(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240402BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20240402BHJP
B05C 9/06 20060101ALI20240402BHJP
B05C 9/08 20060101ALI20240402BHJP
B05B 12/12 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B41J2/01 121
B41J2/01 123
B41J2/01 305
B41J2/01 401
B05C5/00 101
B05C9/06
B05C9/08
B05B12/12
(21)【出願番号】P 2020108776
(22)【出願日】2020-06-24
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 元紀
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 裕朗
(72)【発明者】
【氏名】奥井 涼太
(72)【発明者】
【氏名】石井 智士
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-166480(JP,A)
【文献】特開2015-193230(JP,A)
【文献】特開2000-229425(JP,A)
【文献】特開2019-093610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
B05C 5/00
B05C 9/06
B05C 9/08
B05B 12/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に画像を形成する画像形成装置であって、
色移りを抑制するための前処理剤を前記記録媒体に塗布する第1ヘッドと、
前記前処理剤が塗布された前記記録媒体にインクを吐出して前記画像を形成する第2ヘッドと、
前記記録媒体のうち前記画像が形成された部分を摩擦する摩擦部材と、
前記摩擦部材の汚染の程度を検出する検出部と、
前記第1ヘッドによる前記前処理剤の塗布量を前記汚染の程度に応じて制御する制御部と
を備えた画像形成装置。
【請求項2】
前記摩擦部材による摩擦の実行中に、前記記録媒体の搬送方向において前記摩擦部材の上流側及び下流側で前記記録媒体の移動を規制する規制部を更に備えた、請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記記録媒体の種別を検知するためのメディアセンサーを更に備え、
前記制御部は、前記記録媒体の種別に応じて前記摩擦部材による摩擦の条件を決定する、請求項1又は請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記記録媒体は、布又は紙のいずれかを含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記制御部は、所定の条件が満たされたときに前記記録媒体の摩擦を前記摩擦部材に開始させる、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記画像が形成された前記記録媒体に、前記摩擦部材による摩擦が実行される前に水分を供給する水分供給部を更に備えた、請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記記録媒体の種別を検知するためのメディアセンサーを更に備え、
前記制御部は、前記記録媒体の種別に応じて前記水分供給部による水分供給の条件を決定する、請求項6に記載の画像形成装置。
【請求項8】
周囲の温度及び湿度を検出するための温湿度センサーを更に備え、
前記制御部は、前記温湿度センサーの検出値に応じて前記水分供給部による水分供給の条件を決定する、請求項6又は請求項7に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記水分供給部は、水分を噴霧すること、又は水滴を滴下することにより前記記録媒体に水分を供給する、請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記水分供給部は、前記記録媒体のうち前記画像が形成された部分のみに水分を供給する、請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項11】
前記水分供給部は、前記摩擦部材を介して前記記録媒体に水分を供給する、請求項6から請求項10のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項12】
前記制御部は、所定の条件が満たされたときに前記記録媒体の摩擦を前記摩擦部材に開始させる、請求項6から請求項11のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のインクジェット捺染装置は、第1吐出ヘッドと、第2吐出ヘッドと、第3吐出ヘッドとを備える。第1吐出ヘッドは、布に第1前処理剤を塗布する。第2吐出ヘッドは、布に第2前処理剤を塗布する。第3吐出ヘッドは、第1前処理剤及び第2前処理剤のうち少なくとも一方が塗布された布にインクを吐出して画像を形成する。第1前処理剤はコート液を、第2前処理剤は浸透液をそれぞれ含む。
【0003】
布のような記録媒体にインクを塗布して乾燥させると、インク自身の凝集やインクと布の繊維との結合により画像形成がなされる。しかし、ここで画像部分に摩擦力が加わると、結合が破壊され、記録媒体からインクが剥がれることになる。剥がれたインクは、記録媒体に摩擦力を加えた物体へと転写される。これが、摩擦による色移りの発生メカニズムである。
【0004】
捺染分野における出力物の重要な品質項目の一つに、摩擦堅牢度が挙げられる。摩擦堅牢度とは、染色された布を摩擦した際に生じる色移りの尺度であり、色移りが少ないほど摩擦堅牢度が優れているとみなされる。衣類のような摩擦が発生する機会が多い布製品として出力物を活用する場合、出力物に優れた摩擦堅牢度を持たせることが重要になる。
【0005】
出力物に摩擦堅牢度を持たせる手段として一般的に行われていることは、布に前処理剤を塗布することである。この前処理剤は、インクと布の繊維との結着性を高める作用がある薬品のことであり、樹脂やイオン化合物の溶液が一般的に用いられている。この前処理剤を布に塗布してから捺染を行うことにより、出力物の摩擦堅牢度を高めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前処理剤の塗布には、布が硬くなり、手触りや風合いの良さが悪化するという欠点がある。そのため、十分な摩擦堅牢度を持ちつつ、極力手触りや風合いの良さを損なわない前処理剤塗布量が設定される必要がある。
【0008】
本発明は、十分な摩擦堅牢度を持ちつつ、極力手触りや風合いの良さを損なわない前処理剤塗布量を設定することができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の画像形成装置は、記録媒体に画像を形成する装置であって、第1ヘッドと、第2ヘッドと、摩擦部材と、検出部と、制御部とを備える。前記第1ヘッドは、色移りを抑制するための前処理剤を前記記録媒体に塗布する。前記第2ヘッドは、前記前処理剤が塗布された前記記録媒体にインクを吐出して前記画像を形成する。前記摩擦部材は、前記記録媒体のうち前記画像が形成された部分を摩擦する。前記検出部は、前記摩擦部材の汚染の程度を検出する。前記制御部は、前記第1ヘッドによる前記前処理剤の塗布量を前記汚染の程度に応じて制御する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、十分な摩擦堅牢度を持ちつつ、極力手触りや風合いの良さを損なわない前処理剤塗布量を設定することができる画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略図である。
【
図2】画像形成装置の回路構成の一部を示すブロック図である。
【
図3】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0013】
図1を参照して、実施形態に係る画像形成装置100について説明する。
図1は、画像形成装置100の一例を示す概略図である。
図1において、便宜上、右から左への向きをX軸の正の向き、奥から手前への向きをY軸の正の向き、下から上への向きをZ軸の正の向きとする。
【0014】
図1に示されるように、画像形成装置100は、連続した布である記録媒体Mにインクを用いて画像を形成する装置である。画像形成装置100は、供給部10と、第1搬送部20と、画像形成部30と、第2搬送部40と、第3搬送部50と、摩擦堅牢度測定部60と、第4搬送部70と、回収部80とを備える。
【0015】
供給部10は、記録媒体Mを画像形成部30に供給する。供給部10は、第1軸部11と、第1軸受部12とを有する。第1軸部11には、帯状の記録媒体Mが巻かれている。第1軸受部12は、第1軸部11を回転可能に支持する。第1軸部11が回転すると、第1軸部11から記録媒体Mが送出される。
【0016】
第1搬送部20は、複数の第1搬送ローラー21と、メディアセンサー22とを有する。第1搬送部20は、供給部10から送出された記録媒体Mを、画像形成部30へ搬送する。メディアセンサー22は、記録媒体Mの種別を検知するためのセンサーである。
【0017】
画像形成部30は、前処理剤ヘッド31と、インクヘッド32とを有する。前処理剤ヘッド31及びインクヘッド32は、記録媒体Mの搬送方向D1に沿って、この順で配置される。前処理剤ヘッド31は、色移りを抑制するための前処理剤を記録媒体Mに塗布する。インクヘッド32は、前処理剤が塗布された記録媒体Mにインクを吐出して画像を形成する。前処理剤ヘッド31は、「第1ヘッド」の一例に相当する。インクヘッド32は、「第2ヘッド」の一例に相当する。
【0018】
第2搬送部40は、搬送ベルト41と、複数の第2搬送ローラー42とを有する。搬送ベルト41は、無端のベルトである。搬送ベルト41は、前処理剤ヘッド31及びインクヘッド32と対向する。搬送ベルト41は、複数の第2搬送ローラー42に掛けられる。複数の第2搬送ローラー42のうち、少なくとも1つは駆動ローラーである。
【0019】
第3搬送部50は、複数の第3搬送ローラー51と、乾燥ユニット52と、対向ローラー53とを有する。第3搬送部50は、画像形成部30から摩擦堅牢度測定部60へ記録媒体Mを搬送する。乾燥ユニット52は、画像形成部30と摩擦堅牢度測定部60との間の位置で記録媒体Mを乾燥させる。
【0020】
摩擦堅牢度測定部60は、摩擦部材61と、駆動部62と、色彩濃度センサー63とを有する。摩擦部材61は、摩擦堅牢度を測定するため、記録媒体Mのうち画像が形成された部分を摩擦する。摩擦部材61は、例えばローラーの形状を有する。駆動部62は、摩擦部材61の回転及び並進移動を駆動する。色彩濃度センサー63は、色移りによる摩擦部材61の汚染の程度を検出するためのセンサーである。色彩濃度センサー63は、「検出部」の一例に相当する。
【0021】
摩擦部材61を構成するローラーの回転速度V1を、複数の第3搬送ローラー51の回転速度V2よりも速くする、又は遅くすることによって、記録媒体Mに摩擦力を作用させることができる。通常印字の場合に回転速度V1が回転速度V2と同一に保持されれば、記録媒体Mに摩擦力は作用しない。ただし、摩擦部材61は、平板形状を有してもよい。
【0022】
摩擦部材61が記録媒体Mに押し当てられる際、記録媒体Mの裏面側に対向ローラー53が位置することで、摩擦部材61と記録媒体Mとの間に十分な摩擦力が発生する。また、摩擦部材61はZ軸方向に移動可能であって、摩擦を行う場合にのみ摩擦部材61が記録媒体Mと接触する。
【0023】
複数の第3搬送ローラー51は、摩擦部材61による摩擦の実行中に、記録媒体Mの搬送方向D1において摩擦部材61の上流側及び下流側で記録媒体Mの移動を規制する「規制部」としても機能する。これにより、記録媒体Mの伸縮によるズレが防止される。また、複数の第3搬送ローラー51と摩擦部材61との速度差により記録媒体Mが潰れることが防止される。この際、上流側の第3搬送ローラー51と下流側の第3搬送ローラー51との間隔が短いほど、記録媒体Mの伸縮による影響が小さくなるとともに、摩擦を実施できる領域を広く確保することが可能となる。また、記録媒体Mの搬送が一旦停止し、摩擦部材61の上流側及び下流側が完全にクランプ等によって固定された状態で摩擦が実施されてもよい。
【0024】
例えば、複数の第3搬送ローラー51がプラスチック製であれば、記録媒体Mに対する摩擦力がプラスチックよりも大きいゴムや布といった材質の摩擦部材61を用いると、高効率の摩擦が可能となる。複数の第3搬送ローラー51と摩擦部材61とが同一の材質であっても、摩擦部材61の表面粗さを複数の第3搬送ローラー51よりも粗くして、摩擦部材61の摩擦力を大きくしてもよい。
【0025】
第4搬送部70は、複数の第4搬送ローラー71を有する。第4搬送部70は、摩擦堅牢度測定部60から送出された記録媒体Mを、回収部80へ搬送する。
【0026】
回収部80は、第4搬送部70から送出された記録媒体Mを回収する。回収部80は、第2軸部81と、第2軸受部82とを有する。第2軸部81には、記録媒体Mが連結されている。第2軸受部82は、第2軸部81を回転可能に支持する。第2軸部81が回転すると、第2軸部81に記録媒体Mが巻かれる。
【0027】
次に、
図1及び
図2を参照して、画像形成装置100の回路構成について説明する。
図2は、画像形成装置100の回路構成の一部を示すブロック図である。
【0028】
図2に示されるように、画像形成装置100は、メディアセンサー22、前処理剤ヘッド31、インクヘッド32、摩擦部材61、駆動部62、及び色彩濃度センサー63に加えて、制御部110及び記憶部120を備える。
【0029】
記憶部120は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)のような主記憶装置を含む。記憶部120は、コンピュータープログラムと、種々のデータとを記憶する。
【0030】
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサーを含む。制御部110は、記憶部120に記憶されたコンピュータープログラムを実行することにより、画像形成装置100の各要素の動作を制御する。具体的には、制御部110は、メディアセンサー22及び色彩濃度センサー63から各々情報の入力を受けて、前処理剤ヘッド31、インクヘッド32、及び駆動部62を制御する。
【0031】
次に、
図1~
図4を参照して、制御部110の処理について説明する。
図3は、制御部110の処理の一例を示すフローチャートである。
図4は、摩擦部材61の動作を示す平面図である。
【0032】
ステップS101:
図3に示されるように、制御部110は、記録媒体Mの搬送が開始するように、供給部10、第1搬送部20、第2搬送部40、第3搬送部50、第4搬送部70、及び回収部80を制御する。駆動部62は、記録媒体Mから摩擦部材61を離間させるように制御される。
【0033】
ステップS103:制御部110は、摩擦前の摩擦部材61の色彩濃度を取得するように、色彩濃度センサー63の出力を取り込む。
【0034】
ステップS105:制御部110は、メディアセンサー22から記録媒体Mの種別に関する情報を取得する。
【0035】
ステップS107:制御部110は、記録媒体Mの種別に応じて摩擦部材61による摩擦の条件を決定する。例えば、伸縮しやすい記録媒体Mを大きい力で摩擦すると記録媒体Mの変形が発生してしまうので、摩擦力を下げ、代わりに摩擦時間を増やすといった対応を行う。
【0036】
摩擦部材61を対向ローラー53に押し当てる荷重の大きさは、約5Nの摩擦力が生じる値に設定することを基本とするが、メディアセンサー22で確認した記録媒体Mの種別に応じて調節する。例えば、ある程度の硬さを持ち、大きな摩擦力を生じさせる必要がある記録媒体Mの場合は大きな荷重を加え、強い摩擦力で摩擦を実施する。一方、伸縮性に優れるために変形の恐れがある記録媒体Mの場合は、荷重を小さくすることにより摩擦力を弱める。
【0037】
ステップS109:制御部110は、前処理剤ヘッド31を制御して、記録媒体Mへ前処理剤を塗布する。
【0038】
ステップS111:制御部110は、インクヘッド32を制御して、記録媒体Mへパッチ画像Pを印刷する。
【0039】
ステップS113:制御部110は、乾燥ユニット52を制御して、記録媒体Mの上のパッチ画像Pを乾燥させる。
【0040】
ステップS115:制御部110は、駆動部62を制御して、摩擦部材61にパッチ画像Pの摩擦を実行させる。
【0041】
図4に示されるように、パッチ画像Pは、例えば、各々記録媒体Mの搬送方向D1に沿って延びる3本の帯状画像を含む。摩擦部材61は、各々対応する帯状画像を摩擦する3個のローラーを含む。駆動部62は、搬送方向D1と交差する主走査方向D2に沿って延びる回転軸を有する。摩擦部材61を構成する3個のローラーは、駆動部62の回転軸に固定されている。摩擦後の劣化パッチ画像PDは、摩擦前のパッチ画像Pよりも色彩濃度が低減している。パッチ画像Pから摩擦部材61へ色移りが生じたからである。
【0042】
ステップS117:
図3に戻って、制御部110は、摩擦後の摩擦部材61の色彩濃度を取得するように、色彩濃度センサー63の出力を取り込む。
【0043】
ステップS119:制御部110は、摩擦後の摩擦部材61の色彩濃度と摩擦前の摩擦部材61の色彩濃度との差分に基づいて、現在の色移りレベル(摩擦堅牢度)を算出する。色移りレベルが小さければ摩擦堅牢度に優れ、色移りレベルが大きければ摩擦堅牢度が悪いということが分かる。
【0044】
ステップS121:制御部110は、前処理剤ヘッド31による前処理剤の塗布量を摩擦部材61の汚染の程度に応じて制御する。具体的には、制御部110は、算出された摩擦堅牢度に基づいて、前処理剤ヘッド31による前処理剤の塗布量を補正する。
【0045】
例えば、色移りレベルが規定値よりも小さい場合には前処理剤が過剰で、風合いが損なわれている状態になっているので、制御部110は、前処理剤塗布量を少なくする。一方、色移りレベルが規定値以上である場合には前処理剤が不足し、摩擦堅牢度が足りない状態となっているので、制御部110は、前処理剤塗布量を多くする。
【0046】
摩擦堅牢度測定の実施後は、摩擦部材61のクリーニングが実施される。摩擦部材61のクリーニングは、ブレードを用いて摩擦部材61の表面を掻き取ること、洗浄液を含ませた部材を摩擦部材61に押し当てること等により行われる。
【0047】
次に、
図1~
図5を参照して、画像形成装置100の変形例について説明する。
図5は、画像形成装置100の変形例を示す概略図である。
【0048】
図5に示された画像形成装置100は、第1搬送部20が温湿度センサー23を有し、摩擦堅牢度測定部60が水分供給ユニット64を有する点で、
図1に示された画像形成装置100と異なる。
【0049】
水分供給ユニット64は、画像が形成された記録媒体Mに、摩擦部材61による摩擦が実行される前に水分を供給する。記録媒体Mが水分を持った状態における摩擦堅牢度、つまり湿摩擦堅牢度を測定するためである。水分供給ユニット64は、「水分供給部」の一例に相当する。
【0050】
水分供給ユニット64は、水分を噴霧すること、又は水滴を滴下することにより記録媒体Mに水分を供給する。記録媒体Mに水分を供給できるのであれば、他の手法が採用されてもよい。また、生産性の低下を防止するために記録媒体Mの搬送を止めずに水分供給が実施されることを基本とするが、十分な水分供給を実施するために搬送を止めて、又は搬送速度を遅くして水分供給が実施されてもよい。
【0051】
水分供給ユニット64は、記録媒体Mのうちパッチ画像Pが形成された部分のみに水分を供給してもよい。水分供給ユニット64は、摩擦部材61を介して記録媒体Mに水分を供給してもよい。これらにより、可動部分に水分が付着することによる劣化や、記録媒体Mの重量増加による搬送不良のような、水による不具合を防ぐことができる。
【0052】
温湿度センサー23は、周囲の温度及び湿度を検出するためのセンサーである。制御部110は、温湿度センサー23の検出値に応じて水分供給ユニット64による水分供給の条件を決定する。例えば、温度が高いほど水分は蒸発しやすくなるため、温度が低い場合に比べて水分供給量が増やされる。
【0053】
制御部110は、メディアセンサー22の出力を受けて、記録媒体Mの種別に応じて水分供給ユニット64による水分供給の条件を決定してもよい。例えば、記録媒体Mが分厚い布である場合は、記録媒体Mが薄い布である場合に比べて水分供給量が増やされる。メディアセンサー22で記録媒体Mの含水率を測定できるようにし、制御部110は、含水率に応じて水分供給の条件を決定してもよい。例えば、水分供給後の状態が一定に近づくように、含水率が高い場合に比べて、含水率が低い場合の水分供給量が増やされる。
【0054】
制御部110は、基本的には記録媒体Mの単位面積当たりの重量と同等量の水分が単位面積当たりに供給されるように制御し、温湿度センサー23の検出値に応じて水分量を適宜調節する。例えば、温度が高い場合には水分供給量を増やし、湿度が高い場合には水分供給量を減らす。
【0055】
なお、
図1の画像形成装置100及び
図5の画像形成装置100のいずれにおいても、制御部110は、所定の条件が満たされたときに記録媒体Mの摩擦を摩擦部材61が開始するように、摩擦堅牢度測定部60の動作を開始させる。
【0056】
摩擦堅牢度の測定を実施するモードの起動は、ユーザー側から手動で指示してもよいし、画像形成装置100側で実施タイミングを判断して自動で行ってもよい。自動起動の場合は、例えば、前回実施時からの印字枚数や温湿度の変化が規定値を超えた場合に起動される。
【0057】
画像形成装置100の状態や環境の変化に応じて摩擦堅牢度の測定を実施するのは、印刷条件によらず摩擦堅牢度の品質を一定にすることを目的とする。
【0058】
画像形成装置100が印字を進めている間、インクや布,環境の状態は徐々に変化していくので、そのまま放置すると適切な前処理剤塗布量も変化する。その結果、摩擦堅牢度への影響が大きくなる。この対処法として前処理剤塗布量を補正するため、一定印字枚数毎に摩擦堅牢度測定が実施される。また、一定時間経過毎に測定が実施されてもよい。測定実施のタイミング(印字枚数・経過時間の設定)は、30分稼働するタイミングを目安とし、求める摩擦堅牢度の精度に応じて測定タイミングを調節する。精度向上のため、測定タイミングの周期が短縮されてもよい。
【0059】
また、温度及び湿度といった環境条件が変化すると、インク中に含まれる水分の蒸発速度や、インクと前処理剤に添加された樹脂との結合強度に変化が生じる。例えば、温度が高いと樹脂は柔らかくなり、また湿度が高いと水分が蒸発しにくくなる。これらの結果、インクと布の繊維との決着強度が低下し、摩擦堅牢度が悪くなる。このような摩擦堅牢度のズレに対処するため、前回実施時の条件から見た温度及び湿度の変化が閾値を超えた場合に摩擦堅牢度の測定を実施するようにする。閾値の目安は、温度±10℃、湿度±10%程度である。インクや布の環境影響の受けやすさに応じて、閾値が適時変更される。
【0060】
実施形態によれば、
図1~
図5を参照して説明したように、十分な摩擦堅牢度を持ちつつ、極力手触りや風合いの良さを損なわない前処理剤塗布量を設定することができる画像形成装置100が提供される。
【0061】
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明した。ただし、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明の形成が可能である。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の個数等は、図面作成の都合から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0062】
例えば、実施形態では記録媒体Mが連続した布であったが、これに限られない。記録媒体Mはカット紙であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、画像形成装置の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
22 メディアセンサー
23 温湿度センサー
30 画像形成部
31 前処理剤ヘッド(第1ヘッド)
32 インクヘッド(第2ヘッド)
51 第3搬送ローラー(規制部)
60 摩擦堅牢度測定部
61 摩擦部材
62 駆動部
63 色彩濃度センサー(検出部)
64 水分供給ユニット(水分供給部)
100 画像形成装置
110 制御部
D1 搬送方向
D2 主走査方向
M 記録媒体
P パッチ画像