(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】ドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240402BHJP
G03F 7/09 20060101ALI20240402BHJP
G03F 7/004 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B32B27/36
G03F7/09 501
G03F7/004 512
(21)【出願番号】P 2020137895
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019176912
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】下田 益民
(72)【発明者】
【氏名】中島 祥浩
(72)【発明者】
【氏名】門野 照雄
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/221701(WO,A1)
【文献】特開2017-222153(JP,A)
【文献】特開2018-065250(JP,A)
【文献】特開2019-152828(JP,A)
【文献】特開2016-221853(JP,A)
【文献】特開2017-002254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00 - 55/30
B32B 1/00 - 43/00
C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/18
G03F 7/004 - 7/04
G03F 7/06
G03F 7/075 - 7/115
G03F 7/16 - 7/18
H05K 3/02 - 3/26
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層以上の積層構造を有するポリエステルフィルムであり、一方の最外層(該層をA層とする)の表面(該面を表面Aとする)の表面粗さRa(A)が0.70nm以上5.00nm以下であり、前記表面Aの最大高さRz(A)が80.0nm以下であり、前記表面Aの表面高さ分布のとがりRku(A)(クルトシス)が5.0以上である、ドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
厚みが10~100μmである、請求項1に記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記表面Aの反対側の表面(該面を表面Bとする)の表面粗さRa(B)が1.0nm以上20.0nm以下である、請求項1または請求項2に記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記表面Aの反対側の表面(該面を表面Bとする)の表面比抵抗値が1.0×10
13Ω/□以下である、請求項1~3のいずれかに記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記A層の反対側の最外層(該層をB層とする)に帯電防止剤を含む、請求項1~4のいずれかに記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記表面A側にレジストが設けられるように用いられる、請求項1~5のいずれかに記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記表面A側にレジストが設けられた後、レジストをポリエステルフィルムから剥離し、その後、レジストを露光する用途に用いられる、請求項6に記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムの表面A側にレジストを設ける工程と、前記レジストをポリエステルフィルムから剥離する工程と、前記ポリエステルフィルムから剥離したレジストを露光する工程を有する導体回路の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドライフィルムレジスト(以下DFRと呼ぶ場合がある)は、プリント配線基板、半導体パッケージ、フレキシブル基板などの回路を形成するために用いられている。DFRは、感光層(フォトレジスト層)を、支持体としてのポリエステルフィルム上に積層させた後、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルムなどからなる保護フィルム(カバーフィルム)で挟んだ構造をしている。このDFRを用いて導体回路を作成するには、一般的に次のような工程で行われる。
1)DFRから保護フィルムを剥離し、露出したレジスト層の表面と、基板上の銅箔などの導電性基材層の表面とが密着するように、基板・導電性基材層とラミネートする工程。
2)次に、導体回路パターンを焼き付けたフォトマスクを、ポリエステルフィルムからなる支持体上に設置し、その上から、感光性樹脂を主体としたレジスト層に紫外線を照射して、露光させる工程。
3)その後、ポリエステルフィルムを剥離した後、溶剤によってレジスト層中の未反応分を溶解、除去する工程。
4)次いで、酸などでエッチングを行い、導電性基材層中の露出した部分を溶解、除去する工程。
【0003】
4)の工程の後には、レジスト層中の光反応部分とこの光反応部分に対応する導電性基材層部分がそのまま残り、その後、残ったレジスト層を除去する工程を経て、基板上の導体回路が形成されることになる。このため、支持体であるポリエステルフィルムには、紫外線を効率的に透過できることが要求される。これにより、導体回路パターンが、正確にレジスト層上に反映される。とくに近年では、IT機器など小型化、軽量化などに伴い、高解像化を達成できるドライフィルムレジスト支持体用ポリエステルフィルムが要求されている。また、支持体としてのポリエステルフィルムは、支持体上にレジスト層を形成してレジストフィルムを製造する際の取り扱い性を良好にするために、適度なすべり性を有することが重要である。しかしながら、適度なすべり性を付与するために易滑材としての粒子を含有させた場合、露光工程時の紫外線照射の際、粒子による光散乱が透過、反射共に引き起こされ、レジストの解像度を低下させてしまうという問題が生じていた。
たとえば、すべり性と高解像度を達成するものとしては、特許文献1のドライフィルムレジスト用ポリエステルフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-63341号公報
【文献】特開2019-133143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、支持体であるポリエステルフィルムに含有させる粒子として小径の粒子を用いても粒子による散乱は避けられず高精細化の妨げとなっていた。ところで、支持体であるポリエステルフィルムに含む異物による解像度の低下を回避するレジストの露光方法として、支持体であるポリエステルフィルムに感光性樹脂を主体としたレジスト層を設けた後、レジストからポリエステルフィルムを剥離してからレジストを露光する方法が提案されている(特許文献2)。本発明者らが鋭意検討した結果、かかる方法によると、支持体であるポリエステルフィルム中の異物による解像度の低下だけでなく、ポリエステルフィルム中に含まれる小径の粒子の散乱の影響もなくすことができることを見いだした。しかしながら、レジストからポリエステルフィルムを剥離してからレジストを露光する方法では、レジストからポリエステルフィルムを剥離する際にレジストに与えるゆがみによって現像後のレジストのパターニングにゆがみや、抜け、レジストパターン壁面の状態が悪いという課題を有していることが判った。これら事情に鑑み、本発明は、露光後のレジストの高解像度の要求を満足しつつ、取り扱い性に優れるドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムは次の構成を有する。
[I]
2層以上の積層構造を有するポリエステルフィルムであり、一方の最外層(該層をA層とする)の表面(該面を表面Aとする)の表面粗さRa(A)が0.70nm以上5.00nm以下であり、前記表面Aの最大高さRz(A)が80.0nm以下であり、前記表面Aの表面高さ分布のとがりRku(A)(クルトシス)が5.0以上である、ドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
[II]
厚みが10~100μmである、[I]に記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
[III]
前記表面Aの反対側の表面(該面を表面Bとする)の表面粗さRa(B)が1.0nm以上20.0nm以下である、[I]または[II]に記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
[IV]
前記表面Aの反対側の表面(該面を表面Bとする)の表面比抵抗値が1.0×1013Ω/□以下である、[I]~[III]のいずれかに記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
[V]
前記A層の反対側の最外層(該層をB層とする)に帯電防止剤を含む、[I]~[IV]のいずれかに記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
[VI]
前記表面A側にレジストが設けられるように用いられる、[I]~[V]のいずれかに記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
[VII]
前記表面A側にレジストが設けられた後、レジストをポリエステルフィルムから剥離し、その後、レジストを露光する用途に用いられる、[VI]に記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルム。
[VIII]
[I]~[VII]のいずれかに記載のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムの表面A側にレジストを設ける工程と、前記レジストをポリエステルフィルムから剥離する工程と、前記ポリエステルフィルムから剥離したレジストを露光する工程を有する導体回路の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レジストの解像性とすべり性に優れるドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明にかかるドライフィルムレジスト用ポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂を主成分とする2層以上の積層構造を有する。また、本発明にかかるドライフィルムレジスト用ポリエステルフィルムは二軸配向している。そして、一方の最外層(該層をA層とする)の表面(該面を表面Aとする)の表面粗さRa(A)が0.70nm以上5.00nm以下であり、かつ、前記表面Aの最大高さRz(A)が80.0nm以下であり、かつ、前記表面Aの表面高さ分布のとがりRku(A)(クルトシス)が5.0以上であることが好ましい。さらには、Ra(A)は0.70nm以上3.00nm以下であることがより好ましく、また、最大高さRz(A)は50.0mm以下であることが好ましく、25.0nm以下であることがより好ましく、また、Rku(A)は5.0以上10000以下であることが好ましく、10.0以上65.0以下であることがより好ましい。
【0009】
表面粗さRaは表面の粗さ(フィルム表面の凹凸の中心線を基準としたときの山の高さと谷の深さ)の平均を表す指標であり、最大高さRzは表面の突起の最大高さ(フィルム表面の凹凸の最も高い山の高さと最も深い谷の深さの和)を表す指標である。また、Rkuは表面の高さ分布を描いたときに、その分布がとがっているかブロードであるかを示す指標である。表面の高さ分布がとがっていると大きく、高さ分布がブロードだと小さく、またその中間である正規分布であると3となる。
【0010】
本発明者らが、ポリエステルフィルムをドライフィルムレジストの基材フィルムとして用いるにあたり、フィルム表面の粗さを制御したところ、表面粗さRa(A)が0.70nm以上5.00nm以下であり、かつ、表面Aの最大高さRz(A)が80.0nm以下であっても、表面Aの表面高さ分布のとがりRku(A)(クルトシス)が5.0未満の場合は、レジスト解像度が悪化する。
【0011】
この現象については以下の通りであると推察している。すなわち、粒子等による突起を有するポリエステルフィルムは、点在する粒子により一定の間隔を開けて表面に突起を有するため、表面高さ分布のとがりRku(A)は一般に大きくなる傾向にある。また、粒子がない場合において、ポリエステルフィルムの表面自身が波状の変形を有する場合があり、このときの表面高さ分布のとがりRku(A)は一般に正規分布である3に近くなる。
粒子等による突起および波状の変形を有するポリエステルフィルムにおいて、表面の波状の変形に対して粒子による突起の大きさが同程度の場合には、粒子の突起が波状の変形に埋もれることで、表面高さ分布のとがりRku(A)が低く、正規分布に相当する3に近い値になると考えられる。
【0012】
本発明者らは上記の考察のもと鋭意検討したところ、表面粗さRa(A)が0.70nm以上5.00nm以下であり、かつ、表面Aの表面粗さRz(A)が80.0nm以下としつつ、かつ、表面Aの表面高さ分布のとがりRku(A)(クルトシス)が5以上としたポリエステルフィルムとすることによって、フィルム表面の波状の変形のよる影響を抑制することが可能となり、かかるフィルムを、ドライフィルムレジストの基材フィルムとして用いるとレジスト解像度が良好となることが判った。特に、本発明のポリエステルフィルムの前記表面A側にレジストが設けられた後、レジストをポリエステルフィルムから剥離し、その後、レジストを露光する用途に用いる場合において、レジストからポリエステルフィルムを剥離する際にレジストに与えるゆがみを抑制することが可能となり、現像後のレジストのパターニングにゆがみや、抜け、レジストパターン壁面の状態の悪化を抑制することが可能となる。
【0013】
また、もし表面粗さRa(A)が0.70nm以上5.00nm以下であり、かつ、表面Aの表面粗さRz(A)が80.0nm以下であっても、Rku(A)が10000を超える場合は、表面の突起以外の部分が極めて平坦であることとなり、すべり性が悪化する場合がある。
【0014】
また、もし表面Aの表面粗さRa(A)が5.00nmを超える、または、表面Aの表面粗さRz(A)が80nmを超える場合、フィルムよりレジスト面に転写される凹凸と凹凸による露光工程での光の入射角が不均一になることによる光の反射や散乱の影響により、レジストパターンの抜け、レジスト端面の変形、レジスト表面の変形が生じることがあり好ましくない。
【0015】
また、表面Aの表面粗さRa(A)が0.70nm未満の場合、レジストを塗布する前の工程において搬送ロール等との接触によりキズが生じやすくなる場合がある。
【0016】
一方で前記表面の反対側の表面(以降、該面を表面Bとし、該表面を有する層、すなわちA層とは反対側の最外層をB層という)においては、表面粗さRa(B)が1.0nm以上20.0nm以下であることがハンドリング性を付与する点で好ましい。より好ましくは、1.0nm以上8.0nm以下である。本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムは、レジスト支持体用に用いるときには、表面A側にレジスト層を積層して用いることが好ましい。なお、表面Aに直接レジスト層を積層してもよく、表面Aにその他の層を介してレジスト層を設けてもよい。
【0017】
本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムの表面A側にレジスト層を積層し、その上にカバーフィルムを貼合し巻き取った際には、表面B側はカバーフィルムと接する面となる。表面Bの表面粗さRa(B)が1.0nm未満となると、レジスト塗布工程にてハンドリング性が悪化し、塗布が不安定となり、塗布斑が発生することや、塗布後の巻き取り時に、噛み込んだ空気が抜けにくくなることによる、巻きズレを起こすことがある。また、表面Bの表面粗さRa(B)が20.0nmより大きい場合、ドライフィルムレジスト支持体用二軸配向ポリエステルフィルムを巻き取った際に表面Bの突起が表面Aに接触することで変形を生じてしまい、表面Aにレジストを形成した際にレジストの変形を生じる場合がある。
【0018】
本発明の表面A、表面Bの区別をサンプルより特定する際には、表面粗さRzがより小さい方の面を表面A、より大きい方の面を表面Bとする。
【0019】
A層、B層の表面粗さを上述の範囲とするには、A面を有する層(A層)およびB面を有する層(B層)を構成するポリエステル樹脂に、後述する特定の有機粒子あるいは無機粒子を特定量含有させることによって達成出来る。
【0020】
また、本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムは、二軸配向していることが必要である。本発明における、二軸配向とは、未延伸(未配向)フィルムを、常法により、二次元方向に延伸された状態(広角X線回折で二軸配向のパターンを示すもの)を指す。延伸は、逐次二軸延伸、同時二軸延伸を採ることができる。逐次二軸延伸は、長手方向(縦)および幅方向(横)に延伸する工程を、縦-横の1回ずつ実施することもできるし、縦-横-縦-横など、2回ずつ実施することもできる。
【0021】
本発明において、ポリエステル樹脂を主成分とするとは、少なくとも70モル%以上が、ジカルボン酸とジオール、およびそれらのエステル形成性誘導体を主たる構成成分とする単量体または低重合体からの重合により得られるポリエステルである。本発明では、ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸を用いることが好ましい。
【0022】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、などであり、とくにはテレフタル酸が好ましい。これらの酸成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよく、イソフタル酸など他の芳香族ジカルボン酸、あるいは脂肪酸を一部共重合してもよい。
【0023】
また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、などを挙げることができる。中でもエチレングリコールが好ましく用いられる。これらのジオール成分は1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0024】
本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムに用いられるポリエステルとして、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびその共重合体、ポリブチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリブチレンナフタレートおよびその共重合体、さらにはポリヘキサメチレンテレフタレートおよびその共重合体、ポリヘキサメチレンナフタレートおよびその共重合体等を挙げることができ、とくに、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0025】
本発明に使用するポリエステルは、従来から知られている方法で製造することができる。例えば、酸成分をジオール成分と直接エステル化反応させた後、この反応の生成物を減圧下で加熱して余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合させることによって製造する方法や、酸成分としてジアルキルエステルを用い、これとジオール成分とでエステル交換反応させた後、上記と同様に重縮合させることによって製造する方法などが採用できる。この際、必要に応じて、反応触媒として従来公知のアルカリ金属、アルカリ土類金属、マンガン、コバルト、亜鉛、アンチモン、ゲルマニウム、チタン化合物などを用いることもできる。
【0026】
上記ポリエステルの固有粘度は下限0.5dl/g、上限 0.8dl/gが好ましい。さらに好ましくは下限0.55dl/g、上限0.70dl/gである。
【0027】
本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムの全厚みが10~100μmであることが好ましく、10~40μmであることがより好ましい。フィルムの全厚みが薄すぎると強度が低下するため加工工程での取り扱い性が悪化する傾向にある。一方、フィルムの全厚みが厚すぎるとレジストからの剥離性が低下し、特にレジストをポリエステルフィルムから剥離した後に、レジストを露光する場合、レジストにゆがみを発生させ、レジストの解像度を低下させる場合がある。全厚みを前述の範囲とすることで、加工工程での取り扱い性を良好にできるほどの強度を維持しつつ、レジストからの剥離性を良好にすることが可能となる。
【0028】
本発明におけるポリエステルフィルムにおいては、寸法変化率が、下記の範囲内であるとDFR加工工程での熱収縮による歪みやシワの発生を抑制できるため好ましい。寸法変化率は、製膜条件における弛緩・熱処理等の条件を公知の方法により適宜調整することにより達成出来る。150℃における寸法変化率は長手方向で3.0%以下、幅方向で2.5%以下が好ましく、長手方向で0.5%以上2.0%以下、幅方向で1.0%以上2.0%以下がさらに好ましい。また、100℃における寸法変化率は長手方向、幅方向ともに1.0%以下が好ましく、0.2%以上0.8%以下の範囲であるとさらに好ましい。該寸法変化率において上記範囲の下限を下回ると、レジスト層を塗布する際にタルミによる平面性不良が発生し、上限を上回ると、レジスト層を塗布する際に収縮によりトタン状に収縮斑が発生し平面性不良となり、いずれの場合もレジスト層の塗布厚みに斑を生じさせることがある。
【0029】
また、長手方向のフィルムが5%伸張したときの強度(以降この値のことをF-5値と称する)が70MPa以上150MPa未満であることが好ましい。長手方向のF-5値が70MPa未満では強度不足により傷の発生などにより加工特性が悪くなる場合がある。一方、長手方向のF-5値が150MPa以上では幅方向のF-5値との両立が困難となる場合がある。長手方向のF-5値は、好ましくは、80MPa以上140MPa未満、さらに好ましくは90MPa以上130MPa未満である。
【0030】
さらに、幅方向のF-5値が80MPa以上160MPa未満であることが好ましい。幅方向のF-5値が80MPa未満では強度不足による傷の発生などによる加工特性が悪くなる場合があり、160MPa以上では長手方向のF-5値との両立が難しくなる場合がある。好ましくは90MPa以上150MPa未満であり、さらに好ましくは100MPa以上140MPa未満である。
【0031】
また、長手方向の破断強度は200MPa以上360MPa未満であるのが好ましく、220MPa以上340MPa未満の場合がさらに好ましい。幅方向の破断強度については260MPa以上420MPa未満であるのが好ましく、とくに好ましくは280MPa以上400MPa未満である。
【0032】
上記、F-5値および破断強度は縦方向および横方向の延伸温度、延伸倍率を適宜調整することで達成できる。
【0033】
さらに、本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムは、レジストからポリエステルフィルムを剥離してからレジストを露光する場合においては、フィルムヘイズは0.5%以上50.0%未満であることが好ましい。より好ましくは1.0%以上50.0%未満である。従来の、ポリエステルフィルムを剥離する前にレジストを露光する方法においてはヘイズは低い方が好ましかったが、ポリエステルフィルムを剥離してからレジストを露光する場合においては高ヘイズの方がポリエステルフィルムの視認性がよく、レジストにポリエステルフィルムがついているかどうかの区別がつきやすいため、取り間違いを防ぐことができる。ヘイズを高くする方法としては、原料中に粒子を添加する方法や、回収原料を利用する方法などがある。ここで、回収原料とは、ポリエステルフィルムの製造時に、製品から切り離されて生じる小片である。製造コストや環境負荷低減の観点から、回収原料を添加する方法が好ましい。
【0034】
本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムの表面を構成するポリエステル層(A層、B層)に含有する粒子としては、有機、無機の粒子を用いることができるが、有機系としては、例えば、ポリイミド系樹脂、オレフィンあるいは変性オレフィン系樹脂、架橋ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂などを、無機系としては、例えば、酸化珪素、炭酸カルシウム、凝集アルミナ、珪酸アルミニウム、マイカ、クレー、タルク、硫酸バリウムなどを挙げることができる。これらの粒子の採用にあたっては、たとえば、乳化重合で調整された、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体からなる架橋ポリスチレン粒子など粒子形状が真球に近く、粒子径分布が均一であり、均一な突起形成を図ることが可能で好ましい。
【0035】
ポリエステル層であるA層、B層ともに、前記した粒子とともに、凝集アルミナを併用することも望ましい形態のひとつである。ここで、凝集アルミナは、平均一次粒子径が5nm以上30nm未満の粒子が数個から数百個凝集したものを表す。凝集アルミナの平均一次粒子径は、8nm以上15nm未満の平均一次粒子径であることがより好ましい。当該凝集アルミナは、無水塩化アルミニウムを原料として火焔加水分解法、あるいはアルコキシドアルミナの加水分解などによって製造されたものが採用できる。凝集アルミナは、結晶型としてδ型、θ型、γ型などが知られているが、とくにδ型アルミナが好適に使用できる。これらの凝集アルミナについて、ポリエステル重合時に添加することで使用に供せるが、例えば、ポリエステル重合時の原料の一部であるエチレングリコールのスラリーとして、サンドグラインダーなどの粉砕、分散を行い、精密濾過を行うことによって、平均二次粒子径が0.01μm以上0.2μm未満の凝集アルミナを得ることができる。このようにして得られた凝集アルミナをフィルム中に添加した場合、二軸延伸によって、面方向に配置されるため、実質的突起を形成せず、表面粗さへの影響が少なく、また、透過性が良いため、光線透過率およびヘイズ値の劣化を抑制できる。凝集アルミナを含有せしめることにより、フィルム表面の地肌補強効果が大きく得られ、耐摩耗性が向上し、延伸時のロールとの接触時に発生する凹み欠点を抑制するという効果が得られる。凝集アルミナは表層(A層、B層)を構成するポリエステル樹脂組成物に含有させることが好ましく、その含有量はポリエステル樹脂組成物全体に対して0.1重量%以上5重量%未満が好ましい。
【0036】
本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムは、表面Bを有するポリエステル層(B層)が、最大粒子径DAが0.3μm未満の粒子Aと、最大粒子径DBが0.3μm以上1.0μm未満の粒子Bを含む2種類以上の粒子を含むことが好ましい。表面Aにおいては、粒子の最大粒子径DAが0.3μm未満の粒子Aが含まれていることが好ましい。本発明でいう最大粒子径とは、後述する方法で求められる粒子の円相当径のデータの大きい方からの上位2%の中間値を表す。表面Aの上に、レジスト層が積層する場合、A層に含有する粒子によって露光工程で照射される光の反射や散乱の影響を受け、レジスト層の形成に影響を与える。A層に含まれる最大粒子径DAが0.3μm以上の場合、粒子による影響がレジストパターンを形成する際のノイズとなり、レジストパターンの欠けを誘発することがある。また、表面Bはレジスト層と反対面を構成することになるが、B層に含有する粒子によってポリエステルフィルム巻き取り時に表面Aに窪みを発生させる場合がある。B層に含まれる最大粒子径DBが1.0μm以上では、粒子による影響が表面Aの形状に影響し、表面Aに積層させたレジストを露光してパターンを形成する際のノイズとなり、レジストパターンの欠け、レジスト端面および表面の変形を誘発する場合がある。また、平均粒子径DBが0.3μm未満では、レジスト塗布工程にてハンドリング性が悪化し、塗布が不安定となり、塗布斑が発生することや、塗布後の巻き取り時に、噛み込んだ空気が抜けにくくなることによる、巻きズレを起こすことがある。さらに具体的には、B層において、粒子Aとして凝集アルミナを、粒子Bとして架橋ポリスチレン粒子とを併用して含有させることにより、後述する帯電防止剤添加により悪化したすべり性を著しく向上させることが可能となる。
【0037】
本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムは、前記A層とは反対側の最外層のB層には帯電防止剤を含有することが好ましい。B層に帯電防止剤を含有させることにより、レジスト用ポリエステルフィルムを製造する際の取り扱い性、ゴミや異物の付着防止や、該フィルムを用いたレジストフィルム自身の取り扱い性、ゴミや異物の付着防止を向上させることが可能となる。
【0038】
上記帯電防止剤は、帯電防止性を付与する目的で使用される化合物であり、スルホン酸塩基を有する不飽和単量体(例えば、ビニルスルホン酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウムなど)の1種以上の重合体からなる高分子型帯電防止剤や、アルキルスルホン酸塩(例えば、ペンタンスルホン酸ナトリウム、オクタンスルホン酸ナトリウムなど)、アリールスルホン酸塩(例えば、ベンジルスルホン酸ナトリウム、トルイルスルホン酸ナトリウムなど)、アルキル基を有する芳香族スルホン酸塩(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなど)の低分子型帯電防止剤などが挙げられる。
【0039】
上記帯電防止剤は、押出機中でポリエステル層に練り込まれても、バインダー樹脂とともに塗布により積層させてもよいが、塗布方式で帯電防止剤を積層させた場合、塗布層の工程内でのロールなどでの削れによる帯電防止性能の消失や、裏面(レジスト面)への帯電防止剤成分裏移りによるレジストのパターニングでの不具合(ゆがみ、欠け、抜け)が発生することがあるため、押出機中でポリエステル層に練り込まれるほうが好ましい。さらに、塗布方式で帯電防止剤を積層させた場合、削れ物の堆積による工程汚染、搬送ロールの白化等を招く点でも好ましくない。
【0040】
B層に含有させる上記帯電防止剤の含有量は、B層のポリエステルに対し、0.5重量%以上2.0重量%未満であることが好ましく、より好ましくは、0.7重量%以上1.5重量%未満である。帯電防止剤の含有量が2.0重量%以上だと、本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムにおけるヘイズが高くなることや、ブロッキングなどによりすべり性が著しく悪化し、取り扱い性が低下することがある。一方、帯電防止剤の含有量が0.5重量%未満だと、帯電防止性が不十分となる。
【0041】
本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムでは、表面Bの表面比抵抗値が1.0×1013Ω/□以下であることが好ましい。さらには、表面Bの表面比抵抗値が1.0×1012Ω/□以下であることがより好ましく、1.0×1011Ω/□以下であることがさらにより好ましい。表面Bの表面比抵抗値が1.0×1013Ω/□を超える場合は、フィルム表面の帯電が多くなり、レジスト用ポリエステルフィルムを製造する際の取り扱い性悪化、ゴミや異物の付着が増大することや、該フィルムを用いたレジストフィルム自身の取り扱い性悪化、ゴミや異物の付着が増大することがある。
【0042】
表面Aと表面Bの表面比抵抗値を上述の範囲とするには、押出機中でポリエステル層のB層のみに帯電防止剤を練り込ませることによって達成出来る。
【0043】
本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムは、2層以上の積層構造を有するポリエステルフィルムであることが必要である。2層の積層構造を有するフィルムとしては、A層/B層からなるものが挙げられる。また、3層の積層構造を有するフィルムとしては、A層/C(中間層)/B層からなるものが挙げられる。4層以上の積層構造を有するフィルムとしては、中間層が積層構造を有するものが挙げられる。表層部であるA層およびB層に含有する粒子種、平均粒子径、含有量は、異なっても良い。表層を構成するポリエステル層には、粒子を塗布工程にて添加してもよいが、粒子の分散性の観点から、粒子を含有するポリエステル樹脂組成物を用いて、共押出し法により溶融製膜して得ることが好ましい。
【0044】
上記構成において、レジストからポリエステルフィルムを剥離してからレジストを露光する場合において、フィルムの表面を構成する層(A層、B層)の積層厚さは0.1μm以上が好ましく、更に好ましくは0.4μm以上である。0.1μm未満の場合にはポリエステル層に添加した粒子の脱落が大きくなり、脱落粒子によるレジストの欠けや変形が発生する場合がある。
【0045】
また、ポリエステルフィルムを介してレジストを露光する場合においては、フィルムの表面を構成する層(A層、B層)の積層厚さは0.1μm以上2μm未満が好ましく、更に好ましくは0.4μm以上1.8μm未満である。0.1μm未満の場合にはポリエステル層に添加した粒子の脱落が大きくなり、2μm以上になると前述したヘイズを達成するためには添加している粒子の平均径および添加量を更に減少することが必要になり、加工特性との両立が難しくなる場合がある。
また、C層をもうける場合は、C層の厚みは、フィルム全厚みからA層およびB層の厚みを引いたものとなる。
【0046】
次に本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法について説明する。共押出し法による溶融製膜におけるポリエステルに不活性粒子を含有せしめる方法としては、例えばジオール成分であるエチレングリコールに不活性粒子を所定割合にてスラリーの形で分散せしめ、例えば3μm以上の粗大粒子を95%以上捕集できる高精度濾過を行った後、このエチレングリコールスラリーをポリエステル重合完結前の任意段階で添加する。ここで、粒子を添加する際には、例えば、粒子を合成時に得られる水ゾルやアルコールゾルを一旦乾燥させることなく添加すると粒子の分散性が良好であり、粗大突起の発生を抑制でき好ましい。また粒子の水スラリーを直接、所定のポリエステルペレットと混合し、ベント方式の2軸混練押出機に供給しポリエステルに練り込む方法も本発明の効果に有効である。
【0047】
このようにして、各層のために準備した、粒子含有マスターペレットと粒子などを実質的に含有しないペレットを所定の割合で混合し、乾燥したのち、公知の溶融積層用押出機に供給する。本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムの製造における押出機は、1軸、2軸の押出機を用いることができる。また、ペレットの乾燥工程を省くために、押出機に真空引きラインを設けた、ベント式押出機を用いることもできる。また、中間層を設ける場合には、最も押出量が多くなるため、ペレットを溶融する機能と、溶融したペレットを一定温度に保つ機能をそれぞれの押出機で分担する、いわゆるタンデム押出機を用いることができる。本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムにおける表面を構成する層の押し出しには、二軸式ベント式押出機を用いることが、粒子の分散性を良好に保てるので好ましい。
【0048】
押出機で溶融して押出したポリマーは、フィルターにより濾過する。ごく小さな異物もフィルム中に入ると粗大突起欠陥となるため、フィルターには例えば5μm以上の異物を95%以上捕集する高精度のものを用いることが有効である。続いてスリット状のスリットダイからシート状に押し出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。すなわち、複数の押出機、複数層のマニホールドまたは合流ブロック(例えば矩形合流部を有する合流ブロック)を用いて積層し、口金からシートを押し出し、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを作る。この場合、背圧の安定化および厚み変動の抑制の観点からポリマー流路にスタティックミキサー、ギヤポンプを設置する方法は有効である。
【0049】
延伸方法は同時二軸延伸であっても逐次二軸延伸であってもよい。逐次延伸の場合、最初の長手方向の延伸が重要であり延伸温度は好ましくは90℃以上130℃未満、更に好ましくは100℃以上125℃未満である。延伸温度が90℃未満になるとフィルムが破断しやすく、延伸温度が130℃以上になるとフィルム表面が熱ダメージを受けやすくなるため好ましくない。また、延伸ムラ、およびキズを防止する観点からは延伸は2段階以上に分けて行うことが好ましく、トータル倍率は長さ方向に好ましくは3倍以上4.5倍未満、更に好ましくは3.5倍以上4.3倍未満であり、幅方向に好ましくは3.2倍以上5倍未満、更に好ましくは4.0倍以上4.6倍未満である。目標とするフィルムの破断強度を達成するため、適時倍率を選択できる。かかる温度、倍率範囲をはずれると延伸ムラあるいはフィルム破断などの問題を引き起こし、本発明の特徴とするフィルムが得られにくいため好ましくない。再縦または横延伸した後、好ましくは200℃以上230℃未満、更に好ましくは210℃以上230℃未満で好ましくは0.5秒以上20秒未満、更に好ましくは1秒以上15秒未満の熱固定を行う。とくに熱固定温度が200℃未満になるとフィルムの結晶化が進まないために構造が安定せず、目標とする熱収縮率などの特性が得られず好ましくない。その後、長手及び/又は幅方向に0.1%以上7.0%未満の弛緩処理を施すことが好ましい。
【0050】
さらに延伸ロールの温度は好ましくは100℃以上130℃未満、さらに好ましくは100℃以上125℃未満である。延伸ロール温度が130℃以上だと、フィルムがロールに粘着し、ロールの形状がフィルムに転写し、延伸されることによりフィルムに波状変形が生じ、その結果Rkuが低くなる傾向がある。一方、延伸ロールの温度が85℃未満だと、フィルムが十分に延伸できず、フィルムの破れが生じてしまうため好ましくない。
延伸ロールの表面粗さRaは好ましくは0.005μm以上1.0μm未満、更に好ましくは0.1μm以上0.6μm未満である。Raが1.0μm以上だと延伸時ロール表面の凸凹がフィルム表面に転写しRaおよびRzが大きくなる傾向がある。一方0.005μm未満だとロールとフィルム地肌が粘着し、フィルムが熱ダメージを受けやすくなるため好ましくない。延伸ロールの表面粗さを制御するためには、延伸ロールを研磨する研磨剤の粒度や、延伸ロールを研磨する回数などを適宜調整することが有効である。とくに延伸ロールについては、フィルム表面の凹み欠点の原因と懸念されるポリエステルの分解物、オリゴマーの付着、蓄積を回避するため、延伸ロールの研磨の回数を高くすることが好ましい。
【0051】
また、延伸時のニップ圧については、0.2kg/cm2以上5.0kg/cm2未満であることが好ましい。ニップ圧が5.0kg/cm2以上だと、ロールの表面にフィルムが粘着することを促進し、ロールの形状がフィルムに転写し、延伸されることによりフィルムに波状変形が生じ、その結果Rkuが低くなる傾向がある。一方、ニップ圧が0.2kg/cm2未満だと、フィルムがニップからすり抜けることによる延伸にムラが生じ、均一なフィルムを作成できないばかりか、フィルム幅の変動等により製膜性が安定しないことがある。
【0052】
さらに、延伸部におけるロールとフィルムのトータルの接触時間は好ましくは0.1秒未満、更に好ましくは0.08秒未満にすることがフィルムを製造する上で特に有効である。延伸ロールとフィルムの接触時間が0.1秒以上だと、延伸ロールの熱によりフィルム表面のみが局所的に加熱され、引いては熱負荷時の微小平面性悪化を引き起こすこともあり、あるいは、フィルムに傷を発生する場合がある。接触時間を短くする方法としては、例えばフィルムを延伸ロールに巻き付けず、ニップロール間で平行に延伸する方法が有効である。
【0053】
二軸延伸後のフィルムは、搬送工程にて冷却させた後、エッジを切断後巻取り、中間製品を得る。この搬送工程にて、フィルムの厚みを測定し、該データをフィードバックして用いてダイ厚みなどの調整によってフィルム厚みの調整を行い、また、欠点検出器による異物検知を行う。
【0054】
エッジの切断時には、切粉の発生を抑制することが、本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムにおいて好ましい。エッジの切断は丸刃、シェアー刃、ストレート刃を使用して行うが、ストレート刃を用いる場合は、刃がフィルムに当たる箇所を、常に同じ箇所にさせないことが、刃の摩耗を抑制できるため好ましい形態である。このため刃を上限までオシレーションする機構を有することが好ましい。また、フィルム切断箇所に吸引装置を設けて、発生した切り粉や、切断後のフィルム端部同士が削れて発生する削れ粉を吸引することが好ましい。
【0055】
中間製品はスリット工程により適切な幅・長さにスリットして巻き取り、本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムのロールが得られる。スリット工程におけるフィルムの切断時も、先述のエッジの切断と同様な切断の方式から選定できる。
【0056】
中間製品を所望の幅にスリットを行い、本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムを得る。
【0057】
本発明のドライフィルムレジスト用二軸配向ポリエステルフィルムの表面A側にレジストを設ける工程と、前記レジストをポリエステルフィルムから剥離する工程と、前記ポリエステルフィルムから剥離したレジストを露光する工程を有する製造方法で導体回路を製造した場合、従来の製造方法における課題であったポリエステルフィルム中の異物による解像度の低下、ポリエステルフィルム中に含まれる小径の粒子の散乱の影響を抑制しながら、レジストからポリエステルフィルムを剥離する際にレジストに与えるゆがみなどを抑制することができる。
【実施例】
【0058】
以下実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定して解釈されるものではない。
【0059】
(測定方法)
(1)粒子の最大粒子径
フィルム表面を構成する層については次のように測定する。フィルムからポリマーをプラズマ低温灰化処理法で除去し、粒子を露出させる。処理条件は、ポリマーは灰化されるが粒子は極力ダメージを受けない条件を選択する。処理後の試料を走査型電子顕微鏡(SEM;株式会社日立製作所製 S-4000型)で観察し、粒子画像をイメージアナライザ(株式会社ニレコ製 LUZEX_AP)に取り込み、等価円相当径を測定し、粒子の体積平均粒子径を求める。SEMの倍率は粒子径により、5000~20000倍から適宜選択する。任意に観察箇所をかえて、少なくとも粒子数5000個の粒子の等価円相当径を測定し、測定した等価円相当径データの大きい方から上位2%の等価円相当径の中間値から最大粒子径を求める。
【0060】
フィルム表面を構成しない層については、フィルム断面を透過型電子顕微鏡(TEM;株式会社日立製作所製H-600型)を用いて、粒子径により、3000~20000倍で観察する。TEMの切片厚さは約100nmとし、場所を変えて1000個の粒子の等価円相当径を測定し、測定した等価円相当径データの大きい方から上位2%の粒子の等価円相当径の中間値から最大粒子径を求める。
【0061】
なお、粒子の体積平均粒子径を測定する際に、SEMおよびTEMで観察した際に5000倍で10視野確認しても、粒子が認められなかった場合には、粒子を実質的に含有しないと判断する。
【0062】
(2)フィルム表面粗さ(Ra、Rz、Rku値)
非接触光学式粗さ測定器(装置:Zygo社製New View 7300)を用い、50倍対物レンズを使用して測定面積139μm×104μmで、場所をランダムに変えて80視野測定を行った。サンプルセットは、測定Y軸がサンプルフィルムのMD方向となるようにサンプルをステージにセットして測定する。該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトMetroProにより波長1.65~50μmの帯域通過フィルタを用いて平均粗さ(Ra)、最大高さ(Rz)、表面高さ分布のとがり(Rku)を各視野ごとに求めた。Ra、Rzについては、それぞれ40点の測定値の平均値をそれぞれ表面粗さRa、表面粗さRzとした。Rkuについては、40点の測定値のうち、上位5点および下位5点を除く30点の測定値の平均値を表面高さ分布のとがりRkuとした。
【0063】
(3)表面比抵抗
温度23℃、相対湿度65%で24時間放置して調湿した後、同条件下で表面抵抗計(Trek製152P-CR-1-CE)を用い、印可電圧100Vで測定を行い、測定開始後1分時点の値を測定値とした。単位はΩ/□であり、この値が小さいものほど、帯電防止性能が良好である。
【0064】
(4)フィルム厚み
マイクロメーターにてランダムに10点測定し、その平均値を用いた。1点の測定に当たっては、10枚を採取した試験片をすべて重ねた状態で測定した。最終的に平均値を試験片の重ね合わせ枚数(10枚)で除した値をフィルム全体の厚みとした。
【0065】
(5)レジスト解像度の目視検査
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおけるレジストの解像度の目視評価方法は、以下のような手順で行った。
(i)二軸配向ポリエステルフィルムを支持体として、A層側にネガ型感光性樹脂からなるレジスト層をコーティングにより形成した。次いで、窒素循環の通風オーブンを用いて70℃の温度条件で、約20分間の前熱処理を行い、積層体を作成した。
(ii)片面鏡面研磨した6インチSiウエハー上に(i)で作成した積層体をレジスト層と接触するように重ね、ゴム製のローラーを用いて、Siウエハー上に積層体をラミネートした。
(iii)ポリエステルフィルムを積層体より剥離した。
(iv)その上に、クロム金属でパターニングされたフォトマスクを配置し、そのフォトマスク上からI線ステッパーを用いて露光を行った。
(v)現像液N-A5が入った容器に露光後のレジスト層を入れ約1分間の現像を行った。その後、現像液から取り出し、水で約1分間の洗浄を行った。
(vi)現像後に作成されたレジストパターンのL/S(μm)(Line and Space )の状態を走査型電子顕微鏡SEMを用いて1000倍率で観察した。レジストの解像度の評価は、以下の基準に従った。なお、○以上の評価が実用可能レベルとなる。
○:L/S=2/2μmが明確に確認できる。
△:L/S=2/2μmは明確に確認できないが、L/S=5/5μmは明確に確認できる。
×:L/S=5/5μmが明確に確認できない。(生産適用不可)。
なお、本発明における実施例および比較例において、露光を行うタイミングを剥離前とした例においては、前記(iii)と(iv)の手順を逆に行った。
【0066】
(6)レジストフィルムの取り扱い性(すべり性評価)
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを支持体として、A層側にネガ型感光性樹脂からなるレジスト層をコーティングにより形成し、レジストフィルムを作製した。レジストフィルム製造時の取り扱い性としてすべり性の評価は、以下の基準に従った。なお、○以上の評価が実用可能レベルとなる。
○:適正なすべり性を有し、取り扱い性が良好。
△:すべり性が悪く、取り扱い性に劣る。
×:適正なすべり性がないため、取り扱い不可(生産適用不可)。
【0067】
(7) レジストフィルムの取り扱い性(帯電性評価)
上記評価(6)で作製したレジストフィルムの製造時の取り扱い性として帯電性の評価は、以下の基準に従った。なお、○以上の評価が実用可能レベルとなる。
○:帯電が生じず、取り扱い性が良好。
△:帯電が生じ、取り扱い性に劣る。
×:帯電が生じ、取り扱い不可(生産適用不可)。
【0068】
(原料)
(ポリエステルAの作成)
テレフタル酸86.5重量部とエチレングリコール37.1重量部を255℃で、水を留出しながらエステル化反応を行う。エステル化反応終了後、トリメチルリン酸0.02重量部、酢酸マグネシウム0.06重量部、酢酸リチウム0.01重量部、三酸化アンチモン0.0085重量部を添加し、引き続いて、真空下、290℃まで加熱、昇温して重縮合反応を行い、固有粘度0.63dl/gのポリエステルペレットを得た。(ポリエステルA)。
【0069】
(ポリエステルB、CおよびポリエステルDの作成)
さらに別に、モノマーを吸着させる方法によって得た体積平均粒子径0.3μm、体積形状係数f=0.51のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子の水スラリーを、上記の実質的に粒子を含有しないホモポリエステルペレットに、ベント式二軸混練機を用いて含有させ、体積平均粒子径0.3μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子をポリエステルに対し2重量%含有するマスターペレットを得る(ポリエステルB)。
【0070】
体積平均粒子径0.45μm、0.8μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子含有マスターペレットは、ポリエステルに対しそれぞれ1重量%含有するマスターペレットを同様にして得た(それぞれポリエステルC、ポリエステルD)。
【0071】
(ポリエステルEの作成)
上記と同様にポリエステルを製造するにあたり、エステル交換後、体積平均粒子径0.06μm、体積形状係数f=0.51、モース硬度7の球状シリカをそれぞれ添加し、重縮合反応を行い、粒子をポリエステルに対し1重量%含有するシリカ含有マスターペレットを得た(ポリエステルE)。なお、用いる球状シリカは、エタノールとエチルシリケートとの混合溶液を攪拌しながら、この混合溶液に、エタノール、純水、および塩基性触媒としてアンモニア水からなる混合溶液を添加し、得られた反応液を攪拌して、エチルシリケートの加水分解反応およびこの加水分解生成物の重縮合反応を行なった後に、反応後の攪拌を行い、単分散シリカ粒子を得た。
【0072】
(ポリエステルFの作成)
さらに、平均粒子径1.0μmの炭酸カルシウムを準備し、10%のエチレングリコールスラリーとした。このスラリーをジェットアジターで一時間分散処理を行い、5μm以上の捕集効率95%のフィルターで高精度濾過した。
ジメチルテレフタレートに1.9モルのエチレングリコールおよび酢酸マグネシウム・4水塩を0.05%、リン酸を0.015%加え加熱エステル交換を行い、前述した炭酸カルシウムを含むスラリーをエステル交換後に添加し、引き続き三酸化アンチモン0.025%を加え、加熱昇温し真空化で重縮合反応を行い、平均粒子径1.0μmの炭酸カルシウムを1重量%含む、固有粘度0.63dl/gの炭酸カルシウム含有マスターペレットを得た。(ポリエステルF)。
【0073】
(ポリエステルGの作成)
さらに、凝集アルミナとしてδ型-アルミナを10%のエチレングリコールスラリーとし、サンドグラインダーを用い、粉砕、分散処理を行い、さらに捕集効率95%の3μmフィルターを用いて濾過し、これを前記と同様に調整したエステル交換反応物に添加し、引き続き三酸化アンチモンを加え、重縮合反応を行い、凝集アルミナを2重量%含有する、固有粘度0.62dl/gのマスターペレットを得た。(ポリエステルG)。
【0074】
(ポリエステルHの作成)
さらに、上記と同様にポリエステルを製造するにあたり、帯電防止剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を6重量%含有するシリカ含有マスターペレットを得た(ポリエステルH)。
【0075】
(実施例1)
各層について表1に示した配合で調合した原料の混合物を、ブレンダー内で攪拌した後、A層、B層の原料は攪拌後の原料を、それぞれ別のベント付き二軸押出機に供給し、C層の原料は160℃で8時間減圧乾燥し、一軸押出機に供給した。275℃で溶融押出し、5μm以上の異物を95% 以上捕集する高精度なフィルターにて濾過した後、矩形の3層用合流ブロックで合流積層し、A層、C層、B層の順からなる3層積層とした。その後、285℃に保ったスリットダイを介し冷却ロール上に静電印可キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングドラムに巻き付け冷却固化して未延伸積層フィルムを得た。
【0076】
この未延伸フィルムを表面粗さRaが0.2μm、温度114℃、ニップ圧2kg/cm2の条件で長手方向4.2倍に延伸した。さらに、引き続いてステンタにて115℃の熱風下で幅方向に4.5倍延伸後、定張下、215℃で4秒間熱処理し、その後長手方向に0.1%、幅方向に3.2%の弛緩処理を施し、厚さ16μmの二軸配向ポリエステルフィルムの中間製品を得た。この中間製品をスリッターにてスリットし、厚さ16μmの二軸配向ポリエステルフィルムのロールを得た。得られたフィルムの評価結果を表に示した。このように本発明の二軸配向ポリエステルフィルムはすべり性、帯電防止性、レジスト解像度に優れるものであった。なお、表中の表面比抵抗値の表記として、たとえば「10^9.8」等と記載しているものは、10の9.8乗を意味する。
【0077】
(実施例2)
表に記載のように各条件を変更し、各層について表1に示した配合で調合した原料の混合物を、ブレンダー内で攪拌した後、A層の原料は160℃で8時間減圧乾燥し、一軸押出機に供給した。B層の原料は攪拌後の原料を、ベント付き二軸押出機に供給した。これ以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表に示した。このように本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは実施例1同様に、すべり性、帯電防止性、レジスト解像度に優れるものであった。
【0078】
(実施例3~14)
表に記載のように各条件を変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表に示した。このように本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは実施例1同様に、すべり性、帯電防止性、レジスト解像度に優れるものであった。
【0079】
(比較例1~7)
表に記載のように各条件を変更する以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。例外として、表において表面粗さ、とがり、表面比抵抗、レジスト解像度、取り扱い性の各項目が「-」と記載されている場合の比較例については、その条件において製膜が困難であり、サンプル採取ができなかった。得られたフィルムの評価結果を表に示した。しかし、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、実施例1に比べそれぞれ、すべり性、帯電防止性、レジスト解像度に劣り、全てを満足するフィルムは得られなかった。
【0080】
【0081】