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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/194 20170101AFI20240402BHJP
   C01B 32/19 20170101ALI20240402BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20240402BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240402BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20240402BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
C01B32/194
C01B32/19
C01B32/198
H01M4/66 A
H01B5/02 A
B32B9/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020107427
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2021006499
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2019119659
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智博
(72)【発明者】
【氏名】玉木 栄一郎
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-525420(JP,A)
【文献】特開2011-121828(JP,A)
【文献】国際公開第2018/031064(WO,A1)
【文献】特開2019-060067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/66
H01B 5/02
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属および/または金属化合物を含有する基材上に、グラフェン被覆層を有する積層体であって、前記基材上にリン原子を含有し、X線光電子分光法により測定される前記基材上のリン原子含有率が0.1atomic%以上5atomic%以下である積層体。
【請求項2】
前記金属および/または金属化合物が、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、コバルト、チタン、シリコン、ステンレス、タンタル、ジルコニウムおよび/またはこれらの酸化物を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記リン原子が、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物に由来する、請求項1または2に記載の積層体。
【化1】
(上記一般式(I)中、Xはアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、スクシンイミド基、チオール基またはイソシアネート基を表し、Yは炭素数1~20の2価の有機連結基を表す。)
【請求項4】
前記グラフェン被覆層中のグラフェンの、グラフェン被覆層に平行な方向の面の大きさが0.10μm以上60μm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記グラフェン被覆層中のグラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する酸素の原子比(O/C比)が0.050以上0.350以下である、請求項1~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記グラフェン被覆層中のグラフェンの、X線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の原子比(N/C比)が0.005以上0.020以下である、請求項1~5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記グラフェン被覆層中のグラフェンの、平均厚みが0.3nm以上30nm以下である、請求項1~6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の積層体を有する導電材料。
【請求項9】
電池用集電体である、請求項8に記載の導電材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属および/または金属化合物を含有する基材上に、グラフェン被覆層を有する積層体と、それを用いた導電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、導電性を有すると共に、化学的安定性に優れたバリア性を有することが知られている。このため、電子機器用部材や電池用部材などの各種分野において、金属上にグラフェンを有する材料が適用されている。
【0003】
例えば、腐食しやすい金属材料に対して、グラフェン層により腐食を抑制する技術として、銅、銅合金、ニッケルおよびニッケル合金の少なくとも1つから成るベース基板と、前記ベース基板に適用され、箔と、前記箔上に堆積したグラフェン層とを含み、前記グラフェン層が前記箔上に堆積した後に、前記ベース基板に適用されている層状構造体と、を含む導電体(例えば、特許文献1参照)が提案されている。また、リチウムイオン二次電池において、集電体と、前記集電体上の活物質層と、第1の保護層とを有し、前記第1の保護層は、前記活物質層および前記集電体を囲み、前記第1の保護層は、グラフェン化合物を有する、電極(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【0004】
また、グラフェンによる導電経路形成技術のひとつとして、基板にグラフェンが設けられてなり、前記基板において親水処理が施された部位と前記グラフェンとの間、又は、前記基板において疎水処理が施されていない部位と前記グラフェンとの間に結合が形成されたものである、グラフェン構造体(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-106123号公報
【文献】特開2018-92934号公報
【文献】特開2011-121828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~2に記載の技術においては、基材とグラフェンとが化学的結合により固定化されていないため、熱による膨張収縮等によりグラフェン層や保護層が剥離したり破損したりするなど、耐熱性とグラフェンの密着性に課題があった。これに対して、特許文献3に記載の技術においては、シランカップリング化合物などによりグラフェンを基板に固定化することにより、グラフェンの密着性は向上するものの、シランカップリング化合物などの反応性が不十分で結合密度が低く、グラフェンの密着性のさらなる向上と耐熱性向上が求められていた。
【0007】
そこで本発明は、金属および/または金属化合物を含有する基材上に、グラフェン被覆層を有する、耐熱性およびグラフェン被覆層の密着性に優れる積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は主として以下の構成を有する。
金属および/または金属化合物を含有する基材上に、グラフェン被覆層を有する積層体であって、前記基材上にリン原子を含有し、X線光電子分光法により測定される前記基材上のリン原子含有量が0.1atomic%以上5atomic%以下である積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層体は、耐熱性およびグラフェン被覆層の密着性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<積層体>
本発明において積層体とは、異なる材質からなり、互いに接触している二つ以上の層構造を有するものを指す。本発明の積層体は、金属および/または金属化合物を含有する基材上に、グラフェン被覆層を有する。基材は積層体の支持体としての機能を有する。グラフェン被覆層は積層体に導電性を付与する機能や、基材を腐食性分子から保護する機能を有する。グラフェンは、シート状の形態を有するため、基材の形状にあわせて被覆しやすく、基材の変形にも追従しやすい特性を有するものの、基材との密着性が不十分である場合には、熱による基材に膨張/収縮等の影響により、基材から剥離しやすくなる。本発明においては、基材上に、後述するリン原子を含有する化合物を有することにより、基材とグラフェン被覆層との密着性を向上させることができる。
【0011】
<基材>
本発明の積層体における基材は、金属および/または金属化合物を含有する。X線光電子分光分析(XPS)により測定される基材表面の金属原子の含有率は、5atomic%以上が好ましい。
【0012】
金属化合物としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも金属酸化物が好ましい。金属酸化物は、基材表面に酸化被膜として形成されていてもよく、例えば、アルミニウムからなる基材の表面に、酸化アルミニウム被膜を有してもよいし、金属窒化物や金属硫化物からなる基材の表面に、金属酸化物の被膜が形成されていてもよい。
【0013】
金属および/または金属酸化物としては、例えば、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、コバルト、チタン、シリコン、ステンレス、タンタル、ジルコニウム、これらの酸化物などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、後述するリン原子を含む化合物との親和性の観点から、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、シリコン、ステンレスこれらの酸化物がより好ましく、銅、アルミニウム、鉄、チタン、ステンレス、これらの酸化物がより好ましく、アルニウムミ、チタン、ステンレス、これらの酸化物がさらに好ましい。
【0014】
基材の厚さは特に制限されないが、例えば、本発明の積層体を電池用集電体に用いる場合、1μm以上が好ましい。一方、基材の厚さは、1000μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0015】
本発明における基材上には後述するグラフェン被覆層を有する。また、基材のグラフェン被覆層側の表面、すなわち基材上には、後述するリン原子を含有する。
【0016】
<グラフェン被覆層>
グラフェンとは、狭義には1原子の厚さのsp結合炭素原子のシート(単層グラフェン)を指すが、本明細書においては、単層グラフェンが複数積層した薄片状の形態を持つものも含めてグラフェンと呼称する。また、酸化グラフェンも同様に、積層した薄片状の形態を持つものも含めた呼称とする。
【0017】
また、本明細書においては、X線光電子分光分析(XPS)によって測定された酸素原子の炭素原子に対する原子割合であるO/C比(酸化度)が0.4を超えるものを酸化グラフェン、0.4以下のものをグラフェンと呼ぶ。すなわち、酸化グラフェンを還元処理することによって得られる還元型酸化グラフェンであって、酸化度が0.4以下のものをグラフェンと呼称する。
【0018】
さらに、グラフェンや酸化グラフェンには分散性の向上等を目的とした表面処理がなされる場合があるが、本明細書においては、このような表面処理剤が付着したグラフェンまたは酸化グラフェンも含めて「グラフェン」または「酸化グラフェン」と呼称するものとする。
【0019】
グラフェンの、グラフェン被覆層に平行な方向の面の大きさは、基材を均一に被覆する観点から、0.10μm以上が好ましい。一方、グラフェンの、グラフェン被覆層に平行な方向の面の大きさは、積層体製造時の溶媒への分散性を向上させ、基材を均一に被覆する観点から、60μm以下であることが好ましい。ここで、グラフェンの、グラフェン被覆層に平行な方向の面の大きさは、スパチュラなどを用いて積層体中のグラフェンを採取し、電子顕微鏡を用いて、グラフェンが適切に視野に収まる様に、倍率1,500~50,000倍に拡大観察し、無作為に選択した10個のグラフェンについて、グラフェン被覆層に平行な方向の面の最も長い部分の長さ(長径)と最も短い部分の長さ(短径)をそれぞれ測定し、(長径+短径)/2で求められる数値の算術平均値を求めることにより算出することができる。
【0020】
なお、グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさは、酸化グラフェンを後述の方法により強撹拌することにより、前述の範囲に容易に調整することができる。また、所望の大きさの市販の酸化グラフェンを用いてもよい。
【0021】
また、グラフェンの平均厚みは、積層体製造時のグラフェンの皺を抑制し、基材を均一に被覆する観点から、0.3nm以上が好ましい。一方、グラフェンの平均厚みは、グラフェンの重なりを維持しやすく、基材の熱による膨張/収縮に対して追従しやすい観点から、30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。ここで、グラフェンの平均厚みは、スパチュラなどを用いて積層体中のグラフェンを採取し、原子間力顕微鏡を用いて、グラフェンが適切に観察できる様に、視野範囲1~10μm四方程度に拡大観察し、無作為に選択した10個のグラフェンについて、それぞれ厚みを測定し、その算術平均値を求めることにより算出することができる。なお、各グラフェンの厚みは、それぞれのグラフェンにおいて無作為に選択した5箇所の厚みの測定値の算術平均値とする。
【0022】
なお、グラフェンの平均厚みは、酸化グラフェンを後述の方法により強撹拌することにより、前述の範囲に容易に調整することができる。また、所望の厚みの市販の酸化グラフェンを用いてもよい。
【0023】
グラフェンの酸化度(O/C比)は、基材を均一に被覆することによって耐熱性と密着性をより向上させる観点から、0.050以上が好ましく、0.070以上がより好ましく、0.080以上がさらに好ましい。一方、還元によりπ電子共役構造を復元して導電性を向上させる観点から、グラフェンの酸化度は、0.350以下が好ましく、0.300以下がより好ましく、0.200以下がさらに好ましく、0.150以下がいっそう好ましい。
【0024】
なお、グラフェンのO/C比は、例えば、化学剥離法を用いた場合は、原料となる酸化グラフェンの酸化度や、還元反応条件による還元度の調整により、前述の範囲に容易に調整することができる。また、所望のO/C比を有する市販の酸化グラフェンやグラフェンを用いてもよい。
【0025】
前述の如く、グラフェンや酸化グラフェンには表面処理がなされる場合があり、特に窒素原子を含む表面処理剤はグラフェンの分散性を高めやすい傾向がある。さらに、窒素原子を含む表面処理剤は、後述するリン原子を含む化合物との相互作用を高め、グラフェンとリン原子を含む化合物との間の結合をより強化することができる。窒素原子を含む表面処理剤によりグラフェンを処理した場合、グラフェンに付着している表面処理剤の量を、X線光電子分光法により測定される炭素に対する窒素の原子比(N/C比)から求めることができる。グラフェンのN/C比は、表面処理剤の効果を向上させる観点から、0.005以上が好ましく、0.006以上がより好ましく、0.008以上がさらに好ましい。一方、グラフェンのN/C比は、導電性などのグラフェンの特性をより向上させる観点から、0.020以下が好ましく、0.018以下がより好ましく、0.016以下がさらに好ましい。
【0026】
なお、グラフェンのN/C比は、例えば、後述する表面処理剤の付着量により前述の範囲に容易に調整することができる。また、所望のN/C比を有する市販の酸化グラフェンやグラフェンを用いてもよい。
【0027】
表面処理剤としては、グラフェン表面に吸着しやすいという観点から、芳香環を有する化合物が好ましい。芳香環を有する化合物としては、例えば、ベンジルアミン、フェニルエチルアミンやこれらの塩などが挙げられる。これらの化合物の水素の一部が置換されていてもよい。これらは、酸性基や塩基性基を有することが好ましく、例えば、ドーパミン塩酸塩などが好ましい。
【0028】
グラフェンのO/C比およびN/C比は、積層体のグラフェンを有する部位を直接X線光電子分光分析(XPS)により測定するか、スパチュラ等を用いて採取したグラフェンについて、XPSにより測定することができる。得られた値は小数点第4位を四捨五入して小数点第3位まで求める。
【0029】
本発明の積層体において、基材上のグラフェン被覆層の厚みは、導電性などのグラフェンの特性をより向上させる観点から、1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。一方、基材上のグラフェン被覆層の厚みは、基材の熱による膨張/収縮の影響をより受けにくくする観点から、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。
【0030】
基材上のグラフェン被覆層の厚みは、イオンミリング等を用いて切断した積層体断面を、透過型電子顕微鏡を用いてグラフェン被覆層が適切に視野に収まる様に、倍率100,000~2,000,000倍に拡大観察し、無作為に選択した10箇所のグラフェン被覆層の厚みを測定し、その数平均値を算出することにより求めることができる。
【0031】
<リン原子>
本発明の積層体は、前記基材上にリン原子を含有する。リン原子は、基材とグラフェン被覆層の間に存在するリンを含有する化合物に由来し、かかる化合物により、基材とグラフェンの相互作用を高め、グラフェン被覆層の基材への密着性を向上させる作用を有する。
【0032】
X線光電子分光法により測定される基材上のリン原子含有率は、0.1atomic%以上5atomic%以下である。リン原子含有率が0.1atomic%未満であると、グラフェン被覆層の基材への密着性および耐熱性が低下する。リン原子含有率は、0.2atomic%以上が好ましく、0.3atomic%以上がより好ましい。一方、リン原子含有率が5atomic%を超えると、リンを含有する化合物のクラスター形成により架橋密度が低下し、グラフェン被覆層の基材への密着性および耐熱性が低下する。リン原子含有率は、3atomic%以下が好ましく、2atomic%以下がより好ましい。
【0033】
基材上のリン原子含有率は、500℃の電気炉中、酸素雰囲気下で積層体を6時間焼成してグラフェンおよび有機物を焼き飛ばした後、基材のグラフェンが存在していた側の表面をX線光電子分光法により分析することにより求めることができる。
【0034】
前記リン原子は、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物に由来することが好ましい。
【0035】
【化1】
【0036】
上記一般式(I)中、Xはアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、スクシンイミド基、チオール基またはイソシアネート基を表し、Yは炭素数1~20の2価の有機連結基を表す。
【0037】
一般式(I)で表される構造を有する化合物は、リン酸基が基材表面の酸化被膜をプロトン化することによって反応性を高められることから、グラフェン被覆層の基材への密着性をより向上させることができる。また、Xと、グラフェン上の官能基や後述する被覆促進層との共有結合および/または静電相互作用により、グラフェン被覆層の基材への密着性をより向上させることができる。
【0038】
一般式(I)中、Xはアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、スクシンイミド基、チオール基またはイソシアネート基を表す。アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、スクシンイミド基、イソシアネート基が好ましく、アミノ基、カルボキシル基がより好ましい。
【0039】
一般式(I)中、Yは炭素数1~20の2価の有機連結基を表す。かかる有機連結基は、パッキングによって自己組織化単分子膜の形成に寄与する。有機連結基の炭素数が多いほど自己組織化しやすく、グラフェン被覆層の基材への密着性をより向上させることができることから、有機連結基の炭素数は、Yの炭素数は3以上が好ましく、4以上がより好ましく、6以上がさらに好ましい。一方、有機連結基の炭素数は、基材表面のリン原子含有率を高めてグラフェン被覆層の基材への密着性をより向上させる観点から、20以下が好ましく、16以下がより好ましく、14以下がさらに好ましい。2価の有機連結基としては、例えば、アルキレン基、オキシアルキレン基、ジフェニルエーテル基、ビフェニル基などが挙げられる。アルキレン基は、自己組織化単分子膜の形成を阻害しにくい限りにおいて、側鎖に置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、メチル基、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ハロゲン、フェニル基などが挙げられる。なお、置換基に炭素を含む場合、前述の有機連結基の炭素数に、置換基の炭素は含めない。
【0040】
一般式(1)で表される構造を有する化合物としては、例えば、10-カルボキシルデシルホスホン酸、11-ヒドロキシウンデシルホスホン酸、11-アミノウンデシルホスホン酸およびその塩、12-メルカプトドデシルホスホン酸、10-グリシジルデシルホスホン酸、3-アミノプロピルホスホン酸、6-アミノヘキシルホスホン酸、8-アミノオクチルホスホン酸、14-アミノテトラデカホスホン酸、18-アミノオクタデカホスホン酸、(11-(オキシラン―2-イル)ウンデシル)ホスホン酸、11-イソシアナトウンデシルホスホン酸などが挙げられる。
【0041】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体の製造方法は、下記工程Aから工程Cをこの順に含むことが好ましい。
(工程A)金属および/または金属化合物を含有する基材の表面を清浄にする工程;
(工程B)リンを含有する化合物を前記基材表面に接触させる工程;
(工程C)グラフェンを含む分散液を前記工程Bにより得られた基材表面に接触させる工程。
【0042】
<工程A>
金属および/または金属化合物を含有する基材は、予め表面を清浄にしておくことが好ましい。清浄にする方法としては、例えば、有機溶剤を用いた洗浄などが挙げられる。本工程により、油分などの汚れを除去し、リンを含有する化合物との反応性を向上させることができる。基剤表面を清浄にした後、乾燥することが好ましい。
【0043】
<工程B>
工程Aにおいて表面を清浄にした基材の表面に、リンを含有する化合物を接触させることにより、基材表面にリン原子を存在させることができる。リンを含有する化合物としては、前述の一般式(I)で表される構造を有する化合物が好ましい。
【0044】
リンを含有する化合物を接触させる方法としては、リンを含有する化合物を溶媒中に溶解した溶液を塗布する方法が好ましく、かかる溶液を複数回塗布してもよい。
【0045】
溶媒としては、リンを含有する化合物が可溶となる有機溶媒や水などが挙げられる。ここで、可溶とは、溶質の50重量%以上が溶解している状態を指す。揮発によって乾燥させることができる溶媒が好ましい。例えば、前記一般式(I)で表される構造を有する化合物を用いる場合、溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、クロロホルム、アセトン、水、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0046】
溶液中におけるリンを含有する化合物の濃度は、リン原子含有率を容易に前述の範囲に調整する観点から、0.01mM以上が好ましく、0.05mM以上がより好ましく、0.1mM以上がさらに好ましい。一方、リンを含有する化合物の濃度は、過剰な化合物のクラスター形成を抑制する観点から、100mM以下が好ましく、80mM以下がより好ましく、60mM以下がさらに好ましい。
【0047】
溶液の塗布方法としては、例えば、ダイコーター、バーコーター、アプリケーター、スプレーコーター、スピンコーター、インクジェットコーター等を用いた塗布方法や、ディップコート法などが挙げられる。
【0048】
溶液を塗布した後、自己組織化を促進するために静置することが好ましい。静置時間は10分間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。優れた自己組織化膜が得られる観点から、ディップコーティングを用いて2時間以上溶液中に基材を浸漬しておくことがさらに好ましい。
【0049】
その後、溶媒を揮発乾燥することが好ましい。乾燥手段としては、例えば、風乾や熱風乾燥などが挙げられ、溶媒の揮発性に応じて適宜選択することができる。
【0050】
溶媒を揮発させた後、加熱することが好ましく、リン酸基と基材表面との脱水縮合反応を促進することができる。加熱温度は、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましい。加熱時間は、30分間以上が好ましく、45分間以上がより好ましく、60分間以上がさらに好ましい。
【0051】
加熱後、前述の溶媒を用いて、未反応成分を洗除去することが好ましい。
【0052】
次の工程Cへ進む前に、基材表面とグラフェンとの相互作用を高めるためにグラフェンの特性を損ねない範囲において、基材表面に、さらに被覆促進層を設けてもよい。分散液中のグラフェンはアニオン性を示す。そのため、基材側をカチオン化剤により処理しておくと、静電吸着によりグラフェンが被覆しやすくなる。カチオン化剤としては、例えば、第4級アンモニウムカチオン、ピリジニウム塩型などのカチオン性低分子化合物や、カチオン性高分子化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、基材表面を均一に被覆する観点から、カチオン性高分子化合物が好ましい。
【0053】
カチオン性高分子化合物としては、例えば、ポリ(N-メチルビニルアミン)、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリアリルジメチルアミン、ポリジアリルメチルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリジアリルジメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、ポリジアリルジメチルアンモニウムナイトレート、ポリジアリルジメチルアンモニウムペルクロレート、ポリビニルピリジニウムクロリド、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリビニルイミダゾール、ポリ(4-アミノメチルスチレン)、ポリ(4-アミノスチレン)、ポリビニル(アクリルアミド-co-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリビニル(アクリルアミド-co-ジメチルアミノエチルメタクリレート)、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリアミノアミド、ポリヘキサメチレンビグアニド、ポリジメチルアミン-エピクロロヒドリン、塩化メチルによるポリエチレンイミンのアルキル化生成物、エピクロロヒドリンによるポリアミノアミドのアルキル化生成物、カチオン性モノマーによるカチオン性ポリアクリルアミド、ジシアンジアミドのホルマリン縮合物、ジシアンジアミド-ポリアルキレンポリアミン重縮合物や、部分的に脱アセチル化したキチン、キトサンキトサン塩などの天然物、ポリアスパラギン、ポリリジン、ポリグルタミン、ポリアルギニンなどの合成ポリペプチドなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0054】
<工程C>
表面にリン原子を有する基材に、グラフェンを含む分散液を接触させることにより、基材表面をグラフェンにより被覆することができる。グラフェンを含む分散液を複数回塗布してもよい。分散液の塗布方法としては、工程Bにおける塗布方法として例示した方法が挙げられる。
【0055】
グラフェンを含む分散液としては、酸化グラフェンまたは還元型酸化グラフェンの分散液が挙げられる。酸化グラフェンを用いる場合には、酸化グラフェンの分散液を基材と接触させ、基材上に酸化グラフェンを固定した後、さらに還元処理を行い還元型酸化グラフェンに変換することが好ましい。基材表面と相互作用し得る官能基を多く含み、グラフェンの密着性をより向上させることができる観点から、酸化グラフェンを用いることが好ましい。
【0056】
酸化グラフェンの分散液を用いる場合、分散液には、高せん断ミキサーを用いて、せん断速度毎秒5,000~毎秒50,000で撹拌する強撹拌処理を行ってもよい。強撹拌処理において、高せん断ミキサーによりグラフェンを剥離および破砕することにより、グラフェン同士のスタックを解消することができ、グラフェンの平均厚みを前述の範囲に容易に調整することができ、また、グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさを前述の範囲に容易に調整することができる。高せん断ミキサーとしては、薄膜旋回方式、ローター/ステーター式、メディアミル式を採用したものが好ましく、例えば、“フィルミックス”(登録商標)30-30型(プライミクス社)、“クレアミックス”(登録商標)CLM-0.8S(エム・テクニック社)、“ラボスター”(登録商標)ミニLMZ015(アシザワ・ファインテック社)、スーパーシェアミキサーSDRT0.35-0.75(佐竹化学機械工業社)などが挙げられる。
【0057】
強撹拌処理におけるせん断速度は、上述のとおり、毎秒5,000~毎秒50,000が好ましい。せん断速度を毎秒5,000以上とすることにより、グラフェンの剥離や破砕を促進し、グラフェンの平均厚みおよびグラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさを前述の範囲に容易に調整することができる。また、強撹拌処理の処理時間は15秒から300秒が好ましい。
【0058】
グラフェンの分散液の濃度は、基材上のグラフェン被覆層の厚みを前述の好ましい範囲に容易に調整する観点から、0.01重量%以上が好ましい。一方、グラフェンの分散液の濃度は、粘度を適度に抑えて塗布性を向上させる観点から、5重量%以下が好ましい。
【0059】
グラフェンを含む分散液を塗布した後、溶媒を揮発乾燥することが好ましい。乾燥手段としては、工程Bにおける乾燥手段として例示した手段が挙げられる。
【0060】
酸化グラフェンを用いた場合の還元方法としては、化学還元が好ましい。化学還元の場合、還元剤としては、有機還元剤、無機還元剤が挙げられるが、還元後の洗浄の容易さから無機還元剤が好ましい。
【0061】
有機還元剤としては、アルデヒド系還元剤、ヒドラジン誘導体還元剤、アルコール系還元剤が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、アルコール系還元剤は比較的穏やかに還元することができるため、特に好適である。
【0062】
無機還元剤としては、例えば、亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウム、亜リン酸、水素化ホウ素ナトリウムなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、亜ジチオン酸ナトリウム、亜ジチオン酸カリウムは、低毒性かつ反応時間が短いため好ましい。
【0063】
<導電材料>
本発明の積層体は、電池用集電体などの導電材料として好ましく用いることができる。ここで、本発明において、導電材料とは、10Ω・cm以下の体積抵抗率を有する材料を指す。グラフェン被覆層と、基材とがそれぞれ10Ω・cm以下の体積抵抗率を有することが好ましい。ここで、グラフェン被覆層の体積抵抗率は、スパチュラなどを用いて積層体中のグラフェンを採取し、ペレット化して、市販の粉体抵抗率計を用いて測定することができる。また、基材の体積抵抗率は、スパチュラなどを用いて積層体からグラフェン被覆層を除去し、さらに基材表面を研磨して基材バルク層を露出させ、市販の抵抗率計を用いて測定することができる。
【実施例
【0064】
以下に実施例を用いて本発明を説明する。各実施例および比較例における評価方法を以下に示す。
【0065】
[測定例1]基材上のリン原子含有率
各実施例および比較例により得られた積層体を500℃の卓上マッフル炉K-90(デンケン・ハイデンタル株式会社製)中、酸素雰囲気下で6時間焼成してグラフェンおよび有機物を焼き飛ばした後で、グラフェン被覆層の存在した基材の表面を、X線光電子分光器QuanteraSXM(Ulvac-PHI社製)を用いて分析した。分析条件とデータ処理条件は以下のとおりとした。
<分析条件>
励起X線:Monochromatic AlKα1,2線(1486.6eV)
X線径:200μm
光電子検出角度(試料表面に対する検出器の傾き):45°
<データ処理条件>
スムージング:9-point smoothing
横軸補正:Al2pメインピークを74.3eV(Al)とした。
【0066】
[測定例2]グラフェンの、グラフェン被覆層に平行な面の大きさおよび平均厚み
各実施例および比較例により得られた積層体から、スパチュラを用いてグラフェンをそぎ落としてグラフェン粉末を採取した。また、各実施例および比較例に用いた酸化グラフェン分散液中を凍結乾燥して酸化グラフェン粉末を得た。
【0067】
得られたグラフェン粉末および酸化グラフェン粉末を、電子顕微鏡S-5500((株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて倍率30,000倍に拡大観察し、無作為に選択した10個のグラフェンについて、グラフェン被覆層に平行な方向の面の最も長い部分の長さ(長径)と最も短い部分の長さ(短径)をそれぞれ測定し、(長径+短径)/2で求められる数値の算術平均値を求めることにより、グラフェン被覆層に平行な面の大きさを算出した。
【0068】
また、得られたグラフェン粉末酸化グラフェン粉末を、原子間力顕微鏡Dimension Icon(Bruker社製)を用いて視野10μm×10μmに拡大観察し、無作為に選択した10個のグラフェンについて、それぞれ厚みを測定し、その算術平均値を求めることにより、平均厚みを算出した。なお、各グラフェンの厚みは、それぞれのグラフェンにおいて無作為に選択した5箇所の厚みの測定値の算術平均値とした。
【0069】
[測定例3]グラフェンのO/C比およびN/C比
測定例2と同様にして採取したグラフェン粉末および酸化グラフェン粉末について、X線光電子分光器QuanteraSXM(Ulvac-PHI社製)を用いて、炭素原子に基づくC1sメインピークを284.3eVとし、酸素原子に基づくO1sピークを533eV付近のピーク、窒素原子に基づくN1sピークを402eV付近のピークに帰属し、各ピークの面積比からO/C比およびN/C比を算出し、小数点第4位を四捨五入して小数点第3位まで求めた。分析条件は測定例1と同様とした。データ処理条件は以下のとおりとした。
<データ処理条件>
スムージング:9-point smoothing
横軸補正:C1sメインピークを284.3eVとした。
【0070】
[測定例4]グラフェン被覆層の厚み
各実施例および比較例により得られた積層体を、イオンミリング装置IM4000((株)日立製作所製)を用いてミリングして、断面を出して測定サンプルを作製した。得られた測定サンプルを、透過型電子顕微鏡ARM200F(日本電子(株)製)を用いて2,000,000倍に拡大観察し、積層体中に存在する、無作為に選択した10箇所のグラフェン被覆層の厚みを測定し、その数平均値からグラフェン被覆層の厚みを算出した。
【0071】
[測定例5]導電性
各実施例および比較例により得られた積層体から、スパチュラを用いてグラフェンをそぎ落としてグラフェン粉末を採取し、直径約20mm、密度1g/cmのディスク状試験片に成形し、グラフェンの導電性評価用サンプルとした。また、残った積層体の表面を#1000のサンドペーパーを用いて研磨して新生表面を露出させ、基材の導電性評価用サンプルとした。各サンプルについて、株式会社三菱化学アナリテック社製“ロレスタ”(登録商標)GP(MCP-T610)を用いて、抵抗率を測定し、導電性を評価した。
【0072】
[測定例6]耐熱性
各実施例および比較例により得られた積層体を、15℃/分の速度で室温から300℃まで加熱してから室温まで放冷するサイクルを10回繰り返した後、走査型電子顕微鏡S-5500(日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて拡大観察した。50μm×50μmの観察視野において、無作為に選択した10箇所について、グラフェン被覆層の剥離または破損の有無を観察し、剥離や破損が見られた箇所の数を求めた。
【0073】
[測定例7]密着性
各実施例および比較例により得られた積層体を、15℃/分の速度で室温から300℃まで加熱してから室温まで放冷するサイクルを10回繰り返した後、積層体のグラフェン被覆層の存在する部位の中央に対し、“セロテープ”(登録商標)CT-15(ニチバン株式会社製、幅15mm、長さ2cm)を気泡が入らない様に貼付けし、基材の面に対して垂直方向に剥がした後、光学顕微鏡ECLIPSE L200N(株式会社ニコンインステック製)を用いて剥離面を倍率50倍で拡大観察し、剥離せず基材上に残っているグラフェン被覆膜の面積を10%間隔で求めた。
【0074】
[測定例8]LIB放電容量
電極活物質としてLiMnを92重量部、導電助剤としてアセチレンブラックを3重量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン5重量部、溶剤としてN-メチルピロリドン100重量部を加えたものを、プラネタリーミキサーを用いて混合して電極ペーストを得た。電極ペーストを、ドクターブレード(200μm)を用いて、実施例1~5および8、比較例1~4により得られた積層体上に塗布し、80℃で15分間乾燥した後、真空乾燥して、積層体を集電体とする電極板を得た。
【0075】
作製した電極板を直径15.9mmに切り出して正極とし、直径16.1mm×厚さ0.2mmに切り出したリチウム箔を負極とし、直径17mmに切り出した“セルガード”(登録商標)#2400(セルガード社製)セパレータとして、LiPFを1M含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=7:3(重量比)の溶媒を電解液として、2042型コイン電池を作製し、電気化学評価を行った。上限電圧4.3V、下限電圧3.0Vの条件で、レート1Cで充放電測定を20回行い、20回目の放電時の容量を放電容量とした。
【0076】
[合成例1:3-APPAの合成)
10gのN-(3-ブロモプロピル)-フタルイミドを25.5mLの亜リン酸トリエチルに室温で溶解し、24時間160℃で還流した後、蒸留により亜リン酸トリエチルを留去して3-[(フタルイミド)プロピル]ホスホン酸ジエチルエステルを8.5g得た。得られた生成物7.6gを200mLのエタノールに溶解し、3.5mLの80%ヒドラジン水溶液を加えて72時間室温で撹拌した後、ろ過にて固体を除去し、ロータリーエバポレーターを用いてろ液の溶媒を留去して、3-アミノプロピルホスホン酸ジエチルエステル1.8gを得た。これを200mLの6M塩酸水溶液に溶解し、100℃で2日間還流した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、得られた固体を水:エタノール=1:1(重量比)溶液を用いて3回洗浄した。得られた固体を少量のエタノールに溶解した後、プロピレンオキサイドを滴下して再結晶し、結晶をろ過により回収し、水:エタノール=1:3(重量比)溶液を用いて再度再結晶化して、3-アミノプロピルホスホン酸(略称:3-APPA)0.4gを得た。
【0077】
[合成例2:6-APPAの合成]
73.2gの1,6-ジブロモヘキサンを600mLのアセトンに室温で溶解し、撹拌下56℃で還流しながら22.8gのフタルイミドカリウムを少量ずつ加え、その後24時間還流した。得られた生成物からろ過により不純物を除去した後、トルエンを用いて再結晶し、N-(6-ブロモヘキシル)-フタルイミドを21.1g得た。N-(6-ブロモヘキシル)-フタルイミド21.1gを65.4mLの亜リン酸トリエチルに加え室温で溶解し、160℃で24時間還流した後、蒸留により亜リン酸トリエチルを留去して、6-[(フタルイミド)-ヘキシル]ホスホン酸ジエチルエステル20.2gを得た。6-[(フタルイミド)-ヘキシル]ホスホン酸ジエチルエステル20.2gを400mLのエタノールに溶解し、17mLの80%ヒドラジン水溶液を加えて室温で72時間撹拌した後、ろ過により固体を除去し、ロータリーエバポレーターを用いてろ液の溶媒を留去して、6-アミノヘキシルホスホン酸ジエチルエステル6.4gを得た。5.7gの6-アミノヘキシルホスホン酸ジエチルエステルを100mLのジエチルエーテルに溶解し、10.8mLのブロモトリメチルシランを滴下し、室温で12時間撹拌した後、メタノールを加えて分液し、メタノール層を回収した。回収したメタノール層から、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた固体をエタノールを用いて再結晶して、6-アミノヘキシルホスホン酸(略称:6-APPA)1.2gを得た。
【0078】
[合成例3:8-AOPAの合成]
81.6gの1,8-ジブロモオクタンを600mLのアセトンに室温で溶解し、撹拌下56℃で還流しながら22.8gのフタルイミドカリウムを少量ずつ加え、その後24時間還流した。得られた生成物からろ過により不純物を除去した後、トルエンを用いて再結晶し、N-(8-ブロモオクチル)-フタルイミドを25.7g得た。N-(8-ブロモオクチル)-フタルイミド25.7gを65.4mLの亜リン酸トリエチルに加え室温で溶解し、160℃で24時間還流した後、蒸留により亜リン酸トリエチルを留去して、8-[(フタルイミド)-オクチル]ホスホン酸ジエチルエステル23.5gを得た。8-[(フタルイミド)-オクチル]ホスホン酸ジエチルエステル23.5gを400mLのエタノールに溶解し、17mLの80%ヒドラジン水溶液を加えて室温で72時間撹拌した後、ろ過により固体を除去し、ロータリーエバポレーターを用いてろ液の溶媒を留去して、8-アミノオクチルホスホン酸ジエチルエステル7.0gを得た。7.0gの8-アミノオクチルホスホン酸ジエチルエステルを100mLのジエチルエーテルに溶解し、10.8mLのブロモトリメチルシランを滴下し、室温で12時間撹拌した後、メタノールを加えて分液し、メタノール層を回収した。回収したメタノール層から、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた固体をエタノールを用いて再結晶して、8-アミノオクチルホスホン酸(略称:8-AOPA)1.6gを得た。
【0079】
[合成例4:14-ATDPAの合成]
107gの1,14-ジブロモテトラデカンを600mLのアセトンに室温で溶解し、撹拌下56℃で還流しながら22.8gのフタルイミドカリウムを少量ずつ加え、その後24時間還流した。得られた生成物からろ過により不純物を除去した後、トルエンを用いて再結晶し、N-(14-ブロモテトラデカ)-フタルイミドを31.9g得た。N-(14-ブロモテトラデカ)-フタルイミド31.9gを65.4mLの亜リン酸トリエチルに加え室温で溶解し、160℃で24時間還流した後、蒸留により亜リン酸トリエチルを留去して、14-[(フタルイミド)-テトラデカ]ホスホン酸ジエチルエステル28.1gを得た。14-[(フタルイミド)-テトラデカ]ホスホン酸ジエチルエステル28.1gを400mLのエタノールに溶解し、17mLの80%ヒドラジン水溶液を加えて室温で72時間撹拌した後、ろ過により固体を除去し、ロータリーエバポレーターを用いてろ液の溶媒を留去して、14-アミノテトラデカホスホン酸ジエチルエステル9.5gを得た。9.5gの14-アミノテトラデカホスホン酸ジエチルエステルを100mLのジエチルエーテルに溶解し、10.8mLのブロモトリメチルシランを滴下し、室温で12時間撹拌した後、メタノールを加えて分液し、メタノール層を回収した。回収したメタノール層から、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた固体をエタノールを用いて再結晶して、14-アミノテトラデカホスホン酸(略称:14-ATDPA)2.2gを得た。
【0080】
[合成例5:18-AODPAの合成]
124gの1,18-ジブロモオクタデカンを600mLのアセトンに室温で溶解し、撹拌下56℃で還流しながら22.8gのフタルイミドカリウムを少量ずつ加え、その後24時間還流した。得られた生成物からろ過により不純物を除去した後、トルエンを用いて再結晶し、N-(18-ブロモオクタデカ)-フタルイミドを35.9g得た。N-(18-ブロモオクタデカ)-フタルイミド35.9gを65.4mLの亜リン酸トリエチルに加え室温で溶解させ、160℃で24時間還流した後、蒸留により亜リン酸トリエチルを留去して、18-[(フタルイミド)-オクタデカ]ホスホン酸ジエチルエステル30.1gを得た。18-[(フタルイミド)-オクタデカ]ホスホン酸ジエチルエステル30.1gを400mLのエタノールに溶解し、17mLの80%ヒドラジン水溶液を加えて室温で72時間撹拌した後、ろ過により固体を除去し、ロータリーエバポレーターを用いてろ液の溶媒を留去して、18-アミノオクタデカホスホン酸ジエチルエステル9.3gを得た。9.3gの18-アミノオクタデカホスホン酸ジエチルエステルを100mLのジエチルエーテルに溶解し、10.8mLのブロモトリメチルシランを滴下し、室温で12時間撹拌した後、メタノールを加えて分液し、メタノール層を回収した。回収したメタノール層から、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた固体をエタノールで再結晶して、18-アミノオクタデカホスホン酸(略称:18-AODPA)1.1gを得た。
【0081】
[合成例6:11-OUPAの合成]
13-ブロモ-1-トリデセン20gを65.4mLの亜リン酸トリエチルに加えて室温で溶解し、160℃で24時間還流した後、蒸留により亜リン酸トリエチルを留去して、トリデカ-12-エン-1-イルホスホン酸ジエチルエステル18.8gを得た。9.4gのトリデカ-12-エン-1-イルホスホン酸ジエチルエステルを100mLのジエチルエーテルに溶解し、10.8mLのブロモトリメチルシランを滴下し、室温で12時間撹拌した後、メタノールを加えて分液し、メタノール層を回収した。回収したメタノール層から、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた固体をエタノールを用いて再結晶して、トリデカ-12-エン-1イルホスホン酸3.5gを得た。トリデカ-12-エン-1イルホスホン酸3.5gをアルゴン置換した三口フラスコに入れ、脱水ジクロロメタン20mLに溶解し、氷浴上で冷却した。別の梨型フラスコをアルゴン置換し、メタクロロ過安息香酸2.6gを60mLの脱水ジクロロメタンに溶解した溶液を調製した。梨型フラスコ中の溶液をシリンジで抜き取り、三口フラスコ中へ氷浴上で冷やしながら滴下し、15分間撹拌した後、氷浴を外し、24時間撹拌した。得られた溶液から、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去し、不純物をろ過して除いた後、シリカクロマトグラフィー(展開溶媒はクロロホルム:メタノール=10:1(重量比))を用いて精製し、(11-(オキシラン―2-イル)ウンデシル)ホスホン酸(略称:11-OUPA)1.8gを得た
[合成例7:11-IUPAの合成]
11-アミノウンデシルホスホン酸ハイドロブロマイド(略称:11-AUPA、株式会社同仁化学研究所製)1gを脱水テトラヒドロフラン10mLに室温で溶解し、トリホスゲン5.9gをジクロロメタン30mLに溶解させた溶液を滴下し、2時間室温で撹拌した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去して、11-イソシアナトウンデシルホスホン酸(略称:11-IUPA)0.6gを得た。
【0082】
[合成例8:酸化グラフェンの調製]
1500メッシュの天然黒鉛粉末(上海一帆石墨有限会社)を原料として、氷浴中の10gの天然黒鉛粉末に、220mlの98%濃硫酸、5gの硝酸ナトリウム、30gの過マンガン酸カリウムを入れ、混合液の温度を20℃以下に保持しながら1時間機械撹拌した。この混合液を氷浴から取り出し、35℃水浴中で4時間撹拌し、その後イオン交換水500mlを入れて、得られた懸濁液を90℃で更に15分間撹拌した。最後に600mlのイオン交換水と50mlの過酸化水素を入れ、5分間撹拌を行い、酸化グラフェン分散液を得た。熱いうちにこれを濾過し、希塩酸溶液を用いて金属イオンを洗浄し、イオン交換水を用いて酸を洗浄し、pHが7になるまで洗浄を繰り返して酸化グラフェンを調製した。調製した酸化グラフェンを、イオン交換水を用いて濃度50mg/mlに希釈し、ホモディスパー2.5型(プライミクス社)を用いて回転数3,000rpmで30分間処理し、均一な酸化グラフェン分散液を得た。得られた酸化グラフェン分散液20mlと、表面処理剤として0.3gのドーパミン塩酸塩を混合し、ホモディスパー2.5型(プライミクス社)を用いて、回転数3,000rpmで60分間処理した。調製した酸化グラフェンの、X線光電子分光法により測定される酸素原子の炭素原子に対する元素比(O/C比)は0.50、窒素原子の炭素原子に対する元素比(N/C比)は0.012であった。また、グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の被覆層に平行な面の大きさは1μm、厚さは3nmであった。
【0083】
[合成例9:酸化グラフェンの調製]
表面処理剤としてドーパミン塩酸塩を混合しなかったこと以外は合成例8と同様に酸化グラフェンを調製した。調製した酸化グラフェンの、X線光電子分光法により測定される酸素原子の炭素原子に対する元素比(O/C比)は0.50、窒素原子の炭素原子に対する元素比(N/C比)は0であった。また、グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の被覆層に平行な面の大きさは1μm、厚さは3nmであった。
【0084】
[合成例10:酸化グラフェンの調製]
表面処理剤としてドーパミン塩酸塩の添加量を0.5gに変更したこと以外は合成例8と同様に酸化グラフェンを調製した。調製した酸化グラフェンの、X線光電子分光法により測定される酸素原子の炭素原子に対する元素比(O/C比)は0.50、窒素原子の炭素原子に対する元素比(N/C比)は0.19であった。また、グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の被覆層に平行な面の大きさは1μm、厚さは3nmであった。
【0085】
[合成例11:物理剥離グラフェンの調製]
XGサイエンス社製グラフェンナノプレートレットR7を、イオン交換水を用いて濃度50mg/mlに希釈し、ホモディスパー2.5型(プライミクス社)を用いて回転数3,000rpmで30分間処理し、均一な物理剥離グラフェン分散液を得た。得られた物理剥離グラフェン分散液20mlと、表面処理剤として0.3gのドーパミン塩酸塩を混合し、ホモディスパー2.5型(プライミクス社)を用いて、回転数3,000rpmで60分間処理した。調製した酸化グラフェンの、X線光電子分光法により測定される酸素原子の炭素原子に対する元素比(O/C比)は0.054、窒素原子の炭素原子に対する元素比(N/C比)は0.013であった。また、グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の被覆層に平行な面の大きさ1μm、厚さ24nmであった。
【0086】
[実施例1]
基材として電池用アルミニウム箔(宝泉株式会社製、30μm厚)を用いた。リン原子を含む化合物として10-カルボキシルデシルホスホン酸(略称:10-CDPA、株式会社同仁化学研究所製)を用いた。アルミニウム箔を4cm角にカットしアセトンで洗浄後、エアーガンで乾燥した。エタノール:水=3:7(重量比)を溶媒として、0.1mM10-CDPA溶液10gを“テフロン”(登録商標)シャーレ中に入れ、アルミニウム箔を浸漬して17時間静置した後、250℃のホットプレート上で4時間加熱した。放冷した後、イオン交換水を用いて洗浄し、基材表面に固定されなかった10-CDPAを除去した。続いて、被覆促進層として0.1重量%に希釈したポリエチレンイミン水溶液(分子量700000、純正化学株式会社製)10gを“テフロン”シャーレ中に入れ、基材を浸漬し5分間静置した後、イオン交換水を用いて洗浄した。その後、前記合成例8により調製した酸化グラフェンを0.5重量%の濃度に調製した酸化グラフェン水分散液(グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさ1μm、厚さ3nm、O/C比0.50、N/C比0.012)10gを“テフロン”シャーレに入れ、基材を浸漬し5分間静置した後、イオン交換水を用いた洗浄した。さらに、5重量%亜ジチオン酸ナトリウム水溶液60℃10gを“テフロン”シャーレに入れ、基材を浸漬し、5分間静置して還元処理を行った後、イオン交換水を用いて洗浄・乾燥して、積層体を作製した。前記方法により評価した結果を表2に示す。
【0087】
[実施例2]
10-CDPAの濃度を1.0mMに変更したこと以外は実施例1と同様に積層体を作製し、評価した。
【0088】
[実施例3]
ポリエチレンイミン水溶液への浸漬を行わなかったこと以外は実施例2と同様に積層体を作製し、評価した。
【0089】
[実施例4]
10-CDPAを11-アミノウンデシルホスホン酸ハイドロブロマイド(略称:11-AUPA、株式会社同仁化学研究所製)に変更し、ポリエチレンイミン水溶液への浸漬を行わなかったこと以外は実施例2と同様に積層体を作製し、評価した。
【0090】
[実施例5]
基材をアルミニウム箔からチタン箔(アズワン株式会社より購入、10μm厚)に変更したこと以外は実施例2と同様に積層体を作製し、評価した。
【0091】
[実施例6]
基材をアルミニウム箔からシリコンウエハ(アズワン株式会社より購入、25μm厚)に変更したこと以外は実施例2と同様に積層体を作製し、評価した。
【0092】
[実施例7]
基材をアルミニウム箔からステンレス箔(アズワン株式会社より購入、SUS304、30μm厚)に変更したこと以外は実施例2と同様に積層体を作製し、評価した。
【0093】
[実施例8]
合成例8により調製した酸化グラフェンを合成例9により調製した酸化グラフェン(グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさ1μm、厚さ3nm、O/C比0.50、N/C比0)に変更したこと以外は実施例2と同様に積層体を作製し、評価した。
【0094】
[実施例9]
10-CDPAの濃度を2.0mMに変更したこと以外は実施例1と同様に積層体を作製し、評価した。
【0095】
[実施例10]
合成例8により調製した酸化グラフェンを合成例10により調製した酸化グラフェン(グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさ1μm、厚さ3nm、O/C比0.50、N/C比0.019)に変更したこと以外は実施例2と同様に積層体を作製し、評価した。
【0096】
[実施例11]
合成例8により調製した酸化グラフェンを合成例11により調製したグラフェン(グラフェンの、グラフェン層に平行な方向の大きさ1μm、厚さ24nm、O/C比0.054、N/C比0.013)に変更したこと以外は実施例2と同様に積層体を作製し、評価した。
【0097】
[実施例12]
11-AUPAを合成例1により合成した3-APPAに変更したこと以外は実施例4と同様に積層体を作製し、評価した。
【0098】
[実施例13]
11-AUPAを合成例2により合成した6-AHPAに変更したこと以外は実施例4と同様に積層体を作製し、評価した。
【0099】
[実施例14]
11-AUPAを合成例3により合成した8-AOPAに変更したこと以外は実施例4と同様に積層体を作製し、評価した。
【0100】
[実施例15]
11-AUPAを合成例4により合成した14-ATDPAに変更したこと以外は実施例4と同様に積層体を作製し、評価した。
【0101】
[実施例16]
11-AUPAを合成例5により合成した18-AODPAに変更したこと以外は実施例4と同様に積層体を作製し、評価した。
【0102】
[実施例17]
11-AUPAを合成例6により合成した11-OUPAに変更したこと以外は実施例4と同様に積層体を作製し、評価した。
【0103】
[実施例18]
11-AUPAを合成例7により合成した11-IUPAに変更したこと以外は実施例4と同様に積層体を作製し、評価した。
【0104】
[比較例1]
10-CDPA溶液をイオン交換水に変更したこと以外は実施例1と同様に積層体を作製し、評価した。
【0105】
[比較例2]
10-CDPA溶液の濃度を0.01mMに変更したこと以外は実施例1と同様に積層体を作製し、評価した。
【0106】
[比較例3]
10-CDPA溶液の濃度を0.03mMに変更したこと以外は実施例1と同様に積層体を作製し、評価した。
【0107】
[比較例4]
10-CDPAを3-アミノプロピルトリメトキシシラン(略称:APTMS、東京化成工業株式会社製)に変更したこと以外は実施例2と同様に積層体を作製し、評価した。
【0108】
[比較例5]
10-CDPAの濃度を10mMに変更し、該溶液にアルミニウム箔を浸漬して17時間静置した後、250℃のホットプレート上で4時間加熱する操作を10回繰り返したこと以外は実施例1と同様に積層体を作製し、評価した。
【0109】
各実施例および比較例の主な構成を表1~2に、評価結果を表3に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】