(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-01
(45)【発行日】2024-04-09
(54)【発明の名称】クランクプーリー
(51)【国際特許分類】
F16H 55/36 20060101AFI20240402BHJP
F16F 15/12 20060101ALI20240402BHJP
F16F 15/16 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
F16H55/36 H
F16F15/12 S
F16F15/16 G
F16F15/16 M
(21)【出願番号】P 2021039307
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加賀美 知孝
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-151046(JP,A)
【文献】特開2009-103265(JP,A)
【文献】特開平6-280971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/36
F16F 15/12
F16F 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトに取り付けられてベルトを駆動するクランクプーリーであって、
外周面と内周面を有し、前記外周面で前記ベルトを駆動するプーリー本体と、
外周面を有し、前記プーリー本体の前記内周面の側に位置し前記クランクシャフトに接続されるハブと、
前記プーリー本体の前記内周面に沿って設けられた外周ケースと、前記外周ケースとの間にオイルを貯留する空間を形成して前記外周ケースに対して摺動可能に取り付けられ、前記ハブの前記外周面に沿って設けられた内周ケースと、を有する第1オイル溜まりと、
前記第1オイル溜まりよりも内周側に設けられ、内部にオイルを貯留する空間を有する第2オイル溜まりと、
前記第1オイル溜まりと前記第2オイル溜まりとを連通させるオイル流路と、
前記オイル流路に設けられ、前記オイル流路を開閉するバルブと、
前記第1オイル溜まりに貯留された前記オイルを前記第2オイル溜まりに還流させ、前記第1オイル溜まりと前記第2オイル溜まりとを常時連通させる還流流路と、を備え、
前記第1オイル溜まりの前記外周ケースは内部に貯留された前記オイルを介して前記内周ケースに駆動され、
前記バルブは、前記クランクプーリーの回転数が所定の回転数を超えると前記第2オイル溜まりに貯留された前記オイルが前記第1オイル溜まりに移動することを許容する、クランクプーリー。
【請求項2】
前記第1オイル溜まりはその内部に、前記外周ケースの前記内周ケースに向かう内周面に設けられ前記外周ケースの前記内周面に沿って延びる複数の外周側リブと、前記内周ケースの前記外周ケースに向かう外周面に設けられ前記内周ケースの前記外周面に沿って延び、前記外周ケースに設けられた前記複数の外周側リブの間に隙間を介してそれぞれ位置する複数の内周側リブとを有し、
前記複数の外周側リブと前記複数の内周側リブとの間の前記隙間には前記オイルが導かれる、請求項1に記載のクランクプーリー。
【請求項3】
前記ハブは、前記第1オイル溜まりの内周側に沿って設けられたリムを有し、
前記第2オイル溜まりは前記リムの内周側に設けられている、請求項1または請求項2に記載のクランクプーリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クランクプーリーに関し、より詳しくはクランクシャフトに取り付けられてベルトを駆動するクランクプーリーに関する。
【背景技術】
【0002】
クランクプーリーはエンジンのクランクシャフト端部に取り付けられて駆動される。クランクプーリーはジェネレータやコンプレッサなどの補機類と無端状のベルトで連結される。クランクプーリーの機能はは主に二つある。ひとつ目は、クランクシャフトの動力を補機類に伝達し、補機類を駆動する機能である。より詳しくは、クランクシャフトで発生する振動を絶縁してベルトや補機類のストレスを軽減しながら、補機類に動力を伝達する機能である。もう一つはクランクシャフトに生じるねじれを抑制する機能である。
【0003】
これらの機能を実現するために、ベルトを直接駆動するプーリー本体と、クランクシャフトに取り付けられるハブとの間にダンパーゴムを設けたクランクプーリーがある。上記の二つの機能のそれぞれを実現するためにダンパーゴムに求められる周波数特性は互いに大きく異なる。
【0004】
図3は、クランクプーリーに制振性能が求められる周波数と、クランクプーリーの制振性能が発揮された結果クランクシャフトおよびベルトに加わるストレスとの関係を示す図である。
図3において、グラフの下に行くほどクランクプーリーの制振性能が発揮されて振動が抑制されている。
図3に示すように、クランクシャフトに対する制振性能が求められる周波数Aと、ベルトに対して制振性能が求められる周波数Bとは大きく異なる。
【0005】
これらの周波数Aおよび周波数Bは、クランクシャフトおよびベルトの固有振動数ならびに気筒内爆発に起因するトルク変動に基づいて決定される。たとえば特許文献1(特開2018-105497号公報)には、二種類の周波数に対応させるために周波数特性の異なる二つのダンパーゴムを設けたクランクプーリーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
周波数特性が異なる複数のダンパーゴムを設けることにより、複数の周波数において制振性能が期待できる。しかし、複数のダンパーゴムを設けたとしても、エンジン回転数に関わらず制振性能が期待できる周波数は一定である。
【0008】
図4に示すように、クランクシャフトおよびベルトのそれぞれにおいて、エンジンの回転数に応じて制振が求められる周波数は変化する。
図4はエンジン回転数と、クランクシャフトおよびベルトに対する最適周波数との関係を示す図である。ここで最適周波数とは、そのエンジン回転数における制振が最も要求される周波数を意味する。
【0009】
クランクシャフトは、エンジンが低回転のときは剛体(ねじれが無い)とみなすことができるので、ねじれを抑制する必要は無い。しかし、
図4に示すエンジン回転数Crpm(たとえば4000rpm)を超えると、クランクシャフトにねじれが生じ始める。このクランクシャフトのねじれを抑制するためにクランクプーリーに制振が要求される周波数はエンジン回転数に比例して高くなり、
図4に実線で示すような直線となる。
【0010】
ベルトについても、アイドリング状態を含むエンジンが低回転のときは、クランクシャフトにねじれが生じないためベルトに加わるストレスは小さい。したがって低回転ではベルトのストレスを軽減する必要は無い。しかし、
図4に示すように、クランクシャフトにねじれが生じ始めるとベルトへのストレスが大きくなり、そのストレスを軽減するために制振が要求される周波数は急激に高くなる。
【0011】
このようにクランクシャフトおよびベルトのいずれにおいても、エンジン回転数が大きくなると、クランクプーリーに要求される制振周波数は高くなる。クランクシャフトおよびベルトに発生する振動を適切に軽減するためには、エンジン回転数に応じてクランクプーリーの周波数特性が変化することが好ましい。
【0012】
また、従来のクランクプーリーのように制振が期待される周波数を増やすためにダンパーゴムの数を増加させると、クランクプーリーの質量が大きくなる。クランクプーリーの質量が大きくなると、エンジンのレスポンスを悪化させる要因となるという問題がある。
【0013】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、質量の増大を抑制しつつ、エンジン回転数に応じて周波数特性を変化させることが可能なクランクプーリーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この開示に基づいたクランクプーリーは、クランクシャフトに取り付けられてベルトを駆動するクランクプーリーであって、外周面と内周面を有し、上記外周面で上記ベルトを駆動するプーリー本体と、外周面を有し、上記プーリー本体の上記内周面の側に位置し上記クランクシャフトに接続されるハブと、上記プーリー本体の上記内周面に沿って設けられた外周ケースと、上記外周ケースとの間にオイルを貯留する空間を形成して上記外周ケースに対して摺動可能に取り付けられ、上記ハブの上記外周面に沿って設けられた内周ケースとを有する第1オイル溜まりと、上記第1オイル溜まりよりも内周側に設けられ、内部にオイルを貯留する空間を有する第2オイル溜まりと、上記第1オイル溜まりと上記第2オイル溜まりとを連通させるオイル流路と、上記オイル流路に設けられ、上記オイル流路を開閉するバルブと、上記第1オイル溜まりに貯留された上記オイルを上記第2オイル溜まりに還流させ、上記第1オイル溜まりと上記第2オイル溜まりとを常時連通させる還流流路と、を備えている。上記第1オイル溜まりの上記外周ケースは内部に貯留された上記オイルを介して上記内周ケースに駆動され、上記バルブは、上記クランクプーリーの回転数が所定の回転数を超えると上記第2オイル溜まりに貯留された上記オイルが上記第1オイル溜まりに移動することを許容する。
【0015】
上記クランクプーリーにおいて、上記第1オイル溜まりはその内部に、上記外周ケースの上記内周ケースに向かう内周面に設けられ上記外周ケースの上記内周面に沿って延びる複数の外周側リブと、上記内周ケースの上記外周ケースに向かう外周面に設けられ上記内周ケースの上記外周面に沿って延び、上記外周ケースに設けられた上記複数の外周側リブの間に隙間を介してそれぞれ位置する複数の内周側リブとを有し、上記複数の外周側リブと上記複数の内周側リブとの間の上記隙間には上記オイルが導かれるようにしてもよい。
【0016】
上記クランクプーリーにおいて、上記ハブは、上記第1オイル溜まりの内周側に沿って設けられたリムを有し、上記第2オイル溜まりは上記リムの内周側に設けられてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示に係るクランクプーリーによると、質量の増大を抑制しつつ、エンジン回転数に応じて周波数特性を変化させることが可能なクランクプーリーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態におけるクランクプーリーを示す縦断面図である。
【
図2】実施の形態におけるバルブの構造を示す縦断面図である。
【
図3】クランクプーリーに制振性能が求められる周波数と、クランクプーリーの制振性能が発揮された結果クランクシャフトおよびベルトに加わるストレスとの関係を示す図である。
【
図4】エンジン回転数と、クランクシャフトおよびベルトに対する最適周波数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示に基づいた実施の形態におけるクランクプーリーについて、図を参照しながら説明する。
【0020】
以下、本開示に係る実施の形態について、
図1および
図2を参照して説明する。
図1は実施の形態におけるクランクプーリーを示す縦断面図である。
図2は実施の形態におけるバルブの構造を示す縦断面図である。
【0021】
本実施形態のクランクプーリー10は、クランクシャフト100に取り付けられて駆動されるものである。クランクプーリー10は、プーリー本体20と、ハブ30と、第1オイル溜まり40と、第2オイル溜まり60と、オイル流路70と、バルブ80と、還流流路90とを備えている。
【0022】
プーリー本体20はリング状であり、外周面21と内周面22を有している。プーリー本体20の外周面21で図示しないベルトを駆動する。外周面21にはベルトの対応する面に設けられた複数のリブと係合する複数の溝を有している。溝は外周面21の周方向に沿って延びる。
【0023】
プーリー本体20の内周面22は回転軸Rを含む断面において平坦である。プーリー本体20はクランクシャフトのねじれを抑制する振動リングとして機能する。プーリー本体20は金属製であり、振動リングとして適切な質量を有している。
【0024】
ハブ30はクランクシャフト100に取り付けられる。ハブ30はクランクシャフト100が貫通する貫通孔31を有している。貫通孔31は軸方向に延びる円筒状のボス32の内部に形成されている。ハブ30とクランクシャフト100とは図示しないボルトなどを用いて連結される。
【0025】
ハブ30の外周側にはリム34が設けられている。リム34は円筒状である。リム34は、内周面35と外周面36とを有している。回転軸Rを含む断面において、内周面35および外周面36は平坦である。ボス32とリム34との間はハット状に形成された接続部材33で接続されている。
【0026】
プーリー本体20の内周面22とハブ30の外周面36との間には第1オイル溜まり40が設けられている。第1オイル溜まり40は、プーリー本体20の内周面22に沿って設けられた外周ケース41と、ハブ30の外周面36に沿って設けられた内周ケース43とを有する。内周ケース43は、外周ケース41との間にオイルを貯留する空間42を形成して外周ケース41に対して摺動可能に取り付けられる。
【0027】
外周ケース41は、プーリー本体20の内周面22に固定されている。
図1に示す外周ケース41は、円筒の部材で構成されている。ただし、外周ケース41の形状は円筒に限らない。プーリー本体20の内周面22に固定でき、プーリー本体20から受ける応力を内周ケースおよびハブ30に伝達することができ、内周ケース43との間にオイルを貯留する空間42を形成することができる形状であればよい。
【0028】
内周ケース43は、ハブ30のリム34の外周面36に固定されている。内周ケース43は、リム34の外周面36に固定される底部44と、底部44の両端縁から半径方向外側(
図1の断面において上側)に立ち上がる一対の側壁45とを有している。側壁45の外周側端部(
図1の断面において上端)には回転軸Rの方向に突出したフランジ46が設けられている。フランジ46は周方向に延びている。
【0029】
外周ケース41の側端部とフランジ46との間には、オイルシール付きのボールベアリング55が設けられている。オイルシール付きのボールベアリング55は、外周ケース41と内周ケース43とを摺動可能に連結する。オイルシール付きのボールベアリング55は、プーリー本体20から外周ケース41が受ける半径方向の力を内周ケース43に伝える。オイルシール付きのボールベアリング55は、第1オイル溜まり40に貯留されるオイルが外部に流出することを防ぐ。
【0030】
図1においては、オイルシール付きのボールベアリング55として単なるボールベアリングの断面を模式的に示しているが、オイルシール付きのボールベアリング55としては、ボールベアリングとラビリンスシールとが組み合わされたもの、ボールベアリングとゴム製のオイルシールとが組み合わされたものなどを用いることができる。外周ケース41に内周ケース43を摺動可能に取り付けることができれば、オイルシール付きのボールベアリングに代えて他の構造を採用してもよい。
【0031】
第1オイル溜まり40はその内部に複数の外周側リブ51と複数の内周側リブ52からなるラビリンス部50が設けられている。ラビリンス部50は第1のオイル溜まりに貯留されたオイルが作動流体となり、外周ケース41から内周ケース43に回転方向の動力を伝える。
【0032】
外周側リブ51は外周ケース41の内周ケース43に向かう内周面47に設けられている。外周側リブ51は外周ケース41の内周面47に沿って互いに平行に周方向に延びる。内周側リブ52は内周ケース43の外周ケース41に向かう外周面48に設けられている。複数の内周側リブ52は内周ケース43の外周面48に沿って互いに平行に周方向に延びる。複数の内周側リブ52は、外周ケース41に設けられた複数の外周側リブ51の間に隙間を介してそれぞれ位置する。
【0033】
外周側リブ51と内周側リブ52との間の隙間にはオイルが導かれる。第1オイル溜まり40および第2オイル溜まり60に貯留されるオイルは作動オイルとして機能する。オイルとしては高粘度のオイルが好ましく、たとえばシリコンオイルを用いることができる。
【0034】
ハブ30のリム34の内周面35に沿って第2オイル溜まり60が設けられている。第2オイル溜まり60は、内部にオイルを貯留する空間61を有する。第2オイル溜まり60に貯留することができるオイルの体積は、第1オイル溜まり40に貯留することができるオイルの体積よりも大きい。
【0035】
第1オイル溜まり40と第2オイル溜まり60とを連通させるオイル流路70が設けられている。オイル流路70は第2オイル溜まり60の側面から、第1オイル溜まり40の底面に向かって延びる。オイル流路70の第2オイル溜まり60の側は、第2オイル溜まり60の外周側端部に接続している。第2オイル溜まり60とオイル流路70とを連通する開口71にはバルブ80が設けられている。
【0036】
図2に示すように、バルブ80は、弁体81とバネ82とからなる。弁体81は静止状態においては、バネ82により回転軸Rに向かう方向に付勢されている。静止状態においては、弁体81の内周側端部は内周側ストッパ72に当接している。この状態において、弁体81は開口71を閉塞している。エンジンの回転数が大きくなると弁体81に加わる遠心力により、弁体81は外周側に向かって徐々に移動する。弁体81の内周側端部が開口71に到達すると、徐々に開口71を閉塞する状態から開放する状態となる。弁体81の内周側端部が完全に開口71を通過すると開口71は全開の状態となる。開口71が全開の状態において、弁体81は外周側ストッパ73に当接して止まる。
【0037】
このようにバルブ80は、エンジンの回転数に応じて開口71を徐々に開放することができる。第2オイル溜まり60に貯留されたオイルはバルブ80が徐々に開放されることにより、オイル流路70を通じて徐々に第1オイル溜まり40に導かれる。
【0038】
第1オイル溜まり40と第2オイル溜まり60の間には、還流流路90が設けられている。還流流路90にはバルブは設けられておらず、第1オイル溜まり40と第2オイル溜まり60とを常時連通している。還流流路90の第2オイル溜まり60の側は、第2オイル溜まり60の内周側端部に接続している。
【0039】
オイル流路70、バルブ80および還流流路90は、クランクプーリー10の周方向にたとえば2個または4個が等間隔に設けられている。
【0040】
本実施の形態のクランクプーリー10の動作について説明する。静止状態においてはオイルは主に第2オイル溜まり60に貯留されている。そのため第1オイル溜まり40のラビリンス部50にはオイルは殆ど存在しない。クランクシャフト100が回転すると、所定の回転数までは、バネ82に付勢されて弁体81が開口71を閉塞している。この状態では、ラビリンス部に作動オイルとしてのオイルが殆ど存在しないために、クランクシャフト100からボス32および第1オイル溜まり40の内周ケース43に伝えられた駆動力は殆ど外周ケース41およびプーリー本体20には伝達されない。
【0041】
エンジン回転数がさらに高まり、クランクシャフト100の回転数が大きくなると、弁体81に加わる遠心力がさらに増大し、バルブ80が徐々に開く。バルブ80が徐々に開くことにより、開口71およびオイル流路70を通って第2オイル溜まり60に貯留されているオイルが第1オイル溜まり40に導かれる。第2オイル溜まり60に貯留されたオイルにも遠心力が作用し、オイル流路70の第2オイル溜まり60の側は、第2オイル溜まり60の外周側端部に接続しているので、第2オイル溜まり60に貯留されたオイルはバルブ80が開くことで徐々に第1オイル溜まり40に移動する。
【0042】
第1オイル溜まり40に移動したオイルはラビリンス部50の外周側リブ51と内周側リブ52との間の隙間に流入する。作動流体としてのオイルが徐々に流入することで、内周ケース43に伝えられた駆動力が外周ケース41に徐々に伝わるようになる。これによってプーリー本体20が駆動されプーリー本体20に係止されたベルトを介して補機類に動力を伝えることができる。同時に振動リングとしてのプーリー本体20が駆動されることでクランクシャフト100のねじれを抑制することができる。
【0043】
ラビリンス部50にオイルが導かれると、外周ケース41と内周ケース43との間の結合が強くなる。これは第1オイル溜まり40をダンパーゴムに例えると、ダンパーゴムが硬くなったことと同じである。すなわち、オイルが導かれることにより、第1オイル溜まり40の周波数特性を変化させることができる。
図4を用いて説明したように、エンジンの回転数が増大すると、クランクプーリー10に要求される制振周波数は高くなる。本実施の形態のクランクプーリー10は、エンジン回転に応じてバルブを徐々に開いてオイルを導くことによりこれを実現している。
【0044】
エンジンの回転数が低下するとバネ82に付勢されて弁体81は徐々に内周側に移動し、開口71を徐々に塞ぐ。これにより第2オイル溜まり60から第1オイル溜まり40に供給されるオイルの量が減少する。ラビリンス部50に導かれたオイルは摩擦により高温高圧となるので、ラビリンス部50はポンプの作用をすることとなり、還流流路90にオイルを押し出す。還流流路90の第2オイル溜まり60の側は第2オイル溜まり60の内周側端部に接続しているので、第2オイル溜まり60に貯留されたオイルが還流流路90を通って流出することは殆どない。その結果、第1オイル溜まり40からオイル流路70を介したオイルの供給が減少するとラビリンス部50の隙間に存在するオイルは減少する。これにより徐々に内周ケース43の駆動力が外周ケース41に伝達されない状態となる。これはクランクプーリー10による制振効果およびクランクプーリー10による動力損失が少なくなることを意味する。
【0045】
このように本実施の形態のクランクプーリー10によると、ダンパーゴムの数を増加させたときのような質量の増大を抑制しつつ、エンジン回転数に応じて周波数特性を変化させることが可能なクランクプーリーを提供することができる。
【0046】
本実施の形態においては、ハブ30のリム34の外周側に第1オイル溜まり40を設け、リム34の内周側に第2オイル溜まり60を設けたのでこれらを確実にハブ30に固定することができる。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0048】
10 クランクプーリー、20 プーリー本体、21,36,48 外周面、22,35,47 内周面、30 ハブ、31 貫通孔、32 ボス、33 接続部材、34 リム、40 第1オイル溜まり、41 外周ケース、42,61 空間、43 内周ケース、44 底部、45 側壁、46 フランジ、50 ラビリンス部、51 外周側リブ、52 内周側リブ、55 ボールベアリング、60 第2オイル溜まり、70 オイル流路、71 開口、72 内周側ストッパ、73 外周側ストッパ、80 バルブ、81 弁体、82 バネ、90 還流流路、100 クランクシャフト。