(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240402BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20240402BHJP
C09D 11/40 20140101ALI20240402BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B41J2/01 123
B41J2/01 129
C09D11/30
C09D11/40
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41M5/00 134
(21)【出願番号】P 2020127043
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【氏名又は名称】田中 克郎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】関根 翠
(72)【発明者】
【氏名】菱田 優子
(72)【発明者】
【氏名】中村 潔
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-032659(JP,A)
【文献】特表2013-503931(JP,A)
【文献】特開2017-177353(JP,A)
【文献】特開2020-015910(JP,A)
【文献】特開2014-240153(JP,A)
【文献】特開2016-047652(JP,A)
【文献】特開2011-195649(JP,A)
【文献】特開2013-181163(JP,A)
【文献】国際公開第2010/021377(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
C09D 11/30
C09D 11/40
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線硬化型のクリアインクを吐出する第1インクジェットヘッドと、
前記クリアインクに放射線を照射し、前記クリアインクの塗膜を形成する放射線源と、を備え、
前記クリアインクが、重合性化合物を含み、
前記重合性化合物が、van-der-Waals半径で定義される体積が0.26nm
3以上かつ長辺に対する高さ方向の面積が0.25nm
2以上である重合性化合物Aを含み、
前記重合性化合物Aの含有量が、前記重合性化合物の総量に対して、80質量%以上であり、
前記第1インクジェットヘッド及び前記放射線源が、下記式(1)を満たすように構成されたものである、インクジェット記録装置。
0.5≦X×B×T/L≦60 ・・・ (1)
X(mm):前記第1インクジェットヘッドのノズル末端から、前記放射線源の副走査方向における距離
L(mm):前記第1インクジェットヘッドのノズル列の副走査方向の長さ
B :印刷時のパス数
T(秒) :1パスに必要な時間
【請求項2】
放射線硬化型のカラーインクを吐出する第2インクジェットヘッドを備え、
前記第2インクジェットヘッドは、前記第1インクジェットヘッドよりも、インクの付着順において上流側に配置される、
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記カラーインクが、重合性化合物を含み、
前記カラーインクにおける単官能モノマーの含有量が、前記重合性化合物の総量に対して、90質量%以上である、
請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記Xが、10mm以上250mm以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
X/Lが、0.4以上10以下である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記クリアインクの塗膜の膜厚が、20μm以上となるように記録を行う、
請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に記載されているように、N‐ビニル化合物等を含むラジカル重合性化合物と、ラジカル重合開始剤と、を含有する各着色インク組成物と、ラジカル重合性化合物と、アシルホスフィンオキサイド系ラジカル重合開始剤と、界面活性剤と、を所定の割合で含有するクリアインク組成物とを備えることで、優れた画質と光沢性とを有し、良好な表面状態を与え、耐ブロッキング性に優れ、下地の色味のない画像を形成しうる複層形成用インクセットが得られることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、クリアインクを各色に対応したインクジェットヘッドから吐出し、記録媒体の搬送方向について隣接する位置に備えられた光源によって硬化を行うインクジェット記録装置が開示されている。しかしながら、このような記録装置を用いると、クリアインク塗布後の光沢感が失われる場合があるということが分かってきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、放射線硬化型のクリアインクを吐出する第1インクジェットヘッドと、クリアインクに放射線を照射し、クリアインクの塗膜を形成する放射線源と、を備え、クリアインクが、重合性化合物を含み、重合性化合物が、van-der-Waals半径で定義される体積が0.26nm3以上かつ長辺に対する高さ方向の面積が0.25nm2以上である重合性化合物Aを含み、重合性化合物Aの含有量が、前記重合性化合物の総量に対して、80質量%以上であり、第1インクジェットヘッド及び前記放射線源が、下記式(1)を満たすように構成されたものである、インクジェット記録装置である。
0.5≦X×B×T/L≦60 ・・・ (1)
X(mm):前記インクジェットヘッドのノズル末端から、前記放射線源の副走査方向における距離
L(mm):前記インクジェットヘッドのノズル列の副走査方向の長さ
B :印刷時のパス数
T(秒) :1パスに必要な時間
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本実施形態のインクジェット装置の一態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0008】
1.インクジェット記録装置
本実施形態のインクジェット記録装置は、放射線硬化型のクリアインクを吐出する第1インクジェットヘッドと、クリアインクに放射線を照射し、クリアインクの塗膜を形成する放射線源(以下、「第1放射線源」ともいう。)と、を備え、クリアインクが、重合性化合物を含み、重合性化合物が、van-der-Waals半径で定義される体積が0.26nm3以上かつ長辺に対する高さ方向の面積が0.25nm2以上である重合性化合物Aを含み、重合性化合物Aの含有量が、重合性化合物の総量に対して、80質量%以上であり、第1インクジェットヘッド及び放射線源が、下記式(1)を満たすように構成されたものである。
0.5≦X×B×T/L≦60 ・・・ (1)
X(mm):インクジェットヘッドのノズル末端から、放射線源の副走査方向における距離
L(mm):インクジェットヘッドのノズル列の副走査方向の長さ
B :印刷時のパス数
T(秒) :1パスに必要な時間
【0009】
カラーインクは画質向上の観点から、付着後比較的短い時間で光源による硬化が行われる。そして、従来は、クリアインクについてもカラーインクと同様に付着後比較的短い時間で光源による硬化を行う記録装置が用いられていた。しかしながら、このような記録装置を用いた場合に得られる記録物の光沢感が低下するという問題が生じることが分かってきた。
【0010】
この点について、検討をしたところ、嵩高さが小さいモノマーを比較的多く含むクリアインクにより塗膜を形成した場合にこのような現象がみられ、比較的に嵩高く大きなモノマーを用いた場合においても、クリアインクの付着から硬化までの時間が短くなるように構成された記録部を有する記録装置の場合には、十分な光沢感が得られない場合があることが分かってきた。
【0011】
そこで、本実施形態においては、クリアインクに嵩高い重合性化合物Aを所定量用い、かつ、クリアインクを吐出する第1インクジェットヘッドとクリアインクを硬化させる放射線源とが所定の構成を有することにより、クリアインクの液層を記録媒体上で十分平滑化(レベリング)してから硬化を行うことで、光沢感の低下を抑制する。
【0012】
特に、van-der-Waals半径で定義される体積と面積を指標として表現される所定の嵩高さを有する重合性化合物Aを所定量含むクリアインクを用いることにより、下地にカラーインク塗膜を形成していた場合の光沢感がより向上し、カラーインクの塗膜により形成される画像を、クリアインクの塗膜によって好適に保護することが可能となる。
【0013】
1.1.装置構成
インクジェット記録装置の一例として、
図1に、シリアルプリンタの斜視図を示す。
図1に示すように、シリアルプリンタ200は、搬送部220と、記録部230とを備えている。
【0014】
搬送部220は、シリアルプリンタに給送された記録媒体Fを記録部230へと搬送し、記録後の記録媒体をシリアルプリンタの外に排出する。具体的には、搬送部220は、各送りローラを有し、送られた記録媒体Fを副走査方向(T1からT2)へ搬送する。
【0015】
記録部230は、搬送部220から送られた記録媒体Fに対して放射線硬化型のクリアインクを吐出する第1インクジェットヘッド231と、付着したクリアインクに対して放射線を照射する第2放射線源232と、これらを搭載するキャリッジ235と、キャリッジ235を記録媒体Fの主走査方向S1、S2に移動させるキャリッジ移動機構236を備える。
【0016】
シリアルプリンタの場合には、インクジェットヘッド231として記録媒体の幅より小さい長さであるヘッドを備え、ヘッドが移動し、複数パス(マルチパス)で記録が行われる。また、シリアルプリンタでは、所定の方向に移動するキャリッジ235に第1インクジェットヘッド231と第1放射線源232が搭載されており、クリアインクは、キャリッジ235の移動に伴って記録媒体上に吐出される。これにより、2パス以上(マルチパス)で記録が行われる。なお、パスを主走査ともいう。
【0017】
本実施形態においては、上記式(1)を満たすように第1インクジェットヘッド及び第1放射線源が構成されるため、記録媒体に付着したクリアインクは、搬送部220により記録媒体Fが副走査方向へ距離X以上移動した時に第1放射線源232によって放射線が照射される。言い換えると、本実施形態においては、クリアインクの記録媒体への付着と、付着したクリアインクに対する放射線照射を同一のパスでは行わず、かつ、クリアインクが付着してから所定の時間が経過した時に放射線照射が行われるように、第1インクジェットヘッド及び第1放射線源が構成される。これにより、カラーインク層の上でクリアインクがレベリングされるため、得られる記録物の光沢度がより向上する。
【0018】
また、記録部230の構成についてより詳説するために、
図2及び
図3に、第1インクジェットヘッド231と、第1放射線源232と、を備える記録部230の平面図の一態様を示す。
図2及び
図3は、
図1において記録媒体に対抗する記録部230の面を、記録媒体側から見た図である。
【0019】
本実施形態においては、第1インクジェットヘッド231のノズル末端から第1放射線源232の副走査方向における距離X(mm)と、第1インクジェットヘッド231のノズル列の副走査方向の長さL(mm)と、印刷時のパス数Bと、1パスに必要な時間T(秒)が、上記式(1)を満たすように構成される。式(1)で表されるX×B×T/Lは、クリアインクが着弾してから、放射線源によって硬化されクリアインクの塗膜が形成されるまでの時間を示す指標となる。
【0020】
式(1)で表されるX×B×T/Lは、0.5~60であり、好ましくは1.0~50であり、より好ましくは1.0~40であり、さらに好ましくは1.0~30であり、よりさらに好ましくは1.0~20であり、さらにより好ましくは1.5~15である。X×B×T/Lが0.5以上であることにより、記録媒体上に付着したクリアインクがレベリングされ、得られる記録物の光沢性がより向上する傾向にある。さらに、X×B×T/Lが60以下であることにより、印刷速度をより高速化することができる。
【0021】
図2及び3に示す第1インクジェットヘッド231は、ノズル孔が並んだノズル列Nを複数有する。また、ノズル列Nは、
図2及び3に示すように、副走査方向に少しずれて配列されることもある。いずれの場合においても、本実施形態における長さL(mm)とは、最も副走査方向T2側にあるノズル孔から、最も副走査方向T1側にあるノズル孔までの距離をいう。
【0022】
長さL(mm)は、好ましくは10~40mmであり、より好ましくは15~35mmであり、さらに好ましくは20~30mmである。長さL(mm)が上記範囲内であることにより、記録装置をより小型化することができる。
【0023】
また、第1インクジェットヘッド231及び第1放射線源232は、
図2に示すように同一の記録部320の面に配置されていてもよいし、
図3に示すように、独立した記録部にそれぞれ配置されていてもよい。さらに、第1放射線源232は長方形以外にも様々な形状をとり得る。いずれの場合においても、本実施形態における距離X(mm)とは、最も副走査方向T2側にあるノズル孔から、最も副走査方向T1側にある第1放射線源232の端までの距離をいう。
【0024】
また、距離X(mm)は、好ましくは5.0~250mmであり、より好ましくは10~250mmであり、さらに好ましくは10~200mmであり、よりさらに好ましくは10~100mmであり、さらにより好ましくは10~50mmである。距離X(mm)が5.0mm以上であることにより、記録媒体上に付着したクリアインクがレベリングされ、印刷速度をより高速化した場合であっても、得られる記録物の光沢性がより向上する傾向にある。さらに、距離X(mm)が250mm以下であることにより、記録装置をより小型化することができる。
【0025】
さらに、X/Lは、好ましくは0.4~10であり、より好ましくは0.4~8.0であり、さらに好ましくは0.4~6.0であり、よりさらに好ましくは0.4~4.0である。X/Lが0.4以上であることにより、記録媒体上に付着したクリアインクがレベリングされ、印刷速度をより高速化した場合であっても、得られる記録物の光沢性がより向上する傾向にある。さらに、X/Lが10以下であることにより、記録装置をより小型化することができる。
【0026】
上述のとおり、シリアル式では、パスとパスの間には記録媒体を搬送する副走査を行う。つまり主走査と副走査を交互に行う。例えば、ヘッドの副走査方向の長さを20mmとしたとき、1回の主走査(1パス)を行い、記録媒体を副走査方向に2.0mm移動させるということを繰り返すと、記録媒体が副走査方向にヘッドの長さ20mm動くためには、10回の主走査(10パス)が必要となる。これを記録媒体側から見ると、任意の位置に対して10回の主走査(10パス)によりインクの付着が行われることとなる。ここで、本実施形態の印刷時のパス数Bとは、記録媒体が副走査方向に距離Lだけ搬送されるまでに必要な主走査の回数をいう。
【0027】
パス数Bは、好ましくは4~24であり、より好ましくは4~20であり、さらに好ましくは4~16である。パス数Bが4以上であることにより、より多くのインクを付与することができ、記録媒体上に付着したクリアインクがレベリングされるとともに、クリアインク塗膜の厚みが向上し、得られる記録物の光沢性がより向上する傾向にある。また、パス数Bが22以下であることにより、印刷速度をより高速化することができる。
【0028】
また、記録部230は、キャリッジ移動機構236により主走査方向S1への移動と主走査方向S2への移動を繰り返す。この際、記録部230は、主走査方向S1への移動から主走査方向S2への移動へ方向を切り替える際に、動きを止めずに連続的に動いてもよいし、一時的に止まってもよい。いずれの場合においても、本実施形態における時間T(秒)とは、主走査方向S1の端(スタート位置)にある記録部230が主走査方向S2へと移動を開始した時点から、再度、記録部230が主走査方向S1の端(スタート位置)に戻ってきて主走査方向S2へと移動を開始する前の時点まで、の時間を半分にしたものをいう。言い換えると、時間T(秒)は、記録部230がスタート位置から動き始める時点から、次に記録部230がスタート位置から動き始める時点までの、記録部230の往復時間を、半分にしたものをいう。
【0029】
1パスに必要な時間T(秒)は、記録媒体の大きさにもよるが、好ましくは0.10~2.5秒であり、より好ましくは0.15~1.5秒であり、さらに好ましくは0.20~1.0秒である。時間T(秒)が0.10秒以上であることにより、より多くのインクを付与することができ、カラーインク塗膜上に付着したクリアインクがレベリングされ、得られる記録物の光沢性がより向上する傾向にある。また、時間T(秒)が2.5秒以下であることにより、印刷速度をより高速化することができる。
【0030】
図2及び
図3に示すように記録部230は、さらに、放射線硬化型のカラーインクを吐出する第2インクジェットヘッド130と、カラーインクに放射線を照射し、カラーインクの塗膜を形成する第2放射線源140とを備えていてもよい。なお、第2インクジェットヘッドは、第1インクジェットヘッドよりも、インクの付着順において上流側に配置される。これにより、カラーインクが付着した記録媒体にクリアインクを付着させることができる。
【0031】
なお、
図2においては第1放射線源232が第1インクジェットヘッドと同じキャリッジ(記録部230)に搭載される態様が示されているが、
図3に示すように、本実施形態の記録装置は、キャリッジに搭載されない第1放射線源232を有していてもよい。
【0032】
また、本実施形態のインクジェット装置は、上記シリアル方式のプリンタに限定されず、上述したライン方式のプリンタであってもよい。
【0033】
本実施形態のインクジェット記録装置は、クリアインクの塗膜の膜厚が、20μm以上となるように記録を行うものであることが好ましい。クリアインクの塗膜の膜厚は、より好ましくは25μm以上であり、さらに好ましくは30μm以上である。また、膜厚の上限は、好ましくは80μm以下である。クリアインクの塗膜の膜厚を20μm以上とすることにより、得られる記録物の光沢性がより向上する傾向にある。
【0034】
1.2.クリアインク
クリアインクは、所定の重合性化合物を含む放射線硬化型インクジェット組成物である。ここで、「クリアインク」とは、記録媒体に着色するために用いるインクではなく、記録媒体の光沢度の調整などに用いるインクである。なお、クリアインクを用いる目的には、記録物の耐擦過性などの特性の向上や、カラーインクの定着性、発色性を向上させるなどの目的も含まれる。具体的には、クリアインクは、好ましくは色材の含有量が0.2質量%以下であり、より好ましくは色材を含まないインク組成物をいう。一方で、カラーインクは、記録媒体に着色するために用いるインクであり、好ましくは色材の含有量が0.2質量%超過であるものをいう。
【0035】
なお、本実施形態における放射線硬化型インクジェット組成物は、インクジェット法によりインクジェットヘッドから吐出して用いる組成物である。以下、放射線硬化型インクジェット組成物の一実施形態として放射線硬化型インク組成物について説明するが、本実施形態に係る組成物はインク組成物以外の組成物、例えば3D造形用に用いられる組成物であってもよい。
【0036】
また、放射線硬化型インクジェット組成物は、放射線を照射することにより硬化する。放射線としては、紫外線、電子線、赤外線、可視光線、エックス線等が挙げられる。放射線としては、放射線源が入手しやすく広く用いられている点、及び紫外線の放射による硬化に適した材料が入手しやすく広く用いられている点から、紫外線が好ましい。
【0037】
以下、本実施形態のクリアインクにおいて、含まれ得る成分について説明する。
【0038】
1.2.1.重合性化合物
重合性化合物には、重合性官能基を1つもつ単官能モノマーと、重合性官能基を複数持つ多官能モノマーと、重合性官能基を1又は複数もつオリゴマーと、が含まれる。各重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
1.2.1.1.重合性化合物A
本実施形態の重合性化合物Aは、van-der-Waals半径で定義される、体積が0.26nm3以上かつ長辺に対する高さ方向の面積が0.25nm2以上である重合性化合物である。重合性化合物Aは、モノマーであっても、オリゴマーであってもよい。重合性化合物Aは、重合性官能基を1つもつ単官能重合性化合物A1(以下、単に「重合性化合物A1」ともいう。)、重合性官能基を複数持つ多官能重合性化合物A2(以下、単に「重合性化合物A2」ともいう。)、オリゴマー重合性化合物A3(以下、単に「重合性化合物A3」ともいう。)に分類することができる。重合性化合物Aは、上記嵩高さの要件を満たす化合物を1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
重合性化合物Aのvan-der-Waals半径で定義される体積は、0.26nm3以上であり、好ましくは0.27nm3以上であり、より好ましくは0.28nm3以上である。また、重合性化合物Aのvan-der-Waals半径で定義される体積の上限は、特に制限されないが、好ましくは0.60nm3以下であり、より好ましくは0.55nm3以下であり、さらに好ましくは0.50nm3以下である。重合性化合物Aの嵩高さが上記定義される範囲であることにより、クリアインクの塗膜の光沢性がより向上する。
【0041】
また、重合性化合物Aのvan-der-Waals半径で定義される長辺に対する高さ方向の面積は、0.25nm2以上であり、好ましくは0.27nm2以上であり、より好ましくは0.29nm2以上である。また、重合性化合物Aのvan-der-Waals半径で定義される長辺に対する高さ方向の面積の上限は、特に制限されないが、好ましくは0.50nm2以下であり、より好ましくは0.45nm2以下であり、さらに好ましくは0.40nm2以下である。重合性化合物Aの嵩高さが上記定義される範囲であることにより、クリアインクの塗膜の光沢性がより向上する。
【0042】
なお、van-der-Waals半径で定義される体積及び長辺に対する高さ方向の面積は、分子の構造異性体のうち最もエネルギーの低い分子構造における、体積及び長辺に対する高さ方向の面積として求める。分子のvan-der-Waals半径で定義される立体形状の特定や、それに基づく体積及び長辺に対する高さ方向の面積の算出には、公知のソフトウェア、例えば熱力学物性推算ソフトウェア等を用いることができる。
【0043】
「体積」は、化学式から真空中の分子状態を近似し、van-der-Waals半径からつくられるキャビティの体積である。また、「長辺」とは、van-der-Waals半径で定義される立体形状で最も長い辺であり、分子が最も安定になる構造をモデル化したときに、末端骨格原子(C,O,Nなど)のうち最も遠い物同士の距離を計算して求めたものである。「長辺に対する高さ方向の面積」とは、体積を長辺で割った値であり、長辺に直行する面における面積の指標をいう。
【0044】
上記のような重合性化合物Aとしては、特に制限されないが、例えば、ジシクロペンテニルアクリレート(DCPA)、イソボルニルアクリレート(IBXA)、3,3,5-トリメチルシクロへキシルアクリレート(TMCHA)、tertブチルシクロヘキサノールアクリレート(TBCHA)、イソノニルアクリレート(INAA)、ラウリルアクリレート(LA)のような重合性官能基を1つもつ単官能重合性化合物A1;ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)のような重合性官能基を複数もつ多官能重合性化合物A2、オリゴマー重合性化合物A3が挙げられる。
【0045】
重合性化合物Aの含有量は、重合性化合物の総量に対して、80質量%以上であり、好ましくは82質量%以上であり、より好ましくは84質量%以上である。重合性化合物Aの含有量が80質量%以上であることにより、クリアインクの塗膜の光沢性がより向上する。また、重合性化合物Aの含有量の上限は、特に制限されないが、重合性化合物の総量に対して、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは97質量%以下であり、さらに好ましくは95質量%以下である。重合性化合物Aの含有量が99質量%以下であることにより、硬化性および耐擦過性がより向上する傾向にある。なお、重合性化合物Aの含有量は、A1の含有量、およびA2の含有量、およびA3の含有量の総和を意味する。
【0046】
さらに、重合性化合物Aの含有量が80質量%であることを前提として、重合性化合物A1の含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、よりさらに好ましくは85質量%以上である。重合性化合物A1の含有量が60質量%以上であることにより、クリアインクの塗膜の光沢性がより向上する傾向にある。また、重合性化合物A1の含有量が上記範囲内であることにより、カラーインク層上におけるクリアインクの濡れ広がり性がより向上し、さらに光沢性の高い画像を得ることができる。また、重合性化合物A1の含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは92質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。重合性化合物A1の含有量が95質量%以下であることにより、得られる塗膜の硬化性および耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0047】
さらに、重合性化合物Aの含有量が80質量%であることを前提として、重合性化合物A2の含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上であり、さらに好ましくは3質量%以上である。重合性化合物A2の含有量が1質量%以上であることにより、得られる塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。また、重合性化合物A2の含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0048】
1.2.1.2.単官能モノマー
本実施形態において単官能モノマーとは、上記重合性化合物A1及びその他の単官能モノマーを含む概念である。単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、窒素含有単官能モノマー、架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレート、芳香族基含有単官能モノマー、飽和脂肪族基含有単官能モノマーが挙げられる。また、これらに代えて又は加えて、必要に応じてその他の単官能モノマーを含んでもよい。なお、単官能モノマーとしては、特に限定されないが、従来公知の、重合性官能基、特に炭素間の不飽和二重結合を有する重合性官能基を有する単官能モノマーが使用可能である。
【0049】
なお、本実施形態において、例えば、単に飽和脂肪族基含有単官能モノマーというときは、重合性化合物A1である飽和脂肪族基含有単官能モノマーと、重合性化合物A1でない飽和脂肪族基含有単官能モノマーを含むものとする。他の窒素含有単官能モノマー、架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレート、芳香族基含有単官能モノマー等においても同様である。
【0050】
クリアインクに含まれる単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、一層好ましくは95質量%以上である。単官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して80質量%以上であることにより、塗膜の柔軟性がより向上する。また、単官能モノマーの含有量の上限は、特に制限されないが、重合性化合物の総量に対して、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは98質量%以下であり、さらに好ましくは97質量%以下である。単官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して99質量%以下であることにより、塗膜の硬化性、耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0051】
また、クリアインクに含まれる単官能モノマーの含有量は、クリアインクの総量に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。単官能モノマーの含有量がクリアインクの総量に対して70質量%以上であることにより、塗膜の柔軟性がより向上する傾向にある。また、単官能モノマーの含有量の上限は、クリアインクの総量に対して、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは92質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。単官能モノマーの含有量がクリアインクの総量に対して95質量%以下であることにより、塗膜の硬化性、耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0052】
以下、単官能モノマーについて例示するが、本実施形態における単官能モノマーは以下に限定されるものではない。
【0053】
1.2.1.2.1. 窒素含有単官能モノマー
窒素含有単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルフォルムアミド、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルアセトアミド、ビニルメチルオキサゾリジノン及びN-ビニルピロリドン等の窒素含有単官能ビニルモノマー;アクリロイルモルフォリン(ACMO)等の窒素含有単官能アクリレートモノマー;(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド4級塩等の(メタ)アクリルアミド等の窒素含有単官能アクリルアミドモノマーが挙げられる。
【0054】
このなかでも、窒素含有単官能ビニルモノマー又は窒素含有単官能アクリレートモノマーの何れかを含むことが好ましく、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルピロリドン、ビニルメチルオキサゾリジノン、又はアクリロイルモルフォリンなどの含窒素複素環構造を有するモノマーがより好ましく、アクリロイルモルフォリンを含むことがさらに好ましい。
【0055】
このような窒素含有単官能モノマーを用いることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。さらに、アクリロイルモルフォリン等の含窒素複素環構造を有する窒素含有単官能アクリレートモノマーは塗膜の柔軟性及び密着性をより向上させる傾向にある。
【0056】
クリアインクに含まれる窒素含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは2~15質量%であり、より好ましくは3~13質量%であり、さらに好ましくは4~12質量%である。重合性化合物の総量に対する窒素含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の耐擦過性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0057】
クリアインクに含まれる窒素含有単官能モノマーの含有量は、クリアインクの総量に対して、好ましくは2~15質量%であり、より好ましくは3~12質量%であり、さらに好ましくは4~11質量%である。クリアインクの総量に対する窒素含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の耐擦過性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0058】
1.2.1.2.2. 架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレート
その他の単官能モノマーの一つとして、架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、本発明において、架橋縮合環構造とは、2以上の環状構造が1対1で辺を共有し、かつ、同じ環状構造または異なる環状構造の、互いに隣接しない2個以上の原資を連結した構造を意味する。架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートジシクロペンタニル(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、架橋縮合環構造としては、上記以外に以下のものを例示することができる。
【化1】
【0059】
このなかでも、上記重合性化合物Aに該当するジシクロペンテニルアクリレート(DCPA)を含むことがより好ましい。このような架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートを用いることにより、塗膜の耐擦過性と塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にあることに加えて、クリアインクの塗膜の光沢性がより向上する傾向にある。
【0060】
クリアインクに含まれる架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは10~65質量%であり、より好ましくは15~63質量%であり、さらに好ましくは20~60質量%である。重合性化合物の総量に対する架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性及び耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0061】
クリアインクに含まれる架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量は、クリアインクの総量に対して、好ましくは10~60質量%であり、より好ましくは15~57質量%であり、さらに好ましくは20~55質量%である。クリアインクの総量に対する架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性及び耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0062】
1.2.1.2.3. 芳香族基含有単官能モノマー
芳香族基含有単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アルコキシ化2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、アルコキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、p-クミルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、及び2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0063】
このなかでも、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、フェノキシエチルアクリレート(PEA)がさらに好ましい。このような芳香族基含有単官能モノマーを用いることにより、光重合開始剤の溶解性がより向上し、クリアインクの硬化性がより向上する傾向にある。特に、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤やチオキサントン系光重合開始剤を用いる場合にその溶解性が良好となる傾向にある。
【0064】
クリアインクに含まれる芳香族基含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは2~15質量%であり、より好ましくは3~13質量%であり、さらに好ましくは4~12質量%である。重合性化合物の総量に対する芳香族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性や耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0065】
クリアインクに含まれる芳香族基含有単官能モノマーの含有量は、クリアインクの総量に対して、好ましくは2~15質量%であり、より好ましくは3~12質量%であり、さらに好ましくは4~11質量%である。クリアインクの総量に対する芳香族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性や耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0066】
1.2.1.2.4. 飽和脂肪族基含有単官能モノマー
飽和脂肪族基含有単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート(IBXA)、tertブチルシクロヘキサノールアクリレート(TBCHA)、2-(メタ)アクリル酸-1,4-ジオキサスピロ[4,5]デシ-2-イルメチル等の脂環属基含有(メタ)アクリレート;イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐鎖の脂肪属基含有(メタ)アクリレート;ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、本実施形態において、飽和脂肪族基含有単官能モノマーは、架橋縮合環構造を有する化合物でないものとする。
【0067】
このなかでも、上記重合性化合物Aに該当するイソボルニル(メタ)アクリレート(IBXA)、tertブチルシクロヘキサノールアクリレート(TBCHA)が好ましい。このような飽和脂肪族基含有単官能モノマーを用いることにより、クリアインクの硬化性及び耐擦性がより向上する傾向にあることに加えて、クリアインクの塗膜の光沢性がより向上する傾向にある。
【0068】
クリアインクに含まれる飽和脂肪族基含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは15~85質量%であり、より好ましくは20~80質量%であり、さらに好ましくは、25~75質量%である。重合性化合物の総量に対する飽和脂肪族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲であることにより、クリアインクの硬化性、耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0069】
クリアインクに含まれる飽和脂肪族基含有単官能モノマーの含有量は、クリアインクの総量に対して、好ましくは15~80質量%であり、より好ましくは17~75質量%であり、さらに好ましくは、20~70質量%である。クリアインクの総量に対する飽和脂肪族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲であることにより、クリアインクの硬化性、耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0070】
1.2.1.2.5. その他
その他の単官能モノマーとしては、上記の他に、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸;該不飽和カルボン酸の塩;不飽和カルボン酸のエステル、ウレタン、アミド及び無水物;アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタンを用いてもよい。
【0071】
1.2.1.3. 多官能モノマー
本実施形態において多官能モノマーとは、上記重合性化合物A2及びその他の多官能モノマーを含む概念である。本実施形態の多官能モノマーとしては、例えば、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、多官能モノマーは、上記に限定されるものではない。
【0072】
クリアインクに含まれる多官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは0.01~20質量%であり、より好ましくは0.01~15質量%であり、さらに好ましくは1~15質量%である。重合性化合物の総量に対する多官能モノマーの含有量が0.01質量%以上であることにより、硬化性に優れ耐擦過性がより向上する傾向にある。また、重合性化合物の総量に対する多官能モノマーの含有量が20質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0073】
また、クリアインクに含まれる多官能モノマーの含有量は、クリアインクの総量に対して、好ましくは0.01~18質量%であり、より好ましくは0.01~15質量%であり、さらに好ましくは1~15質量%である。クリアインクの総量に対する多官能モノマーの含有量が0.01質量%以上であることにより、硬化性に優れ耐擦過性がより向上する傾向にある。また、クリアインクの総量に対する多官能モノマーの含有量が20質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0074】
以下、多官能モノマーについて例示するが、本実施形態における多官能モノマーは以下に限定されるものではない。
【0075】
1.2.1.3.1 ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレート
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートとしては、特に制限されないが、例えば、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。このようなビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートを含むことにより、クリアインクの粘度が低下し、吐出安定性がより向上する傾向にある。また、クリアインクの硬化性がより向上するとともに、硬化性の向上に伴って記録速度をより高速化することが可能となる。
CH2=CR1-COOR2-O-CH=CH-R3 ・・・ (2)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2~20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1~11の1価の有機残基である。)
【0076】
上記式(2)において、R2で表される炭素数2~20の2価の有機残基としては、炭素数2~20の直鎖状、分枝状又は環状の、置換されていてもよいアルキレン基、構造中にエーテル結合及び/又はエステル結合による酸素原子を有する、置換されていてもよい炭素数2~20のアルキレン基、炭素数6~11の、置換されていてもよい2価の芳香族基が挙げられる。これらの中でも、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基などの炭素数2~6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn-プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2~9のアルキレン基が好ましい。さらに、クリアインクをより低粘度化でき、かつ、クリアインクの硬化性をさらに良好にする観点から、R2が、オキシエチレン基、オキシn-プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2~9のアルキレン基となっている、グリコールエーテル鎖を有する化合物がより好ましい。
【0077】
上記式(2)において、R3で表される炭素数1~11の1価の有機残基としては、炭素数1~10の直鎖状、分枝状又は環状の、置換されていてもよいアルキル基、炭素数6~11の、置換されていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基又はエチル基である炭素数1~2のアルキル基、フェニル基及びベンジル基などの炭素数6~8の芳香族基が好適に用いられる。
【0078】
上記の各有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基及び炭素原子を含まない基に分けられる。まず、上記置換基が炭素原子を含む基である場合、当該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基として、以下に限定されないが、例えばカルボキシル基、アルコキシ基が挙げられる。次に、炭素原子を含まない基として、以下に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
【0079】
式(2)の化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1-ジメチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6-ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。これらの具体例のうち、クリアインクの硬化性、粘度のバランスがとりやすい点で、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルが特に好ましい。なお、本実施形態において、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルは、VEEAということもある。
【0080】
クリアインクに含まれるビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~10質量%以上であり、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは2~6質量%である。重合性化合物の総量に対するビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、クリアインクの粘度が低下し、吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0081】
クリアインクに含まれるビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量は、クリアインクの総量に対して、好ましくは1~10質量%以上であり、より好ましくは1~8質量%であり、さらに好ましくは2~6質量%である。クリアインクの総量に対するビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、クリアインクの粘度が低下し、吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0082】
1.1.1.3.2 多官能(メタ)アクリレート
多官能(メタ)アクリレートとしては、特に制限されないが、例えば、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジメタアクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート(HDDA)、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0083】
このなかでも、上記重合性化合物Aに該当するジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)が好ましい。このような多官能(メタ)アクリレートを用いることにより、クリアインクの硬化性及び耐擦性がより向上する傾向にあることに加えて、クリアインクの塗膜の光沢性がより向上する傾向にある。
【0084】
クリアインクに含まれる多官能(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~20質量%以上であり、より好ましくは1~17質量%であり、さらに好ましくは2~15質量%である。重合性化合物の総量に対する多官能(メタ)アクリレートの含有量が1質量%以上であることにより、耐擦過性がより向上する傾向にある。また、重合性化合物の総量に対する多官能(メタ)アクリレートの含有量が20質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0085】
また、クリアインクに含まれる多官能(メタ)アクリレートの含有量は、クリアインクの総量に対して、好ましくは1~20質量%以上であり、より好ましくは1~17質量%であり、さらに好ましくは2~15質量%である。クリアインクの総量に対する多官能(メタ)アクリレートの含有量が1質量%以上であることにより、耐擦過性がより向上する傾向にある。また、クリアインクの総量に対する多官能(メタ)アクリレートの含有量が20質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0086】
1.2.2. 光重合開始剤
光重合開始剤としては、放射線を照射することにより活性種を生じるものであれば特に限定されないが、例えば、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、アルキルフェノン系重合開始剤、チタノセン系重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤等の公知の光重合開始剤が挙げられる。これらの中でも、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤が好ましい。このような光重合開始剤を用いることにより、クリアインクの硬化性がより向上し、特にUV-LEDの光による硬化プロセスによる硬化性がより向上する傾向にある。光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0088】
このようなアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 1800(ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドと、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトンの質量比25:75の混合物)、IRGACURE TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)(以上全てBASF社製)等が挙げられる。
【0089】
クリアインクに含まれる光重合開始剤の含有量は、クリアインクの総量に対して、好ましくは3~12質量%であり、より好ましくは5~10質量%であり、さらに好ましくは7~9質量%である。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、クリアインクの硬化性及び光重合開始剤の溶解性がより向上する傾向にある。
【0090】
1.1.4.その他の添加剤
本実施形態に係るクリアインクは、必要に応じて、分散剤、重合禁止剤、スリップ剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
【0091】
1.1.4.2.重合禁止剤
本実施形態に係るクリアインクは、重合禁止剤をさらに含んでもよい。重合禁止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
重合禁止剤としては、以下に限定されないが、例えば、p-メトキシフェノール、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、ヒドロキノン、クレゾール、t-ブチルカテコール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-ブチルフェノール)、及び4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ヒンダードアミン化合物などが挙げられる。
【0093】
重合禁止剤の含有量は、クリアインクの総量に対して、好ましくは0.05~1質量%であり、より好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0094】
1.2.4.3.スリップ剤
本実施形態に係るクリアインクは、スリップ剤をさらに含んでもよい。スリップ剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
スリップ剤としては、シリコーン系界面活性剤が好ましく、ポリエステル変性シリコーンまたはポリエーテル変性シリコーンであることがより好ましい。ポリエステル変性シリコーンとしては、BYK-347、348、BYK-UV3500、3510、3530(以上、BYK Additives&Instruments社製)等が挙げられ、ポリエーテル変性シリコーンとしては、BYK-3570(BYK Additives&Instruments社製)等が挙げられる。
【0096】
スリップ剤の含有量は、クリアインクの総量に対して、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%である。
【0097】
1.3.カラーインク
本実施形態のインクジェット装置は、カラーインクをさらに備えていてもよい。カラーインクは、重合性化合物を含む放射線硬化型インクジェット組成物である。ここで、「カラーインク」とは、記録媒体に着色するために用いるインクである。以下、本実施形態のカラーインクにおいて、含まれ得る成分について説明する。
【0098】
1.3.1.重合性化合物
重合性化合物には、重合性官能基を1つもつ単官能モノマーと、重合性官能基を複数持つ多官能モノマーと、重合性官能基を1又は複数もつオリゴマーと、が含まれる。各重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
1.3.1.1.単官能モノマー
本実施形態において単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、窒素含有単官能モノマー、架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレート、芳香族基含有単官能モノマー、飽和脂肪族基含有単官能モノマーが挙げられる。また、これらに代えて又は加えて、必要に応じてその他の単官能モノマーを含んでもよい。なお、その他の単官能モノマーとしては、特に限定されないが、従来公知の、重合性官能基、特に炭素間の不飽和二重結合を有する重合性官能基を有する単官能モノマーが使用可能である。
【0100】
カラーインクに含まれる単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは80質量%以上であり、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。単官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して80質量%以上であることにより、塗膜の柔軟性がより向上する。また、カラーインクに含まれる単官能モノマーの含有量が上記範囲である場合に、光沢不良が生じやすいため、本発明が特に有用である。さらに、単官能モノマーの含有量の上限は、特に制限されないが、重合性化合物の総量に対して、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは98質量%以下であり、さらに好ましくは97質量%以下である。単官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して99質量%以下であることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0101】
また、カラーインクに含まれる単官能モノマーの含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは65質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは75質量%以上である。単官能モノマーの含有量がカラーインクの総量に対して75質量%以上であることにより、塗膜の柔軟性がより向上する傾向にある。また、単官能モノマーの含有量の上限は、カラーインクの総量に対して、好ましくは97質量%以下であり、より好ましくは95質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。単官能モノマーの含有量がクリアインクの総量に対して97質量%以下であることにより、塗膜の硬化性がより向上する傾向にある。
【0102】
カラーインクに含まれる窒素含有単官能モノマー、架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレート、芳香族基含有単官能モノマー、飽和脂肪族基含有単官能モノマー、及びその他の単官能モノマーとしては、クリアインクで例示したものと同様のものを例示することができる。
【0103】
カラーインクに含まれる窒素含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは3~17質量%であり、より好ましくは5~15質量%であり、さらに好ましくは8~12質量%である。重合性化合物の総量に対する窒素含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の耐擦過性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0104】
カラーインクに含まれる窒素含有単官能モノマーの含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは3~17質量%であり、より好ましくは5~15質量%であり、さらに好ましくは8~12質量%である。カラーインクの総量に対する窒素含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の耐擦過性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0105】
カラーインクに含まれる架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは25~55質量%であり、さらに好ましくは30~55質量%である。重合性化合物の総量に対する架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性及び耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0106】
カラーインクに含まれる架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは25~55質量%であり、さらに好ましくは30~55質量%である。カラーインクの総量に対する架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性及び耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0107】
カラーインクに含まれる芳香族基含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは2~12質量%であり、より好ましくは3~10質量%であり、さらに好ましくは4~7質量%である。重合性化合物の総量に対する芳香族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性や耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0108】
カラーインクに含まれる芳香族基含有単官能モノマーの含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは2~12質量%であり、より好ましくは3~10質量%であり、さらに好ましくは4~7質量%である。カラーインクの総量に対する芳香族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性や耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0109】
カラーインクに含まれる飽和脂肪族基含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは10~45質量%であり、より好ましくは15~40質量%であり、さらに好ましくは、15~35質量%である。飽和脂肪族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲であることにより、カラーインクの硬化性がより向上する傾向にある。
【0110】
カラーインクに含まれる飽和脂肪族基含有単官能モノマーの含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは10~45質量%であり、より好ましくは15~40質量%であり、さらに好ましくは、15~35質量%である。飽和脂肪族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲であることにより、カラーインクの硬化性がより向上する傾向にある。
【0111】
1.3.1.2. 多官能モノマー
本実施形態の多官能モノマーとしては、例えば、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、多官能モノマーは、上記に限定されるものではない。多官能モノマーとしては、クリアインクで例示したものと同様のものを例示することができる。
【0112】
カラーインクに含まれる多官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは3~25質量%であり、さらに好ましくは3~20質量%である。重合性化合物の総量に対する多官能モノマーの含有量が1質量%以上であることにより、耐擦過性がより向上する傾向にある。また、重合性化合物の総量に対する多官能モノマーの含有量が30質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0113】
また、カラーインクに含まれる多官能モノマーの含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは3~25質量%であり、さらに好ましくは3~20質量%である。カラーの総量に対する多官能モノマーの含有量が1質量%以上であることにより、耐擦過性がより向上する傾向にある。また、カラーの総量に対する多官能モノマーの含有量が30質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0114】
カラーインクに含まれるビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~10質量%以上であり、より好ましくは1~7質量%であり、さらに好ましくは2~5質量%である。重合性化合物の総量に対するビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、カラーインクの粘度が低下し、吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0115】
カラーインクに含まれるビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは1~10質量%以上であり、より好ましくは1~7質量%であり、さらに好ましくは2~5質量%である。カラーインクの総量に対するビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、カラーインクの粘度が低下し、吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0116】
カラーインクに含まれる多官能(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~25質量%以上であり、より好ましくは3~20質量%であり、さらに好ましくは3~17質量%である。重合性化合物の総量に対する多官能(メタ)アクリレートの含有量が1質量%以上であることにより、耐擦過性がより向上する傾向にある。また、重合性化合物の総量に対する多官能(メタ)アクリレートの含有量が25質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0117】
カラーインクに含まれる多官能(メタ)アクリレートの含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは1~25質量%以上であり、より好ましくは3~20質量%であり、さらに好ましくは3~17質量%である。カラーインクの総量に対する多官能(メタ)アクリレートの含有量が1質量%以上であることにより、耐擦過性がより向上する傾向にある。また、カラーインクの総量に対する多官能(メタ)アクリレートの含有量が20質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0118】
1.3.2. 光重合開始剤
カラーインクに含まれる光重合開始剤としては、クリアインクで例示したものと同様のものが挙げられる。光重合開始剤の含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは3~12質量%であり、より好ましくは5~10質量%であり、さらに好ましくは7~9質量%である。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、カラーインクの硬化性及び光重合開始剤の溶解性がより向上する傾向にある。
【0119】
1.3.3.色材
カラーインクに含まれる色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。
【0120】
色材の合計の含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは0.2~20質量%であり、より好ましくは0.5~15質量%であり、さらに好ましくは1~10質量%である。
【0121】
1.3.3.1.顔料
色材として顔料を用いることにより、カラーインクの耐光性を向上させることができる。顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0122】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.(Colour Index Generic Name)ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0123】
有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
【0124】
更に詳しく言えば、ブラックに使用されるカーボンブラックとしては、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(キャボット社(CABOTJAPAN K.K.)製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、ColorBlack S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、SpecialBlack 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ(Degussa)社製)が挙げられる。
【0125】
ホワイトに使用される顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21が
挙げられる。
【0126】
イエローに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、155、167、172、180が挙げられる。
【0127】
マゼンタに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0128】
シアンに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー 4、60が挙げられる。
【0129】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン 7、10、C.I.ピグメントブラウン 3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ 1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63が挙げられる。
【0130】
カラーインクに含まれる顔料の含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは1~15質量%であり、さらに好ましくは1~10質量%である。
【0131】
1.3.3.1. 染料
色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0132】
染料としては、特に制限されないが、例えば、C.I.アシッドイエロー17、23、42、44、79、142、C.I.アシッドレッド52、80、82、249、254、289、C.I.アシッドブルー9、45、249、C.I.アシッドブラック1、2、24、94、C.I.フードブラック1、2、C.I.ダイレクトイエロー1、12、24、33、50、55、58、86、132、142、144、173、C.I.ダイレクトレッド1、4、9、80、81、225、227、C.I.ダイレクトブルー1、2、15、71、86、87、98、165、199、202、C.I.ダイレクトブラック19、38、51、71、154、168、171、195、C.I.リアクティブレッド14、32、55、79、249、C.I.リアクティブブラック3、4、35が挙げられる。
【0133】
1.3.4.その他の添加剤
カラーインクは、必要に応じて、分散剤、重合禁止剤、スリップ剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
【0134】
1.3.4.1.分散剤
分散剤としては、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂のうち1種以上を主成分とするものが挙げられる。分散剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0135】
高分子分散剤の市販品として、味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ、アベシア(Avecia)社やノベオン(Noveon)社から入手可能なソルスパーズシリーズ(Solsperse36000等)、BYK Additives&Instruments社製のディスパービックシリーズ、楠本化成社製のディスパロンシリーズが挙げられる。
【0136】
カラーインクに含まれる分散剤の含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは0.1~2質量%であり、より好ましくは0.1~1質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0137】
1.3.4.2.重合禁止剤
カラーインクは、重合禁止剤をさらに含んでもよい。重合禁止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合禁止剤としては、クリアインクで例示したものと同様のものが挙げられる。
【0138】
カラーインクに含まれる重合禁止剤の含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは0.05~1質量%であり、より好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0139】
1.3.4.3.スリップ剤
カラーインクは、スリップ剤をさらに含んでもよい。スリップ剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。スリップ剤としては、クリアインクで例示したものと同様のものが挙げられる。
【0140】
カラーインクに含まれるスリップ剤の含有量は、カラーインクの総量に対して、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%である。
【0141】
1.4.クリアインク及びカラーインクの製造方法
クリアインク及びカラーインクの製造(調製)は、インクに含有する各成分を混合し、成分が充分均一に混合するよう撹拌することにより行う。本実施形態において、クリアインク及びカラーインクの調製は、調製の過程において、重合開始剤とモノマーの少なくとも一部とを混合した混合物に対して、超音波処理と加温処理の少なくとも何れかを施す工程を有することが好ましい。これにより、調製後のインクの溶存酸素量を低減することができ、吐出安定性や保存安定性に優れたクリアインク及びカラーインクとすることができる。上記混合物は、少なくとも上記の成分を含むものであればよく、クリアインク及びカラーインクに含む他の成分を更に含むものでも良いし、クリアインク及びカラーインクに含む全ての成分を含むものでもよい。混合物に含むモノマーは、クリアインク及びカラーインクに含むモノマーの少なくとも一部であればよい。
【0142】
2.インクジェット方法
本実施形態に係るインクジェット方法は、上記インクジェット記録装置を用いるインクジェット方法であって、カラーインクを第2インクジェットヘッドで吐出して記録媒体に付着させる工程(第1吐出工程)と、記録媒体に付着したカラーインクに対して、第2放射線源により放射線を照射する工程(第1照射工程)と、クリアインクを第1インクジェットヘッドで吐出して記録媒体のカラーインクが付着した領域の少なくとも一部に付着させる工程(第2吐出工程)と、記録媒体に付着したクリアインクに対して、第1放射線源により放射線を照射する工程(第2照射工程)と、を有する。
【0143】
本実施形態に係るインクジェット方法においては、上記クリアインク及びカラーインクを用いることにより、光沢性に優れた画像を得ることができる。また、本実施形態に係るインクジェット方法においては、上記クリアインク及びカラーインクを用いることにより、柔軟性及び耐擦過性に優れた画像を得ることができる。以下、各工程に詳細について記載する。
【0144】
2.1.第1吐出工程
第1吐出工程では、カラーインクを第2インクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる。より具体的には、圧力発生手段を駆動させて、第2インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填されたカラーインクをノズルから吐出させる。このような吐出方法をインクジェット法ともいう。
【0145】
2.2.第1照射工程
第1照射工程では、記録媒体に付着したカラーインクに対して、放射線を照射する。放射線が照射されると、モノマーの重合反応が開始することでカラーインクが硬化し、塗膜が形成される。このとき、重合開始剤が存在すると、ラジカル、酸、及び塩基などの活性種(開始種)を発生し、モノマーの重合反応が、その開始種の機能によって促進される。また、光増感剤が存在すると、放射線を吸収して励起状態となり、重合開始剤と接触することによって重合開始剤の分解を促進し、より硬化反応を達成させることができる。
【0146】
ここで、放射線としては、紫外線、赤外線、可視光線、エックス線等が挙げられる。放射線源は、第2インクジェットヘッドの下流に設けられた第2放射線源によって、インクに対して照射する。放射線源としては、特に制限されないが、例えば、紫外線発光ダイオードが挙げられる。このような放射線源を使用することで、装置の小型化やコストの低下を実現できる。紫外線源としての紫外線発光ダイオードは、小型であるため、インクジェット装置内に取り付けることができる。
【0147】
例えば、紫外線発光ダイオードは、第2インクジェットヘッドが搭載されているキャリッジ(媒体幅方向に沿った両端及び/又は媒体搬送方向側)に取り付けることができる。さらに、上述の放射線硬化型インクジェット組成物の組成に起因して低エネルギーかつ高速での硬化を実現できる。照射エネルギーは、照射時間に照射強度を乗じて算出される。そのため、照射時間を短縮することができ、印刷速度が増大する。一方、照射強度を減少させることもできる。これにより、塗膜の硬化が緩やかに起こるので、発色性に優れる硬化塗膜を得ることができる。
【0148】
2.3.第2吐出工程
第2吐出工程では、クリアインクを第1インクジェットヘッドから吐出して記録媒体のカラーインクが付着した領域の少なくとも一部に付着させる。吐出方法及び用いるヘッドについては、第1吐出工程と同様とすることができる。
【0149】
2.5.第2照射工程
第2照射工程では、記録媒体に付着したクリアインクに対して、第1放射線源により放射線を照射する。本実施形態のインクジェット方法においては、上記インクセットを用いることにより、クリアインクの塗膜の光沢性がより向上する。
【0150】
3. 記録物
本実施形態の記録物は、上記インクジェット記録装置により記録されたものであり、記録媒体上に上記放射線硬化型インクジェット組成物が付着し、硬化したものである。上記放射線硬化型インクジェット組成物のインクセットを用いたことにより、上記カラーインクで記録された画像が上記クリアインクで保護されることで良好な光沢性を有する。また、上記放射線硬化型インクジェット組成物が良好な柔軟性と密着性を有することにより、切り出しや折り曲げ等の後加工を施した際に塗膜のひび割れや欠けを抑制することができる。そのため、本実施形態の記録物は、サイン用途などに好適に用いることができる。
【0151】
記録媒体の素材としては、特に限定されないが、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等のプラスチック類及びこれらの表面が加工処理されているもの、ガラス、紙、金属、木材等が挙げられる。
【0152】
またその記録媒体の形態も、特に限定されるものではない。例えばフィルム、ボード、布等が挙げられる。
【実施例】
【0153】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0154】
1.クリアインク及びカラーインクの調製
まず、色材、分散剤、各モノマーの一部を秤量して顔料分散用のタンクに入れ、タンクに直径1mmのセラミック製ビーズミルを入れて攪拌することにより、色材をモノマー中に分散させた顔料分散液を得た。次いで、表1に記載の組成となるように、ステンレス製容器である混合物用タンクに、残りのモノマー、重合開始剤及び重合禁止剤を入れ、混合攪拌して完全に溶解させた後、上記で得られた顔料分散液を投入して、さらに常温で1時間混合撹拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過することにより各例の放射線硬化型インクジェット組成物を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。
【0155】
【0156】
表1中で使用した略号や製品の成分は、以下の通りである。
【0157】
<単官能モノマー>
・DCPA(日立化成株式会社製社製、ジシクロペンテニルアクリレート)
・IBXA(大阪有機化学工業株式会社製、イソボルニルアクリレート)
・PEA(商品名「ビスコート#192」、大阪有機化学工業株式会社製、フェノキシエチルアクリレート)
・ACMO(KJケミカルズ株式会社製、アクリロイルモルフォリン)
<多官能モノマー>
・VEEA(株式会社日本触媒製、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル)
・DPGDA(商品名「SR508」、サートマー株式会社製、ジプロピレングリコールジアクリレート)
・HDDA(商品名「ビスコート#230」、大阪有機化学工業株式会社製、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート)
<重合開始剤>
・Irg.819(商品名「IRGACURE 819」BASF社製、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)
・TPO(商品名「IRGACURE TPO」、BASF社製、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)
<重合禁止剤>
・MEHQ(商品名「p-メトキシフェノール」、関東化学株式会社製、ヒドロキノンモノメチルエーテル)
<スリップ剤>
・BYK-UV3500(BYK Additives&Instruments社製、アクリロイル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)
<色材(顔料)>
・PB15:3(C.I.ピグメントブルー15:3)
<分散剤>
・Solsperse36000(Lubrizol社製、高分子分散剤)
【0158】
表1中、物性欄の「単官能モノマーの割合」は、重合性化合物の総量に対する、単官能モノマーの含有量を表す。
【0159】
表1中、物性欄の「重合性化合物Aの割合」は、重合性化合物の総量に対する、重合性化合物Aの含有量を表す。
【0160】
表1中、物性欄の「単官能モノマーの総量に対する重合性化合物Aの割合」は、単官能モノマーの総量に対する、重合性化合物Aの含有量を表す。
【0161】
表1中、「Volume」はソフトウェア「COSMOtherm」(MOLSIS社製)を用いて算出した、分子が真空中に浮いている状態のvan-der-Waals半径からつくられるキャビティの体積を表す。
【0162】
表1中の「Length」はソフトウェア「COSMOtherm」(MOLSIS社製)を用いて算出した、「Volume」算出時の最も長い一辺を表す。
【0163】
表1中の「Volume/Length」は上記「Volume」を上記「Length」で割った値を表す。この値は長辺に対する高さ方向の面積を意味する。
【0164】
2.評価方法
記録装置として、
図1のようなシリアル式のプリンタを用意した。用意したプリンタの記録部320は、
図2のような態様を有するものとし、下記表2に記載するように構成した記録部によって記録を行った。具体的には、カラーインクを記録場体に、厚さ10μmになるよう付着・硬化し、さらに、カラーインクの塗膜の上に、クリアインクを表3に記載の厚さになるよう付着・硬化して、塗膜を得た。なお、表2において、L/Bは、1パスあたりの記録媒体の副走査方向への送り量(mm)を表す。
【0165】
なお、柔軟性の評価においては、記録媒体として、塩ビフィルム(JT5829R、MACtac社製)を用い、光沢性の評価においては、記録媒体として、ポリカーボネートフィルム(ユーピロン NF2000、三菱ガス化学株式会社製)を用いた。
【0166】
【0167】
2.1.柔軟性の評価
上記塗膜を形成した塩ビフィルムの剥離紙を剥がし、幅1cm、長さ8cmの短冊状に切り出して試験片を作製した。各試験片について、引張試験機(TENSILON、ORIENTEC社製)を用いて柔軟性としての伸び率を測定した。伸び率は、5mm/minで引っ張った時、クラックが発生した時点での数値とした。その数値は{(クラック時の長さ-延伸前の長さ)/延伸前の長さ×100}より算出した。
評価基準を以下に示す。
(評価基準)
A:300%以上
B:200%以上300%未満
C:200%未満
【0168】
2.2.光沢性
上記のようにして得られた塗膜を一定距離離れたところで目視し、塗膜からの蛍光灯の反射を確認した。評価基準は下記のとおりである。
(評価基準)
A:50cm以上離れていても蛍光灯の反射を確認可能
B:30cm以上50cm未満であれば蛍光灯の反射を確認可能
C:10cm以上30cm未満であれば蛍光灯の反射を確認可能
D:10cm未満であれば蛍光灯の反射を確認可能、あるいは、反射の確認ができない
【0169】
【0170】
3.評価結果
表3に、各例で用いたインクセットの組成、並びに評価結果を示した。表3から、重合性化合物Aを所定量有し、所定の記録部構成を満たす実施例1~10のインクジェット記録装置を用いた場合には、優れた光沢性を有する画像が得られることが分かった。
【符号の説明】
【0171】
200…シリアルプリンタ、220…搬送部、230…記録部、231…第1インクジェットヘッド、232…第1放射線源、233…第1インクジェットヘッド、234…第1放射線源、235…キャリッジ、236…キャリッジ移動機構、F…記録媒体、S1,S2…主走査方向、T1…副走査方向、N…ノズル、L…第1インクジェットヘッドのノズル列の副走査方向の長さ、X…第1インクジェットヘッドのノズル末端から第1放射線源の副走査方向における距離