(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】デュアルICカード
(51)【国際特許分類】
G06K 19/077 20060101AFI20240402BHJP
B42D 25/305 20140101ALI20240402BHJP
H01Q 7/00 20060101ALI20240402BHJP
H01Q 19/02 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
G06K19/077 296
B42D25/305 100
G06K19/077 244
H01Q7/00
H01Q19/02
(21)【出願番号】P 2020099312
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】片岡 慎
【審査官】後藤 彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079718(WO,A1)
【文献】特開2016-12255(JP,A)
【文献】特表2015-513712(JP,A)
【文献】特開2011-250406(JP,A)
【文献】国際公開第2009/011154(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0180212(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
B42D 25/305
H01Q 7/00
H01Q 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の通信周波数領域において通信可能なICチップと、前記ICチップに接続された接触通信用端子と、前記ICチップに接続されたコイルと、を有するICモジュールと、
前記コイルに対向して配置され、前記コイルと電磁結合するアンテナプレートと、
を備え、
前記通信周波数領域における前記コイルの虚部インピーダンスの絶対値は、前記ICチップの入力インピーダンスの虚部の絶対値の115%以上130%以下である、
デュアルICカード。
【請求項2】
前記ICチップの入力インピーダンスの虚部の絶対値は、前記ICチップに動作可能な最小量の電力が供給されたときの値である、
請求項1に記載のデュアルICカード。
【請求項3】
前記アンテナプレートは、周縁から一定の幅で延びるスリットを有し、
前記スリットの幅は、前記コイルの内径以上かつ前記コイルの外径未満である、
請求項1または2に記載のデュアルICカード。
【請求項4】
前記コイルと前記アンテナプレートとの距離が0.1mm以上0.3mm以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載のデュアルICカード。
【請求項5】
前記接触通信用端子が配置される貫通孔を有する第一部材と、
前記第一部材との間に前記アンテナプレートを挟むように配置される第二部材と、
をさらに備え、
前記第一部材および前記第二部材が金属で形成されている、
請求項1から4のいずれか一項に記載のデュアルICカード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICモジュールを備えたデュアルICカードに関する。
【背景技術】
【0002】
接触通信と非接触通信との両方を行えるデュアルICカードが知られている。
デュアルICカードの一般的な構造が特許文献1に開示されている。特許文献1に記載のデュアルICカードは、接触通信用の端子を含むICモジュールと、コイル状のブースタアンテナとを備えている。ICモジュールは、ブースタアンテナと電気的に接続するためのコイルを有し、ICモジュールとブースタアンテナとが電磁結合されている。
特許文献1に記載のデュアルICカードにおいて、ICチップの入力インピーダンスの虚部と、ブースタアンテナのコイルの虚部インピーダンスとは、概ね同等の大きさとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、高級感等を高める観点から、樹脂に代えて金属でカードを形成することが検討されている。
これに伴って発明者がブースタアンテナの構成を変更したところ、詳細は後述するが、特許文献1に記載の虚部インピーダンス設定では通信性能が低下する現象が認められた。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、金属でカードを構成する場合でも通信性能が低下しにくいデュアルICカードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、所定の通信周波数領域において通信可能なICチップと、ICチップに接続された接触通信用端子と、ICチップに接続されたコイルと、を有するICモジュールと、コイルに対向して配置され、コイルと電磁結合するアンテナプレートとを備えるデュアルICカードである。
このデュアルICカードにおいて、ICチップが通信可能な通信周波数領域におけるコイルの虚部インピーダンスの絶対値は、ICチップの入力インピーダンスの虚部の絶対値の115%以上130%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属でカードを構成する場合でも通信性能が低下しにくいデュアルICカードを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るICカードを模式的に示す断面図である。
【
図2】同ICカードに係るICモジュールの平面図である。
【
図4】同ICカードに係るアンテナプレートの平面図である。
【
図5】同アンテナプレートと同ICモジュールとの位置関係を示す図である。
【
図6】コイルとアンテナプレートとの距離と、コイルの虚部インピーダンスとの関係を示すグラフである。
【
図7】ICチップの入力インピーダンスの虚部の値と、ICチップに供給される電力の大きさとの関係の一例を示すグラフである。
【
図9】アンテナプレートに形成したスリットの幅と、通信特性との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の第一実施形態について、
図1から
図9を参照しながら説明する。
図1は、デュアルICカード1の模式断面図である。
図1に示すように、デュアルICカード1は、板状のカード本体10と、カード本体10内に取り付けられたICモジュール30と、カード本体10内に配置されたアンテナプレート50とを備えている。
【0010】
カード本体10は、デュアルICカード1の表側を構成する第一部材11と、デュアルICカード1の裏側を構成する第二部材16とを有する。第一部材には、ICモジュールの接触通信用端子を露出するための貫通孔12を有する。貫通孔12の位置や大きさ等は適宜設定できるが、基本的にはカードに関する各種規格を満たすように設定される。
【0011】
図2にICモジュール30の平面図を、
図3にICモジュール30の底面図を、それぞれ示す。ICモジュール30は、所定の通信周波数領域において通信可能なICチップ31を備え、上面にICチップと接続された接触通信用端子32を、下面にICチップと接続されたコイル33を、それぞれ有する。接触通信用端子32の寸法や形状は、カードに関する各種規格を満たすように設定される。
コイル33は、ICチップ31を封止する樹脂モールド34の周囲に巻かれている。すなわち、コイル33の内径は、樹脂モールド34の寸法以上であるか、それよりも僅かに小さい程度である。
【0012】
図4は、アンテナプレート50の平面図である。アンテナプレート50は、金属等の導体で形成された平面視矩形の部材である。アンテナプレート50は、短辺の一つから所定幅で延びるスリット51を有する。ICモジュール30は、
図5に示すように、コイル33をアンテナプレート50に向けた状態で、スリット51をまたぐように配置される。
【0013】
コイル33とアンテナプレート50とは、導通しないように非接触状態を保持して配置される。非接触状態を保持するための態様に特に制限はなく、コイル33やアンテナプレート50を樹脂で被覆する方法や、絶縁体製のスペーサーを配置する等の方法を例示できる。特に、接着性樹脂でコイルとアンテナプレートとを接合する方法は、後述するコイルとアンテナプレートとの距離制御も容易であり、好ましい。
【0014】
コイル33およびアンテナプレート50は、貫通孔12から接触通信用端子32を露出させた状態で、第一部材11と第二部材16との間に配置されている。
このように構成されたデュアルICカード1は、接触通信用端子32を用い接触通信ができる。さらに、コイル33とアンテナプレート50とが電磁結合することにより、ゲートやカードリーダー等の非接触型外部機器と非接触通信を行うことができる。
【0015】
デュアルICカード1における非接触通信の原理は、特許文献1に記載のデュアルICカード1と同様であり、アンテナプレート50の外周に沿って電流が流れることにより、アンテナプレート50が非接触通信用のブースタアンテナとして動作する。
【0016】
しかし、発明者が検討すると、ブースタアンテナとして機能する部材がコイルからアンテナプレートに変わることで、推測していなかった事象が起きることがわかった。
図6は、コイル33とアンテナプレート50との距離と、コイル33の虚部インピーダンスとの関係を示すグラフである。通信周波数領域は、HF帯(13.56MHz)とした。コイルとアンテナプレートとが十分離れている場合(
図6における∞)を基準とした場合、コイルとアンテナプレートとの距離が0.3mmになると、コイル33の虚部インピーダンスの値は15%程度低下し、コイルとアンテナプレートとの距離がほぼゼロとなると、虚部インピーダンスの値は25%程度低下していることが
図5よりわかる。したがって、コイルとアンテナプレートとが十分離れている状態で虚部インピーダンスの大きさをICチップ31の入力インピーダンスの虚部と同等に設定してしまうと、非接触通信時におけるエネルギー効率が悪くなってしまう。
【0017】
本実施形態においては、上記知見を踏まえて、ICチップ31の通信周波数領域におけるコイル33の虚部インピーダンスの絶対値を、予めICチップ31の入力インピーダンスの虚部の絶対値よりも大きく設定している。これにより、デュアルICカード1内においてアンテナプレート50と近接配置された際に、コイル33の虚部インピーダンスの値の大きさとICチップ31の入力インピーダンスの虚部の大きさとが同等となり、コイル33からICチップ31に効率良くエネルギーを伝達することができる。
【0018】
例えば、ICチップ31の入力インピーダンスの虚部の大きさが非接触通信を行う為の周波数において、-160jΩであり、デュアルICカード1におけるコイル33とアンテナプレート50との距離を0.3mmとする場合、
図6に基づいてコイル33の虚部インピーダンスを設定すると、
160×100/85=約188jΩ
となる。すなわち、この場合は、コイル33の虚部インピーダンスの絶対値をICチップ31の入力インピーダンスの虚部の絶対値の115%以上130%以下、より好ましくは115%以上125%以下程度とすることにより、完成したデュアルICカード1において、両者を概ね同等とすることができる。
コイル33とアンテナプレート50との距離が0.3mmよりも大きくなると互いの電気的な接合が弱まる為に通信性能の低下が生じる問題がある。さらに、カード厚(0.8mm程度)という物理的制約もあるため、両者の距離は0.1mm以上0.3mmに設定されることが好ましい。
【0019】
図7に示すように、ICチップの入力インピーダンスの虚部の値は、ICチップに供給される電力の大きさによって変化する。したがって、想定されるICチップへの供給電力の最小量や、完成したデュアルICカードにおけるコイル33とアンテナプレート50との距離とに基づいて、コイル33の虚部インピーダンスの値を設定することにより、金属でカードを構成する場合でも通信性能が低下しにくいデュアルICカードを構成できる。
コイル33の虚部インピーダンスの値は、コイルの線幅や巻き数等を変更することにより調節できる。
【0020】
上記の他に、スリット51の幅も通信性能に影響を与える。
図8は、
図5の一部を裏側から見た図である。
図8に示されるように、スリット51の幅wにより、デュアルICカード1の平面視におけるコイル33とアンテナプレート50との重なり量が変化する。
【0021】
図9は、アンテナプレートに形成したスリットの幅wと、通信特性との関係の一例を示すグラフである。スリットが小さすぎても大きすぎても通信特性が大きく低下することが
図9よりわかる。したがって、コイル33の内径d1および外径d2を考慮し、幅wをd1以上d2以下とすることにより、通信特性を良好にできる。
図9は、内径d1:6mm、外径d2:12mmの条件下におけるものであり、最適値の9mmは、(d2-d1)/2に相当する。
幅wは、上記を踏まえて適宜設定できるが、ICモジュール30をアンテナプレートに取り付けた際に樹脂モールド34がスリット51と干渉しないように樹脂モールド34の最大径よりも大きくする必要がある。
【0022】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。
【0023】
例えば、アンテナプレートは、導体のみで形成されなくてもよく、樹脂製のシートにスリットを有する導体層が形成された構成であってもよい。
【0024】
本発明のデュアルICカードは、第一部材および第二部材を金属とし、メタリックな外観を呈するカードを提供する際に優れた構成であるが、第一部材および第二部材が金属製であることは必須でなく、一般的なデュアルICカードと同様な樹脂製であってもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 デュアルICカード
11 第一部材
12 貫通孔
16 第二部材
30 ICモジュール
31 ICチップ
32 接触通信用端子
33 コイル
50 アンテナプレート
51 スリット