IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横河電機株式会社の特許一覧

特許7463951処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システム、および処理方法
<>
  • 特許-処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システム、および処理方法 図1
  • 特許-処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システム、および処理方法 図2
  • 特許-処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システム、および処理方法 図3
  • 特許-処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システム、および処理方法 図4
  • 特許-処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システム、および処理方法 図5
  • 特許-処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システム、および処理方法 図6
  • 特許-処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システム、および処理方法 図7
  • 特許-処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システム、および処理方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システム、および処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240402BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240402BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20240402BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/68
C12Q1/6813 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020192547
(22)【出願日】2020-11-19
(65)【公開番号】P2022081169
(43)【公開日】2022-05-31
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】桑田 正弘
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-117590(JP,A)
【文献】米国特許第05489532(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00 - 1/42
C12Q 1/00 - 1/70
G01N 1/00 - 1/44
G01N 35/00 - 35/10
G01N 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を含むサンプルを収容した容器を、重力方向における第1の範囲で加熱する加熱ブロックと、
前記加熱ブロックによって加熱された前記容器を、重力方向における前記第1の範囲より狭い第2の範囲で冷却する冷却ブロックと、
を備え、
前記第2の範囲は、前記容器の前記サンプルの液面よりやや上側の一部と前記容器の前記サンプルの液面より下側を含む範囲、または前記第2の範囲は、前記容器の前記サンプルの液面より下側のみの範囲である、
処理装置。
【請求項2】
前記第2の範囲は、前記容器の下部を含む、請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記第2の範囲は、前記容器の前記サンプルの液面より下側のみである、請求項1または2に記載の処理装置。
【請求項4】
前記加熱ブロックには、前記容器を挿入して前記第1の範囲で加熱する第1の挿入孔が形成され、
前記冷却ブロックには、前記容器を挿入して前記第2の範囲で冷却する第2の挿入孔が形成され、
前記第2の挿入孔は、前記第1の挿入孔よりも浅い、請求項1~3のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項5】
前記冷却ブロックによって冷却された前記容器を、重力方向における前記第2の範囲より広い第3の範囲で冷却する第2の冷却ブロックを備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の処理装置。
【請求項6】
前記冷却ブロックによって冷却された前記容器を、重力方向における前記第2の範囲より広い第3の範囲で冷却する第2の冷却ブロックを備え、
前記第2の冷却ブロックには、前記容器を挿入して前記第3の範囲で冷却する第3の挿入孔が形成され、
前記第3の挿入孔は、前記第2の挿入孔よりも深い、請求項4に記載の処理装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の処理装置を備え、前記サンプルの細胞から核酸を抽出する、核酸抽出システム。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸抽出システムを備え、抽出した前記核酸を分析する、核酸分析システム。
【請求項9】
液体を含むサンプルを収容した容器を、重力方向における第1の範囲で加熱ブロックを用いて加熱する工程と、
前記加熱ブロックによって加熱された前記容器を、重力方向における前記第1の範囲より狭い第2の範囲で冷却ブロックを用いて冷却する工程と、
を含み、
前記第2の範囲は、前記容器の前記サンプルの液面よりやや上側の一部と前記容器の前記サンプルの液面より下側を含む範囲、または前記第2の範囲は、前記容器の前記サンプルの液面より下側のみの範囲である、
理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システム、および処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞から核酸を抽出するためには、細胞の膜構造を破壊(溶解)し、細胞の内容物を細胞外に放出させる必要がある。下記特許文献1には、液体を含むサンプルを収容した容器を100℃以上の高温で処理することにより、細胞から核酸を抽出する方法が開示されている。下記特許文献2には、液体を含むサンプルを収容した容器に対し、1つの試料ブロックで加熱と冷却を行う、ポリメラーゼ連鎖反応の自動実施装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5624487号公報
【文献】特開2011-19537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加熱処理が終わった後に、使用者が容器を扱えるようにするためには、常温付近の温度へ降温させる必要がある。しかしながら、特許文献1及び2には、その際の容器内の蒸気の凝縮への対応については言及がない。蒸気の凝縮によって容器壁面に付着した液滴は、ピペットなどによる回収が困難となり、サンプル量が減少する要因となる。さらに、液滴が容器の蓋などに付着してしまうと、蓋を開ける際に飛び散る可能性があり、他の容器のサンプルに混入し、コンタミネーションを発生させる虞がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、蒸気の凝縮による容器壁面への液滴の付着を抑制できる処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システム、および処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様に係る処理装置は、液体を含むサンプルを収容した容器を、重力方向における第1の範囲で加熱する加熱ブロックと、前記加熱ブロックによって加熱された前記容器を、重力方向における前記第1の範囲より狭い第2の範囲で冷却する冷却ブロックと、を備える。
【0007】
(2)上記(1)に記載された処理装置であって、前記第2の範囲は、前記容器の下部を含んでもよい。
【0008】
(3)上記(1)または(2)に記載された処理装置であって、前記第2の範囲は、前記容器の前記サンプルの液面より上側の一部を含んでもよい。
【0009】
(4)上記(1)または(2)に記載された処理装置であって、前記第2の範囲は、前記容器の前記サンプルの液面より下側のみであってもよい。
【0010】
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載された処理装置であって、前記加熱ブロックには、前記容器を挿入して前記第1の範囲で加熱する第1の挿入孔が形成され、前記冷却ブロックには、前記容器を挿入して前記第2の範囲で冷却する第2の挿入孔が形成され、前記第2の挿入孔は、前記第1の挿入孔よりも浅くてもよい。
【0011】
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載された処理装置であって、前記冷却ブロックによって冷却された前記容器を、重力方向における前記第2の範囲より広い第3の範囲で冷却する第2の冷却ブロックを備えてもよい。
【0012】
(7)上記(5)に記載された処理装置であって、前記冷却ブロックによって冷却された前記容器を、重力方向における前記第2の範囲より広い第3の範囲で冷却する第2の冷却ブロックを備え、前記第2の冷却ブロックには、前記容器を挿入して前記第3の範囲で冷却する第3の挿入孔が形成され、前記第3の挿入孔は、前記第2の挿入孔よりも深くてもよい。
【0013】
(8)本発明の一態様に係る核酸抽出システムは、上記(1)~(7)のいずれかに記載された処理装置を備え、前記サンプルの細胞から核酸を抽出する。
【0014】
(9)本発明の一態様に係る核酸分析システムは、上記(8)に記載された核酸抽出システムを備え、抽出した前記核酸を分析する。
【発明の効果】
【0015】
上記本発明の一態様によれば、蒸気の凝縮による容器壁面への液滴の付着を抑制できる処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システム、および処理方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る核酸分析システムの概略図である。
図2】第1実施形態に係る核酸抽出システムの概略図である。
図3】第1実施形態に係る加熱ブロックの断面図である。
図4】第1実施形態に係る冷却ブロックの断面図である。
図5】第2実施形態に係る核酸抽出システムの概略図である。
図6】第2実施形態に係る第2の冷却ブロックの断面図である。
図7】第3実施形態に係る冷却ブロックの断面図である。
図8】第4実施形態に係る冷却ブロックの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システムについて詳細に説明する。以下では、まず本発明の実施形態の概要について説明し、続いて本発明の実施形態の詳細について説明する。
【0018】
〔概要〕
上述した特許文献2に記載されているポリメラーゼ連鎖反応の自動実施装置は、液体を含むサンプルを収容した容器を、試料ブロックに挿入し、試料ブロックを電熱ヒーターなどで加熱することで、サンプル中の核酸(DNA)の2本鎖を分け1本鎖とする。その後、同試料ブロックに冷媒を流し、サンプルを冷却することで、特異的な結合と、それに続く反応による伸長により核酸(DNA)を複製する。しかしながら、容器壁面も同時に冷却されるため、加熱時に生じた蒸気が凝縮し、液滴として容器内に付着する。
【0019】
また、上述した特許文献1に記載されている核酸抽出方法は、細菌や真菌を容器内で沸点を超える高温状態、およびその高温状態での飽和蒸気圧による高圧状態にて、細菌や真菌から核酸を抽出する。したがって、この場合の容器の冷却時の蒸気の凝縮は、沸点付近の温度により熱処理を行う上述した特許文献2のケースよりも顕著になる。
【0020】
容器壁面に付着した液滴は、例えば遠心機による遠心力などにより容器下部に回収しなければ、ピペットなどで他の容器に移すことが困難であり、サンプル量が減少する要因となる。さらに、液滴が容器の蓋などに付着してしまうと、蓋を開ける際に飛び散る可能性があり、他の容器のサンプルに混入し、コンタミネーションを発生させる虞がある。特に近年、核酸を用いた分析の大規模化、高度化に伴い、複数の容器を列方向、あるいは行方向、あるいはその両方に配列し、複数のサンプルに対して同時に処理を行う場合がある。したがって、液滴の飛散によるコンタミネーションは大きな問題となる。
【0021】
本発明の実施形態は、処理装置、核酸抽出システム、核酸分析システムにおいて、液体を含むサンプルを収容した容器を、加熱ブロックによって重力方向における第1の範囲で加熱し、その加熱ブロックによって加熱された容器を、冷却ブロックによって重力方向における第1の範囲より狭い第2の範囲で冷却する。これにより、容器を冷却する範囲が、容器を加熱する範囲よりも狭くなり、蒸気の凝縮による容器壁面への液滴の付着を抑制できる。
【0022】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る核酸分析システム1の概略図である。
図1に示すように、核酸分析システム1は、菌回収システム2と、核酸抽出システム3と、ハイブリダイズ反応システム4と、検出システム5と、を備えている。
【0023】
菌回収システム2は、サンプル100から、サンプル100に含まれている菌(細菌や真菌など)を回収するシステムである。サンプル100は、例えば、飲料を対象とした検査であれば、製造した飲料や、当該飲料を製造するための水、または、当該飲料を製造する過程の液体などである。あるいは、サンプル100は、製造環境の菌の汚染の有無、汚染度合いを検査するために、検査環境をふき取った綿棒などから菌を回収した液体である場合もある。
【0024】
菌は、例えば、回収した液体に加圧あるいは減圧を加えることで、フィルタで濾過して回収することができる。フィルタは、例えば、細菌や真菌を回収する場合には、孔径が0.22μm~0.45μmのフィルタであるとよい。フィルタで菌を回収した後は、フィルタを菌が培養される培養液に浸し、菌が培養された培養液を、次工程(核酸抽出システム3)のサンプル100としてもよい。あるいは菌を遠心分離などで集めた液体、あるいは遠心分離などで集めた凝集体を溶解した液体を、次工程のサンプル100としてもよい。あるいはフィルタを入れた液体を振動させ、菌が懸濁した液を次工程のサンプル100としてもよい。
【0025】
核酸抽出システム3は、サンプル100中の細胞の膜構造を破壊(溶解)し、細胞の核酸を抽出するシステムである。なお、核酸を抽出したサンプル100に、抽出した核酸と反応する他の核酸が含まれた液体を混ぜてもよい。また、当該他の核酸は、後述する検出工程(検出システム5)にて検出するために、特定の条件で蛍光や発光や消光作用を有する部位が付与された核酸であってもよい。これらは核酸抽出システム3にて処理をする前のサンプル100に混ぜても良いし、核酸抽出システム3にて処理をした後のサンプル100に対して混ぜても良い。
【0026】
ハイブリダイズ反応システム4は、サンプル100中の核酸にハイブリダイズ反応をさせるシステムである。なお、この工程にて、サンプル100は、例えば60℃に加熱されると共に撹拌されることにより、上述の他の核酸と合致するハイブリダイズ反応を行う。この反応にて、例えば、上述の他の核酸に付与した特定の条件で蛍光や発光や消光作用を有する部位が、サンプル100中の核酸と反応することで、蛍光や発光や消光作用が発現する。
【0027】
なお、上述の他の核酸の構造を、特定の核酸と反応するように設計することにより、例えば、サンプル100中の特定の細菌や真菌などが持つ核酸とのみ反応させることができる。つまり、ハイブリダイズ反応システム4の処理では、当該特定の核酸と反応する他の核酸を用いることにより、サンプル100の中に特定の細菌や真菌などが含まれている時のみ、他の核酸に付与した蛍光や発光や消光作用を発現するようにすることができる。
【0028】
検出システム5は、ハイブリダイズ反応システム4で処理したサンプル100において発現した蛍光や発光や消光作用の有無、その程度などを検出する。検出システム5は、例えば、サンプル100の核酸で発現した蛍光作用を、励起レーザー光にて励起し、励起後の蛍光を高感度カメラにて検出する。
【0029】
あるいは、検出システム5は、サンプル100の核酸で発現した発光作用を、高感度カメラにて検出する。あるいは、検出システム5は、サンプル100の核酸で発現した消光作用を、消光作用を付与した部位の近傍に付与した蛍光や発光が消光される程度を高感度カメラにて検出する。この検出方法に関しては、例えば、特開2020-74726号公報に記載されているような方法を採用してもよい。
【0030】
核酸分析システム1は、上述のような一連のシステムを用いることにより、サンプル100の中に特定の菌(細菌や真菌など)が含まれているか、またはその濃度を分析する。
【0031】
図2は、第1実施形態に係る核酸抽出システム3の概略図である。
図2に示すように、核酸抽出システム3には、熱処理装置10と、移動装置20と、を備える処理装置が設けられている。熱処理装置10は、加熱ブロック11と、冷却ブロック12と、を備えている。移動装置20は、第1アクチュエータ21と、第2アクチュエータ22と、容器装着部23と、を備えている。
【0032】
なお、以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明することがある。X軸方向は、加熱ブロック11及び冷却ブロック12が並ぶ第1の水平方向とする。Z軸方向は、重力方向とする。Y軸方向は、図2において図示しないが上記X軸方向及び上記Z軸方向と直交する第2の水平方向とする。
【0033】
加熱ブロック11は、上述のサンプル100を収容した容器30(図3参照)を加熱する。冷却ブロック12は、加熱ブロック11によって加熱された容器30を冷却する。容器装着部23は、容器30を移動装置20に装着する。第2アクチュエータ22は、容器装着部23をZ軸方向に移動させる。第1アクチュエータ21は、第2アクチュエータ22をX軸方向に移動させる。
【0034】
移動装置20は、容器装着部23に装着した容器30を、加熱ブロック11、冷却ブロック12の順に移動させる。なお、移動装置20は、容器30に対し、熱処理装置10(加熱ブロック11、冷却ブロック12)側を移動させる構成であっても構わない。また、第1アクチュエータ21が、直動ではなく水平旋回する場合、加熱ブロック11、冷却ブロック12は、第1アクチュエータ21の旋回軸に対し同一半径上に配置されていても構わない。
【0035】
図3は、第1実施形態に係る加熱ブロック11の断面図である。
図3に示すように、加熱ブロック11には、サンプル100を収容した容器30が挿入される第1の挿入孔110が形成されている。第1の挿入孔110は、加熱ブロック11の上面11aに複数形成されている。加熱ブロック11は、例えば、熱伝導率の高い銅、アルミニウム、ステンレスなどの金属材であるとよい。加熱ブロック11は、例えば、図示しない電熱ヒーターやペルチェ素子、図示しないブロック内流路を流れる熱媒体によって加熱される。
【0036】
容器30は、容器本体31と、蓋体32と、を備えている。容器本体31は、サンプル100を収容する複数の収容部310と、複数の収容部310を連結させる連結部311と、を備えている。収容部310は、有底筒状に形成され、半球状の底部310aと、一定の外径でZ軸方向に延びる胴部310bと、を備えている。なお、底部310aは、例えば、逆さ円錐状に形成されていても構わない。また、底部310aは、逆さ円錐状の先端が半球状などの曲面となっていても構わない。また、胴部310bは、一定の外径ではなく、Z軸方向下部に向かうに従って外径が僅かに小さなる傾斜形状を有してもよい。
【0037】
複数の収容部310は、X軸方向に一列に並んでいる。なお、複数の収容部310は、Y軸方向に一列に並んでいてもよく、X軸方向及びY軸方向の両方にマトリクス状に並んでいてもよい。第1の挿入孔110は、複数の収容部310がZ軸方向に挿入可能な数及び配列で加熱ブロック11の上面11aに形成されている。第1の挿入孔110の内壁面は、収容部310の上端部を除く挿入部分と接触または近接している。なお、第1の挿入孔110の開口縁部には、収容部310との接触により収容部310を傷付けないように、C面取りやR面取りなどの面取りを施してもよい。連結部311は、平板状に形成され、複数の収容部310の上端部の間を連結している。
【0038】
蓋体32は、複数の収容部310の上端開口部を覆う蓋部320と、複数の収容部310の上端開口部に挿入される複数の封止部321と、を備えている。蓋部320は、平面視で、連結部311と略同じ大きさの平板形状を有する。複数の封止部321は、蓋部320の下面から下方に突設された複数の凸部である。封止部321の下端部の周面には、封止材322が配置される環状溝が形成されている。
【0039】
封止材322は、環状に形成され、収容部310に挿入されて、収容部310の内壁面に当接することにより封止を行う。封止材322は、収容部310が第1の挿入孔110に挿入された状態で、第1の挿入孔110の中に位置する。これにより、加熱による核酸抽出を行う間、サンプル100の液体及び蒸気が存在できる領域を、第1の挿入孔110の中に収めることができる。したがって、容器30に封入されたサンプル100の温度を精密に制御することが可能となり、核酸抽出が容易になる。
【0040】
封止材322は、収容部310あるいは蓋部320の少なくともいずれかよりも弾性率の低い材料であることが望ましい。弾性率が低いことで封止材322が変形することにより、封止部321が収容部310の上端開口部に、より小さな力で挿入できるようになる。また、弾性率が低いことで、封止材322が封止部321の下端部の周面に設けられた環状溝と収容部310の隙間を確実に埋め、漏れを防止することができる。このような封止材322の材料として、ニトリルゴム、スチレン・ブタジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、パーフロロエラストマーなどを用いることができる。
【0041】
容器装着部23は、複数の収容部310を吊下げた状態で、連結部311を支持する容器支持部41と、蓋部320と重なり、容器支持部41との間で容器30を挟み込むと共に、容器支持部41に対し開閉可能に設けられた容器固定部42と、を備えている。容器支持部41は、複数の貫通孔410を有する格子状に形成されている。複数の貫通孔410は、複数の収容部310が挿入可能な数及び配列で容器支持部41に形成されている。
【0042】
容器固定部42は、平面視で、容器支持部41と略同じ大きさの平板形状を有する。容器固定部42は、容器支持部41に対して係脱可能な図示しない爪部を備えている。容器固定部42は、容器支持部41に対して容器固定部42が開放不能となるロック状態と、容器支持部41に対して容器固定部42が開放可能となるロック解除状態と、が切り替えられるようになっている。
【0043】
加熱ブロック11は、液体を含むサンプル100を収容した容器30を、重力方向における第1の範囲11Aで加熱する。第1の範囲11Aは、容器30の下部を含んでいる。図3に示す容器30の下部には、収容部310の底部310a及び胴部310bの一部が含まれる。なお、第1の範囲11Aに少なくとも含まれる容器30の下部とは、例えば、収容部310の重力方向における寸法を3等分したときの、一番下の部分であってもよいし、最小限の底部310aであっても構わない。
【0044】
また、第1の範囲11Aは、容器30のサンプル100の液面より上側の一部を含んでいる。図3に示す容器30においては、第1の範囲11Aは、サンプル100の液面より上側であって、少なくとも封止材322が収容部310の内壁面に当接する部分より下側の部分が含まれる。
【0045】
図4は、第1実施形態に係る冷却ブロック12の断面図である。なお、図4においては、加熱ブロック11と比較するために、加熱ブロック11及びその上面11aを二点鎖線で示している。
図4に示すように、冷却ブロック12には、加熱ブロック11によって加熱された容器30が挿入される第2の挿入孔120が形成されている。第2の挿入孔120は、冷却ブロック12の上面12aに複数形成されている。冷却ブロック12は、例えば、熱伝導率の高い銅、アルミニウム、ステンレスなどの金属材であるとよい。冷却ブロック12は、例えば、図示しないブロック内流路を流れる熱媒体(冷媒)によって冷却される。あるいは、冷却ブロック12は、外気によって常温で冷却されてもよい。また、冷却ブロック12は、常温での冷却が促進されるようにその一部に図示しないフィンを設けてもよいし、図示しないフィン部材と接触していてもよい。あるいは、冷却ブロック12は、図示しないペルチェ素子により冷却されてもよい。
【0046】
第2の挿入孔120は、上述した第1の挿入孔110と同様に、複数の収容部310がZ軸方向に挿入可能な数及び配列で、冷却ブロック12の上面12aに形成されている。第2の挿入孔120の内壁面は、収容部310の挿入部分と全領域で接触または近接している。第2の挿入孔120は、上述した第1の挿入孔110よりも浅く形成されている。
【0047】
冷却ブロック12は、加熱ブロック11によって加熱された容器30を、重力方向における第1の範囲11Aより狭い第2の範囲12Aで冷却する。第2の範囲12Aは、容器30の下部を含んでいる。つまり、冷却ブロック12は、収容部310の底部310a及び胴部310bの一部を冷却する。また、図4に示す冷却ブロック12においては、第2の範囲12Aは、第1の範囲11Aと異なり、容器30のサンプル100の液面より上側の部分を含まない。
【0048】
上記構成の冷却ブロック12においては、冷却ブロック12は容器30の下部にのみに当接あるいは近接するため、容器30の下部は冷却されるが、容器30の上部は冷却されずに余熱を保持することが可能となる。そのため、容器30の下部およびサンプル100が、容器30の上部より先に冷却される。そうすると、容器30内の蒸気は、容器30の下部あるいはサンプル100に吸収される形で凝縮する。このため、容器30内の蒸気が、容器30の上部の壁面に液滴として付着することを抑制できる。
【0049】
また、容器30内の蒸気量を、冷却開始時の蒸気量に比べて少なくすることができる。このため、容器30の上部が徐々に自然冷却されても、容器30の上部の壁面に液滴として付着することなく、容器30の下部に回収することが可能となる。
その結果、容器30の壁面、特に容器30の上部の壁面に液滴が付着することを抑制することが可能となる。したがって、他の容器へ移設可能なサンプル量の減少や、蓋体32の開閉時の容器30の上部に付着した液滴の飛散によるコンタミネーションの発生といった問題を解消することが可能となる。
【0050】
このように、上述した第1実施形態によれば、液体を含むサンプル100を収容した容器30を、重力方向における第1の範囲11Aで加熱する加熱ブロック11と、加熱ブロック11によって加熱された容器30を、重力方向における第1の範囲11Aより狭い第2の範囲12Aで冷却する冷却ブロック12と、を備える。この構成によれば、蒸気の凝縮による容器30の壁面への液滴の付着を抑制できる処理装置、当該処理装置を備える核酸抽出システム3、及び当該核酸抽出システム3を備える核酸分析システム1が得られる。
【0051】
また、第1実施形態では、第2の範囲12Aは、容器30の下部を含む。この構成によれば、容器30の下部は冷却されるが、容器30の上部は冷却されずに余熱を保持することが可能となる。そのため、容器30の下部およびサンプル100が、容器30の上部より先に冷却される。そうすると、容器30内の蒸気は、容器30の下部あるいはサンプル100に吸収される形で凝縮する。このため、容器30内の蒸気が、容器30の上部の壁面に液滴として付着することを抑制できる。
【0052】
また、第1実施形態では、加熱ブロック11には、容器30を挿入して第1の範囲11Aで加熱する第1の挿入孔110が形成され、冷却ブロック12には、容器30を挿入して第2の範囲12Aで冷却する第2の挿入孔120が形成され、第2の挿入孔120は、第1の挿入孔110よりも浅い。この構成によれば、容器30を冷却する第2の範囲12Aを、容器30を加熱する第1の範囲11Aよりも重力方向において狭くすることが容易にできる。
【0053】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0054】
図5は、第2実施形態に係る核酸抽出システム3の概略図である。
図5に示すように、第2実施形態の核酸抽出システム3の熱処理装置10は、上述した加熱ブロック11及び冷却ブロック12(第1の冷却ブロックとも言う)に加え、第2の冷却ブロック13を備えている。移動装置20は、容器装着部23に装着した容器30を、加熱ブロック11、冷却ブロック12、第2の冷却ブロック13の順に移動させる。
【0055】
図6は、第2実施形態に係る第2の冷却ブロック13の断面図である。なお、図6においては、冷却ブロック12と比較するために、冷却ブロック12及びその上面12aを二点鎖線で示している。
図6に示すように、第2の冷却ブロック13には、冷却ブロック12によって冷却された容器30が挿入される第3の挿入孔130が形成されている。第3の挿入孔130は、第2の冷却ブロック13の上面13aに複数形成されている。第2の冷却ブロック13は、例えば、熱伝導率の高い銅、アルミニウム、ステンレスなどの金属材であるとよい。第2の冷却ブロック13は、例えば、図示しないブロック内流路を流れる熱媒体(冷媒)によって冷却される。あるいは、第2の冷却ブロック13は、外気によって常温で冷却されてもよい。また、第2の冷却ブロック13は、常温での冷却が促進されるようにその一部に図示しないフィンを設けてもよいし、図示しないフィン部材と接触していてもよい。あるいは、第2の冷却ブロック13は、図示しないペルチェ素子により冷却されてもよい。
【0056】
第3の挿入孔130は、上述した第1の挿入孔110及び第2の挿入孔120と同様に、複数の収容部310がZ軸方向に挿入可能な数及び配列で、第2の冷却ブロック13の上面12aに形成されている。第3の挿入孔130の内壁面は、収容部310の挿入部分と全領域で接触または近接している。第3の挿入孔130は、上述した第2の挿入孔120よりも深く形成されている。
【0057】
第2の冷却ブロック13は、冷却ブロック12によって冷却された容器30を、重力方向における第2の範囲12Aより広い第3の範囲13Aで冷却する。第3の範囲13Aは、容器30の下部を含んでいる。また、図6に示す第2の冷却ブロック13においては、第3の範囲13Aは、第2の範囲12Aと異なり、容器30のサンプル100の液面より上側の部分を含んでいる。つまり、第2の冷却ブロック13は、第1の範囲11Aと同様に、収容部310の底部310a及び胴部310bの略全体を含む第3の範囲13Aを冷却する。
【0058】
上記構成においては、上述した冷却ブロック12にて容器30の下部を冷却し、容器30内の蒸気量を少なくしてから、第2の冷却ブロック13にて容器30の略全体を冷却することができる。このため、冷却ブロック12のみで容器30の全体の温度を下げるよりも早く、容器30の全体の温度を下げ、使用者が容器30を取り出すことを可能にすることができる。
【0059】
このように第2実施態では、冷却ブロック12によって冷却された容器30を、重力方向における第2の範囲12Aより広い第3の範囲13Aで冷却する第2の冷却ブロック13を備えるため、使用者が容器を取り出すことが可能な50~70℃以下の温度まで、容器30を早く降温させることができる。なお、容器30と第2の冷却ブロック13とを当接あるいは近接させるときには、それ以前に冷却ブロック12との当接あるいは近接にて容器30内の蒸気量が十分に下がっているため、容器30の上部の壁面に蒸気の凝縮により液滴が付着することは殆どない。
【0060】
また、本実施形態では、第2の冷却ブロック13には、容器30を挿入して第3の範囲13Aで冷却する第3の挿入孔130が形成され、第3の挿入孔130は、第2の挿入孔120よりも深い。この構成によれば、容器30を冷却する第3の範囲13Aを、容器30を冷却する第2の範囲12Aよりも重力方向において広くすることが容易にできる。
【0061】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0062】
図7は、第3実施形態に係る冷却ブロック12の断面図である。なお、図7においては、加熱ブロック11と比較するために、加熱ブロック11及びその上面11aを二点鎖線で示している。
図7に示すように、第3実施形態は、冷却ブロック12が容器30を冷却する第2の範囲12Aが、容器30のサンプル100の液面より上側の一部を含んでいる。図7に示す第2の範囲12Aは、容器30の下部、及び、サンプル100の液面より上側であって、封止材322が収容部310の内壁面に当接する部分より下側の部分が含まれる。
【0063】
この構成によれば、容器30におけるサンプル100を収容した部分を、冷却ブロック12にて確実に冷却することができ、サンプル100を確実且つ早く冷却することが可能となる。なお、この場合、容器30の上部の壁面に蒸気の凝縮により液滴101が付着することがあるが、液滴101がサンプル100の液面に近ければ、容器30を多少振るなどして容易に回収できる。また、液滴101は、容器30の上部の蓋体32の近傍から離れているため、蓋体32を開放する際に飛散し、コンタミネーションを発生させる危険性は少ない。
【0064】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0065】
図8は、第4実施形態に係る冷却ブロック12の断面図である。なお、図8においては、加熱ブロック11と比較するために、加熱ブロック11及びその上面11aを二点鎖線で示している。
図8に示すように、第4実施形態は、冷却ブロック12が容器30を冷却する第2の範囲12Aが、容器30のサンプル100の液面より下側のみである。
【0066】
この構成によれば、容器30の上部の壁面に蒸気の凝縮により液滴が付着することが殆ど無い。したがって、上述した第3実施形態に比べ、サンプル100の冷却速度は少し遅くなるが、容器30の壁面に液滴が付着することを防止することが可能となる。これにより、冷却後の容器30の撹拌動作を不要とし、コンタミネーションのリスクをより低減することができる。
【0067】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0068】
なお、上述した実施形態に係る処理装置の一部又は全部は、以下のように付記することができる。
【0069】
(付記)
第1の挿入孔が形成された加熱ブロックと、
前記第1の挿入孔より浅い第2の挿入孔が形成された冷却ブロックと、
前記第1の挿入孔から前記第2の挿入孔に処理対象物を移動させる移動装置と、を備える、処理装置。
【符号の説明】
【0070】
1 核酸分析システム
3 核酸抽出システム
11 加熱ブロック
11A 第1の範囲
12 冷却ブロック
12A 第2の範囲
13 第2の冷却ブロック
13A 第3の範囲
30 容器
100 サンプル
110 第1の挿入孔
120 第2の挿入孔
130 第3の挿入孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8