びテトラエチレングリコールが挙げられる。
【0027】
グリコールエーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
【0028】
ラクタム化合物としては、例えば、2-ピロリドン及びN-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0029】
含窒素化合物としては、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ホルムアミド及びジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0030】
アセテート化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0031】
第1水性媒体が含む水溶性有機溶媒としては、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、2-ピロリドン、1,5-ペンタンジオール又は1,2-オクタンジオールが好ましい。
【0032】
インクにおける水溶性有機溶媒の含有割合としては、10.0質量%以上65.0質量%以下が好ましく、25.0質量%以上40.0質量%以下がより好ましい。水溶性有機溶媒の含有割合を10.0質量%以上65.0質量%以下とすることで、インクの吐出安定性を向上できる。
【0033】
(カーボンブラック)
インクにおいて、カーボンブラックは、黒色顔料として機能する。インクは、カーボンブラックに加え、他の顔料を更に含有してもよい。
【0034】
カーボンブラックの吸油量は、130mL/100g以上165mL/100g以下である。カーボンブラックの吸油量としては、130mL/100g以上155mL/100g以下が好ましく、130mL/100g以上145mL/100g以下がより好ましい。カーボンブラックの吸油量を130mL/100g以上とすることで、画像濃度に優れる画像を形成できる。カーボンブラックの吸油量を165mL/100g以下とすることで、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗を抑制できる。
【0035】
インクにおけるカーボンブラックの含有割合としては、2.0質量%以上20.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以上15.0質量%以下がより好ましい。カーボンブラックの含有割合を2.0質量%以上とすることで、形成される画像の画像濃度を向上できる。カーボンブラックの含有割合を20.0質量%以下とすることで、インクの吐出安定性を向上できる。
【0036】
(分散樹脂)
分散樹脂は、顔料を第1水性媒体に分散させる分散剤として機能する。分散樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体、及びビニルナフタレン-マレイン酸共重合体が挙げられる。
【0037】
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体である。スチレン-(メタ)アクリル樹脂は、スチレンと、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体である。
【0038】
分散樹脂は、アニオン性を有することが好ましい。分散樹脂がアニオン性を有する場合、分散樹脂は、塩(例えば、ナトリウム塩又はカリウム塩)を形成していてもよい。分散樹脂としては、スチレン-(メタ)アクリル樹脂が好ましく、スチレンとアクリル酸との共重合体がより好ましい。
【0039】
カーボンブラックの含有量に対する分散樹脂の含有量の比率pは、12.0質量%以上19.0質量%以下である。比率pとしては、14.0質量%以上18.0質量%以下が好ましい。比率pを12.0質量%以上とすることで、インクの保存安定性及び吐出安定性を向上できる。比率pを19.0質量%以下とすることで、顔料をやや不安定な状態で第1水性媒体に分散させることができる。その結果、記録媒体の表面にインクが着弾した後に、顔料が凝集して記録媒体の表面に留まり易くなり、白抜けの発生を抑制できる。
【0040】
インクにおける分散樹脂の含有割合としては、1.2質量%以上1.9質量%以下が好ましく、1.4質量%以上1.8質量%以下がより好ましい。分散樹脂の含有割合を1.2質量%以上とすることで、インクの保存安定性及び吐出安定性を更に向上できる。分散樹脂の含有割合を1.9質量%以下とすることで、白抜けの発生を更に効果的に抑制できる。
【0041】
(第1両性界面活性剤)
第1両性界面活性剤は、アミドアルキルベタイン構造を有する。第1両性界面活性剤は、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗を抑制する。
【0042】
第1両性界面活性剤は、下記一般式(1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0043】
【化1】
【0044】
一般式(1)中、Rは、炭素原子数6以上20以下の1価の鎖状炭化水素基を表す。nは、1以上5以下の整数を表す。
【0045】
Rは、炭素原子数10以上18以下の1価の鎖状炭化水素基を表すことが好ましい。Rで表される1価の鎖状炭化水素基としては、例えば、鎖状アルキル基及び鎖状アルケニル基が挙げられる。nは、3を表すことが好ましい。
【0046】
第1両性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸アミドプロピルベタイン界面活性剤が挙げられる。脂肪酸アミドプロピルベタイン界面活性剤としては、例えば、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、パーム核脂肪酸アミドプロピルベタイン、イソステアリン酸アミドプロピルベタイン、及びリノレイン酸アミドプロピルが挙げられる。第1両性界面活性剤としては、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン又はパーム核脂肪酸アミドプロピルベタインが好ましい。
【0047】
インクにおける第1両性界面活性剤の含有割合としては、例えば、0.3質量%以上4.0質量%以下である。第1両性界面活性剤の含有割合としては、0.7質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.7質量%以上1.3質量%以下がより好ましい。第1両性界面活性剤の含有割合を0.7質量%以上とすることで、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗を更に効果的に抑制できる。
【0048】
(第1糖アルコール)
第1糖アルコールは、インクジェット記録装置のインクノズルの表面を保湿することで、インクの吐出安定性を向上させる。第1糖アルコールは、糖化合物(例えば、アルドース及びケトース)のカルボニル基を還元することで形成される化合物をいう。第1糖アルコールは、多数の水酸基を有するため、優れた保湿性を有する。
【0049】
第1糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、マンニトール、トレイトール、アラビトール、リビトール、イジトール、ボレミトール、ペルセイトール、及びガラクチトールが挙げられる。これらの中で、ソルビトール及びマルチトールは、外気の湿度の影響を受けずに安定して保湿効果を発揮する性質を有する。そのため、第1糖アルコールとしては、ソルビトール又はマルチトールが好ましい。
【0050】
インクにおける第1糖アルコールの含有割合は、5.0質量%以上15.0質量%以下である。インクにおける第1糖アルコールの含有割合としては、6.0質量%以上10.0質量%以下が好ましい。第1糖アルコールの含有割合を5.0質量%以上とすることで、インクの吐出安定性を向上できる。第1糖アルコールの含有割合を15.0質量%以下とすることで、インクの粘度が過度に高くなることを抑制できる。
【0051】
(塩基性化合物)
塩基性化合物は、インクのpHをアルカリ側に傾ける。上述の通り、第1両性界面活性剤は、アルカリ性環境下で容易にイオン化し、更に優れた潤滑作用を発揮する傾向がある。そのため、インクが塩基性化合物を含有することで、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗を更に効果的に抑制できる。
【0052】
塩基性化合物としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウム)、アルカリ土類金属の水酸化物(例えば、水酸化カルシウム)、アルカリ金属の炭酸塩(例えば、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウム)及びアンモニアが挙げられる。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0053】
(ノニオン界面活性剤)
ノニオン界面活性剤は、インクに含まれる各成分の相溶性及び分散安定性を向上させる。また、ノニオン界面活性剤は、記録媒体に対するインクの浸透性(濡れ性)を向上させる。
【0054】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートエーテル、モノデカノイルショ糖、及びアセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0055】
インクがノニオン界面活性剤を含有する場合、インクにおけるノニオン界面活性剤の含有割合としては、0.1質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.2質量%以上0.6質量%以下がより好ましい。
【0056】
(添加剤)
インクは、必要に応じて、公知の添加剤(例えば、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0057】
(インクの製造方法)
インクは、例えば、第1水性媒体と、顔料及び分散樹脂を含有する顔料分散液と、第1両性界面活性剤と、第1糖アルコールと、必要に応じて添加される成分(例えば、ノニオン界面活性剤)とを混合することにより製造できる。顔料分散液は、塩基性化合物を更に含有することが好ましい。顔料分散液は、分散樹脂を含有する水溶液に顔料を添加した後、分散処理を行うことで調製できる。分散処理に用いる装置としては、例えば、ビーズミルが挙げられる。インクの製造では、分散処理後、フィルター(例えば孔径5μm以下のフィルター)により異物及び粗大粒子を除去してもよい。
【0058】
[クリーニング液]
クリーニング液は、第2水性媒体と、アミドアルキルベタイン構造を有する第2両性界面活性剤と、第2糖アルコールとを含有する。クリーニング液は、塩基性化合物及びノニオン界面活性剤のうち少なくとも一方を更に含有することが好ましい。
【0059】
クリーニング液のpHとしては、7.5以上10.0以下が好ましく、8.5以上9.0以下がより好ましい。ここで、第2両性界面活性剤は、アルカリ性環境下で容易にイオン化し、更に優れた潤滑作用を発揮する傾向がある。そのため、クリーニング液のpHが7.5以上10.0以下であることで、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗を更に効果的に抑制できる。
【0060】
特に、インクのpH及びクリーニング液のpHは、それぞれ、7.5以上10.0以下であることが好ましい。このように、インク及びクリーニング液のpHを揃えることで、クリーニング液によって記録部のインク吐出面をクリーニングし易くなる。インク及びクリーニング液のpHを揃えるため、インク及びクリーニング液は、それぞれ、塩基性化合物を更に含有することが好ましい。
【0061】
(第2水性媒体)
第2水性媒体は、水を含む媒体である。第2水性媒体は、溶媒として機能してもよく、分散媒として機能してもよい。第2水性媒体としては、例えば、上述の第1水性媒体で例示した水性媒体と同様の水性媒体が挙げられる。
【0062】
クリーニング液における水の含有割合としては、30.0質量%以上80.0質量%以下が好ましく、35.0質量%以上55.0質量%以下がより好ましい。水の含有割合を30.0質量%以上80.0質量%以下とすることで、クリーニング液によって記録部のインク吐出面をクリーニングし易くなる。
【0063】
第2水性媒体は、グリコールエーテル化合物を含むことが好ましく、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを含むことがより好ましい。第2水性媒体がグリコールエーテル化合物を含むことで、クリーニング液によって記録部のインク吐出面をクリーニングし易くなる。第2水性媒体がグリコールエーテル化合物を含む場合、第2水性媒体におけるグリコールエーテル化合物の含有割合としては、5.0質量%以上30.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以上20.0質量%以下がより好ましい。
【0064】
なお、第2水性媒体は、グリコールエーテル化合物に加え、1,5-ペンタンジオール又は2-ピロリドンを更に含むことが好ましい。
【0065】
クリーニング液における水溶性有機溶媒の含有割合としては、10.0質量%以上50.0質量%以下が好ましく、20.0質量%以上30.0質量%以下がより好ましい。水溶性有機溶媒の含有割合を10.0質量%以上50.0質量%以下とすることで、クリーニング液によって記録部のインク吐出面をクリーニングし易くなる。
【0066】
(第2両性界面活性剤)
第2両性界面活性剤は、アミドアルキルベタイン構造を有する。第2両性界面活性剤は、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗を抑制する。第2両性界面活性剤としては、例えば、上述の第1両性界面活性剤において例示した化合物と同様の化合物が挙げられる。
【0067】
第2両性界面活性剤は、上述の一般式(1)で表される化合物を含むことが好ましい。第2両性界面活性剤としては、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン又はパーム核脂肪酸アミドプロピルベタインが好ましい。
【0068】
クリーニング液における第2両性界面活性剤の含有割合としては、例えば、2.0質量%以上22.0質量%以下である。第2両性界面活性剤の含有割合としては、8.0質量%以上22.0質量%以下が好ましく、14.0質量%以上18.0質量%以下がより好ましい。第2両性界面活性剤の含有割合を8.0質量%以上とすることで、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗を更に効果的に抑制できる。第2両性界面活性剤の含有割合を22.0質量%以下とすることで、クリーニング液の成分が分離することを抑制できる。
【0069】
(第2糖アルコール)
第2糖アルコールは、クリーニング液が記録部のインク吐出面をクリーニングする際に、記録部のインクノズルの表面に付着して保湿する。これにより、第2糖アルコールは、インクの吐出安定性を向上させる。第2糖アルコールとしては、例えば、上述の第1糖アルコールにおいて例示した化合物と同様の化合物が挙げられる。
【0070】
第2糖アルコールとしては、外気の湿度の影響を受けずに安定して保湿効果を発揮する性質を有する糖アルコールであるソルビトール又はマルチトールが好ましい。
【0071】
クリーニング液における第2糖アルコールの含有割合としては、10.0質量%以上22.0質量%以下であり、13.0質量%以上17.0質量%以下が好ましい。第2糖アルコールの含有割合を10.0質量%以上とすることで、インクノズルの表面を十分に保湿し、インクの吐出安定性を向上させることができる。第2糖アルコールの含有割合を22.0質量%以下とすることで、クリーニング液の粘度が過度に高くなることを抑制できる。
【0072】
(塩基性化合物)
塩基性化合物は、クリーニング液のpHをアルカリ側に傾ける。クリーニング液が含有してもよい塩基性化合物としては、例えば、インクにおいて例示した塩基性化合物と同様の化合物が挙げられる。クリーニング液が含有してもよい塩基性化合物としては、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0073】
クリーニング液が塩基性化合物を含有する場合、クリーニング液における塩基性化合物の含有割合としては、0.01質量%以上1.0質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.2質量%以下がより好ましい。
【0074】
(ノニオン界面活性剤)
ノニオン界面活性剤は、クリーニング液に含まれる各成分の相溶性及び分散安定性を向上させる。クリーニング液が含有してもよいノニオン界面活性剤としては、例えば、インクにおいて例示したノニオン界面活性剤と同様の化合物が挙げられる。クリーニング液が含有してもよいノニオン界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0075】
クリーニング液がノニオン界面活性剤を含有する場合、クリーニング液におけるノニオン界面活性剤の含有割合としては、0.1質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.2質量%以上0.6質量%以下がより好ましい。
【0076】
(添加剤)
クリーニング液は、必要に応じて、公知の添加剤(例えば、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0077】
(クリーニング液の製造方法)
クリーニング液は、例えば、第2水性媒体と、第2両性界面活性剤と、第2糖アルコールと、必要に応じて添加される成分(例えば、塩基性化合物及びノニオン界面活性剤)とを混合することにより製造できる。クリーニング液の製造では、混合後、フィルター(例えば孔径5μm以下のフィルター)により異物及び粗大粒子を除去してもよい。
【0078】
<第2実施形態:インクジェット記録装置>
本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録装置は、第1実施形態に係るインクセットを用いる記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置である。記録ヘッドは、記録媒体の画像形成領域にインクを吐出する記録部と、記録部のインク吐出面をクリーニング液でクリーニングするクリーニング部とを有する。インク吐出面は、撥水膜で被覆されている。インクセットについての詳細は、第1実施形態で説明済みであるため省略する。本発明のインクジェット記録装置は、第1実施形態に係るインクセットを用いるため、インクの保存安定性及び吐出安定性に優れ、白抜けの発生とインクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗とを抑制でき、かつ画像濃度に優れる画像を形成できる。
【0079】
以下、図面を参照しながら、本発明のインクジェット記録装置を説明する。なお、理解しやすくするために、図面は、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数等は、適宜変更されてもよい。図1は、本発明のインクジェット記録装置の一例であるインクジェット記録装置1の要部を示す図である。
【0080】
図1に示すインクジェット記録装置1は、記録ヘッド2と、記録ヘッド2を保持するヘッドハウジング3と、記録媒体(図示略)を搬送する搬送ユニット4とを備える。記録ヘッド2は、第1記録ヘッド2a、第2記録ヘッド2b、第3記録ヘッド2c及び第4記録ヘッド2dを有する。搬送ユニット4は、1対の搬送ローラーである第1ローラー4a及び第2ローラー4bと、第1ローラー4a及び第2ローラー4bの間にかけ渡される搬送ベルト4cとを有する。搬送ユニット4は、搬送ベルト4c上に載置された記録媒体を一定方向(図1では右方向)に搬送する。以下、記録媒体を搬送する方向を搬送方向Xと記載することがある。第1記録ヘッド2a、第2記録ヘッド2b、第3記録ヘッド2c及び第4記録ヘッド2dは、直下に記録媒体が搬送された際に、インクを吐出して画像形成を行う。
【0081】
第1記録ヘッド2a、第2記録ヘッド2b、第3記録ヘッド2c及び第4記録ヘッド2dと、搬送ユニット4との距離は、例えば、1.2mm以上1.5mm以下である。
【0082】
第1記録ヘッド2aは、ブラックインクを吐出する。ブラックインクは、第1実施形態に記載のインクである。第2記録ヘッド2b、第3記録ヘッド2c及び第4記録ヘッド2dは、それぞれ、カラーインク(例えば、シアンインク、マゼンタインク及びイエローインク)を吐出する。
【0083】
図2は、図1の記録ヘッド2及びヘッドハウジング3の下面を示す図である。第1記録ヘッド2a、第2記録ヘッド2b、第3記録ヘッド2c及び第4記録ヘッド2dは、それぞれ、搬送方向Xに直交する方向(以下、幅方向Aと記載することがある)に延びている。
【0084】
図3は、図1の第1記録ヘッド2aの側面を示す図である。図4は、図3の第1記録ヘッド2aの下面を示す拡大図である。第1記録ヘッド2aは、インクを吐出する記録部5と、記録部5のインク吐出面Fを第1実施形態に記載のクリーニング液でクリーニングするクリーニング部6とを備える。
【0085】
記録部5は、第1記録部5a、第2記録部5b、第3記録部5c及び第4記録部5dを有する。第1記録部5a、第2記録部5b、第3記録部5c及び第4記録部5dは、それぞれ、複数のインク吐出孔により構成される。第1記録部5a、第2記録部5b、第3記録部5c及び第4記録部5dは、それぞれ、インク吐出孔以外の領域が撥水膜で被覆されている。
【0086】
クリーニング部6は、記録部5のインク吐出面Fの傍に配設されるクリーニング液供給部6aと、ワイパー6bとを有する。クリーニング液供給部6aは、複数のクリーニング液吐出孔により構成されている。クリーニング液供給部6aは、クリーニング液を供給する。ワイパー6bは、インク吐出面Fを拭き払う機能を有する。ワイパー6bは、例えば、ゴム製ワイパーである。
【0087】
図5図8は、インクジェット記録装置1によるクリーニング動作の一連の工程を示す。図5に示すように、クリーニング動作では、まず、記録部5から少量のインクIがパージされる(パージ動作)。これにより、記録部5のノズル詰まり等を解消する。パージされたインクIは、記録部5のインク吐出面Fに付着する。クリーニング動作では、パージ動作と同時に、クリーニング液供給部6aからクリーニング液Cが供給される。供給されたクリーニング液Cは、記録部5のインク吐出面F付近(クリーニング液供給部6aの下面)に付着する。
【0088】
次に、図6に示すように、ワイパー6bは、クリーニング液供給部6aの下面に押し当てられる。次に、図7に示すように、ワイパー6bは、水平に移動(図7では左方向)する。これにより、ワイパー6bは、クリーニング液供給部6aの下面に付着したクリーニング液Cと、インク吐出面Fの下面に付着したインクIとをまとめて拭き払う(ワイプ動作)。この際、クリーニング液Cは、インクIと混ざり合う。その結果、図8に示すように、クリーニング液供給部6aの下面に付着したクリーニング液Cと、インク吐出面Fの下面に付着したインクIとは除去される。これにより、記録部5は、クリーニング液Cによってクリーニングされる。
【0089】
ワイプ動作では、インク吐出面Fを被覆する撥水膜がワイパー6bによって擦られる。しかし、インクジェット記録装置1は、第1実施形態に係るインクセットを用いるため、撥水膜がワイプ動作によって摩耗することを抑制できる。以上、インクジェット記録装置1によるクリーニング動作の一連の工程を説明した。
【0090】
なお、第2記録ヘッド2b、第3記録ヘッド2c及び第4記録ヘッド2dについても、第1記録ヘッド2aと同様に、インクを吐出する記録部5と、記録部5のインク吐出面Fをクリーニング液でクリーニングするクリーニング部6とを有する。第2記録ヘッド2b、第3記録ヘッド2c及び第4記録ヘッド2dのクリーニング動作で用いられるクリーニング液は、第1実施形態に記載のクリーニング液でもよく、公知のクリーニング液でもよい。
【0091】
以上、図面に基づいてインクジェット記録装置1について説明した。但し、本発明のインクジェット記録装置は、図1のインクジェット記録装置1に限定されず、例えば、以下の通りに変更可能である。本発明のインクジェット記録装置において、記録ヘッド、記録部及びクリーニング部以外の部材は任意構成であり、省略可能である。また、本発明のインクジェット記録装置において、記録ヘッドの個数は、1~3個又は5個以上であってもよい。
【実施例
【0092】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0093】
実施例において、pHの測定は、pHメーター(株式会社堀場製作所製「D-51」)を用いて温度25℃で行った。
【0094】
<インクセット>
以下の方法により、実施例及び比較例のインクセットを準備した。まず、使用した原料について説明する。
【0095】
(カーボンブラック)
P-1:オリオンエンジニアドカーボンズ社製「NIPex(登録商標)180IQ」、吸油量140mL/100g
p-2:オリオンエンジニアドカーボンズ社製「PRINTEX(登録商標)L6」、吸油量126mL/100g
P-3:オリオンエンジニアドカーボンズ社製「Color Black S 170」、吸油量135mL/100g
P-4:オリオンエンジニアドカーボンズ社製「Color Black FW 1」、吸油量150mL/100g
P-5:オリオンエンジニアドカーボンズ社製「Color Black FW 200」、吸油量160mL/100g
【0096】
(両性界面活性剤)
S-1:川研ファインケミカル株式会社製「ソフタゾリン(登録商標)CPB」、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン
S-2:花王株式会社製「アンヒトール(登録商標)20AB」、ラウリン酸アミドプロピルベタイン
S-3:川研ファインケミカル株式会社製「ソフタゾリン(登録商標)PKPB」、パーム核脂肪酸アミドプロピルベタイン
s-4:日油株式会社製「ニッサンアノン(登録商標)BF」、ヤシ油アルキルベタイン
【0097】
なお、両性界面活性剤(S-1)~(S-3)は、アミドアルキルベタイン構造を有する両性界面活性剤であった。両性界面活性剤(s-4)は、アミドアルキルベタイン構造を有しない両性界面活性剤であった。
【0098】
[顔料分散液の調製]
(分散樹脂水溶液の調製)
四口フラスコに温度計、還流冷却機、攪拌機付きコンデンサー、及び滴下漏斗をセットし、これを反応容器とした。次に、反応容器に、水500質量部と、過硫酸アンモニウム30質量部とを投入した。次に、反応容器を加熱及び攪拌し、反応容器の内温を75℃以上80℃以下の温度範囲に維持しつつ、スチレン246質量部と、アクリル酸342質量部とを、3時間かけて反応容器に滴下した。次に、反応容器の内温を75℃以上80℃以下の温度範囲に維持し、内容物を6時間反応させた。次に、反応容器を室温まで冷却した後、反応容器に30質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加することで内容物を中和(pH7.8)した。次に、反応容器に蒸留水を加え、内容物の固形分濃度を40質量%に調整した。これにより、分散樹脂(スチレン-アクリル酸共重合体のナトリウム塩)を含有する分散樹脂水溶液を得た。
【0099】
(顔料分散液(D-1))
上述の分散樹脂水溶液8.0質量部(分散樹脂3.2質量部)と、水72.0質量部とを混合した後、顔料(P-1)20.0質量部を更に添加した。得られた混合物を、高速回転ディスパー(T.K.ロボミックス+T.K.ホモディスパー2.5型、プライミクス社製)で5000rpm、1時間攪拌(プレミックス)した。その後、混合物を、ビーズミル(日本コークス工業株式会社製「SCミル」)を用いて分散処理した。分散処理においては、メディアとしてジルコニアビーズ(直径0.2mm)を用いた。また、分散処理においては、ビーズミルのベッセルにおけるメディアの充填率を80体積%とした。次に、分散処理後の混合物に水酸化ナトリウムを添加して、下記表1に示すpHとなるようにpH調整を行った。次に、混入した異物及び粗大粒子を除去するために、孔径φ5μmのフィルターを用いて、pH調整後の混合物を濾過した。これにより、顔料分散液(D-1)を得た。顔料分散液(D-1)において、カーボンブラックの含有量(20.0質量部)に対する分散樹脂の含有量(3.2質量部)の比率pは、16.0質量%であった。
【0100】
(顔料分散液(D-2)~(D-9)の調製)
顔料の種類及び添加量と、分散樹脂水溶液の添加量とを下記表1の通りに変更した以外は、顔料分散液(D-1)の調製と同様の方法により、顔料分散液(D-2)~(D-9)を調製した。
【0101】
顔料分散液(D-1)~(D-9)のpHを測定した。測定結果を下記表1に示す。
【0102】
なお、下記表1において、「部」は、質量部を示す。比率p[%]は、顔料の含有量に対する分散樹脂の含有量[質量%]を示す。これらの説明は、下記表2~表5についても同様である。
【0103】
【表1】
【0104】
[インクの調製]
イオン交換水8.3質量部と、3-メチル-1,5-ペンタンジオール15.0質量部と、トリエチレングリコールモノブチルエーテル1.0質量部と、2-ピロリドン3.0質量部と、1,3-プロパンジオール13.0質量部と、1,2-オクタンジオール0.3質量部とを混合し、混合溶媒を得た。この混合溶媒を攪拌しながら、顔料分散液(D-1)50.0質量部(分散樹脂1.6質量部及び顔料10.0質量部)と、第1糖アルコールとしてのソルビトール8.0質量部と、第1両性界面活性剤としての両性界面活性剤(S-1)1.0質量部と、ノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物)0.4質量部とを添加した。得られた混合物に対して、混入した異物及び粗大粒子を除去するために、孔径φ5μmのフィルターを用いて濾過した。これにより、インク(I-1)を得た。
【0105】
調製後のインクの組成が下記表2及び表3の通りとなるように原料の種類及び添加量を変更した以外は、インク(I-1)の調製と同様の方法により、インク(I-2)~(I-21)を調製した。次に、インク(I-1)~(I-21)のpHを測定した。測定結果を下記表2及び表3に示す。
【0106】
インク(I-1)~(I-5)、(I-8)、(I-11)~(I-14)、(I-16)~(I-17)及び(I-19)~(I-21)は、実施例のインクセットに用いるインクとして用いた。インク(I-6)~(I-7)、(I-9)~(I-10)、(I-15)及び(I-18)は、比較例のインクセットに用いるインクとして用いた。
【0107】
なお、下記表2及び表3において、「イオン交換水」の量は、インクの調製において添加したイオン交換水の量と、顔料分散液に含まれていたイオン交換水の量との総和を示す。「MPD」、「BTG」、「2-Py」、「1,5PD」、「1,3PG」及び「1,2OD」は、それぞれ、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、2-ピロリドン、1,5-ペンタンジオール、1,3-プロパンジオール及び1,2-オクタンジオールを示す。
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
[クリーニング液の調製]
イオン交換水47.4質量部と、第2糖アルコールとしてのソルビトール15.0質量部と、1,5-ペンタンジオール5.0質量部と、2-ピロリドン7.0質量部と、グリコールエーテル化合物としてのトリエチレングリコールモノブチルエーテル13.0質量部と、塩基性化合物としての水酸化ナトリウム0.1質量部と、ノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物)0.5質量部と、第2両性界面活性剤としての両性界面活性剤(S-1)12.0質量部とを混合した。得られた混合物に対して、混入した異物及び粗大粒子を除去するために、孔径φ5μmのフィルターを用いて濾過した。これにより、クリーニング液(C-1)を得た。
【0111】
使用する原料の種類及び添加量を下記表4及び表5の通りとなるように変更した以外は、クリーニング液(C-1)の調製と同様の方法により、クリーニング液(C-2)~(C-12)を調製した。次に、クリーニング液(C-1)~(C-12)のpHを測定した。測定結果を下記表2及び表3に示す。
【0112】
クリーニング液(C-1)~(C-6)、(C-8)~(C-9)及び(C-11)は、実施例のインクセットに用いるクリーニング液として用いた。クリーニング液(C-7)、(C-10)及び(C-12)は、比較例のインクセットに用いるクリーニング液として用いた。
【0113】
【表4】
【0114】
【表5】
【0115】
[組み合わせ]
インク(I-1)~(I-21)のうち1つと、クリーニング液(C-1)~(C-12)のうち1つとを、下記表6に示す通りに組み合わせた。これにより、実施例1~23のインクセット(IS-1)~(IS-23)と、比較例1~9のインクセット(is-1)~(is-9)とを準備した。
【0116】
<評価>
以下の方法により、インクセット(IS-1)~(IS-23)及び(is-1)~(is-9)について、形成される画像の画像濃度と、白抜けの抑制と、インクの保存安定性と、インクの吐出安定性(詳しくは、インク付着及び着弾精度)と、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗の抑制とを評価した。評価結果を下記表6に示す。各評価は、常温常湿環境下(温度25℃、湿度50%RH環境下)で行った。また、印刷を伴う試験(画像濃度、白抜けの抑制、インクの吐出安定性、及び撥水膜の摩耗の抑制の評価)においては、用紙の長辺が用紙の搬送方向と直角になるように用紙をセットした。また、用紙の搬送速度は350mm/秒であった。
【0117】
評価においては、評価機として、記録ヘッドを備える画像形成装置(ラインヘッド搭載インクジェット記録装置、京セラドキュメントソリューションズ株式会社製試験機)を用いた。記録ヘッドは、インク吐出を行う記録部及び記録部のインク吐出面をクリーニングするクリーニング部を備えていた。記録部のインク吐出面には撥水膜が形成されていた。クリーニング部は、インク吐出面付近にクリーニング液を供給するクリーニング液供給部と、インク吐出面を拭き払うワイパーとを有していた。評価機のインクタンクに、評価対象となるインクセットの備えるインク(詳しくは、インク(I-1)~(I-21)の何れか)を充填した。また、評価機のクリーニング液タンクに、評価対象となるインクセットの備えるクリーニング液(詳しくは、クリーニング液(C-1)~(C-12)の何れか)を充填した。
【0118】
[画像濃度]
画像濃度の評価においては、記録媒体として、普通紙(富士ゼロックス株式会社製「C2」、A4サイズのPPC用紙)を用いた。評価機を用いて5枚の記録媒体に150mm×200mmのソリッド画像を形成した。ソリッド画像の形成では、インクの吐出量を1画素当たり11pLに設定した。次に、5枚の記録媒体を一昼夜、常温常湿環境下にて保存した。保存後の5枚の記録媒体を画像濃度の評価対象として用いた。次に、反射濃度計(X-Rite社製「RD-19」)を用いて、5枚の評価対象に形成されているソリッド画像の画像濃度を測定した。画像濃度の測定においては、各評価対象について、ソリッド画像内から無作為に選択した10箇所でそれぞれ画像濃度を測定した。5枚の評価対象の合計50箇所で測定された画像濃度の平均値を、画像濃度の評価値(OD)とした。画像濃度は、以下の基準に従って判定した。
【0119】
(画像濃度の評価基準)
A(良好):ODが1.10以上
B(不良):ODが1.10未満
【0120】
[白抜けの抑制]
上述の画像濃度の評価において作成した保存後の5枚の記録媒体を白抜けの抑制の評価対象として用いた。5枚の評価対象に形成されているソリッド画像をスキャナーで読み取った。読み取られたソリッド画像に存在する直径150μm以上の白点の個数の平均値を、画像処理ソフト「ImageJ(パブリックドメイン)」を用いてカウントした。白抜けの抑制は、以下の基準に従って判定した。
【0121】
(白抜けの抑制の評価基準)
A(特に良好):白点の個数が10個未満
B(良好):白点の個数が10個以上30個未満
C(不良):白点の個数が30個以上
【0122】
[インクの保存安定性]
高温環境にインクを長期間晒した場合におけるインクの粘度の変化幅がインクの保存安定性の指標となる。インクの保存安定性の評価では、まず評価対象となるインク(インクセットの備えるインク)の粘度(初期粘度V1)を測定した。次に、容積50mLの試験容器に上述のインクを約30g投入した。次に、内温60℃に設定された恒温器に試験容器を設置し、1ヶ月間加熱処理した。次に、試験容器を恒温器から取り出した後、インクの温度が室温と同じ温度に低下するまで静置した。次に、試験容器内のインクの粘度(処理後粘度V2)を測定した。初期粘度V1及び処理後粘度V2から下記式により粘度変化率[%]を求めた。得られた粘度変化率[%]をインクの保存安定性の評価値とした。インクの保存安定性は、以下の基準に従って判定した。なお、インクの粘度は、振動式粘度計(ニッテツ北海道制御システム株式会社製「VM-200T」)により測定した。
粘度変化率[%]=100×(V1-V2)/V1
【0123】
(インクの保存安定性の評価基準)
A(特に良好):粘度変化率の絶対値が2%未満
B(良好):粘度変化率の絶対値が2%以上5%以下
C(不良):粘度変化率の絶対値が5%超
【0124】
[インク付着]
インク付着の評価においては、記録媒体として、スーパーファイン紙(インクジェット用マットコート紙、A4サイズ)を用いた。
【0125】
評価機を用いて5000枚の記録媒体にパターン画像を連続印字した。連続印字において、用紙の搬送速度は、A4横送りで1分間に150枚印刷可能な速度であった。連続印字後、評価機の記録部に対してクリーニング動作を行った。詳しくは、評価機の記録部から少量のインクを吐出した(パージ動作)。同時に、クリーニング部のクリーニング液供給部から記録部のインク吐出面付近にクリーニング液を供給した。次に、ワイパーでインク吐出面を拭き払った(ワイプ動作)。これにより、記録部のインク吐出面に付着したインクを、クリーニング液と共に除去した。本試験で行ったクリーニング動作の詳細は、図5図8に例示したクリーニング動作と概ね同一である。次に、記録部のインク吐出面を顕微鏡で観察し、クリーニングできずに残存したインクの有無を確認した。インク付着は、以下の基準に従って判定した。
【0126】
(インク付着の評価基準)
A(特に良好):インク吐出面に全くインクが付着していない
B(良好):インク吐出面に僅かにインクが付着している
C(不良):インク吐出面に明らかにインクが付着している
【0127】
[着弾精度]
着弾精度の評価においては、記録媒体として、セイコーエプソン株式会社製「スーパーファイン紙(インクジェット用マットコート紙)」を用いた。また、着弾精度の評価においては、上述のインク付着の評価を行ってから90分間静置後の評価機(即ち、5000枚の記録媒体への連続印字、及びクリーニング動作後の評価機)を用いた。
【0128】
評価機の記録部からインクを吐出することで、記録媒体に複数の細線により形成されるストライプ画像を形成した。ストライプ画像の形成においては、細線の線幅を1画素に設定し、隣接する細線の間隔(線間ピッチ)を3画素に設定した。記録媒体に形成されているストライプ画像を顕微鏡で読み取った。詳しくは、特定の細線aと、細線aから16画素離れた位置にある細線bとの間隔Aを204箇所で測定した。なお、細線a及び細線bの間には、3本の別の細線が存在していた。測定された間隔Aのばらつき(3σ)を、画像処理ソフト(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製)を用いて算出した。算出された間隔Aのばらつき(3σ)を着弾精度の評価値とした。着弾精度は、以下の基準に従って判定した。
【0129】
(着弾精度の評価基準)
A(良好):3σが15未満
B(不良):3σが15以上
【0130】
インクの吐出安定性は、インク付着がA(特に良好)又はB(良好)であり、かつ着弾精度がA(良好)である場合に良好であり、インク付着がC(不良)であるか、又は着弾精度がB(不良)である場合に不良と判断した。
【0131】
[撥水膜の摩耗の抑制]
評価機の記録部のインク吐出面に形成されている撥水膜のイオン交換水に対する静的接触角(初期接触角θ1)を測定した。初期接触角θ1は、105°であった。次に、評価機の記録部に対して上述のクリーニング動作を35000回行った(パージ動作35000回及びワイプ動作35000回)。この際、3000回目、10000回目、20000回目、及び35000回目のクリーニング動作を行った直後に、上述の撥水膜のイオン交換水に対する静的接触角を測定した。測定された静的接触角が初期接触角θ1よりも10°以上低下していた場合、上述の撥水膜が摩耗したと判断した。撥水膜を摩耗させるのに必要なクリーニング動作の回数を、撥水膜の摩耗の抑制の評価値とした。撥水膜の摩耗の抑制は、以下の基準に従って判定した。以下の基準において、A、B又はCを合格、Dを不合格とした。なお、静的接触角の測定には、接触角測定装置(英弘精機株式会社製「OCA40」)を用いた。
【0132】
(撥水膜の摩耗の抑制の評価基準)
A:20001回以上35000回以下のクリーニング動作で撥水膜が摩耗した
B:10001回以上20000回以下のクリーニング動作で撥水膜が摩耗した
C:3001回以上10000回以下のクリーニング動作で撥水膜が摩耗した
D:1回以上3000回以下のクリーニング動作で撥水膜が摩耗した
【0133】
【表6】
【0134】
実施例1~23のインクセット(IS-1)~(IS-23)は、インクと、クリーニング液とを備えていた。インクは、第1水性媒体と、カーボンブラックと、分散樹脂と、アミドアルキルベタイン構造を有する第1両性界面活性剤と、第1糖アルコールとを含有していた。カーボンブラックの吸油量は、130mL/100g以上165mL/100g以下であった。カーボンブラックの含有量に対する分散樹脂の含有量の比率pは、12.0質量%以上19.0質量%以下であった。インクにおける第1糖アルコールの含有割合は、5.0質量%以上15.0質量%以下であった。クリーニング液は、第2水性媒体と、アミドアルキルベタイン構造を有する第2両性界面活性剤と、第2糖アルコールとを含有していた。クリーニング液における第2糖アルコールの含有割合は、10.0質量%以上22.0質量%以下であった。インクセット(IS-1)~(IS-23)は、インクの保存安定性及び吐出安定性に優れ、白抜けの発生とインクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗とを抑制でき、かつ画像濃度に優れる画像を形成できた。
【0135】
一方、比較例1のインクセット(is-1)は、インクとしてインク(I-6)を備えていた。インク(I-6)は、カーボンブラックの含有量に対する分散樹脂の含有量の比率pが12.0質量%未満であった。インク(I-6)は、分散樹脂が不足しているため、カーボンブラックが不安定な状態で分散していると判断される。そのため、インクセット(is-1)は、インクの保存安定性及び吐出安定性が不良であった。
【0136】
比較例2のインクセット(is-2)は、インクとしてインク(I-7)を備えていた。インク(I-7)は、カーボンブラックの含有量に対する分散樹脂の含有量の比率pが19.0質量%超であった。インク(I-7)は、分散樹脂が過剰であるため、カーボンブラックが必要以上に安定な状態で分散していると判断される。そのため、インクセット(is-2)は、白抜けの発生の抑制が不良であった。
【0137】
比較例3のインクセット(is-3)は、インクとしてインク(I-9)を備えていた。インク(I-9)は、第1糖アルコールの含有割合が5.0質量%未満であった。インク(I-9)は、第1糖アルコールが不足しているため、インクジェット記録装置のインクノズルの表面を十分に保湿できなかったと判断される。そのため、インクセット(is-3)は、インクの吐出安定性が不良であった。
【0138】
比較例4のインクセット(is-4)は、インクとしてインク(I-10)を備えていた。インク(I-10)は、カーボンブラックの吸油量が130mL/100g未満であった。このようなカーボンブラックは、構造が複雑でないため、記録媒体の表面にインク(I-10)が着弾した後に、記録媒体の内部に浸透し易いと判断される。そのため、インクセット(is-4)は、形成される画像の画像濃度及び白抜けの発生の抑制が不良であった。
【0139】
比較例5のインクセット(is-5)は、クリーニング液としてクリーニング液(C-7)を備えていた。クリーニング液(C-7)は、第2糖アルコールの含有割合が10.0質量%未満であった。クリーニング液(C-7)は、第2糖アルコールが不足しているため、インクジェット記録装置のインクノズルの表面を十分に保湿できなかったと判断される。そのため、インクセット(is-5)は、インクの吐出安定性が不良であった。
【0140】
比較例6及び7のインクセット(is-6)及び(is-7)は、インクとしてインク(I-15)及び(I-18)を備えていた。インク(I-15)及び(I-18)は、第1両性界面活性剤を含有していなかった。インク(I-15)及び(I-18)は、記録部のインク吐出面がクリーニングされる際に、第1両性界面活性剤による優れた潤滑作用を発揮できなかったと判断される。そのため、インクセット(is-6)及び(is-7)は、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗の抑制が不良であった。
【0141】
比較例8及び9のインクセット(is-8)及び(is-9)は、クリーニング液としてクリーニング液(C-10)及び(C-12)を備えていた。クリーニング液(C-10)及び(C-12)は、第2両性界面活性剤を含有していなかった。クリーニング液(C-10)及び(C-12)は、記録部のインク吐出面がクリーニングされる際に、第2両性界面活性剤による優れた潤滑作用を発揮できなかったと判断される。そのため、インクセット(is-8)及び(is-9)は、インクジェット記録装置の記録部の撥水膜の摩耗の抑制が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明のインクセット及びインクジェット記録装置は、記録媒体に画像を形成するために用いることができる。
【符号の説明】
【0143】
1:インクジェット記録装置
2:記録ヘッド
3:ヘッドハウジング
4:搬送ユニット
5:記録部
6:クリーニング部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8