(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】無線通信機
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/52 20060101AFI20240402BHJP
H01Q 1/24 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
H01Q1/52
H01Q1/24 Z
(21)【出願番号】P 2021021883
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】松本 翔
(72)【発明者】
【氏名】李 政彦
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 陽一
(72)【発明者】
【氏名】熱田 隆
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-182160(JP,A)
【文献】特開2013-179152(JP,A)
【文献】特開2017-224904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/52
H01Q 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体を含む基板(20)と、
0次共振アンテナ(30)と、
前記基板に実装された高周波回路(40)と、
前記基板に実装された金属体(50)と、を備え、
前記0次共振アンテナは、
前記基板に配置され、接地電位を提供する地板(31)と、
前記基板の厚み方向において前記地板に対向するように、前記基板に配置されたパッチ部(32)と、
前記パッチ部との給電点から延びて前記パッチ部と前記高周波回路とを電気的に接続し、前記給電点から少なくとも一部が前記基板において前記パッチ部と同一面に配置された給電線(33)と、
前記基板に配置され、前記パッチ部と前記地板とを電気的に接続する短絡部(34)と、を有し、
前記金属体は、
前記地板と同電位とされ、
前記厚み方向の長さが、前記パッチ部よりも長くされ、
前記厚み方向からの平面視において、前記パッチ部と前記高周波回路との間の領域であって、前記パッチ部の中心と前記給電点との並び方向から見た前記給電線の幅の範囲内に、少なくとも一部が配置されている、無線通信機。
【請求項2】
前記0次共振アンテナの動作周波数の電波の波長をλとすると、
前記厚み方向からの平面視において前記パッチ部と前記金属体との距離Dは、0<D<λ×1/2の関係を満たす、請求項1に記載の無線通信機。
【請求項3】
前記給電線は、前記パッチ部と同一面において前記給電点から一直線状に延びる直線部(33a)を有し、
前記金属体は、前記直線部の直上、または、前記直線部の延長線上に配置されている、請求項1または請求項2に記載の無線通信機。
【請求項4】
前記パッチ部は、前記基板の外周端(21)の近傍に配置されている、請求項1~3いずれか1項に記載の無線通信機。
【請求項5】
前記金属体は、前記厚み方向において前記基板の一面(20a)に実装されている、請求項1~4いずれか1項に記載の無線通信機。
【請求項6】
前記厚み方向において、前記基板の前記一面に、前記パッチ部と、前記給電線の少なくとも一部とが配置され、
前記金属体は、前記一面から、前記パッチ部よりも上方に突起している、請求項5に記載の無線通信機。
【請求項7】
前記金属体は、前記高周波回路を保護するシールドケースである、請求項1~6いずれか1項に記載の無線通信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、無線通信機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、0次共振アンテナを備えた装置を開示している。先行技術文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
0次共振アンテナは、互いに対向する地板およびパッチ部が、短絡部によって接続された構造をなしている。特許文献1では、対向導体に給電するための給電線(給電部)が、対向導体の中央部に接続されている。0次共振アンテナは、地板の板厚方向に直交する平面において、中心をNULLとする円環状の放射特性、すなわち無指向性を有する。上述の観点において、または言及されていない他の観点において、0次共振アンテナを備える無線通信機にはさらなる改良が求められている。
【0005】
開示されるひとつの目的は、所望の指向性を有する無線通信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示された無線通信機は、
誘電体を含む基板(20)と、
0次共振アンテナ(30)と、
基板に実装された高周波回路(40)と、
基板に実装された金属体(50)と、を備え、
0次共振アンテナは、
基板に配置され、接地電位を提供する地板(31)と、
基板の厚み方向において地板に対向するように、基板に配置されたパッチ部(32)と、
パッチ部との給電点から延びてパッチ部と高周波回路とを電気的に接続し、給電点から少なくとも一部が基板においてパッチ部と同一面に配置された給電線(33)と、
基板に配置され、パッチ部と地板とを電気的に接続する短絡部(34)と、を有し、
金属体は、
地板と同電位とされ、
厚み方向の長さが、パッチ部よりも長くされ、
厚み方向からの平面視において、パッチ部と高周波回路との間の領域であって、パッチ部の中心と給電点との並び方向から見た給電線の幅の範囲内に、少なくとも一部が配置されている。
【0007】
開示された無線通信機によれば、0次共振アンテナの単体で、意図的に指向性を給電線の延びる方向に偏らせている。つまり、電界を給電界の延びる方向に集中させている。そして、電界の集中する方向、具体的には上記した領域内に金属体を意図的に配置することで、延びる方向に放射された電波の一部を反射し、電界を広げるようにしている。このように、0次共振アンテナと金属体とにより、給電線の延びる方向とは異なる方向に指向性を有する。つまり、給電線の延びる方向とは異なる、所望の指向性を有する無線通信機を提供することができる。
【0008】
この明細書における開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る無線通信機の概略構成を示す平面図である。
【
図3】
図1のIII-III線に沿う断面図である。
【
図5】0次共振アンテナの放射特性を示す図である。
【
図6】0次共振アンテナの放射特性を示す図である。
【
図7】0次共振アンテナの放射特性を示す図である。
【
図11】電磁界シミュレーションに用いた本例および参考例の構成を示す図である。
【
図14】Phi=0°の面での放射特性を比較した図である。
【
図15】Phi=4°の面での放射特性を比較した図である。
【
図16】Phi=10°の面での放射特性を比較した図である。
【
図21】第2実施形態に係る無線通信機において、パッチ部と金属体との距離を示す図である。
【
図22】距離が半波長、1/4波長に等しいときの放射特性を示す図である。
【
図23】Phi=0°の面での放射特性を比較した図である。
【
図24】Phi=55°の面での放射特性を比較した図である。
【
図25】第3実施形態に係る無線通信機を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて複数の実施形態を説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0011】
(第1実施形態)
まず、無線通信機の概略構成について説明する。本実施形態の無線通信機は、所定の動作周波数の電波を送信および/または受信するように構成されている。無線通信機は、近距離無線通信で使用される周波数帯の電波を、送信および/または受信可能に構成されている。本実施形態の動作周波数は、2.44GHzである。動作周波数は適宜設計されればよく、他の周波数(たとえば5GHz)としてもよい。無線通信機は、たとえば、車両に搭載された機器間での通信に用いられる。
【0012】
<無線通信機>
図1は、無線通信機を示す平面図である。
図2は、
図1をII方向から見た側面図である。
図3は、
図1のIII-III線に沿う断面図である。
図4は、高周波回路の一例を示す回路図である。
【0013】
図1、
図2、および
図3に示すように、無線通信機10は、基板20、0次共振アンテナ30、高周波回路40、および金属体50を備えている。無線通信機10は、0次共振アンテナ30および金属体50を含むアンテナ装置と、高周波回路40を備えている。
【0014】
以下においては、基板20の厚み(板厚)方向をX方向とし、X方向に直交する一方向をY方向とする。X方向およびY方向に直交する方向をZ方向とする。特に断りのない限り、X方向から平面視した形状、すなわちY方向およびZ方向により規定されるYZ平面に沿う形状を、平面形状と示す。また、Z方向からの平面視を、単に平面視と示すことがある。
【0015】
基板20は、プリント基板の絶縁基材(絶縁部)である。基板20は、樹脂などの誘電体を用いて構成されている。基板20を用いることで、誘電体による波長短縮効果が期待できる。基板20としては、たとえば樹脂のみからなるもの、樹脂とガラス布、不織布などとを組み合わせたもの、を採用することができる。基板20は、地板31とパッチ部32とを所定の位置関係に保持する保持部として機能する。
【0016】
基板20は、一面20aと、一面20aとはX方向において反対の面である裏面20bを有している。本実施形態では、基板20の一面20aにパッチ部32および給電線33が配置され、裏面20bに地板31が配置されている。この構成では、基板20の厚みにより、地板31とパッチ部32との対向距離、および、短絡部34のX方向の長さを調整することができる。基板20は、単層構造でもよいし、多層構造でもよい。
【0017】
0次共振アンテナ30は、地板31、パッチ部32、給電線33、および短絡部34を備えている。地板31、パッチ部32、給電線33、および短絡部34は、プリント基板の導体要素(導体部)である。つまり、0次共振アンテナ30は、プリント基板に構成されている。0次共振アンテナ30は、基板20に実装されている。プリント基板は、0次共振アンテナ30の構成要素以外にも、導体要素を含む。
【0018】
本実施形態の0次共振アンテナ30は、
図1に示すように、Z方向において基板20の端部21の近傍に設けられている。端部21は、Z方向における基板20の端部のうちのひとつである。パッチ部32は、基板20のZ方向の端部のうち、端部21側に偏って配置されている。端部21は、平面矩形状をなす基板20において、4つの辺のうちのひとつである。端部21は、Y方向に略平行な辺である。端部21は、4つの辺のうち、0次共振アンテナ30がもっとも近い辺である。端部21は、基板20の外周端に相当する。
【0019】
地板31は、0次共振アンテナ30におけるグランド電位(接地電位)を提供する。地板31は、プリント基板において接地電位を供給する、図示しないグランドパターンと電気的に接続されている。地板31は、銅などを材料とする導体である。地板31の板面に垂直な方向も、X方向に略平行である。平面視において、地板31の面積は、パッチ部32の面積よりも大きい。地板31は、パッチ部32の全体を内包する大きさを有している。地板31は、0次共振アンテナ30を安定して動作させるための必要な大きさを備えていることが好ましい。
【0020】
本実施形態の地板31は、平面略長方形をなしている。地板31の各辺は、たとえば動作周波数の電波の波長の1倍以上、すなわち1波長以上の長さを有している。地板31は、上記したように基板20の裏面20bに配置されている。地板31は、基板20の裏面20bに配置された金属箔、たとえば銅箔をパターニングすることで形成されている。地板31は、プリント基板の裏面20b側の表層パターンの一部である。
【0021】
なお、地板31の平面形状については適宜変更可能である。本実施形態では、一例として地板31の平面形状を長方形状とするが、その他の構成として、正方形状でもよいし、その他の多角形状でもよい。また、円形(楕円を含む)状でもよい。地板31は、直径が1波長の円よりも大きく形成されていることが好ましい。地板31は、基板20の裏面配置に限定されない。たとえば、内層導体の一部として、基板20の内部に配置されてもよい。
【0022】
パッチ部32は、銅などを材料とする導体である。パッチ部32は、X方向において地板31との間に所定の間隔を有するように、地板31に対向配置された導体である。パッチ部32は、放射素子と称されることがある。平面視において、パッチ部32の全体が地板31と重なっている。つまり、パッチ部32の板面(下面)全体が、X方向において地板31に対向している。パッチ部32は、地板31に対して略平行に配置されている。略平行とは、完全に平行に限らない。たとえば、数度から十度程度傾いていてもよい。
【0023】
本実施形態のパッチ部32は、上記したように基板20の一面20aに配置されている。パッチ部32は、基板20の一面20aに配置された金属箔をパターニングすることで形成されている。パッチ部32は、プリント基板において、一面20a側の表層パターンの一部である。表層パターンとは、プリント基板において多層に配置された導体パターンのうち、基板20の表面(一面20aまたは裏面20b)に配置されたパターンである。パッチ部32の基本形状は、平面略正方形である。基本形状は、平面視においてパッチ部32の外形輪郭である。パッチ部32は、外形輪郭に開口するスリットを有してもよい。たとえば、平面略正方形に2つのスリットを設けた、平面略H字状のパッチ部32を採用することもできる。パッチ部32は、基板20の一面配置に限定されない。たとえば、内層導体の一部として、基板20の内部に配置されてもよい。
【0024】
パッチ部32は、地板31に対向配置されることで、パッチ部32の面積や地板31との間隔に応じたキャパシタを形成する。パッチ部32は、短絡部34が備えるインダクタと対象周波数において並列共振するキャパシタを形成する大きさとされている。パッチ部32の面積は、所望のキャパシタを提供するように、ひいては動作周波数で動作するように、適宜設計される。
【0025】
本実施形態では、一例としてパッチ部32の基本形状(外形輪郭)を正方形状とするが、その他の構成として、パッチ部32の平面形状は、円形や、正八角形、正六角形などでもよい。パッチ部32の基本形状は、互いに直交する2つの直線のそれぞれを対称の軸として線対称な形状、すなわち2方向線対称形状であることが好ましい。2方向線対称形状とは、ある直線を対称の軸として線対称であって、かつ、その直線と直交する他の直線についても線対称な図形を指す。2方向線対称形状とは、たとえば楕円形、長方形、円形(真円)、正方形、正六角形、正八角形、ひし形などが該当する。また、パッチ部32は、円形、正方形、長方形、平行四辺形など、点対称な図形であることがより好ましい。
【0026】
給電線33は、パッチ部32に給電するための導体である。給電線33は、パッチ部32との給電点から延びており、給電点から少なくとも一部が、基板20においてパッチ部32と同一面に配置されている。パッチ部32と同一面に配置された給電線33は、マイクロストリップラインと称されることがある。給電線33の端部のひとつは、パッチ部32の縁部に電気的に接続されている。給電線33の端部の他のひとつは、高周波回路40に電気的に接続されている。給電線33とパッチ部32との接続部分が、給電点に相当する。高周波回路40を介して給電線33に入力された電流は、パッチ部32に伝搬し、パッチ部32を励振させる。なお、給電方式は、直結給電方式に限定されない。給電線33とパッチ部32とを電磁結合させる給電方式を採用してもよい。
【0027】
本実施形態の給電線33は、基板20の一面20aに配置された導体を含む。つまり、給電線33の少なくとも一部も、プリント基板において、一面20a側の表層パターンの一部である。給電線33も、基板20の一面20aに配置された金属箔をパターニングすることで形成されている。給電線33において、給電点から少なくとも一部は、パッチ部32と一体的に形成されている。
図1~
図3に示す例では、給電線33は、パッチ部32において基板20の端部21との対向辺ではなく、非対向辺から延びている。給電線33は、対向辺に隣接する辺から延びている。給電点を有する辺は、給電辺と称される。対向辺に隣接する辺のひとつが、給電辺である。対向辺は、Y方向に略平行な辺である。給電辺を含む、対向辺に隣接する辺は、Z方向に略平行な辺である。給電線33は、パッチ部32の給電辺の略中央部分に連なっている。
【0028】
給電線33は、給電点から少なくとも一部として、一直線状に延びる直線部33aを有している。直線部33aは、たとえば、パッチ部32の略中心と給電点とを結ぶ仮想的な直線に沿って、給電点から一直線状に延びている。
図1~
図3に示す例では、直線部33aが、Y方向に延びている。給電線33は、X方向において地板31に対向配置されている。本実施形態の給電線33は、一面20aに配置された導体のみによって構成されている。
【0029】
給電線33は、直線部33aのみを含む構成としてもよい。この場合、給電線33の全体が、一直線状をなす。給電線33は、屈曲部を有してもよい。給電線33は、Y方向に沿って延びる部分と、Z方向に沿って延びる部分を含んでもよい。給電線33は、Y方向成分とZ方向成分を有する部分を含んでもよい。給電線33は、曲線部分を含んでもよい。給電線33は、一面20aに配置された導体に加えて、ビア導体および内層導体を含んでもよい。
【0030】
短絡部34は、地板31とパッチ部32とを電気的に接続、すなわち短絡している。短絡部34は、基板20に配置された柱状の導体である。短絡部34の端部のひとつは地板31に接続され、端部の他のひとつはパッチ部32に接続されている。短絡部34は、たとえば平面略円形をなしている。短絡部34の径や長さを調整することによって、短絡部34が備えるインダクタの値(インダクタンス)を調整することができる。短絡部34は、平面視においてパッチ部32の略中心に接続されている。パッチ部32の中心は、パッチ部32の重心に相当する。
【0031】
パッチ部32が平面略正方形の場合、中心とは、パッチ部32の2つの対角線の交点に相当する。短絡部34は、基板20に形成された貫通孔(いわゆるビア)内に導体が配置されたビア導体である。貫通孔は、基板20を一面20aから裏面20bにわたって貫通している。短絡部34を構成するビア導体の数は特に限定されない。本実施形態では、ひとつのビア導体が短絡部34を構成している。地板31とパッチ部32との間に並列配置された複数のビア導体により、短絡部34を構成してもよい。
【0032】
高周波回路40は、0次共振アンテナ30と電気的に接続され、0次共振アンテナ30を介して外部と無線通信を行う無線通信回路の少なくとも一部をなすものである。高周波回路40は、基板20(プリント基板)に実装されている。本実施形態では、高周波回路40が、基板20の一面20aに実装されている。高周波回路40は、たとえばICチップとして提供され、プリント基板の図示しない表層パターン(ランド)に、はんだ接合される。高周波回路40は、基板20(プリント基板)の内部に配置してもよい。多層基板であれば、高周波回路40の内蔵が可能である。高周波回路40とパッチ部32は、Y方向に並んで配置されている。
【0033】
高周波回路40は、少なくとも、送信信号を変調して送信する送信機能、および/または、受信信号を復調する受信機能を有している。高周波回路40は、送信機能を有する場合に送信回路、受信機能を有する場合に受信回路、送受信機能を有する場合に送受信回路と称されることがある。さらに、高周波回路40は、無線回路、RF回路、給電回路などと称されることがある。
【0034】
本実施系の高周波回路40は、
図4に示すように、トランシーバ41、パワーアンプ(PA)42、ローノイズアンプ(LNA)43、スイッチ44、およびバンドパスフィルタ45を有している。トランシーバ41は、変換器(CON)41a、変調器(MOD)41b、および復調器(DEMOD)41cを有している。高周波回路40は、いわゆるRF部を有している。
【0035】
変換器41aは、信号のアナログ・デジタル変換を行う。送信時において、変換器41aは、ベースバンド信号(デジタル信号)をアナログ信号に変換する。変調器41bは、変換されたアナログ信号を変調する。トランシーバ41は、変調信号をRF信号の周波数で発振する。復調器41cは、受信信号を復調する。変換器41aは、復調信号(アナログ)をデジタル信号(ベースバンド信号)に変換する。RFは、radio frequencyの略称である。
【0036】
パワーアンプ42は、RF信号の電力を増幅してスイッチ44へ出力する。ローノイズアンプ43は、スイッチ44を介して入力する受信信号を増幅し、トランシーバ41へ出力する。スイッチ44は、給電ラインを送信側および受信側のいずれかに切り替える。スイッチ44は、アンテナスイッチと称されることがある。パワーアンプ42は、送信側の給電ラインにおいて、スイッチ44とトランシーバ41との間に設けられている。ローノイズアンプ43は、受信側の給電ラインにおいて、スイッチ44とトランシーバ41との間に設けられている。
【0037】
バンドパスフィルタ45は、不要な周波数成分を除去する。バンドパスフィルタ45は、給電ラインにおいて、スイッチ44と0次共振アンテナ30との間に設けられている。高周波回路40は、さらにインピーダンス整合のための整合回路を構成する複数の整合素子46、および、保護用のダイオード47を有している。
図4では、便宜上、複数の整合素子46に共通の符号を付与している。
【0038】
図4に示した高周波回路40は、あくまで一例に過ぎない。送信方式や受信方式も特に限定されない。高周波回路40は、上記したようにRF部のみを有してもよいし、RF部とベースバンド部を有してもよい。
【0039】
金属体50は、0次共振アンテナ30から放射された電波の一部を反射することで、指向性を調整するものである。金属体50は、基板20(プリント基板)に実装されている。金属体50は、プリント基板の要素とは別の要素である。金属体50は、地板31と同電位、つまり接地電位とされている。たとえば、金属体50は、プリント基板の導体要素を介して地板31に接続されることで、地板31と同電位とされてもよい。金属体50は、グランドパターンを介して地板31と電気的に接続されることで、地板31と同電位とされてもよい。金属体50は、X方向において、パッチ部32よりも長い。つまり、金属体50の高さが、パッチ部32の厚みよりも長い。金属体50は、パッチ部32よりも長いことで、電波を効果的に反射する。金属体50の配置については後述する。
【0040】
金属体50としては、たとえば、金属ブロック、プリント基板に実装された電子部品を保護する金属ケース、コネクタが備える端子などの金属部、を採用することができる。本実施形態では、金属体50として、高周波回路40を電磁波から保護するシールドケースを採用している。金属体50は、基板20の一面20aに実装されている。図示を省略するが、プリント基板は、ソルダレジストなどの保護膜を、一面20a上に有している。金属体50は、保護膜から露出する導体要素であるランド(図示略)に、はんだ接合されている。ランドは、グランドパターンに電気的に接続されている。金属体50(シールドケース)は、保護膜上に配置されている。金属体50は、一面20aから、パッチ部32よりも上方に突起している。
【0041】
金属体50としてのシールドケースは、たとえば一面が開口する箱状をなしている。そして、金属体50の内部に、高周波回路40が収容されている。本実施形態では、
図4に一点鎖線で示すように、高周波回路40の要素のすべてが、金属体50の内部に配置されている。高周波回路40を構成する要素の一部が金属体50(シールドケース)内に配置され、他の一部が金属体50の外に配置される構成としてもよい。金属体50は、高周波回路40とともに、モールド部品として提供されてもよい。金属体50は、基板20(プリント基板)の内部に配置してもよい。多層基板であれば、金属体50の内蔵が可能である。
【0042】
<0次共振アンテナの動作>
次に、0次共振アンテナ30の動作について説明する。上記したように、0次共振アンテナ30は、互いに対向する地板31およびパッチ部32が、短絡部34によって接続された構造を有している。この構造は、いわゆるマッシュルーム構造であり、メタマテリアルの基本構造と同じである。0次共振アンテナ30は、メタマテリアル技術を応用したアンテナであるため、メタマテリアルアンテナと称されることがある。
【0043】
0次共振アンテナ30は、所望の動作周波数において、0次の共振モードで動作するように設計されている。メタマテリアルの分散特性のうち、位相定数βがゼロ(0)となる周波数で共振する現象が0次共振である。位相定数βは、伝送線路を伝搬する波の伝搬係数γの虚部である。0次共振アンテナ30は、0次共振が発生する周波数を含む所定帯域の電波を良好に送信および/または受信することができる。
【0044】
0次共振アンテナ30は、概略的には、地板31とパッチ部32との間に形成されるキャパシタと、短絡部34が備えるインダクタとの、LC並列共振によって動作する。0次共振アンテナ30において、パッチ部32は、その中央領域に設けられた短絡部34で地板31に短絡されている。また、パッチ部32の面積は、短絡部34が備えるインダクタと所望の周波数(動作周波数)において並列共振するキャパシタを形成する面積となっている。なお、インダクタの値(インダクタンス)は、短絡部34の各部寸法、たとえば径およびZ方向長さに応じて定まる。
【0045】
このため、動作周波数の電力が給電されると、インダクタとキャパシタとの間のエネルギー交換によって並列共振が生じ、地板31とパッチ部32との間には、地板31(およびパッチ部32)に対して垂直な電界が発生する。すなわち、X方向の電界が発生する。この垂直電界は、短絡部34からパッチ部32の縁部に向かって伝搬していき、パッチ部32の縁部において垂直偏波となって空間を伝搬していく。なお、ここでの垂直偏波とは、電界の振動方向が地板31やパッチ部32に対して垂直な電波を指す。また、0次共振アンテナ30は、LC並列共振により、0次共振アンテナ30の外部から到来する垂直偏波を受信する。
【0046】
なお、0次共振は、共振周波数がアンテナサイズによらない。よって、パッチ部32の一辺の長さを0次共振周波数の1/2波長よりも短くすることができる。たとえば、一辺を1/4波長相当の長さにしても、0次共振を生じさせることができる。たとえば動作周波数が2.44GHzの場合、基板20を備える構成において波長λεは、(300[mm/s]/2.44[GHz])/基板20の誘電率の平方根、により求まる。一辺を1/4波長より短くすることも可能であるが、たとえばゲイン(アンテナ利得)が低下する。
【0047】
<給電線の延設方向と指向性>
次に、給電線33の延設方向と指向性、つまり、0次共振アンテナ30の単体の指向性、について説明する。
図5、
図6、および
図7は、給電線33の延設方向と電磁界シミュレーションの結果(放射特性)をそれぞれ示している。このシミュレーションでは、動作周波数、基板20の構成(誘電率および厚み)と短絡部34の径を、各例において同じにした。つまり、給電線33の延設方向のみを互いに異ならせ、その他は同じ条件でシミュレーションを行った。たとえば、動作周波数は、2.44GHzとした。
図5~
図7では、便宜上、基板20を省略して0次共振アンテナ30を示している。
図5~
図7では、NULLが分かるように、電界強度が高いほどドットを祖にし、電界強度が低いほどドットを密にしている。
【0048】
図5は、
図1同様に構成された0次共振アンテナ30の放射特性を示している。給電線33は、パッチ部32の縁部からY方向に延びている。地板31に対向配置された給電線33の影響により、給電線33とは反対側にNULLが傾くとともに、給電線33を配置した側に指向性が偏っている。
【0049】
図6では、給電線33が、Z方向に延びている。給電線33は、パッチ部32の縁部のうち、Y方向に略平行な辺のひとつからZ方向に延びている。給電線33の延設方向において、NULLが給電線33とは反対側に傾き、指向性が給電線33を配置した側に偏っている。
【0050】
図7では、給電線33が、斜めに延びている。給電線33は、Y方向成分およびZ方向成分を有している。給電線33は、Y方向に略平行な仮想線とのなす角度、および、Z方向に略平行な仮想線とのなす角度が、いずれも鋭角である。給電線33は、パッチ部32の四隅(角部)のひとつから延びている。給電線33の延設方向において、NULLが給電線33とは反対側に傾き、指向性が給電線33を配置した側に偏っている。
【0051】
以上のように、0次共振アンテナ30は、単体で、給電線33の延設方向に指向性を有する。0次共振アンテナ30において指向性に対する給電線33の影響は、本発明者による特願2020-038072号に詳細に記載されている。この文献の記載内容は、本明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【0052】
<金属体の配置>
次に、金属体50の配置について説明する。
図8および
図9は、0次共振アンテナ30のパッチ部32および給電線33、高周波回路40、および金属体50の配置を示している。図中の符号32cは、平面視におけるパッチ部32の中心を示している。符号35は、給電点を示している。
図8および
図9では、金属体50の少なくとも一部を示している。本実施形態では、金属体50としてシールドケースを採用している。
図8および
図9では、金属体50であるシールドケースの一部のみを示している。
【0053】
図8では、給電線33が、
図1同様、Y方向に延設されている。金属体50は、Z方向からの平面視において、領域R1と領域R2との交差領域R3内に、少なくとも一部が配置されている。領域R1は、平面視において、パッチ部32と高周波回路40との間の領域である。領域R1は、パッチ部32の中心32cと給電点35との並び方向において、パッチ部32と高周波回路40との間の領域である。
図8において、領域R1は、パッチ部32における給電辺と、高周波回路40におけるパッチ部32との対向辺との間の領域である。
【0054】
領域R2は、中心32cと給電点35との並び方向であるL方向から見た、給電線33の幅の範囲の領域である。L方向は、本実施形態においてY方向に略一致している。
図8に示す例では、給電線33が、直線部33aのみを含んでいる。つまり、給電線33は、給電点35から高周波回路40との接続部までの全長において、一直線状をなしている。給電線33は、基板20の端部21に沿って延びている。給電線33の幅は、全長でほぼ等しい。
【0055】
図8に示す交差領域R3は、平面視において、給電線33と形成領域と一致する。金属体50の一部は、具体的にはシールドケースの側壁50aのひとつは、交差領域R3に配置されている。交差領域R3に配置された側壁50aは、給電線33の直線部33aの直上に位置している。側壁50aは、給電線33を覆う保護膜上に配置され、X方向に延びている。平面視において、側壁50a(金属体50)は、給電線33を横切っている。
【0056】
図9は、
図8とはパターンが異なる給電線33についての一例を示している。
図9では、給電線33が、Y方向に沿って延びる第1延設部と、Z方向に沿って延びる第2延設部を含む。直線部33aが、第1延設部のひとつを兼ねている。直線部33aにおける給電点35とは反対の端部に、第2延設部33bの端部のひとつが連なっている。第2延設部33bは、Z方向であって基板20の端部21側に延びている。第2延設部33bは、Z方向において、パッチ部32よりも端部21に近い位置まで延びている。第2延設部33bの端部の他のひとつには、第1延設部33cの端部のひとつが連なっている。第1延設部33cは、Y方向であって高周波回路40に近づく方向に延びている。第1延設部33cの端部の他のひとつには、第2延設部33dの端部のひとつが連なっている。第2延設部33dは、Z方向であって端部21から遠ざかる方向、つまり高周波回路40に近づく方向に延びている。給電線33の幅は、全長でほぼ等しい。
【0057】
上記したように、領域R1は、平面視において、パッチ部32と高周波回路40との間の領域である。
図8同様、領域R1は、パッチ部32における給電辺と、高周波回路40におけるパッチ部32との対向辺との間の領域である。領域R2は、中心32cと給電点35との並び方向、つまりL方向から見た給電線33の幅の範囲である。L方向から平面視した給電線33の幅は、第1延設部である直線部33aと第1延設部33cにより定まる。
図9に示すように、金属体50であるシールドケースの側壁50aは、交差領域R3に配置されている。側壁50a(金属体50)は、給電線33の直線部33aの仮想的な延長線上に配置されている。
【0058】
<第1実施形態のまとめ>
本実施形態に示した無線通信機10によれば、上記したように、0次共振アンテナ30の単体で、意図的に給電線33の延設方向に指向性を偏らせている。つまり、給電線33の延設方向に電界を集中させている。そして、電界の集中する方向、具体的には上記した交差領域R3内に金属体50の少なくとも一部を意図的に配置することで、延設方向に放射された電波の一部を反射し、電界を広げるようにしている。このように、0次共振アンテナ30と金属体50を備えるアンテナ装置は、給電線33の延設方向とは異なる方向に指向性を有する。つまり、延設方向とは異なる所望の指向性を有する無線通信機を提供することができる。
【0059】
一例として、給電線33は、パッチ部32と同一面において給電点35から一直線状に延びる直線部33aを有している。0次共振アンテナ30の単体の指向性に対して、給電線33のうち、パッチ部32と同一面に配置され、給電点35から延びる直線部33aの影響が大きい。つまり、直線部33aに沿う方向に電界が集中しやすい。
【0060】
本実施形態では、たとえば
図8に示した例において、金属体50を直線部33aの直上に配置している。金属体50は、平面視において直線部33aと重なる。金属体50は、図示しないソルダレジストを介して直線部33aの上に配置されている。よって、給電線33の延設方向に放射された電波を金属体50により、効果的に反射し、電界を広げることができる。
図9に示す例では、金属体50を直線部33aの延長線上に配置している。
図8同様、給電線33の延設方向に放射された電波を金属体50により効果的に反射し、電界を広がることができる。
【0061】
図10において、参考例は、0次共振アンテナ30rのみで所望の指向性を確保する無線通信機10rを示している。本例は、本実施形態に係る無線通信機10の一例を示している。参考例では、本実施形態の要素と同一または関連する要素の参照符号を、本実施形態の符号の末尾にrを付け加えたものとしている。
図10に示すように、参考例、本例いずれも、パッチ部32、32r、ひいては0次共振アンテナ30、30rが、基板20、20rの端部21、21rの近傍に配置されている。
【0062】
参考例では、0次共振アンテナ30rの単体で、Z方向成分を含む実線矢印方向の指向性を得ようとすると、給電線33rを基板20rの端部21rの外まで引き出し、基板20の外に高周波回路40を配置しなければならない。つまり、基板20rに実装された0次共振アンテナ30rの単体で、所望の指向性を得ることができない。
【0063】
一方、本例では、給電線33をY方向に延設している。これにより、0次共振アンテナ30の単体で、破線矢印で示す方向、つまりY方向の指向性を有する。さらに、金属体50の配置により、Y方向に放射された電波の一部が反射され、電界が広がる。このように、0次共振アンテナ30と金属体50を組み合わせることで、実線矢印で示すように、Z方向成分を含む所望の指向性を有することができる。つまり、パッチ部32が基板20の端部21の近傍に配置された構成においても、パッチ部32から端部21に向かう方向、つまり基板20の外側に向かう方向に、指向性をもたせることができる。
【0064】
一例として、金属体50は、基板20の一面20aに実装されている。つまり、金属体50は、表面実装されている。これによれば、位置精度よく金属体50を配置することができる。したがって、所望の指向性を精度が高まる。
【0065】
一例として、パッチ部32と給電線33の少なくとも一部が、基板20の一面20aに配置されている。表面実装された金属体50は、一面20aから、パッチ部32よりも上方に突起している。Z方向において、金属体50の高さは、パッチ部32の厚みよりも長い。これにより、0次共振アンテナ30から放射された電波を金属体50にて効果的に反射させることができる。
【0066】
一例として、高周波回路40を保護するシールドケースを、金属体50として採用している。これによれば、金属体50として、金属ブロックなどを別途用意しなくてもよいため、簡素な構成とすることができる。
【0067】
以下、電磁界シミュレーションにて本例と参考例とを評価した結果を示す。
図11は、シミュレーションに用いた本例および参考例の概略構成を示している。
図10同様、参考例では、本実施形態の要素と同一または関連する要素の参照符号を、本実施形態の符号の末尾にrを付け加えたものとしている。本例は、金属体50を備えている。一方、参考例は、金属体を備えていない。本例と参考例とで、金属体の有無を除けば、その他は同じ条件とした。動作周波数は、2.44GHzとした。0次共振アンテナ30、30rは、基板20、20rの端部21、21rの近傍に配置した。給電線33、33rのパターンは、
図9に示した構成と同様とした。金属体50、50rは、ともにシールドケースを想定した。
【0068】
図12および
図13は、電磁界シミュレーションの結果(放射特性)を示している。
図12および
図13では、
図5~
図7とは異なり、電界強度が高いほどドットを密にし、電界強度が低いほどドットを粗にしている。
図12は、指向性が分かり易いように、ZY平面の電界強度分布を示している。
図13は、Y方向以外の変化が分かりやすいように、基板を立てた状態の電界強度分布を示している。指向性の狙い方向は、
図12に実線矢印で示す方向である。狙い方向は、パッチ部から基板の端部の外側であって、Z方向から少し傾いた方向である。狙い方向は、給電線を引き出せない方向、つまり高周波回路を配置できない方向である。
【0069】
図12および
図13に示すように、参考例では、電界がY方向に集中している。一方、本例では、電界が、他の方向にも広がっていることが分かる。本例では、電界がX方向およびZ方向にも広がっている。そして、
図12に示すように、狙い方向に指向性を有している。
【0070】
図14は、
図13に実線で示すPhi=0°の面において、本例と参考例との放射特性を比較した図である。Phi=0°の面は、ZX面である。
図15は、Phi=4°の面において、本例と参考例との放射特性を比較した図である。
図16は、
図13に破線で示すPhi=10°の面において、本例と参考例との放射特性を比較した図である。各図において、実線は本例、破線は参考例を示している。m1は本例の利得(ゲイン)、m2は参考例の利得である。m1、m2は、各面においてTheta=60°の値である。m1、m2は、それぞれの最大利得とほぼ等しい。
【0071】
図14に示すように、Phi=0°の面では、m1=-7.63[dBi]、m2=-9.17[dBi]である。
図15に示すように、Phi=4°の面では、m1=-7.55[dBi]、m2=-8.86[dBi]である。
図16に示すように、Phi=10°の面では、m1=-7.48[dBi]、m2=-8.27[dBi]である。Phiの値が0°に近づくほど、本例の利得m1と参考例の利得m2との差が大きくなっている。つまり、Y方向とは異なる方向、具体的にはX方向にも電界が広がっていることを示している。
【0072】
このように、シミュレーション結果からも、0次共振アンテナ30のパッチ部32からY方向に放射された電波が金属体50によって反射され、これにより、X方向およびZ方向に電界が広がることが明らかとなった。つまり、給電線33の延設方向とは異なり、給電線33を引き出せない狙い方向に、指向性を有することができことが明らかとなった。
【0073】
<変形例>
金属体50として、高周波回路40のシールドケースの例を示したがこれに限定されない。上記したように、金属ブロックやコネクタが含む金属部を、金属体50としてもよい。金属ブロックとは、たとえば柱状の金属体である。
【0074】
指向性の狙い方向は、上記した例に限定されない。たとえば、
図17に示すように、金属体50の反射によって、0次共振アンテナ30の単体の指向性の向きとは、反対の向きに指向性を有するようにしてもよい。
図17では、0次共振アンテナ30の単体の指向性の向きを破線、0次共振アンテナ30および金属体50を含むアンテナ装置の指向性を実線で示している。以下の、変形例でも同様である。
【0075】
無線通信機10が、ひとつの金属体50を備える例を示したが、これに限定されない。複数の金属体50を備えてもよい。たとえば、
図18に示す例では、無線通信機10が2つの金属体50を備えている。金属体50のそれぞれは、共通の基板20に実装されている。3つ以上の金属体50を備える構成としてもよい。
【0076】
基板20上における金属体50の向きは、特に限定されない。たとえば、
図19に示すように、平面略矩形状をなす金属体50の四辺が、0次共振アンテナ30の単体の指向性、つまり給電線33の延設方向に対して傾くように、金属体50を配置してもよい。金属体50の各辺が、Y方向およびZ方向に略平行とならない配置としてもよい。
【0077】
金属体50の平面形状は、特に限定されない。たとえば、
図20に示すように、平面台形状の金属体50を採用してもよい。それ以外にも、正方形、平行四辺形、矩形状以外の多角形状、円形状などを採用することができる。
【0078】
(第2実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例であり、先行実施形態の記載を援用できる。
【0079】
図21は、本実施形態に係る無線通信機10において、パッチ部32と金属体50との距離を示す図である。基板20、パッチ部32、および金属体50以外の要素については、便宜上、記載を省略している。給電線33は、Y方向に延設されている。パッチ部32と金属体50との距離Dは、平面視における対向距離である。換言すれば、パッチ部32の中心32cと給電点35との並び方向であるL方向において、パッチ部32と金属体50との間隔である。距離Dは、0次共振アンテナ30の動作周波数の電波の波長をλとすると、0<D<λ×1/2の関係を満たしている。0次共振アンテナ30は基板20に実装されており、波長λは上記した波長λεである。その他の構成について、先行実施形態に記載の構成と同様である。給電線33のパターンは、先行実施形態の
図9および
図11と同様である。
【0080】
<第2実施形態のまとめ>
図22、
図23、および
図24は、電磁界シミュレーションの結果を示している。このシミュレーションでは、距離Dがλ×1/2、つまり1/2波長に等しい場合と、λ×1/4、つまり1/4波長に等しい場合とを対比した。以下では、距離が1/2波長に等しい場合を、単に1/2波長と示すことがある。同様に、距離が1/4波長に等しい場合を、単に1/4波長と示すことがある。それ以外の条件は、先行実施形態に記載の本例と同じとした。つまり、給電線33のパターンは、
図9および
図11と同様とした。動作周波数は、2.44GHzとした。
【0081】
図22は、それぞれの放射特性を示している。
図22では、
図12および
図13同様、電界強度が高いほどドットを密にし、電界強度が低いほどドットを粗にしている。
図22は、
図13同様、基板を立てた状態の電界強度分布を示している。
図23は、
図22に実線で示すPhi=0°の面において、1/2波長と1/4波長との放射特性を比較した図である。
図24は、
図22に破線で示すPhi=55°の面において、1/2波長と1/4波長との放射特性を比較した図である。
図23および
図24において、実線は1/2波長、破線は1/4波長を示している。m1は、1/4波長の利得、m2は、1/2波長の利得である。m1、m2は、各面においてTheta=60°の値である。m1、m2は、それぞれの最大利得とほぼ等しい。
【0082】
図22に示すように、1/4波長のほうが、1/2波長よりも、Y方向の電界の集中が抑制され、他の方向に電界が広がっていることが分かる。1/4波長においては、電界がX方向およびZ方向にも広がっている。つまり、給電線33の延設方向とは異なる方向に指向性を有していることがわかる。
【0083】
図23に示すように、Phi=0°の面では、m1=-7.63[dBi]、m2=-9.63[dBi]である。
図24に示すように、Phi=55°の面では、m1=-8.58[dBi]、m2=-7.18[dBi]である。Phi=0°の面では、1/4波長の利得が、1/2波長の利得に較べて大きい。Phi=0°よりもY方向に近いPhi=55°の面では、1/4波長の利得が、1/2波長の利得に較べて小さい。1/4波長の利得は、Phi=0°の値のほうがPhi=55°の値よりも大きい。1/2波長の利得は、Phi=55°の値のほうがPhi=0°の値よりも大きい。つまり、1/4波長のほうが、金属体50の反射によるZ方向、X方向への電界の広がりの効果が高いことが明らかとなった。
【0084】
上記したように、シミュレーション結果は、距離Dを0<D<λ×1/2の範囲内で設定すると、パッチ部32からY方向に放射された電波を金属体50が効果的に反射できること、つまり、X方向およびZ方向に電界が広がることを示している。金属体50を備えることに加えて、上記した範囲内での距離Dを設定することで、給電線33の延設方向とは異なる方向に指向性をもたせやすくなる。特に、距離Dを、1/4波長とほぼ等しい距離にすると、より効果的である。
【0085】
(第3実施形態)
この実施形態は、先行する実施形態を基礎的形態とする変形例であり、先行実施形態の記載を援用できる。先行実施形態では、パッチ部において高周波回路と対向する辺に、給電点を設けていた。これに代えて、高周波回路との非対向辺に、給電点を設けてもよい。
【0086】
図25は、本実施形態に係る無線通信機10の概略構成を示す平面図である。
図26は、
図25をXXVI方向から見た側面図である。給電点35は、パッチ部32において高周波回路40との対向辺とは反対の辺に設けられている。給電線33は、パッチ部32と同一面に配置された直線部33aを有している。直線部33aは、給電点35から、Y方向であって高周波回路40に対して遠ざかる方向に延びている。パッチ部32および直線部33aは、基板20の一面20aに配置されている。
【0087】
給電線33は、直線部33aに加えて、内層導体33eと、ビア導体33fを有している。内層導体33eは、絶縁基材が多層に積層されてなる基板20において、基板20の内部に配置された導体パターンである。つまり、内層パターンである。ビア導体33fは、絶縁基材の少なくとも一層を貫通する貫通孔内に、めっきなどの導体が配置されてなる。貫通孔は、ビアと称されることがある。パッチ部32は、給電線33の直線部33a、ビア導体33f、内層導体33e、およびビア導体33fを介して、高周波回路40に電気的に接続されている。内層導体33eおよびビア導体33fは、0次共振アンテナ30の要素と接触しないように配置されている。
【0088】
パッチ部32と高周波回路40は、先行実施形態に示した
図1同様、Y方向に並んで配置されている。高周波回路40は、基板20の一面20aに実装されている。金属体50は、平面視において、パッチ部32と高周波回路40との間の領域に配置されている。金属体50は、パッチ部32において高周波回路40との対向辺である非給電辺と、高周波回路40におけるパッチ部32との対向辺との間の領域に配置されている。パッチ部32において、高周波回路40との対向辺は、給電辺と反対の辺である。金属体50は、給電線33の直線部33aの仮想的な延長線上に配置されている。金属体50は、中心32cと給電点35との並び方向から見た直線部33aの幅の範囲内に配置されている。その他の構成について、先行実施形態に記載の構成と同様である。
【0089】
<第3実施形態のまとめ>
上記したように、本実施形態では、給電点35が、パッチ部32において高周波回路40との対向辺とは反対の辺に設けられている。給電線33において指向性に対する影響が大きい直線部33aは、給電点35から、Y方向であって高周波回路40に対して遠ざかる方向に延びている。これにより、0次共振アンテナ30は、単体で、
図25に破線矢印で示すように、Y方向であって給電点35から直線部33aが延びる方向、つまりパッチ部32に対する直線部33aの延設方向に指向性を有する。0次共振アンテナ30は、直線部33aの延設方向に指向性を有するものの、
図5~
図7、
図12などから明らかなように、延設方向とは反対の方向にも少なからず電波を放射する。
【0090】
本実施系形態では、金属体50が、パッチ部32と高周波回路40との間に配置されている。金属体50は、パッチ部32に対して、直線部33aとは反対側に配置されている。金属体50は、パッチ部32から高周波回路40側に放射された電波の一部を反射する。これにより、電界は、パッチ部32に対する直線部33aの延設方向にさらに集中する。つまり、0次共振アンテナ30と金属体50を備えるアンテナ装置は、所望の指向性を有し、かつ、0次共振アンテナ30の単体よりも指向性を高めることができる。
図25では、アンテナ装置の指向性を実線矢印で示している。
【0091】
(他の実施形態)
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。たとえば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものと解されるべきである。
【0092】
明細書および図面等における開示は、請求の範囲の記載によって限定されない。明細書および図面等における開示は、請求の範囲に記載された技術的思想を包含し、さらに請求の範囲に記載された技術的思想より多様で広範な技術的思想に及んでいる。よって、請求の範囲の記載に拘束されることなく、明細書および図面等の開示から、多様な技術的思想を抽出することができる。
【0093】
ある要素または層が「上にある」、「連結されている」、「接続されている」または「結合されている」と言及されている場合、それは、他の要素、または他の層に対して、直接的に上に、連結され、接続され、または結合されていることがあり、さらに、介在要素または介在層が存在していることがある。対照的に、ある要素が別の要素または層に「直接的に上に」、「直接的に連結されている」、「直接的に接続されている」または「直接的に結合されている」と言及されている場合、介在要素または介在層は存在しない。要素間の関係を説明するために使用される他の言葉は、同様のやり方で(例えば、「間に」対「直接的に間に」、「隣接する」対「直接的に隣接する」など)解釈されるべきである。この明細書で使用される場合、用語「および/または」は、関連する列挙されたひとつまたは複数の項目に関する任意の組み合わせ、およびすべての組み合わせを含む。
【0094】
空間的に相対的な用語「内」、「外」、「裏」、「下」、「低」、「上」、「高」などは、図示されているような、ひとつの要素または特徴の他の要素または特徴に対する関係を説明する記載を容易にするためにここでは利用されている。空間的に相対的な用語は、図面に描かれている向きに加えて、使用または操作中の装置の異なる向きを包含することを意図することができる。例えば、図中の装置をひっくり返すと、他の要素または特徴の「下」または「真下」として説明されている要素は、他の要素または特徴の「上」に向けられる。したがって、用語「下」は、上と下の両方の向きを包含することができる。この装置は、他の方向に向いていてもよく(90度または他の向きに回転されてもよい)、この明細書で使用される空間的に相対的な記述子はそれに応じて解釈される。
【符号の説明】
【0095】
10…無線通信機、20…基板、20a…一面、20b…裏面、21…端部、30…0次共振アンテナ、31…地板、32…パッチ部、33…給電線、33a…直線部、33b、33d…第2延設部、33c…第1延設部、33e…内層導体、33f…ビア導体、34…短絡部、40…高周波回路、41…トランシーバ、42…パワーアンプ、43…ローノイズアンプ、44…スイッチ、45…バンドパスフィルタ、46…整合素子、47…ダイオード、50…金属体、50a…側壁